説明

電子音楽装置

【課題】有償で提供される音楽コンテンツの試奏用データについて試奏の範囲を超えて使用されるのを防止することができる電子音楽装置を提供すること。
【解決手段】この電子音楽装置では、音色データや伴奏スタイルデータ等の有償の音楽コンテンツデータに対応して、これと同じクオリティを有する試奏用音楽コンテンツデータがユーザに提供され、これにより十分な試奏環境が与えられるが、リアルタイム演奏時に或る音楽コンテンツから試奏用音楽コンテンツデータDtに切り替える際には(S4=YES)、試奏用音楽コンテンツ選択操作(S1=YES)に応じて提示される試奏データ選択報知メッセージMsaが要求する所定の操作子EKの操作が行われるか(S6=YES)、或いは、試奏用音楽コンテンツ選択操作(S1=YES)から所定時間の経過したときに(S7=YES)、試奏用コンテンツデータに切り替える(S9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有償で提供される音楽コンテンツデータの試奏版データを適正な範囲で使用することができるようにした電子音楽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有償で提供される(「有償版」或いは「購入用」という)音楽コンテンツデータについて購入前に試奏用のデータで演奏内容を確認することができるようにした電子音楽装置が知られており、例えば、特許文献1には、有償の自動伴奏用スタイルデータを購入する前に、ユーザに提供された試聴用データに基づく伴奏音を確認することで、正規のスタイルデータを購入するかしないかを適正に判断することができるようにした演奏装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−276567号公報
【0003】
一般に、試聴用と呼ばれる音楽コンテンツは、コンテンツのクオリティを落とす、コンテンツの使用期限が設定されている、コンテンツの保存や編集等の機能が制限される、などの制限を課すことが多い。これにより、試聴用の音楽コンテンツを、その試聴の範囲を超えてユーザが使い続けることを防止している。
【0004】
試聴用の音楽コンテンツに対する従来の制限のうち、クオリティを落とすものや使用期限が設定されているものは、ユーザが音楽コンテンツについて十分な理解をすることができるとは限らない。特に、音楽コンテンツが音色データや伴奏スタイルデータなどのリアルタイム楽器演奏に用いる素材データである場合には、購入前にその演奏効果を試すために提供される(「試奏版」或いは「試奏用」という)データは、有償版データと同じクオリティを持っていないと、その音楽コンテンツ(素材データ)の魅力を十分理解することができないし、使用期限が設定されていると、じっくりとその音楽コンテンツ(素材データ)を試すことができない。
【0005】
従って、このような素材型の音楽コンテンツの提供者としては、購入前に試奏版により音楽コンテンツの特徴をユーザに十分に理解してもらった上で、正規に購入して欲しいという要求がある。しかし、一方では、試奏用の音楽コンテンツはあくまで試奏用であって、試奏用の音楽コンテンツを使って楽曲の自由な演奏ができてしまうと、もはや試奏とは言えなくなってしまう。それ故、有償版の音楽コンテンツ提供者としては、そのコンテンツが気に入った早い時点で購入してもらいたいという要求もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、このような事情に鑑み、有償で提供される音楽コンテンツの試奏用データについて試奏の範囲を超えて使用されるのを防止することができる電子音楽装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の特徴に従うと、有償の音楽コンテンツデータと同等の実体データを有する試奏用音楽コンテンツデータを供給する試奏用コンテンツ供給源(ME)に対し試奏用音楽コンテンツデータ(Dt:Dtv,Dts,…)を指示するコンテンツ指示手段〔S1〜S4(YES)〕と、コンテンツ指示手段により試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)が指示されたことに応じて、所定のユーザ操作(EK)を要求するメッセージ(Msa)を提示するメッセージ提示手段(S5)と、メッセージ提示手段により提示されたメッセージ(Msa)が要求するユーザ操作(EK)がなされたことに応じて(S6=YES)、コンテンツ指示手段により指示された試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)を利用可能とするコンテンツ利用可能化手段(S9)とを具備する電子音楽装置〔請求項1〕が提供される。なお、括弧書きは、理解の便のために実施例の参照記号や箇所等を付記したものであり、以下においても同様である。
