電気的雑音フィルタ及び電気的雑音除去方法
【課題】 高い周波数の電気的雑音を効果的に減衰させる大電流容量、高耐電圧の大電力用雑音フィルタを提供する。
【解決手段】 主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線が遅延時間が異なる長さで、かつ異なる特性インピーダンスを持つ部分から構成されてなることを特徴とする電気的雑音フィルタを用いる。また、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらにそれらの遅延時間が同一でないことを特徴とする。
【解決手段】 主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線が遅延時間が異なる長さで、かつ異なる特性インピーダンスを持つ部分から構成されてなることを特徴とする電気的雑音フィルタを用いる。また、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらにそれらの遅延時間が同一でないことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、電子装置や放電を伴う電気機器など電気的雑音を発生する装置から外部へ延展される電線の少なくとも一部に電気的雑音を除去する機能を付与し、前記装置や機器からの電気的雑音電力、若しくは電気的雑音電波が外部へ伝播するのを防止する電気的雑音フィルタ及び電気的雑音除去方法に関し、特に高電圧、大電流の配電系統に好適な電気的雑音フィルタ及び電気的雑音除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気的雑音フィルタは、個別のコイルやトランスなどの誘導素子、又は個別のコンデンサといった静電容量素子、あるいはこれら個別の誘導素子と静電容量素子とを組み合わせて、若しくは電線の周囲に環装した磁性体よる誘導素子で構成されてきた。しかし、コイルやトランスなどといった個別の誘導素子は、空芯、磁芯の別はあってもいずれも電気巻線であり、前記電気巻線間に寄生するキャパシタンスと前記誘導素子のインダクタンスとで共振回路が構成され、またコンデンサといった個別の静電容量素子も、静電容量素子の電極を外部の電気回路に接続するための引き出し線に寄生するインダクタンスと前記静電容量素子のキャパシタンスとで共振回路が構成されるため個別の誘導素子、あるいは静電容量素子で構成された電気的雑音フィルタの効果は、前記共振周波数近傍を上限とする周波数領域に限られるという難点があった。
特に、高電圧、大電流の電力線に挿入する大電力用雑音フィルタに使用する誘導素子は、大電流を流すために太い導線を使用しなければならないため前記巻線間のキャパシタンスが大きくなり誘導素子の共振周波数が低下する。また、静電容量素子も大きな耐電圧を実現するためには電極間に配置される誘電体の厚みを増さなければならず、また同一キャパシタンスを得るには電極面積を増さなければならない。したがって、静電容量素子は、耐電圧の2乗にほぼ比例して体積が増加する。体積の大きな静電容量素子は、より長い引出し線を必要とし、引出し線のインダクタンスの増加によって静電容量素子の共振周波数は低下する。
上記のように個別の誘導素子、静電容量素子によって高い周波数の電気的雑音を減衰させる大電流容量、高耐電圧の大電力用雑音フィルタの実現は困難であった。
さらに、電線の周囲に磁性材料を設ける形の雑音フィルタも該磁性材料の透磁率が数MHzから低下し始め、数GHzで1近くまで減少する。このため高い周波数の電気的雑音に対しては効果が低下するという欠点を有していた。
【0003】
一方、インダクタンスの小さな誘導素子及びキャパシタンスの小さな静電容量素子を用いれば、高い周波数までフィルタを動作させることができる。しかし、電気的雑音の減衰量を確保するためには、このような誘導素子や静電容量素子による回路を多数直列接続しなければならない。例えば1箇所に集中して設けた誘導素子及び静電容量素子を10箇所に分散配置するとして、それぞれの誘電素子のインダクタンスを集中時の1/10に、またそれぞれの静電容量素子のキャパシタンスを集中時の1/10にした電気回路を10個直列接続すると、その電気回路の合計インダクタンスとキャパシタンスは、集中配置したときと同一である。しかし、このような電気回路は、いわゆるLC分布定数回路であって、伝送信号の位相の遅れは生ずるが、電圧・電流の振幅は変化しない無損失遅延回路となる。したがって、インダクタンスが小さな誘導素子とキャパシタンスが小さな静電容量素子をそれぞれ多数の均等に配置した電気回路は、雑音フィルタとしての作用をなさない。
【0004】
従来、無損失遅延線を用いて特定機能の電気的波形フィルタを構成しうることは例えば非特許文献1{Herbert J. Carlin, “Distributed Circuit Design With Transmission Line Elements”, Proceedings of the IEEE, Vol.59, No.7, pp1059-1081, July 1971}及び非特許文献2{R.S.Withers and P.V.Wright, “SUPERCONDUCTIVE TAPPED DELAY LINES FOR LOW-INSERTION-LOSS WIDEBAND ANALOG SIGNAL-PROCESSING FILTERS”, IEEE, CH1957-0/83/0000 0081 1983}により知られている。しかし、これらは遅延時間が等しく、かつ特性インピーダンスが異なる複数の区間によって構成された伝送線を用いたものである。このため伝達特性は周期的な特定周波数で減衰量がゼロとなるいわゆる櫛型フィルタ特性となる。櫛型フィルタは特定周期のパルスを減衰なく通過させるため電気的雑音フィルタには適さないことは明らかである。特許文献1にも、波長と伝送線長さの関係についての記載があるが、各インピーダンス要素の遅延時間長さを違えることについては述べられていない。遅延時間が同一であれば定在波が生じる周波数が存在し、この周波数の雑音を通過させる虞れがある。
【非特許文献1】Herbert J. Carlin, “Distributed Circuit Design With Transmission Line Elements”, Proceedings of the IEEE, Vol.59, No.7, pp1059-1081, July 1971
【非特許文献2】R.S.Withers and P.V.Wright, “SUPERCONDUCTIVE TAPPED DELAY LINES FOR LOW-INSERTION-LOSS WIDEBAND ANALOG SIGNAL-PROCESSING FILTERS”, IEEE, CH1957-0/83/0000 0081 1983
【特許文献1】特開2004−015706
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術に鑑み、高い周波数の電気的雑音を効果的に減衰させる大電流容量、高耐電圧の大電力用雑音フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を下記の手段により解決した。
(1)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線が遅延時間が異なる長さで、かつ異なる特性インピーダンスを持つ部分から構成されてなることを特徴とする電気的雑音フィルタ。(2)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらにそれらの少なくとも一つは遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【0007】
(3)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらに特性インピーダンスが大きい部分あるいは特性インピーダンスが小さい部分の少なくともどちらかは、遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。(4)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より誘電率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【0008】
