説明

電極集電体及びその検査方法、電池用電極及びその製造方法、並びに二次電池及びその製造方法

【課題】 実際に電池を組み立てなくても集電体の良否を判定できる電極集電体の検査方法と、その検査方法で選別された電極集電体、及びこの電極集電体からなる電池用電極及びその製造方法、並びにその電極を用いる二次電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 まず、電解法などによって表面が粗化された電解銅箔などからなる集電体を形成する。次に、この集電体の表面及び/又は裏面の色を、分光測色計を用いて、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有するものを良品として選別する。次に、この集電体の上に活物質層を積層し、電池用電極を形成する。この電池用電極を負極として組み込み、リチウムイオン二次電池などを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などに好適な電極集電体及びその検査方法、電池用電極及びその製造方法、並びに二次電池及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、放電容量および充放電サイクル特性の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器は高性能化および多機能化されてきており、これらに伴ってモバイル機器に電源として用いられる二次電池にも、小型化、軽量化および薄型化が要求され、高容量化が切望されている。
【0003】
この要求に応え得る二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電池特性は、用いられる電極活物質などによって大きく変化する。現在実用化されている代表的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムが用いられ、負極活物質として黒鉛が用いられているが、このように構成されたリチウムイオン二次電池の電池容量は理論容量に近づいており、今後の改良で大幅に高容量化することは難しい。
【0004】
そこで、充電の際にリチウムと合金化するケイ素やスズなどを負極活物質として用いて、リチウムイオン二次電池の大幅な高容量化を実現することが検討されている。しかし、ケイ素やスズなどを負極活物質として用いた場合、充電および放電に伴う膨張および収縮が大きいため、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が微粉化したり、集電体から脱落したりして、サイクル特性が低下するという問題がある。
【0005】
これに対し、近年、ケイ素などの負極活物質層を負極集電体に積層して形成した負極が提案されている(例えば、特開平8−50922号公報、特許第2948205号公報、および特開平11−135115号公報)。このようにすれば、負極活物質層と負極集電体とが一体化され、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が細分化されることを抑制できるとされている。また、負極における電子伝導性が向上する効果も得られる。
【0006】
また、後述の特許文献1には、ケイ素などの負極活物質層を積層する負極集電体としては、負極活物質層との密着性を高めるという観点から、負極活物質層と合金化し得る金属からなることが好ましく、ケイ素およびゲルマニウム層を積層する場合には、銅が特に好ましいと述べられている。また、銅箔としては、表面粗さRaが大きい電解銅箔が好ましいとも述べられている。電解銅箔は、例えば、銅イオンが溶解された電解液中に金属製のドラムを浸漬し、これを回転させながら電流を流すことにより、ドラムの表面に銅を析出させ、これを剥離して得られる銅箔であり、銅箔の片面または両面に電解処理で銅微粒子を析出させることによって、表面を粗面化することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−83594号公報(第11−13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように負極活物質層と負極集電体とを一体化し、製造方法を工夫した負極においても、充放電を繰り返すと、負極活物質層の激しい膨張収縮によって集電体に応力が加わり、集電体ごと電極が変形あるいは崩壊を起こし、十分なサイクル特性が得られないという問題がある。
【0009】
特許文献1などでは、負極集電体の良否を選別する際の指標の1つとして表面粗さRaが提案されているが、後述の実施例で示すように、表面粗さRaが同じであっても充放電サイクル特性が大きく異なる電解銅箔が存在するなど、表面粗さRa、あるいは十点平均表面粗さRzなどは、負極集電体の良否を選別する際の指標としては十分ではない。このため、負極集電体の良否を判定するには、実際に電池を組み立て、充放電サイクル特性を測定してみるしかないというのが実情である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、実際に電池を組み立てなくても集電体の良否を判定できる電極集電体の検査方法と、その検査方法で選別された電極集電体、及びこの電極集電体からなる電池用電極及びその製造方法、並びにその電極を用いる二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、電極集電体の色が集電体の良否を選別するための指標として機能することを発見し、本発明を完成させるに到った。
【0012】
即ち、本発明は、電池用電極を構成する集電体であって、
銅又は銅合金からなり、
その表面及び/又は裏面の色が、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表 色系に基づいて数値化した場合に、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色である、
電極集電体に係るものであり、また、この電極集電体を有する電池用電極、および、この電池用電極を組み込んだ二次電池に係るものである。
【0013】
また、銅又は銅合金からなり、電池用電極を構成する電極集電体の検査方法であって、その表面及び/又は裏面の色を、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有するものを良品として選別する、電極集電体の検査方法に係るものである。
【0014】
また、銅又は銅合金からなる電極集電体を有する電池用電極の製造方法であって、前記電極集電体の表面及び/又は裏面の色を、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有する電極集電体を良品として選別し、これを用いて電池用電極を製造する、電池用電極の製造方法に係るものである。
【0015】
また、銅又は銅合金からなる電極集電体を有する電池用電極によって構成される二次電池の製造方法であって、前記電極集電体の表面及び/又は裏面の色を、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有する電極集電体を良品として選別し、これを用いて電池用電極を作製し、二次電池の電極として組み込む、二次電池の製造方法に係るものである。
【0016】
なお、本発明はL*a*b*表色系に基づいて記載したが、表色系の選び方はとくに限定されるものではなく、L*a*b*表色系に換算可能な表色系であれば何を用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
前記電極集電体の色が集電体の良否を選別する際の良好な指標として機能する機構については不明な点も残されており、現在、検討を重ねているところである。しかし、色がもつ情報は、分光学的なミクロスコピックな情報と、光学的な光反射率などのマクロスコピックな情報とを総合したものである。集電体としての最適な表面状態が、活物質層との界面における密着性や、界面における電子授受の容易さなどに関わる集電性能などのミクロスコピックな特性と、機械的強度や表面粗さや電気伝導性などのマクロスコピックな特性とが絡み合って決まっているとすると、前記集電体の色がその表面状態を総合的に評価しうる指標(パラメータ)になっている可能性は十分考えられる。特に、従来指標として用いられてきた表面粗さが、マクロスコピックな特性のみを反映し、ミクロスコピックな特性を反映するものではないことを考えると、ミクロスコピックな表面状態をも反映する色情報が、表面粗さよりも優れた指標であることは当然のことであると言える。
【0018】
その機構はさておき、本発明の電極集電体の検査方法によれば、実際に電池を組み立てて充放電サイクル特性を測定してみなくても、簡易な分光測色法で電極集電体の良否を判定できるので、電極集電体の製造工程における品質管理を飛躍的に能率化させ、電極集電体の製造歩留まりと生産性を著しく向上させることができる。
【0019】
本発明の電極集電体はこのようにして選別されたものであるから、この電極集電体からなる本発明の電池用電極、及びこの電池用電極を電極として組み込んだ本発明の二次電池は、優れた初回放電容量及び充放電サイクル特性を実現できる。また、本発明の電池用電極の製造方法、及び本発明の二次電池の製造方法は、本発明の電極集電体の検査方法に基づくものであるから、それと同様の特徴的効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の電極集電体において、前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、前記表面色及び/又は前記裏面色が、
50≦L*≦80、20≦a*≦40、15≦b*≦30
で示される色空間に属する色であるのがよく、
55≦L*≦65、22≦a*≦30、17≦b*≦22
で示される色空間に属する色であるのが更によい。
【0021】
また、前記表面及び前記裏面の両面を用いる場合には、前記表面色及び前記裏面色が、前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、L*、a*、及びb*のうちの少なくとも1つの値が互いに異なる色であるのがよい。この理由は明確ではないが、その方が充放電にともなう応力が緩和されるためではないかと考えられる。
【0022】
また、前記集電体は、表面側及び/又は裏面側に固着された銅又は銅合金からなる微粒子によって、前記表面及び/又は前記裏面が粗化されているのがよい。この際、前記集電体が電解銅箔からなり、前記微粒子が電解処理によって形成されているのがよい。このようであると、この微粒子は前記集電体の結晶子に一体化して強固に固着されているので、前記集電体の前記表面及び/又は前記裏面に前記微粒子に接して形成される活物質層が、前記集電体とより強固に密着することが可能になる。
【0023】
また、前記電解銅箔が、
X線散乱測定において、銅による散乱ピーク強度比がI(220)/I(111)≦1を満たし 、
表裏両面が電解処理によって粗化され、JIS B0601に規定されている十点平 均表面粗さRz値が、表面側で2.0μm≦Rz≦4.5μm、裏面側で2.5μm≦ Rz≦5.5μmであり、
前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、前記表面色が
45≦L*≦65、20≦a*≦30、15≦b*≦25
で示される色空間に属する色であり、前記裏面色が
50≦L*≦70、20≦a*≦30、15≦b*≦25
で示される色空間に属する色である
電解銅箔であるのがよい。
【0024】
ここで、前記表面及び前記裏面は、それぞれ、例えば、電解銅箔のマット面及びシャイン面に相当する。マット面は、銅イオンが溶解された電解液中に金属製のドラムを浸漬し、これを回転させながら電流を流すことにより、電解ドラムの表面に電解銅箔を析出させる際に、電解液に面する側の面であり、シャイン面は、電解ドラムに接して形成される側の面である。電解処理によって銅微粒子を析出させることによって、表面を粗面化した状態では、マット面側では銅微粒子がランダムに形成されているのに対し、シャイン面側では、電解ドラムの表面が有する筋状の凹凸が転写され、銅微粒子が一定の方向に沿った列状の配列をなすように形成されている。
【0025】
この際、より好ましくは、前期Rz値が、表面側で2.8μm≦Rz≦3.5μm、裏面側で4.2μm≦Rz≦5.2μmであり、JIS B0601に規定されている表面粗さRa値が、表面側で0.50μm≦Ra≦0.65μm、裏面側で0.80μm≦Ra≦0.95μmであるのがよく、また、前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、前記表面色が
50≦L*≦60、25.5≦a*≦29、19≦b*≦21
で示される色空間に属する色であり、前記裏面色が
55≦L*≦70、23≦a*≦28、17.5≦b*≦21.5
で示される色空間に属する色であるのがよい。
【0026】
そして、前記電解銅箔の断面が複数の結晶子で構成され、すべての結晶子の断面積が100μm2以下であるのがよい。
【0027】
また、前記電解銅箔において、次式
表面積倍率R=補正表面積/両面幾何表面積
補正表面積=BET表面積−(試料片端面+側面の幾何表面積の和)
で定義される表面積倍率Rが、表面側で1.5≦R≦5.5であり、裏面側で2.0≦R≦6.0であるのがよい。
【0028】
また、前記電解銅箔の厚さが10〜25μmであり、かつ、前記電解銅箔の伸び率が1〜10%であり、ヤング率が5.0×107〜5.0×109MPaであるのがよい。
【0029】
また、前記電解銅箔が、IPCによって規定されている「銅箔粗化面の転写試験」(IPC−No.2.4.1.5)において、(2)ほんのわずかな転写、又は(3)わずかな転写に分類される電解銅箔であるのがよい。
【0030】
また、前記電解銅箔が加熱処理されているのがよい。
【0031】
本発明の電池用電極において、金属リチウム、金属スズ、スズ化合物、ケイ素単体、及びケイ素化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の物質を含有する活物質層を有するのがよい。
【0032】
この際、前記電極集電体と前記活物質層との界面領域の少なくとも一部に、前記電極集電体の構成成分と、前記活物質層の構成成分とが互いに拡散し合っている領域が存在するのがよく、前記活物質層がケイ素からなるのが特に好ましい。これによって、前記電極集電体と前記活物質層とがより強固に密着を保つことが可能になる。
【0033】
そして、このケイ素からなる前記活物質層に、3〜40原子数%の酸素が構成元素として含まれるのがよい。この場合、前記活物質層中の酸素含有率が大きい領域が、実質的に前記電極集電体の長手方向に沿って分布しているのがよい。
【0034】
本発明の二次電池は、リチウム二次電池として構成されているのがよい。この際、電解質の溶媒として、不飽和結合を有する環状炭酸エステル、例えば、ビニレンカーボネートもしくはビニルエチレンカーボネートを含むのがよい。また、前記電解質の溶媒として、環状炭酸エステル又は/及び鎖状炭酸エステルの水素の一部または全部がフッ素化されたフッ素化合物、例えばジフルオロエチレンカーボネートを含むのがよい。
【0035】
また、電解質にスルトン類が含まれるのがよい。この際、前記スルトン類が1,3−プロペンスルトンであるのが更によい。これにより、充放電にともなう副反応が抑制され、ガス膨張等によって生じる電池形状の変形に起因するサイクル特性の低下を防止することができる。
【0036】
また、電解質にホウ素とフッ素とを含有する化合物を含むのがよい。
【0037】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0038】
本実施の形態では、本発明に基づく電極集電体の検査方法によって、例えば電解銅箔からなる電極集電体を選別し、この選別された電極集電体からなる電池用電極を負極として用いて、リチウムイオン二次電池を作製する例について説明する。
【0039】
図1(a)は、本発明の実施の形態に基づく電極集電体の検査方法の特徴を説明する説明図である。この検査方法は、電極集電体の色を分光学的な表面測定によって決定し、集電体の良否を選別する際の指標として用いる点に特徴がある。
【0040】
一般に、物体の表面に入射した光は、一部が物体に吸収され、残りが反射または散乱される。入射光には様々な波長の光が含まれるが、どの波長の光も同じように吸収され、反射または散乱される場合には、物体の色は、白色、灰色、または黒色となる。そうではなく、物体が特定の波長領域の光を選択的に吸収する場合には、物体は特定の色(色相)を帯びる。物体が選択的に吸収する光の波長(吸収スペクトル)は、主として、物体の表面を構成する元素の種類や、その酸化状態や結合状態などで決まる。従って、物体が帯びている色(色相)は、物体の表面を構成する元素の種類や、その酸化状態や結合状態などの情報を含んでおり、ミクロスコピックな表面状態の本質を捉えていると考えられる。
【0041】
また、物体の表面で反射されたり、散乱されたりする光の量は、表面粗さや電気伝導性などのマクロスコピックな表面状態を反映する。従って、明度を測定すれば、マクロスコピックな表面状態をも把握することができる。
【0042】
図1(b)は、従来の触針粗さ計によって認識される情報を示す説明図である。触針粗さ計によって把握される情報は、触針の先端の軌跡であって、最表面の凹凸形状に過ぎない。図1(c)は、従来の光学式粗さ計によって認識される情報を示す説明図である。光学式粗さ計では、単に反射率が得られるだけであって、分光学的な情報が得られない。従って、工夫次第でマクロスコピックな表面状態を把握することができるとしても、ミクロスコピックな表面状態を把握することはできない。
