説明

電気光学装置の製造方法、電気光学装置の製造装置

【課題】凹部の開口幅に応じて所望の膜厚を有する機能層を形成可能な電気光学装置の製造方法、電気光学装置の製造装置を提供すること。
【解決手段】本適用例の電気光学装置の製造方法は、蒸気圧が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を凹部としての膜形成領域A,A'内に吐出して充填する充填工程と、充填された液状体から混合溶媒を除去して機能層を成膜化する成膜工程とを備え、充填工程は、膜形成領域A,A'に充填された後の液状体の濃度を膜形成領域A,A'の開口幅W1,W2の大小に対応して異ならせるべく、第1液状体と第1液状体に対して機能層形成材料の濃度が高い第2液状体のうち少なくとも一方を用いて吐出し、第2液状体における混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の溶媒の割合は、第1液状体における混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の溶媒の割合に比べて高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機光学装置の製造方法、電気光学装置の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電気光学装置の製造方法として、有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと表示する)材料を含む組成物(液体)を複数の電極上に塗布することにより各電極上に有機EL層をそれぞれ形成する有機EL装置の製造方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記有機EL装置の製造方法では、隔壁で仕切られた画素領域にインクジェットヘッドから上記組成物を液滴として吐出し、吐出された組成物を乾燥させて電極上に有機EL層を形成している。組成物の塗布領域を複数の電極が形成された有効発光領域よりも大きくして、塗布後の組成物の周囲の環境や乾燥を均一にし、電極が設けられる画素ごとあるいは画素間で有機EL層の膜厚を均一化できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−222695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機EL層は、通常これを流れる電流量によってその発光輝度が決まるので、画素領域の平面的な大きさに係わらず有機EL層の膜厚は所望の値に対して一定であることが望まれる。
上記有機EL装置の製造方法を用いて形成される有機EL層の膜厚は、隔壁で仕切られた画素領域に充填された上記組成物の量とその濃度によって決まる。さらに充填される組成物の量には限界があり、隔壁で仕切られた画素領域の開口幅や深さ、隔壁に対する接触角によって規定される。
それゆえに、例えば、深さが同じで開口幅が異なる2種類の画素領域のそれぞれに上記組成物を吐出した場合には、開口幅が大きい方の画素領域に対する充填量が他方に比べて多くなる。したがって、乾燥後に開口幅が大きい方の画素領域に形成される有機EL層の膜厚が開口幅が小さい方に比べて厚くなるおそれがあるという課題がある。
また、上記組成物(液体)において溶質の溶解性または分散性、あるいは粘度や表面張力などの調整を目的として混合溶媒系を用いることがある。その際に溶媒種間での蒸気圧(沸点)が異なることがある。したがって、乾燥過程において蒸気圧が低い(沸点が高い)方の溶媒が残り易くなり、当該溶媒に対する溶質の割合が上記開口幅によって異なってしまう。すると、乾燥過程における溶媒の移動に起因して、乾燥後に画素領域内あるいは画素領域間において所望の膜厚が得られないおそれがある。このような有機EL層の形成状態は、画素ごとあるいは画素間の輝度ムラとなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例の電気光学装置の製造方法は、基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造方法であって、蒸気圧が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記凹部内に吐出して充填する充填工程と、充填された前記液状体から前記混合溶媒を除去して前記機能層を成膜化する成膜工程とを備え、前記充填工程は、前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体のうち少なくとも一方を用いて吐出し、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合は、前記第1液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合に比べて高いことを特徴とする。
【0008】
蒸気圧が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒を含む液状体の乾燥過程では蒸気圧が高い方の溶媒が先に蒸発して、蒸気圧が低い方の溶媒が残る。開口幅が異なる凹部のそれぞれにほぼ同程度の厚みの機能層を形成しようとして、凹部に充填された後の液状体の濃度を凹部の開口幅の大小に応じて異ならせたとしても、蒸気圧が低い方の溶媒に対する濃度の差が生じ、乾燥過程における溶媒の移動に起因する膜厚むらにおいて程度の差が生じてしまう。
この方法によれば、第1液状体に対して濃度が高い第2液状体における蒸気圧が低い溶媒の割合を第1液状体に比べて高く設定するので、乾燥過程における蒸気圧が低い方の溶媒に対する機能層形成材料の濃度の差を小さくすることができる。したがって、乾燥過程における溶媒の移動に起因する膜厚むらが抑制され、開口幅が異なる凹部ごとに、所望の膜厚を有する機能層を形成することができる。
【0009】
[適用例2]本適用例の他の電気光学装置の製造方法は、基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造方法であって、沸点が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記凹部内に吐出して充填する充填工程と、充填された前記液状体から前記混合溶媒を除去して前記機能層を成膜化する成膜工程とを備え、前記充填工程は、前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体のうち少なくとも一方を用いて吐出し、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合は、前記第1液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合に比べて高いことを特徴とする。
【0010】
沸点が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒を含む液状体の乾燥過程では沸点が低い方の溶媒が先に蒸発して、沸点が高い方の溶媒が残る。開口幅が異なる凹部のそれぞれにほぼ同程度の厚みの機能層を形成しようとして、凹部に充填された後の液状体の濃度を凹部の開口幅の大小に応じて異ならせたとしても、沸点が高い方の溶媒に対する濃度の差が生じ、乾燥過程における溶媒の移動に起因する膜厚むらにおいて程度の差が生じてしまう。
この方法によれば、第1液状体に対して濃度が高い第2液状体における沸点が高い溶媒の割合を第1液状体に比べて高く設定するので、乾燥過程における沸点が高い方の溶媒に対する機能層形成材料の濃度の差を小さくすることができる。したがって、乾燥過程における溶媒の移動に起因する膜厚むらが抑制され、開口幅が異なる凹部ごとに、所望の膜厚を有する機能層を形成することができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例の電気光学装置の製造方法において、前記充填工程は、前記凹部の前記開口幅の大小に対応して、前記第1液状体と前記第2液状体とを前記凹部に対する吐出量を異ならせて吐出するとしてもよい。
この方法によれば、濃度が異なる液状体を吐出量を異ならせて凹部に吐出することにより、凹部に充填された後の液状体の濃度を凹部の開口幅の大小に対応して柔軟に調整することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の電気光学装置の製造方法において、前記充填工程は、前記第1液状体と前記第2液状体とのうち前記吐出量が少ない方から先に前記凹部に吐出することが好ましい。
この方法によれば、後から吐出量の少ない方を吐出する場合に比べて、凹部における異なる濃度の第1液状体と第2液状体とをむらなく混合させることができる。
【0013】
[適用例5]上記適用例の電気光学装置の製造方法において、前記充填工程は、前記開口幅が相対的に大きい方の前記凹部に、前記第1液状体を吐出し、前記開口幅が相対的に小さい方の前記凹部に、前記第2液状体を吐出するとしてもよい。
この方法によれば、開口幅が異なる凹部間において単位面積当たりの機能層形成材料の塗布量を均衡させつつ、膜厚むらを低減できる。
【0014】
[適用例6]上記適用例の電気光学装置の製造方法において、前記充填工程は、前記凹部に充填された前記液状体がメニスカスで膨らむ状態になるまで吐出することが好ましい。
この方法によれば、開口幅が異なる凹部ごとに液状体を十分に行き渡らせて、吐出むらに起因する膜厚むらをより低減することができる。
【0015】
[適用例7]上記適用例の電気光学装置の製造方法において、前記開口幅が異なる前記凹部が同一の前記基板上において設けられているとしてもよい。
この方法によれば、同一の基板上に設けられた開口幅が異なる凹部のそれぞれにほぼ同程度の膜厚を有する機能層を形成することができる。
【0016】
[適用例8]上記適用例の電気光学装置の製造方法において、前記機能層形成材料は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層形成材料であることを特徴とする。
この方法によれば、凹部の開口幅が異なっていても、膜厚むらが抑制され、ほぼ同程度の厚みを有する発光層が形成されるので、発光層の膜厚の差や膜厚むらに起因する輝度ムラが低減された有機EL素子を有する電気光学装置を製造することができる。
【0017】
[適用例9]本適用例の電気光学装置の製造装置は、基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造装置であって、前記基板が載置されるステージと、複数のノズルを有する吐出ヘッドと、前記ステージと前記吐出ヘッドとを対向させた状態で所定の方向に相対移動させる移動機構と、蒸気圧が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記吐出ヘッドに供給する液状体供給機構とを備え、前記移動機構による前記ステージと前記吐出ヘッドとの前記相対移動の間に、前記ステージ上に載置された前記基板の前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、前記吐出ヘッドの前記複数のノズルから第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を前記凹部に向けて吐出させ、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合は、前記第1液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合に比べて高く設定されていることを特徴とする。
