説明

電気式脱イオン水製造装置

【課題】一の濃縮室内にカルシウムやマグネシウムの硬度成分とシリカを合わせて高濃度に濃縮させないようにしてスケール生成を抑制する。
【解決手段】陽極室1と陰極室2の間に陰極室2から陽極室1の方へ第1の脱塩室3と第1の濃縮室4と第2の脱塩室5と第3の脱塩室6と第2の濃縮室7がこの順に配列されている。室1,5にはカチオン交換体が充填され、室2,3,4,6にはアニオン交換体が充填されている。室3,4間の壁は第1のアニオン交換膜8で構成され、室4,5間の壁は第1のカチオン交換膜9で構成され、室6,7間の壁は第2のアニオン交換膜10で構成されている。被処理水は流路P1、第1の脱塩室3、流路P2、第2の脱塩室5、流路P3、第3の脱塩室6、流路P4をこの順番に通り、脱イオン水となって系外に送られる。水が第1の濃縮室4と第2の濃縮室7にそれぞれ流入し、それらから濃縮水となって流出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置に関するものであり、特に濃縮室内のスケール生成を抑制するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脱イオン水の製造装置として、イオン交換体に被処理水を通水して脱イオンを行う装置が知られている。このような装置ではイオン交換体のイオン交換基が飽和して脱塩性能が低下したときに、酸やアルカリといった薬剤によってイオン交換体の再生を行う必要がある。具体的には、イオン交換基に吸着した陰イオンや陽イオンを、酸あるいはアルカリ由来のH+やOH-と置き換える処理が必要となる。近年、このような運転上の不利な点を解消するため、薬剤による再生が不要な電気式脱イオン水製造装置が実用化されている。
【0003】
電気式脱イオン水製造装置は、電気泳動と電気透析とを組み合わせた装置である。一般的な電気式脱イオン水製造装置は、脱塩室と、該脱塩室の両側に配置された一対の濃縮室と、一方の濃縮室の外側に配置された陽極室と、他方の濃縮室の外側に配置された陰極室とを有する。脱塩室は、対向配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、それら交換膜の間に充填されたイオン交換体(アニオン交換体及び/又はカチオン交換体)とを有する。電気式脱イオン水製造装置は「EDI」と略称される場合もある。
【0004】
上記のように構成されるEDIによって脱イオン水(処理水)を製造するには、陽極室および陰極室にそれぞれ設けられている電極間に直流電圧を印加した状態で脱塩室に被処理水を通水する。被処理水中のイオン成分は脱塩室内のイオン交換体で吸着され、脱イオン化(脱塩)処理が行われる。具体的には、脱塩室ではアニオン交換体によりアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)が吸着され、あるいは、カチオン交換体によりカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が吸着される。脱塩室ではまた、印加電圧によって水の解離反応が起こり、水素イオンと水酸化物イオンが発生する(H2O→H++OH-)。アニオン交換体に吸着されたアニオン成分はその水酸化物イオンと交換されてアニオン交換体から遊離し、カチオン交換体に吸着されたカチオン成分はその水素イオンと交換されてカチオン交換体から遊離する。遊離したアニオン成分(またはカチオン成分)はアニオン交換体(またはカチオン交換体)を伝ってアニオン交換膜(またはカチオン交換膜)まで電気泳動し、その膜で電気透析されて、濃縮室を流れる濃縮水に排出される。
【0005】
以上のように、電気式脱イオン水製造装置では、水素イオンおよび水酸化物イオンが、イオン交換体を再生する再生剤(酸やアルカリ)として連続的に作用する。このため、薬剤による再生は基本的に不要であり、薬剤によるイオン交換体の再生を行わずに連続運転ができる。
【0006】
このような電気式脱イオン水製造装置では、カルシウムやマグネシウムといった硬度成分を多く含む被処理水を処理する場合、脱塩室での水の解離反応により生成された水酸化物イオンのうちアニオン交換体の再生に使われなかった過剰分がアニオン交換膜を通って濃縮室へ排出されるため、濃縮室内のpHが局所的に上昇して硬度スケールを生成することがある。つまり、濃縮水中に含まれる炭酸水素イオン(HCO3-)が水酸化物イオンと反応して炭酸イオン(CO32-)となり、さらに濃縮室内に濃縮されるカルシウムと反応して炭酸カルシウムとなり、また濃縮室内に濃縮されるマグネシウムは水酸化物イオンと直接反応して水酸化マグネシウムといった硬度スケールになる。特に、水酸化物イオンを透過するアニオン交換膜の近傍のpHが高くなり、アニオン交換膜表面にスケールが生成されてしまう。
【0007】
硬度スケールが生成されると、その生成部分での電気抵抗が上昇して消費電力の増加を招くだけでなく、電流の偏った流れを引き起こして処理水質を低下させることもある。さらに長期間にわたって成長したスケールは、イオン交換膜内にまで侵食し、最終的にイオン交換膜を破ってさらに深刻な問題をも引き起こす。
【0008】
そこで、上記のようなスケールの生成を抑制する方法の一つとして、特許文献1には、濃縮室内にアニオン交換体を充填し、遊離炭酸を含む水を濃縮室へ供給することで、スケール生成を抑制できるとともに濃縮室内のpHの上昇も緩和できる電気式脱イオン水製造装置の運転方法が開示されている。
【0009】
具体的には、脱塩室から濃縮室内へ排出されてきた余剰の水酸化物イオンは濃縮室内のアニオン交換体に捕捉されており、濃縮室を流れる濃縮水に遊離炭酸(CO2)が含まれると、その遊離炭酸がアニオン交換体中の水酸化物イオンと反応し、炭酸水素イオン(HCO3-)となる。炭酸水素イオンと濃縮水中の硬度成分とが反応して炭酸水素カルシウムや炭酸水素マグネシウム等になっても、これらは炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムのように析出することはないため、濃縮室内におけるスケールの発生が抑制される。また、濃縮水中に放出された炭酸水素イオンは、濃縮室の脱塩室と反対側に配置された他の室からカチオン交換膜を通って濃縮室内へ移動してくる水素イオンと反応し、遊離炭酸となり、再び濃縮室のアニオン交換体中の水酸化物イオンと反応することが可能になるので、濃縮室内のpHの上昇も緩和することができる。
【0010】
