説明

電池外装用積層体

【課題】リチウムイオン電池の電解液の劣化による、アルミ箔と最内層とのラミネート強度の低下や層間剥離の発生が低減された電池外装用積層体であり、しかも、高い歩留まりで外装容器を製造することが可能な電池外装用積層体を提供する。
【解決手段】アルミ箔及び樹脂層を順次積層してなる電池外装用の積層体において、基材層11と、アルミ箔12と、ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層13とが順に積層され、基材層11が、アルミ箔12の外面側から順に、厚みが3〜11μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム層と、厚みが15〜50μmのポリアミドフィルム層とが積層されてなる積層フィルムである。また、アルミ箔12の少なくとも最内層面には、水溶性樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層14が積層されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池などの2次電池や電気二重層キャパシタ(以下、キャパシタと呼ぶ)の外装材に使用される電池外装用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な環境問題の高まりと共に、電気自動車の普及や、風力発電・太陽光発電などの自然エネルギーの有効活用が課題となっている。それに伴って、これらの技術分野では、電気エネルギーを貯蔵するための蓄電池として、リチウムイオン電池などの2次電池やキャパシタが注目されている。また、電気自動車などに使用されるリチウムイオン電池を収納する外装容器には、アルミ箔と樹脂フィルムを積層した電池外装用積層体を使用して作成した平袋や、絞り成形または張出成形による成形容器が使用されて薄型軽量化が図られている。
ところで、リチウムイオン電池の電解液は水分や光に弱いという性質を有している。そのため、リチウムイオン電池用の外装材料には、ポリアミドやポリエステルからなる基材層とアルミ箔とが積層された、防水性や遮光性に優れた電池外装用積層体が使用されている。
【0003】
このような電池外装用積層体を用いて作成された収納容器に、リチウムイオン電池を収納するには、例えば、図3(a)に示すように、あらかじめ電池外装用積層体10を用いて、凹部31を有するトレー状の形状を絞り成形などにより成形し、そのトレーの凹部31にリチウムイオン電池(図示せず)および電極36などの付属品を収納する。次いで、図3(b)に示すように、電池外装用積層体10からなる蓋材33を上から重ねて電池を包み、トレーのフランジ部32と蓋材33の四方の側縁部34をヒートシールして電池を密閉する。このようなトレーの凹部31に電池を載置する方法により作成された収納容器35では、上から電池を収納できるため、生産性が高い。
【0004】
上述した図3(a)に示したリチウムイオン電池の載置容器30において、トレーの深さ(以下、トレーの深さを「絞り」ということがある)は、従来、小型のリチウムイオン電池においては5〜6mm程度であった。ところが、近年では、電気自動車用などの用途では、これまでより大型電池用の収納容器が求められている。大型電池用の収納容器を製造するには、より深い絞りのトレーを成形しなければならなくなり技術的な困難さが増している。
また、リチウムイオン電池の内部に水分が侵入した場合、電解液が水分で分解して、強酸が発生する。この場合、電池外装用の積層体の内側から発生した強酸が浸透し、その結果としてアルミ箔が強酸で腐食して劣化してしまい、電解液の液漏れが発生し、電池性能が低下するだけでなく、リチウムイオン電池が発火する恐れがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−357494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の電池外装用積層体を構成するアルミ箔が強酸で腐食するのを防止する対策として、特許文献1には、アルミ箔の表面にクロメート処理を施すことによりクロム化処理被膜を形成し、耐腐食性を向上させる対策が開示されているが、クロメート処理は重金属であるクロムを使用することから環境対策の点から問題であり、また、クロメート処理以外の化成処理では耐腐食性を向上させる効果が薄いという問題がある。
【0007】
