電気機械
【課題】コストを低減しつつ、界磁極内に発生する渦電流損失を低減することができる電気機械を得ることを目的とする。
【解決手段】リニアモータとして機能する対向範囲における、界磁極22の磁極数P=5、電機子11のティース6の数Q=6としたリニアモータにおいて、同一のティース6に巻回する巻線を( / )で、三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、各ティース6に巻回する巻線7a、7bを、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)の順序となるようにした。この構成により、電機子起磁力の同期成分より低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、界磁極の渦電流損失を低減できる。
【解決手段】リニアモータとして機能する対向範囲における、界磁極22の磁極数P=5、電機子11のティース6の数Q=6としたリニアモータにおいて、同一のティース6に巻回する巻線を( / )で、三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、各ティース6に巻回する巻線7a、7bを、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)の順序となるようにした。この構成により、電機子起磁力の同期成分より低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、界磁極の渦電流損失を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機やリニアモータ等の電気機械に関するものであり、界磁極内に発生する渦電流損失を低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の永久磁石を備えた界磁極と集中巻で巻回された電機子巻線を備えた電機子とからなる回転電機が様々な用途に用いられている。集中巻は、電機子のティースに集中的に巻線が巻き回された構造であり、機械による自動巻き生産方法が発達したためにサーボ用途などの小型電動機を中心に多用されている。このような小型モータでは、銅損、鉄損、機械損が損失の大半を占めるため、界磁極に発生する渦電流損が問題とならない場合が多い。
一方、数kWを越える大型電動機においては、これまでは分布巻で巻回された電機子巻線を備えた電機子を用いていたが、コイルエンドの小さい集中巻を採用する必要性が高まっている。例えば、エレベータの巻上機や工作機械のステージをダイレクト駆動するような電動機においては、省スペースの観点から、コイルエンドの小型化要求が大きい。
【0003】
しかしながら、数kWを超える大型回転電機においては、界磁極に発生する渦電流損失が全体の損失の中でも無視できない。さらに近年、希土類磁石のような残留磁束密度と保持力が高い高性能磁石が大型回転電機の界磁極の磁極として積極的に利用されるようになっている。例えば、Nd−Fe−B系の永久磁石は導電率が高く、フェライト系の永久磁石に比べて渦電流が流れやすいという特徴を持っている。界磁極における渦電流損失により、効率が低下する他、界磁極の温度が上昇して磁石の減磁を招くという課題があった。また、減磁には至らなくとも温度上昇によって残留磁束密度が低下し、その結果、磁石に基づく磁束量が減少する。このため、温度上昇がない状態と同じ出力を発生させるために電機子電流を多く流す必要があり、この電流による銅損が増加して効率が低下してしまうという課題もあった。
【0004】
渦電流損失を低減するためには、鉄心を積層鋼板で構成したり、電機子の電機子巻線を分布巻にして電機子電流が作る磁界の高調波を抑制することが考えられる。特許文献1には、鉄心を積層鋼板で構成し積層した鉄心をブロック化して界磁極を構成する場合に、積層鋼板間の積層方向の電気的絶縁をはかることにより、界磁極内の渦電流損失を抑えることについて記載されている。
また、特許文献2には、界磁極の鉄心を積層鋼板としない場合に、塊状ヨークで構成し、かつそのヨークを区分し、渦電流の経路を絶つことにより渦電流損失を低減する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−289491号公報
【特許文献2】特許第3280351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来の永久磁石を備えた電気機械においては、界磁極の渦電流損失を低減するために、界磁極のヨークを積層構造にしたり、塊状ヨークを区分したりする構造が提案されてきたが、積層構造とすると、大きな金型が必要であり、かつ大型プレス機を導入しなければならないなど設備投資がコスト高となる問題点があった。また、塊状のヨークを区分すると、部品点数の増加に伴う工数増加によるコスト高を招く他、区分された塊状ヨーク間の絶縁厚さの不均一によって界磁極と電機子の磁気的空隙における磁束密度が不均一となり、騒音や振動に繋がるという問題点があった。
また、電機子を分布巻とした場合は先述のようにコイルエンドが大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は以上のような問題点を解消するためになされたもので、コストを低減しつつ、界磁極内に発生する渦電流損失を低減することができる電気機械を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電気機械は、磁気的空隙を介して配置され磁気的空隙長の方向と直角の方向に駆動されて相対移動する、電機子および界磁極を備え、更に、
電機子は、磁気的空隙長の方向に突出し移動方向に沿って所定の間隔で形成された複数のティースを有する電機子鉄心、および各ティースに集中巻で巻回され三相交流の各相の電流が通電される複数の電機子巻線を備え、界磁極は、移動方向に沿って配置された所定の数の磁極を備えた電気機械において、
駆動時電機子巻線から発生する電機子起磁力の、駆動速度と同期する次数より低い次数の成分が低減するよう、複数のティースに、三相交流の互いに異なる相の電流が通電される複数の巻線を巻回するティースを含め、
磁束が相互間で流通し電気機械として機能する対向範囲における界磁極の磁極数Pと電機子のティース数Qとが、mを自然数としたとき、P=5m、Q=6mまたは、P=7m、Q=6mで表され、直動機として直線方向に駆動される電気機械であって、
同一のティースに巻回する巻線を( / )で、三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、各ティースに巻回する巻線を、下記順序または下記順序を繰り返す順序の列から連続する6m個を抽出したものとするものである。
(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)
