説明

電気機械装置、移動体及びロボット

【課題】電磁コイルと他の部材との間の耐電圧の向上を図るとともに、モーターの高性能化や小型化を実現する。
【解決手段】電気機械装置10であって、第1の絶縁材料100ACで被覆された電線100ALを複数回輪状に巻いてなる電磁コイル100Aと、前記電磁コイルの少なくとも一部を覆うように設けられた第2の絶縁材料で形成された絶縁部702と、を備え、前記絶縁部を挟んだ外部と前記電磁コイルとの間の耐電圧が、前記電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧よりも大きい、電気機械装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気機械装置の電磁コイルに生じる電圧に対する絶縁技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルを形成するための絶縁電線として導体に絶縁材料を塗布して形成された絶縁電線が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−272191公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電磁コイルの耐電圧は一般的に規格を満たすための絶縁層の厚みが施されているが、モーターの電磁コイルを形成する場合、円断面の電磁コイル間に空気層が生じ、この空気層が下記の問題を生じさせる。
(1)電磁コイルの占積率を低下させる、
(2)電磁コイルからの発熱温度を外部ケース側への伝達を妨げる、
(3)電磁コイルを樹脂モールド化させる際に、空気層を抜き取る脱泡(脱空気層)時の作業工程時間が大きい。
以上の課題を解決するために、電磁コイルを巻き、巻き終わった後のフォーミング時に加圧後、加熱し(電磁コイルに電流を流すジュール熱)、空気層を最小限とさせる。
この際の、電磁コイル間の絶縁層は薄くなるが、同一相内の電磁コイル間の電位差は、高電圧になることがないので問題は生じない。しかし、相間による電磁コイル間、電磁コイルとローター間、電磁コイルとコイルバックヨーク間では、耐電圧試験のような高耐電圧に対応する必要性が生じた。本発明は、電磁コイルと他の部材との間の耐電圧の向上を図るとともに、モーターの高性能化や小型化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
電気機械装置であって、第1の絶縁材料で被覆された電線を複数回輪状に巻いてなる電磁コイルと、前記電磁コイルの少なくとも一部を覆うように設けられた第2の絶縁材料で形成された絶縁部と、を備え、前記絶縁部を挟んだ外部と前記電磁コイルとの間の耐電圧が、前記電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧よりも大きい、電気機械装置。
この適用例によれば、絶縁部を挟んだ外部と前記電磁コイルとの間の耐電圧が、前記電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧よりも大きいので、絶縁部を挟んだ外部と前記電磁コイルとの間の電流リークを抑制し、電気機械装置の耐電圧を向上させることができる。
【0007】
[適用例2]
適用例1に記載の電気機械装置において、前記絶縁部の耐電圧は、電気機械装置に関する規格で規定された耐電圧値を満足し、前記電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧は、前記規格で規定された耐電圧値未満である、電気機械装置。
この適用例によれば、絶縁部の耐電圧は、電気機械装置に関する規格で規定された耐電圧値を満足するように形成すれば、電線の被覆を薄くして電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧を前記規格で規定された耐電圧値未満としても、絶縁部を挟んだ外部と前記電磁コイルとの間の電流リーク及び電磁コイル内で隣接する電線間の電流リークを抑制できる。その結果、電気機械装置の小型化、高性能化を実現できる。
【0008】
[適用例3]
適用例1又は2に記載の電気機械装置において、さらに、前記電磁コイルと対向するように設けられている永久磁石を備え、前記絶縁部は、前記電磁コイルの前記永久磁石側に設けられている、電気機械装置。
この適用例によれば、電磁コイルと永久磁石との間の耐電圧を向上させることが出来る。
【0009】
[適用例4]
