説明

電気炉スラグの利用方法

【課題】電気炉で発生したスラグを製鋼プロセスの中で有効に利用する方法を提供する。
【解決手段】転炉で溶銑の脱珪脱燐処理を行うに際し,造滓材の一部として電気炉スラグを転炉に装入することを特徴とする電気炉スラグの利用方法であり、また、該利用方法において、転炉に装入する電気炉スラグ量を,脱珪脱燐処理により発生するスラグ量に対する比率が5%以上30%未満となるように装入すること、さらに、また、電気炉スラグを、脱珪脱燐処理の開始から終了までの時間中の該開始後の70%以後から90%以前の間において転炉に装入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉酸化精錬にて発生するスラグを有効活用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼プロセスから排出されるスラグは一部で路盤材適用などの資源化が進められてはいるが,その使用範囲は、土壌環境基準などの制限があり、必ずしも十分ではなく,環境問題の観点からも発生スラグ量は極力削減することが望まれている。
【0003】
スラグ発生量の低減策としてはスラグのリサイクル使用があり,例えば特許文献1には転炉スラグにボーキサイト,鉄鉱石,マンガン鉱石などを加えて,塩基度,Al23濃度,T.Fe濃度及びMnO濃度を制御したうえで脱燐用フラックスとして用いる転炉スラグのリサイクル方法が提案されており,特許文献2では転炉スラグを高炉原料または焼結原料として用いる方法が開示されている。さらに,特許文献3においては脱燐スラグのリサイクル方法として,前回チャージにて使用したスラグの一部を容器内に残留させて,再度,スラグ生成量を減少させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3312536号公報
【特許文献2】特開平6−240316号公報
【特許文献3】特開2002−256325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,特許文献1における方法はボーキサイト,鉄鉱石,マンガン鉱石等を配合させるという別途の工程が必要となることに加え,これらの原料自体のコストがかかるなどの問題があり,特許文献2の方法ではリサイクル量に制限があり転炉スラグを全量リサイクルすることが困難であるなどの問題があった。さらに,特許文献3の方法ではリサイクルされるスラグ自体が溶銑脱燐スラグであるため処理温度が低く,リサイクル処理を行っても十分なスラグ滓化が達成されず,脱燐効率が不安定であるなどの問題があった。
【0006】
電気炉で発生するスラグについても、十分に利用できる技術が確立されていなかった。
【0007】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたもので,電気炉スラグを製鋼プロセスの中で利用可能とする方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,種々の実験・調査を行うことにより、電気炉酸化精錬にて生成滓化したスラグを脱燐などの転炉吹錬にて利用することで転炉での脱燐効率を向上させること、及び脱燐処理に要する生石灰などのフラックス原単位を減少させることが可能であることを知見した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであり,その要旨は以下に示す通りである。
(1)転炉で溶銑の脱珪脱燐処理を行うに際し,造滓材の一部として電気炉スラグを転炉に装入することを特徴とする電気炉スラグの利用方法。
(2)転炉に装入する電気炉スラグ量を,脱珪脱燐処理により発生するスラグ量に対する比率が5%以上30%未満となるように装入することを特徴とする上記(1)記載の電気炉スラグの利用方法。
