説明

電気透析システム

【課題】電気透析装置による硝酸イオン除去を行う際に、必要以上の電力を極力抑制して硝酸イオン濃度を水質基準値以下に抑えた水をつくることができる電気透析システムを提供すること。
【解決手段】少なくとも硝酸イオンを含有する原水を電気透析処理して前記硝酸イオンが水質基準値以下の処理水を得る電気透析システムにおいて、電気透析装置の処理水を導入して該処理水中の硝酸イオン濃度を検出する検出部6を有し、該検出部6は陽極104の対極及び陰極103の検出極を備え、陰極表面で硝酸イオンを還元する際の接触電流を検出して前記硝酸イオン濃度を計測し、制御部7に入力し、該制御部7は、硝酸イオン濃度が所定濃度の範囲内であるか否かを判断し、上限濃度を越えている場合には、電圧又は通電量を増加させる指示信号を出力し、下限濃度未満の場合は電圧又は通電量を減少させる指示信号を出力することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析システムに関し、詳しくは硝酸イオンを除去する電気透析装置の電圧又は電流を制御して硝酸イオン濃度が例えば上水基準値である10mg/L以下の処理水を得る電気透析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地下水の硝酸イオン(硝酸態窒素)汚染が広がっており、特に酪農地帯では家畜糞尿由来、茶畑では肥料由来が主な原因として知られており、近年その汚染は深刻となっている。
【0003】
動物の体内に過剰に取り込まれた硝酸イオンはメトヘモグロビン血症などの原因となり、健康被害を引き起こすので、硝酸イオンの多い地域では地下水が使用できず、水道を引かなければならない場合もある。
【0004】
現在、上水の硝酸イオン(硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素)の水質基準は10mg/L以下であり、過剰な硝酸イオンを除くためには生物ろ過や電気透析法が行われている。
【0005】
硝酸イオンは電気化学的に検出しやすい亜硝酸イオンと違って、安定なため分析が難しく、濃度の把握には時間とコストが必要であった。そのため、多くの上水処理場などの電気透析装置では定格運転を行っている。定格運転とは、処理水の硝酸イオン濃度にかかわらず、ある程度の電圧をかけているもので、常に硝酸イオンを実測しているものではない。かかる定格運転では、硝酸イオン濃度が低い原水を処理する場合でも、硝酸イオン濃度が高い原水にも対応できる電圧を印加し続けているため、必要以上に電気透析を行うことになり、無駄な電力を消費してしまう欠点があった。
【特許文献1】特開平7−265863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、電気透析装置による硝酸イオン除去を行う際に、必要以上の電力を極力抑制して硝酸イオン濃度を水質基準値以下に抑えた水をつくることができる電気透析システムを提供することを課題とする。
【0007】
本発明の他の課題は以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0009】
(請求項1)
少なくとも硝酸イオンを含有する原水を電気透析装置に導入して電気透析処理して前記硝酸イオンが水質基準値以下の処理水を得る電気透析システムにおいて、
前記電気透析装置は、イオン交換膜によって仕切られた透析室を有し、一方の端子板には陽極を配置し、他方の端子板に陰極を配置し、該両極に印加する電圧又は通電する電流を制御する構成を有し、
前記電気透析装置の処理水を導入して該処理水中の硝酸イオン濃度を検出する検出部を有し、該検出部は陽極の対極及び陰極の検出極を備え、陰極表面で硝酸イオンを還元する際の接触電流を検出して前記硝酸イオン濃度を計測し、
該検出部で検出した硝酸イオン濃度データを制御部に入力し、
該制御部は、前記濃度データに基づく硝酸イオン濃度が水質基準値より低い上限濃度と下限濃度からなる所定濃度の範囲内であるか否かを判断し、
上限濃度を越えている場合には、電圧又は通電量を増加させる指示信号を出力し、下限濃度未満の場合は電圧又は通電量を減少させる指示信号を出力することを特徴とする電気透析システム。
【0010】
(請求項2)
少なくとも硝酸イオンを含有する原水を電気透析装置に導入して電気透析処理して前記硝酸イオンが上水水質基準値10mg/L以下の処理水を得る電気透析システムにおいて、
前記電気透析装置は、イオン交換膜によって仕切られた透析室を有し、一方の端子板には陽極を配置し、他方の端子板に陰極を配置し、該両極に印加する電圧又は通電する電流を制御する構成を有し、
前記電気透析装置の処理水を導入して該処理水中の硝酸イオン濃度を検出する検出部を有し、該検出部は陽極の対極及び陰極の検出極を備え、陰極表面で硝酸イオンを還元する際の接触電流を検出して前記硝酸イオン濃度を計測し、
該検出部で検出した硝酸イオン濃度データを制御部に入力し、
前記制御部は、前記濃度データに基づく硝酸イオン濃度が7〜9mg/Lの範囲内であるか否かを判断し、
