説明

電気泳動媒質

【課題】高分子シェルを有する粒子を使用する電気泳動媒質、このような媒質中において使用するための電気泳動粒子、このような媒質または同様な電気光学媒質を含有する電気泳動ディスプレー、および前述の高分子シェルを調製するためのプロセスを提供すること。
【解決手段】懸濁流体中に懸濁されかつ該流体に対して電場を適用した場合に該流体を通って移動し得る少なくとも1つの帯電粒子を含む電気泳動媒質であって、該少なくとも1つの帯電粒子が、亜クロム酸銅を含む、電気泳動媒質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気泳動媒質に関係する。本媒質は、これに限定するものではないが、特にカプセル方式によるマイクロセルタイプの電気泳動ディスプレーにおける使用を意図したものである。また、本発明は、このような媒質において使用するための電気泳動粒子にも関係し、更にはこのような媒質を組み込んだディスプレーにも関係する。本発明の特定の態様は、電気泳動ディスプレー以外の電気光学ディスプレーにも及ぶ。本発明の電気泳動粒子はポリマーで修飾されている。本発明の電気光学ディスプレーは、電圧閾値を有する電気光学媒質を使用する。
【0002】
本発明のディスプレーにおいては、本電気光学媒質(非電気泳動性の電気光学媒質の場合)は、電気光学媒質が固体の外面を有している(ただし、この媒質は内部に液体充填スペースまたは気体充填スペースを有していてよく、また、そのようなスペースを有していることが多い)という意味において、典型的には固体であると考えられ(このようなディスプレーは、便宜上、以降では「固体電気光学ディスプレー」と呼ばれることがある)、本発明はこのような電気光学媒質を用いてディスプレーを組み立てるための方法にも関係する。従って、「固体電気光学ディスプレー」という用語は、カプセル方式による電気泳動ディスプレー、カプセル方式による液晶ディスプレー、および以下で検討されている他のタイプのディスプレーを含む。
【0003】
材料またはディスプレーについて適用される場合、「電気光学」という用語は、本明細書においては、少なくとも1つの光学的特性が異なる第一の表示状態および第二の表示状態を有する材料であって、電場を加えることにより第一の表示状態から第二の表示状態に変えられる材料について言及すべく画像化技術分野において用いられる通常の意味で使用される。上述の光学的特性は、典型的には、人間の眼で知覚可能な色であるが、別の光学的特性、例えば光の透過率、反射率、発光などであってよく、または、機械による読み取りが意図されたディスプレーの場合には、可視域外の電磁波の反射率における変化という意味での疑似色であってもよい。
【0004】
「グレー状態」という用語は、本明細書においては、ピクセルの2つの極端な光学的状態の中間的な状態を表すべく画像化技術分野において用いられる通常の意味で使用され、必ずしもこれら2つの極端な状態の間の黒−白的な過渡的状態を意味するものではない。例えば、以下で言及されている特許公報および公開出願公報のうちの幾つかは電気泳動ディスプレーについて開示しており、そこでは、上述の極端な状態は白および藍色であり、従って、中間的な「グレー状態」は実際には薄青色であろう。更にはっきり言えば、既に述べられているように、前述の2つの極端な状態の間の過渡的状態はまったく色の変化でなくてよい。
【0005】
「双安定」および「双安定性」という用語は、本明細書においては、少なくとも1つの光学的特性が異なる第一および第二の表示状態を有する表示素子であって、ある定められた素子が有限持続時間のアドレッシングパルスにより上述の第一または第二の表示状態のいずれかの状態になるべく駆動されてから、このアドレッシングパルスが終了した後に、前述の状態がこの表示素子の状態を変えるのに必要なアドレッシングパルスの最小持続時間の少なくとも数倍の時間継続し、例えば少なくとも4倍の時間継続するような表示素子を含むディスプレーについて言及すべく当技術分野において用いられる通常の意味で使用される。粒子をベースとし、グレースケールの能力を有する幾つかの電気泳動ディスプレーは、極端な黒色状態および白色状態においてだけでなく、中間的なグレー状態においても安定であり、同じことが幾つかの他のタイプの電気光学ディスプレーにおいても当てはまることが公開米国特許出願公報第2002/0180687号に示されている。このタイプのディスプレーは、適切には、双安定というよりむしろ「多安定」と呼ぶべきであるが、便宜上、「双安定」という用語は、本明細書においては、双安定型のディスプレーと多安定型のディスプレーとの両方をカバーすべく使用されることがある。
【背景技術】
【0006】
幾つかのタイプの電気光学ディスプレーが知られている。1つのタイプの電気光学ディスプレーは、例えば特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;特許文献5;特許文献6;特許文献7;特許文献8;および特許文献9に記載されているごとき回転二色部材タイプである(このタイプのディスプレーは「回転二色ボール」ディスプレーと呼ばれることが多いが、上述の特許のうちの幾つかにおいては回転部材が球形ではないため、より正確性を期すためには「回転二色部材」という用語の方が好適である)。このようなディスプレーは、光学的特性が異なる2つまたはそれ以上のセクションと1つの内部ダイポールとを有する多数の小さな物体(典型的には球形または円柱状)を使用する。これらの物体はマトリックス内における液体充填液胞内において懸濁され、これらの液胞は前述の物体が自由に回転できるように液体で満たされている。このディスプレーの外観的状況は、そこに電場を掛けて前述の物体を様々な位置へ回転させ、画面を通じてみられる前述の物体のセクションを変化させることにより変えられる。このタイプの電気光学媒質は典型的には双安定である。
【0007】
別のタイプの電気光学ディスプレーは、エレクトロクロミック媒質を使用し、例えば、半導体金属酸化物から少なくとも部分的に形成された電極とこの電極に付着された可逆的な色の変化が可能な複数の染料分子とを含むナノクロミックフィルムの形態におけるエレクトロクロミック媒質を使用する;例えば、非特許文献1;非特許文献2を参照のこと。また、非特許文献3も参照のこと。このタイプのナノクロミックフィルムは、例えば特許文献10、特許文献11および特許文献12にも記載されている。このタイプの媒質も典型的には双安定である。
【0008】
長年にわたり、熱心な研究および開発の課題となっている別のタイプの電気光学ディスプレーは、電場の影響の下で複数の荷電粒子が懸濁流体中を移動する、粒子をベースとした電気泳動ディスプレーである。電気泳動ディスプレーは、液晶ディスプレーと比べた際の良好な明るさおよびコントラスト、広い視野角、状態の双安定性、ならびに低い電力消費量に寄与することができる。それにもかかわらず、これらのディスプレーの長期にわたる画質に関わる問題がこれらのディスプレーの広汎な使用を妨げてきた。例えば、電気泳動ディスプレーを構成する粒子は定着する傾向があり、結果として、これらのディスプレーにとって不適切な有効寿命をもたらす。
【0009】
カプセル方式による電気泳動媒質について記載した、Massachusetts Institute of Technology(MIT)およびE Ink Corporationに譲渡されたものや、これらの会社の名の下における数多くの特許公報および出願公報が最近公開されている。このようなカプセル方式による媒質は数多くの小さなカプセルを含み、これらの各カプセル自体は、液体懸濁化媒質中に懸濁された電気泳動的に移動可能な粒子を含む内相とこの内相を取り囲むカプセル壁とを含んでいる。典型的には、これらのカプセルは、2つの電極間に位置付けられた密着層を形成すべく、高分子バインダー内に保持される。このタイプのカプセル方式による媒質は、例えば特許文献13;特許文献14;特許文献15;特許文献16;特許文献17;特許文献18;特許文献19;特許文献20;特許文献21;特許文献22;特許文献23;特許文献24;特許文献25;特許文献26;特許文献27;特許文献28;特許文献29;特許文献30;特許文献31;特許文献32;特許文献33;特許文献34;特許文献35;特許文献36;特許文献37;特許文献38;特許文献39;特許文献40;特許文献41;特許文献42;特許文献43;特許文献44;特許文献45;特許文献46;特許文献47;特許文献48;特許文献49;特許文献50;特許文献51;特許文献52;特許文献53;特許文献54;特許文献55;特許文献56;特許文献57;特許文献58;特許文献59;特許文献60;特許文献61;特許文献62;特許文献63;特許文献64;特許文献65;特許文献66;特許文献67;特許文献68;特許文献69;および特許文献70;ならびに特許文献71;特許文献72;特許文献73;特許文献74;特許文献75;特許文献76;特許文献77;特許文献78;特許文献79;特許文献80;特許文献81;特許文献82;特許文献83;特許文献84;特許文献85;特許文献86;特許文献87;特許文献88;特許文献89;特許文献90;特許文献91;特許文献92;特許文献93;特許文献94;特許文献95;特許文献96;特許文献97;特許文献98;特許文献99;特許文献100;特許文献101;特許文献102;特許文献103;特許文献104;および特許文献105;ならびに特許文献106;特許文献107;特許文献108;特許文献109;特許文献110;特許文献111;特許文献112;特許文献113;特許文献114;特許文献115;特許文献116;および特許文献117に記載されている。
【0010】
既知の電気泳動媒質は、カプセル方式による媒質もカプセル方式ではない媒質も共に、大別して2つのタイプに分けることができ、以降では、便宜上、これらのタイプをそれぞれ「単式粒子型」および「複式粒子型」と呼ぶ。単式粒子型の媒質は懸濁化媒質中に懸濁された単一のタイプの電気泳動粒子のみを有しており、この粒子の少なくとも1つの光学的特性は前述の粒子の光学的特性とは異なっている。(単式タイプの粒子について言及する場合、我々は、このタイプのすべての粒子が絶対的に同一であることを意味していない。例えば、このタイプのすべての粒子が同じ極性の電荷を持っているならば、この媒質の有用性に影響を及ぼすことなく、粒子の色、サイズおよび電気泳動移動度などの種々のパラメーターにおけるかなりの変動性を許容することができる。例えば、異なる色ではあるが、同じ電荷の2つの粒子を相反する電荷の単一の顔料(または多数の顔料)と共に単一のカプセル内において混ぜ合わせ、これらの顔料の色を適切に選択することにより、いずれかの光学的状態または両方の光学的状態におけるあらゆる望ましい中間的な度合いの色を提供することができる。)このような媒質が少なくとも一方は透明である一対の電極間に置かれると、これら2つの電極の相対的なポテンシャルに依存して、この媒質は、前述の粒子の光学的特性(これらの粒子が見る者に近い方の側の電極に隣接している場合であって、以降では、この電極を「前側」の電極と呼ぶ)または前述の懸濁化媒質の光学的特性(これらの粒子が見る者から遠い方の側の電極に隣接している場合(従って、これらの粒子は懸濁化媒質の陰に隠されている)であって、以降では、この電極を「後側」の電極と呼ぶ)を呈示することができる。
【0011】
複式粒子型の媒質は少なくとも1つの光学的特性が異なる2つの異なるタイプの粒子と懸濁流体とを有しており、この懸濁流体は着色されていなくてもよいし、または着色されていてもよいが、典型的には着色されていない。これら2つのタイプの粒子は電気泳動移動度が異なっている;この移動度における相違は極性(このタイプは、以後、「相反する電荷の複式粒子型」媒質と呼ばれることがある)および/または移動の規模における相違であってよい。このような複式粒子型の媒質が前述の一対の電極間に置かれると、これら2つの電極の相対的なポテンシャルに依存して、この媒質はいずれかの組みを成す粒子の光学的特性を呈示することができるが、この光学的特性の呈示が達成される正確な仕方は、移動度における相違が極性における相違であるのか、または移動の規模のみにおける相違であるのかに依存して異なる。分かりやすくするため、これらの粒子のうちの1つのタイプが黒色であり、もう一方のタイプが白色である電気泳動媒質について考察を加える。もしこれら2つのタイプの粒子が極性に関して異なっている場合(例えば、黒色の粒子が正に帯電しており、白色の粒子が負に帯電している場合)、これらの粒子は2つの異なる電極に引き付けられることとなり、例えば、もし前側の電極が後側の電極に対して相対的に負であるならば、これらの黒色の粒子は前側の電極に引き付けられ、白色の粒子は後側の電極に引き付けられることとなり、従って、この媒質は、見る者にとって黒色を呈するであろう。逆に、もし前側の電極が後側の電極に対して相対的に正である場合には、白色の粒子が前側の電極に引き付けられ、黒色の粒子は後側の電極に引き付けられることとなり、従って、この媒質は、見る者にとって白色を呈するであろう。
【0012】
これら2つのタイプの粒子が、同じ極性の電荷を持っているが、電気泳動移動度に関して異なっている場合(このタイプの媒質は、以後、「同じ極性の複式粒子型」媒質と呼ばれることがある)には、どちらのタイプの粒子も同じ電極に引き付けられることとなるが、一方のタイプがもう一方のタイプより前に電極に到達することとなり、従って、見る者に面するタイプは、これらの粒子が引き付けられる電極に依存して異なる。例えば、前の例証が、黒色粒子と白色粒子が共に正に帯電されているが、黒色粒子の方が高い電気泳動移動度を有するように改変されている場合を想定しよう。このとき、前側の電極が後側の電極に対して相対的に負である場合、黒色粒子と白色粒子は共に前側の電極に引き付けられることとなるが、黒色粒子の方が移動度が高いため、黒色粒子が先に電極に到達することとなり、従って、これらの黒色粒子の層が前側の電極を覆い、これにより、この媒質は、見る者にとって黒色を呈するであろう。逆に、前側の電極が後側の電極に対して相対的に正である場合には、黒色粒子と白色粒子は共に後側の電極に引き付けられるが、黒色粒子の方が移動度が高いため、黒色粒子が先に到達することとなり、従って、黒色粒子の層は、後側の電極から遠い側の見る者に面した位置に白色粒子の層を残した状態で後側の電極を覆い、これにより、この媒質は、見る者にとって白色を呈するであろう:このタイプの複式粒子型媒質は、見る者が後側の電極から遠い側に位置する白色粒子の層を容易に視認できる程度に充分に懸濁流体が透明であることを要件とする点に留意すべきである。典型的には、このようなディスプレーにおける懸濁流体は全く着色されていないが、そこを通してみられる白色粒子における何らかの望ましくない色合いを補正するため、またはグレー状態における望ましい色の度合いをもたらすため、幾分かの色が組み込まれていてもよい。
【0013】
単式および複式粒子型の電気泳動ディスプレーは、どちらも、既に述べられている2つの極端な光学的状態の中間的な光学的状態を有するグレー状態を介在させる能力を備えることができる。
【0014】
上述の特許公報および公開出願公報のうちの幾つかは、各カプセル内に3つまたはそれ以上の異なるタイプの粒子を有するカプセル方式による電気泳動媒質を開示している。本出願の目的上、このような多粒子型の媒質は、複式粒子型媒質の亜種と考えられる。
【0015】
また、上述の特許公報および公開出願公報のうちの多くは、カプセル方式による電気泳動媒質内における離散したマイクロカプセルを取り囲むこれらの壁を連続的な相で置換することができ、従って、電気泳動媒質が複数の離散した電気泳動流体の液滴と高分子材料の連続的な相とを含む、いわゆるポリマー分散方式による電気泳動ディスプレーを提供できることを認識しており、更に、このようなポリマー分散方式による電気泳動ディスプレー内における電気泳動流体の離散した液滴は、各個々の液滴と連合している離散したカプセル膜が存在していないとしても、カプセルまたはマイクロカプセルとして認識している;例えば、上述の特許文献79を参照のこと。従って、本出願の目的上、このようなポリマー分散方式による電気泳動媒質は、カプセル方式による電気泳動媒質の亜種と考えられる。
【0016】
1つの関連するタイプの電気泳動ディスプレーは、いわゆる「マイクロセルタイプの電気泳動ディスプレー」である。マイクロセルタイプの電気泳動ディスプレーにおいては、帯電粒子および懸濁流体はマイクロカプセル内にカプセル化されておらず、代わりに、担体媒質内に形成された複数の空洞、典型的には高分子フィルム内に形成された複数の空洞内に保持されている。例えば、特許文献118および特許文献119(両公報ともSipix Imaging,Inc.に譲渡されている)を参照のこと。
【0017】