【発明の効果】
【0009】
この発明は以上のように、発生する電機子起磁力の、特に、駆動速度と同期する次数より低い次数の成分が低減するよう、同一のティースに三相交流の互いに異なる相の電流が通電される複数の巻線を巻回するようにしたので、コスト高となる界磁極ヨークを積層することや塊状のヨークを区分することを必要とすることなく、低コストで、界磁極内に発生する渦電流損失を低減することができる。
更に、磁束が相互間で流通し電気機械として機能する対向範囲における界磁極の磁極数Pと電機子のティース数Qとが、mを自然数としたとき、P=5m、Q=6mまたは、P=7m、Q=6mで表され、直動機として直線方向に駆動される電気機械であって、
同一のティースに巻回する巻線を( / )で、三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、各ティースに巻回する巻線を、下記順序または下記順序を繰り返す順序の列から連続する6m個を抽出したものとしたので、電機子起磁力の界磁極起磁力と非同期成分である高調波成分のうち、同期成分よりも低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、直動機における界磁極の渦電流損失を低減できる。
(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1における電気機械の構成を示す断面図である。
【図2】比較例として示す、従来の電気機械の構成を示す断面図である。
【図3】従来の電気機械の電機子が作る起磁力分布を示す図である。
【図4】従来の電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1における電気機械の電機子が作る起磁力分布を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図7】従来の電気機械の電機子が作る起磁力の空間1次成分の合成を説明するベクトル図である。
【図8】この発明の実施の形態1における電気機械の電機子が作る起磁力の空間1次成分の合成を説明するベクトル図である。
【図9】この発明の実施の形態2における電気機械の構成を示す断面図である。
【図10】この発明の実施の形態2における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態3における電気機械の構成を示す断面図である。
【図12】この発明の実施の形態3における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図13】この発明の実施の形態4における電気機械の構成を示す断面図である。
【図14】この発明の実施の形態4における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図15】この発明の実施の形態6における電気機械の構成を一部拡大して示す断面図である。
【図16】この発明の実施の形態7における電気機械の構成を一部拡大して示す断面図である。
【図17】この発明の実施の形態8における電気機械の構成を示す断面図である。
【図18】この発明の実施の形態9における電気機械の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における電気機械の構成を示す断面図である。電気機械の例として、ここでは、3相10極12ティースの回転電機を示している。電機子1と界磁極2とが、磁気的空隙10を介して相対的に回転自在にベアリング等の保持具により配置されている。界磁極2は、軸9に取り付けられた界磁極鉄心3とこの界磁極鉄心3に固定された永久磁石4とを有している。N極の永久磁石4aとS極の永久磁石4bとを5対、計10極の磁極を有している。なお、図1では、1つの永久磁石4a(4b)で1極を構成しているが、永久磁石の具体的な構成の仕方は問わない。また、界磁極鉄心3の表面に永久磁石4a、4bが配置されているが、界磁極鉄心3の内部に埋め込むように構成してもよい。
【0012】
電機子1は、径方向、即ち、磁気的空隙長の方向に突出し周方向に沿って30度の間隔で計12個のティース6が形成された電機子鉄心5とこの電機子鉄心5のティース6に集中巻で巻回されスロット8に収容された巻線7a、7bとを有している。1つのティース6に2つの巻線7a、7bを巻回している。各ティース6に巻回する巻線の相別、極性は、紙面上端から時計回りに、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)で示す順となっている。
ここで、1つのティースに巻き回す相を( / )内に示し、またU+とU−は巻極性(巻き方向)が互いに逆であることを示している。但し、同一のティースに巻き回している2つの巻線7a、7bの配置順序は問わず、例えば、(U+/V−)と記載の箇所を(V−/U+)と、径方向の位置を逆にして配置しても構わない。
【0013】
一方、図2は、従来の3相10極12ティースの回転電機の断面図を示している。従来は、1つのティース6に1つの巻線7を巻き回している。巻線の相別、極性は、紙面上端から時計回りに、(U+)(U−)(V−)(V+)(W+)(W−)(U−)(U+)(V+)(V−)(W−)(W+)で示す順となっている。
図2に示した回転電機の巻線7に互いの位相差が2π/3の3相電流を通電すると、磁気的空隙10における電機子起磁力が生じ、ある時間においては図3に示すような分布を持つ。
【0014】
図2で示した回転電機は界磁極2が10極であるから、界磁極3の回転と同期する電機子起磁力は空間5次の成分である。図3は、略矩形波上の分布となっており、同期成分以外の高調波成分(非同期成分)が多く含まれている。これら高調波成分は、図3の電機子起磁力の分布をフーリエ級数に展開することで求めることができる。
図4は、電機子起磁力の分布をフーリエ級数展開し、高調波成分を求めた結果を示している。同期成分である空間5次成分を1.0に規格化して示している。同図によれば空間1次成分が、約0.36であり、空間7次成分が約0.71である。
【0015】
電機子起磁力の同期成分である空間5次成分は、界磁極2の回転と同じ速度で周方向に移動するため、界磁極2から見ると止まって見える。つまり、界磁極鉄心3や永久磁石4内における磁束の変動が無いので渦電流を発生しない。しかしながら、非同期成分は、界磁極2から見ると進行して見え、磁束の変動が有るため渦電流を発生する。
電機子巻線が集中巻の場合、一般に、電機子起磁力成分の次数が高いほど磁界が磁気的空隙10内で回りこみ、界磁極2に鎖交しなくなる。換言すると、より低い次数の電機子起磁力ほど界磁極2に鎖交し、多くの渦電流を発生する。分布巻では低次の起磁力が発生しないことから,この問題は集中巻特有の問題である。
【0016】
