説明

電気接続箱

【課題】ハーネス挿通孔に挿通されるワイヤーハーネスの外径寸法にバラツキがある場合でも、ハーネス挿通孔の組み付け作業に必要な操作力の安定化や、ハーネス挿通孔の開口部の防水性を有利に確保すること。
【解決手段】ケース16を構成する第一壁部20cと第二壁部44の組み合わせ面間に形成されるハーネス挿通孔82を、第一壁部20cに設けられた第一切欠部58と、第二壁部44に設けられた第二切欠部78を連接することにより構成する一方、第一壁部20cには、ハーネス挿通孔82の中心軸C側に向かって傾斜しつつ、第一切欠部58の周縁部からケース16の外方に向かって突出する傾斜ガイド部64を突設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される電気接続箱であって、ケースの内部に収容されたワイヤーハーネスが挿通されるハーネス挿通孔を備えた電気接続箱に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気接続箱の内部には、電気部品や通電部材に接続された多数の電線が束ねられたワイヤーハーネスが収容されており、電気接続箱の壁部に貫設されたハーネス挿通孔を通じて外部に引き出されるようになっている。
【0003】
ところで、このような電気接続箱では、電気接続箱の組立時の作業性を向上させる目的から、ハーネス挿通孔を分割構造とする場合が多い。例えば、特開2001−218338号公報(特許文献1)には、ケースの外壁を構成するロアケースの周壁部(第一壁部)と、該周壁部の開口窓に組み付けられるスライドカバー(第二壁部)との対向面間において、それぞれの端縁部に設けられた半円弧形状の切欠部と、該切欠部から周壁部の外方に向かってストレートに突出する半円弧状の突片を相互に組み合わせて、ケースの外壁を貫通する筒状のハーネス挿通孔を設けた構造が示されている。このようにすれば、ロアケースの周壁部からワイヤーハーネスを外部に引き出した後、スライドカバーを装着してハーネス挿通孔を構成すればよく、ケース内部から外部へのワイヤーハーネスの引出作業が容易となると共に、半円弧形状の筒体をワイヤーハーネスを間に挟んで組み合わせることにより、ハーネス挿通孔の防水性を図ることができる。
【0004】
ところが、特許文献1に記載の従来構造では、半円弧状の切欠部とそこから突出する突片を組み合わせて形成されるハーネス挿通孔の内径が一定であることから、吸収できるワイヤーハーネスの寸法交差は非常に小さいものであった。一方で、ハーネス挿通孔に挿通されるワイヤーハーネスは、多数の電線を束ねて外挿チューブやビニールテープ等で外部から固定する構造とされていることから、製品毎の外径寸法のバラツキが大きく、特許文献1の如き従来構造では、ワイヤーハーネスの外径のバラツキを十分に吸収できない場合があった。
【0005】
すなわち、ハーネス挿通孔の内径が一定であることから、ワイヤーハーネスの外径が寸法公差の最大値の場合には、ロアケースにスライドカバーを組み付ける際に必要な押込力が増大し、組み付け作業に時間を要したり、場合によっては、組み付け作業が困難となる場合があった。また、ワイヤーハーネスの外径が寸法公差の最小値の場合には、ハーネス挿通孔に全周に亘って大きな隙間が発生することが避けられず、ハーネス挿通孔の防水性を確保することが困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−218338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ハーネス挿通孔に挿通されるワイヤーハーネスの外径寸法にバラツキがある場合でも、組み付け作業に必要な操作力が大きく変化したり、ハーネス挿通孔の開口部の防水性が大きく劣ったりすることが防止でき、従来よりも大きな寸法交差を有利に吸収することができるハーネス挿通孔を備えた、新規な構造の電気接続箱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、ケースを構成する第一壁部と第二壁部が相互に組み合わされることによりそれらの間に前記ケースを貫通する筒状のハーネス挿通孔が形成されており、前記ケースの内部に収容されたワイヤーハーネスが前記ハーネス挿通孔から外部に引き出されるようになっている電気接続箱において、前記ハーネス挿通孔が、前記第一壁部に設けられた第一切欠部と、前記第二壁部に設けられた第二切欠部が連接されることにより構成されている一方、前記第一壁部には、前記ハーネス挿通孔の中心軸側に向かって傾斜しつつ、前記第一切欠部の周縁部から前記ケースの外方に向かって突出する傾斜ガイド部が突設されていることを、特徴とする。
