説明

電極活物質、及び二次電池

【課題】エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下が少なく、良好なサイクル特性を得ることができるようにした。
【解決手段】電極活物質は、下記一般式に示すように、シアノキノジイミン構造を構成単位とする有機化合物を主体として有している。式中、n、m、pは1以上の整数、qは0以上の整数、R〜R18は水素原子又は任意の置換基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極活物質及び二次電池に関し、より詳しくは有機化合物を使用した電極活物質、及び該電極活物質の電極反応を利用して充放電を繰り返すリチウム二次電池等の二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、PDA(Personal Data Assistant:携帯情報端末)等の携帯用電子機器の市場拡大に伴い、これら電子機器のコードレス電源としてエネルギー密度が大きく長寿命の二次電池が待望されている。
【0003】
そして、このような要求に応えるべく、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンを荷電担体とし、その電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。特に、エネルギー密度の大きなリチウムイオン二次電池は、現在では広く普及している。
【0004】
この種のリチウムイオン二次電池は、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物、負極活物質として炭素材料を使用し、これらの活物質に対するリチウムイオンの挿入反応、及び脱離反応を利用して充放電を行っている。
【0005】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、正極におけるリチウムイオンの移動が律速となるため、充放電の速度が制限されるという問題があった。すなわち、上述したリチウムイオン二次電池では、電解質や負極に比べて正極の遷移金属酸化物中でのリチウムイオンの移動速度が遅く、このため正極での電池反応速度が律速となって充放電速度が制限され、その結果、高出力化や充電時間の短時間化には限界があるという問題があった。
【0006】
ところで、電極活物質は、充電反応、放電反応という電池電極反応に直接寄与する物質であり、二次電池の中心的役割を有する。すなわち、電池電極反応は、電解質中に配された電極と電気的に接続された電極活物質に対し電圧を印加することにより、電子の授受を伴って生じる反応であり、電池の充放電時に進行する。したがって、上述したように電極活物質は、システム的には、二次電池の中心的役割を有する。
【0007】
このような観点から電極活物質の研究・開発が、従来より、盛んに行われており、例えば、有機化合物を使用した電極活物質も各種提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、正極又は負極の活物質に導電性高分子を使用した電池が提案されている。
【0009】
この特許文献1は、導電性高分子に対する電解質イオンのドープ反応、及び脱ドープ反応を充放電に利用している。ここで、ドープ反応とは、導電性高分子の電気化学的な酸化反応又は還元反応によって生じる荷電ソリトンやポーラロン等を対イオンによって安定化させる反応をいい、脱ドープ反応とは、ドープ反応の逆反応、すなわち、対イオンによって安定化された荷電ソリトンやポーラロンを電気化学的に酸化又は還元する反応をいう。そして、この特許文献1では、活物質として、炭素、水素、窒素等の原子量の小さな元素を構成要素とする有機化合物を使用していることから、電池の軽量化が可能と考えられる。
【0010】
また、特許文献2及び3には、有機ラジカル化合物を反応出発物(電池電極反応で化学反応を起こす物質)、若しくは生成物(化学反応の結果生じる物質)とする二次電池が提案されている。
【0011】
すなわち、特許文献2には、ニトロキシルラジカル系化合物、オキシラジカル系化合物、及び窒素原子上にラジカルを有する窒素ラジカル系化合物を使用した二次電池用活物質が開示され、特許文献3には環状ニトロキシルラジカルからなる化合物を電極活物質とする二次電池が開示されている。
【0012】
特許文献2及び3の二次電池は、ラジカルの酸化還元反応を利用して充放電を行っており、反応速度が大きいことから、高出力を有し、比較的短時間で充電することが可能と考えられる。
【0013】
また、特許文献4〜8には、下記一般式(1′)で表される7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(以下、「TCNQ」という。)を正極活物質に使用し、リチウム等のアルカリ金属を負極活物質とした電池が提案され、特許文献9では、TCNQのリチウム塩を正極活物質とするリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0014】
【化4】