【0018】
[適用例10]本適用例の他の電気光学装置の製造装置は、基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造装置であって、前記基板が載置されるステージと、複数のノズルを有する吐出ヘッドと、前記ステージと前記吐出ヘッドとを対向させた状態で所定の方向に相対移動させる移動機構と、沸点が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記吐出ヘッドに供給する液状体供給機構とを備え、前記移動機構による前記ステージと前記吐出ヘッドとの前記相対移動の間に、前記ステージ上に載置された前記基板の前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、前記吐出ヘッドの前記複数のノズルから第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を前記凹部に向けて吐出させ、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合は、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合に比べて高く設定されていることを特徴とする。
【0019】
これらの上記適用例の構成によれば、ノズルから凹部に吐出された液状体の混合溶媒の蒸発速度のむらに起因して生ずる機能層の膜厚むらが、凹部の開口幅の大小に応じて変動することが抑制される。したがって、異なる開口幅を有する凹部間における機能層の膜厚むらを低減し、所望の電気光学特性を有する電気光学装置を製造可能な製造装置を提供することができる。
【0020】
[適用例11]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記凹部の前記開口幅の大小に対応して、前記第1液状体と前記第2液状体とを前記凹部に対する吐出量を異ならせて、前記吐出ヘッドから吐出させるとしてもよい。
この構成によれば、濃度が異なる液状体を吐出量を異ならせて吐出ヘッドから凹部に吐出することにより、凹部に充填された後の液状体の濃度を凹部の開口幅の大小に対応して柔軟に調整可能な電気光学装置の製造装置を提供することができる。
【0021】
[適用例12]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記第1液状体と前記第2液状体とのうち前記吐出量が少ない方から先に前記凹部に吐出させることが好ましい。
この構成によれば、後から吐出量の少ない方を吐出する場合に比べて、濃度が異なる第1液状体と第2液状体とを凹部においてむらなく混合させることができる。
【0022】
[適用例13]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記開口幅が相対的に大きい方の前記凹部に前記第1液状体を吐出させ、前記開口幅が相対的に小さい方の前記凹部に前記第2液状体を吐出させることが好ましい。
この構成によれば、開口幅が異なる凹部間における液状体の充填量の差に起因する機能層の膜厚の差や乾燥過程における溶媒の移動に起因する膜厚むらが抑制され、所望の電気光学特性を有する電気光学装置を歩留まりよく製造することができる。
【0023】
[適用例14]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記凹部に充填された前記液状体がメニスカスで膨らむ状態になるまで、前記吐出ヘッドから吐出させることが好ましい。
この構成によれば、開口幅が異なる凹部ごとに液状体を十分に行き渡らせて、吐出むらに起因する膜厚むらを低減することができる。
【0024】
[適用例15]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記液状体供給機構は、前記第1液状体と前記第2液状体とをそれぞれ異なる前記吐出ヘッドに供給するとしてもよい。
この構成によれば、凹部の開口幅が異なる基板に対して、吐出ヘッド単位で異なる濃度の液状体の塗布を実現でき、機能層の形成における高い自由度を備えた電気光学装置の製造装置を提供できる。
【0025】
[適用例16]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記吐出ヘッドは、前記複数のノズルからなるノズル列を少なくとも2列備え、前記液状体供給機構は、前記第1液状体と前記第2液状体とをそれぞれ異なる前記ノズル列に供給するとしてもよい。
この構成によれば、ノズル列単位で異なる濃度の液状体の塗布を実現でき、より簡素な構成の電気光学装置の製造装置を提供できる。
【0026】
[適用例17]上記適用例の電気光学装置の製造装置において、前記液状体供給機構は、前記機能層形成材料および前記複数種の溶媒がそれぞれ独立して貯留された貯留部と、前記液状体における前記機能層形成材料の濃度と前記混合溶媒における前記複数種の溶媒の割合とを調整する溶液調整部とを備えているとしてもよい。
この構成によれば、凹部の開口幅の大小などの塗布条件の変化に対して、予め機能層形成材料の濃度や混合溶媒の組成を調整した液状体を用意する必要がなく、液状体の組成を柔軟に調整可能な電気光学装置の製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】有機EL装置を示す概略正面図。
【図2】有機EL装置の要部概略断面図。
【図3】有機EL装置の製造装置としての吐出装置の構成を示す概略斜視図。
【図4】(a)は吐出ヘッドの構造を示す概略斜視図、(b)はノズルの配置状態を示す平面図。
【図5】ヘッドユニットにおける吐出ヘッドの配置を示す概略平面図。
【図6】液状体供給機構と吐出ヘッドとの関係を示す概略図。
【図7】吐出装置の制御系を示すブロック図。
【図8】マザー基板を示す概略平面図。
【図9】種々の膜形成領域の形状を示す概略平面図。
【図10】膜形成領域における液状体の充填状態を示す概略断面図。
【図11】有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図12】(a)〜(d)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図13】(e)〜(h)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図14】実施例1の液状体の吐出条件を示す表。
【図15】実施例2の液状体の吐出条件を示す表。
【図16】実施例3の液状体の吐出条件を示す表。
【図17】比較例の液状体の吐出条件を示す表。
【図18】(a)〜(c)は膜形成領域に充填された液状体の乾燥過程における挙動を示す概略断面図。
【図19】液晶装置の構成を示す要部分解斜視図。
【図20】(a)〜(f)は液晶装置の製造方法を示す概略断面図。
【図21】(a)は変形例のマザー基板を示す概略平面図、(b)は変形例の着色層を示す概略平面図。
【図22】変形例の画素の配列を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0029】
(実施形態1)
まず、本実施形態の電気光学装置の製造方法を適用する電気光学装置としての有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置について図1および図2を参照して説明する。図1は有機EL装置を示す概略正面図、図2は有機EL装置の要部概略断面図である。
【0030】
<電気光学装置>
図1に示すように、本実施形態の有機EL装置100は、R(赤)、G(緑)、B(青)、3色の発光画素107を備えた素子基板101と、素子基板101に所定の間隔を置いて対向配置された封止基板102とを備えている。封止基板102は、複数の発光画素107が設けられた発光領域106を封着するように、高い気密性を有する封着剤を用いて素子基板101に接合されている。
【0031】
発光画素107は、後述する発光素子としての有機EL素子112(図2参照)を備えるものであって、同色の発光が得られる発光画素107が、図面上の縦方向に配列した所謂ストライプ方式となっている。なお、実際には、発光画素107は微細なものであり、図示の都合上拡大して現している。
【0032】
素子基板101は、封止基板102よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、発光画素107を駆動する2つの走査線駆動回路部103と1つのデータ線駆動回路部104が設けられている。走査線駆動回路部103、データ線駆動回路部104は、例えば、電気回路が集積されたICとして素子基板101に実装してもよいし、当該駆動回路部103,104を素子基板101の表面に直接形成してもよい。
【0033】
素子基板101の端子部101aには、これらの駆動回路部103,104と外部駆動回路とを接続するための中継基板105が実装されている。中継基板105は、例えば、フレキシブル回路基板などを用いることができる。
【0034】
図2に示すように、有機EL装置100において、有機EL素子112は、画素電極としての陽極131と、陽極131を区画する隔壁部133と、陽極131上に形成された有機膜からなる発光層を含む機能層132とを有している。また、機能層132を介して陽極131と対向するように形成された共通電極としての陰極134を有している。
【0035】
隔壁部133は、フェノールまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、発光画素107を構成する陽極131の周囲を一部覆って、複数の陽極131をそれぞれ区画するように設けられている。
【0036】
陽極131は、素子基板101上に形成されたTFT素子108の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極131の下層(平坦化層128側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層132における発光を封止基板102側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極131自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0037】
陰極134は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0038】
本実施形態の有機EL装置100は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極131と陰極134との間に駆動電流を流して機能層132で発光した光を上記反射層で反射させて封止基板102側から取り出す。したがって、封止基板102は透明なガラス等からなる基板を用いる。また、素子基板101は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0039】