ところで、電気式脱イオン水製造装置により比抵抗値の高い良好な水質の脱イオン水(処理水)を製造するためには、カチオン交換体によるカチオン除去とアニオン交換体によるアニオン除去を交互に繰り返し、どちらか一方を少なくとも二段以上とした多段処理を行うことが効果的である。例えば、被処理水に対して初めにカチオン除去を行い、次にアニオン除去を行う各一段のみの処理の場合、初めにカチオン交換体によりカチオン成分のみが除去されることで、このカチオン除去部内の被処理水にはアニオン成分だけが残存することになる。しかし、水中では電気的中性が保たれるため、カチオン除去部内の被処理水中には、除去されたカチオン成分に代わって、除去されたカチオン成分と等量の水素イオンが放出される。そのため、カチオン成分がある程度除去されたカチオン除去部の後段では、水素イオンが過剰となりカチオン交換体にカチオン成分(例えばMg2+,Ca2+,Na+など)が吸着し難くなる、つまり、結果としてカチオン成分が処理水へリークしてしまう。このような場合においては、上記のようにカチオン除去を行って、次にアニオン除去を行った後、さらにカチオン除去を行うという多段処理を実施することで処理水へのリークを防ぐことができる。
【0011】
一方、電気式脱イオン水製造装置の陽極室と陰極室では、水の電気分解(電極反応)が生じ、この反応によっても水素イオンと水酸化物イオンとが生成される(2H2O→O2+4H++4e-/2H2O+2e-→H2+2OH-)。そこで、陽極室で生成される水素イオンと陰極室で生成される水酸化物イオンもイオン交換体の再生に利用することができる。
【0012】
特許文献2には、主脱塩室の他に二つの電極室の少なくとも一方に隣接させて副脱塩室を設け、その副脱塩室を流通した被処理水を主脱塩室に流通させる、および/または、主脱塩室を流通した被処理水を副脱塩室に流通させる、装置が開示されている。副脱塩室に関しては、上述のような電極反応により生成する再生剤(水素イオンや水酸化物イオン)によって、陽極室に隣接した副脱塩室はカチオンを除去する脱塩室、陰極室に隣接した副脱塩室はアニオンを除去する脱塩室として機能するため、主脱塩室の前後にこれらの副脱塩室を通水することで多段処理を実現することできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4363587号
【特許文献2】特開2009−297670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献1に記載の発明のように、電気式脱イオン水製造装置の濃縮室内にアニオン交換体を充填し、遊離炭酸を含む水をその濃縮室へ供給することでスケール生成を抑制することができる。
【0015】
しかしながら、さらにイオン負荷の高い被処理水、特に硬度成分(Mg2+,Ca2+)に加えてシリカ(SiO2)の濃度が高い被処理水を処理する場合、特許文献1に記載のような方法を実施してもなおスケールが生成されることがある。
【0016】
また、特許文献2に記載されている装置の場合には、特許文献1に記載と同等のイオン負荷の被処理水であっても脱塩室と濃縮室の配置や通水の方法によっては、特許文献1に記載のような方法を実施してもやはりスケール生成を抑制できないことがある。
【0017】
例えば、図13に示すように、陽極室101と陰極室102の間に2組の主脱塩室103,106と104,108が配設される。陽極室101と1組の主脱塩室103,106との間において、濃縮室105が陽極室101に隣接配置され、主脱塩室106が主脱塩室103と濃縮室105の間でそれらに隣接配置される。主脱塩室103ともう1組の主脱塩室104,108との間において、濃縮室107が主脱塩室103に隣接配置され、主脱塩室108が主脱塩室104と濃縮室107の間でそれらに隣接配置される。さらに、陰極室102と主脱塩室104の間において、濃縮室109が主脱塩室104に隣接配置され、副脱塩室110が陰極室102と濃縮室109の間でそれらに隣接配置される。そして、陽極室101と主脱塩室103,104の中には少なくともカチオン交換体Kが充填され、主脱塩室106,108,副脱塩室110および陰極室102の中には少なくともアニオン交換体Aが充填されている。また濃縮室105,107,109の中にもアニオン交換体が充填されている。また、濃縮室105,107,109の各々に対して陽極側に配される膜はカチオン交換膜とされ、陰極側に配される膜はアニオン交換膜とされている。主脱塩室103,106の間、主脱塩室104,108の間、および陰極室102と副脱塩室110の間には、アニオン交換膜、または、アニオン交換膜とカチオン交換膜を張り合わせた構造のバイポーラ膜のいずれかが配置される。
【0018】
このように構成されたEDIの場合、硬度成分(Mg2+,Ca2+)に加えてシリカ濃度が高い被処理水がまず、副脱塩室110に通水されて、被処理水中のアニオン成分のうち、アニオン交換体に吸着されやすいCl-等の強酸性のアニオン成分が濃縮室109に排出される。次いで、副脱塩室110を通過した被処理水は主脱塩室103,104の各々を通る。このとき、硬度成分を含むカチオン成分が各主脱塩室103,104のカチオン交換体に捕捉され、さらに陰極側のカチオン交換膜を通って各濃縮室107,109に排出される。また、各主脱塩室103,104を通過した被処理水は他の主脱塩室106,108に通水されて処理される。このとき、被処理水中のアニオン成分のうち、アニオン交換体に吸着されにくいシリカのようなアニオン成分が各主脱塩室106,108のアニオン交換体に捕捉され、さらに陽極側のアニオン交換膜を通って各濃縮室105,107に排出される。
【0019】
こうした方法の場合、図13中の右から2番目の濃縮室107では、主脱塩室103からの主に硬度を含むカチオン成分が濃縮されると同時に、主脱塩室108からは、1段目の副脱塩室110ではほとんど脱塩されなかったシリカのようなアニオン成分のみが入ってきて濃縮されるので、余剰の水酸化物イオンも同時に多く排出されることになる。そのため、遊離炭酸を含む水を濃縮室107へ供給しても、副脱塩室108から濃縮室107へ排出される水酸化物イオンをすべて緩和できるほどの効果は得られず、かつ、硬度成分とシリカが同一の濃縮室で高濃度に濃縮されるため、ケイ酸マグネシウムなどのスケールが生成されやすい。
【0020】
さらには、図13に示したように複数の主脱塩室103,104に被処理水を並列通水して運転する装置の場合、複数の主脱塩室103,104に通水させる被処理水のすべてが一つの副脱塩室110に集中して通水されてから各主脱塩室に分配されるため、副脱塩室110は主脱塩室103,104よりもイオン成分の負荷量が大きくなり、所望の水質が得られないことがある。そのため、所望の水質を得るためには、より大きな電流値が必要となり、その場合、運転時の消費電力が大幅に増加することになり好ましくない。
【0021】
