説明

電気光学的または電気機械的な構造部材または摺動部材

本発明は、CuまたはCu合金帯板、AlまたはAl合金帯板、FeまたはFe合金帯板、TiまたはTi合金帯板、NiまたはNi合金帯板または特殊鋼帯板からなる金属帯板またはそれから製造された薄板の圧延された金属基体からなる、電気光学的または電気機械的な構造部材、特にLED、コネクタあるいはリードフレーム、または摺動部材に関する。この表面の構造は、高い反射性の表面被覆の場合であっても、光学的な方法での接合を可能にし、同時に使用中の部材の機能性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前提部分に従った電気光学的または電気機械的な構造部材または摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延により表面を構造化する可能性はすでにアルミニウム業界やスチール業界により公知であり、そこでは車体部品として使用するためのアルミニウム板や鋼板を構造化して、その後に続く引張り成形の際に塗装後の車体表面上にフローマークが見えないようになっている。作業ロールの表面あるいは直接に帯板を構造化する方法の例として、レーザーダル加工、研磨あるいは放射線照射がある。いわゆるEBT法(lectron eam exturing)やEDT法(lectro ischarge exturing)もすでに公知のダル加工表面製造方法である。しかし、こうした圧延による構造化の方法では、多くの用途において光学的もしくは機械的性質に対する要求を満たさない、不規則で幾何学的な形を有する極めて粗い表面が生じることになる。
【0003】
特許文献1からは、照明の反射器系に適した、機械的にダル加工されたアルミニウム合金からなる薄板が公知である。この用途のために薄板は相応する光学特性を有している必要がある。重要な光学特性の一つは全反射率が高いことであり、これにより表面への入射光が可能な限り高い比率で反射する。薄板表面の有利な特性の一つはさらに、拡散性あるいは全方向性の光反射である。このような特性は、ダル加工された少なくとも一つの作業ロールを使って薄板材料を圧延することにより得られる。微視的な凹部が表面全体にランダムに形成された、全方向性、拡散反射性の薄板表面が生じる。有利には、この凹部が、緊密に並んでいるか重なり合っている屋根瓦状の構造の、互いに噛み合った形を構成しているのがよい。
【0004】
別の用途は特許文献2から公知である。ここに記載された方法では、金属薄板または金属帯板を表面にダル加工模様を有するロールの間に通し、この模様を複数のロールパスを介して薄板や帯板に転写する。ロールパス毎に刻まれた構造は重なり合って最終的なダル加工模様となる。上下に配置された多数のロール対の間を通る一回のロールパスによってもこのような構造を作ることができる。アルミニウム帯板のダル加工では、多数のロールパスの後に微視的な表面模様が形成される。変形度を可能な限り小さくすることで、ロールによって設定された本来の歪みのない構造が十分に達成される。このように製造された金属薄板は、有利には、平版印刷用刷板や自動車の反射板として使用される。
【0005】
別の平版印刷用刷板は特許文献3から公知である。ここで圧延により形成された構造は、表面に刻まれた凹部が相互に強く重なり合っているか互いに入り込みながら移行する、一つにまとまった全方向的な微細構造として構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第1146971号明細書
【特許文献2】欧州特許第1368140号明細書
【特許文献3】国際公開第97/31783号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電気機械的な構造部材もしくは摺動部材において摩擦特性に関する機能性を改善することを課題としている。また、電気光学的な構造部材においては、反射と冷却の点で機能性を最適にするべきある。本発明は請求項1の特徴部分により再現される。その他の従属する請求項は本発明の好適な態様および別の態様に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、CuまたはCu合金帯板、AlまたはAl合金帯板、FeまたはFe合金帯板、TiまたはTi合金帯板、NiまたはNi合金帯板または特殊鋼帯板からなる金属帯板またはそれから製造された薄板の圧延された金属基体からなる、電気光学的または電気機械的な構造部材、特にLED、コネクタあるいはリードフレーム、または摺動部材を包含している。前記金属基体は、Ra=0.01〜8μm、および/またはRz=0.01〜30μmの範囲の粗さの表面構造を有する。この表面構造は、最小の横方向広さが0.3〜300μmである凹部を有する。この凹部は、帯板表面と平行で縦横比が10:1から1:10である横方向広さを有する開放構造の中に配置されており、この場合、縦はロール方向に、横はロール方向に対して垂直に測定されたものである。断面空間率λpは0.25から0.65の範囲にある。
