説明

電気化学デバイス

【課題】ケースのリングに対してリッドが位置ずれ無く結合された電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】電気化学デバイス10において、リッド12は該リッド12に一体形成された環状部12aの内周面12a1がリング18の外周面18bに密着するように焼き嵌めされており、環状部12aが位置決め手段として機能していることも相俟って該リッド12がケース11のリング18に対して位置ずれ無く結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な蓄電素子を封入した電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンやビデオカメラやデジタルカメラ等の電子機器には、メモリバックアップ等の用途に適した電源として、表面実装可能な電気化学デバイス、例えば、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等が用いられている。
【0003】
この電気化学デバイスは、下記特許文献1〜4に開示されているように、凹部を有するケースと、ケースの上面に設けられたリッド溶接用のリングと、凹部を水密及び気密に閉塞するようにリングに溶接されたリッドと、リッドによって閉塞された凹部内に封入された充放電可能な蓄電素子及び電解液と、ケースの下面(実装面)に設けられた正極端子及び負極端子と、正極端子と蓄電素子の正極側とを電気的に接続するための正極配線と、負極端子と蓄電素子の負極側とを電気的に接続するための負極配線とを備えている。
【0004】
ところで、リングに対するリッドの溶接には、通常、シーム溶接やレーザ溶接が用いられているが、何れの溶接もリング及びリッドの一部を溶融させるステップを含むことから、該溶融ステップにおけるリッドの変位を原因として該リッドに位置ずれを生じることがある。この位置ずれ量が適正範囲内にあれば特段の問題は生じないが、位置ずれ量が該適正範囲を超えると、蓄電素子の態様異常に伴う充放電特性の低下や電解液の漏出に伴う機能障害等の問題を生じ得る。要するに、リッドがケースのリングに対して位置ずれ無く結合された電気化学デバイスが得られれば、リッドの位置ずれを原因として生じ得る諸問題を未然に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−278068号公報
【特許文献2】特開2006−222221号公報
【特許文献3】特開2006−222221号公報
【特許文献4】特開2006−222221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ケースのリングに対してリッドが位置ずれ無く結合された電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、凹部を有するケースと、前記ケースの上面に設けられたリングと、前記凹部を水密及び気密に閉塞するように前記リングに結合されたリッドと、前記リッドによって閉塞された前記凹部内に封入された充放電可能な蓄電素子及び電解液とを備えた電気化学デバイスにおいて、前記リッドは該リッドに一体形成された環状部の内周面が前記リングの外周面に密着するように焼き嵌めされている、ことをその特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リッドは該リッドに一体形成された環状部の内周面がリングの外周面に密着するように焼き嵌めされており、環状部が位置決め手段として機能していることも相俟って該リッドがケースのリングに対して位置ずれ無く結合されているため、リッドの位置ずれを原因として生じ得る諸問題、例えば、蓄電素子の態様異常に伴う充放電特性の低下や電解液の漏出に伴う機能障害等の問題を未然に防止できる。
【0009】
本発明の前記目的とそれ以外の目的と、構成特徴と、作用効果は、以下の説明と添付図面によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明を適用した電気化学デバイスの外観斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した電気化学デバイスのS11−S11線に沿う拡大断面図である。
【図3】図3は、図1に示したケースの拡大上面図である。
【図4】図4(A)は、図1に示したリッドの焼き嵌め前の拡大断面図、図4(B)は、図4(A)に示したリッドの拡大下面図である。
