説明

電気銅めっき浴及び電気銅めっき方法

【解決手段】(A)硫黄化合物、(B)エーテル結合を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物、(C)アゾ化合物、(D)硫酸銅五水和物、(E)硫酸、及び(F)塩化物イオンを含有することを特徴とする電気銅めっき浴。
【効果】本発明の電気銅めっき浴を用いれば、めっき時にボイドやシームが発生しにくく、小径のスルーホールに対しても電気銅めっき方法によって銅を充填することができる。また、従来法と比べて、工程数が減らせるため、コストダウンにも繋がり、逆電流を用いることがなく、直流電流でスルーホールへの銅の充填が可能となるため、工程の簡略化にも繋がる。更に、従来のペースト剤等の充填に比べ、めっきによって銅皮膜を充填した場合は、放熱性が優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気銅めっき浴及び電気銅めっき方法に関する。詳しくは、PKG基板やPC基板等に形成されたスルーホールやビアホールに対して、フィリングを行うために好適な電気銅めっき浴、及びスルーホールフィリングやビアフィリングを行うための電気銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタックドビアは、コア材のスルーホール(TH)をめっきした後、ペースト剤等を充填して、その後積層→ビア形成→ビアフィリングめっき→回路形成の工程を繰り返すことにより作製されてきた。図1は、従来法によるスタックドビアの作製工程の一例を示す模式図である。まず、基板(樹脂1)に形成されたスルーホールに化学銅めっき2をした後、スルーホールにペースト剤3を充填する(図1A)。次に、ふためっき2をして回路を形成する(図1B)。更に樹脂1を積層し、ビアホールを形成する(図1C)。ビアホールに化学銅めっきをした後、ビアフィリングめっき2をして回路を形成する(図1D)。そして、上記の樹脂積層、ビアホール形成、化学銅めっき、ビアフィリングめっき、回路形成を繰り返すことで、スタックドビアが形成される(図1E)。
【0003】
しかし、ペースト剤を充填せずに、コア材のスルーホールに銅めっき方法によって銅を充填することができれば、放熱性等で有利である。また、ペースト剤等が充填できない小径のスルーホールに銅めっき方法によって銅を充填することができれば、集積度を増すことができる。近年、めっき方法を用いたスルーホールフィリング技術は提案されてきているが、ボイドやシームの発生、皮膜の物性(耐エッチング性)等の問題があった。
【0004】
即ち、従来のスルーホールフィリング用のめっき液では、めっき時にボイドやシームが発生したり、皮膜の耐エッチング特性が基板表面とスルーホール部で異なるため回路形成時にスルーホールの銅皮膜が溶解したりする等の問題があった。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、以下のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/018872号パンフレット
【特許文献2】特開2006−283072号公報
【特許文献3】特表2008−513985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたもので、めっき時にボイドやシームが発生しにくく、安定して良好な皮膜特性が得られる、スルーホールフィリングやビアフィリングに好適な電気銅めっき浴及び該めっき浴を用いた電気銅めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、硫酸銅及び硫酸を主構成成分とする硫酸銅めっき浴に対し、(A)下記式(1)〜(3)から選ばれる1種又は2種以上の硫黄化合物、(B)エーテル結合(−O−)を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物、及び(C)下記式(4)で示される基を有する1種又は2種以上のアゾ化合物を添加することで、めっき時にボイドやシームが発生しにくい電気銅めっき浴が得られ、該めっき浴を用いて電気銅めっき方法によるスルーホールフィリングやビアフィリングを行った場合、安定して良好な皮膜特性を有するめっき皮膜が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記電気銅めっき浴及び電気銅めっき方法を提供する。
請求項1:
(A)下記式(1)〜(3)
【化1】

(上記式(1)〜(3)中、R1は水素原子、又は−Sm−(CH2n−Ok−SO3Mで示される基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基である。mは0又は1であり、nはそれぞれ独立に1〜8の整数であり、kはそれぞれ独立に0又は1である。)
で示される硫黄化合物から選ばれる1種又は2種以上、
(B)エーテル結合(−O−)を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物、
(C)下記式(4)
【化2】

