説明

電池状態監視装置

【課題】コンパレータを用いて電池セルの状態を監視するに際し、電池セルの異常状態の検出だけではなく、どの電池セルに異常が生じているのかを判別することができる電池状態監視装置を提供する。
【解決手段】直列接続された複数の電池セル11に対してそれぞれコンパレータ31d〜33dを設け、各コンパレータ31d〜33dにて対応する電池セル11のセル電圧と閾値とを比較させる。そして、電圧変換回路40に、各コンパレータ31d〜33dの全ての出力を、複数の電池セル11のそれぞれの状態を特定する固有の電圧Vinに変換させて出力させる。これにより、電圧変換回路40の出力電圧Vinにどの電池セル11が正常でどの電池セル11が異常であるかという情報が含まれる。したがって、マイコン70は、出力電圧Vinに基づいて、電池セル11の異常状態の検出および電池セル11の判別が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコンパレータの出力に基づいて複数の電池セルの状態をそれぞれ監視する電池状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、リチウムを代表とする電池セルの状態を監視する手段として、所定電圧より高い(低い)ことを比較することで過電圧(低電圧)を検出する手段が、例えば特許文献1で提案されている。
【0003】
具体的に、特許文献1では、複数直列接続された各電池セルに対し、電池セルの出力電圧および電池セルの過放電限界電圧を示す基準電圧がコンパレータに供給され、各電池セルに対応した各コンパレータの出力がOR回路にそれぞれ接続された電池ユニットが提案されている。電池ユニットを使用する機器と電池ユニットとはスイッチによって接続されており、このスイッチはOR回路の出力によってオン/オフ制御される。
【0004】
このような構成は、コンパレータは対応する電池セルの電圧が基準電圧以下になるとハイレベルの信号を出力するコンパレータ方式を採用している。したがって、コンパレータのいずれかがハイレベルの信号を出力するとOR回路はハイレベルの信号を出力するので、スイッチはOR回路のハイレベルの信号に応答してオフとされ、電池ユニットが機器から切り離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−23674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術のように、コンパレータ方式は高速に電池セルの異常状態を検出できるが、OR回路は各コンパレータのOR論理を出力するので、どの電池セルに異常が生じているのかわからないという問題がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、コンパレータを用いて電池セルの状態を監視するに際し、電池セルの異常状態の検出だけではなく、どの電池セルに異常が生じているのかを判別することができる電池状態監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、直列接続された複数の電池セルに対してそれぞれ設けられると共に電池セルのセル電圧と閾値とをそれぞれ比較する複数のコンパレータを備え、複数のコンパレータの出力に基づいて複数の電池セルの状態をそれぞれ監視する電池状態監視装置であって、複数のコンパレータの全ての出力を、複数の電池セルのそれぞれの状態を特定する固有の電圧に変換する電圧変換手段を備えていることを特徴とする。
【0009】
これによると、電圧変換手段から出力される固有の電圧にどの電池セルが正常でどの電池セルが異常であるかという各コンパレータの出力の情報が含まれるので、電圧変換手段で取得された固有の電圧の値の違いにより、コンパレータによる電池セルの異常診断結果だけではなく、どの電池セルに異常が生じているのかという電池セル番号情報を得ることができる。したがって、電池セルの異常状態の検出だけではなく、どの電池セルに異常が生じているのかを判別することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、電圧変換手段で発生させられた固有の電圧をデジタル信号に変換するA/Dコンバータを備えていることを特徴とする。これによると、電池セルの異常状態の検出および異常な電池セルの特定をデジタル処理することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、電圧変換手段は、複数のコンパレータに対してそれぞれ設けられると共にコンパレータの出力に応じてオン/オフする複数のスイッチと、複数のスイッチに接続され、複数のスイッチのオン/オフ状態に応じた固有の電圧を発生させるための複数の抵抗と、を備えて構成されていることを特徴とする。これにより、簡素な構成で電圧変換手段を実現することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、電圧変換手段は、複数のコンパレータに対してそれぞれ設けられると共にコンパレータの出力に応じてオン/オフする複数のスイッチと、複数のスイッチにそれぞれ接続された複数の定電流源と、複数のスイッチのオン/オフ状態によって複数の定電流源から流れる電流に応じた固有の電圧を発生させるための抵抗と、を備えて構成されていることを特徴とする。
