説明

電気化学素子とその電極の製造方法、製造装置、前処理方法、前処理装置

【課題】リチウムイオンを吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極に不可逆容量を補填するためにリチウムを付与する前処理を高速化し、高い生産性を実現しつつ高容量かつ長寿命な電気化学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によるリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の製造方法は、リチウム31Aと電極とが配置された雰囲気を減圧し、リチウム31Aの表面に電子ビーム33を照射することによってリチウム蒸気を発生させ、リチウム蒸気を用いて電極にリチウムを付与する前処理方法を含む。このようにリチウム31Aの表面に電子ビーム33を照射することによってリチウム蒸気を発生させることで多量のリチウム蒸気を発生させることができ、リチウムを付与する前処理を高速化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子の電極の活物質層にリチウムを付与する前処理を含む製造方法と、前処理装置を含む製造装置、ならびにそれを用いて製造した電極を用いた電気化学素子に関する。より詳しくは、非水電解質二次電池用の負極にリチウムを付与する前処理方法と、それを含む製造方法と、前処理装置を含む製造装置、それを用いて製造した負極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として、小型かつ軽量で、高エネルギー密度を有する二次電池への要望も高まっている。また、小型民生用途のみならず、電力貯蔵用や電気自動車といった長期に渡る耐久性や安全性が要求される大型の二次電池に対する技術展開も加速してきている。このような観点から、高電圧であり、かつ高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池、特にリチウム二次電池が電子機器用、電力貯蔵用、あるいは電気自動車の電源として期待されている。
【0003】
非水電解質二次電池は、正極と負極と、それらの間に介在するセパレータと非水電解質とを有する。セパレータは主としてポリオレフィン製の微多孔膜から構成される。非水電解質には、LiBF、LiPFなどのリチウム塩を非プロトン性の有機溶媒に溶解した液状の非水電解質液(非水電解液)が用いられている。また正極の活物質としては、リチウムに対する電位が高く、安全性に優れ、比較的合成が容易であるリチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)が用いられている。負極の活物質としては、黒鉛などの種々の炭素材料が用いられている。このような構成の非水電解質二次電池が実用化されている。
【0004】
負極の活物質として用いられている黒鉛は、理論上、炭素原子6個に対してリチウム原子1個を吸蔵できるため黒鉛の理論容量密度は372mAh/gである。しかしながら不可逆容量による容量ロスなどのため、実際の放電容量密度は310〜330mAh/g程度に低下する。そのため基本的には、この容量密度以上でリチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料を得ることは困難である。
【0005】
そこで、さらに高エネルギー密度の電池が求められる中、理論容量密度の大きい負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)やこれらの酸化物、合金などが期待されている。中でも特に安価なSiおよびその酸化物は幅広く検討されている。
【0006】
しかし、Si、Sn、Geや、これらの酸化物もしくは合金は、リチウムイオンを吸蔵するときに結晶構造が変化し、その体積が増加する。充電時に活物質が大きく膨張すると、活物質と集電体との間に接触不良が生じるため、充放電サイクル寿命が短くなる。そこで、以下のような提案がなされている。
【0007】
膨張による活物質と集電体との接触不良を改良する観点から、集電体表面に活物質を薄膜状に成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。さらには集電体表面に柱状かつ傾斜した状態で活物質を成膜する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。これらの提案によれば、活物質を集電体と強く金属結合させることで安定な集電が確保される。特に後者では柱状の活物質の周囲に膨張を吸収するのに必要十分な空間を有する。そのため活物質の膨張・収縮による負極自体の破壊を防止し、かつ接するセパレータや正極への圧迫応力を削減することにより、特に充放電サイクル特性を向上させることができる。
【0008】
しかしながら、ケイ素酸化物(SiO(0<x<2))を活物質に用いた場合、初回の充電で発生する不可逆容量は非常に大きい。そのためそのまま正極と組み合わせた場合は正極の可逆容量の多くを不可逆容量に費やしてしまう。そのためケイ素酸化物を活物質として負極に用いて高容量な電池を実現するためには正極以外からリチウムを補填することが必要である。
【0009】
そこでリチウム補填の手段として負極上に金属リチウムを付与し、固相反応によって吸蔵させるという手段が数多く提案されている。例えばスパッタ法、真空蒸着法、レーザーアブレーション法あるいはイオンプレーティング法などの乾式成膜法により負極表面上にリチウムを堆積させる工程、さらに保存する工程を備える方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2002−83594号公報
【特許文献2】特開2005−196970号公報
【特許文献3】特開2005−38720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、2に記されるような方法で活物質を成膜し、かつ特許文献3に記されるように真空蒸着法によって負極表面上にリチウムを堆積させる場合、坩堝中のリチウムを減圧下で加熱し、溶融させて蒸気を発生させる。したがってリチウムを少なくとも450℃以上に昇温させ、坩堝内をその温度に維持する必要がある。真空蒸着法で通常用いられる抵抗加熱では700℃程度まで加熱するのが限界であり、負極にリチウムをより高速に付与するためには抵抗加熱方式は不向きである。また、このように坩堝全体を加熱すると、坩堝から発生する輻射熱が負極を加熱する。そのため、負極活物質が相変化し、容量密度が低下する可能性もある。