(上記式(4)中、Rは、それぞれ独立にハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3Mで示される基である。Mは水素原子又はアルカリ金属である。aは0〜4の整数である。)
で示される基を有するアゾ化合物から選ばれる1種又は2種以上、
(D)硫酸銅五水和物、
(E)硫酸、及び
(F)塩化物イオン
を含有することを特徴とする電気銅めっき浴。
請求項2:
上記(A)成分が、下記式
【化3】

で示される硫黄化合物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の電気銅めっき浴。
請求項3:
上記(B)成分が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びこれらのコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及びポリエチレングリコールアルキルエーテルから選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載の電気銅めっき浴。
請求項4:
上記(C)成分が、下記式(5)〜(8)
【化4】

(上記式(5)〜(7)中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数4〜20のアリール基又は複素環基であり、その炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、炭素数1〜10のヒドロキシル基で置換されていてもよいアルキルアミノ基、炭素数6〜14のアリールアミノ基、ベンズアミド基、ベンゾチアゾール基、又は−SO3Mで示される基から選ばれる1種又は2種以上の基で置換されていてもよい。R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3Mで示される基である。Mは水素原子又はアルカリ金属である。上記式(8)中、Aはそれぞれ上記式(5)〜(7)で示される化合物から炭素原子に結合する水素原子を1つ除いた構造の基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
で示されるアゾ化合物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気銅めっき浴。
請求項5:
上記(C)成分が、ブリリアントクロセイン、ダイレクトレッド80、アシッドブラウンM、アシッドレッド170、ソルベントレッド19、ソルベントレッド23、ソルベントレッド24、ソルベントレッド25、ソルベントレッド26、アシッドレッド47、アシッドレッド56、アシッドレッド66、アシッドレッド70、アシッドレッド71、アシッドレッド112、アシッドレッド115、アシッドレッド116、アシッドレッド142、アシッドレッド148、アシッドレッド150、アシッドレッド151、アシッドレッド351、アシッドイエロー105、アシッドブラウン14、アシッドブラウン15、アシッドブラウン213、モルダントブラウン1、モルダントブラック25、ダイレクトレッド81、ダイレクトバイオレット9、ダイレクトブラウン80及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項4記載の電気銅めっき浴。
請求項6:
スルーホールを有する被めっき物を請求項1乃至5のいずれか1項記載の電気銅めっき浴に浸漬し、この被めっき物を陰極として電気めっきを行い、スルーホールフィリングを行うことを特徴とする電気銅めっき方法。
請求項7:
ビアホールを有する被めっき物を請求項1乃至5のいずれか1項記載の電気銅めっき浴に浸漬し、この被めっき物を陰極として電気めっきを行い、ビアフィリングを行うことを特徴とする電気銅めっき方法。
請求項8:
スルーホールとビアホールとを有する被めっき物を請求項1乃至5のいずれか1項記載の電気銅めっき浴に浸漬し、この被めっき物を陰極として電気めっきを行い、スルーホールフィリングとビアホールフィリングを同時に行うことを特徴とする電気銅めっき方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気銅めっき浴を用いれば、めっき時にボイドやシームが発生しにくく、小径のスルーホールに対しても電気銅めっき方法によって銅を充填することができる。また、従来法と比べて、工程数が減らせるため、コストダウンにも繋がり、逆電流を用いることがなく、直流電流でスルーホールへの銅の充填が可能となるため、工程の簡略化にも繋がる。更に、従来のペースト剤等の充填に比べ、めっきによって銅皮膜を充填した場合は、放熱性が優れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来法によるスタックドビアの作製工程の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の電気銅めっき方法を用いたスルーホールフィリングによるスタックドビアの作製工程の一例を示す模式図である。
【図3】スルーホールフィリングとビアフィリングを同時に行う場合の工程の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1−3及び比較例1−3でめっきしたスルーホールの断面の顕微鏡像である。
【図5】実施例4−6でめっきしたスルーホールの断面の顕微鏡像である。
【図6】実施例7−9でめっきしたビアホールの断面の顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電気銅めっき浴は、
(A)式(1)〜(3)で示される硫黄化合物から選ばれる1種又は2種以上、
(B)エーテル結合(−O−)を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物、
(C)式(4)で示される基を有するアゾ化合物から選ばれる1種又は2種以上、
(D)硫酸銅五水和物、
(E)硫酸、及び
(F)塩化物イオン
を含有する。
【0013】
[(A)成分]
本発明の電気銅めっき浴の(A)成分は、下記式(1)〜(3)
【化5】

