説明

電気式脱塩装置の運転方法

【目的】電気式脱塩装置において、原水をイオン交換体へ供給しながら通電して処理水を得る調製工程と、原水に替えて脱塩水をイオン交換体へ供給しながら通電することでイオン交換体を再生する休止工程とを繰り返しながら運転するに当たり、休止工程においてイオン交換体を十分にかつ経済的に再生できるようにする。
【構成】調製工程で得られた処理水を貯水槽304に貯留し、休止工程では、この処理水を第一脱塩室111および第二脱塩室112のイオン交換体122へ供給する。濃縮室113からの濃縮水の電気伝導率を第一センサ401により連続的に測定し、この電気伝導率が低下して安定したときに休止工程から調製工程へ移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱塩装置の運転方法、特に、原水をイオン交換体へ供給して処理水を得る調製工程と、前記原水に替えて脱塩水を前記イオン交換体へ供給することで前記イオン交換体を再生する休止工程とを繰り返す電気式脱塩装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、医薬および食品などの製造工場や研究施設等において使用される純水を製造するために、電気式脱塩装置が用いられている。基本的な電気式脱塩装置は、濃縮室と、濃縮室の片側に陽イオン交換膜を介して配置された第一脱塩室と、濃縮室の他側に陰イオン交換膜を介して配置された第二脱塩室と、陰イオン交換膜を介して第一脱塩室に隣接する陽極室と、陽イオン交換膜を介して第二脱塩室に隣接する陰極室とを備えている。また、第一脱塩室および第二脱塩室には、イオン交換体が充填されている。このイオン交換体は、陽イオン交換体と陰イオン交換体とが混在したものである。
【0003】
この電気式脱塩装置の運転では、例えば、逆浸透膜で一次処理された原水を濃縮室、第一脱塩室、第二脱塩室、陽極室および陰極室へ供給し、陽極室と陰極室との間に通電する。ここで、第一脱塩室および第二脱塩室へ供給された原水に残留している陽イオンおよび陰イオンは、それぞれ、各脱塩室の陽イオン交換体および陰イオン交換体に吸着される。そして、第一脱塩室において陽イオン交換体に吸着された陽イオンは、陽イオン交換膜を通過して濃縮室へ移動し、また、第一脱塩室において陰イオン交換体に吸着された陰イオンは陰イオン交換膜を通過して陽極室へ移動する。一方、第二脱塩室において陰イオン交換体に吸着された陰イオンは、陰イオン交換膜を通過して濃縮室へ移動し、また、第二脱塩室において陽イオン交換体に吸着された陽イオンは陽イオン交換膜を通過して陰極室へ移動する。この結果、各脱塩室を通過した原水は、イオンが取り除かれた処理水になる。一方、濃縮室、陽極室および陰極室を通過した原水は、イオン濃度が高まった低純度の水になるため、廃棄されるか、或いは、一次処理前の原水と適宜混合することで水源として再利用される。
【0004】
上述の電気式脱塩装置において、第一脱塩室および第二脱塩室にそれぞれ充填されたイオン交換体は、吸着した陽イオンおよび陰イオンが溶離して濃縮室または陰極室若しくは陽極室へ移動することになるため、自動的に再生されることになる。しかし、イオン交換体は、原水に含まれる電気的に溶離しにくい炭酸イオンやシリカ等の弱電解質およびカルシウムイオン等が徐々に吸着して蓄積するためにイオン交換能が低下し、また、蓄積したイオン等の溶出により処理水の水質を低下させることになるため、電気式脱塩装置は、現実にはイオン交換体の再生が求められる。
【0005】
電気式脱塩装置におけるイオン交換体の再生方法は、原水の供給を停止し、イオン交換体を薬剤で処理する方法が一般的であるが、この方法は煩雑であって長時間を要し、しかも廃液処理が必要になることから、最近では薬剤を用いない方法への転換が計られている。薬剤を使用しないイオン交換体の再生方法として、特許文献1には、電気式脱塩装置へ原水の替わりに脱塩水を供給する方法が記載されている。この再生方法は、脱塩水を脱塩室へ供給しながら陽極室と陰極室との間に通電することで、無負荷状態にあるイオン交換体に蓄積したイオンを徐々に溶離させ、それによってイオン交換体を再生するものである。