【0011】
本発明は、これらの課題を解決し、電極にリチウムを高速で付与するとともに、リチウム付与における負極活物質への影響を小さくして高容量な電気化学素子用の電極を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によるリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の製造方法は、リチウムと電極とが配置された雰囲気を減圧し、リチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させ、リチウム蒸気を用いて電極にリチウムを付与する前処理方法を含む。このようにリチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させる場合、リチウムの表面温度を1000℃以上にも上げることができる。そのため多量のリチウム蒸気を発生させることができ、リチウムを付与する前処理を高速化できる。またリチウムの表面のみを加熱するため、負極活物質に影響を及ぼすほどの輻射熱が発生しにくい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気化学素子用の電極にリチウムを付与する前処理を高速化できる。そのためその電極に起因する不可逆容量を確実に補填された高容量な電気化学素子を提供する際の生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1の発明は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の製造方法であって、リチウムと電極とが配置された雰囲気を減圧し、リチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させ、リチウム蒸気を用いて電極にリチウムを付与する前処理方法を含む電気化学素子用の電極の製造方法である。この方法では、リチウムの表面温度を700℃以上に上げることができる。そのため多量のリチウム蒸気を発生させることができ、リチウムを付与する前処理を高速化できる。またリチウムの表面のみを加熱するため、負極活物質に影響を及ぼすほどの輻射熱が発生しにくい。
【0015】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、上面が開放された容器に入れたリチウムの表面に電子ビームを照射し、この容器の上方に電極を配置することで電極にリチウムを付与する電気化学素子用の電極の製造方法である。このような配置において上面が大面積の容器を用いれば多量のリチウム蒸気を電極に供給できる。また、容器の片隅にリチウムロッドを挿入しておくことで蒸気となって容器からリチウムが減っても連続的に容器内にリチウムを供給することができる。そのため、装置外部からのリチウム供給頻度が下がり、生産性が向上する。
【0016】
本発明の第3の発明は、第1の発明において、リチウムの表面に電子ビームを走査する電気化学素子用の電極の製造方法である。上述のように電子ビームはリチウムの表面に大きなエネルギーを与える。したがって1箇所に連続的に電子ビームを照射しなくてもリチウムの表面温度を充分に高くすることができる。さらに電子ビームを走査することによってリチウムの表面全体を加熱することができ、リチウム蒸気を多量に発生させることができる。その結果、生産性が向上する。
【0017】
本発明の第4の発明は、第1の発明において、集電体上に活物質層を設け、電極前駆体を作製し、この電極前駆体にリチウムを付与する電気化学素子用の電極の製造方法である。
【0018】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明による製造方法によって作製した第1電極と、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第2電極と、第1電極と第2電極との間に介在する電解質と、を備えた電気化学素子である。また本発明の第6から第8の発明は第1から第3の発明による製造方法における電気化学素子用の電極の前処理方法であり、本発明の第9の発明は、第6から第8の発明による前処理方法により前処理したリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第1電極と、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第2電極と、第1電極と第2電極との間に介在する電解質と、を備えた電気化学素子である。さらに本発明の第10から第12の発明は第6から第8の発明による前処理方法を実施するための電気化学素子用の電極の前処理装置、本発明の第13から第16の発明は第1から第4の発明による製造方法を実施するための電気化学素子用の電極の製造装置である。
【0019】
なお電気化学素子が非水電解質二次電池であり、電極が、活物質層が集電体上に設けられた負極である場合、集電体上に柱状構造を有する複数の活物質塊として活物質層を形成することが好ましい。活物質が柱状構造の場合、柱間の空間で活物質の膨張を吸収することができるため、平滑な膜状構造に比べて活物質の膨張・収縮に対して非常に有効である。また活物質塊を集電体の厚み方向に対して傾きを有するように形成することがさらに好ましい。このように集電体の厚み方向に対し活物質塊が傾斜することによって効果的に負極活物質の膨張・収縮を空間内に吸収することが可能であり、負極の充放電サイクル特性が改善される。また高速に成膜可能な形状であることから量産性の見地からも好ましい。また活物質塊をSiO(0<x<2)とすることが好ましい。これにより、電極反応効率が高く、高容量で比較的安価な非水電解質二次電池が得られる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、電気化学素子として非水電解質二次電池を例に、その電極として負極を例にして、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、本明細書に記載された基本的な特徴に基づく限り、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態による非水電解質二次電池の縦断面図である。