【0009】
本発明に従う構造とされた電気接続箱においては、ハーネス挿通孔を画成する第一切欠部の周縁部から、ハーネス挿通孔の中心軸側に向かって傾斜しつつケースの外方に向かって突出する傾斜ガイド部が設けられている。これにより、ハーネス挿通孔を挿通されるワイヤーハーネスの寸法にバラツキがある場合でも、組み付けに必要な操作力が大きく変化したり、ハーネス挿通孔の開口部の防水性が大きく劣ったりすることを有利に防止でき、従来よりも大きなワイヤーハーネスの外径の寸法誤差を有利に吸収することができる。
【0010】
具体的には、ワイヤーハーネスの径が比較的小さい場合には、ワイヤーハーネスをハーネス挿通孔の略軸方向で延出するようにハーネス挿通孔から引き出すことにより、ハーネス挿通孔の開口部の防水性を確保することができる。即ち、傾斜ガイド部の突出端縁部と第二切欠部によって規定されるハーネス挿通孔の開口部の径は、ワイヤーハーネスがハーネス挿通孔の軸方向に延びて収容されている場合は、ハーネス挿通孔の軸方向に対して直交する方向で考えることができ、ハーネス挿通孔の開口部に大きな隙間が生じることが回避できる。また、ワイヤーハーネスの径が小さいことから、第一壁部と第二壁部の組み付けに際してワイヤーハーネスが当接して抵抗となることもなく、大きな操作力を要することなく容易に組み付けが可能である。
【0011】
一方、ワイヤーハーネスの径が、ハーネス挿通孔の軸直方向で考えたハーネス挿通孔の開口部の径よりも大きい場合には、ワイヤーハーネスを傾斜ガイド部に沿って湾曲させてハーネス挿通孔の軸方向に対して傾斜して延出するようにハーネス挿通孔から引き出すことにより、組み付けに必要な操作力が増大させることなく、第一壁部と第二壁部を組み付けることができる。即ち、ハーネス挿通孔の軸方向内方に向かって傾斜した傾斜ガイド部に沿ってワイヤーハーネスが傾斜した状態でハーネス挿通孔から引き出される場合は、傾斜ガイド部の突出端縁部と第二切欠部によって構成されるハーネス挿通孔の開口部の径を、ハーネス挿通孔の中心軸に対して傾斜した方向で考えることができ、直交方向で考えた場合よるも広くなる。それ故、第一壁部と第二壁部を組み付けに抵抗となる当接がワイヤーハーネスを傾斜ガイド部に沿って傾斜させることにより回避され、操作力が過大に増大されることなく組み付けが可能となるのである。さらに、傾斜ガイド部に沿ってワイヤーハーネスが傾斜されることから、ハーネス挿通孔の開口部に隙間が生じることが防止されて、開口部の防水性も担保されるのである。
【0012】
なお、第一壁部と第二壁部は、電気接続箱のケース、即ち、外壁を構成するものであれば何れでもよく、例えば、特許文献1に記載の如きケースの周壁部と該周壁部の開口窓に組み付けられるスライドカバーから構成されてもよいし、互いに組み合わされる一方のケースと他方のケースのそれぞれの周壁部によって構成されてもよい。また、ケースの壁部と該壁部にヒンジを介して組み付けられる蓋部によって構成されてもよい。
【0013】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載のものにおいて、前記ハーネス挿通孔の軸方向断面において、前記傾斜ガイド部の内周面が外方に凸となる湾曲面とされているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた電気接続箱によれば、傾斜ガイド部の内周面が湾曲面とされていることにより、第一壁部と第二壁部を相互に組み付ける際の押圧力により、ワイヤーハーネスを傾斜ガイド部に沿って一層スムーズに湾曲させることができ、ワイヤーハーネスの径の増大による組付操作力の増大を一層有利に防止することができる。
【0015】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載のものにおいて、前記第二壁部の前記第二切欠部には、前記第一切欠部側に向かって突出する突部が設けられているものである。
【0016】