シアノキノジメタン構造を有する化合物は、代表的な電子アクセプター分子であることが知られており、特許文献4〜9は、TCNQの斯かる特性を利用し、二次電池の活物質材料に適用することが試みられている。
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,442,187号公報
【特許文献2】特開2004-207249号公報
【特許文献3】特開2002-304996号公報
【特許文献4】特開昭55-133767号公報
【特許文献5】特開昭55-133768号公報
【特許文献6】特開昭55-133772号公報
【特許文献7】特開昭55-161372号公報
【特許文献8】特開昭57-210567号公報
【特許文献9】特開平11-3708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1の導電性高分子は、酸化還元反応によって生じる荷電ソリトンやポーラロンがπ電子共役系の広い範囲に亘って非局在化し、それらが相互作用して電荷反発を招くことから、発生する荷電ソリトンやポーラロンの濃度にも限界がある。すなわち、荷電ソリトンやポーラロンの濃度に限界があるため、結果的に電池容量が制限され、したがって電池の軽量化は可能であっても、大容量を有する電池を得るのは困難である。
【0017】
また、特許文献2及び3のような有機ラジカル化合物は、ラジカルを安定化するために、該ラジカルに接続される炭素に対し、嵩高い置換基を結合させる必要がある。このため、分子全体の質量に占めるラジカルの割合が小さくなり、容量密度が低下するという問題があった。
【0018】
さらに、特許文献4〜9で使用しているTCNQ又はそのリチウム塩は、サイクル特性が悪く、現在では充放電を繰り返す二次電池には不向きと考えられており、実用化するのは困難な状況にある。
【0019】
このように従来から種々の活物質を使用した二次電池が提案されているものの、未だ十分なエネルギー密度を有し、高出力で長寿命のサイクル特性が良好な電極活物質は得られていないのが現状である。
【0020】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、エネルギー密度が大きく高出力で、充放電を繰り返しても容量低下の少ない良好なサイクル特性を得ることができる電極活物質、及びこの電極活物質を使用した二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、共役キノン系を骨格とし、かつ電気を蓄積することができる有機化合物を得るべく鋭意研究したところ、シアノキノジイミン構造を構成単位として含有する有機化合物を電極活物質に使用することにより、電池の容量密度が大きく、高出力で充放電を繰り返しても容量低下の少ない二次電池を安定的に得ることができるという知見を得た。
【0022】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る電極活物質は、電池電極反応によって充放電を繰り返す二次電池の活物質として使用される電極活物質であって、シアノキノジイミン構造を構成単位として含有した有機化合物を主体としていることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る電極活物質は、具体的には、前記有機化合物が、一般式
【0024】
【化5】

[式中、nは1以上の整数であり、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R〜Rの組み合わせで環構造を形成する場合も含む。]
で表されることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の電極活物質は、前記有機化合物が、一般式
【0026】
【化6】

[式中、mは1以上の整数であり、R〜R10は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R〜R10の組み合わせで環構造を形成する場合も含む。]
で表されることを特徴としている。
【0027】
また、本発明の電極活物質は、前記有機化合物が、一般式
【0028】
【化7】

[式中、pは1以上の整数であり、qは0以上の整数である。R11〜R18は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R11〜R18の少なくとも2つ以上の組み合わせで環構造を形成する場合も含む。]
で表されることを特徴としている。
【0029】
また、本発明の電極活物質は、前記有機化合物が、分子量が200以上であることを特徴としている。
【0030】
また、本発明の電極活物質は、前記有機化合物が、1.2〜4.2Vvs.Li/Liの範囲に2つ以上の酸化還元電位を有することを特徴としている。
【0031】
また、本発明に係る二次電池は、電池電極反応により充放電を行う二次電池であって、上述した電極活物質が、前記電池電極反応の少なくとも放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちのいずれかに含まれることを特徴としている。
【0032】
また、本発明の二次電池は、前記放電反応が、少なくとも2つ以上の放電電圧を有することを特徴としている。
【0033】
また、本発明の二次電池は、正極、負極、及び電解質を有し、前記正極が、前記電極活物質を主体としていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、電極活物質は、シアノキノジイミン構造を構成単位として含有した有機化合物を主体としているので、TCNQ等のシアノキノジメタン構造を有する有機化合物に比べて分子量を小さくすることができ、したがって電池の容量密度を大きくすることができ、その結果、エネルギー密度を大きくすることとが可能なる。また、シアノキノジイミン構造を構成単位とする有機化合物は、酸化還元反応の反応速度定数が大きく、大電流で充放電することが可能である。したがって、充放電を繰り返しても長寿命で安定な二次電池を得ることができる。
【0035】
しかも、前記有機化合物が、1.2〜4.2Vvs.Li/Liの範囲に2つ以上の酸化還元電位を有するので、シアノキノジイミン構造の単位当たり2個以上の電子が関与する多電子反応も可能であり、したがって、一電子反応を利用する二次電池に比べて2倍以上の容量密度を得ることができ、より大きなエネルギー密度を有する高出力の二次電池を得ることが可能となる。また、シアノキノジイミン構造を構成単位とする有機化合物は、酸化還元反応を繰り返しても安定で電解質に対する溶解性も小さいので、充放電を繰り返しても容量低下が少なく、長寿命でサイクル特性の良好な二次電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0037】
本発明の電極活物質は、シアノキノジイミン構造を構成単位として含有した有機化合物を主体としている。そしてこれにより電池の容量密度を大きくすることができ、したがって大きなエネルギー密度を有し、高出力で充放電を繰り返しても電池容量の低下が小さい長寿命のサイクル特性が良好な二次電池を得ることができる。
【0038】
以下、具体的な化合物形態を例示するが、本発明は斯かる化合物形態に限定されるものではない。
【0039】
下記一般式(1)は、本発明に係る電極活物質の第1の実施の形態としての有機化合物を示している。
【0040】
【化8】

