説明

電子装置及びその製造方法

【課題】太陽電池等の電子装置には、無アルカリガラスを使用するか、安価なアルカリガラスを使用した場合には、拡散防止層を設ける必要があった。
【解決手段】透明導電性層のうち、酸化亜鉛層がナトリウムの拡散を防止する作用を有することを見出し、当該酸化亜鉛層を電子装置の電極と同時に、ガラス基板からのナトリウムの拡散を防止する拡散防止層として利用した電子装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板を有する太陽電池、大型ディスプレイ等の電子装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池や大型フラットパネルディスプレイ装置等の電子装置においては、通常、ガラス基板が用いられている。ソーダガラス等の安価なガラス基板はナトリウムを含有するが、その上に太陽電池素子や表示素子、スイッチング素子等の電子素子を形成すると、ガラス基板中のナトリウムが電子素子に拡散して、電子素子の特性を劣化させる。このため、ナトリウムを含有するガラスは、長寿命、高特性の電子装置を形成することができず、通常はナトリウムを含まない、高価なノンアルカリガラスが用いられてきた。
【0003】
然るに、装置が大型化するにつれて、ガラス基板の面積も大きくなり、その結果、ガラス基板自体のコストが上昇している。このような状況の下では、大型の電子装置のコストを低減するには、安価なガラス基板の採用が強く望まれてきている。
【0004】
ナトリウムを含有する安価なガラス基板を用いるためにはその上にナトリウム拡散防止層を形成することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−243327号公報
【特許文献2】特願2008−171493号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたものは、ナトリウム拡散防止層としてシリカ被膜、リンをドープしたシリカ被膜、シリコン酸窒化物膜、窒化シリコン膜等を500nmの厚さにスパッタ法等で形成するもので、大型基板に適用するとコストが高くなり、かつナトリウムの拡散防止効果も高くはないものである。
【0007】
これに対して、本発明者等の一部は、容易にかつ安価に大型ガラス基板に適用でき、かつ、ナトリウムの拡散防止効果の高いナトリウム拡散防止層として平坦化塗布膜によるナトリウム拡散防止層を提案した(特許文献2)。このようなナトリウム拡散防止層の上に、透明導電膜を介して電子素子層が形成され電子装置が構成されるが、ナトリウム拡散防止層を設けること自体がプロセス工程増、コスト増の要因となるので、一層の改善が望まれている。
【0008】
従って、本発明は、ナトリウム等のアルカリ金属を含むガラス基板を使用してより安価に製造できる電子装置及びその製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来アルカリガラス基体上に電子素子が形成される電子装置においては当該電子素子用の透明電極の層がアルカリガラス基体のナトリウム拡散防止層上に設けられるが、本発明者等は、当該透明電極として酸化亜鉛層を用いると、該酸化亜鉛層自体がナトリウム等のアルカリ金属に対して優れた拡散防止層として作用することを新たに見出し、その結果、酸化亜鉛層を用いるだけで、従来のナトリウム拡散防止層を省略できると云う事実を見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
従って、本発明によれば、酸化亜鉛層を透明電極及びアルカリ金属の拡散防止層として用いたデバイス、即ち、電子装置が得られる。
【0011】
具体的に説明すると、本発明の一態様によれば、ナトリウムを含有するガラス基体と、該ガラス基体表面に設けられた酸化亜鉛層とを有し、前記酸化亜鉛層上に電子素子が形成されていることを特徴とする電子装置が得られる。
【0012】
この場合、前記酸化亜鉛層はナトリウム拡散防止層であるとともに前記電子素子の透明電極としての作用をも兼ね備えている。
【0013】
更に、前記酸化亜鉛層にはGa、Al、またはInがドープされていることが望ましい。
【0014】
本発明の別の態様によれば、ナトリウムを含有するガラス基体の少なくとも一方の主面に有機金属系材料を用いたプラズマCVD法によって酸化亜鉛層を成膜する工程を含むことを特徴とする電子装置の製造方法が得られる。
【0015】
本発明の更に他の態様によれば、透明導電性層を用いてアルカリ金属の拡散を防止することを特徴とするアルカリ金属拡散防止方法が得られる。ここで、前記透明導電性層は酸化亜鉛層であり、前記アルカリ金属はナトリウムである。
【0016】