そこで、本発明は、長期間の連続運転においても濃縮室内のスケール生成を抑制し、かつ多段処理により良好な水質の処理水を得ることが可能な電気式脱イオン水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、電気式脱イオン水製造装置において、一の濃縮室内にカルシウムやマグネシウムの硬度成分とシリカを合わせて高濃度に濃縮させなければスケール生成を著しく抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
上述のような効果を得るために、本発明の一つの態様は、
陽極と陰極の間に脱塩室と濃縮室が配列され、各室の陽極側および陰極側がイオン交換膜によって仕切られている電気式脱イオン水製造装置であって、
陽極と陰極の間に配置され、被処理水中のカチオン成分およびアニオン成分が濃縮される濃縮室であり、陽極側を仕切るイオン交換膜として第1のカチオン交換膜を、陰極側を仕切るイオン交換膜として第1のアニオン交換膜を有する第1の濃縮室と、
第1の濃縮室の陰極側に隣接して配置され、少なくともアニオン交換体が充填された第1のアニオン除去用脱塩室と、
第1の濃縮室の陽極側に隣接して配置され、少なくともカチオン交換体が充填された第1のカチオン除去用脱塩室と、
第1のカチオン除去用脱塩室と陽極との間、あるいは第1のアニオン除去用脱塩室と陰極との間に配置され、少なくともアニオン交換体が充填された第2のアニオン除去用脱塩室と、
第2のアニオン除去用脱塩室の陽極側に隣接して配置され、陰極側を仕切るイオン交換膜として第2のアニオン交換膜を有する第2の濃縮室と、
を含んでおり、
第1のアニオン除去用脱塩室と第1のカチオン除去用脱塩室と第2のアニオン除去用脱塩室とは、被処理水が第1のアニオン除去用脱塩室,第1のカチオン除去用脱塩室,第2のアニオン除去用脱塩室の順番で通過、もしくは第1のカチオン除去用脱塩室,第1のアニオン除去用脱塩室,第2のアニオン除去用脱塩室の順番で通過するように直列に連通されており、
前記第1の濃縮室と前記第2の濃縮室のうちの一方の濃縮室から流出した濃縮水が他方の濃縮室へ流入する水とならないように前記第1の濃縮室と前記第2の濃縮室のそれぞれに水の流入ラインおよび流出ラインが構成されていることを特徴とする。
【0024】
このような態様では、濃縮室内で硬度成分とシリカを合わせて高濃度に濃縮させない運転が可能となるため、長期間の連続運転においても濃縮室内のスケール生成を抑制し、かつ多段処理により良好な水質の処理水を得ることができる。
【0025】
加えて、上記態様の装置を構成するための脱塩室と濃縮室は、再生イオン交換膜や中間イオン交換膜を介して任意の数を積層することができるため、さらにイオン負荷量の高い場合やより大流量を処理する場合であっても低い消費電力で同等の処理水質を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、長期間の連続運転においても濃縮室内のスケール生成を抑制し、かつ多段処理により良好な水質の処理水を得ることが可能な電気式脱イオン水製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の基本概念による装置態様を示した図。
【図2】図1の装置の変形態様を示した図。
【図3】図1の装置の変形態様を示した図。
【図4】図1の装置の変形態様を示した図。
【図5】本発明の第1の実施形態(実施例1)によるEDI(電気式脱イオン水製造装置)の概略構成図。
【図6】本発明の第2の実施形態によるEDIの概略構成図。
【図7】本発明の第3の実施形態によるEDIの概略構成図。
【図8】本発明の第4の実施形態によるEDIの概略構成図。
【図9】本発明の第5の実施形態によるEDIの概略構成図。
【図10】本発明の第6の実施形態(実施例2)によるEDIの概略構成図。
【図11】図5の形態のEDIと比較する比較例1の概略構成図。
【図12】図10の形態のEDIと比較する比較例1の概略構成図。
【図13】従来のEDIの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
まず、本発明の基本概念による装置態様について述べておく。
【0030】
図1は本発明の基本概念による装置態様を示した図である。この図に示されるEDIは、陽極を備える陽極室1と陰極を備える陰極室2との間に、第1の脱塩室3と第1の濃縮室4と第2の脱塩室5と第3の脱塩室6と第2の濃縮室7を電極間方向に沿って配列したものである。陽極室1および第2の脱塩室5にはカチオン交換体が充填され、陰極室2、第1の脱塩室3、第1の濃縮室4および第3の脱塩室6にはアニオン交換体が充填されている。
【0031】
第1の濃縮室4の陰極室2の側には第1の脱塩室3が隣接配置され、両室3,4間を仕切る壁部は第1のアニオン交換膜8で構成されている。第1の濃縮室4の陽極室1の側には第2の脱塩室5が隣接配置され、両室4,5間を仕切る壁部は第1のカチオン交換膜9で構成されている。以下、これら3つの室3,4,5の集合体を第1のユニットAと呼ぶことにする。
【0032】
さらに、第2の脱塩室5の陽極室1の側には第3の脱塩室6が配置され、第3の脱塩室6の陽極室1の側には第2の濃縮室7が隣接配置され、両室6,7間を仕切る壁部は第2のアニオン交換膜10で構成されている。以下、これら2つの室6,7の集合体を第2のユニットBと呼ぶことにする。
【0033】
そして、流路P1が被処理水の供給元と第1の脱塩室3の上部とを連通し、流路P2が第1の脱塩室3の下部と第2の脱塩室5の下部とを連通し、流路P3が第2の脱塩室5の上部と第3の脱塩室6の上部とを連通し、流路P4が第3の脱塩室6の下部に接続されている。これにより、被処理水は流路P1、第1の脱塩室3、流路P2、第2の脱塩室5、流路P3、第3の脱塩室6、流路P4をこの順番に通り、脱イオン水となって系外に送られる。すなわち本態様では、アニオン除去用脱塩室(第1の脱塩室3)、カチオン除去用脱塩室(第2の脱塩室5)、アニオン除去用脱塩室(第3の脱塩室6)の順番に被処理水を流して脱イオン処理を行っている。
【0034】
さらに、流路Q1が、第1および第2の濃縮室4,7の各々の上部と、流路P1に流入したものと同じ被処理水の供給元とを接続しており、流路Q2が第1の濃縮室4の下部に接続され、流路Q3が第2の濃縮室7の下部に接続されている。これにより、流路P1に流入したものと同じ被処理水が、流路P1とは別の流路Q1を通って、第1の濃縮室4および第2の濃縮室7に供給される。第1の濃縮室4を通過した被処理水は第1の濃縮水と呼ばれ、第2の濃縮室7を通過した被処理水は第2の濃縮水と呼ばれ、各々の濃縮水は電流の流れていない系外に排出される。但し、各濃縮室4,7を通過して濃縮水となる水は必ずしも同一でなくてもよく、また両濃縮室4,7に対して同時に被処理水が流入および流出しなくてもよい。第1の濃縮室4と第2の濃縮室7が直列な流路で結ばれていなければ良い。また、各濃縮室4,7に流入させる水は、被処理水以外にも処理水や任意の脱塩室を流出した水(中間処理水)を用いることもできるので被処理水には限定されない。つまり、第1の濃縮室4と第2の濃縮室7のうちの一方の濃縮室から流出した濃縮水が他方の濃縮室へ流入する水とならないように第1の濃縮室4と第2の濃縮室7のそれぞれに水の流入ラインおよび流出ラインが設けられていればよい。
