説明

電池

【課題】高い容量を得ることができると共に膨れを抑制することができる電池を提供する。
【解決手段】負極活物質層13Bは構成元素としてSiとOとを含んでいる。負極活物質層13BにおけるO含有量は3原子数%〜45原子数%である。また、セパレータ15には電解液が含浸されている。電解液は1,3−プロペンスルトンなどの環内に不飽和結合を有するスルトンを含有している。また、電解液は炭酸ビニレンなどの不飽和結合を有する環式炭酸エステル、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを更に含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成元素としてケイ素(Si)を含む負極活物質層を有する電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器の高性能化および多機能化に伴い、それらの電源である二次電池の高容量化が要求されている。この要求に応える二次電池としてはリチウムイオン二次電池があるが、現在実用化されているものは負極に黒鉛を用いているので、電池容量は飽和状態にあり、大幅な高容量化は難しい。そこで、負極にケイ素などを用いることが検討されており、最近では、気相法などにより負極集電体に負極活物質層を形成することも報告されている(例えば、特許文献1〜3参照)。ケイ素などは充放電に伴う膨張収縮が大きいので、微粉化によるサイクル特性の低下が問題であったが、気相法などによれば、微細化を抑制することができると共に、負極集電体と負極活物質層とを一体化することができるので負極における電子伝導性が極めて良好となり、容量的にもサイクル寿命的にも高性能化が期待されている。
【特許文献1】特開平8−50922号公報
【特許文献2】特許第2948205号公報
【特許文献3】特開平11−135115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この負極でも、充放電に伴うケイ素の膨張収縮により微粉化が起こり、容量の低下および電解質の分解反応が生じてしまっていた。よって、十分なサイクル特性を得ることが難しく、また、電池が膨れやすいという問題があった。
【0004】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高い容量を得ることができると共に、膨れを抑制することができる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による電池は、正極および負極と共に電解質を備えたものであって、負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、構成元素としてケイ素および酸素(O)を含む負極活物質層とを有し、負極活物質層における酸素の含有量は、3原子数%以上45原子数%以下であり、電解質は、スルトンを含有するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電池によれば、負極活物質層における酸素の含有量を3原子数%以上45原子数%以下とすると共に、電解液にスルトンを含有するようにしたので、容量の低下を抑制することができると共に、膨れを抑制することができる。
【0007】
特に、環内に不飽和結合を有するスルトンを用いるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0008】
また、電解液に、スルトンに加えて、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有するようにすれば、容量の低下をより抑制することができ、特に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0009】
更に、電解液に、スルトンに加えて、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を含有するようにすれば、容量の低下をより抑制することができ、不飽和結合を有する環式炭酸エステルとハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体とを共に含有するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0010】
加えて、負極集電体の表面粗度Ra値を0.1μm以上とするようにすれば、また、負極活物質層に酸素の含有量が異なる第1層と第2層とを交互に積層して有するようにすれば、容量の低下をより抑制することができる。
【0011】
更にまた、正極に、2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、また、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に表面層を設けた正極活物質を含有するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、リード11,12が取り付けられた電極巻回体10をフィルム状の外装部材21の内部に収容したものである。リード11,12は、それぞれ、外装部材21の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。リード11,12は、例えば、アルミニウム(Al),銅(Cu),ニッケル(Ni)あるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
【0014】
外装部材21は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材21は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体10とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材21とリード11,12との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム22が挿入されている。密着フィルム22は、リード11,12に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0015】
なお、外装部材21は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
【0016】
図2は、図1に示した電極巻回体10のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体10は、負極13と正極14とをセパレータ15を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ16により保護されている。
【0017】