ここでは円筒形電池を一例として説明する。この非水電解質二次電池は、金属製のケース1とケース1内に収容された電極群9とを含む。ケース1はステンレス鋼やニッケルめっきした鉄から作製されている。電極群9は第1電極である負極6と第2電極である正極5とをセパレータ7を介して渦巻状に捲回することにより構成されている。電極群9の上部には上部絶縁板8Aが、下部には下部絶縁板8Bが配置されている。ケース1の開口端部は、ガスケット3を介して封口板2に対しケース1をかしめることにより封口されている。また、正極5にはアルミニウム製の正極リード5Aの一端が取り付けられている。正極リード5Aの他端は、正極端子を兼ねる封口板2に接続されている。負極6にはニッケル製の負極リード6Aの一端が取り付けられている。負極リード6Aの他端は、負極端子を兼ねるケース1に接続されている。また電極群9には電解質である図示しない非水電解質が含浸している。すなわち、正極5と負極6との間には非水電解質が介在している。
【0022】
正極5は、通常、正極集電体とそれに担持された正極合剤から構成されている。正極合剤は、正極活物質の他に、結着剤、導電剤などを含むことができる。正極5は、例えば、正極活物質と任意成分からなる正極合剤を液状成分と混合して正極合剤スラリーを調製し、得られたスラリーを正極集電体に塗布し、乾燥させて作製する。
【0023】
非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物を用いることができる。例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCo1−y、LiNi1−y、LiMn、LiMn2−z、LiMPO、LiMPOFが挙げられる。ここでMはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種であり、0≦x≦1.2、0≦y≦0.9、0≦z≦1.9である。なお、リチウムのモル比を示すx値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。さらにこれら含リチウム化合物の一部を異種元素で置換してもよい。金属酸化物、リチウム酸化物、導電剤などで表面処理してもよく、表面を疎水化処理してもよい。
【0024】
正極合剤の結着剤には、例えばポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
また導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0026】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、それぞれ、正極活物質を80〜97重量%、導電剤を1〜20重量%、結着剤を2〜7重量%の範囲とすることが望ましい。
【0027】
正極集電体には、長尺の多孔性構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板が使用される。導電性基板に用いられる材料としては、例えばステンレス鋼、アルミニウム、チタンなどが用いられる。集電体の厚さは、特に限定されないが、1〜500μmが好ましく、5〜20μmがより望ましい。集電体厚さを上記範囲とすることにより、極板の強度を保持しつつ軽量化することができる。
【0028】
セパレータ7としては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度と、絶縁性とを兼ね備えた微多孔薄膜、織布、不織布などが用いられる。セパレータ7の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが耐久性に優れ、かつシャットダウン機能を有しているため、非水電解質二次電池の安全性の観点から好ましい。セパレータ7の厚さは、一般的に10〜300μmであるが、40μm以下とすることが望ましい。また、5〜30μmの範囲とするのがより好ましく、さらに好ましくは10〜25μmである。さらに微多孔フィルムは、1種の材料からなる単層膜であってもよく、2種以上の材料からなる複合膜または多層膜であってもよい。また、セパレータ7の空孔率は、30〜70%の範囲であることが好ましい。ここで空孔率とは、セパレータ7の表面積に占める孔部の面積比を示す。セパレータ7の空孔率のより好ましい範囲は35〜60%である。
【0029】
非水電解質としては、液状、ゲル状または固体(高分子固体電解質)状の物質を使用することができる。液状の非水電解質(非水電解液)は、非水溶媒に電解質(例えば、リチウム塩)を溶解させることにより得られる。また、ゲル状非水電解質は、液状の非水電解質と、この液状の非水電解質を保持する高分子材料とを含む。高分子材料としては、例えば、PVDF、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリビニリデンフルオライドヘキサフルオロプロピレンなどが好適に使用される。
【0030】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒を使用することが可能である。この非水溶媒の種類は特に限定されない。例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