【0035】
なお、EDIで脱イオン処理がなされる被処理水には、イオン交換膜の性能を損なわないために、RO(逆浸透)膜を透過させた被処理水、すなわちRO透過水を用いることが一般的である。
【0036】
次に本発明の作用について述べる。
【0037】
上記の装置態様において、被処理水が、硬度成分(Mg2+,Ca2+)に加えてシリカ濃度が高い被処理水である場合、第1の脱塩室3では、被処理水中のアニオン成分がアニオン交換体に吸着され、水の電気分解で発生した水酸化物イオンとの交換を繰り返しながら陽極側へ電気泳動し、陽極側のアニオン交換膜8を透過して隣りの第1の濃縮室4に入り濃縮される。
【0038】
第1の脱塩室3を流れる被処理水(RO透過水)には、Ca2+,Mg2+,Na+,K+,Cl-,炭酸成分(遊離炭酸、HCO3-等),SiO2(シリカは、特別な形態をとることが多いため、一般のイオンとは異なった表示とする)などのイオンが存在する。イオン交換体のイオン選択性は、同符号のイオンであってもその種類によって差があり、非解離のシリカは、他のアニオン(Cl-等の強酸性のアニオンや、弱酸性の炭酸成分)と比べて、イオン交換体に吸着されにくいことが分かっている。そのため、第1の脱塩室3ではアニオンのシリカよりも先ずCl-等の強酸性のアニオンが吸着され、第1の脱塩室3から第1の濃縮室4に移動するアニオン種の中においてシリカは他のアニオン成分と比べて少ない。
【0039】
第1の脱塩室3に流入した被処理水中のカチオン成分は第1の脱塩室3を通過し、流路P2を介して、第2の脱塩室5に入る。第2の脱塩室5では、主にCa2+,Mg2+などの硬度成分のカチオンがカチオン交換体に吸着され、水の電気分解で発生した水素イオンとの交換を繰り返しながら陰極側へ電気泳動し、陰極側のカチオン交換膜9を透過して第1の濃縮室4に入り濃縮される。以上の事から、第1の濃縮室4内を流れる被処理水であるところの第1の濃縮水の中には相対的に硬度成分が多く含まれるがシリカは少ない状態となり、スケール生成が抑制される。
【0040】
また、第2の脱塩室5を通過した被処理水は、流路P3を介して、第3の脱塩室6に入る。第3の脱塩室6では、第1の脱塩室3内で吸着されなかったシリカ等のアニオン成分がアニオン交換体に吸着され、水の電気分解で発生した水酸化物イオンとの交換を繰り返しながら陽極側へ電気泳動し、陽極側のアニオン交換膜10を透過して、第2の濃縮室7に入り濃縮される。前段の第2の脱塩室5において硬度のイオン成分が除去されているため、第2の濃縮室7内を流れる被処理水であるところの第2の濃縮水の中には相対的に硬度成分が少なくなり、第1の脱塩室3内で吸着されなかったシリカ等のアニオン成分が濃縮されている。そのため、高濃度の硬度成分とシリカが同時に存在しないようにできるため、スケール生成は抑制される。一方、第3の脱塩室6を通過した被処理水は硬度成分およびシリカをほとんど含まない脱塩水(処理水)として流路P4で系外へ送られる。
【0041】
なお、一番初めに被処理水が通水される第1の脱塩室3内のアニオン交換体としては、シリカを第1の脱塩室3で捕捉しないようなシリカ吸着性能が低いアニオン交換体であることが望ましい。例えば、II形強塩基性アニオン交換体、中塩基性アニオン交換体、弱塩
基性アニオン交換体等が挙げられる。これにより、第1段目のカチオン除去用脱塩室と第1段目のアニオン除去用脱塩室の間に挟まれた濃縮室に対して該第1段目のアニオン除去用脱塩室から排出されるシリカ量を著しく低減することができる。
【0042】
以上に本発明の基本的な装置態様および本発明の作用・効果について説明したが、第1のユニットAおよび第2のユニットBはそれぞれ任意のユニット数にて陽極室1と陰極室2の間に配列されていてよい。
【0043】
例えば、図1の態様における第1のユニットAが1つ以上、互いに隣接させて直列に配置される場合、第1の脱塩室3と第2の脱塩室5が隣同士になるが、図2に示すように両室3,5間はイオン交換膜で構成された壁で仕切られているとよい。また、隣り合わせの第1の脱塩室3と第2の脱塩室5としては、一つの脱塩室内の中間位置に配したイオン交換膜(第1の中間イオン交換膜11と呼ぶ。)により一つの脱塩室内を分割して形成される2つの小脱塩室を用いることができる。この第1の中間イオン交換膜11は、アニオン交換膜、カチオン交換膜、またはバイポーラ膜のいずれかのイオン交換膜、言い換えるとアニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である。
【0044】
また、第1のユニットAの第2の脱塩室5と第2のユニットBの第3の脱塩室6は隣同士になるが、図2に示すように両室5,6間もイオン交換膜で構成された壁で仕切られているとよい。第2の脱塩室5と第3の脱塩室6には、一つの脱塩室内の中間位置に配したイオン交換膜(第2の中間イオン交換膜12と呼ぶ。)により一つの脱塩室内を分割して形成される2つの小脱塩室を用いることができる。この第2の中間イオン交換膜12もまた、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である。
【0045】
図1の態様において、第2のユニットBが1つ以上、互いに隣接して直列に配置される場合は、第3の脱塩室6と第2の濃縮室7が隣同士になるが、図2に示すように両室6,7間はイオン交換膜で構成された壁で仕切られているとよい。また、図3に示すように第2のユニットBと陰極室2との間に第2のユニットBが1つ以上、互いに隣接させて直列に配置される場合は、第1の脱塩室3と第2の濃縮室7が隣同士に、第3の脱塩室6と第2の濃縮室7が隣同士になる。これらの場合もまた、図3に示すように室3,7間および室6,7間はそれぞれ、イオン交換膜で構成された壁で仕切られているとよい。
【0046】
そのような第1の脱塩室3と第2の濃縮室7の間ならびに第3の脱塩室6と第2の濃縮室7の間に介在するイオン交換膜としては、脱塩室内に充填されているイオン交換体に対してその再生を行う再生剤(水素イオンまたは水酸化物イオン)を供給する機能を持つイオン交換膜(再生イオン交換膜と呼ぶ。)であることが好ましい。第1の脱塩室3および第3の脱塩室6にアニオン交換体が充填されている場合、第1の脱塩室3と第2の濃縮室7の間のイオン交換膜は水酸化物イオンを第1の脱塩室3内へ供給できる第1の再生イオン交換膜13とされ、第3の脱塩室6と第2の濃縮室7の間のイオン交換膜は水酸化物イオンを第3の脱塩室6内へ供給できる第2の再生イオン交換膜14とされるとよい。