また、前記酸化亜鉛層は、前記ナトリウムを前記アルカリ金属として含むガラス基板上に、前記酸化亜鉛層は、有機金属系材料を用いたプラズマCVD法によって成膜されたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、容易にかつ安価な大型ガラス基板に適用でき、かつ、電子装置を構成する電極を、ナトリウムの拡散防止効果を備えたものによって構成することにより、ナトリウム拡散防止層を別途設ける必要のない電子装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態により酸化亜鉛層(ZnO層)を作成した際に用いたプラズマ処理装置の概略説明図である。
【図2】本発明に係る第1の実施形態および比較例におけるZnO層のナトリウム拡散防止性能のSIMS分析結果を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による光電変換素子及び太陽電池の構造を説明する概略断面図である。
【図4A】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4B】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4C】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4D】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4E】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4F】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4G】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【図4H】図3に示された光電変換素子の製造工程を工程順に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は本発明の第1の実施形態による酸化亜鉛(ZnO)層を成膜するために用いたプラズマ処理装置を示す概略断面図である。図示されたプラズマ処理装置1はマイクロ波励起高密度プラズマ処理装置であり、処理室11を備える。処理室11内には、誘電体の天板2、誘電体の上段シャワープレート3、下段シャワーノズル4、及び、ステージ13が設けられ、ステージ13上にはNaを含有するソーダガラスの基板7が配置されている。なお、下段シャワーノズル4のやや上方には、1つ以上の開口を持つ仕切り板18が設置されている。
【0021】
ここで、マイクロ波は、誘電体の天板2および誘電体の上段シャワープレート3を透過して、プラズマ処理装置1の処理室11内上部のプラズマ発生領域に放射される。プラズマ励起用ガス(本実施形態ではArガスを用いたが、Krガス、Xeガス、Heガスでもよい)が、ガス導入管5を介して上段シャワープレート3に供給され、上段シャワープレート3からプラズマ発生領域に均一に吹き出されている。
【0022】
上段シャワープレート3と仕切り板18との間に形成されたプラズマ発生領域には、前述したように、マイクロ波が放射されており、当該マイクロ波によってプラズマ励起用ガス中にプラズマが励起され、当該プラズマはプラズマ発生領域から拡散プラズマ領域、及び、拡散プラズマ領域に設置された下段シャワーノズル4に導かれる。
【0023】
ここで、上段シャワープレート3には、導入管5を介して上記のプラズマ励起用ガスとともにOガス(反応ガス)が導かれ、他方、下段シャワーノズル4には、導入管6から有機金属系材料のガスが流されることによって、基板7の表面に化合物薄膜を成膜できる。
【0024】
図示されたプラズマ処理装置1は、ZnO層形成のための有機金属系材料を供給する有機金属系材料供給システム8を備え、当該有機金属系材料システム8内には、2つの有機金属材料(MO)容器9及びMO容器10が設けられている。これらMO容器9、10から有機金属系材料が下段シャワーノズル4に導入管6を介して送られてくる。
【0025】
また、処理室11内の排ガスは、排気系12(排気ポートのみを示し、排気構造は図示を省略している)を介して、排気ダクト内を通り、排気用の小型ポンプ(図示せず)へ導かれる。
【0026】
図示された処理室11の大きさは直径240mmであり、その中に33mm四方の長方形のソーダガラス7を載せるステージ13が備えられている。図示されたステージ13はモータ駆動により上下に移動ができるので最適な位置の高さに基板7を配置できる。ステージ13内部には、基板7を加熱できるようにヒータ(図示せず)が組み込まれていて所望の温度に制御できる構成を備えている。
【0027】
図1に示されたプラズマ処理装置1の壁面は、反応生成物の付着を押さえる為に、ヒータ14により例えば100℃に温度制御されている。また、有機金属系材料供給システム8からシャワーノズル先端部に至るまでのガス管はヒータ15により各材料の容器温度以上に温度制御されている。
【0028】
