説明

電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器

【課題】外部からの水分浸入を防ぎ、十分な発光特性や発光寿命が得られる電気光学装置、電気光学装置の製造方法、電子機器を提供すること。
【解決手段】電気光学装置としてのEL表示装置1は、基体上に、第1の配線と、第一電極と、前記第一電極に対応する開口を有する隔壁と、前記第一電極上に設けられた有機機能層と、前記隔壁および前記有機機能層上に設けられた第二電極と、前記第二電極と前記第1の配線とを電気的に接続する接続部と、前記第二電極上に設けられた緩衝層と、前記緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を備え、前記第二電極は、前記隔壁を覆う第1の領域と、前記接続部に設けられた第2の領域と、を有し、前記緩衝層は、前記第1の領域を覆う第1の緩衝層と、前記第2の領域を覆う第2の緩衝層と、を有し、前記第1の緩衝層と前記第2の緩衝層とは互いに接触していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び当該発光装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、発光層を備えた有機EL装置が知られている。このような有機EL装置は、陽極と陰極との間に発光層を備えた構成が一般的である。更に、正孔注入性や電子注入性を向上させるために、陽極と発光層の間に正孔注入層を配置した構成や、発光層と陰極のあいだに電子注入層を配置した構成が提案されている。
【0003】
有機EL装置の発光層、正孔注入層、電子注入層、陰極に用いられる材料は、大気中の水分と反応し、劣化し易いものが多い。これらの層が劣化すると、有機EL装置にダークスポットと呼ばれる非発光領域が形成されてしまい、発光素子としての寿命が短くなってしまう。従って、このような有機EL装置において、水分や酸素等の影響を抑えることが課題となっている。
このような課題を解決するために、有機EL装置の基板にガラスや金属からなる封止部材を接着して、水分や酸素の浸入を防止する方法が一般的に採用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化及び薄膜化、軽量化に伴い、接着した封止部材のみで水分や酸素の浸入を防ぐことが難しくなってきている。また、大型化に伴って駆動素子や配線を形成する面積を十分に確保するため、封止部材側から光を取り出すトップエミッション構造を用いる必要性も提案されている。このような要求を達成するためには、透明でかつ軽量、耐強度性に優れた薄膜を用いた薄膜を用いた封止構造が求められている。
【0004】
そこで、近年では、表示装置の大型化及び軽量化に対応するために、発光素子上に透明でガスバリア性に優れた珪素窒化物、珪素酸化物、セラミックス等の薄膜を高密度プラズマ成膜法(例えば、イオンプレーティング、ECRプラズマスパッタ、ECRプラズマCVD、表面プラズマCVD、ICP−CVD等)によりガスバリア層として成膜される薄膜封止と呼ばれる技術が用いられている。しかしこれだけでは、発光層が設けられた画素には、画素隔壁があり、この隔壁により発生する凹凸(段差部)においてガスバリア層の剥離やクラックが発生して、そこからの水分の浸入が認められている。そのため、有機EL素子と隔壁とを覆う無機パッシベーション膜(ガスバリア層)の下側に略平坦な上面を有する樹脂製の封止膜を配置することにより、無機パッシベーション膜(ガスバリア層)におけるクラックの発生を防止することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−284041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような技術を採用した場合でも、外部からの水分浸入を完全に防ぐことができず、十分な発光特性や発光寿命が得られないという課題があった。これは、樹脂製の封止膜が形成されていない、基板配線や、電極と基板配線との接続部等の段差において無機パッシベーション膜(ガスバリア層)の剥離やクラックが発生して水分や酸素の浸入を発生させてしまうためである。水分や酸素の浸入は発光素子のみへ影響するのではなく、陰極や陽極の電極への到達することで、電気抵抗値の増大や、薄膜である電極を膨潤させる等の影響を与え、発光特性や発光寿命を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る電気光学装置は、基体上に、第1の配線と、第一電極と、前記第一電極に対応する開口を有する隔壁と、前記第一電極上に設けられた有機機能層と、前記隔壁および前記有機機能層上に設けられた第二電極と、前記第二電極と前記第1の配線とを電気的に接続する接続部と、前記第二電極上に設けられた緩衝層と、前記緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を備え、前記第二電極は、前記隔壁を覆う第1の領域と、前記接続部に設けられた第2の領域と、を有し、前記緩衝層は、前記第1の領域を覆う第1の緩衝層と、前記第2の領域を覆う第2の緩衝層と、を有し、前記第1の緩衝層と前記第2の緩衝層とは互いに接触していないことを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、緩衝層が隔壁により生じた段差や接続部により生じた段差を覆うので段差面が略平坦となり、略平坦となった緩衝層上にガスバリア層が形成されるため、ガスバリア層の剥離やクラックの発生を防止でき、結果、発光特性や発光寿命の低下を防止できる。また、緩衝層を隔壁により生じた段差と接続部により生じた段差とを分けて覆うことにより、一方の緩衝層が形成されている段差部にガスバリア層に欠陥等が発生し、水分が浸入したとしても、他方の緩衝層部への水分侵入を防ぐことができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例に記載の電気光学装置において、基体上には、第2の配線が設けられ、平面視において、前記第2の配線上には第3の緩衝層が設けられており、前記第1の緩衝層、前記第2の緩衝層および前記第3の緩衝層とは互いに接触していないことを特徴とする。
【0011】
上記適用例によれば、緩衝層が配線より生じた段差をも覆うことができるので、当該段差におけるガスバリア層の剥離やクラックの発生を効果的に防止することができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記第2の配線は、前記第一電極、前記有機機能層および前記陰極を有する発光素子を駆動制御するための配線であることを特徴とする。