この発明の実施の形態1による回転電機は、電機子起磁力の同期成分である空間5次成分より低い次数の成分が低減するよう、先の図1で説明したように、同一のティース6に、U、V、W三相交流の互いに異なる相の電流が通電される2つの巻線7a、7bを巻回するようにしている。
図5は、図1の場合の、電機子起磁力の周方向に沿った分布図、図6は、この図5の電機子起磁力分布をフーリエ級数に展開して求めた各次成分で、図4の場合と同様、空間5次成分を1.0に規格化している。
【0017】
図6によれば、空間1次成分が、約0.10であり、従来例(図4)の0.36に比べて1/3倍以下となっている。空間7次成分は、従来例と同じ0.71である。
図7および図8は、電機子起磁力の空間1次成分の合成、ここでは、U相の電流によって作成される全起磁力の合成値を求める場合を説明するベクトル図で、それぞれ、従来例の図2の巻線構造と本発明の実施の形態1の図1の巻線構造とに対応するものである。なお、両者は、空間5次合成ベクトルの振幅を1.0としており、その場合の空間1次成分の振幅を、従来の図7では、0.348とし、実施の形態1の図8では、0.373としている。
両図から分かるように、電機子の1つのティースに、2つの集中巻の巻線を巻回することによって、空間1次のベクトルを分散させてその合成ベクトルを従来より低減させているわけである。
【0018】
この場合、渦電流損失は、近似的に磁界の2乗に比例するので、電機子起磁力の2乗に比例する。従って、本実施の形態1では、電機子起磁力の空間1次成分による界磁極の渦電流損失が従来の1/9倍以下に低減できることを示している。
【0019】
このように、本実施の形態1によれば、電機子起磁力の界磁極起磁力と非同期成分である高調波成分のうち、同期成分よりも低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、界磁極の渦電流損失を低減できる。このように根本的に渦電流を低減できるため、従来のような界磁極ヨークを積層することや塊状のヨークを区分することが不要となるため、設備投資によるコストや部品点数増加によるコストを低減することができる。
【0020】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、例として、10極12ティースの回転電機で説明したが、図9は、20極24ティースの回転電機を示している。このような極数Pとティース数Qとが、nを2以上の偶数としたとき、P=5n、Q=6nで表される場合は、各ティース6に巻回する巻線の相別、極性は、紙面上端から時計回りに、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)を繰り返すようにすればよい。
この場合、電機子起磁力の各次数成分は、図10のようになる。即ち、同期成分である(5n/2)次の電機子起磁力を1.0に規格化すると、n/2次は、0.10となり、実施の形態1と同様にして渦電流損失を低減することが出来る。
【0021】
実施の形態3.
図11は、本発明の実施の形態3の回転電機を示しており、3相14極12ティースの回転電機である。14極の回転電機としても電機子1は同じであり、空間次数7次を同期成分として動作する。更に一般化すれば、極数Pとティース数Qとが、nを2以上の偶数としたとき、P=7n、Q=6nで表される場合は、同期成分が7n/2次である。
図12は、この場合の電機子起磁力の各次数成分を示す。同図には、従来の回転電機の電機子がつくる起磁力も併記している。同図において、n/2次成分が従来よりも小さくなっていることがわかる。すなわち、実施の形態1と同様にして渦電流損失を低減することが出来る。
【0022】
実施の形態4.
図13は、本発明の実施の形態4の回転電機を示しており、例として、3相10極12ティースの回転電機を示している。同図において、巻線7の相順は、先の実施の形態1〜3と同じであるが、ターン数が異なる。
即ち、巻線7のうち、同一ティースに巻き回された2つの巻線が同相の場合の巻線7c、7d(例えば、図13の最上端の(U+/U+)が相当する)のターン数をそれぞれTとした場合、同一ティースに巻き回された2つの巻線が異相の場合の巻線7e、7f(例えば、図13の最上端から1つ時計方向の(U−/V+)が相当する)のターン数をそれぞれ約2T/√3としている。このように構成すると、全てのティースにおける電機子起磁力の合成値の大きさが等しくなり、結果として、電機子1がつくる起磁力の成分は、図14のようになる。
【0023】
図14は一般化して表示しており、即ち、極数Pとティース数Qとが、nを2以上の偶数としたとき、P=5n、Q=6nで表される場合の電機子起磁力を示している。同図において、n/2次成分はほとんど零になっている。つまり、n/2次成分の渦電流はほとんど生ぜず、実施の形態1〜3よりもさらに渦電流損失を低減することができる。
以上の内容は、先の実施の形態3で説明した極数Pとティース数Qとが、P=7n、Q=6nで表される場合も全く同様に適用でき同等の効果を奏する。
【0024】
実施の形態5.
本発明の実施の形態5では、先の実施の形態4において、同一ティースに巻き回された2つの巻線が同相の場合の巻線7c、7dの導体断面積を、同一ティースに巻き回された2つの巻線が異相の場合の巻線7e、7fの導体断面積よりも大きく構成した。このように構成することにより、導体(銅)のスロット8に対する占積率を向上させることができるため、銅損を低減して高効率な回転電機とすることができる。
好ましくは、巻線7c、7dの総導体断面積(単体の導体断面積×ターン数)が巻線7e、7fの総導体断面積と同等となるように、巻線7c、7dの導体断面積を巻線7e、7fの導体断面積の約2/√3倍とすることが望ましい。
【0025】
実施の形態6.
図15は、本発明の実施の形態6の回転電機の部分拡大図を示している。先の実施の形態1〜5においては、同一ティースに巻き回された2つの巻線(7a、7b等)をティースの軸方向に並べて配置していたが、この実施の形態6では、図15に示すように、内周側の巻線7hと外周側の巻線7iとに分けて配置した。このように構成しても、実施の形態1〜5で示した効果は全く同様に得られる。即ち、本願発明を適用する場合において、同一ティースに巻回する2つの巻線のスロット8内における配置構成の如何は問わない。
【0026】
実施の形態7.
図16は、本発明の実施の形態7の回転電機の部分拡大図を示している。先の実施の形態1〜6では、同一ティースに巻回する巻線は、いずれのティース6でも2つの巻線7a、7b等で構成したが、この実施の形態7においては、同一ティース6に巻き回された2つの相が同相の場合の巻線7a、7bをひとまとめにしてターン数を2Tとした単体の巻線7gとしている。このように構成すると、巻線7の個数が、全体として3/4倍に低減されるため、部品点数を低減することができ、低コスト化できる。
【0027】
実施の形態8.
