説明

電気−機械変換素子を使用した駆動装置

【課題】 数μm程度以下の微小な位置決めを容易で再現性良く得られる、電気−機械変換素子を使用した駆動装置を提供すること。
【解決手段】 電気−機械変換素子と、変換素子に結合して変換素子とともに駆動する駆動部材2と、駆動部材2に摩擦結合した移動部材3とから構成され、駆動部材2と移動部材3の摩擦結合面5の表面が、それぞれ、移動部材3の移動方向に沿って、一定間隔で凹凸形状を有しているため、数μm程度以下の微小な位置決めを再現性良く実現することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラその他の精密機器を構成する部材を駆動する電気−機械変換素子を使用した駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラにオートフォーカスやズーム機能を持たせるためには、光軸に沿って光学レンズを移動させる機構が必要であり、従来から電磁式のモータを用いた方法が知られている。近年、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話にみられるように、機器の小型化が急速に進み、それに伴って電磁式のモータから、圧電素子に代表される電気−機械変換素子によるレンズ移動の方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、駆動摩擦部材を圧電素子に接着し、駆動摩擦部材を振動させることで光学レンズを駆動させる構造が開示されており、図3は従来の電気−機械変換素子を使用した駆動装置の駆動原理を示す説明図である。電気−機械変換素子11の端部に錘12が接続され、他端に駆動部材13が接続される。駆動部材13には摩擦結合面15を介して移動部材14が結合している。このとき、電気−機械変換素子11に電圧をパルス的に印加することで急激に伸ばし、その後ゆっくりと縮める、という操作を連続的に行うと、移動部材14は駆動部材13の軸方向に沿って移動する。また、電気−機械変換素子11を、ゆっくりと伸ばし、その後急激に縮めるという操作を施すと、移動部材14は逆方向に移動する。このとき、移動部材14の移動量は、電気−機械変換素子11の伸縮量によって決まるため、移動部材14はパルス的に連続移動する。
【0004】
また、特許文献2には、駆動部材と移動部材とが面で接触するように構成することで、安定した駆動力が得られる構造が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−218773号公報
【特許文献2】特開平07−274543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている方法では、圧電素子の伸びの速度と縮みの速度とを異ならせる電圧印加手段によって圧電素子を周期的に伸縮させ、レンズ保持体等の移動部材を間欠的に微小送りさせている。すなわち、圧電素子の伸縮量が移動部材の位置決め精度にほぼ一致している。
【0007】
しかしながら、圧電素子を数10kHz以上の超音波領域で高周波動作させると、電圧印加開始および停止時において、圧電素子の過渡特性により伸縮量が変化する。即ち、電気−機械変換素子の過渡特性によって電圧印加時と停止時の伸縮量が変化するため、移動部材の総移動量は、印加した電圧パルス数と1パルス当たりの移動量との積とは一般には一致しない問題があった。
【0008】
また、特許文献2では、移動部材と駆動部材の摩擦力のばらつきなどが原因で、数μm程度以下の微小な位置決めを再現性良く実現することが困難であった。
【0009】
本発明は、従来の電気−機械変換素子を使用した駆動装置の欠点を解消し、この状況にあって、単純な構造を持ち、数μm程度以下の微小な位置決めを容易で再現性良く得られる、電気−機械変換素子を使用した駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題の解決のため、電気−機械変換素子と、前記電気−機械変換素子に結合し、ともに駆動する駆動部材と、駆動部材に摩擦結合した移動部材から構成してなる駆動装置において、駆動部材と移動部材の摩擦結合面の表面が、それぞれ、移動部材の移動方向に沿って一定間隔で凹凸形状を有していることを特徴とする電気−機械変換素子を使用した駆動装置である。
【0011】
さらに、凹凸形状の高さが1〜10μmの範囲で、かつ、凹凸形状の凹凸間の距離が移動部材の移動方向に沿って、0.5〜5μmの範囲で形成してなることを特徴とする電気−機械変換素子を使用した駆動装置である。
【発明の効果】
【0012】
従って、本発明によれば、駆動部材と移動部材の摩擦結合面の表面が、それぞれ、移動部材の移動方向に沿って、一定間隔で凹凸形状を有しているため、凹凸の間隔を位置決め精度とする電気−機械変換素子を使用した駆動装置を得ることができる。
