説明

電池システム

【課題】電池システムにおいて、電池セルのプルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体の接続状態を簡易な構成で判定する。
【解決手段】第1及び第2の電極端子と導電性の電池容器を備えた電池セルと、一端が第1の電極端子に電気的に接続され且つ他端が電池容器に電気的に接続された第1の抵抗体と、第2の電極端子と他端との間の電圧を計測する電圧計と、第2の抵抗体と、第2の抵抗体を第1の電極端子と第2の電極端子との間に電気的に接続可能なスイッチと、制御装置とを有し、制御装置は、スイッチを開から閉に制御して第2の抵抗体を第1の電極端子と第2の電極端子との間に電気的に接続した場合またはスイッチを閉から開に制御して第2の抵抗体を第1の電極端子と第2の電極端子との間から電気的に非接続とした場合に、電圧の変化を監視することで第1の抵抗体が電池容器と電気的に接続しているか否かを判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体を電池容器に接続した電池セルにおいて、当該抵抗体の接続状態を判定する電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電極板(正極板、負極板)と電解液を収納して電池セルを形成する容器(以下、電池容器という)は、成型容易且つ強度があり、さらに放電または充電により発熱する電池セルの放熱を効果的に行うため熱伝導性の高い金属(合金を含む、例えばアルミニウム合金)を用いた材料で形成されるのが一般的である。
かような金属で形成された電池容器は、電池セルの正極板に塗工される正極活物質および負極板に塗工される負極活物質の材料によっては腐食等し、結果として電池性能を低下させる場合がある。
そこで、当該材料に対応して、電池容器の電位を正極板の電位と同電位または負極板の電位と同電位とすべく、正極板と電池容器とを電気的に接続する抵抗体(プルアップ抵抗体)または負極板と電池容器とを電気的に接続する抵抗体(プルダウン抵抗体)を配置する電池が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−186591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体を配置した電池であっても、電池システム(例えば電気自動車等)に当該電池が組み込まれて使用されると、経年変化や電池システムの振動により、これら抵抗体が物理的または電気的に所定の配置から外れる場合(以下、「断線」という)がある。かように断線してしまうと、プルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体としての機能を果たすことができなくなるため上述した腐食等が生じ、結果として電池性能が低下するのみならず電池システムの故障を誘発してしまう恐れがある。
そこで、本発明は、簡易な構成で上述したプルアップ抵抗体又はプルダウン抵抗体の断線を検知することができる電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するために、本発明の電池システムは、第1の電極端子と、第2の電極端子と、導電性の電池容器とを備えた電池セルと、一端が前記第1の電極端子に電気的に接続され且つ他端が前記電池容器に電気的に接続された第1の抵抗体と、前記第2の電極端子と前記他端との間の電圧を計測する電圧計と、第2の抵抗体と、前記第2の抵抗体を前記第1の電極端子と前記第2の電極端子との間に電気的に接続することができるスイッチと、制御装置とを有し、前記制御装置は、前記制御装置が前記スイッチを開から閉に制御して前記第2の抵抗体を前記第1の電極端子と前記第2の電極端子との間に電気的に接続した場合または前記制御装置が前記スイッチを閉から開に制御して前記第2の抵抗体を前記第1の電極端子と前記第2の電極端子との間から電気的に非接続とした場合に、前記電圧の変化を監視することで、前記第1の抵抗体が前記電池容器と電気的に接続しているか否かを判定することを特徴とする。
【0006】