【0008】
この発明の第2の特徴に従うと、有償の音楽コンテンツデータと同等の実体データを有する試奏用音楽コンテンツデータ(Dt:Dtv,Dts,…)を供給する試奏用コンテンツ供給源(ME)に対し試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)を指示するコンテンツ指示手段(S1〜S5)と、試奏用コンテンツ指示手段により試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)が指示されてから所定の時間が経過した後(S7=YES)、当該試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)を利用可能とするコンテンツ利用可能化手段(S9)とを具備する電子音楽装置〔請求項2〕が提供される。
【発明の効果】
【0009】
この発明による電子音楽装置では、音色データや伴奏スタイルデータ等の有償の音楽コンテンツデータを購入する前に、これと同じクオリティを有する試奏用音楽コンテンツデータ(Dt:Dtv,Dts,…)が試奏用コンテンツ供給源(ME)に用意されており、ユーザには、十分な試奏環境が提供される。従って、試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)を試奏してリアルタイム演奏を行う機会が与えられるが、この演奏に当って、実際に試奏を行うのに一定の制限が設けられる。
【0010】
この発明の第1の特徴による電子音楽装置(請求項1)では、音楽演奏の際に、或る音楽コンテンツからこの音楽コンテンツに切り替えて試奏するために、試奏用コンテンツ供給源(ME)に対し、ユーザによるコンテンツ選択操作により所望の試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)が指示されると〔S1〜S4(YES)〕、これに応じて、「これは試奏用です OK」等のメッセージ(Msa)が提示され、ユーザに対してエンターキー(EK)等の所定の操作子の操作が要求される(S5)。そして、このメッセージ(Msa)で要求されたユーザ操作(EK)がなされたことを条件に(S6=YES)、指示された試奏用コンテンツデータ(Dt)に切り替えられ、以後、この試奏用コンテンツデータ(Dt)が利用可能となる(S9)。
【0011】
このように、この発明では、音楽コンテンツを切り替えて演奏を行うのに、有償で提供される音楽コンテンツの試奏版データである試奏用音楽コンテンツデータについては、所定のユーザ操作を必要とし、リアルタイムで音楽コンテンツを切り替えることができないようにしている。従って、この発明によれば、音楽コンテンツの持つ本来のクオリティを試奏用音楽コンテンツデータに与えてユーザに十分な試奏環境を提供しつつも、試奏を実際に行うには所定のユーザ操作を要するものとし、試奏用音楽コンテンツデータが試奏の範囲を超えてユーザにより使用されるのを防止することができる。
【0012】
この発明の第2の特徴による電子音楽装置(請求項2)では、音楽演奏の際に、或る音楽コンテンツからこの音楽コンテンツに切り替えて試奏するために、試奏用コンテンツ供給源(ME)に対し、ユーザによるコンテンツ選択操作により所望の試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)が指示されると(S1〜S5)、この指示から所定時間が経過するまで切替えが保留される。そして、所定の時間が経過したことを条件に(S7=YES)、指示された試奏用音楽コンテンツデータ(Dt)に切り替えられ、以後、この試奏用コンテンツデータ(Dt)が利用可能となる(S9)。
【0013】
このように、この発明では、音楽コンテンツを切り替えて演奏を行うのに、有償で提供される音楽コンテンツの試奏版データである試奏用音楽コンテンツデータについては、所定の時間経過を必要とし、リアルタイムで音楽コンテンツを切り替えることができないようにしている。従って、この発明によれば、音楽コンテンツの持つ本来のクオリティを試奏用音楽コンテンツデータに与えてユーザに十分な試奏環境を提供しつつも、試奏を実際に行うには所定の時間経過を要するものとし、試奏用音楽コンテンツデータが試奏の範囲を超えてユーザにより使用されるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつこの発明の好適な実施の一形態について説明するが、これは単なる一例であり、この発明は、発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