【0009】
本発明は、金属帯板や金属薄板の形に圧延された金属基体の表面を電気光学的または電気機械的な構造部材または摺動部材に使用するために微細成形する、という考察から始まっている。この微細構造は、被覆されていない帯板表面や薄板表面内に、あるいは少なくとも1層で覆われた表面内にも取り入れることができる。このために必要とされる、微細薄板構造を形成するためのロールは、車体の組立て分野ですでに公知である。例えば、電気分解で形成された構造と硬質クロムめっきを有するロール表面がある。
【0010】
開放構造とは、本発明の意味においては、基体材料上の、まだ認識可能な平滑な表面上に個別の凹部を有している表面形状のことである。隣り合う凹部は、例えば接触していてもよいし僅かに重なり合っていてもよいが、しかし、構成要素として、表面の地形が一つにまとまった粗さとしてだけ認識できるほど互いに入り込んではいない。したがって、多少なりとも平滑で変形していない本来の残存部分を有する、圧延によって基体表面から作成された微細構造のことである。例えばここでは、その商標名で広く知られているPRETEX−ロール構造が考えられる。このような表面では、表面の本来の残存部分によって高い支持面率が存在することに意義がある。
【0011】
前記の最小の横方向広さを有する凹部は円形を示していてもよい。さらに楕円形も考えられる。楕円形の場合には最小の横方向広さは楕円の小さい方の軸の二倍の値になる。円形の場合には最小の横方向広さは円の直径に相当する。これらの様々な凹部はそれ自体、自身の広さが0.3〜300μmの範囲の全間隔で異なってもよいし、あるいは所定の値を中心に小さく変動してもよい。例えば、最小の横方向広さの代表的な値は20μmであるが、これはガウスの正規分布に近似させると5μmの標準偏差を有する変動幅を有する。均一な構造サイズを製造するために、前記の間隔中にさらに狭い境界を定めてもよい。一度選択した最小の広さが何らかの小さな変動幅を有することは、実際には常に起こることである。
【0012】
原則的には、凹部は、帯板表面と平行で縦横比が10:1から1:10である横方向広さを有する開放構造の中に配置され、この場合、縦はロール方向に、横はロール方向に対して垂直に測定されたものである。通常は円形の境界線に相当する1:1の縦横比を達成するようにする。この凹部の形状に応じて、また圧延時に帯板を引張ることによって、帯板をある程度延伸してもよい。
【0013】
慣用の粗さ特性値であるRaとRzだけでは、まだ満足できるように表面断面形状の構造を決めることはできない。測定方法を介してこのような断面形状を表記するためには、断面空間率λpを使用する。この場合に断面形状に大事なのは、なによりもまず適した支持面率を有している形を選ぶことである。アボット負荷曲線tpならびに立体的空間率を介して粗さ特性値を表記してもよい。
【0014】
特に有利な点は、本発明の構造により摩擦係数、磨耗傾向、擦過腐食傾向、ならびに特に変形後の、接触特性、およびそれによりコネクタにおける機能性が本質的に改善されることにある。特に摩擦係数が減少する。また、レーザー溶接法を使用する場合には、表面の反射率がより少ないことが光線の導入に好ましい影響を与える。このような方法で、前記表面の構造は、高反射性の表面被覆の場合であっても、光学的な方法での接合を可能にし、同時に使用中の構造部材の機能性を改善する。また、本発明によって構造化された表面では、例えば、打ち抜き−曲げ加工法や、深絞りのような他の成形技術の場合でも、潤滑剤の使用を減らすことができる。
【0015】
有利には、電気機械的な構造部材または摺動部材では、凹部の深さに対する最小の横方向広さの比は少なくとも1:83であってよい。比を小さくするには、基体表面に平行な横方向広さを明らかに超える深さを有する凹部が考えられる。比較的大きな比にするには、基体表面に極めて平坦な構造を形成し、それをさらに摩擦係数が効率的に減少するように成形する。有利には、製造技術的にも効率においても好適な深さ対幅の比は、1:3から3:1である。
【0016】
