説明

電池及び電池の製造方法

【課題】ABS樹脂製のモノブロック式電槽及び蓋を備えたダイレクトスルー方式の鉛蓄電池では、エポキシ樹脂製の接着剤が用いられているが、ポリプロピレン製の電槽及び蓋を採用し、且つ、エポキシ樹脂の使用を廃した場合には、セル間接続導体とポリプロピレンとの接合の点で問題があった。
【解決手段】セル間接続導体の上部に別途ポリプロピレン製のチップを配し、この上から超音波を印可すると共に下方に押し込む工程を設けることで、接着剤を用いることなく、セル間接続導体の上部及び下部とポリプロピレン製の蓋及び電槽隔壁とを直接接合することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノブロック式電槽を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、モノブロック式電槽を有する制御弁式鉛蓄電池においては、電槽内が電槽隔壁によって複数のセル室に区画され、それぞれのセル室には、正極極柱を備える正極板及び負極極柱を備える負極板がそれぞれ1枚又は複数枚組み合わされてなる極板群が収納されている。ここで、前記極板群を構成する正極板又は負極板は、同極の極板耳部(以下「耳部」という)同士はストラップにより接続される。そして、隣接するセル間は、ストラップ同士が、セル間接続導体により、電槽内部で接続される。
【0003】
このとき、電槽内で区画されたそれぞれの前記セル室同士は、液密が保たれている必要がある。電槽上部に蓋を配する電池においては、通常、前記電槽隔壁の上端部が蓋の下面と接着されることにより、前記液密が保たれているが、セル間の液密が充分でない場合には、所定の電圧および容量を取り出すことができないなどの問題が生じる事がある。
【0004】
前記セル間接続方式として、隣接する各セルの電極にストラップ部に隣接して設けられたセル間接続用タブ同士を隔壁の一部に設けられた開口部にて対向させておき、前記タブ同士を抵抗溶接することによりセル間を接続する方式(以下、「ICW方式」ともいう)を採用した制御弁式鉛蓄電池が古くから知られている。一般的なICW方式の鉛蓄電池においては、キャスト・オン・ストラップ(COS)工程において、熔融鉛を流入した鋳型の中に耳部を浸漬させることにより、前記耳部同士が接続されたストラップ部が形成されると同時にセル間接続用タブを形成しておき、極板群が電槽に挿入された後に、前記タブ部同士を抵抗溶接することによりセル間が接続される(例えば、特許文献1参照)。また、バーニング方式の場合は、隣接する極板耳と極板耳との間に治具を挿入し、別途鋳造により作製した中間端子を配置し、さらに鉛を補充しながらバーニング溶接によりセル間が接続される。
【0005】
しかしながら、このようなセル間接続方法では、中間タブが必要となるためタブ分の鉛を多く必要とする上、セル間接続部が外れるという不具合が発生する可能性も皆無とはいえなかった。
【0006】
これに対して、ABS樹脂製の電槽及びABS樹脂製の蓋を用いたダイレクトスルー方式(以下「DT方式」ともいう)が知られている。ダイレクトスルー方式では、隣接するストラップ間を接続するセル間接続導体が電槽隔壁上部を跨ぐように配置される。この場合の手順としては、電槽内に収納される全てのセルの極板群を同時にCOS工程に供することによって、各セルのストラップ部とセル間接続導体部分とを同時に一体成型する。これにより、モノブロック式電槽に挿入される全てのセルの極板群が一体に接続される。次に、この一体となった極板群をモノブロック式電槽に収容する。一方、蓋の下面を上向きに置き、この蓋のセル周囲の溝、及び、蓋の内部に設けたセル間接属導体収容室の中に、あらかじめエポキシ樹脂を注入しておく。前記極板群を電槽に挿入された状態で上下逆にし、極板群に接続されたセル間接続導体の部分が蓋の内部に収容されるように蓋の内部に向かって前記極板群を垂下させる。これにより、前記セル間接続導体の部分をエポキシ樹脂内に埋没させると同時に蓋と電槽隔壁(電槽最外壁部を含む)とが接着剤としてのエポキシ樹脂により接着される。なお、各セルのストラップ部とセル間接続導体部分とを一体成型する方法としては、バーニング法を用いてもよい。
【0007】
この方法においては、セル間接続導体部は全体がエポキシ樹脂内に埋没されているため、セル間接続導体は、電槽、電槽隔壁及び蓋のいずれとも直接接触することがない。即ち、セル間の液密は、電槽及び電槽隔壁と蓋とがエポキシ樹脂接着剤により接着されることにより保たれていた。ここで、制御弁式鉛電池の電槽や蓋には、エポキシ樹脂に対する接着性が良好であるという理由により、ABS樹脂が用いられていた。
【0008】
しかしながら、セル間接続導体部の全体をエポキシ樹脂内に埋没させる必要があることから、多量のエポキシ樹脂を準備する必要があり、また、そのような工程を別途設ける必要があり、さらに、エポキシ樹脂を硬化させるための硬化炉を工程中に設ける必要があり、エポキシ樹脂を硬化させるための待ち時間が必要となっていた。
【0009】
また、ABS樹脂は、水分透過性が大きいことから、セル内に注液されている電解液の減液が大きく、電池を長期使用するに伴って極板群内の水分が不足し、極板と電解液の接触が不足し、特に高率放電容量が低下するといった問題点があった。
【0010】
ところが、水分透過性の小さいポリプロピレンを電槽や蓋に採用しようとした場合には、ポリプロピレンとエポキシ樹脂との接着性の点で問題があり、ポリプロピレンとエポキシ樹脂との組み合わせは採用できなかった。