【図5】図5は、図1に示したリッドの焼き嵌め手順の説明図である。
【図6】図6(A)及び図6(B)は、図4に示した焼き嵌め前のリッドの第1形状変形例を示すもので、図6(A)は、焼き嵌め前のリッドの拡大断面図、図6(B)は、図6(A)に示したリッドの拡大下面図である。
【図7】図7(A)及び図7(B)は、図4に示した焼き嵌め前のリッドの第2形状変形例を示すもので、図7(A)は、焼き嵌め前のリッドの拡大断面図、図7(B)は、図7(A)に示したリッドの拡大下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《本発明を適用した電気化学デバイス10》
図1及び図2は、本発明を適用した電気化学デバイスを示す。同図に示した電気化学デバイス10は、ケース11と、リッド12と、蓄電素子13と、正極端子14と、負極端子15と、正極配線16と、負極配線17と備えており、ケース11には、正極端子14と負極端子15と正極配線16と負極配線17が設けられている他、リッド結合用リング18と集電膜19が設けられている。
【0012】
〈ケース11の構成〉
ケース11は、アルミナ等の絶縁性材料から、所定の長さ、幅及び高さを有する直方体形状を成すように形成されており、その下面が実装面として利用される。また、ケース11には、矩形状の開口輪郭を有し、且つ、所定の深さを有する凹部11aが形成されている。さらに、ケース11を上から見たときの4つの角部には、上面輪郭が略1/4円を成す切り欠き11bが上下方向に形成されている。
【0013】
正極端子14は、金等の導電性材料から、ケース11の長さ方向の一端面の中央から下面に及ぶ断面L字形を成すように、且つ、所定の幅を有するように形成されている。負極端子15は、金等の導電性材料から、ケース11の長さ方向の他端面の中央から下面に及ぶ断面L字形を成すように、且つ、正極端子14と略同じ幅を有するように形成されている。
【0014】
図示を省略したが、ケース11の材料等を原因として、該ケース11の側面及び下面に正極端子14及び負極端子15を直接形成しても十分な密着力が得られない場合には、該密着力を高めるための密着補助層(例えば、ケース11側から順にタングステン膜とニッケル膜とが並ぶもの等)を予めケース11の側面及び下面の端子形成位置に形成しておくと良い。
【0015】
正極配線16は、タングステン等の導電性材料から、ケース11の長さ方向の一端面の中央から集電膜19の下面に至るように該ケース11の内部に形成されている。詳しくは、図3に示したように、正極配線16は、正極端子14と略同じ幅を有する矩形状部(符号無し)と、該矩形状部から内側に延びる計3本の帯状部16aと、各帯状部16aの端から集電膜19に向かって延びる計3個の柱状部16bとを有している。また、各柱状部16bの位置は、ケース11の凹部11aの底面11a1において異なっている。さらに、矩形状部におけるケース11の長さ方向の一端面から露出する部分は、正極端子14の側面部分に電気的に接続されており、各柱状部16bの上端は、集電膜19の下面に電気的に接続されている。
【0016】
図示を省略したが、正極配線16の各柱状部16bの材料等を原因として、該各柱状部16bの上端と集電膜19の下面とに十分な導通性が得られない場合には、該導通性を高めるための導通補助層(例えば、各柱状部16bの上端側から順にニッケル膜と金膜が並ぶもの等)を予め各柱状部16bの上端に形成しておくと良い。
【0017】
負極配線17は、タングステン等の導電性材料から、ケース11の長さ方向の他端面の中央から該ケース11の上面に至るようにその一部がケース11の内部に形成され他部がケース11の側面及び上面に形成されている。詳しくは、図3に示したように、負極配線17は、負極端子15と略同じ幅を有しケース11内に位置する矩形状部(符号無し)と、該矩形状部から外側に延びケース11内に位置する計2本の帯状部17aと、各帯状部17aと連続してケース11の2つの切り欠き11cの内面上に位置する計2本の帯状部17bと、各帯状部17bと連続してケース11の上面上に位置する計2個の扇状部17cとを有している。また、矩形状部におけるケース11の長さ方向の他端面から露出する部分は、負極端子15の側面部分に電気的に接続され、各扇状部17cの上面は、リング18の下面に電気的に接続されている。
【0018】