負極13は、例えば、負極集電体13Aと、負極集電体13Aに設けられた負極活物質層13Bとを有している。負極集電体13Aは、リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素の少なくとも1種を含む金属材料により構成されていることが好ましい。リチウムと金属間化合物を形成すると、充放電に伴い膨張および収縮し、構造破壊が起こって、集電性が低下する他、負極活物質層13Bを支える能力が小さくなり負極活物質層13Bが負極集電体13Aから脱落し易いからである。リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅,ニッケル,チタン(Ti),鉄(Fe)あるいはクロム(Cr)が挙げられる。
【0018】
負極集電体13Aを構成する金属材料としては、また、負極活物質層13Bと合金化する金属元素を含むものが好ましい。負極活物質層13Bと負極集電体13Aとの密着性を向上させることができ、負極活物質層13Bの脱落を抑制することができるからである。後述するように負極活物質層13Bが構成元素としてケイ素を含む場合には、リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層13Bと合金化する金属元素としては、銅,ニッケル,鉄が挙げられる。中でも、銅は十分な強度および導電性を得ることができるので好ましい。
【0019】
負極集電体13Aは、単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。その場合、負極活物質層13Bと接する層をケイ素と合金化する金属材料により構成し、他の層を他の金属材料により構成するようにしてもよい。
【0020】
負極集電体13Aの表面粗度Ra値は0.1μm以上であることが好ましい。負極活物質層13Bと負極集電体13Aとの密着性をより向上させることができるからである。また、負極集電体13Aの表面粗度Ra値は3.5μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であればより好ましい。表面粗度Ra値が高すぎると、負極活物質層13Bの膨張に伴い負極集電体13Aに亀裂が生じやすくなる恐れがあるからである。なお、表面粗度Ra値というのはJIS B0601に規定される算術平均粗さRaのことであり、負極集電体13Aのうち少なくとも負極活物質層13Bが設けられている領域の表面粗度Raが上述した範囲内であればよい。
【0021】
負極活物質層13Bは、構成元素としてケイ素を含んでいる。ケイ素はリチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。ケイ素は単体で含まれていてもよく、合金で含まれていてもよく、化合物で含まれていてもよい。
【0022】
負極活物質層13Bは、また、構成元素として酸素を含んでいる。負極活物質層13Bの膨張・収縮を抑制し、容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層13Bに含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれ以外の準安定状態でもよい。負極活物質層13Bにおける酸素の含有量は、3原子数%以上45原子数%以下の範囲内であることが好ましい。これよりも少ないと十分な効果を得ることができず、これよりも多いと容量が低下してしまう外、負極活物質層13Bの抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下してしまうと考えられるからである。なお、負極活物質層13Bには、充放電により電解液などが分解して負極活物質層13Bの表面に形成される被膜は含めない。よって、負極活物質層13Bにおける酸素の含有量を算出する際には、この被膜に含まれる酸素は含めない。
【0023】
また、負極活物質層13Bは、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とを交互に積層して有していることが好ましく、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。充放電に伴う膨張・収縮をより効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていないくてもよいが、酸素の含有量はなるべく少ない方が好ましく、全く酸素を含んでおらず、含有量が零であればより好ましい。より高い容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。膨張・収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。第1層と第2層とは、負極集電体13Aの側から、第1層、第2層の順で積層されていてもよいが、第2層、第1層の順で積層されていてもよく、表面は第1層でも第2層でもよい。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇してしまう場合があるからである。
【0024】
なお、負極活物質層13Bは、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、コバルト(Co),鉄,スズ(Sn),ニッケル,銅,マンガン(Mn),亜鉛(Zn),インジウム(In),銀(Ag),チタン,ゲルマニウム(Ge),ビスマス(Bi),アンチモン(Sb),あるいはクロムが挙げられる。
【0025】
負極活物質層13Bは、例えば、気相法,溶射法,焼成法および液相法からなる群のうちの1以上の方法により少なくとも一部が形成されたものであることが好ましい。充放電に伴う負極活物質層13Bの膨張・収縮による破壊を抑制することができると共に、負極集電体13Aと負極活物質層13Bとを一体化することができ、負極活物質層13Bにおける電子伝導性を向上させることができるからである。なお、「焼成法」というのは、活物質を含む粉末とバインダーとを混合し成形した層を、非酸化性雰囲気下等で熱処理することにより、熱処理前よりも体積密度が高く、より緻密な層を形成する方法を意味する。
【0026】
負極活物質層13Bは、また、負極集電体13Aとの界面の少なくとも一部において負極集電体13Aと合金化していることが好ましい。上述したように、負極活物質層13Bと負極集電体13Aとの密着性を向上させることができるからである。具体的には、界面において負極集電体13Aの構成元素が負極活物質層13Bに、または負極活物質層13Bの構成元素が負極集電体13Aに、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。なお、本願では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
【0027】
正極14は、例えば、正極集電体14Aと、正極集電体14Aに設けられた正極活物質層14Bとを有している。正極集電体14Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0028】