【0011】
また、エポキシ樹脂を用いないものとしようとした場合には、セル間接続導体部が露出することとなるため、セル間接続導体とポリプロピレン製の蓋とを接着させる必要が生じると同時に、セル間接続導体とポリプロピレン製の電槽隔壁とを接着させる必要が生じる。しかしながら、例えば鉛電池の場合でいえば、鉛製のセル間接続導体とポリプロピレン樹脂とを液密が保てる程度に充分に接着させることができないという問題点があった。
【0012】
特許文献2には、ポリプロピレン製のモノブロック式電槽を備え、鉛製のストラップ及びセル間接続導体をキャストオンストッラップ方式で作製した複数の極板群を備える密閉形鉛蓄電池の製造方法として、電槽隔壁の切欠部に接着剤として未硬化のエポキシ樹脂を塗布しておき、接続導体を切欠部に超音波振動を加えながら食い込ませた後、接続導体の上部に同様の未硬化のエポキシ樹脂を接着剤として塗布し、電槽と蓋に超音波振動を印加して電槽と蓋とを一体化すると同時に、エポキシ樹脂を超音波振動で硬化させることで電槽隔壁とセル間接続導体との接触部の隙間をなくする手順が記載されている(段落0009〜0011参照)。しかしながら、上記したように、ポリプロピレンとエポキシ樹脂とは接着性の点で問題があるため、特許文献2記載の技術をもってしても、セル間の液密を充分に保つことができなかった。
【0013】
以上説明したように、従来技術によれば、熱可塑性樹脂製のモノブロック式電槽及び蓋を備え、セル間接続導体の上部及び下部が前記蓋及び電槽隔壁にそれぞれ当接している電池において、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、又は、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部における液密性が充分でないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−15779号公報
【特許文献2】特開平9−312154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、熱可塑性樹脂製のモノブロック式電槽及び蓋を備え、セル間接続導体の上部及び下部が前記蓋及び電槽隔壁にそれぞれ当接している電池において、セル間の液密を充分に保つことができる電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一は、熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池において、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、及び、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部のうち、少なくとも一方が、接着剤を介することなく接合される接合面を有し、前記接合面において、前記熱可塑性樹脂が、前記セル間接続導体の表面の凹凸に沿うように形成されていることを特徴とする電池である。
【0017】
ここで、「凹凸に沿うように」とは、セル間接続導体と熱可塑性樹脂との当接面において、前記セル間接続導体の表面が備えている凹凸の少なくとも凸部に対して、該凸部に沿うような凹部が前記熱可塑性樹脂の当接面に形成されていることをいう。
【0018】
このような構成によれば、前記接合面において、熱可塑性樹脂がセル間接続導体の表面の凹凸に沿うように形成されているので、接着剤を必要とせず、熱可塑性樹脂とセル間接続導体との接合を充分なものとすることができる。
【0019】
また、本発明の一は、前記本発明電池において、前記電槽隔壁面を延長した面における前記セル間接続導体の断面形状は、下部が円弧状であることを特徴としている。
【0020】
このような構成によれば、下部が矩形状である場合に比べ、電槽隔壁とセル間接続導体との当接部における隙間を小ならしめることが容易となる。また、セル間接続導体の下部を電槽隔壁に当接させるように押し込む際に、押し込む力が偏在しないので、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との間に隙間を生じさせずに接着できる。
【0021】
また、本発明の一は、熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の少なくとも前記蓋との接合が予定される接合予定部Aに熱可塑性樹脂を別途配し、この上部から超音波を印可して前記接合予定部Aに熱可塑性樹脂を配する工程を含む電池の製造方法である。
【0022】
セル間接続導体と前記蓋との接合にあたっては、前記接合面において熱可塑性樹脂が前記セル間接続導体の鋳面に形成された凹凸に沿うように形成されている限りにおいて、予め前記接合予定部Aに熱可塑性樹脂を別途配することなく接合しても良いが、上記した本発明の製造方法を採用することにより、セル間接続導体と前記蓋との接合状態を良好なものとすることが著しく容易となる。
【0023】
