説明

電子部品及びフィルムコンデンサー

【課題】フィルム材料(基材)に熱影響を与えることなく、十分な厚さを有する電極を形成する。
【解決手段】純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上を溶射材料とし、該溶射材料の融点又は軟化温度以下の温度のガスを超音速流にして、該超音速流ガス中に該溶射材料の粉粒を投入し、該溶射材料を固相状態のまま基材に衝突させて生じる皮膜を電極としたことを特徴とする電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品及びフィルムコンデンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信分野の技術進歩に伴い、制御機器を構成する電子部品に対しての小型化、軽量化、高性能化が強く要望されている。フィルムコンデンサーについても例外ではなく、誘電体フィルムのよりいっそうの薄膜化への取り組みが行われている。例えば、誘電体としてフィルムを前もって製造する方法に対し、1μm以下の厚みの誘電体を真空蒸着法によって薄膜形成しながら同時に金属薄膜電極形成を行ってコンデンサを形成する方法が今後必要となる。
【0003】
下記特許文献1には、有機材料薄膜誘電体を積層してなるフィルムコンデンサーにおいて、電極端面に黄銅を溶射して端面電極を形成することが開示されている。しかし、電極を溶射で形成することで、溶射による熱影響からフィルム自体に溶融や熱変形が生じてしまうという致命的欠点があった。
【0004】
即ち、フィルムは樹脂材料で出来ている為、溶射の熱影響による溶融や熱変形が問題になりやすい(問題点1)、及び、溶射は粉末材料を大気中で溶融させながら吹き付けるプロセスのため、溶射コーティングには酸化しやすい特徴がある。そのため電気抵抗が高くなりやすく、電極等で使用する場合に電気的損失が大きいといった問題がある(問題点2)。
【0005】
他方、「コールドスプレー」と呼ばれる溶射技術がある。コールドスプレーは、溶射材料の融点又は軟化温度よりも低い温度のガスを超音速流にして、前記超音速流のガス中に前記溶射材料の粒子を投入し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成する技術である。コールドスプレーは、従来のプラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法などに比べ、溶射材料粒子を加熱・加速する作動ガスの温度が著しく低く、溶射粒子をあまり加熱せずに固相状態のまま基材へ高速で衝突させ、そのエネルギーにより基材と粒子に塑性変形を生じさせて成膜させるものである。これによって得た被膜は、緻密で密度、熱・電気伝導性が高く、酸化や熱変質も少なく、密着性も良好であるという、優れた性質を有する。
【0006】
下記特許文献2には、電気めっきに用いる不溶性電極をコールドスプレーで形成する発明が開示されている。具体的には、Ti、Ti合金、Ta、Ta合金、Nb、Nb合金、Zr、Zr合金の何れかからなる母材の表面に、Ti、Ti合金、Ta、Ta合金、Nb、Nb合金、Zr、Zr合金の何れかと、該金属又は該合金の酸化物からなり、該酸化物の量が体積%で0.01〜2%である中間層を有し、該中間層の表面に白金族金属酸化物からなる最表層を有することを特徴とする不溶性電極である。
【0007】
特許文献2に記載の発明は、電気めっきに用いる不溶性電極をコールドスプレーで形成するものの、その溶射材料は、Ti、Ti合金、Ta、Ta合金、Nb、Nb合金、Zr、Zr合金に限られている。その結果、以下のような問題点が生じている。
【0008】
使用材料として比較的電気抵抗率が高いTi系、Ta系、Nb系、Zr系を選択しているため、作製した電極も電気抵抗率が高くなり、電気的損失が大きくなりやすい(問題点3)。使用材料として比較的硬いTi系、Ta系、Nb系、Zr系を選択しているため、コールドスプレー皮膜は粒子扁平しにくい。結果として敏密な皮膜が出来にくく、電気抵抗率が高くなりやすく、また成膜しにくいため成膜時間が長くなる(問題点4)。使用材料として比較的高価なTi系、Ta系、Nb系、Zr系を選択している(問題点5)。電極厚さが小さいため熱容量が小さくジュール熱により温度上昇し、基材に熱影響を与えてしまう(問題点6)。
【0009】
更に、下記特許文献3には、ナトリウム硫黄電池において、電極形成の方法として、集電極の表面に高抵抗層の材料を多孔質状態で一体成形して装着するため、表面へ一体成形する装着法は、溶射に限らず、コールドスプレー法,塗布法や焼結法等で実施される旨の記載がある。また、集電極の材料としては、カーボン、グラファイト、クロム、モリブデン等の単体、又は、クロムとコバルト系の合金、クロムと鉄系の合金等である旨の記載がある。
【0010】
特許文献2に記載の発明には、以下のような問題点が生じている。使用材料として比較的電気抵抗率が高いCr系、Mo系を選択しているため、作製した電極も電気抵抗率が高くなり、電気的損失が大きくなりやすい(問題点7)。使用材料として比較的硬いCr系、Mo系を選択しているため、コールドスプレー皮膜は粒子扁平しにくい。結果として徹密な皮膜が出来にくく、電気抵抗率が高くなりやすく、また成膜しにくいため成膜時間が長くなる(問題点8)。使用材料として比較的高価なCr系、Mo系を選択している(問題点9)。