また、従来のアルミラミネートフィルムで深絞りに成形すると、アルミラミネートフィルムを折り重ねた際に、コーナ部Cが引き伸ばされ、ついには伸びの限界に達し、破断してピンホールや破れが発生することがあった。よって、アルミ箔と基材層との接着面が、引き延ばしの際の応力に屈して剥離することがあった。このような成形時の不良が発生するため、リチウムイオン電池などの収納容器の生産効率が低かった。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みて行われたものであり、リチウムイオン電池の電解液の劣化による、アルミ箔と最内層とのラミネート強度の低下や層間剥離の発生が低減された電池外装用積層体であり、しかも、高い歩留まりで外装容器を製造することが可能な電池外装用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、アルミ箔及び樹脂層を順次積層してなる電池外装用の積層体において、基材層と、アルミ箔と、ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層とが順に積層され、前記基材層が、前記アルミ箔の外面側から順に、厚みが3〜11μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム層と、厚みが15〜50μmのポリアミドフィルム層とが積層されてなる積層フィルムであることを特徴とする電池外装用積層体を提供する。
【0010】
また、本発明は、アルミ箔及び樹脂層を順次積層してなる電池外装用の積層体において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとポリアミドフィルムを2層とした基材層と、アルミ箔と、ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層とが順に積層され、前記アルミ箔の少なくとも最内層面に、水溶性樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層が積層されてなることを特徴とする電池外装用積層体を提供する。
【0011】
また、前記薄膜コーティング層には、フッ化金属又はその誘導体からなり、水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層を架橋させ、且つ、アルミ箔の表面を不動態化する物質を含むことが好ましい。
【0012】
また、JIS K7127に規定された測定方法により測定し、前記積層体の引張破断伸度がMD方向、TD方向のいずれも50%以上であることが好ましい。
【0013】
特に、大型電池において、耐熱性、耐水性および製造時の電解液の漏れによる外装材の白化現象を抑えるために、外装材の最外層にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いることを特徴とする電池外装用積層体であることが望ましい。絞り成形により、ピンホールが発生しないように、アルミ箔の外側にポリアミドフィルム層、さらにその外側の最外層にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用することが望ましい。但し、このような構成部材で厚みが12μm以上のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであると、絞り成形にて伸ばされた部分が、ヒートシール時の熱で、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム及びポリアミドフィルムが熱収縮して、アルミ箔とポリアミドフィルム層の間の接着層が、熱応力に耐えられず、デラミネート(層間剥離現象のことであって、以下「デラミ」と略称する)することが発生した。
そこで、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの厚みを3〜11μmにすると熱収縮は起きるが、その場合に生じる熱応力が小さいので、デラミの発生を防止することができた。
【0014】
更に、前記薄膜コーティング層が、熱処理などにより、架橋または非晶化することにより耐水化されたことにより、端面からの水分の浸入を抑えた構成であることが望ましい。
また、前記基材層と前記アルミ箔とは、ウレタン系接着剤を介して接着され、表面に塗布された前記アルミ箔と前記最内層とは、ウレタン系接着剤、酸変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂のいずれかを介して接着されてなることが好ましい。
【0015】
また、前記最内層の厚みが、20μm以上50μm以下であり、前記アルミ箔と前記最内層との接着強度が、JIS C6471に規定された引き剥がし測定方法Aにより規定された測定方法により測定し、20N/inch以上であることが好ましい。これは、シートシール部の耐圧強度が保持されるとともに、端面のシーラントが薄いほうが、水分の浸入が遅くなるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミ箔の少なくとも片面に薄膜コーティング層を積層しているため、アルミ箔と最内層との接着強度が非常に強いので、電池外装用積層体を用いて絞り成形や張出成形によりトレーを成形した際に、ピンホールの発生が防止されると共に、基材層とアルミ箔との剥離を防止できる。そのため、収納容器の成形の際の不良発生が減少する。
また、同様の理由で、電池外装用積層体の耐圧強度が高いので、最内層であるポリプロピレン層又はポリエチレン層の厚みを薄くしても耐圧強度が保持できる為、エッジ部分からリチウムイオン電池内部への水分の浸入が少なくなり、リチウムイオン電池の電解液の経時劣化が減少するので電池の製品寿命が長くなる。