なぜなら、セル間接続導体と蓋とが、接着剤を介することなく熱可塑性樹脂とセル間接続導体とを接合するためには、熱可塑性樹脂製の蓋の上部に超音波プローブを当接して超音波を印可する等の方法が挙げられるが、このような方法では蓋の上部の超音波プローブを当接した部分に、外観上その他の不具合を生じる虞が高まる。これに対して、セル間接続導体と蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の少なくとも前記蓋との接合が予定される接合予定部Aに熱可塑性樹脂を別途配し、この上部から超音波を印可して前記接合予定部Aに熱可塑性樹脂を配する方法によれば、この工程によりセル間接続導体の上部は既に熱可塑性樹脂との接合面を有すると共にセル間接続導体の上部が熱可塑性樹脂で覆われることとなるので、この覆われた熱可塑性樹脂と蓋とを接着するにあたり、蓋の上部を損壊することのない熱融着法を採用することができる。
【0024】
また、本発明の一は、熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の上部から超音波を印可すると共に押圧力を加えて、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁とを接合させることを特徴とする工程を含む電池の製造方法である。
【0025】
前記したように、本発明に係る電池は、セル間接続導体と蓋との当接部については接着剤を介することなく接合される接合面を有する場合には、セル間接続導体と電槽隔壁との当接部についてはエポキシ樹脂やアクリル樹脂等の接着剤を介するものであってもよいが、前記セル間接続導体の上部から超音波を印可すると共に押圧力を加えることにより、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部において電槽隔壁の材料である熱可塑性樹脂を溶融させることができるので、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部について、接着剤を介することなく接合される接合面を有するものとすることが、極めて容易となる。
【0026】
即ち、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部が熱可塑性樹脂以外の樹脂を介することなく接合される接合面を有するものとする方法としては、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部に何らかの方法で熱を加えて熱融着する方法もあるが、当該当接部に局所的に熱を加えることは困難であり、前記セル間接続導体の全体を加熱する方法は、周囲の部材への影響を考慮した場合、現実的でない。ここに、前記セル間接続導体の上部から超音波を印可すると共に押圧力を加える方法によれば、印可された超音波が電槽隔壁との当接が予定される部分に伝わることで、当該部分が局所的に発熱するので、セル間接続導体と電槽隔壁との当接部が接着剤を介さず熱可塑性樹脂を介して接合される接合面を有するものとすることが容易となる。
【0027】
また、本発明の一は、前記した本発明に係る電池を製造するための方法であって、熔融鉛に鋳型を当接して、前記セル間接続導体の少なくとも前記電槽隔壁との接合が予定される接合予定部Bが形成されることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池の製造方法である。
【0028】
本発明において、熱可塑性樹脂とセル間接続導体との接合面におけるセル間接続導体の表面が凹凸を備えるものとする方法のひとつとして、後述するように、例えば鉛製のセル間接続導体の場合には鉛の鋳面に形成される凹凸のサイズがちょうど本発明を実施するに適する凹凸のスケールに合致することから、鋳面の凹凸を利用することにより、工程を簡略化できる。ここで、セル間接続導体がCOS工程により形成される場合にあっては、蓋との接合が予定される接合予定部Aについては、セル間接続導体の上部はCOS工程時に熔融鉛が流入する鋳型の底面に相当することから、自ずと鋳面が形成されることとなる。しかしながら、電槽隔壁との接合が予定される接合予定部Bについては、セル間接続導体の下部はCOS工程時に鋳型に熔融鉛が流入した表面に相当し、表面には通常は鋳型が存在しない。このため、鉛が規定の形で固まらないことから外形が一定とならず、極めて巨視的なレベルでの凹凸が形成されやすい。一方、微視的には鋳面に形成される凹凸よりも平滑な表面となりやすい。接合予定部Bについては、COS工程の後、鑢がけをする、他の方法で凹凸を設ける、等の方法により、好ましい凹凸のサイズに調整する工程を設けてもよいが、セル間接続導体の下部における接合予定部Bの両側には、COS工程によって隣り合うセルに挿入が予定される極板群同士が狭い離間寸法を伴って固定されており、接合予定部Bの幅は狭いものであるから、かかる場所に鑢がけをすることや他の方法で凹凸を設けることは、寸法的にも処方的にも現実的ではない。また、既に極板が配置されている状態において鑢がけをすることになるから、例えば鉛電池では鑢がけによって生じる金属鉛の粉が多数生じることになり、鑢がけによって生じる金属鉛の粉が極板群内に入った場合には、電池性能に著しい悪影響を与える場合もある。