本態様によれば、例えば、挿通されるワイヤーハーネスの外面に突部が押し付けられたり、外面の凹凸に入り込むことにより、ハーネス挿通孔の開口部からの水入り防止を有利に図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気接続箱のケースを構成する第一壁部と第二壁部に設けられた第一切欠部と第二切欠部を組み合わせて構成されたハーネス挿通孔に対して、第一切欠部の周縁部から、ハーネス挿通孔の中心軸側に向かって傾斜しつつケースの外壁の外方に向かって突出する傾斜ガイド部が設けられている。これにより、傾斜ガイド部を利用してハーネス挿通孔を挿通されるワイヤーハーネスの延出角度を変更すると共に、ワイヤーハーネスに対するハーネス挿通孔の開口部の径を延出角度に対応して変更することができる。それ故、ワイヤーハーネスの外径寸法がばらつく場合でも、第一壁部と第二壁部の組み付けに必要な操作力のばらつきを抑えると共に、ハーネス挿通孔の開口部の防水性を有利に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態としての電気接続箱の分解斜視図。
【図2】図1に示した電気接続箱のロアケースとスライドカバーの分解斜視図。
【図3】図1に示した電気接続箱のロアケースの平面図。
【図4】図1に示した電気接続箱のロアケースの正面図。
【図5】図4に示したロアケースのV−V断面に相当する断面図。
【図6】図4に示したロアケースのVI−VI断面に相当する断面図。
【図7】図3に示したロアケースのVII−VII断面において、図1に示した箱本体とアッパケースが組み付けられた状態を示す断面図。
【図8】図6に示したロアケースの断面図において、ハーネス挿通孔に小径のワイヤーハーネスが挿通された状態を示す図。
【図9】図6に示したロアケースの断面図において、ハーネス挿通孔に大径のワイヤーハーネスが挿通された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
先ず、図1に、本発明の一実施形態としての電気接続箱10を示す。電気接続箱10は、電気部品や通電部材等が配設される箱本体12と、アッパケース14と、ロアケース16とを含んで構成されている。そして、箱本体12の両側からアッパケース14とロアケース16が重ね合わされて組み付けられるようになっている。なお、以下の説明において、特に断りのない場合には、上方とは、電気接続箱10の車体への組付状態における鉛直上方であって、アッパケース14が位置する図1中の上方、下方とは、同組付状態における鉛直下方であって、ロアケース16が位置する図1中の下方をいうものとする。
【0021】
ロアケース16は、合成樹脂から形成されている。図2および図3に示すように、ロアケース16は、底壁18の外周縁部から全周に亘って連続する略矩形枠体状の周壁20a〜20dが上方に突出して一体形成された構造とされており、箱本体12側に開口部22を有する箱体形状とされている。
【0022】
周壁20a〜20dには、複数の補強リブ24が周壁20a〜20dの周方向で適当な間隔を隔てて形成されている。各補強リブ24は、周壁20a〜20dが部分的にロアケース16の内方に凹まされることによって形成されている。これにより、周壁20a〜20dの横断面(上下方向に直交する、左右方向の断面)形状は凹凸形状とされている。補強リブ24は、周壁20a〜20dの周方向で所定の幅寸法をもって周壁20a〜20dの内方に突出して上下方向に延出されている。周壁20a〜20dの外面において、補強リブ24の下端縁部はロアケース16の下方に開放されている。一方、補強リブ24の上端面は、下方に行くに連れてケース内方への突出寸法が次第に大きくなるテーパ面26とされている。テーパ面26におけるケース内方への突出先端縁部28は、後述するように、ロアケース16に組み付けられた箱本体12の周壁108よりもケース内方に位置されるようになっている。
【0023】
周壁20a,20cの外面には、上方に突出する複数(本実施形態においては、周壁20a,20cのそれぞれにおいて2つ)のロック部34が形成されている。また、周壁20a,20cの外面には、ロアケース16の外方に突出して延びる取付脚部36,38が形成されている。これら取付脚部36,38にはボルト挿通孔40が貫設されている。
【0024】
