説明

電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池

【課題】 電池性能の向上を保持しつつ、電池性能の向上に伴うガス発生による漏液性を低減させることが可能な電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池を提供する。
【解決手段】 鋼板の電池容器内面となる側にニッケル−チタン合金めっきを施すなどして鋼板上にチタンを含む金属層を形成し、その上層にニッケルめっきまたはニッケル合金めっきを施すか、またはめっきを施した後に熱処理を施すことにより、鋼素地とその上のめっき層との境界部にチタンを存在させて電池容器用めっき鋼板とし、それを電池容器に成形加工して電池に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池容器用めっき鋼板、その電池容器用めっき鋼板を用いた電池容器およびその電池容器を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、CDプレーヤー、MDプレーヤー、液晶テレビ、ゲーム機器など、携帯用AV機器や携帯電話の発展とともに、重負荷の作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。これらの電池においては、高出力化および長寿命化など、高性能化が求められており、正極および負極活物質を充填する電池容器も電池の重要な構成要素としての性能の向上が求められている。従来、これらの電池容器材料としては、強アルカリ性の電解液に対する耐食性と、電池容器内表面と正極合剤との界面における低接触抵抗の保持を可能とするため、予め冷延鋼板にニッケルめっきを施したニッケルめっき鋼板を電池容器に成形加工したもの、もしくは冷延鋼板を電池容器に成形加工した後、電池容器内外表面をバレルめっき法によりニッケルめっきしたものが用いられている。またニッケルめっき鋼板としては、ニッケルめっき層と鋼素地との密着性を向上し、成形加工時の鉄露出を抑制するため、ニッケルめっき後に、熱処理を施して鋼素地とニッケルめっき層の間に鉄−ニッケル合金層(拡散層)を設けた熱拡散処理の方法が採られているが、熱処理による拡散層を形成させる際に最表層にニッケル層が残存する場合は、ニッケル層の表面に強固な酸化皮膜が存在するようになり、接触抵抗を阻害するため、ニッケル層を全て鉄−ニッケル合金層(拡散層)に変換させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、電池容器内面となる面に有機光沢剤を添加した硬質の光沢ニッケルめっきを施すことにより、プレス成形時に楔形の割れを生じさせて、正極合剤や密着性を高めて接触面積を大きくして電池の内部抵抗を減少させる方法が提案している(例えば特許文献2参照)。さらに、本発明者らは、ニッケル層または鉄−ニッケル合金層(拡散層)の上に、ニッケル−錫合金層を生成させた鋼板を用いることにより、電池容器に成形加工する際に細かいひび割れを生じさせて電池容器内面に凹凸面を構成し、正極合剤や導電性被膜との接触面積を大きくして電池の内部抵抗を減少させる方法を提案している(例えば特許文献3参照)。
【0003】
絞り加工や絞りしごき加工を施して電池容器に成形加工する際に電池容器内面側のめっき層に割れが生じた場合、鋼素地が局所的に露出する。鋼素地が露出すると、露出部は直接強アルカリ性の電解液に接するようになり、鋼板素地近傍においては鉄よりも貴な金属であるニッケルめっき層のニッケル、活物質の二酸化マンガン、酸素が存在するために鉄の溶解が生じる。溶出した鉄イオンが亜鉛からなる負極へ移行すると、その亜鉛との反応により水素ガスが発生するようになる。このようにして生じたガスは電池内圧を上昇させて漏液発生の原因となる。また、ニッケルめっき層の厚さが薄いほど電池性能が良好であることが知られているが、その反面鋼素地の露出度合が大きくなり、ガス発生による漏液性が増大するという問題が生じる。また、特許文献2や特許文献3に記載されているように、めっき皮膜を硬質化させた場合、放電特性が向上する反面、電池容器に成形加工する際に鋼素地に達する割れを誘起させて、よりガス発生が増大する恐れが大きくなる。
【0004】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【特許文献1】特開平08−017406号公報
【特許文献2】特許公報 第2810257号公報