上記構成により、スイッチを「開」から「閉」、または「閉」から「開」とした場合に、プルアップ抵抗体又はプルダウン抵抗体となる第1の抵抗体と電池容器との配線上で断線が生じているか否かを判定できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電池システムによれば、簡易な構成でプルアップ抵抗体又はプルダウン抵抗体の断線を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態としての電池システム概要図である。
【図2】図1の電池システムにおけるプルアップ抵抗体を使用した電池セル周辺の構造体との電気的接続関係を示す回路詳細図である。
【図3】図2の電池システムの検知動作を示す図である。
【図4】図1の電池システムにおけるプルダウン抵抗体を使用した電池セル周辺の構造体との電気的接続関係を示す回路詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る電池システムは、電池システムに組み込まれる電池セルにその内容物に応じて適宜配置されるプルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体で「断線」が生じたか否かを判定・検知し、適宜制御・処理を行うことを特徴の1つとしている。以下、図面を参照しながら、詳述する。
なお、ここでは、「断線」は、電気配線が所定の配置から物理的に外れた場合のみならず、電気的に外れ電気を通すことができなくなった場合を含むとする。
【0010】
以下、本発明の実施形態の電池システムにつき図面を参照して説明する。図1は電池システム1の構成を示す図である。電池システム1で用いる電池セルCEは、電池システム1の用途に応じて一次電池または二次電池等のいずれの電池でも、また、積層型または捲回型のいずれの電池でも用いることが可能であるが、ここでは電池セルCEの一例として、充放電可能な電池セル、例えば蓄電池であるリチウムイオン二次電池の電池セルを用いて説明する。
具体的には、電池セルCEは、アルミニウム合金で形成された導電性の電池容器に、マンガン酸リチウムを正極活物質とする正極板と、カーボンを負極活物質とする負極板とをセパレータを介して電解液とともに密閉した構成として説明を進める。電池セルCEが当該構成である場合には、上述した電池容器の腐食等を防止するため、プルアップ抵抗体を配置することとなる。
【0011】
電池システム1は、電池モジュール2、電力負荷3、上位制御装置4、表示装置5を備えている。
複数の電池セルCE(CEa〜CEh)からなる組電池と当該組電池の監視制御装置であるBMS(Battery Management System)6とを含む電池モジュール2は、電池システム1の外部から電池システム1の内部へはめ込まれて固定される。モジュールとすることで、電池システム1の外部から容易に交換可能となっている。なお、電力負荷3、上位制御装置4、および表示装置5は電池システム1に予め組み込まれている。また、ここでは、上位制御装置4およびBMS6を併せて単に「制御装置」という場合もある。
ここで、電池システム1は、例えば、電力負荷3である電気モータに車輪を接続したフォークリフトなどの産業車両、電車、または電気自動車などの移動体、並びに電力負荷3である電気モータにプロペラまたはスクリューを接続した飛行機または船などの移動体であってもよい。さらに、電池システム1は、例えば家庭用の電力貯蔵システムや、風車や太陽光のような自然エネルギー発電と組み合わせた系統連系円滑化蓄電システムなどの定置用のシステムであってもよい。すなわち、電池システム1は、組電池を構成する複数の電池セルによる電力の少なくとも放電を利用するシステムであり、また、充放電を利用するシステムであってもよい。
【0012】
電池モジュール2内の組電池は、電池システム1の電力負荷3に電力を供給するものであり、直列接続された電池セルCEa〜CEdからなる第1アームと直列接続された電池セルCEe〜CEhからなる第2アームとが並列に接続されている。なお、以下、各電池セルCEa〜CEhに対応する電圧センサーV1、V2、温度センサーT、回路M等の各構成については、対応する各構成の説明記号の末尾にa〜hを適宜記載し、いずれの電池セルに対応する構成の説明であるかを明示することとする。