また、基材層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとポリアミドフィルムをドライラミネート工法で、一般的な軟包材に使用するウレタン接着剤でラミネートした層であり、厚みが3〜11μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚みが15〜50μmのポリアミドフィルムとが、絞り成形した場合において、ピンホールやデラミが発生しない最も望ましい構成であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係わる電池用外装積層体を用いて作成した、電池用の収納容器の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係わる電池用外装積層体の一例を示す概略断面図である。
【図3】リチウムイオン電池を収納容器に収める工程を順に示す斜視図である。
【図4】薄膜コーティング層を示差熱分析装置で測定した、測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係わる電池外装用積層体を用いて製造した、リチウムイオン電池用の収納容器を例に取り上げ、図1および図2を参照しながら説明する。
図1に示すように、本発明の電池外装用積層体を用いて作成した電池外装用容器20は、電池外装用積層体10を折り重ねてリチウムイオン電池17および電極18を内包し、さらに電池外装用容器20の三方の側縁部19をヒートシールして袋状に製袋されたものである。なお、本発明に係わる電池外装用積層体を用いて製造した電池用収納容器におけるリチウムイオン電池の収納方法は、図3に示した。
【0019】
電池外装用積層体10は、図2に示すように、上記の基材層11と、アルミ箔12と、最内層13とが、それぞれ接着剤層15,16を介して接着されている。
また、アルミ箔12の少なくとも片面は、水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層14が積層されてなる。また、薄膜コーティング層14にはフッ化金属又はその誘導体からなり、水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層を架橋させ、且つ、アルミ箔の表面を不動態化する物質が含まれている。
また、この電池外装用積層体10は、JIS K7127に規定された測定方法により測定し、前記積層体の引張破断伸度が50%以上である。
ここで、引張破断伸度とは、JIS K7127に準拠し、引張速度50mm/分で測定した際に求められた引張破断伸度である。電池外装用積層体10の引張破断伸度がMD方向、TD方向のいずれも50%以上であると、電池外装用積層体10を折り重ねてもコーナ部が十分に引き伸ばされ、破断することがないので、ピンホールが発生しない。
また、基材層11とアルミ箔12とは、ウレタン系接着剤を介して接着され、アルミ箔12とポリプロピレン又はポリエチレンとからなる最内層13とは、ウレタン系接着剤又は酸変性ポリオレフィンを介して接着されてなる。
また、アルミ箔12と前記ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層13との接着強度が、JIS C6471に規定された測定方法により測定し、20N/inch以上である。
【0020】
基材層11は、高い機械的強度を有していれば特に制限されず、例えば、二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)及びポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの、2層フィルムが使用される。
基材層11の厚さは、全体で18〜60μmであることが好ましく、ポリアミドフィルムの厚みが15〜50μmであること、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの厚みが3〜11μmであることがさらに好ましい。
また電池外装用積層体の最外層にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用することで、耐熱性、及びヒートシール時の生産性が高く、仮に生産時に最外層のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに電解液が付着しても白化現象が起こらず、拭き取れば製品品質に影響が無いなどの優れた効果がある。
厚みが3〜11μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用すると、絞り成形性が良く、製袋時のヒートシール工程において、基材とアルミ箔との間がデラミするのを防止できる。
【0021】
アルミ箔12は、電池用外装容器に防水性および遮光性を持たせるための外部との絶縁層である。使用されるアルミ箔12としては特に制限されないが、少なくとも電池側の内面を水酸基が含有したポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層14が積層されてなることが好ましい。
