説明

電子線照射装置および電子線照射方法

【課題】多くの時間と労力を必要とすることなく処理チャンバのガス置換が可能であり、また、容易に処理チャンバの大型化を図ることができる電子線照射装置および電子線照射方法を提供する。
【解決手段】金属箔が張られた照射窓を有し、移動可能な処理チャンバと、処理チャンバ内に収容されている被架橋物を所定の温度に加熱する加熱手段と、処理チャンバ内のガスを排気した後、処理チャンバ内に低酸素ガスを供給するガス置換手段と、照射窓の外側に着脱自在に装着され、照射窓との間に外部とのガスの出入りが遮断された小室を形成する窓蓋と、処理チャンバと小室とを連通させる連通路と、連通路に設けられ、連通路を開閉する弁体とを有する電子線照射装置および前記電子線照射装置を用いる電子線照射方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置および照射方法に関し、特にフッ素樹脂を所定の温度に加熱しながら低酸素状態で電子線を照射して架橋させる電子線照射装置および照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は離型性が良いため、例えば複写機等のOA機器用のローラーやフライパン、電気釜等調理器具等広範な用途に用いられている。しかし、フッ素樹脂は耐摩耗性や基材との密着性が良好とは言えないため、耐摩耗性および密着性の改良が求められていた。
【0003】
近年、フッ素樹脂を処理チャンバ内に入れて融点以上に加熱し、所定の雰囲気の下で電子線等の電離放射線を照射してフッ素樹脂を架橋させることにより、耐摩耗性を向上させる技術が開発されている(例えば特許文献1)。また、電子線架橋を行うことによりフッ素樹脂の密着性が向上する。
【0004】
具体的には、処理チャンバ内の雰囲気を例えば酸素濃度5ppm以下の低酸素濃度の雰囲気とし、フッ素樹脂の融点以上、例えば340±5℃に加熱し、フッ素樹脂に電子線を照射する。そして、前記の低酸素濃度の雰囲気を得る方法としては、処理チャンバに窒素ガスを流す方法では短時間で低酸素濃度の雰囲気を得ることは困難であり、また多量の窒素ガスを必要とするため、チャンバ内を真空引きした後に窒素ガスを充填することによりガス置換を行う方法が採用されている。
【0005】
しかし、処理チャンバには電子線を通すための照射窓が設けられており、照射窓には、電子線エネルギーの減衰を極力少なくするため、例えば厚さ100μm以下のチタン箔等の金属箔が張られている。このような処理チャンバを大気圧の下で真空引きした場合、内外の圧力差により金属箔が破損してしまう恐れがある。このため、従来は別途真空容器を用意し、その中に処理チャンバを入れて真空引きして処理チャンバ内外の圧力差が生じないようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−239399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、処理チャンバごと真空容器に出し入れする作業は、多くの時間と労力を必要とする。また、処理チャンバの大きさを真空容器に入れることが可能な大きさにしなければならず、処理チャンバの大型化を図ることが難しかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、多くの時間と労力を必要とすることなく処理チャンバのガス置換が可能であり、また、容易に処理チャンバの大型化を図ることができる電子線照射装置および電子線照射方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
低酸素雰囲気下で被架橋物に電子線を照射して架橋させる電子線照射装置であって、
金属箔が張られた照射窓を有し、移動可能な処理チャンバと、
前記処理チャンバ内に収容されている被架橋物を所定の温度に加熱する加熱手段と、
前記処理チャンバ内のガスを排気した後、処理チャンバ内に低酸素ガスを供給するガス置換手段と、
前記照射窓の外側に着脱自在に装着され、前記照射窓との間に外部とのガスの出入りが遮断された小室を形成する窓蓋と、
前記処理チャンバと前記小室とを連通させる連通路と、
前記連通路に設けられ、前記連通路を開閉する弁体とを有することを特徴とする電子線照射装置である。
【0010】