【0043】
物体の色は、一般に、明度(明るさ)、色相(色合い)、および彩度(あざやかさ)の3つの要素からなる。これらを正確に測定し、表現するには、これらを客観的に数値化して表現する表色系が必要になる。図2は、本発明が請求項の記載のために用いたL*a*b*表色系を説明する説明図である。L*a*b*表色系は、JIS Z 8729に規定されている表色系であって、図2(a)に示すように、各色を球形の色空間に配置して示す。この際、明度を縦軸(z軸)方向の位置で示し、色相を外周方向の位置で示し、彩度を中心軸からの距離で表す。
【0044】
明度を示す縦軸(z軸)方向の位置はL*で示され、L*の値は黒に相当する0から白に相当する100まで変化する。図2(b)はL*=50の位置で球形の色空間を水平に切断した断面図である。図2(b)に示すように、x軸の正方向が赤方向、y軸の正方向が黄方向、x軸の負方向が緑方向、y軸の負方向が青方向であり、x軸方向の位置は−60〜+60の値をとるa*によって示され、y軸方向の位置は−60〜+60の値をとるb*によって示される。色相および彩度は、a*の値およびb*の値によって示される。例えば、請求項1で示した集電体の色相および彩度
5≦a*<60、5≦b*<60(50≦L*≦80)
、および、請求項7で示した集電体の色相および彩度
20≦a*≦30、15≦b*≦25(45≦L*≦65または50≦L*≦70)
は、それぞれ、図2(b)に示すL=50の面上では、点線で囲んで示した領域AおよびBを占める。
【0045】
図3(a)および(b)は、本発明の実施の形態に基づく、分光測色計によるL*、a*、およびb*の測定方法を説明する説明図である。図3(a)に示すように、光源は被測定物表面の法線方向に置き、法線方向に対して45度の方向へ散乱された光を受光器で測定した。光源としてはISOの基準光であるD65(色温度6504K)を想定した。図3(b)は、D65光源の発光スペクトルを示すグラフである。
【0046】
本実施の形態では、分光測色計を用いて、図3(a)および(b)に示した方法で電極集電体の表面及び/又は裏面の色を測定し、L*a*b*表色系に基づいて数値化されたその色によって良品を選別する。この後は、従来と同様の方法で、選別された電極集電体からなる電池用電極を作製し、これを負極として用いてリチウムイオン二次電池を作製する。
【0047】
本実施の形態に基づく二次電池の構造や形状は特に限定されるものではなく、負極と正極とをセパレ−タを間に挟んで積層したスタック型や、長尺電極をセパレ−タとともに巻き取った巻回型の二次電池であってもよい。その形状も、ノート型PC(Personal Computer)などによく用いられている円筒型や、携帯電話などに用いられている角型(角筒型)や、ボタン型やコイン型など、特に限定されることはない。その外装材も、従来のアルミ缶、ステンレス鋼缶、ラミネートフィルム、その他のいずれでも用いることができる。
【0048】
図4は、本発明の実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す断面図である。この二次電池10は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ14に収容された負極1と、外装缶15に収容された正極2とが、セパレータ3を介して積層されている。外装カップ14および外装缶15の周縁部は絶縁性のガスケット16を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ14および外装缶15は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウム(Al)などの金属によりそれぞれ構成されている。
【0049】
図5は、本実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池の別の構成を示す分解斜視図である。図5に示すように、二次電池20はラミネート型の電池であり、負極リード端子21および正極リード端子22が取り付けられた電極巻回体24が、フィルム状の外装部材26および27からなる外装ケースの内部に収容されており、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
【0050】
負極リード端子21および正極リード端子22は、それぞれ、外装部材26および27の内部から外部に向かい、例えば互いに同一方向に導出されている。リード端子21および22は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、あるいはステンレスなどの金属材料によって形成されており、薄板状または網目状に成形されている。
【0051】
外装部材26および27は、例えば、ナイロンフィルムとアルミニウム箔とポリエチレンフィルムとをこの順に貼り合わせたアルミラミネートフィルムである。外装部材26は矩形状に成形され、外装部材27は断面が浅い逆台形形状に成形され、外縁部が設けられている。外装部材26と外装部材27とは、それぞれの外縁部において融着、あるいは接着剤による接着によって互いに密着され、外装ケースを形成している。外装部材26および27は、例えば、ポリエチレンフィルム側が電極巻回体24と対向するように配設されている。
【0052】
外装部材26および27とリード端子21および22との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム25が挿入されている。密着フィルム25は、リード端子21および22に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、あるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0053】
なお、外装部材26および27は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム、ポリプロピレンなどの高分子フィルム、あるいは金属フィルムによって構成するようにしてもよい。
【0054】
図6は、図5に6A−6A線で示した位置における電極巻回体24の断面構造を示すものである。電極巻回体24は、負極1と正極2とをセパレータ(および電解質層)3を間に挟んで対向させ、巻回したものであり、最外周部は保護テープ23によって保護されている。
【0055】
負極集電体1aの表面構造以外の部材に関しては、従来のリチウムイオン二次電池と同様であるが、以下に詳述する。
【0056】
負極1は、負極集電体1aと、負極集電体1aに設けられた負極活物質層1bとによって構成されている。
【0057】
負極集電体1aは、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属材料によって形成されているのがよい。負極集電体1aがリチウムと金属間化合物を形成する材料であると、充放電に伴うリチウムとの反応によって負極集電体1aが膨張収縮する。この結果、負極集電体1aの構造破壊が起こって集電性が低下する。また、負極活物質層1bを保持する能力が低下して、負極活物質層1bが負極集電体1aから脱落しやすくなる。
【0058】
リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。なお、本明細書において、金属材料とは、金属元素の単体だけではなく、2種以上の金属元素、あるいは1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなる合金も含むものとする。
【0059】
また、負極集電体1aは、負極活物質層1bと合金化する金属元素を含む金属材料によって構成されているのがよい。このようであれば、合金化によって負極活物質層1bと負極集電体1aとの密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体1aから負極活物質層1bが脱落するのが抑えられるからである。また、負極1における電子伝導性を向上させる効果も得られる。
【0060】
負極集電体1aは、単層であってもよいが、複数層によって構成されていてもよい。複数層からなる場合、負極活物質層1bと接する層がケイ素と合金化する金属材料からなり、他の層がリチウムと金属間化合物を形成しない金属材料からなるのがよい。
【0061】
負極集電体1aの、負極活物質層1bが設けられる面は、粗化されているのがよい。負極集電体1aは、例えば、多数の塊状突起部である多数の銅微粒子が、電解処理によって、未処理銅箔の表面全体をほぼ被覆するように形成された電解銅箔からなるのがよい。
【0062】
負極活物質層1b中には、負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれている。このうち、とくにケイ素が含まれているのがよい。ケイ素はリチウムイオンを合金化して取り込む能力、および合金化したリチウムをリチウムイオンとして再放出する能力に優れ、リチウムイオン二次電池を構成した場合、大きなエネルギー密度を実現することができる。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。
【0063】
負極活物質層1bは、厚さが70〜80μm程度の塗布型であっても、厚さが5〜6μm程度の薄膜型であってもよい。
【0064】
塗布型である場合には、負極活物質層1bは、ケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上からなる負極活物質微粒子と、必要に応じて、炭素材料などの導電材、およびポリイミドやポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)とによって、負極集電体1a上に形成されている。
【0065】
薄膜型である場合には、負極活物質層1bは、ケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上からなる負極活物質層1bが、負極集電体1a上に形成されている。
【0066】
この際、ケイ素又はスズの単体の一部又は全部が、負極1を構成する負極集電体1aと合金化しているのがよい。既述したように、負極活物質層1bと負極集電体1aとの密着性を向上させることができるからである。具体的には、界面において負極集電体1aの構成元素が負極活物質層1bに、または負極活物質層1bの構成元素が負極集電体1aに、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電により負極活物質層1bが膨張収縮しても、負極集電体1aからの脱落が抑制されるからである。なお、本願では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
【0067】
負極活物質層1bがスズの単体を含む場合、スズ層の上にコバルト層が積層され、積層後の加熱処理によって両者が合金化されていてもよい。このようにすると、充放電効率が高くなり、サイクル特性が向上する。この原因の詳細は不明であるが、リチウムと反応しないコバルトを含有することで、充放電反応を繰り返した場合のスズ層の構造安定性が向上するためと考えられる。
【0068】
負極活物質層1bがケイ素の単体を含む場合には、リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層1b中のケイ素と合金化する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体1aが得られるので、特に好ましい。
【0069】
また、負極活物質層1bを構成する元素として、酸素が含まれているのがよい。酸素は負極活物質層1bの膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層1bに含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
【0070】
負極活物質層1bにおける酸素の含有量は、3原子数%以上、45原子数%以下の範囲内であることが好ましい。酸素含有量が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有量が45原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまうほか、負極活物質層1bの抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下してしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層1bの表面に形成される被膜は、負極活物質層1bには含めない。よって、負極活物質層1bにおける酸素含有量とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
【0071】
また、負極活物質層1bは、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とが交互に積層されていることが好ましく、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素含有量は少ない方が好ましく、全く酸素が含まれないか、または、酸素含有量が微量であるのがより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。第1層と第2層とは、負極集電体1aの側から、第1層、第2層の順で積層されていてもよいが、第2層、第1層の順で積層されていてもよく、表面は第1層でも第2層でもよい。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇してしまう場合があるからである。
【0072】
なお、負極活物質層1bは、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、あるいはクロム(Cr)が挙げられる。
【0073】
正極2は、正極集電体2aと、正極集電体2aに設けられた正極活物質層2bとによって構成されている。
【0074】
正極集電体2aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されているのがよい。
【0075】
正極活物質層2bは、例えば、正極活物質として、充電時にリチウムイオンを放出することができ、かつ放電時にリチウムイオンを再吸蔵することができる材料を1種以上含んでおり、必要に応じて、炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)を含んでいるのがよい。
【0076】
リチウムイオンを放出および再吸蔵することが可能な材料としては、例えば、一般式LixMO2で表される、リチウムと遷移金属元素Mからなるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を構成した場合、高い起電力を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を実現することができるからである。なお、Mは1種類以上の遷移金属元素であり、例えば、コバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。xは電池の充電状態(放電状態)によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2あるいはLiNiO2などが挙げられる。
【0077】
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
【0078】
また、正極活物質層2bは、長周期型周期表における2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
【0079】
セパレータ3は、負極1と正極2とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、かつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ3の材料としては、例えば、微小な空孔が多数形成された微多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどの薄膜がよい。
【0080】
電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解した電解質塩とで構成され、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0081】
電解液の溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸エチレン;EC)や4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸プロピレン;PC)などの環状炭酸エステル、および、炭酸ジメチル(DMC)や炭酸ジエチル(DEC)や炭酸エチルメチル(EMC)などの鎖状炭酸エステルなどの非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのがよい。例えば、炭酸エチレンや炭酸プロピレンなどの高誘電率溶媒と、炭酸ジメチルや炭酸ジエチルや炭酸エチルメチルなどの低粘度溶媒とを混合して用いることにより、電解質塩に対する高い溶解性と、高いイオン伝導度とを実現することができる。
【0082】
また、溶媒はスルトンを含有していてもよい。電解液の安定性が向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、化1に示した1,3−プロペンスルトンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0083】
【化1】