図2に示すように、周壁20cには、ロック部34,34の間において、正面視で略矩形状の大きな開口窓42が切り欠かれており、開口窓42を覆蓋するスライドカバー44が装着されることにより、ロアケース16が構成されるようになっている。要するに、本実施形態では、ケースを構成する第一壁部と第二壁部が、周壁20cとスライドカバー44によって構成されている。
【0025】
第一壁部としての周壁20cには、開口窓42の両側縁部から開口窓42の内方に向かって突出する一対のガイドレール46,46が突設されている。一対のガイドレール46,46は、それぞれ開口窓42の各側縁部の全長(図2中、上下方向全長)に亘って設けられており、周壁20cの上端側が薄肉部48とされている一方、周壁20cの中間部分から下端側に亘る部分が厚肉部50とされている(図2および図4のV−V断面となる図5参照)。そして、各ガイドレール46の薄肉部48と厚肉部50の間において、段差面49が形成されている。
【0026】
また、各ガイドレール46の厚肉部50には、周壁20cの外面に開口する凹溝52が設けられており、スライドカバー44とガイドレール46との重ね合せ面から水等が浸入した場合でも、凹溝52から周壁20cの下方への排水を促し、電気接続箱10の内部へ水が浸入することを防止するようになっている。なお、一対のガイドレール46,46に設けられた凹溝52,52の下方には、スライドカバー44に設けられた後述するロック部80が係止されるロック爪54,54が突設されている。
【0027】
さらに、開口窓42の底縁部56には、一対の切欠部58,58が設けられている。一対の第一切欠部58,58は開口窓42の幅方向(図4中、左右方向)で隙間を隔てて併設されており、開口窓42の底縁部56において下方に凸となる略半円弧形状で開口して切り欠かれている。一対の第一切欠部58,58の間には、開口窓42の底縁部56から上方に向かって突出する位置決めリブ60が突設されている。さらに、開口窓42の底縁部56には、周壁20cの内面側に配設されると共に、ガイドレール46,46および位置決めリブ60にそれぞれ一体的に連接された補強リブ62,62が設けられている。
【0028】
また、第一壁部としての周壁20cの外面には、一対の第一切欠部58,58の周縁部から、ロアケース16の外方に向かって突出する薄板状の傾斜ガイド部64,64が、それぞれ突設されている。各傾斜ガイド部64は、略半円弧形状の第一切欠部58の中心軸(後述するハーネス挿通孔82の中心軸C)側に向かって傾斜しつつ外方に突出している。
【0029】
このように周壁20cに設けられた開口窓42に対して、第二壁部としてのスライドカバー44が装着される。スライドカバー44は、開口窓42よりも僅かに大きな外形寸法を備えた略矩形板形状を有しており、両側縁部には開口窓42に設けられたガイドレール46、46が挿入されるガイド凹部66,66が設けられている。各ガイド凹部66は、図5の断面図に示すように、上端側がガイドレール46の薄肉部48に対応した狭幅部68とされていると共に、中間部分から下端部に亘る部分が、ガイドレール46の厚肉部50に対応した広幅部70とされており、狭幅部68と広幅部70の間に段差面69が形成されている。
【0030】
スライドカバー44の中央部分には、外面に開口する複数の肉抜凹部72が設けられている。さらに、スライドカバー44の中央部分の上端部には、外面が大きく凹まされて薄肉とされた段差部74が設けられており、不必要な樹脂量の削減が図られている。
【0031】
そして、第二壁部としてのスライドカバー44の装着状態において、開口窓42の底縁部56と当接するスライドカバー44の下端部76には、底縁部56に設けられた一対の第一切欠部58と対向する位置に、一対の第二切欠部78,78が設けられている。一対の第二切欠部78,78はスライドカバー44の下端部76の幅方向(図4中、左右方向)で隙間を隔てて併設されており、スライドカバー44の下端部76において上方に凸となる略半円弧形状で開口して切り欠かれている。なお、一対の第二切欠部78,78の端面には、スライドカバー44の外面側に偏倚して第一切欠部58側に向かって突出する半リング状の突部79が全周に亘って略一定の肉厚で突設されている(図4および図6参照)。また、図示は省略するが、一対の第二切欠部78,78の間には、開口窓42の底縁部56に設けられた位置決めリブ60が収容される位置決め凹部が形成されている。また、スライドカバー44の下端部76側において、第二切欠部78,78を挟んだ両側には、周壁20cに突設されたロック爪54,54に対応位置して、スライドカバー44の外面から矩形枠体状に突出する一対のロック部80,80が突設されている。