適用例1〜3のいずれか一つに記載の電気機械装置において、さらに、コイルバックヨークを備え、前記電磁コイルは前記永久磁石と前記コイルバックヨークとの間に配置されており、前記絶縁部は、前記電磁コイルと前記コイルバックヨークとの間に設けられている、電気機械装置。
この適用例によれば、電磁コイルとコイルバックヨークとの間の耐電圧を向上させることが出来る。
【0010】
[適用例5]
適用例1〜4のいずれか一つに記載の電気機械装置において、さらに、前記電磁コイルは複数あり、前記絶縁部は、前記複数の電磁コイル間に設けられている、電気機械装置。
この適用例によれば、2つの電磁コイル間の耐電圧を向上させることが出来る。
【0011】
[適用例6]
適用例1〜5のいずれか一つに記載の電気機械装置において、前記第2の絶縁材料は、酸化チタン含有シランカップリング剤、パリレン、エポキシ、シリコーン、ウレタンのいずれかである、電気機械装置。
この適用例によれば、これらの材料を用いることにより薄くて耐電圧の大きな絶縁部を形成することができる。
【0012】
[適用例7]
適用例1〜6のいずれか一つに記載の電気機械装置を備える移動体。
【0013】
[適用例8]
適用例1〜6のいずれか一つに記載の電気機械装置を備えるロボット。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、モーターや発電装置などの電気機械装置、それを用いた移動体、ロボット等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施例に掛かる電動モーターの構成を示す説明図である。
【図2A】電磁コイルを電磁コイルが配置される円筒面に沿って展開し回転軸の中心側から見たときの説明図である。
【図2B】図2Aの2B−2B切断線で切ったときの断面を展開して示す説明図である。
【図2C】、図2Aの2C−2C切断線で切ったときの断面を拡大して示す説明図である。
【図3】絶縁層を構成するシランカップリング剤の一例を示す説明図である。
【図4】シランカップリング剤に酸化チタンあるいは二酸化珪素を含有させたときの例を示す説明図である。
【図5】他の絶縁材料の例を示す説明図である。
【図6】永久磁石200の表面と一定厚(2.0mm)のコイルバックヨーク115までの間隔の距離をL1とし、永久磁石200の表面からの距離XLに対する磁束密度の関係を示す説明図である。
【図7】従来と本願の電動モーターを比較する説明図である。
【図8】変形例を示す説明図である。
【図9】他の変形例を示す説明図である。
【図10】他の変形例を示す説明図である。
【図11】本発明の変形例によるモーター/発電機を利用した移動体の一例としての電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。
【図12】本発明の変形例によるモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。
【図13】本発明の変形例によるモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1の実施例:
図1は、第1の実施例に掛かる電動モーターの構成を示す説明図である。電動モーター10は、ステーター15とローター20とを備える。ステーター15が外側に配置されている。ステーター15の内側には、略円筒状の空間が形成されており、この略円筒状の空間には、略円筒状のローター20が配置されている。
【0017】
ステーター15は、A相用の電磁コイル100Aと、B相用の電磁コイル100Bと、ケーシング110と、コイルバックヨーク115と、磁気センサー300と、回路基板310と、コネクタ320と、を備える。ローター20は、回転軸230と、複数の永久磁石200と、を備える。回転軸230は、ローター20の中心軸であり、回転軸230の外周に永久磁石200が配置されている。永久磁石200は、回転軸230の中心から外部に向かう径方向(放射方向)に沿って磁化されている。回転軸230は、ケーシング110の軸受け240で支持されている。本実施例では、ケーシング110の内側に、コイルバネ260が設けられており、このコイルバネ260がローター20を図の左方向に押すことによって、ローター20の位置決めを行っている。但し、コイルバネ260は省略可能である。
【0018】