(3)電気炉スラグを、脱珪脱燐処理の開始から終了までの時間中の該開始後の70%以後から90%以前の間において転炉に装入することを特徴とする上記(1)または(2)記載の電気炉スラグの利用方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,電気炉スラグを転炉精錬に利用することにより、転炉において、少量の生石灰原単位により効率的な脱硅脱燐精錬を可能とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電気炉スラグを転炉における脱硅脱燐処理に利用した時の該処理により発生したスラグ量に対する電気炉スラグの添加比率と必要CaO原単位比との関係を示した図である。
【図2】電気炉スラグを転炉に添加して脱硅脱燐処理を行った際の該処理により発生したスラグ量に対する電気炉スラグ量の添加比率と脱燐率の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0013】
溶銑の脱珪脱燐処理は、溶銑を転炉に装入する前の高炉鋳床での脱珪処理やトーピードカー内での脱珪脱燐処理の他、近年では、前掲の特許文献3で開示されているように、転炉内で脱珪脱燐処理が行われるようになって来ている。
【0014】
本発明は、転炉内での溶銑の脱珪脱燐処理を対象とするものであり、通常、脱炭処理時より弱い酸素吹錬を行うと共に、造滓材が添加される。
【0015】
本発明において、脱珪脱燐処理の開始とは、転炉に溶銑を装入した後、脱珪脱燐処理のための上記の酸素吹錬を開始したときを言い、該処理の終了とは、前記酸素吹錬を終了したときを言う。
【0016】
電気炉においては、通常、スクラップ溶解及び脱燐などの酸化精錬を行って溶鋼を出鋼し,その後、専用の受け皿(スラグパン)上にスラグの排出を行う(出滓処理)。
【0017】
本発明の転炉精錬で利用する電気炉スラグは、スラグパンに排出されたスラグを冷却後,破砕機にて転炉装入が可能な適度な寸法に破砕し,及び地金除去を行い,その後スラグに付着した水分除去を目的とした乾燥処理を実施する。なおここで破砕するスラグの適度な寸法としては,1mm径以上50mm径未満であることが好ましい。これは,1mm径以下の微細粒では転炉炉上から添加を行う際に飛散分が増えることなどによって電気炉スラグの添加歩留の低下が顕著となってしまうためであり,逆に50mm径を超える粗粒では炉内添加後に電気炉スラグ自体の溶解に長時間を要し,滓化材としての機能が十分に発揮されないためである。
【0018】
本発明では、破砕,乾燥した電気炉スラグを転炉炉上に搬送し,該転炉内に溶銑を装入した後、生石灰等の造滓材を添加し塩基度などの成分調整を行うことで脱硅脱燐処理の吹酸精錬を行うに際し,炉上に搬送した電気炉スラグを造滓材として、上記生石灰等の造滓材に加えて転炉に装入する。
【0019】
この際,転炉に装入する電気炉スラグ量を,転炉での脱珪脱燐処理にて発生するスラグ量の5%以上30%未満とすることにより、脱硅脱燐処理において極めて効率的な脱燐処理を行うことが可能となる。ここで,脱珪脱燐処理にて発生するスラグ量は、溶銑[Si]濃度及び設定塩基度により以下の手法にて計算することが可能である。まず,溶銑中の[Si]濃度によりスラグとして生成するSiO2量が必然的に決定し,該脱珪脱燐処理に適切な塩基度(CaO/SiO2)設定値よりCaO量が決定される。スラグ全体に占めるCaO,SiO2の比率は経験的に約75%となるこことが一般的に知られており,これにより該脱珪脱燐処理により発生する全スラグ量が、ほぼ予測できるが、事前の操業試験により、溶銑[Si]濃度、目標とする塩基度とするための生石灰等の造滓材量、および本発明で装入する電気炉スラグ量と、実際に発生した全スラグ量との関係を調査して、全スラグ量を予測する式を求めておくことにより、より精度の高い予測が可能である。実際の全スラグ量は、脱珪脱燐処理後にスラグを転炉からスラグパンに排出して秤量することにより把握できる。
【0020】