上述の各実施の形態例では、内側が界磁極2である、いわゆるインナロータの回転電機であったが、本願発明の実施の形態8として図17に示すような、外側が界磁極2である、いわゆるアウタロータの回転電機としても、本発明を用いることが出来ることは勿論である。
更に、本発明は、回転電機として、電動機、発電機の区別なく適用できることは言うまでもない。
【0028】
実施の形態9.
図18は、回転機を直線状に展開したリニアモータに適用した、本願発明の実施の形態9を示す図である。先の形態例の回転電機のようにループになっているものは、磁極数、ティース数を、2以上の偶数nを適用して表現したが、リニアモータのように端部がある場合は、1以上の自然数mを適用して表現する。
また、図18の例は、電機子11が移動側(移動方向は問わない)で、界磁極22は固定側となっており、電機子11の移動距離に応じて多数個の磁極を備えている。従って、少なくとも、本願発明で問題とする、その磁極数Pとティース数Qとは、リニアモータとして機能する対向範囲における個数を採用する。具体的に、図18の例では、磁極数P=5mに、m=1を代入したP=5、ティース数Q=6mに、m=1を代入したQ=6の場合に相当する。なお、この発明は、磁極数P=7m、ティース数Q=6mの場合も同様に適用することができる。
【0029】
リニアモータの場合、各ティース6に巻回する2つの巻線7a、7bの構成は以下の通りとする。先ず、先の実施の形態1で説明した表現を準用して、下記順序または下記順序を繰り返す順序を想定する。
1:(U+/U+)、2:(U−/V+)、3:(V−/V−)、4:(W−/V+)、5:(W+/W+)、6:(W−/U+)、7:(U−/U−)、8:(U+/V−)、9:(V+/V+)、10:(W+/V−)、11:(W−/W−)、12:(W+/U−)。
ここで、1:〜12:は、以下の説明の便宜上付した番号である。
【0030】
そして、各巻線7a、7bは、上記順序の列の中から連続する6m個(ここでは、6個)を抽出した相別、極性のものとする。具体的に、図18では、各巻線7a、7bは、図中左端のティースから順に右方に向かって、上記列の中の、第12番、第1番〜第5番の合計6個の互いに連続する6個の巻線構成(相別、極性)を採用している。勿論、各巻線として、上記列の中の、第1番〜第6番を採用し、左端から右方に向かって、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)としてもよい。
【0031】
以上の巻線構成とすることにより、先の実施の形態例で説明したと同様、電機子起磁力の界磁極起磁力と非同期成分である高調波成分のうち、同期成分よりも低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、界磁極の渦電流損失を低減できる。
【0032】
特に、リニアモータにおいては、電機子11が界磁極22よりも短い場合、電機子11が移動すると、電機子11の起磁力に基づく磁束が鎖交していない部分に急に磁束が鎖交するようになる。このため、磁束の微分である電圧が界磁極鉄心33内に急峻に励起されることとなり、回転電機よりも大きな渦電流損失となり得る。従って、本発明を適用することによって、この渦電流損失の原因である磁束を大幅に低減することができる。
【0033】
なお、図18では、電機子11を移動側、界磁極22を固定側としたが、両者が逆の場合でもこの発明は同様に適用することができる。また、モータに限らず、発電機として機能する場合でもよく、この発明は、広く、直線方向に駆動される直動機に同様に適用でき同等の効果を奏する。
【0034】
また、この発明の変形例において、同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線のターン数をTとした場合、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線のターン数を2T/√3としたので、界磁極の過電流損失が一層低減する。
【0035】
また、同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線の導体断面積を、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線の導体断面積より大きくしたので、電機子の銅損が低減する。
【0036】
また、同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該2つの巻線を単一の巻線で構成したので、部品点数が低減して低コスト化できる。
【符号の説明】
【0037】
1,11 電機子、2,22 界磁極、3,33 界磁極鉄心、
4a,4b 永久磁石、5 電機子鉄心、6 ティース、7a〜7i 巻線、
10 磁気的空隙。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機やリニアモータ等の電気機械に関するものであり、界磁極内に発生する渦電流損失を低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の永久磁石を備えた界磁極と集中巻で巻回された電機子巻線を備えた電機子とからなる回転電機が様々な用途に用いられている。集中巻は、電機子のティースに集中的に巻線が巻き回された構造であり、機械による自動巻き生産方法が発達したためにサーボ用途などの小型電動機を中心に多用されている。このような小型モータでは、銅損、鉄損、機械損が損失の大半を占めるため、界磁極に発生する渦電流損が問題とならない場合が多い。
一方、数kWを越える大型電動機においては、これまでは分布巻で巻回された電機子巻線を備えた電機子を用いていたが、コイルエンドの小さい集中巻を採用する必要性が高まっている。例えば、エレベータの巻上機や工作機械のステージをダイレクト駆動するような電動機においては、省スペースの観点から、コイルエンドの小型化要求が大きい。
【0003】
しかしながら、数kWを超える大型回転電機においては、界磁極に発生する渦電流損失が全体の損失の中でも無視できない。さらに近年、希土類磁石のような残留磁束密度と保持力が高い高性能磁石が大型回転電機の界磁極の磁極として積極的に利用されるようになっている。例えば、Nd−Fe−B系の永久磁石は導電率が高く、フェライト系の永久磁石に比べて渦電流が流れやすいという特徴を持っている。界磁極における渦電流損失により、効率が低下する他、界磁極の温度が上昇して磁石の減磁を招くという課題があった。また、減磁には至らなくとも温度上昇によって残留磁束密度が低下し、その結果、磁石に基づく磁束量が減少する。このため、温度上昇がない状態と同じ出力を発生させるために電機子電流を多く流す必要があり、この電流による銅損が増加して効率が低下してしまうという課題もあった。
