説明

電気式脱イオン水製造装置

【課題】スケールの発生を抑制しつつ、高純度の脱イオン水を製造可能とする。
【解決手段】対向する陰極と陽極との間に少なくとも1つの脱塩処理部が設けられた電気式脱イオン水製造装置であって、脱塩処理部は、脱塩室Dと、脱塩室Dの両隣に設けられた一対の濃縮室C1、C2とから構成され、脱塩室Dは第1小脱塩室D-1と第2小脱塩室D-2とに仕切られ、第1小脱塩室D-1にはアニオン交換体が充填され、第2小脱塩室D-2には被処理水が最後に通過するイオン交換体がアニオン交換体となる順序で、アニオン交換体とカチオン交換体とが充填され、濃縮室C1にはアニオン交換体とカチオン交換体のいずれか一方または双方が充填され、濃縮室C2にはアニオン交換体とカチオン交換体の双方が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置に関するものであり、特に脱塩室の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換体に被処理水を通水させて脱イオンを行う脱イオン水製造装置が知られている。このような製造装置では、イオン交換体のイオン交換基が飽和して脱塩性能が低下したときに、薬剤(酸やアルカリ)によってイオン交換基の再生を行う必要がある。具体的には、イオン交換基に吸着した陰イオンや陽イオンを酸またはアルカリ由来のH+やOH-で置換する必要がある。近年、上記のような運転上の不利な点を解消するため、薬剤による再生が不要な電気式脱イオン水製造装置が開発され、実用化されている。
【0003】
電気式脱イオン水製造装置は、電気泳動と電気透析を組み合わせた装置である。一般的な電気式脱イオン水製造装置の基本構成は次のとおりである。すなわち、電気式脱イオン水製造装置は、脱塩室と、該脱塩室の両側に配置された一対の濃縮室と、一方の濃縮室の外側に配置された陽極室と、他方の濃縮室の外側に配置された陰極室とを有する。脱塩室は、対向配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、それら交換膜の間に充填されたイオン交換体(アニオン交換体又は/及びカチオン交換体)とを有する。以下、電気式脱イオン水製造装置を「脱イオン水製造装置」と略称する場合もある。
【0004】
上記のような構成を有する脱イオン水製造装置によって脱イオン水を製造するには、陽極室および陰極室にそれぞれ設けられている電極間に直流電圧を印加した状態で脱塩室に被処理水を通水させる。脱塩室では、アニオン交換体によってアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)が、カチオン交換体によってカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が捕捉される。同時に、脱塩室内のアニオン交換体とカチオン交換体の界面で水の解離反応が起こり、水素イオンと水酸化物イオンが発生する(2H2O→H++OH-)。イオン交換体に捕捉されたイオン成分は、この水素イオン及び水酸化物イオンと交換されてイオン交換体から遊離する。遊離したイオン成分はイオン交換体を伝ってイオン交換膜(アニオン交換膜またはカチオン交換膜)まで電気泳動し、イオン交換膜で電気透析されて濃縮室へ移動する。濃縮室に移動したイオン成分は、濃縮室を流れる水によって排出される。
【0005】
以上のように、電気式脱イオン水製造装置では、水素イオンと水酸化物イオンがイオン交換体を再生する再生剤(酸やアルカリ)として連続的に作用する。このため、上述のような薬剤によるイオン交換体の再生が基本的には不要であり、連続運転が可能である。
【0006】
しかし、脱イオン水製造装置を連続運転すると、被処理水中の硬度成分が析出し、炭酸カルシウムや水酸化マグネシウム等のスケールが発生する。スケールは特に、陰極室と濃縮室を隔てるアニオン交換膜の濃縮室側表面で発生する(図6参照)。また、脱塩室が複数設けられている場合には、2つの脱塩室に挟まれた濃縮室のアニオン交換膜表面でスケールが発生する(7参照)。その理由は次のとおりである。陰極室内における電気分解によって生成された水酸化イオンや、脱塩室内における水解離反応によって生成された水酸化イオンが通過することによって、濃縮室のアニオン交換膜表面はアルカリ性になっている。すると、脱塩室からカチオン交換膜を通過して濃縮室へ移動してきた硬度成分(マグネシウムイオンやカルシウムイオン)が、アルカリ性になっているアニオン交換膜表面において反応し、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムが生成される。濃縮水に炭酸イオンが含まれている場合には、さらに炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムが生成される。スケールが発生すると、スケール発生部分における電気抵抗が上昇し、電流が流れにくくなる。すなわち、スケールの発生が無い場合と同一の電流値を得るためには電圧を上昇させる必要があり、消費電力の増加を招く。また、濃縮室内における電流密度が不均一になる場合もある。スケールの量がさらに増加すると、通水差圧の上昇が生じるとともに、電気抵抗がさらに上昇する。この場合、イオン除去に必要な量の電流が流せなくなり、処理水質の低下を招く。加えて、成長したスケールがイオン交換膜の内部にまで侵入し、イオン交換膜を損傷させることもある。
【0007】
そこで、上記のようなスケールの生成を抑制する方法の一つとして、濃縮室内にアニオン交換体を充填することが提案されている。例えば、特許文献1には、濃縮室のアニオン交換膜側に特定構造のアニオン交換体が配置された脱イオン水製造装置が開示されている。この脱イオン水製造装置によれば、OH-の濃縮水への拡散希釈が、多孔性アニオン交換体表面において促進され、該表面におけるOH-濃度の速やかな低減が図られる。他方、硬度成分イオンは、多孔性アニオン交換体の内部に侵入し難くなる。この結果、OH-と硬度成分イオンとが接触し反応する機会が低減し、スケールの析出や蓄積が抑制される。
【0008】
また、特許文献2には、水透過性の異なるイオン交換体の層が濃縮室内に二層以上設けられ、かつ、水透過性の小さいイオン交換体の層がアニオン交換膜側に配置され、その層の少なくとも表面にアニオン交換基が与えられた脱イオン水製造装置が開示されている。この脱イオン水製造装置によれば、水透過性の大きな層を移動してきた、硬度成分を多く含む濃縮水が水透過性の小さい層に到達すると、該濃縮水の移動力が低減する。この結果、硬度成分を多く含む濃縮水が陰イオン交換膜の濃縮室側表面に流れ込むことが防止され、スケールの析出や蓄積が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−225078号公報