請求項1に記載の発明においては、照射窓の外側に外部とのガスの出入りが遮断された小室を形成し、小室と処理チャンバとを連通させる連通路が設けられているため、ガス置換時、真空容器を用いることなく、小室と処理チャンバ内の圧力を容易に等しくすることができ、金属箔の破損を防ぐことができる。
【0011】
このように、窓蓋の着脱という極めて簡単な手段により処理チャンバ内外の圧力を等しくしてガス置換を行うため、処理チャンバのガス置換に多くの時間と労力を必要としない。また、真空チャンバの大きさによって処理チャンバの大きさが制限されることがなく、容易に処理チャンバの大型化を図ることができる。
【0012】
また、処理チャンバを移動可能としているため、必要なとき(被架橋物を架橋させるとき)にのみ照射窓に電子線を照射することができる。この結果、金属箔の温度上昇を抑制でき、別途金属箔の冷却機構を設ける必要がない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、
前記窓蓋を前記照射窓の外側に装着したときに前記弁体を開き、窓蓋を取除いたときに前記弁体を閉じる弁体機構部を有することを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置である。
【0014】
請求項2に記載の発明においては、窓蓋の着脱に連動して前記連通路の弁体の開閉が行われるため、手動操作が不要となり、作業を軽減でき、作業手順のミスも防止することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
前記照射窓が前記処理チャンバの上面に設けられており、
前記窓蓋を前記処理チャンバの上面に平行にスライドさせることにより前記窓蓋を前記照射窓の外側に着脱させる窓蓋着脱手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射装置である。
【0016】
請求項3に記載の発明においては、前記窓蓋を処理チャンバからわずかに放して処理チャンバの上面に平行にスライドさせることにより窓蓋の着脱を行うことができるため、大きなスペースを必要とせず、また複雑な機構を必要としない。
【0017】
請求項4に記載の発明は、
前記処理チャンバの照射窓を所定の速度で電子線照射ゾーンを通過させるように前記処理チャンバを移動させる処理チャンバ移動手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射装置である。
【0018】
請求項4に記載の発明においては、照射窓を所定の速度で電子線照射ゾーンを通過させる処理チャンバを搬送する処理チャンバ搬送手段を有するため、被架橋物に対して正確に所定量の電子線を照射することができる。なお、処理チャンバ移動手段は、照射窓が所定の時間電子線照射ゾーンに留まるよう、処理チャンバの移動を停止してもよい。
【0019】
請求項5に記載の発明は、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子線照射装置を用いて被架橋物に電子線を照射する電子線照射方法であって、
被架橋物を前記処理チャンバの電子線照射位置に収容した後、前記ガス置換手段による前記処理チャンバのガス置換に際して、前記窓蓋を照射窓の外側に装着して前記小室を形成させ、ガス置換中は前記連通路に設けた弁体を開にして前記小室と処理チャンバを連通させ、ガス置換終了後に前記弁体を閉にすると共に、前記窓蓋を取除き、前記加熱手段により所定の温度に加熱されている前記被架橋物に前記照射窓を通して電子線照射を行うことを特徴とする電子線照射方法である。
【0020】
請求項5に記載の発明においては、簡単な操作で確実に所定の雰囲気の下に、所定の温度に加熱された被架橋物に対して、所定量の電子線を照射することができるため、基材との密着性に優れると共に、耐摩耗性に優れたフッ素樹脂を安定して効率的に提供することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、
前記ガス置換後の処理チャンバ内の低酸素ガスの圧力を、外部の圧力より前記金属箔が破損しない範囲で高い圧力にすることを特徴とする請求項5に記載の電子線照射方法である。
【0022】
請求項6に記載の発明においては、処理チャンバ内の低酸素ガスの圧力を外部の圧力より高くしているため、外部から処理チャンバ内へのガスの進入を防ぐことができる。そしてこのため、電子線照射時において処理チャンバ内の雰囲気をより確実に所定の雰囲気に保つことができる。
【0023】