電気泳動媒質は、通常、不透明(例えば、多くの電気泳動媒質においては、前述の粒子がディスプレーを通過する可視光の透過を実質的にブロックするため)で、反射モードにおいて運転されるが、多くの電気泳動ディスプレーは、1つの表示状態が実質的に不透明であり、1つの表示状態が光透過性である、いわゆる「シャッターモード」で運転されるべくなすことができる。例えば、前述の特許文献22号および特許文献23、ならびに特許文献120;特許文献121;特許文献122;特許文献123;および特許文献124を参照のこと。電気泳動ディスプレーと同様であるが、電場の強さの変動に基づく誘電ディスプレーも同様なモードで運転することができる;特許文献125を参照のこと。
【0018】
カプセル方式またはマイクロセルタイプの電気泳動ディスプレーは、典型的には、従来の電気泳動装置における集塊化および定着による故障モードを被らず、更には、広範囲の様々な可撓性および剛性の基体上に表示を印刷またはコーティングする能力などの利点を提供する。(「印刷」という用語の使用はあらゆる形態の印刷およびコーティングを含めるべく意図されており、これらに限定するものではないが:プレメーターコーティング、例えばパッチダイコーティング、スロットまたは押し出しコーティング、スライドまたはカスケードコーティング、カーテンコーティングなど;ロールコーティング、例えばナイフオーバーロールコーティング、フォワード・リバースロールコーティングなど;グラビアコーティング;浸漬コーティング;スプレーコーティング;メニスカスコーティング;スピンコーティング;ブラシコーティング;エアーナイフコーティング;シルクスクリーン印刷プロセス;静電印刷プロセス;感熱印刷プロセス;インクジェット印刷プロセス;および他の同様な技術を含む。)従って、結果として得られるディスプレーは可撓性であり得る。その上、この表示媒質は(様々な方法を用いて)印刷することができるため、ディスプレー自体を安価になすことができる。
【0019】
しかし、カプセル方式による電気泳動ディスプレーの有効寿命は、単式粒子型および複式粒子型のどちらの場合も、完全に望ましい状態よりもかなり短い。(このようなことに関して、本発明はどのような理論によっても決して制限されるものではないが)この有効寿命は、電気泳動粒子がカプセル壁にはりつくことや、これらの粒子が凝集して集塊を形成する傾向を有していることなどの要因(これらの要因により、粒子が上述の光学的状態間におけるディスプレーの切り替えに必要な移動を果たすことが妨げられる)によって制限されているように思われる。この件に関して、相反する電荷の複式粒子型電気泳動ディスプレーは、相互に非常に近接した状態で本質的に相反する電荷を有する粒子が互いに静電的に引き付けられ、安定した凝集体を形成する強い傾向を示すため、特に困難な問題をもたらす。実験により、市販で入手可能な未処理のチタニアおよびカーボンブラック顔料を用いてこのタイプの黒色/白色のカプセル方式によるディスプレーを製造しようとした場合には、このディスプレーは全く切り替わらないか、市販用としては望ましくない程短い有効寿命を有するかのいずれかであることが判明している。
【0020】
長きにわたり、電気泳動粒子の物理的特性および表面特性は、これらの粒子の表面に様々な材料を吸着させることにより、またはこれらの表面に様々な材料を化学的に結合させることにより改変できることが知られており、この手法を用いる先行技術の歴史に関する詳細な検討については、特許文献126、特にこの公報の6ページ3行目から7ページ26行目までの段落を参照のこと。
【0021】
上述の特許文献126は、電気泳動媒質において、化学的に結合または架橋されたポリマーを有する顔料粒子を使用することの利点を開示している。また、この出願公報はこのようなポリマー被覆粒子における様々な改善についても開示しており、それらの改善は、粒子に付着されるポリマーの量、ポリマーの構造、電気泳動粒子上に高分子コーティングを形成するための技術、および粒子上にポリマーコーティングを形成する前に行われるこれらの電気泳動粒子を前処理するための技術の管理を含む。更に、上述の出願公報はこのようなポリマー被覆顔料粒子を製造するためのプロセスについても開示しており、このプロセスは:(a)顔料粒子を、この粒子と反応し、粒子に結合することができる官能基を有し、更には重合可能な基または重合開始基も有する試薬と反応させ、これにより、前述の官能基を粒子の表面と反応させ、また前述の重合可能な基を粒子に付着させる工程;および(b)上述の工程(a)の生成物を、前述の粒子上の重合可能な基または重合開始基と少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーとの間の反応を引き起こすのに有効な条件下において、少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーと反応させ、これにより、顔料粒子に結合されたポリマーの形成をもたらす工程を含む。
【0022】
前述の特許文献81は、炭化水素懸濁流体中に懸濁された複数の粒子を含む電気泳動媒質を開示しており、これらの粒子は媒質に電場を加えることにより前述の流体中を移動することができ、この流体は、そこに溶解または分散された、約400,000g/molから1,200,000g/molまでの範囲の粘度平均分子量を有するポリイソブチレンを有しており、このポリイソブチレンは、重量で懸濁流体のうちの約0.25パーセントから約2.5パーセントまでを構成している。また、この同じ出願公報は、懸濁流体中に懸濁された複数の粒子を含む電気泳動媒質についても開示しており、これらの粒子は媒質に電場を加えることにより前述の流体中を移動することができ、この流体は、そこに溶解または分散されたポリマーであって、懸濁流体中においてηの固有粘度を有し、懸濁流体中においてイオン性の基またはイオン化可能な基を実質的に含まないポリマーを有しており、このポリマーは、約0.5[η]−1から約2.0[η]−1までの濃度で懸濁流体中に存在している。懸濁流体中におけるポリイソブチレン(PIB)または他のポリマーの存在はディスプレーの双安定性を実質的に高める。
【0023】
既に指示されているように、電気泳動ディスプレーは1つの状態から別の状態への切り替えを低電力で行うことができる。双安定型のディスプレーの場合、切り替えに要するこの低電力要件は、このディスプレーの運転に要する全体的な低電力要件につながる。しかし、電気泳動ディスプレーは無制限の画像安定性を有していない。顔料粒子のブラウン拡散および重力による定着は、加えられたスイッチングパルスおよび他の要因によって誘発される小さな残留電圧により駆動される動きと共に、すべて、ディスプレーの切り替えによって達成される光学的な状態を劣質化させ得る。この種の光学的状態の減衰を防ぐためのメカニズムを全く備えていない場合には、光学的状態は定期的にリフレッシュされなければならない。ディスプレーのリフレッシュは電力を消費し、従って、ディスプレーの有用性を減少させる。これに加え、特定の用途(特に能動マトリックス駆動型ディスプレー)においては、ブランキングパルス(すなわち、ピクセルを、最終的な望ましい光学的状態へ駆動する前に、このピクセルの極端な光学的状態のうちの1つへ駆動するパルス。上述の特許文献91参照のこと)を伴うことなく単一ピクセルのリフレッシュを果たすことは困難または不可能である。これらの理由から、電気泳動媒質の画像安定性における改善が尚も強く望まれている。
【0024】
また、既に検討されているように、上述の特許文献81は、懸濁化媒質(典型的には、Isopar Gなどの脂肪族炭化水素)中における良好な溶解度を有しているが、電気泳動粒子に吸収されない高分子量ポリマー、例えばPIBなどを組み込むことにより良好な画像安定性を達成する電気泳動媒質を開示している。溶液中におけるこのポリマーの存在は、(本発明はこの信念により決して制限されるものではないが)コロイド科学技術分野において「枯渇凝集(depletion flocculation)」として知られているメカニズムによる顔料の弱い凝集を引き起こすものと確信されている。同じ目的で、PIB以外のポリマーも使用することができる。この目的にとって有用であることが示されている第二のポリマーの例はKraton Gであり、Kraton Gは、ポリスチレンブロックと水素化されたポリイソブチレンブロックとを含むブロックコポリマーであり、懸濁化媒質中において凝集構造を形成する。このケースにおいては、モノマー性のブロックコポリマー自体よりもむしろ、これらの集塊物が枯渇凝集を引き起こす種である。
【0025】
枯渇状態を引き起こすためにどのようなポリマーが使用されたとしても、可溶性の高分子量材料を懸濁化媒質に組み込むことにより、この媒質の粘度は増加するであろう。ディスプレーの応答時間(ある与えられた動作電圧において、ディスプレーを、またはディスプレーのいずれかの定められたピクセルを2つの極端な光学的状態の間で切り替えるために必要な時間)は媒質の粘度に比例するため、画像の安定性を求めたこの手法ではディスプレーの切り替え速度が低減されるであろう。更に、枯渇凝集メカニズムは、ポリマーの濃度がオーバーラップ濃度(この濃度は、操作上、媒質の粘度を2倍増加させるポリマーの濃度として定めることができる)を上回っているときにのみ作動するため、このメカニズムにより活動するすべてのポリマーは、切り替え速度の同様な減少もたらすものと想定することができる。実際、適切な画像安定性を与えるのに充分なポリマーを使用したときには、切り替え速度は約2倍から3倍低減する。この応答時間との二律背反性を被らずに画像安定性を達成する別な手段を得ることが望ましい。
上で検討されているように、PIBおよび他のポリマーは、顔料粒子のコロイド安定性を巧みに操ることにより画像安定性を改善する。上述の特許文献126に開示されている好適なポリマー被覆粒子は、調製中に粒子の表面で成長する(典型的には)ポリ(メタクリル酸ラウリル)のポリマーシェルのため、懸濁化媒質中においてコロイド的に安定である。このポリマーシェルの組成を適切に操ることにより、原理的には、懸濁化媒質中に分散されたPIB、Kratonおよび他のポリマーによってもたらされる場合と同程度(ただし、懸濁化媒質中におけるPIBのごとき付加物を必要とせずに)のコロイド安定性を有する粒子(従って、同じ画像安定性を有するディスプレー)を製作することが可能である。このようなディスプレーは、PIBを含むディスプレーよりも実質的に速く動作し、または等価的に、もっと低い印加電圧において同等な速度で動作するはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第5,808,783号明細書
【特許文献2】米国特許第5,777,782号明細書
【特許文献3】米国特許第5,760,761号明細書
【特許文献4】米国特許第6,054,071号明細書
【特許文献5】米国特許第6,055,091号明細書
【特許文献6】米国特許第6,097,531号明細書
【特許文献7】米国特許第6,128,124号明細書
【特許文献8】米国特許第6,137,467号明細書
【特許文献9】米国特許第6,147,791号明細書
【特許文献10】米国特許第6,301,038号明細書
【特許文献11】国際公開第01/27690号パンフレット
【特許文献12】米国特許出願公開第2003/0214695号明細書
【特許文献13】米国特許第5,930,026号明細書
【特許文献14】米国特許第5,961,804号明細書
【特許文献15】米国特許第6,017,584号明細書
【特許文献16】米国特許第6,067,185号明細書
【特許文献17】米国特許第6,118,426号明細書
【特許文献18】米国特許第6,120,588号明細書
【特許文献19】米国特許第6,120,839号明細書
【特許文献20】米国特許第6,124,851号明細書
【特許文献21】米国特許第6,130,773号明細書
【特許文献22】米国特許第6,130,774号明細書
【特許文献23】米国特許第6,172,798号明細書
【特許文献24】米国特許第6,177,921号明細書
【特許文献25】米国特許第6,232,950号明細書
【特許文献26】米国特許第6,249,721号明細書
【特許文献27】米国特許第6,252,564号明細書
【特許文献28】米国特許第6,262,706号明細書
【特許文献29】米国特許第6,262,833号明細書
【特許文献30】米国特許第6,300,932号明細書
【特許文献31】米国特許第6,312,304号明細書
【特許文献32】米国特許第6,312,971号明細書
【特許文献33】米国特許第6,323,989号明細書
【特許文献34】米国特許第6,327,072号明細書
【特許文献35】米国特許第6,376,828号明細書
【特許文献36】米国特許第6,377,387号明細書
【特許文献37】米国特許第6,392,785号明細書
【特許文献38】米国特許第6,392,786号明細書
【特許文献39】米国特許第6,413,790号明細書
【特許文献40】米国特許第6,422,687号明細書
【特許文献41】米国特許第6,445,374号明細書
【特許文献42】米国特許第6,445,489号明細書
【特許文献43】米国特許第6,459,418号明細書
【特許文献44】米国特許第6,473,072号明細書
【特許文献45】米国特許第6,480,182号明細書
【特許文献46】米国特許第6,498,114号明細書
【特許文献47】米国特許第6,504,524号明細書
【特許文献48】米国特許第6,506,438号明細書
【特許文献49】米国特許第6,512,354号明細書
【特許文献50】米国特許第6,515,649号明細書
【特許文献51】米国特許第6,518,949号明細書
【特許文献52】米国特許第6,521,489号明細書
【特許文献53】米国特許第6,531,997号明細書
【特許文献54】米国特許第6,535,197号明細書
【特許文献55】米国特許第6,538,801号明細書
【特許文献56】米国特許第6,545,291号明細書
【特許文献57】米国特許第6,580,545号明細書
【特許文献58】米国特許第6,639,578号明細書
【特許文献59】米国特許第6,652,075号明細書
【特許文献60】米国特許第6,657,772号明細書
【特許文献61】米国特許第6,664,944号明細書
【特許文献62】米国特許第6,680,725号明細書
【特許文献63】米国特許第6,683,333号明細書
【特許文献64】米国特許第6,704,133号明細書
【特許文献65】米国特許第6,710,540号明細書
【特許文献66】米国特許第6,721,083号明細書
【特許文献67】米国特許第6,727,881号明細書
【特許文献68】米国特許第6,738,050号明細書
【特許文献69】米国特許第6,750,473号明細書
【特許文献70】米国特許第6,753,999号明細書
【特許文献71】米国特許出願公開第2002/0019081号明細書
【特許文献72】米国特許出願公開第2002/0021270号明細書
【特許文献73】米国特許出願公開第2002/0060321号明細書
【特許文献74】米国特許出願公開第2002/0060321号明細書
【特許文献75】米国特許出願公開第2002/0063661号明細書
【特許文献76】米国特許出願公開第2002/0090980号明細書
【特許文献77】米国特許出願公開第2002/0113770号明細書
【特許文献78】米国特許出願公開第2002/0130832号明細書
【特許文献79】米国特許出願公開第2002/0131147号明細書
【特許文献80】米国特許出願公開第2002/0171910号明細書
【特許文献81】米国特許出願公開第2002/0180687号明細書
【特許文献82】米国特許出願公開第2002/0180688号明細書
【特許文献83】米国特許出願公開第2002/0185378号明細書
【特許文献84】米国特許出願公開第2003/0011560号明細書
【特許文献85】米国特許出願公開第2003/0020844号明細書
【特許文献86】米国特許出願公開第2003/0025855号明細書
【特許文献87】米国特許出願公開第2003/0038755号明細書
【特許文献88】米国特許出願公開第2003/0053189号明細書
【特許文献89】米国特許出願公開第2003/0102858号明細書
【特許文献90】米国特許出願公開第2003/0132908号明細書
【特許文献91】米国特許出願公開第2003/0137521号明細書
【特許文献92】米国特許出願公開第2003/0137717号明細書
【特許文献93】米国特許出願公開第2003/0151702号明細書
【特許文献94】米国特許出願公開第2003/0214695号明細書
【特許文献95】米国特許出願公開第2003/0214697号明細書
【特許文献96】米国特許出願公開第2003/0222315号明細書
【特許文献97】米国特許出願公開第2004/0008398号明細書
【特許文献98】米国特許出願公開第2004/0012839号明細書
