説明

電気化学素子の製造方法

【課題】生産性に優れた電気化学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の電気化学素子の製造方法は、正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を備える電気化学素子の製造方法であって、前記セパレータは、熱可塑性樹脂を主体として含む第1多孔質層と、耐熱温度が150℃以上の絶縁性粒子を主体として含む第2多孔質層とを備え、前記セパレータは、両面の摩擦係数が異なっており、前記セパレータの摩擦係数の低い面側を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で高温時の寸法安定性に優れた電気化学素子用セパレータを用いた、高温環境下においても安全な電気化学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池やスーパーキャパシタに代表される非水電解液を用いた電気化学素子は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。携帯機器の高性能化に伴って電気化学素子の高容量化が更に進む傾向にあり、安全性、信頼性の確保が重要となっている。
【0003】
現行のリチウム二次電池では、正極と負極の間に介在させるセパレータとして、例えば厚みが20〜30μm程度のポリオレフィン系の微多孔フィルムが使用されている。また、電池の熱暴走(異常発熱)温度以下でセパレータの構成樹脂を溶融させて空孔を閉塞させ、これにより電池の内部抵抗を上昇させて短絡の際などに電池の安全性を向上させる、所謂シャットダウンを生じさせるために、セパレータの素材としては、融点の低いポリエチレン(PE)が一般に用いられている。
【0004】
ところで、こうしたセパレータとしては、例えば、多孔化と強度向上のために一軸延伸あるいは二軸延伸したフィルムが用いられている。このようなセパレータには、電池の製造時に一定の強度が要求されるため、前記延伸によりその強度を確保している。しかし、このような延伸フィルムでは、構成樹脂の結晶化度が増大しており、シャットダウン温度が、電池の熱暴走温度に近づいているため、電池の安全性確保の点からは、セパレータの構成を検討する必要が生じている。
【0005】
また、ポリオレフィン系の多孔質フィルムセパレータには、充電での異常などにより電池の温度がシャットダウン温度に達すると、電流を直ちに減少させて電池の温度上昇を防止することが求められる。しかし、前記延伸によってフィルムにはひずみが生じており、これが高温に曝されると、残留応力によって収縮が起こるという問題がある。収縮温度は、融点、すなわちシャットダウン温度と非常に近いところに存在する。このため、空孔が十分に閉塞せず電流を直ちに減少できなかった場合には、電池の温度は容易にセパレータの収縮温度にまで上昇し、セパレータの収縮による内部短絡の危険性が生じる。
【0006】
このようなセパレータの熱収縮に伴う電池の安全性や、各種原因による内部短絡に対する信頼性を高めるため、シャットダウン機能を確保するための樹脂を主体として含む第1セパレータ層と、耐熱性の樹脂や無機酸化物などにより構成される第2セパレータ層とを有する多孔質の電気化学素子用セパレータが提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2000/079618号公報
【特許文献2】特開2001−266949号公報
【特許文献3】国際公開第2004/021469号公報
【特許文献4】国際公開第2007/066768号公報
【特許文献5】特開2007−280911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら特許文献1〜5に開示のセパレータにおいては、前記第2セパレータ層がセパレータ本来の機能、主に正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を有するため、前記第1セパレータ層に相当するポリエチレン製の多孔質フィルムセパレータのみを用いたリチウム二次電池に比べ、より安全性の高い電池を構成することができる。
【0009】
しかしながら、本発明者らがさらに検討した結果、セパレータのシャットダウンが生じても、電池の発熱反応が生じる場合があることが明らかとなった。このため、シャットダウン後の電池の安全性をより一層高めるためには、電池全体の構成を最適化する必要があることがわかった。
【0010】
また、前記樹脂を主体として含む層と、無機酸化物などのフィラーを主体として含む層とを備えたセパレータのように、両面の摩擦係数が異なるセパレータを用いる場合に、正極および負極と共に渦巻状に巻回しようとすると、セパレータの配置の仕方によっては以下の問題が生じることもわかった。
【0011】
すなわち、正極、負極、およびセパレータを、巻回軸を中心として渦巻状に巻回して電極体を製造する場合、前記フィラーを主体とする層を巻回軸の側に向けて配置すると、巻回軸とセパレータとの摩擦が大きくなるため、形成された電極体を巻回軸から抜き取りにくくなり、電極の巻きずれによる製造不良が生じやすくなることがわかった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温での安全性に優れた電気化学素子を提供することにある。また、本発明の別の目的は、生産性に優れた電気化学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の電気化学素子の製造方法は、正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を備える電気化学素子の製造方法であって、前記セパレータは、熱可塑性樹脂を主体として含む第1多孔質層と、耐熱温度が150℃以上の絶縁性粒子を主体として含む第2多孔質層とを備え、前記セパレータは、両面の摩擦係数が異なっており、前記セパレータの摩擦係数の低い面側を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2の電気化学素子の製造方法は、正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を備える電気化学素子の製造方法であって、前記セパレータは、一方の側に、熱可塑性樹脂を主体として含む第1多孔質層を備え、もう一方の側に、耐熱温度が150℃以上の絶縁性セラミックス粒子を主体として含む第2多孔質層を備え、前記第1多孔質層を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短絡や過充電などにより電池の温度が異常に上昇したときの安全性に優れた電気化学素子を提供することができる。また、本発明の別の観点によれば、渦巻状電極体の製造不良を低減し、電気化学素子の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の電気化学素子の製造方法に使用できる製造装置の一例を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の電気化学素子の製造方法における工程の途中段階での、巻回軸近傍の様子を示す断面図である。
【図3】図3A、B、Cは、本発明の電気化学素子の製造方法に使用できる巻回軸の例を示す模式図である。
【図4】図4Aは、本発明の電気化学素子の一例を示す平面図であり、図4Bは、図4Aの断面図である。
【図5】図5は、図4A、Bの電気化学素子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
先ず、本発明の電気化学素子について説明する。本発明の電気化学素子に用いられるセパレータは、熱可塑性樹脂を主体として含む第1多孔質層と、耐熱温度が150℃以上の絶縁性粒子を主体として含む第2多孔質層とを備えている。以下、上記第1多孔質層を多孔質層(I)と、上記第2多孔質層を多孔質層(II)と表記する。
【0018】
前記セパレータの多孔質層(I)は、主にシャットダウン機能を確保するためのものである。本発明の電気化学素子の温度が、多孔質層(I)の主体となる成分である熱可塑性樹脂[以下、樹脂(A)と表記する。]の融点以上に達したときには、多孔質層(I)の樹脂(A)が溶融してセパレータの空孔を塞ぎ、電気化学反応の進行を抑制するシャットダウンを生じる。
【0019】
また、前記セパレータの多孔質層(II)は、電気化学素子の内部温度が上昇した場合であっても、正極と負極との直接の接触による短絡を防止する機能を備えたものであり、耐熱温度が150℃以上の絶縁性粒子(以下、フィラーと表記する。)によって、その機能を確保している。電気化学素子が通常使用される温度域では、セパレータを介して正極と負極とを押し付けて電極体を構成する場合などにおいて、多孔質層(II)により、正極活物質がセパレータを突き抜けて負極と接触することによる短絡の発生を防止することができる。また、電気化学素子が高温となった場合には、多孔質層(I)の収縮を抑制し、あるいは、たとえ多孔質層(I)が収縮しても、高温での形状安定性の高い多孔質層(II)により、正負極の直接の接触による短絡を防止することができる。特に、多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化されている場合は、この耐熱性の多孔質層(II)が、セパレータの形状を維持するための基体として作用し、多孔質層(I)の熱収縮、すなわちセパレータ全体の熱収縮を抑制することができる。
【0020】
後述する多孔質基体を除き、本明細書でいう「耐熱温度が150℃以上」とは、少なくとも150℃において軟化などの変形が見られないことを意味している。
【0021】
前記本発明の電気化学素子に用いられるセパレータにおいて、熱可塑性樹脂を主体として含む多孔質層(I)は、多孔質層(I)内の固形分比率で、熱可塑性樹脂である樹脂(A)を50体積%以上含むように構成される。また、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)は、多孔質層(II)内の固形分比率で、耐熱温度が150℃以上のフィラーを50体積%以上含むように構成される。ただし、後述する多孔質基体を有する場合には、多孔質基体の体積を含めずに前記体積比率を計算する。
【0022】
前記セパレータでは、多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方が、板状粒子を含有していることが好ましい。多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方が板状粒子を含有することで、セパレータ内での細孔の曲路率が大きくなり、細孔の経路長が長くなる。そのため、前記セパレータを用いた電気化学素子では、デンドライトが生成しやすい条件下でも、デンドライトによる負極と正極との短絡が生じにくく、デンドライトショートに対する信頼性を高めることができる。多孔質層(II)が板状粒子を含有する場合は、この板状粒子が「耐熱温度が150℃以上のフィラー」を兼ねることができ、多孔質層(II)に含まれるフィラーの一部または全部を板状粒子で構成することができる。
【0023】
また、前記セパレータでは、多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方が、一次粒子が凝集した二次粒子構造のフィラーを含有している構成とすることもできる。二次粒子構造のフィラーを含有することで、前記板状粒子を含有する場合と同様に、セパレータ内での細孔の曲路率が大きくなり、細孔の経路長が長くなる。多孔質層(II)が二次粒子構造のフィラーを含有する場合は、この二次粒子構造のフィラーが「耐熱温度が150℃以上のフィラー」を兼ねることができ、多孔質層(II)に含まれるフィラーの一部または全部を二次粒子で構成することができる。また、多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方に、板状粒子と二次粒子の両者を含有させてもよい。
【0024】
多孔質層(I)の樹脂(A)としては、電気絶縁性を有しており、電気化学素子に用いる電解液に対して安定であり、更に、電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定な熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリオレフィン、またはポリオレフィン誘導体(塩素化ポリエチレンなど)、ポリオレフィンワックス、石油ワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。前記共重合ポリオレフィンとしては、エチレン−プロピレン共重合体や、エチレン−ビニルモノマー共重合体、より具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、またはエチレン−メチルアクリレート共重合体やエチレン−エチルアクリレート共重合体などの、エチレン−アクリル酸共重合体が例示できる。前記共重合ポリオレフィンにおけるエチレン由来の構造単位は、85モル%以上であることが望ましい。また、ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステルなどのポリエステル、ポリシクロオレフィンなどを用いることもできる。樹脂(A)には、前記例示の樹脂を1種単独で用いてもよく、2種以上を用いても構わない。