【0006】
【特許文献1】特許第3480661号公報
【0007】
ところで、特許文献1に記載の再生方法では、イオン交換体の再生を予め設定された時間実行している(段落[0030])。この場合、設定した再生時間が短いとイオン交換体の再生が不十分となり、結果的に処理水の水質が低下する可能性がある。また、設定した再生時間が必要時間よりも長すぎると、無駄な電気エネルギーを消費することになり、不経済である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電気式脱塩装置において、原水をイオン交換体へ供給しながら通電して処理水を得る工程と、原水に替えて脱塩水をイオン交換体へ供給しながら通電することでイオン交換体を再生する休止工程とを繰り返しながら運転するに当たり、休止工程においてイオン交換体を十分にかつ経済的に再生できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電気式脱塩装置の運転方法は、原水をイオン交換体へ供給しながら通電して処理水を得る調製工程と、原水に替えて脱塩水をイオン交換体へ供給しながら通電することでイオン交換体を再生する休止工程とを繰り返すものであり、この運転方法は、休止工程において、脱塩水をイオン交換樹脂へ供給することで得られる濃縮水およびイオン交換体を通過した脱塩水のうちの一つの電気伝導率を連続的に測定する工程を含み、測定した電気伝導率が低下して安定したときに休止工程から調製工程へ移行する。
【0010】
この運転方法において、調製工程での処理水の調製によりイオン交換体にイオンが蓄積し、それによってイオン交換体の能力が低下したときは、調製工程から休止工程へ移行し、イオン交換体を再生する。休止工程では、原水に替えて脱塩水をイオン交換体へ供給しながら通電すると、イオン交換体に蓄積したイオンがイオン交換体から脱塩水中へ溶離し、イオン交換体が再生される。
【0011】
このようなイオン交換体の再生過程において、脱塩水をイオン交換体へ供給することで得られる濃縮水およびイオン交換体を通過した脱塩水は、再生の初期段階においてイオン交換体から溶離するイオンを受けてイオン濃度が高まるために電気伝導率が急激に上昇するが、その後は再生の進行によりイオン交換体から溶離するイオンが減少してイオン濃度が低下するために電気伝導率が徐々に低下する。そして、イオン交換体の再生が完了すると、濃縮水およびイオン交換体を通過した脱塩水は、電気伝導率が低下した状態で変動が小さくなり、安定する。
【0012】
このため、濃縮水またはイオン交換体を通過した脱塩水の電気伝導率を連続的に測定し、その電気伝導率が低下して安定したときに休止工程から調製工程へ移行すると、休止工程において無駄な電力を消費せずに経済的にイオン交換体を十分に再生することができ、調製工程において安定した水質の処理水を得ることができる。
【0013】
この運転方法の一形態では、イオン交換体を通過した脱塩水の比抵抗の測定により電気伝導率を連続的に測定する。
【0014】
本発明に係る電気式脱塩装置の運転方法は、例えば、調製工程において、イオン交換体へのイオン吸着総量を連続的に判定する工程をさらに含み、イオン吸着総量が所定値を超えたときに調製工程から休止工程へ移行する。
【0015】
ここで、イオン吸着総量の所定値をイオン交換体が吸着可能なイオン総量未満に設定すると、イオン交換体が破過する前に調製工程から休止工程へ移行することができるため、調製工程において高純度の処理水を安定に得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、原水をイオン交換体へ供給しながら通電して処理水を得る工程と、原水に替えて脱塩水をイオン交換体へ供給しながら通電することでイオン交換体を再生する休止工程とを繰り返しながら電気式脱塩装置を運転するに当たり、休止工程においてイオン交換体を十分にかつ経済的に再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係る運転方法を実施可能な電気式脱塩装置を供えた水処理システムを説明する。図において、水処理システム1は、原水から電解質等に由来のイオンを除去した処理水、すなわち脱塩水を調製するためのものであり、電気式脱塩装置10、原水供給路20、処理水経路30および制御装置40を主に備えている。