【0011】
【特許文献1】特開2000−124061号公報
【特許文献2】特開2004−307969号公報
【特許文献3】特開2005−197139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術が有する諸問題を解決し、フィルム材料(基材)に熱影響を与えることなく、十分な厚さを有する電極を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、特定のコールドスプレーの溶射材料として選択すること、及び、特定の樹脂基材上に電極を形成することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、第1に、本発明は、電極が形成された電子部品の発明であり、該電極は、純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上を溶射材料とし、該溶射材料の融点又は軟化温度以下の温度のガスを超音速流にして、該超音速流ガス中に該溶射材料の粉粒を投入し、該溶射材料を固相状態のまま基材に衝突させて生じる皮膜からなる。ここで、上記溶射方法は所謂コールドスプレーと呼ばれるものを含むが、本発明では、狭義のコールドスプレーだけでなく、温度等に若干の幅を持たせたコールドスプレーからの派生技術も適用される。これらを含めて広義のコールドスプレーを、本発明では『コールドスプレー』とする。
【0015】
上記方法を用いて電極を形成すれば、従来の溶射と比較して電極の電気抵抗率を小さく出来やすいため、電気的損失の抑制やセンサーの感度向上に有利である。
【0016】
溶射材料を、純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上に限定することで、従来公知の溶射材料と比べて、極めて電気抵抗の小さい電極を形成することが可能となる。
【0017】
本発明の電子部品としては特に制限されず、金属溶射で電極が形成されてきた各種電子部品が含まれる。具体的には、フィルムコンデンサー、配線基板、サーミスタ(温度センサー)、電池、蛍光ランプ、画像表示装置、バリスタ、圧電素子、熱電素子、赤外線放射装置、紫外線放射装置、放電電極などが好ましく例示される。これらの中で、フィルムコンデンサーがコールドスプレーの低温プロセスという長所が生かせるため、本発明が適用される電子部品として特に好ましい。
【0018】
第2に、本発明は、フィルムコンデンサーの発明であり、金属材料からなる溶射材料の融点又は軟化温度以下の温度のガスを超音速流にして、該超音速流ガス中に該溶射材料の粉粒を投入し、該溶射材料を固相状態のまま樹脂材料からなる基材に衝突させて生じる皮膜を電極としたことを特徴とするフィルムコンデンサーである。
【0019】
本発明のフィルムコンデンサーにおいて、溶射材料としては特に限定されないが、純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上が特に好ましい。
【0020】
フィルムコンデンサーは樹脂材料上に電極を形成する必要があるが、上記コールドスプレーにより基材の温度上昇を抑制して溶射出来るため、電極の厚さを0.2mm以上とすることが出来る。
【発明の効果】
【0021】
純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上を溶射材料としたコールドスプレーにより電極を形成した電子部品は、
(1)Ti系、Ta系、Nb系、Zr系、Cr系、Mo系と比較して電気伝導率の高い材料を選択しているため問題点3及び問題点7を解決する。
(2)Ti系、Ta系、Nb系、Z係、Cr系、Mo系と比較して軟らかい材料を選択しているため問題点4及び問題点8を解決する。
(3)Ti系、Ta系、Nb系、Zr系、Cr系、Mo系と比較して低コスト材であるため問題点5及び問題点9を解決する。
【0022】
コールドスプレーにより樹脂材料からなる基材上に電極を形成したフィルムコンデンサーは、
(4)コールドスプレーは粉末材料を溶融させずに吹き付けるプロセスであるため、基材に与える熱影響が溶射と比較して小さい。従って問題点1を解決する。
(5)従来の溶射と比較して酸化しにくいため問題点2を解決する。
【0023】
フィルムコンデンサーの電極の厚さを0.2mm以上とすることで、
(6)電極の熱容量を向上し、問題点6を解決する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例と比較例を示す。
[実施例1]
直径25mm、高さ40mmの円柱状樹脂基板の両底面の円形上の1〜2mmに対して、純Cu、純Al、純Ti、純Ta、純Nb、純Zr、純Cr、純Moを溶射材料としてコールドスプレーを行い、電気抵抗率をもとめた。
【0025】
[比較例1]
直径25mm、高さ40mmの円柱状樹脂基板の両底面の円形上の1〜2mmに対して、純Cu、純Alを溶射材料として従来の溶射を行い、電気抵抗率をもとめた。
【0026】
図1に、純Cu、純Al、純Ti、純Ta、純Nb、純Zr、純Cr、純Moを溶射材料としてコールドスプレーを行った際の電気抵抗率を示す。同時に、これら金属のバルク材の電気抵抗率を示す。更に、図2に、純Cuと純Alを溶射材料としてコールドスプレーを行った際の電気抵抗率、これら金属を溶射材料として従来の溶射を行った際の電気抵抗率、及びこれら金属のバルク材の電気抵抗率を示す。