9mg/Lを越えている場合には、電圧又は通電量を増加させる指示信号を出力し、7mg/L未満の場合は電圧又は通電量を減少させる指示信号を出力することを特徴とする電気透析システム。
【0011】
(請求項3)
前記検出極が、チタンを含有する電極であることを特徴とする請求項1又は2記載の電気透析システム。
【0012】
(請求項4)
前記検出極に印加する電位を変化させて、硝酸イオン、亜硝酸イオンを分けて測定することを特徴とする請求項1、2又は3記載の電気透析システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気透析装置による硝酸イオン除去を行う際に、必要以上の電力を極力抑制して硝酸イオン濃度を水質基準値以下に抑えた水をつくることができる電気透析システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の電気透析システムを上水処理に適用した一例を示す説明図であり、同図において、1は電気透析装置であり、少なくとも硝酸イオンを含有する原水を電気透析処理して硝酸イオン濃度10mg/L以下の処理水を得る。なお、この硝酸イオン濃度10mg/L以下という数値は上水の基準であるので、他の水処理の場合は、基準値が異なる。
【0015】
「少なくとも硝酸イオンを含有する水」とは硝酸イオン以外に亜硝酸イオンを含んでいても良い。少なくとも硝酸イオンを含有する原水とは、地下水、河川水のほか、下水処理水、廃棄物処分場からの浸出水などが挙げられる。
【0016】
電気透析装置1は、イオン交換膜100によって仕切られた透析室101、102を有している。透析室には陰極103と陽極104を配置している。
【0017】
硝酸イオンを含有する原水は、原水ライン2を介して陰極103を配置する透析室101(陰極室)に入り、硝酸イオンや亜硝酸イオンなどの陰イオンはイオン交換膜100を通過して陽極104が配置された透析室102(陽極室)に集まる。
【0018】
処理水は透析室101から処理水ライン3を介して排出される。4は濃縮水ラインである。
【0019】
陰極103及び陽極104からなる電極は印加する電圧又は電流を制御する電位制御部5に接続されている。
【0020】
6は処理水中の1対の電極と接触電流検出部を備え、硝酸イオンあるいは亜硝酸イオンによる還元電流を検出する検出部である。
【0021】
検出部6で検出した電流は制御部7に入力され、硝酸イオン濃度に変換される。各系での電流と硝酸イオン濃度の関係は事前に検量線を作成しておき、その検量線から硝酸イオン濃度を求める。検量線データは記憶部8に保存しておくこともできる。
【0022】
検出部6において硝酸イオン還元に使用された電流は検量線からその濃度が求められる。その結果、以下の制御が実施される。
【0023】
この制御方法の一例を図2に基づいて説明する。
【0024】
硝酸イオン濃度データが入力されると(S1)、制御部7は、入力された濃度データに基づく硝酸イオン濃度が9mg/Lを越えているか否かを判断する(S2)。
【0025】
9mg/Lを越えている場合には、電位制御部5に電圧又は電流を増加させる指示信号を出力する(S3)。
【0026】
また、硝酸イオン濃度が7mg/L未満であるか否かを判断する(S4)。
【0027】
7mg/L未満である場合には、電位制御部5に電圧又は電流を減少させる指示信号を出力する(S5)。
【0028】
また、図3に示すような制御も行うことができる。
【0029】
硝酸イオン濃度データが入力されると(S10)、制御部7は、入力された濃度データに基づく硝酸イオン濃度が7〜9mg/Lの範囲であるか否かを判断する(S11)。
【0030】
硝酸イオン濃度が7〜9mg/Lの範囲にない場合には、さらに硝酸イオン濃度が9mg/Lを越えているか否かを判断する(S12)。
【0031】
硝酸イオン濃度が9mg/Lを超えている場合には電位制御部5に電圧又は電流を増加させる指示信号を出力する(S13)。
【0032】
9mg/Lを超えていない場合は、電位制御部5に電圧又は電流を減少させる指示信号を出力する(S14)。
【0033】
S1またはS10の濃度データの入力は数分から数時間に1回行い、電気透析の処理状態をチェックする。
【0034】
本発明に用いる検出部6の好ましい態様を図4に基づいて更に説明する。
【0035】
処理水ライン3に対極(陽極)600と検出極(陰極)601を配置し、電流検出部602および電位制御部603に接続する。
【0036】
処理水ライン中の硝酸イオンおよび亜硝酸イオンは検出部6において検出極601(陰極)と接触して還元電流を発生する。
【0037】
電流検出部602は硝酸イオンおよび亜硝酸イオンが電子を受け取って還元されるときに発生する電流を検出する。
【0038】
