説明

電気防食用バックフィル及びそれを用いた電気防食構造

【課題】高抵抗環境下においても長期間に亘って電気防食が行え、施工性にも優れる電気防食用バックフィルを提供すること。
【解決手段】本発明の電気防食用バックフィルは、金属塩化物塩及び水溶性高分子を含んでいる。多価アルコールを含んでいることが好ましく、さらに、架橋化剤を含んでいることが好ましい。前記金属塩化物塩は、塩化マグネシウムが好ましく、前記水溶性高分子はポリビニルアルコールが好ましく、前記多価アルコールはグリセリンが好ましく、前記架橋化剤はホウ砂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物や土壌等の高抵抗環境にある金属構造物の電気防食に用いられるバックフィル、及びそれを用いた鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌、淡水等の高抵抗環境下にある金属構造物を電気防食する場合、陽極近傍の抵抗が高いため、外部電源方式では印加電圧の上昇、流電陽極方式では陽極発生電流の減少が避けられず、長期に亘り所要の防食電流を維持することが困難になることが多い。このようなことから、高抵抗環境下にある金属構造物に対する電気防食では、陽極の近傍の抵抗を下げることを目的として、陽極の周囲にバックフィルが設置される。従来、このバックフィルには、外部電源方式ではコークス、流電陽極方式ではベントナイト(Al23・mSiO2・nH2O)、石膏(CaSO4・H2O)及び芒硝(NaSO4)の混合物が使用されている。
【0003】
流電陽極方式に使用されるベントナイト系のバックフィルは、陽極の接地抵抗の低減や陽極表面の不動態化を抑制する効果があるが、これらの効果を維持するためには、長期に亘って保水性を維持することが重要である。しかし、陽極の周囲が著しい乾燥状態にある環境下では、バックフィルに取り入れた水分が周辺環境に逸散してバックフィルの抵抗率の増大をきたし、その結果、陽極の電位上昇による発生電流の低減が生じ、防食効果が得られなくなる場合がある。
【0004】
また、土壌等の環境以外に流電陽極方式の電気防食においてバックフィルを使用する高抵抗環境として、鉄筋コンクリート構造物が挙げられる。鉄筋コンクリート構造物は、セメントのpHが12〜13と高く、鉄筋の表面には不動態皮膜が形成されるため、半永久的に腐食は生じないと考えられていた。しかしながら、コンクリート中の砂、砂利等の骨材成分に含まれる塩化物や飛来海塩粒子等の塩化物が徐々にコンクリート中に浸透し、鉄筋表面の保護皮膜を破壊して鉄筋に腐食が生じる。この腐食生成物の増大によって、コンクリート構造物のひび割れや破壊が起こる。近年、港湾コンクリート構造物の劣化が大きな社会問題となっており、補修や建て替えの必要性に迫られている。これらの既設鉄筋コンクリート構造物に対する効果的な防食対策としては、電気防食法が挙げられる。
【0005】
電気防食は、陽極から防食電流を流すための電解質及び水分の存在が不可欠である。一般にコンクリートの導電性は極めて低く、水分の存在が大きく影響する。その抵抗率は環境によって様々で数千Ω・cmから数十万Ω・cmに亘っており、このようなコンクリートの導電性を高めることは容易でない。従って、このような高抵抗環境下において効果的に電気防食を行うには、陽極の性能低下、すなわち陽極表面の不動態化を最小限に抑えることが重要である。
【0006】
その手段としては、陽極周囲にバックフィルを設置して陽極の接地抵抗の低下と電気化学的特性の向上を図り、陽極から十分に電流を発生させる方法がある。鉄筋コンクリート構造物の電気防食用のバックフィルとしては、下記特許文献1に示されるベントナイト、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム及び塩化マグネシウムを混合したものが用いられてきた。
【0007】
また、実構造物への取付け方法は、通常下記特許文献2に示されるような保護板、保水板、陽極板とバックフィルが一体的に積層された状態で、コンクリート面にアンカーボルトを用いて取り付けられる。
【0008】
ところで、これまでの流電陽極部材をコンクリート構造物に取付ける方法においては、以下の課題を有していた。
(1)従来バックフィルは、初期の保水性は高いが、一度離水をすると再び吸水することがないため、陽極電位を上昇させ、防食効果の低下を引き起こしていた。