【0084】
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン;VC)あるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(VEC)などの不飽和結合を有する環式炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。放電容量の低下をより抑制することができるからである。特に、VCとVECとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
【0085】
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。放電容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環式炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)などが挙げられ、中でもフッ素原子を有するDFECやFEC、特にDFECが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0086】
電解液の電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)やテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0087】
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ3に含浸されていてもよく、また、セパレータ3と負極1または正極2との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル,あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
【0088】
リチウムイオン二次電池10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0089】
まず、負極集電体1aに負極活物質層1bを形成し、負極1を作製する。
【0090】
塗布型の負極活物質層1bを形成する場合には、例えば、まず、シリコンの単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれる負極活物質を、微粒子状に粉砕し、これと導電材および結着剤(バインダー)とを必要に応じて混合し、合剤を調製する。次に、この合剤をN−メチルピロリドン(NMP)などの分散媒に分散させてスラリー状にし、この合剤スラリーを負極集電体1aに塗布した後、分散媒を蒸発させ、圧縮成型することにより、負極1を作製する。
【0091】
薄膜型の負極活物質層1bを形成する場合には、まず、負極集電体1aに、例えば、気相法,溶射法,焼成法あるいは液相法により、シリコンの単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれる負極活物質層1bを成膜する。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、例えば鍍金が挙げられる。また、それらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて負極活物質層1bを成膜するようにしてもよい。
【0092】
負極活物質層1bに酸素を含有させる場合、酸素の含有量は、例えば、負極活物質層1bを形成する際の雰囲気中に酸素を含有させたり、焼成時あるいは熱処理時の雰囲気中に酸素を含有させたり、または用いる負極活物質粒子の酸素濃度により調節する。
【0093】
また、前述したように、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とを交互に積層して負極活物質層1bを形成する場合には、雰囲気中における酸素濃度を変化させることにより調節するようにしてもよく、また、第1層を形成したのち、その表面を酸化させることにより第2層を形成するようにしてもよい。
【0094】
なお、負極活物質層1bを形成したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、負極集電体1aと負極活物質層1bとの界面をより合金化させるようにしてもよい。
【0095】
次に、正極集電体2aに正極活物質層2bを形成する。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材および結着剤(バインダー)とを混合して合剤を調製し、これをNMPなどの分散媒に分散させてスラリー状にして、この合剤スラリーを正極集電体2aに塗布した後、圧縮成型することにより正極2を形成する。
【0096】
次に、負極1とセパレータ3と正極2とを積層して配置し、外装カップ14と外装缶15との中に入れ、電解液を注入し、それらをかしめることによってリチウムイオン二次電池10を組み立てる。この際、負極1と正極2とは、負極活物質層1bと正極活物質層2bとが対向するように配置する。
【0097】
リチウムイオン二次電池20は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0098】
まず、前述したように負極集電体1aに負極活物質層1bを形成し、負極1を作製する。また、正極集電体2aに正極活物質層2bを形成し、正極2を形成する。
【0099】
次に、負極1および正極2に、それぞれ、負極リード端子21および正極リード端子212を取り付ける。次に、負極1と正極2とをセパレータ3を間に挟んで対向させ、短辺方向を巻軸方向として巻回し、最外周部に保護テープ4を接着することにより、電極巻回体24を形成する。この際、負極1と正極2とは、負極活物質層1bと正極活物質層2bとが対向するように配置する。そののち、例えば、外装部材26および27の間に電極巻回体24を挟み込み、外装部材26および27の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、リード端子21および22と外装部材26および27との間には密着フィルム25を挿入する。以上のようにして、ラミネート型のリチウムイオン二次電池20を組み立てる。
【0100】
また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、ラミネートフィルムなどの外装材からなる容器に電解液とともに重合性化合物を注入し、容器内において重合性化合物を重合させることにより、電解質をゲル化する。また、電極の大きな膨張収縮に対応するために、容器として金属缶を用いてもよい。また、負極1と正極2とを巻回する前に、負極1または正極2に塗布法などによってゲル状電解質を被着させ、その後、セパレータ3を間に挟んで負極1と正極2とを巻回するようにしてもよい。
【0101】
組み立て後、リチウムイオン二次電池10または20を充電すると、正極2からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極1側へ移動し、負極1において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極1に取り込まれる。放電を行うと、負極1に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極2側へ移動し、正極2に再び吸蔵される。
【0102】
この際、リチウムイオン二次電池10または20では、負極活物質層1b中に負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物などが含まれているため、二次電池の高容量化が可能になる。しかも、本実施の形態の負極は、その製造方法に基づく前述した特徴的効果を有し、初回放電容量、および容量維持率などのサイクル特性が優れている。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例の説明では、実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
【0104】
実施例1
実施例1では、表面を電解処理によって粗化した電解銅箔を負極集電体材料として用いた。粗化処理の条件を変えることで、表面粗さや微粒子形状が異なり、結果として表面色が異なる種々の電解銅箔を得た。これらの電解銅箔について、表面粗さRz値とRa値、およびL*値、a*値、b*値を基本的な特性パラメータとして測定し、表面粗さRz値とRa値がほぼ同じであるが、L*値、a*値、およびb*値が異なる電界銅箔について、これらのパラメータと容量維持率との相関を調べた。
【0105】
<銅箔の表面処理>
電解銅箔では、未処理銅箔を電解槽中に浸潰し、電解法によって銅箔の表面に銅微粒子を島状に形成し、表面を粗面化することができる。本実施例では、まず、やけめっきによって未処理銅箔の表面に島状に銅微粒子を成長させ、次に、かぶせめっきによって銅箔の全面を被覆した。かぶせめっきは、銅微粒子が剥がれ落ちるのを防止するためのものである。この際、各電解槽における電流比、電解槽の温度、やけめっき、およびかぶせめっきの処理回数、めっき液の組成、添加物の有無および種類などを変えることによって、表面の粗化状態の異なる種々の電解銅箔を得た。
【0106】
<表面粗さ測定>
表面粗さは、株式会社アルバックの触針式表面形状測定器Dektak3を用いて、表面粗さRz値およびRa値を測定した。測定では、銅箔巻き取り方向と垂直な方向に針を走査して、任意に抽出した5点の測定値の平均値を実際の測定値とした。
計測し、基本的な特性パラメータを決定した。
【0107】
<L*a*b*表色系における色座標の測定>
電解銅箔の表面色を横河メータ&インスツルメンツ株式会社CD100 分光測色計を用いて測定し、L*a*b*表色系における色座標であるL*値、a*値、b*値を決定した。測定時の視野角は10°に設定し、光源の種類はD65(色温度6504K)であるとした。
【0108】
<試験用リチウムイオン二次電池の作製と評価>
初めに、上記のようにして表面が電解処理によって粗化された厚さ20μmの電解銅箔を負極集電体材料として用い、この電解銅箔上に、偏向式電子ビーム蒸着源を用いる真空蒸着法によって、厚さ6μmのシリコン層を負極活物質層として形成し、電池用電極を形成した。
【0109】
次に、この電池用電極の性能を評価するために、リチウムイオン二次電池10と同様の構造をもつコイン型試験用リチウムイオン二次電池を作製した。まず、上記の電池用電極を直径15mmの円形に打ち抜き、負極1を形成した。次に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒であるNMPに分散させてスラリー状とし、この合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体2aに塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、圧縮成型することにより、正極活物質層2bを形成し、円形に打ち抜き、正極2を形成した。
【0110】
次に、負極1とセパレータ3と正極2とを積層して配置し、電解液を注入し、試験用リチウムイオン二次電池を組み立てた。セパレータ3として、微多孔性ポリプロピレンフィルムを用いた。また、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、EC:DEC=30:70の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0111】
作製した試験用二次電池について、充放電サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。このサイクル試験の1サイクルは、まず、1mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2になるまで充電を行う。次に、1mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。この充放電サイクルを室温にて50サイクル行い、次式
50サイクル目の容量維持率(%)
=(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、50サイクル目の容量維持率(%)を調べた。
【0112】
上記の実施例1−1および1−2、並びに比較例1のコイン型試験用リチウムイオン二次電池について、50サイクル目の容量維持率(%)を調べた。結果を他の測定値と共に表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
実施例1−1〜1−6は、電界銅箔の表面色が、請求項2に記載した数値範囲、すなわち、50≦L*≦80、20≦a*≦40、15≦b*≦30の色空間に属する例である。実施例1−1および1−2は、それぞれ、L*値が下限および上限の場合であり、実施例1−3および1−4は、それぞれ、a*値が下限および上限の場合であり、実施例1−5および1−6は、それぞれ、b*値が下限および上限の場合である。他方、比較例1−1〜1−6は、それぞれ、L*値、a*値、b*値が、それぞれ、下限および上限の範囲外にある場合であり、比較例1−7および1−8は、L*値、a*値、およびb*値のすべてが、下限および上限の範囲外にある場合である。
【0115】
実施例1−1〜1−6が、容量維持率などの充放電サイクル特性が優れているのに対し、比較例1−1〜1−8は容量維持率などのサイクル特性が劣っており、L*a*b*表色系に基づいて数値化した色と、充放電サイクル特性との間に強い相関関係があることがわかる。
【0116】
実施例2
実施例2−1〜2−12では、実施例1で好ましいとされた色空間の中で種々に異なる表面色を有する電界銅箔を用いて、電界銅箔のより好ましい表面色を調べた。これらの電解銅箔は、実施例1と同様にして形成し、前記特性パラメータを測定し、コイン型試験用リチウムイオン二次電池10を作製し、50サイクル目の容量維持率(%)を調べた。結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
実施例2−3〜2−5は、電界銅箔の表面色が、請求項3に記載したより好ましい数値範囲、すなわち、55≦L*≦65、22≦a*≦30、17≦b*≦22の色空間に属する例である。実施例2−6〜2−11は、それぞれ、L*値、a*値、およびb*値のうちの1つが上記の数値範囲の外である例である。実施例2−1および2−2は、L*値、a*値、およびb*値のすべてが、上記の数値範囲の外にある場合である。
【0119】
実施例2−3〜2−5は、容量維持率などの充放電サイクル特性が他の実施例2−1、2−2、および2−6〜2−11に比べて優れており、L*a*b*表色系に基づいて数値化した色と、充放電サイクル特性との間に強い相関関係があることがわかる。
【0120】
実施例3
実施例3では、実施例1−1で作製した電池用電極を、さらに通常の真空炉中にて120℃で10時間アニールを行い、電極を作成した。この電極の元素分布をEDXで調べ、実施例1−1で作製した電池用電極と比較したところ、前記電極集電体である銅箔と、前記活物質層であるシリコン層との界面領域の少なくとも一部で、銅箔を構成する結晶子内に界面のシリコン層のケイ素原子が拡散していることが確認された。
【0121】
次に、この電極を用いて実施例1と同様にして二次電池を作製し、50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
【0122】
【表3】