なお、処理チャンバ内の圧力は、具体的には、例えば外部の圧力より0.01〜0.1MPa高く設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、多くの時間と労力を必要とすることなく処理チャンバのガス置換が可能であり、また、容易に処理チャンバの大型化を図ることができる電子線照射装置および電子線照射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施の形態の電子線照射装置の全体の概要を示す斜視図である。
【図2】第1の実施の形態の電子線照射装置の処理チャンバと窓蓋の斜視図である。
【図3】第1の実施の形態の電子線照射装置を模式的に示す部分断面図である。
【図4】第1の実施の形態の電子線照射装置を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図5】第2の実施の形態の電子線照射機を除く電子線照射装置の斜視図である。
【図6】第2の実施の形態の電子線照射装置の窓蓋の動作を示す斜視図である。
【図7】第2の実施の形態の電子線照射装置を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0027】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、円盤状(平板形)のフッ素樹脂に電子線を照射する電子線照射装置に関する。
1.電子線照射装置の構成
(1)電子線照射装置全体の構成
図1は本実施の形態の電子線照射装置の全体の概要を示す斜視図である。本実施の形態において電子線照射装置は、図1に示すように、処理チャンバ1、電子線の照射機2、処理チャンバ移動手段3と装置各部を総括的に制御する図外の制御手段とを備えている。また処理チャンバ1には、窓蓋9および図示しない照射窓、加熱手段、連通路が設けられ、図示しない窓蓋着脱手段、ガス置換手段が付設されている。
【0028】
(2)処理チャンバおよび窓蓋
また、図2は図1に示す電子線照射装置の処理チャンバと窓蓋の斜視図であって、照射窓61を示すために、便宜上窓蓋9を上方に移動させている。処理チャンバ1は、平板形の被架橋物状に対応して図2に示すように深さが小さい薄型であって、チャンバ本体5とチャンバ蓋6とによって遮蔽構造となっている。また、チャンバ蓋6には照射窓61が設けられ、照射窓61には厚さ100μm以下のチタン箔62が張られている。また、照射窓61の周縁部には、窓蓋9を装着するための留め具13が設けられている。なお、窓蓋には軽量で耐熱性もよいアルミニウム製の蓋が好ましく用いられる。
【0029】
(3)ガス置換手段
次に、図3によりガス置換手段について説明する。図3は本実施の形態の電子線照射装置を模式的に示す部分断面図である。図3に示すように処理チャンバ1には、処理チャンバ1内のガスを排出する排気手段7と、例えば窒素ガス等の不活性ガスを供給するガス供給装置8とが付設されている。
【0030】
排気装置7は、チャンバ本体5内の壁部に接続される配管71、バルブ72及び真空ポンプ73を備え、ガス供給装置8は、チャンバ本体5内の壁部に接続される配管81、バルブ82及びガス供給ポンプ83を備えている。排気装置7とガス供給装置8を適宜作動させることにより処理チャンバ1内のガスが置換され、低酸素濃度雰囲気となる。
【0031】
(4)窓蓋の装着機構
次に、図4により窓蓋の装着機構について説明する。図4は本実施の形態の電子線照射装置を模式的に示す部分拡大断面図である。図4において照射窓61(図2参照)は、キャップ状の窓蓋9で塞がれるようになっており、ガス置換を行うに際して外側から照射窓61に窓蓋9を被せることにより、チタン箔62(図2参照)と窓蓋9との間に小室91が形成される。窓蓋9の下側開口の周縁部92に取付けられた気密体(シール)14をチャンバ蓋6に接触させた状態で、窓蓋9を複数個の留め具13(図2参照)で固定することにより、窓蓋9の下側開口の周縁部92に取付けられた気密体14をチャンバ蓋6に密着させて小室91と外部とを気密的に遮断する。
【0032】
(5)処理チャンバと小室の連通機構
次に処理チャンバと小室の連通機構について説明する。
イ.連通路
図4に示すようにチャンバ蓋6の照射窓61(図3参照)の周囲部に貫通孔10aを設けることにより、連通路10が形成されている。連通路10により小室91と処理チャンバ1とを連通させることにより照射窓61のチタン箔62(図3参照)を挟んだ処理チャンバ1内と小室91の圧力を等しくすることができる。なお、貫通孔10aの上側には弁座11aが形成されている。