【0047】
また、図1の態様において、第2のユニットBは第3の脱塩室6と第2の濃縮室7からなるが、図4に示すように、第2のユニットBに第4の脱塩室16を含めてもよい。具体的には、第4の脱塩室16が第2の濃縮室7の陽極室1の側に第2の濃縮室7と隣接して配置され、両室7,16間を仕切る壁部は第2のカチオン交換膜17で構成されている。この追加構成により、脱イオン処理能力のさらなる向上が可能になる。
【0048】
上記した態様を用いたEDIの実施形態のいくつかを以下に示す。
【0049】
(第1の実施形態)
図5は第1の実施形態によるEDIの装置を示す概略図である。
【0050】
本実施形態のEDIは、第1のユニットAと第2のユニットBを一つずつ備え、それらが、上述した図3の態様のように配列されている。また、図3の態様と同様、被処理水を第1ないし第3の脱塩室3,5,6に順次通過させて脱イオン処理を行う流路ラインと、各脱塩室3,5,6から第1および第2の濃縮室4,7に排出されたイオン成分を被処理水で流す流路ラインとが設けられている。カチオン交換体が充填された第2の脱塩室5を通過する水の流れに対し、第1の濃縮室4を通過する水の流れの方向が対向している。また、第1および第2の濃縮室4,7を各々通過した濃縮水については、電流の付与されない装置外であれば合流させることができる。
【0051】
さらに本実施形態では、第1のユニットAの第2の脱塩室5が陽極室1と隣接して配置される。第2の脱塩室5と陽極室1の間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、カチオン交換膜またはバイポーラ膜が使用されている。ここの膜は少なくともカチオン交換体を含む膜とすることで、陽極室1内の電極反応で生成された水素イオンを第2の脱塩室5内のカチオン交換体用の再生剤として供給することができる。
【0052】
また、第2のユニットBの第3の脱塩室6が陰極室2と隣接して配置されている。第3の脱塩室6と陰極室2の間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、アニオン交換膜またはバイポーラ膜が使用されている。ここの膜は少なくともアニオン交換体を含む膜とすることで、陰極室2内の電極反応で生成された水酸化物イオンを第3の脱塩室6内のアニオン交換体用の再生剤として供給することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
図6は第2の実施形態によるEDIの装置を示す概略図である。
【0054】
本実施形態のEDIは、図5に示した第1の実施形態のEDIに対して、第3の脱塩室6と陰極室2との間に第2のユニットBをもう一つ追加したものである(第1のユニットAが一つ、第2のユニットBが二つ)。第2のユニットBの第3の脱塩室6と、追加した第2のユニットBの第2の濃縮室7との間には、第2の再生イオン交換膜14が配置されている。さらに、追加した第2のユニットBの第3の脱塩室6と、陰極室2との間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、第1の実施形態と同様の再生剤供給目的でアニオン交換膜またはバイポーラ膜が使用されている。
【0055】
一つの第1の濃縮室4と二つの第2の濃縮室7とに同方向から被処理水が通水されるとともに、これとは別の流路で被処理水が第1の脱塩室3および第2の脱塩室5を順次通過した後に二つの第3の脱塩室6に同方向から通水される。このように第2の脱塩室5を経た処理水を二室の第3の脱塩室6で同時処理するため、第1の実施形態のEDIで使用する電流値と同じでも第3の脱塩室6における脱アニオン処理の能力が第1の実施形態に対して2倍になる。
【0056】
(第3の実施形態)
図7は第3の実施形態によるEDIの装置を示す概略図である。
【0057】
本実施形態のEDIは、図6に示した第2の実施形態のEDIに対して、陽極室1と第2の脱塩室5の間に第1のユニットAをもう一つ追加したものである(第1のユニットAが二つ、第2のユニットBが二つ)。第1のユニットAの第2の脱塩室5と、追加した第1のユニットAの第1の脱塩室3との間には、第1の中間イオン交換膜11が配置されている。さらに、追加した第1のユニットAの第2の脱塩室5と、陽極室1との間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、第1の実施形態と同様の再生剤供給目的でカチオン交換膜またはバイポーラ膜が使用されている。
【0058】
二つの第1の濃縮室4と二つの第2の濃縮室7とに同方向から被処理水が通水される。これとは別の流路で被処理水が二つの第1の脱塩室3を同方向から通過し、さらに二つの第2の脱塩室5を同方向から通過した後、二つの第3の脱塩室6に同方向から通水される。このように被処理水を二室の第1の脱塩室3で同時処理し、かつ、第2の脱塩室5を経た処理水を二室の第3の脱塩室6で同時処理するため、第1の実施形態のEDIで使用する電流値と同じでも第1の実施形態に対して2倍量の被処理水を処理することが可能になる。
【0059】
(第4の実施形態)
図8は第4の実施形態によるEDIの装置を示す概略図である。
【0060】
本実施形態のEDIは、上述した図2の態様に対して、陽極室1と第2の濃縮室7の間に第2のユニットBをもう一つ追加したものである(第1のユニットAが一つ、第2のユニットBが二つ)。第2のユニットBの第2の濃縮室7と、追加した第2のユニットBの第3の脱塩室6との間には、第3の再生イオン交換膜15が配置されている。さらに、追加した第2のユニットBの第2の濃縮室7と、陽極室1との間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、濃縮室7内にアニオン成分を留めるためにカチオン交換膜が使用されている。また、第1のユニットAの第1の脱塩室3と、陰極室2との間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、第1の実施形態と同様の再生剤供給目的でアニオン交換膜またはバイポーラ膜が使用されている。
【0061】
一つの第1の濃縮室4と二つの第2の濃縮室7とに同方向から被処理水が通水される。これとは別の流路で被処理水が第1の脱塩室3および第2の脱塩室5を順次通過した後に二つの第3の脱塩室6に同方向から通水される。
【0062】
本実施形態によれば、図2の態様と同様、隣り合った第2の脱塩室5と第3の脱塩室6に関して、一つの脱塩室内の中間位置に配した第2の中間イオン交換膜12により一つの脱塩室内を分割して形成される2つの小脱塩室を用いることができる。この第2の中間イオン交換膜12は、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である。