【0013】
このように、各定電流源から一定の電流を流すことができるので、電池セルのセル電圧に依存せずに電圧変換手段にて電圧を発生させることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、A/Dコンバータに接続された差動増幅回路と、複数の電池セルのうちのいずれかと差動増幅回路との接続を切り替えるセル選択スイッチと、を備えている。
【0015】
さらに、セル選択スイッチは、電圧変換手段と差動増幅回路とを接続するように切り替えを行うようになっている。そして、差動増幅回路は、セル選択スイッチと電圧変換手段とで共有されるようになっていることを特徴とする。
【0016】
これにより、電圧変換手段に対する専用の差動増幅回路や専用のA/Dコンバータを設ける必要がないので、電池状態監視装置の構成を簡素化することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明では、複数のスイッチを強制的にオン/オフすることにより電圧変換手段で発生させた電圧に基づいて電圧変換手段の故障診断を実施する故障判定手段を備えていることを特徴とする。これにより、電池状態監視装置において電池セルの異常診断が正常に行われているか否かを診断することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、故障判定手段は、複数のスイッチの全てを強制的にオンすることにより故障診断を実施することを特徴とする。これにより、複数のスイッチに対して1回のオン操作により故障診断を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電池状態監視装置を含んだ電池状態監視システムの全体構成図である。
【図2】電圧変換回路の各スイッチのオン/オフ状態と電圧変換回路の出力電圧との関係を示した図である。
【図3】(a)は本発明の第2実施形態に係る電池状態監視システムの一部を示した図であり、(b)は各スイッチのオン/オフ状態と電圧変換回路の出力電圧との関係を示した図である。
【図4】(a)は本発明の第3実施形態に係る電池状態監視システムの一部を示した図であり、(b)は各スイッチのオン/オフ状態と電圧変換回路の出力電圧との関係を示した図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る電池状態監視装置を含んだ電池状態監視システムの全体構成図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係る電池状態監視装置を含んだ電池状態監視システムの全体構成図である。
【図7】他の実施形態を説明するための図であり、電池セルのセル電圧に対する電圧変換回路の出力電圧の幅を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る電池状態監視装置を含んだ電池状態監視システムの全体構成図である。この図に示されるように、電池状態監視システムは、組電池10と電池状態監視装置20とを備えて構成されている。
【0022】
組電池10は、最小単位である電池セル11が直列に複数接続されて構成された電池群である。本実施形態では、組電池10として3個の電池セル11が直列接続されたものが示されている。電池セル11として充電可能なリチウムイオン二次電池が用いられる。そして、電池状態監視装置20は、例えばハイブリッド車等の電気自動車に適用されるものであり、組電池10はハイブリッド車等の電気自動車に搭載され、インバータやモータ等の負荷を駆動するための電源や電子機器の電源等に用いられる。
【0023】
電池状態監視装置20は、組電池10を構成する各電池セル11の状態をそれぞれ監視する装置である。このような電池状態監視装置20は、比較器30、電圧変換回路40、A/Dコンバータ50(図1のADC)、絶縁素子60、およびマイクロコンピュータ70(以下、マイコン70という)を備えている。
【0024】