【特許文献3】特許公報 第2877957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明においては、ニッケルめっき鋼板のめっき厚さを低減して電池特性を向上する方法や、硬質めっき層やめっき後に熱処理してめっき皮膜を硬質化させて電池容器に成形加工する際に微小クラックを生じせしめて正極活物質との密着性を高めて電池性能の向上を図る方法などの従来の方法において、電池性能の向上を保持しつつ、これらの方法に付随するガス発生による漏液性を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するため、本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上にチタンを含む金属層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板(請求項1)であり、
上記(請求項1)の電池容器用めっき鋼板において、前記チタンを含む金属層上に、ニッケル層が形成されてなること(請求項2)を特徴とし、または
前記チタンを含む金属層上に、ニッケル合金層が形成されてなること(請求項3)を特徴とし、また
上記(請求項2または3)の電池容器用めっき鋼板において、前記ニッケル層中または前記ニッケル合金層中に炭素質が分散されてなること(請求項4)を特徴とし、さらに
上記(請求項3または4)の電池容器用めっき鋼板において、前記ニッケル合金が、ニッケル−錫合金、ニッケル−リン合金、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−コバルト−リン合金、ニッケル−ボロン合金、ニッケル−コバルト−ボロン合金のいずれかであること(請求項5)を特徴とする。
【0007】
また、本発明の電池容器は上記(請求項1〜5)のいずれかの電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器(請求項6)であり、
本発明の電池は上記の(請求項6)の電池容器を用いてなる電池(請求項7)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池容器用めっき鋼板は、鋼板の少なくとも電池容器内面となる側にニッケル−チタン合金めっきを施すなどして鋼板上にチタンを含む金属層を形成し、その上層にニッケルめっきまたはニッケル合金めっきを施すか、またはめっきを施した後に熱処理を施すことにより、鋼素地とその上のめっき層との境界部にチタンを存在させたものである。鋼素地上にチタンを存在させると、チタンは鉄よりも卑な電位を有しているため、チタンの犠牲溶解により鉄の溶解を抑止することができる。そのため、鋼素地上のニッケルめっきなどのめっき皮膜が薄く、またはめっき層のピンホール、もしくは光沢ニッケルめっきやニッケル−錫合金層などの硬質層を成形加工した際に微小クラックが発生して鋼素地が露出しても、鉄の溶解による負極からのガス発生が低下して、耐漏液性が向上し、従来では電池の放電性能は優れていても耐漏液性が劣る、硬質なニッケル−錫合金などのニッケル合金めっきを形成する従来方法における問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の内容を説明する。本発明の電池容器用めっき鋼板の基板となる鋼板としては、絞り加工用の低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01〜0.15重量%)、またはニオブやチタンを添加した深絞り加工用の非時効性の極低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01重量%未満)を用いる。これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケールを除去した後、常法により冷間圧延し、次いで電解洗浄、焼鈍、調質圧延したものを基板として用いる。あるいは、冷間圧延し、次いで電解洗浄した後の未焼鈍材を基板として用いることもできる。
【0010】
まず、基板である鋼板の電池容器の内面となる片面にニッケル−チタン合金めっきを施す。次いで鋼板の電池容器の外面となる片面および内面に施したニッケル−チタン合金めっきの上層に、ニッケルめっき、ニッケル合金めっき、炭素質分散ニッケルめっき、炭素質分散ニッケル合金めっきのいずれかを施すか、またはニッケルめっきを施し、引き続いてその上に、ニッケル合金めっき、炭素質分散ニッケルめっき、炭素質分散ニッケル合金めっき、錫めっきのいずれかを施す。錫めっきを施した後にはめっき後に熱処理を施すが、錫めっき以外の各めっきについては、めっき後に熱処理を施してもよいし、めっきままでもよい。
【0011】