【0018】
電気式脱塩装置10は、第一脱塩室111および第二脱塩室112を備えており、両脱塩室111,112の間に濃縮室113が形成されている。第一脱塩室111と濃縮室113とは、陽イオン交換膜114を介して隣接している。また、第二脱塩室112と濃縮室113とは、陰イオン交換膜115を介して隣接している。第一脱塩室111には、陰イオン交換膜116を介して陽極120を有する陽極室117が隣接している。また、第二脱塩室112には、陽イオン交換膜118を介して陰極121を有する陰極室119が隣接している。
【0019】
ここで用いられる陽イオン交換膜114,118は、陰イオンの透過を阻止可能でありかつ陽イオンを透過可能なものであり、また、陰イオン交換膜115,116は、陽イオンの透過を阻止可能でありかつ陰イオンを透過可能なものである。
【0020】
また、第一脱塩室111および第二脱塩室112には、それぞれ、イオン交換体122が充填されている。イオン交換体122は、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを混合したものである。
【0021】
第一脱塩室111および第二脱塩室112の一端(図の上端)からは、それぞれ後述する処理水を送るための第一処理水路131および第二処理水路132が延びており、両処理水路131,132は集合して単一の処理水路130を形成している。また、濃縮室113からは、後述する濃縮水を排水するための第一排水路133が延びている。さらに、陽極室117の一端(図の上端)からは後述する電極水を陰極室119の一端(図の上端)へ送るための送水路134が設けられており、陰極室119の他端(図の下端)には陽極室117からの電極水を排水するための第二排水路135が設けられている。
【0022】
さらに、電気式脱塩装置10は、図示しない電源装置を備えている。この電源装置は、陽極室117の陽極120と陰極室119の陰極121との間に直流電流を供給するためのものである。
【0023】
原水供給路20は、電気式脱塩装置10に対して処理水を得るための原水を供給するためのものであり、原水のろ過装置201と、ろ過装置201から延びる供給経路202とを備えている。ろ過装置201は、逆浸透膜などのろ過膜を用い、原水をろ過処理するためのものである。
【0024】
供給経路202は、第一経路203、第二経路204および第三経路205の三つに分岐している。第一経路203は、陽極室117へ連絡している。第二経路204は、第一切替弁206を有しており、第一脱塩室111および第二脱塩室112へそれぞれ連絡するよう二つの経路に分岐している。第一切替弁206は、流路を選択可能な電磁弁である。また、第三経路205は、濃縮室113へ連絡している。
【0025】
処理水経路30は、処理水路130に連絡する第二切替弁301を有している。第二切替弁301は、流路を切換え可能な電磁弁であり、第三排水路302と処理水供給路303とが連絡している。処理水供給路303は、処理水を貯留するための貯水槽304を有している。貯水槽304は、処理水を利用するための装置、例えば、電子部品の洗浄装置へ処理水を供給するための連絡経路305と、第一切替弁206を通じて原水供給路20の第二経路204へ連絡する還流経路306とを有している。還流経路306は、貯水槽304に貯留された処理水を送出すためのポンプ(図示せず)を有している。
【0026】