【0033】
ロ.連通路の開閉
窓蓋9には連通路10を開閉する弁体11及び弁体11を開閉するための弁体機構部12が備わっている。
【0034】
弁体機構部12は以下のようにして構成されている。すなわち、図4に示すように弁体11から上方及び下方に上ピン12a及び下ピン12bが伸び、貫通孔10aの下方には弁ホルダー12cが橋掛けされ、その中央部には挿通孔12dが形成されている。この挿通孔12dには弁体11の下ピン12bが嵌め込まれ、弁ホルダー12cと弁体11との間には、コイル状の圧縮ばね12eが介在して弁体11を上方にばね付勢し、弁体11の上ピン12aは弁座11aを通ってチャンバ蓋6の上方に突出し、圧縮ばね12eに下ピン12bが挿入されている。
【0035】
一方、窓蓋9の内側には押圧片9aが設けられており、窓蓋9を照射窓61に被せたときには、押圧片9aが弁体機構部12の上ピン12aを押え付け、圧縮ばね12eのばね力に対抗して弁体11を下方に押し下げて連通路10が開き、窓蓋9を照射窓61から取除いた場合にばね力によって弁体11が弁座11aに密着して連通路10が閉じるように構成されている。
【0036】
(6)加熱手段
次に、図3により本実施の形態の加熱手段について説明する。図3に示すようにチャンバ本体5の左右両側に設けられた照射窓61の直下には、例えばシート状のフッ素樹脂Rやフッ素樹脂Rがコートされた金属部材や製品等の被架橋物51を直接加熱するための加熱手段であるホットプレート52が配置され、ホットプレート52には被架橋物51をホットプレート52に止めるためのリング状の止め具53が設けられている。止め具53によって被架橋物51を押さえることにより、被架橋物51の反りを防ぐことができる。このように照射窓61の直下に収容された被架橋物51をホットプレート52により直接加熱するため、被架橋物51をより確実に所定の温度に加熱した状態で電子線を照射することができる。
【0037】
2.電子線照射による架橋の手順
本実施の形態の電子線照射装置を用いて、以下の手順により架橋が行われる。
(1)被架橋物の処理チャンバ内への収容
まず、処理チャンバ1のチャンバ蓋6を開いた状態で、例えばアルミニウムとステンレスの円板状のクラッド材の表面に厚さ5〜50μmのフッ素樹脂をコートした(スミフロンサークル:商標名)厚さが1〜3mm、直径が360〜500mmの被架橋物51をフッ素樹脂Rが照射窓61に対向するようにしてホットプレート52上に置き、留め具53を用いて固定し、ホットプレート52により被架橋物51を所定の温度、例えば340±5℃になるように加熱する。
【0038】
(2)窓蓋の装着
次に、チャンバ蓋6を閉じた後、照射窓の外側に窓蓋9を装着して小室91を形成させる。この時弁体機構部12により連通路10に設けた弁体11が開き、小室と処理チャンバ1が連通状態となる。このように連通させることにより、小室91と処理チャンバ1内の圧力が等しくなる。
【0039】
(3)ガス置換
次に、小室と処理チャンバ1を連通させた状態で排気装置7により処理チャンバ1および小室91の内部のガスを抜取った後、ガス供給装置8により窒素ガスを供給する。酸素濃度計(図示せず)で酸素濃度を監視し、酸素濃度が5ppm以下になるまで繰返しガス置換を行う。例えばガス置換を2回繰返し行い酸素濃度が5ppm以下になったことを確認後、処理チャンバ1内の圧力が外部より0.01〜0.1MPa高くなるように、さらに窒素ガスを充填する。そして、窒素ガス充填後窓蓋9を取除く。窓蓋9を取除くと同時に弁体機構12により弁体11が閉にされ、チャンバ1内は外部と遮断される。以上により真空容器を用いずに、チタン箔を破損させることなくガス置換を行うことができる。
【0040】
(4)電子線照射
次に、ガイドレール19を有する処理チャンバ移動手段3により処理チャンバ1を電子線照射機2の下方に向かって移動させ、被架橋物51の温度が所定の温度、例えばフッ素樹脂がPTFEの場合は340±5℃に加熱されていることを確認した上で、照射窓61が所定の速度で電子線照射機2の下方を通過するように処理チャンバ1を移動させ、照射窓61を通して所定量の電子線を被架橋物51に照射する。