(上記式中、R1は水素原子、又は−Sm−(CH2n−Ok−SO3Mで示される基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基である。mは0又は1であり、nはそれぞれ独立に1〜8の整数であり、好ましくは2〜5の整数である。kはそれぞれ独立に0又は1である。)
で示される硫黄化合物である。
【0014】
上記式中、R2及びR3の炭素数1〜5のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。上記式(1)〜(3)で示される硫黄化合物として、具体的には、下記のもの等が例示される
【0015】
【化6】

【0016】
上記硫黄化合物は、その1種を単独で又は2種以上を組み合わせて添加することができる。その濃度はめっき浴中で0.01〜100mg/L、好ましくは0.05〜50mg/Lである。濃度が低すぎると、電気銅めっきの析出物でスルーホールやビアホールを充填する場合にボイドやシームが発生しやすくなり、濃度が高すぎると、電気銅めっきの析出物でスルーホールやビアホールを充填する場合に形状通りの析出となり充填できない。
【0017】
[(B)成分]
本発明の電気銅めっき浴の(B)成分は、エーテル結合(−O−)を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物である。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びこれらのコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が挙げられる。(B)成分のポリアルキレングリコール化合物の数平均分子量は、200〜200,000であることが好ましく、特に600〜10,000であることが好ましい。
【0018】
上記ポリアルキレングリコール化合物は、その1種を単独で又は2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明のめっき浴中の(B)成分の濃度は、1〜5,000mg/Lが好ましく、特に10〜1,000mg/Lが好ましい。濃度が低すぎると、粗雑な皮膜となり皮膜物性(伸び・抗張力等)の低下や耐エッチング特性が悪化することがあり、濃度が高すぎると、ボイドやシームが発生しやすくなり充填性が低下する。
【0019】
[(C)成分]
本発明の電気銅めっき浴の(C)成分は、下記式(4)
【化7】

(上記式(4)中、Rは、それぞれ独立にハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3Mで示される基である。Mは水素原子又はアルカリ金属である。aは0〜4の整数である。)
で示される基を有するアゾ化合物から選ばれる1種又は2種以上である。
【0020】
上記式(4)中、Rは、それぞれ独立にハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3M(式中、Mは水素原子又はアルカリ金属である。)で示される基であり、好ましくは、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3M(式中、Mは水素原子又はアルカリ金属である。)で示される基である。上記炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、上記炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。また、上記式(4)中、aは0〜4の整数である。
【0021】
上記式(4)で示される基を有するアゾ化合物としては、下記式(5)〜(8)
【化8】