【0004】
渦電流損失を低減するためには、鉄心を積層鋼板で構成したり、電機子の電機子巻線を分布巻にして電機子電流が作る磁界の高調波を抑制することが考えられる。特許文献1には、鉄心を積層鋼板で構成し積層した鉄心をブロック化して界磁極を構成する場合に、積層鋼板間の積層方向の電気的絶縁をはかることにより、界磁極内の渦電流損失を抑えることについて記載されている。
また、特許文献2には、界磁極の鉄心を積層鋼板としない場合に、塊状ヨークで構成し、かつそのヨークを区分し、渦電流の経路を絶つことにより渦電流損失を低減する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−289491号公報
【特許文献2】特許第3280351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来の永久磁石を備えた電気機械においては、界磁極の渦電流損失を低減するために、界磁極のヨークを積層構造にしたり、塊状ヨークを区分したりする構造が提案されてきたが、積層構造とすると、大きな金型が必要であり、かつ大型プレス機を導入しなければならないなど設備投資がコスト高となる問題点があった。また、塊状のヨークを区分すると、部品点数の増加に伴う工数増加によるコスト高を招く他、区分された塊状ヨーク間の絶縁厚さの不均一によって界磁極と電機子の磁気的空隙における磁束密度が不均一となり、騒音や振動に繋がるという問題点があった。
また、電機子を分布巻とした場合は先述のようにコイルエンドが大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は以上のような問題点を解消するためになされたもので、コストを低減しつつ、界磁極内に発生する渦電流損失を低減することができる電気機械を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電気機械は、磁気的空隙を介して配置され磁気的空隙長の方向と直角の方向に駆動されて相対移動する、電機子および界磁極を備え、更に、
電機子は、磁気的空隙長の方向に突出し移動方向に沿って所定の間隔で形成された複数のティースを有する電機子鉄心、および各ティースに集中巻で巻回され三相交流の各相の電流が通電される複数の電機子巻線を備え、界磁極は、移動方向に沿って配置された所定の数の磁極を備えた電気機械において、
駆動時電機子巻線から発生する電機子起磁力の、駆動速度と同期する次数より低い次数の成分が低減するよう、複数のティースに、三相交流の互いに異なる相の電流が通電される複数の巻線を巻回するティースを含め、
磁束が相互間で流通し電気機械として機能する対向範囲における界磁極の磁極数Pと電機子のティース数Qとが、mを自然数としたとき、P=5m、Q=6mまたは、P=7m、Q=6mで表され、直動機として直線方向に駆動される電気機械であって、
同一のティースに巻回する巻線を( / )で、三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、各ティースに巻回する巻線を、下記順序または下記順序を繰り返す順序の列から連続する6m個を抽出したものとするものである。
(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)
【発明の効果】
【0009】
この発明は以上のように、発生する電機子起磁力の、特に、駆動速度と同期する次数より低い次数の成分が低減するよう、同一のティースに三相交流の互いに異なる相の電流が通電される複数の巻線を巻回するようにしたので、コスト高となる界磁極ヨークを積層することや塊状のヨークを区分することを必要とすることなく、低コストで、界磁極内に発生する渦電流損失を低減することができる。
更に、磁束が相互間で流通し電気機械として機能する対向範囲における界磁極の磁極数Pと電機子のティース数Qとが、mを自然数としたとき、P=5m、Q=6mまたは、P=7m、Q=6mで表され、直動機として直線方向に駆動される電気機械であって、
同一のティースに巻回する巻線を( / )で、三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、各ティースに巻回する巻線を、下記順序または下記順序を繰り返す順序の列から連続する6m個を抽出したものとしたので、電機子起磁力の界磁極起磁力と非同期成分である高調波成分のうち、同期成分よりも低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、直動機における界磁極の渦電流損失を低減できる。
(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1における電気機械の構成を示す断面図である。
【図2】比較例として示す、従来の電気機械の構成を示す断面図である。
【図3】従来の電気機械の電機子が作る起磁力分布を示す図である。
【図4】従来の電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1における電気機械の電機子が作る起磁力分布を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図7】従来の電気機械の電機子が作る起磁力の空間1次成分の合成を説明するベクトル図である。
【図8】この発明の実施の形態1における電気機械の電機子が作る起磁力の空間1次成分の合成を説明するベクトル図である。
【図9】この発明の実施の形態2における電気機械の構成を示す断面図である。
【図10】この発明の実施の形態2における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態3における電気機械の構成を示す断面図である。
【図12】この発明の実施の形態3における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図13】この発明の実施の形態4における電気機械の構成を示す断面図である。
【図14】この発明の実施の形態4における電気機械の電機子が作る起磁力の各次数成分を示す図である。
【図15】この発明の実施の形態6における電気機械の構成を一部拡大して示す断面図である。
【図16】この発明の実施の形態7における電気機械の構成を一部拡大して示す断面図である。
【図17】この発明の実施の形態8における電気機械の構成を示す断面図である。