制御装置40は、水処理システム1を制御するための電子情報処理組織であり、入力ポート41と出力ポート42とを有している。入力ポート41は、第一排水路133を流れる濃縮水の電気伝導率を測定するための第一センサ401、処理水路130を流れる処理水の電気伝導率を測定するための第二センサ402、ろ過装置201から供給経路202へ流れる原水の電気伝導率を測定するための第三センサ403、第二経路204から第一脱塩室111および第二脱塩室112へ流れる原水の流量を測定するための第一流量計404および第三経路205から濃縮室113へ流れる原水の流量を測定するための第二流量計405が連絡しており、これらのセンサや流量計からの情報を入力するためのものである。出力ポート42は、第一切替弁206および第二切替弁301が連絡しており、これらの切換弁206,301に対して流路の切換え司令を出力するためのものである。また、出力ポート41は、電源装置(図示せず)に連絡しており、陽極120と陰極121間への通電の制御指令、例えば陽極120と陰極121との間に印加する電圧や電流の制御指令を出力可能である。
【0027】
次に、電気式脱塩装置10の運転方法に触れながら、水処理システム1の動作を説明する。水処理システム1を作動させるときは、原水供給路20から電気式脱塩装置10へ原水を供給し、また、電源装置を作動させて陽極120と陰極121との間に通電する。
【0028】
電気式脱塩装置10において原水からイオンを除去した処理水を調製する調製工程においては、制御装置40により第一切替弁206を作動させ、供給経路202と第二経路204とを連絡し、還流経路306と第二経路204との連絡を遮断する。また、制御装置40により第二切替弁301を作動させ、処理水路130と処理水供給路303とを連絡し、処理水路130と第三排水路302との連絡を遮断する。
【0029】
調製工程において、原水供給路20へ供給される水道水、工業用水または地下水などの原水は、ろ過装置201のろ過膜でろ過処理され、コロイド、微粒子およびイオン成分の一部などの含有物が除去される。そして、ろ過装置201でろ過処理された原水は、供給経路202を流れて第一経路203、第二経路204および第三経路205の三つの経路に分流し、陽極室117、第一脱塩室111、第二脱塩室112および濃縮室113のそれぞれへ供給される。
【0030】
ここで、第二経路204から第一脱塩室111および第二脱塩室112へそれぞれ供給された原水は、含有するイオンがイオン交換体122に吸着されて取り除かれた処理水となり、第一処理水路131および第二処理水路132から処理水路130を通じて処理水供給路303へ流れる。処理水供給路303へ流れた処理水は、貯水槽304で一時的に貯留され、必要に応じて連絡経路305を通じて処理水を利用するための装置へ供給される。
【0031】
一方、第三経路205から濃縮室113へ供給された原水は、第一脱塩室111のイオン交換体122から溶離して陽イオン交換膜114を透過した陽イオンと、第二脱塩室112のイオン交換体122から溶離して陰イオン交換膜115を透過した陰イオンとが供給されてイオン濃度が高まった濃縮水となり、第一排水路133へ流れて排水される。また、第一経路203から陽極室117へ供給された原水は、第一脱塩室111のイオン交換体122から溶離して陰イオン交換膜116を透過した陰イオンが供給された電極水となり、送水路134を経由して陰極室119へ供給される。そして、陰極室119へ供給された電極水は、第二脱塩室112のイオン交換体122から溶離して陽イオン交換膜118を透過した陽イオンがさらに供給され、第二排水路135を通じて排水される。
【0032】
このような調製工程での電気式脱塩装置10の運転において、第一脱塩室111および第二脱塩室112にそれぞれ充填されたイオン交換体122は、吸着した陽イオンおよび陰イオンが溶離して濃縮室113、陽極室117および陰極室119へ移動することになるため、自動的に再生が進行することになるが、現実には原水に含まれる電気的に溶離しにくい炭酸イオンやシリカ等の弱電解質およびカルシウムイオン等が徐々に吸着して蓄積することでイオン交換能が低下する。
【0033】
そこで、調製工程では、制御装置40においてイオン交換体122へのイオン吸着量を連続的に求め、それを積算することでイオン交換体122へのイオン吸着総量を連続的に判定する。イオン交換体122へのイオン吸着量は、次の式により求めることができる。
【0034】
【数1】

【0035】
式中の要素は次のとおりである。
α:イオン吸着量
:第三センサ403により測定される供給経路202を流れる原水の電気伝導率に基づいて換算される原水のイオン濃度(mol/リットル)