〔システムの概要〕
この発明の一実施例による電子音楽装置は、演奏情報処理機能を有する一種のコンピュータであり、典型的には、電子楽器のように演奏操作部及び楽音信号生成部を備える音楽専用機器が用いられるが、演奏操作部及び楽音信号生成部を設けたパーソナルコンピュータ(PC)のように電子楽器などの音楽専用機器と同等の演奏情報処理機能を有するデータ処理装置を用いることもできる。図1は、この発明の一実施例による電子音楽装置のシステム構成を説明するための図であり、図1(1)は、電子音楽装置のハードウエア構成ブロック図を示す。この電子音楽装置は、中央処理装置(CPU)1、ランダムアクセスメモリ(RAM)2、読出専用メモリ(ROM)3、記憶装置4、演奏操作検出回路5、設定操作検出回路6、表示回路7、音源・効果回路8、通信インターフェース(I/F)9などを備え、これらの要素1〜9はバス10を介して互いに接続される。
【0016】
CPU1は、RAM2及ROM3と共にデータ処理部を構成し、所定の制御プログラムに従い、タイマによるクロックを利用して種々の音楽情報処理を実行する。RAM2は、これらの処理に際して必要な各種データを一時記憶するためのワーク領域として用いられる。ROM3には、これらの処理を実行するために、各種制御プログラムやプリセットされた音楽コンテンツデータ(MP)等が予め記憶される。
【0017】
記憶装置4は、HD(ハードディスク)、FD(フレキシブルディスク)、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多目的ディスク)、フラッシュメモリなどの半導体メモリなどの記憶媒体と、その駆動装置を含み、任意の制御プログラムや自動演奏データ等を任意の記憶媒体に記憶することができる。例えば、この電子音楽装置の内部にフラッシュメモリを設けて、音色データや伴奏スタイルデータを含む種々の音楽コンテンツデータ(De,Dt)や、レジストレーションデータと呼ばれる演奏環境設定データ(Dr)を記憶しておくことができる。また、記憶媒体は、着脱可能であってもよいし、電子音楽装置に内蔵されていてもよい。
【0018】
演奏操作検出回路5は、鍵盤などの演奏操作子11の演奏操作を検出して検出内容に対応する演奏操作情報をリアルタイムにデータ処理部(1〜3)に導入する。設定操作検出回路6は、スイッチやマウス等の設定操作子(パネル操作子)12の操作内容を検出して検出内容に対応する設定操作情報をデータ処理部に導入する。ここで、設定操作子12としては、例えば、所望の音楽コンテンツを選択的に指示するために多種のコンテンツ選択スイッチが設けられる。また、レジストレーションデータの登録を指示するためのレジストレーション登録スイッチや、所定の決定入力を行うためのエンターキー(EK)等のスイッチも設けられる。表示回路7は、LCD等のディスプレイ13や、インジケータ/ランプ(図示せず)を備え、これらの表示・点灯内容をデータ処理部からの指令に従って制御し、演奏操作や設定操作などに関する表示援助を行う。
【0019】
音源・効果回路8は、音源部或いは楽音信号生成部とも呼ばれ、音源(TG)やDSPを有し、演奏操作検出回路5からデータ処理部を通じて与えられるリアルタイムの演奏情報に基づき、設定された演奏環境に従ったオーディオ形式の楽音信号を生成すると共にこの楽音信号に所定の効果を付与する。サウンドシステム14は、D/A変換部やアンプ、スピーカ等を備え、音源・効果回路8からの楽音信号に基づく楽音を発生する。音源・効果回路8は、ROM3又は記憶装置4或いは通信I/F9から得られる自動演奏データに基づく楽音信号を生成することもできる。
【0020】
通信I/F9は、MIDI等の音楽専用有線I/F、USBやIEEE1394等の汎用近距離有線I/F、Ethernet(登録商標)等の汎用ネットワークI/F、無線LanやBluetooth(登録商標)等の汎用近距離無線I/Fなどの1又は複数を含み、他の音楽機器との間でMIDI演奏データを授受したり、外部のサーバコンピュータ等から制御プログラムや音楽コンテンツデータ等を受信し、記憶装置4に保存することができる。
【0021】
〔音楽コンテンツデータ〕