非水溶媒に溶解させる溶質には、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ホウ酸塩類、イミド塩類などを用いることができる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウムなどが挙げられる。イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CFSONLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)(CSO))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((CSONLi)などが挙げられる。溶質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また非水電解質には、添加剤として負極6上で分解してリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成し、充放電効率を高くすることができる材料を含んでいてもよい。このような機能を持つ添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、4−メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4−エチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート、4−プロピルビニレンカーボネート、4,5−ジプロピルビニレンカーボネート、4−フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、およびジビニルエチレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。なお、上記化合物は、その水素原子の一部がフッ素原子で置換されていてもよい。非水電解液に対する溶解量は、0.1重量%以上15重量%以下の範囲内とすることが望ましい。
【0033】
さらに、非水電解質には、過充電時に分解して正極5上に被膜を形成し、電池を不活性化する公知のベンゼン誘導体を含有させてもよい。このようなベンゼン誘導体としては、フェニル基およびこのフェニル基に隣接する環状化合物基を有するものが好ましい。環状化合物基としては、フェニル基、環状エーテル基、環状エステル基、シクロアルキル基、フェノキシ基などが好ましい。ベンゼン誘導体の具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、ベンゼン誘導体の含有量は、非水溶媒全体の10体積%以下であることが好ましい。
【0034】
次に負極6とその製造方法について説明する。負極6は集電体とその表面に設けられたリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な活物質層とを有する。特に活物質層には炭素材料以外に、ケイ素(Si)やスズ(Sn)などのようにリチウムイオンを大量に吸蔵・放出可能な材料を用いることができる。この種の活物質の放電状態における体積Bに対する充電状態における体積Aの比A/Bは、1.2以上である。体積は、例えば充電前後の厚みを測定することで決定する。このような材料であれば、単体、合金、化合物、固溶体および含ケイ素材料や含スズ材料を含む複合活物質のいずれであっても、本発明の効果を発揮させることは可能である。すなわち、含ケイ素材料として、Si、SiO(0<x<2)、またはこれらのいずれかにB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N、Snからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素でSiの一部を置換した合金や化合物、または固溶体などを用いることができる。含スズ材料としてはNiSn、MgSn、SnO(0<x<2)、SnO、SnSiO、LiSnOなどを適用できる。
【0035】
複数種の材料により活物質層を構成する例として、Siと酸素と窒素とを含む化合物やSiと酸素とを含み、Siと酸素との構成比率が異なる複数の化合物の複合物などが挙げられる。この中でもSiO(0.3≦x≦1.3)は、放電容量密度が大きく、かつ充電時の膨張率がSi単体より小さいため好ましい。
【0036】
またこれらの材料は集電体上に活物質粉末を結着剤および導電剤などと混合後、塗布・乾燥・圧延などの工程を経ることで活物質層を形成してもよく、あるいは集電体上に真空蒸着法、スパッタ法、CVD法などの手法を用いて直接、活物質からなる薄膜を形成してもよい。特に後者は高容量であるが膨張・収縮の大きな活物質にとって、常に集電を確保できるため充放電サイクル特性を良好する特徴を有する。
【0037】
集電体には、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンなどの金属箔、炭素や導電性樹脂の薄膜などが利用可能である。さらに、カーボン、ニッケル、チタンなどで表面処理を施してもよい。正極の場合と同様に、集電体の厚さは特に限定されないが、1〜500μmが好ましく、5〜20μmがより望ましい。集電体厚さをこの範囲とすることにより、極板の強度を保持しつつ軽量化することができる。
【0038】
次に図2から図4を参照しながら電解銅箔を集電体とし、活物質層がケイ素酸化物(SiO(0<x<2))で構成された負極6を作製する手順と製造装置全体および前処理装置であるリチウム付与部について説明する。図2は本発明の実施の形態における非水電解質二次電池用負極の製造装置の負極の前駆体を作製するための活物質層作製部の概略構成図、図3は同リチウム付与部の概略構成図である。図4は図3に示すリチウム付与部における要部拡大断面図である。この製造装置は図2に示す活物質層作製部20と図3に示すリチウム付与部30とを有する。活物質層作製部20はチャンバ26Aに、リチウム付与部30はチャンバ26Bにそれぞれ収納されている。チャンバ26A内は真空ポンプ27Aにより減圧され、チャンバ26B内は真空ポンプ27Bにより減圧される。
【0039】
図2に示すように、活物質層作製部20は、巻き出しロール21と、成膜ロール24A、24Bと、マスク22A、22Bと、蒸着ユニット23A、23Bと、ノズル28A、28Bと、巻き取りロール25とを有する。集電体11は巻き出しロール21から成膜ロール24A、24Bを経て巻き取りロール25へと送られる。蒸着ユニット23A、23Bでは蒸着ソース、坩堝、電子ビーム発生装置がユニット化されている。この装置を用いて集電体11の上に負極6の活物質層を形成する手順をまず説明する。
【0040】