:第二センサ402により測定される処理水路130を流れる処理水の電気伝導率に基づいて換算される処理水のイオン濃度(mol/リットル)
:第一センサ401により測定される第一排水路133を流れる濃縮水の電気伝導率に基づいて換算される濃縮水のイオン濃度(mol/リットル)
:第一流量計404により測定される第二経路204を流れる原水の流量(リットル/分)
:第二流量計405により測定される第三経路205を流れる原水の流量(リットル/分)
【0036】
制御装置40は、イオン吸着総量が所定値を超えたと判定したとき、電源装置による陽極120と陰極121との間への通電状態を維持したままの状態で、電気式脱塩装置10の運転を休止工程へ移行する。具体的には、制御装置40は、第一切替弁206および第二切替弁301を作動させ、第一切替弁206において、供給経路202と第二経路204との連絡を遮断し、還流経路306と第二経路204とを連絡する。また、第二切替弁301において、処理水路130と処理水供給路303との連絡を遮断し、処理水路130と第三排水路302とを連絡する。
【0037】
因みに、制御装置40が判定するイオン吸着総量の所定値は、予め求めたイオン交換体122が吸着可能なイオン総量(吸着可能イオン総量)よりも小さい値であり、好ましくは吸着可能イオン総量の20%以上、より好ましくは40%以上で吸着可能イオン総量未満の範囲で任意に設定した値である。
【0038】
制御装置40が第一切替弁206および第二切替弁301を上述のように作動させると、供給経路202から第二経路204への原水の供給が遮断され、第二経路204へは還流経路306を通じて貯水槽304に貯留された処理水、すなわち脱塩水が連続的に供給される。そして、第二経路204を通じて第一脱塩室111および第二脱塩室112へそれぞれ供給される処理水は、原水からイオンが除去されたものであるため、イオン交換体122に対してイオン吸着負荷をかけず、逆に、イオン交換体122に吸着したイオンを溶離させてイオン交換体122を再生する。この結果、第一脱塩室111および第二脱塩室112をそれぞれ通過した処理水は、イオン交換体122から溶離したイオンのためにイオン濃度が高まり、純度が低下するため、処理水路130、第二切替弁301および第三排水路302を通じて排水される。
【0039】
一方、濃縮室113を流れる濃縮水は、第一脱塩室111および第二脱塩室112からそれぞれ陽イオン交換膜114および陰イオン交換膜115を透過する、イオン交換体122から溶離したイオンのために休止工程の初期段階で電気伝導率が急激に上昇するが、イオン交換体122の再生が進行して溶離するイオン量が減少するに従ってこの電気伝導率は徐々に低下する。そして、イオン交換体122の再生が完了すると、濃縮水の電気伝導率は、第三経路205から供給される原水に含まれるイオンによる電気伝導率まで低下して安定する。
【0040】
そこで、制御装置40は、第一センサ401により第一排水路133を流れる濃縮水の電気伝導率を連続的に測定し、この電気伝導率が低下して安定したときに、電気式脱塩装置10の運転を休止工程から調製工程へ復帰する。具体的には、制御装置40は、第一切替弁206および第二切替弁301を作動させ、供給経路202と第二経路204とを連絡し、還流経路306と第二経路204との連絡を遮断する。また、処理水路130と処理水供給路303とを連絡し、処理水路130と第三排水路302との連絡を遮断する。これにより、第一脱塩室111および第二脱塩室112のそれぞれへ第二経路204から原水が供給されるようになり、電気式脱塩装置10において新たな処理水が調製され、この処理水は貯水槽304に貯留される。
【0041】
このように電気式脱塩装置10は、制御装置40が休止工程から調製工程への移行の時期を濃縮水の電気伝導率に基づいて判断しているので、休止工程において、イオン交換体122を十分に再生することができるとともに、休止工程の時間を適正化することができ、それによって無駄な電気エネルギーの消費を抑制することができる。
【0042】