【0013】
上記適用例によれば、緩衝層は発光素子を駆動制御するための配線により生じた段差を覆うので、当該段差におけるガスバリア層の剥離やクラックの発生を効果的に防止することができる。
【0014】
[適用例4]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記緩衝層が有機材料からなり、前記ガスバリア層は絶縁性の無機化合物からなることを特徴とする。
【0015】
上記適用例によれば、緩衝層は有機材料であるため厚膜化、平坦化できる。また、ガスバリア層が絶縁性の無機化合物であるため薄膜でも水分や酸素に対するバリア性を得ることができる。これによって平坦な緩衝層上にガスバリア層を形成できるため、ガスバリア層の剥離やクラックを防止できる。
【0016】
[適用例5]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記第二電極と前記ガスバリア層の間に、前記第二電極を覆う保護層を有することを特徴とする。
【0017】
上記適用例によれば、第二電極上に保護層を設けることにより、第二電極上に緩衝層を形成する際に、薄膜である第二電極に加わる外力が緩和され、第二電極の剥離やクラック等の不具合の発生を防止できる。
【0018】
[適用例6]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記保護層が絶縁性の無機化合物からなることを特徴とする。
【0019】
上記適用例によれば、保護層が絶縁性の無機化合物からなるので、薄膜で、弾性率が高い保護層を第二電極上に形成できるため、第二電極の剥離やクラック等の不具合を防止できる。
【0020】
[適用例7]上記適用例に記載の電気光学装置において、前記緩衝層の膜厚は、前記第二電極の膜厚と前記保護層の膜厚とを合計した膜厚よりも厚いことを特徴とする。
【0021】
上記適用例によれば、第二電極を覆う保護層に生じた段差を緩衝層で平坦化できるため、第二電極上の段差を保護層で平坦化する必要が無くなり、これらは必要膜厚のみとすることができる。
【0022】
[適用例8]本適用例に係る電気光学装置の製造方法は、第1の基板上に、第1の配線と、第一電極と、前記第一電極に対応する開口を有する隔壁と、前記第一電極上に設けられた有機機能層と、前記隔壁および前記有機機能層上に設けられた第二電極と、を有する電気光学装置の製造方法であって、前記第二電極と前記第1の配線とを電気的に接続する接続部を形成する工程と、前記第二電極上に設けられた緩衝層を形成する工程と、前記緩衝層上に設けられたガスバリア層を形成する工程と、を有し、前記第二電極は、前記隔壁を覆う第1の領域と、前記接続部に設けられた第2の領域と、を有し、前記緩衝層は、前記第1の領域を覆う第1の緩衝層と、前記第2の領域を覆う第2の緩衝層と、を有し、前記緩衝層を形成する工程は、前記第1の緩衝層と前記第2の緩衝層とが互いに接触しないように形成することを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、緩衝層が隔壁により生じた段差や接続部により生じた段差を覆うので段差面が略平坦となり、略平坦となった緩衝層上にガスバリア層が形成されるため、ガスバリア層の剥離やクラックの発生を防止でき、結果、発光特性や発光寿命の低下を防止できる。また、緩衝層を隔壁により生じた段差と接続部により生じた段差とを分けて覆うことにより、一方の緩衝層が形成されている段差部にガスバリア層に欠陥等が発生し、水分が浸入したとしても、他方の緩衝層部への水分侵入を防ぐことができる。
【0024】
[適用例9]上記適用例に記載の電気光学装置の製造方法において、前記第1の基板上には、前記電気光学装置が複数形成されており、前記緩衝層を形成する工程は、前記第1の基板上において、前記第2の緩衝層を隣り合うそれぞれの前記電気光学装置の前記接続部に跨って共通して形成することを特徴とする。
【0025】
上記適用例によれば、電気光学装置ごとに緩衝層を形成しなくてもよいので、緩衝層の形成精度を緩和することができる。したがって、緩衝層の形成により発生するパターン不良を防止できる。
【0026】
[適用例10]本適用例の電子機器は、上記適用例に記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする。
【0027】
本適用例によれば、発光特性や発光寿命の低下を防止した電気光学装置を備えた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一実施形態に係るEL表示装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図2】第一実施形態のEL表示装置の構成を示す概略平面図。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図。
【図4】図2のC−D線に沿う断面図。
【図5】有機緩衝層の端部を示す拡大図。
【図6】(a)〜(d)はEL表示装置の製造方法を工程順に示す図。
【図7】(a)〜(c)はEL表示装置の製造方法を工程順に示す図。
【図8】(a)および(b)は第二実施形態のEL表示装置の構造を示す概略図。
【図9】EL表示装置の基体の外周部構造を示す概略断面図。
【図10】(a)〜(d)は電子機器の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器の実施形態について、図を参照して説明する。なお、参照する図面においては、図の視認性を向上させるため断面部分のハッチングを適宜省略している。また、電気光学装置として、有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を用いたEL表示装置を例に挙げて説明する。
【0030】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態に係るEL表示装置の電気的な構成を示す等価回路図である。EL表示装置(発光装置)は、スイッチング素子として薄膜トランジスター(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型のEL表示装置である。なお、以下の説明では、EL表示装置を構成する各部位や各層膜を認識可能とするために、各々の縮尺を異ならせている。
【0031】
図1に示すように、本実施形態のEL表示装置1は、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有するとともに、走査線101と信号線102の各交点付近に画素領域Xが設けられる。