水溶性樹脂とは、水酸基が含有したポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂で、ビニルエステル系モノマーの重合体又はその共重合体をケン化して得られる樹脂である。ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルや、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステルが挙げられる。共重合させる他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、α−オレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和酸類、塩化ビニルや塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類などが挙げられる。市販品としては、日本合成化学(株)製のGポリマー樹脂(商品名)が挙げられる。
また、薄膜コーティング層14にはフッ化金属又はその誘導体からなり、水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層を架橋させ、且つ、アルミ箔の表面を不動態化する物質を含有することが好ましい。フッ化金属又はその誘導体は、不動態であるアルミニウムのフッ化物を形成するFイオンを含む物質であり、例えばフッ化クロム、フッ化鉄、フッ化ジルコニウム、フッ化チタン、フッ化ハフニウム、ジルコンフッ化水素酸およびそれらの塩、チタンフッ化水素酸およびそれらの塩、等のフッ化物が挙げられる。
このアルミ箔の最内層面に、薄膜コーティング層を形成するには、例えば、水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を持つ非結晶ポリマー(日本合成化学(株)製、商品名:Gポリマー樹脂)を0.2〜6wt%、及びフッ化クロム(III)を0.1〜3wt%溶解した水溶液を用いて、乾燥後の厚みが0.1〜5μm程度のとなるように塗布した後、更にオーブンにて加熱乾燥を行なうことにより、薄膜コーティング層を形成することができる。
その際、水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂の融点である180℃以上で熱処理するとポリマーが架橋化し耐水性が向上する。これは、融点以上に熱処理する前後で、示差熱分析装置で融点を測定することで、架橋化しているかどうかで判定されるが、融点以上で熱処理した薄膜コーティング層は、融点のピークが無いことから架橋していることが解った。また、熱水に浸漬しても、この熱処理した薄膜コーティング層に変化は認められない。
【0022】
アルミ箔12の少なくとも片面に、薄膜コーティング層14が積層されていると、電池外装用積層体の耐圧強度が高いので、最内層13であるポリプロピレン層又はポリエチレン層の厚みを薄くしても耐圧強度が保持できる為、エッジ部分からリチウムイオン電池内部への水分の浸入が少なくなり、リチウムイオン電池の電解液の経時劣化が減少するので電池の製品寿命が長くなる。
また、本発明によれば、アルミ箔12の少なくとも片面に薄膜コーティング層14を積層しているため、アルミ箔12と最内層13との接着強度が非常に強いので、電池外装用積層体を用いて絞り成形や張出成形によりトレーを成形した際に、ピンホールの発生が防止されると共に、基材層11とアルミ箔12との剥離を防止できる。そのため、収納容器の成形の際の不良発生が減少する。
更に、微量の水分が、電池内部に浸入し、電解液が分解することによりフッ酸が発生したとしても、水酸基が含有したポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂は、フリーボリュームが少ないので、ガスバリヤ性が高く、シーラント層ともなる最内層13に沿って、外部へ拡散する事及び微量のフッ酸がアルミ面に接触しても、不動態化によりアルミ箔が犯されず、アルミ箔とシーラント層との層間接着強度が保たれ、耐圧強度保持が高くなり、電池性能も劣化しない。
【0023】
アルミ箔12の厚さは20〜100μmである。アルミ箔12の厚さが30〜60μmであると、十分な防水性および遮光性が発現するとともに、加工性も良好であるので好ましい。水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層14の厚みは、0.2〜10μmが望ましく、更に望ましくは0.5〜3μmであると防湿性や接着強度の性能が増加する。
【0024】
ポリプロピレン又はポリエチレンからなる最内層13は、ポリプロピレン又はポリエチレンを主として含む層であって、電池外装用積層体10を用いて製袋した際に最内側になり、リチウムイオン電池と接する層である。ポリプロピレン又はポリエチレンからなる最内層13をリチウムイオン電池と接する層にする理由は、ポリプロピレン又はポリエチレンはリチウムイオン電池の電解液に対する耐食性に優れ、かつヒートシール性が良好であるためである。ここで、ヒートシール性とは、高温におけるシールの安定性のことである。