正極活物質層14Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウムと遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。高電圧を発生可能であると共に、高エネルギー密度を得ることができるからである。このリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、一般式Lix MO2 で表されるものが挙げられる。Mは1種類以上の遷移金属元素を含み、例えばコバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
【0029】
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
【0030】
また、正極活物質層14Bは、長周期型周期表における2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
【0031】
セパレータ15は、負極13と正極14とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
【0032】
セパレータ15には、電解液が含浸されている。電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。溶媒は非水溶媒により構成されており、スルトンを含有している。電解液の安定性をが向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、化1に示した1,3−プロペンスルトンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0033】
【化1】

【0034】
溶媒はスルトンのみにより構成するようにしてもよいが、他の1または2種以上の物質と混合して用いることが好ましい。スルトンの含有量が多くなると充放電効率が低下してしまうからである。電解液におけるスルトンの含有量は、0質量%よりも多く20質量%以下の範囲内が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下の範囲内であればより好ましい。
【0035】
溶媒を構成する他の物質としては、炭酸エチレン,炭酸プロピレン,炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチルなどの炭酸エステルが挙げられ、例えば、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高沸点溶媒と、炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチルなどの低沸点溶媒とを混合して用いるようにすれば、高いイオン伝導度を得ることができるので好ましい。
【0036】
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オンあるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどの不飽和結合を有する環式炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。容量の低下をより抑制することができるからである。特に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
【0037】
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環式炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0038】
電解質塩としては、例えば、LiPF6 ,LiCF3 SO3 あるいはLiClO4 などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ15に含浸されていてもよく、また、セパレータ15と負極13または正極14との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル,あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
【0040】
この電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0041】
まず、負極集電体13Aに、例えば、気相法,溶射法,焼成法あるいは液相法により負極活物質層13Bを成膜し、負極13を作製する。また、それらの2以上の方法、更には他の方法を組み合わせて負極活物質層13Bを成膜するようにしてもよい。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法などが挙げられる。液相法としては例えば鍍金が挙げられる。
【0042】
負極活物質層13Bにおける酸素の含有量は、例えば、負極活物質層13Bを形成する際の雰囲気中に酸素を含有させたり、焼成時あるいは熱処理時の雰囲気中に酸素を含有させたり、または用いる負極活物質粒子の酸素濃度により調節する。また、上述したように、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とを交互に積層して負極活物質層13Bを形成する場合には、雰囲気中における酸素濃度を変化させることにより調節するようにしてもよく、また、第1層を形成したのち、その表面を酸化させることにより第2層を形成するようにしてもよい。
【0043】
なお、負極活物質層13Bを形成したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、負極集電体13Aと負極活物質層13Bとの界面をより合金化させるようにしてもよい。
【0044】
次いで、例えば、正極活物質と導電材とバインダーとを混合して合剤を調製し、これをN−メチル−2−ピロリドンなどの分散媒に分散させて合剤スラリーとして正極集電体14Aに塗布したのち、圧縮成型して正極活物質層14Bを形成することにより正極14を作製する。
【0045】
続いて、負極13と正極14とをセパレータ15を介して巻回して外装部材21の内部に挟み込んだのち、外装部材21の内部に電解液を注入し、外装部材21を密閉する。これにより、図1,2に示した二次電池が完成する。また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、外装部材21の内部に、電解液と共に重合性化合物を注入し、外装部材21の内部において重合性化合物を重合させることによりゲル化するようにしてもよい。または、負極13と正極14とをセパレータ15を介して巻回する前に、負極14または正極14の上に電解液を高分子化合物に保持させた電解質を形成するようにしてもよい。