リング18は、コバール(鉄−ニッケル−コバルト合金)等の導電性材料から、ケース11の上面輪郭よりも小さな矩形状の上面輪郭を有するように形成されている。また、リング18は矩形状の開口輪郭を有する内孔18aを有しており、該内孔18aの開口輪郭はケース11の凹部11aの開口輪郭と略一致している。このリング18は、内孔18aが凹部11aと略合致するようにその下面をケース11の上面に接合材を介して接合されているため、該内孔18aは凹部11aの上部と利用されている(以下、リング18の内孔18aを含めてケース11の凹部11aと称する)。
【0019】
図示を省略したが、ケース11の材料等を原因として、該ケース11の上面にリング18の下面を接合材、例えば、金−銅合金等のロウ材を用いて直接接合しても十分な接合力が得られない場合には、該接合力を高めるための接合補助層(例えば、ケース11の上面側から順にタングステン膜とニッケル膜とが順に並ぶもの等)を予めケース11の上面のリング接合位置に形成しておくと良い。また、リング18が電解液に対する耐食性が低い材料から成る場合には、該耐食性を高めるための耐食性膜(例えば、リング18の表面側からニッケル膜と金膜が順に並ぶものや、この金膜を白金や銀やパラジウム等の他の金属膜に変えたもの等)を予めリング18の表面(少なくとも上下面と内孔18aの内周面)に形成しておくと良い。
【0020】
集電膜19は、アルミニウム等の導電性材料から、ケース11の凹部11aの底面11a1に形成されており、その矩形状の上面輪郭は後記第1電極シート13aの下面輪郭と略一致している。この集電膜19の形成には、該集電膜19の材料やケース11の材料等に応じて、溶射等の厚膜形成手法の他、CVD等の薄膜形成手法を利用できる。
【0021】
図示を省略したが、集電膜19の上面輪郭は、後記第1電極シート13aの下面輪郭よりも小さくても大きくても良い。また、集電膜19の上面輪郭は矩形状に限らず、矩形の4つの角に丸みがある形状や楕円または楕円に近い形状等であっても良い。
【0022】
〈リッド12の構成〉
リッド12は、コバール(鉄−ニッケル−コバルト合金)等の導電体材料から、好ましくは、コバール母材の上下面にニッケル膜を有するクラッド材やコバール母材の下面にニッケル膜を有するクラッド材や、これらのニッケル膜を白金や銀や金やパラジウム等の金属膜に変えたクラッド材等から、リング18の上面輪郭よりも大きな矩形状の上面輪郭を有するように形成されている。また、リッド12の下面外周部分には、矩形状の下面輪郭を有する環状部12aが一体に形成されていて、該環状部12aの内周面12a1は後記焼き嵌めによってリング18の外周面18bに密着しており、該密着によってリッド12はリング18に電気的に接続されている。図面には、リッド12の上面中央部分が矩形状に盛り上がったものを示してあるが、平板状のものを該リッド12として用いても良い。
【0023】
ここで、焼き嵌め前のリッド12’の環状部12aの内周面12a1の寸法等を、リング18の外周面18bの寸法等と交えて説明する。
【0024】
図2及び図3に示したように、リング18の外周面18bは所定の高さH18bと長さL18bと幅W18bとを有しており、外周面18bと上面とが成す角度θ18bは略90度である。リング18の内周面18bの高さH18bと、リング18の太さ(外周面18bと内孔18aの内周面との間の寸法を指す)は、後記焼き嵌めに強度的に耐え得る範囲であれば特段の制限は無い。
【0025】
一方、図4(A)及び図4(B)に示したように、焼き嵌め前のリッド12’の環状部12aの内周面12a1は、リング18の外周面18bの高さH18bと略一致した高さH12a1と、リング18の外周面18bの長さL18bよりも僅かに小さな長さL12a1と、リング18の外周面18bの幅W18bよりも僅かに小さな幅W12a1とを有しており、内周面12a1とリング18の上面と向き合う面とが成す角度θ12a1は略90度である。焼き嵌め前のリッド12’の環状部12aの内周面12a1の高さH12a1と、環状部12aを含むリッド12の厚さは、後記焼き嵌めに伴う膨張及び収縮が実現できる範囲であれば特段の制限は無い。
【0026】
〈蓄電素子13の構成〉
蓄電素子13は、矩形状の第1電極シート13aと、矩形状の第2電極シート13bと、両電極シート13a及び13bの間に介装された矩形状のセパレートシート13cと、から構成されている。
【0027】
第1電極シート13aの下面輪郭は、ケース11の凹部11aの上面輪郭よりも小さい。第2電極シート13bの上面輪郭は、ケース11の凹部11aの上面輪郭よりも小さく、且つ、第1電極シート13aの下面輪郭と略一致している。セパレートシート13cの上面輪郭は、ケース11の凹部11aの上面輪郭よりも僅かに小さく、且つ、第1電極シート13aの下面輪郭及び第2電極シート13bの上面輪郭よりも僅かに大きい。