【特許文献2】特開2002―1345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、脱イオン水製造装置では、濃縮室にアニオン交換体を充填することでスケールの発生を回避できたとしても、スケールの発生とは別の次のような問題が発生する。濃縮水に含まれる炭酸やシリカに代表される弱酸アニオン成分が濃縮室と脱塩室とを仕切るイオン交換膜を通過して処理水中に拡散し、処理水の純度を低下させる。かかる処理水の純度低下は、濃縮室にアニオン交換体が充填されている場合により顕著に現れてしまう。以下、炭酸とシリカを例として、具体的に説明する。
【0011】
一般的に、カチオン交換膜はカチオン成分のみ選択的に透過させるイオン交換膜である。その原理は、膜自体に−(マイナス)電荷を持たせ、−電荷を有するアニオン成分に対して反発力を働かせて透過を阻止するものである。一方、炭酸(二酸化炭素)やシリカは水溶液中で各イオン種の形態を取り、それらは平衡状態にある。
【0012】
CO2⇔HCO3-⇔CO32-
SiO2⇔Si(OH)4⇔Si(OH)3-
上記のような平衡状態において各イオン種が全体に占める割合は、pHによって大きく変化する。pHが低い領域では炭酸やシリカの大部分はイオン化していない、つまり電荷を持たない状態でCO2、SiO2として存在している。
【0013】
このため、pHが低い領域でカチオン交換膜を用いて炭酸やシリカの移動を阻止しようとしても、−電荷による反発力が有効に働かないために、これらの分子は容易にカチオン交換膜を通過してしまう。
【0014】
図6を参照して具体的に説明する。脱塩室Dの陰極側にはカチオン交換膜を介して濃縮室C2が配置され、陽極側にはアニオン交換膜を介して濃縮室C1が配置されている。ここで、脱塩室Dにはカチオン交換体およびアニオン交換体が混床形態で充填され、濃縮室C1、C2にはアニオン交換体が単床形態でそれぞれ充填されている。被処理水は脱塩室Dを通過して系外に排出される。
【0015】
脱塩室Dから濃縮室C2に向かって、被処理水中のカチオン成分と共に水解離反応により生じる多量の水素イオン(H+)がカチオン交換体を伝って移動してくる。濃縮室C2にはアニオン交換体が充填されているので、カチオン交換膜を通過した水素イオン(H+)は、カチオン交換膜の濃縮室側表面で一斉に放出される。すなわち、カチオン交換膜の濃縮室側表面は、水素イオン(H+)が多い状態(=pHが低い状態)になる。
【0016】
一方、濃縮水に含まれる炭酸やシリカ(図中には炭酸が示されているが、シリカについても同じ)は、濃縮室C1及びC2内のアニオン交換体によりイオンとして捕捉される。捕捉された炭酸やシリカは、濃縮室C1及びC2内のアニオン交換体を伝って、これら濃縮室内を移動し、カチオン交換体との接合点で放出される。すなわち、濃縮室C2内で捕捉された炭酸やシリカは、濃縮室C2内のアニオン交換体を伝って、該濃縮室C2と脱塩室Dとを仕切るカチオン交換膜表面に移動し、該表面において放出される。この結果、カチオン交換膜表面における炭酸やシリカの存在量が増加する。換言すれば、カチオン交換膜表面における炭酸やシリカの局所濃度が上昇する。
【0017】
要するに、濃縮室C2と脱塩室Dとを仕切るカチオン交換膜表面では、炭酸やシリカの濃度が高くなる上に、pHが低くなる。このため、pHが低い条件下でイオン化しない炭酸やシリカは、容易にカチオン交換膜を透過して処理水中に拡散してしまう。
【0018】
図7に示す脱イオン水製造装置には2つの脱塩室(D1、D2)が設けられている。このように複数の脱塩室が設けられている場合には、濃縮水にもともと含まれている炭酸やシリカに加え、被処理水に含まれている炭酸やシリカが脱塩室から濃縮室へ移動してくる。従って、濃縮室内における炭酸やシリカの濃度が上昇し、炭酸やシリカの脱塩室への混入による処理水の純度低下はより顕著となる(図中には炭酸が示されているが、シリカについても同じ)。
【0019】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スケールの発生を抑制しつつ、高純度の脱イオン水を製造可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するためには、濃縮室と脱塩室を仕切るイオン交換膜表面におけるアニオン成分の存在量(局所濃度)を減少させることが有効である。さらに、上記イオン交換膜表面を通過して微量のアニオン成分が脱塩室に移動した場合に備えて、脱塩室内に移動してきたアニオン成分を捕捉する手段を講じることが有効である。
【0021】
そこで、本発明の脱イオン水製造装置では、対向する陰極と陽極との間に少なくとも1つの脱塩処理部が設けられ、該脱塩処理部は、脱塩室と、該脱塩室の両隣に設けられた一対の濃縮室とから構成されている。そして、前記脱塩室は、イオン交換膜によって、前記一対の濃縮室の一方に隣接する第1小脱塩室と、前記一対の濃縮室の他方に隣接する第2小脱塩室とに仕切られ、前記第1小脱塩室には、アニオン交換体が充填され、前記第2小脱塩室には、被処理水が最後に通過するイオン交換体がアニオン交換体となる順序で、アニオン交換体とカチオン交換体とが充填されている。さらに、前記一対の濃縮室のうち、前記第1小脱塩室に隣接する第1の濃縮室にはアニオン交換体が充填され、前記一対の濃縮室のうち、前記第2小脱塩室に隣接する第2の濃縮室にはアニオン交換体およびカチオン交換体が充填されている。
【0022】
上記のように、第2小脱塩室に隣接する第2の濃縮室には、アニオン交換体およびカチオン交換体の双方が充填されている。すなわち、第2の濃縮室内には、アニオン交換体とカチオン交換体の接合点が多数存在している。換言すれば、アニオン成分が放出されるアニオン交換体とカチオン交換体の接合点は、第2の濃縮室と第2小脱塩室を仕切るイオン交換膜上のみでなく、第2の濃縮室全体に広く分布している。よって、第2の濃縮室と第2小脱塩室を仕切るイオン交換膜上のアニオン成分の存在量(局所濃度)が減少する。
【0023】