最内層13がポリプロピレンの場合、最内層13に使用されるポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体であってもよいし、エチレンとの共重合体であってもよく、さらに、エチレンとの共重合体としては、ランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。最内層13がポリエチレンの場合、最内層13に使用されるポリエチレンとしては、LLDPEが望ましく、HDPEやLDPE及び無水マレイン酸やアクリル酸の共重合体などであっても構わない。
ポリプロピレンからなる最内層13の厚みとしては、20〜100μmであることが好ましい。ポリプロピレンからなる最内層13であると、厚みを100μm以上とするなどの過剰に厚くしなくても、電解液に対する耐食性およびヒートシール性、さらに十分な耐圧強度を保つことができるので、好ましい。特に、ヒートシールした断面からの水分の浸入を防止することにより、非水系電池やキャパシタの劣化を防止できるため、非常に有効な方法である。
【0025】
接着剤層15は、基材層11とアルミ箔12とを接着する層である。接着剤層15に含まれる接着剤としては、基材層11とアルミ箔12とを接着できれば特に制限されないが、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などが挙げられる。中でも、接着剤層15が、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などからなる場合、通常、ドライラミネートにより基材層11又はアルミ箔12に接着剤層15を積層する。
接着剤層15の厚みは3〜10μmである。接着剤層15の厚みが3〜10μmであると、基材層11とアルミ箔12とを十分高い接着力で接着させるので、電池外装用積層体10を絞り成形または張出成形しても、稜線部や変形部での接着が維持され、基材層11とアルミ箔12とが層間剥離することがない。
【0026】
アルミ箔12の薄膜コーティング層14と、ポリプロピレン又はポリエチレンからなる最内層13との接着には接着剤を使用してもよいし、使用しなくてもよいが、接着剤を使用すると、リチウムイオン電池の電解液が接着剤の接着強度を低下させることがあるので、アルミ箔12と最内層13との接着には接着剤を使用しないことが好ましい。
接着剤を使用しない場合には、アルミ箔の薄膜コーティング層14である水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂を使用するのが好ましい。この場合、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂やエポキシ基を含有するポリオレフィン樹脂などと熱接着性が高いので、押出ラミネートや熱ラミネートにより、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂やエポキシ基含有ポリオレフィン樹脂などのヒートシール剤を介して、アルミ箔12の薄膜コーティング層14と最内層13とを接着させることができる。
【0027】
また、接着剤を使用する場合の接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、酸変性ポリオレフィンなどが使用できる。また、酸変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いることが好ましい。無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いると、接着性及び長期の接着性能が高くなるので好ましい。
【0028】
上記の電池用外装容器20では、使用している電池外装用積層体10の引張破断伸度が50%以上であり、さらに、電池外装用積層体10のアルミ箔12の厚さおよび接着剤層15,16の厚さが最適化されているため、電池外装用積層体10を絞り成形や張出成形によりトレーを成形した際、コーナ部Cが十分に引き伸ばされるため、破断することがなく、ピンホールは発生しない。また、基材層11とアルミ箔12との接着力が十分に高く、引き伸ばしの際の応力に屈することがないので、剥離を防止できる。
【実施例】
【0029】
(測定方法)
・積層体の引張破断伸度の測定方法:JIS K7127「プラスチック−引張特性の試験方法−第3部:フィルム及びシートの試験条件」に規定された測定方法により測定した。
・アルミ箔と最内層との接着強度の測定方法:JIS C6471「フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法」に規定された引き剥がし測定方法A(90°方向引き剥がし)により測定した。
・ピンホール破断発生率の測定方法:電池外装用積層体を50×50mmサイズで深さ6ないし10mmの範囲内の所定の深さの冷間成形による絞り成形品を50個成形し、目視によりピンホールの有無を確認した。