処理室11の上部に配置された天板2は251mmの直径、15mmの厚さを有し、上段シャワープレート3は251mmの直径、30mmの厚さを有している。これら天板2及び上段シャワープレート3の材質は共にアルミナセラミックである。
【0029】
下段シャワーノズル4の先端部下面には、ガスを均一に放出するための小さな穴が複数設けられており、穴の径は0.5mmまたは0.7mmである。また、下段シャワーノズル先端部のサイズは外径33mm、内径17mmのリング状である。
【0030】
本実施形態に係る酸化亜鉛(ZnO)層の成膜プロセスでは、Znを含む有機金属系材料とOを添加したArプラズマによってZnO層を成膜する。Arプラズマの代わりにKr、Xe、Heを用いても構わない。具体的には、Znを含む有機金属系材料としては、この実施形態ではDMZ(ジメチルジンク)を使用したが、DEZ(ジエチルジンク)を用いても良い。Znの有機金属系材料は9で示す有機金属材料容器(MO1)に収容し、Ar等のキャリアガスで下段ノズル4へ送られる。
【0031】
更に、本実施形態では、GaをドーピングしたZnO(即ちGZO)膜を成膜した。このため、Gaを含む有機金属系材料を10で示す有機金属材料容器(MO2)に収容し、Ar等のキャリアガスでZn材料ガスと一緒に下段ノズル4へ送出した。Gaの有機金属系材料としてはGa(CH即ち、TMG(トリメチルガリウム)を用いたが、Ga(C即ち、TEG(トリエチルガリウム)でもよい。
【0032】
本実施形態では、上段シャワープレート3に導入管5を介してArガスを毎分200ccおよびOを毎分100cc流し、下段シャワーノズル4に導入管6からZnとGaを含んだ有機金属系ガス(DMZを毎分0.2cc、TMGを5%、およびArガスを180cc)を流した。
【0033】
一方、ガラス基板7のステージ温度を400℃、処理室11の圧力を0.1Torrとし、1500wのマイクロ波を導入して、10分間成膜し、Naガラス7上にGZO層(GaをドープしたZnO層)を260nmの厚さに形成した。なお、TMGを5%とは、体積でTMG/(DMZ+TMG)が5%になるような量のことである。また、Gaの代わりにAl、In等を酸化亜鉛(ZnO)層にドープしてもよく、電子装置によってはノンドープとしてもよい。
【0034】
ここで、上記したGZO層のナトリウム拡散防止効果を確認するために、比較例として、ガラス基板7を無アルカリガラスとして、その上に上記と同様にしてGZO膜を形成したものを作成した。
【0035】
図2を参照すると、上記のようにして形成されたZnO層のナトリウム拡散防止性能のSIMS(Secondary Ionization Mass Spectrometer)分析結果が示されている。図示された各曲線はZnO層及びガラス基板に含まれる各成分をあらわしている。図2(A)では、無アルカリガラス基板上に、260nmの厚さのZnO層が形成された場合を示している。無アルカリガラス基板中には、酸素(O)、シリコン(Si)が多量に含まれており、他方、GZO層には、酸素(O)のほか、亜鉛(Zn)及びガリウム(Ga)が多量に含まれていることが分る。また、無アルカリガラス基板には、1E+2オーダー程度のナトリウム(Na)が含まれているが、GZO層中には、1E+1オーダー以下までナトリウム(Na)の量が低下していることが判る。
【0036】
一方、図2(B)に示されているように、1E+4以上のナトリウム(Na)を含むナトリウムガラス基板には、酸素(O)及びシリコン(Si)が無アルカリガラスと同程度含まれている。ナトリウム(Na)ガラス基板上に形成されたGZO層は、Ga及びZnを含んでいるが、ナトリウム(Na)が1E+1以下まで低下していることが判る。
【0037】
このように、無アルカリガラス基板からのZnO層(この例では、GZO)層中へのナトリウム拡散は極めて微量である。また、Naガラス基板上にZnO(GZO)層を形成した本発明の実施形態の場合も、ZnO膜中のNaは無アルカリガラス基板上のZnO層と同等の極微量であり、Naガラス基板からのナトリウムの拡散を防止できていることを示している。
【0038】
尚、ZnO層は、150nm以上の厚さを備えていれば、ナトリウム(Na)の拡散を実質上抑制できることは、図2からも明らかである。
【0039】
次に、図3を参照して、本発明の第2の実施形態に係る光電変換素子100を説明する。図示された光電変換素子100は、ガードガラス112及び当該カードガラス112上に設置されるガラス基板114を含む基体上に設けられている。図示されたガラス基板114はNaを含む安価なソーダガラスによって形成されており、このソーダガラスからNaが拡散して素子を汚染するのを防止する目的で、従来は光電変換素子100とガラス基板114との間には、ナトリウムバリア層が設けられるが、本発明では、ナトリウムバリア層を設けずに、透明電極層20を直接ガラス基板114上に形成する。また、図からも明らかな通り、単位セルとなる光電変換素子100は、隣接する他の光電変換素子(セル)と電気的に直列に接続されて太陽電池を構成している。