【0032】
このような構造とされたスライドカバー44は、周壁20cの開口部22側から、両側縁部に設けられたガイド凹部66,66を、開口窓42に設けられたガイドレール46、46にそれぞれ挿し入れるようにして開口窓42にスライド装着される。そして、スライドカバー44が開口窓42の下方に押し込まれて、スライドカバー44の下端部76が開口窓42の底縁部56に近接されると、開口窓42の底縁部56に突設された位置決めリブ60がスライドカバー44の下端部76に設けられた位置決め凹部に嵌め入れられて、スライドカバー44の開口窓42に対する幅方向の位置決めが完了する。さらに、スライドカバー44が下方に押し込まれると、スライドカバー44のロック部80,80がガイドレール46の下方に配設されたロック爪54に当接して外方に向かって弾性変形しつつロック爪54を乗り越えて弾性復帰する。これにより、図1および図4に示すように、ロック部80の枠体内にロック爪54が収容された状態で、ロック部80とロック爪54が係合し、スライドカバー44が開口窓42に対する装着状態にロックされる。
【0033】
このように、スライドカバー44が開口窓42に対して、位置決め装着されてロックされた状態では、ガイドレール46の段差面49とガイド凹部66の段差面69が相互に当接されていると共に、開口窓42の底縁部56とスライドカバー44の下端部76が相互に当接されて、スライド方向(図4の上下方向)での位置決めが為されている。また、上述のとおり、開口窓42の底縁部56に突設された位置決めリブ60とスライドカバー44の下端部76に設けられた位置決め凹部により、スライド方向と直交する幅方向(図4の左右方向)の位置決めも為されていることから、図4および図6に示すように、開口窓42の底縁部に設けられた第一切欠部58,58とスライドカバー44の下端部に設けられた第二切欠部78,78が互いの周縁部側で連接されて、周壁20cを貫通する略円筒形状のハーネス挿通孔82,82が、周壁20cの周方向に併設状態で構成されている。
【0034】
このように、第一切欠部58と第二切欠部78が連接されて構成されるハーネス挿通孔82は、図4に示す正面視において、ハーネス挿通孔82のロアケース16の周方向(図4中、左右方向)に延びる径方向寸法d1が、ロアケース16の上下方向(図4中、上下方向)に延びる径方向寸法d2(第二切欠部78の突部79と第一切欠部58との離隔距離)と略等しくされている。一方、第一切欠部58の周縁部には、ハーネス挿通孔82の中心軸Cに向かって傾斜しつつロアケース16の外方に突出する傾斜ガイド部64が突設されていることから、傾斜ガイド部64の突出端縁部86と第二切欠部78によって画成されているハーネス挿通孔82の開口部84では、図4に示す正面視において、ロアケース16の上下方向に延びる径方向線上で、第二切欠部78の突部79と傾斜ガイド部64の突出端縁部86との離隔距離d3がd1およびd2よりも小さくされている(d3<d1,d2)。
【0035】
また、図6に拡大して示すように、ハーネス挿通孔82の開口部84の開口径は、ハーネス挿通孔82の中心軸Cと直交する方向で計測したφ1よりも、中心軸Cに対して傾斜ガイド部64が傾斜する傾斜角度αだけ傾斜した方向で計測したφ2の方が大きくなっている(φ1<φ2)。そして、本実施形態では、中心軸Cと直交する方向で計測したハーネス挿通孔82の開口部84の開口径φ1が、ハーネス挿通孔82を挿通される後述するワイヤーハーネス112の寸法公差の最小値に設定されている。また、中心軸Cに対して傾斜角度αだけ傾斜した方向で計測したハーネス挿通孔82の開口部84の開口径φ2が、ハーネス挿通孔82を挿通される後述するワイヤーハーネス112の寸法公差の最大値に設定されている。なお、傾斜角度αは、吸収すべきワイヤーハーネス112の寸法公差に応じて任意に設定可能である。
【0036】