ケーシング110は、内側が略円筒形の空間になっており、その内周に沿って複数の電磁コイル100A、100Bが配置されている。なお、本実施例では、A相用の電磁コイル100Aは内側に配置され、B相用の電磁コイル100Bは外側に配置されている。電磁コイル100A、100Bは、コアレス(空心)である。また、電磁コイル100A、100Bと永久磁石200とは、ローター20とステーター15の対向する円筒面に対向して配置されている。ここで、電磁コイル100の回転軸230と平行な方向の長さは、永久磁石200の回転軸230と平行な方向の長さよりも長くなっている。すなわち、永久磁石200から放射方向に投射すると、電磁コイル100の一部は、投射領域からはみ出る。電磁コイル100のうち、このはみ出た部分を、「コイルエンド」と呼ぶ。ここで、電磁コイル100をコイルエンドと、コイルエンド以外の部分と、に分けると、コイルエンドに流れる電流により生じる力の向きは、ローター20の回転方向と異なる方向(回転軸230と平行な方向)であり、コイルエンド以外の部分に流れる電流により生じる力の向きは、ローター20の回転方向とほぼ同じ方向である。なお、コイルエンドは、コイルエンド以外の部分を挟んで2つあり、両者に生じる力は、互いに反対方向なので、電磁コイル100全体に掛かる力としては打ち消し合う。本実施例では、コイルエンドと重ならない領域を「有効コイル領域」と呼び、コイルエンドと重なる領域を「有効コイル領域外」と呼ぶ。電磁コイル100の放射方向外側であって、有効コイル領域と重なる部分には、コイルバックヨーク115が設けられている。なお、コイルバックヨーク115は、有効コイル領域外と重なっていないことが好ましい。コイルバックヨーク115が有効コイル領域外と重なっていると、コイルバックヨーク115の有効コイル領域外と重なる部分において、ローター20の移動方向以外のトルクによる振動・音・発熱が生じ、電動モーター10の効率を下げて、大トルクの実現が困難となる。
【0019】
ステーター15には、さらに、ローター20の位相を検出する位置センサーとしての磁気センサー300が、電磁コイル100A、100Bの各相に対応して1つずつ配置されている。磁気センサー300は、回路基板310の上に固定されており、回路基板310は、ケーシング110に固定されている。回路基板310は、モーター10を制御するための制御部を備えている。回路基板310は、コネクタ320により、モーター10の外部回路と接続されている。
【0020】
図1(B)は、電磁コイル100A、100Bの近傍を拡大して示す説明図である。永久磁石200と電磁コイル100Aとの間には、絶縁層701が配置され、電磁コイル100Aと電磁コイル100Bとの間には、絶縁層702が配置され、電磁コイル100Bとコイルバックヨーク115との間には、絶縁層703が配置されている。永久磁石200表面からコイルバックヨーク115までの間隔を長さL1、永久磁石200の表面からコイルバックヨーク115の外側までの間隔を長さL2とする。長さL1、L2については後述する。
【0021】
図2Aは、電磁コイルを電磁コイルが配置される円筒面に沿って展開し回転軸の中心側から見たときの説明図である。図2Bは、図2Aの2B−2B切断線で切ったときの断面を展開して示す説明図である。なお、図2Aでは、見難くなるため、電磁コイル100Aと100Bのみを表示し、永久磁石200とコイルバックヨーク115とを表示していない。電磁コイル100Aと100Bとは電気角でπ/2ずれるように配置されている。また、電磁コイル100Aと、電磁コイル100Bとは、それぞれのコイルエンドにおいて、重なっている。電磁コイル100A、100Bに示した矢印は、あるタイミングにおける電磁コイル100A、100Bに流れる電流の向きを示している。図2Aから明らかなように、電磁コイル100A、100Bに流れる電流は、交互に時計回り、反時計回りとなっている。
【0022】
図2Cは、図2Aの2C−2C切断線で切ったときの断面を拡大して示す説明図である。この2C−2C切断線は、電磁コイル100Aと100Bとが重なる部分を切っている。図2Cの左図は、電磁コイルを適正に巻いた後、電磁コイルに電流を流してジュール熱を発生させ、その熱による熱融着で固まった状態を示す。図2Cに示すように、電磁コイル100Aは、電線100ALを複数巻することにより形成されている。電磁コイル100Bは、電線100BLを複数巻することにより形成されている。電線100AL及び100BLは、それぞれ被覆100AC、100BCを有している。電線100AL及び100BLの被覆材料として、例えばポリエステル樹脂を用いることが出来る。図2Cの左図に示す状態では、電磁コイル間に空域があり線材の占積率が悪くなっている。なお、この場合、電磁コイル100Aの絶縁層一般的絶縁層は高耐圧試験で対応できるため絶縁層701,702,703は不要で、高耐圧試験特性を満たす状況となる。
【0023】
