説明

電気鋳造方法とこの方法によって得られた部品または層

【課題】 カドミウムを含有しない金、亜鉛、銅ベースの合金製の数100μmの厚さの部品あるいは層を電気鋳造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、電気鋳造する方法で製造した、88〜94重量%の金と、X(2と4の間の数)重量%の銅と/または銀と、2X重量%の亜鉛とを有する金合金の部品である。金合金の層を電気鋳造する本発明の方法は、(A)金属基板をアノードを含むアルカリ電解浴内に浸すステップと、(B)前記基板の表面上に金属製イオンを堆積するために、アノードとカソードの間に電圧を生成することにより、前記層を電気鋳造するステップと、(C)88〜94重量%の金を含有する層を生成するために、電気メッキされた層が所定の厚さに達した時に、電圧を切るステップとを有する。前記浴は、シアン化金カリウムの形態の金塩と、シアン化銅の形態の銅塩と、酸化亜鉛の形態の亜鉛塩と、シアン化ナトリウムと、水酸化ナトリウムと、エチレンジアミン四酢酸と、表面活性剤と、を含み、前記基板は、カソードを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、銅と/または銀を含む金ベースの合金から、部品あるいは層を形成する電気鋳造方法と、この方法により得られた部品または層に関する。特に本発明は、300μmのオーダの厚さの合金の層を、基板上に堆積する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金と銅に加えてカドミウムを含有するアルカリ性の電気浴(alkaline galvanic bath)内の電気分解により金合金の電気メッキ方法は公知である。カドミウムは、毒性金属であるので、様々な法律がカドミウムの使用を禁じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】スイス特許第680927号明細書
【0004】
この種の問題を解決するために、特許文献1は、従来の金合金(Au、Cu、Cd)の電解析出方法(electrolytic deposition method )において、カドミウムを亜鉛で置換する方法を、既に提案している。
【0005】
しかし、この方法は、10μmオーダの厚さの金亜鉛銅合金の層の堆積を開示するのみである。さらにまた、特許文献1は、堆積された最終合金の組成に関しては、詳細な情報を開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カドミウムを含有しない金、亜鉛、銅ベースの合金の数100μmの厚さの部品あるいは層を、電気鋳造する方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、良好なレベルの延性を維持しながら、硬度を改善したこの種の層を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は、88〜94重量%の金と、X(2と4の間の数)重量%の銅と/又は銀と、2X重量%の亜鉛とを有する金合金の層を電気鋳造する方法であり、この方法は、
(A)金属基板をアノードを含むアルカリ電解浴内に浸すステップと、
前記浴は、シアン化金カリウムの形態の金塩と、シアン化銅の形態の銅塩と/又は酸化銀の形態の銀塩と、酸化亜鉛の形態の亜鉛塩と、シアン化ナトリウムと、水酸化ナトリウムと、酸(例えば、エチレンジアミン四酢酸)と、表面活性剤と、を含み、前記基板が、カソードを形成し、
(B)前記基板の表面上に金属製イオンを堆積するために、アノードとカソードの間に電圧を生成することにより、前記層を電気鋳造するステップと、
(C)電気メッキされた層が所定の厚さに達した時に、電圧を切るステップと、
を有する。
【0009】
好ましくは、電圧は、前記(B)ステップの間変動させる。これにより、堆積時に、層の中に非均質相のαゴールドの結晶を生成する。この均質性の欠如により、結晶の超格子構造により堆積層の表面欠陥を減らす。
【0010】
本発明の一実施例によれば、アノードとカソードの間の電圧を、前記(B)ステップの最終段階で減らし、堆積した層の表面領域内の金の濃度を増加させ、堆積した層の金色を強調する。
【0011】
本発明の他の態様においては、前記(B)ステップの後、少なくとも30分間、300℃から700℃の間の熱アニール・プロセスを行い、その後急冷(rapid quenching)する。
【0012】
この点に関し、熱アニール・プロセスの温度は、AuZnの状態図(phase diagram)の「液相線」の温度カーブを、如何なる状況においても、超えてはならない。その理由は、液相から共融凝固(eutectic solidification)の間、α相とβ’相の2つの相での固化を引き起こし、冷却後、機械特性に目立った劣化を起こすことになる。この処理の間、この層の結晶構造は、部分的に均質化し、その後、急速硬化により形成プロセスで固化する。これにより、中間のα1またはα2の結晶相が、目的とする合金に対し、形成されるのを阻止する。
【0013】
本発明の方法は、電気鋳造された金合金部品に関し、この金合金は、88〜94重量%の金と、X(2と4の間の数)重量%の銅と/または銀と、2X重量%の亜鉛とを含有する金合金である。
【0014】
本発明の一実施例によれば、本発明の合金は、金を88重量%、亜鉛を8重量%、銅を4重量%含む。
【0015】
電気鋳造は、40℃から80℃の間の温度で行われる。
【0016】
本発明の一実施例によれば、使用される表面活性剤は、ポリグリコール・アルキルアルコール(polyglycol alkyl alcohol)のリン酸エステル(phosphatic ester)である。
【0017】
本発明の方法によれば、電気分解は、pHが8と10の間のアルカリ性の電気浴内で行われる。具体的には、電気浴は、シアン化金カリウムの形態で金を約7〜15g/l酸化亜鉛の形態で亜鉛を1.5〜5g/lを含み、シアン化銅あるいは酸化銀の形態で銅あるいは銀を1.5〜3g/l含み、シアン化ナトリウム、水酸化ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(ethylenediamino tetra-acetic acid)と、そのカリウム塩と表面活性剤とを含む。
【0018】
この電気分解ステップの後に、少なくとも300℃で少なくとも30分間熱処理を行う。この熱処理は、酸化亜鉛を還元すために還元性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0019】