組電池を構成する複数の電池セルCEa〜CEhには、電池容器の温度(以下、セル温度という)を計測するための温度センサーTa〜Th、電池セルの正極端子と負極端子との間の電圧(以下、セル電圧という)を計測するための電圧センサーV1a〜V1h、および電池容器の電圧(以下、容器電圧という)を計測するための電圧センサーV2a〜V2hが、各々の電池セルにそれぞれ1つずつ対応して配置されている。
また、各電池セルの正極端子または負極端子の一方と電池容器とを電気的に接続することで後述のプルアップまたはプルダウンを行うとともに、各電池セルに対して公知のセルバランスを行う回路Ma〜Mhが、各々の電池セルにそれぞれ1つずつ対応して配置されている。なお、当該回路Ma〜Mhは公知の回路基板に実装されてもよい。
さらに、各アームには対応する電流センサーが1つ、ここでは第1アームに対して電流センサーIαが、また、第2アームに対して電流センサーIβが配置されており、各アームを流れる電流をそれぞれ計測することができる。また、各アームには、各アームを電力負荷3に対し電気的に接続または非接続とするためのアーム用スイッチが1つ、ここでは第1アームに対してアーム用スイッチSαが、また、第2アームに対してアーム用スイッチSβが配置されている。
上述したセル温度、セル電圧、容器電圧、各アームを流れる電流を計測する各種のセンサーにより計測され且つ出力された計測情報は、後述するBMS6に入力される。
なお、ここでは4つの電池セルが直列接続されて1つのアームを形成し、計2つのアームが並列に接続されている構成としている。しかしながら、各アームに接続される電池セルの個数、さらにはアームの個数は、各々1つであっても各々複数であってもいかようにも設計可能である。
【0013】
BMS6は、2つのCMU(Cell Monitor Unit)、すなわちCMU1およびCMU2と、BMU(Battery Management Unit)とを含んで構成される。
ここで、CMU1およびCMU2は、図示しないADC(Analog Digital Converter)を備えており、上記各種のセンサーが検知して出力する複数の上記計測情報をそれぞれアナログ信号として受け、これらアナログ信号をADCによってそれぞれに対応するデジタル信号に変換した後、BMUが関連情報(上記計測情報に関連した情報であり、BMUにて演算される各電池セルの充電率(SOC)を含む)を算出等するための複数のパラメータとしてBMUへ出力している。そして、本実施形態においては、図1に示すように、各CMUがそれぞれ上記各種のセンサーとバスまたは信号線により接続されている。
なお、図1では、回路Ma〜Mh、電圧センサーV1a〜V1h、及び電圧センサーV2a〜V2hは、便宜上、BMS6とは別個に表示されている。しかしながら、図1において、実際上、これらはBMS6の一部、特にここでは各々に対応するCMUの一部である。
【0014】
上位制御装置4は、ユーザーの指示(例えば、電池システム1が電気自動車の場合には、ユーザーによるアクセルペダルの踏み込み量)に応じて電力負荷3を制御するとともに、BMS6から送信される組電池の関連情報を受信し、表示装置5を制御して、適宜、当該関連情報を表示装置5に表示させる。また、上位制御装置4は、上記関連情報が異常値であると判断した場合には、表示装置5に内蔵された異常ランプを点灯させる等するとともに、表示装置5に内蔵されたブザー等の音響装置を作動させて警報を鳴らし、光と音により視覚および聴覚を刺激してユーザーの注意を促す。
表示装置5は、例えば上記音響装置を備えた液晶パネル等のモニターであり、上位制御装置4からの制御に基づいて組電池を構成する複数の各電池セルCEa〜CEhの上記関連情報の表示等を行うことができる。
電力負荷3は、例えば電気自動車の車輪に接続された電気モータやインバータ等の電力変換器である。電力負荷3は、ワイパーなどを駆動する電気モータであってもよい。
【0015】
では、電池システム1において、後述する各電池セルの「抵抗体接続判定」の制御を行うための構成・動作につき、図1及至図3を用いて詳述する。
まず、図2を用いて、図1の電池セル周辺における構成の電気的接続関係を詳述する。いずれの電池セルCEの周辺でも同様の構成であるので、ここでは、代表的に第1アームの電池セルCEaの周辺の構成を説明する。
そして、その後、図1、図2、及び図3を用いて「抵抗体接続判定」の動作につき説明する。
【0016】
