説明

電気めっき装置

【課題】良質で均一な金属膜を簡易かつ高い生産性で半導体ウェハ上に形成できる電気めっき装置を提供すること。
【解決手段】1つのめっき浴内でめっき液を循環させ、カソードであるウェハ14a〜14cとアノード13a〜13cである電極との間を通電させて該ウェハ14a〜14cに対して電気めっきを施す電気めっき装置1であって、ウェハ14a〜14cの表面近傍のめっき液を攪拌して乱流化するパドル18と、めっき浴中のめっき液全体を攪拌する攪拌子19と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウェハ等の表面に金属膜を形成する電気めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体素子製造のバンプ形成工程や配線形成工程などでは、半導体ウェハ上に金や銅などの金属膜を厚さ数μmにわたって形成するが、この金属膜の形成は、電気めっき法が用いられる。この金属膜は、半導体素子に電流を導入する役割を果たすため、良好な導電特性を有している必要がある。従って、電気めっきでは、高純度な膜質と均一な膜厚とをもつ金属膜を形成することが求められる。
【0003】
電気めっきは、半導体ウェハをカソードとし、アノードと共にめっき液中に浸漬し、電極間に電圧をかけ、めっき液中の金属イオンを半導体ウェハ上に析出させることによって金属膜を形成する。このとき、金属イオンが半導体ウェハ表面から電子を受け取るため、電極間に電流が流れる。従って、金属膜の析出量は、めっき中に流れた電流の時間積分でおおよそ決まる。ただし、所望の膜質および膜厚の金属膜を半導体ウェハ面内で均一、かつ半導体ウェハ間で安定的に形成するためには、めっき時間と投入電流量とを決めるだけでなく、半導体ウェハ表面におけるめっき液の温度場、流れ場、濃度場、電場、純度をそれぞれ厳密に制御する必要がある。
【0004】
このような要求を満たすため、電気めっき装置には様々な工夫がなされ、温度場、流れ場、濃度場を制御するものとしては、めっき液を噴流として被めっき面にあてて攪拌を行うもの(特許文献1参照)、半導体ウェハ表面において流れを定常的な層流とするもの(特許文献2参照)、半導体ウェハ表面近傍の流れを断続的に乱流とするもの(特許文献3参照)が開示されている。
【0005】
また、電場を制御するものとしては、アノードとウェハとの間に遮蔽板を設けるもの(特許文献4,5参照)、棒状のアノードでウェハ表面近傍を走査するもの(特許文献6参照)が開示されている。
【0006】
さらに、純度を制御するものとしては、めっき浴外にめっき液循環用ポンプ、不純物除去用フィルター、および温調機構を設け、めっき中は常にめっき液を循環させるようにしている(特許文献1〜6参照)。このような循環系を用いるのは、めっき中は、ウェハ表面に金属が析出することに付随する反応としてめっき液中に水酸化物が生成することや、めっき液外からも細かい塵や埃などを取り込むことなどにより、浮遊物が発生し、これらの浮遊物が、めっき液中の金属イオンを取り込みやすく、クーロン力によりウェハ上に吸い寄せられて堆積し、金属膜中で不純物として比抵抗を増大させる要因となるからである。
【0007】
【特許文献1】特公昭60−58799号公報
【特許文献2】特開平7−54189号公報
【特許文献3】特開平9−273000号公報
【特許文献4】特公昭61−48590号公報
【特許文献5】特開2003−34893号公報
【特許文献6】特許第2935647号明細書
【特許文献7】特開平6−280098号公報
【特許文献8】特許第2598877号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した循環系を設けると、電気めっき装置全体が複雑化し、コストアップやメンテナンス性の悪化を招くだけでなく、めっき液循環用ポンプが送り出す流量や温調機構の制御温度などのばらつき要因が増える結果となってしまい、結果として均一な金属膜を形成できないという問題点があった。
【0009】
また、亜硫酸系のめっき液を使用する場合は、めっき液中の亜硫酸イオンが空気中の酸素によって酸化されやすく、この酸化物も金属膜中に不純物として取り込まれてしまうことがあるため、空気との接触を極力避ける必要がある。ここで、循環系を備えた電気めっき装置は、浴外にめっき液をオーバーフローさせる際に空気と触れる機会が多くなるため、めっき液の寿命が短くなってしまうという問題点がある。これに対して、めっき浴と循環系を不活性ガス雰囲気としてめっき液の酸化を防ぐものが開示されている(特許文献7参照)が、この不活性ガス雰囲気を用いると更なる装置のコストアップを生じさせるという問題点がある。
