説明

電気式脱イオン水製造装置および脱イオン水製造方法

【課題】不純物の高い除去率と、原水水質の変動に影響されずに高い水質を得る(原水耐性)ことができる電気式脱イオン水製造装置(EDI)、および脱イオン水製造方法を目的とする。
【解決手段】本発明のEDIの脱塩室には、カチオン交換膜30とアニオン交換膜22との間に配置された中間イオン交換膜26によって、脱塩室の厚さ方向に区画された第一小脱塩室と第二小脱塩室が形成され、かつ前記第一小脱塩室と第二小脱塩室とには、脱塩室の厚さ方向と平行に、多段に区画された脱塩区が形成されていることよりなる。本発明の脱イオン水の製造方法は、前記EDIを用いた脱イオン水の製造方法であって、複数の脱塩区に被処理水を流通させることよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造分野、医薬品製造分野、原子力や火力等の発電分野、食品工業等の各種の産業、または研究施設で使用される、電気式脱イオン水製造装置および脱イオン水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脱イオン水を製造する方法として、イオン交換樹脂に被処理水を通して脱イオンを行う方法が知られている。しかし、この方法ではイオン交換樹脂がイオンで飽和されたときに、薬剤によって再生処理を行う必要がある。近年、このような処理操作上の不利な点を解消するため、薬剤によるイオン交換体再生の必要がない、電気式脱イオン水製造装置(以下、EDIという)が実用化されている。このEDIは、電気泳動と電気透析を組み合わせた純水製造装置である。アニオン交換膜とカチオン交換膜の間にイオン交換体を充填し、イオン交換膜の外側に陽極と陰極の電極を配置し、該電極に直流電圧を印加した状態でイオン交換体層に被処理水を通水することにより、被処理水中のイオンをイオン交換体で吸着し、電気泳動にて膜面までイオンを泳動させ、イオン交換膜にて電気透析して濃縮水中へと除去するものである。
従来の典型的なEDIは、アニオン交換膜とカチオン交換膜の間にイオン交換体を配置し形成した脱塩室を、イオンが排除される部屋となる濃縮室を介して複数積層し、その両端にプラスとマイナスの電極を配した構造である。
【0003】
これまでにも、EDIで得られる脱イオン水の水質向上や、省電力での不純物イオンの除去を目的として、種々の試みがなされてきた。脱塩室では、使用されるイオン交換体の充填方法や充填量が、要求される脱イオン水の水質によって決定されるため、脱塩室の電気抵抗を低減させるには限界がある。そこで、濃縮室の電気抵抗を低減させるための対策が採られることが多い。例えば、特許文献1では、濃縮室に電解質を添加供給して、濃縮室における電気抵抗を低減する方法が開示されている。
一方、特許文献2には、一側のカチオン交換膜、他側のアニオン交換膜及び当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜の間に位置する中間イオン交換膜で区画される2つの小脱塩室にイオン交換体を充填して脱塩室を構成した、脱塩室2セル構造のEDIが開示されている。該EDIは前記カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室を設け、これらの脱塩室および濃縮室を、陽極を備えた陽極室と、陰極を備えた陰極室との間に配置してなるものである。脱イオン水の製造は、電圧を印加しながら一方の小脱塩室(第一小脱塩室)に被処理水を流入させ、次いで、該小脱塩室の流出水を他方の小脱塩室(第二小脱塩室)に流入させると共に、濃縮室に濃縮水を流入させ被処理水中の不純物イオンを除去して、脱イオン水を得る。このような構造のEDIによれば、2つの小脱塩室のうち、少なくとも1つの小脱塩室に充填されるイオン交換体を例えばアニオン交換体のみ、またはカチオン交換体のみ等の単床形態、もしくはアニオン交換体とカチオン交換体の混床形態とすることができ、イオン交換体の種類毎に電気抵抗を低減し、かつ高い脱イオン性能を得るための最適な厚さに設定することができる。
【特許文献1】特開平9−24374号公報
【特許文献2】特許第3385553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでの技術では、脱塩室内または濃縮室内における電気抵抗を低減できるものの、不純物の除去やスケール発生防止は、未だ充分ではなかった。また、被処理水の原水水質の変動によって、得られる脱イオン水の水質が安定しないという問題があった。
本発明は、高い除去率で不純物を除去し、原水水質の変動に影響されずに高い水質を得る(原水耐性)ことができるEDI、および脱イオン水製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、従来のEDIにおけるイオン除去能力の低下、ならびにスケールの生成について鋭意検討した結果、次のような知見を得た。
従来の脱塩室2セル構造では、イオン交換体や中間イオン交換膜の配置によっては、第一小脱塩室と第二小脱塩室との間を、中間イオン交換膜を介して、シリカや炭酸、ナトリウム等のイオンが循環してしまい、濃縮室まで排出されにくいという問題があった。例えば、シリカが循環した場合には、被処理水から持ち込まれるシリカの量と、隣りの脱塩室から持ち込まれるシリカの量が合算され、実際には被処理水から持ち込まれるシリカよりも、多くのシリカ量を処理することとなる。その結果、シリカを除去しきれずに、脱イオン水に漏洩したり、電気抵抗を極端に上昇させるといった問題に繋がっている。
【0006】
また、第一小脱塩室にカチオン交換体、第二小脱塩室にアニオン交換体を充填したような構造の場合、第一小脱塩室においてカチオン成分が除去されるに従い、被処理水のpHが酸性側に傾き、H濃度が高くなる。このため、NaやCaといった、除去対象のカチオン成分への電流効率が低下し、カチオン成分を一定濃度以下には低減できなくなる。そして、第二小脱塩室にはカチオン交換体が充填されていないため、そのまま脱イオン水にまで漏洩してしまうという問題があった。さらに、第二小脱塩室を構成するアニオン交換膜のカチオン成分除去能が100%ではないため、一旦濃縮室に移動したカチオン成分は、極微量ではあるものの、アニオン交換膜を介して第二小脱塩室に逆移動してしまう。そして、第二小脱塩室にカチオン交換体が充填されていないために、結果として脱イオン水に、カチオン成分が漏洩するという現象がある。
【0007】