【0040】
具体的に説明すると、本発明の実施形態に係る光電変換素子100は第1の電極層20、a−Siによって形成されたnip構造を備えた発電積層体22、及び、当該発電積層体22上に、セレン層24を介して成膜されたAlの第2の電極層26を有している。
【0041】
光電変換素子100を構成する第1の電極20は、透明導電体電極(Transparent Conductive Oxide(TCO)層)であり、ここでは、1μmの膜厚を有するZnO層によって形成されている。このZnO層20はGaがドープされたn+型ZnO層である。また、第1の電極20を構成するn+型ZnO層には、所定の間隔毎に絶縁膜201(ここでは、SiCN)が設けられ、セル単位に区画、区分されている。
【0042】
当該第1の電極20上には、発電積層体22の一部を構成するn+型a−Si層221が設けられ、n+型a−Si層221は第1の電極20を構成する透明電極と接触している。図示されたn+型a−Si層221は10nmの膜厚を有している。n+型a−Si層221上には、発電積層体22を形成するi型a−Si222及びp型a−Si層223が順次形成されている。
【0043】
図示されたi型a−Si222及びp型a−Si層223の膜厚はそれぞれ480nm及び10nmの膜厚を有している。図示された発電積層体22を構成するn+型a−Si層221、i型a−Si層222、及びp+型a−Si層223には、第1の電極20の絶縁層201の位置とは異なる位置に、ビアホール224が設けられており、当該ビアホールの内壁にはSiO層が形成されている。
【0044】
nip構造の発電積層体22は全体で500nmの厚さを有しており、単結晶または多結晶シリコンによって形成された光電変換素子に比較して、100分の1以下の厚さを有している。
【0045】
次に、p型a−Si層223上には、セレン(Se)層24を介して第2の電極層26が形成され、当該第2の電極層26を形成するAlは発電積層体22のビアホール224(内壁はSiO2で絶縁されている)内にも形成されている。ビアホール224内のAlは、隣接する光電変換素子の第1の電極20と電気的に接続されている。尚、第2の電極のp型a−Si層との接触部を構成するセレン(Se)層24は、Seの仕事関数(−6.0eV)がp型a−Si層の仕事関数に近いために使用するもので、同様に仕事関数の近いPt(−5.7eV)に置き換えても良い。
【0046】
更に、第2の電極26上にはSiCNによるパッシベーション膜28が形成される。パッシベーション膜28を形成する絶縁材料(ここでは、SiCN)は、第2の電極26・24、p型a−Si層223、を経てi型a−Si層222に達する穴225内にも埋設されている。パッシベーション膜28上には、熱伝導性の良い材料によって形成された接着剤層29を介してヒートシンク30(たとえばAlによって形成)が取り付けられている。
【0047】
尚、第1の電極層20を形成するZnO層には、Gaの代わりにAl、In等をドープすることによっても、n+型ZnO層を形成することができる。
【0048】
図2に示された光電変換素子100は、当該光電変換素子100のセル単体で約20%のエネルギ変換効率が得られた。また、これら光電変換素子100を接続して1.15m×1.40mの太陽電池モジュールを構成した場合、307Wの電力が得られ、モジュールにおけるエネルギ変換効率は18.9%であった。
【0049】
図3に示す構成では、n型非晶質シリコン(a−Si)層と、GaをZnOに添加することにより得られたn型ZnO層とが接合されている。この結果、n型非晶質シリコン(a−Si)層側からn型ZnO層に電子が流れやすい構成となっている。すなわち、n型非晶質シリコン(a−Si)層と、n型ZnO層(ここでは、n+型ZnO層)とが接合した場合、a−Si層の伝導帯Ecと価電子帯Evとの間のバンドギャップは、1.75eVであり、他方、n+型ZnO層の伝導帯Ecはa−Si層の伝導帯Ecよりも0.2eVだけ低く、フェルミレベルEfよりも低い。したがって、a−Si層の伝導体Ecと、n+型ZnO層の伝導帯Ecとの間には、電子の障壁がほとんどないから、電子はa−Si層の伝導体Ecからn+型ZnO層の伝導帯Ecに高い効率で流れ込む。このように、a−Si層とn+型ZnO層との間には、障壁がほとんど無いため、電子をa−Si層からn+型ZnO層へ効率良く移動させることができ、光電変換素子を構成した場合、大電流を流すことが出来、エネルギ効率の改善が可能である。
【0050】
以下、図4を参照して、図3に示された光電変換素子100及び太陽電池の製造方法について説明する。この例では、国際公開番号WO2008/153064の国際公開公報に記載されたMSEP(Metal Surface-wave Excited Plasma)型プラズマ処理装置(下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えたものおよび備えないもののいずれか)を第1〜第8のプラズマ処理装置として使用した場合について説明する。