【0013】
また、凹凸形状の高さが1〜10μmの範囲で、かつ、移動部材の移動方向に沿って0.5μm〜5μmの範囲の一定間隔で形成することにより、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話などの光学レンズの駆動装置に応用でき、オートフォーカスやズーム機構に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係わる駆動装置の説明図である。図1(a)は分解図、図1(b)は組立図である。本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。電気−機械変換素子として積層型圧電セラミック素子1を直方体状に作製し、この積層型圧電セラミック素子1の端部にステンレス製の錘4を接着する。さらに、他端に、カーボンを分散したポリカーボネートを材質とする円筒形の駆動部材2を接着する。
【0015】
また、カーボンを分散したポリカーボネートを材質とし、射出成形法にて作製した移動部材3は、所定の外径、内径を有したリング状構造であり、末端を割りピンから成るねじ部材(図示せず)によって駆動部材2を締め付けることで、摩擦結合面5における摩擦力を調整できるようにしている。
【0016】
ここで、電気−機械変換素子として積層型圧電セラミック素子1を用いたが、素子の構造は特に限定されず、バイモルフ型振動子あるいはユニモルフ型振動子を用いることもできる。また、駆動部材2の形状を中実円筒としたが、中空円筒や直方体や立方体または矩形板でも構わない。また、積層型圧電セラミック素子1の形状も矩形以外に円盤形状とすることもできる。
【0017】
本実施の形態においては、摩擦結合面5の凹凸部を、移動部材3と駆動部材2のそれぞれの内径、外径表面全体に形成したが、必ずしも表面全体に形成する必要はなく、移動部材3の移動方向に沿って適当な幅で形成されていれば本発明の効果が得られる。
【0018】
また、積層型圧電セラミック素子1の材質は、ジルコン酸チタン酸鉛[Pb(Zr・Ti)O3]を主成分とする圧電セラミックスであることが好適であるが、他に、ビスマス層状セラミックス、ニオブ酸カリウムあるいはニオブ酸ナトリウムを主成分とするセラミックスなどの、非鉛材料なども使用可能である。また、ニオブ酸リチウムなどの単結晶材料も使用可能である。
【0019】
ジルコン酸チタン酸鉛[Pb(Zr・Ti)O3]を主成分とする圧電セラミックスによる積層型圧電セラミック素子1の作製については、一般的な圧電セラミクスの製法により、焼結体を製造し、機械加工などにより所定の形状とした後、銀などを用いて外部電極を形成後、厚さ方向に分極処理を施す。その後、錘4に接着することで、駆動部材2を製造する。また、積層型圧電セラミック素子1の圧電セラミックスの厚さを薄くして積層数を大きくすることで、発生変位を大きくでき、駆動電圧の低電圧化にも有効である。
【0020】
積層型圧電セラミック素子1の製造方法は、一般的な方法を用いればよい。たとえば、ドクターブレード法などの方法で所定の厚さのセラミックグリーンシートを製造し、スクリーン印刷法などで所定の形状にAg/PdペーストやCuペーストを内部電極として印刷した後、トリミングおよび所定枚数を積層する。熱プレス後に所定の形状に打ち抜き、脱バインダー、焼結の工程により製造すればよい。
【0021】
移動部材3と駆動部材2は、摩擦結合面5の凹凸形状を形成可能な材質であればカーボンを分散したポリカーボネートには限定されない。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態に係わる摩擦結合面の断面の概念図である。本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。移動部材3と駆動部材2の摩擦結合面5は、一定間隔で凹凸形状を有している。凹凸部の高さt、すなわち移動方向に対する凹部及び凸部の頂点間の垂直距離を1〜10μmとし、前記2つの頂点間の移動方向の水平距離dを0.5〜5μmとするのが良い。
【0023】
圧電素子の発生変位、および、摩擦結合面5の摩擦力を調整することで、移動部材3の1パルス当たりの移動量を適宜調整することが可能であり、移動部材3の移動量にあわせて凹凸間の距離は適宜決定される。しかし、一般的な圧電素子の発生変位から、dの上限は5μ程度とし、また、移動部材3と駆動部材2の加工精度の点からdの下限値は0.5μm程度とすることが好ましい。
【0024】