【0010】
一方、実際の半導体素子製造工程では、上述しためっき液の管理によって均一で良質な金属膜が得られるということに加え、高い生産性が求められる。すなわち、1枚のウェハにめっきするための時間は、めっきに最適な電流密度と必要な膜厚から概ね決まってしまうため、電気めっきによる金属膜形成の生産性を向上するには複数枚のウェハを同時にめっきできることが重要となる。
【0011】
しかし、1つのめっき浴に複数のウェハおよびアノードを浸漬して同時にめっきを行おうとすると、各電極間にめっき液を媒体とした迷走電流が生じ、不安定な電場が形成されてしまい、結果として良質でかつ均一な金属膜を形成できないという問題点があった。
【0012】
そこで、図18に示すように、ウェハをそれぞれ独立のめっき液系に浸漬、給電する方法が考えられるが、この方法の場合、それぞれのめっき液系ごとにイオン濃度などの管理を行う必要があり、ウェハ間で膜質や膜厚がばらつく要因となってしまう。また、この方法は、ウェハ単枚用の装置自体を複数用意することに他ならず、同時処理するウェハの枚数分のめっき装置を用意しなければならない。このため、複数の独立しためっき浴および循環系に対して共通の貯液タンクを設け、同一のめっき液を供給する方法が一般的である(特許文献8参照)。
【0013】
しかし、共通のめっき液を用いるので、上述したように、めっき液を媒介した迷走電流が生じるのを避けることはできない。さらに、循環系が独立しているため、ポンプや温調機構が各循環系によってばらつく要因となり得る。また、図18に示した、電気めっき装置自体を複数用意する装置に比べると、貯液タンクが共通となっただけであり、めっき浴や循環系は同時処理するウェハの枚数分用意しなければならないことに変わりはなく、装置構成が複雑かつ大きくなる。
【0014】
これに対して、図19および図20に示すように、1つのめっき浴で複数枚のウェハに対してめっきを行うことが考えられるが、いずれの場合もウェハ間での迷走電流を効果的に抑制できず、ウェハ間で析出量のばらつきが生じてしまうという問題点があった。
【0015】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、良質で均一な金属膜を簡易かつ高い生産性で半導体ウェハ上に形成できる電気めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる電気めっき装置は、1つのめっき浴内でめっき液を循環させ、カソードである被めっき物とアノードである電極との間を通電させて該被めっき物に対して電気めっきを施す電気めっき装置であって、被めっき物の表面近傍のめっき液を攪拌して乱流化する局所攪拌手段と、前記めっき浴中のめっき液全体を攪拌する全体攪拌手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記全体攪拌手段は、前記被めっき物近傍の流速に比して前記めっき浴の底部の流速を遅くし、該めっき浴の底部においてめっき浴中の浮遊物を沈殿させる淀み領域を形成することを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、複数の被めっき物が同一のめっき浴内に配置された状態で各被めっき物に対して同時にめっきする電気めっき装置であって、アノードである電極に共通接続され、カソードである各被めっき物毎に電流を供給する複数の可変電源と、各可変電源から供給される電流値を制御し、前記アノードである電極の電位を等しくする制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記被めっき物の表面近傍のめっき液を攪拌して乱流化する局所攪拌手段と、前記めっき浴中のめっき液全体を攪拌する全体攪拌手段と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記全体攪拌手段は、前記被めっき物近傍の流速に比して前記めっき浴の底部の流速を遅くし、該めっき浴の底部においてめっき浴中の浮遊物を沈殿させる淀み領域を形成することを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