【0025】
樹脂(A)としては、前記例示の材料の中でも、PE、PPおよび共重合ポリオレフィンが好適に用いられる。また、樹脂(A)は、必要に応じて、樹脂に添加される各種添加剤(例えば、酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0026】
前記セパレータは、80℃以上、より好ましくは100℃以上で、140℃以下、より好ましくは130℃以下において、その孔が閉塞する性質(すなわちシャットダウン機能)を有していることが好ましい。そのため、多孔質層(I)の樹脂(A)としては、80℃以上、より好ましくは100℃以上で、140℃以下、より好ましくは130℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂であることが望ましい。樹脂(A)の融点は、例えば、日本工業規格(JIS)K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度により求めることができる。
【0027】
樹脂(A)の形態については特に制限はなく、微粒子状の他、例えば、後述する多孔質基体を構成する繊維状物を芯材として、その表面に付着させたり、その表面を被覆させたりして、多孔質層(I)に含有させてもよい。また、多孔質層(II)に用いられる「耐熱温度が150℃以上のフィラー」などをコアとし、樹脂(A)をシェルとするコアシェル構造の形態で、多孔質層(I)に含有させてもよい。中でも、樹脂(A)は、微粒子状のものを用いることが好ましい。
【0028】
また、多孔質層(I)を、樹脂(A)を主体とする微多孔フィルムで構成してもよい。このような微多孔フィルムとしては、リチウム二次電池などで使用されているポリオレフィン製の微多孔フィルム、例えば、PE、エチレン−プロピレン共重合体などの共重合ポリオレフィンなどで構成され、一軸または二軸延伸により微細な空孔が形成されたフィルムなどを用いることができる。PEとPPなど、異なる熱可塑性樹脂を2〜5層積層した積層多孔質膜であってもよい。
【0029】
樹脂(A)が微粒子状である場合には、乾燥時におけるこれらの粒径がセパレータの厚みより小さければよいが、セパレータの厚みの1/100〜1/3の平均粒径を有することが好ましい。具体的には、樹脂(A)の平均粒径が0.1〜20μmであることが好ましい。樹脂(A)の粒径が小さすぎる場合は、粒子同士の隙間が小さくなりすぎ、イオンの伝導パスが長くなりすぎて電気化学素子の特性が低下することがある。また、粒径が大きすぎると、多孔質層(I)の厚みが大きくなり、電気化学素子のエネルギー密度の低下を招く。
【0030】
PEのように融点が80℃以上140℃以下の熱可塑性樹脂と、PPなどのように、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂とを併用して多孔質層(I)を構成する場合では、多孔質層(I)(樹脂多孔質膜)を構成する樹脂(A)中、融点が80℃以上140℃以下の樹脂(例えばPE)が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。このような多孔質層(I)としては、PEと、PPなどのPEよりも高融点の樹脂とを混合して構成された樹脂多孔質膜や、PE層と、PP層などのPEよりも高融点の樹脂で構成された層とを積層して構成された樹脂多孔質膜などを例示することができる。
【0031】
また、多孔質層(I)の樹脂(A)は、140℃における溶融粘度(以下、単に「溶融粘度」という。)が、1000mPa・s以上であることが望ましく、5000mPa・s以上であることがより望ましい。
【0032】
電気化学素子の電極は、通常、活物質などを含有する多孔質の活物質含有層を有しており、この活物質含有層がセパレータと接触している場合、溶融した樹脂(A)の一部が、活物質含有層に吸収されることがある。活物質含有層での吸収量が多くなると、セパレータの空孔を埋めるための樹脂(A)の量が少なくなって、シャットダウンが発現し難くなる場合もある。しかし、シャットダウン機能を確保するための樹脂(A)の溶融粘度が高ければ、活物質含有層に吸収される樹脂(A)の量を低減することができ、溶融した樹脂(A)が効率よくセパレータの空孔を閉塞するため、シャットダウンが良好に発現する。これにより、電気化学素子の高温での安全性を高めることができる。
【0033】
また、前記溶融粘度の樹脂(A)を使用することで、電気化学素子内で溶融した樹脂(A)が、セパレータの空孔を塞ぐのに効率よく利用されることから、セパレータに使用する樹脂(A)の量を低減することも可能である。そのため、セパレータ全体を薄くできるため、電池などの電気化学素子のエネルギー密度を高めることも可能である。
【0034】
一方、樹脂(A)の溶融粘度が高すぎると、樹脂(A)がセパレータの空孔を埋める作用が弱くなって、シャットダウン特性が発現し難くなることがある。そのため、樹脂(A)の溶融粘度は、1000000mPa・s以下であることが好ましく、100000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0035】
前記溶融粘度を有する熱溶融性樹脂として、例えば、PEであれば、分子量が2000〜100000程度のものが使用できる。
【0036】
前記樹脂(A)の溶融粘度は、例えば、キャピログラフ(東洋精機社製)を使用し、長さ(L):10mm、直径(D):1.0mmのノズルを用いて、せん断速度を100s-1として測定した値を用いることができる。
【0037】
多孔質層(I)における樹脂(A)の含有量は、シャットダウンの効果をより得やすくするために、多孔質層(I)の全構成成分中、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、80体積%以上であることが更に好ましく、多孔質層(I)の全体が微多孔フィルムである場合のように100体積%であってもよい。また、セパレータの全構成成分中における樹脂(A)の体積は、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、一方、セパレータの高温時における形状安定性確保の点から、80体積%以下であることが好ましく、40体積%以下であることがより好ましい。また、樹脂(A)の体積は、シャットダウンの効果をより得やすくするために、多孔質層(II)内の空孔の体積の50%以上となることが好ましい。
【0038】
多孔質層(II)のフィラーは、耐熱温度が150℃以上で、電解液に対して安定であり、更に、電気化学素子の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであれば、有機粒子でも無機粒子でもよいが、分散などの点から微粒子であることが好ましく、安定性などの点から無機微粒子がより好ましく用いられる。
【0039】
前記無機粒子の構成材料の具体例としては、例えば、酸化鉄、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)などの無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結合性化合物;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性化合物;モンモリロナイトなどの粘土;などが挙げられる。ここで、前記無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。また、前記無機酸化物は、金属、SnO2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料;などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記無機酸化物など)で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。前記無機酸化物の中でも、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、ベーマイトが特に好ましく用いられる。
【0040】
また、前記有機粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子微粒子や、ポリプロピレン(PP)、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子微粒子などが例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の樹脂材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記耐熱性高分子の場合)であってもよい。
【0041】
フィラーの形状は限定されず、例えば、球状に近い形状を有していてもよく、板状の形状を有していてもよいが、短絡防止の点からは、板状、または、一次粒子の凝集した二次粒子構造であることが好ましい。板状粒子や二次粒子の代表的なものとしては、板状のAl23や板状のベーマイト、二次粒子状のAl23や二次粒子状のベーマイトなどが挙げられる。多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化された構成のセパレータでは、前記フィラーとして、板状粒子、または、二次粒子構造を有する粒子を含有させることにより、多孔質層(II)によるセパレータの形状を維持する作用が大きくなり、セパレータの熱収縮を抑制する効果を高めることができる。特に、板状粒子を含む場合により高い効果が期待できる。
【0042】
前記フィラーの粒径は、数平均粒子径で、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、一方、15μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下である。
【0043】
本発明において、樹脂やフィラーなどの粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、測定する粒子を膨潤させたり溶解したりしない媒体(例えば、水)に、粒子を分散させて測定することができる。
【0044】
多孔質層(II)における耐熱温度が150℃以上のフィラーの量は、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることがより好ましく、80体積%以上であることがさらに好ましく、90体積%以上であることが最も好ましい。多孔質層(II)には、フィラー同士を結着したり、必要に応じて多孔質層(I)と多孔質層(II)とを結着したりするための有機バインダーを含有させることができ、また、後述する繊維状物や前記の樹脂(A)、その他の添加粒子などを含有させることもできる。多孔質層(II)中のフィラーの含有量を高くすることで、電気化学素子が高温となった際の正極と負極との直接の接触による短絡の発生をより良好に抑制することができる。また、多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化された構成のセパレータの場合には、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制することができる。多孔質層(II)に有機バインダーを含有させる場合、結着性を高めるために、多孔質層(II)の構成成分の全体積中、その割合を1体積%以上とするのが好ましい。
【0045】
前記セパレータの全構成成分中のフィラーの含有量は、内部短絡防止の効果を向上させるためには、20体積%以上とすることが好ましく、50体積%以上とすることがより好ましい。また、樹脂(A)によるシャットダウン機能を確保するためには、セパレータの全構成成分中におけるフィラーの含有量は、80体積%以下に抑制することが好ましい。
【0046】
前記板状粒子の形態としては、アスペクト比(板状粒子中の最大長さと板状粒子の厚みとの比)が、5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上であって、100以下であることが好ましく、より好ましくは50以下である。また、板状粒子の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比(長軸方向長さ/短軸方向長さ)の平均値は、3以下、より好ましくは2以下で、1に近い値であることが望ましい。前記アスペクト比などは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。
【0047】