さらに、上記イオン交換膜を通過してアニオン成分の一部が第2小脱塩室へ移動した場合であっても、第2小脱塩室に移動したアニオン成分は、第2小脱塩室内のアニオン交換体によって捕捉され、第1小脱塩室を介して第1の濃縮室へ移動する。よって、炭酸やシリカなどのアニオン成分が処理水中に拡散することがない。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スケールの発生を抑制しつつ、高純度の脱イオン水を製造可能な電気式脱イオン水製造装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の電気式脱イオン水製造装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の電気式脱イオン水製造装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】本発明の電気式脱イオン水製造装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の電気式脱イオン水製造装置の第4の実施形態の他例を示す概略構成図である。
【図5】比較例を示す概略構成図である。
【図6】濃縮水中の炭酸成分が処理水中に拡散する原理を示す図である。
【図7】被処理水中の炭酸成分が処理水中に再拡散する原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態1)
以下、図面を参照して、本発明の電気式脱イオン水製造装置の実施形態の一例について説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係る脱イオン水製造装置の概略構成図である。図1に示す脱イオン水製造装置では、陰極を備えた陰極室E1と陽極を備えた陽極室E2との間に脱塩処理部が設けられている。この脱塩処理部は、脱塩室Dと、脱塩室Dの両隣に配置された一対の濃縮室C1、C2から構成されている。以下の説明では、一対の濃縮室C1、C2のうち、陽極室E2と脱塩室Dとの間に位置している濃縮室C1を「第1の濃縮室C1」、陰極室E1と脱塩室Dとの間に位置している濃縮室C2を「第2の濃縮室C2」と呼んで区別する。もっとも、かかる区別は説明の便宜上の区別に過ぎない。
【0028】
ここで、脱塩室Dは、イオン交換膜によって二つの小脱塩室に仕切られている。具体的には、脱塩室Dは、第1の濃縮室C1に隣接している第1小脱塩室D-1と、第2の濃縮室C2に隣接している第2小脱塩室D-2とに仕切られている。
【0029】
これまで説明した各室は、枠体1の内部を複数のイオン交換膜によって多数の空間に仕切ることによって形成されており、イオン交換膜を介して隣接している。各室の配列状況を陰極室E1の側から順に説明すると、次の通りである。すなわち、陰極室E1は、第1のアニオン交換膜a1を介して第2の濃縮室C2に隣接し、第2の濃縮室C2は、第1のカチオン交換膜c1を介して第2小脱塩室D-2と隣接している。第2小脱塩室D-2は、第2のアニオン交換膜a2を介して第1小脱塩室D-1と隣接し、第1小脱塩室D-1は、第3のアニオン交換膜a3を介して第1の濃縮室C1と隣接している。第1の濃縮室C1は、第2のカチオン交換膜c2を介して陽極室E2と隣接している。
【0030】
以下の説明では、上記複数のイオン交換膜のうち、脱塩室Dを第1小脱塩室D-1と第2脱塩室D-2とに仕切っているアニオン交換膜を「中間イオン交換膜」と呼んで他のイオン交換膜と区別する場合がある。もっとも、かかる区別は説明の便宜上の区別に過ぎない。
【0031】
陰極室E1には陰極が収容されている。陰極は金属の網状体あるいは板状体であり、例えばステンレス製の網状体あるいは板状体である。
【0032】
陽極室E2には陽極が収容されている。陽極は金属の網状体あるいは板状体である。被処理水にCl-を含む場合、陽極に塩素が発生する。このため、陽極には耐塩素性能を有する材料を用いることが望ましく、一例として、白金、パラジウム、イリジウム等の金属、あるいはチタンをこれらの金属で被覆した材料が挙げられる。
【0033】
陰極室E1および陽極室E2には電極水がそれぞれ供給される。これらの電極水は電極近傍での電気分解により、水素イオン及び水酸化物イオンを発生させる。脱イオン水製造装置の電気抵抗を抑えるために、陰極室E1および陽極室E2にイオン交換体が充填されていることが好ましい。さらに、陰極室E1には、弱塩基性アニオン交換体、強塩基性アニオン交換体等のアニオン交換体が充填されていることがより好ましい。また、陽極室E2には、弱酸性カチオン交換体、強酸性カチオン交換体等のカチオン交換体が充填されていることがより好ましい。
【0034】
第1の濃縮室C1および第2の濃縮室C2は、脱塩室Dから排出されるアニオン成分またはカチオン成分を取り込み、それらを系外に放出するために設けられている。第1の濃縮室C1にはアニオン交換体が単床形態で充填されている。一方、第2の濃縮室C2にはアニオン交換体とカチオン交換体が混床形態で充填されている。
【0035】
第1小脱塩室D-1には、アニオン交換体が単床形態で充填されている。また、第2小脱塩室D-2には、アニオン交換体およびカチオン交換体が複床形態で充填されている。具体的には、第2小脱塩室D-2への被処理水の流入方向に沿ってカチオン交換体層とアニオン交換体層が積層されている。より具体的には、被処理水の通水方向前段にカチオン交換体層が配置され、通水方向後段にアニオン交換体層が配置されている。すなわち、第2小脱塩室D-2に流入した被処理水は、カチオン交換体層とアニオン交換体層をこの順で通過する。換言すれば、第2小脱塩室D-2において被処理水が最後に通過するイオン交換体層がアニオン交換体層となる順序でアニオン交換体層とカチオン交換体層とが積層されている。
【0036】
図1では、枠体1が一体的に示されているが、実際には部屋毎に別々の枠体を備え、それら枠体同士が互いに密着して設けられている。枠体1の素材は絶縁性を有し、被処理水や濃縮水などが漏洩しない素材であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS、ポリカーボネート、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)等の樹脂を一例として挙げることができる。
【0037】
ここで、本発明の理解を容易するために、図1に示す脱イオン水製造装置における被処理水および濃縮水の主な流れについて予め概説する。被処理水は、第1小脱塩室D-1に供給され、該小脱塩室D-1を通過する。第1小脱塩室D-1を通過した被処理水は、第2小脱塩室D-2に供給され、該小脱塩室D-2を通過した後に系外に排出される。一方、濃縮水は、第1の濃縮室C1および第2の濃縮室C2にそれぞれ並列的に供給され、これら濃縮室を通過して系外に排出される。