ニッケル−チタン合金めっきに用いるめっき浴として、チタンのイオン供給源としてフッ化チタンカリウムを用い、これに硫酸ニッケル、および錯化剤としてグリシン等のアミノ酸など有機錯化剤を添加しためっき浴を用い、電気めっき法でめっきすることが好ましい。めっき付着量は0.1〜1.0g/m の範囲とすることが好ましい。0.1g/m 未満では、チタンの犠牲溶解にいる露出した鋼素地の鉄溶解を抑止する効果が小さく、一方、また1.0g/m を超えても、抑止効果は飽和に達し不経済になる。適用するめっき浴組成、pH、電解条件などにより変動するが、10〜30%のチタン含有率のニッケル−チタン合金めっき皮膜が得られる。
【0012】
ニッケル−チタン合金めっきに次いでニッケルめっきを施す場合は、ワット浴による無光沢ニッケルめっき、ワット浴に有機添加剤を加えた半光沢ニッケルめっきを施すことが好ましい。ニッケルめっき付着量は2g/m 以上とすることが好ましい。2g/m 未満ではめっき皮膜のピンホールや、電池容器に成形加工する際の疵などによる鋼素地の露出度が過度になり、チタンの犠牲溶解による鉄イオンのアルカリ電解液中への溶解を抑止することが困難となる。ニッケルめっき付着量の上限は経済性により適宜定めることができる。ニッケルめっき後に熱処理を施してもよい。熱処理により、鋼素地側から順に、鉄−ニッケル−チタン合金層が形成され、その上層に鉄−ニッケル合金層、または鉄−ニッケル−チタン合金層が形成され、さらにその上層に鉄−ニッケル合金層、またその上層にニッケル層が形成される。
【0013】
ニッケル−チタン合金めっきに次いでニッケル合金めっきを施す場合は、硬質層または硬質でかつ導電性を向上させた層が得られる。硬質層が得られるニッケル合金めっきとしては、ニッケル−リン合金めっき、ニッケル−コバルト合金めっき、ニッケル−コバルト−リン合金めっき、ニッケル−ボロン合金めっき、ニッケル−コバルト−ボロン合金めっきなどを上げることができる。これらのニッケル合金めっきのめっき付着量は、いずれのニッケル合金めっきにおいてもニッケル量として0.5〜5g/m の範囲であることが好ましい。0.5g/m 未満では電池放電特性の向上効果が得られず、一方、5g/m を超えると電池容器に成形加工する際に微細クラックが過度に生じるようになり、チタンの犠牲溶解による鉄溶出を抑止できなるため、耐漏液性の向上効果が得られなくなる。
【0014】
ニッケル合金めっきとしてニッケル−リン合金めっきを用いる場合は、無光沢ニッケルめっき浴に亜リン酸を添加した浴を用いることが好ましい。ニッケルリン合金めっきのリン含有率(P/(Ni+P)×100)は1〜12%とすることが好ましい。1%未満では、ニッケル−リン合金めっきが充分に硬質化せず、一方12%を超えると析出効率が低下するなど、安定しためっき作業が困難となる。
【0015】
ニッケル合金めっきとしてニッケル−コバルト合金めっきを用いる場合は、ワット浴に硫酸コバルトを添加した浴を用いることが好ましい。ニッケル−コバルト合金めっきのコバルト含有率(Co/(Ni+Co)×100)は2.5〜50%の範囲とすることが好ましい。2.5%未満ではコバルトを含有させることによる電池保存後の導電性の劣化を抑止する効果が小さく、一方50%を超えても導電性の劣化抑止の効果は飽和に達し不経済になる。
【0016】
ニッケル合金めっきとしてニッケル−コバルト−リン合金めっきを用いる場合は、ワット浴に硫酸コバルトと亜リン酸を添加した浴を用いることが好ましい。ニッケル−コバルト−リン合金めっきのコバルト含有率(Co/(Ni+Co+P)×100)は、前記のニッケル−コバルト合金めっきを用いる場合と同様の理由で2.5〜50%の範囲とすることが好ましい。リン含有率(P/(Ni+Co+P)×100)は、前記のニッケル−リン合金めっきを用いる場合と同様の理由により1〜12%の範囲とすることが好ましい。
【0017】
ニッケル合金めっきとしてニッケル−ボロン合金めっきを用いる場合は、ワット浴にトリメチルアミンボランを添加した浴を用いることが好ましい。ニッケル−ボロン合金めっきのボロン含有率(B/(Ni+B)×100)は1〜5%の範囲とすることが好ましい。1%未満では、ニッケル−ボロン合金めっきが充分に硬質化せず、また5%を超えてはめっき皮膜の析出効率の低下や皮膜組成の制御が困難となる。
【0018】
ニッケル合金めっきとしてニッケル−コバルト−ボロン合金めっきを用いる場合は、ワット浴に硫酸コバルトとトリメチルアミンボランを添加した浴を用いることが好ましい。ニッケル−コバルト−ボロン合金めっきのコバルト含有率(Co/(Ni+Co+B)×100)は、前記のニッケル−コバルト合金めっきを用いる場合と同様の理由で2.5〜50%の範囲とすることが好ましい。また、ボロン含有率(B/(Ni+Co+B)×100)は前記のニッケル−ボロン合金めっきを用いる場合と同様の理由により1〜5%の範囲とすることが好ましい。