素子基板101には、有機EL素子112を駆動する回路部111が設けられている。すなわち、素子基板101の表面にはSiO2を主体とする下地保護層121が下地として形成され、その上にはシリコン層122が形成されている。このシリコン層122の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層123が形成されている。
【0040】
また、シリコン層122のうち、ゲート絶縁層123を挟んでゲート電極126と重なる領域がチャネル領域122aとされている。なお、このゲート電極126は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層122を覆い、ゲート電極126を形成したゲート絶縁層123の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層127が形成されている。
【0041】
また、シリコン層122のうち、チャネル領域122aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域122cが設けられる一方、チャネル領域122aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域122bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域122cは、ゲート絶縁層123と第1層間絶縁層127とにわたって開孔するコンタクトホール125aを介して、ソース電極125に接続されている。このソース電極125は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域122bは、ゲート絶縁層123と第1層間絶縁層127とにわたって開孔するコンタクトホール124aを介して、ソース電極125と同一層からなるドレイン電極124に接続されている。
【0042】
ソース電極125およびドレイン電極124が形成された第1層間絶縁層127の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層128が形成されている。この平坦化層128は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、TFT素子108やソース電極125、ドレイン電極124などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0043】
そして、陽極131が、この平坦化層128の表面上に形成されると共に、該平坦化層128に設けられたコンタクトホール128aを介してドレイン電極124に接続されている。すなわち、陽極131は、ドレイン電極124を介して、シリコン層122の高濃度ドレイン領域122bに接続されている。陰極134は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子108により、上記電源線から陽極131に供給され陰極134との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部111は、所望の有機EL素子112を発光させカラー表示を可能としている。
【0044】
なお、有機EL素子112を駆動する回路部111の構成は、これに限定されるものではない。
【0045】
機能層132は、正孔注入層、中間層、発光層を含む複数種の有機膜からなり、陽極131側からこの順で積層されている。本実施形態において、これらの有機膜は液滴吐出法(インクジェット法)を用いて成膜されている。
【0046】
正孔注入層の材料としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)や、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体を用いてもよい。
【0047】
中間層は、正孔注入層と発光層との間に設けられ、発光層に対する正孔の輸送性(注入性)を向上させると共に、発光層から正孔注入層に電子が浸入することを抑制するために設けられている。すなわち、発光層における正孔と電子との結合による発光の効率を改善するものである。中間層の材料としては、例えば、正孔輸送性が良好なトリフェニルアミン系ポリマーを含んだものが挙げられる。
【0048】
発光層の材料としては、例えば、赤色、緑色、青色の発光が得られるポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、PEDOT等のポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)等を用いることができる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等の高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリン等低分子材料をドープしてもよい。
【0049】
このような有機EL素子112を有する素子基板101は、透明な熱硬化型エポキシ樹脂等を封着部材として用いた封着層135を介して透明な封止基板102と隙間なく封止されている。
【0050】
本実施形態の有機EL装置100は、後述する製造方法を用いて製造されており、発光色ごとに所望の膜厚を有しているため、異なる発光色が得られる機能層132R,132G,132Bにおいてそれぞれ所望の発光特性が得られる。
【0051】
なお、本実施形態の有機EL装置100は、トップエミッション型に限定されず、共通電極としての陰極134を反射機能を有する不透明なAl等の導電材料を用いて成膜し、有機EL素子112の発光を陰極134で反射させて、素子基板101側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0052】
<電気光学装置の製造装置>
次に、本実施形態の電気光学装置としての有機EL装置の製造装置について、図3〜図7を参照して説明する。図3は有機EL装置の製造装置としての吐出装置の構成を示す概略斜視図、図4(a)は吐出ヘッドの構造を示す概略斜視図、同図(b)はノズルの配置状態を示す平面図、図5はヘッドユニットにおける吐出ヘッドの配置を示す概略平面図、図6は液状体供給機構と吐出ヘッドとの関係を示す概略図、図7は吐出装置の制御系を示すブロック図である。
【0053】
図3に示すように、本実施形態の吐出装置10は、機能層形成材料を含む液状体を被吐出物である平板状のワークに吐出して、ワーク上に機能層形成材料からなる膜を形成するための製造装置である。ワークを主走査方向(Y軸方向)に移動させるワーク移動機構20と、液状体を液滴として吐出可能な吐出ヘッド50(図4参照)が複数搭載されたヘッドユニット9を主走査方向に直交する副走査方向(X軸方向)に移動させるヘッド移動機構30とを備えている。
【0054】
ワーク移動機構20は、一対のガイドレール21と、一対のガイドレール21に沿って移動する移動台22と、移動台22上に回転機構6を介して配設されたワークを載置するステージ5とを備えている。
移動台22は、ガイドレール21の内部に設けられたエアスライダーとリニアモーター(図示省略)により主走査方向(Y軸方向)に移動する。移動台22には、タイミング信号生成部としてのエンコーダー12(図7参照)が設けられている。
エンコーダー12は、移動台22の主走査方向(Y軸方向)への相対移動に伴って、ガイドレール21に並設されたリニアスケール(図示省略)の目盛を読み取って、タイミング信号としてのエンコーダーパルスを生成する。なお、エンコーダー12の配設は、これに限らず、例えば、移動台22を回転軸に沿って主走査方向(Y軸方向)に相対移動するよう構成し、回転軸を回転させる駆動部を設けた場合には、エンコーダー12を駆動部に設けてもよい。駆動部としては、サーボモーターなどが挙げられる。
ステージ5はワークを吸着固定可能であると共に、回転機構6によってワーク内の基準軸を正確に主走査方向(Y軸方向)、副走査方向(X軸方向)に合わせることが可能となっている。
また、ワーク上において液状体が吐出される膜形成領域の配置に応じて、ワークを例えば90度旋回させることも可能である。
【0055】
ヘッド移動機構30は、一対のガイドレール31と、一対のガイドレール31に沿って移動する移動台32とを備えている。移動台32には、回転機構7を介して吊設されたキャリッジ8が設けられている。
キャリッジ8には、複数の吐出ヘッド50(図4参照)が搭載されたヘッドユニット9が取り付けられている。
また、キャリッジ8には、吐出ヘッド50に液状体を供給するための液状体供給機構60(図6および図7参照)と、複数の吐出ヘッド50の電気的な駆動制御を行うためのヘッドドライバー48(図7参照)とが設けられている。
移動台32がキャリッジ8を副走査方向(X軸方向)に移動させてヘッドユニット9をワークに対して対向配置する。
【0056】
吐出装置10は、上記構成の他にも、ヘッドユニット9に搭載された複数の吐出ヘッド50のノズル目詰まり解消、ノズル面の異物や汚れの除去などのメンテナンスを行うメンテナンス機構(図示省略)が、複数の吐出ヘッド50を臨む位置に配設されている。
また、吐出ヘッド50ごとに吐出された液状体を受けて、その重量を計測する電子天秤などの計測器を有する重量計測機構(図示省略)とを備えている。重量計測機構により得られた結果から液状体の1滴あたりの重量あるいは体積を求めることができる。そして、これらの構成を統括的に制御する制御部40を備えている。
【0057】
図4(a)に示すように、吐出ヘッド50は、所謂2連のものであり、2連の接続針54を有する液状体の導入部53と、導入部53に積層されたヘッド基板55と、ヘッド基板55上に配置され内部に液状体のヘッド内流路が形成されたヘッド本体56とを備えている。接続針54は、前述した液状体供給機構60に配管を経由して接続され、液状体をヘッド内流路に供給する。ヘッド基板55には、フレキシブルフラットケーブル(図示省略)を介してヘッドドライバー48(図7参照)に接続される2連のコネクター58が設けられている。
【0058】
ヘッド本体56は、駆動手段としての圧電素子で構成されたキャビティを有する加圧部57と、ノズル面51aに2つのノズル列52a,52bが相互に平行に形成されたノズルプレート51とを有している。2つの接続針54に対してそれぞれ異なる種類の液状体を供給すれば、2つのノズル列52a,52bからそれぞれ異なる種類の液状体を吐出可能となっている。言い換えれば、2つのノズル列52a,52bに対応した個別のヘッド内流路を有している。
【0059】
図4(b)に示すように、2つのノズル列52a,52bは、それぞれ複数(180個)のノズル52がピッチP1でほぼ等間隔に並べられており、互いにピッチP1の半分のピッチP2ずれた状態でノズル面51aに配設されている。この場合、ピッチP1は、およそ141μmである。よって、ノズル列52cに直交する方向から見ると360個のノズル52がおよそ70.5μmのノズルピッチで配列した状態となっている。また、ノズル52の径は、およそ27μmである。
【0060】
吐出ヘッド50は、ヘッドドライバー48から電気信号としての駆動信号が圧電素子に印加されると加圧部57のキャビティの体積変動が起こり、これによるポンプ作用でキャビティに充填された液状体が加圧され、ノズル52から液状体を液滴として吐出することができる。
【0061】
吐出ヘッド50における駆動手段は、圧電素子に限らない。アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、液状体を加熱してノズル52から液滴として吐出させる電気熱変換素子(サーマル方式)でもよい。