集電体11としては、例えば厚み30μmの電解銅箔を用いる。チャンバ26Aの内部は、真空に近い不活性雰囲気になっている。例えば圧力10−3Pa程度のアルゴン雰囲気とする。蒸着時には、電子ビーム発生装置により発生させた電子ビームを偏向ヨークにより偏光させ、蒸着ソースに照射する。蒸着ソースには、例えば半導体ウェハを形成する際に生じるSiの端材(スクラップシリコン:純度99.999%)を用いる。一方、高純度(例えば99.7%)の酸素を成膜ロール24Aの近傍に配置したノズル28Aからチャンバ26A内に導入する。このようにして蒸着ユニット23Aから発生したSi蒸気とノズル28Aから導入された酸素とが反応して集電体11上にSiOが堆積し、活物質層が形成される。このように、蒸着ユニット23A、ノズル28A、成膜ロール24Aは酸素を含む雰囲気中でSiを用いて気相法により集電体11の表面にSiOからなる活物質層を形成する。
【0041】
なおマスク22Aの開口部はSi蒸気が集電体11の面にできるだけ垂直に入射するようになっている。さらにマスク22Aを開閉させることによって活物質層を形成せず集電体11が露出した部分を形成する。
【0042】
その後、集電体11は成膜ロール24Bに送られ、ノズル28Bから酸素をチャンバ26B内に導入しつつ、蒸着ユニット23BからSi蒸気を発生させて、もう一方の面にも活物質層を形成する。この方法によって集電体11の両面上にSiOからなる活物質層を形成した負極前駆体41は巻き取りロール25に巻き取られる。巻き取られた負極前駆体41は、チャンバ26A内にアルゴンまたはドライエアを導入してチャンバ26A内を大気圧に戻した後、チャンバ26Aから取り出されて次にリチウム付与部30の巻き出しロール29にセットされる。なお、負極活物質としてSiを用いる場合には、ノズル28A、28Bから酸素を導入しなければよい。あるいは図2においてノズル28A、28Bを設けなければよい。
【0043】
次に負極前駆体41の活物質層にリチウムを付与する手順を図3、図4を用いて説明する。リチウム付与部30は巻き出しロール29と、銅製の坩堝35A、35Bと、坩堝35A、35B内のリチウム31A、31Bに電子ビームを照射する電子ビームガン34A、34Bと、冷却CAN32A、32Bと、巻き取りロール39とを有する。なお坩堝35B、電子ビームガン34B、冷却CAN32Bの構成は坩堝35A、電子ビームガン34A、冷却CAN32Aとそれぞれ同様であるので説明を省略する。
【0044】
巻き出しロール29にセットされた負極前駆体41を、例えば20℃にした冷却CAN32A、32Bを介して巻き取りロール39に送るように設置する。そして上面が開放された容器である坩堝35Aにリチウム31Aを投入する。坩堝35Aは銅製であり、坩堝35Aの周囲には図示しない冷却水配管が配置され、坩堝35A自身の溶解が防止されている。なおリチウム31Aは多少の不純物を含んでいてもよい。チャンバ26B内は真空ポンプ27Bにより、例えば3×10−3Paに減圧されている。すなわち、負極前駆体41と蒸気供給源のリチウムを配置した雰囲気は減圧されている。そして、リチウム蒸気を生成するために電子ビームガン34Aが電子ビーム33をリチウム31Aの表面に照射する。例えば電子ビームガンの電圧は8kVとする。電子ビーム33によって加熱、溶融されたリチウム31Aの表面部分はリチウム蒸気を発生し、このリチウム蒸気を用いて負極前駆体41にリチウムが付与される。このとき、リチウム31Aがはいった坩堝35Aは負極前駆体41の幅より広いことが好ましい。坩堝35Aの方が狭い状態ではリチウム蒸気が幅方向に均一に付着せず、場所によって補填容量が足りない、あるいは多すぎる場合が生じる。また冷却CAN32Aは負極前駆体41の幅より広いことが望ましい。逆の場合、負極前駆体41の端部が冷却されにくく、蒸着熱などによって温度が上がりすぎてしまい前述のような不具合が発生する。
【0045】
このように電子ビーム33によってリチウム31Aの表面部分を加熱することにより、リチウムの表面温度を700℃以上に上げることができる。そのため多量のリチウム蒸気を発生させることができ、リチウムを付与する前処理を高速化できる。蒸気の温度が20℃上昇すると約1.4倍の蒸発量になる。すなわち蒸発量と加熱温度との関係は、飽和蒸気圧と温度との関係にほぼ一致している。したがって、例えばリチウムの表面温度を740℃にすれば600℃のときに比べ、リチウムを付与する前処理の速度を約10倍とすることができる。またリチウム31Aの表面のみを加熱するため、負極前駆体41の負極活物質に影響を及ぼすほどの輻射熱が発生しない。
【0046】
ここで、電子ビームガン34Aは坩堝35Aより下側に配置されている。電子ビームガン34Aからの電子ビーム33は制御部38により制御される磁場制御部37A、37Bからの磁場の影響を受けて冷却CAN32Aと坩堝35Aとの隙間を通るように偏向されて最終的にリチウム31Aの表面に照射される。このように電子ビームガン34Aを坩堝35Aより下側に配置することによって電子ビームガン34Aへのリチウム蒸気の影響は少ない。なお磁場制御部37A、37Bによる磁場制御に影響しないよう、坩堝35Aや冷却CAN32Aは銅やステンレスなどの非磁性材料で構成しておく。
【0047】
なお上面が開放された容器である坩堝35Aに入れたリチウム31Aの表面に電子ビーム33を照射し、坩堝35Aの上方に負極前駆体41を配置することが好ましい。すなわち、電極保持部である冷却CAN32Aによって負極前駆体41を坩堝35Aの上方に保持する。このような配置において上面が大面積の坩堝35Aを用いれば多量のリチウム蒸気を負極前駆体41に供給できる。また、図示していないが上面が大面積の坩堝35Aの片隅にリチウムロッドを挿入しておくことで蒸気となって坩堝35Aからリチウムが減っても連続的に坩堝35A内にリチウムを供給することができる。そのため、装置外部からのリチウム供給頻度が下がり、生産性が向上する。
【0048】
またリチウム31Aの表面に電子ビーム33を走査することが好ましい。上述のように電子ビーム33はリチウム31Aの表面に大きなエネルギーを与える。したがって1箇所に連続的に電子ビーム33を照射しなくてもリチウム31Aの表面温度を充分に高くすることができる。そこで電子ビーム33を走査することによってリチウム31Aの表面全体を加熱することができ、リチウム蒸気を多量に発生させることができる。その結果、生産性が向上する。また抵抗加熱に比べ、リチウム31Aの表面のみを均一に加熱することができ、リチウム蒸気が均一に発生する。具体的には、制御部38が磁場制御部37A、37Bを介して磁場を制御することによって電子ビーム33をリチウム31Aの表面で走査する。