(2)通常使用されている流電陽極部材は、800×800mmの寸法形状のものであり、質量は約30kgである。このうち、バックフィルの質量が総質量の約半分に相当する15kgである。この流電陽極部材を2〜3人がかりで鉄筋コンクリート構造物の天井面や壁面に押さえ付けながらアンカーボルトで締め付けているが、仮設足場上の限られたスペースでの作業となるため、多大な時間と労力を要していた。
(3)従来のバックフィルは、流動性が低いため、流電陽極部材をコンクリート面に設置した後、バックフィルを注入するときに充填不良が生じる場合があった。
【0009】
【特許文献1】特許第2711455号公報
【特許文献2】特公平5−72476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、高抵抗環境下においても長期間に亘って電気防食が行え、施工性にも優れる電気防食用バックフィル及びそれを用いた鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属塩化物塩及び水溶性高分子を含んでいる電気防食用バックフィルを提供することにより、前記目的を達成したものである。
また、本発明は、上記本発明の電気防食用バックフィルを用いた鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造であって、鉄筋コンクリート構造物のコンクリートの表面に、前記電気防食用バックフィルからなるバックフィル層が配設され、該バックフィルの外側に陽極が配設され、前記陽極と前記鉄筋コンクリート構造物の鉄筋とが短絡されている、鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気防食用バックフィルは、高抵抗環境下においても長期間に亘って電気防食が行え、施工性にも優れている。また、本発明の鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造によれば、長期間に亘って好適に鉄筋コンクリート構造物の電気防食を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、その好ましい実施の形態に基づいて説明する。
本発明の電気防食用バックフィル(以下、単にバックフィルともいう。)は、金属塩化物塩及び水溶性高分子を含んでいる。
【0014】
前記金属塩化物塩は、抵抗率を減少させ、陽極の表面を活性な状態にして低電位を維持させる効果があるだけでなく、吸湿性も有している。このような作用のある金属塩化物塩としては、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウムなどが挙げられる。金属塩化物塩は、これらの中から1種又は2種以上を選択して使用することができるが、その中でも低電位化の効果が高い点から塩化マグネシウムが好ましい。金属塩化物塩以外にも硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウムなどの金属硫酸塩、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウムなどの金属硝酸塩も単独又は混合(金属塩化物塩への添加も含む)したものでも同様の作用が得られるが、陽極電位の長期安定性やコストの面から金属塩化物塩の使用が最も適している。
【0015】
本発明のバックフィルにおいて、金属塩化物塩の電解液の濃度は、陽極電位が低電位となるように設定される。金属塩化物塩は、水溶液濃度で0.1〜36質量%添加することが好ましい。金属塩化物塩の添加量が多いと陽極電位は低電位となり、少ないと高電位となる。
【0016】
前記水溶性高分子は、電解質水溶液をゲル化させる作用があり、前記金属塩化物塩の電解質水溶液を陽極の表面に固定化し、周囲の環境(土壌やコンクリート)へ逸脱させないようにするのに用いられる。斯かる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(以下、PVAと記す。)、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、ゼラチン、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアミン、ポリビニルピロリドンがある。これらの中から1種又は2種以上を選択して使用することができるが、ゲル化作業が容易である点やコストの点からPVAが最も適している。