(上記式(5)〜(7)中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数4〜20のアリール基又は複素環基であり、その炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、炭素数1〜10のヒドロキシル基で置換されていてもよいアルキルアミノ基、炭素数6〜14のアリールアミノ基、ベンズアミド基、ベンゾチアゾール基、又は−SO3Mで示される基から選ばれる1種又は2種以上の基で置換されていてもよい。R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3Mで示される基である。Mは水素原子又はアルカリ金属である。上記式(8)中、Aはそれぞれ上記式(5)〜(7)で示される化合物から炭素原子に結合する水素原子を1つ除いた構造の基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
で示されるアゾ化合物が好ましい。
【0022】
上記式(5)〜(7)中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数4〜20のアリール基又は複素環基であり、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、インドール基、ピリジン環基等が挙げられる。これらのうち好ましくは、フェニル基、ナフチル基、インドール基等である。また、上記アリール基又は複素環基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、炭素数1〜10のヒドロキシル基で置換されていてもよいアルキルアミノ基、炭素数6〜14のアリールアミノ基、ベンズアミド基、ベンゾチアゾール基、又は−SO3M(式中、Mは水素原子又はアルカリ金属である。)で示される基から選ばれる1種又は2種以上の基で置換されていてもよい。上記炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。上記炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。上記炭素数1〜10のヒドロキシル基で置換されていてもよいアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基等が挙げられる。上記炭素数6〜14のアリールアミノ基としては、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、アントリルアミノ基、フェナントリルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
上記式(5)〜(7)中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3M(式中、Mは水素原子又はアルカリ金属である。)で示される基であり、好ましくは、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3M(式中、Mは水素原子又はアルカリ金属である。)で示される基である。上記炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、上記炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
【0024】
上記式(8)中、Aはそれぞれ上記式(5)〜(7)で示される化合物から炭素原子に結合する水素原子を1つ除いた構造の基であり、同一でも異なっていてもよい。特に、2つのAがともに式(7)で示される化合物から炭素原子に結合する水素原子を1つ除いた構造の基であることが好ましい。
【0025】
本発明において、(C)成分はレベラーとして作用する。これは、アゾ基(−N=N−)中のNが+に帯電して、カソードの凸部に吸着し、銅の析出を抑制することによる。
【0026】
なお、アゾ化合物として、一般にアゾ染料と呼ばれる化合物が知られている。アゾ染料として知られているものとして、ブリリアントクロセイン、ダイレクトレッド80、アシッドブラウンM、アシッドレッド170、メタニルイエロー、4−アミノアゾベンゼン−4’−スルホン酸ナトリウム(AABS)、メチルレッド、サンセットイエローFCF、ニューコクシン、ヤヌスグリーン、エバンスブルー等が挙げられる。これらの化合物の構造式を以下に示す。
【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
上記化合物中、メタニルイエロー、4−アミノアゾベンゼン−4’−スルホン酸ナトリウム(AABS)、メチルレッド、サンセットイエローFCF、ニューコクシン、及びヤヌスグリーンは、アゾ基(−N=N−)を1つ有するのに対し、ブリリアントクロセイン、ダイレクトレッド80、アシッドブラウンM、アシッドレッド170、及びエバンスブルーは、アゾ基を2つ有するため、アゾ基を1つ有する化合物に比べてより安定して抑制効果がある。
【0030】
また、上記アゾ基を2つ有する化合物のうち、エバンスブルーは2つのアゾ基の間にビフェニル構造を有するが、その他のアゾ化合物は、ベンゼン環を1つ有する。よって、エバンスブルー中の2つのアゾ基の距離は、他のアゾ化合物中のアゾ基の距離の約2倍となる。これらの化合物は平面構造なので、単純計算ではエバンスブルーは、他のアゾ化合物の2倍の面積を抑制する。しかし、エバンスブルーは抑制効果が強すぎるため、シームが残る。従って、本発明の電気銅めっき浴に添加するレベラーとしては、上記式(4)で示される基を有するアゾ化合物が最も有効であり、特に、ブリリアントクロセイン、ダイレクトレッド80、アシッドブラウンM、アシッドレッド170等の上記式(5)〜(8)で示されるアゾ化合物が好ましい。
【0031】