記アノードである電極と前記被めっき物である半導体ウェハとを略平行に配置したことを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記被めっき物である半導体ウェハを略水平上向きあるいは略水平下向きに設置したことを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記被めっき物である半導体ウェハを同一水平面上に配置したことを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記被めっき物と前記アノードとの間に該被めっき物の形状に応じた誘電体部材を設置することを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる電気めっき装置は、上記の発明において、前記めっき液の表面を不活性ガス雰囲気で覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
この発明にかかる電気めっき装置は、局所攪拌手段が、被めっき物の表面近傍のめっき液を攪拌して乱流化するとともに、全体攪拌手段が、前記めっき浴中のめっき液全体を攪拌するようにしているので、めっき液の温度場、流れ場、濃度場、電場、純度を効果的に均一に管理することができ、1つのめっき浴で複数、同時にめっきを行う場合であっても、被めっき物間・バッチ間で膜質、膜厚がばらつくことがなく、安定して金属膜を形成することができ、簡易な構成で、良質で均一な金属膜を高い生産性で形成できるという効果を奏する。
【0027】
この発明にかかる電気めっき装置は、複数の被めっき物が同一のめっき浴内に配置された状態で各被めっき物に対して同時にめっきする場合、アノードである電極に共通接続され、カソードである各被めっき物毎に電流を供給する複数の可変電源と、各可変電源から供給される電流値を制御し、前記アノードである電極の電位を等しくする制御手段とを設け、アノードである各電極の電極電位を等しくした状態で、各被めっき物に対する電流値を制御することができるので、迷走電流の発生をなくすことができ、これによって、被めっき物間・バッチ間で膜質、膜厚がばらつくことがなく、安定した金属膜を形成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明を実施するための最良の形態である電気めっき装置について、図面を参照して説明する。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1である電気めっき装置の概要構成を示す模式図である。また、図2は、図1に示した電気めっき装置の概要構成を示す斜視図である。さらに、図3は、図1に示した電気めっき装置における被めっき物であるウェハ近傍のめっき液の流れを示す模式図である。図1〜図3において、この電気めっき装置1は、外部にめっき液の循環系をもたず、1つのめっき浴内で1以上のウェハに対して電気めっきを施すものである。
【0030】
電気めっき装置1は、めっき容器10内に亜硫酸系(ノンシアン系)のめっき液11を満たしためっき浴を形成し、カソードとしての被めっき物である3つのウェハ14a〜14cをめっき浴内に配置するとともに3つのアノード13a〜13cをめっき浴内に支持する3つの固定治具12a〜12cを有する。各ウェハ14a〜14cは、めっき面を略水平上向きされて固定治具12a〜12cに配置され、各アノード13a〜13cは、各ウェハ14a〜14cにそれぞれ対応して略平行に設けられる。
【0031】
めっき浴の底部には、めっき液全体を定常的に攪拌する攪拌子19が設けられる。攪拌子19は、めっき容器10の底部に設けられた攪拌子回転部20による回転磁界によって回転され、この回転よってめっき浴内のめっき液全体を攪拌する。また、ウェハ容器10の中央上部に設けられたモータ17の軸先端にパドル18が取り付けられる。このパドル18は、ウェハ14a〜14cとアノード13a〜13cとの各間を回転走行するように配置され、特にウェハ表面近傍を断続的に攪拌する。
【0032】
各ウェハ14a〜14cには、それぞれ対応する可変電源15a〜15cが接続されてとともに、この可変電源15a〜15cに電流計16a〜16cがそれぞれ直列接続されて、各ウェハ14a〜14cに流れる電流量が制御される。また、各アノード13a〜13cは、各可変電源15a〜15cのプラス側に共通接続されるため、各アノード13a〜13cの電極電位が等しくなる。