比較器30は、電池セル11のセル電圧が閾値より大きいか小さいかを判定する比較回路である。このような比較器30は、抵抗31a、32a、33a、抵抗31b、32b、33b、基準電源31c、32c、33c、およびコンパレータ31d、32d、33dを電池セル11毎に備えている。
【0025】
抵抗31a〜33aおよび抵抗31b〜33bは、対応する電池セル11の正極側と負極側との間に直列接続されている。例えば、抵抗31aと抵抗31bとの間がコンパレータ31dの入力端子のうちの一方に接続されている。すなわち、コンパレータ31dには抵抗31aおよび抵抗31bによる電池セル11のセル電圧の分圧が印加される。抵抗32a、抵抗32b、およびコンパレータ32dの接続関係、および、抵抗33a、抵抗33b、およびコンパレータ33dの接続関係についても同様である。
【0026】
基準電源31c〜33cは閾値を発生させるものである。基準電源31c〜33cは対応するコンパレータ31d〜33dの入力端子のうちの他方と電池セル11の負極側との間にそれぞれ接続されている。閾値は、電池セル11の過充電または過放電を検出するための電圧値に設定されている。
【0027】
コンパレータ31d〜33dは対応する電池セル11のセル電圧と閾値とを比較することで過充電または過放電を検出するための比較手段である。実際には、コンパレータ31d〜33dは、抵抗31a〜33aおよび抵抗31b〜33bの分圧と閾値とを比較している。
【0028】
例えば、コンパレータ31d〜33dの反転入力端子に基準電源31c〜33cがそれぞれ接続され、コンパレータ31d〜33dの非反転入力端子に電池セル11のセル電圧がそれぞれ印加されるとする。これにより、電池セル11のセル電圧が閾値よりも大きい場合、すなわち過充電の場合にコンパレータ31d〜33dは電池セル11の異常を示すハイ信号を出力する。一方、電池セル11のセル電圧が閾値よりも小さい場合にはコンパレータ31d〜33dは電池セル11の正常を示すロー信号を出力する。
【0029】
以下、本実施形態では、比較器30は、各コンパレータ31d〜33dが過充電を検出するように構成されているとする。したがって、比較器30は、電池セル11毎に過充電であるか否かを判定し、その判定結果を電池セル11毎に電圧変換回路40に出力する。
【0030】
電圧変換回路40は、複数のコンパレータ31d〜33dの全ての出力を、複数の電池セル11のそれぞれの状態を特定する固有の電圧に変換する回路である。このような電圧変換回路40は、複数のスイッチ41、42、43(SW1、SW2、SW3)と、複数の抵抗44a、44b、44c、44d(R、3R)と、を備えて構成されている。このうち、スイッチ41〜43および抵抗44a〜44cは電池セル11毎に設けられている。
【0031】
各スイッチ41〜43は、各コンパレータ31d〜33dに対してそれぞれ設けられ、対応するコンパレータ31d〜33dの出力に応じてオン/オフするスイッチ手段である。各スイッチ41〜43の一方の接点は電池セル11の正極側にそれぞれ接続され、他方の接点は抵抗44a〜44cにそれぞれ接続されている。そして、例えば、各スイッチ41〜43はコンパレータ31d〜33dの出力がハイレベルの信号(以下、ハイ信号という)の場合にオンし、コンパレータ31d〜33dの出力がローレベルの信号(以下、ロー信号という)の場合にオフする。スイッチ41〜43として例えばトランジスタが採用される。
【0032】
各抵抗44a〜44dは、各スイッチ41〜43のオン/オフ状態に応じた固有の電圧Vinを発生させるものである。具体的には、抵抗44aはスイッチ41(SW1)の他方の接点に接続され、抵抗44bはスイッチ42(SW2)の他方の接点に接続され、抵抗44cはスイッチ43(SW3)の他方の接点に接続されている。これらの抵抗44a〜44cの接続点と組電池10のうち最も低電圧側の電池セル11の負極側との間に抵抗44dが接続されている。
【0033】
本実施形態では、各抵抗44a〜44cの抵抗値がRに設定され、抵抗44dの抵抗値が3Rに設定されている。そして、各スイッチ41〜43のオン/オフ状態に応じて、各抵抗44a〜44cと抵抗44dとの接続点に、各抵抗44a〜44cと抵抗44dとの分圧に相当する固有の電圧が発生する。この固有の電圧が電圧変換回路40の出力電圧Vinとなる。
【0034】
すなわち、電圧変換回路40は、コンパレータ31d〜33dのすべての出力を、どの電池セル11が正常でどの電池セル11が異常(過充電)であるという情報を含んだ1つの値の電圧Vinに電圧変換する。言い換えると、1つの値の電圧Vinは、いずれかの電池セル11に異常が起こっているという異常診断結果と、どの電池セル11が正常でどの電池セル11が異常であるのかという電池セル番号情報と、の複数の情報を含んだ固有の電圧である。なお、「1つの値の電圧」とは、例えば1Vや2.5Vというように、電圧値に幅がない単一の値の電圧である。