【0019】
上記の各種ニッケル合金めっきは、ニッケル−チタン合金めっきの上に直接施してもよいし、ニッケル−チタン合金めっきを施し次いでニッケルめっきを施したその上に施してもよい。
【0020】
また、上記のようにしてニッケル−チタン合金層を形成させたその上、もしくはニッケル−チタン合金層とその上にニッケル層を形成させたその上に、上記のニッケルめっき浴や各種ニッケル合金めっき浴に炭素質を分散含有させた分散めっき浴を用いて、炭素質分散ニッケルめっきまたは炭素質分散ニッケル合金めっきを施してもよい。炭素質としては、粒径が1〜10μmの天然黒鉛粉末や人造黒鉛粉末、チャンネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックからなる微細炭素質、カーボンナノチューブなどの極微細炭素質、あるいはこれらの2種以上を混合したものを用いることができる。極微細炭素質は高価であるため、平均径が10〜60nmのケッチェンブラックや平均径が50〜200nmのアセチレンブラックなどのカーボンブラックからなる微細炭素質を用いることがより好ましい。炭素質分散ニッケルめっきまたは炭素質分散ニッケル合金めっきのめっき皮膜中の炭素質含有量は0.1〜5重量%(全金属量に対する炭素質含有量の比率)の範囲とすることが好ましく、0.5〜3重量%の量で分散されていることがより好ましい。これらの炭素質は疎水性であるので、界面活性剤を用いてめっき液中に分散させる。これらの炭素質を分散させためっき液を用いて電解処理することにより、めっき層中にこれらの炭素質が分散してなる分散めっきが得られる。
【0021】
これらの炭素質分散ニッケルめっきまたは炭素質分散ニッケル合金めっきのめっき付着量は、ニッケル量として0.5〜5g/m の範囲が好ましい。0.5g/m 未満では電池放電特性の効果が得られず、一方5g/m を超えると電池欲に成形加工する際に微小クラックが過度に生じるようになり、チタンの犠牲溶解による鉄溶出を抑止できなり、耐漏液性への充分な効果が得られなくなる。
【0022】
以上のようにして、ニッケル−チタン合金層上に硬質なニッケル合金めっきを施す方法の他に、ニッケル−チタン合金層上にニッケルめっきを施し、さらにその上に錫めっきを施した後、熱処理を施して硬質のニッケル−錫合金層を生成させる方法もある。ニッケルめっき後に施す錫めっきのめっき付着量は0.5〜5g/m の範囲とすることが好ましい。0.5g/m 未満では熱処理により形成されるニッケル−錫合金層の厚さが薄く、電池容器に成形加工した際に微小クラックが充分に生成せず、正極活物質との充分な密着性が得られず、電池放電特性の向上効果が不充分である。一方、5g/m を超えるとニッケル−錫合金層の厚さが厚くなりすぎ、微小クラックが鋼素地へ達する程度が過度になり、チタンの犠牲溶解による鉄溶解抑止効果の限界を超えてしまい、耐漏液性が劣下するようになる。錫めっきの付着量とその下層のニッケルめっきの付着量との比は、錫がすべてニッケル−錫合金(NiSn)の元素比以上のニッケル付着量とする必要がある。最表層に合金化しない錫が残存した場合、錫がアルカリ電解液に溶出して電池性能の劣化をきたす。熱処理は500℃以上の加熱温度で、1時間以上加熱することが好ましい。この範囲をはずれた熱処理条件では、ニッケル−錫合金として錫リッチなNiSnやNiSnが生成し、アルカリ電解液中への錫の溶解量が増加するため好ましくない。
【0023】
上記のニッケル−チタン合金めっきを施し、その上にニッケルめっきと錫めっきを施した後に熱処理する方法以外の、ニッケル−チタン合金めっきを施し、その上にニッケルめっきを施し、さらにその上にニッケル合金めっき、炭素質分散ニッケルめっき、炭素質分散ニッケル合金めっきいずれかのめっきを施した場合は、めっきのままとしてもよいし、前記したように、ニッケル−チタン合金めっきとニッケルめっきを施した後に熱処理を施してから、その上にニッケル合金めっき、炭素質分散ニッケルめっき、炭素質分散ニッケル合金めっきのいずれかのめっきを施してもよい。もしくはニッケル−チタン合金めっき、ニッケルめっき、次いでニッケル合金めっき、炭素質分散ニッケルめっき、炭素質分散ニッケル合金めっきのいずれかのめっきを施した後に熱処理を施してもよい。これらのめっき後に熱処理を施す場合は、箱型焼鈍法または連続焼鈍法のいずれかを用いる。熱処理条件としては箱型焼鈍法を用いる場合は、450℃未満の加熱ではニッケルめっき層は軟化せず、また鉄−ニッケル合金層(拡散層)も形成されない。一方700℃を超える温度で加熱した場合は鉄−ニッケル合金層(拡散層)は充分に形成されるものの、鋼素地は軟質化し過ぎて電池容器の強度劣化を生じ好ましくない。このため熱処理温度としては450〜650℃、好ましくは500〜600℃の範囲が好適である。加熱時間としては上記の温度範囲において1〜6時間の均熱加熱することが好ましい。連続焼鈍法を用いる場合は600〜850℃の加熱温度で1〜5分間の加熱時間とすることが好ましい。