信号線102には、シフトレジスター、レベルシフター、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデーター線駆動回路100が接続される。また、走査線101には、シフトレジスター及びレベルシフターを備える走査線駆動回路80が接続される。
【0032】
さらに、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(第一電極)23と、この画素電極23と陰極(第二電極)50との間に挟み込まれた有機機能層110とが設けられる。画素電極23と陰極50と有機機能層110により、発光素子(有機EL素子)が構成される。
【0033】
このEL表示装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極23に電流が流れ、さらに有機機能層110を介して陰極50に電流が流れる。有機機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0034】
次に、EL表示装置1の具体的な構成について、図2〜図5を参照して説明する。
図2に示すように、EL表示装置1は、電気絶縁性を備えた基板20と、スイッチング用TFT(図示せず)に接続された画素電極23が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極23に接続される電源線103と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図2中の一点鎖線枠内)とを具備して構成されたアクティブマトリクス型のものである。
なお、本実施形態においては、基板20と、基板20上に形成されるTFTを含む各種回路、及び層間絶縁膜などを含めて、基体200と称している(図3、図4参照)。
【0035】
画素部3は、中央部分の実表示領域4(図2中の二点鎖線枠内)と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線および二点鎖線の間の領域)と、に区画される。
実表示領域4には、それぞれ画素電極23を有する表示領域R,G,BがA−B方向およびC−D方向にそれぞれ離間してマトリックス状に配置される。
また、実表示領域4の図2中両側には、走査線駆動回路80が配置される。これら走査線駆動回路80は、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0036】
さらに、実表示領域4の図2中上側には、検査回路90が配置される。この検査回路90は、EL表示装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時の表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されたものである。なお、この検査回路90も、ダミー領域5の下側に配置されたものである。
【0037】
走査線駆動回路80および検査回路90は、その駆動電圧が、所定の電源部から駆動電圧導通部(図示しない)および駆動電圧導通部(図示しない)を介して、印加されるよう構成される。また、これら走査線駆動回路80および検査回路90への駆動制御信号は、このEL表示装置1の作動制御を行う所定のメインドライバーなどから駆動制御信号導通部(図示しない)および駆動制御信号導通部(図示しない)を介して、送信および印加される。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80および検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバーなどからの指令信号である。
【0038】
また、EL表示装置1は、図3、図4に示すように基体200上に画素電極23と有機隔壁層(画素隔壁)221、有機機能層110と陰極50とを備えた発光素子(有機EL素子)を多数形成し、さらにこれらを覆って、保護層52、緩衝層210、ガスバリア層30等を形成させたものである。
なお、有機機能層110としては、代表的には発光層60(エレクトロルミネッセンス層)であり、正孔注入層、正孔輸送層70、電子注入層、電子輸送層などのキャリア注入層またはキャリア輸送層を備えるものである。さらには、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子阻止層(エレクトロン阻止層)を備えるものであってもよい。
【0039】
基体200を構成する基板20としては、いわゆるトップエミッション型の場合、この基板20の対向側であるガスバリア層30側から発光を取り出す構成であるので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0040】
また、いわゆるボトムエミッション型の場合には、基板20側から発光を取り出す構成であるので、基板20としては、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。なお、本実施形態では、ガスバリア層30側から発光を取り出すトップエミッション型とし、よって基板20としては上述した不透明基板、例えば不透明のプラスチックフィルムなどが用いられる。
【0041】
また、基板20上には、画素電極23を駆動するための駆動用TFT123などを含む回路部11が形成されており、その上に発光素子(有機EL素子)が多数設けられる。発光素子は、陽極として機能する画素電極23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層70と、有機EL材料を備える発光層60と、陰極50とが順に形成されたことによって構成されたものである。
このような構成のもとに、発光素子はその発光層60において、正孔輸送層70から注入された正孔と陰極50からの電子とが結合することにより発光する。
【0042】
画素電極23は、本実施形態ではトップエミッション型であることから透明である必要はなく、反射性をより高めるために、例えば反射層/無機絶縁層/透明陽極のような多層構造をとっても良い。反射層は、発光層60から出る光を積極的に陰極50側に反射させる層でアルミニウム合金などが用いられ、珪素窒化物などの無機絶縁層を介して、仕事関数が5eV以上の正孔注入性の高いITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)などの金属酸化物導電膜が陽極に用いられる。
【0043】