ここに、COS工程時に、接合予定部Bとなる部分の熔融鉛に鋳型を当接することを特徴とするこの発明を適用すれば、かかる問題点が解決できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、熱可塑性樹脂製のモノブロック式電槽及び蓋を備え、セル間接続導体の上部及び下部が前記蓋及び電槽隔壁にそれぞれ当接している電池において、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、又は、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部における液密性が充分である電池と、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上記したように、本発明の一は、熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池において、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、及び、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部のうち、少なくとも一方が、接着剤を介することなく接合される接合面を有し、前記接合面において、前記熱可塑性樹脂が、前記セル間接続導体の表面の凹凸に沿うように形成されていることを特徴とする電池である。
【0031】
このような構成によれば、前記接合面において、熱可塑性樹脂がセル間接続導体の表面の凹凸に沿うように形成されているので、接着剤を必要とせず、熱可塑性樹脂とセル間接続導体との接合を充分なものとすることができる。
【0032】
ここで、熱可塑性樹脂はセル間接続導体の表面の凹凸に入り込むように形成されることが好ましい。ここで、「凹部に入り込むように」とは、セル間接続導体と熱可塑性樹脂との当接面において、前記セル間接続導体の表面が備えている凹部に対して、該凹部に入り込むような凸部が前記熱可塑性樹脂の当接面に形成されていることをいい、該凹部が熱可塑性樹脂によって完全に埋まっていることまで要するものではなく、該凹部に対して少なくとも一部が勘合するような凸形状を備えていればよく、該凹部の一部に空隙がみられるものであってもよい。
【0033】
この発明の実施にあたり、前記セル間接続導体の表面の凹凸の程度については、特に限定されるものではないが、凹凸のサイズが小さすぎないものとすることにより、接合状態を良好なものとすることができるため好ましい。また、サイズが大きすぎないものとすることによっても、接合状態を良好なものとすることができるため、好ましい。具体的には、凹凸のサイズは、凹部の最大直径が10μm〜10μmが好ましい。前記セル間接続導体の表面が凹凸を備えたものとするための方法については限定されるものではなく、例えば凹凸のサイズが好ましい範囲内となるよう鑢で削る方法、平坦面を形成した後、キリ等の鋭利な先端を有する工具で凹部を形成する方法、薬品を用いて粗面化する方法等が挙げられる。この場合の薬品としては、酢酸と過酸化水素水を含有する混合液、乳酸と過酸化水素水とを含有する混合液、等のエッチング液;水酸化ナトリウムと塩酸ヒドラジンとマンニットとを含有する混合液、等のマンニット液;水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液、等が挙げられる。あるいは、セル間接続導体が特に鉛又は鉛合金製である場合には、鋳面を利用しても良い。鋳面とは、鋳型の中の熔融した金属が固化することで前記鋳型に接していた面に形成される面をいい、鉛又は鉛合金の場合、鋳面には、通常、最大直径10μm〜10μmの凹面が観察される。このようなスケールの凹凸は本発明の接合部に採用するものとして好適であり、凹凸を形成する工程を簡略化できるため、好ましい。なお、本願明細書において、凹部の最大直径とは、ある一つの凹部の形状が真円でない場合における該凹部の最大経を意味するものであって、複数の凹部のうち最も大きな径を持つ凹部の直径を意味するものではない。
【0034】
また、上記したように、本発明の一は、前記本発明電池において、前記電槽隔壁面を延長した面における前記セル間接続導体の断面形状は、下部が円弧状であることを特徴としている。
【0035】
下部の円弧の形状は、湾曲の程度が緩やかすぎないものとすること、即ち、Rが大きすぎないものとすることにより、セル間接続導体の下部を電槽隔壁に当接させるように押し込む際に押し込む力が偏在する虞を低減できる。また、湾曲の程度が大きすぎないものとすること、即ち、Rが小さすぎないものとすることにより、電槽隔壁との間に隙間を生じて接着が不十分となる虞を低減できる。好ましい湾曲の程度については、電槽隔壁の肉厚等によって適宜調整することが好ましい。例えば、電槽隔壁の肉厚をtとしたとき、R=4t〜5tが好ましい。
【0036】
また、この発明の実施にあたり、電槽隔壁の前記当接部にはあらかじめ前記セル間接続導体の形状に対応した切り欠き部を設けておくことが、好ましい。前記切り欠き部の形状は、矩形状であってもよいが、円弧状であることが好ましく、中でも、前記セル間接続導体の下部に設けた円弧状のRよりもやや小さいRを伴った円弧状であることが好ましい。ここで、電槽隔壁の前記当接部に設ける円弧状の切り欠き部の形状は、前記セル間接続導体の下部に設けた円弧状に比べて半径が小さすぎないものとすることにより、セル間接続導体の下部を電槽隔壁に当接させるように押し込む際に、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との間に予定しない方向への相対的なずれが生じる虞を極めて効率的に低減することができる。
【0037】