【0035】
A/Dコンバータ50は、マイコン70の指令に従って、電圧変換回路40の出力電圧Vinを測定する回路である。A/Dコンバータ50は、測定した電圧をデジタル信号に変換してマイコン70に出力する。これにより、マイコン70は、電圧変換回路40の出力電圧Vinに基づく処理、例えば電池セル11の異常状態の検出や異常な電池セル11の特定をデジタル処理することができる。
【0036】
絶縁素子60は、比較器30、電圧変換回路40、A/Dコンバータ50等で構成される高電圧系とマイコン70等で構成される低電圧系とを絶縁するための素子である。マイコン70とA/Dコンバータ50との信号のやりとりは、この絶縁素子60を介して行われる。絶縁素子60として、絶縁機能を備えたフォトリレーやフォトカプラが採用される。
【0037】
マイコン70は、図示しないCPU、ROM、EEPROM、RAM等を備え、ROM等に記憶されたプログラムに従って所定の機能を実行する制御回路である。所定の機能とは、例えば電圧制御機能や過充放電検出機能である。
【0038】
電圧制御機能は、電池状態監視装置20に設けられた図示しない測定回路により電池セル11のセル電圧と電池セル11に流れる電流とを測定することにより組電池10の残存容量(State of Charge;SOC)を取得し、この残存容量に基づいて電池セル11の充電や放電を制御する機能である。
【0039】
過充放電検出機能は、電圧変換回路40の出力電圧Vinに基づいてどの電池セル11が過充電または過放電であるかを監視する機能である。上述のように、本実施形態では比較器30は過充電を検出するように構成されているので、マイコン70は電圧変換回路40の出力電圧Vinに基づいて各電池セル11の過充電を監視することとなる。
【0040】
また、マイコン70は、どの電池セル11が異常であるかを監視するため、電圧変換回路40の出力電圧Vinの値に対する各コンパレータ31d〜33dのオン/オフ状態を示したマップを備えている。マップとは、図2に示される表であり、電圧変換回路40の各スイッチ41〜43のオン/オフ状態と電圧変換回路40の出力電圧Vinとの関係を示した図である。
【0041】
図2に示されるように、電圧変換回路40の各スイッチ41〜43(SW1〜SW3)の状態が「0」または「1」で示されている。本実施形態ではスイッチ41〜43は3個であるので、各スイッチ41〜43のオン/オフ状態は全部で8通りある。そして、組電池10全体のブロック電圧が12Vや9Vであることが把握できていれば、各スイッチ41〜43の1つのオン/オフ状態に対する各抵抗44a〜44dの合成抵抗に応じた電圧変換回路40の単一の出力電圧Vinが決まる。
【0042】
図2において、SW1〜SW3の蘭の「0」は各スイッチ41〜43がオフの状態、すなわち比較器30のコンパレータ31d〜33dの出力がロー信号であり、電池セル11が正常であることを示している。一方、「1」は各スイッチ41〜43がオンの状態、すなわち比較器30のコンパレータ31d〜33dの出力がハイ信号であり、電池セル11が異常であることを示している。
【0043】
そして、図2に示されるマップの右側の欄に、1つの電池セル11が4Vの場合と3Vの場合の電圧変換回路40の出力電圧Vinの値が記されている。例えば、各スイッチ41〜43の状態がすべて「0」の場合、すなわちすべての電池セル11が正常である場合、1つの電池セル11が4Vのときの電圧変換回路40の出力電圧Vin@4Vは0Vである。また、1つの電池セル11が3Vのときの電圧変換回路40の出力電圧Vin@3Vは0Vである。つまり、この「0V」という固有の電圧値に、各電池セル11に異常は生じていないという異常診断結果と、どの電池セル11に異常が生じていないのかという電池セル番号情報と、が含まれている。
【0044】
同様に、各スイッチ41〜43の状態がすべて「1」の場合、すなわちすべての電池セル11が異常である場合、電池セル11が4Vのときの電圧変換回路40の出力電圧Vin@4Vは7.20Vである。また、電池セル11が3Vのときの電圧変換回路40の出力電圧Vin@3Vは5.40Vである。これら「7.20V」や「5.40V」という固有の電圧値に、各電池セル11に異常が生じているという異常診断結果と、どの電池セル11に異常が生じているのかという電池セル番号情報と、が含まれている。
【0045】
このように、マイコン70は、図2に示されるマップを用いて、電圧変換回路40の出力電圧Vinの値からどの電池セル11が異常であるかを判定する。
【0046】