(5)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より透磁率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(6)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体が他の部分より誘電率の大きな材料で構成された複数の区間と他の部分より透磁率の大きな材料で構成された複数の区間を有することを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(7)上記特性インピーダンスが小さな部分が主導体に誘電率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする前記(2)記載の電気的雑音フィルタ。
(8)上記特性インピーダンスが大きな部分が主導体に透磁率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする前記(2)記載の電気的雑音フィルタ。
(9)前記(2)2もしくは(3)に記載する特性インピーダンスが大きい部分において、副導体の主導体に対向する面積を小さく成したことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(10)前記(7)において有機絶縁体に高誘電率無機絶縁材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(11)前記(8)において有機絶縁体に高透磁率材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(12)前記(10)もしくは前記(11)において熱収縮性有機絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(13)前記(1)乃至(12)のいずれかに記載する電気的雑音フィルタにおいて複数の細線により構成された主導体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(14)雑音を含む電力源から負荷まで延展する単相又は多相の電力伝送線、若しくは前記電力源に電力を与える単相又は多相の配電線の少なくとも一部を、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
(15)信号源から信号受信部まで延展する信号線の少なくとも一部を、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
【発明の効果】
【0009】
前記(1)〜(13)の電気的雑音フィルタは、たとえば、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線の中間部分に特性インピーダンスと遅延時間長さが異なる部分を設け、特性インピーダンスが変化する部分において電気的雑音を強制的に反射させることにより入力端から出力端までの電気的雑音の伝達を防止するとともに、前記伝送線の主導体周囲を副導体で覆う構造のため伝送線から外部空間に対する電磁波の輻射を防止することが出来る。また、遅延時間長さを相異することにより、幅広い周波数範囲に亘る電気的雑音を除去し得る。このため、比較的簡便な構成で、数MHz以上の高周波領域の電気的雑音を減衰できる。また、主導体の断面積を大きく選ぶことが出来、さらに、絶縁体の厚みを適切に選択することにより数百アンペア、数千ボルトという大電力容量の電気的雑音フィルタを容易に実現できる。さらに、直線形状に構成した本発明の電気的雑音フィルタは、既設設備の配電線あるいは信号線と容易に交換でき、電力配電系そのものを電気的雑音フィルタと成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態及び作用について、実施例の構成図、等価回路図、並びに解析結果のグラフを用いて説明する。なお図1から図10までは主として本発明の基本的な構成とその作用原理、具体例を説明、解析するための図であり、図11は本発明の電気的雑音フィルタによる電気的雑音防止方法に関する図である。
【0011】
図1は本発明による電気的雑音フィルタの実施例の一部を示す斜視図、図2は図1に示す電気的雑音フィルタ実施例のA−A’部分の断面図、図3は図1に示す電気的雑音フィルタ実施例の等価回路図、図4は図3の等価回路の電子回路解析ブログラムによる計算結果としての伝達特性である。図5は図4の計算結果である伝達特性の周波数軸を拡張して示した図である。図6は本発明の原理を説明する摸式図、図7、図8は曲げに対する柔軟性を高める改善をなした実施例断面図である。
【0012】
さらにまた図9は本発明の電気的雑音フィルタを使用した雑音除去方法の回路構成例を示す図である。実施例の斜視図、断面図において1は主導体、2は副導体、11、13、15は高耐電圧の絶縁体である。12は高透磁率を持つ絶縁体、14は高誘電率を持つ絶縁体である。さらに本発明実施例を使用した雑音除去方法の回路構成例を示す図11において、40は雑音源、41は負荷、42a、42bは電力線あるいは信号伝送線、43a、43b、43c、43dは本発明の電気的雑音フィルタである。
【0013】
本発明による電気的雑音フィルタの第1の基木的構造例は、図2の断面図に見られるように主導体1の周りに絶縁体11、12、13、14,15を介して副導体2が同軸状に被覆され、かつそれらの絶縁体の外径、長さ、誘電率、あるいは透磁率の異なる部分を設け、伝送線路としての特性インピーダンスおよび電磁波(電圧波、電流波)に対する伝播遅延時間の異なる伝送線TL1,TL2、TL3、TL4、TL5を直列に接続したものである。
【0014】
図1、図2に示した実施例の動作を図3、図4、図5および図6に基づいて説明する。図3に示した等価回路において、前記伝送線TL1,TL2、TL3、TL4、TL5の各特性インピーダンスZcをそれぞれ3.5Ω、33.5Ω、3.5Ω、33.5Ω、および18.7Ωとし、TL1、TL2、TL3、TL4の遅延時間τを50ns(ナノ秒、以下同じ)、TL5の遅延時間τを100nsとした均等遅延時間のモデルおよびそれぞれの伝送線の遅延時間τをそれぞれTL1:63ns、TL2:37ns、TL3:57ns、TL4:43ns、TL5:100nsとした不均等遅延時間モデルを用意し、100kHzから100MHzまでの周波数領域の伝達特性を、オラクル杜製電子回路解析プログラムにより計算した。計算結果を図4に示す。また、図4の結果のうち10MHzから100MHzまでの範囲を拡大した結果を図5に示す。
【0015】
伝送線内を伝播する電圧波および電流波は伝送線の特性インピーダンスZcが変化する境界において反射する。伝送線TL1、TL2、TL3、TL4内の伝播遅延時間が均一の場合、定在波が生じ、電圧波あるいは電流波の周期tの1/2の整数倍と前記遅延時間が一致する周波数で伝達量が1すなわち0dBとなる。この現象を図6を用いて更に説明する。図6(a)は高特性インピーダンスの伝送線TL3a、TL3b、TL3cおよびTL3dと低特性インピーダンスの伝送線TL4a、TL4b、TL4cおよびTL4dの遅延時間が全て等しいτ1であるとき、2×τ1を周期とする、すなわち周波数f0=1/(2×τ1)の定在波1が上記伝送線群に生じる。また、図6(a)に示していないが、f0の整数倍の周波数においても定在波が生ずる。定在波は極めて小さな入力で生ずるので伝送線路群の一方の端子に与えられた電圧は減衰せずに他方の端子に現れる。従って周波数f0、2f0、3f0などの周波数を持つ電圧は伝達量が1.0倍(0dB)となる。これに対して図6(b)に示すように遅延時間がτ1である高特性インピーダンスの伝送線TL3a、TL3bおよびTL3cと低特性インピーダンスの伝送線TL4a、TL4bおよびTL4cの伝送線に異なる遅延時間τ2を持つ高特性インピーダンスの伝送線TL5と低特性インピーダンスの伝送線TL6が接続されている場合、後2者の伝送線路に生ずる定在波2の周波数f1はf1=1/(2×τ2)となる。定在波1は伝送線TL5とTL6内で減衰を受け、また、定在波2は伝送線TL4a、TL4bおよびTL4cと伝送線TL4a、TL4bおよびTL4cによって減衰を受ける。従って、伝送線群の遅延時間τ1とτ2を適切に選べば全ての周波数において電圧を減衰させることが出来る。
【0016】
図3に示す解析モデルの場合、信号源抵抗R1と負荷抵抗R2をいずれも伝送線TL5の特性インピーダンスに等しく18Ωに選んでいるためTL1〜TL5による減衰が生じない場合は1/2、すなわち−6dBとなる。伝送線TL1、TL2、TL3、TL4内の伝播遅延時間が均一の場合の計算結果は図4および図5の破線で示すように10MHz、20MHz、30MHzなどの10MHzの周期で伝達量が−6dBとなり明らかに櫛型フィルタ特性を示している。これに対して前記のようにTL1〜TL4の遅延時間を不均等にした場合の計算結果は図4および図5の実線に示すように周期的に表れる伝達量のピーク値が低下していることが明らかである。フィルタとしての動作が生じる2MHz以上の周波数範囲について以下に定量的に比較する。遅延時間が均等の場合、伝達量の最大値が10MHzの整数倍の周波数において−6.0〜−6.3dBであるのに対して、遅延時間が不均等の場合、8.5MHzにおいて−9.9dB、54MHzにおいて−13.4dBとなり、少なくとも3.6dBないし7.1dBの改善効果が認められる。