また、上記したように、本発明の一は、熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の少なくとも前記蓋との接合が予定される接合予定部Aに熱可塑性樹脂を別途配し、この上部から超音波を印可して前記接合予定部Aに熱可塑性樹脂を配する工程を含む電池の製造方法である。
【0038】
ここで、別途配する熱可塑性樹脂の種類や寸法については、限定されるものではなく、蓋等に用いられている熱可塑性樹脂と同種の樹脂組成の材料を採用することが、良好な接合面を得る上で最も好ましい。別途配する熱可塑性樹脂の厚みは、厚すぎないものとすることにより、良好な接合部を得ることができるため、好ましい。具体的には、3mm以下とすることが好ましい。また、別途配する熱可塑性樹脂の厚みは、薄すぎないものとすることにより、蓋との接合に先だって、接合予定部Aの表面を熱可塑性樹脂で充分覆うことができるため、好ましい。具体的には、1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましい。別途配する熱可塑性樹脂の寸法は、接合予定部Aの表面を熱可塑性樹脂で充分覆うことができる程度に大きいことが好ましい。また、大きすぎないものとすることにより、別途配する熱可塑性樹脂の材料コストを低減できるため、好ましい。
【0039】
この場合における蓋との熱融着方法としては、まず、蓋と電槽側とを離間させておき、両者の間に熱板を挿入し、次いで両者によって前記熱板を挟むことにより、熱板と当接した熱可塑性樹脂製の蓋の下部と、電槽上部に位置しているセル間接続導体の上部を覆っている熱可塑性樹脂と、の両者が溶融し、次いで両者を熱板から離間させると共に熱板を引き抜き、素早く両者を当接させることにより、両者の熱可塑性樹脂同士が熱融着により接合する。
【0040】
また、上記したように、本発明の一は、熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の上部から超音波を印可すると共に押圧力を加えて、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁とを接合させることを特徴とする工程を含む電池の製造方法である。
【0041】
この発明の実施にあたり、セル間接続導体の上部から超音波を印可するに際して、セル間接続導体の上部に別途用意した熱可塑性樹脂を配さなくてもよく、配してもよい。特に、この発明の実施にあたり、セル接続導体の上部に別途用意した熱可塑性樹脂を配する態様を併用することにより、これを併用しない場合に比べ、超音波プローブをセル間接続導体に応用する際にセル間接続導体が溶断等により破損する虞を著しく低減することができるという格別の効果が奏されるため、好ましい。
【0042】
また、上記したように、本発明の一は、前記した本発明に係る電池を製造するための方法であって、熔融鉛に鋳型を当接して、前記セル間接続導体の少なくとも前記電槽隔壁との接合が予定される接合予定部Bが形成されることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池の製造方法である。
【0043】
この発明の実施にあたり、接合予定部Bを形成するために鋳型を当接する具体的な実施態様として、いくつかの方法を挙げることができる。例えば、COSの鋳型を溶融鉛が満たされた槽の中に浸漬し、その状態で円弧状の鋳型を配置して前記鋳型を槽から引き上げ、次いで極板群ホルダに保持された上下逆の極板群を垂下して耳部を前記鋳型中の熔融鉛に浸漬する方法を採用することができる。あるいは、COSの鋳型にあらかじめ円弧状の鋳型を配置してトンネル状部分が形成された状態としておいたものを溶融鉛が満たされた槽の中に浸漬して槽から引き上げ、次いで極板群ホルダに保持された上下逆の極板群を垂下して耳部を前記鋳型中の熔融鉛に浸漬する方法を採用することができる。あるいは、極板群ホルダの所定部分に先端逆円弧状の補助鋳型を取り付けておき、一方、COSの鋳型を溶融鉛が満たされた槽の中に浸漬して槽から引き上げ、次いで極板群ホルダに保持された上下逆の極板群を垂下して耳部を前記鋳型中の熔融鉛に浸漬する際に前記極板群ホルダに取り付けられた逆円弧状の補助鋳型を当接する方法を採用することができる。
【0044】
なお、本願明細書において、熱可塑性樹脂の種類については、何ら限定されるものではない。しかしながら、背景技術の欄に記載したように、特に、モノブロック式電槽の水分透過性についての問題を解決しようとする場合には、ポリプロピレン樹脂を選択することが好ましい。ポリプロピレン樹脂は、熱融着性の点においても大変優れているため、ポリプロピレン樹脂を選択することにより、本願明細書に記載したそれぞれの発明の効果を特に顕著に発揮させることができるため、極めて好ましい。ここで、ポリプロピレン樹脂の種類としては、化学的にポリプロピレン構造のみからなる樹脂だけでなく、一部が変性されたポリプロピレン樹脂、あるいは、ポリエチレン−ポリプロピレン樹脂など、他の有機構造を有するポリマーアロイ等であってもよく、化学的にポリプロピレン構造のみからなる樹脂だけではなく、エチレン等のオレフィンを共重合させた共重合体等でもよい。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
<極板群作製工程>