【0049】
片側の活物質層にリチウムが付与された負極前駆体41は冷却CAN32Bに送られ、反対面の活物質層にも坩堝35Bからリチウムが付与される。このようにして両面の活物質層にリチウムが付与された負極前駆体41は巻き取りロール39に巻き取られる。その後、チャンバ26B内にアルゴンやドライエアを導入して大気圧に戻し、所定の寸法に切断され、負極リード6Aが接続されて負極6が作製される。
【0050】
なおチャンバ26Aとチャンバ26Bとを通路で連結し、活物質層作製部20とリチウム付与部30とを一体の容器に収納してもよい。ただし、双方で発生する蒸気が混在したり、ノズル28A、28Bから導入する酸素がリチウム付与部30に影響を与えたりしないよう、両者を負極前駆体41が通過可能な程度の通路で連結することが好ましい。この場合、チャンバ26A、26Bおよび通路内は真空ポンプ27Aにより減圧する。そして巻き取りロール25と巻き出しロール29とを設けずに活物質層作製部20で作製した負極前駆体41を減圧下でリチウム付与部30へ送る。
【0051】
次に、図5を用いてより好ましい形態の活物質層を形成する活物質層作製部を説明する。図5は傾斜した柱状構造を有する活物質の製造に用いる本発明の実施の形態による非水電解質二次電池用負極の製造装置の他の活物質層作製部の概略構成図、図6は図5に示す活物質層作製部を用いて作製した非水電解質二次電池用負極の概略断面図である。
【0052】
図5に示す活物質層作製部20は、巻き出しロール21と支点ロール54A、54Bと、マスク22A、22Bと、蒸着ユニット23A、23Bと、ノズル28A、28Bと、巻き取りロール25とを有する。支点ロール54A、54B以外は図2の構成と同様であるので説明を省略する。この構成では集電体11Aが巻き出しロール21から支点ロール54A、54Bを経て巻き取りロール25へと送られる間に蒸着ユニット23A、23BからのSi蒸気とノズル28A、28Bからの酸素とによりSiOからなる活物質層43が両面に生成する。これらのロールと蒸着ユニット23A、23Bとはチャンバ26Aの中に設けられている。チャンバ26A内は真空ポンプ27Aにより減圧される。
【0053】
図6に示すように集電体11Aは、表面に多数の突起44を有する。例えば、電解めっきによりRa=2.0μmの凹凸を設けた厚さ30μmの電解銅箔を集電体11Aとして用いる。なお、集電体11Aの両面に突起44が設けられているが、簡略化して説明するため図6では片面のみを示している。
【0054】
チャンバ26Aの内部は、低圧の不活性ガス雰囲気にする。例えば圧力3.5Paのアルゴン雰囲気とする。蒸着時には、電子ビーム発生装置により発生させた電子ビームを偏向ヨークにより偏光させ、蒸着ソースに照射する。なおマスク22A、22Bの開口部の形状を調整することで、蒸着ユニット23A、23Bから発生したSi蒸気が集電体11Aの面に垂直に入射しないようにしている。
【0055】
このようにして集電体11Aの面にSi蒸気を供給しつつ集電体11Aを巻き出しロール21から巻き取りロール25へと送り、Si蒸気の入射方向と所定の角度をなすようにノズル28Aを設け、ノズル28Aからチャンバ26A内に酸素を導入するとSiOからなる活物質塊42が突起44を基点として生成する。このとき、例えば所定の角度を65°に設定し、純度99.7%の酸素ガスをノズル28Aからチャンバ26A内に導入し、約20nm/secの成膜速度で形成すると、集電体11Aの突起44に厚さ21μmのSiO0.4からなる柱状体である活物質塊42が生成する。なお支点ロール54Aの手前で片面に活物質塊42を形成した後、集電体11Aを支点ロール54Bに送り、同様の方法によりもう一方の面にも活物質塊42を形成することができる。以上のようにして集電体11Aの両面に活物質層43を形成した負極前駆体41Aを作製する。
【0056】
なお集電体11Aの両面に予め等間隔に耐熱テープを貼り付けておく。成膜後このテープを剥離することによって負極リード6Aを溶接するための集電体露出部を形成することができる。この後、図4に示すリチウム付与部30を用いて両面の活物質層43にリチウムを付与する。
【0057】
このように集電体11A上に柱状構造を有する複数の活物質塊42として活物質層43を形成することが好ましい。上記の方法以外に、特開2003−17040号公報や特開2002−279974号公報に開示されている方法によって集電体11Aとその表面に設けられた複数の柱状の活物質塊とを有する負極6を作製してもよい。活物質が柱状構造の場合、柱間の空間で活物質の膨張を吸収することができるため、平滑な膜状構造に比べて活物質の膨張・収縮に対して非常に有効である。
【0058】
また活物質塊42を集電体11Aの厚み方向に対して傾きを有するように形成することがさらに好ましい。このように集電体11Aの厚み方向に対し活物質塊42が傾斜することによって効果的に活物質の膨張・収縮を空間内に吸収することが可能であり、負極6の充放電サイクル特性が改善される。明確ではないが理由の一つとして、例えば以下のようなことが考えられる。リチウムイオン吸蔵性を有する元素はリチウムイオンを吸蔵・放出する際に膨張・収縮する。この膨張・収縮に伴って生じる応力が、集電体11Aの活物質塊42を形成した面に平行な方向と垂直な方向とに分散される。そのため、集電体11Aの皺や、活物質塊42の剥離の発生が抑制されるため、充放電サイクル特性が改善されると考えられる。また高速に成膜可能な形状であることから量産性の見地からも好ましい。
【0059】
次に、図7を用いてさらに好ましい形態の活物質層を形成する活物質層作製部を説明する。図7は屈曲点を持つ柱状構造を有する活物質の製造に用いる本発明の実施の形態による非水電解質二次電池用負極の製造装置のさらに他の活物質層作製部の概略構成図、図8は図7に示す活物質層作製部を用いて作製した非水電解質二次電池用負極の概略断面図である。なお、簡略化のため図8は負極6の片面のみ示している。これらの図面に示す集電体11Aは図5、図6で示した集電体11Aと同様である。
【0060】