【図18】この発明の実施の形態9における電気機械の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における電気機械の構成を示す断面図である。電気機械の例として、ここでは、3相10極12ティースの回転電機を示している。電機子1と界磁極2とが、磁気的空隙10を介して相対的に回転自在にベアリング等の保持具により配置されている。界磁極2は、軸9に取り付けられた界磁極鉄心3とこの界磁極鉄心3に固定された永久磁石4とを有している。N極の永久磁石4aとS極の永久磁石4bとを5対、計10極の磁極を有している。なお、図1では、1つの永久磁石4a(4b)で1極を構成しているが、永久磁石の具体的な構成の仕方は問わない。また、界磁極鉄心3の表面に永久磁石4a、4bが配置されているが、界磁極鉄心3の内部に埋め込むように構成してもよい。
【0012】
電機子1は、径方向、即ち、磁気的空隙長の方向に突出し周方向に沿って30度の間隔で計12個のティース6が形成された電機子鉄心5とこの電機子鉄心5のティース6に集中巻で巻回されスロット8に収容された巻線7a、7bとを有している。1つのティース6に2つの巻線7a、7bを巻回している。各ティース6に巻回する巻線の相別、極性は、紙面上端から時計回りに、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)で示す順となっている。
ここで、1つのティースに巻き回す相を( / )内に示し、またU+とU−は巻極性(巻き方向)が互いに逆であることを示している。但し、同一のティースに巻き回している2つの巻線7a、7bの配置順序は問わず、例えば、(U+/V−)と記載の箇所を(V−/U+)と、径方向の位置を逆にして配置しても構わない。
【0013】
一方、図2は、従来の3相10極12ティースの回転電機の断面図を示している。従来は、1つのティース6に1つの巻線7を巻き回している。巻線の相別、極性は、紙面上端から時計回りに、(U+)(U−)(V−)(V+)(W+)(W−)(U−)(U+)(V+)(V−)(W−)(W+)で示す順となっている。
図2に示した回転電機の巻線7に互いの位相差が2π/3の3相電流を通電すると、磁気的空隙10における電機子起磁力が生じ、ある時間においては図3に示すような分布を持つ。
【0014】
図2で示した回転電機は界磁極2が10極であるから、界磁極3の回転と同期する電機子起磁力は空間5次の成分である。図3は、略矩形波上の分布となっており、同期成分以外の高調波成分(非同期成分)が多く含まれている。これら高調波成分は、図3の電機子起磁力の分布をフーリエ級数に展開することで求めることができる。
図4は、電機子起磁力の分布をフーリエ級数展開し、高調波成分を求めた結果を示している。同期成分である空間5次成分を1.0に規格化して示している。同図によれば空間1次成分が、約0.36であり、空間7次成分が約0.71である。
【0015】
電機子起磁力の同期成分である空間5次成分は、界磁極2の回転と同じ速度で周方向に移動するため、界磁極2から見ると止まって見える。つまり、界磁極鉄心3や永久磁石4内における磁束の変動が無いので渦電流を発生しない。しかしながら、非同期成分は、界磁極2から見ると進行して見え、磁束の変動が有るため渦電流を発生する。
電機子巻線が集中巻の場合、一般に、電機子起磁力成分の次数が高いほど磁界が磁気的空隙10内で回りこみ、界磁極2に鎖交しなくなる。換言すると、より低い次数の電機子起磁力ほど界磁極2に鎖交し、多くの渦電流を発生する。分布巻では低次の起磁力が発生しないことから,この問題は集中巻特有の問題である。
【0016】
この発明の実施の形態1による回転電機は、電機子起磁力の同期成分である空間5次成分より低い次数の成分が低減するよう、先の図1で説明したように、同一のティース6に、U、V、W三相交流の互いに異なる相の電流が通電される2つの巻線7a、7bを巻回するようにしている。
図5は、図1の場合の、電機子起磁力の周方向に沿った分布図、図6は、この図5の電機子起磁力分布をフーリエ級数に展開して求めた各次成分で、図4の場合と同様、空間5次成分を1.0に規格化している。
【0017】
図6によれば、空間1次成分が、約0.10であり、従来例(図4)の0.36に比べて1/3倍以下となっている。空間7次成分は、従来例と同じ0.71である。
図7および図8は、電機子起磁力の空間1次成分の合成、ここでは、U相の電流によって作成される全起磁力の合成値を求める場合を説明するベクトル図で、それぞれ、従来例の図2の巻線構造と本発明の実施の形態1の図1の巻線構造とに対応するものである。なお、両者は、空間5次合成ベクトルの振幅を1.0としており、その場合の空間1次成分の振幅を、従来の図7では、0.348とし、実施の形態1の図8では、0.373としている。
両図から分かるように、電機子の1つのティースに、2つの集中巻の巻線を巻回することによって、空間1次のベクトルを分散させてその合成ベクトルを従来より低減させているわけである。
【0018】
この場合、渦電流損失は、近似的に磁界の2乗に比例するので、電機子起磁力の2乗に比例する。従って、本実施の形態1では、電機子起磁力の空間1次成分による界磁極の渦電流損失が従来の1/9倍以下に低減できることを示している。
【0019】
このように、本実施の形態1によれば、電機子起磁力の界磁極起磁力と非同期成分である高調波成分のうち、同期成分よりも低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、界磁極の渦電流損失を低減できる。このように根本的に渦電流を低減できるため、従来のような界磁極ヨークを積層することや塊状のヨークを区分することが不要となるため、設備投資によるコストや部品点数増加によるコストを低減することができる。
【0020】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、例として、10極12ティースの回転電機で説明したが、図9は、20極24ティースの回転電機を示している。このような極数Pとティース数Qとが、nを2以上の偶数としたとき、P=5n、Q=6nで表される場合は、各ティース6に巻回する巻線の相別、極性は、紙面上端から時計回りに、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)を繰り返すようにすればよい。
この場合、電機子起磁力の各次数成分は、図10のようになる。即ち、同期成分である(5n/2)次の電機子起磁力を1.0に規格化すると、n/2次は、0.10となり、実施の形態1と同様にして渦電流損失を低減することが出来る。
【0021】
実施の形態3.