【0062】
図5は、ヘッドユニットにおける吐出ヘッドの配置を示す概略平面図である。詳しくは、ワークに対向する側から見た図である。
【0063】
図5に示すように、ヘッドユニット9は、複数の吐出ヘッド50が配設されるヘッドプレート9aを備えている。ヘッドプレート9aには、3つの吐出ヘッド50からなるヘッド群50Aと、同じく3つの吐出ヘッド50からなるヘッド群50Bの合計6個の吐出ヘッド50が搭載されている。この場合、ヘッド群50AのヘッドR1(吐出ヘッド50)とヘッド群50BのヘッドR2(吐出ヘッド50)とは、同種の液状体を吐出する。他のヘッドG1とヘッドG2、ヘッドB1とヘッドB2においても同様である。また、同種でもヘッドR1とヘッドR2とにおいて濃度を変えることも可能である。すなわち、機能層形成材料の種別と濃度を基準とすれば、少なくとも6種の異なる液状体を吐出可能な構成となっている。
【0064】
1つの吐出ヘッド50によって描画可能な描画幅をL0とし、これをノズル列52cの有効長とする。以降、ノズル列52cとは、360個のノズル52から構成されるものを指す。
【0065】
この場合、ヘッドR1とヘッドR2は、主走査方向(Y軸方向)から見て隣り合うノズル列52cが主走査方向と直交する副走査方向(X軸方向)に1ノズルピッチを置いて連続するように主走査方向に並列して配設されている。したがって、例えば、同種の液状体をヘッドR1とヘッドR2とに充填すれば、その有効な描画幅L1は、描画幅L0の2倍となる。ヘッドG1とヘッドG2、ヘッドB1とヘッドB2においても同様に主走査方向(Y軸方向)に並列して配置されている。
【0066】
なお、吐出ヘッド50に設けられるノズル列52cは、2連に限らず、1連でもよい。また、ヘッドユニット9における吐出ヘッド50の配置は、これに限定されるものではない。用いられる液状体の種類と濃度とを考慮し、吐出ヘッド50の主走査方向への相対移動により同一の膜形成領域に同種の液状体を吐出可能とする配置が好ましい。また、メンテナンスや吐出される液状体の重量測定を考慮して異種の液状体を吐出する吐出ヘッド50の群ごとに搭載されるヘッドユニット9を異ならせてもよい。
【0067】
図6に示すように、液状体供給機構60は、貯留部61と、溶液調整部62とを有している。貯留部61は、液状体を構成する機能層形成材料や複数種の溶媒に対応した複数(この場合は、3つ)の貯留タンク61a,61b,61cを有している。言い換えれば、貯留タンク61a,61b,61cには、液状体を構成する機能層形成材料や溶媒が独立してそれぞれ貯留されている。溶液調整部62は、3つの貯留タンク61a,61b,61cのそれぞれに流量調整バルブ62aを介して接続された撹拌部62bを有している。
撹拌部62bは、その内部に例えばマグネティックスターラーなどの攪拌手段を有している。撹拌部62bは、三方バルブ63を介して吐出ヘッド50に繋がっており、攪拌された液状体を吐出ヘッド50に送出できる。例えば、吐出ヘッド50よりも位置エネルギー的に高い場所に配置され、吐出ヘッド50と繋がるように三方バルブ63を開くと、液状体は、自重により吐出ヘッド50側に流れる。三方バルブ63の一方は、ドレイン配管64に繋がっており、貯留部61から溶媒だけを撹拌部62bに流し、ドレイン配管64から排出することにより、溶液調整部62をクリーニング可能となっている。
このような液状体供給機構60は、少なくとも液状体の種類に対応して複数配設されている。なお、機能層形成材料が固体である場合には、所定の溶媒に所定の濃度で予め溶解あるいは分散させた溶液として貯留部61に貯留することが望ましく、撹拌部62bにおける攪拌および調合が容易となる。
【0068】
次に吐出装置10の制御系について説明する。図7に示すように、吐出装置10の制御系は、吐出ヘッド50、ワーク移動機構20、ヘッド移動機構30、液状体供給機構60などを駆動する各種ドライバーを有する駆動部46と、駆動部46を含め吐出装置10を統括的に制御する制御部40とを備えている。
【0069】
駆動部46は、ワーク移動機構20およびヘッド移動機構30の各リニアモーターをそれぞれ駆動制御する移動用ドライバー47と、吐出ヘッド50を駆動制御するヘッドドライバー48と、液状体供給機構60を駆動制御する液状体供給用ドライバー49とを備えている。この他にもメンテナンス機構を駆動制御するメンテナンス用ドライバーなどを備えているが図示省略した。
【0070】
制御部40は、CPU41と、ROM42と、RAM43と、P−CON44とを備え、これらは互いにバス45を介して接続されている。P−CON44には、上位コンピューター11が接続されている。ROM42は、CPU41で処理する制御プログラムなどを記憶する制御プログラム領域と、描画動作や機能回復処理などを行うための制御データなどを記憶する制御データ領域とを有している。
【0071】
RAM43は、ワークに描画を行うための描画データを記憶する描画データ記憶部、ワークおよび吐出ヘッド50(実際には、ノズル列52c)の位置データを記憶する位置データ記憶部などの各種記憶部を有し、制御処理のための各種作業領域として使用される。P−CON44には、駆動部46の各種ドライバーなどが接続されており、CPU41の機能を補うと共に、周辺回路とのインタフェース信号を取り扱うための論理回路が構成されて組み込まれている。このため、P−CON44は、上位コンピューター11からの各種指令などをそのままあるいは加工してバス45に取り込むと共に、CPU41と連動して、CPU41などからバス45に出力されたデータや制御信号を、そのままあるいは加工して駆動部46に出力する。
【0072】
そして、CPU41は、ROM42内の制御プログラムに従って、P−CON44を介して各種検出信号、各種指令、各種データなどを入力し、RAM43内の各種データなどを処理した後、P−CON44を介して駆動部46などに各種の制御信号を出力することにより、吐出装置10全体を制御している。例えば、CPU41は、吐出ヘッド50、ワーク移動機構20およびヘッド移動機構30を制御して、ヘッドユニット9とワークとを対向配置させる。そして、ヘッドユニット9とワークとの相対移動に同期して、ヘッドユニット9に搭載された各吐出ヘッド50の複数のノズル52からワークに液状体を液滴として吐出するようにヘッドドライバー48に制御信号を送出する。この場合、Y軸方向へのワークの移動に同期して液状体を吐出することを主走査と呼び、X軸方向にヘッドユニット9を移動させることを副走査と呼ぶ。本実施形態の吐出装置10は、主走査と副走査とを組み合わせて複数回繰り返すことにより液状体を吐出描画することができる。主走査は、吐出ヘッド50に対して一方向へのワークの移動に限らず、ワークを往復させて行うこともできる。
【0073】
エンコーダー12は、ヘッドドライバー48に電気的に接続され、主走査に伴ってエンコーダーパルスを生成する。主走査では、所定の移動速度で移動台22を移動させるので、エンコーダーパルスが周期的に発生する。
【0074】
例えば、主走査における移動台22の移動速度を200mm/sec、吐出ヘッド50を駆動する駆動周波数(言い換えれば、連続して液滴を吐出する場合の吐出タイミング)を20kHzとすると、主走査方向における液滴の吐出分解能は、移動速度を駆動周波数で除することにより得られるので、10μmとなる。すなわち、10μmのピッチで液滴をワーク上に配置することが可能である。実際の液滴の吐出タイミングは、周期的に発生するエンコーダーパルスをカウントして生成されるラッチ信号に基づいている。
【0075】
上位コンピューター11は、制御プログラムや制御データなどの制御情報を吐出装置10に送出する。また、ワーク上の膜形成領域ごとに所定量の液状体を液滴として配置する吐出制御データとしての配置情報を生成する配置情報生成部の機能を有している。配置情報は、膜形成領域における液滴の吐出位置(言い換えれば、ワークとノズル52との相対位置)、液滴の配置数(言い換えれば、ノズル52ごとの吐出数)、主走査における複数のノズル52のON/OFF、吐出タイミングなどの情報を、例えば、ビットマップとして表したものである。
【0076】
また、上位コンピューター11は、液状体供給機構60を駆動制御し、入力された液状体の組成情報に基づいて、各貯留タンク61a,61b,61cに配設された流量調整バルブ62aを開閉し、定められた量の機能層形成材料、各種溶媒を撹拌部62bへ送り込み調合を行わせる。言い換えれば、液状体の組成を自在に調整することが可能となっている。
【0077】
特に、本実施形態の吐出装置10は、ステージ5上に載置されたワークの膜形成領域(凹部)に充填された後の液状体の濃度を膜形成領域(凹部)の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、吐出ヘッド50の複数のノズル52から第1液状体と第1液状体に対して機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を膜形成領域(凹部)に向けて吐出させる。詳しくは、後述する電気光学装置の製造方法において説明する。
【0078】
<電気光学装置の製造方法>
次に、本実施形態の電気光学装置の製造方法について有機EL装置100の製造方法を例に図8〜図17を参照して説明する。図8はマザー基板を示す概略平面図、図9は種々の膜形成領域の形状を示す概略平面図、図10は膜形成領域における液状体の充填状態を示す概略断面図、図11は有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図12〜図13は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。
【0079】
有機EL装置100の実際の製造では、図8に示すようなマザー基板110を用いる。マザー基板110には、素子基板101がマトリクス状に多面付けされている。言い換えれば、マザー基板110上に前述した回路部111(図2参照)と有機EL素子112(図2参照)とを形成することにより発光画素107を構成し、効率よく有機EL装置100を製造しようとするものである。
【0080】
有機EL素子112は、図2に示すように隔壁部133により区画された陽極131上に発光層を含む機能層132と陰極134とを形成することにより得られる。図9に示すように、本実施形態の有機EL装置100では、隔壁部133により区画された凹部としての膜形成領域Aは、矩形状となっている。膜形成領域A(凹部)の平面的な形状はこれに限定されず、図9に示すように、トラック状の膜形成領域A1、円状の膜形成領域A2、楕円状の膜形成領域A3などが考えられる。このような膜形成領域A,A1,A2,A3の平面形状において、長手方向に対して直交する短手方向の幅を開口幅として定義する。
【0081】
本実施形態では、前述した吐出装置10を用いて膜形成領域Aに機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより機能層132が成膜される。したがって、膜形成領域Aにおいて所望の膜厚を有する機能層132を形成するには、膜形成領域Aの平面積と膜厚との積による体積に相当する機能層形成材料(固形分)を液状体として膜形成領域Aに塗布する必要があることは言うまでもない。
【0082】