このようなロアケース16に対して、アッパケース14を介して箱本体12が組み付けられる。図7(a)には、箱本体12に、アッパケース14、ロアケース16を組み付けた状態での図3におけるVII−VII断面図が示されている。図7(b)には、図7(a)に示すb部分が拡大して示されている。図1および図7に示すように、アッパケース14は、ロアケース16側に向けて開口する開口部90を備えた合成樹脂製の箱体形状とされており、略矩形平板形状とされた上壁92の全周に亘って、外周壁94が突出されている。外周壁94の内側には、外周壁94よりも上壁92からの突出寸法の大きな内周壁96が形成されている。これにより、内周壁96の上壁92からの突出端部によって、ロアケース16の開口部22と略対応する略矩形状の開口部90が形成されている。さらに、外周壁94と内周壁96の間によって、アッパケース14の外周部分で全周に亘って延びる嵌合溝98が形成されている。
【0037】
さらに、図1等に示したように、外周壁94の外面においてロアケース16のロック部34と対応する位置には、上壁92からの突出先端部において外方に突出する突起形状のロック爪100が形成されている。また、図7等に示すように、内周壁96の内面には、箱本体12をロックするための鉤状の本体ロック部102が形成されている。
【0038】
このようなアッパケース14に、箱本体12が組み付けられる。図1に示したように、箱本体12は合成樹脂から形成されており、アッパケース14およびロアケース16の開口部22,90と略対応する略矩形の外形状を有している。箱本体12には、複数のコネクタ装着部104やヒューズ装着部106等が形成されており、電気部品としての後述するコネクタ114や図示しないヒューズ等が接続される。また、図7に示したように、箱本体12の外周縁部を構成する周壁108において、ロアケース16の本体ロック部102と対応する位置には、箱本体12の外方に突出する突起状のロック爪110が形成されている。
【0039】
図7に示すように、箱本体12の各コネクタ装着部104に対して、ワイヤーハーネス112の端末に設けられたコネクタ114が下方から装着される。これにより、箱本体12からは、コネクタ114と接続する複数のワイヤーハーネス112が下方に延出されている。また、ヒューズ装着部106に電気部品としての図示しないヒューズが下方から装着される。
【0040】
そして、コネクタ114やヒューズ等の電気部品が装着された箱本体12にアッパケース14が重ね合わされて、箱本体12がアッパケース14の開口部90からアッパケース14の内周壁96内に挿入される。これにより、アッパケース14の内周壁96に形成された本体ロック部102と箱本体12のロック爪110が係合して、アッパケース14への収容状態で箱本体12がアッパケース14に一体的に組み付けられる(図7参照)。なお、アッパケース14への組付状態で、箱本体12は、内周壁96から下方に突出されている。
【0041】
そして、箱本体12が組み付けられたアッパケース14がロアケース16に重ね合わされて、箱本体12がロアケース16の開口部22内に挿し込まれる。それと共に、図7に示したように、ロアケース16の周壁20a〜20dの上端縁部が、アッパケース14の嵌合溝98内に嵌め入れられる。そして、ロアケース16のロック部34とアッパケース14のロック爪100(図1参照)が係合することによって、アッパケース14がロアケース16に組み付けられる。これにより、アッパケース14に組み付けられた箱本体12が、ロアケース16の周壁20a〜20d内に収容される。そして、箱本体12が上方からアッパケース14で覆われると共に、下方からロアケース16で覆われることにより、電気接続箱10が形成されるようになっている。
【0042】
このような構成とされた本実施形態の電気接続箱10においては、ロアケース16の内部に収容されたワイヤーハーネス112がハーネス挿通孔82から外部に引き出されることとなる。特に、ハーネス挿通孔82がロアケース16の周壁20cの開口窓42とスライドカバー44にそれぞれ形成された第一切欠部58と第二切欠部78による分割構造とされていることから、ロアケース16からのワイヤーハーネス112の引き出しが容易に行われ得る。
【0043】
具体的には、アッパケース14とロアケース16の組み付け前に、ロアケース16からスライドカバー44を一旦離脱させる。そして、ハーネス挿通孔82から引き出される所定のワイヤーハーネス112を、開口窓42の底縁部56に設けられた第一切欠部58に嵌め入れて、開口窓42からロアケース16の外方に引き出しておく。その後、スライドカバー44を開口窓42にスライド装着して、ロック部80がロック爪54とロック嵌合すると共に、底縁部56と下端部76が当接する挿入端となるまでスライドカバー44を開口窓に押し入れる。