【0051】
図4Aに示すように、まず、ソーダガラスによって形成されたガラス基板114を準備する。
【0052】
次に、図4Bに示すように、ガラス基板114を下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第1のプラズマ処理装置に導き、第1の電極20として厚さ1μmの透明電極(TCO層)を形成する。第1のプラズマ処理装置では、Gaをドープすることによってn+型ZnO層を形成している。Gaドープのn+型ZnO層は、第1のプラズマ処理装置において、上段ガスノズルからKrおよびO2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr、Zn(CH2およびGa(CH3の混合ガスを、Kr及び酸素を含む雰囲気で生成されたプラズマ中に噴出させることによって、ガラス基板114に、n+型ZnO層20をプラズマCVD成膜した。
【0053】
続いて、第1の電極20であるn+型ZnO層上に、ホトレジストを塗布した後、ホトリソグラフィ技術を用いて、ホトレジストをパターニングする。ホトレジストをパターニングした後、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第2のプラズマ処理装置に導く。第2のプラズマ処理装置では、パターニングされたホトレジストをマスクとしてn+型ZnO層を選択的にエッチングし、図4Cに示すように、n+型ZnO層20にガラス基板114に達する開口部を形成する。
【0054】
第2のプラズマ処理装置におけるエッチングは、チャンバーに上段ガスノズルからArガスを供給して、そのAr雰囲気で生成されたプラズマ中に、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr,Cl,HBrの混合ガスをチャンバーに供給することによって行った。
【0055】
開口部を有するn+型ZnO層及び当該n+型ZnO層上にホトレジストを塗布した状態のガラス基板114は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えない第3のプラズマ処理装置に輸送され、第3のプラズマ処理装置において、Kr/Oプラズマ雰囲気でホトレジストをアッシング除去した。
【0056】
ホトレジスト除去後、開口部を形成されたn+型ZnO層20を被着したガラス基板114は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第4のプラズマ処理装置に導入される。
【0057】
第4のプラズマ処理装置では、まず、開口部内及びn+型ZnO層20の表面に、SiCNが絶縁膜201としてプラズマCVDにより形成された後、n+型ZnO層20表面のSiCNが同じ第4のプラズマ処理装置内でエッチング除去される。この結果、n+ZnO層20の開口部内にのみ絶縁膜201が埋設される。第4のプラズマ処理装置内でのSiCNの成膜は、上段ガスノズルからXeおよびNH3ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr、SiH,SiH(CHの混合ガスをチャンバーに導入してCVD成膜することによって行い、次いで同じチャンバーにて導入ガスを切り替えて、上段ガスノズルからはArガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからはArとCFの混合ガスをチャンバーに導入してn+型ZnO層20表面のSiCNをエッチング除去する。
【0058】
続いて、同じ第4のプラズマ処理装置内で、導入ガスを順次切り替えることによって、nip構造を有する発電積層体22およびSe24が連続CVDにより形成される。図4Dに示すように、第4のプラズマ処理装置内では、n+型a−Si層221、i型a−Si層222、p+型a−Si層223、及びセレン(Se)層24が順次成膜される。具体的に説明すると、第4のプラズマ処理装置で、上段ガスノズルからはArおよびH2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからはAr、SiH、およびPH3の混合ガスをチャンバーに導入してn+型a−Si層221をプラズマCVD成膜し、次に、上段ガスノズルからは続けてArおよびH2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr,SiH,PHガスからAr+SiHガスに切り替えて導入することによって、i型a−Si層222を成膜し、更に、上段ガスノズルからは続けてArおよびH2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr,SiHガスからAr+SiH+Bガスに置換することによって、p+型a−Si層223を成膜し、次に、上段ガスノズルからは続けてArおよびH2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr,SiH,BガスからAr,HSeの混合ガスに置換することによって、セレン層24をCVD成膜する。