【0033】
めっき容器10の底部には、さらにヒータ21が設けられ、さらに、めっき浴内の温度検出手段としての熱電対22がめっき浴内に設けられ、ヒータ21および熱電対22は、めっき浴の温度調節に用いられる。
【0034】
コントローラCは、モータ17の回転数を制御することによってパドル18によるウェハ近傍の局所的な攪拌を制御する。また、コントローラCは、攪拌子回転部20を制御することによって攪拌子19による回転を制御し、これによってめっき浴内のめっき液全体の攪拌を制御する。さらに、コントローラCは、熱電対22から入力される温度情報をもとにヒータ21の通電量を制御し、めっき浴の温度を制御する。また、コントローラCは、各電流計16a〜16cから入力される電流値をもとに各可変電源15a〜15cを制御し、これによって各ウェハ14a〜14cに流れる電流量、すなわち、めっきの析出量を制御する。
【0035】
図3に示すように、パドル18がウェハ14bとアノード13bとの間を断続的に移動することによって、このウェハ14bとアノード13bとの間には乱流領域E1が生成し、めっき液の流れが、乱流化される。
【0036】
ところで、一般の電気めっき装置では、攪拌子19のみによってめっき液を攪拌するようにしていたが、この場合、めっき表面は、凹凸の激しい膜を形成していた。たとえば、半導体製造工程におけるバンプや配線形成工程では、ウェハに対して電気めっきを行うが、この場合、ウェハ表面はスパッタなどによってバリアメタルが全面に形成され、最表面はレジストなどでパターニングされており、めっきによる金属膜はレジストがないバリアメタル上にだけ選択的に形成される。このため、電気めっき時に、ウェハの表面近傍にはレジストにより高さ数μmの凹凸が存在しており、めっき液の流れ場は全体攪拌による一定方向への均一な流れ方とは全く異なり、特に金属膜が形成されるレジストの狭間では巻き込み渦流れや淀みが形成されることになる。金属表面では、随時めっき反応が進行し金属イオンが消費されていることから、巻き込み渦流や淀みのように定常的に不均一な流れ場は、不均一な濃度分布を形成することになり、図5に示すように、レジストの狭間、あるいは上流側と下流側で不均一な成膜が起こり、結果として表面の凹凸が大きくなってしまう。このようにして形成された表面形状を有する金属膜を、配線等に使用する場合、凸部への電荷集中によってスパーク等を発生させ、デバイス性能に致命的な影響を与えることになる。
【0037】
これに対し、この実施の形態1では、パドル18によって、ウェハ14bの表面近傍を攪拌し、乱流を積極的に生じさせて、不均一な流れ場および濃度場をなくすようにしている。特に、ウェハ表面で金属イオンが消費されたウェハ表面近傍に発生する金属イオンの欠乏層を解消し、ウェハ表面近傍での流れ場、濃度場を均一にすることができる。このため、たとえば、図4に示すように、図5と比較してレジストの下流側での金属膜の盛り上がりが小さくなり、平坦な表面形状をもつ金属膜が形成される。なお、このパドル18の攪拌を断続的に行うものとして説明したが、定常的に行ってもよい。
【0038】
また、この実施の形態1では、上述した攪拌子19によってめっき液全体を攪拌して、めっき浴中の温度場、流れ場、濃度場を均一に形成するようにしているが、さらに、この攪拌子19は、めっき浴底部において流速の遅い淀み領域E2を形成するようにしている。
【0039】
通常、めっき浴の底部は、パドル18による攪拌の影響が及ばず、攪拌子19および自然対流のみによってめっき液の流れ場が形成されている。ここで、攪拌子19は、パドル18による攪拌の影響が及ばないめっき浴底部において、めっき浴内の浮遊物が沈殿する遅い流れ場を強制的に生成させる。このめっき浴底部の流れ場の流速は、少なくともウェハ近傍の流れ場の流速よりも遅い流速となる。ここで、ウェハ近傍とめっき浴底部のめっき液は、互いに固定治具12a〜12cの左右を通してウェハ上部とめっき浴底部とを循環することになるが、底部にて浮遊物が沈殿するため、浮遊物は徐々にめっき浴底部に堆積していく。これは、めっき液中の浮遊物は粒子としてブラウン運動をして互いに衝突しつつ浮き沈みをしているため、めっき液の運動エネルギーが小さければ、次第に大きな粒となって沈殿するからである。これにより、ウェハ表面近傍には常に清浄なめっき液が供給されることになる。ただし、めっき終了後はめっき液を浴外の密閉タンクに移して保管するが、その際にフィルタリングによりめっき液中の浮遊物を除去するとともに、めっき浴を純粋等で洗浄する。