【0123】
表3に示されているように、実施例3では実施例1−1に比べて容量維持率が向上した。これは界面におけるケイ素原子の適度な拡散によって、負極活物質層と負極集電体層の結びつきが強化されたためであると考えられる。
【0124】
実施例4
実施例4は、電解銅箔の両面上に活物質層を形成した例である。両面に活物質層を形成すれば、片面のみに形成する場合に比べて、容量をほぼ2倍に増加させることができる利点などがある。
【0125】
実施例4では、まず、電解処理によって表面側および裏面側に固着された銅微粒子によって、表面および裏面が粗化されている厚さ20μmの電解銅箔を用い、他は実施例1と同様にして、この電解銅箔の両面上に、偏向式電子ビーム蒸着源を用いる真空蒸着法によって、それぞれ、厚さ6μmのシリコン層を負極活物質層1bとして形成し、電極構造体を形成した。このようにして得られた電極構造体をアルゴン雰囲気中にて280℃で6時間加熱処理した後、負極リード端子21を取り付け、試験用の負極1を形成した。
【0126】
次に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒であるNMPに分散させてスラリー状とし、この合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体2aに塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、圧縮成型することにより、正極活物質層2bを形成した。その後、正極リード端子22を取り付け、正極2を形成した。
【0127】
次に、負極1と正極2とをセパレータ3を間に挟んで対向させ、巻き回し、電極巻回体24を作製した。次に、外装部材26および27の間に電極巻回体24を挟み込み、外装部材26および27の外縁部同士を熱融着によって密着させ、封入した。その際、リード端子21および22と外装部材26および27との間には密着フィルム25を挿入した。以上のようにして、ラミネート型のリチウムイオン二次電池20を組み立てた。
【0128】
セパレータ3として、微多孔性ポリプロピレンフィルムを用いた。また、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、EC:DEC=30:70の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0129】
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した試験用二次電池について、充放電サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。このサイクル試験の1サイクルは、5mA/cm2の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行いし、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.5mA/cm2になるまで充電を行い、その後、5mA/cm2の定電流密度で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。この充放電サイクルを室温にて50サイクル行い、次式
50サイクル目の容量維持率(%)
=(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、50サイクル目の容量維持率を調べた。結果を、充電時厚さ増加率の測定値とともに表4に示す。
【0130】
【表4】