本発明においては、検出極601に印加する電圧又は電流を変化させることによって硝酸イオンと亜硝酸イオンを分離して測定することができる。本発明者の実験によると、検出電位は電極と液の組成によって異なるが、たとえば−0.5vとすると、亜硝酸イオンを検出でき、−0.8vにすると亜硝酸イオンと硝酸イオンの両方を検出できることが判明している。いずれも対水素標準電極基準の場合である。このように電極にかける電圧を替えることで、亜硝酸イオン用と硝酸イオン用の電極を別々に用意する必要がなく、1つの電極で対応できる効果がある。
【0039】
これらの硝酸イオンと亜硝酸イオンの濃度データはモニター表示9を行うこともでき、また前述の電位制御部5の制御信号出力10として利用できる。
【0040】
検出極(陰極)601としては、上記の制御に有効に機能させる上ではチタンを含有する電極(例えばチタン合金電極)を用いることが好ましい。陽極600としては一般に白金等の安定な金属を用いることができる。
【0041】
本発明では、上水処理の場合、電気透析による処理水中の硝酸イオン濃度が水質基準である10mg/L以下になるように制御し、かつ検出部で処理水中の硝酸イオン濃度を測定し、処理水中の硝酸イオンが10mg/Lを大きく下回るときは通電量や印加電圧を下げるように電気透析装置の制御を行う。この制御を行うことで硝酸イオン濃度が低い原水を処理する場合には、必要以上に電力を消費することなく合理的に硝酸イオンを10mg/L以下に抑えた水をつくることができる。
【0042】
また、このシステムは制御する値を変化させることで下水処理水や廃棄物処分場からの浸出水処理などに応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の電気透析システムの一例を示す説明図
【図2】本発明の制御を行うフロー図
【図3】本発明の制御を行う別のフロー図
【図4】本発明に用いる検出部の好ましい態様を示す図
【符号の説明】
【0044】
1:電気透析装置
100:イオン交換膜
101、102:透析室
103:陰極
104:陽極
2:原水ライン
3:処理水ライン
4:濃縮水ライン
5:電位制御部
6:検出部
600:陽極
601:陰極
602:電流検出部
603:電位制御部
7:制御部
8:記憶部
9:モニター表示
10:制御信号出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも硝酸イオンを含有する原水を電気透析装置に導入して電気透析処理して前記硝酸イオンが水質基準値以下の処理水を得る電気透析システムにおいて、
前記電気透析装置は、イオン交換膜によって仕切られた透析室を有し、一方の端子板には陽極を配置し、他方の端子板に陰極を配置し、該両極に印加する電圧又は通電する電流を制御する構成を有し、
前記電気透析装置の処理水を導入して該処理水中の硝酸イオン濃度を検出する検出部を有し、該検出部は陽極の対極及び陰極の検出極を備え、陰極表面で硝酸イオンを還元する際の接触電流を検出して前記硝酸イオン濃度を計測し、
該検出部で検出した硝酸イオン濃度データを制御部に入力し、
該制御部は、前記濃度データに基づく硝酸イオン濃度が水質基準値より低い上限濃度と下限濃度からなる所定濃度の範囲内であるか否かを判断し、
上限濃度を越えている場合には、電圧又は通電量を増加させる指示信号を出力し、下限濃度未満の場合は電圧又は通電量を減少させる指示信号を出力することを特徴とする電気透析システム。
【請求項2】
少なくとも硝酸イオンを含有する原水を電気透析装置に導入して電気透析処理して前記硝酸イオンが上水水質基準値10mg/L以下の処理水を得る電気透析システムにおいて、
前記電気透析装置は、イオン交換膜によって仕切られた透析室を有し、一方の端子板には陽極を配置し、他方の端子板に陰極を配置し、該両極に印加する電圧又は通電する電流を制御する構成を有し、
前記電気透析装置の処理水を導入して該処理水中の硝酸イオン濃度を検出する検出部を有し、該検出部は陽極の対極及び陰極の検出極を備え、陰極表面で硝酸イオンを還元する際の接触電流を検出して前記硝酸イオン濃度を計測し、
該検出部で検出した硝酸イオン濃度データを制御部に入力し、
前記制御部は、前記濃度データに基づく硝酸イオン濃度が7〜9mg/Lの範囲内であるか否かを判断し、
9mg/Lを越えている場合には、電圧又は通電量を増加させる指示信号を出力し、7mg/L未満の場合は電圧又は通電量を減少させる指示信号を出力することを特徴とする電気透析システム。
【請求項3】
前記検出極が、チタンを含有する電極であることを特徴とする請求項1又は2記載の電気透析システム。
【請求項4】
前記検出極に印加する電位を変化させて、硝酸イオン、亜硝酸イオンを分けて測定することを特徴とする請求項1、2又は3記載の電気透析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−253874(P2008−253874A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95731(P2007−95731)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】