好ましくは、電気浴はさらに増白剤を含む。この増白剤は、好ましくは、次亜リン酸カリウム(potassium hypophosphite)又はセレノシアン酸カリウム(potassium selenocyanate)と結合した酒石酸アンチモンカリウム(potassium antimony tartrate)である。
【0020】
表面活性剤は、好ましくは、ブチル又はノニル・フェノール・ポリグリコール、フォスファチド・エステル(butyl or nonyl phenol polyglycol phosphatide ester)である。
【0021】
電気分解は、pHが8と10の間の電気浴内で、温度が60℃と75℃の間で行うのが、好ましい。
【0022】
電気分解は、1.0A.dm−2の電流密度で行う。
【0023】
電気分解の後に熱処理を行う。この熱処理は、温度が300℃以上で30分から1時間行う。この熱処理は急速空気冷却を含む。これは、例えば、帯状の炉(band furnace)中で行う。この熱処理は還元性雰囲気で行う。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の一実施例による電解析出方法とその準備方法を説明する。
【0025】
この堆積例は、18カラットの金合金で、毒性金属または毒性メタロイド、特にカドミウムを含有せず、淡黄色が2Nで、硬さが200と300HV0.005の間で、40〜350μmの厚さにおいて延性があり、優れた光沢と高いレベルの耐磨耗性と耐変色性がある。
【0026】
この堆積は、電解浴(electrolytic bath)内の電気分解により行われ、その後、300℃で30分間還元性雰囲気の熱処理を行う。
【0027】
電気分解は、以下の組成を含む電解浴内で行われる。
例:
KAu(CN)の形態のAu:11g.1−1
CuCNの形態のCu:2.5g.1−1
ZnOの形態のZn:2.5g.1−1
NaCN:20g.1−1
NaOH:5.5g.1−1
KHCO:5g.1−1
[EDTA]:5g.1−1
[EDTA]:5g.1−1
pH:8
温度:70℃
電流密度:1A.dm−2
湿潤剤:0.2mg.1−1 フォスファチド・ブチル・フェノール・ポリグリコール・エステル(phosphatide butyl phenol polyglycol ester)
セレノシアン酸カリウム:10mg/l−1
EDTA=エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminotetraacetic acid)
【0028】
この実施例においては、電解浴は、断熱性のポリプロピレン製あるいはPVC製の容器内に入れられるが、pHが8と10の間で、温度が70℃である。浴は、水晶、PTFE、磁器、安定化したステンレス製の投入電熱器(immersion heater:直接水中に入れて湯を沸かす電熱器)により加熱する。浴は、20℃で16〜30g.cm−3の密度を有する。良好なカソードロッドの移動と電解質の流れを維持しなければならない。アノードは、プラチナめっきのチタンあるいはステンレス・スティールである。
【0029】
電気分解は、電流が1〜2A.dm−2で行われる。この条件により、速度が0.5μm.分−1で、100mg.A.分−1cm−2のカソード効率を提供できる。
【0030】
本発明の変形例として、浴は、微量の銀(trace of silver)と以下の金属を含んでもよい。In、Cd、Zr、Se、Te、Sb、Sn、Ga、As、Sr、Be、Bi。
【0031】
さらに湿潤剤は、アルカリ・シアン化媒体中で湿式できるいかなる種類の物でよい。
【0032】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
88〜94重量%の金と、X重量%の銅と/または銀と、2X重量%の亜鉛とを有する金合金の層を電気鋳造する方法において、Xは2と4の間の数であり、
(A)金属基板をアノードを含むアルカリ電解浴内に浸すステップと、
前記浴は、シアン化金カリウムの形態の金塩と、シアン化銅の形態の銅塩と/又は酸化銀の形態の銀塩と、酸化亜鉛の形態の亜鉛塩と、シアン化ナトリウムと、水酸化ナトリウムと、酸と、表面活性剤と、を含み、前記基板は、カソードを形成し、
(B)前記基板の表面上に金属製イオンを堆積するために、アノードとカソードの間に電圧をかけることにより、前記層を電気鋳造するステップと、
(C)電気メッキされた層が所定の厚さに達した時に、電圧を切るステップと、
を有する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電圧は、前記(B)ステップの間、変動させる
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記電圧は、前記(B)ステップの最終段階に、減少させ、
これにより、堆積した層の表面領域の金の濃度を増加させる
ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記Bステップの後、
(X)420℃と700℃の間で、少なくとも30分熱アニールと、
(Y)急速硬化と
を行う
ことを特徴とする請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記表面活性剤は、ブチル・フォスファチドあるいはノニル・フェノール・ポリグリコール・エステルである
ことを特徴とする請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記(B)ステップは、40℃と80℃の間の温度で行われる
ことを特徴とする請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
電気鋳造方法で製造され、88〜94重量%の金と、X(2と4の間の数)重量%の銅と/または銀と、2X重量%の亜鉛とを有する
ことを特徴とする金合金製の電子部品。
【請求項8】
前記合金は、88重量%の金と、8重量%の亜鉛と、4重量%の銅から形成される
ことを特徴とする請求項7記載の電子部品。
【請求項9】
前記合金中の金は、α相の金で形成される
ことを特徴とする請求項7又は8記載の電子部品。


【公表番号】特表2010−506040(P2010−506040A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530878(P2009−530878)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060506
【国際公開番号】WO2008/040761
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(506407051)ザ スウォッチ グループ リサーチ アンド ディベロップメント リミティド. (17)
【Fターム(参考)】