【0024】
本発明の電池容器は、上記の電池容器用めっき鋼板を、絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法を用いて、有底の筒型形状に成形加工して得られる。筒型形状としては、底面が円、楕円、または長方形や正方形などの多角形の形状であり、用途に応じて側壁の高さを適宜選択した筒型形状に成形加工する。このようにして得られる電池容器に正極合剤、負極活物質等を充填して電池とする。
【実施例】
【0025】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
[電池容器用めっき鋼板の作成]
めっき基板として、表1に化学組成を示す熱間圧延済みの低炭素アルミキルド鋼(I)または極低炭素アルミキルド鋼(II)を用いた。
【0026】
【表1】

【0027】
上記のIまたはIIの鋼種の熱間圧延板に、常法により冷間圧延、電解洗浄を施して0.25mmの板厚を有する冷間圧延板とした後、鋼種Iの場合は箱型焼鈍法を用いて均熱温度640〜680℃で均熱時間8時間の焼鈍を施した焼鈍板に、下記に示す各種のめっきを施し、そのまま用いるか、またはめっき後に箱型焼鈍法を用いて500〜550℃、過熱時間6〜8時間の熱処理を施した。また鋼種Iの一部については電解洗浄を施したままの未焼鈍板に下記に示す各種のめっきを施した後、連続焼鈍炉法により加熱温度650℃、加熱時間2分の熱処理を施した。鋼種IIの場合は電解洗浄を施したままの未焼鈍板に下記に示す各種のめっきを施した後、連続焼鈍炉法により加熱温度780℃、加熱時間2分の熱処理を施した。このようにして、下記のイ)〜ヌ)に示す工程を経て電池容器用めっき鋼板を作成した。
イ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)
ロ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ハ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケル−チタン合金めっき(内面側)→ニッケルめっき(内、外面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ニ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→錫めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ホ)極低炭素アルミキルド鋼(II)→冷間圧延→電解洗浄→ニッケル−チタン合金めっき(内面側)→ニッケルめっき(内、外面側)→ニッケル合金めっき(内面側)→熱処理(連続焼鈍法)→調質圧延
ヘ)極低炭素アルミキルド鋼(II)→冷間圧延→電解洗浄→ニッケルめっき(内、外面側)→ニッケル合金めっき(内面側)→熱処理(連続焼鈍法)→調質圧延
ト)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケル−チタン合金めっき(内面側)→ニッケルめっき(内、外面側)→炭素質分散ニッケルめっき(内面側)
チ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→炭素質分散ニッケルめっき(内面側)
リ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルチタン合金めっき(内面側)→ニッケルめっき(内、外面側)→炭素質分散ニッケル合金めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
ヌ)低炭素アルミキルド鋼(I)→冷間圧延→電解洗浄→焼鈍(箱型焼鈍法)→調質圧延→ニッケルめっき(内、外面側)→炭素質分散ニッケル合金めっき(内面側)→熱処理(箱型焼鈍法)→調質圧延
上記イ)〜ヌ)の工程における各めっき処理は以下に示す条件で行なった。
【0028】
<ニッケルめっき>
浴組成 硫酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 35g/L