【0131】
実施例4−1と実施例4−2〜4−5とを比較すればわかるように、表面および裏面の両面に活物質層が形成されている場合、請求項4に対応し、表面色および裏面色をL*a*b*表色系に基づいて数値化した数値、すなわち、L*、a*、およびb*のうちの少なくとも1つの値が互いに異なる色である場合に、容量維持率などのサイクル特性が優れている。この理由は明確ではないが、その方が充放電にともなう応力が緩和されるためではないかと考えられる。
【0132】
実施例5
実施例5は、請求項7に対応して、
X線散乱測定において、銅による散乱ピーク強度比がI(220)/I(111)≦1を満たし 、
表裏両面が電解処理によって粗化され、JIS B0601に規定されている十点平 均表面粗さRz値が、表面側で2.0μm≦Rz≦4.5μm、裏面側で2.5μm≦ Rz≦5.5μmであり、
前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、前記表面色が
45≦L*≦65、20≦a*≦30、15≦b*≦25
で示される色空間に属する色であり、前記裏面色が
50≦L*≦70、20≦a*≦30、15≦b*≦25
で示される色空間に属する色である
電解銅箔を用いた例である。
【0133】
比較例5−1では、実施例5の銅箔とは異なる結晶性をもつ銅箔でありながら、表面粗さ、および色特性が実施例5とほぼ同等である電解銅箔を用いて電極を作製し、電池特性を評価した。比較例5−2〜5−5では、表面粗さRz値が、請求項7の範囲外の銅箔を用いて電極を作製し、電池特性を評価した。比較例5−6〜比較例5−17では、銅箔の表面色のL*a*b*値が請求項7の範囲外の銅箔を用いて電極を作製し、電池性能を評価した。結果を表5に示す。
【0134】
【表5】