【0028】
また、第1電極シート13a及び第2電極シート13bは活性炭や黒鉛(グラファイト)やPAS(ポリアセン系半導体)等の活物質から成り、セパレートシート13cはガラス繊維やセルロース繊維やプラチック繊維等を主材料とした多孔質シートから成る。因みに、第1電極シート13aと第2電極シート13bの材料は電気化学デバイス10の種類によって同じ場合と異なる場合とがあり、例えば、電気化学デバイス10が電気二重層キャパシタの場合は第1電極シート13aと第2電極シート13bの材料は同じで、電気化学デバイス10がリチウムイオンキャパシタの場合は第1電極シート13aと第2電極シート13bの材料は異なる。
【0029】
この蓄電素子13は、リッド12によって閉塞されたケース11の凹部11aの内側に、図示省略の電解液と一緒に封入されている。因みに、電解液の組成は電気化学デバイス10の種類によって異なり、例えば、電気化学デバイス10が電気二重層キャパシタの場合は電解質塩が溶媒に溶解した電解液が用いられ、電気化学デバイス10がリチウムイオンキャパシタの場合はリチウム塩が溶媒に溶解した電解液が用いられる。
【0030】
蓄電素子13を構成する第1電極シート13aと第2電極シート13bに使用時の極性が定まっていない場合(例えば、電気化学デバイス10が電気二重層キャパシタの場合)、即ち、第1電極シート13aを正極と負極の一方として選択的に使用でき、且つ、第2電極シート13bを正極と負極の他方として選択的に使用できる場合には、ケース11の凹部11aの内側に蓄電素子13を配置するときにその挿入順序を気にする必要は無い。
【0031】
一方、蓄電素子13を構成する第1電極シート13aと第2電極シート13bに使用時の極性が予め定まっている場合(例えば、電気化学デバイス10がリチウムイオンキャパシタの場合)は、ケース11の凹部11aの内側に蓄電素子13を配置するときにその挿入順序に注意する。例えば、第1電極シート13aの極性が正極に定められ、且つ、第2電極シート13bの極性が負極に定められている場合には、正極側の第1電極シート13aが集電膜19の上面と向き合い、且つ、負極側の第2電極シート13bがリッド12の下面と向き合うようにする。
【0032】
図2から分かるように、蓄電素子13の第1電極シート13aの下面は、第1導電性接着層20を介して集電膜19の上面に電気的に接続されている。一方、蓄電素子13の第2電極シート13bの上面は、第2導電性接着層21を介して該リッド12の下面に電気的に接続されている。第1導電性接着層20及び第2導電性接着層21は導電性接着剤の硬化物であり、該導電性接着剤には、好ましくは、導電性粒子を含有した熱硬化性接着剤、例えば、炭素粒子(カーボンブラック)や黒鉛粒子(グラファイト粒子)等を含有したエポキシ系接着剤等が利用できる。
【0033】
〈電気化学デバイス10の組立方法〉
以下、ケース11のリング18とリッド12がコバール(鉄−ニッケル−コバルト合金)で、第1導電性接着層20と第2導電性接着層21が炭素粒子(カーボンブラック)を含有したエポキシ系接着剤の硬化物である場合を例に挙げて、図1及び図2に示した電気化学デバイス10の組み立て方法について説明する。
【0034】
図1及び図2に示した電気化学デバイス10を組み立てるときには、図3に示したケース11と、蓄電素子13を構成する第1電極シート13a、第2電極シート13b及びセパレートシート13cと、図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’を用意する。
【0035】
そして、ケース11の集電膜19の上面に導電性接着剤を所定厚さで塗布し、該導電性接着剤に第1電極シート13aの下面を相対的に押し当てて密着させ、その後に第1電極シート13aを乾燥させ、且つ、導電性接着剤を硬化させる。そして、第1電極シート13aの上面にセパレートシート13cを載置する。これに前後して、焼き嵌め前のリッド12’の下面中央に前記と同じ導電性接着剤を所定厚さで塗布し、該導電性接着剤に第2電極シート13bの上面を相対的に押し当てて密着させ、その後に第2電極シート13bを乾燥させ、且つ、導電性接着剤を硬化させる。因みに、電解液の注入は、リッド12がリング18に結合される前の適当なタイミングで行われる。
【0036】