【0046】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極14からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極13に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極13からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極14に吸蔵される。その際、負極活物質層13Bには3原子数%から45原子数%の酸素が構成元素として含まれているので、負極活物質層13Bの膨張・収縮が抑制される。また、電解液にはスルトンが含まれているので、電解液の安定性が向上する。よって、その相乗効果により、サイクル特性が向上すると共に、電池の膨れが抑制される。
【0047】
このように本実施の形態によれば、負極活物質層13Bにおける酸素の含有量を3原子数%以上45原子数%以下とすると共に、電解液にスルトンを含有するようにしたので、サイクル特性を向上させることができると共に、膨れを抑制することができる。
【0048】
特に、環内に不飽和結合を有するスルトンを用いるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0049】
また、電解液に、スルトンに加えて、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有するようにすれば、サイクル特性をより向上させることができ、特に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0050】
更に、電解液に、スルトンに加えて、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を含有するようにすれば、サイクル特性をより向上させることができ、不飽和結合を有する環式炭酸エステルとハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体とを共に含有するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0051】
加えて、負極集電体13Aの表面粗度Ra値を0.1μm以上とするようにすれば、また、負極活物質層13Bに酸素の含有量が異なる第1層と第2層とを交互に積層して有するようにすれば、サイクル特性をより向上させることができる。
【0052】
更にまた、正極14に、2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、また、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に表面層を設けた正極活物質を含有するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0053】
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例では、上記実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
【0054】
(実施例1−1〜1−11)
図1,2に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。まず、厚み20μm、表面粗度Ra値が0.3μmの銅箔よりなる負極集電体13Aの上に、電子ビーム蒸着法によりケイ素を蒸着すると共に、抵抗加熱蒸着法により二酸化ケイ素を共蒸着し、厚み約5μmの負極活物質層13Bを成膜した。作製した負極活物質層13Bをエネルギー分散型蛍光X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer ;EDX)により元素分析したところ、負極活物質層13Bにおける酸素の含有率は15原子数%であった。また、ESCA(electron spectroscopy for chemical analysis )によりケイ素の結合状態を調べたところ、ケイ素単体、SiO、SiO2 、および準安定状態のSiOX が含まれていることが確認された。更に、負極活物質層13Bと負極集電体13Aとの界面を観察するために、集束イオンビーム(FIB;Forcused Ion Beam )により負極13の断面を切り出し、AES(オージェ電子分光法;Auger electron spectroscopy )により分析を行ったところ、負極活物質層13Bと負極集電体13Aとの合金化が確認された。そののち、リード11を取り付けた。
【0055】
また、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2 )と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデンとを混合し、分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させたのち、アルミニウム箔よりなる正極集電体14Aに塗布し乾燥させることにより正極活物質層14Bを形成した。そののち、リード12を取り付けた。
【0056】
次いで、作製した負極13と正極14とを微孔性ポリエチレンフィルムよりなるセパレータ15を介して巻回し、アルミラミネートフィルムよりなる外装部材21の間に挟み込んだのち、外装部材21の内部に電解液を注入し、外装部材21を密閉した。電解液には、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを炭酸エチレン:炭酸ジエチル=3:7の質量比で混合したものに、1,3−プロパンスルトンまたは1,3−プロペンスルトンを混合すると共に、電解質塩としてLiPF6 を溶解させた。その際、実施例1−1〜1−4では1,3−プロパンスルトンを添加し、その電解液における含有量を0.5質量%〜15質量%の範囲内で表1に示したように変化させた。また、実施例1−5〜1−11では1,3−プロペンスルトンを添加し、その電解液における含有量を0.2質量%〜20質量%の範囲内で表1に示したように変化させた。LiPF6 の濃度は1mol/lとした。
【0057】
実施例1−1〜1−11に対する比較例1−1として、電解液にスルトンを添加しなかったことを除き、実施例1−1〜1−11と同様にして二次電池を作製した。
【0058】