図7に示す活物質層作製部20は、巻き出しロール51と、第1支点部である支点ロール55A、第2支点部である支点ロール55B、第3支点部である支点ロール55Cと、マスク52A、52B、52C、52Dと、蒸着ユニット53A、53Bと、ノズル58A、58B、58C、58Dと、巻き取りロール56とを有する。これらはチャンバ26Aの中に設けられている。チャンバ26A内は真空ポンプ27Aにより減圧される。蒸着ユニット53A、53Bは図3や図6における蒸着ユニット23A、23Bと同様である。
【0061】
次に図8に示すように集電体11Aの上に片側の負極の活物質層である活物質層62を形成する手順を説明する。チャンバ26Aの内部は、真空に近い不活性雰囲気になっている。例えば圧力3.5Paのアルゴン雰囲気とする。蒸着時には、電子ビーム発生装置により発生させた電子ビームを偏向ヨークにより偏光させ、蒸着ソースに照射する。この蒸着ソースには、例えばSiの端材を用いる。蒸着ユニット53Aは、支点ロール55Aから支点ロール55Bとの間の位置で集電体11AにSi蒸気が斜めに入射するように配置されている。これにより蒸着ユニット53Aから発生したSi蒸気は集電体11Aの面に垂直に入射しない。同様に蒸着ユニット53Bは、支点ロール55Bから支点ロール55Cとの間の位置で集電体11AにSi蒸気が斜めに入射するように配置されている。
【0062】
マスク52A、52B、52C、52Dはそれぞれノズル58A、58B、58C、58Dを覆っている。このようにして集電体11Aの面に蒸着ユニット53AからSi蒸気を供給しつつ集電体11Aを巻き出しロール51から送る。このときノズル58A、58Bから、集電体11Aに向けて高純度の酸素を導入すると蒸着ユニット53Aから発生したSi蒸気と導入された酸素とが反応して集電体11A上に突起44を基点としてSiOからなる第1柱状体61Aが生成する。
【0063】
次に、第1柱状体61Aが形成された集電体11Aは蒸着ユニット53BからSi蒸気を供給される位置に移動する。このときノズル58C、58Dから、集電体11Aに向けて高純度の酸素を導入すると蒸着ユニット53Bから発生したSi蒸気と導入された酸素とが反応して第1柱状体61Aを基点としてSiOからなる第2柱状体61Bが生成する。このとき、集電体11Aに対する蒸着ユニット53Bの位置から、図8に示すように第2柱状体61Bは第1柱状体61Aとは反対の方向に成長する。
【0064】
すなわち、蒸着ユニット53A、ノズル58A、58B、支点ロール55A、55Bは少なくとも片面に複数の突起44を有する集電体11Aの表面に、突起44から斜立するSiOからなる第1柱状体61Aを形成する第1形成部を構成している。一方、蒸着ユニット53B、ノズル58C、58D、支点ロール55B、55Cは第1柱状体61Aから斜立するSiOからなる第2柱状体61Bを形成して活物質層62の層厚を増す第2形成部を構成している。
【0065】
この状態で巻き出しロール51と巻き取りロール56の回転方向を反転させると、蒸着ユニット53Aから発生したSi蒸気と導入された酸素とが反応して第2柱状体61Bを基点としてSiOからなる第3柱状体61Cが生成する。この場合も図8に示すように第3柱状体61Cは第2柱状体61Bとは反対の方向に成長する。このようにして屈曲点を持つ柱状構造を有する活物質塊61からなる活物質層62を形成することができる。さらに巻き出しロール51と巻き取りロール56の回転方向を反転させて第3柱状体61Cの上に第4柱状体を作製することもできる。すなわち屈曲点の数は自由にコントロールすることができる。
【0066】
以上のように、図7に示す活物質層作製部20で、屈曲点を持つ柱状構造を有する活物質塊61からなる活物質層62を形成した負極前駆体41Bに、図3に示すリチウム付与部30のうち、冷却CAN32B、電子ビームガン34B、坩堝35Bを用いない構成のリチウム付与部を用いて活物質層62にリチウムを付与する。このようにして集電体11Aの片面に作製された活物質層62にリチウムが付与された負極前駆体41Bは巻き取りロール39に巻き取られる。その後、チャンバ26B内にアルゴンやドライエアを導入して大気圧に戻し、必要に応じて集電体11Aのもう一方の面に活物質層62を作製しリチウムを付与するために、巻き出しロール51に再びセットする。
【0067】
このように屈曲点を持つ柱状構造を有する活物質塊61からなる活物質層62を形成した負極6では、充電時に活物質塊61が膨張しても図6に示す活物質塊42と比較してさらに活物質塊同士が立体的に干渉しにくい。そのため充放電サイクル特性の観点から図6に示す構造の負極よりもさらに好ましい。
【0068】
なお、上記実施の形態では円筒形の電池を例に説明したが、角形などの形状の電池を用いても同様の効果が得られる。また集電体11、11Aの片面にのみ活物質層を形成し、コイン型電池を作製してもよい。また上記実施の形態では非水電解質二次電池を例に説明したが、キャパシタなどの電気化学素子でも、リチウムイオンを電荷媒体とし、少なくとも一方の電極が不可逆容量を有する場合には本発明を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の製造方法において前処理した電極を用いた電気化学素子は、高容量かつ長寿命である。したがってこの電気化学素子の1種である非水電解液二次電池は、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラなどの電子機器の駆動源、さらには高出力を要求される電力貯蔵用や電気自動車の電源として有用である。上記のような電気化学素子を製造する上で本発明は不可逆容量の補填量を管理できるので非常に重要でありかつ有効な手段である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態による非水電解質二次電池の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態における非水電解質二次電池用負極の製造装置の活物質層作製部の概略構成図
【図3】本発明の実施の形態における非水電解質二次電池用負極の製造装置のリチウム付与部の概略構成図
【図4】図3に示すリチウム付与部の要部拡大断面図
【図5】本発明の実施の形態による非水電解質二次電池用負極の製造装置の他の活物質層作製部の概略構成図
【図6】図5に示す活物質層作製部を用いて作製した非水電解質二次電池用負極の概略断面図