【0063】
さらに本実施形態では、陽極室1とこれに隣接する第2の濃縮室7との間に設置されたイオン交換膜を無くして一つの室にまとめることも可能である。
【0064】
(第5の実施形態)
図9は第5の実施形態によるEDIの装置を示す概略図である。
【0065】
本実施形態のEDIは、図8に示した第4の実施形態のEDIに対して、陰極室2と第1の脱塩室3の間に第1のユニットAをもう一つ追加したものである(第1のユニットAが二つ、第2のユニットBが二つ)。第1のユニットAの第1の脱塩室3と、追加した第1のユニットAの第2の脱塩室5との間には、第1の中間イオン交換膜11が配置されている。さらに、追加した第1のユニットAの第1の脱塩室3と、陰極室2との間の仕切り壁をなすイオン交換膜には、第1の実施形態と同様の再生剤供給目的でアニオン交換膜またはバイポーラ膜が使用されている。
【0066】
二つの第1の濃縮室4と二つの第2の濃縮室7とに同方向から被処理水が通水される。これとは別の流路で被処理水が二つの第1の脱塩室3を同方向から通過し、さらに二つの第2の脱塩室5を同方向から通過した後、二つの第3の脱塩室6に同方向から通水される。このような形態も、図7に示した第3の実施形態と同様の効果が得られる。また、第4の実施形態と同様、陽極室1とこれに隣接する第2の濃縮室7とを一つの室にまとめることも可能である。
【0067】
(第6の実施形態)
図10は第6の実施形態によるEDIの装置を示す概略図である。
【0068】
本実施形態のEDIは図4に示した態様の第1のユニットAおよび第2のユニットBを一つずつ備えたものである。この第2のユニットBは第3の脱塩室6と第2の濃縮室7と第4の脱塩室16とを含んでおり、第1のユニットAと陰極室2の間に、第1のユニットAと隣接して配置されている。したがって、図10に示すように陽極室1側から陰極室2に向かって、第2の脱塩室5、第1の濃縮室4、第1の脱塩室3、第4の脱塩室16、第2の濃縮室7、第3の脱塩室6の順に配列されている。第1のユニットAの第1の脱塩室3と第2のユニットBの第4の脱塩室16とは、第2の中間イオン交換膜12を介して隣接している。
【0069】
但し、これまで説明してきた形態ではアニオン除去用脱塩室(第1の脱塩室3)、カチオン除去用脱塩室(第2の脱塩室5)、アニオン除去用脱塩室(第3の脱塩室6)、カチオン除去用脱塩室(第4の脱塩室16)の順番に被処理水を流して脱イオン処理を行っていたが、本実施形態ではその順番が変更されている。すなわち本実施形態では、カチオン除去用脱塩室(第2の脱塩室5)、アニオン除去用脱塩室(第1の脱塩室3)、カチオン除去用脱塩室(第4の脱塩室16)、アニオン除去用脱塩室(第3の脱塩室6)の順番に被処理水が流れるようになっている。一方、濃縮水の流れに関しては、これまで説明してきた形態と同じで、第1の濃縮室4および第2の濃縮室7に一緒に被処理水が流入しそれらの濃縮室から濃縮水となって流出するように第1の濃縮室4と第2の濃縮室7が並列に連通されている。
【0070】
これまで説明してきた態様では、被処理水はアニオン交換体の脱塩室、カチオン交換体の脱塩室、アニオン交換体の脱塩室といった3つの脱塩室に順次通水されたが、本実施形態では、初段のアニオン交換体の脱塩室よりも前の段にカチオン交換体の脱塩室が追加された。そのため、脱イオン処理能力のさらなる向上が可能である。
【0071】
なお、本実施形態では第1のユニットAとこの隣りの第2のユニットBが一つずつ設置されたものを示したが、それぞれのユニット数は任意であり、例えば第1のユニットAとこの隣りの第2のユニットBを二つずつ設置することも可能である。
【0072】
また、各脱塩室に被処理水を流す順番を上記の順番と逆にする、つまりアニオン除去用脱塩室(第3の脱塩室6)、カチオン除去用脱塩室(第4の脱塩室16)、アニオン除去用脱塩室(第1の脱塩室3)、カチオン除去用脱塩室(第2の脱塩室5)の順番に被処理水を流しても、同じ効果が得られる。
【0073】
以上に各種の実施形態を示したが、図1に示した装置の基本態様を含む構成であれば、上記実施形態以外のいかなる形態に変更することが可能である。
【0074】
例えば、各濃縮室4,7に流入させる水は、被処理水以外にも処理水や任意の脱塩室を流出した水(中間処理水)を用いることもできるので被処理水には限定されない。
【0075】
また、各濃縮室4,7を通過して濃縮水となる水は必ずしも同一でなくてもよく、また両濃縮室4,7に対して同時に被処理水が流入および流出しなくてもよい。第1の濃縮室4と第2の濃縮室7が直列な流路で結ばれていなければ良い。つまり、第1の濃縮室4と第2の濃縮室7のうちの一方の濃縮室から流出した濃縮水が他方の濃縮室へ流入する水とならないように第1の濃縮室4と第2の濃縮室7のそれぞれに水の流入ラインおよび流出ラインが設けられていればよい。
【0076】
[実施例]
次に、本発明の効果について、いくつかの実施例と比較例で比較して検討する。
【0077】
本発明に係る装置として、図5に示した第1の実施形態におけるEDI(実施例1)と、図10に示した第6の実施形態におけるEDI(実施例2)とを用意した。これらと比較する比較例として、濃縮水の流し方を直列に変更したこと以外は図5に示す装置と同じ構成であるEDI(比較例1)と、同様に濃縮水の流し方を直列に変更したこと以外は図10に示す装置と同じ構成であるEDI(比較例2)とを用意した。これらを用いて本発明の効果を確認した。比較例1および比較例2のEDIについてはそれぞれ図11および図12に示してある。
【0078】
実施例1(図5)および比較例1(図11)は、第1の再生イオン交換膜13をバイポーラ膜とし、第2の脱塩室5をカチオン交換膜を介して陽極室1と隣接させ、第3の脱塩室6をアニオン交換膜を介して陰極室2と隣接させた構成である。
【0079】
実施例1と比較例1の両方とも、被処理水は、アニオン交換体が充填されたアニオン除去用脱塩室(第1の脱塩室3)、カチオン交換体が充填されたカチオン除去用脱塩室(第2の脱塩室5)、およびアニオン交換体が充填されたアニオン除去用脱塩室(第3の脱塩室6)にこの順番に通水される。しかし濃縮水に関しては、実施例1では第1の濃縮室4および第2の濃縮室7に、第1の脱塩室3に通水させる前の被処理水を同時に通過させるが、比較例1では第2の濃縮室7および第1の濃縮室4にこの順番で通水される。
【0080】
実施例2(図10)および比較例2(図12)は、第2の中間イオン交換膜12をバイポーラ膜とし、第2の脱塩室5をカチオン交換膜を介して陽極室1と隣接させ、第3の脱塩室6をアニオン交換膜を介して陰極室2と隣接させた構成である。
【0081】