【0135】
実施例6
実施例6−1〜6−7では、請求項7の範囲内の銅箔で、請求項8に記載した特に特性のよい範囲の表面粗さの銅箔を用いて電極を作製し、電池性能を評価した。実施例6−8〜6−14では、請求項7の範囲内の銅箔で、請求項9に記載した特に特性のよい範囲のL*a*b*値を持つ銅箔を用いて電極を作製し、電池性能を評価した。
【0136】
【表6】

【0137】
実施例7
実施例7では、銅箔を構成する結晶子の大きさを、クロスセクションポリッシャー(CP)で断面を形成し、低加速電圧走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、測定した。また、活物質層を蒸着する前に電解銅箔を加熱処理(アニール処理)し、その後、電解銅箔に活物質層を蒸着した。
【0138】
次に、実施例1と同様にして、電池用電極および二次電池を作製し、50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表7に示す。
【0139】
【表7】

【0140】
加熱処理(アニール処理)する温度を変更し、処理後の銅箔の断面を観察したところ、加熱処理(アニール処理)温度が比較的低い実施例7−1および7−2では、加熱処理温度が高いほど、銅箔を構成する結晶子の大きさが大きくなり、容量維持率が向上することがわかった。しかし、実施例7−3および7−4のように、加熱処理温度が高くなりすぎ、加熱処理された銅箔中に断面積が100μm2をこえる結晶子が現れるようになると、加熱処理温度の上昇によって容量維持率がかえって低下することがわかった。従って、本結晶系を持つ銅箔の結晶子の大きさは、100μm2以下であることが望ましい。
【0141】
図7は、実施例7−2における、加熱処理後の電解銅箔および加熱処理前の電解銅箔の断面を、それぞれ、走査型電子顕微鏡によって観察した観察像(a)および(b)である。図7(a)および(b)を比較すると、電解銅箔を構成する結晶子の大きさが加熱処理によって増大しているのが明らかである。
【0142】
また、上記のアニール条件で銅箔をアニールして、銅箔の伸び率、切断強度、ヤング率を求めたところ、I(200)/I(111)<1の条件を満たす銅箔については、伸び率が1〜10%であり、ヤング率が5.0×107〜5.0×109MPaであることがわかった。
【0143】
実施例8
実施例8では、加熱処理(アニール処理)と銅の拡散の関係を調べた。実施例5で作成した電極を処理温度を種々に変えて加熱処理し、同時に、XRDで銅のピーク強度比I(200)/I(111)を測定した。
【0144】
次に、実施例1と同様にして、電池用電極および二次電池を作製し、50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表8に示す。
【0145】
処理温度が400℃以上になるとピーク強度比I(200)/I(111)が1以上となり、1以下の温度まではサイクル特性が向上し、1以上であるとサイクル特性が劣化した。
【0146】
サイクル特性測定後、各電極に対してCPで断面を出し、SEM/EDXで断面観察を行ったところ、実施例5の加熱処理を行わない電極に比べて、実施例8−1〜8−4のように、加熱処理を行い、かつ、XRD強度比が1以下の電極に対しては、界面でケイ素と銅が拡散している様子が観察された。また、この電極に対しては、Cu3SiのピークがXRDでは観測されなかった。一方、アニールを行い、かつ、XRD強度比が1をこえた電極に対しては、界面の元素拡散が進み過ぎ、界面の一部にCu3Siが観測され、また、XRDでもCu3Siのピークが観測された。
【0147】
【表8】