ブリリアントクロセイン、ダイレクトレッド80、アシッドブラウンM、及びアシッドレッド170のほかに、上記式(5)〜(8)で示されるアゾ化合物としては、ソルベントレッド19、ソルベントレッド23、ソルベントレッド24、ソルベントレッド25、ソルベントレッド26、アシッドレッド47、アシッドレッド56、アシッドレッド66、アシッドレッド70、アシッドレッド71、アシッドレッド112、アシッドレッド115、アシッドレッド116、アシッドレッド142、アシッドレッド148、アシッドレッド150、アシッドレッド151、アシッドレッド351、アシッドイエロー105、アシッドブラウン14、アシッドブラウン15、アシッドブラウン213、モルダントブラウン1、モルダントブラック25、ダイレクトレッド81、ダイレクトバイオレット9、ダイレクトブラウン80及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0032】
上記アゾ化合物の構造式を以下に示す。
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
上記アゾ化合物は、その1種を単独で又は2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明のめっき浴中の(C)成分の濃度は、0.01〜1,000mg/Lが好ましく、特に0.05〜50mg/Lが好ましい。濃度が低すぎると、表面の析出抑制力が不足するため、相対的にスルーホール内の析出速度が速くならないのでスルーホールを充填することができないことがあり、濃度が高すぎると、表面だけではなくスルーホール内の析出も抑制するためスルーホールを充填することができないことがある。
【0037】
[(D)成分]
本発明の電気銅めっき浴は、(D)成分として硫酸銅五水和物を含有する。(D)成分の硫酸銅五水和物の濃度は、30〜300g/Lであることが好ましく、より好ましくは、100〜250g/Lである。
【0038】
[(E)成分]
本発明の電気銅めっき浴は、(E)成分として硫酸を含有する。(E)成分の硫酸の濃度は、20〜300g/Lであることが好ましく、より好ましくは、20〜150g/Lである。
【0039】
[(F)成分]
本発明の電気銅めっき浴は、(F)成分として塩化物イオンを含有する。塩化物イオンを供給する化合物としては、塩酸、塩化ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。(F)成分の塩化物イオンの濃度は、10〜300mg/Lであることが好ましく、より好ましくは、20〜200mg/Lである。
【0040】
本発明の電気銅めっき浴を用いれば、電気銅めっき方法によってスルーホールフィリングを行うことができる。つまり、電気銅めっきの析出物(銅)でスルーホールを充填することができる。
【0041】
図2は、本発明の電気銅めっき方法を用いたスルーホールフィリングによるスタックドビアの作製工程の一例を示す模式図である。まず、スルーホールに化学銅めっきをした後、上記電気銅めっき浴を用いて電気銅めっき方法によるスルーホールフィリングめっき4を行う(図2A)。更に樹脂1を積層し、ビアホールを形成する(図2B)。ビアホールに化学銅めっきをした後、ビアフィリングめっき2をして回路を形成する(図2C)。そして、上記の樹脂積層、ビアホール形成、化学銅めっき、ビアフィリングめっき、回路形成を繰り返すことで、スタックドビアが形成される(図2D)。
【0042】
上記スルーホールフィリングを行う際の電気銅めっき条件として、陰極電流密度は、0.5〜5A/dm2が好ましく、1〜3A/dm2がより好ましい。陰極電流密度が大きすぎると、ボイドが発生することがある。
【0043】
本発明の電気銅めっき方法においては、アノードは可溶解性(含リン銅)であっても不溶解性であってもよい。撹拌は、揺動、特に円揺動であることが好ましく、必要に応じてエアー撹拌、機械的撹拌等を併用することが好ましい。めっき温度(浴温)は、20〜30℃が好ましく、22〜28℃がより好ましい。
【0044】
本発明の電気銅めっき方法によるスルーホールフィリングが可能なスルーホールの孔径やアスペクト比は、めっき膜厚にもよるが、孔径0.05〜0.1mm、アスペクト比1.0〜4.0の範囲が好適である。
【0045】
本発明の電気銅めっき方法によれば、ビアフィリングを行うこともできる。つまり、電気銅めっきの析出物(銅)でビアホールを充填することができる。ビアフィリングを行う場合の電気銅めっき条件は、上記スルーホールフィリングを行う際の電気銅めっき条件と同じでよい。また、本発明の電気銅めっき方法によるビアフィリングが可能なビアホールの孔径、深さ及びアスペクト比は、めっき膜厚にもよるが、孔径20〜150μm、深さ30〜80μm、アスペクト比0.2〜0.8の範囲が好適である。
【0046】
更に、本発明の電気銅めっき方法によれば、スルーホールフィリングとビアフィリングを同時に行うこともできる。図3は、スルーホールフィリングとビアフィリングを同時に行う場合の工程の一例を示す模式図である。まず、コア材となる基板(樹脂1)に化学銅めっき2を行い、更に樹脂1を積層し回路を形成した後、ビアホール及びスルーホール5を形成する(図3A)。次に、化学銅めっきを施した後、上記の電気銅めっき方法と同様の方法によって電気銅めっきを行うことで、スルーホール及びビアフィリングめっき4を同時に行うことができる(図3B)。
【0047】
上記スルーホールフィリングとビアフィリングを同時に行う場合の電気銅めっき条件は、上記スルーホールフィリングを行う際の電気銅めっき条件と同じでよい。また、上記スルーホールフィリングとビアフィリングを同時に行う場合、フィリング可能なスルーホールやビアホールの孔径等は、それぞれ上記と同じ範囲が好適である。
【0048】
本発明の電気銅めっき方法によれば、ボイドやシームがなく、スルーホールやビアホールを銅めっき析出物で完全に充填することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0050】
[硫酸銅めっき浴の調製]
下記表1記載の組成になるように、硫酸銅めっき浴(a−1、a−2、b、c−1、c−2、c−3)を調製した。
【0051】
【表1】