【0040】
また、この実施の形態1では、被めっき物である複数のウェハを同時に電気めっきするようにしているが、この場合の電気回路系は、図6に示したように、カソード13a〜13cを共通接続してカソードの電源電位を等しくするとともに、カソードであるウェハ14a〜14cに対してそれぞれ可変電源15a〜15cを設けて電流値を制御するようにしている。
【0041】
この場合、各アノード13a〜13c間では迷走電流は発生せず、各ウェハ14a〜14cに流れる電流を同一になるように制御することで電極電位も等しくなるため、各ウェハ14a〜14cでの金属の析出量は等しくなる。実際には、アノード13a〜13cからは、対をなしているウェハ14a〜14c以外へ迷走電流が流れるが、各アノード13a〜13cの電極電位、各ウェハ14a〜14cの電極電位、各電極間の電位差が等しいため、迷走電流は全てのアノード13a〜13cから均等に流れ、全てのウェハ14a〜14cに均等に流入する。この結果、迷走電流は互いに相殺され、実質的に無視できるようになる。従って、わざわざ同時に処理するウェハの枚数分のめっき浴や循環系を設ける必要がなくなるだけでなく、特別な制御なしに各ウェハ14a〜14c表面の温度場、流れ場、濃度場を均一にすることができる。
【0042】
なお、図6に示した構成では、理論上、迷走電流は相殺され、ウェハ14a〜14c間で析出量の違いは出ないはずである。しかし、実際には、配線の分岐部分からアノード13a〜13cまでの配線や接続部分での抵抗値が異なると、その部分での電位損失のために、それぞれのアノード13a〜13cの電極電位が異なってしまい、迷走電流を誘発してしまう。通常、電気めっき装置ではワニ口クリップなどにより電極に給電することが多いが、このような方法は接触信頼性が低く、接触抵抗が大きいばかりでなく再現性も得られない。また、接続部がめっき液からの蒸発する水蒸気に曝される部分にあると、電蝕反応を起こしやすくなり、さらに接触信頼性が低下する。ここで、アノード13a〜13cへの配線の分岐部分からの電位損失を制御することで、アノード13a〜13c間の電位差をなくすことができる。なお、たとえば、図19に示した回路構成では、アノード同士の電極電位を同一にすることは原理的に困難である。また、図20に示した回路構成では、カソード側の分岐部分からの電位損失も制御しなければならないが、カソードであるウェハに対してはウェハ表面に電極金属を押し当てて給電する必要があり、ここでの接触抵抗をバッチ間で安定に制御することは困難である。すなわち、アノード13a〜13cの電極電位を厳密に揃えるために、配線及び接続部分の抵抗を等しくなるようにし、この結果、迷走電流をなくすことができ、各ウェハ間の膜厚のばらつきを小さくすることができた。
【0043】
ところで、上述した実施の形態1では、パドル18を用いた局所的な攪拌と、攪拌子19を用いた全体的な攪拌とを行うようにしていたが、図8は、パドル18を用いない場合におけるめっき後の金属表面結果を示す図である。めっき中に、金属表面に浮遊物や気泡が付着すると、付着物に導電性がない場合は、その部分は金属の析出が止まってしまい、付着物が導電性の場合は、その上に金属が析出してしまう。この結果、めっき後の金属表面の凹凸が大きくなってしまい、図8に示すような表面となる。
【0044】
これに対し、この実施の形態1では、パドル18によって、めっき液中の浮遊物や気泡がウェハ表面に付着しない、あるいは付着しても除去することができ、さらに、攪拌子19が形成する淀み領域E1において、ウェハ表面に付着しようとする浮遊物を除去し、トラップするようにしているので、図7に示すように、図8に比して、清浄で平坦な表面を得ることができる。
【0045】
なお、固定治具12a〜12c上に配置されるウェハ14a〜14cは、図9〜図11に示すめっき用治具によって保持される。このめっき用治具は、ベース部材42と導電性部品43と有する。ベース部材42には、平面視円形の凹部42aが形成され、この凹部42a内にウェハ14aが収容される。ベース部材42は、絶縁性部材であればよい。たとえば、塩化ビニル、テフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂または金属にフッ素系樹脂をコーティングしたものである。