・ヒートシール時のデラミ発生数:電池外装用積層体を50×50mmサイズで深さ6ないし10mmの範囲内の所定の深さの冷間成形による絞り成形品を50個成形し、ヒートシール後に、目視により、基材層とアルミ箔とのデラミの有無を確認した。
・電解液強度保持率の測定方法:作製した電池外装用積層体を用いて、50×50mm(ヒートシール幅が5mm)の4方袋に製袋して、その中にLiPFを1mol/リットル添加したプロピレンカーボネート(PC)/ジエチルカーボネート(DEC)電解液に純水を0.5wt%添加して、それを2cc計量し、充填して包装した。この4方袋を60℃のオーブンに100時間保管後、アルミ箔とポリプロピレン(PP)フィルムとの層間接着強度(k2)を測定する。
ここで、事前に測定しておいた、電解液に暴露する前のアルミ箔とポリプロピレン(PP)フィルムとの層間接着強度(k1)と、電解液に暴露した後の層間接着強度(k2)との比率を電解液強度保持率K=(k2/k1)×100(%)とした。
(測定装置)
・引張破断伸度の測定装置:メーカ名:島津製作所、型式:AUTOGRAPH AGS‐100A引張試験装置
・接着強度の測定装置:メーカ名:島津製作所、型式:AUTOGRAPH AGS‐100A引張試験装置
【0030】
(実施例1)
厚みが6μmの延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚みが25μmの延伸ポリアミドフィルムとを、ウレタン系接着剤でドライラミネートした基材層と、厚みが40μmのアルミ箔とを(エポキシ系接着剤を含有する)ウレタン系接着剤からなる接着剤層(厚み7μm)を介して積層した。
このアルミ箔の最内層面に、水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を持つ非結晶ポリマー(日本合成化学(株)製、商品名:Gポリマー樹脂)を3重量%と、フッ化クロム(III)を1重量%とを溶かした水溶液を、乾燥後の厚みが1μmとなるように塗布し、薄膜コーティング層を積層し、更に200℃のオーブンにて加熱し架橋反応させた。
さらに、アルミ箔の薄膜コーティング層の上に、酸変性ポリプロピレン系ヒートシール剤を3g/mで塗布し、その上にポリプロピレン層30μmをラミネート加工して、実施例1の電池外装用積層体10を作製した。
この実施例1の電池外装用積層体10から試験片を採取し、MD方向およびTD方向の引張破断伸度を測定した。また、この電池外装用積層体10で6mmおよび8mm深さの絞り成形を50回行って、ヒートシール時のデラミ発生数を測定した。また、この実施例1の電池外装用積層体10からアルミ箔と最内層との接着強度の測定用の試験片を採取し、アルミ箔と最内層との接着強度を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0031】
(実施例2)
厚みが3μmの延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの品と、厚みが25μmの延伸ポリアミドフィルムとを、ウレタン系接着剤でドライラミネートした基材層と、厚みが40μmのアルミ箔とを(エポキシ系接着剤を含有する)ウレタン系接着剤からなる接着剤層(厚み7μm)を介して積層した。また、アルミ箔の最内層面に、水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を持つ非結晶ポリマー(日本合成化学(株)製、商品名:Gポリマー樹脂)を3重量%と、フッ化クロム(III)を1重量%とを溶かした水溶液を、乾燥後の厚みが3μmとなるように塗布し、薄膜コーティング層を積層し、更に200℃のオーブンにて加熱乾燥の処理をした。
この薄膜コーティング層を示差熱分析装置で、融点を確認したところ、融点のピークが無いことから架橋していることが解った。図4に、薄膜コーティング層を示差熱分析装置で測定した結果を示す。
さらに、アルミ箔の薄膜コーティング層の上に、酸変性ポリプロピレン系ヒートシール剤を3g/mで塗布した以外は実施例1と同様にして、実施例2の電池外装用積層体10を得て、引張破断伸度、ヒートシール時のデラミ発生数およびアルミ箔と最内層との接着強度を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
厚みが12μmの延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚みが25μmの延伸ポリアミドフィルムとを、ウレタン系接着剤でドライラミネートした基材層と厚みが40μmのアルミ箔とを(エポキシ系接着剤を含有する)ウレタン系接着剤からなる接着剤層(厚み7μm)を介して積層した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例1の電池外装用積層体10を得て、引張破断伸度、ヒートシール時のデラミ発生数およびアルミ箔と最内層との接着強度を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0033】
(比較例2)