また、第一小脱塩室にアニオン交換体、第二小脱塩室にカチオン交換体を充填したような構造の場合、第一小脱塩室においてアニオン成分が除去されるに従い、被処理水のpHがアルカリ側に傾き、OH濃度が高くなる。このため、Clや炭酸、シリカといった、除去対象のアニオン成分への電流効率が低下し、アニオン成分を一定濃度以下には低減できなくなる。そして、第二小脱塩室にはアニオン交換体が充填されていないため、そのまま脱イオン水にまで漏洩してしまうという問題があった。さらに、第二小脱塩室を構成するカチオン交換膜のアニオン成分除去能が100%ではないため、一旦濃縮室に移動したアニオン成分は、極微量ではあるものの、カチオン交換膜を介して、第二小脱塩室に逆移動してしまう。そして、第二小脱塩室にアニオン交換体が充填されていないために、結果として脱イオン水に、アニオン成分が漏洩するという現象がある。
【0008】
また、脱塩室を中間イオン交換膜で分割していない1セル構造のEDIにおいて、脱塩室に複数種のイオン交換体を積層して充填した場合、次のような問題があった。積層されたカチオン交換体の単床形態、アニオン交換体の単床形態、カチオン交換体とアニオン交換体の混床形態では、それぞれ電気抵抗が大きく異なる。このため、より電気抵抗の低い樹脂層にしか電気が流れず、電気抵抗の高い樹脂層でのイオン除去率が極端に低下するという現象がある。
加えて、アニオン交換膜とカチオン交換体との接点で発生したHは、カチオン交換体の再生に寄与するが、OHは濃縮室に移動してしまい、何の機能も果たさないという問題がある。この現象について、図4を用いて説明する。図4は、1セル構造のEDIの脱イオンモジュール220の模式図である。図4の通り、脱イオンモジュール220は、カチオン交換膜222とアニオン交換膜230との間に脱塩室224が形成され、脱塩室224の両側に濃縮室234が形成されて、図示されない陰極室と陽極室との間に配置されている。脱塩室224には、アニオン交換体が充填された脱塩層224aと、カチオン交換体が充填された脱塩層224bとが形成されている。被処理水を脱塩室224に通水すると、アニオン交換膜230と、脱塩層224bのカチオン交換体との界面では、脱塩室224側にH、濃縮室234側にOHが発生する。脱塩室224側に発生したHは、脱塩層224bのカチオン交換体の再生に寄与するが、濃縮室234側で発生したOHは、脱塩室224中のいずれのイオン交換体の再生にも寄与しない。同様に、カチオン交換膜222と脱塩層224aに充填したアニオン交換体との界面で発生したOHは、脱塩層224aのアニオン交換体の再生に寄与するが、濃縮室234側で発生したHは、脱塩室224中のいずれのイオン交換体の再生にも寄与しない。
本発明は、以上の知見を基になされたものである。
【0009】
すなわち、本発明のEDIは、一側のカチオン交換膜と、他側のアニオン交換膜とで区画される空間にイオン交換体が充填されて脱塩室が設けられ、前記カチオン交換膜および前記アニオン交換膜を介して、前記脱塩室の両側に濃縮室が設けられ、前記脱塩室と前記濃縮室とが、陽極電極を備えた陽極室と陰極電極を備えた陰極室との間に配置された電気式脱イオン水製造装置であって、前記脱塩室には、前記カチオン交換膜と前記アニオン交換膜との間に配置された中間イオン交換膜によって、脱塩室の厚さ方向に区画された第一小脱塩室と第二小脱塩室が形成され、かつ前記第一小脱塩室と第二小脱塩室とには、脱塩室の厚さ方向と平行に、多段に区画された脱塩区が形成されていることを特徴とする。前記中間イオン交換膜は、カチオン交換膜あるいはアニオン交換膜の単一膜、またはカチオン交換膜およびアニオン交換膜の両方を配置した複式膜であっても良い。
本発明のEDIは、前記第一小脱塩室には、カチオン交換体が単床形態で充填され、第二小脱塩室には、アニオン交換体が単床形態で充填されていても良く、前記第一小脱塩室の厚さは、前記第二小脱塩室の厚さよりも薄くしても良く、前記第一小脱塩室の厚さは4〜16mmであって、かつ前記第二小脱塩室の厚さは8〜22mmであることが好ましい。
前記第一小脱塩室は、脱塩室の厚さ方向と平行に二分されて、第一小脱塩室第一脱塩区と第一小脱塩室第二脱塩区とが形成され、前記第二小脱塩室は、脱塩室の厚さ方向と平行に二分されて、第二小脱塩室第一脱塩区と第二小脱塩室第二脱塩区とが形成され、被処理水が、第一小脱塩室第一脱塩区、第二小脱塩室第一脱塩区、第一小脱塩室第二脱塩区、第二小脱塩室第二脱塩区の順に、流れるように制御されていることが好ましく、前記濃縮室には、アニオン交換体が単床形態で充填されていることが好ましく、前記陰極室および前記陽極室には、イオン交換体が、アニオン交換体もしくはカチオン交換体の単床形態、あるいはアニオン交換体およびカチオン交換体の混床形態で充填され、または陰極もしくは陽極と、仕切り膜との間に、アニオン交換体層とカチオン交換体層とからなる積層体が配列されていることが好ましく、前記陰極電極および/または前記陽極電極は、対応する脱塩区毎に分割され、各電極に印加する電流が別々に制御されていても良い。
【0010】
本発明の脱イオン水の製造方法は、前記EDIを用いた脱イオン水の製造方法であって、複数の脱塩区に被処理水を流通させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のEDIおよび脱イオン水製造方法によれば、スケール発生を防止しながら、高い除去率で不純物を除去し、かつ原水水質の変動に影響されずに高い水質を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のEDIについて、例を挙げて説明するが、本実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態の一例について、図1、図2を用いて説明する。図1は本実施形態のEDI10の模式図である。図2は本実施形態のEDI10の脱イオンモジュール20の斜視図である。なお、説明の便宜上、脱イオンモジュール20の各構成部材は一定間隔を開けて図示している。実際の脱イオンモジュール20では、各構成部材が密着している。
図1に示すとおり、本実施形態のEDI10は、陰極室12と陽極室16との間に、複数の脱イオンモジュール20が、濃縮室34を介して隣接するように配置されている。陰極室12は、陰極電極14と仕切り膜32とに挟持されたスペーサ13により、形成されている。陽極室16は、陽極電極18と仕切り膜32とに挟持されたスペーサ17により、形成されている。陰極電極14と、陽極電極18とは、それぞれ図示されない電源と接続されている。また、陰極室12には電極水流入ラインB1と、電極水流出ラインB2とが接続され、陽極室16には、電極水流入ラインB3と電極水流出ラインB4とが接続され、電極水流出ラインB2と電極水流入ラインB3とは、図示されない配管により接続されている。濃縮室34は、脱イオンモジュール20が離間して配置されて形成された空間に、アニオン交換樹脂が充填されて形成されている。また、濃縮室34には、濃縮水流入ラインC1と、濃縮水流出ラインC2とが接続されている。
【0013】