この電子音楽装置には、音色データや伴奏スタイルデータなどの楽音制御データ(演奏環境データともいう)が音楽コンテンツデータとして種々の形態で用意されている。図1(2)は、この電子音楽装置で用いられる音楽コンテンツデータの形態例を表わす。ROM3のプリセット音楽コンテンツ記憶部MPには、予め複数種類のプリセット音楽コンテンツデータDpが記憶されており、記憶装置4として機能する内蔵のフラッシュメモリの拡張音楽コンテンツ記憶部MEには、その後、この電子音楽装置ユーザにより入手される拡張的な音楽コンテンツとして、複数種類の購入済音楽コンテンツデータDe及び試奏用音楽コンテンツデータDtを記憶することができる。拡張音楽コンテンツDe,Dtは、例えば、ネットワーク上のコンテンツ配信サーバや、音楽コンテンツを蓄積したPCなどから通信I/F9経由で供給したり、着脱可能な記憶媒体から供給することができる。なお、試奏用コンテンツDtについては、予めこの電子音楽装置内に内蔵されていることもある。
【0022】
この電子音楽装置で取り扱われる音楽コンテンツデータの種類には、音色データや伴奏スタイルデータだけでなく、リアルタイムに切り替え可能な種々の楽音制御データ(演奏環境データ)があるが、図1(2)には、代表的な楽音制御データとして音色データ及び伴奏スタイルデータが例示されている。図示の例では、プリセットコンテンツ記憶部MPには、複数のプリセット音色データDpv及びプリセット伴奏スタイルデータDpsが用意されている。また、拡張音楽コンテンツ記憶部MEnには、購入済音楽コンテンツデータDeとして複数の購入済音色データDev及び購入済伴奏スタイルデータDesが蓄積されており、試奏用音楽コンテンツデータDtとして複数の試奏用音色データDtv及び試奏用伴奏スタイルデータDtsが蓄積されている。
【0023】
拡張音楽コンテンツDe,Dtは、図1(2)左下に示すように、「購入済/試奏用フラグ」と音楽コンテンツ実体データ(単に実体データともいう)とを含む。各拡張音楽コンテンツは、このフラグが「購入済」を示しているか「試奏用」を示しているかにより、購入済みであるか試奏用に提供されているかが判るようになっている。また、コンテンツ実体データは、購入済音楽コンテンツ及び試奏用音楽コンテンツのどちらも共通である。つまり、互いに対応する購入済音楽コンテンツ及び試奏用音楽コンテンツについては、実体データは同等の内容を有しており、購入済/試奏用フラグが「購入済」及び「試奏用」の何れを示しているかだけが相違する。従って、このフラグが改竄(かいざん)されないように、コンテンツ全体、或いは、少なくともこのフラグが含まれる部分を暗号化しておくことが望ましい。また、購入手続きを踏むと、購入済/試奏用フラグは「試奏用」から「購入済」に差し替えられる。
【0024】
試奏用音楽コンテンツが、対応する購入済音楽コンテンツと共通する同等のコンテンツ実体データを有しているということは、試奏用音楽コンテンツデータは、有償で提供される音楽コンテンツデータと同じクオリティを持っていることを意味しており、ユーザは、この音楽コンテンツの良し悪しを試奏用音楽コンテンツで十分に確認することができる。特に、音色データや伴奏スタイルデータなどの音楽コンテンツデータは、リアルタイム演奏に用いられる素材データであるので、有償の音楽コンテンツを購入する前に、同質の試奏用音楽コンテンツによってその演奏効果を試すことができれば、音楽コンテンツの本来の魅力を十分理解することができ、良ければ有償で購入したいと思っているユーザを納得させることができる。
【0025】
なお、試奏用音楽コンテンツデータDtが音色データDtvの場合、コンテンツ実体データとしては、「音色パラメータのみ」、「音色波形データのみ」、「音色波形+パラメータ」、「演算型音源のアルゴリズム」などが挙げられる。また、試奏用音楽コンテンツデータDtは、音色データDtvや伴奏スタイルデータDtsに限らない。アルペジオパターンや短フレーズ、効果音など、リアルタイムに切り替えることの多い音楽コンテンツデータであれば何でもよい。
【0026】
この電子音楽装置では、音楽コンテンツ選択処理において、演奏操作子11を操作してリアルタイム演奏を行う際に、演奏の進行中の任意のタイミングで、上述したプリセット音楽コンテンツデータDp:Dpv,Dps,…や購入済音楽コンテンツデータDe:Dev,Des,…、試奏用音楽コンテンツデータDt:Dtv,Dts,…の中から所望の楽音制御データ(演奏環境データ)を選択的に指示することにより、所望の演奏環境に切り替えてリアルタイム演奏を楽しむことができる。例えば、音色データの指示操作に従って、音源部8で生成される演奏楽音信号の音色を切り替えたり、伴奏スタイルデータの指示操作に従って、音源部8で生成される自動伴奏楽音信号のパターンを切り替えることができる。つまり、試奏用データDt:Dtv,Dts,…が指示された場合にも、これら試奏用データは有償データと同じクオリティを持つので、有償データによる演奏環境と同質の演奏環境(試奏環境)が提供される。しかし、試奏用データDtが指示された場合には、切替えが指示された試奏用データDtが試奏の範囲で提供されている音楽コンテンツであることをユーザに認知させるために、後述するように、このような試奏環境に移行するのに一定の制限条件が設けられる。