一般式(1)中、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R〜Rの組み合わせで環構造を形成する場合も含んでいる。
【0041】
ここで、上記列挙した各置換基は、それぞれの範疇に属するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、アルケル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基を例示すると、以下のものを挙げることができる。
【0042】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、neo−ペンチル基、イソヘキシル基、メチルヘキシル基、メチルヘプチル基、ジメチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基等の分枝鎖状アルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアリール基で置換されたアルキル基などが挙げられる。
【0043】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられる。
【0044】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、(o-、m-、p-)等の非置換アリール基、クレジル基、(o-、m-、p-)トリル基、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)キシリル基、メシチル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ニトロフェニル基、メトキシフェニル基等の置換アリール基が挙げられる。
【0045】
そして、一般式(1)の範疇に含まれる有機化合物としては、例えば、化学式(1A)〜(1E)で表される物質がある。
【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

一般式(1)において、化学式(1A)は、nは1であり、R〜RがHである。化学式(1B)は、nは1であり、R、RがH、R、Rが−OCHである。さらに、化学式(1C)は、nは2であり、R〜RがHである。また、化学式(1D)は、nは2以上の整数であり、R、R、及びRがH、Rが-CHCHCONHCH−である。さらに、化学式(1E)は、R、R、及びRがHであり、Rが−OCOCOCHCOOCO−である。
【0051】
下記一般式(2)は、本発明に係る電極活物質の第2の実施の形態を示す有機化合物である。
【0052】
【化14】

一般式(2)中、mは1以上の整数であり、R〜R10は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R〜R10の組み合わせで環構造を形成する場合も含んでいる。
【0053】
一般式(2)の範疇に含まれる有機化合物としては、化学式(2A)〜(2C)で表される物質がある。
【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
【化17】

化学式(2A)は、一般式(2)において、R〜R10がH、mが1であり、化学式(2B)は、R〜R10がH、mが2であり、化学式(2C)は、化学式(2B)の異性体である。
【0057】
下記一般式(3)は、本発明に係る電極活物質の第3の実施の形態を示す有機化合物である。
【0058】
【化18】

pは1以上の整数であり、qは0以上の整数である。R11〜R18は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R11〜R18の少なくとも2つ以上の組み合わせで環構造を形成する場合も含んでいる。
【0059】
一般式(3)の範疇に含まれる有機化合物としては、例えば、化学式(3A)〜(3C)で表される物質がある。
【0060】
【化19】

【0061】
【化20】

【0062】
【化21】

一般式(3)において、化学式(3A)は、R12、R13、R15〜R18はHであり、pが1、qが0である。化学式(3B)は、R11〜R18がHであり、pが1、qが1である。また、化学式(3C)は、R12、R13、R16、R17は、R15はNH、R18は繰り返し、pは1以上の整数、qは0である。
【0063】
そして、上記電極活物質は、電極反応に伴って錯塩を形成する。下記化学反応式(4)は、Liを電解質塩のカチオンに用いた場合の充放電反応を示す一例である。
【0064】
【化22】

上記電極活物質は、シアノキノジイミン構造を構成単位として含有した有機化合物を主体とするので、例えば、特許文献4〜9に記載されたTCNQ等のシアノキノジメタン構造(化学式(1′))よりも分子量を小さくすることができ、これにより電池の容量密度を相対的に大きくすることが可能となる。
【0065】
すなわち、理論容量密度Q(mAh/g)は、分子量をW、反応に関与する電子数をZとすると、数式(1)で表される。
【0066】
【数1】