正孔輸送層70の形成材料としては、例えばポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体など、またはそれらのドーピング体などが用いられる。具体的には、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液などを用いて正孔輸送層70を形成することができる。
【0044】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。
また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
なお、上述した高分子材料に代えて、従来公知の低分子材料を用いることもできる。また、必要に応じて、このような発光層60の上に電子注入層を形成してもよい。
【0045】
また、本実施形態において正孔輸送層70と発光層60とは、図3および図4に示すように基体200上にて格子状に形成された親液性制御層25(図4参照)と有機隔壁層(画素隔壁)221と、によって囲まれて配置され、これにより囲まれた正孔輸送層70および発光層60は単一の発光素子(有機EL素子)を構成する素子層となる。
なお、有機隔壁層221の開口部221aの各壁面の基体200表面に対する角度が、110度以上から170 度以下となっている。このような角度としたのは、発光層60をウエットプロセスにより形成する際に、開口部221a内に配置されやすくするためである。
【0046】
陰極50は、図2〜図4に示すように、実表示領域4およびダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されたもので、発光層60と有機隔壁層221の上面、さらには有機隔壁層221の外側部を形成する壁面を覆った状態で基体200上に形成されたものである。陰極50は、図3に示すように有機隔壁層221の外側で基体200の外周部に形成された接続部50bにおいて陰極用配線202に接続される。陰極用配線202は、第1陰極用配線202aおよび第2陰極用配線202bにより形成されており、いわゆる2重配線構造となっている。なお、陰極用配線202は、第1陰極用配線202aもしくは第2陰極用配線202bのどちらか一方のみであってもよい。
具体的には、接続部50bにおいて、陰極50と陰極用配線202aとが第二層間絶縁膜284に設けられたコンタクトホール50aを介して電気的に接続される。さらに、陰極用配線202はフレキシブル基板203に電気的に接続されており、これによって陰極50は、フレキシブル基板203を介して駆動IC204に接続される。
【0047】
陰極50を形成するための材料としては、本実施形態はトップエミッション型であることから光透過性である必要があり、したがって透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITOが好適とされるが、これ以外にも、例えば酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zin Oxide:IZO/アイ・ゼット・オー(登録商標))等を用いることができる。なお、本実施形態ではITOを用いるものとする。
【0048】
また、陰極50は、電子注入効果の大きい(仕事関数が4eV以下)材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。また、これらの材料だけでは、電気抵抗が大きく電極として機能しないため、発光領域を避けるようにアルミニウムや金、銀、銅などの金属層をパターン形成したり、ITOや酸化錫などの透明な金属酸化物導電層との積層体と組み合わせて用いたりしてもよい。なお、本実施形態では、フッ化リチウムとマグネシウム−銀合金、ITOの積層体を、透明性が得られる膜厚に調整して用いるものとする。また、陰極50の膜厚は、10nm〜200nm程度が好ましい。
【0049】
陰極50の上層部には、図3および図4に示すように、有機隔壁層221よりも広い範囲で、かつ陰極50を覆った状態で保護層52が形成される。保護層52は、後述する緩衝層210を形成する際に、陰極50上に加わる負荷を緩和するために設けられるものである。緩衝層210の残留水分等に起因する製造プロセス時における陰極50へのダメージを防止するために設けられるものである。また、緩衝層形成材料を塗布する時の平坦性や消泡性、密着性、側面端部の低角度化を目的としても設けられるものである。
保護層52は、透明性、緻密性、耐水性、絶縁性、ガスバリア性を考慮して、緻密かつ高弾性率の珪素窒化物や珪素窒酸化物などの窒素を含む珪素化合物などの材料により形成されたものが好ましい。保護層52の形成方法としては、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法が用いられる。また、保護層52の膜厚は、50 nm〜400nm程度が好ましい。
【0050】
保護層52の上層部には、図3および図4に示すように、緩衝層210が設けられる。なお、緩衝層210は、陰極50が形成されている領域において、有機隔壁層221により発生している段差を覆う緩衝層210a、陰極50と陰極用配線202の接続部50bで発生している段差を覆う緩衝層210bと、で構成される。具体的には、緩衝層210aは、基体200上に設けられた有機隔壁層221により生じた凸状の段差を覆い、緩衝層210bは、陰極50と陰極用配線202の接続部50bのコンタクトホール50aにより生じた凹状の段差を覆うように基体200上にそれぞれ形成される。緩衝層210により該段差面が略平坦となり、緩衝層210上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30も平坦化されるので、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30へのクラックの発生を防止することができる。なお緩衝層210は、該段差を連続して覆うように共通に形成してもよい。
【0051】
緩衝層210の形成は、減圧真空下におけるスクリーン印刷法を用いて、保護層52上に塗布することが好ましい。スクリーンメッシュに樹脂硬化物で非塗布領域をパターン形成したマスクを基体200に接触させて、スキージで押し付けることで、緩衝層形成材料を基体200上(保護層52上)に転写する。減圧雰囲気で塗布(転写)が行われるので、水分の少ない環境を維持しつつ、転写時に塗布面に発生する気泡を除去することができる。
【0052】