そして、図5に示したように、窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下で、第2電極シート13bが接着されたリッド12’を略300℃に加熱して該リッド12’を膨張させる。この膨張により、環状部12aの内周面12a1の長さ(L12a1)及び幅(W12b1)が図4に示した長さL12a1及び幅W12b1よりも僅かに拡大し、該拡大に基づく嵌め代FMが膨張状態のリッド12”に確保される。ここでは加熱温度を略300℃としたが、図5に示した嵌め代FMが確保できるのであれば加熱温度は300℃よりも低くても良い。
【0037】
そして、図5に示したように、前記同様の非酸化性雰囲気下で、環状部12aがリング18の外側に位置するように膨張状態のリッド12”をリング18上に載置し、該リッド12”を常温まで冷却する。この冷却は自然冷却でも構わないが、冷風吹き付け等の強制冷却を行えば冷却時間の短縮を図れる。この冷却により、環状部12aの内周面12a1の長さ(L12a1)及び幅(W12b1)が図4に示した長さL12a1及び幅W12b1に復帰して焼き嵌めが行われ、環状部12aの内周面12a1の略全てがリング18の外周面18bに強く押し付けられて密着し、該密着によってリッド12がリング18に電気的に接続される。
【0038】
膨張状態のリッド12”の環状部12aの内周面12a1の高さ(H12a1)がリング18の外周面18bの高さH18bと一致している場合、または、リング18の外周面18bの高さH18bよりも僅かに小さい場合には、先に述べた載置ステップにおいてリッド12のリング18の上面と向き合う面はリング18の上面に接触するため、焼き嵌め後のリッド12のリング18の上面と向き合う面とリング18の上面との間に隙間が形成されることは無い。勿論、膨張状態のリッド12”の環状部12aの内周面12a1の高さ(H12a1)がリング18の外周面18bの高さH18bよりも僅かに大きい場合でも、先に述べた冷却ステップにおける環状部12aの内周面12a1の高さ(H12a1)の減少に伴ってリッド12全体が自重により降下するため、焼き嵌め後のリッド12のリング18の上面と向き合う面とリング18の上面との間に隙間が形成されることは無い。
【0039】
また、先に述べた加熱ステップでは、リッド12’に加えて第2電極シート13b及び第2導電性接着層21も略同一温度に加熱されるが、該加熱を非酸化性雰囲気下で行っているため、リング18に対するリッド12の電気的接続に支障を生じるような酸化膜が該リッド12に生成されることは無い。一方、活性炭等から成る第2電極シート13bは耐熱性に富むため、充放電特性に影響を及ぼす変質が該第2電極シート13bに生じることは無い。他方、エポキシ樹脂を主成分とした第2導電性接着層21は加熱によって軟化するものの、先に述べた冷却ステップで再び硬化状態に戻るため、充放電特性に影響を及ぼす位置ずれ、例えば、蓄電素子13に態様異常をもたらすような位置ずれを生じることは無い。
【0040】
加えて、図1及び図2に示した電気化学デバイス10をリフローハンダ付けによって回路基板等に表面実装するとき、ハンダが鉛フリーハンダの場合で該電気化学デバイス10は250℃前後に加熱されるが、該加熱によってリッド12のみならずケース11やリング18等も膨張するため、リフローハンダ付け過程で焼き嵌めされたリッド12が外れることは無いし、リッド12とリング18との結合力が低下することも無い。
【0041】
〈電気化学デバイス10によって得られる効果〉
前記電気化学デバイス10によれば、以下の効果1及び効果2を得ることができる。
【0042】
(効果1)リッド12は該リッド12に一体形成された環状部12aの内周面12a1がリング18の外周面18bに密着するように焼き嵌めされており、環状部12aが位置決め手段として機能していることも相俟って該リッド12がケース11のリング18に対して位置ずれ無く結合されているため、リッド12の位置ずれを原因として生じ得る諸問題、例えば、蓄電素子13の態様異常に伴う充放電特性の低下や電解液の漏出に伴う機能障害等の問題を未然に防止できる。
【0043】
(効果2)リッド12の環状部12aの内周面12a1の高さH12a1はリング18の外周面18bの高さH18bと略一致しており、焼き嵌めによって環状部12aの内周面12a1の略全てがリング18の外周面18bに強く押し付けられて密着しているため、リッド12とリング18とに十分な結合力を確保できると共に、両者の電気的接続を的確に行える。
【0044】