したがって、理論容量密度Qは、分子量Wが小さく、電子数Zが大きい程大きくなる。
【0067】
例えば、本発明のシアノキノジイミン構造をシアノキノジメタン構造と比較すると、シアノキノジイミン構造は、特性基として(=N−CN)基を有し、シアノキノジメタン構造は、特性基として(=C−(CN))基を有している。そして、両特性基の分子量は、(=N−CN)基は40であり、(=C−(CN))基は64である。したがって、前記特性基のみが異なり、他の分子構造が同一であれば、電池電極反応に関与する電子数Zは同一と考えられるので、数式(1)から明らかなように、シアノキノジイミン構造を構成単位とする有機化合物は、理論容量密度Qを大きくすることが可能となる。そして、このように電池の容量密度を大きくなることから、エネルギー密度が大きな電極活物質を得ることが可能となる。
【0068】
尚、実際の電池の容量密度は、電極活物質の主体となる有機化合物の合成過程で不純物が混入し、理論容量密度Qに比べ低下するが、適宜の手段で不純物の混入を極力回避することにより、限りなく理論容量密度Qに近付けることが可能である。そして、特性基のみが異なり、他の分子構造のみが異なるのであれば、電極活物質が、シアノキノジイミン構造を有することにより、シアノキノジメタン構造に比べ、相対的に電池の容量密度を大きくすることが可能である。
【0069】
また、上記電極活物質を構成する有機化合物の分子量は、特に限定されないが、分子量が小さい場合は、電解質に容易に溶解するおそれがあることから、少なくとも200以上が好ましい。ただし、本発明が所望する作用効果の出現は、シアノキノジイミン構造に依るものであることから、シアノキノジイミン構造以外の部分が大きくなると単位質量当たりに蓄電できる容量、すなわち容量密度が小さくなる。
【0070】
さらに、本発明では、上記電極活物質を構成する有機化合物が、1.2〜4.2Vvs.Li/Liの範囲に2つ以上の酸化還元電位を有している。
【0071】
そして、このように少なくとも2つ以上の酸化還元電位を有することにより、エネルギーの異なる2つ以上の反応が生じることとなる。したがって、電池電極反応に関与する電子数Zも1電子の場合に比べ2倍以上となるので、数式(1)からも明らかなように、容量密度も1電子の場合に比べ2倍以上となり、これによりエネルギー密度が大きく、大容量かつ高出力の二次電池を得ることが可能となる。
【0072】
また、上述した本発明の電極活物質は、酸化還元反応を繰り返しても安定で電解質に対する溶解性も小さいので、充放電を繰り返しても容量低下が少なく、長寿命でサイクル特性の良好な二次電池を得ることが可能となる。
【0073】
尚、2つ以上の酸化還元電位を生じさせる範囲を1.2〜4.2Vvs.Li/Liとしたのは、酸化還元電位が1.2Vvs.Li/Li未満では、エネルギー密度が小さく、実用化が困難であり、一方、酸化還元電位が4.2Vvs.Li/Liを超える領域では、電解質の劣化が激しく、二次電池としての安定性を欠くからである。
【0074】
このように本発明の電極活物質は、二次電池として安定して駆動する範囲で、2つ以上の酸化還元電位を有する。
【0075】
次に、前記電極活物質を使用した二次電池について詳述する。
【0076】
図1は、本発明に係る二次電池の一実施の形態としてのコイン型二次電池を示す断面図であって、本実施の形態では、本発明の電極活物質を正極活物質として使用している。
【0077】
電池缶1は、正極ケース2と負極ケース3とを有し、該正極ケース2及び負極ケース3は、いずれも円盤状の薄板形状に形成されている。そして、正極集電体を構成する正極ケース2の底部中央には、電極活物質をシート状に形成した正極4が配されている。そして、正極4上にはポリプロピレン等の多孔質フィルムで形成されたセパレータ5が積層され、さらにセパレータ5には負極6が積層されている。負極6としては、例えば、Cuにリチウムの金属箔を重ね合わせたものや、黒鉛やハードカーボン等のリチウム吸蔵材料を前記金属箔に塗布したものを使用することができる。そして、負極6にはCu等で形成された負極集電体7が積層されると共に、該負極集電体7には金属製ばね8が載置されている。そして、電解質9が内部空間に充填されると共に、負極ケース3は金属製ばね8の付勢力に抗して正極ケース2に固着され、ガスケット10を介して封止されている。
【0078】
次に、上記二次電池の製造方法の一例を詳述する。
【0079】
まず、電極活物質を電極形状に形成する。例えば、電極活物質を導電補助剤、及び結着剤と共に混合し、有機溶剤を加えてスラリーとし、該スラリーを正極集電体上に任意の塗工方法で塗工し、乾燥することにより正極を形成する。
【0080】
ここで、導電補助剤としては、特に限定されるものでなく、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子などを使用することができる。また、導電補助剤を2種類以上混合して用いることもできる。尚、導電補助剤の正極4中の含有率は10〜80重量%が好ましい。
【0081】
また、結着剤も特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等の各種樹脂を使用することができる。
【0082】
さらに、有機溶剤についても、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の塩基性溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン等の非水溶媒、メタノール、エタノール等のプロトン性溶媒等を使用することができる。
【0083】
また、有機溶剤の種類、有機化合物と有機溶剤との配合比、添加剤の種類とその添加量等は、二次電池の要求特性や生産性等を考慮し、任意に設定することができる。
【0084】
次いで、この正極4を電解質9に含浸させて該正極4に前記電解質9を染み込ませ、その後、正極ケース2の底部中央の正極集電体上に正極4を載置する。次いで、前記電解質9を含浸させたセパレータ5を正極4上に積層し、さらに負極6及び負極集電体7を順次積層し、その後内部空間に電解質9を注入する。そして、負極集電体9上に金属製ばね8を載置すると共に、ガスケット10を周縁に配し、かしめ機等で負極ケース3を正極ケース2に固着して外装封止し、これによりコイン型二次電池が作製される。
【0085】
尚、上記電解質9は、正極(電極活物質)4と対向電極である負極6との間に介在して両電極間の荷電担体輸送を行うが、このような電解質9としては、室温で10−5〜10−1S/cmの電気伝導度を有するものを使用することができ、例えば、電解質塩を有機溶剤に溶解させた電解液を使用することができる。
【0086】
ここで、電解質塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、Li(CFSO、Li(CSON、Li(CFSOC、Li(CSOC等を使用することができる。
【0087】
また、有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を使用することができる。
【0088】
また、電解質9には、固体電解質を使用してもよい。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、及びこれらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体等を挙げることができる。また、これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを電解質9として使用したり、或いは電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま電解質9に使用してもよい。
【0089】
そして、二次電池の電極活物質は充放電により可逆的に酸化もしくは還元されるため、充電状態、放電状態、あるいはその途中の状態で異なる構造、状態を取るが、本実施の形態では、前記電極活物質は、少なくとも放電反応における反応出発物、生成物、及び中間生成物のうちのいずれかに含まれており、さらに、放電反応は、少なくとも2つ以上の放電電圧を有している。
【0090】
このように本実施の形態によれば、上記電極活物質を使用して二次電池を構成しているので、エネルギー密度が大きく、高出力で大容量の二次電池を得ることができる。しかも、充放電を繰り返しても容量低下が少なく、長寿命でサイクル特性も良好なものとなる。
【0091】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において種々の変形例が考えられる。例えば、電極活物質の主体となる有機化合物についても、シアノキノジイミン構造を構成単位として含むんでいればよく、また、上記列挙した化学式(1A)〜(3C)はその一例であって、これらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、電極活物質の主体となる有機化合物が、シアノキノジイミン構造を構成単位として含むことが重要であり、斯かる有機化合物を電極活物質に使用することにより、サイクル特性の向上を図ることができ、エネルギー密度が大きく高出力で充放電を繰り返しても容量低下を極力抑制できる各種二次電池を得ることができる。
【0092】
また、上記実施の形態では、コイン型二次電池について説明したが、電池形状は特に限定されるものでないのはいうまでもなく、円筒型、角型、シート型等にも適用できる。また、外装方法も特に限定されず、金属ケースや、モールド樹脂、アルミラミネートフイルム等を使用してもよい。
【0093】
また、上記実施の形態では、電極活物質を正極活物質に使用したが、負極活物質に使用するのも有用である。
【0094】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0095】
尚、以下に示す実施例は一例であり、例えば、有機化合物の合成スキームについても、下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0096】
〔有機化合物の合成〕
下記合成スキーム(5)に従い、ジシアノキノジイミン(以下、「DCNQI」という。)二量体(II)を作製した。
【0097】
【化23】