【0041】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、立体的に形成されている加工品に施されたフッ素樹脂に電子線を照射して架橋をするための電子線照射装置の例である。
【0042】
(1)電子線照射装置の構成
まず、図5により本実施の形態の電子線照射装置の構成について説明する。図5は電子線照射機を除く本実施の形態の電子線照射装置の斜視図である。図5に示すように処理チャンバ1のチャンバ本体5は底が深く、処理チャンバ1は高さのある立体形に形成されている。処理チャンバ1のチャンバ蓋6には窓蓋9及び窓蓋9の開閉手段15が搭載されている。
【0043】
(2)チャンバ蓋の開閉機構
次に、チャンバ蓋の開閉機構について説明する。立体形の形状を有する被架橋物用の電子線照射装置の場合、一般的にチャンバ蓋およびチャンバ蓋に取付けられている窓蓋は大型で重量も大きく、チャンバ蓋を人力で開閉することは重労働である。このため、図5に示すように、処理チャンバ1のチャンバ本体5の側面には流体圧シリンダー55が設けられている。流体圧シリンダー55を用いて窓蓋9ごとチャンバ蓋6を開閉して未処理の被架橋物(図示せず)を処理チャンバ1に収容したり、処理済の被架橋物を処理チャンバ1から取出したりする。
【0044】
(3)窓蓋の装着と取除き機構
次に、図6により窓蓋の装着と取除き機構について説明する。図6は、本実施の形態の電子線照射装置の窓蓋の動作を示す斜視図である。開閉手段15は、チャンバ蓋6に取り付けられる左右一対のガイドフレーム15aと、ガイドフレーム15a間に掛け渡されてガイドフレーム15aに沿って往復動する架橋フレーム15bと、架橋フレーム15bの図外の駆動機構及び駆動モータと、架橋フレーム15bに取り付けられる流体圧シリンダー15cとを備えており、窓蓋9は架橋フレーム15bによって支持されて、流体圧シリンダー15cにより僅かに昇降するようになっている。
【0045】
そして、図6に示すように窓蓋9は、チャンバ蓋6の照射窓(図示せず)に装着されるときには、架橋フレーム15bによって往動して照射窓の上方に位置し、流体圧シリンダー15cによって下方に押え付けられる。窓蓋9が装着されることによって、第1の実施の形態と同様に、窓蓋9の下側開口の周縁部に設けられた気密体をチャンバ蓋6に密着させて小室と外部とを気密的に遮断する。窓蓋9は、照射窓61から取除かれるときには、流体圧シリンダー15cによって僅かに引き上げた後に、架橋フレーム15bによって復動して照射窓から離される。
【0046】
このように窓蓋9をスライドさせて窓蓋9の脱着を行うため、作業能率を向上させることができる。なお、本実施の形態の場合は、窓蓋が相当高温になる恐れがあるが、窓蓋の外側をパンチングメタルやメッシュ等の多孔板で覆うことにより火傷等の発生を防止することができる。
【0047】
(4)処理チャンバと小室の連通機構
次に、図7により処理チャンバと小室の連通機構について説明する。図7は本実施の形態の電子線照射装置を模式的に示す部分断面図である。図7に示すように処理チャンバ1内と小室91との連通路10は連通管16により形成され、連通管16に一端は処理チャンバ1内に開口し、連通管16の他端は窓蓋9の内側に開口し、連通管16の一部はフレキシブル管16aにより構成され、連通管16の途中にはバルブ16bが設けられている。そして窓蓋9が照射窓61に装着されるときには、フレキシブル管16aは弛み、窓蓋9が照射窓61から離れるときには、フレキシブル管16aの弛みはある程度解消されることにより、窓蓋9の往復動にも対応できるようになっている。
【0048】
上記の構成により窓蓋9を移動させるに際して連通管16を取外す必要がなく、窓蓋9を装着することにより、小室91を形成すると共に、小室91と処理チャンバ1を連通させ、小室91と処理チャンバ1内の圧力を等しくすることができる。
【0049】
(5)加熱手段
次に、加熱手段について説明する。図7に示すようにチャンバ本体5の底部にはメッシュ17が張られ、メッシュの下方にはヒータ54が配置されており、照射窓61の直下に収容された被架橋物(図示せず)を下方から加熱できるようになっている。また、処理チャンバ1の内部にはファン56が設けられ、ファン56により処理チャンバ1内のガスを循環させることにより処理チャンバ1内の温度を均一に340±5℃程度の温度にしている。このため、電子線照射時において、被架橋物を確実に所定の温度に加熱することができる。なお、必要に応じて被架橋物の側面の周囲にも加熱手段を設けてもよい。
【0050】
(6)電子線照射