【0038】
上記のように被処理水および濃縮水を流すためにいくつかの流路が設けられている。図1において枠体1の上方に示されている流路U1は、その一端が被処理水の供給口に接続され、他端が第1小脱塩室D-1に接続されている。枠体1の下方に示されている流路L1は、その一端が第1小脱塩室D-1に接続され、他端が第2小脱塩室D-2に接続されている。枠体1の上方に示されている流路U2は、その一端が第2小脱塩室D-2に接続され、他端が処理水の排出口に接続されている。
【0039】
図1において枠体1の上方に示されている流路U3は、その一端が濃縮水の供給口に接続され、他端側は途中で分岐されて、第1の濃縮室C1、第2の濃縮室C2にそれぞれ接続されている。枠体1の下方に示されている流路L2は、その一端が第1の濃縮室C1、第2の濃縮室C2にそれぞれ接続され、他端側は途中で合流した後に濃縮水の排出口に接続されている。
【0040】
なお、図示は省略されているが、陰極室E1および陽極室E2には、電極水を供給するための流路と供給された電極水を排出するための流路がそれぞれ接続されている。
【0041】
次に、上記構成を有する脱イオン水製造装置の動作および作用について説明する。第1の濃縮室C1、第2の濃縮室C2には、流路U3から濃縮水が供給され、供給された濃縮水は流路L2から排出される。また、陰極室E1および陽極室E2には、図示しない流路から電極水が供給され、供給された電極水は図示しない流路から排出される。さらに、陽極、陰極の間には所定の直流電圧が印加される。
【0042】
以上の状態の下で、流路U1から第1小脱塩室D-1に被処理水が供給される。供給された被処理水中のアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)は、被処理水が第1小脱塩室D-1を通過する過程で捕捉される。第1小脱塩室D-1において捕捉されたアニオン成分は、第1小脱塩室D-1と第3のアニオン交換膜a3を介して隣接する第1の濃縮室C1へ移動し、該第1の濃縮室C1を通水する濃縮水と共に系外に排出される。
【0043】
次に、第1小脱塩室D-1を通過した被処理水は、流路L1を介して第2小脱塩室D-2に供給される。ここで、第2小脱塩室D-2には、カチオン交換体層とアニオン交換体層とがこの順で積層されていることは既述の通りである。よって、第2小脱塩室D-2に供給された被処理水は、まずカチオン交換体層を通過し、その後にアニオン交換体層を通過する。その際、被処理水がカチオン交換体層を通過する過程で、被処理水中のカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が捕捉される。第2小脱塩室D-2内のカチオン交換体によって捕捉されたカチオン成分は、第2小脱塩室D-2と第1のカチオン交換膜c1を介して隣接する第2の濃縮室C2へ移動し、該第2の濃縮室C2を通水する濃縮水と共に系外に排出される。
【0044】
さらに、第2小脱塩室D-2内のカチオン交換体層を通過した被処理水は、アニオン交換体層を通過する。この際、被処理水中のアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)が再度捕捉される。第2小脱塩室D-2のアニオン交換体によって捕捉されたアニオン成分は、第2小脱塩室D-2と中間イオン交換膜a2を介して隣接する第1小脱塩室D-1へ移動する。第1小脱塩室D-1へ移動したアニオン成分は、第1小脱塩室D-1と第3のアニオン交換膜a3を介して隣接する第1の濃縮室C1へ移動し、該第1の濃縮室C1を通水する濃縮水と共に系外に排出される。
【0045】
以上が本実施形態に係る脱イオン水製造装置における脱イオン処理の流れである。ここで、第2の濃縮室C2に供給される濃縮水に含まれているアニオン成分(炭酸やシリカ)の一部が第1のカチオン交換膜c1を通過し、第2小脱塩室D-2へ移動する可能性があることは既述のとおりである。
【0046】
そこで、本実施形態における第2の濃縮室C2には、アニオン交換体およびカチオン交換体が混床形態で充填されている。すなわち、第2の濃縮室C2内には、アニオン交換体とカチオン交換体の接合点が多数存在している。換言すれば、炭酸やシリカが放出されるアニオン交換体とカチオン交換体の接合点は、第2の濃縮室C2と第2小脱塩室D-2を仕切る第1のカチオン交換膜c1上のみでなく、第2の濃縮室C2の全体に広く分布している。よって、第1のカチオン交換膜c1上の炭酸やシリカの存在量(局所濃度)は、第2の濃縮室C2内にアニオン交換体が単床形態で充填されている場合に比べて減少する。
【0047】
但し、アニオン交換体とカチオン交換体との接合点は、第1のカチオン交換膜c1上にも存在している。よって、第1のカチオン交換膜c1の陰極側表面上で放出された炭酸やシリカの一部が第1のカチオン交換膜c1を通過する可能性がある。第1のカチオン交換膜c1を通過した炭酸やシリカは、第1のカチオン交換膜c1の陽極側表面上に一様に拡散する。すなわち、炭酸やシリカは、第2小脱塩室D-2内のアニオン交換体層と接している領域のみでなく、カチオン交換体層と接している領域にも拡散する。そして、炭酸やシリカはカチオン交換体によっては捕捉されないので、第1のカチオン交換膜c1の陽極側表面のうち、カチオン交換体層と接している領域に拡散した炭酸やシリカは、被処理水とともにカチオン交換体層を通過してしまう。
【0048】
しかし、第2小脱塩室D-2には、被処理水の通水方向に沿ってカチオン交換体層とアニオン交換体層とが積層されている。よって、カチオン交換体層を通過した炭酸やシリカは、次段のアニオン交換体層において再度イオン化されて捕捉され、第1小脱塩室D-1へ移動する。第1小脱塩室D-1に移動した炭酸やシリカは、第3のアニオン交換膜a3を通過して、第1の濃縮室C1へ移動し、該第1の濃縮室C1を通水する濃縮水と共に系外に排出される。従って、第2の濃縮室C2に供給される濃縮水に含まれている炭酸やシリカが処理水中に拡散し、処理水の純度を低下させることはない。
【0049】
なお、第2小脱塩室D-2内のカチオン交換体層とアニオン交換体層の積層順序が逆の場合には、第1のカチオン交換膜c1の陽極側表面のうち、カチオン交換体層と接している領域に拡散した炭酸やシリカを捕捉することはできず、処理水の純度が低下することは自明である。