板状粒子は、セパレータ中で、その平板面がセパレータの表面に対して略平行となるよう配向されていることが好ましく、より具体的には、セパレータの表面近傍における板状粒子について、その平板面とセパレータの表面との平均角度が30°以下であることが好ましく、平均角度が0°に近いほどよい。ここでいう「表面近傍」とは、セパレータの表面から全体厚みに対しておよそ10%の範囲を指す。板状粒子の配向性を高めることにより、多孔質層(II)の形状維持作用が大きくなり、また、電極表面に析出するリチウムデンドライトや電極表面の活物質の突起により内部短絡が生じるのをより効果的に防ぐことができる。
【0048】
また、フィラーとして用いられる前記二次粒子は、その比表面積が、好ましくは3m2/g以上、より好ましくは10m2/g以上であって、好ましくは50m2/g以下、より好ましくは30m2/g以下である。また、前記二次粒子は、そのかさ密度が、好ましくは0.1g/cm3以上、より好ましくは0.15g/cm3以上であって、好ましくは0.5g/cm3以下、より好ましくは0.3g/cm3以下である。
【0049】
また、板状粒子や二次粒子の平均粒径としては、セパレータの厚みより小さければよく、一方、セパレータの厚みの1/100以上とするのが好ましい。また、二次粒子の場合には、二次粒子を構成する一次粒子の平均粒径は、二次粒子の1/5以下であることが好ましく、また、二次粒子の1/100以上であることが好ましい。
【0050】
板状粒子や二次粒子としては、具体例として先に例示した無機粒子(代表的には、板状のAl23や板状のベーマイトなど)の他に、耐熱温度が150℃以上の樹脂材料で構成された有機粒子を用いることもできる。板状粒子や二次粒子の構成材料は、2種以上を併用することもできる。
【0051】
多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方に板状粒子や二次粒子を含有させることによる効果をより有効に発揮させるためには、板状粒子や二次粒子の含有量は、セパレータの構成成分の全体積中、25体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上であることが更に好ましい。ただし、セパレータの構成成分の体積には、後述する多孔質基体の体積は含めない。
【0052】
板状粒子や二次粒子は、多孔質層(II)に含有させることがより好ましく、多孔質層(II)に用いられる「耐熱温度が150℃以上のフィラー」を、板状粒子または二次粒子とすることが更に好ましい。
【0053】
前記セパレータの多孔質層(I)および多孔質層(II)には、セパレータの形状安定性の確保や、多孔質層(II)と多孔質層(I)との一体化などのため、有機バインダーを含有させることができる。有機バインダーとしては、EVA(酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられるが、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱性のバインダーが好ましく用いられる。有機バインダーは、前記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記例示の有機バインダーの中でも、EVA、エチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高いバインダーが好ましい。このような柔軟性の高い有機バインダーの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックスシリーズ(EVA)」、日本ユニカー社のEVA、三井デュポンポリケミカル社の「エバフレックス−EEAシリーズ(エチレン−アクリル酸共重合体)」、日本ユニカー社のEEA、ダイキン工業社の「ダイエルラテックスシリーズ(フッ素ゴム)」、JSR社の「TRD−2001(SBR)」、日本ゼオン社の「EM−400B(SBR)」などがある。
【0055】
前記の有機バインダーを多孔質層(II)に使用する場合には、後述する多孔質層(II)形成用組成物の溶媒に溶解させるか、または分散させたエマルジョンの形態で用いればよい。
【0056】
また、セパレータの形状安定性や柔軟性を確保するために、多孔質層(I)あるいは多孔質層(II)において、繊維状物を前記フィラーや樹脂(A)と混在させてもよい。繊維状物としては、耐熱温度が150℃以上であって、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後述する電解液や、セパレータ製造の際に使用する溶媒に安定であれば、特に材質に制限はない。本明細書でいう「繊維状物」とは、アスペクト比[長尺方向の長さ/長尺方向に直交する方向の幅(直径)]が4以上のものを意味しており、アスペクト比は10以上であることが好ましい。
【0057】
前記繊維状物の具体的な構成材料としては、例えば、セルロースおよびその変成体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)など]、ポリオレフィン[ポリプロピレン(PP)、プロピレンの共重合体など]、ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)など]、ポリアクリロニトリル(PAN)、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂;ガラス、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの無機酸化物;などを挙げることができ、これらの構成材料を2種以上併用して繊維状物を構成してもよい。また、繊維状物は、必要に応じて、各種添加剤(例えば、樹脂製繊維状物である場合には酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0058】
また、前記セパレータでは、独立膜として用いた場合の取り扱い性を向上するために、多孔質層(I)あるいは多孔質層(II)に耐熱温度が150℃以上の多孔質基体を用いることができる。また、多孔質層(I)および多孔質層(II)は、一つの多孔質基体を共有して備えることもできる。多孔質基体は、耐熱温度が150℃以上の繊維状物で形成してもよく、より具体的には織布、不織布(紙を含む。)などのシート状物を多孔質基体として用いてもよい。この場合は、フィラーや樹脂(A)は、多孔質基体の空隙内に含有させることが好ましく、フィラーや樹脂(A)を結着するために、前記の有機バインダーを用いることもできる。
【0059】
前記多孔質基体の「耐熱性」は、軟化などによる実質的な寸法変化が生じないことを意味し、対象物の長さの変化、すなわち、多孔質基体においては、室温での長さに対する収縮の割合(収縮率)が5%以下を維持することのできる上限温度(耐熱温度)が、セパレータのシャットダウン温度よりも十分に高いか否かで耐熱性を評価する。シャットダウン後の電気化学素子の安全性を高めるために、多孔質基体は、シャットダウン温度よりも20℃以上高い耐熱温度を有することが望ましく、より具体的には、多孔質基体の耐熱温度は、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。
【0060】
前記繊維状物(多孔質基体を構成する繊維状物、その他の繊維状物を含む。)の繊維径は、多孔質層(I)および多孔質層(II)の厚み以下であればよいが、例えば、0.01〜5μmであることが好ましい。繊維状物の繊維径が大きすぎると、繊維状物同士の絡み合いが不足するため、例えばシート状物を形成して多孔質基体を構成する場合に、その強度が小さくなって取り扱いが困難となることがある。また、繊維状物の繊維径が小さすぎると、セパレータの空孔が小さくなりすぎてイオン透過性が低下する傾向にあり、電気化学素子の負荷特性を低下させてしまうことがある。
【0061】
多孔質層(II)に繊維状物を使用する場合には、その含有量は、例えば、多孔質層(II)の全構成成分中、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上であって、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。多孔質層(II)中での繊維状物の存在状態は、例えば、長軸(長尺方向の軸)の、セパレータの表面に対する角度が平均で30°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
【0062】
本発明の電気化学素子における短絡防止効果をより高め、セパレータの強度を確保して取り扱い性を良好にする観点から、セパレータの厚みは、3μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。一方、本発明の電気化学素子のエネルギー密度をより高める観点からは、セパレータの厚みは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。
【0063】
また、前記セパレータを構成する多孔質層(I)の厚みをX(μm)、多孔質層(II)の厚みをY(μm)としたとき、XとYとの比率X/Yは、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、また、1/8以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましい。本発明の電気化学素子に用いるセパレータでは、多孔質層(I)の厚み比率を大きくし多孔質層(II)を薄くしても、良好なシャットダウン機能を確保しつつ、セパレータの熱収縮による短絡の発生を抑制することができる。セパレータに多孔質層(I)が複数存在する場合には、厚みXはその総厚みであり、多孔質層(II)が複数存在する場合には、厚みYはその総厚みである。
【0064】
具体的な値としては、Xは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが最も好ましく、また、30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。また、Yは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが最も好ましく、また、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましく、6μm以下であることが最も好ましい。
【0065】
また、前記セパレータの空孔率としては、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることが最も好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、前記セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、単位面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記式(1)を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
【0066】
P=100−(Σai/ρi)×(m/t) (1)
ここで、前記式中、ai:質量%で表した成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
【0067】
また、前記式(1)において、mを多孔質層(I)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(I)の厚み(cm)とすることで、前記式(1)を用いて多孔質層(I)の空孔率:P(%)を求めることができる。この方法により求められる多孔質層(I)の空孔率は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0068】
更に、前記式(1)において、mを多孔質層(II)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(II)の厚み(cm)とすることで、前記式(1)を用いて多孔質層(II)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(II)の空孔率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0069】
また、前記セパレータは、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、0.879g/mm2の圧力下で100mLの空気が膜を透過する秒数として示されるガーレー値が、10〜300secであることが望ましい。ガーレー値(透気度)が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、他方、小さすぎると、セパレータの強度が小さくなることがある。更に、セパレータの強度としては、直径1mmのニードルを用いた突き刺し強度で50g以上であることが望ましい。かかる突き刺し強度が小さすぎると、リチウムのデンドライト結晶が発生した場合に、セパレータの突き破れによる短絡が発生する場合がある。
【0070】