【0044】
この際、図8に拡大して示すように、ワイヤーハーネス112の直径φHが比較的小さい場合、例えば、寸法公差の最小値の場合には、ワイヤーハーネス112がハーネス挿通孔82の中心軸Cと同じ略軸方向で延出するようにハーネス挿通孔82から引き出される。即ち、図6に示すように、ハーネス挿通孔82の中心軸Cに直交する方向で計測したハーネス挿通孔82の開口部84の開口径φ1は、ワイヤーハーネス112の寸法公差の最小値に設定されていることから、ハーネス挿通孔82の中心軸と略同じ方向で延出するようにハーネス挿通孔82からワイヤーハーネス112を引き出すことにより、ハーネス挿通孔82の開口部84とワイヤーハーネス112との間に大きな隙間が発生することが防止でき、ハーネス挿通孔の防水性を確保することができる。加えて、スライドカバー44の開口窓42への組み付けに際して、ワイヤーハーネス112が抵抗となって組み付け操作力が増大することもない。なお、直径φHが寸法公差が最小値のワイヤーハーネス112が挿通された場合には、図8に示すように、ハーネス挿通孔82の開口部84よりもロアケース内方側では、ハーネス挿通孔82とワイヤーハーネス112の間に僅かな隙間:gが生じることとなる。
【0045】
一方、図9に拡大して示すように、ワイヤーハーネス112の直径φH’が比較的大きい場合、例えば、寸法公差の最大値の場合には、ワイヤーハーネス112が傾斜ガイド部64の傾斜に沿って湾曲されてハーネス挿通孔82の中心軸Cに対して傾斜した状態でハーネス挿通孔から引き出されることとなる。即ち、図6に示すように、ハーネス挿通孔82の中心軸Cに直交する方向で計測したハーネス挿通孔82の開口部84の開口径φ1は、ワイヤーハーネス112の寸法公差の最小値に設定されていることから、ワイヤーハーネス112の直径φH’がそれよりも大きい場合は、スライドカバー44が押し込まれるに従って、ワイヤーハーネス112が傾斜ガイド部64の突出端縁部86よりも下方に位置する傾斜ガイド部64の基端部側に向かって押し込まれるように湾曲されて、ワイヤーハーネス112が傾斜ガイド部64の傾斜に沿ってハーネス挿通孔82の中心軸Cに対して傾斜される。
【0046】
図6に示すように、ハーネス挿通孔82の中心軸Cに対して傾斜ガイド部64が傾斜する傾斜角度αだけ傾斜した方向で計測したハーネス挿通孔82の開口部84の開口径φ2は、ハーネス挿通孔82の中心軸Cに直交する方向で計測したハーネス挿通孔82の開口部84の開口径φ1よりも大きく、ワイヤーハーネス112の寸法公差の最大値に設定されていることから、傾斜ガイド部64の傾斜に沿って傾斜されたワイヤーハーネス112は、ハーネス挿通孔84から引き出すことができると共に、ハーネス挿通孔82の開口部84とワイヤーハーネス112の間に隙間が発生することを防止して、ハーネス挿通孔84の防水性を確保することができる。なお、ワイヤーハーネス112を傾斜ガイド部64に沿って傾斜させる際に、図8に示す状態、即ちワイヤーハーネス112が中心軸Cと同じ軸方向で延出する場合に生じていたワイヤーハーネス112とハーネス挿通孔82の内方側における隙間:gが吸収されることによりワイヤーハーネス112が湾曲されて傾斜されることから、スライドカバー44の押し込みに抵抗となる干渉はなく、スライドカバー44の取り付けに必要な操作力が著しく増大することも防止できる。
【0047】
要するに、本実施形態の電気接続箱10においては、傾斜ガイド部64を利用してハーネス挿通孔82を挿通されるワイヤーハーネス112の延出角度を、ハーネス挿通孔82の中心軸Cに対する傾斜ガイド部64の傾斜角度αの範囲内で調整することにより、ワイヤーハーネス112に対するハーネス挿通孔82の開口部84の開口径をワイヤーハーネス112の延出角度に対応して変更することができる。それ故、ワイヤーハーネスの外径寸法がばらつく場合でも、周壁20cとスライドカバー44の組み付けに必要な操作力のばらつきを抑えつつ、ハーネス挿通孔の開口部に大きな隙間が発生するのを回避することができるのである。
【0048】