《焼き嵌め前のリッド12’の第1形状変形例》
図6(A)及び図6(B)は、図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’に変えて使用可能な焼き嵌め前のリッド22’を示す。同図に示した焼き嵌め前のリッド22’の環状部22aの内周面22a1は、リング18の外周面18bの高さH18bと略一致した高さH22a1と、リング18の外周面18bの長さL18bよりも僅かに小さな長さL22a1と、リング18の外周面18bの幅W18bよりも僅かに小さな幅W22a1とを有しており、内周面22a1とリング18の上面と向き合う面とが成す角度θ22a1は略85度である。
【0045】
要するに、図6(A)及び図6(B)に示した焼き嵌め前のリッド22’は、環状部22aが内側に向かって傾いている点において、図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’と形状を異にする。
【0046】
この焼き嵌め前のリッド22’を図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’に変えて使用した場合の電気化学デバイスの組立方法は、前記〈電気化学デバイス10の組立方法〉で説明した組立方法と基本的に同じであるが、先に述べた冷却ステップで環状部22aの内周面22a1がリング18の外周面18bに密着する挙動が若干異なる。
【0047】
即ち、焼き嵌め前のリッド22’の環状部22aが内側に向かって傾いているため、冷却ステップで環状部22aの内周面22a1がリング18の外周面18bに密着するときに、該環状部22aの内周面22a1はその端縁(符号無し)がリング18の外周面18bに食い込むようにして密着する。
【0048】
環状部22aの厚さ及び弾性にもよるが、該環状部22aの内周面22a1とリング18の上面と向き合う面とが成す角度θ22a1をあまり小さくすると、例えば、略45度とすると、先に述べた冷却ステップで環状部12aの内周面12a1の略全てをリング18の外周面18bに密着させることが難しくなるため、密着面積を十分に確保したい場合には環状部22aの内周面22a1とリング18の上面と向き合う面とが成す角度θ22a1は略75度〜90度未満の範囲内、好ましくはリング18の外周面18bに引っ掛かりが得られる程度で90度に近い値に設定することが望ましい。
【0049】
図6(A)及び図6(B)に示した焼き嵌め前のリッド22’を図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’に変えて使用した電気化学デバイスによれば、前記効果1に加えて、以下の効果3を得ることができる。
【0050】
(効果3)リッド22の環状部22aの内周面22a1の端縁がリング18の外周面18bに食い込んでいるため、該食い込みによってリッド22とリング18との結合をより強化できると共に、両者の電気的接続をより的確に行える。
【0051】
勿論、環状部22aの内周面22a1とリング18の上面と向き合う面とが成す角度θ22a1を90度に近い値に設定して、環状部22aの内周面22a1の略全てがリング18の外周面18bに密着するようにすれば、前記効果2を併せて得られる。
【0052】
《焼き嵌め前のリッド12’の第2形状変形例》
図7(A)及び図7(B)は、図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’に変えて使用可能な焼き嵌め前のリッド32’を示す。同図に示した焼き嵌め前のリッド32’の環状部32aの内周面32a1は、リング18の外周面18bの高さH18bと略一致した高さH32a1と、リング18の外周面18bの長さL18bよりも僅かに小さな長さL32a1と、リング18の外周面18bの幅W18bよりも僅かに小さな幅W32a1とを有しており、内周面32a1とリング18の上面と向き合う面とが成す角度θ32a1は略90度である。また、環状部32aの内周面32a1の略高さ方向中央には、複数の凸部32a2が長さ方向及び幅方向に間隔をおいて形成されている。
【0053】
要するに、図7(A)及び図7(B)に示した焼き嵌め前のリッド32’は、環状部32aの内周面32a1に複数の凸部32a2が形成されている点において、図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’と形状を異にする。
【0054】