図2Cの右図は、電磁コイルを適正に巻いた後、巻線フォーミング時に加圧しながら熱を掛け熱融着で固まった状態を示す。図2Cの右図に示す状態では、絶縁層の変形で空域が無く線材の占積率が格段に向上している。しかし、加圧されたため、例えば矢印100Xで示すように、被覆100ACの厚みが巻線フォーミング前と比較して20〜40%と薄くなっている。その結果、高電圧に耐えられない状況となり、A相電磁コイル100AとB相電磁コイル100B間、A相電磁コイル100Aと永久磁石200間、B相電磁コイル100Bとコイルバックヨーク115間の高耐圧試験特性を満たさない状況となる虞がある。そのため本実施例では、以下の説明するように、電磁コイル100A、電磁コイル100B上に絶縁層である絶縁層701,702,703を構築することにより、耐電圧の向上を図っている。
【0024】
電磁コイル100Aと100Bとの間には、絶縁層702が設けられている。電磁コイル100Aと100Bには、それぞれ、電動モーター10を駆動するための駆動電圧(+VDD〜−VDD)が印加される。ここで、電磁コイル100Aと100Bに印可される駆動電圧の位相は、ずれている。特にPWM駆動される場合には、各PWMのサイクルにおけるデューティの大きさを変えることにより駆動電圧を変えているため、タイミングによっては、A相電磁コイル100Aに+VDDの電圧が掛かり、B相電磁コイル100Bに−VDDの電圧が掛かり、結果として電磁コイル100Aと100Bとの間には、2VDDの電圧が掛かる場合がある。したがって、絶縁層702は、この電圧に耐えるようにするため、高耐電圧が要求される。具体的には、電磁コイル100Aと100Bとの間、すなわち絶縁層702の耐電圧Vcoilは、電気用品安全法あるいは、EN規格、IEC規格で定められている。例えば、電気用品安全法では、定格電圧が150V以上のとき1500Vの電圧を1分間印可し、リークする電流量が10mA以下である耐電圧を備えていることを規定している。定格電圧が150V以下の場合には100V、1分である。EN規格やIEC規格では、1500V、1分である。が好ましい。一方、電磁コイル100A内の隣接する電線100AL間の耐電圧、すなわち被覆100ACの耐電圧Vlineは、1500Vの電圧に1分間耐える必要はない。なぜなら、電線100ALは、電気抵抗が小さいので、電線100ALの数巻き分の長さにおける電線100ALの電圧降下は極めて小さい。その結果、隣接する電線100AL間の電圧差は小さいため、被覆100ACは、1500Vの電圧に1分間耐えるような高い耐電圧を有する必要がない。電磁コイル100Bを形成する電線100BLの被覆100BCについても同様である。
【0025】
図1(B)で説明したように、永久磁石200と電磁コイル100Aとの間には、絶縁層701が配置されている。永久磁石200は、例えばネオジムやフェライトなど磁性体材料で形成されており、導電性を有している。永久磁石200は、回転軸230、軸受け240を介してケーシング110と導通しているので、永久磁石200の電位はグランドレベルである。一方、電磁コイル100Aには、+VDD〜−VDDの駆動電圧が印可される。したがって、永久磁石200と電磁コイル100Aとの間には電圧がかかるため、永久磁石200と電磁コイル100Aとの間の電流リークを抑制するために、絶縁層701は、高い耐電圧を有していることが必要である。
【0026】
また、電磁コイル100Bとコイルバックヨーク115との間には、絶縁層703が配置されている。同様にコイルバックヨーク115は、導電性のある磁性体材料で形成されており、コイルバックヨーク115はケーシング110と接触しているため、コイルバックヨーク115の電位は、グランドレベルである。同様に、電磁コイル100Bには、+VDD〜−VDDの電圧が印可されるため、コイルバックヨーク115と電磁コイル100Bとの間の電流リークを抑制するために、絶縁層703は、高い耐電圧を有していることが必要である。
【0027】
図3は、絶縁層を構成するシランカップリング剤の一例を示す説明図である。絶縁層701〜703(図1、図2C)は、同じ材料で構成されていてもよい。この実施例では、絶縁層701、702、703には、シランカップリング剤を含んでいる。
【0028】
図3(A)は、シランカップリング剤であるシラノールの構成を示す説明図である。シラノールは、シラノール基(Si−OH)と有機官能基を有している。シラノール基の状態では、縮合してしまうので、アルコキシ基(−OR)を有するシランカップリング剤を用い、縮合するときに加水分解してシラノールを生成することが好ましい。
【0029】