【0059】
このように同一のMSEP型プラズマ処理装置において、導入ガスを順次切り替えることによって、6層の成膜・エッチングが行われるので、欠陥の少ない優れた膜を形成することが出来、同時に製造コストを大幅に引き下げることが可能となった。
【0060】
セレン層24及び発電積層体22を搭載したガラス基板14は第4のプラズマ処理装置からホトレジストコーター(スリット・コーター)に導かれ、ホトレジストが塗布された後、ホトリソグラフィ技術によってホトレジストにパターニングが施される。
【0061】
ホトレジストのパターニング後、セレン層24及び発電積層体22を搭載したガラス基板114は、パターニングされたホトレジストと共に、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第5のプラズマ処理装置に導かれる。第5のプラズマ処理装置では、ホトレジストをマスクとしてセレン層24及び発電積層体22が選択的にエッチングされ、図4Eに示すように、第1の電極20に達するビアホール224が形成される。即ち、第5のプラズマ処理装置では、4層が連続的にエッチングされる。
【0062】
第5のプラズマ処理装置内におけるエッチングによって、セレン層24からn+型ZnO層20までを貫通して第1の電極20に達するビアホール224が形成されたガラス基板114は、第5のプラズマ処理装置から前述の下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えない第3のプラズマ処理装置に移動され、上段ガスノズルからチャンバーに導入されたKr/Oガスの雰囲気で生成されたプラズマ内でホトレジストがアッシング除去される。
【0063】
ホトレジスト除去後のガラス基板114は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第6のプラズマ処理装置に移され、図4Fに示すように、セレン層24上に第2の電極26として、1μmの厚さを有するAl層が成膜される。Al層はビアホール224内にも成膜される。このAl層の成膜は、上段ガスノズルからArおよびH2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートから、Ar/H2雰囲気で生成されたプラズマ中にAr+Al(CHガスを噴出させることによって行われる。
【0064】
続いて、第2の電極26のAl層上に、ホトレジストが塗布された後、パターニングされ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第7のプラズマ処理装置内に導かれる。
【0065】
第7のプラズマ処理装置では、上段ガスノズルからArガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートから、Ar雰囲気で生成されたプラズマ内に、Ar+Clガスを噴出させることによって、Al層のエッチングが行われ、続いて、上段ガスノズルからArおよびH2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートから、Ar/H雰囲気で生成されたプラズマ内に、Ar+CHガスを導入することによってセレン層24のエッチングが行われ、ついで上段ガスノズルからArガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr+HBrガスに切り替えて、p+型a−Si層223と、i型a−Si層222の途中までとをエッチングする。
【0066】
この結果、図4Gに示すように、Al層26表面からi型a−Si層222の途中までに達する穴225が形成される。この工程も、同一のMSEP型プラズマ処理装置を用い、ガスを殉死切り替えることによって4層連続エッチングが行われ、処理時間とコストの大幅低減がなされる。
【0067】
次いで、図4Gに示す素子を搭載したガラス基板114は前述の下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えない第3のプラズマ処理装置に移動され、上段ガスノズルからチャンバーに導入されたKr/O2ガスの雰囲気で生成されたプラズマによってホトレジストがアッシング除去される。
【0068】
ホトレジストを除去されたAl層を第2の電極26として含むガラス基板114は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第8のプラズマ処理装置に導入され、SiCN膜をCVDによって形成することによって、Al層26上および穴225内に絶縁層28が成膜され、図4Hに示すように、所望の光電変換素子及び太陽電池が作成される。