脱イオンモジュール20は、カチオン交換膜22とアニオン交換膜30とが対向して配置されて形成された空間に、イオン交換体が充填されて脱塩室Dが形成されている。該脱塩室Dは、前記カチオン交換膜22と前記アニオン交換膜30との間に配置された中間イオン交換膜26によって、脱塩室Dの厚さ方向に二分され、カチオン交換膜22側に第一小脱塩室D1が形成され、アニオン交換膜30側に第二小脱塩室D2が形成されている。
脱イオンモジュール20について、図2を用いてさらに詳細に説明する。脱イオンモジュール20は、カチオン交換膜22、枠体24、中間イオン交換膜26、枠体28、アニオン交換膜30の順で配置されている。枠体24は、くりぬかれた内部空間を略二等分するリブ24aを有する。枠体28も同様に、くりぬかれた内部空間を略二等分するリブ28aを有する。枠体24の一側には、カチオン交換膜22が、枠体24およびリブ24aと密着するように配置され、枠体24の他側に中間イオン交換膜26が、枠体24およびリブ24aと密着するように配置されている。こうして、枠体24内部に形成された空間に、カチオン交換樹脂が充填されて、第一小脱塩室第一脱塩区D11と第一小脱塩室第二脱塩区D12とが、形成されている。また、枠体28の一側には中間イオン交換膜26が、枠体28およびリブ28aと密着するように配置され、枠体28の他側にアニオン交換膜30が、枠体28およびリブ28aと密着するように配置されている。こうして、枠体28内部に形成された空間に、アニオン樹脂が充填されて、第二小脱塩室第一脱塩区D21と第二小脱塩室第二脱塩区D22とが、形成されている。
また、脱イオンモジュール20は、被処理水流入ラインA1と、脱イオン水流出ラインA2が接続されている。そして、カチオン交換膜22、枠体24、中間イオン交換膜26、枠体28、アニオン交換膜30には、被処理水が流通する連通孔21a〜21d、23a〜23f、25a〜25d、27a〜27f、29a〜29dが、それぞれ設けられている。加えて、枠体24、28には、連通孔23a、23b、23d、23e、27b、27c、27e、27fと、脱塩区とを連通する、被処理水の流路が設けられている。
【0014】
イオン交換膜としては大別すると、原料モノマー液を補強体に含浸させた後に重合させ、全体を均質に形成した均質膜と、イオン交換樹脂を溶解成型可能なポリオレフィン系樹脂と共に粉砕成型した不均質膜の2種類がある。本実施形態におけるカチオン交換膜22、アニオン交換膜30はいずれも特に限定されず、EDIの製造の簡便さや、被処理水の水質、脱イオン水に求める水質、処理量等に応じて選択することができる。
【0015】
本実施形態における中間イオン交換膜は、アニオン交換膜である。中間イオン交換膜26は特に限定されることなく、アニオン交換膜30と同様のものを用いることができる。
【0016】
第一小脱塩室D1に充填されるカチオン交換樹脂は、特に限定されることはなく、被処理水の水質や処理量、脱イオン水の水質等に合わせて選択することができ、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂を挙げることができる。例えば、市販品としてローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名)を挙げることができる。
第二小脱塩室D2に充填されるアニオン交換樹脂は、特に限定されることはなく、被処理水の水質や処理量、脱イオン水の水質等に合わせて選択することができ、最強塩基性アニオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂が挙げられる。例えば、市販品としてローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名)を挙げることができる。
濃縮室34に充填されるアニオン交換樹脂は特に限定されることはなく、被処理水や脱イオン水の水質等に合わせて選択することができ、第二小脱塩室D2に充填されるアニオン交換樹脂と同様のものを用いることができる。
【0017】
枠体24、28は、絶縁性を有し、被処理水が漏洩しない素材であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、ノリル等の樹脂製の枠体を挙げることができる。
枠体24、26の厚さは特に限定されることなく、所望する第一小脱塩室D1と第二小脱塩室D2との厚さに応じて設定することができる。
リブ24aは、第一小脱塩室第一脱塩区D11と、第一小脱塩室第二脱塩区D12とを仕切り、両脱塩区間における被処理水の往来を防ぎ、かつ絶縁性を有する材質であれば特に限定されることはなく、枠体24、28と同様の材質を使用することができる。リブ28aは、リブ24aと同様のものを用いることができる。
また、各脱塩区の面積が大きい場合には、枠体24、28のくりぬかれた空間に支持体を設けても良い。支持体を設けることで、カチオン交換膜22、中間イオン交換膜26、アニオン交換膜30が湾曲して、各脱塩区内のイオン交換樹脂の充填量が不均一になることを防止できるためである。前記支持体は、絶縁性を有し、被処理水の流通を妨げない素材であれば特に限定されず、例えば、スリットが設けられた、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、ノリル等の樹脂製の支持体を挙げることができる。
【0018】
脱塩室Dの厚さは特に限定されず、第一小脱塩室D1、または第二小脱塩室D2に充填されるイオン交換体の種類と充填形態とによって、最適な厚さを決定することが好ましい。本実施形態のEDI10では、従来のEDIと比較して、脱塩室Dを厚く設定することができる。第一小脱塩室D1および第二小脱塩室D2を、カチオン交換体の単床形態、アニオン交換体の単床形態としているため、脱塩室D内での電気抵抗が低く抑えられる。このため、脱塩室Dの厚さを厚くすれば、電気抵抗の増大を抑えたまま、被処理水中のイオン成分に対する電流効率を向上できるためである。
上記のような観点より、例えば、脱塩室Dの厚さは、12〜36mmの範囲で決定されることが好ましく、16〜28mmの範囲で適宜決定されることが好適である。
【0019】
第一小脱塩室D1と第二小脱塩室D2との厚さは、被処理水や脱イオン水の水質等を勘案して決定することができ、両者は同一の厚さでも良く、異なっていても良い。第一小脱塩室D1と第二小脱塩室D2との厚さを異なるものとする場合には、アニオン交換樹脂を充填した第二小脱塩室D2を厚くすることが好ましい。被処理水となる通常の原水には、カチオン成分よりもアニオン成分の方が多く含有されており、被処理水中のアニオン成分を効率的に除去することが、高い水質の脱イオン水を得、濃縮室34内でのスケール発生防止に効果的なためである。
第一小脱塩室D1の厚さは特に限定されないが、4〜16mmの範囲で設定されることが好ましい。4mm未満であると、滞留時間を充分に確保できず、水質が悪化する傾向となる。また、16mmを超えると、電気抵抗の増大が顕著となり、電流効率の向上効果が小さくなるばかりでなく、脱イオンモジュールの成型が困難になるためである。