好適には、電気機械的な構造部材あるいは摺動部材では、前記凹部は半球形または角錐形に形成されているか、または多角形の面を有するように形成されていてもよい。表面特性に対する高度な要求を満たすために、帯板表面上には幾何学的絶対的に再現可能な表面構造が必須である。好適なものとして、所定の深さ対直径比と絶対深さを有し、形においては分離されているか重なっているように成形された半球形、球欠状または角錐形の凹部を、帯板表面内に製造した。これらの配置は統計学的には分散しているが、しかし面積の支持面率は30%を超えないものとする。このような幾何学模様は摩擦係数を特に減少させ、圧延方法によって容易に実現することができる。
【0017】
有利には、表面構造の前記凹部は、球欠形、角錐形または多角形の凸部を有する表面を持つ構造化された作業ロールを使って圧延により形成される。このロール表面には、帯板表面または薄板表面に形成することになっている微細構造のネガが形成されている。
【0018】
好適には、この構造は確率的または規則的周期的に構成されていてもよい。規則的周期的構造の場合には、重なり合わないか、またはほんの少しだけ重なり合っている構造を有する平らな島状の範囲でも、局所的に摩擦係数を減少することができる。
【0019】
本発明の好適な実施態様では、構造化すべき基体表面は、未処理であっても、圧延めっきされていても、またはSn、Ag、Au、Ni、Zn、Pdあるいはそれらの合金で被覆されていてもよい。代わりに、構造化された作業ロールによって圧延した後に、基体表面をSn、Ag、Au、Ni、Zn、Pdあるいはそれらの合金で被覆してもよい。例えばコネクタやリードフレームの場合、本発明の表面品質は、レーザー溶接の際にSnまたは貴金属で被覆された表面において材料にレーザー光を効率的に導入するために適している。通常Sn、Ag、Au、Zn、Niあるいはそれらの合金で被覆されているコネクタの場合、本発明の表面構造では、差し込む力と引き抜く力が摩擦係数の減少により小さくなっている。
【0020】
有利には、圧延の前または後の被覆方法として、融解めっき、電気めっき、PVD法、CVD法、陰極または陽極浸漬塗装あるいは化学被覆、また、圧延前には圧延めっきを使用することができる。
【0021】
好適には立体的空間率λrが0.49から0.8の範囲にあるように構成されていてもよい。このような製品は有利には光学的な接合方法に適している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】基体表面の圧延工程の略図である。
【図2】開放構造を有する圧延された基体表面である。
【図3】初期状態の変形していない基体表面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施例:
CuSn3Zn9−帯板を、相応に構造化された作業ロールで圧延し、引き続き3μmの層厚さにスズで電気めっきをし、熱処理して1μmの金属間相を形成した。いわゆる「ライダー・オン・フラット」(rider on flat)の試料配置で磨耗試験を実施したところ、研磨された作業ロールを使った圧延により製造された標準表面における0.7の摩擦係数を、0.45〜0.5まで明らかに減少させることができた。帯板の粗さはこのとき比較でき、それぞれロール方向に対して垂直にRz=1.4およびRa=0.27であった。特別に構造化されたロール表面で圧延された前記表面の等方性は、ロール方向に対して平行な方向と垂直な方向との間で標準偏差が±0.003μmしかなく、優れたものであった。このような帯板は例えばコネクタのための電気工学に使用される。この銅コンパウンド合金は良好なばね特性を有し、応力腐食割れの傾向が少ないことで優れている。
【0024】
本発明の別の実施例を略図と図面に基づいて詳しく説明する。
【0025】
全ての図面において対応する部分には同じ符号が付いている。
【0026】
図1は金属基体1の表面の圧延工程を概略的に示している。この表面は開放構造として形成される。開放構造を形成するために、金属基体1上で、まだ認識可能な平滑な変形していない表面11上に個別の凹部12を圧延により形成する。使用するロール2のロール本体22の表面には球欠体21が配置されており、これが金属基体1の表面に入り込む。これらの球欠体21は例えば同じ大きさなので、基体表面に均一のネガ構造を作る。代わりに、ロール表面の構造サイズをやや強めに変えてもよく、例えば角錐形や円筒形のような他の形も考えられる。いずれにしても、多少なりとも平滑で変形していない本来の表面の残存部分を有する、圧延によって基体表面から作成された微細構造である。
【0027】