一方、膜形成領域Aに塗布可能な液状体の量は、膜形成領域Aの平面積や深さだけでは決まらない。図10に示すように、例えば、隔壁部133により区画され、異なる開口幅(W1<W2)の膜形成領域Aと膜形成領域A'とに同じ液状体を充填すると、隔壁部133の頭頂部に対する前進接触角θを越えて液状体を充填しようとしても、液状体は頭頂部へ溢れてしまう。したがって、充填後の液状体のメニスカス(盛り上がった液面)が安定した状態では、膜形成領域Aの開口幅W1は膜形成領域A'の開口幅W2よりも小さいため、膜形成領域Aにおける液状体充填後の隔壁部133の頭頂部からの高さh1は、膜形成領域A'における液状体充填後の隔壁部133の頭頂部からの高さh2よりも低くなる。それゆえに膜形成領域Aに充填可能な液状体の量は、膜形成領域A'に比べて少なくなる。よって、膜形成領域Aと膜形成領域A'とにほぼ同じ膜厚の膜を形成しようとする場合には、膜形成領域A'に比べて開口幅W1が小さい膜形成領域Aに濃度(容量比)が高い液状体を吐出する方法が考えられる。
なお、前進接触角θを下回る範囲で液状体を充填するときの量は、図10に示すように隔壁部133の内壁面が基板面との間でなす傾斜角度によっても影響される。
【0083】
本実施形態の有機EL装置100の製造方法は、異なる濃度の液状体のうち少なくとも一方を用いて吐出し、膜形成領域Aの開口幅に応じて充填後の液状体の濃度を異ならせるものである。
【0084】
図11に示すように、本実施形態の有機EL装置100の製造方法は、隔壁部形成工程(ステップS1)と、隔壁部が形成された基板に表面処理を施す表面処理工程(ステップS2)と、正孔注入層形成工程(ステップS3)と、中間層形成工程(ステップS4)と、発光層形成工程(ステップS5)と、陰極形成工程(ステップS6)と、有機EL素子が形成された素子基板101と封止基板102とを接合する封止基板接合工程(ステップS7)とを少なくとも備えている。なお、素子基板101上に回路部111(図2参照)を形成する工程や回路部111に電気的に接続した陽極131を形成する工程は、公知の製造方法を用いればよく、本実施形態では詳細の説明は省略する。したがって、図12(a)〜(d)および図13(e)〜(h)では、回路部111の図示を省略している。
【0085】
図11のステップS1は、隔壁部形成工程である。ステップS1では、図12(a)に示すように、陽極131の周囲の一部を覆って陽極131ごとを区画するように隔壁部133を形成する。形成方法としては、例えば、陽極131が形成された素子基板101の表面に、感光性のフェノール樹脂またはポリイミド樹脂をおよそ1〜3μm程度の厚みで塗布する。塗布方法としては、転写法、スリットコート法などが挙げられる。そして、発光画素107の形状に対応したマスクを用いて露光し、現像することにより複数の隔壁部133を形成することができる。陽極131を隔壁部133により区画することで液状体が吐出される凹部としての膜形成領域Aができあがる。そして、ステップS2へ進む。
【0086】
図11のステップS2は、表面処理工程である。ステップS2では、隔壁部133が形成された素子基板101の表面に親液処理と撥液処理とを施す。まず、酸素を処理ガスとするプラズマ処理を行い、主に無機材料からなる陽極131の表面に親液処理を施す。次に、CF4などのフッ素系ガスを処理ガスとするプラズマ処理を行い、有機材料からなる隔壁部133の表面にフッ素を導入して撥液処理を施す。そして、ステップS3へ進む。
【0087】
図11のステップS3は、正孔注入層形成工程である。ステップS3では、まず、図12(b)に示すように、正孔注入層形成材料を含む液状体70を膜形成領域Aに塗布する。液状体70は、例えば、溶媒としてジエチレングリコールと水(純水)とを含んでおり、正孔注入層形成材料としてPEDOT/PSSを容量比で0.5%程度含んだものを用いた。粘度がおよそ20mPa・s以下となるように溶媒の割合が調整されている。
液状体70を塗布する方法としては、液状体(インク)を吐出ヘッド50のノズル52から吐出可能な吐出装置10を用いる。吐出ヘッド50とワークであるマザー基板110とを対向させ、吐出ヘッド50から液状体70を吐出する。吐出された液状体70は、液滴として親液処理された陽極131に着弾して濡れ拡がる。また、乾燥後の正孔注入層の膜厚がおよそ50〜70nmとなるように、膜形成領域Aの面積と開口幅に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0088】
乾燥工程では、素子基板101を例えばランプアニール等の方法で加熱することにより、液状体70の溶媒成分を乾燥させて除去し、図12(c)に示すように膜形成領域Aの陽極131上に正孔注入層132aを形成する。なお、本実施形態では、各膜形成領域Aに同一材料からなる正孔注入層132aを形成したが、後に形成される発光層に対応して正孔注入層132aの材料を発光色ごとに変えてもよい。そしてステップS4へ進む。
【0089】
図11のステップS4は、中間層形成工程である。ステップS4では、図12(d)に示すように、中間層形成材料を含む液状体80を膜形成領域Aに付与する。
液状体80は、例えば、溶媒としてシクロヘキシルベンゼンを含み、中間層形成材料として、前述したトリフェニルアミン系ポリマーを容量比で0.1%程度含んだものを用いた。粘度はおよそ6mPa・sである。
液状体80を塗布する方法としては、液状体70を塗布する場合と同様に、吐出装置10を用いる。乾燥後の中間層の膜厚がおよそ10〜20nmとなるように、膜形成領域Aの面積と開口幅に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0090】
乾燥工程では、素子基板101を例えばランプアニール等の方法で加熱することにより、液状体80の溶媒成分を乾燥させて除去し、図13(e)に示すように膜形成領域Aの正孔注入層132a上に中間層132cを形成する。そしてステップS5へ進む。
【0091】
図11のステップS5は、発光層形成工程である。ステップS5では、図13(f)に示すように、発光層形成材料を含む液状体90R,90G,90Bをそれぞれ対応する膜形成領域Aに塗布する。
液状体90R,90G,90Bは、複数種の溶媒からなる混合溶媒と発光層形成材料とを含んでおり、その濃度(容量比)は、膜形成領域Aの開口幅に応じて所定の範囲内で調整されている。また、異なる濃度の液状体を用いる場合、濃度が高い方の液状体における混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の溶媒の割合は、濃度が低い方の液状体における混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の溶媒の割合に比べて高く設定されている。また、粘度が30mPa・s以下となるように、混合溶媒を構成する溶媒の選択が行われている。
液状体90R,90G,90Bを塗布する方法は、やはり吐出装置10を用い、それぞれ異なる吐出ヘッド50に充填されて吐出される。乾燥後の発光層の膜厚がおよそ80nmとなるように、膜形成領域Aの面積と開口幅に応じた必要量を液滴として吐出した。充填された液状体90R,90G,90Bが前進接触角θ以下の安定したメニスカスで膨らむ状態にまで吐出する。詳しくは後述する実施例において述べる。そして乾燥工程へ進む。
【0092】
本実施形態における吐出された液状体90R,90G,90Bの乾燥工程は、一般的な加熱乾燥に比べて溶媒成分を比較的均一に乾燥可能な減圧乾燥法を用いている。膜形成領域Aには満遍なく必要量の液状体90R,90G,90Bが塗布されている。したがって、図13(g)に示すように、乾燥後に形成された発光層132r,132g,132bは膜形成領域Aごとにほぼ一定の膜厚を有する。なお、減圧乾燥における乾燥条件は、液状体90R,90G,90Bの混合溶媒における溶媒の低い方の蒸気圧よりも高い圧力で乾燥を開始し、徐徐に減圧して乾燥させることが望ましい。急激に減圧して溶媒の突沸が起こることを避け、より均一な乾燥を実現する。そして、ステップS6へ進む。
【0093】
図11のステップS6は、陰極形成工程である。ステップS6では、図13(h)に示すように、隔壁部133と各機能層132R,132G,132Bとを覆うように陰極134を形成する。これにより有機EL素子112が構成される。
陰極134の材料としては、ITOとCa、Ba、Al等の金属やLiF等のフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層132R,132G,132Bに近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいITOを形成するのが好ましい。また、陰極134の上にSiO2、SiN等の保護層を積層してもよい。このようにすれば、陰極134の酸化を防止することができる。陰極134の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法等が挙げられる。特に機能層132R,132G,132Bの熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。そして、ステップS7へ進む。
【0094】
図11のステップS7は、封止基板接合工程である。ステップS7では、有機EL素子112が形成された素子基板101に透明な封着層135を塗布して、透明な封止基板102と隙間なく封止する(図2参照)。さらに封止基板102の外周領域において水分や酸素等の進入を防ぐ接着層を設けて接合することが望ましい。
【0095】
次に、上記発光層形成工程(ステップS5)における膜形成領域Aの面積と開口幅に対応したより具体的な液状体の塗布の実施例と比較例について、図14〜図17を参照して説明する。図14は実施例1の液状体の吐出条件を示す表、図15は実施例2の液状体の吐出条件を示す表、図16は実施例3の液状体の吐出条件を示す表、図17は比較例の液状体の吐出条件を示す表である。
【0096】
(実施例1)
実施例1の液状体90R,90G,90Bは、例えばシクロヘキシルベンゼン、3−メチルビフェニル、3−メチルジフェニルエーテルなどの中から選ばれた溶媒Aと、メシチレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、クメンなどの中から選ばれた溶媒Bとの混合溶媒と、発光層形成材料として例えばF8BT(ポリジオクチルフルオレンベンゾチアジアゾール)とを含んでいる。
【0097】
上記溶媒Aは、20℃における蒸気圧がおよそ50Paを示すものである。溶媒Bは、同じく20℃における蒸気圧がおよそ240〜430Paを示すものである。すなわち、溶媒Aは溶媒Bに比べて蒸気圧が低い。
【0098】
なお、これらの溶媒Aおよび溶媒Bは非極性溶媒であるが、発光層形成材料によっては、極性溶媒を用いてもよい。例えば、溶媒Aとしては、20℃の蒸気圧がおよそ3Paのジエチレングリコールや同じく蒸気圧が7Paのエチレングリコールなどの極性溶媒が挙げられる。同じく溶媒Bとしては、蒸気圧が300Paの4−メチル−2−ペンタノールなどの極性溶媒が挙げられる。
【0099】
図14に示すように、発光画素107の解像度をPPI(ピクセルパーインチ)で表し、そのサイズを長辺と、短辺とに分けて長さ(μm)で示す。どのサイズのピクセルにもおよそ80nmの膜厚で発光層を形成するものとする。吐出ヘッド50のノズル52から吐出される1滴あたりの液滴量はおよそ10pl(ピコリットル)となるように調整されている。膜形成領域Aに充填される液状体90R,90G,90Bの量(以降、充填量と呼ぶ)は前述したように膜形成領域Aの平面積と開口幅によって規定され、短辺の長さの2乗×長辺の長さに比例することが分かっている。