すなわち、まず、塩化メチレン(CHCl)100mLを容積200mLの三口フラスコに入れ、次いで、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド((CHSiNCNSi(CH)52mLをこの三口フラスコに入れて溶解させ、さらに四塩化チタン(TiCl)44gを加えて0℃で攪拌した。その後、5gの2,2’−ビス(1,4−ベンゾキノン)(I)を入れた塩化メチレン溶液を三口フラスコに滴下し、0℃の温度で24時間反応させた。得られた黒色の生成物を赤外吸収スペクトルで測定したところ、シアノ基(−CN)に由来する吸収を確認でき、キノイド構造の炭素一窒素二重結合(C=N)に由来する吸収が確認できことから、生成物はDCNQI二量体であると考えられた。
【0098】
〔二次電池の作製〕
上記DCNQI二量体300mg、導電補助剤としてのグラファイト粉末600mg、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂100mgをそれぞれ秤量し、秤量物を均一に混合しながら混練した。この混合体を加圧成形し、厚さ約150μmのシート状部材を作製した。次に、このシート状部材を、真空中80℃で1時間乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、DCNQI二量体を主体とする正極(正極活物質)を作製した。
【0099】
次に、正極を電解液に含浸し、該正極中の空隙に電解液を染み込ませた。電解液としては、モル濃度が1.0mol/LのLiPF(電解質塩)を含有した有機溶剤であるエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液を使用した。尚、有機溶剤であるエチレンカーボネート/ジエチルカーボネートの混合比率は体積%でエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7であった。
【0100】
次に、この正極を正極集電体上に載置し、さらに前記電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フイルムからなる厚さ20μmのセパレータを前記正極上に積層し、さらに銅箔の両面にリチウムを貼着した負極をセパレータ上に積層した。そして、負極上にCu製の負極集電体を積層した後、内部空間に電解液を注入し、その後負極集電体上に金属製ばねを載置すると共に、周縁にガスケットを配置した状態で負極ケースを正極ケースに接合し、かしめ機によって外装封止し、これにより正極活物質としてDCNQI二量体、負極活物質として金属リチウムを有する密閉型のコイン型電池を作製した。
【0101】
〔二次電池の動作確認〕
以上のように作製した二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.0Vまで放電した。その結果、3.2V及び2.55Vの二箇所で充放電電圧を示し、放電容量が0.4mAhの二次電池であることが確認された。また、電極活物質当たりの放電容量(実容量密度)を求めたところ、200mAh/gであった。
【0102】
次いで、4.0〜2.0Vの範囲で充放電を100サイクル繰り返したところ、100サイクル後においても初期の80%以上の容量を確保することができた。すなわち、充放電を繰り返しても容量低下が少ないサイクル特性の良好な二次電池を得ることができた。
【0103】
また、同様に作製した二次電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電した後、5.0mAの定電流で放電した。その結果、容量は低電流で放電した場合に比べて減少したが、5.0mAで放電したときの放電容量は、O.1mAで放電したときの放電容量に対して80%以上を確保することができた。すなわち、大電流でも大きな容量を取り出せる高出力密度の二次電池が得られることが分かった。
【0104】
〔理論容量密度の算出〕
DCNQI二量体とTCNQ二量体について、数式(1)に従い、理論容量密度Qを算出し、両者を比較した。
【0105】
【数2】