図3(B)は、シランカップリング反応を示す説明図である。シランカップリング剤は、シラン(Si)に結合したアルコキシ基(−OR)と、有機官能基R’と、を有している。アルコキシ基として、メトキシ基(−OCH)、エトキシ基(−OC)、2−メトキシ−エトキシ基(−OCH2CH2―OCH3)等様々なアルコキシ基を用いることができる。有機官能基R’として、アミノ基(−NH)、エポキシ基(図3(A)参照)、メタクリル基(−CO−C(CH)=CH)、ビニル基(−CH=CH)、メルカプト基(チオール基、−SH)等のいずれかを用いることが出来る。
【0030】
シランカップリング剤を水溶液に溶かし、シランカップリング剤に希薄水溶液を調製する。次いでこの希薄水溶液を酸性下、あるいはアルカリ性下で処理すると、アルコキシ基が加水分解し、シラノール(Si−OH)が生成される。加水分解速度は、アルコキシ基が小さいほど早く、大きいほど遅い。次に、希薄水溶液に、電磁コイル100Aを浸し、あるいは、電磁コイル100Aに希薄水溶液を噴霧する。このとき、加水分解反応で生成したシラノールは、徐々に縮合してシロキサン結合(Si−O−Si)となり、シランオリゴマーを形成する。このときの反応は、脱水縮合反応なので、加熱(例えば、125℃、2時間)して水を取り除くことにより、縮合反応を進行させることができる。また、シラノールは、電磁コイル100Aの電線100ALの被覆100AC(図2C)の表面と、水素結合を介し、さらに脱水縮合反応を経て、被覆100ACの表面と共有結合し、電磁コイル100Aの表面に絶縁層702を形成する。絶縁層701、703も同様にして形成することができる。
【0031】
図4は、シランカップリング剤に酸化チタンあるいは二酸化珪素を含有させたときの例を示す説明図である。シランカップリング剤を用いて絶縁層701〜703を形成する場合、シランカップリング剤に酸化チタン(TiO)や、二酸化珪素(SiO)を加えても良い。このとき、シランオリゴマー中のシランカップリング剤と酸化チタンの質量パーセントが、それぞれ47.5Wt%、48.5Wt%となるように調製してもよい、また、シランカップリング剤は、酸化防止剤(4.0%)を含んでもよい。シランオリゴマーの分子鎖のなかに、酸化チタン(TiO)や、二酸化珪素(SiO)が分布する構造となる。尚、価格面では、酸化チタン(TiO)よりも、二酸化珪素(SiO)の方が格段に優れているため好ましく、高耐電圧特性でも、二酸化珪素(SiO)では、10[um]=700Vac、20[um]=1500Vac、30[um]=2200Vacと20[um]程度の膜厚でも規格となる1500Vac以上に耐えられる高耐電圧特性が得られた。
【0032】
図5は、他の絶縁材料の例を示す説明図である。絶縁層701〜703の構成材料として、シランカップリング剤(シランオリゴマー)の他、パリレン、エポキシ、シリコーン、ウレタンを用いることが出来る。パリレンとは、パラキシリレン系ポリマーの総称であり、ベンゼン環がメチレン基(−CH−)を介してつながった構造を有している。ベンゼン環の水素やメチレン基の水素をハロゲン(塩素やフッ素など)に置換することにより、耐熱性を向上させることができる。これらの材料を用いることにより絶縁層701〜703の厚さが薄くても耐電圧のある絶縁層を形成することができる。パリレンは図5に示すように、大きな耐電圧を有している。パリレンによる絶縁層は、図5(B)に示すように、原料ダイマーを加熱して気化し、さらに加熱することによりダイマーをモノマーに熱分解し、室温で対象物に蒸着させることにより形成することができる。
【0033】
図6は、永久磁石200の表面と一定厚(2.0mm)のコイルバックヨーク115までの間隔の距離をL1とし、永久磁石200の表面からの距離XLに対する磁束密度の関係を示す説明図である。図6において、L1=2.0mmのグラフでは、永久磁石からの距離XLが大きくなって行くに従って、磁束密度は小さくなり、距離LXが永久磁石200表面からコイルバックヨーク115までの間隔であるL1=2.0mmに達したときには、コイルバックヨーク115の中に入ってしまうので、磁束密度は大きく下がり、XL=4.0mmの点でコイルバックヨーク115の外周面を超えたことで0[T]となっている。L1=2.5、3.0、4.0のグラフも同様にLX=L1となったときに、磁束密度は大きく下がっている。この永久磁石200から、コイルバックヨーク115までの空間に電磁コイル100A、100Bが配置されるため、この間の磁束密度が大きい方が、電動モーター10を高性能にできる。
【0034】