この焼き嵌め前のリッド32’を図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’に変えて使用した場合の電気化学デバイスの組立方法は、前記〈電気化学デバイス10の組立方法〉で説明した組立方法と基本的に同じであるが、先に述べた冷却ステップで環状部32aの内周面32a1がリング18の外周面18bに密着する挙動が若干異なる。
【0055】
即ち、焼き嵌め前のリッド32’の環状部32aの内周面32a1に複数の凸部32a2が形成されているため、冷却ステップで環状部32aの内周面32a1がリング18の外周面18bに密着するときに、該環状部32aの内周面32a1はその凸部32a2がリング18の外周面18bに食い込むようにして密着する。
【0056】
環状部22a及びリング18の硬度にもよるが、該環状部32aの内周面32a1に形成した凸部32a2の突出高さをあまり大きくすると、例えば、環状部32aの厚さの略1/2とすると、先に述べた冷却ステップで環状部12aの内周面12a1の略全てをリング18の外周面18bに密着させることが難しくなるため、密着面積を十分に確保したい場合には各凸部32a2の突出高さは環状部32aの厚さの略1/40〜略1/5の範囲内、好ましくはリング18の外周面18bに引っ掛かりが得られる程度で極力小さな値に設定することが望ましく、また、各凸部32a2の断面積も極力小さな値とすることが望ましい。
【0057】
図7(A)及び図7(B)に示した焼き嵌め前のリッド32’を図4(A)及び図4(B)に示した焼き嵌め前のリッド12’に変えて使用した電気化学デバイスによれば、前記効果1に加えて、以下の効果4を得ることができる。
【0058】
(効果4)リッド32の環状部32aの内周面32a1に形成された凸部32a2がリング18の外周面18bに食い込んでいるため、該食い込みによってリッド32とリング18との結合をより強化できると共に、両者の電気的接続をより的確に行える。
【0059】
勿論、各凸部32a2の突出高さ及び断面積を極力小さな値に設定して、環状部22aの内周面22a1の略全てがリング18の外周面18bに密着するようにすれば、前記効果2を併せて得られる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタに限らず、充放電可能な蓄電素子を用いた他の電気化学デバイス、例えば、レドックスキャパシタやリチウムイオン電池等に広く適用でき、該適用によって前記[発明を解決しようとする課題]に記した目的を達成できる。
【符号の説明】
【0061】
10…電気化学デバイス、11…ケース、11a…凹部、12…リッド(焼き嵌め後のリッド)、12’,22’,32’…焼き嵌め前のリッド、12”…膨張状態のリッド、12a,22a,32a…リッドの環状部、12a1,22a1,32a1…環状部の内周面、32a2…環状部の内周面の凸部、13…蓄電素子、18…リング、18b…リングの外周面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有するケースと、前記ケースの上面に設けられたリングと、前記凹部を水密及び気密に閉塞するように前記リングに結合されたリッドと、前記リッドによって閉塞された前記凹部内に封入された充放電可能な蓄電素子及び電解液とを備えた電気化学デバイスにおいて、
前記リッドは該リッドに一体形成された環状部の内周面が前記リングの外周面に密着するように焼き嵌めされている、
ことを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項2】
前記リッドの環状部の内周面の高さは前記リングの外周面の高さと略一致している、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記リッドの環状部の内周面の端縁が前記リングの外周面に食い込んでいる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記リッドの環状部の内周面に形成された凸部が前記リングの外周面に食い込んでいる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−227418(P2012−227418A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94944(P2011−94944)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】