なお、マイコン70は、電池状態監視装置20の特性ずれを検出する自己診断機能も備えている。以上が、本実施形態に係る電池状態監視装置20および電池状態監視システムの構成である。
【0047】
次に、本実施形態に係る電池状態監視装置20の作動について、図1および図2を参照して説明する。1つの電池セル11のセル電圧を4Vとする。
【0048】
上述のように、比較器30で各電池セル11に対応した各コンパレータ31d〜33dの出力によって電圧変換回路40の各スイッチ41〜43のオン/オフ状態が決まる。これにより、電圧変換回路40は各抵抗44a〜44cと抵抗44dとの接続点の電圧を出力電圧Vinとして出力する。そして、マイコン70は電圧変換回路40の出力電圧VinをA/Dコンバータ50に測定させ、その電圧値を取得する。
【0049】
マイコン70は、上述のように、図2に示されるマップを持っているので、A/Dコンバータ50で測定された電圧値に対する各スイッチ41〜43のオン/オフ状態を確認する。これにより、どの電池セル11に異常が生じているのか、どの電池セル11が正常でどの電池セル11が異常であるか、を判定する。
【0050】
なお、マイコン70の制御上、残存容量(SOC)を算出するために、数セルの電池セル11で構成されるブロックのブロック電圧かまたは総電圧(全セル分)を必ず監視するので、1つの電池セル11が何Vの場合のマップを用いれば良いかがわかり、上記診断が可能である。また、セル電圧のバラツキが懸念点であるが、リチウム電池の管理としてマイコン70の電圧制御機能によりセル電圧が均等になるよう処置(例:均等化回路)されるため、セル電圧のバラツキは問題ない。
【0051】
上記では、コンパレータ31d〜33dにて過充電を検出するように比較器30が構成されている場合について説明したが、コンパレータ31d〜33dが過放電を検出するように構成された場合も上記と同様である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、比較器30に設けられたコンパレータ31d〜33dのすべての出力に基づいて、その出力を固有の出力電圧Vinに電圧変換することが特徴となっている。これにより、電圧変換回路40の出力電圧Vinに、電池セル11に異常が生じていることを示す異常診断結果と、どの電池セル11が正常でどの電池セル11が異常であるかを示す電池セル番号情報と、の各情報が含まれる。したがって、マイコン70は電圧変換回路40の出力電圧Vinの値の違いにより、電池セル11の異常状態の検出だけではなく、どの電池セル11に異常が生じているのかを判別することができる。
【0053】
また、本実施形態では、電圧変換回路40を抵抗44a〜44dで構成しているので、高価な素子を用いることなく簡素な構成で電圧変換回路40を実現することができる。
【0054】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、電圧変換回路40が特許請求の範囲の「電圧変換手段」に対応する。
【0055】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について説明する。図3(a)は本実施形態に係る電池状態監視システムの一部を示した図であり、図3(b)は各スイッチ41〜43のオン/オフ状態と電圧変換回路40の出力電圧Vinとの関係を示した図である。なお、図3(a)では、絶縁素子60とマイコン70を省略している。
【0056】
図3(a)に示されるように、本実施形態に係る電圧変換回路40は、複数のスイッチ41〜43(SW1〜SW3)と、複数の抵抗44a、44e、44d(8R、3R、R)を備えている。各スイッチ41〜43は、第1実施形態と同様に、電池セル11毎に設けられている。
【0057】
抵抗44aはスイッチ41の他方の接点とスイッチ42の他方の接点との間に接続され、抵抗44eはスイッチ42の他方の接点と抵抗44aとの接続点とスイッチ43の他方の接点との間に接続されている。また、抵抗44dはスイッチ43の他方の接点と抵抗44eとの接続点と組電池10のうち最も低電圧側に位置する電池セル11の負極側との間に接続されている。本実施形態では、抵抗44aの抵抗値が8Rとされ、抵抗44eの抵抗値が3Rとされ、抵抗44dの抵抗値がRとされている。
【0058】
このような電圧変換回路40の構成により、図3(b)に示されるように、各スイッチ41〜43(SW1〜SW3)のオン/オフ状態に応じて電圧変換回路40の出力電圧Vinが決まる。そして、3つのスイッチ41〜43による出力電圧Vinはすべて正常の場合を除いた3レベルであり、「*」で示した任意のスイッチオン状態を検出することができる。なお、各スイッチ41〜43のうち2つ以上がオンした場合は下位のスイッチ42、43が優先される。
【0059】