ただし、今回の計算モデルでは高周波における誘電体材料の誘電体損失、磁性体材料のヒステリシス損失および渦電流損失を考慮に入れていない。実際の電気的雑音フィルタの場合これら影響を受ける。特に、磁性材料は100MHz以上の周波数に対して透磁率の虚数項が占める比率が増加し損失が増加する。従って、100MHz以上の周波数では図4、図5に示す以上の伝達量低下が生ずる。
【0017】
上記の結果よりそれぞれ遅延時間が異なる複数の特性インピーダンスが大きい部分と複数の特性インピーダンスが小さい部分を交互に配列することにより電気的雑音を低減できることが明らかである。
【0018】
今回計算したモデルは2個の特性インピーダンスが高い部分と2個の特性インピーダンスが低い部分および、1個の通常の特性インピーダンスの部分からなる伝送線から構成されたものである。特性インピーダンスが高い部分と特性インピーダンスが低い部分の個数を増せば最大伝達量を更に低減でき、電気的雑音を更に低減できることは明らかである。
【0019】
一方、主導体は大電流を安全に流すために最大電流値に応じた断面積を持たせる必要がある。この断面積は大電力分野の技術者に周知のごとくおよそ2Aあたり1平方ミリメートルである。例えば300Aの最大電流許容量が要求される場合、主導体の断面積は150平方ミリメートルに選ばなければならない。多数の細線を撚った複芯線の場合空隙が含まれるため見かけの断面積は約1.5倍に選ばなければならない。
次に、例えば主導体1と副導体2の間で例えば2000V(ボルト、以下同じ)の電気的絶縁耐圧を満たすために絶縁体に要求される事項を説明する。一般に不純物が少ないポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、シリコーン、フッ化炭素樹脂などの有機樹脂は厚さ0.1ミリメートルごとに2万〜4万Vの耐圧を示す。特に、前記ポリイミド樹脂フィルムは、理想状態では厚さ20μm当たり1万Vの耐圧を持つ材料であり、実用上でも耐電圧2000Vの要求は厚さ50μmのフィルムで満たすことが出来る。絶縁体11および15は機械的な磨耗などを考慮に入れ、厚さに余裕を持たせる必要があるが2〜4ミリメートル程度の管状材料を用いれば安定な絶縁特性を得ることが出来る。
【0020】
高透磁率絶縁体12は前記、有機樹脂材料に微細な磁性体粉末を混合して実現する。実効的な透磁率は磁性体粉末の混合率によって左右されるが、主導体電流が発生する磁界によって磁性体粉末が磁気的に飽和する現象を防止するため実効的な比透磁率を30〜100程度以下に選ばなければならない。この値は容易に実現できる範囲である。
しかし、磁性体粉末は前記有機樹脂材料と比較して抵抗率が6桁以上小さいため高透磁率絶縁体12は例えば2000Vの電圧に対して絶縁耐圧を満たせない。このため主導体1と高透磁率絶縁体12の間に高耐電圧の絶縁体13を介在させ、主導体1と副導体2の間の電気的絶縁耐圧を確保している。この絶縁体13の厚さは機械的な磨耗に対して高透磁率絶縁体12によって保護されるため0.1〜0.2ミリメートルあれば十分である。
特性インピーダンスは主導体と副導体間の静電容量を低減することによっても大きくなすことができる。従って絶縁体12の外径を大きくなす、あるいは副導体の主導体に対向する面積を小さくなしても伝送線路の特性インピーダンスを大きくなしうることは明らかである。
【0021】
高誘電率絶縁体14は前記有機樹脂材料にチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウムなどの高誘電率セラミック粉末を混合したものである。これらの高誘電率セラミック粉末自身は抵抗率が高いため厚さが0.1〜0.2ミリメートルの高誘電率絶縁体14は単独で主導体1と副導体2の間の電気的絶縁耐圧を確保できる。
【0022】
次に、各部分の長さについて説明する。主導体1の外半径を8.5ミリメートル、絶縁体11、14および15の内半径を8.5ミリメートル、外半径を12.5ミリメートル、絶縁体12の内半径を8.7ミリメートル、外半径を12.5ミリメートル、絶縁体13の内半径を8.5ミリメートル、外半径を8.7ミリメートルとする。比誘電率は絶縁体11、13および15が3.5、絶縁体12が7、絶縁体14が100とする。比透磁率は絶縁体11,13,14、および15が1.0、絶縁体12が10であるとする。このとき、伝送線TL1、TL3の1メートル当たりのインダクタンスL1、L3および1メートル当たりのキャパシタンスC1、C3は次の値であった。
L1,L3:0.93μH/メートル (μH:マイクロヘンリー、以下同じ)
C1,C3:824pF/メートル (pF:ピコファラッド、以下同じ)
【0023】
また、伝送線TL2、TL4の1メートル当たりのインダクタンスL2、L4および1メートル当たりのキャパシタンスC2、C4は次の値であった。
L2,L4:0.14μH/メートル、
C2、C4:11800pF/メートル
【0024】
また、伝送線TL5の1メートル当たりのインダクタンスL5および1メートル当たりのキャパシタンスC5は次の値であった。
L5:0.14μH/メートル、
C5:413pF/メートル
【0025】
上記値よりそれぞれの特性インピーダンスZ1〜Z5と1メートル当たりの遅延時間τ1〜τ5は次式より求まる。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
数式1および2より求めた伝送線TL1、〜TL5の特性インピーダンスZ1〜Z5および1メートル当たりの遅延時間τ1〜τ5は次の値となる。
Z1、Z3:34Ω
Z2、Z4:3.5Ω
Z5 :18Ω
【0029】
また、遅延時間は、
τ1、τ3:27.7ns/メートル、
τ2、τ4:41.2ns/メートル、
τ5 :7.7ns/メートル
【0030】
前記の計算に適用した遅延時間を満たすために必要な伝送線TL1〜TL5の長さD1〜D5は次の値である。
D1:2.3メートル、
D2:0.9メートル、
D3:2.1メートル、
D4:1.05メートル、
D5:13メートル、
【0031】
従って、本発明による電気的雑音フィルタの主要部分であるTL1〜TL4の長さはD1〜D4の合計であり、6.5メートルである。本発明によるフィルタは主導体として複芯線を用い、副導体は円筒状の編組線を用いるなどして柔軟に構成すれば、フィルタ全体を折り曲げたり、あるいはコイル状に巻くことが出来るので前記長さは実用に支障をきたさないことは明らかである。
【0032】
上記した本発明になる電気的雑音フィルタの3つの基本的構造を、大電流容量、高耐圧の電気的雑音フィルタに適応した実施例について、以下に説明する。
【0033】
(実施例1)
図1および図2に示した本発明の電気的雑音フィルタを大電流容量、高耐圧の電気的雑音フィルタに適応した実施例について、以下に説明する。
絶縁体11および15は熱収縮性を持たせた主導体外径よりわずかに大きな内径を持つポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、シリコーン、フッ化炭素樹脂などで作られた円筒状の管を用いる。絶縁体12は上記有機樹脂に非晶質金属磁性材料粉末あるいは高透磁率フェライト粉末などを混合した材料で作られた突起と凹部を有する円環状構造体である。また、この材料に熱収縮性を持たせる。内面には上記有機樹脂の厚さ0.1〜0.2ミリメートルのフィルムを貼り、絶縁体13となして電気絶縁性を高める。
絶縁体14はポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、シリコーン、フッ化炭素樹脂などのいずれかに前記高誘電率セラミック粉末を混合したものである。また、絶縁体14は熱収縮性を持たせ、突起と凹部を有する主導体外径よりわずかに大きな内径を持つ円管状構造体とする。
【0034】
絶縁体11、絶縁体13と一体化した絶縁体12による複数の円環、絶縁体14による複数の円環および絶縁体15を順次、複芯線よりなる円柱状主導体1に通し、摂氏70度〜100度に加熱し絶縁体11〜絶縁体15を主導体1に密着させる。また、この工程により隣接する円環の突起に凹部が密着するため主導体1と副導体2を直接結ぶ空気層が遮断され、主導体1と副導体2間の電気的絶縁耐圧を高めることが出来る。
【0035】
その後、絶縁体11、12、14および15に密着するように編組線で構成された副導体2を全体に被覆すると図1に示す外形の電気的雑音フィルタが実現できる。
【0036】
(実施例2)
本発明の電気的雑音フィルタにおいて曲げに対する柔軟性を持たせる方法として図7に示すように絶縁体11〜15を薄いフィルムを複数回、主導体1の周囲に巻きつけることで実現できる。この場合も図示するようにそれぞれの絶縁体フィルムの1部が他のフィルムに重なるように巻きつけることによって主導体1と副導体2を直接結ぶ空気層が遮断され、主導体1と副導体2間の電気的絶縁耐圧を高めることが出来る。