ホウ酸 40g/L
ビット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 4.0〜4.6
浴温 55〜60℃
電流密度 15A/dm
【0029】
<ニッケル−チタン合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 8g/L
フッ化チタンカリウム 24g/L
L−グルタミン酸 8g/L
グリシン 10g/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 5.0〜5.5
浴温 55〜60℃
電流密度 5A/dm
【0030】
<錫めっき>
浴組成 硫酸第一スズ 30g/L
フェノールスルホン酸 60g/L
エトキシ化α−ナフトール 5g/L
陽極 錫板
攪拌 めっき浴の循環
浴温 45〜50℃
電流密度 5A/dm
【0031】
<ニッケル−リン合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 35g/L
ホウ酸 20g/L
亜リン酸 5〜20g/L
ビット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 4.0〜4.6
浴温 55〜60℃
電流密度 15A/dm
【0032】
<ニッケル−コバルト合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 250g/L
硫酸コバルト 5〜40g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 30g/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 1.5〜2.5
浴温 40〜60℃
電流密度 10〜15A/dm
【0033】
<ニッケル−コバルト−ボロン合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 250g/L
硫酸コバルト 30g/L
塩化ニッケル 40g/L
トリメチルアミンボラン 10g/L
ホウ酸 20g/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 1.5〜2.5
浴温 40〜60℃
電流密度 10〜15A/dm
【0034】
<炭素質分散ニッケルめっき>
浴組成 硫酸ニッケル 300g/L
塩化ニッケル 35g/L
ホウ酸 40g/L
ケッチェンブラック(平均粒径40nm) 10〜20g/L
分散剤 御国色素(株)製 TCDA−10 10〜20g/L
(ナフタレンスルフォン酸縮合物系)
ビット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 4.5〜5.0
浴温 55〜60℃
電流密度 5〜10A/dm
【0035】
<炭素質分散ニッケル−コバルト−リン合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 250g/L
硫酸コバルト 30g/L
塩化ニッケル 40g/L
亜リン酸 15g/L
ホウ酸 20g/L
カーボンブラック(平均粒径180nm) 10〜20g/L
分散剤 御国色素(株)製 TCDA−10 10〜20g/L
(ナフタレンスルフォン酸縮合物系)
ビット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 空気撹拝
pH 4.5〜5.0
浴温 55〜60℃
電流密度 5〜10A/dm
【0036】
<炭素質分散ニッケル−ボロン合金めっき>
浴組成 硫酸ニッケル 240g/L
塩化ニッケル 40g/L
トリメチルアミンボラン 6〜12g/L
ホウ酸 30g/L
アセチレンブラック(平均粒径120nm) 10〜20g/L
分散剤 御国色素(株)製 TCDA−10 10〜20g/L
(ナフタレンスルフォン酸縮合物系)
ビット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.4mL/L
陽極 ニッケルベレット(チタンバスケットにINCO(株)製Sペレットを
充填しポリプロピレン製アノードバッグを装着)
攪拌 めっき液の攪拌
pH 4.5〜5.0
浴温 55〜60℃
電流密度 1〜5A/dm
以上のようにして表2及び表3に示す電池容器用めっき鋼板の試料(試料番号1〜16)を作成した。なお、試料番号15〜16では、熱処理を施さなかった。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