では、図2を用いて電池セル周辺の構成から説明する。電池セルCEaの電池容器C0aの内部には、上述した正極板と負極板とがセパレータを介して積層され、さらに電解液とともに密閉されている。従って、起電圧V0aの電池が電池容器C0aに内蔵されることになる。電池容器C0aには正極端子と負極端子が形成されており、正極端子は正極板と、また、負極端子は負極板と電池容器C0a内部でそれぞれ電気的に接続されている。
【0017】
回路M(Ma〜Mh)の構成はいずれも同一である。回路Mは、抵抗体R1と、抵抗体R2と、「閉」(ON)に制御された場合には抵抗体R2の一端を電池セルCEの正極端子に電気的に接続し且つ抵抗体R2の他端を当該電池セルCEの負極端子に電気的に接続し、「開」(OFF)に制御された場合には当該他端と当該負極端子とを電気的に非接続とするトランジスタ等で構成されたスイッチSWとを備えている。
本実施形態では、電池容器C0を正極端子と実質的に同電位とする、すなわち「プルアップ」する構成であるため、抵抗体R1(例えば、電池セルCEaに対応する回路Maの場合は抵抗体R1a)の「一端」が電気経路D1(例えば、電池セルCEaの場合は電気経路D1a)を介して当該正極端子に電気的に接続され、抵抗体R1の「他端」が電気経路D2(例えば、電池セルCEaの場合は電気経路D2a)を介して当該電池容器C0(例えば、電池セルCEaの場合は電池容器C0a)に電気的に接続される。
なお、電気経路D2は抵抗体R1よりも抵抗値の小さい電気経路であり、抵抗体R1とは別個の物体であってもよいし、抵抗体R1と当初から一体に形成されてもよい。
また、電気経路D1については、電気経路D2と同様の構成であってもよいし、抵抗体R1と同様の抵抗体をその電気経路に含む構成であってもよい。これにより、後述の第2の抵抗体接続判定をより容易とすることができる。
【0018】
また、セル電圧を計測するための電圧センサーV1(例えば、電池セルCEaに対応する電圧センサーはV1a)は、電池セルCEの正極端子と負極端子との間の電圧を、電気経路D1を介して計測するよう配置・接続される。そして、容器電圧を計測するための電圧センサーV2(例えば、電池セルCEaに対応する電圧センサーはV2a)は、負極端子と電池容器C0の間の電圧を、電気経路D2を介して計測するよう、配置・接続される。
なお、スイッチSWの開閉の制御は、後述のように、BMS6が行う。
さらに、図2では、隣り合う電池セルCE間を接続する電力線から2本の電気経路が延びているが、適宜制御される場合には、これを共通化して1本とすることができる。
【0019】
では、図1、図2、及び図3を用いて、電池システム1における各電池セルCEa〜CEhの「抵抗体接続判定」処理の動作につき説明する。「抵抗体接続判定」とは、各電池セルCEa〜CEhの各々に配置したプルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体と電池容器との電気的接続の状態、具体的には電気経路D1またはD2と電池容器C0との間の断線の有無を検知・判定するものである。ここでは、抵抗体R1がプルアップ抵抗体として配置されているので、「抵抗体接続判定」は、プルアップ抵抗体と電池容器との電気的接続の状態を検知・判定するものとして説明する。
電池システム1では、電池システム1の起動時に制御装置、具体的には上位制御装置4が「抵抗体接続判定」処理を開始する。これを順に説明する。
なお、電池システム1が起動される前は、回路Ma〜Mhの各スイッチSWa〜SWhは「開」(OFF)、アーム用スイッチSα及びSβは「開」(OFF)の状態となっている。
【0020】
まず、電池システム1の起動スイッチをオン、例えば電池システム1が電気自動車の場合、イグニッションキーをユーザーがONすることで、図示しない小電源により電力供給された上位制御装置4が、各電池セルCEの「抵抗体接続判定」を行うため、BMS6へ判定開始信号を送信する。なお、この際、当該小電源から電力供給を受けて、電圧センサーV1a〜V1h、V2a〜V2h、温度センサーTa〜Thなどの各種センサーも計測を開始する。なお、この際、電池モジュール2の一つの電池セルを当該小電源としても用い、制御装置の動作用の電力供給をしてもよい。この場合には、当該電池セルは、電力負荷3への電力供給用電源としてのみならず、制御装置の動作用の電源としても機能することになる。