実施例2と比較例2の両方とも、被処理水は、カチオン交換体が充填されたカチオン除去用脱塩室(第2の脱塩室5)、アニオン交換体が充填されたアニオン除去用脱塩室(第1の脱塩室3)、カチオン交換体が充填されたカチオン除去用脱塩室(第4の脱塩室16)、およびアニオン交換体が充填されたアニオン除去用脱塩室(第3の脱塩室6)にこの順番に通水される。しかし濃縮水に関しては、実施例2ではユニットAの第1の濃縮室4とこの隣のユニットBの第2の濃縮室7に、ユニットAの第2の脱塩室5に通水させる被処理水を同時に通過させるが、比較例2では第2の濃縮室7と第1の濃縮室4にこの順番で通水される。
【0082】
実施例1,2および比較例1,2における電気式脱イオン水製造装置の仕様、通水流量、供給水の仕様等は以下の通りである。なお、CERはカチオン交換樹脂、AERはアニオン交換樹脂の略である。
・陽極室:寸法300×80×5mm CER充填
・陰極室:寸法300×80×5mm AER充填
・実施例1、比較例1の第1の脱塩室:寸法300×80×10mm II形AER充填
・実施例1、比較例1の第2の脱塩室:寸法300×80×10mm CER充填
・実施例1、比較例1の第3の脱塩室:寸法300×80×30mm AER充填
・実施例2、比較例2の第1の脱塩室:寸法300×80×10mm CER充填
・実施例2、比較例2の第2の脱塩室:寸法300×80×10mm II形AER充填
・実施例2、比較例2の第3の脱塩室:寸法300×80×10mm CER充填
・実施例2、比較例2の第4の脱塩室:寸法300×80×30mm AER充填
・各濃縮室:300×80×5mm AER充填
・被処理水の流量:60L/h
・濃縮水の流量:20L/h
・電極水の流量:10L/h
・脱塩室への供給水(被処理水):RO透過水15±1μS/cm
・濃縮室への供給水:RO透過水15±1μS/cm
・電極室への供給水:純水(<0.1μS/cm)
・印加電流値:2.5A
実施例1,2および比較例1,2の装置について、2000時間の運転を行い、処理水質(処理水比抵抗、処理水シリカ濃度)、運転電圧を比較した。また、運転停止後に装置の解体調査を行い、濃縮室内のスケール生成の有無を比較した。その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例1,2では、比較例1,2と比べて、比抵抗値には大きな違いは見られなかったが、シリカ濃度の低い良好な処理水が得られた。これは、実施例1,2では、濃縮室内にスケールは生成されなかったが、比較例1,2では、濃縮室内にスケールが生成されたため、スケール付着部の電気抵抗上昇に伴う電流の不均一化が起きたことが原因であると考えられる。実際、実施例1,2の運転電圧は、比較例1,2と比べて明らかに高かった。
【符号の説明】
【0085】
1 陽極室、2 陰極室、3 第1の脱塩室、4 第1の濃縮室
5 第2の脱塩室、6 第3の脱塩室、7 第2の濃縮室
8 第1のアニオン交換膜、9 第1のカチオン交換膜
10 第2のアニオン交換膜、11 第1の中間イオン交換膜
12 第2の中間イオン交換膜、13 第1の再生イオン交換膜
14 第2の再生イオン交換膜、15 第3の再生イオン交換膜
16 第4の脱塩室、17 第2のカチオン交換膜
A,A−1 第1のユニット、B 第2のユニット
P1,P2,P3,P4 流路、Q1,Q2,Q3 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に脱塩室と濃縮室が配列され、各室の陽極側および陰極側がイオン交換膜によって仕切られている電気式脱イオン水製造装置であって、
前記陽極と前記陰極の間に配置され、硬度およびシリカを含む被処理水におけるカチオン成分およびアニオン成分が濃縮される濃縮室であり、前記陽極側を仕切るイオン交換膜としてカチオン交換膜を、前記陰極側を仕切るイオン交換膜としてアニオン交換膜を有する第1の濃縮室と、
前記第1の濃縮室の前記陰極側に隣接して配置され、少なくともアニオン交換体が充填された第1のアニオン除去用脱塩室と、
前記第1の濃縮室の前記陽極側に隣接して配置され、少なくともカチオン交換体が充填された第1のカチオン除去用脱塩室と、
前記第1のカチオン除去用脱塩室と前記陽極との間、あるいは前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記陰極との間に配置され、少なくともアニオン交換体が充填された第2のアニオン除去用脱塩室と、
前記第2のアニオン除去用脱塩室の前記陽極側に隣接して配置され、前記陰極側を仕切るイオン交換膜としてアニオン交換膜を有する第2の濃縮室と、
を含んでおり、
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記第1のカチオン除去用脱塩室と前記第2のアニオン除去用脱塩室とは、被処理水が前記第1のアニオン除去用脱塩室、前記第1のカチオン除去用脱塩室、前記第2のアニオン除去用脱塩室の順番で通過、もしくは前記第1のカチオン除去用脱塩室,前記第1のアニオン除去用脱塩室,前記第2のアニオン除去用脱塩室の順番で通過するように直列に連通されており、
前記第1の濃縮室と前記第2の濃縮室のうちの一方の濃縮室から流出した濃縮水が他方の濃縮室へ流入する水とならないように前記第1の濃縮室と前記第2の濃縮室のそれぞれに水の流入ラインおよび流出ラインが構成されたことを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記陰極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室が設けられ、
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室とは、前記第1のアニオン除去用脱塩室へアニオン交換体を再生する水酸化物イオンを再生剤として供給する第1の再生イオン交換膜を介して隣接することを特徴とする請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記陰極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室とを含む第2のユニットが2以上隣接して設けられ、
一の前記第2のユニットにおける前記第2のアニオン除去用脱塩室と他の前記第2のユニットにおける前記第2の濃縮室とが、該第2のアニオン除去用脱塩室へアニオン交換体を再生する水酸化物イオンを再生剤として供給する第2の再生イオン交換膜を介して隣接することを特徴とする請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記第1の濃縮室と前記第1のカチオン除去用脱塩室とを含む第1のユニットが2以上隣接して設けられ、