セパレータを介して正極板と負極板を積層してなる1セル分の極板群を6個所定の間隔を開けて隣接配置し、これらを極板群ホルダに保持した。COS方式により、各セルの同極性の耳部同士を連結したストラップ部と、隣接する極板群の前記ストラップ部同士を連結するセル間接続導体部を一体成型して作製した。ここで、極板群ホルダの所定部分には、上記で説明したような先端逆円弧状の補助鋳型を取り付けておく。そして、COSの鋳型を溶融鉛が満たされた槽の中に浸漬して槽から引き上げ、次いで上下逆転させた状態で極板群ホルダに保持された前記複数の極板群を前記鋳型中の熔融鉛に向けて垂下し、耳部を鋳型内部に浸漬させる。この操作により、極板群ホルダに取り付けられた前記逆円弧状の補助鋳型が、当接予定部Bとなる位置に配置され、セル間接続導体のうち電槽隔壁への当接が予定される部分に円弧状の接合予定部Bが形成される。なお、ストラップとセル間接続導体は、鉛−カルシウム合金で作製した。セル間接続導体部分の寸法は、42mm×14mm×5mmであり、当接予定部Bには半径Rが8mmの円弧が形成されている。
【0046】
<電槽及び蓋の準備並びに電槽への極板群挿入工程>
ポリプロピレン製のモノブロック式電槽と、ポリプロピレン製の蓋を準備した。前記モノブロック式電槽は、厚み1.7mmの電槽隔壁によって6個のセル室に区画されている。そして、前記電槽隔壁の上端部には、セル間接続導体の配置が予定される位置に、深さ5.0mm、半径Rが7.5mmの円弧状の切欠部を形成した。次に、前記モノブロック式電槽の電槽隔壁で区画された各セル室内に、上記工程においてストラップ及びセル間接続導体で連結された複数の極板群を収納した。
【0047】
<セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程>
セル間接続導体上部の、蓋との当接が予定される当接予定部Aに、電槽隔壁と同じ材質、同じ厚みの樹脂片(20mm×14mm×1.7mm)を載置し、この上から、超音波溶接機(精電舎電子工業社製、超音波ウェルダー、型番:Σ−1200S)の超音波プローブを当接し、超音波を印加すると共に、極板群を電槽側に押圧した。ここで、超音波溶接機の設定条件は、振幅:40%(100%が21μmに相当)、溶着時間:6.0秒、エア圧:0.123MPaとした。このようにして、セル間接続導体下部の当接予定部Bと電槽隔壁を接合すると共に、セル間接続導体上部の当接予定部Aにポリプロピレン樹脂を接合配置した。
【0048】
次に、蓋と電槽側とを離間させて対向させ、両者の間に熱板を挿入し、次いで両者によって前記熱板を挟むことにより、熱板と当接した蓋の下部と、当接予定部Aに配置したポリプロピレン樹脂との両者を溶融させ、次いで両者を熱板から離間させると共に熱板を引き抜き、素早く両者を当接させ、蓋を電槽側に接合した。このようにして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0049】
なお、前記注液前の制御弁式鉛蓄電池に対して、周知の方法で注液、化成を行うことにより、本発明に係る制御弁式鉛蓄電池を完成させることができる。
【0050】
(実施例2)
「セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程」における操作を次の通りとした。まず、電槽に挿入した極板群を半分程度挿入しておく。次に、隣接する極板耳と極板耳との間に櫛状の治具を挿入してセル間接続導体が下がらないように支えた後、実施例1と同様にして、超音波溶接機を用いてセル間接続導体上部の当接予定部Aにポリプロピレン樹脂を接合配置した。次に、セル間接続導体の下部が当接することが予定される電槽隔壁の切り欠き部に熱板を当接した後、熱板を引き抜き、即座に極板群を再び押し込むことにより、セル間接続導体と電槽隔壁とを接合した。次に、実施例1と同様にして、蓋を電槽側に接合した。以上の通りとしたことを除いては、実施例1と同様にして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0051】
(比較例1)
「セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程」に先だって、研磨用ペーパー#800、#1000及びバフを用いてセル間接続導体の当接予定部Aの部分を研磨したことを除いては、実施例1と同様にして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0052】
(比較例2)
「セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程」に先だって、研磨用ペーパー#800、#1000及びバフを用いてセル間接続導体の当接予定部Bの部分を研磨したことを除いては、実施例1と同様にして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0053】
(比較例3)
「セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程」において樹脂片を用いなかったことを除いては、実施例1と同様にして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。即ち、比較例3においては、超音波溶接機の超音波プローブはセル間接続導体の当接予定部Aに直接当接し、また、蓋の接合に際して当接予定部Aに樹脂片が配されない状態で実施例と同じ操作を行った。
【0054】
(比較例4)
「セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程」において超音波を印加する際に、極板群を下方(電槽側)に押圧しなかったことを除いては、実施例1と同様にして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0055】
(比較例5)
「セル間接続導体に対する電槽及び蓋の接合又は当接工程」における操作を次の通りとした。電槽に極板群を耳の途中まで挿入し、電槽隔壁の切り欠き部に未硬化のエポキシ樹脂を塗布し、再び極板群を電槽に挿入した。次いで、セル間接続導体上部の当接予定部Aにも未硬化のエポキシ樹脂を塗布し、この上に、電槽隔壁と同じ材質、同じ厚みの樹脂片(20mm×14mm×1.7mm)を載置した。次に、蓋と電槽側とを離間させて対向させ、両者の間に熱板を挿入し、次いで両者によって前記熱板を挟むことにより、熱板と当接した蓋の下部と、当接予定部Aに配置したポリプロピレン樹脂との両者を溶融させ、次いで両者を再び離間させると共に熱板を引き抜き、素早く両者を当接させ、蓋を電槽側に接合した。以上の通りとしたことを除いては、実施例1と同様にして、注液前の制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0056】
(液密試験)
セル間接続導体と電槽及び蓋との液密性を評価するための液密試験を行った。実施例1、2及び比較例1〜5のそれぞれの注液前電池について、6つに区画されたセル室を端から順に1〜6の番号を付し、偶数番号が付されたセル室の電槽隔壁間の中間部を極板面と平行する面で切断した。次に、奇数番号が付されたセルに、鉛蓄電池用電解液である比重1.30の硫酸を注液して液口栓を取り付け、金属製バットの中に電極面を水平にして最大24時間静置し、電槽隔壁の下方に漏れ出た硫酸を観察した。ここで、静置時間は、制御弁式鉛蓄電池の製造工程において電解液の注液から初期化成終了までの時間が23時間程度であり、少なくともこの時間の間、液密性が保たれている必要があることを考慮して設定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1の結果からわかるように、本発明によれば、「熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の少なくとも前記蓋との接合が予定される接合予定部Aに熱可塑性樹脂を別途配し、この上部から超音波を印可して前記接合予定部Aに熱可塑性樹脂を配する工程を含む電池の製造方法」により、前記セル間接続導体と前記蓋とが直接当接する構成としながらも、セル間の液密を充分に保つことができる接合状態とすることのできる製造方法を提供できる。
【0059】
実施例1、2の結果からわかるように、本発明によれば、「熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の上部から超音波を印可すると共に押圧力を加えて、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁とを接合させることを特徴とする工程を含む電池の製造方法」により、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部について、両者の間に熱板を押し当てて熔融し接合する方法で熱融着するといった困難で煩雑な方法を採用する必要がなく、セル間の液密を充分に保つことができる接合状態とすることのできる簡便な製造方法を提供できる。
【0060】
上記実施例1と同様の手順で極板群を準備し、電槽に挿入する前の段階のセル間接続導体部分について、当接予定部A及び当接予定部Bの表面の凹凸状態をレーザー変位計(キーエンス社製、CCDレーザー変位センサー(型番:LK−030)付3次元形状測定装置)で測定した。その結果、当接予定部A及び当接予定部Bのいずれにおいても、凹部の最大直径が約50μmの凹凸が備えられていることがわかった。
【0061】
上記比較例1と同様の手順で極板群を準備し、電槽に挿入する前の段階のセル間接続導体部分について、当接予定部Aの表面の凹凸状態を同様にして測定した結果、凹部の最大直径が約2μmの凹凸が備えられていることがわかった。
【0062】
次に、上記液密試験後のそれぞれの試験片について、当接予定部A又は当接予定部Bにおけるセル間接属導体とポリプロピレン樹脂との接合状態を観察するため、全体をエポキシ樹脂に埋めて硬化させた後、電槽隔壁面に沿って切断し、表面研磨して顕微鏡観察した。その結果、実施例1、2の試験片においては、当接予定部Aにおける境界面及び当接予定部Bにおける境界面のいずれにおいても、ポリプロピレン樹脂が当接予定部A、B表面の凸部形状に沿って噛み合うように形成され、さらに当接予定部A、B表面の凹部にも一部入り込むように形成されている様子が観察された。
【0063】
一方、比較例1の試験片の当接予定部Aにおける境界面や、比較例2の試験片の当接予定部Bにおける境界面では、セル間接続導体側に凸部はほとんど観察されず、セル間接続導体側の凹部にポリプロピレン樹脂が入り込んでいる様子も観察されず、境界面のポリプロピレン樹脂側の表面形状は凹凸がなく水平であった。
【0064】
また、比較例3の当接予定部A、比較例4の当接予定部B、並びに、比較例5の当接予定部A及びBにおけるそれぞれの境界面では、ポリプロピレン樹脂側の表面形状は凹凸がなく水平であった。また、セル間接続導体側の凹凸部についてみれば、比較例3の当接予定部Aと比較例4の当接予定部Bにおいては凹凸部に空隙が観察され、比較例5においては凹凸部にポリプロピレン樹脂とは異なる樹脂の存在が観察された。