【0027】
この電子音楽装置では、また、プリセット音楽コンテンツデータDp:Dpv,Dps,…や購入済音楽コンテンツデータDe:Dev,Des,…、試奏用音楽コンテンツデータDt:Dtv,Dts,…の中から、所望の音色データや伴奏スタイルデータなどの楽音制御データを選択的に指定し、指定したこれらの楽音制御データや他の楽音制御データを組み合わせて所望の演奏環境を音源部8に設定し、設定された演奏環境で音楽演奏を行うことができる。従って、試奏用データDt:Dtv,Dts,…が指定された場合には、これら試奏用データは有償データと同じクオリティを持つので、有償データが指定された場合の演奏環境と同質の演奏環境(試奏環境)が提供される。しかし、設定された演奏環境をその後も利用することができるようにレジストレーションDrとして登録するレジストレーション登録処理においては、レジストレーションDrに含まれる試奏用データDtが試奏の範囲で提供されている音楽コンテンツであることをユーザに認知させるために、一定の登録制限条件が設けられる。
【0028】
レジストレーションデータDrは、複数の音楽コンテンツや他の楽音制御データを同時に使う際の組合せ状態を保存するためのデータであり、この組合せ状態は、音源部8に設定された演奏環境を表わすので演奏環境設定データとも呼ばれる。レジストレーションデータDrは、記憶装置4であるフラッシュメモリのレジストレーション記憶部MRに記憶され、図1(2)右下の例では、音楽コンテンツ中の音色データ及び伴奏スタイルデータに対応する音色指定情報(「音色1」、「音色2」)及び伴奏スタイル指定情報(「伴奏スタイル」)の外に、音量情報(「音量」)やテンポ情報(「テンポ」)等の他の演奏環境データが含まれる。ここで、レジストレーションデータDrは、音楽コンテンツ自体を記憶するものではなく、音楽コンテンツを指定する情報:音色指定情報・伴奏スタイル指定情報が記憶され、音色指定情報により、設定された音楽コンテンツ中の音色データを指定し、伴奏スタイル指定情報により、設定された音楽コンテンツ中の伴奏スタイルデータを指定する。なお、図中の「音色1」及び「音色2」は、それぞれ、第1及び第2音色レイヤーの音色指定を表わし、この演奏環境をそのまま再現すると、第1及び第2音色指定情報により夫々第1及び第2レイヤーの「音色1」及び「音色2」が指定され、「音色1」の楽音及び「音色2」の楽音が同時に発音される。
【0029】
この電子音楽装置では、音源部8に設定された演奏環境を表わす演奏環境データ(楽音制御データ)の組合せ状態の中に試奏用コンテンツDtが含まれる場合、試奏用コンテンツDtを除いたレジストレーションデータDrが保存されて、試奏用コンテンツDtについては、図1(2)に「×」マークで示すように、保存することができないように登録制限を行う。例えば、図示のレジストレーションデータDrの構成において、第1音色指定情報が指定する第1レイヤーの「音色1」が購入済音色データDevであり、第2音色指定情報が指定する第2レイヤーの「音色2」が試奏用音色データDtvである場合は、第2音色指定情報は記録(保存)されないので、このレジストレーションデータDrをレジストレーション記憶部MRから読み出してその演奏環境を再現しても、「音色1」の楽音のみが発音されるだけで、試奏用音色データDtvに対応する「音色2」の楽音は発音されない。従って、試奏用音色データDtvは試奏の範囲で提供されている音楽コンテンツであることをユーザに認知させることができる。
【0030】
〔音楽コンテンツ選択処理〕
図2は、この発明の一実施例による音楽コンテンツ選択処理を説明するための図であり、図2(1)は、音楽コンテンツ選択処理の手順を示すフローチャートである。この音楽コンテンツ選択処理は、演奏操作子11及び設定操作子12の操作を順次スキャンする操作子操作スキャン処理において音楽コンテンツ選択操作をスキャンしたときに開始する。この音楽コンテンツ選択操作は、音源部8に設定される演奏環境について或る音楽コンテンツから別の音楽コンテンツに切り替える際に行われる。つまり、この音楽コンテンツ選択操作には、例えば、音色の選択、伴奏スタイルの選択、伴奏スタイルデータ内におけるイントロ、メイン、フィルイン、エンディング等の各セクションの選択など、音楽コンテンツの選択に関する多種にわたる音楽コンテンツの指示操作が含まれ、後述する第3実施形態が実施される場合には、試奏用音楽コンテンツDtを含むレジストレーションDrの呼出しに関する操作が含まれる。