なお、実際には、隔壁部133の頭頂部に対する前進接触角θだけでなく隔壁部133の内壁面の傾斜角度の影響を受けるので、膜形成領域Aにおいて安定したメニスカスで膨らむ状態となる範囲で充填量は調整可能である。
【0100】
解像度が45PPIの場合、乾燥後の発光層の膜厚を80nmとするとその体積は、395×132×0.08≒4163μm3となる。一方前述したように膜形成領域Aの充填量は、およそ950plとなったため、充填される液状体90R,90G,90Bの濃度を、4163÷950000×100≒0.44%とした。すなわち、濃度0.44%の液状体90R,90G,90Bを膜形成領域Aに95滴(または発)吐出する。このときの混合溶媒における溶媒Aと溶媒Bの割合(%)は、20:80である。これに対して、解像度が60PPIになると、短辺の長さすなわち開口幅が小さくなり、これに応じて液状体90R,90G,90Bの濃度を0.59%に上昇させる。充填量はおよそ400plであって、吐出数に置き直すと40滴となる。このときの混合溶媒における溶媒Aと溶媒Bの割合(%)は、30:70である。同様にして、解像度が90PPIになると、短辺の長さすなわち開口幅がさらに小さくなり、これに応じて液状体90R,90G,90Bの濃度を0.88%に上昇させる。充填量はおよそ120plであって、吐出数に置き直すと12滴となる。このときの混合溶媒における溶媒Aと溶媒Bの割合(%)は、45:55である。
【0101】
実施例1では、吐出装置10の液状体供給機構60を駆動制御し、発光画素107の解像度、すなわち膜形成領域Aの大きさに対応して液状体90R,90G,90Bの濃度を調整した上で吐出ヘッド50に送り込む。そして、濃度が調整された液状体90R,90G,90Bが充填された吐出ヘッド50から対応する膜形成領域Aに吐出するものである。相対的に解像度が高い(高精細な)膜形成領域Aに濃度が高い液状体90R,90G,90Bを吐出し、相対的に解像度が低い(低精細な)膜形成領域Aに濃度が低い液状体90R,90G,90Bを吐出する。そして、濃度が高い方の液状体90R,90G,90Bにおける蒸気圧が低い方の溶媒Aの割合を濃度が低い方の液状体90R,90G,90Bに比べて高く設定する。
【0102】
発光画素107の解像度が異なっていても、乾燥過程では、蒸気圧が高い方の溶媒Bが先に蒸発して、蒸気圧が低い方の溶媒Aが残る。残った溶媒Aに対する発光層形成材料の濃度の差は、混合溶媒に対する溶媒Aの割合を例えば図17に示す比較例のように一定の20%とする場合に比べて小さくなる。
【0103】
実施例1では、解像度に応じて液状体90R,90G,90Bの濃度を調整したが、解像度の種類が多岐に渡る場合、液状体90R,90G,90Bの濃度調整を度々実施しなければならないという課題がある。次に説明する実施例2はこの点を改善した例である。
【0104】
(実施例2)
実施例2は、実施例1に対して濃度が異なる第1液状体と第2液状体の両方を用いて、充填後の液状体90R,90G,90Bの濃度を膜形成領域Aの平面積と開口幅に応じて異ならせる方法である。よって、液状体90R,90G,90Bにおける発光層形成材料の種類や混合溶媒を構成する溶媒の選択は、実施例1と同じである。
【0105】
実施例2では、例えば、図15に示すように発光層形成材料の濃度が0.4%の第1液状体と同じく濃度が0.9%の第2液状体とを用いる。これらの濃度の設定は、解像度の高低に対応して実施例1で述べたように設定したものである。濃度が低い方の第1液状体における混合溶媒の組成は、例えば溶媒Aが20%、溶媒Bが80%とする。これに対して発光層形成材料の濃度が高い方の第2液状体における混合溶媒の組成は、溶媒Aが45%、溶媒Bが55%とする。すなわち、混合溶媒の組成は、実施例1と同様に解像度に対応して設定した。
【0106】
そして、発光画素107の解像度に応じて、例えば45PPIでは、同一の膜形成領域Aに対して第1液状体が充填された吐出ヘッド50から87滴、第2液状体が充填された吐出ヘッド50から8滴吐出する。吐出数の合計は95滴、それぞれの吐出量の合計すなわち充填量は950plとなって実施例1の場合と同じである。一方の膜形成領域Aに充填された液状体90R,90G,90Bの濃度は、吐出された第1液状体および第2液状体における発光層形成材料の総量を総吐出数95滴で割ったものと等しいから、0.44%となって実施例1と同じ結果が得られる。ちなみに、解像度が60PPIでは、第1液状体を25滴、第2液状体を15滴吐出する。これにより膜形成領域Aに充填された液状体90R,90G,90Bの濃度は0.59%となる。同様に解像度90PPIでは、第1液状体を1滴、第2液状体を11滴吐出する。これにより膜形成領域Aに充填された液状体90R,90G,90Bの濃度は0.88%となる。
【0107】
実施例2では、第1液状体に対して第2液状体における蒸気圧が低い方の溶媒Aの割合が高く設定されているので、第1液状体と第2液状体の両方を用いて吐出しても、開口幅に応じた膜形成領域Aの乾燥過程における溶媒Aに対する溶質の濃度の差は、図17に示した比較例に比べて小さくなる。
【0108】
また、濃度が異なる第1液状体と第2液状体との吐出数(吐出量)の割合を異ならせることにより、発光画素107の解像度に対して充填された液状体の濃度を柔軟に変化させることができる。すなわち、実施例1では発光色ごとに解像度に応じて濃度が異なる3種の液状体を用意したが、実施例2では、濃度が異なる第1液状体と第2液状体とを用いて、様々な解像度に対応できる。すなわち液状体の種類を増やさなくてもよい。
【0109】
(実施例3)
実施例3は、実施例2に対して、濃度が異なる一方の液状体の吐出量が他方の液状体の吐出量に比べて極端に少なくなってしまうことを改善したものである。液状体90R,90G,90Bにおける発光層形成材料の種類や混合溶媒を構成する溶媒の選択は、実施例1と同じである。
【0110】
実施例3では、例えば、図16に示すように発光層形成材料の濃度が実施例2よりも低い0.3%の第1液状体と同じく濃度が実施例2よりも高い1.0%の第2液状体とを用いる。濃度が低い方の第1液状体における混合溶媒の組成は、溶媒Aが20%、溶媒Bが80%とする。これに対して発光層形成材料の濃度が高い方の第2液状体における混合溶媒の組成は、溶媒Aが45%、溶媒Bが55%とする。
【0111】
そして、発光画素107の解像度に応じて、例えば45PPIでは、同一の膜形成領域Aに対して第1液状体が充填された吐出ヘッド50から76滴、第2液状体が充填された吐出ヘッド50から19滴吐出する。吐出数の合計は95滴、充填量は950plとなって実施例1の場合と同じである。一方の膜形成領域Aに充填された液状体の濃度は、吐出された第1液状体および第2液状体における発光層形成材料の総量を総吐出数95滴で割ったものと等しいから、やはり0.44%となって実施例1と同じ結果が得られる。ちなみに、解像度が60PPIでは、第1液状体を24滴、第2液状体を16滴吐出する。これにより膜形成領域Aに充填された液状体90R,90G,90Bの濃度は0.59%となる。同様に解像度90PPIでは、第1液状体を2滴、第2液状体を10滴吐出する。これにより膜形成領域Aに充填された液状体90R,90G,90Bの濃度は0.88%となる。
【0112】
解像度が90PPIのように高精細になっても、最少の吐出数を2滴とすることができるので、1滴とした実施例2に比べて、液滴の吐出量ばらつきの影響を受け難くなる。
このように濃度が異なる第1液状体と第2液状体とにおける濃度差を論理的に導かれる場合に比べて大きくとることにより、実際の充填量のばらつきを小さくすることができる。なお、実施例2および実施例3では、濃度が異なる第1液状体と第2液状体とを同一の膜形成領域Aに吐出する際には、吐出数が少ない方の液状体から先に吐出する。これにより、後から吐出数が多い方の液状体が吐出され、膜形成領域Aにおける混合性がよくなる。
【0113】
図18(a)〜(c)は、膜形成領域に充填された液状体の乾燥過程における挙動を示す概略断面図である。なお、詳しくは膜形成領域Aの長辺方向に沿った方向の概略断面図である。
【0114】
図18(a)に示すように、膜形成領域Aに充填された液状体は、減圧乾燥により混合溶媒の蒸発が進む。まず、蒸気圧が高い方の溶媒Bが蒸発してゆく。その一方で蒸発速度(乾燥速度)は、膜形成領域Aの中央付近に比べて隔壁部133に近い側が速くなりやすいので、図18(b)に示すように、混合溶媒は蒸発する溶媒を補うように隔壁部133側に向かって移動する。溶媒Bが蒸発した後には蒸気圧が低い溶媒Aが残るものの、蒸発が進むと、溶媒Aの移動に伴って溶質も移動する。したがって、乾燥後には、図18(c)に示すように隔壁部133に近い側の膜厚が比較的に厚い発光層132r,132g,132bが得られる。
【0115】
例えば、図17に示した比較例のように、濃度が異なる液状体において蒸気圧が低い方の溶媒Aと高い方の溶媒Bとの割合を固定してしまうと、乾燥過程で溶媒Aが残った場合の溶媒Aに対する溶質の濃度の差が実施例1〜実施例3に比べて顕著になってしまう。それゆえに、高い濃度の液状体を吐出する解像度が高い膜形成領域Aでは、溶媒Aにおける溶質濃度の上昇によって液状体の粘度が上昇し、図18(b)に示したような混合溶媒の移動が起こり難くなる。言い換えれば、濃度が異なる液状体を吐出することに起因する乾燥過程の混合溶媒の挙動におけるばらつきが大きくなり、結果として開口幅が異なる膜形成領域A内および膜形成領域A間の膜厚むらが大きくなる。実施例1〜実施例3の液状体の吐出条件によれば、ねらいの膜厚80μmに対して膜厚むらを±10%以内とすることができた。
【0116】
以上に述べた上記実施形態1によれば、以下の効果が得られる。
【0117】
上記吐出装置10を用いた有機EL装置100の製造方法によれば、液滴吐出法(インクジェット法)により成膜された発光層132r,132g,132bは、乾燥過程における膜厚むらが低減され、膜形成領域Aの解像度が異なっていても、それぞれほぼ一定の膜厚が実現される。したがって、膜厚むらに起因する輝度むらが低減された有機EL素子112を製造することができる。
【0118】
このようにして製造された異なる発光が得られる有機EL素子112を備えた有機EL装置100は、所望の発光特性が実現され、見映えのよいカラー表示が可能である。
【0119】
(実施形態2)
次に、他の電気光学装置の製造方法について液晶装置の製造方法を例に図19および図20を参照して説明する。図19は液晶装置の構成を示す要部分解斜視図、図20(a)〜(f)は液晶装置の製造方法を示す概略断面図である。詳しくは、図20(a)〜(f)は、液晶装置のうち、対向基板側の製造方法を示すものである。
【0120】
<他の電気光学装置としての液晶装置>
図19に示すように、本実施形態の液晶装置200は、TFT(Thin Film Transistor)透過型の液晶パネル220と、液晶パネル220を照明する照明装置216とを備えている。液晶パネル220は、3色の機能層としての着色層205R,205G,205Bを有するカラーフィルター205を備えた対向基板201と、画素電極210に3端子のうちの1つが接続されたスイッチング素子としてのTFT素子211を有する素子基板208と、一対の基板201,208によって挟持された液晶(図示省略)とを備えている。また、液晶パネル220の外面側となる一対の基板201,208の表面には、透過する光を偏向させる上偏光板214と下偏光板215とが配設される。