【0021】
判定開始信号を受信したBMS6は、電圧センサーV1a〜V1hの計測情報を用いて各電池セルCEa〜CEhのそれぞれのセル電圧を上記パラメータの1種として得る。また、電圧センサーV2a〜V2hの計測情報を用いて各電池セルCEa〜CEhのそれぞれの容器電圧を上記パラメータの1種として得る。
そして、まず、BMS6は、電気経路D1(以下、便宜上、「配線D1」という)が断線していないか、すなわち電気的に接続されているか否かの「第1の抵抗体接続判定」を行う。
配線D1が断線していれば、電圧センサーV1の計測情報の意味する電圧値は対応する電池セルCEの起電圧V0の値とは異なる値となる。従って、第1の抵抗体接続判定では、電圧センサーV1の計測情報の意味する電圧値と、BMS6に内蔵される図示しない電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ(EEPROM)に記録されている前回の起動スイッチがオフされた際の電池セルCEのセル電圧の値とをBMS6が比較し、両者が実質的に同じであれば配線D1が断線していないとBMS6が判定し、両者が実質的に異なれば配線D1が断線しているとBMS6が判定するとしてもよい。
例えば、配線D1aが断線していれば、電圧センサーV1aの計測情報の意味する電圧値は電池セルCEaの起電圧V0aの値とは異なる値となるので、前回の起動スイッチがオフされた際の電池セルCEaのセル電圧の値と現在の電圧センサーV1aの計測情報の意味する電圧値とが実質的に同じ値を意味するのであれば配線D1aが断線していないとBMS6が判定し、両者が実質的に異なる値を意味すれば配線D1aが断線しているとBMS6が判定する。
【0022】
上述した第1の抵抗体接続判定の処理によって、対応する配線D1が断線して電気的に非接続と判定された電池セルCE(以下、第1の異常セルという)を各電池セルCEa〜CEhの中からBMS6が特定した後、第1の異常セルではない他の電池セルCEにつき、BMS6は、電気経路D2(以下、便宜上、「配線D2」という)が断線しているか否かの「第2の抵抗体接続判定」の処理を行う。
なお、第1の異常セルについてはすでに異常であることが判明しているので、第2の抵抗体接続判定は実施されない。言い換えれば、第2の抵抗体接続判定が実施される電池セルCEは、プルアップ抵抗体として機能する抵抗体R1の上記「一端」が正極端子へ電気的に接続された電池セルのみである。
【0023】
BMS6は、次のように第2の抵抗体接続判定の処理を行う。当該処理では、対応する配線D1の断線がない電池セルCEが対象であるので、配線D2が断線した場合も断線していない場合も、定常状態においては、電圧センサーV2の計測情報が意味する電圧値は対応する電圧センサーV1の計測情報が意味する電圧値と実質的に同じ値、すなわち起電圧V0に相当する電圧値となる。そこで、スイッチSWを「開」から「閉」、または「閉」から「開」へ制御した際の過渡的状態の電圧センサーV1およびV2の計測情報を用い、後述のコンデンサCの放電または当該コンデンサCの充電による影響を検知することで配線D2の断線の有無を判定する。なお、コンデンサCは、電池セルの特性上発生する寄生容量を表すものであり、電池セルの外部に別途用意したコンデンサを電池セルの内部に配置したものではない。
まず、BMS6は、各電池セルに対応する回路Ma〜Mhに対し、スイッチ信号をアクティブにして出力する。
アクティブとなったスイッチ信号が入力された回路Ma〜Mhはそれぞれに備えられたスイッチSWa〜SWhを「閉」(ON)として、各回路Ma〜Mhに備えられた抵抗体R2(すなわち、抵抗体R2a〜R2h)の他端を対応する負極端子に電気的に接続する。これにより、電池セルC0の正極端子と負極端子は抵抗体R2を介して電気的に接続されるので、電圧センサーV1の計測値は、起電圧V0から図示しない電池セルC0の内部抵抗や配線抵抗等の抵抗分だけ電圧降下した値Vα(以下、降下電圧Vαという)となる。なお、起電圧V0と降下電圧Vαの値の差は、一般的に10mV〜40mV程度である。
【0024】
しかしながら、配線D2が電池容器C0に電気的に接続されている場合と接続されていない「非接続」の場合とを比較すると、電圧センサーV2の計測値Vの値が当該降下電圧Vαへ変化するまでの時間に大きな差が生じる。