また、第二小脱塩室D2の厚さは特に限定されないが、8〜22mmの範囲で設定されることが好ましい。8mm未満であると、滞留時間を充分に確保できず、水質が悪化する傾向となる。また、22mmを超えると、電気抵抗の増大が顕著となり、電流効率の向上効果が小さくなるばかりでなく、脱イオンモジュールの成型が困難になるためである。
【0020】
陰極電極14は、陰極としての機能を発揮するものであれば特に限定されず、例えば、板状のステンレスや網状のステンレスを挙げることができる。陽極電極18は、陽極として機能を発揮するものであれば特に限定されないが、陽極には塩素発生が起きるため、耐塩素性能を有するものが好ましい。例えば、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属、あるいは前記貴金属をチタン等に被覆した網状あるいは板状の電極を挙げることができる。
また、陰極電極14と陽極電極18とは、それぞれ1枚ずつ設置されていても良いし、各脱塩区の大きさに合わせて、二対以上に分割されていても良い。
【0021】
スペーサ13は、電極水を流通させ、かつ所望する幅の陰極室12を形成することができれば特に限定されることはなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、ノリル等の樹脂製のメッシュや、通水性を有する格子状の枠材等が挙げられる。
また、スペーサ13の厚さは特に限定されることはないが、所望する陰極室12のスペースに合わせて選択することができる。例えば、0.3〜4mmの範囲で選択することが好ましい。スペーサ17は、スペーサ13と同様のものを使用することができる。
【0022】
仕切り膜32は、イオン交換膜であれば特に限定されず、被処理水の水質や、EDI10の運転条件等を考慮して、選択することができ、カチオン交換膜、アニオン交換膜のいずれを用いても良い。この内、酸化剤耐性の面で有利な、カチオン交換膜を選択することが好ましい。
【0023】
EDI10を用いた脱イオン水製造方法について、図1、2を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
電極水流入ラインB1から、電極水を陰極室12へ流入させると共に、陰極電極14、陽極電極18の間に直流電圧を印加する。次に、濃縮水流入ラインC1から、濃縮水を濃縮室34へ、上昇流で流入させる。次いで、被処理水流入ラインA1から、被処理水を脱イオンモジュール20へ流入させる。脱イオンモジュール20内に流入した被処理水は、脱塩室D内のイオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、そして、イオン成分が除去された脱イオン水は、脱イオン水流出ラインA2から流出する。
【0024】
脱イオンモジュール20内における被処理水の流通経路を、図2を用いて詳細に説明する。被処理水は、被処理水流入ラインA1から、カチオン交換膜22に設けられた連通孔21aを流通し、枠体24に設けられた連通孔23aに至り、第一小脱塩室第一脱塩区D11へ流入する。第一小脱塩室第一脱塩区D11に流入した被処理水は、カチオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、主にカチオン成分(Na、Ca2+、Mg2+等)がカチオン交換樹脂に吸着される。吸着されたカチオン成分は、陰極側に引き寄せられ、カチオン交換膜22を透過して、濃縮室34に移動する。ここで、被処理水中のカチオン成分の除去が進むと、被処理水中のpHが酸性側に移行して、カチオン成分の競合イオンであるH濃度が高くなる。その結果、カチオン成分に対する電流効率が低下し、カチオン成分は、一定濃度以下に到達し難くなる。そして、被処理水は、ある程度のカチオン成分が残存した状態で、第一小脱塩室第一脱塩区D11を流通して、連通孔23bに至る。被処理水は、連通孔23bから、中間イオン交換膜26に設けられた連通孔25a、枠体28に設けられた連通孔27a、アニオン交換膜30に設けられた連通孔29aを流通し、図示されない配管により連通孔29bに至る。
次いで、被処理水は、連通孔29bから連通孔27bに至り、第二小脱塩室第一脱塩区D21へ流入する。流入した被処理水は、アニオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、主にアニオン成分(Cl、HCO、CO2−、SiO(シリカは、特別な形態をとることが多いため、一般のイオンとは異なった表示とする。以降において同じ。)等)がアニオン交換樹脂に吸着される。吸着されたアニオン成分は、陽極側に引き寄せられ、アニオン交換膜30を透過して、濃縮室34へ移動する。この際、被処理水は、pHが酸性側に移行した状態で第二小脱塩室第一脱塩区D21に流入するため、アニオン成分の競合イオンであるOH濃度が低い。このため、アニオン成分の除去は、非常に良好に行われる。第二小脱塩室第一脱塩区D21を流通した被処理水は、連通孔27cから、連通孔25b、23c、21bを流通し、図示されない配管により連通孔21cに至る。なお、第二小脱塩室第二脱塩区D21を流通した段階で、被処理水のpHは、中性領域となっている。
【0025】
続いて、被処理水は、連通孔21cから連通孔23dに至り、第一小脱塩室第二脱塩区D12へ流入する。第一小脱塩室第二脱塩区D12に流入した被処理水は、カチオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、主にカチオン成分が、再度除去される。ここで、被処理水中のカチオン成分除去が進んでも、Hの濃度は、第一小脱塩室第一脱塩区D11よりも低くなる。このため、電流効率が高くなり、被処理水中のカチオン成分の除去が良好に行われる。そして、第一小脱塩室第二脱塩区D12を流通した被処理水は、連通孔23eから連通孔25c、27d、29cを流通し、図示されない配管によって、連通孔29dに至る。この段階で、被処理水中に含まれていたイオン成分は、概ね除去される。しかし、第二小脱塩室第一脱塩区D21で除去されたアニオン成分の中でも、炭酸イオンは、濃縮室34内でガス化して、カチオン交換膜22を透過し、第一小脱塩室D1に逆移動してくることがある。このため、再度アニオン成分の除去を、第二小脱塩室第二脱塩区D22にて行う。
被処理水は、連通孔29dから連通孔27eに至り、第二小脱塩室第二脱塩区D22へ流入する。第二小脱塩室第二脱塩区D22へ流入した被処理水は、アニオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、主にアニオン成分が、再度除去されて、連通孔27fに至る。こうして、被処理水は、カチオン成分とアニオン成分とが除去され、連通孔27fから連通孔25d、23f、21dを流通し、脱イオン水流出ラインA2より脱イオン水となって流出する。