【0017】
本発明のバックフィルにおいては、前記金属塩化物塩100質量部に対し、前記水溶性高分子を2.8〜17000質量部含んでいることが好ましい。水溶性高分子の添加量が多いとゲルが硬くなり過ぎ流動性が低下する、少ないとゲル化しないため、水分が陽極周辺に容易に散逸してしまう。金属塩化物塩として塩化マグネシウム、水溶性高分子としてPVAを選択した場合には、塩化マグネシウム100質量部に対し、PVAを5.6〜13000質量部含んでいることが好ましい。
【0018】
本発明のバックフィルには、多価アルコールを含ませることが好ましい。陽極電位を長期的に安定させ、低接地抵抗を維持するためには、バックフィル外への水分の逸脱を抑制する必要がある。多価アルコールは、水分を保持する作用に加え、バックフィルに弾力性も付与するので好ましい。多価アルコールを含ませたときのバックフィルの抵抗率は、電気防食システムの耐用年数や設置場所の気温変化に応じて設定されるが、長期の陽極電位の安定性を考慮すると、40〜560Ω・cmが好ましく、40〜350Ω・cmがより好ましい。
【0019】
本発明のバックフィルに用いられる多価アルコールとしては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレンアルコール等が挙げられる。多価アルコールは、これらの中から1種又は2種以上を選択して使用することができるが、長期保水性の面でグリセリンが最も適している。バックフィルの弾力性をさらに上げる必要がある場合には、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク等の公知の充填剤を添加すると効果が得られる。
【0020】
本発明のバックフィルにおいては、前記金属塩化物塩及び前記水溶性高分子の合計100質量部に対し、前記多価アルコールを4〜590質量部含んでいることが好ましい。多価アルコールの含有量が多いとバックフィルの弾力性が増加する反面で抵抗率は増加し、少ないと抵抗率は減少するがやわらかくなる。金属塩化物塩として塩化マグネシウム、水溶性高分子にとしてPVA、多価アルコールとしてグリセリンを選択した場合には、塩化マグネシウム及びPVAの合計100質量部に対し、グリセリンを11〜490質量部含んでいることが好ましい。
【0021】
本発明のバックフィルには、架橋化剤を含ませることが好ましい。架橋化剤を含むバックフィルをゲル化させることによって、その強度を高めることができる。よって、バックフィルを土壌に埋設したときや、コンクリート面に設置したときに、周囲の土壌やコンクリート構造物の伸縮によって外力を受けた場合でも一定の保形性が維持される。架橋化剤を含ませてゲル化したときのバックフィルの強度は、気温、設置対象部位(壁面、天井面、土壌内など)や設置面の凹凸状況に応じて設定されが、取り付けの作業性やコスト等を考慮すると、3.4×10-6〜4.5×10-6Paが好ましく、3.9×10-6〜4.3×10-6Paがより好ましい。ここで、バックフィルの強度は、架橋化剤を含ませてゲル化したバックフィルをダンベルカッター(JIS K6251−1)を用いて切り出し、試験片とし、0.7mm/minの速度で一軸延伸したときに得られる応力-ひずみ曲線の初期勾配より求められるヤング率で評価される。
【0022】
本発明のバックフィルに用いられる架橋化剤としては、ホウ砂、ホウ酸、テトラエチルオルトチタネート、オルトリン酸、硫酸カリウムアルミニウム等が挙げられる。これらの中でも安価で入手可能であるホウ砂が好ましい。なお、ホウ砂が強度を上昇させるメカニズムとしては、電離して生じる正四面体構造のB(OH)4-がPVAの水酸基と水素結合して3次元構造をとるためと考えられている。
【0023】
本発明のバックフィルにおいては、前記金属塩化物塩及び前記水溶性高分子の合計100質量部に対し、架橋化剤を0.07〜19.6質量部含んでいることが好ましい。架橋化剤の含有量が多すぎると、バックフィルは短時間で強度が増加するものの硬くなり過ぎ、少なすぎると架橋が生じず、強度の増加は見られない。金属塩化物塩として塩化マグネシウム、水溶性高分子としてPVA、架橋化剤としてホウ砂を選択した場合には、塩化マグネシウム及びPVAの合計100質量部に対し、ホウ砂を0.11〜19.6質量部含んでいることが好ましい。また、金属塩化物塩として塩化マグネシウム、水溶性高分子としてPVA、多価アルコールとしてグリセリン、架橋化剤としてホウ砂を選択した場合には、塩化マグネシウム、PVA及びグリセリンの合計100質量部に対し、ホウ砂を0.07〜14.1質量部含んでいることが好ましい。