ガス置換を行った後、ガイドレール19に沿って処理チャンバを電子線照射機(図示せず)の直下に移動させ、所定量の電子線を照射する。
【0051】
本実施の形態によれば、立体形の加工品に施されたフッ素樹脂の電子線架橋を行う際にも、照射窓に張られた金属箔を破損させることなく短時間で効率的にガス置換を行い、酸素濃度が5ppm以下の低酸素濃度の雰囲気を得ることができる。また、真空容器を用いないため、大型の処理チャンバを必要とする立体形の加工品についても容易に電子線架橋を行うことができる。
【0052】
以上、フッ素樹脂の電子線架橋を例に採って本発明を説明したが、本発明の電子線照射装置および照射方法は電子線架橋以外の用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
R フッ素樹脂
1 処理チャンバ
2 電子線照射機
3 移動手段
5 チャンバ本体
51 被架橋物
52 ホットプレート
53 止め具
54 ヒータ
56 ファン
6 チャンバ蓋
61 照射窓
62 チタン箔
7 排気装置
71、81 配管
72、82 バルブ
73 真空ポンプ
8 不活性ガス供給装置
83 ガス供給ポンプ
9 窓蓋
91 小室
92 周縁部
9a 押圧片
10 連通路
10a 貫通孔
11a 弁座
12 弁体機構部
12a 上ピン
12b 下ピン
12c 弁ホルダー
12d 挿通孔
12e 圧縮ばね
13 留め具
14 気密体
15 開閉手段
15c、55 流体圧シリンダー
16 連通管
16a フレキシブル管
17 メッシュ
19 ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素雰囲気下で被架橋物に電子線を照射して架橋させる電子線照射装置であって、
金属箔が張られた照射窓を有し、移動可能な処理チャンバと、
前記処理チャンバ内に収容されている被架橋物を所定の温度に加熱する加熱手段と、
前記処理チャンバ内のガスを排気した後、処理チャンバ内に低酸素ガスを供給するガス置換手段と、
前記照射窓の外側に着脱自在に装着され、前記照射窓との間に外部とのガスの出入りが遮断された小室を形成する窓蓋と、
前記処理チャンバと前記小室とを連通させる連通路と、
前記連通路に設けられ、前記連通路を開閉する弁体とを有することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記窓蓋を前記照射窓の外側に装着したときに前記弁体を開き、窓蓋を取除いたときに前記弁体を閉じる弁体機構部を有することを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記照射窓が前記処理チャンバの上面に設けられており、
前記窓蓋を前記処理チャンバの上面に平行にスライドさせることにより前記窓蓋を前記照射窓の外側に着脱させる窓蓋着脱手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記処理チャンバの照射窓を所定の速度で電子線照射ゾーンを通過させるように前記処理チャンバを移動させる処理チャンバ移動手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子線照射装置を用いて被架橋物に電子線を照射する電子線照射方法であって、
被架橋物を前記処理チャンバの電子線照射位置に収容した後、前記ガス置換手段による前記処理チャンバのガス置換に際して、前記窓蓋を照射窓の外側に装着して前記小室を形成させ、ガス置換中は前記連通路に設けた弁体を開にして前記小室と処理チャンバを連通させ、ガス置換終了後に前記弁体を閉にすると共に、前記窓蓋を取除き、前記加熱手段により所定の温度に加熱されている前記被架橋物に前記照射窓を通して電子線照射を行うことを特徴とする電子線照射方法。
【請求項6】
前記ガス置換後の処理チャンバ内の低酸素ガスの圧力を、外部の圧力より前記金属箔が破損しない範囲で高い圧力にすることを特徴とする請求項5に記載の電子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−243393(P2010−243393A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93891(P2009−93891)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】