[電池容器の作成]
これらの試料番号1〜16の試料から57mm径でブランクを打ち抜いた後、10段の絞り加工により、外径13.8mm、高さ49.3mmの円筒形のLR6型電池(単三型電池)容器に成形加工した。
【0040】
[電池の作成]
この電池容器を用いて、以下のようにしてアルカリマンガン電池を作成した。二酸化マンガンと黒鉛を10:1の比率で採取し、水酸化カリウム(10モル)を添加混合して正極合剤を作成した。次いでこの正極合剤を金型中で加圧して所定寸法のドーナツ形状の正極合剤ベレットに成形した。電池容器内へ黒鉛粉末を主剤とした導電物質を内面に塗布した。次いで電池容器に先に作製した正極合剤ベレットを圧挿入した。次に、負極集電棒をスポット溶接した負極板を電池容器に装着した。次いで、電池容器に圧挿入した正極合剤ベレットの内周に沿うようにしてビニロン製織布からなるセパレータを挿入し、亜鉛粒と酸化亜鉛を飽和させた水酸化カリウムからなる負極ゲルを電池容器内に充填した。さらに、負極板に絶縁体のガスケットを装着して電池容器内に挿入した後、カシメ加工してアルカリマンガン電池を作成した。
【0041】
[特性評価]
以上のようにして試料番号1〜16の試料から作成した電池容器を用いて作成した電池の特性を、以下のようにして評価した。
【0042】
<漏液性評価>
電池を100個作成後、90℃、RH50%の恒温恒湿の雰囲気中に挿入し、5、10、15、20日経時後の電解液の漏液発生率(%)を求めた。
【0043】
【表4】

【0044】
表4に示すように、本発明の電池容器内面となる側にニッケル−チタン合金めっきを施した電池容器用めっき鋼板を用いた電池は、いずれも耐漏液性が顕著に向上することが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
鋼板の電池容器内面となる側に、予めニッケル−チタン合金めっき層を形成した後、ニッケルめっき、各種のニッケル−合金めっき、炭素質分散ニッケル、もしくは炭素質を分散した各種のニッケル合金めっきなどの硬質めっきを施した場合は、その上に形成するニッケルめっき層の厚さが薄くピンホールが存在しても、あるいは電池容器に成形加工する際に硬質なめっき層にクラックが生じて鋼素地が露出したとしても、耐漏液性が向上する。その結果、電池容器内面となる側に硬質めっき層を形成させ、電池容器に成形加工する際にクラックを生じさせて、正極活物質との密着性を高めることにより電池の放電性能は向上させることができる反面、過度のクラックが発生することにより鉄が露出して耐漏液性が劣化しやすくなるという、相反する問題が本発明の電池容器用めっき鋼板を用いることにより解決される。すなわち、電池の耐漏液性損なわずに、電池の放電性能の向上を図ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の電池容器内面となる側の鋼板上にチタンを含む金属層が形成されてなることを特徴とする電池容器用めっき鋼板。
【請求項2】
前記チタンを含む金属層上に、ニッケル層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項3】
前記チタンを含む金属層上に、ニッケル合金層が形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項4】
前記ニッケル層中または前記ニッケル合金層中に炭素質が分散されてなることを特徴とする、請求項2または3に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項5】
前記ニッケル合金が、ニッケル−錫合金、ニッケル−リン合金、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−コバルト−リン合金、ニッケル−ボロン合金、ニッケル−コバルト−ボロン合金のいずれかであることを特徴とする、請求項3または4に記載の電池容器用めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電池容器用めっき鋼板を有底の筒型形状に成形加工してなる電池容器。
【請求項7】
請求項6に記載の電池容器を用いてなる電池。

【公開番号】特開2006−348362(P2006−348362A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178124(P2005−178124)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】