厚みが12μmの延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚みが25μmの延伸ポリアミドフィルムとを、ウレタン系接着剤でドライラミネートした基材層と厚みが40μmのアルミ箔とを(エポキシ系接着剤を含有する)ウレタン系接着剤からなる接着剤層(厚み10μm)を介して積層した。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例2の電池外装用積層体10を得て、引張破断伸度、ヒートシール時のデラミ発生数およびアルミ箔と最内層との接着強度を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1および実施例2は、水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を持つ非結晶ポリマー(日本合成化学(株)製Gポリマー樹脂)を3重量%と、フッ化クロム(III)を1重量%とを溶かした水溶液を塗布し、薄膜コーティング層を積層してあることから、アルミ箔と最内層との接着強度が20N/inch以上であるので、引張破断伸度がMD方向、TD方向のいずれも50%を超えており、ヒートシール時のデラミ発生の頻度が低くなった。
また、実施例1,2の電池外装用積層体を用いて、電解液強度保持率を測定した。試験結果は、実施例1の電池外装用積層体における電解液強度保持率が85%であり、実施例2の電池外装用積層体における電解液強度保持率が78%であった。つまり、実施例1,2は、リチウム電池の電解液に対しても耐食性があった。
一方、比較例1の電池外装用積層体では、アルミ箔と最内層との接着強度が20N/inch以上であったが、厚みが12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用した為、絞り成形後のヒートシール工程において、デラミが発生した。
また、比較例2の電池外装用積層体では、アルミ箔と最内層の接着強度が、接着剤の厚みを10μmに増やして、20N/inch以上にしても、厚みが12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用した為、熱収縮によるデラミが発生した。
【0036】
(実施例3)
厚みが3μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚みが25μmのポリアミドフィルム層とが、2g/mで塗布されたウレタン系接着剤層を介して積層してなる基材層と、エポキシ系接着剤を含有するウレタン系接着剤層7μmとアルミ箔とを、この接着剤層との接着面に水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を持つ非結晶ポリマー(日本合成化学(株)製、商品名:Gポリマー樹脂)を3重量%と、フッ化クロム(III)を1重量%とを溶かした水溶液を、乾燥後の厚みが3μmとなるように塗布し、その上に酸変性ポリプロピレン系ヒートシール剤を3g/mで塗布し、その後にポリプロピレン層40μmを熱ラミネートされた4層構成からなる、実施例3の電池外装用積層体10を作製した。
この実施例3の電池外装用積層体10から試験片を採取し、アルミ箔と最内層との接着強度を測定した。また、この実施例3の電池外装用積層体10で8mmおよび10mm深さの絞り成形を50回行って、ピンホール破断の発生数を計測し、ピンホール破断発生率を求めた。また、この実施例3の電池外装用積層体10で8mmおよび10mm深さの絞り成形を50回行って、ヒートシール時のデラミ発生数を測定した。それらの結果を表2に示す。
【0037】
(実施例4)
最内層のポリプロピレン層の厚みを30μmにした以外は、実施例3と同様にして、実施例4の電池外装用積層体10を得て、アルミ箔と最内層との接着強度、ヒートシール時のデラミ発生数およびピンホール破断発生率を測定した。それらの結果を表2に示す。
【0038】
(比較例3)
厚みが12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、厚みが25μmのポリアミドフィルム層とが、7g/mで塗布されたウレタン系接着剤層を介して積層してなる基材層と、エポキシ系接着剤を含有するウレタン系接着剤層7μmとアルミ箔とを、この接着剤層との接着面に水酸基を有するポリビニルアルコールの骨格を持つ非結晶ポリマー(日本合成化学(株)製、商品名:Gポリマー樹脂)を3重量%と、フッ化クロム(III)を1重量%とを溶かした水溶液を、乾燥後の厚みが3μmとなるように塗布し、その上に酸変性ポリプロピレン系ヒートシール剤を3g/mで塗布し、その後にポリプロピレン層40μmを熱ラミネートされた4層構成からなる、比較例3の電池外装用積層体10を得た。