それぞれの絶縁体フィルムを所定の層数だけ巻き重ねた後、絶縁体11、12、14および15に密着するように編組線で構成された副導体2を全体に被覆すると図7に示す断面を持つ電気的雑音フィルタが実現できる。
【0037】
(実施例3)
前記の部分伝送線TL1およびTL3の1メートル当たりのインダクタンスL1、L3を高め、結果としてこの部分の特性インピーダンスを高めるために絶縁体12を厚くすることが効果的である。ところが磁性体粉末を高密度で混合すると柔軟性が低下し、ひいては電気的雑音フィルタの曲げに対する柔軟性が低下する恐れがある。絶縁体12a、12bとして、図8に示すようにくびれを持つ構造の絶縁体12a”、12b”を利用することにより柔軟性の低下を改善できる。
【0038】
(実施例4)
離れた2つの電気的装置の間を2本以上の導線で電気的に接続した場合、これらの導線に共通の位相を持つ、いわゆるコモンモードの雑音が重畳する場合がある。かかる場合、上記2本以上の導線の間に相互インダクタンスを設け、上記コモンモード雑音の防止を図る技術は広く知られている。この目的を満たす実施例を図9および図10に示す。図9において20a、20b、20cは本発明の電気的雑音フィルタ、21a、21b、21cおよび22a、22b、22cは主導体の引き出し端子、24および25は副導体の引き出し端子、23はコモンモード雑音防止フィルタである。
コモンモード雑音防止フィルタ23のB−B’線断面を図10に示す。絶縁体26a、26b、26cで周囲を電気的に絶縁され、2本以上を束ねた主導体27a、27b、27cの周囲に磁性体の環28を設け、さらに、環28の外周を副導体29で覆う構造である。
このように構成することにより主導体27a、27b、27cの間に相互インダクタンスが生じ、同相の電流を互いに阻止する作用をなす。長く延展された絶縁体26a、26b、26cで周囲を電気的に絶縁され、2本以上を束ねた主導体27a、27b、27cに対して不均等の間隔で複数の磁性体環28を配置してコモンモード雑音の防止効果を更に高めることも可能である。
【0039】
(実施例5)
図11に、本発明の電気的雑音フィルタを3相電力線に導入する雑音除去方法の具体例を示した。
図11(a)は、雑音を発生する電力源40から負荷41までの問を電気的雑音フィルタ43aと置き換え、電力源40より負荷41に電力を供給せんとする例である。
また、図11(b)は、雑音を発生する電力源40からの電気的雑音が電力線42aを介して外部に流出しないように、電力源40外部の電力線42bにつながる電力線42aを電気的雑音フィルタ43bと置き換えた例であり、さらに図11(c)は、外部の電力線42bを介して他の図示しない雑音源からの電気的雑音が負荷41に侵入するのを防止するため、外部の電力線42bに電気的雑音フィルタ43c、44dを接続した例である。
これらは電子(情報)装置の函体の中、電車内部の配電系、ビル内の配電系の雑音除去方法として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】4組の部分伝送線TL1〜TL4からなる本発明の電気的雑音フィルタ基本部分を2組持つ電気的雑音フィルタの実施例の斜視図。
【図2】図1に示す電気的雑音ブィルタ実施例のA−A’断面図。
【図3】図2に示す電気的雑音フィルタ実施例の電気的等価回路図。
【図4】図3の等価回路の電子回路解析プログラムによる計算結果としての伝達特性。
【図5】図4の計算結果である伝達特性の周波数軸を拡張して示したもの。
【図6】本発明による電気的雑音フィルタの雑音阻止原理を説明する模式図。
【図7】絶縁体11〜15をフィルムを巻き重ねた構造で実現した電気的雑音フィルタの実施例の断面図。
【図8】くびれつき構造の絶縁体12を採用した電気的雑音フィルタの実施例の断面図。
【図9】本発明の第4の実施例であるコモンモード雑音防止フィルタ。
【図10】図9に示すコモンモード雑音防止フィルタのB−B’線断面図。
【図11】本発明の電気的雑音フィルタを使用した雑音除去方法の回路構成例。
【符号の説明】
【0041】
1 主導体、
2 副導体、
11、11’、11” 高耐圧絶縁体、
12a、12b、12a’、12b’、12a”、12b” 高透磁率絶縁体、
13a、13b、13b’、13a”、13b” 高耐圧絶縁体、
14a、14b、14a’、14b’、14a”、14b” 高誘電率絶縁体、
15、15’ 高耐圧絶縁体、
【0042】
20a、20b、20c 本発明の電気的雑音フィルタ、
21a、21b、21c、22a、22b、22c 主導体の引き出し端子、
23 コモンモード雑音防止フィルタ、
24、25 副導体の引き出し端子、
26a、26b、26c 絶縁体、
27a、27b、27c 主導体、
28 磁性体環、
29 副導体
【0043】
40 電気的雑音を発生する電力源、
41 負荷、
42a、42b 配電線、
43a、43b、43c、43d 本発明の電気的雑音フィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、電子装置や放電を伴う電気機器など電気的雑音を発生する装置から外部へ延展される電線の少なくとも一部に電気的雑音を除去する機能を付与し、前記装置や機器からの電気的雑音電力、若しくは電気的雑音電波が外部へ伝播するのを防止する電気的雑音フィルタ及び電気的雑音除去方法に関し、特に高電圧、大電流の配電系統に好適な電気的雑音フィルタ及び電気的雑音除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気的雑音フィルタは、個別のコイルやトランスなどの誘導素子、又は個別のコンデンサといった静電容量素子、あるいはこれら個別の誘導素子と静電容量素子とを組み合わせて、若しくは電線の周囲に環装した磁性体よる誘導素子で構成されてきた。しかし、コイルやトランスなどといった個別の誘導素子は、空芯、磁芯の別はあってもいずれも電気巻線であり、前記電気巻線間に寄生するキャパシタンスと前記誘導素子のインダクタンスとで共振回路が構成され、またコンデンサといった個別の静電容量素子も、静電容量素子の電極を外部の電気回路に接続するための引き出し線に寄生するインダクタンスと前記静電容量素子のキャパシタンスとで共振回路が構成されるため個別の誘導素子、あるいは静電容量素子で構成された電気的雑音フィルタの効果は、前記共振周波数近傍を上限とする周波数領域に限られるという難点があった。
特に、高電圧、大電流の電力線に挿入する大電力用雑音フィルタに使用する誘導素子は、大電流を流すために太い導線を使用しなければならないため前記巻線間のキャパシタンスが大きくなり誘導素子の共振周波数が低下する。また、静電容量素子も大きな耐電圧を実現するためには電極間に配置される誘電体の厚みを増さなければならず、また同一キャパシタンスを得るには電極面積を増さなければならない。したがって、静電容量素子は、耐電圧の2乗にほぼ比例して体積が増加する。体積の大きな静電容量素子は、より長い引出し線を必要とし、引出し線のインダクタンスの増加によって静電容量素子の共振周波数は低下する。
上記のように個別の誘導素子、静電容量素子によって高い周波数の電気的雑音を減衰させる大電流容量、高耐電圧の大電力用雑音フィルタの実現は困難であった。
さらに、電線の周囲に磁性材料を設ける形の雑音フィルタも該磁性材料の透磁率が数MHzから低下し始め、数GHzで1近くまで減少する。このため高い周波数の電気的雑音に対しては効果が低下するという欠点を有していた。
【0003】
一方、インダクタンスの小さな誘導素子及びキャパシタンスの小さな静電容量素子を用いれば、高い周波数までフィルタを動作させることができる。しかし、電気的雑音の減衰量を確保するためには、このような誘導素子や静電容量素子による回路を多数直列接続しなければならない。例えば1箇所に集中して設けた誘導素子及び静電容量素子を10箇所に分散配置するとして、それぞれの誘電素子のインダクタンスを集中時の1/10に、またそれぞれの静電容量素子のキャパシタンスを集中時の1/10にした電気回路を10個直列接続すると、その電気回路の合計インダクタンスとキャパシタンスは、集中配置したときと同一である。しかし、このような電気回路は、いわゆるLC分布定数回路であって、伝送信号の位相の遅れは生ずるが、電圧・電流の振幅は変化しない無損失遅延回路となる。したがって、インダクタンスが小さな誘導素子とキャパシタンスが小さな静電容量素子をそれぞれ多数の均等に配置した電気回路は、雑音フィルタとしての作用をなさない。
【0004】