一の前記第1のユニットにおける前記第1のカチオン除去用脱塩室が、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である第1の中間イオン交換膜を介して、他の前記第1のユニットにおける前記第1のアニオン除去用脱塩室と隣接することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気式脱イオン製造装置。
【請求項5】
前記第1のカチオン除去用脱塩室と前記陽極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室が設けられ、
前記第2のアニオン除去用脱塩室が、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である第2の中間イオン交換膜を介して、前記第1のカチオン除去用脱塩室と隣接していることを特徴とする請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記第1のカチオン除去用脱塩室と前記陽極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室とを含む第2のユニットが2以上隣接して設けられ、
一の前記第2のユニットにおける前記第2の濃縮室と他の前記第2のユニットにおける前記第2のアニオン除去用脱塩室とが、該第2のアニオン除去用脱塩室へアニオン交換体を再生する水酸化物イオンを再生剤として供給する第3の再生イオン交換膜を介して隣接することを特徴とする請求項5に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記第1の濃縮室と前記第1のカチオン除去用脱塩室とを含む第1のユニットが2以上隣接して設けられ、
一の前記第1のユニットにおける前記第1のアニオン除去用脱塩室が、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である第1の中間イオン交換膜を介して、他の前記第1のユニットにおける前記第1のカチオン除去用脱塩室と隣接することを特徴とする請求項1、5または6に記載の電気式脱イオン製造装置。
【請求項8】
前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室とを含む第2のユニットが、少なくともカチオン交換体が充填された第2のカチオン除去用脱塩室を含んでおり、かつ、該第2のカチオン除去用脱塩室が、前記第2の濃縮室の前記陽極側にカチオン交換膜を介して隣接しており、
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記第1のカチオン除去用脱塩室と前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2のカチオン除去用脱塩室とは、被処理水が前記第1のアニオン除去用脱塩室,前記第1のカチオン除去用脱塩室,前記第2のアニオン除去用脱塩室,前記第2のカチオン除去用脱塩室の順番で通過、もしくは前記第1のカチオン除去用脱塩室,前記第1のアニオン除去用脱塩室,前記第2のカチオン除去用脱塩室,前記第2のアニオン除去用脱塩室の順番で通過するように直列に連通されていることを特徴とする請求項1または4に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
前記第1のカチオン除去用脱塩室と前記陽極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室と前記第2のカチオン除去用脱塩室とを含む前記第2のユニットが2以上隣接して設けられ、
一の前記第2のユニットにおける前記第2のカチオン除去用脱塩室が、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である第3の中間イオン交換膜を介して、他の前記第2のユニットにおける前記第2のアニオン除去用脱塩室と隣接することを特徴とする請求項8に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項10】
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記陰極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室と前記第2のカチオン除去用脱塩室とを含む前記第2のユニットが設けられ、
一の前記第2のユニットにおける前記第1のアニオン除去用脱塩室が、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である第4の中間イオン交換膜を介して、他の前記第2のユニットにおける前記第2のカチオン除去用脱塩室と隣接することを特徴とする請求項8に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項11】
前記第1のアニオン除去用脱塩室と前記陰極との間に、前記第2のアニオン除去用脱塩室と前記第2の濃縮室と前記第2のカチオン除去用脱塩室とを含む前記第2のユニットが2以上隣接して設けられ、
一の前記第2のユニットにおける前記第2のアニオン除去用脱塩室が、アニオン交換膜およびカチオン交換膜の少なくとも一方からなるイオン交換膜である第3の中間イオン交換膜を介して、他の前記第2のユニットにおける前記第2のカチオン除去用脱塩室と隣接することを特徴とする請求項8または10に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項12】
前記第1のアニオン除去用脱塩室に充填されたアニオン交換体は、前記第2のアニオン除去用脱塩室に充填されたアニオン交換体よりもシリカ吸着性能が低いアニオン交換体であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項13】
前記第1のアニオン除去用脱塩室に充填されたアニオン交換体は、II型強塩基性アニオ
ン交換体、中塩基性アニオン交換体および弱塩基性アニオン交換体のうち、少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項14】
前記第1の濃縮室および前記第2の濃縮室には少なくともアニオン交換体が充填されていることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−39510(P2013−39510A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176939(P2011−176939)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】