【0050】
一方、第2小脱塩室D-2内に設けられたイオン交換体の積層体の最終段がアニオン交換体層であれば上記効果が得られることが理解できるはずである。換言すれば、第2小脱塩室D-2を通過する被処理水が最後に通過するイオン交換体がアニオン交換体であれば上記効果が得られる。よって、最終段のアニオン交換体層よりも前段のイオン交換体層の種類、積層順序、積層数は特に限定されない。例えば、カチオン交換体層とアニオン交換体層を最終段がアニオン交換体層となる順序で4層以上積層してもよい。
【0051】
さらに、本実施形態に係る脱イオン水製造装置では、被処理水が最初に供給される第1小脱塩室D-1にアニオン交換体が充填され、被処理水が次に供給される第2小脱塩室D-2には、カチオン交換体とアニオン交換体がこの順で積層されている。よって、被処理水は、最初にアニオン交換体を通過する。これにより、被処理水からアニオン成分が除去され、被処理水のpHが上昇する。
【0052】
さらに、第1小脱塩室D-1を通過した被処理水は、カチオン交換体とアニオン交換体がこの順で積層されている第2小脱塩室D-2に供給される。すなわち、第1小脱塩室D-1内のアニオン交換体を通過した被処理水は、次いでカチオン交換体を通過する。これにより、被処理水からカチオン成分が除去され、被処理水のpHが低下する。要するに、本実施形態の構成よれば、被処理水は、アニオン交換体とカチオン交換体を交互に通過する。
【0053】
ここで、アニオン交換体のアニオン成分の捕捉能力は、被処理水のpHが低い場合に高まり、カチオン交換体のカチオン成分の捕捉能力は、被処理水のpHが高い場合に高まる。よって、被処理水がアニオン交換体、カチオン交換体、アニオン交換体の順で通過することになる本実施形態の構成によれば、炭酸やシリカを含むアニオン成分の除去能力のみでなく、カチオン成分の除去能力も向上し、処理水の純度がより一層向上する。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る脱イオン水製造装置によれば、濃縮水に含まれている炭酸やシリカの一部がイオン交換膜を通過して処理水中に拡散することが防止されることによって処理水の純度が向上する効果に加えて、被処理水に含まれているアニオン成分およびカチオン成分の双方の除去能力も向上する。
【0055】
なお、第1の濃縮室C1には、アニオン交換体に代えてカチオン交換体を単床形態で充填してもよく、アニオン交換体とカチオン交換体を混床形態で充填してもよい。
(実施形態2)
以下、図2を参照して、本発明の電気式脱イオン水製造装置の実施形態の他例について説明する。もっとも、本実施形態に係る脱イオン水製造装置は、第2の濃縮室C2におけるイオン交換体の充填形態に関してのみ実施形態1に係る脱イオン水製造装置と異なる。そこで、実施形態1に係る脱イオン水製造装置と異なる構成についてのみ以下に説明し、共通する構成についての説明は適宜省略する。
【0056】
図2に示すように、本実施形態における第2の濃縮室C2内には、アニオン交換体とカチオン交換体が複床形態で充填されている。具体的には、第2の濃縮室C2内には、アニオン交換体層とカチオン交換体層とが形成されている。アニオン交換体層とカチオン交換体層は、第2の濃縮室C2内における濃縮水の通水方向と交差する方向において互いに隣接しており、かつ、アニオン交換体層は陰極側に位置し、カチオン交換体層は陽極側に位置している。換言すれば、アニオン交換体層は第1のアニオン交換膜側に位置し、カチオン交換体層は第1のカチオン交換膜側に位置しており、これら2つの層は第2の濃縮室C2の略中央において接している。結果、炭酸やシリカが放出されるアニオン交換体とカチオン交換体の接合点は、アニオン交換体層とカチオン交換体層の界面(第2の濃縮室C2の略中央)にのみ存在し、第1のカチオン交換膜c1上には存在しない。よって、第1のカチオン交換膜c1上の炭酸やシリカの存在量(局所濃度)は極めて低くなる。しかし、第1のカチオン交換膜c1上の炭酸やシリカの存在量(局所濃度)が非常に低い場合であっても、微量の炭酸やシリカがカチオン交換膜c1を通過して第2小脱塩室D-2へ移動する可能性がある。もっとも、第2小脱塩室D-2へ移動した炭酸やシリカは上記原理によって第2小脱塩室D-2内のアニオン交換体によって捕捉される。
【0057】
なお、濃縮室が電極室を兼ねている構成も本発明に含まれる。例えば、図1や図2に示す第2の濃縮室C2に陰極を設けて陰極室E1を省略してもよく、第1の濃縮室C1に陽極を設けて陽極室E2を省略してもよい。第1の濃縮室C1に陽極を設ける場合には、該第1の濃縮室C1内には、少なくともカチオン交換体を充填する。
【0058】
なお、図2に示す構成では、第2の濃縮室C2内のアニオン交換体層とカチオン交換体層の厚み(幅)は略同一である。すなわち、第2の濃縮室C2内におけるアニオン交換体およびカチオン交換体の充填量の比率は略1:1である。しかし、アニオン交換体とカチオン交換体の充填量の比率は適宜変更することができる。
(実施形態3)
以下、図面を参照して、本発明の電気式脱イオン水製造装置の実施形態の他例について説明する。もっとも、本実施形態に係る脱イオン水製造装置は、陰極室と陽極室との間に複数の脱塩処理部が設けられている点を除いて、実施形態1に係る脱イオン水製造装置と共通の構成を有する。そこで、実施形態1に係る脱イオン水製造装置と異なる構成についてのみ以下に説明し、共通する構成についての説明は適宜省略する。
【0059】
図3に示すように、陰極室E1と陽極室E2との間には2つの脱塩処理部が設けられている。2つの脱塩処理部のうち、相対的に陰極に近接している第1の脱塩処理部は、脱塩室D1と、脱塩室D1の両隣に配置されている一対の濃縮室C1、C2から構成されている。一方、相対的に陽極に近接している第2の脱塩処理部は、脱塩室D2と、脱塩室D2の両隣に配置されている一対の濃縮室C1、C3から構成されている。
【0060】
以下の説明では、第1の脱塩処理部を構成している脱塩室D1を「陰極側脱塩室D1」、第2の脱塩処理部を構成している脱塩室D2を「陽極側脱塩室D2」と呼んで区別する。また、濃縮室C1を「第1の濃縮室C1」、濃縮室C2を「第2の濃縮室C2」、濃縮室C3を「第3の濃縮室C3」と呼んで区別する。もっとも、かかる区別は説明の便宜上の区別に過ぎない。
【0061】