【0024】
本発明のバックフィルは、前述の電解液の濃度に応じて、含水率が設定される。好ましい含水率は、28〜95質量%であり、より好ましくは35〜81質量%である。
【0025】
次に、本発明のバックフィルの製造方法について説明する。
先ず、前記金属塩化物塩の電解液を調製する。電解液の溶媒には水が用いられる。
電解液を調製する際には、溶媒を加熱して金属塩化物塩を完全に溶解させることが好ましい。金属塩化物塩として塩化マグネシウム、溶媒に水を選択する場合には、水を80〜95℃に加熱した状態で塩化マグネシウムを溶解させることが好ましい。
【0026】
次に、調製した前記金属塩化物塩の電解液に前記水溶性高分子を添加する。水溶性高分子を電解液に添加する際には、溶解時間の短縮と水溶性高分子の溶け残りを防止する点から電解液を加熱した状態を維持して添加することが好ましい。
【0027】
前記多価アルコール又は/及び前記架橋化剤を含ませる場合には、前記水溶性高分子が完全に溶解した後に含ませることが好ましい。
【0028】
次に、前記多価アルコール又は/及び前記架橋化剤が溶解した後、温度を下げてゲル化させて所望の強度を有するバックフィルを得る。
【0029】
このようにして得られた本発明のバックフィルは、水溶性高分子によって所望の抵抗率を有し、水分が長期に亘って保持され且つ流動性にも優れているため、高抵抗環境下においても長期間に亘って電気防食が行える。また、軽量であり、所望の流動性に加え、多価アルコールや架橋化剤の添加によって所望の弾力性や強度を付与できるので、施工性にも優れている。
【0030】
次に、本発明の鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造(以下、単に電気防食構造ともいう。)の一実施形態について説明する。
本実施形態の電気防食構造は、図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリート2の表面に前記電気防食用バックフィルからなるバックフィル層3を有し、バックフィル層3の外側に陽極4を有し、陽極4の外側に保護カバー5を有し、陽極4と鉄筋コンクリート構造物の鉄筋(図示せず)とが短絡されているものである。
バックフィル層3以外の、陽極、保護カバーには、従来からこの種の電気防食構造に使用されている通常のものを特に制限なく使用することができる。
【0031】
本実施形態の電気防食構造の施工手順に特に制限はないが、前記バックフィルの特性を考慮すれば、以下のように施工することが好ましい。
【0032】
先ず、アルミニウム板や亜鉛板等の板状の陽極の表面に、前記バックフィルを所定量塗布して前記バックフィル層3を形成する。次に、バックフィル層3を防食対象となる鉄筋コンクリート構造物1のコンクリート2の表面側に向けて、当該コンクリート2の表面に陽極4を突き合わせるように設置する。そして、さらに陽極4の外側を保護カバー5で被覆し、これらをリベットやアンカーボルト等の固定具(図示せず)によって該コンクリート1に固定する。固定具による固定方法は従来からこの種の電気防食構造に使用されている通常の手法を採用することができる。固定具による固定後、前記コンクリート内の鉄筋と前記陽極とを短絡させて防食回路を形成し、電気防食を行うことができる。
【0033】
あるいは、予めコンクリートの表面に所定の隙間を設けて陽極を設置し、該隙間に前記バックフィルを注入してバックフィル層を形成することもできる。
【0034】
本実施形態の電気防食構造は、前記バックフィルが、水溶性高分子によって所望の抵抗率を有し、水分が長期に亘って保持され且つ流動性にも優れているため、長期間に亘って好適に鉄筋コンクリート構造物の電気防食を行うことができる。また、本実施形態の電気防食構造は、前記バックフィルが軽量で、流動性に加えて弾力性や強度を付与できるものであるため、従来のバックフィルに比べて施工性に優れている。
【0035】
本発明は、前記各実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0036】
例えば、前記実施形態の電気防食構造では、陽極を保護カバーで被覆したが、保護カバーは、防食の対象となる構造物の設置環境に応じて省略することもできる。