前記セパレータの平均細孔径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上であって、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、多孔質層(I)の平均細孔径は、0.01〜0.5μmであることが好ましく、多孔質層(II)の平均細孔径は、0.05〜1μmであることが好ましい。平均細孔径は、水銀ポロシメーターなどを用いて測定することができる。
【0071】
前記セパレータのシャットダウン特性は、例えば、本発明の電気化学素子の内部抵抗の温度変化により求めることができる。具体的には、電気化学素子を恒温槽中に設置し、温度を室温から毎分1℃の割合で上昇させ、電気化学素子の内部抵抗が上昇する温度で評価することが可能である。この場合、150℃に昇温した後における電気化学素子の内部抵抗は、昇温前の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。
【0072】
また、前記セパレータは、150℃での熱収縮率を5%以下とすることが好ましく、1%以下とすることがより好ましい。このような特性のセパレータであれば、電気化学素子の内部が150℃程度になっても、セパレータの収縮が殆ど生じないため、正負極の接触による短絡をより確実に防止することができ、高温での電気化学素子の安全性をより高めることができる。ここでいう熱収縮率は、多孔質層(I)と多孔質層(II)が一体化している場合は、その一体化したセパレータ全体の収縮率を指し、多孔質層(I)と多孔質層(II)が独立している場合には、それぞれの収縮率の小さい方の値を指す。また、後述するように、多孔質層(I)および/または多孔質層(II)は、電極と一体化する構成とすることもできるが、その場合は、電極と一体化した状態で測定した熱収縮率を指す。
【0073】
前記の「150℃の熱収縮率」とは、セパレータまたは多孔質層(I)および多孔質層(II)(電極と一体化した場合には電極と一体化した状態で)を恒温槽に入れ、温度を150℃まで上昇させて3時間放置した後に取り出して、恒温槽に入れる前のセパレータまたは多孔質層(I)および多孔質層(II)の寸法と比較することで求められる寸法の減少割合を百分率で表したものである。
【0074】
本発明の電気化学素子に用いるセパレータの製造方法としては、例えば、下記の(a)〜(f)の方法を採用できる。セパレータの製造方法(a)は、多孔質基体に、樹脂(A)を含有する多孔質層(I)形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)、またはフィラーを含有する多孔質層(II)形成用組成物(スラリーなどの液状組成物など)を塗布した後、所定の温度で乾燥し、その後他方の組成物を更に塗布してから所定の温度で乾燥する製造方法である。この場合の多孔質基体としては、具体的には、前記例示の各構成材料からなる繊維状物の少なくとも1種で構成される織布や、これら繊維状物同士が絡み合った構造を有する不織布などの多孔質シートなどを用いることができる。より具体的には、紙、PP不織布、ポリエステル不織布(PET不織布、PEN不織布、PBT不織布など)、PAN不織布などの不織布が例示できる。
【0075】
前記多孔質層(I)形成用組成物は、樹脂(A)の他、必要に応じて、フィラー、有機バインダーなどを含有し、これらを溶媒(分散媒を含む、以下同じ。)に分散させたものである。前記有機バインダーについては溶媒に溶解させることもできる。多孔質層(I)形成用組成物に用いられる溶媒は、樹脂(A)やフィラーなどを均一に分散でき、また、有機バインダーを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般に有機溶媒が好適に用いられる。これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、有機バインダーが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、水を溶媒としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
【0076】
前記多孔質層(II)形成用組成物は、フィラーの他、必要に応じて樹脂(A)、有機バインダーなどを含有し、これらを溶媒に分散させたものである。溶媒には、多孔質層(I)形成用組成物に用いるものとして例示した各種溶媒と同じものを用いることができ、また、適宜界面張力を制御する成分として多孔質層(I)形成用組成物に関して例示した前記の各種成分を加えてもよい。
【0077】
多孔質層(I)形成用組成物および多孔質層(II)形成用組成物は、樹脂(A)、フィラーおよび有機バインダーを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
【0078】
前記多孔質基体の空孔の開口径が比較的大きい場合、例えば、5μm以上の場合には、これが電気化学素子の短絡の要因となりやすい。よって、この場合には、樹脂(A)やフィラー、板状粒子、二次粒子などの全部または一部が、多孔質基体の空隙内に存在する構造とすることが好ましい。多孔質基体の空隙内に樹脂(A)やフィラー、板状粒子、二次粒子などを存在させるには、例えば、これらを含有する多孔質層形成用組成物を多孔質基体に塗布した後に一定のギャップを通し、余分の組成物を除去した後、乾燥するなどの工程を用いればよい。
【0079】
前記セパレータに含有させる板状粒子の配向性を高めてその機能をより有効に作用させるためには、板状粒子を含有する多孔質層形成用組成物を多孔質基体に塗布して含浸させた後、前記組成物にシェアや磁場をかけるといった方法を用いればよい。例えば、前述のように、板状粒子を含有する多孔質層形成用組成物を多孔質基体に塗布した後、一定のギャップを通すことで、前記組成物にシェアをかけることができる。
【0080】
また、樹脂(A)やフィラー、板状粒子、二次粒子など、それぞれの構成物の持つ作用をより有効に発揮させるために、前記構成物を偏在させて、セパレータの膜面と平行または略平行に、前記構成物が層状に集まった形態としてもよい。このような形態とするには、例えば、ダイコーターやリバースロールコーターのヘッドやロールを2つ用いて、多孔質基体の裏表両方向から別々の組成物、例えば、多孔質層(I)形成用組成物と多孔質層(II)形成用組成物を別々に塗布し、乾燥する方法が採用できる。
【0081】
セパレータの製造方法(b)は、多孔質基体に多孔質層(I)形成用組成物または多孔質層(II)形成用組成物の一方を塗布し、塗布した組成物が乾燥する前に他方の組成物を更に塗布し、乾燥させる方法である。
【0082】
セパレータの製造方法(c)は、多孔質層(I)形成用組成物を多孔質基体に塗布し、乾燥して、樹脂(A)を主体して含む多孔質層(I)を形成し、別の多孔質基体に多孔質層(II)形成用組成物を塗布し、乾燥して、フィラーを主体として含む多孔質層(II)を形成し、これら2つの多孔質層を重ね合わせて1つのセパレータとする方法である。この場合、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは一体化されていてもよいし、それぞれ独立した構成であって、電気化学素子の組み立てにより、電気化学素子内で重ね合わされた状態で一体のセパレータとして機能するものであってもよい。
【0083】
セパレータの製造方法(d)は、多孔質層(I)形成用組成物および多孔質層(II)形成用組成物に、更に必要に応じて繊維状物を含有させ、これをフィルムや金属箔などの基板上に塗布し、所定の温度で乾燥した後に、該基板から剥離する方法である。製造方法(d)でも、製造方法(c)と同様に、樹脂(A)を主体として含む多孔質層(I)とフィラーを主体として含む多孔質層(II)とは、それぞれ独立した構成としてもよいし、一体化された構成としてもよい。多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化された構成とする場合は、製造方法(a)と同様に一方の多孔質層を形成して乾燥した後に他方の多孔質層を形成してもよいし、一方の多孔質層形成用組成物を塗布し、塗布した組成物が乾燥する前に他方の多孔質層形成用組成物を塗布してもよいし、両者の多孔質層形成用組成物を同時に塗布する、いわゆる同時重層塗布方式を用いてもよい。
【0084】
セパレータの製造方法(e)は、多孔質基体に、フィラーを含有する多孔質層(II)形成用組成物を塗布した後、所定の温度で乾燥し、これを、多孔質層(I)となる樹脂(A)を主体とする微多孔フィルムと重ね合わせて1つのセパレータとする方法である。この場合も、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは一体化されていてもよいし、それぞれ独立した構成であって、電気化学素子の組み立てにより、電気化学素子内で重ね合わされた状態で一体のセパレータとして機能するものであってもよい。
【0085】
セパレータの製造方法(f)は、多孔質層(II)形成用組成物に、更に必要に応じて繊維状物を含有させ、これをフィルムや金属箔などの基板上に塗布し、所定の温度で乾燥した後に、該基板から剥離し、これを、多孔質層(I)とするための樹脂(A)を主体とする微多孔フィルムと重ね合わせて1つのセパレータとする方法である。製造方法(f)でも、製造方法(e)などと同様に、樹脂(A)を主体とする微多孔フィルムからなる多孔質層(I)とフィラーを主体として含む多孔質層(II)とは、それぞれ独立した構成としてもよいし、一体化された構成としてもよい。多孔質層(I)と多孔質層(II)とを一体化するには、別途形成した多孔質層(II)と多孔質層(I)とをロールプレスなどにより貼り合わせる方法の他、基板の代わりに多孔質層(I)の表面に多孔質層(II)形成用組成物を塗布し、乾燥して、多孔質層(I)の表面に直接多孔質層(II)を形成する方法を採用することもできる。例えば、樹脂(A)を主体とする微多孔フィルムの表面に多孔質層(II)形成用組成物を塗布し、乾燥する方法であってもよい。
【0086】
また、製造方法(d)や製造方法(f)によって、電気化学素子を構成する正極および負極の少なくとも一方の電極の表面に、多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方[製造方法(f)を採用する場合には、多孔質層(II)]を形成して、多孔質層(I)および多孔質層(II)の少なくとも一方[製造方法(f)を採用する場合には、多孔質層(II)]を電極と一体化した構造としてもよい。
【0087】
前記セパレータは、前記に示した各構造に限定されるものではない。例えば、製造方法(c)と製造方法(d)を組み合わせて形成される態様、すなわち多孔質層(I)または多孔質層(II)のいずれか一方に多孔質基体を用い、他方に多孔質基体を用いない構成とすることもできる。
【0088】
また、樹脂(A)を主体として含む多孔質層(I)と、フィラーを主体として含む多孔質層(II)とは、それぞれ1層ずつである必要はなく、複数の層がセパレータ中にあってもよい。例えば、多孔質層(II)の両面に多孔質層(I)を形成した構成としてもよい。ただし、層数を増やすことでセパレータの厚みが増加して、内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招くおそれがあるので、層数を多くしすぎるのは好ましくなく、多孔質層の層数は5層以下であることが好ましく、より好ましくは2層の構成である。
【0089】
また、前記セパレータにおいて、樹脂(A)は、粒子状で個々に独立して存在していてもよく、互いに、または繊維状物などに、一部が融着されていても構わない。
【0090】
多孔質層(I)と多孔質層(II)とは、一体化して独立膜としてセパレータを構成する以外に、前記のように、それぞれ独立した構成要素とし、電気化学素子が組み立てられた段階で、電気化学素子内で重ね合わされた状態となり、正極と負極の間に介在するセパレータとして機能するようにすることもできる。ただし、初めから一体化していない場合は、巻回時に多孔質層(I)と多孔質層(II)との巻きずれが生じるおそれもあるので、多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化されて構成される独立膜をセパレータとして用いるのが好ましい。
【0091】
また、多孔質層(I)と多孔質層(II)とは接している必要はなく、それらの間に別の層、例えば、多孔質基体を構成する繊維状物の層などが介在していてもよい。
【0092】
多孔質層(I)が多孔質層(II)の一方に配置された構成のセパレータ、すなわち、例えば、多孔質層(II)の片面に多孔質層(I)が形成された構成のセパレータや、独立膜である多孔質層(I)と独立膜である多孔質層(II)とを重ね合わせて構成したセパレータなどの場合、多孔質層(I)を、正極側に配置することも負極側に配置することもできるが、本発明の電気化学素子では、シャットダウン機能をより有効に作用させ安全性を高めるために、多孔質層(I)が負極に面するように配置されている。多孔質層(I)を負極側に配置した場合、多孔質層(I)を正極側に配置した場合に比べて、シャットダウン後に樹脂(A)が活物質含有層中に吸収されにくく、溶融した樹脂(A)が効率よくセパレータの空孔を閉塞することができる。従って、セパレータが負極の活物質含有層と接する場合は、セパレータの負極側表面に多孔質層(I)が存在するよう電気化学素子を組み立てることが望まれる。