ここで、Zは電池電極反応に関与した電子数、Wは電極活物質の分子量である。
【0106】
DCNQI二量体の分子量Wは310.3であり、TCNQ二量体の分子量Wは406.3であるから、電池電極反応に関与する電子数Zを4とすると、数式(1)より、理論容量密度Qは、DCNQI二量体が345mAh/gであり、TCNQ二量体は264mAh/gである。
したがって、DCNQI二量体はTCNQ二量体に比べ、容量密度を約31%向上させることが可能であることが分かった。
【0107】
尚、実容量密度が200mAh/gであり、理論容量密度の約58%であるが、これはDCNQI二量体の合成過程で不純物が混入したためと考えられる。したがって、適宜の手段で斯かる不純物の混入を回避することにより、実容量密度を理論容量密度Qに近付けることが可能と考えられる。
【実施例2】
【0108】
この実施例では、〔実施例1〕で作製したDCNQI二量体を使用し、工業的手法で二次電池を作製し、動作確認した。
【0109】
まず、小型ホモジナイザ容器に有機溶剤としてのN−メチルピロリドン10gを秤量し、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン400mgを加え、30分間攪拌して完全に溶解させた。これにDCNQI二量体0.5gを加え、均一になるまで攪拌した。次いで、0.5gの導電性補助剤としてのグラファイト粉末を加え、攪拌して黒色のスラリーを得た。このスラリーを高純度アルミニウム箔上に塗布し、120℃で乾燥させ、これによりDCNQI二量体を主体とする膜厚95μmの正極を作製した。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、その後は〔実施例1〕と同様の方法で二次電池を作製した。
【0110】
以上のように作製した二次電池を、〔実施例1〕と同様、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.0Vまで放電を行った。その結果、3.2V及び2.6Vの二箇所で充放電電圧を示し、放電容量が0.42mAhの二次電池であることが確認された。また、電極活物質当たりの放電容量(実容量密度)を求めたところ、210mAh/gであった。
【0111】
次いで、4.0〜2.0Vの範囲で充放電を100サイクル繰り返した。その結果、100サイクル後においても初期の80%以上の容量を確保することができた。すなわち、充放電を繰り返しても容量低下が少ないサイクル特性の良好な二次電池を得ることができた。
【0112】
また、同様に試作したコイン型電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電を行った。容量は低電流で放電した場合に比べて減少したが、5.0mAで放電したときの放電容量は、O.1mAで放電したときの放電容量に対して80%以上を確保することができた。すなわち、この実施例2においても、大電流でも大きな容量を取り出せる高出力密度の二次電池が得られることが確認された。
【0113】
すなわち、製造方法によっては特性上の差異は殆ど生じないことが確認された。
【実施例3】
【0114】
〔有機化合物の合成〕
合成スキーム(6)に従い、ジシアノキノジイミンの高分子(以下、「DCNQIポリマー」という。)を作製した。
【0115】
【化24】