溶銑脱燐処理における脱燐効率はスラグの滓化性に大きく依存する。電気炉精錬により発生するスラグの主組成は,溶製する鋼種やスクラップ等の原料及び操業条件などにより異なる場合があるが,普通鋼溶製の場合ではスクラップ溶解のための通電や高炉溶銑を併用した際の脱燐負荷などの観点から,(%CaO)=40〜45質量%,(%SiO2)=15〜20質量%,(%T.Fe)=15〜25質量%,(%Al23)=3〜6質量%,(%MnO)=4〜8質量%,(%P25)=1〜2質量%,(%MgO)=3〜8質量%,(%Cr23)≦3質量%などの範囲であることが多いが転炉精錬に比べ在炉時間が長く,かつ最終的には1600℃〜1700℃の高温処理となるため極めて滓化性が良く,遊離石灰分(f.CaO)が2質量%以下のスラグとなる。
【0021】
本発明者らはこの滓化性の良い電気炉スラグを転炉での脱硅脱燐処理時の造滓材として活用することで,別に添加するCaOの滓化性も向上し,かつCaO原単位を低減させるとともに効率的な脱燐処理を行うことが可能であることを見出した。
【0022】
すなわち,電気炉精錬により発生したスラグを転炉での脱硅脱燐吹錬に利用することで,脱燐造滓材として使用するCaOの一部を置換代替することでCaO原単位の削減を可能とするとともに,滓化性の良好な電気炉スラグを滓化促進材としての活用が可能となる。
【0023】
図1は、一例として,(%CaO)=43質量%,(%SiO2)=17質量%(CaO/SiO2=2.5),(%T.Fe)=15質量%,(%Al23)=5質量%,(%MnO)=6質量%,(%P25)=1.8質量%,(%MgO)=6質量%,(%Cr23)=2質量%の組成の電気炉スラグを利用し,[%P]=0.100%,[Si]=0.35%を含有した溶銑をCaO/SiO2=2.0のスラグ組成にて脱硅脱燐吹錬を実施した場合の脱硅脱燐処理により発生したスラグ量に対する電気炉スラグの添加比率と必要CaO原単位比を示した図である。必要CaO原単位比は、電気炉スラグを利用しなかったときの必要CaO原単位を1として示したものである。
【0024】
図1が示すように、電気炉スラグ添加比率の上昇にともなってCaO原単位比率は低下し,電気炉スラグ比率を40%とすることで,電気炉スラグを使用しない場合(全量CaO使用)に比べ約1割のCaO原単位の削減が可能となる。
【0025】
図2は、図1と同一の条件にて電気炉スラグを転炉での脱硅脱燐処理に利用した際の該処理により発生したスラグ量に対する電気炉スラグの添加比率と脱燐率の関係を示した図である。
【0026】
図2が示すように、電気炉スラグ比率5%未満では,全量CaOを用いて脱燐処理を行った場合に比べ脱燐率の向上は認められない。これは添加する電気炉スラグ量が少なくCaO滓化促進の効果が不十分であるためである。逆に電気炉スラグ比率が30%を越えると脱燐率の低下が見られるが,これは電気炉スラグ添加によるスラグ量自体の増加に起因して攪拌が不十分となることや電気炉スラグ中に含まれるP25に起因してスラグ中のP25の物質移動が阻害されるためである。
【0027】
さらに電気炉スラグ比率が30%を超えるような場合では,脱燐処理時のスラグ量自体が膨大となってしまうため,脱燐処理時のスロッピング発生頻度が増えるなどの操業性の悪化起因となる場合がある。
【0028】
ここで,脱燐率とは処理前[P]濃度に対して,処理後に溶銑から除去された[P]濃度との割合を示す指標で,下記(1)式で表される。
脱燐率(%)={(処理前[%P]−処理後[%P])/処理前[%P]}×100 ・・・(1)
【0029】
したがって,脱燐処理時に添加する電気炉スラグ量の比率としては,5%〜30%の範囲が望ましい。
【0030】
電気炉スラグを転炉に投入するタイミングとしては,脱硅脱燐処理の開始から終了までの時間において該処理開始後の70%〜90%の時期とすることが望ましい。これは,電気炉スラグの添加量が適正範囲であっても、脱硅脱燐処理の吹錬期間初期から中期(0%〜70%)にかけて電気炉スラグを添加すると,スラグ滓化の良好な期間が長時間となりスロッピングなどの操業阻害を招くため操業の安定化のためには多量のフォーミング鎮静剤を投入する必要が生じるためであり,逆に吹錬が90%以上経過した末期の段階での添加では,終了までの時間が短すぎるため滓化不良を引き起こし,結果として脱燐効率の悪化を招くためである。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を実施例によって説明する。