【0027】
図1及び図2の結果より、純Cuと純Alを溶射材料としたコールドスプレー皮膜は、他の6種類の金属を溶射材料としたコールドスプレー皮膜と比較して、電気抵抗率が極めて低いことがわかる。この要因は、(1)純Cuと純Alはバルク材自体の電気抵抗率が低い、(2)純Cuと純Alは、軟らかい金属であるため緻密な皮膜が生成されやすい、ことが考えられる。
【0028】
また、図2の結果より、従来の溶射皮膜に比べてコールドスプレー皮膜は、電気抵抗率が低い。これは、従来の溶射は粉末材料を大気中で溶融させながら吹き付けるプロセスのため、溶射皮膜は酸化しやすく、そのため電気抵抗率が高くなりやすいのに対して、コールドスプレーは粉末を溶融させないため、溶射皮膜は酸化し難く、電気抵抗率は高くならないことによる。
【0029】
参考のために、表1に上記電気抵抗率データ(μΩ・cm)と、表2にビガース硬さ(HV)を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
[実施例2]
直径25mm、高さ40mmの円柱状樹脂基板の両底面の円形上の1〜2mmに対して、純Cuを溶射材料としてコールドスプレーを行い、成膜膜厚に対する基材温度の変化をもとめた。
【0033】
[比較例2]
直径25mm、高さ40mmの円柱状樹脂基板の両底面の円形上の1〜2mmに対して、純Cuを溶射材料として従来の溶射を行い、成膜膜厚に対する基材温度の変化をもとめた。
【0034】
図3に、実施例2と比較例2の結果を、純Cuを溶射材料としてコールドスプレーを行った場合(■)と、従来の溶射を行った場合(●)の成膜膜厚に対する基材温度の変化を示すグラフとして示す。
【0035】
図3の結果より、純Cuを溶射材料としてコールドスプレーを行った場合は、樹脂基板の耐熱性を考慮した目標温度100℃以下が可能であるが、従来の溶射を行った場合は、成膜し早い段階から目標温度100℃を越えることがわかる。
【0036】
[実施例3]
直径25mm、高さ40mmの円柱状樹脂基板の両底面の円形上の1〜2mmに対して、純Cuを溶射材料としてコールドスプレーを行い、実機稼動時における成膜電極厚さに対する電極表面温度の変化をもとめた。
【0037】
図4に、実施例3の結果をグラフとして示す。図4の結果より、電極厚さ0.2mm以上では、樹脂基板の耐熱性を考慮した目標温度100℃以下が可能であるが、電極厚さ0.2mm未満では、樹脂基板の耐熱性を考慮した目標温度100℃を越えることがわかる。これより、樹脂基板を用いるフィルムコンデンサーでは、電極厚さ0.2mm以上が好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
コールドスプレーを用いて電極を形成することで各種電子部品の電極を電気抵抗率が低く、対象基板の熱損傷を低く抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】純Cu、純Al、純Ti、純Ta、純Nb、純Zr、純Cr、純Moを溶射材料としてコールドスプレーを行った際の電気抵抗率を示す。同時に、これら金属のバルク材の電気抵抗率を示す。
【図2】純Cuと純Alを溶射材料としてコールドスプレーを行った際の電気抵抗率、これら金属を溶射材料として従来の溶射を行った際の電気抵抗率、及びこれら金属のバルク材の電気抵抗率を示す。
【図3】純Cuを溶射材料としてコールドスプレーを行った場合と、従来の溶射を行った場合の成膜膜厚に対する基材温度の変化を示すグラフ。
【図4】樹脂基板に対して、純Cuを溶射材料としてコールドスプレーを行い、実機稼動時における成膜電極厚さに対する電極表面温度の変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上を溶射材料とし、該溶射材料の融点又は軟化温度以下の温度のガスを超音速流にして、該超音速流ガス中に該溶射材料の粉粒を投入し、該溶射材料を固相状態のまま基材に衝突させて生じる皮膜を電極としたことを特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記基材が樹脂材料であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
金属材料からなる溶射材料の融点又は軟化温度以下の温度のガスを超音速流にして、該超音速流ガス中に該溶射材料の粉粒を投入し、該溶射材料を固相状態のまま樹脂材料からなる基材に衝突させて生じる皮膜を電極としたことを特徴とするフィルムコンデンサー。
【請求項4】
前記溶射材料が、純Cu、Cu系合金、純Al、Al系合金から選択される1種以上であることを特徴とする請求項3に記載のフィルムコンデンサー。
【請求項5】
前記電極の厚さが0.2mm以上であることを特徴とする請求項3又は4に記載のフィルムコンデンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−91764(P2008−91764A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272841(P2006−272841)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】