すなわち、当該非接続の場合には、図3(b)に示すように、1msより小さい時間で瞬時に計測値Vの値が降下電圧Vαへ変化するのに対し、当該接続がされている場合には、図3(a)に示すように、数百msの単位で比較的にゆっくりと変化する。
この理由は、当該接続されている場合には当該電池セルの電池容器C0の電位が当該電池セルの正極端子の電位と実質的に同じ値となっていることから、当該電池セルの電池容器C0と当該電池セルの負極端子との間に電池セルとは別に用意されたコンデンサが電池セルの内部に配置されたと同様の作用が生じるからである。一方、当該非接続の場合にはかようなコンデンサによる作用が生じない。当該コンデンサと同様の作用を示す寄生容量を、上述のようにコンデンサCと記載している。
従って、アクティブとしたスイッチ信号をBMS6が出力してから電圧センサーV2の計測値VがV≒V0からV≒Vαへ変化するまでの時間tをBMS6にて計測する。
例えば、抵抗体R1が当該電池セルの電池容器に電気的に接続されている場合に電圧センサーV2の計測値VがV≒V0からV≒Vαへ変化する時間を基準時間Tm(十分に長い時間、例えば約1秒間)とすると、BMS6は、t≒Tmの場合に、抵抗体R1の上記「他端」が当該電池セルの電池容器に対し電気的に接続されていると判定する。一方、t<<Tmの場合に、配線D2が断線して当該「他端」が当該電池容器に対し電気的に接続されていない非接続の状態であると判定する。
このように、第2の抵抗体接続判定の処理においては、電圧センサーV1を用いずとも、電圧センサーV2の計測値Vの値の変化を監視するだけで、配線D2の断線の有無を判定することができる。
【0025】
第2の抵抗体接続判定の処理によって、配線D2が電池容器C0から電気的に非接続であると判定された電池セルCE(以下、第2の異常セルという)をBMS6が各電池セルCEa〜CEhの中から特定した後、BMS6は、各電池セルに対応する回路Ma〜Mhに対し、スイッチ信号をインアクティブにして出力する。これにより、インアクティブとなったスイッチ信号が入力された回路Ma〜Mhはそれぞれに備えられたスイッチSWa〜SWhを「開」(OFF)として、各回路Ma〜Mhに備えられた抵抗体R2を電池容器C0から電気的に切り離して非接続とする。従って、電圧センサーV2の計測値Vは、図3のように電池CEの起電圧V0まで上昇する。
このとき、配線D2が断線している場合には、スイッチSWを「開」(OFF)とした後、電圧センサーV2の計測値Vは、図3(b)に示すように、1msより小さい時間で瞬時に計測値Vの値が降下電圧Vαから起電圧V0へ変化する。一方、配線D2が断線していない場合には、図3(a)に示すように、比較的にゆっくりと上昇する。
従って、BMS6は、配線D2と電池容器C0との電気的な接続の有無を、第2の抵抗体接続判定の処理で述べたと同様に、この動作を利用して判定してもよい。
【0026】
なお、第2の抵抗体接続判定の処理によって、電圧センサーV2の計測値Vが、図3のように変化しない場合、対応するスイッチSWが故障しているとBMS6は判定することができる。すなわち、第2の抵抗体接続判定の処理の対象となった電池セルCEに対応するスイッチSWa〜SWhのいずれが故障しているか、例えば「開」「閉」不能となっているかを判定かつ特定することができる。具体的には、電圧センサーV2の計測値VがV0のままである場合にはスイッチSWが「閉」(ON)できない故障であり、計測値VがV0でない場合には、スイッチSWが「開」(OFF)できない場合またはスイッチSWがある抵抗値を持って接続されることで「閉」(ON)でもなく「開」(OFF)でもない状態を維持している場合の故障であると判定できる。
【0027】
さらに、BMS6は、上位制御装置4へ、第1及至第2の異常セルと判定された電池セルCEの情報を、先述の故障したスイッチSWの情報と併せて、各電池セルCEa〜CEhの関連情報の一部として送信するとともに、判定終了信号を送信する。
【0028】