【0046】
導電性部品43は、図10に示すように、平面視狭幅の板状体の基部43aと、その一端に固設され、かつウェハ14aと接触する接触部43bとを有する。導電性部品43は、板状体の基部43aの他端に形成された取付孔43cを介してベース部材42の周縁部42bのネジ穴にネジ50によって固定される。
【0047】
この導電性部品43の場合、板状体である基部43aを、弾性を有する素材で構成し、その板状体の幅を狭幅にすることによって、板状体を、板バネのように機能させることができる。なお、導電性部品43に限らず、たとえば、図11に示すように取付孔46cおよび小面積の接触部46aを有する先細りの弾性板状体46bを2箇所で屈曲してなる導電性部品46としてもよい。
【0048】
(実施の形態2)
つぎに、この発明の実施の形態2について説明する。この実施の形態2では、実施の形態1の電気めっき装置に対してさらに、ウェハとアノードとの間に誘電体部材を設け、ウェハの形状に合わせて誘電体部材の形状を調整することによってウェハ表面の電場を制御し、均一なめっき膜を形成するようにしている。
【0049】
図12は、この発明の実施の形態2である電気めっき装置の一部構成を示す模式図である。図12に示すように、この電気めっき装置は、誘電体部材60をウェハ14bとアノード13bとの間のアノード14b側に設けている。ウェハ14bの形状が円形である場合、誘電体部材60が形成する開口形状は、このウェハ14bの円形に比してやや小さい径をもった円形となる。この誘電体部材60は、誘電体による電界の遮蔽効果によってウェハ14b表面の電場を制御するものであり、誘電体部材60の形状は、実験的あるいはシミュレーションによって最適化される。
【0050】
この実施の形態2では、同一めっき浴内で、複数のウェハを同時にめっきすることを前提としているが、この誘電体部材60を設けることによって、迷走電流を抑制し、めっき効率を向上させ、ウェハ間のばらつきもさらに小さく、かつ安定に保つ効果が得られる。なぜなら、この実施の形態2では、迷走電流は各電極間で相殺されるためにほぼ無視できるが、アノードから流れる迷走電流は、対向するウェハへのめっきに寄与しない電流であり、めっき効率を低下させる原因となり、また何らかの原因で相殺されているバランスが崩れると、めっきの結果にばらつきを生じてしまうため、本来は極力抑制されるべきものである。迷走電流は、アノードの部位のうち、ウェハとの間の電場からの拘束を受けない部位の表面から多く流れており、このような部分は表面が露出している必要がない。このため、アノードの露出不要な部分を誘電体部材で覆うことにより、対向するウェハに向かう最適化された電場が集中的に形成され、迷走電流が抑制される。
【0051】
遮蔽板として機能する誘電体部材60の材質は、厚さ0.1mmのフッ素樹脂シートを用いているが、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等、めっき液への化学的耐久性および耐熱性があれば使用可能である。また、この実施の形態2では、誘電体部材60の中央にウェハ14bと同心円状の開口部を設け、この大きさを変えた実験によって最適化を行ったものを用いているが、厚さを変えることや全体に無数の穴を開け、その開口率を同心円状に連続的に変化させる等の形状で最適化したものを用いてもよい。
【0052】
ここで、図13を参照して、誘電体部材60の最適化の結果について説明する。ウェハ14bは、4インチであり、アノード13bは直径約160mmの略円盤状のパンチングメタルであり、アノード13bとウェハ14bとの間の距離はパドル18の通過も考慮して約20mmとした。なお、均一性とは、膜厚ばらつきの標準偏差3σを平均膜厚Tで除算した値を百分率で表したものである。
【0053】
図13は、誘電体部材60の開口径を変えた4インチのウェハ14bの面内均一性およびそのときのめっき膜の概略の分布形状を示している。図13に示すように、誘電体部材60の開口径が約3インチのとき、面内均一性が約15%と最も低く、分布形状も周縁部がやや厚くなるものの、ほぼ平坦となった。この結果から、4インチのウェハ基板に対しては、中心部に直径3インチの開口を有した誘電体部材60が最適であると判断される。
【0054】