【0026】
一方、濃縮水流入ラインC1から、それぞれの濃縮室34に流入した濃縮水は、濃縮室34内に充填されたイオン交換体内を拡散しながら上昇流で流通し、各脱塩区から移動されたイオン成分を取り込んで、濃縮水流出ラインC2から排出される。
【0027】
電極水流入ラインB1から、陰極室12に流入した電極水は、陰極室12内を上昇流で流通し、電極水流出ラインB2へ流れる。そして、電極水流出ラインB2に流された電極水は、図示されない配管を経由して、電極水流入ラインB3から陽極室16に流入し、陽極室16内を上昇流で流通した後、電極水流出ラインB4から排出される。この間、電極水は、陰極電極14から発生したH等と、陽極電極18から発生するCl、O等とを取り込んで、EDI10外へ排出する。
【0028】
被処理水は特に限定されることはないが、工業用水や井水の濁質成分を除濁膜にて除去した水を、逆浸透(RO)膜にて処理した水等が挙げられる。
被処理水の脱塩室D内における通液量は特に限定されることはなく、EDI10の能力や被処理水の水質を勘案して決定することができる。通液量は空間速度(SV)で表され、SVの単位は、イオン交換樹脂の単位体積(L−R)に対して1時間に流通させる流量(L)であるL/L−R・h−1で表される(以降において同じ)。本実施形態ではSV=30〜300L/L−R・h−1が好ましい。SVが高すぎると、イオン除去性能が低下したり、SVの増加と共に発生する通液速度(LV)の増加によって差圧が高くなり、脱イオンモジュール20の破損を招いたり、運転上の困難を起こしたりするので好ましくない。ここで、LVとは、単位面積当たりの流量で、m/hで表される線速度である。
一方、SVが低すぎると、各脱イオンモジュールへの流量分配が適切に行われず、脱塩処理が充分な脱イオンモジュールと、脱塩処理が不充分な脱イオンモジュールとが生じ、EDI10全体としての性能に悪影響を与える場合がある。
【0029】
濃縮室34内における、濃縮水の流量は特に限定されることはなく、EDI10の能力や、被処理水の水質や処理量を勘案して決定することができる。濃縮水は、濃縮室34に移動してきたイオンを濃縮水内に拡散して、EDI10外へ流出させるという目的を有する。このことから、濃縮水の流量は、被処理水の通液量や、被処理水のイオン濃度、脱イオン水の回収率との関係で決定することが好ましく、例えば、下記(1)式で表される濃縮倍率が3〜20となるように、濃縮水の流量を決定することが好ましい。なお、下記(1)式による濃縮倍率は、被処理水と濃縮水に同一の原水を用いて、かつ脱塩室D中のイオンが全て濃縮室34に移行すると仮定し定義付けられる。
【0030】
【数1】

【0031】
濃縮水の流量が少なすぎると、濃縮室34に移行したイオンの濃度拡散にむらが生じ、イオン交換膜面の濃度分極層が厚くなり、スケール生成のおそれがある。一方、濃縮水の流量が多すぎると、脱イオン水の回収率が低下するため好ましくないためである。
濃縮水は、特に限定されることはなく、被処理水と同じ水源の水を濃縮水として使用しても良いし、脱イオン水や純水等を使用しても良い。
【0032】
印加する電流は特に限定されることはなく、被処理水の水質や、EDI10の規模等を勘案して決定することが好ましい。加えて、陰極電極14と、陽極電極18とが、各脱塩区に応じて2以上に分割されている場合には、分割された電極対毎に、異なる電流値で印加されても良い。被処理水の水質等に応じて、最適な電流値を選択することで、水質の向上が図れるためである。
電極水の流量は特に限定されず、印加電圧等に応じて決定することが好ましい。例えば、5〜200L/h、好適には30〜100L/hの範囲で設定することが好ましい。電極水の流量が少なすぎると、発生したH、O、Clガスを充分に排出することが困難となり、電極水の流量が多すぎると、回収率が低下するため、好ましくない。
【0033】
本実施形態のEDI10によれば、第一小脱塩室D1と第二小脱塩室D2とを、更に二分して脱塩区を形成させることで、各脱塩区に異なる機能を持たせる事が可能となる。この結果、脱イオンモジュール20の数を増加させずに、4段処理が行えるため、高い水質を得ることができる。また、第一小脱塩室D1の両脱塩区のイオン交換樹脂が統一され、第二小脱塩室D2の両脱塩区のイオン交換樹脂が統一されていることで、電流の直交方向に対する片寄りを防止できる。
また、濃縮室34にはアニオン交換体が充填されていることで、濃縮室34のカチオン成分が、第二小脱塩室D2に逆移動することを抑制できる。一方で、濃縮室34のアニオン成分の、脱塩室Dへの逆移動は発生してしまうが、逆移動する場所が、第一小脱塩室第一脱塩区D11、または第一小脱塩室第二脱塩区D12である。従って、その後に被処理水が流通する、第二小脱塩室第一脱塩区D21、または第二小脱塩室第二脱塩区D22にて、アニオン成分を充分に除去することができるため、水質の向上を図ることができる。
中間イオン交換膜26にアニオン交換膜を用いることで、第一小脱塩室D1内のカチオン交換樹脂と中間イオン交換膜26のアニオン交換膜の接点で発生したOHとHは、それぞれ第一小脱塩室D1および第二小脱塩室D2の再生に寄与できるので、電流効率の面で無駄が少ない。この点について、図3の脱イオンモジュール20の模式図を用いて説明する。図3に示すとおり、被処理水を脱塩室Dに通水すると、中間イオン交換膜26と第一小脱塩室D1のカチオン交換樹脂との界面では、第一小脱塩室D1側にH、第二小脱塩室側D2にOHが発生する。第一小脱塩室D1側に発生したHは、第一脱塩室D1のカチオン交換樹脂の再生に寄与し、第二脱塩室D2側に発生したOHは、第二脱塩室D2のアニオン交換樹脂の再生に寄与する。そして、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の再生に当たっての余剰のH、OHが、対極側の濃縮室34へ移動することとなる。このようにして、電流効率の面でも無駄を少なくできるため、水質の向上を図ることができる。
【0034】
濃縮室34では、脱塩室Dから移動して来たMg2+、Ca2+等の硬度成分が、アニオン交換膜30近傍のpHが高い部分に滞留し、隣接する脱イオンモジュール20の脱塩室Dから移動してきた炭酸イオンと反応してスケール発生をおこす場合がある。しかし、本実施形態では、濃縮室34に、アニオン交換樹脂が充填されているため、Mg2+、Ca2+等の硬度成分は濃縮水中を移動する一方、炭酸イオン等のアニオン成分は、アニオン交換樹脂層中を移動する。このため、濃縮室34内において、硬度成分と炭酸イオンが、高濃度に接触する箇所がなく、スケール発生の防止効果が高い。
また、カチオン交換樹脂が充填された第一小脱塩室D1、アニオン交換樹脂が充填された第二小脱塩室D2の厚さを適正に設定することで、低い電気抵抗、高い電流効率、低い圧力損失を実現できる。そして、上述のとおり、被処理水中のイオン成分の循環を防止でき、原水耐性の向上を図ることができる。