上位制御装置4が受信した各電池セルの関連情報に、第1、第2の異常セルを示す情報または故障しているスイッチSWの情報が含まれる場合には、上位制御装置4は関連情報に異常値が含まれると判定して表示装置5に内蔵された異常ランプを点灯させる等するとともに、各電池セルCEa〜CEhのいずれが第1または第2の異常セルであるか、さらに、いずれのスイッチSWが故障しているかを判別できる情報を表示装置5に表示する。また、表示装置5に内蔵されたブザー等の音響装置を作動させて警報を鳴らす。
これにより、光と音で視覚および聴覚を刺激してユーザーに適切な修理を促すことができるのみならず、プルアップ抵抗体が電気的に外れた電池セルがいずれであるか特定できるとともに対応する配線D1またはD2のいずれが断線したかも特定できるので、修理も容易となる。さらに、故障したスイッチSWを修理することも容易となる。
【0029】
なお、判定終了信号を受信した上位制御装置4は、電力負荷3へ組電池の電力を供給可能とすべく、第1のアーム用スイッチ制御信号をアクティブにしてBMS6へ送信する。アクティブとなった第1のアーム用スイッチ制御信号を受信したBMS6は、第1、第2の異常セルまたは故障したスイッチSWが含まれないアームのアーム用スイッチSα又はSβを「開」(OFF)から「閉」(ON)とすべく、当該異常セルまたは故障したスイッチSWが含まれないアームに対応する第2のアーム用スイッチ制御信号をアクティブとする。アクティブとなった第2のアーム用スイッチ制御信号が入力されたアーム用スイッチSα又はSβは、「開」(OFF)から「閉」(ON)へと動作する。一方、この時、第1、第2の異常セルまたは故障したスイッチSWが含まれるアームに対応する第2のアーム用スイッチ制御信号はインアクティブであるので、対応するアーム用スイッチは「開」(OFF)のままであり、従って、当該アームは電力負荷3へ電気的に接続されない。
これにより、電池モジュール2の各アームのうち、第1、第2の異常セルまたは故障したスイッチSWを含まないアームと電力負荷3とが電気的に接続される。従って、抵抗体接続判定の処理により、第1、第2の異常セルまたは故障したスイッチSWが1つも判定されなかった場合には、全てのアームが電力負荷3に電気的に接続されるので電池システム1が運転可能、例えば電池システム1が電気自動車等の移動体の場合には走行可能となる。
また、第1、第2の異常セルまたは故障したスイッチSWを含むアームが存在する場合には、このアームを電力負荷3に接続せず、第1、第2の異常セルまたは故障したスイッチSWを含まないアームのみを電力負荷3に接続するので、例えば電池システム1が電気自動車等の移動体の場合には、少なくとも修理工場まで自力で安全に移動させることができる。
【0030】
なお、起動スイッチをオフ、例えばイグニッションキーをユーザーがOFFすると、上記不揮発性メモリにBMS6が各電池セルCEのそれぞれのセル電圧の値を記憶し、さらに上位制御装置4が全てのアームに対応する第1のアーム用スイッチ制御信号をインアクティブとする。従って、インアクティブとなった第1のアーム用スイッチ制御信号を受けるBMS6は、アーム用スイッチSα及びSβを「閉」から「開」とすべく、全てのアームに対応する第2のアーム用スイッチ制御信号をインアクティブとする。インアクティブとなった第2のアーム用スイッチ制御信号を受ける各アーム用スイッチSα及びSβは、「閉」から「開」へと動作する。これにより、電池モジュール2の各アームの組電池と電力負荷3とが電気的に遮断される。
そして、上記小電源から電力供給が遮断されて、電圧センサーV1a〜V1h、V2a〜V2h、温度センサーTa〜Thなどの各種センサーの計測が停止するとともにBMS6も停止する。これによって、電池システム1も停止する。
【0031】
以上の説明では、電池容器C0の電位を「プルアップ」する構成としたが、正極活物質と負極活物質などの材料によっては、電池セルCEの電池容器C0を当該電池セルCEの負極端子と実質的に同電位とする、すなわち「プルダウン」する構成とする場合がある。
この場合、図2で示す回路Mをそのまま用いることができ、ただし、図4に示すように、図2の電池セルCEに接続した回路Mを図中上下ひっくり返して接続、すなわち図2で回路Mが正極端子と接続した位置を負極端子に、また、図2で回路Mが負極端子と接続した位置を正極端子に接続した構成とする。