緩衝層210は、硬化前の原料主成分としては、減圧真空下で印刷形成するために、流動性に優れ、かつ溶媒や揮発成分の無い、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0053】
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透明性に優れ、かつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2, 3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6 −テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類を添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
更に、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として、芳香続アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで、低温かつ短時間での硬化が可能となる。
硬化時間を短縮するためによく用いられるカチオン放出タイプの光重合開始剤は、着色や急激な硬化収縮を発生するため好ましくないが、ガスバリア層30との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物等の補水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が混入されていてもよい。
【0054】
これらの原料毎の粘度は、1000mPa・s(室温:25℃)以上が好ましい。塗布直後に発光層60 へ浸透して、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させないためである。また、これらの原料を混合した緩衝層形成材料の粘度としては、500mPa・s〜20 000mPa・s、特に2000mPa・s〜10000mPa・s(室温)が好ましい。
【0055】
また、緩衝層210の膜厚としては、2μm〜10μmが好ましい。緩衝層210の膜厚が2μm以上であれば、陰極50と保護層52を足し合わせた膜厚より厚いため、保護層52により生じる段差を平坦化でき、さらに、異物が混入した場合であってもガスバリア層30の欠陥発生を防止することができるからである。
また、硬化後の特性としては、緩衝層210の弾性率が1GPa〜10GPaであることが好ましい。10GPa以上では、有機隔壁層221上を平坦化した際の応力を吸収することができず、1GPa以下では耐摩耗性や耐熱性等が不足するためである。
【0056】
更に、緩衝層210の上層部には、図2〜図4に示すように、発光層60及び有機隔壁層221、陰極50を覆い、かつ封止層の中でも比較的に耐水性に欠ける有機隔壁層22 1及び保護層52の終端部まで覆うような広い範囲、もしくは保護層52と同範囲に、ガスバリア層30が形成されている。
ガスバリア層30は、酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより酸素や水分による陰極50や発光層60の劣化等を抑えることができる。ガスバリア層30は、透明性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、好ましくは窒素を含む珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物などによって形成される。
ガスバリア層30の成膜法としては、水蒸気などのガスを遮断するため緻密で欠陥の無い被膜にする必要があり、好適には低温で緻密な膜を形成できる高密度プラズマ成膜法を用いて形成する。
ガスバリア層30は、保護層52と同一の弾性率を有する材料で形成してもよい。また、ガスバリア層30の膜厚は、200nm〜600nm程度が好ましい。200nm未満であると、異物に対する被覆性が不足し部分的に貫通孔が形成されてしまい、ガスバリア性が損なわれてしまうおそれがあるからであり、600nmを越えると、応力による割れが生じてしまうおそれがあるからである。
【0057】
更に、ガスバリア層30としては、積層構造としてもよいし、その組成を不均一にして特にその酸素濃度が連続的に、あるいは非連続的に変化するような構成としてもよい。
また、本実施形態ではトップエミッション型としていることから、ガスバリア層30は透光性を有する必要があり、したがってその材質や膜厚を適宜に調整することにより、本実施形態では可視光領域における光線透過率を例えば80%以上にしている。
【0058】
ここで、緩衝層210の端部の構造について図5を参照して説明する。図5は緩衝層の端部を示す拡大図である。とりわけ、保護層52との接触角について説明する。
緩衝層210は、保護層52上に形成され、その端部において保護層52の表面と接触角αで接触している。ここで、接触角αは45°以下であり、より好ましくは、1°〜20°程度以下であることが好ましい。
これにより、緩衝層210の上層に形成されるガスバリア層30は、その端部に急激な形状変化がなく、なだらかに形状が変化するので、緩衝層210の端部での応力集中によるクラック等の欠陥の発生が防止される。したがって、長期間に渡り、封止能力を維持することが可能となる。
【0059】
図3および図4 に戻り、ガスバリア層30の上層部には、接着層205と表面保護基板206が設けられる。
接着層205は、ガスバリア層30上に表面保護基板206を固定させ、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、有機機能層110やガスバリア層30を保護するものである。接着層205は、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの樹脂で、表面保護基板206より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成されたものである。また、透明樹脂材料が好ましい。また、低温で硬化させるため硬化剤を添加する2液混合型の材料によって形成されたものでもよい。
なお、このような接着層205には、シランカップリング剤またはアルコキシシランを添加しておくのが好ましく、このようにすれば、形成される接着層205とガスバリア層30との密着性がより良好になり、したがって機械的衝撃に対する緩衝機能が高くなる。
また、特にガスバリア層30が珪素化合物で形成されている場合などでは、シランカップリング剤やアルコキシシランによってこのガスバリア層30との密着性を向上させることができ、したがってガスバリア層30のガスバリア性を高めることができる。