窒素気流中、1,4−ビス(アミノメチル)−2,5−ジメトキシベンゼン(I)5gを過剰量のマロン酸ジメチル((COOCHCH)に溶解させて150℃の温度で5時間攪拌した。そして、反応混合物に水100mLを加えて塩化メチレンで抽出し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、濃縮乾固した、得られた固体(II)を窒素気流中でテトラヒドロフラン(THF)300mLに溶解させ、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)4gを添加し、室温で4時間攪拌した。次に、反応混合物を氷水中に注いで攪拌した後、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、濃縮乾固した、得られた無色の油状物(III)を塩化メチレン300mLに溶解させ、硝酸二アンモニウムセリウム(II)(Ce(NH(NO)56gを加え、生成した黄色固体をろ取し、洗浄してベンゾキノンの高分子(IV)を得た。そして、このベンゾキノンの高分子(IV)をデシケーター中で十分に乾燥させた。
【0116】
一方、塩化メチレン(CHCl)100mLを容積200mLの三口フラスコに入れ、次いで、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド((CHSiNCNSi(CH)52mLをこの三口フラスコに入れて溶解させ、さらに四塩化チタン(TiCl)44gを加えて0℃で攪拌した。
【0117】
その後、ベンゾキノンの高分子(IV)を含有させた塩化メチレン溶液を前記三口フラスコに滴下し、0℃の温度で24時間反応させた。得られた黒色の生成物を赤外吸収スペクトルで測定したところ、シアノ基(−CN)に由来する吸収を確認でき、キノイド構造の炭素一窒素二重結合(C=N)に由来する吸収が確認できたことから、生成物はDCNQIポリマー(V)であると考えられた。
【0118】
〔二次電池の作製〕
電極活物質にDCNQIポリマーを使用した以外は、〔実施例1〕と同様の方法で二次電池を作製した。
【0119】
〔二次電池の動作確認〕
〔実施例1〕と同様、この二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.0Vまで放電した。その結果、この二次電池は3.1V及び2.5Vの二箇所で充放電電圧を示し、放電容量が0.19mAhの二次電池であることが確認された。また、電極活物質当たりの放電容量(実容量密度)を求めたところ、180mAh/gであった。
【0120】
次いで、4.0〜2.0Vの範囲で充放電を100サイクル繰り返した。その結果、100サイクル後においても初期の80%以上の容量を確保することができた。すなわち、充放電を繰り返しても容量低下が少ないサイクル特性の良好な二次電池を得ることができた。
【0121】
また、同様に作製した二次電池を0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電した後、5.0mAの定電流で放電した。その結果、〔実施例1〕と同様、容量は低電流で放電した場合に比べて減少したが、5.0mAで放電したときの放電容量は、0.1mAで放電したときの放電容量に対して80%以上を確保することができた。すなわち、大電流でも大きな容量を取り出せる高出力密度の二次電池が得られることが分かった。
【0122】
〔理論容量密度の算出〕
DCNQIポリマーとTCNQポリマーについて、理論容量密度Qを上記数式(1)に基づいて算出し、両者を比較した。尚、TCNQポリマーは、DCNQI構造をTCNQ構造にした点を除き、同一の高分子構造を有している。
【0123】
DCNQIポリマーの分子量Wは310.3であり、TCNQポリマーの分子量Wは304.3であるから、電池電極反応に関与する電子数Zを2とすると、数式(1)より、理論容量密度Qは、DCNQIポリマーが209mAh/gであり、TCNQポリマーは176mAh/gである。
【0124】
したがって、DCNQIポリマーはTCNQポリマーに比べ、容量密度を約19%向上させることが可能であることが分かった。
【0125】
尚、実容量密度が180mAh/gであり、理論容量密度の約86%であるのは、〔実施例1〕と同様、DCNQIポリマーの合成過程で不純物が混入したためと考えられ、したがって、適宜の手段で斯かる不純物の混入を回避することにより、実容量密度を理論容量密度に近付けることが可能と考えられる。
【実施例4】
【0126】
ジシアノキノジイミン構造を構成単位とする有機化合物として、化学式(7)で示される2,5−ジメチル−N,N’-ジシアノキノジイミン(以下、「DCNQI−OMe2」という。)を用意した。尚、このDCNQI−OMe2は市販のもの(東京化成工業社製)を使用した。
【0127】
【化25】