図11は、本発明の実施の形態3の回転電機を示しており、3相14極12ティースの回転電機である。14極の回転電機としても電機子1は同じであり、空間次数7次を同期成分として動作する。更に一般化すれば、極数Pとティース数Qとが、nを2以上の偶数としたとき、P=7n、Q=6nで表される場合は、同期成分が7n/2次である。
図12は、この場合の電機子起磁力の各次数成分を示す。同図には、従来の回転電機の電機子がつくる起磁力も併記している。同図において、n/2次成分が従来よりも小さくなっていることがわかる。すなわち、実施の形態1と同様にして渦電流損失を低減することが出来る。
【0022】
実施の形態4.
図13は、本発明の実施の形態4の回転電機を示しており、例として、3相10極12ティースの回転電機を示している。同図において、巻線7の相順は、先の実施の形態1〜3と同じであるが、ターン数が異なる。
即ち、巻線7のうち、同一ティースに巻き回された2つの巻線が同相の場合の巻線7c、7d(例えば、図13の最上端の(U+/U+)が相当する)のターン数をそれぞれTとした場合、同一ティースに巻き回された2つの巻線が異相の場合の巻線7e、7f(例えば、図13の最上端から1つ時計方向の(U−/V+)が相当する)のターン数をそれぞれ約2T/√3としている。このように構成すると、全てのティースにおける電機子起磁力の合成値の大きさが等しくなり、結果として、電機子1がつくる起磁力の成分は、図14のようになる。
【0023】
図14は一般化して表示しており、即ち、極数Pとティース数Qとが、nを2以上の偶数としたとき、P=5n、Q=6nで表される場合の電機子起磁力を示している。同図において、n/2次成分はほとんど零になっている。つまり、n/2次成分の渦電流はほとんど生ぜず、実施の形態1〜3よりもさらに渦電流損失を低減することができる。
以上の内容は、先の実施の形態3で説明した極数Pとティース数Qとが、P=7n、Q=6nで表される場合も全く同様に適用でき同等の効果を奏する。
【0024】
実施の形態5.
本発明の実施の形態5では、先の実施の形態4において、同一ティースに巻き回された2つの巻線が同相の場合の巻線7c、7dの導体断面積を、同一ティースに巻き回された2つの巻線が異相の場合の巻線7e、7fの導体断面積よりも大きく構成した。このように構成することにより、導体(銅)のスロット8に対する占積率を向上させることができるため、銅損を低減して高効率な回転電機とすることができる。
好ましくは、巻線7c、7dの総導体断面積(単体の導体断面積×ターン数)が巻線7e、7fの総導体断面積と同等となるように、巻線7c、7dの導体断面積を巻線7e、7fの導体断面積の約2/√3倍とすることが望ましい。
【0025】
実施の形態6.
図15は、本発明の実施の形態6の回転電機の部分拡大図を示している。先の実施の形態1〜5においては、同一ティースに巻き回された2つの巻線(7a、7b等)をティースの軸方向に並べて配置していたが、この実施の形態6では、図15に示すように、内周側の巻線7hと外周側の巻線7iとに分けて配置した。このように構成しても、実施の形態1〜5で示した効果は全く同様に得られる。即ち、本願発明を適用する場合において、同一ティースに巻回する2つの巻線のスロット8内における配置構成の如何は問わない。
【0026】
実施の形態7.
図16は、本発明の実施の形態7の回転電機の部分拡大図を示している。先の実施の形態1〜6では、同一ティースに巻回する巻線は、いずれのティース6でも2つの巻線7a、7b等で構成したが、この実施の形態7においては、同一ティース6に巻き回された2つの相が同相の場合の巻線7a、7bをひとまとめにしてターン数を2Tとした単体の巻線7gとしている。このように構成すると、巻線7の個数が、全体として3/4倍に低減されるため、部品点数を低減することができ、低コスト化できる。
【0027】
実施の形態8.
上述の各実施の形態例では、内側が界磁極2である、いわゆるインナロータの回転電機であったが、本願発明の実施の形態8として図17に示すような、外側が界磁極2である、いわゆるアウタロータの回転電機としても、本発明を用いることが出来ることは勿論である。
更に、本発明は、回転電機として、電動機、発電機の区別なく適用できることは言うまでもない。
【0028】
実施の形態9.
図18は、回転機を直線状に展開したリニアモータに適用した、本願発明の実施の形態9を示す図である。先の形態例の回転電機のようにループになっているものは、磁極数、ティース数を、2以上の偶数nを適用して表現したが、リニアモータのように端部がある場合は、1以上の自然数mを適用して表現する。
また、図18の例は、電機子11が移動側(移動方向は問わない)で、界磁極22は固定側となっており、電機子11の移動距離に応じて多数個の磁極を備えている。従って、少なくとも、本願発明で問題とする、その磁極数Pとティース数Qとは、リニアモータとして機能する対向範囲における個数を採用する。具体的に、図18の例では、磁極数P=5mに、m=1を代入したP=5、ティース数Q=6mに、m=1を代入したQ=6の場合に相当する。なお、この発明は、磁極数P=7m、ティース数Q=6mの場合も同様に適用することができる。
【0029】
リニアモータの場合、各ティース6に巻回する2つの巻線7a、7bの構成は以下の通りとする。先ず、先の実施の形態1で説明した表現を準用して、下記順序または下記順序を繰り返す順序を想定する。
1:(U+/U+)、2:(U−/V+)、3:(V−/V−)、4:(W−/V+)、5:(W+/W+)、6:(W−/U+)、7:(U−/U−)、8:(U+/V−)、9:(V+/V+)、10:(W+/V−)、11:(W−/W−)、12:(W+/U−)。
ここで、1:〜12:は、以下の説明の便宜上付した番号である。
【0030】
そして、各巻線7a、7bは、上記順序の列の中から連続する6m個(ここでは、6個)を抽出した相別、極性のものとする。具体的に、図18では、各巻線7a、7bは、図中左端のティースから順に右方に向かって、上記列の中の、第12番、第1番〜第5番の合計6個の互いに連続する6個の巻線構成(相別、極性)を採用している。勿論、各巻線として、上記列の中の、第1番〜第6番を採用し、左端から右方に向かって、(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)としてもよい。
【0031】
以上の巻線構成とすることにより、先の実施の形態例で説明したと同様、電機子起磁力の界磁極起磁力と非同期成分である高調波成分のうち、同期成分よりも低い次数の成分を低減できる。このため、界磁極に流れる渦電流を小さくできるので、界磁極の渦電流損失を低減できる。
【0032】
特に、リニアモータにおいては、電機子11が界磁極22よりも短い場合、電機子11が移動すると、電機子11の起磁力に基づく磁束が鎖交していない部分に急に磁束が鎖交するようになる。このため、磁束の微分である電圧が界磁極鉄心33内に急峻に励起されることとなり、回転電機よりも大きな渦電流損失となり得る。従って、本発明を適用することによって、この渦電流損失の原因である磁束を大幅に低減することができる。
【0033】
なお、図18では、電機子11を移動側、界磁極22を固定側としたが、両者が逆の場合でもこの発明は同様に適用することができる。また、モータに限らず、発電機として機能する場合でもよく、この発明は、広く、直線方向に駆動される直動機に同様に適用でき同等の効果を奏する。