【0148】
実施例9
実施例9では、実施例5、比較例5−2〜5−5、実施例6−8〜6−14で用いた銅箔に対し、表面積倍率を求めた。また、同じ銅箔に対し銅箔粗化面の転写試験を行い、微粒子の剥離強度についての関係を調べた。結果を表9−1に示す。
【0149】
<銅箔の表面積の測定>
銅箔の表面積は、下記のようにして測定した。表面(M面)側の表面積を測定する場合には、同じ2枚の銅箔の裏面(S面)側を接着剤で張り合わせたものを直径16mmの円形形状に打ち抜き、試料片を作製し、試料片のBET表面積を測定した。次に、作製した試料片の厚さを考慮して試料片側面の面積を求め、BET表面積から両面の幾何学面積と側面の幾何学面積の和を引くことで、補正表面積を求めた。そして、両面幾何表面積で補正表面積を割ることで、表面積倍率Rを求めた。すなわち、
補正表面積=BET表面積−(試料片端面+側面の幾何表面積の和)
表面積倍率R=補正表面積/両面幾何表面積
である。
【0150】
<銅箔の転写試験>
実施例5で使用した全ての銅箔に対して、IPCによって規定されている「銅箔粗化面の転写試験」(IPC−No.2.4.1.5)を行った。この結果、表9−1に示すように、全ての箔が、(2)ほんのわずかな転写、(3)わずかな転写、(4)転写ありに分類される電解銅箔であることがわかった。
【0151】
【表9】

【0152】
また、表面積倍率の最良特性範囲を調べるためのデータを補足するために、異なる表面積倍率の銅箔に対して、充放電容量維持率を調査したところ、表面積倍率Rが、表面側で1.5≦R≦5.5であり、裏面側で2.0≦R≦6.0の範囲にあるものが、容量維持率で優れる値を示した。結果を表9−2に示す。
【0153】
【表10】

【0154】
実施例10
実施例10−1〜10−6では、実施例1と同様にして電池用電極を作製したが、シリコンを蒸着する際の酸素ガス導入量を変化させ、真空度および酸素分圧を変化させることによって、負極活物質層の酸素含有量を変化させた電池用電極を作製した例である。酸素含有量はEDXによって測定した。また、実施例10−5では、実施例1と同様にして厚さ3μmのシリコン層を形成した後、チャンバー中に酸素ガスを導入してシリコン層の表面を酸化させ、その後、その上に残りのシリコン層を積層して、酸素含有量の大きい領域をシリコン層中に1層形成した。実施例10−6では、同様の操作を2度繰り返し、酸素含有量の大きい領域を表面に1層、シリコン層中に2層形成した。
【0155】
次に、このようにして作製した電池用電極を用いて実施例1と同様にして二次電池を作製し、50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表10−1に示す。
【0156】
【表11】

【0157】
また。実施例10−21〜10−26では、実施例5と同様にして電池用電極を作製したが、シリコンを蒸着する際の酸素ガス導入量を変化させ、真空度および酸素分圧を変化させることによって、負極活物質層の酸素含有量を変化させた電池用電極を作製した例である。酸素含有量はEDXによって測定した。また、実施例10−25では、実施例1と同様にして厚さ3μmのシリコン層を形成した後、チャンバー中に酸素ガスを導入してシリコン層の表面を酸化させ、その後、その上に残りのシリコン層を積層して、酸素含有量の大きい領域をシリコン層中に1層形成した。実施例10−26では、同様の操作を2度繰り返し、酸素含有量の大きい領域を表面に1層、シリコン層中に2層形成した。
【0158】
次に、このようにして作製した電池用電極を用いて実施例5と同様にして二次電池を作製し、50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表10−2に示す。
【0159】
【表12】

【0160】
表10に示されているように、活物質中には酸素が含有されていて、その酸素含有量が5〜40原子数%である場合には、容量維持率が向上する効果がある。また、酸素の分布は、同じ酸素含有量である場合には、酸素が活物質層中に均一に分布しているよりも、含有量の大きい層と含有量の小さい層が積層されている方が効果が高く、その積層数が多い方が効果が高い。
【0161】
実施例11
実施例11−1および11−2では、実施例1で電解質溶媒として用いたエチレンカーボネート(EC)の代わりに、フルオロエチレンカーボネート(FEC)およびジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)をそれぞれ用いるなど、電解液の組成などを変更して二次電池を作製し、実施例1と同様に50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表11−1に示す。これらの変更によって容量維持率が約10%向上した。
【0162】
【表13】

【0163】
同様に、実施例11−21〜11−25では、実施例5で電解質溶媒として用いたエチレンカーボネート(EC)の代わりに、フルオロエチレンカーボネート(FEC)およびジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)をそれぞれ用いるなど、電解液の組成などを変更して二次電池を作製し、実施例5と同様に50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表11−2に示す。なお、添加物の添加量は、全電解液質量に対して7質量%とした。これらの変更によって容量維持率が約10%向上した。
【0164】
【表14】

【0165】
実施例12
実施例12では、実施例1で使用した電解液の添加剤としてプルペンスルトンを、全電解液質量に対して2質量%添加して二次電池を作製し、50サイクル目の電池の膨張率と、50サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表12に示す。プルペンスルトンの添加によって、電池の膨張率が減少し、容量維持率が約5%向上した。
【0166】
【表15】