従来、無損失遅延線を用いて特定機能の電気的波形フィルタを構成しうることは例えば非特許文献1{Herbert J. Carlin, “Distributed Circuit Design With Transmission Line Elements”, Proceedings of the IEEE, Vol.59, No.7, pp1059-1081, July 1971}及び非特許文献2{R.S.Withers and P.V.Wright, “SUPERCONDUCTIVE TAPPED DELAY LINES FOR LOW-INSERTION-LOSS WIDEBAND ANALOG SIGNAL-PROCESSING FILTERS”, IEEE, CH1957-0/83/0000 0081 1983}により知られている。しかし、これらは遅延時間が等しく、かつ特性インピーダンスが異なる複数の区間によって構成された伝送線を用いたものである。このため伝達特性は周期的な特定周波数で減衰量がゼロとなるいわゆる櫛型フィルタ特性となる。櫛型フィルタは特定周期のパルスを減衰なく通過させるため電気的雑音フィルタには適さないことは明らかである。特許文献1にも、波長と伝送線長さの関係についての記載があるが、各インピーダンス要素の遅延時間長さを違えることについては述べられていない。遅延時間が同一であれば定在波が生じる周波数が存在し、この周波数の雑音を通過させる虞れがある。
【非特許文献1】Herbert J. Carlin, “Distributed Circuit Design With Transmission Line Elements”, Proceedings of the IEEE, Vol.59, No.7, pp1059-1081, July 1971
【非特許文献2】R.S.Withers and P.V.Wright, “SUPERCONDUCTIVE TAPPED DELAY LINES FOR LOW-INSERTION-LOSS WIDEBAND ANALOG SIGNAL-PROCESSING FILTERS”, IEEE, CH1957-0/83/0000 0081 1983
【特許文献1】特開2004−015706
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術に鑑み、高い周波数の電気的雑音を効果的に減衰させる大電流容量、高耐電圧の大電力用雑音フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を下記の手段により解決した。
(1)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線が遅延時間が異なる長さで、かつ異なる特性インピーダンスを持つ部分から構成されてなることを特徴とする電気的雑音フィルタ。(2)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらにそれらの少なくとも一つは遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【0007】
(3)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらに特性インピーダンスが大きい部分あるいは特性インピーダンスが小さい部分の少なくともどちらかは、遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。(4)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より誘電率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【0008】
(5)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より透磁率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(6)主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体が他の部分より誘電率の大きな材料で構成された複数の区間と他の部分より透磁率の大きな材料で構成された複数の区間を有することを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(7)上記特性インピーダンスが小さな部分が主導体に誘電率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする前記(2)記載の電気的雑音フィルタ。
(8)上記特性インピーダンスが大きな部分が主導体に透磁率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする前記(2)記載の電気的雑音フィルタ。
(9)前記(2)2もしくは(3)に記載する特性インピーダンスが大きい部分において、副導体の主導体に対向する面積を小さく成したことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(10)前記(7)において有機絶縁体に高誘電率無機絶縁材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(11)前記(8)において有機絶縁体に高透磁率材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(12)前記(10)もしくは前記(11)において熱収縮性有機絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(13)前記(1)乃至(12)のいずれかに記載する電気的雑音フィルタにおいて複数の細線により構成された主導体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
(14)雑音を含む電力源から負荷まで延展する単相又は多相の電力伝送線、若しくは前記電力源に電力を与える単相又は多相の配電線の少なくとも一部を、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
(15)信号源から信号受信部まで延展する信号線の少なくとも一部を、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
【発明の効果】
【0009】
前記(1)〜(13)の電気的雑音フィルタは、たとえば、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線の中間部分に特性インピーダンスと遅延時間長さが異なる部分を設け、特性インピーダンスが変化する部分において電気的雑音を強制的に反射させることにより入力端から出力端までの電気的雑音の伝達を防止するとともに、前記伝送線の主導体周囲を副導体で覆う構造のため伝送線から外部空間に対する電磁波の輻射を防止することが出来る。また、遅延時間長さを相異することにより、幅広い周波数範囲に亘る電気的雑音を除去し得る。このため、比較的簡便な構成で、数MHz以上の高周波領域の電気的雑音を減衰できる。また、主導体の断面積を大きく選ぶことが出来、さらに、絶縁体の厚みを適切に選択することにより数百アンペア、数千ボルトという大電力容量の電気的雑音フィルタを容易に実現できる。さらに、直線形状に構成した本発明の電気的雑音フィルタは、既設設備の配電線あるいは信号線と容易に交換でき、電力配電系そのものを電気的雑音フィルタと成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態及び作用について、実施例の構成図、等価回路図、並びに解析結果のグラフを用いて説明する。なお図1から図10までは主として本発明の基本的な構成とその作用原理、具体例を説明、解析するための図であり、図11は本発明の電気的雑音フィルタによる電気的雑音防止方法に関する図である。
【0011】
図1は本発明による電気的雑音フィルタの実施例の一部を示す斜視図、図2は図1に示す電気的雑音フィルタ実施例のA−A’部分の断面図、図3は図1に示す電気的雑音フィルタ実施例の等価回路図、図4は図3の等価回路の電子回路解析ブログラムによる計算結果としての伝達特性である。図5は図4の計算結果である伝達特性の周波数軸を拡張して示した図である。図6は本発明の原理を説明する摸式図、図7、図8は曲げに対する柔軟性を高める改善をなした実施例断面図である。
【0012】
さらにまた図9は本発明の電気的雑音フィルタを使用した雑音除去方法の回路構成例を示す図である。実施例の斜視図、断面図において1は主導体、2は副導体、11、13、15は高耐電圧の絶縁体である。12は高透磁率を持つ絶縁体、14は高誘電率を持つ絶縁体である。さらに本発明実施例を使用した雑音除去方法の回路構成例を示す図11において、40は雑音源、41は負荷、42a、42bは電力線あるいは信号伝送線、43a、43b、43c、43dは本発明の電気的雑音フィルタである。