なお、この実施の形態2では、4インチのウェハを被めっき物としたが、誘電体部材60の開口径を小さくすることで、たとえば、3インチや2インチ、あるいは矩形のウェハに対応することも可能である。このように、アノードと同等以下の大きさのウェハであれば、誘電体部材60の形状を変えるだけで様々な形状のウェハに対応させることができる。
【0055】
(実施の形態3)
つぎに、この発明の実施の形態3について説明する。上述した実施の形態1,2では、アノードが各ウェハ毎に独立して設置されていたが、この実施の形態3では、各ウェハに共通の1つのアノードをもつようにして、アノード電位が等しくなるようにしている。
【0056】
図14は、この発明の実施の形態3である電気めっき装置の概要を示す平面図である。また、図15は、図14に示した電気めっき装置の斜視図である。図14および図15において、この電気めっき装置では、めっき浴内に、複数のウェハ74a〜74fを浸漬し、その外周にメッシュ状のアノード73を配置している。アノード73は、一体となっているので、電極電位は均一である。各ウェハ74a〜74fは、それぞれ個別にカソード73に接続されており、コントローラCによってアノード73に流れる電流値が制御される。結果的に、図6に示した電気回路系と同じ回路が容易に形成されることになる。
【0057】
なお、この実施の形態3では、ウェハ74a〜74fのめっき表面が鉛直を向くので、めっき時における浮遊物の影響を低減し、さらにこの浮遊物の沈殿効果を高めることができる。
【0058】
また、アノードの電極電位が一定となっていれば、めっき浴内で独立して設けられていてもよい。たとえば、図16に示すように、アノード73を、各ウェハ74a〜74fに対応したアノード73a〜73fとする独立して設けるようにしてもよい。なお、パドル18に対応するパドルは、各ウェハとアノードとの間を攪拌することになる。
【0059】
(実施の形態4)
つぎに、この発明の実施の形態4について説明する。この発明の実施の形態4は、上述した発明の実施の形態1〜3の構成に、さらにめっき液の表面を不活性ガス雰囲気で覆う構成を追加している。
【0060】
図17は、この発明の実施の形態4である電気めっき装置の構成を示す模式図である。図17では、実施の形態1の構成に、さらにガス源81とめっき浴を覆う蓋80とを設けている。蓋80によって画成された空間に、ガス源81から不活性ガスとしての窒素ガスを送り込み、この空間を微陽圧として、大気からの空気の侵入を防ぐようにしている。これによって、めっき液表面は不活性ガス雰囲気で覆われるため、めっき液の酸化が防止される。なお、Oリング等を用いてシールし、完全に大気と隔離しても良い。
【0061】
このようにめっき液表面を窒素ガスで覆うと、めっき液の酸化が防止される。たとえば、亜硫酸系のめっき液を用いて、4インチのウェハ3枚に対するめっきを、大気に曝して使用し続けた場合は、15回程度で金属表面が荒れる等の異常が観察されるたが、めっき液表面を窒素ガスで覆った場合、30会程度まで金属表面が荒れることなく使用することができた。
【0062】
なお、上述した実施の形態1〜3では、めっき中にめっき液をめっき浴外に循環しないで、1つのめっき浴内で複数のウェハに対してめっきすることを前提として説明したが、これに限らず、1つのめっき浴内で1つのウェハに対してめっきするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の実施の形態である電気めっき装置の概要構成を示す模式図である。
【図2】図1に示した電気めっき装置の概要構成を示す斜視図である。
【図3】図1に示した電気めっき装置のアノードおよびカソード近傍の構成を示す模式図である。
【図4】乱流化によるウェハ表面近傍のめっき状態を示す模式図である。
【図5】乱流化を行わない場合におけるウェハ表面近傍のめっき状態を示す模式図である。
【図6】図1に示した電気めっき装置の電気回路系を示す回路図である。
【図7】図1に示した電気めっき装置を用いてめっきを施した場合のウェハ表面を示す図である。
【図8】従来の電気めっき装置を用いてめっきを施した場合のウェハ表面を示す図である。
【図9】ウェハを保持するめっき用治具の構成を示す平面図である。
【図10】めっき用治具の導電性部品の構成を示す斜視図である。
【図11】他の導電性部品の構成を示す斜視図である。
【図12】この発明の実施の形態2である電気めっき装置のアノードおよびカソード近傍の構成を示す模式図である。