この比較例3の電池外装用積層体10から試験片を採取し、アルミ箔と最内層との接着強度を測定した。また、この比較例3の電池外装用積層体10で8mmおよび10mm深さの絞り成形を50回行って、ピンホール破断の発生数を計測し、ピンホール破断発生率を求めた。また、この比較例3の電池外装用積層体10で8mmおよび10mm深さの絞り成形を50回行って、ヒートシール時のデラミ発生数を測定した。それらの結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例3および実施例4は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの厚みが3μmと十分に薄いので、ヒートシール時の熱収縮により生じる熱応力が小さいので、絞り成形後のヒートシール後に、デラミが発生しなかった。また、実施例3および実施例4は、アルミ箔とシーラント(最内層)との接着強度が高いので、引張破断伸度が高く、電解液強度保持率の測定値は省略するが実施例1,2と同様に耐電解液性が優れており、更に耐圧強度も十分であり、ピンホール破断発生もなかった。
一方、比較例3では、厚みが12μmと厚いポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用した為、ヒートシール時の熱収縮により生じる熱応力が大きくなりデラミが発生した。
【符号の説明】
【0041】
10…電池外装用積層体、11…基材層(ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム/ポリアミドフィルム)、12…アルミ箔、13…最内層、14…薄膜コーティング層、15,16…接着剤層、17…リチウムイオン電池、18…電極、19…側縁部、20…電池用外装容器、30…電池用載置容器、35…電池用収納容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ箔及び樹脂層を順次積層してなる電池外装用の積層体において、基材層と、アルミ箔と、ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層とが順に積層され、前記基材層が、前記アルミ箔の外面側から順に、厚みが3〜11μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム層と、厚みが15〜50μmのポリアミドフィルム層とが積層されてなる積層フィルムであることを特徴とする電池外装用積層体。
【請求項2】
アルミ箔及び樹脂層を順次積層してなる電池外装用の積層体において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとポリアミドフィルム層との2層からなる基材層と、アルミ箔と、ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層とが順に積層され、前記アルミ箔の少なくとも最内層面には、水溶性樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層が積層されてなることを特徴とする電池外装用積層体。
【請求項3】
前記アルミ箔の少なくとも最内層面には、水溶性樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層が積層され、前記薄膜コーティング層には、フッ化金属又はその誘導体からなり、水酸基を含有するポリビニルアルコールの骨格を有する樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層を架橋させ、且つ、アルミ箔の表面を不動態化する物質を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電池外装用積層体。
【請求項4】
JIS K7127に規定された測定方法により測定し、前記積層体の引張破断伸度がMD方向、TD方向のいずれも50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電池外装用積層体。
【請求項5】
前記アルミ箔の少なくとも最内層面には、水溶性樹脂又はその共重合樹脂からなる薄膜コーティング層が積層され、前記薄膜コーティング層が、架橋または非晶化することにより耐水性化されたことを特徴とする請求項1または2に記載の電池外装用積層体。
【請求項6】
前記基材層と、前記アルミ箔とは、ウレタン系接着剤を介して接着され、前記アルミ箔と前記最内層とは、ウレタン系接着剤、酸変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂のいずれかを介して接着されてなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電池外装用積層体。
【請求項7】
前記最内層の厚みが、20〜50μmであり、かつ、前記アルミ箔と前記最内層との接着強度が、JIS C6471に規定された引き剥がし測定方法Aにより測定し、20N/inch以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電池外装用積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−33394(P2012−33394A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172266(P2010−172266)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】