言い換えれば、抵抗体R1の上記一端が配線D1´を介して当該電池セルCEの負極端子に電気的に接続され、抵抗体R1の上記他端が配線D2´を介して電池セルCEの電池容器C0に電気的に接続される。これにより、抵抗体R1がプルダウン抵抗体として機能することとなる。また、容器電圧を計測するための電圧センサーV2は、配線D2´を介して当該電池セルCEの正極端子と当該電池セルCEの電池容器C0の間の電圧を計測するよう配置・接続される。
このように構成すると、コンデンサCに対応する寄生容量であるコンデンサC´は、正極端子と電池容器との間に発生する。
【0032】
かようにして電池容器C0の電位を「プルダウン」した構成が得られるが、上述の「プルアップ」した構成で説明した構成および動作において、「プルアップ」を「プルダウン」、「正極端子」を「負極端子」、「負極端子」を「正極端子」、「コンデンサC」を「コンデンサC´」、「配線D1」を「配線D1´」、「配線D2」を「配線D2´」、と読み替えれば、「プルダウン」した構成における抵抗体接続判定の処理の説明となる。従って、繰り返しての説明は省略する。
以上のように、プルアップの場合とプルダウンの場合のいずれの場合においても同一構成の回路Mを適宜用いることができるので、電池システム1を量産する場合等のコスト削減を図ることもできる。
【0033】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限りで種々の変形が可能である。例えば、プルアップ抵抗体またはプルダウン抵抗体を回路Mの回路基板内部に配置せず、当該回路基板の外部に別体として配置してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…電池システム、2…電池モジュール、3…電力負荷、4…上位制御装置、
5…表示装置、6…BMS



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極端子と、第2の電極端子と、導電性の電池容器とを備えた電池セルと、
一端が前記第1の電極端子に電気的に接続され且つ他端が前記電池容器に電気的に接続された第1の抵抗体と、
前記第2の電極端子と前記他端との間の電圧を計測する電圧計と、
第2の抵抗体と、
前記第2の抵抗体を前記第1の電極端子と前記第2の電極端子との間に電気的に接続することができるスイッチと、
制御装置と
を有し、
前記制御装置は、前記制御装置が前記スイッチを開から閉に制御して前記第2の抵抗体を前記第1の電極端子と前記第2の電極端子との間に電気的に接続した場合または前記制御装置が前記スイッチを閉から開に制御して前記第2の抵抗体を前記第1の電極端子と前記第2の電極端子との間から電気的に非接続とした場合に、前記電圧の変化を監視することで、前記第1の抵抗体が前記電池容器と電気的に接続しているか否かを判定することを特徴とする電池システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記制御装置が前記スイッチを開閉した場合に、前記電圧計の計測する前記電圧の変化を計測することで、前記スイッチが故障しているか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記制御装置に制御される表示装置をさらに有し、
前記制御装置は、前記判定の結果を前記表示装置へ表示させる制御を行うことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の電池システム。
【請求項4】
前記第1の電極端子は正極端子であり、前記第2の電極端子は負極端子であり、前記第1の抵抗体はプルアップ抵抗体であることを特徴とする請求項1及至3のいずれか一項に記載の電池システム。
【請求項5】
前記第1の電極端子は負極端子であり、前記第2の電極端子は正極端子であり、前記第1の抵抗体はプルダウン抵抗体であることを特徴とする請求項1及至3のいずれか一項に記載の電池システム。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−114753(P2013−114753A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256877(P2011−256877)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】