【0013】
本発明による電気的雑音フィルタの第1の基木的構造例は、図2の断面図に見られるように主導体1の周りに絶縁体11、12、13、14,15を介して副導体2が同軸状に被覆され、かつそれらの絶縁体の外径、長さ、誘電率、あるいは透磁率の異なる部分を設け、伝送線路としての特性インピーダンスおよび電磁波(電圧波、電流波)に対する伝播遅延時間の異なる伝送線TL1,TL2、TL3、TL4、TL5を直列に接続したものである。
【0014】
図1、図2に示した実施例の動作を図3、図4、図5および図6に基づいて説明する。図3に示した等価回路において、前記伝送線TL1,TL2、TL3、TL4、TL5の各特性インピーダンスZcをそれぞれ3.5Ω、33.5Ω、3.5Ω、33.5Ω、および18.7Ωとし、TL1、TL2、TL3、TL4の遅延時間τを50ns(ナノ秒、以下同じ)、TL5の遅延時間τを100nsとした均等遅延時間のモデルおよびそれぞれの伝送線の遅延時間τをそれぞれTL1:63ns、TL2:37ns、TL3:57ns、TL4:43ns、TL5:100nsとした不均等遅延時間モデルを用意し、100kHzから100MHzまでの周波数領域の伝達特性を、オラクル杜製電子回路解析プログラムにより計算した。計算結果を図4に示す。また、図4の結果のうち10MHzから100MHzまでの範囲を拡大した結果を図5に示す。
【0015】
伝送線内を伝播する電圧波および電流波は伝送線の特性インピーダンスZcが変化する境界において反射する。伝送線TL1、TL2、TL3、TL4内の伝播遅延時間が均一の場合、定在波が生じ、電圧波あるいは電流波の周期tの1/2の整数倍と前記遅延時間が一致する周波数で伝達量が1すなわち0dBとなる。この現象を図6を用いて更に説明する。図6(a)は高特性インピーダンスの伝送線TL3a、TL3b、TL3cおよびTL3dと低特性インピーダンスの伝送線TL4a、TL4b、TL4cおよびTL4dの遅延時間が全て等しいτ1であるとき、2×τ1を周期とする、すなわち周波数f0=1/(2×τ1)の定在波1が上記伝送線群に生じる。また、図6(a)に示していないが、f0の整数倍の周波数においても定在波が生ずる。定在波は極めて小さな入力で生ずるので伝送線路群の一方の端子に与えられた電圧は減衰せずに他方の端子に現れる。従って周波数f0、2f0、3f0などの周波数を持つ電圧は伝達量が1.0倍(0dB)となる。これに対して図6(b)に示すように遅延時間がτ1である高特性インピーダンスの伝送線TL3a、TL3bおよびTL3cと低特性インピーダンスの伝送線TL4a、TL4bおよびTL4cの伝送線に異なる遅延時間τ2を持つ高特性インピーダンスの伝送線TL5と低特性インピーダンスの伝送線TL6が接続されている場合、後2者の伝送線路に生ずる定在波2の周波数f1はf1=1/(2×τ2)となる。定在波1は伝送線TL5とTL6内で減衰を受け、また、定在波2は伝送線TL4a、TL4bおよびTL4cと伝送線TL4a、TL4bおよびTL4cによって減衰を受ける。従って、伝送線群の遅延時間τ1とτ2を適切に選べば全ての周波数において電圧を減衰させることが出来る。
【0016】
図3に示す解析モデルの場合、信号源抵抗R1と負荷抵抗R2をいずれも伝送線TL5の特性インピーダンスに等しく18Ωに選んでいるためTL1〜TL5による減衰が生じない場合は1/2、すなわち−6dBとなる。伝送線TL1、TL2、TL3、TL4内の伝播遅延時間が均一の場合の計算結果は図4および図5の破線で示すように10MHz、20MHz、30MHzなどの10MHzの周期で伝達量が−6dBとなり明らかに櫛型フィルタ特性を示している。これに対して前記のようにTL1〜TL4の遅延時間を不均等にした場合の計算結果は図4および図5の実線に示すように周期的に表れる伝達量のピーク値が低下していることが明らかである。フィルタとしての動作が生じる2MHz以上の周波数範囲について以下に定量的に比較する。遅延時間が均等の場合、伝達量の最大値が10MHzの整数倍の周波数において−6.0〜−6.3dBであるのに対して、遅延時間が不均等の場合、8.5MHzにおいて−9.9dB、54MHzにおいて−13.4dBとなり、少なくとも3.6dBないし7.1dBの改善効果が認められる。
ただし、今回の計算モデルでは高周波における誘電体材料の誘電体損失、磁性体材料のヒステリシス損失および渦電流損失を考慮に入れていない。実際の電気的雑音フィルタの場合これら影響を受ける。特に、磁性材料は100MHz以上の周波数に対して透磁率の虚数項が占める比率が増加し損失が増加する。従って、100MHz以上の周波数では図4、図5に示す以上の伝達量低下が生ずる。
【0017】
上記の結果よりそれぞれ遅延時間が異なる複数の特性インピーダンスが大きい部分と複数の特性インピーダンスが小さい部分を交互に配列することにより電気的雑音を低減できることが明らかである。
【0018】
今回計算したモデルは2個の特性インピーダンスが高い部分と2個の特性インピーダンスが低い部分および、1個の通常の特性インピーダンスの部分からなる伝送線から構成されたものである。特性インピーダンスが高い部分と特性インピーダンスが低い部分の個数を増せば最大伝達量を更に低減でき、電気的雑音を更に低減できることは明らかである。
【0019】
一方、主導体は大電流を安全に流すために最大電流値に応じた断面積を持たせる必要がある。この断面積は大電力分野の技術者に周知のごとくおよそ2Aあたり1平方ミリメートルである。例えば300Aの最大電流許容量が要求される場合、主導体の断面積は150平方ミリメートルに選ばなければならない。多数の細線を撚った複芯線の場合空隙が含まれるため見かけの断面積は約1.5倍に選ばなければならない。
次に、例えば主導体1と副導体2の間で例えば2000V(ボルト、以下同じ)の電気的絶縁耐圧を満たすために絶縁体に要求される事項を説明する。一般に不純物が少ないポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、シリコーン、フッ化炭素樹脂などの有機樹脂は厚さ0.1ミリメートルごとに2万〜4万Vの耐圧を示す。特に、前記ポリイミド樹脂フィルムは、理想状態では厚さ20μm当たり1万Vの耐圧を持つ材料であり、実用上でも耐電圧2000Vの要求は厚さ50μmのフィルムで満たすことが出来る。絶縁体11および15は機械的な磨耗などを考慮に入れ、厚さに余裕を持たせる必要があるが2〜4ミリメートル程度の管状材料を用いれば安定な絶縁特性を得ることが出来る。
【0020】
高透磁率絶縁体12は前記、有機樹脂材料に微細な磁性体粉末を混合して実現する。実効的な透磁率は磁性体粉末の混合率によって左右されるが、主導体電流が発生する磁界によって磁性体粉末が磁気的に飽和する現象を防止するため実効的な比透磁率を30〜100程度以下に選ばなければならない。この値は容易に実現できる範囲である。
しかし、磁性体粉末は前記有機樹脂材料と比較して抵抗率が6桁以上小さいため高透磁率絶縁体12は例えば2000Vの電圧に対して絶縁耐圧を満たせない。このため主導体1と高透磁率絶縁体12の間に高耐電圧の絶縁体13を介在させ、主導体1と副導体2の間の電気的絶縁耐圧を確保している。この絶縁体13の厚さは機械的な磨耗に対して高透磁率絶縁体12によって保護されるため0.1〜0.2ミリメートルあれば十分である。
特性インピーダンスは主導体と副導体間の静電容量を低減することによっても大きくなすことができる。従って絶縁体12の外径を大きくなす、あるいは副導体の主導体に対向する面積を小さくなしても伝送線路の特性インピーダンスを大きくなしうることは明らかである。
【0021】
高誘電率絶縁体14は前記有機樹脂材料にチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウムなどの高誘電率セラミック粉末を混合したものである。これらの高誘電率セラミック粉末自身は抵抗率が高いため厚さが0.1〜0.2ミリメートルの高誘電率絶縁体14は単独で主導体1と副導体2の間の電気的絶縁耐圧を確保できる。
【0022】
次に、各部分の長さについて説明する。主導体1の外半径を8.5ミリメートル、絶縁体11、14および15の内半径を8.5ミリメートル、外半径を12.5ミリメートル、絶縁体12の内半径を8.7ミリメートル、外半径を12.5ミリメートル、絶縁体13の内半径を8.5ミリメートル、外半径を8.7ミリメートルとする。比誘電率は絶縁体11、13および15が3.5、絶縁体12が7、絶縁体14が100とする。比透磁率は絶縁体11,13,14、および15が1.0、絶縁体12が10であるとする。このとき、伝送線TL1、TL3の1メートル当たりのインダクタンスL1、L3および1メートル当たりのキャパシタンスC1、C3は次の値であった。
L1,L3:0.93μH/メートル (μH:マイクロヘンリー、以下同じ)
C1,C3:824pF/メートル (pF:ピコファラッド、以下同じ)