特に、本実施形態では、傾斜ガイド部64において、ワイヤーハーネス112と接して実質的な案内面となる傾斜ガイド部64の内周面65が外方に凸となる湾曲面とされていることから(図6,図9参照)、ワイヤーハーネス112を湾曲させて傾斜させることが、一層スムーズに行うことができ、ワイヤーハーネス112の直径が大きい場合でも、スライドカバー44の押し込みに必要な操作力が増大することを有利に軽減することができる。
【0049】
加えて、ハーネス挿通孔82の開口部84には、第二切欠部78から第一切欠部58側に向かって突出する突部79が設けられている。これにより、ハーネス挿通孔82に挿通されるワイヤーハーネス112の外周面に対して、突部79を押し付けることができて、開口部84からの水の浸入を有利に防止することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、傾斜ガイド部64が薄肉板状に部材により構成されていたが、傾斜ガイド部64は、ワイヤーハーネス112をハーネス挿通孔84の中心軸側に向かって傾斜する案内面を備えているものであれば、具体的な形状は限定されない。例えば、周壁20cからブロック状に突出する突部の上端面に傾斜ガイド部として、ハーネス挿通孔84の中心軸側に向かって傾斜する案内面を備えたものでもよい。
【0051】
また、ケースを構成する第一壁部と第二壁部は、前記実施形態の如くロアケース16の周壁20cとそこに設けられた開口窓42を覆蓋するスライドカバー44に限定されない。例えば、相互に組み合わされるアッパケースとロアケースのそれぞれ周壁を第一壁部、第二壁部としてもよいし、ケースの周壁と、該周壁にヒンジを介して取り付けられて該周壁の開口部を覆う蓋部材によって、第一壁部および第二壁部を構成してもよい。
【0052】
前記実施形態では、ハーネス挿通孔82が第一切欠部58と第二切欠部78に半分割される構成とされていたが、一方の切欠部が他方の切欠部に対してより広範囲にハーネス挿通孔82を画成するようにしてもよい。また、第一切欠部58および第二切欠部78の形状は半円弧形状に限定されず、多角形状や楕円形状等ワイヤーハーネス112の形状に対応して任意に変更したものも、本発明に含まれることは勿論である。
【0053】
また、前記実施形態では、第二切欠部78に突部79が設けられていたが、必ずしも設けられる必要はない。また、傾斜ガイド部64の突出端縁部86において、ハーネス挿通孔82の中心軸に向かって突出する突部を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10:電気接続箱、16:ロアケース(ケース)、20a〜d:周壁(第一壁部)、42:開口窓、44:スライドカバー(第二壁部)、58:第一切欠部、64:傾斜ガイド部、65:内周面、78:第二切欠部、79:突部、82:ハーネス挿通孔、112:ワイヤーハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースを構成する第一壁部と第二壁部が相互に組み合わされることによりそれらの間に前記外壁を貫通する筒状のハーネス挿通孔が形成されており、前記ケースの内部に収容されたワイヤーハーネスが前記ハーネス挿通孔から外部に引き出されるようになっている電気接続箱において、
前記ハーネス挿通孔が、前記第一壁部に設けられた第一切欠部と、前記第二壁部に設けられた第二切欠部が連接されることにより構成されている一方、
前記第一壁部には、前記ハーネス挿通孔の中心軸側に向かって傾斜しつつ、前記第一切欠部の周縁部から前記ケースの外方に向かって突出する傾斜ガイド部が突設されている、ことを特徴とする電気接続箱。
【請求項2】
前記ハーネス挿通孔の軸方向断面において、前記傾斜ガイド部の内周面が外方に凸となる湾曲面とされている請求項1に記載の電気接続箱。
【請求項3】
前記第二壁部の前記第二切欠部には、前記第一切欠部側に向かって突出する突部が設けられている請求項1又は2に記載の電気接続箱。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−74681(P2013−74681A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210816(P2011−210816)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】