【0060】
表面保護基板206は、接着層205上に設けられて、耐圧性や耐摩耗性、外部光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能の少なくとも一つを有してなる層である。
表面保護基板206の材質は、ガラス、DLC(ダイアモンドライクカーボン)層、透明プラスチック、透明プラスチックフィルムが採用される。ここで、プラスチック材料としては、例えば、PET、アクリル、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が採用される。
更に、当該表面保護基板206には、紫外線遮断/吸収層や光反射防止層、放熱層、レンズ、色波長変換層やミラー等の光学構造が設けられていてもよい。また、カラーフィルター機能を設けてもよい。
なお、EL表示装置1はトップエミッション型であるため、表面保護基板206、接着層205を共に透光性のものにする必要があるが、ボトムエミッション型とする場合にはその必要はない。
【0061】
次に、本実施形態に係るEL表示装置1の製造方法の一例を、図6及び図7を参照して説明する。図6及び図7に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。
なお、本実施形態においては、発光装置としてのEL表示装置1がトップエミッション型である場合であり、また、基板20の表面に回路部11を形成させる工程については、公知の技術を用いることができるので説明を省略する。
【0062】
まず、図6(a)に示すように、表面に回路部11が形成された基板20の全面を覆うように、画素電極23となる導電膜を形成し、更に、この透明導電膜をパターニングすることにより、第二層間絶縁膜284のコンタクトホール23aを介してドレイン電極244と導通する画素電極23を形成すると同時に、ダミー領域のダミーパターン26も形成する。
なお、図3および図4では、これら画素電極23、ダミーパターン26を総称して画素電極23としている。ダミーパターン26は、第二層間絶縁膜284を介して下層のメタル配線へ接続しない構成とされる。すなわち、ダミーパターン26は、島状に配置され、実表示領域4に形成されている画素電極23の形状とほぼ同一の形状を有する。もちろん、実表示領域4に形成されている画素電極23の形状と異なる構造であってもよい。
【0063】
次いで、図6(b)に示すように、画素電極23、ダミーパターン26上、および第二層間絶縁膜284上に絶縁層である親液性制御層25を形成する。なお、画素電極23においては一部が開口する態様にて親液性制御層25を形成し、開口部25a(図3参照)において画素電極23からの正孔移動が可能とされている。逆に、開口部25aを設けないダミーパターン26においては、絶縁層(親液性制御層)25が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされている。続いて、親液性制御層25において、異なる2つの画素電極23の間に位置して形成された凹状部に不図示のBM(ブラックマトリックス)を形成する。具体的には、親液性制御層25の凹状部に対して、金属クロムを用いスパッタリング法にて成膜する。
【0064】
そして、図6(c)に示すように、親液性制御層25の所定位置、詳しくは上述したBMを覆うように有機隔壁層221を形成する。
具体的な有機隔壁層221の形成方法としては、例えばアクリル系、イミド系材料などのレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、ディップコート法などの各種塗布法により塗布して有機樹脂層を形成する。なお、有機樹脂層の構成材料は、後述するインクの溶媒に溶解せず、しかもエッチングなどによってパターニングし易いものであればどのようなものでもよい。
【0065】
更に、有機樹脂層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機樹脂層に開口部221aを形成することにより、開口部221aに壁面を有した有機隔壁層221を形成する。ここで、開口部221aを形成する壁面について、基体200 表面に対する角度を110度以上から170度以下となるように形成する。
【0066】
次いで、有機隔壁層221の表面に、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とを形成する。本実施形態においては、プラズマ処理によって各領域を形成する。具体的には、プラズマ処理を、予備加熱工程と、有機隔壁層221の上面および開口部221aの壁面ならびに画素電極23の電極面23c、親液性制御層25の上面をそれぞれ親液性にする親インク化工程と、有機隔壁層221の上面および開口部221aの壁面を撥液性にする撥インク化工程と、冷却工程とで構成する。
【0067】
次いで、正孔輸送層形成工程によって正孔輸送層70の形成を行う。この正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、スピンコート法などにより、正孔輸送層材料を電極面23c上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行い、電極23上に正孔輸送層70を形成する。
【0068】
次いで、発光層形成工程によって発光層60の形成を行う。この発光層形成工程では、例えばインクジェット法により、発光層形成材料を正孔輸送層70上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行うことにより、有機隔壁層221に形成された開口部221a内に発光層60を形成する。この発光層形成工程では、正孔輸送層70の再溶解を防止するため、発光層形成材料に用いる溶媒として、正孔輸送層70に対して不溶な無極性溶媒を用いる。
【0069】
次いで、図6(d)に示すように、陰極層形成工程によって陰極50の形成を行う。この陰極層形成工程では、例えば蒸着法によるマグネシウム−銀の共蒸着層と、イオンプレーティング法等の物理気相成長法によりITOを成膜した、積層層を陰極50とする。このとき、この陰極50については、発光層60と有機隔壁層221の上面を覆うのはもちろん、有機隔壁層221の外側部を形成する壁面についてもこれを覆った状態となるように形成する。
【0070】
次に、図7(a)に示すように、陰極50上に、保護層52を形成する。
例えば、珪素酸化物などの窒素を含む珪素化合物などの無機化合物を、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法等の高密度プラズマ成膜法により、50nm〜400nm程度の膜厚に成膜する。