【図13】誘電体部材の開口径を変化させた場合におけるめっき膜の均一性およびめっき膜の概要分布形状を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態3である電気めっき装置の概要構成を示す平面図である。
【図15】図14に示した電気めっき装置の概要構成を示す斜視図である。
【図16】この発明の実施の形態3の変形例である電気めっき装置の概要構成を示す平面図である。
【図17】この発明の実施の形態4である電気めっき装置の概要構成を示す模式図である。
【図18】従来の電気めっき装置の電気回路系を示す回路図である。
【図19】従来の電気めっき装置の電気回路系の他の例を示す回路図である。
【図20】従来の電気めっき装置の電気回路系の他の例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0064】
1 電気めっき装置
10 めっき容器
11 めっき液
12a〜12c 固定治具
13a〜13c,73,73a〜73f アノード
14a〜14c,74a〜74f ウェハ
15a〜15c 可変電源
16a〜16c 電流計
17 モータ
18 パドル
19 攪拌子
20 攪拌子回転部
21 ヒータ
22 熱電対
42 めっき用治具
43,46 導電性部品
60 誘電体部材
80 蓋
81 ガス源
C コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのめっき浴内でめっき液を循環させ、カソードである被めっき物とアノードである電極との間を通電させて該被めっき物に対して電気めっきを施す電気めっき装置であって、
被めっき物の表面近傍のめっき液を攪拌して乱流化する局所攪拌手段と、
前記めっき浴中のめっき液全体を攪拌する全体攪拌手段と、
を備えたことを特徴とする電気めっき装置。
【請求項2】
前記全体攪拌手段は、前記被めっき物近傍の流速に比して前記めっき浴の底部の流速を遅くし、該めっき浴の底部においてめっき浴中の浮遊物を沈殿させる淀み領域を形成することを特徴とする請求項1に記載の電気めっき装置。
【請求項3】
複数の被めっき物が同一のめっき浴内に配置された状態で各被めっき物に対して同時にめっきする電気めっき装置であって、
アノードである電極に共通接続され、カソードである各被めっき物毎に電流を供給する複数の可変電源と、
各可変電源から供給される電流値を制御し、前記アノードである電極の電位を等しくする制御手段と、
を備えたことを特徴とする電気めっき装置。
【請求項4】
前記被めっき物の表面近傍のめっき液を攪拌して乱流化する局所攪拌手段と、
前記めっき浴中のめっき液全体を攪拌する全体攪拌手段と、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載の電気めっき装置。
【請求項5】
前記全体攪拌手段は、前記被めっき物近傍の流速に比して前記めっき浴の底部の流速を遅くし、該めっき浴の底部においてめっき浴中の浮遊物を沈殿させる淀み領域を形成することを特徴とする請求項4に記載の電気めっき装置。
【請求項6】
前記アノードである電極と前記被めっき物である半導体ウェハとを略平行に配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の電気めっき装置。
【請求項7】
前記被めっき物である半導体ウェハを略水平上向きあるいは略水平下向きに設置したことを特徴とする請求項6に記載の電気めっき装置。
【請求項8】
前記被めっき物である半導体ウェハを同一水平面上に配置したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の電気めっき装置。
【請求項9】
前記被めっき物と前記アノードとの間に該被めっき物の形状に応じた誘電体部材を設置することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の電気めっき装置。
【請求項10】
前記めっき液の表面を不活性ガス雰囲気で覆うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の電気めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図4】
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