【特許文献99】米国特許出願公開第2004/0014265号明細書
【特許文献100】米国特許出願公開第2004/0027327号明細書
【特許文献101】米国特許出願公開第2004/0075634号明細書
【特許文献102】米国特許出願公開第2004/0094422号明細書
【特許文献103】米国特許出願公開第2004/0105036号明細書
【特許文献104】米国特許出願公開第2004/0112750号明細書
【特許文献105】米国特許出願公開第2004/0119681号明細書
【特許文献106】国際公開第99/67678号パンフレット
【特許文献107】国際公開第00/05704号パンフレット
【特許文献108】国際公開第00/38000号パンフレット
【特許文献109】国際公開第00/38001号パンフレット
【特許文献110】国際公開第00/36560号パンフレット
【特許文献111】国際公開第00/67110号パンフレット
【特許文献112】国際公開第00/67327号パンフレット
【特許文献113】国際公開第01/07961号パンフレット
【特許文献114】国際公開第01/08241号パンフレット
【特許文献115】国際公開第03/107,315号パンフレット
【特許文献116】国際公開第2004/023195号パンフレット
【特許文献117】国際公開第2004/049045号パンフレット
【特許文献118】国際公開第02/01281号パンフレット
【特許文献119】米国特許出願公開第2002/0075556号明細書
【特許文献120】米国特許第5,872,552号明細書
【特許文献121】米国特許第6,144,361号明細書
【特許文献122】米国特許第6,271,823号明細書
【特許文献123】米国特許第6,225,971号明細書
【特許文献124】米国特許第6,184,856号明細書
【特許文献125】米国特許第4,418,346号明細書
【特許文献126】国際公開第02/093246号パンフレット
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】O’Regan,B.ら,Nature,1991,353,737
【非特許文献2】Wood,D.,Information Display,18(3),24(2002年3月)
【非特許文献3】Bach,U.ら,Adv.Mater.,2002,14(11),845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
1つの態様においては、本発明は、迅速でかつ画像安定性を有するディスプレーの製造を可能にし、修飾されたポリマーシェルを伴う電気泳動粒子をもたらすための手法の提供を目指す。
別の態様においては、本発明は、上のパラグラフ21で説明されているようなポリマー被覆電気泳動粒子を調製するための、改善された形態の二段階プロセスの提供を目指す。このプロセスの好適な形態においては、まずチタニア(または同様な金属酸化物顔料)がシリカでコーティングされ、このシリカ被覆チタニアが、エチレン基を含有するシランで処理される。この後、結果として得られたシラン処理チタニアを、所望のポリマー被覆チタニアを形成すべく、フリーラジカル重合開始剤の存在下において、様々な不飽和モノマー、例えばアクリル酸2−エチルヘキシルまたはメタクリル酸ラウリルと反応させることができる。カーボンブラックは、エチレン基を含有するジアゾ化剤、例えば4−ビニルアニリンおよび亜硝酸の反応生成物で処理することにより、エチレン基をカーボンブラックの表面に付着させ、この後、チタニアに対して説明されているのと実質的に同じ仕方で様々な不飽和モノマーと反応させることができる。
【0029】
上述の第WO 02/093246号の実施例に示されている特定のプロセスでは、最終的な重合工程(いわゆる「グラフト重合工程」)はトルエン中において実施され、これは、主として、ポリマー産業においては、トルエンがこのようなフリーラジカル重合での使用に際して良好な特性を有していることが知られた溶媒であることによるものである。しかし、ポリマー被覆電気泳動顔料粒子を調製するためのプロセスにおける溶媒としてのトルエンの使用は著しく不都合である。上述のE InkおよびMITの特許公報および出願公報で詳細に検討されている様々な理由から、実際には、電気泳動ディスプレーにおいて使用される懸濁流体は、(単独またはハロカーボンとの組合せにおける)脂肪族炭化水素である。従って、このポリマー被覆顔料粒子は、結局は、脂肪族炭化水素中に分散され、この脂肪族炭化水素がトルエンで汚染されるのを回避する必要があるため(電気泳動媒質の振る舞いは、特定のケースにおいては、懸濁流体の組成における小さな変化に非常に敏感であることが多いため)、トルエン中における重合が終了し、ポリマー被覆顔料をトルエンから分離した後、これらのポリマー被覆顔料粒子を最終的な懸濁流体中に懸濁させる前に、微量のトルエンをすべて取り除く必要がある。実際には、グラフト重合工程から得られたトルエン含有顔料粒子をテトラヒドロフラン(THF)で1回またはそれ以上の回数洗浄し、洗浄後、遠心分離によりTHFから顔料を分離し、最後に、この顔料をオーブン内で乾燥させることにより最後の微量のTHFを取り除く必要がある。すべてのこれらのプロセスは、複式粒子型の電気泳動媒質で使用される2種類の顔料について別々に実施されなければならない。
【0030】
これらの洗浄工程、遠心分離工程および乾燥工程は手間が掛かり、費用が嵩む。更に、この乾燥された顔料を最終的な懸濁流体中に再分散させる必要があることにより更なる経費を招く。その上、トルエンおよびTHFが存在するため、これらの洗浄工程、遠心分離工程および乾燥工程は有害であることが多く、このポリマー被覆顔料の商業規模での生産は防爆形のオーブン、混合機および遠心分離機、ならびに防爆形の電気制御盤の使用を必要とし、これらの装置の使用は、製造機器の費用を実質的に増大させる。また、処理中に生じる蒸気へのオペレーターの暴露は、保護装置または曝露予防方法を用いたとしても、かなりなものになる可能性がある。最後に、上述の乾燥工程は、最終的な電気泳動媒質中における顔料の性能にとって不利益であり得る。従って、この重合反応を実施することができる代替的な溶媒を見出し、可能な場合には、顔料の乾燥および乾燥顔料の再分散の必要性を排除できることが望ましい。
【0031】
最後に、本発明は、簡略化された仕方で駆動することができる電気光学ディスプレーの提供を目指す。ディスプレーが反射型であるか透過型であるかにかかわらず、また、使用される電気光学媒質が双安定であるか否かにかかわらず、高解像度のディスプレーを得るためには、ディスプレーの個々のピクセルは隣接したピクセルからの妨害を受けることなくアドレス可能でなければならない。この目的を達成するための1つの方法は、「能動マトリックス型」ディスプレーをもたらすべく、少なくとも1つの非線形素子が各ピクセルと関連付けられた状態で、トランジスターまたはダイオードなどの非線形素子のアレイを提供することである。1つのピクセルをアドレスするアドレッシング電極またはピクセル電極が、この関連する非線形素子を通じて、適切な電圧源に接続される。典型的には、非線形素子がトランジスターの場合、ピクセル電極はトランジスターのドレインに接続され、以下の説明はこの配列を想定して行われるが、本質的にこの配列は専断的であり、ピクセル電極をトランジスターのソースに接続することもできよう。通常、高解像度のアレイにおいては、ピクセルは、あらゆる特定のピクセルが1つの特定の横列と1つの特定の縦列との交差により一意的に定まるように、横列と縦列の二次元アレイで配列される。各縦列におけるすべてのトタンジスターのソースは単一の縦列電極に接続され、一方、各横列におけるすべてのトタンジスターのゲートは単一の横列電極に接続される;再度述べると、ソースを横列に割り当て、ゲートを縦列に割り当てるのが一般的であるが、この割り当ては本質的に専断的であり、望ましい場合には逆にすることもできよう。横列電極は横列ドライバーに接続されており、この横列ドライバーは、本質的に、あらゆる与えられた瞬間に1つの横列のみを選択することを確実化し、すなわち、選択された横列電極には、選択された横列のすべてのトランジスターが導通することを保証するような電圧が加えられ、一方、他のすべての横列には、これらの選択されなかった横列のすべてのトランジスターが導通しない状態のまま留まることを保証するような電圧が加えられることを確実化する。縦列電極は縦列ドライバーに接続されており、これらの縦列ドライバーは、様々な縦列電極に、選択された横列のピクセルをこれらのピクセルの望ましい光学的状態へ駆動すべく選定された電圧を印可する。(上述の電圧は共通のフロント電極に対して相対的なものであり、このフロント電極は、通常、非線形アレイから見て電気光学媒質の反対側に設けられ、ディスプレー全体を横断して延びている。)「ラインアドレス時間」として知られているあらかじめ選定されたインターバルの後、この選択された横列の選択が解除されて次の横列が選択され、縦列ドライバーの電圧が、表示の次のラインが書かれる電圧に変更される。このプロセスが繰り返され、これにより、横列を一列ずつ進む仕方で表示全体が書かれる。従って、N個の横列を有するディスプレーでは、あらゆる与えられたピクセルはこの時間の1/Nの間だけアドレスされ得る。
【0032】
能動マトリックス型のディスプレーを製造するためのプロセスは充分に確立されている。薄膜トランジスターは、例えば、様々な蒸着およびフォトリソグラフィー技術を用いて製作することができる。トランジスターはゲート電極、絶縁誘電体層、半導体層、ならびにソース電極およびドレイン電極を含む。ゲート電極への電圧の印可は、誘電体層を横断する電場をもたらし、これにより、半導体層のソース−ドレインの電気伝導度が劇的に増大する。この変化は、ソース電極とドレイン電極との間の電気伝導を可能にする。典型的には、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極はパターン化されている。一般的には、近接する回路素子間における迷走伝導(すなわち、クロストーク)を最小化するため、半導体層もパターン化されている。
【0033】
液晶ディスプレーは、通常、表示ピクセル用のスイッチングデバイスとしてアモルファスシリコーン(「a−Si」)薄膜トランジスター(「TFT」)を使用する。このようなTFTは、典型的には、ボトムゲート構造を有している。1つのピクセル内において、薄膜キャパシターは、典型的には、スイッチングTFTにより運搬された電荷を保持する。電気泳動ディスプレーもキャパシターを伴う同様なTFTを使用することができるが、これらのキャパシターの機能は液晶ディスプレーの場合と幾分異なっている;第WO 00/67327号、ならびに上述の第2002/0106847号および第2002/0060321号を参照のこと。これらの薄膜トランジスターは高性能をもたらすべく製作することができる。しかし、この製造プロセスはかなりの経費を招き得る。
【0034】
TFTアドレッシングアレイにおいては、ピクセル電極はラインアドレス時間の間にTFT’sを介して充電される。ラインアドレス時間の間、TFTは、加えるゲート電圧を変えることにより、導通状態に切り替えられる。例えば、n−型TFTの場合、ゲート電圧が「高電圧」状態に切り替えられ、これにより、TFTが導通状態に切り替わる。
【0035】
望ましくないことに、ピクセル電極は、典型的には、TFTチャンネルを枯渇状態にもたらすべく選定ライン電圧を変えたときに電圧シフトを呈する。このピクセル電極の電圧シフトは、ピクセル電極とTFTゲート電極との間のキャパシタンスにより生じる。この電圧シフトは:
ΔV=GgpΔ/(Cgp+C+C
としてモデル化することができ、ここで、Cgpはゲート−ピクセルキャパシタンスであり、Cはピクセルキャパシタンスであり、Cはストレージキャパシタンスであり、ΔはTFTが事実上空乏状態にあるときのゲート電圧シフトの割合である。この電圧シフトは通常「ゲート貫通」と呼ばれることがある。
【0036】
ゲート貫通は、上面電圧(コモンフロント電極に加えられる電圧)をΔVだけシフトさせることにより補償することができる。しかしΔVはピクセル毎のCgpの変動によりピクセル毎に異なっているため、複雑な事態が生じる。従って、平均的なピクセル電圧のシフトを補償すべく上面がシフトされたときであっても、電圧バイアスが存続することがある。この電圧バイアスはピクセルの光学的状態におけるエラーの原因となることがあり、更には、電気光学媒質を劣質化させる可能性がある。
【0037】
gpの変動は、例えばTFTのゲートおよびソース−ドレインレベルを形成するために使用される2つの導電層間のミスアラインメント;ゲートの誘電体厚みにおける変動;およびラインエッチにおける変動、すなわち、ライン幅エラー;によってもたらされる。
【0038】
ドレイン電極を完全にオーバーラップするゲート電極を利用することにより、導電層の誤整列に対する幾分かの許容度を得ることができる。しかし、この技法は大きなゲート−ピクセルキャパシタンスをもたらし得る。大きなゲート−ピクセルキャパシタンスは、選定ライン電圧レベルのうちの1つにおける大きな補償の必要性を引き起こす可能性がある。その上、現存のアドレッシング構造は、例えばゲート−ピクセルキャパシタンスにおけるピクセル毎の変動により、意図していないバイアス電圧をもたらすことがある。このような電圧は、特に長期間にわたって存在する場合、特定の電気光学媒質に有害な影響を及ぼしかねない。
【0039】
前述の種々の問題により、電圧閾値を伴わない状態で電気光学媒質を用いる双安定型の電気光学ディスプレーを設計することが困難になる。ディスプレーの幾つかのピクセルは頻繁にはアップデートされず、そうすると、可能な限り、ピクセルの光学的状態が非摂動状態のままであることを確かめなければならない。実際には、これは、ピクセルに加えられる寄生電圧スパイクの量および振幅を最小化することを意味している。
【0040】
1つの例として、上で説明されている通常の仕方で走査される能動マトリックス型ディスプレーのソース(データ)ラインに加えられる電圧について考えてみよう。カプセル方式による電気泳動ディスプレーにおいては、これらのラインは、このディスプレーのあらゆるラインアドレス時間(能動マトリックス型ディスプレーのある与えられた横列を選択するための時間)と同程度に頻繁に、コモン電極に対して相対的に+15Vと−15Vとの間で切り替わっている。これらの電圧はディスプレーのピクセル電極に直接的に容量結合され、この結合は、フィールド遮蔽ピクセル設計においては非常に強力であり得る。これらの結合電圧スパイクが長期にわたってDCバランスされた状態に拘束されたとしても、これらの電圧スパイクの連続的な印可はピクセルの光学的状態に変化をもたらし得る。
【0041】
これらの電圧スパイク、およびそこからもたらされる種々の問題は、各ピクセル電極にピクセルストレージキャパシターを結合することにより低減できることが知られている;例えば、上述の第2002/0106847号を参照のこと。先行技術においては、これらの電圧スパイクの影響を最小化または排除するための本質的に唯一の実践可能な方法は、ピクセルストレージキャパシターのサイズを大きくすることであり、これは、ディスプレーの電力消費量をかなり増大させる。これに加え、大きなサイズのストレージキャパシターは、達成可能な最大解像度を制限し、更には、金属−金属オーバーラップの面積が増大することにより、結果としてパネルの歩留まりを低減させる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0042】
今や、上述で検討されている問題は、能動マトリックス型の電気光学ディスプレーにおいて、電圧閾値を呈する電気光学媒質、すなわち、低電圧ではあるがゼロではない電圧を掛けられたときに本質的に切り替わらない媒質を用いることにより、低減または排除できることが判明した。
【0043】
1つの態様においては、本発明は、懸濁流体中に懸濁された帯電粒子を含む電気泳動媒質を提供し、この粒子は、これらのモノマーのホモポリマーが上述の懸濁流体に対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有している。
【0044】
本発明のこの態様は、以後、便宜上、「非相溶性モノマー媒質」と呼ばれることがある。このような媒質において、上述の高分子シェルは、望ましくは、更に、これらのモノマーのホモポリマーが上述の懸濁流体との相溶性を有する少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を含んでいる。相溶性のホモポリマーを形成する1種類または複数種類のモノマー(これらのモノマーは、以後、便宜上、「相溶性モノマー」と呼ばれることがある)は、重量でポリマーシェルのうちの約15パーセントから約99パーセントまで、好適には約50パーセントから約99パーセントを構成していてよい。この懸濁流体は典型的には炭化水素であるが、炭化水素と他の相溶性溶媒、例えばハロカーボンなどとの混合物も使用することができる。代替的に、シリコーン流体またはフルオロカーボンを懸濁流体として使用することもできる。