【0023】
また、伝送線TL2、TL4の1メートル当たりのインダクタンスL2、L4および1メートル当たりのキャパシタンスC2、C4は次の値であった。
L2,L4:0.14μH/メートル、
C2、C4:11800pF/メートル
【0024】
また、伝送線TL5の1メートル当たりのインダクタンスL5および1メートル当たりのキャパシタンスC5は次の値であった。
L5:0.14μH/メートル、
C5:413pF/メートル
【0025】
上記値よりそれぞれの特性インピーダンスZ1〜Z5と1メートル当たりの遅延時間τ1〜τ5は次式より求まる。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
数式1および2より求めた伝送線TL1、〜TL5の特性インピーダンスZ1〜Z5および1メートル当たりの遅延時間τ1〜τ5は次の値となる。
Z1、Z3:34Ω
Z2、Z4:3.5Ω
Z5 :18Ω
【0029】
また、遅延時間は、
τ1、τ3:27.7ns/メートル、
τ2、τ4:41.2ns/メートル、
τ5 :7.7ns/メートル
【0030】
前記の計算に適用した遅延時間を満たすために必要な伝送線TL1〜TL5の長さD1〜D5は次の値である。
D1:2.3メートル、
D2:0.9メートル、
D3:2.1メートル、
D4:1.05メートル、
D5:13メートル、
【0031】
従って、本発明による電気的雑音フィルタの主要部分であるTL1〜TL4の長さはD1〜D4の合計であり、6.5メートルである。本発明によるフィルタは主導体として複芯線を用い、副導体は円筒状の編組線を用いるなどして柔軟に構成すれば、フィルタ全体を折り曲げたり、あるいはコイル状に巻くことが出来るので前記長さは実用に支障をきたさないことは明らかである。
【0032】
上記した本発明になる電気的雑音フィルタの3つの基本的構造を、大電流容量、高耐圧の電気的雑音フィルタに適応した実施例について、以下に説明する。
【0033】
(実施例1)
図1および図2に示した本発明の電気的雑音フィルタを大電流容量、高耐圧の電気的雑音フィルタに適応した実施例について、以下に説明する。
絶縁体11および15は熱収縮性を持たせた主導体外径よりわずかに大きな内径を持つポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、シリコーン、フッ化炭素樹脂などで作られた円筒状の管を用いる。絶縁体12は上記有機樹脂に非晶質金属磁性材料粉末あるいは高透磁率フェライト粉末などを混合した材料で作られた突起と凹部を有する円環状構造体である。また、この材料に熱収縮性を持たせる。内面には上記有機樹脂の厚さ0.1〜0.2ミリメートルのフィルムを貼り、絶縁体13となして電気絶縁性を高める。
絶縁体14はポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、シリコーン、フッ化炭素樹脂などのいずれかに前記高誘電率セラミック粉末を混合したものである。また、絶縁体14は熱収縮性を持たせ、突起と凹部を有する主導体外径よりわずかに大きな内径を持つ円管状構造体とする。
【0034】
絶縁体11、絶縁体13と一体化した絶縁体12による複数の円環、絶縁体14による複数の円環および絶縁体15を順次、複芯線よりなる円柱状主導体1に通し、摂氏70度〜100度に加熱し絶縁体11〜絶縁体15を主導体1に密着させる。また、この工程により隣接する円環の突起に凹部が密着するため主導体1と副導体2を直接結ぶ空気層が遮断され、主導体1と副導体2間の電気的絶縁耐圧を高めることが出来る。
【0035】
その後、絶縁体11、12、14および15に密着するように編組線で構成された副導体2を全体に被覆すると図1に示す外形の電気的雑音フィルタが実現できる。
【0036】
(実施例2)
本発明の電気的雑音フィルタにおいて曲げに対する柔軟性を持たせる方法として図7に示すように絶縁体11〜15を薄いフィルムを複数回、主導体1の周囲に巻きつけることで実現できる。この場合も図示するようにそれぞれの絶縁体フィルムの1部が他のフィルムに重なるように巻きつけることによって主導体1と副導体2を直接結ぶ空気層が遮断され、主導体1と副導体2間の電気的絶縁耐圧を高めることが出来る。
それぞれの絶縁体フィルムを所定の層数だけ巻き重ねた後、絶縁体11、12、14および15に密着するように編組線で構成された副導体2を全体に被覆すると図7に示す断面を持つ電気的雑音フィルタが実現できる。
【0037】
(実施例3)
前記の部分伝送線TL1およびTL3の1メートル当たりのインダクタンスL1、L3を高め、結果としてこの部分の特性インピーダンスを高めるために絶縁体12を厚くすることが効果的である。ところが磁性体粉末を高密度で混合すると柔軟性が低下し、ひいては電気的雑音フィルタの曲げに対する柔軟性が低下する恐れがある。絶縁体12a、12bとして、図8に示すようにくびれを持つ構造の絶縁体12a”、12b”を利用することにより柔軟性の低下を改善できる。
【0038】
(実施例4)
離れた2つの電気的装置の間を2本以上の導線で電気的に接続した場合、これらの導線に共通の位相を持つ、いわゆるコモンモードの雑音が重畳する場合がある。かかる場合、上記2本以上の導線の間に相互インダクタンスを設け、上記コモンモード雑音の防止を図る技術は広く知られている。この目的を満たす実施例を図9および図10に示す。図9において20a、20b、20cは本発明の電気的雑音フィルタ、21a、21b、21cおよび22a、22b、22cは主導体の引き出し端子、24および25は副導体の引き出し端子、23はコモンモード雑音防止フィルタである。
コモンモード雑音防止フィルタ23のB−B’線断面を図10に示す。絶縁体26a、26b、26cで周囲を電気的に絶縁され、2本以上を束ねた主導体27a、27b、27cの周囲に磁性体の環28を設け、さらに、環28の外周を副導体29で覆う構造である。
このように構成することにより主導体27a、27b、27cの間に相互インダクタンスが生じ、同相の電流を互いに阻止する作用をなす。長く延展された絶縁体26a、26b、26cで周囲を電気的に絶縁され、2本以上を束ねた主導体27a、27b、27cに対して不均等の間隔で複数の磁性体環28を配置してコモンモード雑音の防止効果を更に高めることも可能である。
【0039】
(実施例5)
図11に、本発明の電気的雑音フィルタを3相電力線に導入する雑音除去方法の具体例を示した。
図11(a)は、雑音を発生する電力源40から負荷41までの問を電気的雑音フィルタ43aと置き換え、電力源40より負荷41に電力を供給せんとする例である。
また、図11(b)は、雑音を発生する電力源40からの電気的雑音が電力線42aを介して外部に流出しないように、電力源40外部の電力線42bにつながる電力線42aを電気的雑音フィルタ43bと置き換えた例であり、さらに図11(c)は、外部の電力線42bを介して他の図示しない雑音源からの電気的雑音が負荷41に侵入するのを防止するため、外部の電力線42bに電気的雑音フィルタ43c、44dを接続した例である。
これらは電子(情報)装置の函体の中、電車内部の配電系、ビル内の配電系の雑音除去方法として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】4組の部分伝送線TL1〜TL4からなる本発明の電気的雑音フィルタ基本部分を2組持つ電気的雑音フィルタの実施例の斜視図。
【図2】図1に示す電気的雑音ブィルタ実施例のA−A’断面図。
【図3】図2に示す電気的雑音フィルタ実施例の電気的等価回路図。
【図4】図3の等価回路の電子回路解析プログラムによる計算結果としての伝達特性。
【図5】図4の計算結果である伝達特性の周波数軸を拡張して示したもの。
【図6】本発明による電気的雑音フィルタの雑音阻止原理を説明する模式図。
【図7】絶縁体11〜15をフィルムを巻き重ねた構造で実現した電気的雑音フィルタの実施例の断面図。
【図8】くびれつき構造の絶縁体12を採用した電気的雑音フィルタの実施例の断面図。
【図9】本発明の第4の実施例であるコモンモード雑音防止フィルタ。
【図10】図9に示すコモンモード雑音防止フィルタのB−B’線断面図。
【図11】本発明の電気的雑音フィルタを使用した雑音除去方法の回路構成例。
【符号の説明】
【0041】
1 主導体、
2 副導体、
11、11’、11” 高耐圧絶縁体、
12a、12b、12a’、12b’、12a”、12b” 高透磁率絶縁体、
13a、13b、13b’、13a”、13b” 高耐圧絶縁体、
14a、14b、14a’、14b’、14a”、14b” 高誘電率絶縁体、
15、15’ 高耐圧絶縁体、
【0042】
20a、20b、20c 本発明の電気的雑音フィルタ、
21a、21b、21c、22a、22b、22c 主導体の引き出し端子、
23 コモンモード雑音防止フィルタ、
24、25 副導体の引き出し端子、