【0069】
上記した製造方法では、同一のプラズマ処理装置を複数層の成膜等に利用することができる。したがって、大気中の酸素、不純物等による汚染を除去した状態で、光電変換素子及び太陽電池を作成できる。
【0070】
上に述べた実施形態では、nip構造の発電積層体の全てをa−Si層によって形成する場合についてのみ説明したが、i型a−Si層は、結晶シリコン又は微結晶非晶質シリコンによって形成されても良い。また、もう一つまたはそれ以上の発電積層体を発電積層体22上に堆積しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上、電子素子の一例として太陽電池を取り上げ、本発明の構成を説明したが、本発明は表示素子やその他の電子素子に適用可能であり、上記の酸化亜鉛層をナトリウム拡散防止層として利用しつつ電子素子の透明電極として用いることができる。更に、本発明は、電子装置を構成する透明導電層をナトリウムだけでなく、カリウム等のアルカリ金属の拡散防止に利用するために使用するアルカリ金属防止方法としても極めて有効である。また、本発明は酸化亜鉛層だけでなく、他の透明電極を形成する材料(例えば、In)にも適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0072】
1 プラズマ処理装置
2 誘電体天板
3 上段シャワープレート
4 下段シャワープレート
5 上段ガス導入管
6 下段ガス導入管
7 被処理基板
8 有機金属系材料供給システム
9 MO容器
10 MO容器
11 処理室
12 排気系
13 ステージ
14、15 温調ヒータ
18 仕切り板
20 第1の電極(n+型ZnO層)
22 発電積層体
24 セレン層
26 第2の電極(Al層)
28 絶縁層(SiCN層)
30 ヒートシンク
100 光電変換素子
112 ガードガラス
114 ソーダガラス基板
201 絶縁層(SiCN層)
221 n+型a−Si層
222 i型a−Si層
223 p+型a−Si層
224 SiO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムを含有するガラス基体と、該ガラス基体表面に設けられた酸化亜鉛層とを有し、前記酸化亜鉛層上に電子素子が形成されていることを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記酸化亜鉛層はナトリウム拡散防止層であるとともに前記電子素子の透明電極として用いられていることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記酸化亜鉛層にはGa、Al、またはInがドープされていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記酸化亜鉛層の厚さが150nm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項5】
前記電子素子が太陽電池素子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項6】
前記電子素子が表示素子を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項7】
ナトリウムを含有するガラス基体の少なくとも一方の主面に有機金属系材料を用いたプラズマCVD法によって酸化亜鉛層を成膜する工程を含むことを特徴とする電子装置の製造方法。
【請求項8】
透明導電性層を用いてアルカリ金属の拡散を防止することを特徴とするアルカリ金属拡散防止方法。
【請求項9】
請求項8において、前記透明導電性層は酸化亜鉛層であり、前記アルカリ金属はナトリウムであることを特徴とするアルカリ金属拡散防止方法。
【請求項10】
請求項9において、前記酸化亜鉛層は、有機金属系材料を用いたプラズマCVD法によって成膜されたものであることを特徴とするアルカリ金属拡散防止方法。
【請求項11】
請求項10において、前記酸化亜鉛層は、前記ナトリウムを前記アルカリ金属として含むガラス基板上に形成されることを特徴とするアルカリ金属拡散防止方法。
【請求項12】
請求項11において、前記酸化亜鉛層にはGa,Al,またはInがドープされていることを特徴とするアルカリ金属拡散防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【公開番号】特開2010−258368(P2010−258368A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109552(P2009−109552)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】