【0045】
非相溶性ホモポリマーを形成するモノマー(このモノマーは、以後、便宜上、「非相溶性モノマー」と呼ばれることがある)。個々のモノマーを非相溶性モノマーであると見なすことができるかどうかは、使用される特定の懸濁流体に依存しており、また、特定のモノマーは、1つの懸濁流体中においては非相溶性モノマーであり、異なる懸濁流体中においては相溶性モノマーであり得ることが認識されよう。例えば、メタクリル酸ラウリルは、脂肪族炭化水素懸濁流体中においては相溶性モノマーであるが、シリコーン懸濁流体中においては、通常、非相溶性モノマーであろう。
【0046】
炭化水素のみからなる媒質またはおもに炭化水素からなる媒質の場合、非相溶性モノマーは、約8個以下の炭素原子を含有するアルコールから形成されたアクリレートおよびメタクリレート(前述のアルコールは、場合によって、ヒドロキシルもしくはハロゲン、または他の極性置換基、例えばカルボキシル基、シアノ基、ケトンもしくはアルデヒド基などを含む);アクリルアミドおよびメタクリルアミド;N,N−ジアルキルアクリルアミド;N−ビニルピロリドン;スチレンおよびスチレンの誘導体;ビニルエステル;ならびにビニルハロゲン化物;のうちのいずれか1つまたはそれ以上であってよい。非相溶性モノマーの特定の例はメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、メタクリルアミド、N−ビニルピロリドン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンを含む。非相溶性モノマーの更なる例はアクリル酸およびメタクリル酸のフッ素含有エステル、例えばメタクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ヘキサフルオロブチルなど、または他の種のフッ素化モノマー、例えばペンタフルオロスチレンもしくは重合可能な官能基を含有する他のポリフルオロ芳香族分子などを含む。炭化水素媒質中における他のクラスの非相溶性モノマーは、構造中に重合可能なビニル基を含むシリコーン含有分子を含む。以下の実施例に記載されている本発明の特定の炭化水素媒質中においては、相溶性モノマーはメタクリル酸ラウリルを含み、非相溶性モノマーはメタクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ヘキサフルオロブチル、スチレン、メタクリル酸t−ブチルおよびN−ビニルピロリドンのうちのいずれか1つまたはそれ以上を含む。
【0047】
他のタイプの懸濁流体、例えばフルオロカーボン媒質の場合、上述のタイプの非相溶性モノマーのうちの多くのものを、相溶性モノマーとしての大きな割合のフルオロカーボンモノマーと共に使用することができる。同様に、シリコーン懸濁流体の場合には、相溶性モノマーは大多数のシリコーン基を含んでいてよく、非相溶性モノマーは、大多数のシリコーン官能性を含むものを除き、上述でリストアップされているあらゆるモノマーを含むことができる。
【0048】
非相溶性モノマー媒質は、更に、もう一方の(第一の)1つまたは複数の帯電粒子の光学的特性とは異なる少なくとも1つの光学的特性を有する第二のタイプの帯電粒子を含んでいてよく、この第二のタイプの帯電粒子も高分子シェルを有している。このような二粒子系の1つの形態においては、第一の帯電粒子はチタニアを含み、第二のタイプの帯電粒子はカーボンブラックまたは亜クロム酸銅を含む。
【0049】
また、この発明は、本発明の非相溶性モノマー媒質中において使用するための電気泳動粒子も提供する。懸濁流体として炭化水素またはハロカーボンを用いる電気泳動媒質においては、この電気泳動粒子(以後、便宜上、「非相溶性モノマー粒子」と呼ぶ)は、これらのモノマーのホモポリマーがn−ヘキサンに対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有する顔料粒子を含む。(電気泳動媒質の技術に長けた者にとっては明らかなように、このような媒質中において典型的に使用される炭化水素懸濁流体は低分子量脂肪族炭化水素の様々な混合物を含み、不明確さを回避するため、このような炭化水素混合物との相溶性を試験するための単一試験化合物としてn−ヘキサンを使用することができる。)
本発明の非相溶性モノマー粒子においては、高分子シェルは、更に、これらのモノマーのホモポリマーがn−ヘキサンとの相溶性を有する少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を含んでいてよい。この相溶性モノマーは、重量でポリマーシェルのうちの約15パーセントから約99パーセントまで、好適には約50パーセントから約99パーセントまでを構成していてよい。上述の非相溶性モノマーは、上述のパラグラフ56でリストアップされているもののうちのいずれか1つまたはそれ以上を含んでいてよい。以下の実施例に記載されている本発明の特定の粒子においては、相溶性モノマーはメタクリル酸ラウリルを含み、非相溶性モノマーはスチレン、メタクリル酸t−ブチルおよびN−ビニルピロリドンのうちのいずれか1つまたはそれ以上を含む。本発明の粒子を形成するために使用される顔料は、例えばチタニア、カーボンブラックおよび亜クロム酸銅のうちのいずれか1つまたはそれ以上であってよい。
【0050】
別の態様においては、本発明は、フッ素化され、シリコーンをベースとした懸濁流体中において使用するための同様な電気泳動粒子を提供する。従って、本発明は、これらのモノマーのホモポリマーがペルフルオロデカリンに対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有する顔料粒子を含む電気泳動粒子を提供する。また、本発明は、これらのモノマーのホモポリマーがポリジメチルシロキサン200、粘度0.65センチストークスに対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有する顔料粒子を含む電気泳動粒子も提供する。
【0051】
別の態様においては、本発明は、電気泳動媒質であって:
懸濁流体;
上述の懸濁流体中に懸濁された第一のタイプの帯電粒子であって、第一の光学的特性および高分子シェルを有する第一のタイプの粒子;および
上述の第一の光学的特性とは異なる第二の光学的特性および高分子シェルを有する第二のタイプの粒子;
を含み、
上述の高分子シェルは、上述の第一および第二のタイプの粒子における同種凝集の方が異種凝集よりも熱力学的に起こりやすくなるようになされている;
電気泳動媒質を提供する。
【0052】
この媒質は、以後、便宜上、本発明の「同種凝集媒質」と呼ばれることがある。本発明の複式粒子型非相溶性モノマー媒質と同種凝集媒質との間には、多くの媒質が両方の定義を同時に満たすことができるという意味において、かなりのオーバーラップがあることが理解されよう。
【0053】
本発明の同種凝集媒質においては、第一および第二のタイプの粒子における高分子シェルは、それぞれ、これらのモノマーのホモポリマーが懸濁流体に対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を含むことができる。それぞれの高分子シェルは、更に、これらのモノマーのホモポリマーが懸濁流体との相溶性を有する少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を含むことができる。相溶性モノマーは、重量でポリマーシェルのうちの約15パーセントから約99パーセントまで、好適には約50パーセントから約99パーセントまでを構成していてよい。懸濁流体は約5未満の誘電定数を有していてよく、炭化水素、好適には脂肪族炭化水素を含んでいてよい。代替的に、懸濁流体はアリール−アルカンまたはドデシルベンゼンを含んでいてもよい。
【0054】
また、非相溶性モノマーは、上述のパラグラフ46でリストアップされているもののうちのいずれか1つまたはそれ以上を含んでいてもよい。同種凝集媒質の1つの好適な形態においては、相溶性モノマーはメタクリル酸ラウリルを含み、非相溶性モノマーはスチレン、メタクリル酸t−ブチルおよびN−ビニルピロリドンのうちのいずれか1つまたはそれ以上を含む。
【0055】
以下で詳しく説明されている理由により、本発明の同種凝集媒質は動作電圧閾値を有していてよい。この媒質はカプセル方式によるものであってよく、すなわち、懸濁流体および粒子が複数のカプセルまたはセル内に保持されていてよい。
【0056】
また、本発明は、本発明におけるいずれかのタイプの電気泳動媒質と、電気泳動媒質に隣接して配置され、この電気泳動媒質に電場を加えるため、配置された少なくとも1つの電極とを含む電気泳動ディスプレーも提供する。
【0057】
更に、本発明は、電気光学媒質の層;および、この電気光学媒質の層に隣接して配置され、この電気光学媒質の層に電場を加えるため、配置された複数のピクセル電極;を含み、前述の電気光学媒質が電圧閾値を呈する、能動マトリックス型の電気光学ディスプレーも提供する。
【0058】
この電気光学ディスプレーは、以後、便宜上、本発明の「電圧閾値型ディスプレー」と呼ばれることがある。このようなディスプレーにおいては、キャパシターが各ピクセル電極と結合されてよい。本電気光学媒質は、懸濁流体中に懸濁され、この電気光学媒質に電場を加えたときに本媒質中を移動することができる複数の帯電粒子を含んでいてよい。これらの帯電粒子は、これらのモノマーのホモポリマーが前述の懸濁流体に対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有していてよい。また、この電気光学媒質は本発明の同種凝集媒質であってもよい。
【0059】
最後に、本発明は、ポリマー被覆顔料粒子を製造するためのプロセスを提供し、このプロセスは:
(a)顔料粒子を、この粒子と反応して粒子に結合することができる官能基を有し、また、重合可能な基または重合開始基も有する試薬と反応させ、これにより、前述の官能基を粒子の表面と反応させ、粒子の表面に前述の重合可能な基を付着させる工程;および
(b)上述の工程(a)の生成物を、粒子上の前述の重合可能な基または重合開始基と少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーとの反応を生じさせるのに効果的な条件下において、少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーと反応させ、これにより、顔料粒子に結合されたポリマーを形成させる工程;
を含み、
ここで、上述の工程(b)は脂肪族炭化水素中において実施される。
このプロセスは、以後、便宜上、本発明の「脂肪族重合プロセス」と呼ばれることがある。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
懸濁流体中に懸濁された帯電粒子を含み、該粒子が高分子シェルを有している電気泳動媒質であって、該高分子シェルが、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有し、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーが該懸濁流体に対して非相溶性であることを特徴とする、電気泳動媒質。
(項目2)
前記高分子シェルが、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を更に含み、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーが前記懸濁流体との相溶性を有する、項目1に記載の電気泳動媒質。
(項目3)
前記相溶性ホモポリマーを形成する前記少なくとも1つのモノマーが、重量で前記ポリマーシェルのうちの15パーセントから99パーセントまでを構成している、項目2に記載の電気泳動媒質。
(項目4)
前記相溶性ホモポリマーを形成する前記少なくとも1つのモノマーが、重量で前記ポリマーシェルのうちの50パーセントから99パーセントまでを構成している、項目3に記載の電気泳動媒質。
(項目5)
前記懸濁流体が炭化水素を含む、項目1に記載の電気泳動媒質。
(項目6)
前記非相溶性ホモポリマーを形成する上記モノマーが、約8個以下の炭素原子を含有するアルコールから形成されたアクリレートおよびメタクリレートであって、該アルコールが、場合によって、ヒドロキシルまたはフルオロ置換基を含むアクリレートおよびメタクリレート;アクリルアミドおよびメタクリルアミド;N,N−ジアルキルアクリルアミド;N−ビニルピロリドン;スチレンおよびスチレンの誘導体;ビニルエステル;ビニルハロゲン化物;重合可能な官能基を含有するポリフルオロ芳香族分子;ならびに重合可能な官能基を包含したシリコーン含有分子のうちのいずれか1つまたはそれ以上を含む、項目1に記載の電気泳動媒質。
(項目7)
前記非相溶性ホモポリマーを形成する前記モノマーが、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、メタクリルアミド、N−ビニルピロリドン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、およびペンタフルオロスチレンのうちのいずれか1つまたはそれ以上を含む、項目6に記載の電気泳動媒質。
(項目8)
前記相溶性ホモポリマーを形成する前記モノマーがメタクリル酸ラウリルを含み、前記非相溶性ホモポリマーを形成する前記モノマーがスチレン、メタクリル酸t−ブチルおよびN−ビニルピロリドンのうちのいずれか1つまたはそれより多くを含む、項目2に記載の電気泳動媒質。
(項目9)
更に、もう一方の帯電粒子の光学的特性とは異なる少なくとも1つの光学的特性を有する第二のタイプの帯電粒子を含み、該第二のタイプの帯電粒子が高分子シェルを有する、項目1に記載の電気泳動媒質。
(項目10)
前記帯電粒子がチタニアを含み、前記第二のタイプの帯電粒子がカーボンブラックまたは亜クロム酸銅を含む、項目9に記載の電気泳動媒質。
(項目11)
電気泳動媒質であって、該媒質が:
懸濁流体;
該懸濁流体中に懸濁された第一のタイプの帯電粒子であって、第一の光学的特性および高分子シェルを有する、第一のタイプの帯電粒子;ならびに
該懸濁流体中に懸濁された第二のタイプの帯電粒子であって、該第一の光学的特性とは異なる第二の光学的特性および高分子シェルを有する、第二のタイプの帯電粒子;
を含み、
該高分子シェルが、該第一および第二のタイプの粒子における同種凝集の方が異種凝集よりも熱力学的に起こりやすくなるようになされていること、を特徴とする、
電気泳動媒質。
(項目12)
前記第一および第二のタイプの粒子の前記高分子シェルが、それぞれ、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を含み、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーが前記懸濁流体に対して非相溶性である、項目11に記載の電気泳動媒質。
(項目13)
各高分子シェルが、更に、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を含み、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーが前記懸濁流体との相溶性を有する、項目12に記載の電気泳動媒質。
(項目14)
動作電圧閾値を有する、項目11に記載の電気泳動媒質。
(項目15)
前記懸濁流体および前記粒子が複数のカプセルまたはセル内に保持されている、項目11に記載の電気泳動媒質。
(項目16)
電気泳動ディスプレーであって、該ディスプレーが項目11に記載の電気泳動媒質、および該電気泳動媒質に隣接して配置され、該電気泳動媒質に電場を加えることができるようになされている少なくとも1つの電極を含む、電気泳動ディスプレー。
(項目17)
電気泳動粒子であって、該粒子が、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有する顔料粒子を含み、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーがn−ヘキサンに対して非相溶性である、電気泳動粒子。
(項目18)
前記顔料粒子がチタニア、カーボンブラックおよび亜クロム酸銅のうちのいずれか1つまたはそれより多くを含む、項目17に記載の電気泳動粒子。
(項目19)
電気泳動粒子であって、該粒子が、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有する顔料粒子を含み、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーが、ペルフルオロデカリンに対して非相溶性である、電気泳動粒子。