【0093】
また、多孔質層(II)に用いるフィラーが、耐酸化性に優れた材料(例えば、無機酸化物)である場合、多孔質層(II)を正極側に向けることによって、正極によるセパレータの酸化を抑制することが可能となり、高温時の保存特性や充放電サイクル特性に優れた電気化学素子とすることができる。従って、セパレータが正極の活物質含有層と接する場合は、セパレータの正極側表面に多孔質層(II)が存在するよう電気化学素子を組み立てることが望まれる。
【0094】
以下、本発明の電気化学素子の一例として、リチウム二次電池について詳述する。リチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0095】
正極としては、従来のリチウム二次電池に用いられている正極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。例えば、正極活物質として、Li1+XMO2(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Al、Mgなど)で表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMn24やその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などを用いることが可能である。前記層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoO2やLiNiO2などのほか、少なくともCoおよびNiを含有するLiNi1-x-yCoxAly2(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)、LiNi1-x-yCoxMny2(0.1≦x≦0.4、0.1≦y≦0.5)などを例示することができ、より具体的には、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi5/12Co1/6Mn5/122、LiNi3/5Co1/5Mn1/52などの組成を示すことができる。
【0096】
導電助剤としては、カーボンブラックなどの炭素材料が用いられ、バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などフッ素樹脂が用いられ、これらの材料と正極活物質とが混合された正極合剤を用いて、正極活物質含有層が、例えば集電体上に形成される。
【0097】
また、正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0098】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極活物質含有層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0099】
負極としては、従来のリチウム二次電池に用いられている負極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する負極であれば特に制限はない。例えば、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素およびその合金、リチウム含有窒化物、またはリチウム酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどのバインダーなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極活物質含有層)に仕上げたもの、または、前記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体上に積層したものなどが負極として用いられる。
【0100】
負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、下限は5μmであることが望ましい。また、負極側のリード部は、正極側のリード部と同様にして形成すればよい。
【0101】
電極は、前記の正極と前記の負極とを、前述のセパレータを介して積層した積層体や、更にこれを巻回した電極巻回体の形態で用いることができる。
【0102】
電解液としては、リチウム塩を有機溶媒に溶解した非水溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLi+イオンを生成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれば特に制限は無い。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6などの無機リチウム塩、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li224(SO32、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiCn2n+1SO3(2≦n≦5)、LiN(RfOSO22〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩などを用いることができる。
【0103】
電解液に用いる有機溶媒としては、前記のリチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いることもできる。より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートの混合溶媒など、高い導電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。また、これらの電解液に安全性や充放電サイクル性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤を適宜加えることもできる。
【0104】
前記リチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/Lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/Lとすることがより好ましい。
【0105】
前記のような正極活物質含有層を有する正極や、負極活物質含有層を有する負極は、例えば、正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒に分散させてなる正極活物質含有層形成用組成物(スラリーなど)や、負極合剤をNMPなどの溶媒に分散させてなる負極活物質層形成用組成物(スラリーなど)を集電体上に塗布し、乾燥することにより作製される。この場合、例えば、正極活物質含有層形成用組成物を集電体上に塗布し、該組成物が乾燥する前に、更に多孔質層(I)形成用組成物および/または多孔質層(II)形成用組成物を塗布して作製した、正極と多孔質層(I)および/または多孔質層(II)との一体化物や、負極活物質含有層形成用組成物を集電体上に塗布し、該組成物が乾燥する前に、更に多孔質層(I)形成用組成物および/または多孔質層(II)形成用組成物を塗布して作製した、負極と多孔質層(I)および/または多孔質層(II)との一体化物を用いて、リチウム二次電池(電気化学素子)を構成することもできる。
【0106】
(実施形態2)
次に、本発明の電気化学素子の製造方法について、実施形態1とは異なる観点から説明する。前記正極および前記負極は、セパレータを介して積層されて電極体を構成し、そのままの形状で電気化学素子の組み立てに用いられる。あるいは、セパレータが巻回軸に巻き付けられ、前記正極および前記負極とともに巻回され、渦巻状の電極体とされて電気化学素子の組み立てに用いられる。ところが、多孔質層(I)で構成され、もう一方が多孔質層(II)で構成されたセパレータのように、両面の摩擦係数が異なるセパレータを用いる場合、渦巻状の電極体の製造において以下の問題が生じやすくなる。すなわち、セパレータの摩擦係数の高い側が巻回軸に面するようセパレータを配置して巻回を行うと、セパレータと巻回軸との大きな摩擦のため、形成された渦巻状の電極体を巻回軸から抜き取る際に、引き抜きが困難になったり、電極の巻きずれを生じたりすることがある。
【0107】
そのため、本発明では、正極、負極、および、両面の摩擦係数が異なるセパレータを積層し、巻回軸を用いて渦巻状に巻回して電極体を製造する場合に、セパレータの摩擦係数の低い面側を巻回軸側に配置して、セパレータを巻回軸に巻きつける方法が好ましく用いられる。
【0108】
すなわち、本発明の第1の電気化学素子の製造方法は、正極、負極およびセパレータを巻回軸により渦巻状に巻回し、正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を製造する方法であって、前記セパレータは、両面の摩擦係数が異なっており、前記セパレータの摩擦係数の低い面側を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを有することを特徴とする。
【0109】
本発明の電気化学素子に用いるセパレータのように、熱可塑性樹脂を主体として含む多孔質層(I)と、耐熱温度が150℃以上のフィラーを主体として含む多孔質層(II)とを有する場合、多孔質層(II)と巻回軸との間の静止摩擦係数の方が、多孔質層(I)と巻回軸との間の静止摩擦係数よりも大きくなりやすい。巻回軸の材質などにより変化するが、多孔質層(II)と巻回軸との間の静止摩擦係数は、例えば、0.5よりも大きな値となり、一方、多孔質層(I)と巻回軸との間の静止摩擦係数は、例えば、多孔質層(I)が微多孔フィルムの場合、0.5以下となる。従って、セパレータの一方の面に多孔質層(I)が形成され、もう一方の面に多孔質層(II)が形成されている場合は、多孔質層(I)の側を巻回軸側に配置して巻回軸に巻き付け、巻回を行えばよい。
【0110】
また、多孔質層(II)を巻回軸側に配置して巻回を行う場合は、多孔質層(II)にセラミックスのように硬い無機微粒子が含まれていれば、電極の巻きずれ以外に、巻回軸が無機微粒子により研磨され短期間で磨り減るおそれも生じる。このため、セパレータの表面の摩擦係数の問題とは別に、多孔質層(II)にセラミックスなどの無機微粒子が含まれている場合は、多孔質層(II)が巻回軸とは反対側に向くようセパレータを配置して、巻回を行うのが望ましい。この観点から、本発明の第2の電気化学素子の製造方法は、正極、負極およびセパレータを巻回軸により渦巻状に巻回し、正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を製造する方法であって、前記セパレータは、一方の側に、熱可塑性樹脂を主体として含む多孔質層(I)を備え、もう一方の側に、耐熱温度が150℃以上の絶縁性セラミックス粒子を主体として含む多孔質層(II)を備え、前記多孔質層(I)を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを有することを特徴とする。
【0111】
多孔質層(I)と巻回軸との間の静止摩擦係数が低いほど、渦巻状の電極体の巻回軸からの抜き取りが容易となるため、前記静止摩擦係数は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。一方、前記静止摩擦係数が小さすぎると、セパレータが滑って巻回位置がずれる場合があるので、前記静止摩擦係数は、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.2以上であることが特に好ましい。本明細書でいう静止摩擦係数は、JIS K 7125の規定に準拠した方法で測定した値である。
【0112】
次に、本発明の電気化学素子の製造方法の詳細を、図面を用いて説明する。図1は、巻回電極体の製造装置の一例を示す概念図であり、製造装置の側面を示しており、断面図ではないものの、各構成要素の理解を容易にするために一部の構成要素(負極1)には斜線を付している。
【0113】
本発明の製造方法では、セパレータ3を、負極1および正極2と重ね合わせ、これらを巻回軸4を中心に巻回することで巻回電極体を製造する。先ず巻き始めの段階では、2枚のセパレータ3、3を重ね合わせ、巻回軸4に密着させながら巻き込む形で巻回する(第1工程)。次に、巻回軸4側のセパレータ3の内側に負極1を巻き込み、更に2枚のセパレータ3、3の間に正極2を巻き込みつつ、巻回して巻回電極体とする(第2工程)。第2工程では、巻回軸4側のセパレータ3の内側に正極2を巻き込み、2枚のセパレータ3、3の間に負極1を巻き込みつつ、巻回して巻回電極体としてもよい。その後、巻回電極体を巻回軸4から抜き取る。
【0114】