【0037】
前記実施形態では、本発明のバックフィルを鉄筋コンクリート構造物の電気防食に適用したが、本発明のバックフィルは、土壌中に構築された金属構造物の電気防食の陽極のバックフィルとしても好適である。
【0038】
本発明のバックフィルは、電気防食に通常使用される材質の陽極に対して有効であり、アルミニウム又はその合金、亜鉛又はその合金、マグネシウム又はその合金等の材質の陽極に好適である。
【実施例】
【0039】
塩化マグネシウム、PVA、グリセリン及びホウ砂をそれぞれ表1に示す割合で配合し、実施例1−1〜1−6のバックフィルを調製した。製造方法は以下の手順で行った。
【0040】
〔実施例1−1〕
(1)ガラスビーカーを用い、80〜95℃に加熱した蒸留水あるいは水道水中に塩化マグネシウムを攪拌しながら添加する。
(2)塩化マグネシウムが完全に溶解したのを確認し、PVAを添加する。この間、80〜95℃を維持しながら溶解する。
(3)1時間恒温保持後、50〜60℃に浴の温度を下げて、アクリル製ケース内へ注ぎ、室温で冷却、ゲル化する。
【0041】
〔実施例1−2、1−3〕
(1)ガラスビーカーを用い、80〜95℃に加熱した蒸留水あるいは水道水中に塩化マグネシウムを攪拌しながら添加する。
(2)塩化マグネシウムが完全に溶解したのを確認し、PVAを添加する。この間、80〜95℃を維持しながら溶解する。
(3)PVAが完全に溶解したのを確認し、グリセリンを添加する。
(4)1時間恒温保持後、50〜60℃に浴の温度を下げて、アクリル製ケース内へ注ぎ、室温で冷却、ゲル化する。
【0042】
〔実施例1−4、1−5〕
(1)ガラスビーカーを用い、80〜95℃に加熱した蒸留水あるいは水道水中に塩化マグネシウムを攪拌しながら添加する。
(2)塩化マグネシウムが完全に溶解したのを確認し、PVAを添加する。この間、80〜95℃を維持しながら溶解する。
(3)1時間恒温保持後、ホウ砂を添加する。
(4)1時間恒温保持後、50〜60℃に浴の温度を下げて、アクリル製ケース内へ注ぎ、室温で冷却、ゲル化する。
【0043】
〔実施例1−6〕
(1)ガラスビーカーを用い、80〜95℃に加熱した蒸留水あるいは水道水中に塩化マグネシウムを攪拌しながら添加する。
(2)塩化マグネシウムが完全に溶解したのを確認し、PVAを添加する。この間、80〜95℃を維持しながら溶解する。
(3)PVAが完全に溶解したのを確認し、グリセリンを添加する。
(4)1時間恒温保持後、ホウ砂を添加する。
(5)1時間恒温保持後、50〜60℃に浴の温度を下げて、アクリル製ケース内へ注ぎ、室温で冷却、ゲル化する。
【0044】
【表1】

【0045】
鉄板を埋設したモルタル(かぶり厚さ7cm)の表面に、調製したバックフィルを介してアルミニウムの板状陽極を固定した供試体を作製し、モルタル中の鉄板を対極として10μm/cm2の定電流アノード電解を行った。その結果を図2に示す。
【0046】
〔比較例1〕
バックフィルを表1に示す組成のベントナイト系バックフィルに代えた以外は、実施例1と同様にして供試体を作製し、実施例1と同様にして定電流アノード電解を行った。その結果を図2に示す。
【0047】
図2に示したように、実施例1−1〜1−6のバックフィルを用いたときの180日経過後の電位は、比較例1のバックフィルよりも低電位を示しており、長時間の使用においても優れた陽極性能を維持していることがわかった。
【0048】
〔実施例2〕
亜鉛陽極板による鉄筋コンクリート実構造物について、実施例1−3(表1参照)のバックフィルを使用し、下記のように電気防食を施した。
鉄筋コンクリート構造物の床版の下面に、実施例1−3の内側にバックフィルを塗布し外側に保護板を取り付けた亜鉛陽極板を、アンカーボルト(固定具)で取り付けて固定した。設置面積は10m2であり、800×800mmの防食板を5本/枚のアンカーボルトで10枚取付けた。防食板の構成は外側からFRP製の保護板:3mm、亜鉛陽極板:1mm、バックフィル:10mmとした。そして、鉄筋と亜鉛陽極板とを短絡させて電気防食回路を形成し、電気防食を行った。
【0049】
〔比較例2〕
バックフィルを従来から使用されているベントナイト系バックフィルに代えた以外は、実施例2と同様にして電気防食を行った。
【0050】