〔二次電池の作製〕
正極活物質としてDCNQI−OMe2を使用した以外は、〔実施例1〕と同様の方法で二次電池を作製した。
【0128】
〔二次電池の動作確認〕
〔実施例1〕と同様、この二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.0Vまで放電した。その結果、この二次電池は3.3V及び2.8Vの二箇所で充放電電圧を示し、放電容量が0.45mAhの二次電池であることが確認された。また、電極活物質当たりの放電容量(実容量密度)を求めたところ、180mAh/gであった。
【0129】
次いで、3.6〜2.0Vの範囲で充放電を100サイクル繰り返した。その結果、100サイクル後においても容量の低下は少なく、充放電を繰り返しても容量低下が少ない長サイクル寿命の二次電池であることがわかった。
【0130】
また、同様に試作した二次電池を0.1mAの定電流で電圧が3.6Vになるまで充電し、その後、5.0mAの定電流で放電した。その結果、〔実施例1〕と同様、容量は低電流で放電した場合に比べて減少したが、5.0mAで放電したときの放電容量は、0.1mAで放電したときの放電容量に対して80%以上を確保することができた。すなわち、大電流でも大きな容量を取り出せる高出力密度の二次電池が得られることが分かった。
【0131】
〔理論容量密度の算出〕
DCNQI−OMe2と2,5−ジメチル−N,N’-ジシアノキノジメタン(以下、「TCNQ−OMe2」という。)について、理論容量密度Qを上記数式(1)に基づいて算出し、両者を比較した。
【0132】
DCNQI−OMe2の分子量Wは216.2であり、TCNQ−OMe2の分子量Wは264.2であるから、電池電極反応に関与する電子数Zを2とすると、数式(1)より、理論容量密度Qは、DCNQI−OMe2が248mAh/gであり、TCNQ−OMe2が203mAh/gである。
【0133】
したがって、DCNQI−OMe2はTCNQ−OMe2に比べ、容量密度を約22%向上させることが可能であることが分かった。
【0134】
尚、実容量密度が180mAh/gであり、したがって理論容量密度の約38%であるのは、〔実施例1〕と同様、DCNQI−OMe2の合成過程で不純物が混入したためと考えられ、したがって、適宜の手段で斯かる不純物の混入を回避することにより、実容量密度を理論容量密度に近付けることが可能と考えられる。
【比較例】
【0135】
正極活物質としてTCNQを使用した以外は、〔実施例1〕と同様の方法で二次電池を作製した。尚、TCNQは市販のもの(東京化成工業社製)を使用した。
【0136】
次いで、この二次電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後、0.1mAの定電流で2.0Vまで放電した。その結果、1回目の放電で3.1V及び2.5Vに電圧平坦部を有し、放電容量は0.2mAhを示したが、2回目以降は、充電容量、放電容量共に0.1mAh以下に減少した。
【0137】
また、上述した各実施例のDCNQI構造とTCNQ構造との比較から明らかなように、TCNQ構造の有機化合物は、対応するDCNQI構造の有機化合物に比べ、分子量が大きく、このため理論容量密度Qも小さくなる。したがって充放電の繰り返しによって電池容量の低下も大きくなるため、二次電池用の電極活物質には適さないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明に係る二次電池としてのコイン型電池の一実施の形態を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池電極反応によって充放電を繰り返す二次電池の活物質として使用される電極活物質であって、
シアノキノジイミン構造を構成単位として含有した有機化合物を主体としていることを特徴とする電極活物質。
【請求項2】
前記有機化合物は、一般式
【化1】

[式中、nは1以上の整数、R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R〜Rの組み合わせで環構造を形成する場合も含む。]
で表されることを特徴とする請求項1記載の電極活物質。
【請求項3】
前記有機化合物は、一般式
【化2】

[式中、mは1以上の整数であり、R〜R10は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R〜R10の組み合わせで環構造を形成する場合も含む。]
で表されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電極活物質。
【請求項4】
前記有機化合物は、一般式
【化3】

[式中、pは1以上の整数であり、qは0以上の整数である。R11〜R18は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のシクロアルケニル基、置換若しくは非置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の芳香族複素環基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアミノ基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアシル基、及び置換若しくは非置換のアシルオキシ基のいずれかを示し、R11〜R18の少なくとも2つ以上の組み合わせで環構造を形成する場合も含む。]
で表されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電極活物質。
【請求項5】
前記有機化合物は、分子量が200以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の電極活物質。
【請求項6】
前記有機化合物は、1.2〜4.2Vvs.Li/Liの範囲に2つ以上の酸化還元電位を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電極活物質。
【請求項7】
電池電極反応により充放電を行う二次電池であって、
前記請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電極活物質が、前記電池電極反応の少なくとも放電反応における反応出発物、生成物及び中間生成物のうちのいずれかに含まれることを特徴とする二次電池。
【請求項8】
前記放電反応は、少なくとも2つ以上の放電電圧を有することを特徴とする請求項7記載の二次電池。
【請求項9】
正極、負極、及び電解質を有し、前記正極が、前記電極活物質を主体としていることを特徴とする請求項7又は請求項8記載の二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−55923(P2010−55923A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219401(P2008−219401)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】