【0121】
対向基板201は、透明なガラス等の材料からなり、液晶を挟む表面側に隔壁部204によってマトリクス状に区画された複数の膜形成領域に、赤(R)、緑(G)、青(B)、3色の着色層205R,205G,205Bが形成されている。隔壁部204は、Crなどの遮光性を有する金属あるいはその酸化膜からなるブラックマトリクスと呼ばれる下層バンク202と、下層バンク202の上(図面では下向き)に形成された有機化合物からなる上層バンク203とにより構成されている。また、隔壁部204と着色層205R,205G,205Bとを覆う平坦化層としてのオーバーコート層(OC層)206と、OC層206を覆うように形成されたITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜からなる対向電極207とを備えている。対向基板201におけるカラーフィルター205の製造方法は、上記実施形態1の吐出装置10を用い吐出ヘッド50から膜形成領域に着色層形成材料を含む液状体を吐出して乾燥させることにより着色層205R,205G,205Bを成膜化する液滴吐出法(インクジェット法)を用いている。
【0122】
素子基板208は、同じく透明なガラス等の材料からなり、液晶を挟む表面側に絶縁膜209を介してマトリクス状に形成された画素電極210と、画素電極210に対応して形成された複数のTFT素子211とを有している。TFT素子211の3端子のうち、画素電極210に接続されない他の2端子は、互いに絶縁された状態で画素電極210を囲むように格子状に配設された走査線212とデータ線213とに接続されている。
【0123】
照明装置216は、例えば光源として白色のLED、EL、冷陰極管等を用い、これらの光源からの光を液晶パネル220に向かって出射することができる導光板や拡散板、反射板等の構成を備えたものであれば、どのようなものでもよい。
【0124】
本実施形態の液晶装置200は、上記実施形態1の電気光学装置の製造方法を適用したカラーフィルター205の製造方法を用いて製造された着色層205R,205G,205Bを有する対向基板201を備えているので、色むら等の表示不具合の少ない高い表示品質を有する。
【0125】
なお、液晶パネル220は、アクティブ素子としてTFT素子211を有したものに限らず、一方の基板にカラーフィルター205を備えるものであれば、画素を構成する一対の電極が他方の基板において配置される横電界方式の液晶装置でもよい。また、上下偏光板214,215は、視角依存性を改善する目的等で用いられる位相差フィルムなどの光学機能性フィルムと組み合わされたものでもよい。
【0126】
<液晶装置の製造方法>
次に、本実施形態の液晶装置200の製造方法について図20を参照して説明する。主に液晶装置200の対向基板201側におけるカラーフィルター205の製造方法を例に説明する。
【0127】
まず、図20(a)に示すように、対向基板201の表面に、膜形成領域Aを区画するように隔壁部204を形成する(隔壁部形成工程)。形成方法としては、真空蒸着法やスパッタ法により、CrやAlなどの金属膜または金属化合物の膜を対向基板201の表面に遮光性を有するように成膜する。そしてフォトリソグラフィ法により、感光性樹脂(フォトレジスト)を塗布して膜形成領域Aが開口するように露光・現像・エッチングして下層バンク202を形成する。続いてフォトリソグラフィ法により、感光性の隔壁部形成材料をおよそ2μmの厚みで塗布して露光・現像し、下層バンク202上に上層バンク203を形成する。隔壁部204は、下層バンク202と上層バンク203とからなる所謂二層バンク構造となっている。なお、隔壁部204は、これに限らず、遮光性を有する感光性の隔壁部形成材料を用いて形成した上層バンク203のみの一層構造としてもよい。
【0128】
次に、後の液状体の充填工程において、吐出された液状体が膜形成領域Aに着弾して濡れ拡がるように、対向基板201の表面を親液処理する。また、吐出された液状体の一部が上層バンク203に着弾したとしても膜形成領域A内に収まるように、上層バンク203の少なくとも頭頂部を撥液処理する。
【0129】
表面処理方法としては、隔壁部204が形成された対向基板201に対して、O2を処理ガスとするプラズマ処理とフッ素系ガスを処理ガスとするプラズマ処理とを行う。すなわち、膜形成領域Aが親液処理され、その後感光性樹脂からなる上層バンク203の表面(壁面を含む)が撥液処理される。なお、上層バンク203を形成する材料自体が撥液性を有していれば後者の処理を省くこともできる。
【0130】
続いて、吐出装置10のステージ5に表面処理されたワークである対向基板201を載置する。そして、図20(b)に示すように、対向基板201が載置されたステージ5と吐出ヘッド50との主走査方向への相対移動に同期して、吐出ヘッド50の複数のノズル52から例えばR(赤)の着色層形成材料が含まれた液状体230Rを液滴として膜形成領域Aに吐出する(充填工程)。他の液状体230G,230Bにおいても同様である。膜形成領域Aの平面積と開口幅とに応じて、濃度が異なる第1液状体と第2液状体のうち少なくとも一方を用いて吐出ヘッド50から吐出される。実際の吐出に際しては、上記実施形態1の実施例1〜実施例3に示した方法と同じ方法が採用できる。すなわち、濃度が高い第2液状体の混合溶媒における蒸気圧が低い方の溶媒の割合は、濃度が低い第1液状体の混合溶媒における蒸気圧が低い方の溶媒の割合に比べて高く設定される。また、充填された液状体230R,230G,230Bが安定したメニスカスで膨らむ状態にまで吐出される。これにより、図20(c)に示すように、必要量の液状体230R,230G,230Bが膜形成領域Aごとに安定的に塗布される。
【0131】
次に、図20(d)に示すように、対向基板201に吐出された液状体230R,230G,230Bから溶媒成分を蒸発させて、着色層形成材料からなる着色層205R,205G,205Bを成膜化する(成膜工程)。本実施形態では、液状体230R,230G,230Bに含まれる溶媒をほぼ一定速度で乾燥することが可能な減圧乾燥装置に対向基板201をセットして減圧乾燥し、R、G、B、3色の着色層205R,205G,205Bを形成した。なお、1色の液状体を吐出して乾燥する工程を3回繰り返してもよい。
先の液状体の充填工程において、必要量の液状体230R,230G,230Bが膜形成領域Aごとに安定的に塗布されているので、ほぼ一定の膜厚を有する着色層205R,205G,205Bを形成することができる。なお、着色層205R,205G,205Bの膜厚は、色ごとに設定すればよく、必ずしも3色が同一でなくてもよい。必要な膜厚の設定に基づいて、必要量の液状体230R,230G,230Bを対応する膜形成領域Aに吐出すればよい。
【0132】
次に、図20(e)に示すように、着色層205R,205G,205Bと上層バンク203とを覆うように平坦化層としてのOC層206を形成する(平坦化層形成工程)。形成方法としては、スピンコート法、ロールコート法などによりアクリル系樹脂をコーティングして乾燥させる方法が挙げられる。また、感光性アクリル樹脂をコーティングしてから紫外光を照射して硬化させる方法も採用することができる。膜厚は、およそ100nmである。なお、着色層205R,205G,205Bが形成された対向基板201の表面が比較的に平坦ならば、平坦化層形成工程を省いてもよい。
【0133】
次に、図20(f)に示すように、OC層206の上にITO(Indium Tin Oxide)などからなる対向電極207を成膜する(対向電極成膜工程)。成膜方法としては、ITOなどの導電材料をターゲットとして真空中で蒸着あるいはスパッタする方法が挙げられる。膜厚は、およそ10nmである。形成された対向電極207は、適宜必要な形状(パターン)に加工される。なお、液晶装置200の構成によっては、対向電極207を必要としない場合もある。
【0134】
このようなカラーフィルター205の製造方法によれば、上記実施形態1の電気光学装置の製造方法を適用して3色の着色層形成材料を含む液状体230R,230G,230Bを対応する膜形成領域Aに吐出しているため、乾燥後の色むらが低減され、膜形成領域Aの解像度が異なっていても、ほぼ一定の膜厚を有する着色層205R,205G,205Bを形成することができる。すなわち、所望の光学特性を有するカラーフィルター205を製造することができる。
【0135】
液晶装置200は、このようなカラーフィルター205を備えた対向基板201を用いて構成されているため、見映えのよいカラー表示が可能である。
【0136】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0137】
(変形例1)上記実施形態1において、濃度が異なる液状体における混合溶媒の組成を決める物理特性は蒸気圧に限定されない。沸点でもよい。例えば、上記溶媒Aとして挙げられた各溶媒の沸点は、次のとおりである。シクロヘキシルベンゼン(240℃)、3−メチルビフェニル(272℃)、3−メチルジフェニルエーテル(274℃)、ジエチレングリコール(245℃)、エチレングリコール(198℃)。また上記溶媒Bとして挙げられた各溶媒の沸点は、次のとおりである。メシチレン(165℃)、1,2,4−トリメチルベンゼン(169℃)、クメン(153℃)、4−メチル−2−ペンタノール(130℃)。これによれば、溶媒Aは、溶媒Bに比べて沸点が高い。すなわち、濃度が高い第2液状体の混合溶媒における沸点が高い方の溶媒Aの割合は、濃度が低い第1液状体の混合溶媒における沸点が高い方の溶媒Aの割合に比べて高く設定される、としても、蒸気圧の場合と同様な作用・効果が得られる。また、乾燥方法としては、減圧乾燥に限定されず、この場合、高い方の沸点よりも低い温度で乾燥を開始し、徐々に温度を上げて乾燥させることが望ましい。
【0138】
(変形例2)上記実施形態1において、マザー基板110における発光画素107の構成は、1つの解像度に限定されない。図21(a)は変形例のマザー基板を示す概略平面図である。図21(a)に示すように、変形例のマザー基板150は、例えば発光画素107Aを有する素子基板101Aと発光画素107Bを有する素子基板101Bとがマトリクス状に面付けされている。詳しくは、マザー基板150において素子基板101Aを多面付けして余った領域に素子基板101Aよりもサイズが小さい素子基板101Bを面付けしたものである。発光画素107Aに対して発光画素107Bの解像度が高くなっている。
このようなマザー基板150であっても上記実施形態1の有機EL装置100の製造方法を用いれば、解像度が異なる発光画素107A,107Bにそれぞれ所望の発光特性が得られる有機EL素子112を形成することができる。
【0139】
(変形例3)上記実施形態1および上記実施形態2において、画素(ピクセル)のサイズは、R,G,B間で同一であることに限定されない。図21(b)は変形例の着色層を示す概略平面図である。図21(b)に示すように、例えば隔壁部204によって区画された着色層205R',205G',205B'は、互いに大きさが異なっている。視感度が最も高い着色層205G'の平面積が最も小さくなるように設定されている。このようにR,G,Bの各ピクセルサイズが異なっていても上記実施形態2のカラーフィルター205の製造方法を用いれば、所望の膜厚を有する着色層205R',205G',205B'を形成可能である。