図2は開放構造を有する圧延された基体表面を示している。凹部12は、図で左から右に向かうロール方向にやや延伸されている。これは、圧延工程で帯板をより強く引張ることによって、あるいはロール方向に長い構造を有するロール表面によって実現される。ここではこの凹部は、帯板表面に平行で縦横比が約2:1である横方向広さを有する開放構造の中に形成されており、このとき、縦は図2で左から右に向かうロール方向に、横は図2で上から下に向かう、ロール方向に対して垂直な方向に測定される。金属基体1の表面には、凹部12の間に、平滑な変形していない表面11の残部がまだ認識可能である。
【0028】
比較として、図3には圧延前の本来の状態の金属基体1の変形していない表面が示されている。この表面には圧延による凹部はまだ形成されてなく、平行に走る微細な研磨の跡だけが認められる。
【符号の説明】
【0029】
1 金属基体
2 ロール
11 変形していない表面
12 凹部
21 球欠体
22 ロール本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuまたはCu合金帯板、AlまたはAl合金帯板、FeまたはFe合金帯板、TiまたはTi合金帯板、NiまたはNi合金帯板または特殊鋼帯板からなる金属帯板またはそれから製造された薄板の圧延された金属基体からなる、電気光学的または電気機械的な構造部材、特にLED、コネクタあるいはリードフレーム、または摺動部材であって、
−前記金属基体は、Ra=0.01〜8μm、および/またはRz=0.01〜30μmの範囲の粗さを有する表面構造を有しており、
−この表面構造は、最小の横方向広さが0.3〜300μmである凹部を有しており、
−この凹部は、帯板表面と平行で縦横比が10:1から1:10である横方向広さを有する開放構造の中に配置されており、この場合、縦はロール方向に、横はロール方向に対して垂直に測定されたものであり、
−断面空間率λpが0.25から0.65の範囲にある
ことを特徴とする、電気光学的または電気機械的な構造部材または摺動部材。
【請求項2】
前記凹部の深さに対する最小の横方向広さの比が、少なくとも1:83であることを特徴とする、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記凹部が半球形または角錐形に形成されているか、あるいは多角形の面を有するように形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の製品。
【請求項4】
前記表面構造が、球欠形、角錐形あるいは多角形の凸部を表面に有する構造化された作業ロールで圧延することにより形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の製品。
【請求項5】
前記構造が、確率的あるいは規則的周期的に形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の製品。
【請求項6】
構造化される前記基体表面が未処理であるか、圧延めっきされているか、あるいはSn、Ag、Au、Ni、Zn、Pdまたはそれらの合金で被覆されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の製品。
【請求項7】
前記構造化された作業ロールでの圧延の後に、前記基体表面をSn、Ag、Au、Ni、Zn、Pdまたはそれらの合金で被覆することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の製品。
【請求項8】
被覆方法として、融解めっき、電気めっき、PVD法、CVD法、陰極または陽極浸漬塗装あるいは化学被覆または圧延めっきを使用することを特徴とする、請求項6または7に記載の製品。
【請求項9】
立体的空間率λrが0.49から0.8の範囲で形成されていることを特徴とする、上記の請求項のいずれか1項に記載の製品。
【請求項10】
光学的な接合方法によって製造された、請求項9に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−519525(P2013−519525A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552305(P2012−552305)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000583
【国際公開番号】WO2011/098256
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(592179160)ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフト (14)
【氏名又は名称原語表記】WIELAND−WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】