(項目20)
電気泳動粒子であって、該粒子が、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有する顔料粒子を含み、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーがポリジメチルシロキサン200、粘度0.65センチストークスに対して非相溶性である、電気泳動粒子。
(項目21)
能動マトリックス型の電気光学ディスプレーであって、該ディスプレーが:
電気光学媒質の層;および
該電気光学媒質の層に隣接して配置され、該媒質に電場を加えることができるようになされている複数のピクセル電極;
を含み、
該ディスプレーは、該電気光学媒質が電圧閾値を呈することを特徴とする;
能動マトリックス型電気光学ディスプレー。
(項目22)
更に、各ピクセル電極と連合されたキャパシターを含む、項目21に記載の電気光学ディスプレー。
(項目23)
前記電気光学媒質が、懸濁流体中に懸濁され、該電気光学媒質に電場が加えられたときに該媒質中を移動することができる複数の帯電粒子を含む、項目21に記載の電気光学ディスプレー。
(項目24)
前記帯電粒子が、少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有する高分子シェルを有し、該少なくとも1つのモノマーのホモポリマーが上記懸濁流体に対して非相溶性である、項目23に記載の電気光学ディスプレー。
(項目25)
上記電気光学媒質が、
前記懸濁流体中に懸濁された第一のタイプの帯電粒子であって、第一の光学的特性および高分子シェルを有する、第一のタイプの帯電粒子;ならびに
該懸濁流体中に懸濁された第二のタイプの帯電粒子であって、該第一の光学的特性とは異なる第二の光学的特性および高分子シェルを有する、第二のタイプの帯電粒子;
を含み、
該高分子シェルが、該第一および第二のタイプの粒子における同種凝集の方が異種凝集よりも熱力学的に起こりやすくなるようになされている;
項目23に記載の電気光学ディスプレー。
(項目26)
ポリマー被覆顔料粒子を製造するためのプロセスであって、該プロセスが:
(a)該顔料粒子を、該粒子と反応して該粒子に結合することができる官能基を有し、また、重合可能な基または重合開始基も有する試薬と反応させ、これにより、該官能基を該粒子の表面と反応させ、該表面に上記重合可能な基を付着させる工程;および
(b)工程(a)の生成物を、該粒子上の該重合可能な基または重合開始基と少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーとの間の反応を引き起こすのに効果的な条件下において、少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマーと反応させ、これにより、該顔料粒子に結合されたポリマーの形成をもたらす工程;
を含み、
該工程(b)が脂肪族炭化水素中で実施されること、を特徴とする、
プロセス。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の非相溶性モノマー電気泳動粒子を製造するために使用されるプロセスを図式的に示す反応図である。
【図2】図2は、上記の実施例で説明されているごとき様々なパルス幅における印可電圧の関数としての本発明の同種凝集電気泳動媒質のダイナミックレンジの変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
既に指示されているように、本発明は、高分子シェルを有する粒子を使用する電気泳動媒質、このような媒質中において使用するための電気泳動粒子、このような媒質または同様な電気光学媒質を含有する電気泳動ディスプレー、および前述の高分子シェルを調製するためのプロセスに関係する。電気泳動粒子、電気泳動粒子上にポリマーシェルを形成するためのプロセス、電気泳動媒質、およびこのような粒子を組み込んだディスプレーに関する背景となる情報については、読者は、前述の第WO 02/093246号、特に12ページから41ページまでを参照のこと。また、前述の第2002/0185378号のパラグラフ(0124)から(0165)までも参照のこと。この情報については、これらの公開出願公報から容易に入手可能なため、本発明の電気泳動粒子、媒質、ディスプレーおよびプロセスがこの国際出願公報に記載されている同種のものとどのように異なっているのかを説明するために必要な程度を除き、ここでは繰返し説明しない。
【0062】
本発明の電気泳動粒子上に存在するポリマーシェルは、ポリマーの表面に付加的なポリマーを形成することができないであろうという意味における完全な状態までには粒子の表面を覆っていなくてよく;実際、以下で検討されているように、第二の重合工程は、通常、粒子の表面に付加的なポリマーを形成することが分かっている。従って、本明細書における「ポリマーシェル」という用語の使用は、更なる重合工程により粒子上に付加的なポリマーを形成する可能性を排除するポリマーコーティングを意味しない。
【0063】
多くのセラミック酸化物顔料に結合するための好適なクラスの官能基、ただし、特にはシリカ−および/またはアルミナ−被覆チタニアおよび同様なシリカ−被覆顔料に結合するための好適なクラスの官能基は、シランカップリング基、特にトリアルコキシシランカップリング基である。重合可能な基をチタニアおよび同様な顔料に付着させるための1つの好適な試薬は、上述のメタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル:
C=C(CH)CO(CHSi(OCH (I)
である。この材料は、Z6030の商品名でDow Chemical Company,Wilmington,Delawareから市販されている。対応するアクリレートも使用することができる。別の有用な試薬は、化学式:
C=CHCCHNHCHCHNH(CHSi(OCH.HCl
(II)
のアミノシリル誘導体である。
【0064】
この電気泳動粒子の周囲に後で形成されることとなるポリマーシェルのための「アンカー」を提供することに加え、これらのシリルメタ(アクリレート)は、適切な1つまたは複数の帯電剤の存在下において最終的な電気泳動粒子に所望の電荷を獲得する能力を付与する電荷コントロール基も含んでいる。正に帯電した粒子が所望の場合には式(II)の試薬が使用され、一方、式(I)の試薬は負に帯電した粒子を与える。どちらの試薬も、勿論、溶液中で発生する高分子ラジカルのグラフト化を可能にする重合可能なビニル基を含んでいる。
【0065】
実際には、電気泳動媒質中における懸濁流体は、典型的には、低値の誘電定数を有する液体、例えば炭化水素、ハロカーボン(特にフルオロカーボン)またはシリコーンなどである。本発明の非相溶性モノマー媒質は、これらのタイプの懸濁流体のうちのいずれをも使用することができる。以下では、おもに、炭化水素懸濁流体を含む媒質について言及しながら本発明が説明されるが、このような懸濁流体中におけるコロイド化学に長けた者であれば、他のタイプの懸濁流体を使用するための媒質の改変はすぐに分かるであろう。このポリマーシェル自体は、典型的には、大きな割合の炭化水素鎖(すなわち、懸濁化媒質との高い相溶性を有するホモポリマーを形成する連鎖)を含んでおり;帯電させることを目的としてもたらされた基、および、以下で検討されているように、懸濁流体との相溶性を調節することを目的としてもたらされた基の場合を除き、多数の強い極性またはイオン性を帯びた基は望ましくない。また、少なくとも、その中で粒子が使用されることとなる媒質が脂肪族炭化水素懸濁流体を含んでいる場合(通常はこのケースに該当する)には、ポリマーは、主鎖およびこの主鎖から延びる複数の側鎖を伴った分枝状または「櫛状」の構造を有していることが有利である。これらの各側鎖は少なくとも約4個、好適には少なくとも約6個の炭素原子を有しているべきである。実質的に長めの側鎖が有利であり得る;例えばラウリル(C12)側鎖。側鎖は、それ自体が枝分かれしていてよく;例えば、各側鎖は、2−エチルヘキシル基などの分枝状のアルキル基であり得よう。(本発明はこの確信により決して制限されるものではないが)炭化水素をベースとした懸濁流体に対する炭化水素鎖の高い親和性のため、このポリマーの枝は、大きな体積の液体を通じてブラシまたは木のような構造で次々に伸び、これにより、他の同様な粒子との近接した会合が防止され、これらの粒子を懸濁流体中においてコロイド的に安定した状態にもたらすものと確信される。
【0066】
前述の第WO 02/093246号に記載されているごとく、電気泳動粒子上に形成されるべきポリマーの量には最適な範囲があり、粒子上における過剰または不充分な量のポリマーの形成は、いずれも、粒子の電気泳動特性を劣質化させ得ることが判明している。最適な範囲は、コーティングされる粒子の密度およびサイズ、その中で粒子が使用されることが意図されている懸濁化媒質の性状、および粒子上に形成されるポリマーの性状を含め、数多くの要因で変動することが考えられ、最適な範囲はあらゆる特定の粒子、ポリマーおよび懸濁化媒質に対して実験に基づいて決定されるのが最も良い。しかし、一般的な指針として、粒子の密度が高くなればなるほど、粒子の重量によるポリマーの最適な割合が低くなり、また、粒子を微細に分割すればするほど(粒度が小さくなればなるほど)、ポリマーの最適な割合が高くなることに留意すべきである。前述の第WO 02/093246号は、粒子は重量で少なくとも2パーセント、望ましくは少なくとも4パーセントのポリマーでコーティングされるべきであり、ほとんどのケースにおいては、ポリマーの最適な割合は重量で粒子の4パーセントから15パーセントまでの範囲であり、典型的には重量で6パーセントから15パーセントまでの範囲、最も望ましくは重量で8パーセントから12パーセントまでの範囲であろう、と述べている。より詳細には、チタニア粒子の場合について、前述の第WO 02/093246号は、ポリマーの好適な範囲は重量でチタニアの8パーセントから12パーセントまでである、と述べている。
【0067】
しかし、広い範囲の粒度および密度を有する粒子への本発明の適用を促進するためには、ポリマーの量をポリマーの表面密度(すなわち、粒子表面の単位面積当たりのポリマーの重量、例えば1平方メートルの粒子表面当たりのポリマーのミリグラム)によって表すことが有利であり得る。ポリマーの表面密度は、次の式:
Γ=WρD/6
から算出することができ、式中、Γはポリマーの表面密度であり、Wは(熱重量分析法により得られる)サンプル1グラム当たりのポリマーの重量であり、ρは基材粒子の密度であり、Dは基材粒子の直径である。クロム酸銅の場合、表面密度の有用な範囲は2mg/gから40mg/gまでであることが判明しており、好適な範囲は14mg/gから24mg/gまで、特に好適な範囲は18mg/gから22mg/gまでであることが分かっている。
【0068】
本発明のポリマー被覆粒子は電気泳動ディスプレー以外の用途にも有用であり得る。例えば、現存する顔料上の本ポリマーコーティングによりもたらされる炭化水素材料に対する制御された親和性は、これらの顔料を高分子およびゴムマトリックスで使用するのに有利になすものと考えられ、そこでは、これらの顔料は、同様であるがコーティングされていない顔料よりももっと容易に分散可能であるに違いない。本ポリマーコーティングの化学的性状における融通性は、本コーティングをあらゆる特定のマトリックスにおける制御された分散性に「調和」させることを可能にする。従って、現存する顔料を分散可能な顔料または反応性の押し出し化合物として使用することができる。更に、粒子上の本ポリマーコーティングは、このような顔料/ポリマーまたはゴム混合物の機械的特性を、このような混合物が粒子とマトリックス材料との界面において剪断変形または破損する傾向を低減することにより改善するのに有用であり得る。ポリマー被覆粒子が、(上述で検討されているごとき)粒子に付着されていない「遊離」ポリマーとの混合物中においてこれらのポリマー被覆粒子を生成するプロセスによって製造される場合は、多くの場合、遊離ポリマーはマトリックス中において有害な影響を及ぼすことなく分散するため、粒子を高分子またはゴムマトリックス中に分散させる前にこれらの被覆粒子を遊離ポリマーから分離する必要はないであろう。
【0069】
本発明の媒質においては、懸濁流体の選定は、化学的な不活性さ、電気泳動粒子との密度適合性、または電気泳動粒子およびカプセルもしくはマイクロセル壁(カプセル方式による電気泳動ディスプレーの場合)の両者との化学的な相溶性の観点に基づいて行われてよい。この流体の粘度は、これらの粒子を移動させたいときには、低粘度であることが望ましい。また、懸濁流体の屈折率も、粒子の屈折率に実質的に合わせられてよい。本明細書で使用する場合、それぞれの屈折率間の差が約ゼロから約0.3までの間、好適には約0.05から約0.2までの間であるならば、懸濁流体の屈折率は粒子の屈折率に「実質的に合わせられている」。しかし、光学的状態が部分的には散乱効率によって決定される電気光学ディスプレーの場合には、散乱物と媒質との屈折率間に大きな差があることが望ましい。チタニア粒子は、典型的には、複式粒子型電気泳動ディスプレーにおける白色状態をもたらすための散乱粒子として使用され、この材料は高い屈折率(約2.7)を有しており、従って、懸濁化媒質は低い屈折率であることが望ましい。
【0070】
有用な有機溶媒は、これらに限定するものではないが、エポキシド、例えばデカンエポキシドおよびドデカンエポキシドなど;ビニルエーテル、例えばシクロヘキシルビニルエーテルおよびDecave(International Flavors & Fragrances,Inc.,New York,NYの登録商標)など;および芳香族炭化水素、例えばトルエンおよび他のアルキルベンゼン誘導体、例えばドデシルベンゼンおよびナフタレンならびにアルキルナフタレン誘導体などを含む。有用なハロゲン化有機溶媒は、これらに限定するものではないが、テトラフルオロジブロモエチレン、テトラクロロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、1,2,4−トリクロロベンゼンおよび四塩化炭素を含む。これらの材料は高い密度を有している。有用な炭化水素は、これらに限定するものではないが、ドデカン、テトラデカン、Isopar(登録商標)シリーズ(Exxon,Houston,TX)、Norpar(登録商標)(一連のノルマルパラフィン液体)、Shell−Sol(登録商標)(Shell,Houston,TX)およびSol−Trol(登録商標)(Shell)の脂肪族炭化水素、ナフサ、ならびに他の石油溶媒を含む。これらの材料は、通常、低い密度を有している。シリコーン油の有用な例は、これらに限定するものではないが、オクタメチルシクロシロキサンおよび高分子量環状シロキサン、ポリ(メチルフェニルシロキサン)、ヘキサメチルジシロキサンならびにポリジメチルシロキサンを含む。これらの材料は、通常、低い密度を有している。有用な低分子量ハロゲン含有ポリマーは、これらに限定するものではないが、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)ポリマー(Halogenated Hydrocarbon Inc.,River Edge、NJ)、Galden(登録商標)(Ausimont,Morristownから入手可能なペルフルオロエーテル)、またはdu Pont(Wilmington,DE)から入手可能なKrytox(登録商標)を含む。上述の材料のうち多くのものは、一連の粘度、密度および沸点を有するものを入手することができる。
【0071】
(コントロールされた粒子/懸濁流体相溶性を有する電気泳動粒子、媒質およびディスプレー)
これまでは、明らかに、電気泳動粒子のまわりに、電気泳動媒質(典型的には、Isopar Gなどの脂肪族炭化水素)中においてこの粒子を取り巻く懸濁流体との高い相溶性を有するポリマーから、ポリマー被覆またはシェルを形成することが望ましいことであると考えられてきた。また、このような高い相溶性を有するポリマーシェルの使用は、良好な立体安定性をもたらす上で望ましいと考えられてきた。従って、前述の第WO 02/093426号におけるほとんどの実施例では、コロイド的に安定した機能性顔料上に立体的に安定化するポリマーシェルをもたらす上で、単一のモノマーおよび単一の重合工程のみが必要とされている。このような高分子シェルを形成するために使用されるモノマーは、上述の第WO 02/093426号では他のモノマーも使用されているが、典型的にはメタクリル酸ラウリルである。
【0072】
今や、懸濁流体との相溶性が幾分低くなるようにポリマーシェルを改変することにより、すなわち、ポリマーシェルの幾分かの割合が懸濁流体に対して非相溶性となるように改変することにより、特定の重要な利点、特に画像安定性の改善を達成できることが判明した。