さらに、陰極側脱塩室D1および陽極側脱塩室D2は、イオン交換膜によってそれぞれ二つの小脱塩室に仕切られている。以下の説明では、陰極側脱塩室D1を構成している二つの小脱塩室のうち、第1の濃縮室C1と隣接している小脱塩室を「陰極側第1小脱塩室D1-1」、第2の濃縮室C2と隣接している小脱塩室を「陰極側第2小脱塩室D1-2」と呼ぶ。また、陽極側脱塩室D2を構成している二つの小脱塩室のうち、第3の濃縮室C3と隣接している小脱塩室を「陽極側第1小脱塩室D2-1」、第1の濃縮室C1と隣接している小脱塩室を「陽極側第2小脱塩室D2-2」と呼ぶ。かかる区別も説明の便宜上の区別であることは勿論である。
【0062】
各室の配列状況を陰極室E1の側から順に説明すると、次の通りである。すなわち、陰極室E1は、第1のアニオン交換膜a1を介して第2の濃縮室C2に隣接し、第2の濃縮室C2は、第1のカチオン交換膜c1を介して陰極側第2小脱塩室D1-2と隣接している。陰極側第2小脱塩室D1-2は、第2のアニオン交換膜a2を介して陰極側第1小脱塩室D1-1と隣接し、陰極側第1小脱塩室D1-1は、第3のアニオン交換膜a3を介して第1の濃縮室C1と隣接している。第1の濃縮室C1は、第2のカチオン交換膜c2を介して陽極側第2小脱塩室D2-2と隣接し、陽極側第2小脱塩室D2-2は、第4のアニオン交換膜a4を介して陽極側第1小脱塩室D2-1と隣接している。陽極側第1小脱塩室D2-1は、第5のアニオン交換膜a5を介して第3の濃縮室C3と隣接し、第3の濃縮室C3は、第3のカチオン交換膜c3を介して陽極室E2と隣接している。
【0063】
各濃縮室C1、C2、C3は、陰極側脱塩室D1または陽極側脱塩室D2から排出されるアニオン成分またはカチオン成分を取り込み、それらを系外に放出するために設けられている。第3の濃縮室C3には、アニオン交換体が単床形態で充填されている。一方、第1の濃縮室C1および第2の濃縮室C2には、アニオン交換体とカチオン交換体が混床形態で充填されている。
【0064】
陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1には、それぞれアニオン交換体が単床形態で充填されている。また、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2には、それぞれアニオン交換体およびカチオン交換体が複床形態で充填されている。なお、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2におけるアニオン交換体およびカチオン交換体の具体的な充填形態は実施形態1において説明した通りである。
【0065】
すなわち、本実施形態に係る脱イオン水製造装置には、実施形態1で説明した脱塩処理部と実質的に同一の脱塩処理部が2つ設けられている。
【0066】
次に、図3に示す脱イオン水製造装置における被処理水および濃縮水の主な流れについて概説する。被処理水は、陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1にそれぞれ並列的に供給され、これら小脱塩室を通過する。陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1を通過した被処理水は、これら小脱塩室外で一度合流した後に分流されて、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2にそれぞれ並列的に供給され、これら小脱塩室を通過した後に系外に排出される。一方、濃縮水は、各濃縮室C1、C2、C3にそれぞれ並列的に供給され、これら濃縮室を通過して系外に排出される。
【0067】
上記のように被処理水および濃縮水を流すためにいくつかの流路U1〜U3、L1〜L2が設けられている。図3において枠体1の上方に示されている流路U1は、その一端が被処理水の供給口に接続され、他端側は途中で分岐されて、陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1にそれぞれ接続されている。枠体1の下方に示されている流路L1は、その一端が陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1にそれぞれ接続され、他端側は途中で合流した後に分岐されて、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2にそれぞれ接続されている。枠体1の上方に示されている流路U2は、その一端が陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2にそれぞれ接続され、他端側は途中で合流して処理水の排出口に接続されている。
【0068】
図3において枠体1の上方に示されている流路U3は、その一端が濃縮水の供給口に接続され、他端側は途中で分岐されて、第1の濃縮室C1、第2の濃縮室C2および第3の濃縮室C3にそれぞれ接続されている。枠体1の下方に示されている流路L2は、その一端が第1の濃縮室C1、第2の濃縮室C2および第3の濃縮室C3にそれぞれ接続され、他端側は途中で合流した後に濃縮水の排出口に接続されている。
【0069】
次に、上記構成を有する脱イオン水製造装置の動作および作用について説明する。各濃縮室C1、C2、C3には、流路U3から濃縮水が供給され、流路L2から排出される。また、陰極室E1および陽極室E2には、図示しない流路から電極水が供給され、供給された電極水は図示しない流路から排出される。さらに、陽極、陰極の間には所定の直流電圧が印加される。
【0070】
以上の状態の下で、流路U1から陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1に被処理水が並列的に供給される。供給された被処理水中のアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)は、被処理水が第1小脱塩室D1-1、D2-1を通過する過程で捕捉される。そして、陰極側第1小脱塩室D1-1において捕捉されたアニオン成分は、陰極側第1小脱塩室D1-1と第3のアニオン交換膜a3を介して隣接する第1の濃縮室C1へ移動し、該第1の濃縮室C1を通水する濃縮水と共に系外に排出される。一方、陽極側第1小脱塩室D2-1において捕捉されたアニオン成分は、陽極側第1小脱塩室D2-1と第5のアニオン交換膜a5を介して隣接する第3の濃縮室C3へ移動し、該第3の濃縮室C3を通水する濃縮水と共に系外に排出される。
【0071】