実施例2の電気防食の場合には、防食板の重量は16kgであり、比較例2の電気防食の場合には、防食板の重量は21kgであり、5kg(約25%)軽量化することができた。また、防食板の取付け時間は、実施例2の場合には約2時間30分、比較例2の場合には約4時間10分を要し、軽量化により取付け時間を40%短縮することができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物や土壌等の高抵抗環境にある金属構造物の電気防食に好適に用いられる。また電気防食用バックフィルを製造する産業で利用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の電気防食構造の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例による定電流アノード電解の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 鉄筋コンクリート構造物
2 コンクリート
3 バックフィル層
4 陽極
5 保護カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩化物塩及び水溶性高分子を含んでいる電気防食用バックフィル。
【請求項2】
多価アルコールを含んでいる請求項1に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項3】
架橋化剤を含んでいる請求項1又は2に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項4】
前記金属塩化物塩が塩化マグネシウムであり、前記水溶性高分子がポリビニルアルコールである前記請求項1に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項5】
前記多価アルコールがグリセリンである請求項2に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項6】
前記架橋化剤がホウ砂である請求項3に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項7】
前記塩化マグネシウム100質量部に対し前記ポリビニルアルコールを5.6〜13000質量部含んでいる請求項4に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項8】
前記塩化マグネシウム及び前記ポリビニルアルコールの合計100質量部に対し、前記グリセリンを11〜490質量部含んでいる請求項5に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項9】
前記塩化マグネシウム及び前記ポリビニルアルコールの合計100質量部に対し、前記ホウ砂を0.11〜19.6質量部含んでいる請求項6に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項10】
前記塩化マグネシウム、前記ポリビニルアルコール及び前記グリセリンの合計100質量部に対し、前記ホウ砂を0.07〜14.1質量部含んでいる請求項6に記載の電気防食用バックフィル。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の電気防食用バックフィルを用いた鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造であって、
鉄筋コンクリート構造物のコンクリートの表面に、前記電気防食用バックフィルからなるバックフィル層が配設され、該バックフィルの外側に陽極が配設され、前記陽極と前記鉄筋コンクリート構造物の鉄筋とが短絡されている、鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造。
【請求項12】
前記陽極の外側に保護カバーが配設されている請求項11に記載の鉄筋コンクリート構造物の電気防食構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−57015(P2008−57015A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237253(P2006−237253)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000211891)株式会社ナカボーテック (42)
【Fターム(参考)】