【0073】
「相溶性」および「非相溶性」という用語は、本明細書では、ポリマー技術分野におけるそれらの用語の意味で用いられる。最も簡単なレベルにおいては、懸濁流体とのポリマーの相溶性は、このポリマー(結合された基材電気泳動粒子から脱着された状態のポリマー)がこの溶媒中において可溶性であることを意味する。ポリマーが可溶性であるかどうかは、通常、簡単な視覚的検査によって決定することができる;溶液は、一般的には、光学的に透明であり、一方、非溶液(混合系または分散系)は不透明であり、または2つの明白な相を有している。
【0074】
しかし、相溶性は二元的な現象ではなく、すなわち、ポリマーは、ある与えられた懸濁流体に対して必ずしも完全に相溶性または完全に非相溶性ではない。それよりむしろ、流体とポリマーセグメント(概して、ポリマーを構成しているモノマー)との間における相互作用の相対的な強さおよびポリマーセグメント自体の間における相互作用の相対的な強さに依存して、一連の相溶性が存在する。ポリマーがこの流体中において高度に可溶性であるときには、ポリマー−流体相互作用の方がポリマー−ポリマー相互作用よりももっとエネルギー的に有利である。このケースにおいて、コイルを形成する傾向があるポリマーの場合、溶液中のポリマーコイルは、ポリマー溶融体中のポリマーのコイルに対して相対的に広がるであろう。この広がりは毛細管粘度法または光散乱法を用いて測定することができる。例えば、異なる分子量(M)を有する一連のポリマーサンプルの固有粘度[η]を測定する場合、通常、これらの2つの量の間には:
[η]=KMα
のべき乗則の関係があることが分かる。指数αは、溶媒の質に依存して0.5から約0.8まで(可塑性ポリマーの場合)の範囲であり、値が大きくなるほど良好な溶媒であることを表す。α=0.5の場合、この流体は「シータ溶媒」と呼ばれ、このポリマーの配座はポリマー溶融体(すなわち、他のポリマーセグメントによってのみ取り囲まれている)の配座と同様であり、従って、このポリマーは、結局、この流体に対して中性的な相溶性を有している。これらの条件下においては、このポリマー鎖の配座はランダムウォークの配座である。
【0075】
ホモポリマー系およびコポリマー系のどちらの場合にも、Hugginsの係数を溶媒の質の指標(すなわち、この溶媒に対するポリマーの相溶性の指標)として使用することができる。Hugginsの定数は、ポリマーの希釈溶液の相対粘度を表す以下の式:
【0076】
【数1】

における[η]k’の項である。この式中、ηは溶媒の粘度であり、[η]は固有粘度であり、cはこの流体中におけるポリマーの濃度である。相溶性流体の場合には、k’は0.30から0.40までの範囲であり、一方、相溶性がもっと低い流体の場合には、k’はもっと大きい(0.50から0.80まで)。(C.W.MacoskoによるRheology Principles,Methods,and Applications,VCH Publishers,1994,p481を参照のこと)。
【0077】
同様な情報を、静的光散乱法または浸透圧測定法で測定したときの、ある与えられた流体−ポリマー溶液に対する第二ビリアル係数の値から収集することができる。一般に第二ビリアル係数が高いことは相溶性の高い流体であることを意味する。溶解されたポリマー間における会合のケースにおいては、実質的に非相溶性のポリマー−溶媒相互作用に対応して、第二ビリアル係数は負になることさえあり得る(C.TanfordによるPhysical Chemistry of Macromolecules,John Wiley and Sons,New York、1961,pp.293−296を参照のこと)。
【0078】
ポリマーが流体中に可溶性でない場合、すなわち、非相溶性である場合、ポリマーは、ときとして、尚も流体によって膨潤することがある。吸収の程度(流体の存在下におけるポリマーサンプルの体積と乾燥ポリマーの体積との比)を、この管理体制における流体とポリマーとの相溶性の程度の測度として使用することができる。膨潤の程度が大きいほど、相溶性が高い。
【0079】
ポリマーシェルの懸濁流体との相溶性を低くすることは幾つかの方法で達成することができる。まず、本発明の非相溶性モノマー電気泳動媒質の態様によれば、ポリマーシェルは、これらのモノマーのホモポリマーが懸濁流体に対して非相溶性である少なくとも1つのモノマーから誘導された反復単位を有していてよい。典型的には、このようなポリマーシェルは相溶性モノマー、すなわち、これらのモノマーのホモポリマーが懸濁流体との相溶性を有するモノマーも含み、このポリマーシェルの懸濁流体との相溶性は、これら2つのモノマーの比を変えることにより調節することができる。
【0080】
非相溶性モノマーと相溶性モノマーとの両方(明らかなごとく、それぞれのタイプの1つより多くのモノマーが存在していてよい)を含むポリマーシェルは、最後の重合工程(唯一の重合工程であってもよい)で重合可能なモノマーの混合物を用いることにより形成されるランダムコポリマーシェルであってよい。モノマーのうちの1つが懸濁流体に対して相溶性であり、1つが相溶性でない場合には、シェル内におけるこれらのモノマーの比に依存して、粒子に一連のコロイド安定性を構築することができる。更に、異なるモノマー種は異なる程度の非相溶性をもたらし得るため、非相溶性モノマーを変えることにより、非相溶性の程度を更に改変することができる。例えば、ポリマーシェルにおける唯一のモノマーとして使用されたときに、約8個を超えない炭素原子を含有する短い側鎖を有するアクリル酸エステル(例えばメタクリル酸ブチル)は、Isopar G懸濁流体中においてコロイド的に安定でない粒子をもたらすことが観測されている。その一方で、メタクリル酸ラウリルは、Isopar G中において優れたコロイド安定性を有する電気泳動粒子をもたらす。従って、メタクリル酸ラウリルおよびメタクリル酸ブチルのコポリマーは、この重合混合物中におけるメタクリル酸ブチルとメタクリル酸ラウリルとのあるモル比において、Isopar Gに対して僅かに相溶性を有するポリマーシェルおよび僅かにコロイド的に安定した粒子を与えるであろう。
【0081】
電気泳動粒子の周りのポリマーシェルを改変する第二の方法は、重合の第二段階による。実験は、上述の式(I)および(II)の試薬によってもたらされた表面官能性が単一のグラフト重合工程の間に完全には消費されないことを示している。例えば、表面が官能基化され、ポリマーコーティングがなされたチタニアを重合媒質(典型的には、トルエン、メタクリル酸ラウリルおよび重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を含む)中に単純に再懸濁させた場合、16時間の加熱後にこの反応混合物から単離された顔料の熱重量分析は、結合されたポリマー量の増大を示す(熱重量分析(TGA)により測定した場合:最初の重合後:7.3%;2回目の重合後:2つの異なる運転において8.9%および9.9%)。このような二重のグラフト重合プロセスにおいては、2回目の重合で使用されるモノマーは、1回目の重合で使用されるものと異なっていてよく、これにより、異なるモノマーから構成されたポリマー鎖を最終的なポリマーシェルに組み込むことが可能になる。その上、第一重合工程の条件を改変することにより、これらの連鎖の初期グラフト化密度を調節することができ、更には、第二段階の重合に対する表面ビニル官能性の利用率(およびアクセス可能性)も調節することができる。従って、この二重重合法は、ポリマー安定化電気泳動粒子の構築における第二の融通度を可能にする。連鎖移動剤を重合混合物に組み入れることにより、またはポリマー技術分野において広く知られた方法でモノマーまたはラジカル開始剤の濃度を調節することにより、第一もしくは第二重合段階のいずれかにおけるポリマー鎖の分子量を調節することは有益であり得る。
【0082】
現在、脂肪族炭化水素を優先的に使用した懸濁流体は、一般的に、多くのホモポリマーとの相溶性が乏しいものと考えられているため、非常に広い範囲の容易に入手可能なモノマーを、上述で説明されている2つの方法のうちのいずれかによりもたらされるポリマーシェルにおける非相溶性モノマーとして使用するために利用することができる。このような非相溶性モノマーは、鎖長および分枝構造は異なるが、典型的には8個またはそれ以下の炭素原子を有するアルキル基を伴うアクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル)、同じくアクリル酸の対応するエステル、フルオロカーボンエステル側鎖を伴うアクリレート、官能性アルコールのアクリル酸エステル、例えばメタクリル酸2−ヒドロキシエチルなど、アクリルアミド、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N−モノアルキルアクリルアミドおよびメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ならびに官能性アクリルアミド誘導体など、スチレン、置換スチレン誘導体、酢酸ビニルおよび他のビニルエステル、ハロゲン化ビニル誘導体(塩化ビニル、塩化ビニリデンなど)、ならびに他の重合可能なモノマー種を含む。
【0083】
本発明は理論的な考察により決して制限されるものではないが、粒子の周りのポリマーシェルが非相溶性モノマーを含有する電気泳動媒質の改善された特性に対する合理的な説明を提供することができる。専ら相溶性モノマーから形成されたポリマーシェルは、シェルを形成するポリマー鎖にとって他のポリマーセグメントによるよりむしろ懸濁流体により取り囲まれることの方が熱力学的に起こりやすいため、この電気泳動粒子に立体安定性をもたらす。従って、専ら相溶性モノマーから形成されたポリマーシェル、例えば脂肪族炭化水素中に分散された純粋なポリ(メタクリル酸ラウリル)ポリマーシェルは、高度に膨潤する。隣接した粒子上のシェルの相互貫入は、より有利なポリマー−溶媒接触に対して相対的なポリマー−ポリマー接触の数を増大させるため、粒子間に効果的な反発力が存在し、これらの粒子は相互に間隔をあけたままとなり、これにより、懸濁流体中に分散された状態のまま留まる傾向がある。完全に非相溶性のモノマーから形成されたポリマーシェルは、シェルを形成するポリマー鎖にとって懸濁流体によるよりむしろ他のポリマーセグメントにより取り囲まれることの方が熱力学的に起こりやすいため、このような立体安定性をもたらさず、従って、ポリマーシェルは懸濁流体を排除して衝突し、これらの電気泳動粒子は相互に引き付け合い、これにより、凝集する傾向がある。別な言い方をすれば、高度に相溶性のポリマーシェルは懸濁流体中における電気泳動粒子の分散に有利に働き、一方、非相溶性のポリマーシェルは電気泳動粒子の凝集に有利に働く。電気泳動媒質の画像安定性は、図1から3までに描かれているそれぞれのタイプの電気泳動媒質において、一旦書かれた画像の安定性が、画像に対する責を担う粒子の同種凝集体(層)における同様な電気的粒子と凝集した状態のまま留まる電気泳動粒子の能力に依存するため、電気泳動粒子が凝集する傾向により有利に作用される。(図1から3は簡単化されていることに留意のこと;実際には、通常、画像化中に形成される粒子凝集体には1つより多くの粒子層が存在するであろう。)相溶性モノマーと非相溶性モノマーとの両方をポリマーシェルに組み入れることによってポリマーシェルおよび懸濁流体の相溶性を調節することにより、この懸濁流体に対するポリマーシェルの全体的な相溶性およびこのような粒子の凝集体の安定性を調節することが可能になり、これにより、結果としてもたらされるディスプレーの画像安定性を調節することができる。
【0084】
本発明の好適な実施態様の更なる1つの利点は、電気泳動媒質を切り替えるための閾値の導入である。電気泳動粒子が相互に引き付け合い、これにより、これらの粒子が安定した凝集体のまま留まる傾向が充分に強い場合には、凝集体から粒子を引き離し、これらの粒子が場の中で移動できるようにするにはかなり強い場を必要とするであろう。電気泳動媒質を切り替えるためのかなり大きな閾値電圧の存在は数多くの利点を有している。閾値が充分に大きい場合には、高解像度ディスプレーの受動マトリックスアドレッシングの使用を可能にすることができる。寄生電圧およびピクセル間の電圧の漏れに対する能動マトリックス型ディスプレーの感度を低減するためには小さめの閾値が有用であり得る。
【0085】
また、本発明は、複式粒子型電気泳動媒質における画像安定性を改善するための付加的な手法も提供する。複式粒子型電気泳動媒質においては、両タイプの電気泳動粒子が全体的な画像安定性に寄与することが必要である。もし第二のタイプの粒子が懸濁流体中で定着するのみ分散するのも自由である場合、1つのタイプの粒子が「画像安定性」を有している(すなわち、切り替えられた場所で同種凝集体のまま留まる)だけでは充分ではない。このようなケースの場合、この媒質の一方の極端な光学的状態はかなり良好な画像安定性を示すかもしれないが、他方の光学的状態は乏しい安定性を示すであろう。また、粒子が拡散し得る場合には、一方の粒子の乏しい画像安定性が第二の極端な光学的状態の光学的劣質化にも寄与しやすいものと考えられる。従って、両方のタイプの粒子が、良好な画像安定性を与えるべく適切に調節された立体安定性を有していることが望ましい。懸濁流体にポリマーを含めることによって良好な画像安定性を達成するための「枯渇凝集」手法を利用しようとする場合(前述の第2002/0180687号を参照のこと)、空乏メカニズムがこれら2つのタイプの粒子に適用される程度は粒度および粒子の幾何学的形状に依存して異なり、この程度は、ポリマーが1つのみ懸濁流体に加えられ、両方のタイプの粒子に画像安定性を与えるべく使用されるため、独立して調節することはできない。しかし、本発明の非相溶性モノマー電気泳動媒質においては、それぞれのタイプの粒子のコロイド安定性は独立して調節することができる。その上、枯渇凝集手法により懸濁流体にポリマーを加えることは、これら2つの別々なタイプの粒子を相互およびそれら自体に関してコロイド的に不安定にし、これにより、これら2つのタイプの粒子の異種凝集を助長する可能性がある。異種凝集は複式粒子型電気泳動ディスプレーにおける数多くの望ましくない影響をもたらすことが考えられ、これらの影響は、応答時間の遅速化および高い印可電圧を使用する必要性(異種凝集体を分離させるためには高めの場の強さが必要となるため)、ならびに劣質な光学的状態(帯電した異種凝集体は、この凝集体中に非常に大多数の1つのタイプの粒子が存在している場合には、加えられた場によって完全には分離されない可能性があるため)を含む。
【0086】
本発明の同種凝集媒質の態様によれば、2つのタイプの粒子の同種凝集の方が異種凝集よりも熱力学的に起こりやすい複式粒子型電気泳動媒質を提供することにより、これらの問題は排除され、または少なくとも低減される。これは、同種凝集に有利に作用すべく調節された、懸濁流体との相溶性を有するポリマーシェルを伴う2つのタイプの粒子を提供するだけでなく、これら2つのタイプのポリマーシェルの相溶性を異種凝集に不利に作用するようにも調節することにより達成することができる。これは、これら2つのタイプの粒子のポリマーシェルに異なる非相溶性モノマーを用いることにより比較的簡単に達成することができる;典型的には、同じ相容性モノマーを両方のタイプの粒子上におけるポリマーシェルに使用することができる。これら2つの非相溶性モノマーが相互に相溶性でない場合には、これら2つのタイプの粒子が異種凝集する傾向は極僅かとなり、同種凝集のみが促進され、従って、より迅速な応答時間がもたらされ、電気泳動媒質のもっと純粋な光学的状態が提供されるであろう。
【0087】
上記で既に述べられているように、本発明は、懸濁流体として脂肪族炭化水素を使用することだけに制限されない。フルオロ−およびハロカーボン油、シリコーン油、アラルキル溶媒(例えばトルエン、ドデシルベンゼンなど)またはこれらのものの混合物は、上述で説明されているごとく、ポリマーシェルの溶媒和に関して懸濁流体の特性の更なる改変を可能にするため、本発明に有用であり得る。
【0088】
本発明はあらゆるタイプの電気泳動媒質に適用することができるが、あらかじめ形成されたカプセルを使用するかマイクロセルを使用するかにかかわらず、カプセル方式による電気泳動媒質に特に有用であり得る。また、本発明は、フォワードモードスイッチングおよびバックモードスイッチングの両方、更にはサイド・トゥー・サイドモードスイッチングおよびシャッターモードスイッチングを含め、あらゆるタイプのスイッチング幾何学を用いるディスプレーにも適用することができる。
【0089】