図2は、巻回電極体の製造において第1工程を終え、第2工程を開始した状態における巻回軸4付近を拡大して示す断面図である。図2では、第1工程の後、2枚のセパレータ3、3の間に正極2を巻き込んだ状態を示しているが、負極1については図示していない。図2において、3aはセパレータ3における摩擦係数の低い面であり、3bはセパレータ3における摩擦係数の高い面である。このように、セパレータ3、3には両面で異なる摩擦係数を有するものを使用し、摩擦係数の低い面3a、3aが巻回軸4側を向くように配置する。これにより、巻回電極体の形成後に巻回軸4を抜く際に、セパレータの巻回軸4への絡み付きが抑制され、より生産性の良好な巻回電極体の製造が可能となる。
【0115】
前述した、多孔質層(I)を負極側に配置した構成の電気化学素子を製造するためには、前記の第2工程において、セパレータの摩擦係数の低い面側、すなわち多孔質層(I)の側に負極を巻き込むよう巻回を行えばよい。また、セパレータの摩擦係数の高い面側、すなわち多孔質層(II)の側に正極を巻き込むよう巻回を行えば、多孔質層(II)を正極側に配置した構成の電気化学素子を製造することができる。
【0116】
本発明の製造方法は、前記本発明に用いられるセパレータ以外にも適用可能であり、両面の摩擦係数の異なる熱可塑性樹脂の積層体よりなるセパレータなどであってもよい。
【0117】
図2の例では、巻回軸4は、2本の半円状の軸で構成され、平面部が互いに対抗するように配置されており、その平面部の間にセパレータ3、3が挟みこまれている。巻回軸4の形状に関しては、図2に示す例に限定されることなく、従来の形状の巻回軸を用いることができる。図3A、B、Cに、巻回軸4の具体例を模式的に示すが、例えば、図3Aに示すように、巻回軸4の先端が2本のピンに割れて形成された形状のもの;図3Bに示すように、断面が半円状の軸2本を互いに平面部が対抗するように配置し、また、電極、セパレータ面の短軸方向に対し、それぞれの軸が反対側から突き出した形状のもの;図3Cに示すように、角形の電気化学素子(角形電池など)用の巻回電極体を製造するのに好適な、2本の平板状の軸を互いに対抗するように配置した形状のもの;などの各種の巻回軸を用いることができる。
【0118】
巻回軸の材質についても特に制限はなく、従来の電気化学素子用の巻回電極体の巻回に使用されている巻回軸で採用されている材質を用いることができ、具体的には、ステンレス鋼(SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS317、SUS403、SUS420など)などが例示できる。また、表面を窒化物などのセラミックスで被覆し耐久性を高めることもできる。
【0119】
前記電極体は、前記電解液と共に外装体内に封入され、例えばリチウム二次電池が構成される。電池の形態としては、従来のリチウム二次電池と同様に、筒形(円筒形や角筒形)の外装缶を使用した筒形電池や、扁平形(平面視で円形や角形の扁平形)の外装缶を使用した扁平形電池、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池などとすることができる。また、外装缶には、スチール製やアルミニウム製のものが使用できる。金属缶を外装缶とする電池では、一定の圧力で亀裂が生じる金属製の開裂ベント、一定の圧力で破れる樹脂製のベント、一定の圧力で蓋が開くゴム製のベントなど、電池内部のガス圧力が上昇した際に、前記ガスを外部に排出する機構を備えることが望ましく、中でも金属製の開裂ベントを備えるのが望ましい。
【0120】
一方、ソフトパッケージ電池では、封止部分が樹脂の熱融着により封止されているため、そもそも温度と内圧が上昇した場合に、こうした高温、高圧に耐えられる構造とすることが難しく、特別な機構を設けなくても温度が上昇した場合に電池内部のガスを外部に排出する構成とすることが可能である。すなわち、ソフトパッケージ電池においては、外装体の封止部(熱融着部)が、前記の電池内部のガスを外部に排出する機構として作用する。また、ソフトパッケージ電池の場合、封止部分の幅を特定の場所だけ狭くするなどの方法によっても、温度が上昇した場合に電池内部のガスを外部に排出する構成とすることができる。すなわち、前記特定の場所が、前記の電池内部のガスを外部に排出する機構として作用する。
【0121】
温度上昇により電池の内圧が上昇した際に、電池内部のガスを外部に排出して電池の内圧を下げる機構を有するリチウム二次電池では、この機構が作動した場合、内部の非水電解液が揮発して、電極が直接空気に曝される状態となるおそれがある。電池が充電状態にある場合に、前記のような状態となり、負極と空気(酸素や水分)が接触すると、負極に吸蔵されたリチウムイオンや負極表面上に析出したリチウムと空気とが反応して発熱し、セパレータのシャットダウンが生じても電池の温度が上昇し、更に、正極活物質の熱暴走反応を引き起こす場合もある。
【0122】
しかし、セパレータの多孔質層(I)が負極側に配置されていれば、溶融した多孔質層(I)の樹脂(A)は、セパレータの空孔を閉塞するだけでなく、負極の表面に膜を形成して負極と空気の反応を抑制することが可能となる。特に、多孔質層(I)が負極の活物質含有層と接する場合は、負極活物質含有層の表面に前記樹脂(A)の膜が形成されるので、前記反応抑制の効果が高いと思われる。従って、電池内部のガス圧力が上昇した際に、前記ガスを外部に排出する機構を備えるリチウム二次電池では、多孔質層(I)を負極側に配置することによる安全性向上の効果はより高くなると思われる。
【0123】
本発明の製造方法により製造される電気化学素子の種類は、特に限定されるものではなく、非水電解液を用いるリチウム二次電池の他、リチウム一次電池やキャパシタなど、従来の電気化学素子に適用することができ、高温での安全性が要求される用途に特に好ましく適用できる。すなわち、本発明の電気化学素子は、前記本発明のセパレータを備えていれば、その他の構成・構造については特に制限はなく、従来の非水電解液を有する各種電気化学素子(リチウム二次電池、リチウム一次電池、キャパシタなど)が備えている各種構成・構造を採用することができる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。各実施例で示す多孔質層(I)および多孔質層(II)における各成分の体積含有率は、多孔質基体(不織布)を使用している場合には、この多孔質基体を除く全構成成分中の体積含有率である。体積含有率は、SBRの比重を0.97g/cm3、ベーマイトの比重を3.0g/cm3、PEの比重を1.0g/cm3、アルミナの比重を4.0g/cm3として計算を行った。
【0125】
また、以下の実施例で示す、セパレータと巻回軸との間の静止摩擦係数の測定は、巻回軸の構成材料であるSUS304を用い、JIS K 7125に準拠した方法で行った。また、樹脂(A)の融点(融解温度)は、JIS K 7121の規定に準じて、DSCを用いて測定した値である。
【0126】
<負極の作製1(製造例1)>
負極活物質である黒鉛:95質量部と、バインダーであるPVDF:5質量部とを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として均一になるように混合して、負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ10μmの集電体の両面に、活物質塗布長が表面320mm、裏面260mmになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整し、幅45mmになるように切断して、長さ330mm、幅45mmの負極を作製した。更に、この負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0127】
<正極の作製1(製造例2)>
正極活物質であるLiCoO2:85質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、およびバインダーであるPVDF:5質量部を、NMPを溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。この正極合剤含有ペーストを、アルミニウム箔からなる厚さ15μmの集電体の両面に、活物質塗布長が表面320mm、裏面260mmになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、長さ330mm、幅43mmの正極を作製した。更に、この正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0128】
(実施例1)
フィラーであるアルミナ(平均粒径0.3μm):1000g、水:800g、イソプロピルアルコール(IPA):200g、およびバインダーであるポリビニルブチラールの水/IPA溶液(固形分比率15%):375gを容器に入れ、スリーワンモーターで1時間撹拌して分散させ、均一なスラリーとした(スラリー1)。このスラリー1中に、厚みが12μmで目付け重量が8g/m2のPET製不織布を通し、引き上げ塗布によりスラリー1を塗布した後、所定の間隔を有するギャップの間を通し、その後乾燥して、厚みが20μmの多孔質膜[多孔質層(II)]を得た。得られた多孔質膜の片面に、PE粉末の水分散体(平均粒径1μm、固形分濃度40%)をブレードコーターにより塗布して乾燥し、厚み5μmになるようにPE微粒子層[多孔質層(I)]を形成し、両面の摩擦係数が異なるセパレータを作製した。
【0129】
次に、図1に示す構成の製造装置を使用し、図3Bに示した構造のステンレス鋼(SUS304)製の巻回軸を用いて、製造例1で作製した負極、製造例2で作製した正極、および本実施例のセパレータを用いて巻回電極体を作製した。セパレータは、摩擦係数の低い面[多孔質層(I)]が巻回軸側に向くように配置した。そして、巻回電極体を100個作製し、巻回軸から正常に抜き取りができなかった電極体の割合を求め、不良率として評価した。
【0130】
(実施例2)
前記実施例1で作製したスラリー1を、厚み16μmのPE製微多孔フィルム[多孔質層(I)]の片面にブレードコーターを用いて塗布し、乾燥し、厚みが5μmとなるように無機フィラー層[多孔質層(II)]を形成し、両面の摩擦係数が異なるセパレータを作製した。このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にして巻回電極体を100個作製し、電極体の抜き取りにおける不良率を測定した。
【0131】
(比較例1)
セパレータの摩擦係数の高い面[多孔質層(II)]を巻回軸側に向けて配置した以外は、実施例1と同様にして巻回電極体を100個作製し、電極体の抜き取りにおける不良率を測定した。
【0132】
(比較例2)
セパレータの摩擦係数の高い面[多孔質層(II)]を巻回軸側に向けて配置した以外は、実施例2と同様にして巻回電極体を100個作製し、電極体の抜き取りにおける不良率を測定した。
【0133】
実施例1〜2および比較例1〜2における電極体の抜き取りの不良率を表1に示す。また、これらの実施例および比較例おいて、巻回軸と接するセパレータの面の種類と、セパレータと巻回軸の構成素材であるSUS304との間の静止摩擦係数とを表1に併記する。
【0134】
【表1】

【0135】
表1に示すように、両面の摩擦係数の異なるセパレータを使用し、そのうち摩擦係数の低い面を巻回軸側に向けて巻回電極体の作製を行った実施例1〜2では、全ての電極体を巻回軸から正常に抜き取ることができ、また巻きずれを生じることもなく生産性よく電極体を作製できた。従って、本発明の製造方法によれば、電気化学素子の生産性を向上できることがわかる。
【0136】
(実施例3)
製造例1で作製した負極の両面に、PE微粒子の水分散体(平均粒径1μm、固形分濃度40%、融点125℃、樹脂の溶融粘度1300mPa・s)[液状組成物(1−A)]をブレードコーターにより塗布して乾燥し、厚みが7μmになるように、樹脂(A)であるPEを主体とする多孔質層(I)を形成した。負極上に形成した多孔質層(I)は、樹脂(A)であるPE微粒子のみにより構成されており、多孔質層(I)における樹脂(A)の体積含有率は100%であった。
【0137】
次に、フィラーとして板状ベーマイト(平均粒径1μm、アスペクト比10)1000gを水1000gに分散させ、更に有機バインダーであるSBRラテックス120gを加え、均一に分散させて液状組成物(2−A)を調製した。液状組成物(2−A)に厚み15μmのPP製メルトブロー不織布を通し、引き上げ塗布によりスラリーを塗布した後、乾燥することにより、不織布の空隙内にフィラー粒子を主体とする層を有する厚み20μmの多孔質膜[多孔質層(II)]を得た。算出した多孔質層(II)中の板状ベーマイトの体積含有率は、87%であった。
【0138】
製造例2で作製した正極と、前記多孔質層(I)を有する負極と、多孔質層(II)となる前記多孔質膜とを渦巻状に巻回して電極体を作製した。この略円筒状の電極体を、扁平状になるよう押しつぶし、アルミニウムラミネート製の外装体の中に入れ、更に以下の電解液を注入し、その後封止を行ってリチウム二次電池とした。電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:2で混合した溶媒に、LiPF6を1.2mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いた。本実施例においては、前記負極上に形成された多孔質層(I)と、不織布を基材とした多孔質層(II)(多孔質膜)の両者が、電池内で重ねられた状態で1つのセパレータとして機能しており、本実施例および後述する各実施例では、多孔質層(I)と多孔質層(II)とを合わせた全体をセパレータと呼ぶ。