永久磁石200表面からの距離LXが同じ値(例えばLX=1.0mm)の時では、永久磁石200表面からコイルバックヨーク115までの間隔L1が小さくなると、磁束密度が大きくなることが分かる。すなわち、絶縁層701〜703や、電磁コイル100A、100Bの電線100AL、100BLの被覆100AC、100BCを薄くして、永久磁石200の表面からコイルバックヨーク115までの間隔を短くした方が、電動モーター10の性能を向上させることができる。
【0035】
図7は、従来と本願の電動モーターを比較する説明図である。本願では、絶縁層701から703として上述した材料を用い、絶縁層701から703の厚さを薄くしている。さらに、図2Cによる被覆100AC、100BCを薄くしている。被覆100AC、100BCを薄くしても、上述したように隣接する電線100AL間の電位差は大きくは成らないので、隣接する電線100AL間の電流リークは起こりにくい。このようにして電動モーターを構成すると、電磁コイル100A、100Bの厚さ、絶縁層702、703の厚さを薄くできるので、永久磁石200の表面からコイルバックヨーク115までの間隔である長さL1を短くすることができる。さらに、永久磁石200表面からコイルバックヨーク115までの間隔が短くなると、磁束密度が大きくなることから、電磁コイル100A、100Bの巻数を少なくすることができる。その結果、巻線使用量を少なくすると共に、電動モーター10の小型化が可能となる。
【0036】
従来のように、電磁コイル100Aの電線100ALの被覆100ACを厚くする場合、電磁コイルと他の部材との間の耐電圧を上げることができるが、被覆100ACの厚みにより永久磁石200とコイルバックヨーク115との距離が大きくなってしまうため、磁束密度を大きくすることができず、電動モーター10の性能向上や小型化が難しかった。しかし、本実施例によれば、被覆100ACの厚みを薄くしてもよいので、永久磁石200とコイルバックヨーク115との間の距離を小さくすることができる。その結果、コイルバックヨーク115の径を小さくすることで、電動モーター10の小型化を実現することができる。また、永久磁石200とコイルバックヨーク115との間の距離を小さくすることにより、磁束密度を大きくできるので、電動モーター10の性能を向上することができる。
【0037】
B.変形例:
図8は、変形例を示す説明図である。この変形例では、電磁コイル100A、100Bのうち、絶縁を要する部分であるコイルエンドを含む上面部と下面部のみに絶縁層702を形成している。このように、電磁コイルについて、絶縁を要する部分だけ絶縁層702で覆っても良く、電磁コイル100A,100Bの全体を絶縁層702で覆っても良い。
【0038】
図9は、他の変形例を示す説明図である。この変形例では、絶縁層703をコイルバックヨーク115の内側(電磁コイル100B側)に形成している。このように、絶縁層703を電磁コイル100Bではなく、コイルバックヨーク115に形成してもよい。
【0039】
図10は、他の変形例を示す説明図である。この変形例では、絶縁層701を永久磁石200の表面(電磁コイル100A側)に形成している。このように、絶縁層701を電磁コイル100Aではなく、永久磁石200に形成してもよい。なお、この変形例では、永久磁石200はスリット201を有している。スリット201内に絶縁層701が浸透することで、スリット201により、永久磁石200の破損回避を実現することができる。また、図1の電磁コイル100Aの内径には、電動モーター10で最も大きなトルクが掛かる場所で、ここに絶縁層701の層を設けることで、単に電気的絶縁を行う目的以外にも電磁コイル100Aの強度補強に繋がる機械的補強としても、電動モーター10の瞬時最大トルク特性(短期間で始動トルクに近い瞬時トルクを示す特性)に大きく寄与できる。
【0040】
図11は、本発明の変形例によるモーター/発電機を利用した移動体の一例としての電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。この自転車3300は、前輪にモーター3310が設けられており、サドルの下方のフレームに制御回路3320と充電池3330とが設けられている。モーター3310は、充電池3330からの電力を利用して前輪を駆動することによって、走行をアシストする。また、ブレーキ時にはモーター3310で回生された電力が充電池3330に充電される。制御回路3320は、モーターの駆動と回生とを制御する回路である。このモーター3310としては、上述した各種のモーター10を利用することが可能である。
【0041】