【0034】
また、この発明の変形例において、同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線のターン数をTとした場合、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線のターン数を2T/√3としたので、界磁極の過電流損失が一層低減する。
【0035】
また、同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線の導体断面積を、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線の導体断面積より大きくしたので、電機子の銅損が低減する。
【0036】
また、同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該2つの巻線を単一の巻線で構成したので、部品点数が低減して低コスト化できる。
【符号の説明】
【0037】
1,11 電機子、2,22 界磁極、3,33 界磁極鉄心、
4a,4b 永久磁石、5 電機子鉄心、6 ティース、7a〜7i 巻線、
10 磁気的空隙。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的空隙を介して配置され上記磁気的空隙長の方向と直角の方向に駆動されて相対移動する、電機子および界磁極を備え、更に、
上記電機子は、上記磁気的空隙長の方向に突出し上記移動方向に沿って所定の間隔で形成された複数のティースを有する電機子鉄心、および上記各ティースに集中巻で巻回され三相交流の各相の電流が通電される複数の電機子巻線を備え、上記界磁極は、上記移動方向に沿って配置された所定の数の磁極を備えた電気機械において、
上記駆動時上記電機子巻線から発生する電機子起磁力の、上記駆動速度と同期する次数より低い次数の成分が低減するよう、上記複数のティースに、上記三相交流の互いに異なる相の電流が通電される複数の巻線を巻回するティースを含め、
磁束が相互間で流通し上記電気機械として機能する対向範囲における上記界磁極の磁極数Pと上記電機子のティース数Qとが、mを自然数としたとき、P=5m、Q=6mまたは、P=7m、Q=6mで表され、直動機として直線方向に駆動される電気機械であって、
同一のティースに巻回する巻線を( / )で、上記三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、上記各ティースに巻回する巻線を、下記順序または下記順序を繰り返す順序の列から連続する6m個を抽出したものとしたことを特徴とする電気機械。
(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)
【請求項2】
同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線のターン数をTとした場合、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線のターン数を2T/√3としたことを特徴とする請求項1記載の電気機械。
【請求項3】
同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線の導体断面積を、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線の導体断面積より大きくしたことを特徴とする請求項2記載の電気機械。
【請求項4】
同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該2つの巻線を単一の巻線で構成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項1】
磁気的空隙を介して配置され上記磁気的空隙長の方向と直角の方向に駆動されて相対移動する、電機子および界磁極を備え、更に、
上記電機子は、上記磁気的空隙長の方向に突出し上記移動方向に沿って所定の間隔で形成された複数のティースを有する電機子鉄心、および上記各ティースに集中巻で巻回され三相交流の各相の電流が通電される複数の電機子巻線を備え、上記界磁極は、上記移動方向に沿って配置された所定の数の磁極を備えた電気機械において、
上記駆動時上記電機子巻線から発生する電機子起磁力の、上記駆動速度と同期する次数より低い次数の成分が低減するよう、上記複数のティースに、上記三相交流の互いに異なる相の電流が通電される複数の巻線を巻回するティースを含め、
磁束が相互間で流通し上記電気機械として機能する対向範囲における上記界磁極の磁極数Pと上記電機子のティース数Qとが、mを自然数としたとき、P=5m、Q=6mまたは、P=7m、Q=6mで表され、直動機として直線方向に駆動される電気機械であって、
同一のティースに巻回する巻線を( / )で、上記三相をU、V、Wで、巻極性を+、−でそれぞれ表示した場合、上記各ティースに巻回する巻線を、下記順序または下記順序を繰り返す順序の列から連続する6m個を抽出したものとしたことを特徴とする電気機械。
(U+/U+)(U−/V+)(V−/V−)(W−/V+)(W+/W+)(W−/U+)(U−/U−)(U+/V−)(V+/V+)(W+/V−)(W−/W−)(W+/U−)
【請求項2】
同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線のターン数をTとした場合、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線のターン数を2T/√3としたことを特徴とする請求項1記載の電気機械。
【請求項3】
同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該各巻線の導体断面積を、同一のティースに巻回された2つの巻線が異相のものの当該各巻線の導体断面積より大きくしたことを特徴とする請求項2記載の電気機械。
【請求項4】
同一のティースに巻回された2つの巻線が同相のものの当該2つの巻線を単一の巻線で構成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電気機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−130664(P2011−130664A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77232(P2011−77232)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【分割の表示】特願2006−42117(P2006−42117)の分割
【原出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【分割の表示】特願2006−42117(P2006−42117)の分割
【原出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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