1)SPS:ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド二ナトリウム塩
2)PEG#6000:ポリエチレングリコール(和光純薬工業(株)製)
3)AABS:4−アミノアゾベンゼン−4’−スルホン酸ナトリウム
【0052】
[実施例1−3、比較例1−3]
表1記載の硫酸銅めっき浴(a−1、a−2、b、c−1、c−2、c−3)を用いて、孔径0.1mmのスルーホールを有する0.1mm厚のPC基板を常法により前処理し、化学銅めっきを行った後、下記条件にて電気銅めっきを行った。
めっき浴温度:25℃
陰極電流密度:1.5A/dm2
めっき時間:90分(表面膜厚30μm)
円揺動:r=15mm、回転数20rpm
【0053】
上記めっき後、スルーホール(TH)の断面を金属顕微鏡によって観察した。顕微鏡観察結果を図4に、評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
[実施例4−6]
表1記載の硫酸銅めっき浴(c−1、c−2、c−3)を用いて、孔径0.1mmのスルーホールを有する0.2mm厚のPC基板を常法により前処理し、化学銅めっきを行った後、下記条件にて電気銅めっきを行った。
めっき浴温度:25℃
陰極電流密度:1.5A/dm2
めっき時間:90分(表面膜厚30μm)
円揺動:r=15mm、回転数20rpm
【0056】
上記めっき後、スルーホール(TH)の断面を金属顕微鏡によって観察した。顕微鏡観察結果を図5に、評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
[実施例7−9]
表1記載の硫酸銅めっき浴(c−1、c−2、c−3)を用いて、孔径150μm、深さ80μmのビアホールを有する基板、及び孔径120μm、深さ80μmのビアホールを有する基板を常法により前処理し、化学銅めっきを行った後、下記条件にて電気銅めっきを行った。
めっき浴温度:25℃
陰極電流密度:1.5A/dm2
めっき時間:90分(表面膜厚30μm)
円揺動:r=15mm、回転数20rpm
【0059】
上記めっき後、ビアホールの断面を金属顕微鏡によって観察した。顕微鏡観察結果を図6に、評価結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【符号の説明】
【0061】
1 樹脂
2 積層銅、ビアフィリングめっき皮膜、又はふためっき皮膜
3 ペースト剤
4 スルーホールフィリングめっき、又はスルーホール及びビアフィリングめっき
5 スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)〜(3)
【化1】