添付図面の図1は、本発明による電気泳動粒子を調製するための、以下の実施例で用いられているごとき、1つの好適なプロセスを図式的に示しており、このプロセスは、前述の第WO 02/093246号に記載されているものと本質的に同様である。このプロセスの第一段階では、シリカで被覆された顔料702を生成すべく、基材顔料粒子700がシリカでコーティングされる;この工程は前述の第WO 02/093246号で充分に説明されている。次に、このシリカ被覆顔料702が、シリカ表面と反応する1つの官能基および第二の電荷コントロール基を有する二官能性試薬で処理され、これにより、表面に電荷コントロール基を担持した表面官能基化顔料704が生成される。この二官能性試薬は、顔料粒子上にポリマーを形成するための部位も提供する。最後に、図1に示されているごとく、表面官能基化顔料704は、電荷コントロール基に付着されたポリマーの形成を引き起こすのに効果的な条件下において、1つもしくはそれ以上のモノマーまたはオリゴマーと接触させられ、これにより、電気泳動媒質において使用されるポリマー被覆官能性顔料706が生成される。
【実施例】
【0090】
次に、懸濁流体とのコントロールされた相溶性を有するポリマーシェルを有する本発明の幾つかの異なる電気泳動粒子の合成を例証するため、また、このような電気泳動粒子により達成される利点を例証するため、以下の実施例が与えられるが、これらの実施例は単に例証を目的としたものである。
【0091】
これらの実施例における実験は、以下のごとく、省略記号を用いて説明される。これらの実験は、du Pont Ti−Pure R960をベースとした白色チタニア顔料およびShepherd Black 1Gをベースとした黒色亜クロム酸銅顔料を使用した。これらの粒子は、白色顔料に対してはZ6030を用い、黒色顔料に対しては上述の式(I)の試薬を用いて、図7の反応図式により表面が官能基化され、この後、以下で説明されている方法により、これらの粒子上にポリマーシェルが形成された。このようにして生成された白色粒子は、帯電剤としてSolsperse 17KおよびSpanを含むIsopar G懸濁流体中に組み入れられたときに負に帯電され、黒色粒子は正に帯電された。対照実験としてメタクリル酸ラウリルホモポリマーシェルを伴う粒子が調製され、これらの粒子は、白色粒子および黒色粒子が、それぞれ、文字JおよびDで表される。ポリマーシェルの改変は以下のごとくに記述される:ランダムコポリマーの一段重合を用いて作られた粒子の場合、コモノマーは、重合反応で用いられたコモノマーのモル分率を指示する数字と共に、適切な顔料指標の後の( )内における以下の表Iで指示されている文字コードによって識別される。それぞれのケースにおける残りの部分はメタクリル酸ラウリルであった。従って、記号J(BMA15)は、15モル%のメタクリル酸t−ブチルおよび85モル%のメタクリル酸ラウリルを含む重合混合物から作られた白色顔料を示す。二段重合はプラス記号で示されている;一般的に、これらの粒子に対するポリマーのモル比はそれほどよく知られておらず、そのため、組成についての指示は与えられていない。従って、J(+St)は、二段重合で作られた白色顔料を示す。開始材料は、この場合、対照顔料であり、一段目の重合では100モルパーセントのメタクリル酸ラウリルが使用され;二段目の重合は、重合可能なモノマーとしてスチレンのみを用いて実施された。
【0092】
【表1】

ポリマーシェルを形成するために使用した手順、ならびに結果として得られたポリマー被覆粒子を電気泳動媒質およびディスプレーに組み込むために使用した手順は以下の通りであった。述べられているすべての遠心分離操作は、Beckman GS−6またはAllegra 6 centrifuge(Beckman Coulter,Inc.,Fullerton、CA 92834から入手可能)で実施された。
【0093】
(1. 標準的なメタクリル酸ラウリルの重合)
250mL用の一口丸底フラスコに磁気攪拌棒、還流冷却器およびアルゴン/または窒素インレットを装備し、シリコーン油浴に入れた。このフラスコに、乳鉢および乳棒を用いて細かな粉末に微粉化された60gのシラン被覆顔料を加え、続いて、60mLのメタクリル酸ラウリル(LMA、Aldrich)および60mLのトルエンを加えた。次いで、反応混合物を急速に攪拌し、フラスコをアルゴンまたは窒素で1時間パージした。この時間の間、シリコーン浴を50℃に加熱した。パージしている間、0.6gのAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、Aldrich)を13mLのトルエン中に溶解した。1時間のパージが終了した後、ガラスピペットを用いてAIBN/トルエン溶液を迅速に加えた。この反応容器を密封し、65℃に加熱し、夜通し攪拌した。重合の終了後、この粘性の反応混合物に100mLの酢酸エチルを加え、得られた混合物を更に10分間攪拌した。この混合物をプラスチック製のボトルに注ぎ、3600rpmで15〜20分間遠心分離し、デカントした。遠心分離された顔料に新鮮な酢酸エチルを加え、ステンレス鋼製のスパチュラで攪拌し、10分間音波処理した。上述の手順に続き、この顔料を酢酸エチルでもう2回洗洗浄した。得られた顔料を夜通し風乾し、続いて、高真空下で24時間乾燥させた。バルク溶液中における遊離ポリマーをメタノール中において沈殿させ、真空下で乾燥させた。この溶液中の遊離ポリマーの分子量を気相クロマトグラフィー(GPC)により測定した。顔料に結合されたポリマーはTGAにより測定された。
【0094】
(2. チタニア上における共重合)
250mL用の一口丸底フラスコに磁気攪拌棒、還流冷却器およびアルゴン/または窒素インレットを装備し、シリコーン油浴に入れた。このフラスコに60mlのトルエン、60gのチタニア(Z6030 coated Dupont R960)、メタクリル酸ラウリル(LMA)、ならびに第二のモノマー、例えばスチレン、メタクリル酸t−ブチル、1−ビニル−2−ピロリジノン、アクリル酸ヘキサフルオロブチルおよびメタクリル酸へキサフルオロブチル、N−イソプロピルアクリルアミドまたはアクリロニトリル(Aldrich)などを加え、前述のLMAおよび第二のモノマーの量は所望のモノマー比に依存した。LMA/第二モノマーの比は、通常、95/5、85/15および75/25であった。次いで、反応混合物を急速に攪拌し、フラスコをアルゴンまたは窒素で1時間パージした。この時間の間、シリコーン浴を50℃に加熱した。パージしている間、0.6gのAIBNを13mLのトルエン中に溶解または部分的に溶解した。1時間のパージが終了した後、ガラスピペットを用いてAIBN/トルエン溶液を迅速に加えた。この反応容器を密封し、65℃に加熱し、夜通し攪拌した。この粘性の反応混合物に100mLの酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物を更に10分間攪拌した。この混合物をプラスチック製のボトルに注ぎ、3600rpmで15〜20分間遠心分離し、デカントした。遠心分離された顔料に新鮮な酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物をステンレス鋼製のスパチュラで攪拌し、10分間音波処理した。この顔料を酢酸エチルでもう2回洗浄し、遠心分離し、デカントした。得られた顔料を夜通し風乾し、続いて、高真空下で24時間乾燥させた。バルク溶液中における遊離ポリマーをメタノール中において沈殿させ、真空下で乾燥させた。この溶液中の遊離ポリマーの分子量をGPCにより測定した。顔料に結合されたポリマーはTGAにより測定された。
【0095】
(2.1 チタニア上におけるLMAおよび1−ビニル−2−ピロリジノンの共重合)
250mL用の一口丸底フラスコに磁気攪拌棒、還流冷却器およびアルゴン/または窒素インレットを装備し、シリコーン油浴に入れた。このフラスコに60mLのトルエン、60gのチタニア(Z6030 coated Dupont R960)、51mLのメタクリル酸ラウリル(LMA)および3.3mLの1−ビニル−2−ピロリジノンを加えた。LMA/1−ビニル−2−ピロリジノンのモル比は、通常、85/15である。次いで、反応混合物を急速に攪拌し、フラスコをアルゴンまたは窒素で1時間パージした。この時間の間、シリコーン浴を50℃に加熱した。パージしている間、0.6gのAIBNを13mLのトルエン中に溶解または部分的に溶解した。1時間のパージが終了した後、ガラスピペットを用いてAIBN/トルエン溶液を迅速に加えた。この反応容器を密封し、65℃に加熱し、夜通し攪拌した。この粘性の反応混合物に100mLの酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物を更に10分間攪拌した。この混合物をプラスチック製のボトルに注ぎ、3600rpmで15〜20分間遠心分離し、デカントした。遠心分離された顔料に新鮮な酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物をステンレス鋼製のスパチュラで攪拌し、10分間音波処理した。この顔料を酢酸エチルでもう2回洗浄し、遠心分離し、デカントした。得られた顔料を夜通し風乾し、続いて、高真空下で24時間乾燥させた。バルク溶液中における遊離ポリマーをメタノール中において沈殿させ、真空下で乾燥させた。この溶液中の遊離ポリマーの分子量をGPCにより測定した。顔料に結合されたポリマーはTGAにより測定された。
【0096】
(3 LMA被覆白色顔料を用いる二段重合)
250mL用の一口丸底フラスコに磁気攪拌棒、還流冷却器およびアルゴン/または窒素インレットを装備し、シリコーン油浴に入れた。このフラスコに、乳鉢および乳棒を用いて細かな粉末に微粉化された60gのシラン被覆顔料を加え、続いて、60mLのメタクリル酸ラウリルおよび60mLのトルエンを加えた。次いで、反応混合物を急速に攪拌し、フラスコをアルゴンまたは窒素で1時間パージした。この時間の間、シリコーン浴を50℃に加熱した。パージしている間、0.6gのAIBNを13mLのトルエン中に溶解した。1時間のパージが終了した後、ガラスピペットを用いてAIBN/トルエン溶液を迅速に加えた。この反応容器を密封し、65℃に加熱し、夜通し攪拌した。重合の終了後、この粘性の反応混合物に100mLの酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物を更に10分間攪拌した。この混合物をプラスチック製のボトルに注ぎ、3600rpmで15〜20分間遠心分離し、デカントした。遠心分離された顔料に新鮮な酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物をステンレス鋼製のスパチュラで攪拌した。上述の手順に続き、この顔料を酢酸エチルでもう2回洗った。得られた顔料を夜通し風乾し、続いて、高真空下で24時間乾燥させた。バルク溶液中における遊離ポリマーをメタノール中において沈殿させ、真空下で乾燥させた。この溶液中の遊離ポリマーの分子量をGPCにより測定した。顔料に結合されたポリマーはTGAにより測定された。
【0097】
前述の手順においては、既に説明されている一段目の重合後に顔料表面に残存するエチレン基に及ぼすあらゆる可能な損傷を回避するため、上述で説明されている手順において使用された音波処理が省かれていることに留意すべきである。
【0098】
二段目の重合を果たすため、別の250mL用の一口丸底フラスコに磁気攪拌棒、還流冷却器およびアルゴン/または窒素インレットを装備し、シリコーン油浴に入れた。このフラスコに、上述のごとくにして調製され、乳鉢および乳棒を用いて細かな粉末に微粉化された50gのLMA被覆顔料を加え、続いて、85mLのトルエンおよび16gのスチレンを加えた。次いで、反応混合物を急速に攪拌し、フラスコをアルゴンまたは窒素で1時間パージした。この時間の間、シリコーン浴を50℃に加熱した。パージしている間、0.4gのAIBNを10mLのトルエン中に溶解した。1時間のパージが終了した後、ガラスピペットを用いてAIBN/トルエン溶液を迅速に加えた。この反応容器を密封し、65℃に加熱し、夜通し攪拌した。重合の終了後、この粘性の反応混合物に100mLの酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物を更に10分間攪拌した。この混合物をプラスチック製のボトルに注ぎ、3600rpmで15〜20分間遠心分離し、デカントした。遠心分離された顔料に新鮮な酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物をステンレス鋼製のスパチュラで攪拌し、10分間音波処理した。上述の手順に続き、この顔料を酢酸エチルでもう2回洗った。得られた顔料を夜通し風乾し、続いて、高真空下で24時間乾燥させた。バルク溶液中における遊離ポリマーをメタノール中において沈殿させ、真空下で乾燥させた。この溶液中の遊離ポリマーの分子量をGPCにより測定した。顔料に結合されたポリマーはTGAにより測定された。
【0099】
(4 コーティングされた亜クロム酸銅上における共重合)
250mL用の一口丸底フラスコに磁気攪拌棒、還流冷却器およびアルゴンインレットを装備し、シリコーン油浴に入れた。このフラスコに、上述の式(I)のシランでコーティングされ、乳鉢および乳棒を用いて細かな粉末に微粉化された60gの亜クロム酸銅(CuCr、Shepherd Black 1G)を加え、続いて、1.2mLのスチレン、57mLのメタクリル酸ラウリルおよび60mLのトルエンを加えた。次いで、反応混合物を急速に攪拌し、フラスコをアルゴンまたは窒素で1時間パージし、シリコーン浴を50℃に加熱した。パージしている間、0.6gのAIBNを13mLのトルエン中に溶解または部分的に溶解した。1時間のパージが終了した後、ガラスピペットを用いてAIBN/トルエン溶液を迅速に加えた。この反応容器を密封し、65℃に加熱し、夜通し攪拌した。この粘性の反応混合物に100mLの酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物を更に10分間攪拌した。この混合物をプラスチック製のボトルに注ぎ、3600rpmで15〜20分間遠心分離し、デカントした。遠心分離された顔料に新鮮な酢酸エチルを加え、結果として得られた混合物をステンレス鋼製のスパチュラで攪拌し、10分間音波処理した。この顔料を酢酸エチルでもう2回洗浄し、遠心分離し、デカントした。得られた顔料を夜通し風乾し、続いて、高真空下で24時間乾燥させた。バルク溶液中における遊離ポリマーをメタノール中において沈殿させ、真空下で乾燥させた。この溶液中の遊離ポリマーの分子量をGPCにより測定した。顔料に結合されたポリマーはTGAにより測定された。
【0100】
(対照内部相(電気泳動粒子プラス懸濁流体)の調製)
対照内部相を、(a)Isopar G中において重量で60%のLMA被覆チタニアを含む、J顔料の85gの保存溶液;(b)Isopar G中において重量で60%のLMA被覆亜クロム酸銅を含む、D顔料の42.5gの保存溶液;(c)Isopar G中において重量で10%のSolsperse 17000を含む10.71gの保存溶液;(d)31.03gのIsopar G;および(e)0.77gのSpan 85(非イオン性界面活性剤)から調合した。
【0101】
250ml用のプラスチック製ボトルにJおよびDの保存溶液を加え、続いて、Solsperse 17000溶液およびSpan 85を加え、最後に残りの溶媒を加えた。結果として得られた内部相を約5分間激しく振盪し、ロール製粉機に夜通し(少なくとも12時間)載せた。
【0102】
(本発明の白色顔料および従来技術の黒色顔料を用いる内部相の調製)
内部相を、(a)Isopar G中において重量で60%のLMA/TBMA被覆チタニア(モル比85/15)を含む、改変J顔料の40gの保存溶液;(b)Isopar G中において重量で60%のLMA被覆亜クロム酸銅を含む、D顔料の20gの保存溶液;(c)Isopar G中において重量で10%のSolsperse 17000を含む5.04gの保存溶液;(d)14.60gのIsopar G;および(e)0.36gのSpan 85(非イオン性界面活性剤)から調合した。
【0103】
この内部相を、上述で説明されている先述の内部相の場合と同じ仕方で混合および保存した。
【0104】
(従来技術の白色顔料および本発明の黒色顔料を用いる内部相の調製)
内部相を、(a)対照内部相の場合と同じJ顔料の40gの保存溶液(この保存溶液は、Isopar G中において重量で60%のLMA被覆チタニアを含んだ);(b)Isopar G中において重量で60%のLMA/St被覆亜クロム酸銅(85/15または95/5のモル比)を含む、D顔料の20gの保存溶液;(c)Isopar G中において重量で10%のSolsperse 17000を含む5.04gの保存溶液;(d)14.60gのIsopar G;および(e)0.36gのSpan 85(非イオン性界面活性剤)から調合した。
【0105】