【0071】
次に、図7(b)に示すように、緩衝層210をスクリーン印刷法により、保護層52上に塗布する。この際、気泡を原因とする膜欠陥を発生させないよう100Pa〜10000Pa範囲の減圧雰囲気下で塗布する。
【0072】
スクリーン印刷法は、減圧雰囲気下で塗布が可能な方法であるため、比較的中〜高粘度の塗布液の使用を得意とする方式である。特に、スクリーン印刷法は、スキージの加圧移動により塗出制御が簡便で、スクリーンメッシュの使用により膜厚均一性およびパターニング性に優れる、という利点を有している。
【0073】
図7(c)に示すように、緩衝層210を覆って、ガスバリア層30を形成する。ガスバリア層30は、減圧下の高密度プラズマ成膜法等により形成される、主に珪素窒化物又は珪素酸窒化物からなる透明な薄膜が好ましい。また、小さな分子の水蒸気を完全に遮断するため緻密性を持たせており、若干の圧縮応力を持つことが好ましい。好ましい膜密度は、2.3/cm3以上、であることが好ましく、膜厚は200nm〜600nmが好適である。
【0074】
なお、ガスバリア層30の具体的な形成方法としては、先にスパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法で成膜を行い、次いで、プラズマCVD法等の化学気相成長法で成膜を行ってもよい。スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法は、有害な原料ガスを使わずに一般に異質な基板表面に対しても比較的密着性の良い緻密な膜が得られ、一方、化学気相成長法では、成膜速度が速く、応力が少なくステップカバーレッジ性に優れた欠陥が少なく緻密で良好な膜質のものが得られる。これらの方法は、量産性を考慮して適時選択できる。
また、ガスバリア層30の形成については、上述したように同一の材料によって単層で形成してもよく、また異なる材料で複数の層に積層して形成してもよく、さらには、単層で形成するものの、その組成を膜厚方向で連続的あるいは非連続的に変化させるようにして形成してもよい。
【0075】
次いで、ガスバリア層30上に接着層205と表面保護基板206を設ける(図3、図4参照)。接着層205は、スクリーン印刷法やスリットコート法などによりガスバリア層30上に略均一に塗布され、その上に表面保護基板206が貼り合わされる。
表面保護基板206が耐圧性や耐摩耗性、光反射防止性、ガスバリア性、紫外線遮断性などの機能を有していることにより、有機機能層110や陰極50、さらにはガスバリア層30もこの表面保護基板206によって保護することができ、したがって発光素子の長寿命化を図ることができる。
また、接着層205が機械的衝撃に対して緩衝機能を発揮するので、外部から機械的衝撃が加わった場合に、ガスバリア層30やこの内側の発光素子への機械的衝撃を緩和し、この機械的衝撃による発光素子の機能劣化を防止することができる。
以上のようにして、EL表示装置1が形成される。
【0076】
[第二実施形態]
以下、本発明の第二実施形態に係るEL表示装置2および3について説明する。なお、本実施形態においては、第一実施形態と同一構成には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
図8(a)は、EL表示装置2および3を互いに隣り合うように形成した概略平面図である。図8(b)は、図8(a)におけるEL表示装置2とEL表示装置3との境界部を示すE−F断面の概略断面図である。
【0077】
図8(b)に示すように、EL表示装置2および3は、共通基板21上に互いに隣り合うように形成されており、保護層52、緩衝層210およびガスバリア層30が、EL表示装置2および3に共通して形成されている。すなわち、陰極50と陰極用配線202との接続部で発生している凹状の段差を覆う緩衝層210bがEL表示装置2および3の間に跨って形成されている。
【0078】
また、緩衝層210の下層の保護層52と、緩衝層210の上層のガスバリア層30も緩衝層210bと同様に、隣り合うEL表示装置間に跨って形成される。緩衝層210bを隣り合うEL表示装置が有するそれぞれの段差部に跨って形成することで、緩衝層210bのパターン精度を緩和することができる。なお、緩衝層210b、保護層52およびガスバリア層を隣り合うEL表示装置間に跨って形成すること以外は第一の実施形態と同様の構成および材料を採用している。これにより、緩衝層210形成による不良を防止し、発光特性や発光寿命の低下を防止したEL表示装置を得ることが可能となる。
【0079】
さらに、上述したEL表示装置の第一および第二実施形態において、緩衝層210は、基体200上に設けられた有機隔壁層221により発生する凸状の段差を覆う緩衝層210aと、陰極50と陰極用配線202との接続部50bにおいて第二層間絶縁膜284に発生する凹状の段差を覆う緩衝層201bについて述べたが、これに限定されない。図9のように、有機隔壁層221の外側の基体200の外周部に、例えば電源線103や駆動電圧導通部310や駆動制御信号導通部320などの配線を設けた場合において、該配線に起因して第二層間絶縁膜284に発生する凸状の段差を緩衝層210cが覆うように形成してもよい。このようにすれば、配線に起因した凸状の段差を緩衝層210cが覆うので、緩衝層210により段差面が略平坦化されて緩衝層210上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層30が平坦化されるので、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層30へのクラックの発生を防止することができる。
【0080】
なお、上述したEL表示装置の実施形態では、トップエミッション型を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、ボトムエミッション型にも、また両側に発光光を出射するタイプのものにも適用可能である。
【0081】
また、ボトムエミッション型、あるいは両側に発光を出射するタイプのものとした場合、基体200に形成するスイッチング用TFT112や駆動用TFT123については、発光素子の直下ではなく、有機隔壁層221の直下に形成し、開口率を高めるのが好ましい。
また、実施形態では、第一電極を陽極23として機能させ、第二電極を陰極50として機能させたが、これらを逆にして第一電極を陰極、第二電極を陽極として、それぞれ機能させるように構成しても良い。ただし、その場合には、発光層60と正孔輸送層70との形成位置を入れ換えるようにする必要がある。