【0031】
最初のステップS1では、CPU1は、音楽コンテンツ選択操作があったか否かを判定し、音楽コンテンツ選択操作がないときは(S1=NO)、今回の音楽コンテンツ選択処理を終了し、次の操作子操作スキャン処理にリターンする。一方、音楽コンテンツ選択操作があったときには(S1=YES)、ステップS2で、選択操作で指示された音楽コンテンツが拡張音楽コンテンツであるか否かを判定し、この音楽コンテンツが購入済/試奏用フラグを有し拡張音楽コンテンツであるときは(S2=YES)、ステップS3に進む。ステップS3では、購入済/試奏用フラグの内容をチェックし、次のステップS4で、この音楽コンテンツが試奏用音楽コンテンツDtであるか否かを判定する。
【0032】
ここで、試奏用音楽コンテンツDtであれば(S4=YES)、ステップS5に進み、試奏データ選択報知メッセージMsaをディスプレイ13上に表示して、ユーザに操作パネルPN上のエンターキーEKの操作を促すと共にタイマーにより計時を開始する。例えば、試奏用音楽コンテンツDtとして音色データDtvを選択した際には、図2(2)に示されるように「この音色データは試奏用です。音色を切り替えるにはEnterキーを押してください。※10秒後に自動的に切り替ります。OK」という試奏データ選択報知メッセージMsaの画面がディスプレイ13上に表示される。また、伴奏スタイルを選択した際には、メッセージMsaの主文の部分が「この伴奏スタイルデータは試奏用です。伴奏スタイルを切り替えるにはEnterキーを押してください。」という表示になる。なお、メッセージ表示画面には、操作パネルPNのエンターキーEKに対向する位置にOK表記が表示され、ユーザにエンターキーEKの所在を案内する。
【0033】
次のステップS6では、エンターキーEKの操作があったか否かを判定し、エンターキーEKの操作がない間は(S6=NO)、ステップS7で所定時間(例えば、10秒)が経過したか否かを判定し、所定時間が経過しないときは(S7=NO)、ステップS6に戻り、試奏データ選択報知メッセージMsaの表示を継続する。そして、エンターキーEKの操作があったとき(S6=YES)、或いは、試奏データ選択報知メッセージMsaの表示を開始してから所定時間が経過したときは(S7=YES)、ステップS8に進んで、ディスプレイ13の画面からメッセージMsaを消去し、所定の音楽コンテンツ選択中画面へと画面更新を行う。
【0034】
ステップS2で、選択操作で指示された音楽コンテンツは拡張音楽コンテンツではなくプリセット音楽コンテンツDpであると判定したとき(S2=NO)、ステップS4で、同音楽コンテンツは試奏用音楽コンテンツDtではなく購入済音楽コンテンツDeであると判定したとき(S4=NO)、或いは、ステップS8の画面更新処理の後は、それまで選択されていた音楽コンテンツから、今回の選択操作で指示された音楽コンテンツに切り替える。そして、今回の音楽コンテンツ選択処理を終了し、次の操作子操作スキャン処理にリターンする。
【0035】
上述した音楽コンテンツ選択処理では、試奏用音楽コンテンツデータDtを利用する際の制限条件として、メッセージMsaの表示に応じたエンターキーEKの操作という条件と、試奏用音楽コンテンツ選択操作時点からの所定時間(例えば、10秒)の経過という条件の両方を備えるようにしたが、これに限らず、何れか一方の条件のみを備えるものでもよい。
【0036】
つまり、この電子音楽装置は、音楽コンテンツ選択処理上からみて次のような特徴を備えている:この電子音楽装置では、音色データや伴奏スタイルデータ等の有償の音楽コンテンツデータに対応して、これと同じクオリティを有する試奏用音楽コンテンツデータDt:Dtv,Dts,…がユーザに提供され、これにより十分な試奏環境が与えられるが、リアルタイム演奏時における試奏用音楽コンテンツデータDtの利用開始については一定の制限条件が設けられる。つまり、リアルタイム演奏時に或る音楽コンテンツから試奏用音楽コンテンツデータDtに切り替える際には(S4=YES)、試奏用音楽コンテンツ選択操作(S1=YES)に応じて提示される試奏データ選択報知メッセージMsaが要求する所定の操作子EKの操作が行われるか(S6=YES)、或いは、試奏用音楽コンテンツ選択操作(S1=YES)から所定時間の経過したときに(S7=YES)、試奏用コンテンツデータDtに切り替える(S9)。
【0037】
〔レジストレーション登録処理〕