この内部相を、上述で説明されている先述の内部相の場合と同じ仕方で混合および保存した。
【0106】
このようにして生成された内部相は、実質的に前述の第2002/0180687号のパラグラフ[0069]から[0074]で説明されているごときゼラチン/アカシアマイクロカプセル中に(別々に)カプセル化された。結果として得られたこれらのマイクロカプセルはサイズによって分けられ、約35μmの平均粒径を有するカプセルが以下の実験で使用された。これらのマイクロカプセルをポリウレタン結合剤と共に混ぜ合わせてスラリー状にし、一方の表面にインジウムスズ酸化物(ITO)を担持した7ミル(177μm)のポリ(テレフタル酸エチレン)(PET)フィルムの表面に18gm−2の乾燥被膜重量でロール・トゥー・ロールプロセスによりコーティングした(これらのマイクロカプセルは、実質的に前述の第2002/0180687号のパラグラフ[0075]および[0076]で説明されているようにして、上述のITO被覆表面に堆積された)。次いで、このカプセル担持フィルムを、剥離シート上に担持されたポリウレタンラミネーション接着剤の層に積層することによりフロントプレーン・ラミネートの形態に形成した(このラミネート加工は、両方のロールが120℃に維持されたWestern Magnum社のtwin rollLaminatorを用いて、6インチ/分(2.5mm/秒)の速度で65プサイ(0.51mPa)において果たされた)。これらの実験で使用するのに適した実験用の単一ピクセルディスプレーを提供するため、結果として得られたフロントプレーン・ラミネートの部片から剥離シートを取り除き、この後、単一ピクセルディスプレーの後側の電極として機能するカーボンブラック層で覆われた5cm×5cmのPETフィルムに75℃で積層させた。
【0107】
(画像安定性の測定)
このようにして製作された単一ピクセルディスプレーは、接地された後側の電極に対して相対的に上面(ITO層)に加えられた10Vの交番信号における500msecの方形波パルスを用いて切り替えられた。パルスとパルスの間の2秒の静止期間をスイッチの入れ替えのために使用した。画像の安定性は、ピクセルを適切な光学的状態(白色または黒色)へ切り替え、上面を接地し、光学的反射率を10分間連続的に測定することにより測定された。上述の結合剤およびラミネーション接着剤層における残留電圧に由来する光学的なキックバックは5〜10秒で減衰するものと仮定した。5秒間および10分間の間の光学的状態における差(L単位で測定)を画像安定性の測度として採用した。選定されたピクセルで以下の表2に示されている結果が得られた。
【0108】
【表2】

対照ピクセルは比較的良好な黒色状態における安定性を示すが、白色状態の安定性はかなり乏しい(黒色顔料として亜クロム酸銅の代わりにカーボンブラックを用い、懸濁流体中にPIBを伴わない同様なディスプレーは、白色状態と暗色状態のどちらにおいても、10〜15Lのもっとかなり悪い状態安定性を示す)。本発明の電気泳動顔料はどれも、白色状態もしくは黒色状態のいずれかにおいて、または両方の状態において、対照との比較における画像安定性の改善をもたらす。1つのケースにおいてのみ、本発明のピクセルの画像安定性が対照(J(TBMA15)/D(St5))よりも良好性に劣るが、ここで、この相違は、恐らく、実験的なピクセル−ピクセル間変動の範囲内である。最良の全体的な画像安定性は、第二モノマーとしてスチレンを使用する上述の二段法を用いて合成された白色顔料を伴って作られたディスプレーにより達成される。このディスプレーは、白色状態における良好な画像安定性および黒色状態における優れた画像安定性を有している。
【0109】
(応答時間)
表2に示されている電気泳動ディスプレーの応答時間は、10Vの動作電圧におけるパルス長の関数として電気光学応答を測定することにより測定された。すべての測定で2000msecの静止長を用いた。白色状態と暗色状態との間のLにおける差により測定したときの電気光学応答は、特定のパルス長で飽和し、それより長いパルス長では僅かに退化することが判明した。これらの対照サンプルは、表2における対照と同じ調合を有するピクセル、ならびに良好な画像安定性を達成する手段として重量で0.3%および0.9%の高分子量PIBを含有する同様なピクセルであった。表3は、電気光学応答が、表2のディスプレーに対して1秒のパルス長における値の90%を達成するパルス長を示している。
【0110】
【表3】

PIBを含有する対照サンプルは、本発明によるサンプルの場合よりも実質的に長い応答時間を有した。この系において適切な画像安定性を得るためには少なくとも0.3%のPIBが必要であり、0.9%のPIBが好適である。従って、本発明の方法は、対照サンプルよりも1.5倍から4倍速い応答時間を伴って、良好な画像安定性を達成する。
【0111】
(電圧閾値)
ポリマーシェル内における5モル%のTBMAを伴う白色顔料および15モル%のスチレンを伴う黒色顔料を用いた、上述で説明されているピクセルは、比較的良好な画像安定性に加え、大きな運転用閾値も示した。閾値電圧が図2に示されており、図2は、ピクセルのダイナミックレンジを数多くのパルス長に対する印可電圧の関数として示している。ダイナミックレンジは、印可電圧が4〜5ボルト未満の場合には、パルス長にかかわらず、非常に小さい(1Lのオーダー)が、600msecより大きく、10Vのインパルスにおいては、良好なダイナミックレンジ(30L以上)が呈示される。
【0112】
前述の説明から、本発明の非相溶性モノマー、粒子、媒質およびディスプレー、ならびに同種凝集媒質は、良好な画像安定性を提供し、更に、特には本発明が良好な画像安定性を達成するために応答時間を犠牲にしないため、懸濁流体中にポリマー添加物を含有する同様な媒質を上回る数多くの利点を有していることが分かるであろう。応答時間に関するこの利点は、ディスプレーをもっと低い電圧で運転するために利用することができる。表2に報じられている種々のディスプレーは7.5Vにおいて300msecで飽和状態へほとんど切り替わり、10Vおよび250〜300msecで最適なコントラスト比を達成する。15Vにおいては、約100msecの切り替え時間を達成することができる。
【0113】
(脂肪族重合プロセス)
既に述べられているように、前述の第WO 02/093246号および上述で説明されているグラフト重合工程は、脂肪族炭化水素、特にイソパラフィン溶媒中において実施できることが判明しており;この目的にとって好適な溶媒は、Exxson Mobil Corporation、Houston TXから販売されているIsopar Gである。このような脂肪族炭化水素は電気泳動媒質の懸濁流体として典型的に使用されるものと同じ材料であるため、この被覆顔料は、最終的なディスプレーに組み込まれるまで、グラフト重合工程から本質的に同じ環境のまま留まることができる。
【0114】
グラフト重合工程の終わりには、この脂肪族炭化水素溶媒は、過剰な重合開始剤、過剰なモノマーもしくはオリゴマー、および顔料粒子に付着されていない遊離ポリマーのうちのいずれか1つまたはそれ以上を含んでいる可能性がある。これらの材料は、媒質の電気光学特性および/または動作寿命に悪影響を及ぼし得るため、顔料粒子を最終的な電気泳動媒質に組み込む前に、顔料粒子から実質的に取り除く必要がある。従って、典型的には、なおも、グラフト重合溶媒からポリマー被覆顔料を例えば遠心分離により分離し、最後の極微量の前述の材料を除去すべく顔料粒子を洗うことが必要であろう。しかし、最後の極微量の炭化水素溶媒を除去すべくポリマー被覆顔料を乾燥させる必要はなく(従って、溶媒蒸気が関係する汚染防止に関する問題が排除される)、また、乾燥顔料を脂肪族ハロカーボン溶媒中に再分散させる必要もない;洗浄工程の終わりには、顔料は既に脂肪族炭化水素溶媒で濡れているため、最終的な電気泳動媒質において必要な大量の溶媒中における顔料の再分散は何ら困難を伴わないであろう。当然ながら、もし、この重合が、重合の完了後にグラフト重合溶媒中に存在する前述の材料のうちの少ない量のみを残すような方法で実施することができたならば、原理的には、ポリマー被覆顔料の分離および洗浄工程を除外することができよう。
【0115】
本発明による脂肪族炭化水素溶媒中において生成されたポリマー被覆顔料と従来技術のプロセスによりトルエン中において生成されたものとの間には何ら固有の明確な相違がないように思われるが、幾つかの実験は、脂肪族炭化水素溶媒中において生成された顔料の方が高いポリマー含量を有する傾向があることを示しているように思われる。
【0116】
もっと前の箇所で述べられているように、電気泳動媒質の懸濁流体は、通常、単独またはハロカーボンとの組合せにおける脂肪族炭化水素である。懸濁流体を脂肪族炭化水素およびハロカーボンの混合物にする必要がある場合には、洗浄後、脂肪族炭化水素で濡れている顔料を脂肪族炭化水素とハロカーボンの混合物中に再分散させることが難しくないため、目下のところ、グラフト重合を単独の脂肪族炭化水素中において実施することが好適である。しかし、我々は、グラフト重合自体が脂肪族炭化水素とハロカーボンの混合物中において実施され得る可能性を除外するものではない。
【0117】
複式粒子型の電気泳動媒質(例えば、白色のチタニア粒子とカーボンブラック粒子とを含む媒質)を調製するときには、本発明のプロセスは、これら2つのタイプの粒子に別々に適用することができる。しかし、2つのタイプの粒子に同様なポリマーコーティングを施すことが想定されている場合には、本発明は、まず、顔料上に重合可能な基を与えた後にこれら2つのタイプの顔料を混合し、次いで、この顔料混合物に対してグラフト重合工程を実施することもできる。従って、これら2つの顔料は、電気泳動媒質を形成するのに必要な残りの工程を共にめぐる。実際のところ、このプロセスからもたらされる混合型のポリマー被覆顔料は、残留不純物を除去するための洗浄後に更なる処理をほとんどまたは全く必要としない、顔料の保存溶液と見なすことができる。従って、本プロセスのこの変形態様は、原料の顔料を最終的な電気泳動媒質に変換するために実施することが必要な別の工程の数を更に減らすことができる。
【0118】
本発明のプロセスは、本プロセスにおいて使用される脂肪族炭化水素溶媒がトルエンおよびTHFよりも有害性が少ないため、従来技術のプロセスにかかわる安全上の問題を低減する。既に述べられているように、本プロセスは溶媒の使用を低減し、また、これまでの乾燥工程および顔料再分散工程を排除するため、電気泳動媒質を製造するための全体的なプロセスにおける工程の数も減らすことができ、これにより、分散処理時間を短縮し、恐らく、脂肪族炭化水素溶媒中における顔料の最終的な分散の全体的な質を高めることができる。
【0119】
本発明の別の態様は、電気泳動粒子が集塊を形成する傾向を低減するため、電気泳動媒質中における粒子の相対的なサイズおよび質量をコントロールすることに関係する。
【0120】
電気泳動媒質、特に複式粒子型の電気泳動媒質においては、粒子が凝集する傾向を示すことが知られている。この傾向は、2つのタイプの粒子が相反する極性の電荷を担持している複式粒子型電気泳動媒質の場合には、相反する電荷を担持したあらゆる粒子は共に引き付け合うという自然に存在する傾向があるため、特に問題になり得る。このような粒子の集塊形成はディスプレーのコントラストを低減させる;例えば、黒色および白色粒子が塊になり、ディスプレーの光学的状態を変えるべく電場が加えられたときに分離しないグレー粒子を形成した場合には、恐らく、ディスプレーの純粋な黒色または白色の光学的状態がこれらのグレーの集塊物で汚染され、これにより、コントラスト比が低減するであろう。更に、過酷で持続性の集塊形成は、遂には、ディスプレーが機能するのを妨げる可能性があり、これにより、このディスプレーの動作寿命が低減される。
【0121】
今や、複式粒子型電気泳動媒質における2つのタイプの粒子の相対運動を利用して集塊物を分解し、これにより、このような集塊物にかかわる問題を低減できることが判明している。電気泳動媒質中に、ある与えられた電場の下において一番目の種類の粒子とは反対の方向に移動する二番目の種類の粒子を導入することにより、互いを通じるこれら2つのタイプの粒子の運動が引き起こされ、粒子群を分解して引き離し、物理的手段による粒子の集塊形成の低減がもたらされるであろう。
【0122】
1つの好適な実施態様においては、電気泳動媒質は、相反する電荷を担持した第二のタイプの粒子の平均直径の約0.25倍から約4倍までの間の平均直径を有する少なくとも1つのタイプの粒子を含んでいる;望ましくは、これら2つのタイプの粒子間における平均粒子質量の比は約0.25から約4.00までの間である。
【0123】
また、1つの好適な実施態様においては、電気泳動媒質は、相反する極性の電荷を担持し、加えられた大きさFの電場の下でギャップ(G)の離間距離から、それぞれ:
V1+V2>f(F,G)
[式中、fは、この不等式が満たされたときに、粒子の集塊形成が低減または排除されるような関数である]となるような速度V1およびV2を達成することができる少なくとも2つのタイプの粒子を含んでいる。
【0124】
(電圧閾値型ディスプレー)
既に指示されているように、本発明は、電圧閾値を伴う電気光学媒質を使用する能動マトリックス型電気光学ディスプレーを提供する。このタイプの電気光学媒質の使用は、電気光学ディスプレーのバックプレーンにおける設計上の制約を低減する。
【0125】
1つの例として、5Vにおいて強い電圧閾値を呈する電気光学媒質について考察する。「強い電圧閾値」という用語は、パルスの長さがどれだけであるかにかかわらず、媒質が閾値未満の電圧では全く切り替わらないことを意味すべく使用される。閾値以上の電圧において、媒質は普通に切り替わる。このような媒質の使用は、データラインをピクセル電極に結合させることによりもたらされるデータスパイクの問題を軽減する(上述のパラグラフ42−52を参照のこと);ピクセルへの電圧スパイクの振幅が5V未満の場合、このような強い電圧閾値媒質は応答しないであろう。このようなディスプレーで使用されるピクセルストレージキャパシターは、電気光学媒質が遭遇する電圧スパイクを電圧閾値以下に保つことができるようなサイズにしさえすれば済み、これにより、電気光学媒質が電圧閾値を示さない従来技術の電気光学ディスプレーで必要となるキャパシターと比べ、ストレージキャパシターのサイズを実質的に小さくすることができよう。
【0126】
本発明は、強い電圧閾値を呈する電気光学媒質の使用に限定されるものではなく、「弱い電圧閾値」のみを有する電気光学媒質の使用にもおよび、ここで、「弱い電圧閾値」という用語は、本明細書においては、非常に長い期間にわたって加えられる閾値以下の電圧には応答するが、電気光学ディスプレーの運転において所定の短い時間に加えられるような電圧には応答しない媒質を表すべく使用される。例えば、前述の所定の重要な期間は、単一の走査フレーム(典型的には約20msec)または画像全体のアップデート(典型的には約1000msec)であり得よう。
【0127】
本発明は、電気光学媒質が強い電圧閾値または弱い電圧閾値を示すことを条件として、上述で検討されているあらゆるタイプの電気光学媒質を使用することができる。上述で説明されているごとき電圧閾値を有する非相溶性モノマータイプの電気光学媒質が一般的に好適である。
【0128】
本発明は、能動マトリックスアレイ、典型的には薄膜トランジスター(TFT)アレイに対する設計規則の緩和を可能にする。より詳細には、本発明は、単位ピクセル電極面積当たり、比較的小さなストレージキャパシターの使用を可能にし、これにより、印刷などの比較的低い解像度の技術を用いたTFTバックプレーンの製造が実現可能になる。更に、ストレージキャパシターのサイズを小さくすることにより、トランジスターのサイズも小さくすることができる。これら2つのコンポーネントのサイズを小さくすることは、結果としてラインキャパシタンスの実質的な低減をもたらし、これにより、バックプレーンでの電力消費量を低減することができる。従って、本発明の電気光学ディスプレーは、従来技術のアモルファスシリコーン構造を用いた通常の設計に比べて改善された性能を有するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−204671(P2010−204671A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84140(P2010−84140)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【分割の表示】特願2006−534365(P2006−534365)の分割
【原出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(500080214)イー インク コーポレイション (148)
【Fターム(参考)】