26a、26b、26c 絶縁体、
27a、27b、27c 主導体、
28 磁性体環、
29 副導体
【0043】
40 電気的雑音を発生する電力源、
41 負荷、
42a、42b 配電線、
43a、43b、43c、43d 本発明の電気的雑音フィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線が遅延時間が異なる長さで、かつ異なる特性インピーダンスを持つ部分から構成されてなることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項2】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらにそれらの少なくとも一つは遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項3】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらに特性インピーダンスが大きい部分あるいは特性インピーダンスが小さい部分の少なくともどちらかは、遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項4】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より誘電率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項5】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より透磁率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項6】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体が他の部分より誘電率の大きな材料で構成された複数の区間と他の部分より透磁率の大きな材料で構成された複数の区間を有することを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項7】
上記特性インピーダンスが小さな部分が主導体に誘電率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする請求項2記載の電気的雑音フィルタ。
【請求項8】
上記特性インピーダンスが大きな部分が主導体に透磁率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする請求項2記載の電気的雑音フィルタ。
【請求項9】
請求項2もしくは請求項3に記載する特性インピーダンスが大きい部分において、副導体の主導体に対向する面積を小さく成したことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項10】
請求項7において有機絶縁体に高誘電率無機絶縁材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項11】
請求項8において有機絶縁体に高透磁率材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項12】
請求項10もしくは請求項11において熱収縮性有機絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれかに記載する電気的雑音フィルタにおいて複数の細線により構成された主導体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項14】
雑音を含む電力源から負荷まで延展する単相又は多相の電力伝送線、若しくは前記電力源に電力を与える単相又は多相の配電線の少なくとも一部を、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
【請求項15】
信号源から信号受信部まで延展する信号線の少なくとも一部を、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
【請求項1】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線が遅延時間が異なる長さで、かつ異なる特性インピーダンスを持つ部分から構成されてなることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項2】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらにそれらの少なくとも一つは遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項3】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記伝送線の少なくとも一部が特性インピーダンスが大きい複数の部分と特性インピーダンスが小さい複数の部分で構成され、かつ、特性インピーダンスが大きい部分と特性インピーダンスが小さい部分が交互に配置され、さらに特性インピーダンスが大きい部分あるいは特性インピーダンスが小さい部分の少なくともどちらかは、遅延時間が同一でないことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項4】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より誘電率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項5】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体の複数の部分が他の部分より透磁率の大きな材料で構成されていることを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項6】
主導体と、主導体に絶縁体を介して同軸状に被覆された副導体とで構成された伝送線において、前記絶縁体が他の部分より誘電率の大きな材料で構成された複数の区間と他の部分より透磁率の大きな材料で構成された複数の区間を有することを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項7】
上記特性インピーダンスが小さな部分が主導体に誘電率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする請求項2記載の電気的雑音フィルタ。
【請求項8】
上記特性インピーダンスが大きな部分が主導体に透磁率の大きな絶縁体を環装されてなることを特徴とする請求項2記載の電気的雑音フィルタ。
【請求項9】
請求項2もしくは請求項3に記載する特性インピーダンスが大きい部分において、副導体の主導体に対向する面積を小さく成したことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項10】
請求項7において有機絶縁体に高誘電率無機絶縁材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項11】
請求項8において有機絶縁体に高透磁率材料粉末を混合してなる絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項12】
請求項10もしくは請求項11において熱収縮性有機絶縁体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれかに記載する電気的雑音フィルタにおいて複数の細線により構成された主導体を用いたことを特徴とする電気的雑音フィルタ。
【請求項14】
雑音を含む電力源から負荷まで延展する単相又は多相の電力伝送線、若しくは前記電力源に電力を与える単相又は多相の配電線の少なくとも一部を、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
【請求項15】
信号源から信号受信部まで延展する信号線の少なくとも一部を、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気的雑音フィルタで構成したことを特徴とする電気的雑音除去方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−279462(P2006−279462A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94880(P2005−94880)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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