図3は、この発明の一実施例によるレジストレーション登録処理を説明するための図であり、図3(1)は、レジストレーション登録処理の手順を示すフローチャートである。このレジストレーション登録処理は、演奏操作子11及び設定操作子12の操作を順次スキャンする操作子操作スキャン処理においてレジストレーション登録操作をスキャンしたときに開始する。このレジストレーション登録操作は、プリセット音楽コンテンツデータDpや購入済音楽コンテンツデータDe、試奏用音楽コンテンツデータDtから選択された音色データ、伴奏スタイルデータ、他の楽音制御データ(他の演奏環境データ)などを組み合わせて所望の演奏環境を音源部8に設定した後、設定された現在の演奏環境をレジストレーションデータ(演奏環境設定データ)Drとしてレジストレーション記憶部MRに登録しようとする際に行われる。最初のステップR1では、CPU1は、レジストレーション登録操作があったか否かを判定し、レジストレーション登録操作がないときは(R1=NO)、今回のレジストレーション登録処理を終了し、次の操作子操作スキャン処理にリターンする。
【0038】
一方、音楽コンテンツ選択操作があったときには(R1=YES)、ステップR2で、登録しようとする現在の演奏環境に、購入済/試奏用フラグを有する拡張音楽コンテンツが含まれているか否かを判定し、拡張音楽コンテンツが含まれているときは(R2=YES)、ステップR3に進む。ステップR3では、登録しようとする演奏環境に含まれている各拡張音楽コンテンツの購入済/試奏用フラグの内容をチェックし、次のステップR4で、試奏用音楽コンテンツDtがあるか否かを判定する。
【0039】
ステップR2で、登録しようとする演奏環境に拡張音楽コンテンツは含まれていない(音楽コンテンツはプリセット音楽コンテンツDpのみ)と判定したとき(R2=NO)、或いは、ステップR4で、同演奏環境に試奏用音楽コンテンツDtはない(音楽コンテンツは、購入済音楽コンテンツDeのみ、または、プリセット音楽コンテンツDp及び購入済音楽コンテンツDeのみ)と判定したときは(R4=NO)、ステップR5で、全ての演奏環境データをレジストレーションデータDrとしてレジストレーション記憶部MRに保存する。そして、今回のレジストレーション登録処理を終了し、次の操作子操作スキャン処理にリターンする。
【0040】
一方、ステップR4で、登録しようとする演奏環境に試奏用音楽コンテンツDtがあると判定したときは(R4=YES)、ステップR6に進んで、試奏用音楽コンテンツDtを除く演奏環境をレジストレーションデータDrとしてレジストレーション記憶部MRに保存する。次いで、ステップR7で、試奏データ非登録報知メッセージMsbをディスプレイ13上に表示して、試奏用音楽コンテンツDtについてはレジストレーションから除外される旨をユーザに報知する。例えば、試奏用音楽コンテンツDtとして音色データDtvを登録しようとした際には、図3(2)に示されるように「この音色データは試奏用です。レジストレーションには保存できません。OK」という試奏データ非登録報知メッセージMsbの画面がディスプレイ13上に表示される。また、伴奏スタイルを登録しようとした際には、メッセージMsbは「この伴奏スタイルデータは試奏用です…」という表示になる。また、メッセージ表示画面には、操作パネルPNのエンターキーEKに対向する位置にOK表記が表示され、ユーザに対して、このメッセージMsbの意味を了解した場合に操作されるエンターキーEKの所在を案内する。
【0041】
そして、次のステップS6で、エンターキーEKのユーザ操作があったことに応じて、ディスプレイ13の画面からメッセージMsaを消去して、今回のレジストレーション登録処理を終了し、次の操作子操作スキャン処理にリターンする。
【0042】
なお、このレジストレーション登録処理では、登録しようとする演奏環境をレジストレーションデータDrとして保存すると説明したが、演奏環境を保存する機能は「レジストレーション」という名称に限らない。また、このレジストレーション登録処理において、演奏したい楽曲名や音楽ジャンル名と共に演奏環境設定データ(レジストレーションデータ)Drを保存するようにしておけば、その演奏環境を再現して当該楽曲を演奏したり当該音楽ジャンルの演奏を行う際に、楽曲名や音楽ジャンル名により簡単にこの演奏環境設定データを呼び出すことができる。
【0043】
〔レジストレーション登録の種々の実施形態〕