【0167】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々に変形可能である。
【0168】
例えば、上記の実施の形態および実施例では、外装部材としてコイン型缶またはフィルム状の外装材を用いる場合について説明したが、本発明は、外装部材の形状が円筒型、角型(角筒型)、コイン型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのような形であっても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明に係る二次電池は、ケイ素およびスズの単体などを負極活物質として用いて、大きなエネルギー容量と良好なサイクル特性を実現し、モバイル型電子機器の小型化、軽量化、および薄型化に寄与し、その利便性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明の実施の形態に基づく電極集電体の検査方法の特徴を説明する説明図(a)、および、従来の触針粗さ計および光学式粗さ計によって認識される情報を示す説明図(b)および(c)である。
【図2】同、L*a*b*表色系の説明図である。
【図3】同、L*、a*、およびb*の測定方法の説明図である。
【図4】同、リチウムイオン二次電池の構成の一例(コイン型)を示す断面図である。
【図5】同、リチウムイオン二次電池の別の構成(ラミネート型)を示す分解斜視図である。
【図6】同、図5に6A−6A線で示した位置における電極巻回体の断面構造を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例7における、加熱処理後の電解銅箔および加熱処理前の電解銅箔の断面を、それぞれ、走査型電子顕微鏡によって観察した観察像(a)および(b)である。
【符号の説明】
【0171】
1…負極、1a…負極集電体、1b…負極活物質層、2…正極、2a…正極集電体、
2b…正極活物質層、3…セパレータ、10…リチウムイオン二次電池、
14…コイン型外装カップ、15…外装缶、16…ガスケット、
20…リチウムイオン二次電池、21…負極リード端子、22…正極リード端子、
23…保護テープ、24…電極巻回体、25…密着フィルム、26、27…外装部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用電極を構成する集電体であって、
銅又は銅合金からなり、
その表面及び/又は裏面の色が、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表 色系に基づいて数値化した場合に、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色である、
電極集電体。
【請求項2】
前記表面色及び/又は前記裏面色が、前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、
50≦L*≦80、20≦a*≦40、15≦b*≦30
で示される色空間に属する色である、請求項1に記載した電極集電体。
【請求項3】
前記表面色及び/又は前記裏面色が、前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、
55≦L*≦65、22≦a*≦30、17≦b*≦22
で示される色空間に属する色である、請求項2に記載した電極集電体。
【請求項4】
前記表面色及び前記裏面色が、前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、L*、a*、及びb*のうちの少なくとも1つの値が互いに異なる色である、請求項1に記載した電極集電体。
【請求項5】
前記集電体は、表面側及び/又は裏面側に固着された銅又は銅合金からなる微粒子によって、前記表面及び/又は前記裏面が粗化されている、請求項1に記載した電極集電体。
【請求項6】
前記集電体が電解銅箔からなり、前記微粒子が電解処理によって形成されている、請求項5に記載した電極集電体。
【請求項7】
前記電解銅箔が、
X線散乱測定において、銅による散乱ピーク強度比がI(220)/I(111)≦1を満たし 、
表裏両面が電解処理によって粗化され、JIS B0601に規定されている十点平 均表面粗さRz値が、表面側で2.0μm≦Rz≦4.5μm、裏面側で2.5μm≦ Rz≦5.5μmであり、
前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、前記表面色が
45≦L*≦65、20≦a*≦30、15≦b*≦25
で示される色空間に属する色であり、前記裏面色が
50≦L*≦70、20≦a*≦30、15≦b*≦25
で示される色空間に属する色である
電解銅箔である、請求項6に記載した電極集電体。
【請求項8】
前期Rz値が、表面側で2.8μm≦Rz≦3.5μm、裏面側で4.2μm≦Rz≦5.2μmであり、JIS B0601に規定されている表面粗さRa値が、表面側で0.50μm≦Ra≦0.65μm、裏面側で0.80μm≦Ra≦0.95μmである、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項9】
前記L*a*b*表色系に基づいて数値化した場合に、前記表面色が
50≦L*≦60、25.5≦a*≦29、19≦b*≦21
で示される色空間に属する色であり、前記裏面色が
55≦L*≦70、23≦a*≦28、17.5≦b*≦21.5
で示される色空間に属する色である、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項10】
前記電解銅箔の断面が複数の結晶子で構成され、すべての結晶子の断面積が100μm2以下である、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項11】
前記電解銅箔において、次式
表面積倍率R=補正表面積/両面幾何表面積
補正表面積=BET表面積−(試料片端面+側面の幾何表面積の和)
で定義される表面積倍率Rが、表面側で1.5≦R≦5.5であり、裏面側で2.0≦R≦6.0である、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項12】
前記電解銅箔の厚さが10〜25μmであり、かつ、前記電解銅箔の伸び率が1〜10%であり、ヤング率が5.0×107〜5.0×109MPaである、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項13】
前記電解銅箔が、IPCによって規定されている「銅箔粗化面の転写試験」(IPC−No.2.4.1.5)において、(2)ほんのわずかな転写、又は(3)わずかな転写に分類される電解銅箔である、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項14】
前記電解銅箔が加熱処理されている、請求項7に記載した電極集電体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載した電極集電体を有する、電池用電極。
【請求項16】
金属リチウム、金属スズ、スズ化合物、ケイ素単体、及びケイ素化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の物質を含有する活物質層を有する、請求項15に記載した電池用電極。
【請求項17】
前記電極集電体と前記活物質層との界面領域の少なくとも一部に、前記電極集電体の構成成分と、前記活物質層の構成成分とが互いに拡散し合っている領域が存在する、請求項16に記載した電池用電極。
【請求項18】
前記活物質層がケイ素からなる、請求項17に記載した電池用電極。
【請求項19】
前記活物質層に構成元素として3〜40原子数%の酸素が含まれる、請求項18に記載した電池用電極。
【請求項20】
前記活物質層中の酸素含有率が大きい領域が、実質的に前記電極集電体の長手方向に沿って分布している、請求項19に記載した電池用電極。
【請求項21】
請求項15〜20のいずれか1項に記載した電池用電極を組み込んだ、二次電池。
【請求項22】
リチウム二次電池として構成された、請求項21に記載した二次電池。
【請求項23】
電解質の溶媒として、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含む、請求項21に記載した二次電池。
【請求項24】
前記不飽和結合を有する環状炭酸エステルがビニレンカーボネートもしくはビニルエチレンカーボネートである、請求項23に記載した二次電池。
【請求項25】
電解質の溶媒として、環状炭酸エステル又は/及び鎖状炭酸エステルの水素の一部または全部がフッ素化されたフッ素化合物を含む、請求項21に記載した二次電池。
【請求項26】
前記フッ素化合物がジフルオロエチレンカーボネートである、請求項25に記載した二次電池。
【請求項27】
電解質にスルトン類が含まれる、請求項21に記載した二次電池。
【請求項28】
前記スルトン類が1,3−プロペンスルトンである、請求項27に記載した二次電池。
【請求項29】
電解質にホウ素とフッ素とを含有する化合物を含む、請求項21に記載した二次電池。
【請求項30】
銅又は銅合金からなり、電池用電極を構成する電極集電体の検査方法であって、その表面及び/又は裏面の色を、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有するものを良品として選別する、電極集電体の検査方法。
【請求項31】
銅又は銅合金からなる電極集電体を有する電池用電極の製造方法であって、前記電極集電体の表面及び/又は裏面の色を、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有する電極集電体を良品として選別し、これを用いて電池用電極を製造する、電池用電極の製造方法。
【請求項32】
銅又は銅合金からなる電極集電体を有する電池用電極によって構成される二次電池の製造方法であって、前記電極集電体の表面及び/又は裏面の色を、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系に基づいて数値化し、
50≦L*≦80、5≦a*<60、5≦b*<60
で示される色空間に属する色を有する電極集電体を良品として選別し、これを用いて電池用電極を作製し、二次電池の電極として組み込む、二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−10320(P2008−10320A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180216(P2006−180216)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】