図12は、本発明の変形例によるモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。このロボット3400は、第1と第2のアーム3410,3420と、モーター3430とを有している。このモーター3430は、被駆動部材としての第2のアーム3420を水平回転させる際に使用される。このモーター3430としては、上述した各種の電動モーター10を利用することが可能である。
【0042】
図13は、本発明の変形例によるモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。この鉄道車両3500は、モーター3510と、車輪3520とを有している。このモーター3510は、車輪3520を駆動する。さらに、モーター3510は、鉄道車両3500の制動時には発電機として利用され、電力が回生される。この電動モーター3510としては、上述した各種のモーター10を利用することができる。
【0043】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0044】
10…電動モーター
15…ステーター
20…ローター
100、100A、100B…電磁コイル
100AC、100BC…被覆
100AL、100BL…電線
110…ケーシング
115…コイルバックヨーク
200…永久磁石
230…回転軸
260…コイルバネ
300…磁気センサー
310…回路基板
320…コネクタ
701〜703…絶縁層
3300…自転車
3310…モーター
3320…制御回路
3330…充電池
3400…ロボット
3410…第2のアーム
3420…第2のアーム
3430…モーター
3500…鉄道車両
3510…モーター
3520…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械装置であって、
第1の絶縁材料で被覆された電線を複数回輪状に巻いてなる電磁コイルと、
前記電磁コイルの少なくとも一部を覆うように設けられた第2の絶縁材料で形成された絶縁部と、
を備え、
前記絶縁部を挟んだ外部と前記電磁コイルとの間の耐電圧が、前記電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧よりも大きい、電気機械装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気機械装置において、
前記絶縁部の耐電圧は、電気機械装置に関する規格で規定された耐電圧値を満足し、
前記電磁コイル内で隣接する電線間の耐電圧は、前記規格で規定された耐電圧値未満である、電気機械装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気機械装置において、さらに、
前記電磁コイルと対向するように設けられている永久磁石を備え、
前記絶縁部は、前記電磁コイルの前記永久磁石側に設けられている、電気機械装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気機械装置において、さらに、
コイルバックヨークを備え、
前記電磁コイルは前記永久磁石と前記コイルバックヨークとの間に配置されており、
前記絶縁部は、前記電磁コイルと前記コイルバックヨークとの間に設けられている、電気機械装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気機械装置において、さらに、
前記電磁コイルは複数あり、
前記絶縁部は、前記複数の電磁コイル間に設けられている、電気機械装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気機械装置において、
前記第2の絶縁材料は、酸化チタン含有シランカップリング剤、パリレン、エポキシ、シリコーン、ウレタンのいずれかである、電気機械装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気機械装置を備える移動体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電気機械装置を備えるロボット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−178957(P2012−178957A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41908(P2011−41908)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】