上述したレジストレーション登録処理では、登録しようとする演奏環境に試奏用音楽コンテンツDt:Dtv,Dts,…が含まれていた場合に、試奏の範囲で提供されている試奏用音楽コンテンツDtを含んでいることをユーザに認知させるために、試奏用音楽コンテンツDtを除く演奏環境をレジストレーションデータDrとしてレジストレーション記憶部MRに保存するようにしたが、別の実施形態として、例えばステップR7での処理を無くして、レジストレーションの保存自体を禁止する構成にしてもよい。
【0044】
更に別の実施形態として、登録しようとする演奏環境に試奏用音楽コンテンツDt:Dtv,Dts,…が含まれていた場合でも、そのまま演奏環境設定データDrとして試奏用音楽コンテンツDtを含めて登録することができるようにしてもよい。この場合、このように試奏用音楽コンテンツDtを含む演奏環境を呼び出した際には、音楽コンテンツ選択処理で試奏用音楽コンテンツDtを選択した場合と同様に、所定のメッセージを表示したり、操作子操作がなされないか或いは所定時間(例えば、10秒)が経過しない限り演奏環境が再現されない構成にしてもよい。或いは、試奏用音楽コンテンツDtだけを呼び出さないようにしてもよい。これらの場合、正式にコンテンツを購入した時点で、購入済/試奏用フラグを「試奏用」から「購入済」に差し替えることで、直ちに呼び出せるようになる。
【0045】
以上のように、この電子音楽装置は、レジストレーション登録処理上からみて次のような特徴を備えている:この電子音楽装置では、音色データや伴奏スタイルデータ等の有償の音楽コンテンツデータに対応して、これと同じクオリティを有する試奏用音楽コンテンツデータDt:Dtv,Dts,…がユーザに提供され、これにより十分な試奏環境が与えられるが、演奏環境設定データ(レジストレーションデータ)Drの登録に関して一定の制限が設けられる。例えば、試奏用音楽コンテンツデータDtを含む演奏環境設定データDrを保存する際には、試奏用音楽コンテンツデータDtについては保存を禁止して(R6)試奏用音楽コンテンツDtに関わる演奏環境は再現することができないようにする。或いは、このような演奏環境設定データDrは保存自体を禁止して試奏用音楽コンテンツデータDtを含む演奏環境は再現することができないようにする。或いは、試奏用音楽コンテンツデータDtを含んでいても演奏環境設定データDrを保存するが、演奏環境設定データDrを読み出す際に、試奏用音楽コンテンツデータDtの呼出しを禁止して試奏用音楽コンテンツに関わる演奏環境は再現することができないようにする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の一実施例による電子音楽装置の構成説明図である。
【図2】この発明の一実施例による音楽コンテンツ選択処理の説明図である。
【図3】この発明の一実施例によるレジストレーション登録処理の説明図である。
【符号の説明】
【0047】
Dp:Dpv,Dps プリセット音楽コンテンツ(音色及び伴奏スタイル)データ、
De:Dev,Des 購入済音楽コンテンツ(音色及び伴奏スタイル)データ、
Dt:Dtv,Dts 試奏用音楽コンテンツ(音色及び伴奏スタイル)データ、
Dr レジストレーションデータ(演奏環境設定データ)、
PN,EK 操作パネル及びエンターキー、
Msa,Msb 試奏データ選択報知メッセージ及び試奏データ非登録報知メッセージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有償の音楽コンテンツデータと同等の実体データを有する試奏用音楽コンテンツデータを供給する試奏用コンテンツ供給源に対し試奏用音楽コンテンツデータを指示するコンテンツ指示手段と、
コンテンツ指示手段により試奏用音楽コンテンツデータが指示されたことに応じて、所定のユーザ操作を要求するメッセージを提示するメッセージ提示手段と、
メッセージ提示手段により提示されたメッセージが要求するユーザ操作がなされたことに応じて、コンテンツ指示手段により指示された試奏用音楽コンテンツデータを利用可能とするコンテンツ利用可能化手段と
を具備することを特徴とする電子音楽装置。
【請求項2】
有償の音楽コンテンツデータと同等の実体データを有する試奏用音楽コンテンツデータを供給する試奏用コンテンツ供給源に対し試奏用音楽コンテンツデータを指示するコンテンツ指示手段と、
試奏用コンテンツ指示手段により試奏用音楽コンテンツデータが指示されてから所定の時間が経過した後、当該試奏用音楽コンテンツデータを利用可能とするコンテンツ利用可能化手段と
を具備することを特徴とする電子音楽装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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