さらに、本実施形態においては、1つの脱イオンモジュール20内で、4段処理を行うことができるため、複数の脱イオンモジュール20を多段で用いるよりも、格段のコストダウンを実現できる。
【0035】
本発明のEDIならびに脱イオン水製造方法は、上述の実施形態に限定されるものではない。
上述の実施形態では、脱塩室Dにイオン交換樹脂を充填しているが、各小脱塩室に充填するイオン交換体は特に限定されず、イオン交換機能を有するものであれば良い。イオン交換樹脂の他、例えばイオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等を挙げることができる。この内、最も汎用的であり、イオン交換膜にしわ等が生じても、膜とイオン交換体との隙間が生じにくいイオン交換樹脂が好ましい。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
また、上述の実施形態では、第一小脱塩室D1にはカチオン交換樹脂の単床形態にて充填し、第二小脱塩室D2にはアニオン交換樹脂の単床形態にて充填しているが、充填されるイオン交換体の充填形態は、特に限定されない。従って、イオン交換体の充填形態は、アニオン交換体単床、カチオン交換体単床、またはアニオン交換体とカチオン交換体との混床、およびこれらを組み合わせたもののいずれも用いることができる。さらに、小脱塩室に設けられた脱塩区毎に、異なる形態のイオン交換体を充填しても良い。ただし、電流密度分布のむらを抑え、高い水質を得る観点からは、小脱塩室毎のイオン交換体の充填形態は統一されていることが好ましい。
【0036】
上述の実施形態では、中間イオン交換膜26にアニオン交換膜を使用しているが、中間イオン交換膜は、カチオン交換膜、あるいはアニオン交換膜とカチオン交換膜の両方を配置した複式膜であっても良い。複式膜とは、イオン交換膜が厚さ方向と平行に分割されて、分割された領域の極性が異なるものをいう。例えば、イオン交換膜を二分し、装置上部側にはアニオン膜を配し、装置下部側にはカチオン膜を配したものが挙げられる。複式膜における、アニオン交換膜とカチオン交換膜との面積比率は、被処理水の水質や処理目的等によって、適宜決定することができる。なお、中間イオン交換膜の種類は、被処理水の水質や、脱イオン水に求める水質に応じて選択することが好ましい。
【0037】
上述の実施形態では、濃縮室34にはアニオン交換樹脂が充填されているが、これに限られることはない。例えば、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が充填されていても良いし、カチオン交換体の単床形態、カチオン交換体・アニオン交換体の混床形態で充填されていても良い。さらに、イオン交換体を充填せずに、スペーサを配置しても良い。ただし、濃縮室でのスケール生成抑制の観点からは、イオン交換体を充填することが好ましく、特にアニオン交換体を充填することが、スケール生成抑制に効果的である。
【0038】
上述の実施形態では、陰極室12および陽極室16には、スペーサを配置しているが、イオン交換体を充填しても良い。充填されるイオン交換体は特に限定されず、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、モノリス状多孔質イオン交換体等が挙げられる。また、カチオン交換体あるいはアニオン交換体を単床形態、またはカチオン交換体・アニオン交換体の混床形態で充填されていても良い。さらには、陰極14もしくは陽極18と、仕切り膜32との間に、アニオン交換体層とカチオン交換体層とからなる積層体が配列されていても良い。イオン交換体を陰極室12および陽極室16に充填することで、電気抵抗を低減することができるためである。
【0039】
上述の実施形態では、被処理水を、第一小脱塩室第一脱塩区D11(カチオン交換樹脂)、第二小脱塩室第一脱塩区D21(アニオン交換樹脂)、第一小脱塩室第二脱塩区D12(カチオン交換樹脂)、第二小脱塩室第二脱塩区D22(アニオン交換樹脂)の順で流通させているが、流通経路はこれに限定されるものではない。例えば、第二小脱塩室第一脱塩区D21(アニオン交換樹脂)、第一小脱塩室第一脱塩区D11(カチオン交換樹脂)、第二小脱塩室第二脱塩区D22(アニオン交換樹脂)、第一小脱塩室第二脱塩区D12(カチオン交換樹脂)の順に、被処理水を流通させても良い。ただし、高い水質を得る観点からは、上述の実施形態のように、被処理水を流通させることが好ましい。
また、各脱塩区における被処理水の流通方向は、上昇流であっても下降流であっても良い。
【0040】
上述の実施形態では、濃縮水を上昇流にて流通させているが、濃縮水の流通方向は特に制限されず、下降流であっても良い。また、被処理水の流通方向との関係においても、特に限定されることはなく、被処理水の流通方向と同じであっても良いし、対向する方向であっても良く、直交する方向であっても良い。
【0041】
上述の実施形態では、電極水を上昇流としているが、下降流としても良い。また、電極水は、陰極室12を流通させた後に、陽極室16に流通させることに限られず、陽極室16から陰極室12へ流通させても良いし、電極水流出ラインB2から電極水を排出し、電極水流入ラインB3には、別の水源から電極水を供給しても良い。
【0042】
上述の実施形態では、各小脱塩室を略二等分して、脱塩区を形成させているが、各脱塩区の大きさは同じであっても、異なっても良く、目的に応じて設定することができる。
また、上述の実施形態では、各小脱塩室を二分して脱塩区を形成しているが、各小脱塩室に形成される脱塩区は3以上であっても良い。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
<導電率・比抵抗>
水質評価には導電率ならびに比抵抗を用いた。不純物を全く含んでいない水の場合、25℃の水における導電率の理論値は0.055μS/cm、比抵抗の理論値は18.2MΩ・cmとなる。脱イオン水の水質は、比抵抗が18.2MΩ・cmに近づき、かつ高ければ高いほど水質としては清浄であると評価できる。脱イオン水の水質評価は、比抵抗をもって行った。
導電率は、導電率計(873CC、FOXBORO社製)を用いて測定した。また、比抵抗は、比抵抗計(873RS、FOXBORO社製)を用いて測定した。
【0044】
<シリカ濃度>
EDIの処理性能の一指標となる、シリカ濃度を測定することにより、水質評価を行った。シリカ濃度は、分光光度計(U−3010、株式会社日立ハイテクノロジー製)を用い、モリブデン青吸光光度法により測定した。
【0045】
(実施例1)
下記仕様にて、図1に示すEDI10と同様のEDI−1を製造した。なお、EDI−1には3個の脱イオンモジュールを配置し、各脱イオンモジュールは、図2に示す脱イオンモジュール20と同様のものを用いた。