以上のように、電圧変換回路40の抵抗44a、44d、44eを用いた回路設計により、各スイッチ41〜43のオン/オフ状態の組み合わせ数を削減することもできる。
【0060】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について説明する。図4(a)は本実施形態に係る電池状態監視システムの一部を示した図であり、図4(b)は各スイッチ41〜43のオン/オフ状態と電圧変換回路の出力電圧Vinとの関係を示した図である。なお、図4(a)では、絶縁素子60とマイコン70を省略している。
【0061】
図4(a)に示されるように、本実施形態に係る電圧変換回路40は、複数のスイッチ41〜43(SW1〜SW3)と、複数の定電流源45、46、47(4I、2I、I)と、抵抗48と、を備えている。各スイッチ41〜43は、第1実施形態と同様に、電池セル11毎に設けられている。
【0062】
各定電流源45〜47は、一定の電流を流すように構成されたものである。定電流源45はスイッチ41の他方の接点に接続され、定電流源46はスイッチ42の他方の接点に接続され、定電流源47はスイッチ43の他方の接点に接続されている。これらの定電流源45〜47の接続点と組電池10のうち最も低電圧側の電池セル11の負極側との間に抵抗48が接続されている。
【0063】
このような電圧変換回路40の構成によると、抵抗48は、各スイッチ41〜43のオン/オフ状態によって各定電流源45〜47から抵抗48に流れ込む電流に応じた電圧を発生させる。このため、図4(b)に示されるように、電圧変換回路40の出力電圧Vinは電池セル11の電圧に依存せずにIRの整数倍となる。Iは抵抗48に流れ込む電流値であり、Rは抵抗48の抵抗値である。
【0064】
以上のように、定電流源45〜47を用いて電圧変換回路40を構成することができる。この場合、各定電流源45〜47から一定の電流を流すことができるので、電池セル11の電圧に依存せずに電圧変換回路40にて出力電圧Vinを発生させることができる。
【0065】
(第4実施形態)
本実施形態では、第1〜第3実施形態と異なる部分について説明する。図5は、本実施形態に係る電池状態監視装置20を含んだ電池状態監視システムの全体構成図である。この図に示されるように、電池状態監視装置20は、セル選択スイッチ80と差動増幅回路90とを含んだ構成となっている。なお、本実施形態では、組電池10はn個の電池セル11(V1〜Vn)で構成されているとする。
【0066】
セル選択スイッチ80は、複数の電池セル11のうちのいずれかと差動増幅回路90との接続、または、電圧変換回路40と差動増幅回路90との接続を切り替えるためのスイッチ群である。セル選択スイッチ80を構成する各スイッチは、各電池セル11の正極側や負極側と差動増幅回路90とを接続するように設けられていると共に、電圧変換回路40と差動増幅回路90とを接続するように設けられている。
【0067】
そして、セル選択スイッチ80を構成する各スイッチのオン/オフ制御はマイコン70によって行われる。これにより、特定の電池セル11の電圧や所定の数の電池セル11で構成されたブロックの電圧かまたは電圧変換回路40の出力電圧Vinが差動増幅回路90に入力される。セル選択スイッチ80を構成する各スイッチは、例えばトランジスタ等で構成されている。
【0068】
差動増幅回路90は、セル選択スイッチ80で選択された電池セル11の電圧やブロック電圧かまたは電圧変換回路40の出力電圧Vinを増幅してA/Dコンバータ50に出力する回路である。すなわち、差動増幅回路90は、セル選択スイッチ80の切り替えにより、セル選択スイッチ80と電圧変換回路40とで共有されるようになっている。
【0069】
以上のように、セル選択スイッチ80の切り替えにより差動増幅回路90を共有する構成とすることで、電圧変換回路40に対する専用の差動増幅回路90や専用のA/Dコンバータ50を設ける必要がない。このため、電池状態監視装置20の構成の簡素化が可能となる。
【0070】
なお、本実施形態で示された差動増幅回路90を第1〜第3実施形態に係る電池状態監視装置20の電圧変換回路40とA/Dコンバータ50との間に設けても良い。
【0071】
(第5実施形態)
本実施形態では、第1〜第4実施形態と異なる部分について説明する。図6は、本実施形態に係る電池状態監視装置20を含んだ電池状態監視システムの全体構成図である。
【0072】
図6に示されるように、本実施形態では電圧変換回路40の出力電圧Vinを差動増幅回路90で増幅し、マイコン70に出力する構成となっている。また、A/Dコンバータ50はマイコン70に内蔵された構成となっている。なお、本実施形態では、第4実施形態のように電池セル11のセル電圧を検出する構成は無い。