【図7】本発明の実施の形態による非水電解質二次電池用負極の製造装置のさらに他の活物質層作製部の概略構成図
【図8】図7に示す活物質層作製部を用いて作製した非水電解質二次電池用負極の概略断面図
【符号の説明】
【0071】
1 ケース
2 封口板
3 ガスケット
5 正極
5A 正極リード
6 負極
6A 負極リード
7 セパレータ
8A 上部絶縁板
8B 下部絶縁板
9 電極群
11,11A 集電体
20 活物質層作製部
21,29,51 巻き出しロール
22A,22B,52A,52B,52C,52D マスク
23A,23B,53A,53B 蒸着ユニット
24A,24B 成膜ロール
25,39,56 巻き取りロール
26A,26B チャンバ
27A,27B 真空ポンプ
28A,28B,58A,58B,58C,58D ノズル
30 リチウム付与部
31A,31B リチウム
32A,32B 冷却CAN
33 電子ビーム
34A,34B 電子ビームガン
35A,35B 坩堝
37A,37B 磁場制御部
38 制御部
41,41A,41B 負極前駆体
42,61 活物質塊
43,62 活物質層
44 突起
54A,54B,55A,55B,55C 支点ロール
61A 第1柱状体
61B 第2柱状体
61C 第3柱状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の製造方法であって、
リチウムと前記電極とが配置された雰囲気を減圧し、前記リチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させ、前記リチウム蒸気を用いて前記電極にリチウムを付与する前処理方法を含む電気化学素子用の電極の製造方法。
【請求項2】
上面が開放された容器に入れた前記リチウムの表面に電子ビームを照射し、前記容器の上方に前記電極を配置することで前記電極にリチウムを付与する請求項1記載の電気化学素子用の電極の製造方法。
【請求項3】
前記リチウムの表面に電子ビームを走査する請求項1記載の電気化学素子用の電極の製造方法。
【請求項4】
集電体上に活物質層を設け、電極前駆体を作製し、前記電極前駆体にリチウムを付与する請求項1記載の電気化学素子用の電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学素子用の電極の製造方法により製造した第1電極と、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在する電解質とを備えた電気化学素子。
【請求項6】
リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の前処理方法であって、
リチウムと前記電極とが配置された雰囲気を減圧し、前記リチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させ、前記リチウム蒸気を用いて前記電極にリチウムを付与する電気化学素子用の電極の前処理方法。
【請求項7】
上面が開放された容器に入れた前記リチウムの表面に電子ビームを照射し、前記容器の上方に前記電極を配置することで前記電極にリチウムを付与する請求項6記載の電気化学素子用の電極の前処理方法。
【請求項8】
前記リチウムの表面に電子ビームを走査する請求項6記載の電気化学素子用の電極の前処理方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載の電気化学素子用の電極の前処理方法により前処理したリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第1電極と、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在する電解質とを備えた電気化学素子。
【請求項10】
リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の前処理装置であって、
リチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させる電子ビームガンを含み、発生した前記リチウム蒸気を用いて前記電極にリチウムを付与するリチウム付与部と、
前記リチウム付与部を収納するチャンバと、
前記チャンバ内を減圧する真空ポンプと、を備えた電気化学素子用の電極の前処理装置。
【請求項11】
前記リチウム付与部は、前記リチウムを保持する上面が開放された容器と、
前記電極を前記容器の上方に保持する電極保持部と、をさらに備えた請求項10記載の電気化学素子用の電極の前処理装置。
【請求項12】
前記リチウム付与部は、前記リチウムの表面に電子ビームを走査する制御部をさらに備えた請求項10記載の電気化学素子用の電極の前処理装置。
【請求項13】
リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な電気化学素子用の電極の製造装置であって、
リチウムの表面に電子ビームを照射することによってリチウム蒸気を発生させる電子ビームガンを含み、前記リチウム蒸気を用いて前記電極にリチウムを付与するリチウム付与部と、
前記リチウム付与部を収納するチャンバと、
前記チャンバ内を減圧する真空ポンプと、を備えた電気化学素子用の電極の製造装置。
【請求項14】
前記リチウム付与部は、前記リチウムを保持する上面が開放された容器と、
前記電極を前記容器の上方に保持する電極保持部と、をさらに備えた請求項13記載の電気化学素子用の電極の製造装置。
【請求項15】
前記リチウム付与部は、前記リチウムの表面に電子ビームを走査する制御部をさらに備えた請求項13記載の電気化学素子用の電極の製造装置。
【請求項16】
集電体上に活物質層を設け、電極前駆体を作製する活物質層作製部をさらに備え、
前記リチウム付与部は前記電極前駆体にリチウムを付与する請求項13記載の電気化学素子用の電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−277099(P2008−277099A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118683(P2007−118683)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】