したがって、水処理システム1は、電気式脱塩装置10を上述のような調製工程と休止工程とを繰り返しながら運転することにより、高純度の処理水を安定的にかつ経済的に調製することができる。
【0043】
上述の実施の形態は、例えば次のような変形が可能である。
(1)上述の実施の形態では、二つの脱塩室を備えた電気式脱塩装置において本発明を実施する場合について説明したが、イオン交換膜を介して濃縮室を挟みながら三つ以上の脱塩室を備えた電気式脱塩装置についても本発明を同様に実施することができる。
【0044】
(2)上述の実施の形態では、休止工程において濃縮水の電気伝導率を測定し、その変動に基づいて休止工程から調製工程への移行時期を判定しているが、この移行時期は、休止工程において脱塩室を通過した処理水、すなわちイオン交換体を通過した処理水の電気伝導率を測定することで判定することもできる。
【0045】
(3)上述の実施の形態および変形例(2)において、休止工程での濃縮水またはイオン交換体を通過した処理水は、比抵抗を測定することで電気伝導率の変動を観測することもできる。比抵抗は電気伝導率の逆数に当るため、休止工程での濃縮水またはイオン交換体を通過した処理水の比抵抗は、イオン交換体の再生が進むに従って上昇することになる。したがって、この場合は、比抵抗が上昇して安定したときに休止工程から調製工程へ移行する。
【0046】
(4)上述の実施の形態では、調製工程において処理水を貯留し、この貯留した処理水を休止工程においてイオン交換体へ供給する脱塩水として利用しているが、休止工程で用いる脱塩水はこれに限られるものではない。例えば、水処理システムにおいて電気式脱塩装置を複数台用い、一部の電気式脱塩装置において調製工程を実行しながら他の電気式脱塩装置において休止工程を実行すると、調製工程を実行中の電気式脱塩装置において調製された処理水の一部を休止工程を実行中の電気式脱塩装置で必要な脱塩水として利用することができる。
【0047】
(5)上述の実施の形態では、調製工程や休止工程での濃縮水や電極水を排水しているが、これらの水は、原水の一部として再利用することもできる。この場合は、ろ過装置へ供給される原水に対して排水を混合するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の一形態に係る運転方法を実施可能な電気式脱塩装置を備えた水処理システムの概略図。
【符号の説明】
【0049】
10 電気式脱塩装置
122 イオン交換体
401 第一センサ
402 第二センサ
403 第三センサ
404 第一流量計
405 第二流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をイオン交換体へ供給しながら通電して処理水を得る調製工程と、前記原水に替えて脱塩水を前記イオン交換体へ供給しながら通電することで前記イオン交換体を再生する休止工程とを繰り返す電気式脱塩装置の運転方法であって、
前記休止工程において、前記脱塩水を前記イオン交換樹脂へ供給することで得られる濃縮水および前記イオン交換体を通過した前記脱塩水のうちの一つの電気伝導率を連続的に測定する工程を含み、
前記電気伝導率が低下して安定したときに前記休止工程から前記調製工程へ移行する、
電気式脱塩装置の運転方法。
【請求項2】
前記イオン交換体を通過した前記脱塩水の比抵抗の測定により前記電気伝導率を連続的に測定する、請求項1に記載の電気式脱塩装置の運転方法。
【請求項3】
前記調製工程において、前記イオン交換体へのイオン吸着総量を連続的に判定する工程をさらに含み、
前記イオン吸着総量が所定値を超えたときに前記調製工程から前記休止工程へ移行する、
請求項1または2に記載の電気式脱塩装置の運転方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−99594(P2010−99594A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273654(P2008−273654)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】