【0073】
そして、比較器30、電圧変換回路40、差動増幅回路90等で構成される高電圧系とマイコン70等で構成される低電圧系とはフライングキャパシタ回路61を介して接続されている。
【0074】
フライングキャパシタ回路61は、スイッチ62〜65とコンデンサ66とを備えて構成されている。スイッチ62、63は差動増幅回路90とマイコン70とを接続し、スイッチ64、65は高電圧系のグランドと低電圧側のグランドとを接続している。コンデンサ66の一方の電極はスイッチ62とスイッチ63との接続点に接続され、他方の電極はスイッチ64とスイッチ65との接続点に接続されている。各スイッチ62〜65として、絶縁機能を備えたフォトリレー等が採用される。
【0075】
各スイッチ62〜65はマイコン70によって制御される。具体的には、マイコン70によりスイッチ62、64がオンされると共にスイッチ63、65がオフされることで差動増幅回路90の出力がコンデンサ66に充電される。一方、スイッチ62、64がオフされると共にスイッチ63、65がオンされることでA/Dコンバータ50によりコンデンサ66の充電電圧が検出される。この際、コンデンサ66は放電される。
【0076】
以上のように、電池状態監視装置20において、高電圧系と低電圧系とをフライングキャパシタ回路61で接続し、フライングキャパシタ回路61によって高電圧系と低電圧系との絶縁を図る構成とすることもできる。
【0077】
(第6実施形態)
本実施形態では、第1〜第5実施形態と異なる部分について説明する。本実施形態では、例えば図1に示される電池状態監視装置20において、マイコン70が電圧変換回路40の故障診断を実施する機能を備えていることが特徴となっている。
【0078】
具体的に、マイコン70は、電圧変換回路40の各スイッチ41〜43を強制的にオン/オフすることにより電圧変換回路40で発生させた固有の電圧に基づいて故障診断を実施する。すなわち、マイコン70は、各スイッチ41〜43が各コンパレータ31d〜33dによってオン/オフされたときの電圧変換回路40の出力電圧と、自己が強制的に各スイッチ41〜43をオン/オフしたときの電圧変換回路40の出力電圧との比較を行う。そして、各出力電圧の差が所定値以上のときにはマイコン70は電圧変換回路40の特性ずれ(異常)を検出する。このように、マイコン70は電池状態監視装置20において電池セル11の異常診断が正常に行われているか否かを判定することができる。
【0079】
また、マイコン70が故障診断を行う場合、マイコン70は各スイッチ41〜43を順番にオン/オフさせることも可能であるが、故障診断に長い時間を要すると同時にスイッチの切り替え等の処理が煩雑となる。したがって、複数のスイッチ41〜43の全てを強制的にオンすることにより故障診断を実施することが好ましい。これにより、各スイッチ41〜43に対して1回のオン操作により故障診断の実施が可能となる。
【0080】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、マイコン70が特許請求の範囲の「故障判定手段」に対応する。
【0081】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された電池状態監視装置20の構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明の特徴を含んだ他の構成とすることもできる。例えば、比較器30の各コンパレータ31d〜33dは過充電(=電圧が異常に高い)を検出する用途として用いられているが、その他にもどの電池セル11のセル電圧が高いかのみを把握(すなわちセル電圧の最大値を知りたいという用途)するために用いられるようにしても良い。
【0082】
また、上記各実施形態では、マイコン70はマップ(例えば、図2等参照)を持っていたが、所定の電圧範囲内で前述判定をする用途で活用するのであれば、各スイッチ41〜43の状態が一意に決まる(Vin値がオーバラップしない)ため、マップを無くすこともできる。なお、抵抗定数の選択や抵抗の配置方法等にもよるが、過充電・過放電の領域でもマップを無くすことが可能である。
【0083】
上記各実施形態では、組電池10を構成するすべての電池セル11に対して1つの比較器30や電圧変換回路40が設けられていた。扱う電池セル11の数が多くなると分解能が細かくなり電圧差が明確に出なくなり、電圧変換回路40の出力電圧Vinに含まれるセル番号を正しく判定できなくなる可能性もある。そこで、組電池10を所定の電池セル11の数のブロックに区分けしても良い。この場合、ブロック毎に比較器30や電圧変換回路40を設け、各電圧変換回路40の出力をスイッチで切り替える構成とすれば良い。