【0032】
電気炉にて溶解・酸化精錬を行い出滓した,(%CaO)=43質量%,(%SiO2)=17質量%(CaO/SiO2=2.5),(%T.Fe)=15質量%,(%Al23)=5質量%,(%MnO)=6質量%,(%P25)=1.8質量%,(%MgO)=6質量%,(%Cr23)=2質量%の組成を有し、f.CaO=1.4質量%を含有する電気炉スラグを破砕し,乾燥後に転炉炉上に搬送し,転炉にての脱珪脱燐処理時に利用した。破砕後の電気炉スラグの平均粒径は30mm程度であった。
【0033】
転炉での脱珪脱隣処理については、転炉への溶銑装入量が280トン、装入溶銑中のC濃度は4.5質量%程度、Si濃度は0.4質量%程度であり、脱珪脱隣処理終了時の溶銑中のC濃度は3.9質量%程度、Si濃度は0.01質量%以下であった。
【0034】
脱珪脱燐処理により発生したスラグ量については、脱珪脱燐処理後にスラグを転炉からスラグパンに排出して秤量した。添加した電気炉スラグ量を発生スラグ量で除することにより、電気炉スラグ添加比率(%)を算出した。
【0035】
その結果を表1の発明例1〜8に示す。CaO原単位指数とは、比較例9のCaO原単位を1として相対的に表示したCaO原単位を意味する。ちなみに、比較例9のCaO原単位は17kg/tonであった。いずれも電気炉スラグの利用によりCaO原単位を削減しつつ高い脱燐効率を示す結果が得られており,スロッピングなどの操業性の悪化を引き起こすことなく、安定した操業が達成されている。
【0036】
【表1】

【0037】
これに対し,比較例9は電気炉スラグの利用を全く行わず全量CaOによる脱燐処理を行ったものであるが,CaO原単位の削減が達成されないことに加え、スラグ滓化が不十分であることに起因して脱燐効率が向上せず低燐鋼の溶製が困難であるという結果となっている。また,比較例10においては電気炉スラグの添加比率が低いことに起因して脱燐処理時のスラグ滓化が不十分となり結果的に脱燐効率が悪く,低燐鋼の安定溶製が困難となっている。比較例11は電気炉スラグの添加比率が高く、CaO原単位の削減は十分ではあるものの,スラグ量自体の増加に起因して攪拌が不十分となることに起因して脱燐効率の低下が見られている。さらに比較例12では,電気炉スラグの添加比率は適正であるものの,添加タイミングが早すぎるため吹錬中スラグのフォーミング期間が長く,結果的にスロッピングを引き起こし操業性を阻害する結果となっている。また,比較例13においては,逆に電気炉スラグの添加タイミングが遅れ十分なスラグ滓化の時間が確保できないためにスラグ滓化が不十分となり脱燐効率の悪化を引き起こす結果となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉で溶銑の脱珪脱燐処理を行うに際し,造滓材の一部として電気炉スラグを転炉に装入することを特徴とする電気炉スラグの利用方法。
【請求項2】
転炉に装入する電気炉スラグ量を,脱珪脱燐処理により発生するスラグ量に対する比率が5%以上30%未満となるように装入することを特徴とする請求項1記載の電気炉スラグの利用方法。
【請求項3】
電気炉スラグを,脱珪脱燐処理の開始から終了までの時間中の該開始後の70%以後から90%以前の間において転炉に装入することを特徴とする請求項1または2記載の電気炉スラグの利用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215969(P2010−215969A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64610(P2009−64610)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】