【0140】
(変形例4)上記実施形態1および上記実施形態2において、ストライプ状に配置されたR,G,Bの各画素(ピクセル)は、1画素ごとに隔壁部により区画されることに限定されない。図22は変形例の画素の配列を示す概略平面図である。例えば、図22に示すように、隔壁部133(隔壁部204)は、同色の機能層132R,132G,132B(着色層205R,205G,205B)同士を複数(この変形例では4つずつ)区画するように設けてもよい。すなわち、膜形成領域Aは、複数の画素分の機能層132R,132G,132B(着色層205R,205G,205B)を有し、ストライプ方向に長くなっている。これによって液状体を塗布する膜形成領域Aの平面積を調整することが可能となる。言い換えれば、画素(ピクセル)のサイズが比較的に小さくなったとしても、複数の画素を区画するように隔壁部を設ければ、所定量の液状体を充填可能な状態にすることができる。
また、このように複数の画素分を含む膜形成領域Aに液状体を充填する方法としては、吐出ヘッド50を用いた液滴吐出法に限らず、ディスペンサー(定量吐出装置)を用いて液状体を連続的に吐出する方法を採用することができる。
【0141】
(変形例5)上記実施形態1および上記実施形態2において、R,G,Bの各画素(ピクセル)に形成される機能層132または着色層205R,205G,205Bの膜厚は、R,G,B間でほぼ同一であることに限定されない。それぞれ所望の光学特性を得るために必要な膜厚を確保することが望ましい。
【0142】
(変形例6)上記実施形態1において有機EL装置100の構成は、これに限定されない。例えば、封止基板102側にカラーフィルターを有し、素子基板101に白色発光が得られる有機EL素子112を形成する場合においても、上記有機EL装置100の製造方法を適用することができる。
【0143】
(変形例7)上記実施形態1の電気光学装置の製造方法を適用する工程は、有機EL装置100の発光層132r,132g,132bを形成する発光層形成工程に限定されない。例えば、機能層132を構成する正孔注入層132aや中間層132cの形成においても適用可能である。
【0144】
(変形例8)上記実施形態1の電気光学装置の製造方法を適用可能なデバイスは、有機EL装置100、液晶装置200(カラーフィルター205)に限定されない。例えば、プラズマディスプレイやSEDなどの表示装置、有機EL素子を備えた照明装置、あるいは所定の膜パターンが繰り返される有機半導体装置、金属配線基板などが挙げられる。
【符号の説明】
【0145】
5…ステージ、10…電気光学装置の製造装置としての吐出装置、20…移動機構としてのワーク移動機構、50…吐出ヘッド、52…ノズル、52a,52b…ノズル列、60…液状体供給機構、61…貯留部、62…溶液調整部、90R,90G,90B…液状体、100…電気光学装置としての有機EL装置、101…基板としての素子基板、112…有機EL素子、132…機能層、200…電気光学装置としての液晶装置、205R,205G,206B…機能層としての着色層、230R,230G,230B…液状体、A,A',A1,A2,A3…凹部としての膜形成領域、W1,W2…開口幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造方法であって、
蒸気圧が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記凹部内に吐出して充填する充填工程と、
充填された前記液状体から前記混合溶媒を除去して前記機能層を成膜化する成膜工程とを備え、
前記充填工程は、前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を用いて吐出し、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合は、前記第1液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合に比べて高いことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項2】
基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造方法であって、
沸点が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記凹部内に吐出して充填する充填工程と、
充填された前記液状体から前記混合溶媒を除去して前記機能層を成膜化する成膜工程とを備え、
前記充填工程は、前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を用いて吐出し、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合は、前記第1液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合に比べて高いことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項3】
前記充填工程は、前記凹部の前記開口幅の大小に対応して、前記第1液状体と前記第2液状体とを前記凹部に対する吐出量を異ならせて吐出することを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項4】
前記充填工程は、前記第1液状体と前記第2液状体とのうち前記吐出量が少ない方から先に前記凹部に吐出することを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記充填工程は、前記開口幅が相対的に大きい方の前記凹部に、前記第1液状体を吐出し、前記開口幅が相対的に小さい方の前記凹部に、前記第2液状体を吐出することを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項6】
前記充填工程は、前記凹部に充填された前記液状体がメニスカスで膨らむ状態になるまで吐出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項7】
前記開口幅が異なる前記凹部が同一の前記基板上において設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項8】
前記機能層形成材料は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層形成材料であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項9】
基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造装置であって、
前記基板が載置されるステージと、
複数のノズルを有する吐出ヘッドと、
前記ステージと前記吐出ヘッドとを対向させた状態で所定の方向に相対移動させる移動機構と、
蒸気圧が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記吐出ヘッドに供給する液状体供給機構とを備え、
前記移動機構による前記ステージと前記吐出ヘッドとの前記相対移動の間に、前記ステージ上に載置された前記基板の前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、前記吐出ヘッドの前記複数のノズルから第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を前記凹部に向けて吐出させ、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合は、前記第1液状体における前記混合溶媒に占める蒸気圧が低い方の前記溶媒の割合に比べて高く設定されていることを特徴とする電気光学装置の製造装置。
【請求項10】
基板と、前記基板上に設けられた複数の凹部と、前記凹部内に設けられた機能層とを有する電気光学装置の製造装置であって、
前記基板が載置されるステージと、
複数のノズルを有する吐出ヘッドと、
前記ステージと前記吐出ヘッドとを対向させた状態で所定の方向に相対移動させる移動機構と、
沸点が異なる複数種の溶媒からなる混合溶媒と機能層形成材料とを含む液状体を前記吐出ヘッドに供給する液状体供給機構とを備え、
前記移動機構による前記ステージと前記吐出ヘッドとの前記相対移動の間に、前記ステージ上に載置された前記基板の前記凹部に充填された後の前記液状体の濃度を前記凹部の開口幅の大小に対応して異ならせるべく、前記吐出ヘッドの前記複数のノズルから第1液状体と前記第1液状体に対して前記機能層形成材料の濃度が高い第2液状体とのうち少なくとも一方を前記凹部に向けて吐出させ、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合は、前記第2液状体における前記混合溶媒に占める沸点が高い方の前記溶媒の割合に比べて高く設定されていることを特徴とする電気光学装置の製造装置。
【請求項11】
前記凹部の前記開口幅の大小に対応して、前記第1液状体と前記第2液状体とを前記凹部に対する吐出量を異ならせて、前記吐出ヘッドから吐出させることを特徴とする請求項9または10に記載の電気光学装置の製造装置。
【請求項12】
前記第1液状体と前記第2液状体とのうち前記吐出量が少ない方から先に前記凹部に吐出させることを特徴とする請求項11に記載の電気光学装置の製造装置。
【請求項13】
前記開口幅が相対的に大きい方の前記凹部に前記第1液状体を吐出させ、前記開口幅が相対的に小さい方の前記凹部に前記第2液状体を吐出させることを特徴とする請求項9または10に記載の電気光学装置の製造装置。
【請求項14】
前記凹部に充填された前記液状体がメニスカスで膨らむ状態になるまで、前記吐出ヘッドから吐出させることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造装置。
【請求項15】
前記液状体供給機構は、前記第1液状体と前記第2液状体とをそれぞれ異なる前記吐出ヘッドに供給することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造装置。
【請求項16】
前記吐出ヘッドは、前記複数のノズルからなるノズル列を少なくとも2列備え、
前記液状体供給機構は、前記第1液状体と前記第2液状体とをそれぞれ異なる前記ノズル列に供給することを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造装置。
【請求項17】
前記液状体供給機構は、前記機能層形成材料および前記複数種の溶媒がそれぞれ独立して貯留された貯留部と、前記液状体における前記機能層形成材料の濃度と前記混合溶媒における前記複数種の溶媒の割合とを調整する溶液調整部とを備えていることを特徴とする請求項9乃至16のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−281862(P2010−281862A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132841(P2009−132841)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】