【0084】
また、上記のように、扱う電池セル11の数が多くなると分解能が細かくなり電圧差が明確に出なくなり、図7に示されるようにVinの電圧領域もオーバラップする。図7では電池セル11のセル電圧が4V、3V、3.8V、3.4Vの場合のVinを示している。しかし、図7において太線よりも上側に示されるように、最初にセル電圧の高い(または低い)1セルのみが閾値を超える場合は確実に独立して検出することができる。よって、電池セル11のセル電圧が閾値を超えた1つ目(電圧上昇時で全て閾値以下の状態)または閾値を下回った1つ目(電圧下降時で全て閾値以上)の状態電圧をラッチする構成とすることが有効である。
【0085】
さらに、上記各実施形態では、電池状態監視装置20をハイブリッド車等の電気自動車に適用することについて説明したが、これは電池状態監視装置20の適用の一例であり、車両に限らず電池セル11のセル電圧を監視する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 組電池
11 電池セル
20 電池状態監視装置
30 比較器
31d〜33d コンパレータ
40 電圧変換回路(電圧変換手段)
41〜43 スイッチ
44a〜44e 抵抗
45〜47 定電流源
48 抵抗
50 A/Dコンバータ
70 マイコン(故障判定手段)
80 セル選択スイッチ
90 差動増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の電池セルに対してそれぞれ設けられると共に前記電池セルのセル電圧と閾値とをそれぞれ比較する複数のコンパレータを備え、
前記複数のコンパレータの出力に基づいて前記複数の電池セルの状態をそれぞれ監視する電池状態監視装置であって、
前記複数のコンパレータの全ての出力を、前記複数の電池セルのそれぞれの状態を特定する固有の電圧に変換する電圧変換手段を備えていることを特徴とする電池状態監視装置。
【請求項2】
前記電圧変換手段で発生させられた前記固有の電圧をデジタル信号に変換するA/Dコンバータを備えていることを特徴とする請求項1に記載の電池状態監視装置。
【請求項3】
前記電圧変換手段は、
前記複数のコンパレータに対してそれぞれ設けられると共に前記コンパレータの出力に応じてオン/オフする複数のスイッチと、
前記複数のスイッチに接続され、前記複数のスイッチのオン/オフ状態に応じた前記固有の電圧を発生させるための複数の抵抗と、を備えて構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電池状態監視装置。
【請求項4】
前記電圧変換手段は、
前記複数のコンパレータに対してそれぞれ設けられると共に前記コンパレータの出力に応じてオン/オフする複数のスイッチと、
前記複数のスイッチにそれぞれ接続された複数の定電流源と、
前記複数のスイッチのオン/オフ状態によって前記複数の定電流源から流れる電流に応じた前記固有の電圧を発生させるための抵抗と、を備えて構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電池状態監視装置。
【請求項5】
前記A/Dコンバータに接続された差動増幅回路と、
前記複数の電池セルのうちのいずれかと前記差動増幅回路との接続を切り替えるセル選択スイッチと、を備え、
さらに、前記セル選択スイッチは、前記電圧変換手段と前記差動増幅回路とを接続するように切り替えを行うようになっており、
前記差動増幅回路は、前記セル選択スイッチと前記電圧変換手段とで共有されるようになっていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1つに記載の電池状態監視装置。
【請求項6】
前記複数のスイッチを強制的にオン/オフすることにより前記電圧変換手段で発生させた電圧に基づいて前記電圧変換手段の故障診断を実施する故障判定手段を備えていることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1つに記載の電池状態監視装置。
【請求項7】
前記故障判定手段は、前記複数のスイッチの全てを強制的にオンすることにより前記故障診断を実施することを特徴とする請求項6に記載の電池状態監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88106(P2012−88106A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233578(P2010−233578)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】