(上記式(1)〜(3)中、R1は水素原子、又は−Sm−(CH2n−Ok−SO3Mで示される基であり、Mは水素原子、又はアルカリ金属である。R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基である。mは0又は1であり、nはそれぞれ独立に1〜8の整数であり、kはそれぞれ独立に0又は1である。)
で示される硫黄化合物から選ばれる1種又は2種以上、
(B)エーテル結合(−O−)を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物、
(C)下記式(4)
【化2】

(上記式(4)中、Rは、それぞれ独立にハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3Mで示される基である。Mは水素原子又はアルカリ金属である。aは0〜4の整数である。)
で示される基を有するアゾ化合物から選ばれる1種又は2種以上、
(D)硫酸銅五水和物、
(E)硫酸、及び
(F)塩化物イオン
を含有することを特徴とする電気銅めっき浴。
【請求項2】
上記(A)成分が、下記式
【化3】

で示される硫黄化合物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の電気銅めっき浴。
【請求項3】
上記(B)成分が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びこれらのコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、及びポリエチレングリコールアルキルエーテルから選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載の電気銅めっき浴。
【請求項4】
上記(C)成分が、下記式(5)〜(8)
【化4】

(上記式(5)〜(7)中、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数4〜20のアリール基又は複素環基であり、その炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、炭素数1〜10のヒドロキシル基で置換されていてもよいアルキルアミノ基、炭素数6〜14のアリールアミノ基、ベンズアミド基、ベンゾチアゾール基、又は−SO3Mで示される基から選ばれる1種又は2種以上の基で置換されていてもよい。R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、又は−SO3Mで示される基である。Mは水素原子又はアルカリ金属である。上記式(8)中、Aはそれぞれ上記式(5)〜(7)で示される化合物から炭素原子に結合する水素原子を1つ除いた構造の基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
で示されるアゾ化合物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気銅めっき浴。
【請求項5】
上記(C)成分が、ブリリアントクロセイン、ダイレクトレッド80、アシッドブラウンM、アシッドレッド170、ソルベントレッド19、ソルベントレッド23、ソルベントレッド24、ソルベントレッド25、ソルベントレッド26、アシッドレッド47、アシッドレッド56、アシッドレッド66、アシッドレッド70、アシッドレッド71、アシッドレッド112、アシッドレッド115、アシッドレッド116、アシッドレッド142、アシッドレッド148、アシッドレッド150、アシッドレッド151、アシッドレッド351、アシッドイエロー105、アシッドブラウン14、アシッドブラウン15、アシッドブラウン213、モルダントブラウン1、モルダントブラック25、ダイレクトレッド81、ダイレクトバイオレット9、ダイレクトブラウン80及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項4記載の電気銅めっき浴。
【請求項6】
スルーホールを有する被めっき物を請求項1乃至5のいずれか1項記載の電気銅めっき浴に浸漬し、この被めっき物を陰極として電気めっきを行い、スルーホールフィリングを行うことを特徴とする電気銅めっき方法。
【請求項7】
ビアホールを有する被めっき物を請求項1乃至5のいずれか1項記載の電気銅めっき浴に浸漬し、この被めっき物を陰極として電気めっきを行い、ビアフィリングを行うことを特徴とする電気銅めっき方法。
【請求項8】
スルーホールとビアホールとを有する被めっき物を請求項1乃至5のいずれか1項記載の電気銅めっき浴に浸漬し、この被めっき物を陰極として電気めっきを行い、スルーホールフィリングとビアホールフィリングを同時に行うことを特徴とする電気銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−21202(P2012−21202A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161415(P2010−161415)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】