得られたEDI−1を用いて、下記運転条件下にて、脱イオン水の製造を2000時間行った。2000時間連続運転後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度、EDI−1の平均印加電圧を測定し、その結果を表1に示す。なお、被処理水の硬度は原子吸光分光光度計(SpectrAA、VARIAN社製)での測定値であり、全炭酸濃度は湿式紫外線酸化TOC分析計(900型、SIEVERS社製)での測定値である。
<EDI−1仕様>
(1)カチオン交換膜:株式会社アストム製
(2)中間イオン交換膜:株式会社アストム製アニオン交換膜
(3)アニオン交換膜:株式会社アストム製
(4)第一脱小塩室厚さ:8mm
(5)第二脱小塩室厚さ:12mm
(6)脱塩区寸法:幅100mm×高さ140mm
(7)第一小脱塩室充填イオン交換体:カチオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(8)第二小脱塩室充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(9)濃縮室充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
【0046】
<運転条件>
(1)被処理水:工業用水を逆浸透膜装置で処理して得た水
(2)被処理水の導電率:6.2μS/cm
(3)被処理水の比抵抗:0.16MΩ・cm
(4)被処理水中のシリカ濃度:719μg/L
(5)被処理水中硬度:0.4mgCaCO/L
(6)被処理水中全炭酸濃度:7.2mgCO/L
(7)被処理水流量:0.3m/h
(8)濃縮水流量:0.1m/h
(9)電極水流量:10L/h
(10)運転電流値:2.4A
【0047】
(実施例2)
被処理水を変え、下記運転条件とした以外は、実施例1と同様にしてEDI−1にて脱イオン水の製造を行った。下記運転条件にて、2000時間連続運転後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度、EDI−1の平均印加電圧を測定し、その結果を表1に示す。
<運転条件>
(1)被処理水:工業用水を逆浸透膜装置で処理して得た水
(2)被処理水の導電率:9.8μS/cm
(3)被処理水の比抵抗:0.10MΩ・cm
(4)被処理水中のシリカ濃度:1021μg/L
(5)被処理水中硬度:0.7mgCaCO/L
(6)被処理水中全炭酸濃度:12.1mgCO/L
(7)被処理水流量:0.3m/h
(8)濃縮水流量:0.1m/h
(9)電極水流量:10L/h
(10)運転電流値:2.4A
【0048】
(比較例1)
脱イオンモジュール20を、図5に示す脱イオンモジュール120とした他は、実施例1と同様にして、EDI−2を製造した。図5を用いて、脱イオンモジュール120と、EDI−2における被処理水の流通方法について、説明する。
図5に示すとおり、脱イオンモジュール120は、枠体124の一側にカチオン交換膜122が配置され、枠体124のくりぬかれた部分に、カチオン交換樹脂が充填されて第一小脱塩室D1’が形成され、枠体124の他側に、中間イオン交換膜126としてアニオン交換膜が配置されている。さらに、中間イオン交換膜126を挟み込むように枠体128が配置され、枠体128のくりぬかれた部分に、アニオン交換樹脂が充填されて、第二小脱塩室D2’が形成され、枠体128の他側にアニオン交換膜130が配置されている。
また、脱イオンモジュール120には、被処理水流入ラインA1’と脱イオン水流出ラインA2’とが、接続されている。そして、カチオン交換膜122、枠体124、中間イオン交換膜126、枠体128、アニオン交換膜130には、被処理水が流通する連通孔121a、121b、123a〜123c、125a、125b、127a〜127c、129a、129bが、設けられている。加えて、枠体124、128には、連通孔123a、123b、127b、127cと、脱塩区とを連通する、被処理水の流路が設けられている。
【0049】
被処理水は、被処理水流入ラインA1’から、連通孔121aを流通し、連通孔123aに至り、カチオン交換樹脂が充填された第一小脱塩室D1’へ流入する。第一小脱塩室D1’へ流入した被処理水は、カチオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、連通孔123bに至る。この間、主に、被処理水中のカチオン交換樹脂が除去される。次いで、被処理水は連通孔123bから、連通孔125a、127a、129aを流通した後、図示されない配管を経由して、連通孔129bに至る。そして、被処理水は、連通孔129bから、連通孔127bに至り、第二小脱塩室D2’内へ流入する。第二小脱塩室D2’に流入した被処理水は、アニオン交換樹脂内を拡散しながら流通し、連通孔127cに至る。この間、主に、被処理水中のアニオン成分が除去される。こうして、被処理水は、カチオン成分とアニオン成分が除去されて、連通孔127cから、連通孔125b、123c、121bを流通し、脱イオン水流出ラインA2’より、脱イオン水となって流出する。
【0050】
上記のEDI−2の仕様、および運転条件は以下のとおりである。下記運転条件にて、2000時間連続運転後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度、EDI−2の平均印加電圧を測定し、その結果を表1に示す。
<EDI−2仕様>
(1)カチオン交換膜:株式会社アストム製
(2)中間イオン交換膜:株式会社アストム製アニオン交換膜
(3)アニオン交換膜:株式会社アストム製
(4)第一脱小塩室厚さ:8mm
(5)第二脱小塩室厚さ:12mm
(6)小脱塩室寸法:幅200mm×高さ140mm
(7)第一小脱塩室充填イオン交換体:カチオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(8)第二小脱塩室充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
(9)濃縮室充填イオン交換体:アニオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製)単床形態
【0051】
<運転条件>
(1)被処理水:工業用水を逆浸透膜装置で処理して得た水
(2)被処理水の導電率:6.2μS/cm
(3)被処理水の比抵抗:0.16MΩ・cm
(4)被処理水中のシリカ濃度:719μg/L
(5)被処理水中硬度:0.4mgCaCO/L
(6)被処理水中全炭酸濃度:7.2mgCO/L
(7)被処理水流量:0.3m/h
(8)濃縮水流量:0.1m/h
(9)電極水流量:10L/h
(10)運転電流値:2.4A
【0052】
(比較例2)