【0139】
(実施例4)
PE微粒子の水分散液(平均粒径1μm、固形分濃度40%、融点125℃、樹脂の溶融粘度1300mPa・s)2000gとエタノール800gとを容器に入れ、ディスパーで、2800rpmの条件で1時間攪拌して分散させ、更にフィラー粒子として板状アルミナ(Al23)微粒子(平均粒径2μm、アスペクト比50)4400gを加えて3時間撹拌し、均一なスラリーである液状組成物(2−B)を得た。液状組成物(2−B)と実施例1で使用した液状組成物(1−A)とを、互いに対向する位置にダイを2つ備えたダイコーターを用いて、厚み18μmのPET製湿式不織布に同時に塗布し、乾燥して、樹脂(A)であるPEを主体として含む多孔質層(I)と、フィラーである板状アルミナ微粒子を主体として含む多孔質層(II)とを有するセパレータを得た。多孔質層(I)および多孔質層(II)の厚みは、それぞれおよそ10μmであった。また、多孔質層(I)中の樹脂(A)であるPEの体積含有率は100%であり、算出した多孔質層(II)中の板状アルミナ微粒子の体積含有率は、58%であった。
【0140】
製造例1で作製した負極と、前記のセパレータと、製造例2で作製した正極とを、セパレータの多孔質層(I)が負極側となるように重ね合わせ、渦巻状に巻回して電極体を作製した。上記の巻回においては、セパレータの巻回軸との接触面が多孔質層(I)となるようセパレータを配置した。以下、実施例3と同様にして、リチウム二次電池を作製した。
【0141】
(実施例5)
実施例4で使用した液状組成物(2−B)を用いて、実施例4で用いたものと同じPET製不織布を多孔質基体として、実施例3と同様に引き上げ塗布により厚さ20μmの多孔質層(II)を作製した。また、溶融粘度が10000mPa・sのPE微粒子を用いた以外は、液状組成物(1−A)と同じ構成の液状組成物(1−B)を作製し、前記多孔質層(II)の片面にブレードコーターを用いて塗布し、乾燥することにより、厚さが7μmの多孔質層(I)を形成してセパレータを得た。このセパレータを用いた以外は実施例4と同様にして、リチウム二次電池を作製した。多孔質層(I)中の樹脂(A)であるPEの体積含有率は100%であり、算出した多孔質層(II)中の板状アルミナ微粒子の体積含有率は、58%であった。
【0142】
(比較例3)
電極巻回体の作製に際し、多孔質層(I)が正極側となるよう、セパレータの配置を変えた以外は、実施例5と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0143】
(実施例6)
板状アルミナに代えて二次粒子構造のベーマイト(二次粒子の平均粒径0.6μm、比表面積15m2/g)を用いた以外は、実施例4と同様にして液状組成物(2−C)を調製した。この液状組成物(2−C)を、液状組成物(2−B)に代えて用いた以外は、実施例5と同様にしてセパレータを作製した。このセパレータを用いた以外は、実施例5と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0144】
(比較例4)
液状組成物(1−B)に代えて、カルナバワックスの水分散体(平均粒径0.4μm、固形分濃度30質量%、融点80℃、溶融粘度25mPa・s)を用いた以外は、実施例5と同様にしてセパレータを作製した。このセパレータを用いた以外は、比較例3と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0145】
(比較例5)
PE製微多孔フィルム(厚み20μm)を用い、製造例1で作製した負極と製造例2で作製した正極とを、前記PE製微多孔フィルムを介在させつつ重ね合わせ、渦巻状に巻回して電極体を作製した。この電極体を用いた以外は、実施例3と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0146】
実施例3〜6および比較例3〜5で作製したセパレータの構成を表2に示す。表2において、樹脂割合は、多孔質層(II)の空孔の体積に対する、多孔質層(I)に含まれる樹脂(A)の体積の割合を示しており、樹脂(A)の体積が前記空孔の体積と等しい場合を100%としている。また、空孔率は、前記式(1)により求めた値である。
【0147】
【表2】

【0148】
実施例3〜6および比較例3〜5の各リチウム二次電池について、次の評価を行った。先ず、実施例3〜6および比較例3〜5のリチウム二次電池に用いられているセパレータのシャットダウン温度を、次の方法により求めた。各電池を恒温槽に入れ、30℃から150℃まで毎分1℃の割合で温度上昇させて加熱した。加熱中、電池の内部抵抗の変化を測定し、抵抗値が30℃での値の5倍以上に上昇したときの温度を、シャットダウン温度とした。また、150℃に達した状態でさらに30分間温度を維持し、電池の表面温度および電池電圧を測定し、異常の発生の有無を調べた。
【0149】
次に、前記測定に用いた電池以外の電池を用い、次の釘刺し試験を行った。実施例3〜6および比較例3〜5の電池を、0.5Cの定電流で4.2Vまで充電し、更に4.2Vの定電圧で、電流が0.05Cに低下するまで充電を行った。充電後、直径5mmの釘を40mm/秒の速度で電池に刺し、電池の温度上昇を調べた。各々3個の電池で試験を行い、それぞれの電池の最高到達温度の平均値を、釘刺し試験での電池の温度として求めた。前記の各評価の結果を表3に示す。
【0150】
【表3】

【0151】
表3に示すように、実施例3〜6および比較例3〜5のリチウム二次電池では、電池の高温での安全性を確保するのに適切な温度範囲でシャットダウンを生じた。また、多孔質層(I)を負極側に配置した実施例3〜6の電池では、電池を150℃で30分保持しても、電池の表面温度の上昇あるいは電池の電圧の低下といった異常は見られなかった。更に、実施例3〜6の電池では、多孔質層(I)を正極側に配置した比較例3および4に比べて、釘刺し試験での電池の温度上昇が抑制され、シャットダウン機能がより有効に作用していた。
【0152】
また、比較例4に比べて、多孔質層(I)の樹脂(A)の140℃における溶融粘度を高くした比較例3の方が、シャットダウン機能がより有効に作用しており、樹脂(A)の溶融粘度を高めることが高温での安全性向上に有効であることがわかる。
【0153】
また、比較例5の電池では、150℃で30分保持することで電圧が低下した。これは、セパレータが収縮し、正極と負極の一部に短絡が生じたためと推測される。
【0154】
<負極の作製2(製造例3)>
負極合剤含有ペーストを、塗布長が表面500mm、裏面440mmになるように間欠塗布した以外は、製造例1と同様にして、長さ510mm、幅45mmの負極を作製した。更に、この負極の銅箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0155】
<正極の作製2(製造例4)>
正極合剤含有ペーストを、塗布長が表面500mm、裏面425mmになるように間欠塗布した以外は、製造例2と同様にして、長さ520mm、幅43mmの正極を作製した。更に、この正極のアルミニウム箔の露出部にタブを溶接してリード部を形成した。
【0156】
(実施例7)
有機バインダーであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):100gと、水:4000gとを容器に入れ、均一に分散するまで室温で攪拌した。この分散液に板状ベーマイト粉末(平均粒径1μm、アスペクト比10):4000gを4回に分けて加え、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリーを調製した。次に、多孔質層(I)となる厚み16μmのポリエチレン製微多孔フィルム(空孔率40%、平均孔径0.02μm、融点135℃)の片面に、マイクログラビアコーターを用いて前記のスラリーを塗布し、乾燥することにより多孔質層(II)を形成し、厚みが22μmのセパレータを得た。このセパレータの多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は97体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は48%であった。
【0157】
製造例3で作製した負極と、本実施例のセパレータと、製造例4で作製した正極とを、セパレータの多孔質層(I)が負極側となるように重ね合わせ、渦巻状に巻回して電極体を作製した。得られた略円筒状の電極体を、扁平状になるよう押しつぶし、厚み6mm、高さ50mm、幅34mmのアルミニウム製外装缶に挿入し、更に前述の実施例3で用いたものと同様の電解液を注入し、その後封止を行って、図4A、Bに示す構造で、図5に示す外観のリチウム二次電池を作製した。この電池は、上部に内圧が上昇した場合に圧力を下げるための開裂ベントを備えている。
【0158】
ここで、図4A、Bおよび図5に示す電池について説明すると、負極1と正極2は前記のようにセパレータ3を介して渦巻状に巻回され、更に扁平状になるように加圧されて電極体6となり、角筒形の外装缶20に電解液と共に収容されている。ただし、図4Bでは、煩雑化を避けるため、負極1や正極2の集電体である金属箔や電解液などは図示しておらず、電極体6の中央部およびセパレータ3は断面にしていない。
【0159】
外装缶20はアルミニウム合金製で、電池の外装体を構成するものであり、この外装缶20は正極端子を兼ねている。そして、外装缶20の底部にはポリエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、負極1、正極2およびセパレータ3からなる電極体6からは、負極1および正極2のそれぞれ一端に接続された負極リード体8と正極リード体7が引き出されている。また、外装缶20の開口部を封口するアルミニウム合金製の封口用の蓋板9には、ポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0160】
この蓋板9は外装缶20の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、外装缶20の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、蓋板9には非水電解液注入口14が設けられており、この非水電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている。図4A、Bおよび図5に示した電池では、便宜上、非水電解液注入口14は、非水電解液注入口自体と封止部材とを含めて表示している。更に、蓋板9には、電池の温度上昇などにより内圧が上昇した際に、内部のガスを外部に排出する機構として、開裂ベント15が設けられている。
【0161】
この実施例7の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって外装缶20と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、外装缶20の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0162】
図5は、図4A、Bに示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図5は前記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図5では電池を概略的に示している。
【0163】
(実施例8)
多孔質層(II)の板状ベーマイト粉末を、一次粒子が凝集して構成された二次粒子構造のベーマイト(平均粒径0.6μm)に代えた以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。このリチウム二次電池に用いたセパレータの総厚みは22μmで、多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は97体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は44%であった。
【0164】
(実施例9)
多孔質層(II)の板状ベーマイト粉末を、粒状のアルミナ(平均粒径0.4μm)に代えた以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。このリチウム二次電池に用いたセパレータの総厚みは20μmで、セパレータの多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は96体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は55%であった。
【0165】
(実施例10)