作製した実施例1−1〜1−11および比較例1−1の二次電池について、サイクル試験および膨れ試験を行った。サイクル試験では、室温にて電流500mA、上限電圧4.2Vの定電流定電圧充電と、500mA、下限電圧2.5Vの定電流放電とを50サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合、(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)を調べた。膨れ試験では、4.2Vに満充電した状態で60℃において5日間放置し、放置前の電池厚みに対する放置後の電池厚みの増加率、(放置後の電池厚み/放置前の電池厚み)×100(%)を調べた。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示したように、スルトンを添加した実施例1−1〜1−11によれば、添加していない比較例1−1に比べて、放電容量維持率が向上し、かつ厚みの増加率が小さくなった。すなわち、電解液にスルトンを含有するようにすれば、サイクル特性を向上させることができると共に、膨れを抑制することができることが分かった。
【0061】
また、1,3−プロパンスルトンを添加した実施例1−1〜1−4よりも、1,3−プロペンスルトンを添加した実施例1−5〜1−11の方がより高い効果が得られた。すなわち、環内に不飽和結合を有するスルトンを用いた方が好ましいことが分かった。
【0062】
更に、スルトンの含有量を増加させると、放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられ、厚みの増加率は小さくなったのち大きくなる傾向がみられた。すなわち、スルトンの電解液における含有量は、0質量%よりも多く20質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以上10質量%以下とすればより好ましいことが分かった。
【0063】
(実施例2−1〜2−5)
負極活物質層13Bを成膜する際に、電子ビームまたは抵抗加熱源の出力を変えることにより、酸素の含有量を3質量%以上45質量%以下の範囲内で表2に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。なお、電解液には1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加した。
【0064】
実施例2−1〜2−5に対する比較例2−1として、二酸化ケイ素を共蒸着せず、酸素の含有量を1質量%未満とし、電解液にスルトンを添加しなかったことを除き、他は実施例2−1〜2−5と同様にして二次電池を作製した。比較例2−2として、二酸化ケイ素を共蒸着せず、酸素の含有量を1質量%未満とし、電解液に1,3−プロパンスルトンを1質量%添加したことを除き、他は実施例2−1〜2−5と同様にして二次電池を作製した。比較例2−3として、二酸化ケイ素を共蒸着せず、酸素の含有量を1質量%未満としたことを除き、他は実施例2−1〜2−5と同様にして二次電池を作製した。比較例2−4として、電子ビームまたは抵抗加熱源の出力を変えることにより、酸素の含有量を50質量%としたことを除き、は実施例2−1〜2−5と同様にして二次電池を作製した。
【0065】
作製した実施例2−1〜2−5および比較例2−1〜2−4の二次電池についても、実施例1−7と同様にして初回充放電効率およびサイクル特性を調べた。結果を実施例1−7の結果と共に表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示したように、負極活物質層13Bにおける酸素の含有量を3質量%以上45質量%以下とした実施例1−7,2−1〜2−5によれば、それよりも酸素の含有量を少なくした比較例2−1〜2−3および酸素の含有量を多くした比較例2−4に比べて、放電容量維持率が向上し、かつ厚みの増加率が小さくなった。また、酸素の含有量が少ない比較例2−1〜2−3では、電解液にスルトンを添加した比較例2−2,2−3の方が厚みの増加率は小さくなったものの、放電容量維持率は低下してしまった。
【0068】
すなわち、負極活物質層13Bにおける酸素の含有量を3質量%以上45質量%以下とし、かつ電解液にスルトンを含有するようにすれば、サイクル特性を向上させることができると共に、膨れを抑制することができることが分かった。
【0069】
(実施例3−1)
負極活物質層13Bを成膜する際に、ケイ素および二酸化ケイ素に加えて、コバルトを共蒸着したことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。作製した負極活物質層13BをESCAにより解析したところ、ケイ素単体、SiO、SiO2 、および準安定状態のSiOX に加えて、コバルト酸化物(CoO2 )の存在が確認された。また、負極集電体13Aとの界面近傍にはケイ素銅合金の存在も確認された。なお、負極活物質層13Bにおける酸素の含有量は15原子数%とし、電解液には1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加した。
【0070】
実施例3−1に対する比較例3−1として、電解液にスルトンを添加しなかったことを除き、実施例3−1と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例3−1および比較例3−1の二次電池についても、実施例1−7と同様にしてサイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示したように、実施例1−7と同様に、スルトンを添加した実施例3−1によれば、添加していない比較例3−1に比べて、放電容量維持率が向上し、かつ厚みの増加率が小さくなった。すなわち、負極活物質層13Bが他の構成元素を含む場合においても、同様の効果を得られることが分かった。
【0073】
(実施例4−1〜4−6)
炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルに加えて、1,3−ジオキソール−2−オンまたは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンまたはその両方を混合したことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。炭酸エチレンと炭酸ジエチルと1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとの割合は、実施例4−1〜4−6で表4に示したように変化させた。また、電解液には、1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加した。
【0074】
作製した実施例4−1〜4−6の二次電池についても、実施例1−7と同様にしてサイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実施例1−7の結果と共に表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4に示したように、4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは1,3−ジオキソール−2−オンを添加した実施例4−1〜4−4によれば、添加していない実施例1−7に比べて放電容量維持率が向上した。また、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いた実施例4−5,4−6によれば、放電容量維持率が更に向上し、厚みの増加率も小さくなった。すなわち、スルトンに加えて、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有するようにすれば、サイクル特性をより向上させることができ、特に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得られることが分かった。