被処理水を変え、下記運転条件とした以外は、比較例1と同様にしてEDI−2にて脱イオン水の製造を行った。下記運転条件にて、2000時間連続運転後に、得られた脱イオン水の比抵抗、シリカ濃度、EDI−2の平均印加電圧を測定し、その結果を表1に示す。
<運転条件>
(1)被処理水:工業用水を逆浸透膜装置で処理して得た水
(2)被処理水の導電率:9.8μS/cm
(3)被処理水の比抵抗:0.10MΩ・cm
(4)被処理水中のシリカ濃度:1021μg/L
(5)被処理水中硬度:0.7mgCaCO/L
(6)被処理水中全炭酸濃度:12.1mgCO/L
(7)被処理水流量:0.3m/h
(8)濃縮水流量:0.1m/h
(9)電極水流量:10L/h
(10)運転電流値:2.4A
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すとおり、実施例1と、比較例1とでは、印加電圧の差異は、殆ど見られなかった。しかし、実施例1では、比抵抗が16.1MΩ・cm、シリカ濃度1.2μg/Lという、極めて高い水質の脱イオン水が得られた。これに対し、比較例1では、比抵抗4.0MΩ・cm、シリカ濃度106μg/Lという低い水質の脱イオン水が得られた。このことから、小脱塩室に脱塩区を設けて多段処理をすることで、大幅な水質の向上が実現できることがわかった。脱イオン水製造開始から2000時間経過した時点で、EDI−1およびEDI−2を解体したところ、目視では濃縮室にスケールの生成は認められなかった。
また、実施例2では、実施例1よりもシリカ濃度、全炭酸濃度が高い被処理水を用いたが、比抵抗14.4MΩ・cmという高い水質を得ることができた。一方、実施例2と同じ被処理液を用いた比較例2では、脱イオン水の比抵抗は1.3MΩ・cm、シリカ濃度320μgLという、極めて低い水質であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態にかかるEDIの模式図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる脱イオンモジュールの斜視図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる脱イオンモジュールの模式図である。
【図4】1セル構造のEDIの脱イオンモジュールの模式図である。
【図5】比較例に用いた脱イオンモジュールの斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
10 電気式脱イオン水製造装置
12 陰極室
14 陰極電極
16 陽極室
18 陽極電極
22、122、222 カチオン交換膜
26、126 中間イオン交換膜
30、130、230 アニオン交換膜
34、134、234 濃縮室
D、224 脱塩室
D1、D1’ 第一小脱塩室
D2、D2’ 第二小脱塩室
D11 第一小脱塩室第一脱塩区
D12 第一小脱塩室第二脱塩区
D21 第二小脱塩室第一脱塩区
D22 第二小脱塩室第二脱塩区


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一側のカチオン交換膜と、他側のアニオン交換膜とで区画される空間にイオン交換体が充填されて脱塩室が設けられ、
前記カチオン交換膜および前記アニオン交換膜を介して、前記脱塩室の両側に濃縮室が設けられ、
前記脱塩室と前記濃縮室とが、陽極電極を備えた陽極室と陰極電極を備えた陰極室との間に配置された電気式脱イオン水製造装置であって、
前記脱塩室には、前記カチオン交換膜と前記アニオン交換膜との間に配置された中間イオン交換膜によって、脱塩室の厚さ方向に区画された第一小脱塩室と第二小脱塩室が形成され、
かつ前記第一小脱塩室と第二小脱塩室とには、脱塩室の厚さ方向と平行に、多段に区画された脱塩区が形成されていることを特徴とする、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記中間イオン交換膜は、カチオン交換膜あるいはアニオン交換膜の単一膜、またはカチオン交換膜およびアニオン交換膜の両方を配置した複式膜であることを特徴とする、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記第一小脱塩室には、カチオン交換体が単床形態で充填され、第二小脱塩室には、アニオン交換体が単床形態で充填されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記第一小脱塩室の厚さは、前記第二小脱塩室の厚さよりも薄いことを特徴とする、請求項3に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
前記第一小脱塩室の厚さは4〜16mmであって、かつ前記第二小脱塩室の厚さは8〜22mmであることを特徴とする、請求項3または4に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記第一小脱塩室は、脱塩室の厚さ方向と平行に二分されて、第一小脱塩室第一脱塩区と第一小脱塩室第二脱塩区とが形成され、前記第二小脱塩室は、脱塩室の厚さ方向と平行に二分されて、第二小脱塩室第一脱塩区と第二小脱塩室第二脱塩区とが形成され、被処理水が、第一小脱塩室第一脱塩区、第二小脱塩室第一脱塩区、第一小脱塩室第二脱塩区、第二小脱塩室第二脱塩区の順に、流れるように制御されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記濃縮室には、アニオン交換体が単床形態で充填されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
前記陰極室および前記陽極室には、イオン交換体が、アニオン交換体もしくはカチオン交換体の単床形態、あるいはアニオン交換体およびカチオン交換体の混床形態で充填され、または陰極もしくは陽極と、仕切り膜との間に、アニオン交換体層とカチオン交換体層とからなる積層体が配列されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
前記陰極電極および/または前記陽極電極は、対応する脱塩区毎に分割され、各電極に印加する電流が別々に制御されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の電気式脱イオン水製造装置を用いた脱イオン水の製造方法であって、複数の脱塩区に被処理水を流通させることを特徴とする、脱イオン水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−142724(P2009−142724A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320644(P2007−320644)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】