【0065】
以上の測定結果及び観察結果からわかるように、本発明によれば、「熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池において、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、及び、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部のうち、少なくとも一方が、接着剤を介することなく接合される接合面を有し、前記接合面において、前記熱可塑性樹脂が、前記セル間接続導体の表面の凹凸に沿うように形成されていることを特徴とする」ことにより、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、又は、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部における液密性が充分である電池を提供できる。
【0066】
なお、比較例1〜5の電池で、注液後、即時に液漏れが観察された原因については、次のように推察される。
【0067】
即ち、比較例1では、セル間接続導体上部を研磨したことにより、熱可塑性樹脂である蓋下面のポリプロピレン樹脂が接合予定部Aの凹凸に沿うように形成しうるような凹凸が失われ、これによって蓋下面と接合予定部Aとの接合が不十分となったことから、液漏れが生じたものと考えられる。
【0068】
また、比較例2では、セル間接続導体下部を研磨したことにより、電槽隔壁に用いられている熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂が接合予定部Bの凹凸に沿うように形成しうるような凹凸が失われ、これによって電槽隔壁と接合予定部Bとの接合が不十分となったことから、液漏れが生じたものと考えられる。
【0069】
また、比較例3では、超音波溶接機の超音波プローブを直接当接させた際にセル間接続導体の上部が一部熔融したことで、熱可塑性樹脂である蓋下面のポリプロピレン樹脂が接合予定部Aの凹凸に沿うように形成しうるような凹凸が失われ、これによって蓋下面と接合予定部Aとの接合が不十分となったことから、液漏れが生じたものと考えられる。
【0070】
また、比較例4では、セル間接続導体の上部から超音波を印可する際に下方への押圧力を加えず、またセル間接続導体下部と電槽隔壁との当接にあたって接着剤の適用や熱板の適用といったその余の措置も講じなかったため、電槽隔壁に用いた熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂が接合予定部Bの凹凸に沿うように形成されることがなく、従って電槽隔壁と接合予定部Bとの接合が不十分となったことから、液漏れが生じたものと考えられる。
【0071】
また、比較例5では、セル間接続導体上部と熱可塑性樹脂との間、及び、セル間接続導体下部と電槽隔壁との間にエポキシ樹脂製の接着剤が介されているが、これらの部分の接着性が充分でないため、少なくともこれらいずれかの接着界面から液漏れが生じたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池において、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁との当接部、及び、前記セル間接続導体と前記蓋との当接部のうち、少なくとも一方が、接着剤を介することなく接合される接合面を有し、前記接合面において、前記熱可塑性樹脂が、前記セル間接続導体の表面の凹凸に沿うように形成されていることを特徴とする電池。
【請求項2】
前記電槽隔壁面を延長した面における前記セル間接続導体の断面形状は、下部が円弧状であることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の少なくとも前記蓋との接合が予定される接合予定部Aに熱可塑性樹脂を別途配し、この上部から超音波を印可して前記接合予定部Aに熱可塑性樹脂を配する工程を含む電池の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂製の電槽隔壁によって複数のセル室に区分されるモノブロック式電槽、及び、熱可塑性樹脂製の蓋を備え、セル間接続導体の下部及び上部が前記電槽隔壁及び蓋にそれぞれ当接している電池の製造方法であって、前記セル間接続導体と前記蓋との接合に先だって、前記セル間接続導体の上部から超音波を印可すると共に押圧力を加えて、前記セル間接続導体と前記電槽隔壁とを接合させることを特徴とする工程を含む電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の電池を製造するための方法であって、熔融鉛に鋳型を当接して、前記セル間接続導体の少なくとも前記電槽隔壁との接合が予定される接合予定部Bが形成されることを特徴とする電池の製造方法。

【公開番号】特開2010−192252(P2010−192252A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35424(P2009−35424)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】