次に、陰極側第1小脱塩室D1-1および陽極側第1小脱塩室D2-1を通過した被処理水は、流路L1を介して陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2に供給される。ここで、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2には、カチオン交換体層とアニオン交換体層とがこの順で積層されていることは既述の通りである。よって、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2にそれぞれ供給された被処理水は、まずカチオン交換体層を通過し、その後にアニオン交換体層を通過する。その際、被処理水がカチオン交換体層を通過する過程で、被処理水中のカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が捕捉される。陰極側第2小脱塩室D1-2内のカチオン交換体によって捕捉されたカチオン成分は、陰極側第2小脱塩室D1-2と第1のカチオン交換膜c1を介して隣接する第2の濃縮室C2へ移動し、該第2の濃縮室C2を通水する濃縮水と共に系外に排出される。一方、陽極側第2小脱塩室D2-2内のカチオン交換体によって捕捉されたカチオン成分は、陽極側第2小脱塩室D2-2と第2のカチオン交換膜c2を介して隣接する第1の濃縮室C1へ移動し、該第1の濃縮室C1を通水する濃縮水と共に系外に排出される。
【0072】
さらに、陰極側第2小脱塩室D1-2および陽極側第2小脱塩室D2-2においてカチオン交換体層を通過した被処理水中のアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)は、被処理水が次段のアニオン交換体層を通過する過程で再度捕捉される。陰極側第2小脱塩室D1-2のアニオン交換体によって捕捉されたアニオン成分は、陰極側第2小脱塩室D1-2と中間イオン交換膜a2を介して隣接する陰極側第1小脱塩室D1-1へ移動する。陰極側第1小脱塩室D1-1へ移動したアニオン成分は、陰極側第1小脱塩室D1-1と第3のアニオン交換膜a3を介して隣接する第1の濃縮室C1へ移動し、該第1の濃縮室C1を通水する濃縮水と共に系外に排出される。一方、陽極側第2小脱塩室D2-2のアニオン交換体によって捕捉されたアニオン成分は、陽極側第2小脱塩室D2-2と中間イオン交換膜a4を介して隣接する陽極側第1小脱塩室D2-1へ移動する。陽極側第1小脱塩室D2-1へ移動したアニオン成分は、陽極側第1小脱塩室D2-1と第5のアニオン交換膜a5を介して隣接する第3の濃縮室C3へ移動し、該第3の濃縮室C3を通水する濃縮水と共に系外に排出される。
【0073】
以上が本実施形態に係る脱イオン水製造装置における脱イオン処理の流れである。本実施形態においても、第1の濃縮室C1および第2の濃縮室C2には、アニオン交換体およびカチオン交換体が混床形態で充填されている。よって、実施形態1で説明したのと同様の原理により、第1のカチオン交換膜c1および第2のカチオン交換膜c2上の炭酸やシリカの存在量(局所濃度)が減少する。
【0074】
しかし、本実施形態に係る脱イオン水製造装置のように、脱塩室が複数設けられている場合には、特定の濃縮室における炭酸やシリカの濃度が他の濃縮室におけるそれに比べて高くなる。例えば、本実施形態に係る脱イオン水製造装置においては、陰極側脱塩室D1に隣接している第1の濃縮室C1には、該濃縮室C1に供給される濃縮水に含まれている炭酸やシリカに加え、陰極側脱塩室D1から炭酸やシリカが移動してくる。また、陽極側脱塩室D2に隣接している第3の濃縮室C3には、該濃縮室C3に供給される濃縮水に含まれている炭酸やシリカに加え、陽極側脱塩室D2から炭酸やシリカが移動してくる。隣接する脱塩室から濃縮室へ炭酸やシリカが移動してくる原理は実施形態1において説明した通りである。よって、第1の濃縮室C1、第3の濃縮室C3では、第2の濃縮室C2に比べて炭酸やシリカの濃度が高くなり、カチオン交換膜を通過する炭酸やシリカの量も増大する。特に、第1の濃縮室C1は陽極側脱塩室D2と隣接しているので、第1の濃縮室C1から陽極側脱塩室D2への炭酸やシリカの移動(処理水への拡散)が問題となる。
【0075】
しかし、本実施形態に係る構成によれば、第1の濃縮室C1から陽極側第2小脱塩室D2-2へ移動した炭酸やシリカは、該脱塩室D2-2に充填されているアニオン交換体によって捕捉され、陽極側第1小脱塩室D2-1を介して第3の濃縮室C3に移動し、系外に排出される。したがって、第1の濃縮室C1から陽極側第2小脱塩室D2-2へ移動した炭酸やシリカが処理水に拡散することはない。
【0076】
また、被処理水が最初に供給される陰極側第1小脱塩室D1-1及び陽極側第1小脱塩室D2-1にはアニオン交換体が充填されている。また、陰極側第1小脱塩室D1-1及び陽極側第1小脱塩室D2-1を通過した被処理水が供給される陰極側第2小脱塩室D1-2及び陽極側第2小脱塩室D2-2には、カチオン交換体とアニオン交換体とがこの順で積層されている。すなわち、被処理水は、最初にアニオン交換体を通過し、次いでカチオン交換体を通過し、その後にアニオン交換体を再度通過する。よって、実施形態1で説明したのと同様の原理により、処理水の純度がより一層向上する。
(実施形態4)
以下、図4を参照して、本発明の電気式脱イオン水製造装置の実施形態の他例について説明する。もっとも、本実施形態に係る脱イオン水製造装置は、第1の濃縮室C1および第2の濃縮室C2におけるイオン交換体の充填形態に関してのみ実施形態3に係る脱イオン水製造装置と異なる。そこで、実施形態3に係る脱イオン水製造装置と異なる構成についてのみ以下に説明し、共通する構成についての説明は適宜省略する。
【0077】
図4に示すように、第1の濃縮室C1および第2の濃縮室C2内には、アニオン交換体層とカチオン交換体層がそれぞれ形成されている。また、アニオン交換体層とカチオン交換体層は、各濃縮室C1、C2内における濃縮水の通水方向と交差する方向において隣接している。さらに、各濃縮室C1、C2内のアニオン交換体層は、各濃縮室C1、C2内のカチオン交換体層よりも陰極側に位置している。換言すれば、各濃縮室C1、C2内のカチオン交換体層は、各濃縮室C1、C2内のアニオン交換体層よりも陽極側に位置している。
【0078】
すなわち、本実施形態に係る脱イオン水製造装置には、実施形態2で説明した脱塩処理部と実質的に同一の脱塩処理部が2つ設けられている。よって、第1のカチオン交換膜c1および第2のカチオン交換膜c2上の炭酸やシリカの存在量(局所濃度)が、実施形態3よりもさらに減少する。