凹凸部の高さtについては、10μmを超えると圧電素子の発生変位によらず移動部材3が移動することが困難となり、1μm未満では本発明による効果がなくなるため、tの範囲は1〜10μmが好適である。なお、図2に示した凹凸形状に限定されるものではなく、矩形状、サインカーブ状の曲線状など適宜選択するのがよいが、種々の実験結果によれば、図2のような鋸刃形状が好ましい。
【0025】
圧電素子の発生変位が0.5μm程度以下の場合や、摩擦結合面5の摩擦力がばらついて移動部材3の1パルス当たりの移動量が0.5μm程度以下となった場合も、摩擦結合面5の摩擦力を調整することで、移動部材3を移動させることが可能である。印加電圧のパルス数と移動部材3の移動量を1対1で対応させることは困難となるが、この場合においても、本発明の実施の形態によれば移動部材3の位置は常にデジタル的に決定できるため、従来技術に比較して、位置決め精度を向上させることが容易となる。
【実施例】
【0026】
次に、具体的な実施例を挙げ、本発明の電気−機械変換素子を使用した駆動装置について、さらに詳しく説明する。
【0027】
図1(a)、図1(b)で示した電気−機械変換素子として積層型圧電セラミック素子1を断面2×2mm、高さ4mmの大きさの矩形板状に作製した。このとき、印加電圧0〜20Vに対して、発生変位は1.5μmであった。この積層型圧電セラミック素子1の端部にステンレス製の錘4を接着し、さらに、他端に、カーボンを分散したポリカーボネートを材質とする、直径1.5mm×長さ10mmの円筒形の駆動部材2を接着した。
【0028】
また、カーボンを分散したポリカーボネートを材質とし、射出成形法にて作製した移動部材3は、外径1.7mm、内径1.4mmのリング状構造であり、末端を割りピンから成るねじ部材によって移動部材3を駆動部材2に締め付けることで、摩擦結合面5における摩擦力を調整できるようにした。
【0029】
次に、積層型圧電セラミック素子1に振幅が0〜20Vの鋸刃形状のパルス電圧を連続的に印加すると、移動部材3は1パルス当たり、大略1μm移動し、摩擦結合面5の距離dを1μmとして形成しているため、1パルスで1μmの移動が可能となった。また、電圧印加開始、停止時の過渡状態において1パルス当たりの移動量が1μm未満であると凸部を乗り越えることができず、移動部材3は移動しなかった。
【0030】
電圧印加開始、停止時の過渡状態において、1パルス当たりの移動量が1μm未満となるパルス数を予め測定しておけば、入力パルス数から正確な移動量を設定することができた。本発明の実施の形態においては、印加開始、停止時において、それぞれ3パルスの移動量が1μm未満であった。
【0031】
図1および図2の最良の実施の形態において、パルス電圧として20Vpp(ピークトゥーピーク)の鋸刃形状の電圧を所定パルス数を印加し、そのときの移動体の移動量を測定した。測定は5回繰り返し行い、その平均値とばらつきを表1に示した。比較として、摩擦結合面に凹凸を形成していない従来法による結果も従来例として示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から、本発明により、数μm以下の位置決め精度が得られていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係わる駆動装置の説明図。図1(a)は分解図、図1(b)は組立図。
【図2】本発明の実施の形態に係わる摩擦結合面の断面の概念図である。
【図3】従来の電気−機械変換素子を使用した駆動装置の駆動原理を示す説明図。
【符号の説明】
【0035】
1 積層型圧電セラミック素子
2 駆動部材
3 移動部材
4 錘
5 摩擦結合面
11 電気−機械変換素子
12 錘
13 駆動部材
14 移動部材
15 摩擦結合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械変換素子と、前記電気−機械変換素子に結合し、ともに駆動する駆動部材と、前記駆動部材に摩擦結合した移動部材から構成してなる駆動装置において、前記駆動部材と前記移動部材の摩擦結合面の表面が、それぞれ、前記移動部材の移動方向に沿って一定間隔で凹凸形状を有していることを特徴とする電気−機械変換素子を使用した駆動装置。
【請求項2】
前記凹凸形状の高さが1〜10μmの範囲で、かつ、前記凹凸形状の凹凸間の距離が前記移動部材の移動方向に沿って、0.5〜5μmの範囲で形成してなることを特徴とする請求項1に記載の電気−機械変換素子を使用した駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−318887(P2007−318887A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144793(P2006−144793)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】