多孔質層(I)を構成する微多孔フィルムを、PP/PE/PPの三層構造の微多孔フィルム(厚み16μm、空孔率43%、平均孔径0.008μm、PEの融点135℃、PEの体積含有率33体積%)に代えた以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。このリチウム二次電池に用いたセパレータの総厚みは22μmで、セパレータの多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は97体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は48%であった。
【0166】
(実施例11)
製造例4で作製した正極の表面に、実施例7で調製したものと同じ多孔質層(II)形成用のスラリーを、マイクログラビアコーターを用いて塗布し、乾燥して、正極の両面に多孔質層(II)を形成した。多孔質層(II)の厚みは片面あたり5μmで、多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は97体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は48%であった。
【0167】
前記多孔質層(II)が表面に形成された正極と、実施例7で用いたのと同じPE製微多孔フィルムと、製造例3で作製した負極とを重ね合わせて巻回した以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。本実施例の電池では、多孔質層(I)は負極合剤層と接している。また、多孔質層(I)を構成するPE製微多孔フィルムと多孔質層(II)とは一体化されておらず、電池内で重ねられた状態で1つのセパレータとして機能する。
【0168】
(実施例12)
PET製不織布(厚み12μm、目付け重量8g/m2)を基材とし、実施例7で調製したものと同じ多孔質層(II)形成用スラリーの中に前記PET製不織布を通して引き上げ塗布を行い、乾燥することで、厚みが20μmの多孔質層(II)を作製した。多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は97体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は33%であった。
【0169】
製造例4で作製した正極と、前記多孔質層(II)と、実施例7で用いたものと同じPE製微多孔フィルムと、製造例3で作製した負極とを重ね合わせて巻回した以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。本実施例の電池では、多孔質層(I)は負極合剤層と接している。また、多孔質層(I)を構成するPE製微多孔フィルムと多孔質層(II)とは一体化されておらず、電池内で重ねられた状態で1つのセパレータとして機能する。
【0170】
(実施例13)
実施例12と同様にして、多孔質層(II)形成用スラリーにPET製不織布を通して引き上げ塗布を行い、スラリーが完全に乾燥する前に、実施例12で使用したものと同じPE製微多孔フィルムを重ね合わせて乾燥することにより、多孔質層(I)と多孔質層(II)とが一体化されたセパレータを作製した。このセパレータの総厚みは33μmで、多孔質層(II)における前記フィラーの体積含有率は97体積%であり、多孔質層(II)の空孔率は33%であった。このセパレータを用いた以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0171】
(比較例6)
電極体の作製の際に、セパレータの多孔質層(I)を正極側に配置した以外は、実施例7と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0172】
実施例7〜13および比較例6のリチウム二次電池の作製に使用したセパレータについて、150℃の恒温槽内に3時間放置して熱収縮率を測定した。
【0173】
熱収縮率の測定は、次のようにして行った。4cm×4cmに切り出したセパレータの試験片を、クリップで固定した2枚の厚さ5mmのガラス板で挟みこみ、150℃の恒温槽内に3時間放置した後に取り出し、各試験片の長さを測定し、試験前の長さと比較して長さの減少割合を熱収縮率とした。また、実施例11のセパレータについては、正極と多孔質層(II)が一体化したものを用いて測定し、セパレータの熱収縮率とした。更に、実施例12のセパレータについては、より熱収縮の少ない多孔質層(II)の熱収縮率をセパレータの熱収縮率とした。各セパレータの熱収縮率の測定結果を表4に示す。
【0174】
【表4】

【0175】
表4に示す通り、実施例7〜13および比較例6のリチウム二次電池に使用したセパレータの150℃での熱収縮率は、いずれも1%以下であった。
【0176】
次に、実施例7〜13および比較例6の各リチウム二次電池について、以下の条件で充電を行い、充電容量および放電容量をそれぞれ求め、充電容量に対する放電容量の割合を充電効率として評価した。充電は、0.2Cの電流値で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、次いで、4.2Vでの定電圧充電を行う定電流−定電圧充電とした。充電終了までの総充電時間は15時間とした。
【0177】
充電後の電池を、0.2Cの放電電流で、電池電圧が3.0Vになるまで放電を行ったところ、実施例7〜13の電池、比較例6の電池ともに、充電効率がほぼ100%となり、充電時のリチウムデンドライトの生成が抑制され、電池として良好に作動することが確認できた。
【0178】
また、実施例7〜13および比較例6の各リチウム二次電池について、下記のシャットダウン温度測定、高温貯蔵試験および外部短絡試験を行った。その結果を表5に示す。
【0179】
<シャットダウン温度測定>
放電状態の各電池を恒温槽に入れ、30℃から150℃まで毎分5℃の割合で温度上昇させて加熱し、電池の内部抵抗の温度変化を求めた。そして、抵抗値が30℃での値の5倍以上に上昇したときの温度を、シャットダウン温度とした。
【0180】
<高温貯蔵試験>
前記のシャットダウン温度を測定したものとは別の電池について、以下の条件で、定電流−定電圧充電を行った。定電流充電は、0.2Cの電流値で電池電圧が4.25Vになるまで行い、定電圧充電は、4.25Vで行い、充電終了までの総充電時間を15時間とした。前記条件で充電した各電池を、30℃から150℃まで、毎分5℃の割合で昇温し、その後引き続き150℃で3時間放置し、電池の表面温度および電池電圧を測定し、異常の発生の有無を調べた。
【0181】
<外部短絡試験>
前記のシャットダウン温度測定および高温貯蔵試験を行ったものとは別の電池について、100mΩの抵抗を介して正負極を短絡させる外部短絡試験を行った。短絡後の電池表面の温度を測定し、最高到達温度を外部短絡試験での電池の温度として求めた。
【0182】
【表5】

【0183】
表5に示すように、実施例7〜13および比較例6のリチウム二次電池では、電池の高温での安全性を確保するのに適切な温度範囲でシャットダウンを生じた。また、実施例7〜13の電池では、150℃で3時間の高温貯蔵試験において、電池の表面温度の上昇あるいは電池の電圧の低下といった異常は見られなかった。
【0184】
これに対し、比較例6の電池では、高温貯蔵試験の開始から90分後に電池の表面温度の上昇が確認された。この電池の試験中の様子を詳細に観察すると、試験開始から約75分で、開裂ベントが開いて内圧が低下し、一旦電池表面の温度が低下するが、その後電池温度が上昇することがわかった。比較例6の電池では、セパレータの多孔質層(I)が正極側に配置されているため、樹脂(A)が負極合剤層の表面を覆うことができず、開裂ベントの作動後に電池内に流入する空気と、負極活物質(黒鉛)に吸蔵されたリチウムイオンとの反応を防止することができないため、電池温度が上昇したものと推察される。
【0185】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0186】
以上述べたように、本発明によれば、高温での安全性に優れた電気化学素子を提供することができる。また、本発明の電気化学素子の製造方法を用いることにより、電気化学素子の生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0187】
1 負極
2 正極
3 セパレータ
4 巻回軸
5 絶縁体
6 電極体
7 正極リード体
8 負極リード体
9 蓋板
10 絶縁パッキング
11 端子
12 絶縁体
13 リード板
14 非水電解液注入口
15 開裂ベント
20 外装缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を備える電気化学素子の製造方法であって、
前記セパレータは、熱可塑性樹脂を主体として含む第1多孔質層と、耐熱温度が150℃以上の絶縁性粒子を主体として含む第2多孔質層とを備え、
前記セパレータは、両面の摩擦係数が異なっており、
前記セパレータの摩擦係数の低い面側を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、
前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【請求項2】
正極、負極およびセパレータを含む渦巻状の電極体を備える電気化学素子の製造方法であって、
前記セパレータは、一方の側に、熱可塑性樹脂を主体として含む第1多孔質層を備え、もう一方の側に、耐熱温度が150℃以上の絶縁性セラミックス粒子を主体として含む第2多孔質層を備え、
前記第1多孔質層を巻回軸側に配置して、前記セパレータを前記巻回軸に巻き付ける工程と、
前記セパレータと共に前記正極および前記負極を巻回する工程とを含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1多孔質層と前記巻回軸との間の静止摩擦係数が、0.5以下である請求項1または2に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1多孔質層と前記巻回軸との間の静止摩擦係数が、0.05以上である請求項1または2に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項5】
前記セパレータの前記第1多孔質層の側に、前記負極を配置する請求項1または2に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項6】
前記セパレータの前記第2多孔質層の側に、前記正極を配置する請求項1または2に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項7】
前記巻回軸の材質が、ステンレス鋼、または、表面をセラミックスで被覆したステンレス鋼である請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項8】
前記セパレータの150℃での熱収縮率が、5%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁性粒子が無機粒子である請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1多孔質層は、ポリオレフィン製の微多孔フィルム、または、融点が80℃以上140℃以下の熱可塑性樹脂と、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂とを併用して構成された樹脂多孔質膜である請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1多孔質層の厚みをX(μm)と前記第2多孔質層の厚みをY(μm)としたとき、比率X/Yが、1/8以上10以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1多孔質層の厚みが、1μm以上30μm以下である請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2多孔質層の厚みが、1μm以上10μm以下である請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂は、分子量が2000〜100000のポリエチレンを含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。
【請求項15】
前記第2多孔質層における、前記絶縁性粒子の割合が70体積%以上である請求項1〜14のいずれか1項に記載の電気化学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−195296(P2012−195296A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114939(P2012−114939)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【分割の表示】特願2008−547199(P2008−547199)の分割
【原出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】