【0082】
次に、本実施形態の電子機器について図10を参照して説明する。
電子機器は、上述したEL表示装置1を表示部として有したものであり、具体的には図10に示すものが挙げられる。
図10(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図10(a)において、携帯図電話1000は、上述したEL表示装置1を用いた表示部1001を備える。
図10(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図10(b)において、時計(電子機器)1100は、上述したEL表示装置1を用いた表示部1101を備える。
図10(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図10(c)において、情報処理装置1200は、キーボードなどの入力部1200、上述したEL表示装置1を用いた表示部1206、情報処理装置本体(筐体)1204を備える。
図10(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。図10(d)において、薄型大画面テレビ1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、上述したEL表示装置1を用いた表示部1306を備える。
【0083】
図10(a)〜(d)に示すそれぞれの電子機器は、上述したEL表示装置1を有した表示部1001,1101,1206,1306を備えているので、表示部の長寿命化が図られたものとなる。
また、図10(d)に示す薄型大画面テレビ1300は、面積に関係なく表示部を封止できる本発明を適用したので、従来と比較して大面積(例えば対角20インチ以上)の表示部1306を備えるものとなる。
【0084】
また、EL表示装置1を表示部として備える場合に限らず、発光部として備える電子機器であってもよい。例えば、EL表示装置1を露光ヘッド(ラインヘッド)として備えるページプリンター(画像形成装置)や、EL表示装置1を発光部として備える照明装置であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…EL表示装置(発光装置)、23…画素電極(第一電極)、30…ガスバリア層、50…陰極(第二電極)、52…保護層、60…発光層、110…有機機能層、200…基体、210…緩衝層、221…有機隔壁層(隔壁)、221a…開口部、1000…携帯電話(電子機器)、1100…時計(電子機器)、1200…情報処理装置(電子機器)、1300…薄型大画面テレビ(電子機器)、1001,1101,1206,1306…表示部(発光装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、
第1の配線と、
第一電極と、
前記第一電極に対応する開口を有する隔壁と、
前記第一電極上に設けられた有機機能層と、
前記隔壁および前記有機機能層上に設けられた第二電極と、
前記第二電極と前記第1の配線とを電気的に接続する接続部と、
前記第二電極上に設けられた緩衝層と、
前記緩衝層上に設けられたガスバリア層と、を備え、
前記第二電極は、前記隔壁を覆う第1の領域と、前記接続部に設けられた第2の領域と、を有し、
前記緩衝層は、前記第1の領域を覆う第1の緩衝層と、前記第2の領域を覆う第2の緩衝層と、を有し、
前記第1の緩衝層と前記第2の緩衝層とは互いに接触していないことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
基体上には、第2の配線が設けられ、
平面視において、前記第2の配線上には第3の緩衝層が設けられており、
前記第1の緩衝層、前記第2の緩衝層および前記第3の緩衝層とは互いに接触していないことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記第2の配線は、前記第一電極、前記有機機能層および前記陰極を有する発光素子を駆動制御するための配線であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置。
【請求項4】
前記緩衝層が有機材料からなり、前記ガスバリア層は絶縁性の無機化合物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項5】
前記第二電極と前記ガスバリア層の間に、前記第二電極を覆う保護層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記保護層が絶縁性の無機化合物からなることを特徴とする請求項5に記載の電気光学装置。
【請求項7】
前記緩衝層の膜厚は、前記第二電極の膜厚と前記保護層の膜厚とを合計した膜厚よりも厚いことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電気光学装置。
【請求項8】
第1の基板上に、第1の配線と、第一電極と、前記第一電極に対応する開口を有する隔壁と、前記第一電極上に設けられた有機機能層と、前記隔壁および前記有機機能層上に設けられた第二電極と、を有する電気光学装置の製造方法であって、
前記第二電極と前記第1の配線とを電気的に接続する接続部を形成する工程と、
前記第二電極上に設けられた緩衝層を形成する工程と、
前記緩衝層上に設けられたガスバリア層を形成する工程と、を有し、
前記第二電極は、前記隔壁を覆う第1の領域と、前記接続部に設けられた第2の領域と、を有し、
前記緩衝層は、前記第1の領域を覆う第1の緩衝層と、前記第2の領域を覆う第2の緩衝層と、を有し、
前記緩衝層を形成する工程は、前記第1の緩衝層と前記第2の緩衝層とが互いに接触しないように形成することを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1の基板上には、前記電気光学装置が複数形成されており、
前記緩衝層を形成する工程は、前記第1の基板上において、前記第2の緩衝層を隣り合うそれぞれの前記電気光学装置の前記接続部に跨って共通して形成することを特徴とする請求項8に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−155987(P2012−155987A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13748(P2011−13748)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】