【0079】
なお、図3や図4に示す第2の濃縮室C2に陰極を設けて陰極室E1を省略してもよく、第3の濃縮室C3に陽極を設けて陽極室E2を省略してもよい。第3の濃縮室C3に陽極を設ける場合には、該第3の濃縮室C3内には、少なくともカチオン交換体を充填する。
(比較試験)
本発明の効果を確認すべく、実施形態1に係る脱イオン水製造装置、実施形態2に係る脱イオン水製造装置および図5に示す脱イオン水製造装置(比較例)を用意し、比較試験を行った。
【0080】
図5に示す脱イオン水製造装置は、陰極室E1と、陽極室E2と、陰極室E1と陽極室E2の間に設けられた脱塩処理部とを有する。脱塩処理部は、脱塩室Dと該脱塩室Dの両隣に設けられた一対の濃縮室C1、C2とから構成されている。脱塩室Dおよび2つの濃縮室C1、C2には、アニオン交換体とカチオン交換体が混床形態で充填されている。
【0081】
今回の比較試験における条件(仕様、通水流量、供給水等)は以下のとおりである。なお、CERはカチオン交換体(カチオン交換樹脂)、AERはアニオン交換体(アニオン交換樹脂)の略である。
【0082】
・陰極室E1:寸法100×300×4mm AER充填
・陽極室E2:寸法100×300×4mm CER充填
・第1小脱塩室D-1:寸法100×300×8mm AER充填
・第2小脱塩室D-2:寸法100×300×8mm AER/CER充填
・濃縮室:寸法100×300×4mm AER/CER充填
・脱塩室流量:50L/h・濃縮室流量:5L/h・電極室流量:10L/h
・電極室、脱塩室、濃縮室供給水:二段RO透過水5±1μS/cm
・印加電流値:1A
以上の条件の下で上記3つの脱イオン水製造装置をそれぞれ200時間連続運転し、その後の処理水の比抵抗を測定した。不純物を全く含まない水の理論的な比抵抗値は25℃において18.2MΩ・cmである。脱イオン水の水質は比抵抗値が18.2MΩ・cmに近づけば近づくほど、清浄であると評価できる。さらに、比抵抗値が18.2MΩ・cmよりも高ければ高いほど、水質はより清浄であると評価できる。測定結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すとおり、本発明に係る脱イオン水製造装置では、比抵抗が18MΩ・cm程度の極めて清浄な処理水が得られた。一方、比較例に係る脱イオン水製造装置によって得られた処理水の比抵抗は約10MΩ・cmであった。処理水を成分分析した結果、処理水中の主な不純物は炭酸であった。また、本発明に係る脱イオン水製造装置によって得られた処理水中のシリカ濃度は、比較例に係る脱イオン水製造装置によって得られた処理水中のシリカ濃度よりも低かった。この比較試験により、本発明に係る脱イオン水製造装置によって高純度の脱イオン水を製造可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
1 枠体
E1 陰極室
E2 陽極室
C1 第1の濃縮室
C2 第2の濃縮室
C3 第3の濃縮室
D 脱塩室
D-1 第1小脱塩室
D-2 第2小脱塩室
D1 陰極側脱塩室
D1-1 陰極側第1小脱塩室
D1-2 陰極側第2小脱塩室
D2 陽極側脱塩室
D2-1 陽極側第1小脱塩室
D2-2 陽極側第2小脱塩室
a1〜a5 アニオン交換膜
c1〜c3 カチオン交換膜
U1〜U3、L1〜L2 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する陰極と陽極との間に少なくとも1つの脱塩処理部が設けられた電気式脱イオン水製造装置であって、
前記脱塩処理部は、脱塩室と、該脱塩室の両隣に設けられた一対の濃縮室とから構成され、
前記脱塩室は、イオン交換膜によって、前記一対の濃縮室の一方に隣接する第1小脱塩室と、前記一対の濃縮室の他方に隣接する第2小脱塩室とに仕切られ、
前記第1小脱塩室には、アニオン交換体が充填され、
前記第2小脱塩室には、被処理水が最後に通過するイオン交換体がアニオン交換体となる順序で、アニオン交換体とカチオン交換体とが充填され、
前記一対の濃縮室のうち、前記第1小脱塩室に隣接する第1の濃縮室には、アニオン交換体とカチオン交換体のいずれか一方または双方が充填され、
前記一対の濃縮室のうち、前記第2小脱塩室に隣接する第2の濃縮室には、アニオン交換体とカチオン交換体の双方が充填されている、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記第2の濃縮室には、アニオン交換体およびカチオン交換体が混床形態で充填されている、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記第2の濃縮室には、アニオン交換体およびカチオン交換体が複床形態で充填されており、
前記第2の濃縮室内のアニオン交換体層とカチオン交換体層は、前記第2の濃縮室内の濃縮水の通水方向と交差する方向において隣接しており、かつ、前記アニオン交換体層は陰極側に位置し、前記カチオン交換体層は陽極側に位置している、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記第1小脱塩室には、アニオン交換体層が一層形成され、
前記第2小脱塩室には、被処理水が最後に通過するイオン交換体がアニオン交換体となる順序で、アニオン交換体層とカチオン交換体層とが少なくとも一層ずつ積層されている、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
前記第2小脱塩室には、アニオン交換体層とカチオン交換体層とが交互に四層以上積層されている、請求項4に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記第2小脱塩室への被処理水の流入方向と、前記第2の濃縮室への濃縮水の流入方向とが逆向きとなるように流路が形成されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電気式脱イオン水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−720(P2013−720A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137399(P2011−137399)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】