【0077】
(実施例5−1〜5−5)
実施例5−1,5−2では炭酸エチレンに代えて4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用い、実施例5−1では電解液に1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加し、実施例5−2では電解液に1,3−プロペンスルトンを2質量%の含有量となるように添加したことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。
【0078】
実施例5−3,5−4では炭酸エチレンに代えて4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用い、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび炭酸ジエチルに加えて1,3−ジオキソール−2−オンまたは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンを混合すると共に、電解液に1,3−プロペンスルトンを2質量%の含有量となるように添加したことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルと1,3−ジオキソール−2−オンまたは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとの割合は、質量比で順に25:70:5とした。
【0079】
実施例5−5では炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルに代えて、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび炭酸ジメチルを用い、更に4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンを混合すると共に、電解液に1,3−プロペンスルトンを2質量%の含有量となるように添加したことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジメチルと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとの割合は、質量比で順に25:70:5とした。
【0080】
作製した実施例5−1〜5−5の二次電池についても、実施例1−7と同様にしてサイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実施例1−7の結果と共に表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5に示したように、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実施例5−1,5−2によれば、添加していない実施例1−7に比べて放電容量維持率が向上した。また、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンに加えて1,3−ジオキソール−2−オンまたは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実施例5−3〜5−5によれば、更に放電容量維持率が向上した。すなわち、スルトンに加えて、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を含有するようにすれば、サイクル特性をより向上させることができ、更に、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有するようにすれば、より高い効果を得ることができることが分かった。
【0083】
(実施例6−1〜6−7)
負極集電体13Aの表面粗度Ra値を表6に示したように0.05μm〜3.5μmの範囲内で変化させたことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例6−1〜6−7の二次電池についても、実施例1−7と同様にしてサイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実施例1−7の結果と共に表6に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
表6に示したように、負極集電体13Aの表面粗度Ra値を大きくすると、放電容量維持率は向上したのち低下し、厚みの増加率は小さくなったのち大きくなる傾向がみられた。すなわち、負極集電体13Aの表面粗度Ra値は0.1μm以上であることが好ましく、3.5μm以下、更には3.0μm以下であればより好ましいことが分かった。
【0086】
(実施例7−1〜7−4)
酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量を多くした第2層とを交互に積層して負極活物質層13Bを形成したことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。その際、第1層はケイ素のみを蒸着させ、第2層は二酸化ケイ素を共蒸着させた。実施例7−1では、第1層、第2層、第1層の順に成膜し、実施例7−2では、第1層、第2層の順に4層ずつ積層し、更に第1層を形成した。実施例7−3では、第1層、第2層の順に6層ずつ積層し、更に第1層を形成した。実施例7−4では、第1層、第2層の順に10層ずつ積層し、更に第1層を形成した。なお、負極活物質層13Bの厚みは実施例1−7と同様に約5μmとし、負極活物質層13Bにおけるトータルの酸素含有量は実施例1−7と同様に約15原子数%となるようにした。
【0087】
作製した実施例7−1〜7−4の二次電池についても、実施例1−7と同様にしてサイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実施例1−7の結果と共に表7に示す。
【0088】
【表7】

【0089】
表7に示したように、第1層と第2層とを設けた実施例7−1〜7−4によれば、設けていない実施例1−7に比べて放電容量維持率が向上した。また、厚みの増加率も小さくなる傾向がみられた。すなわち、酸素の含有量が少ない第1層の間に酸素の含有量が多い第2層を少なくとも1層以上設けるようにすれば、より好ましいことが分かった。
【0090】
(実施例8−1〜8−5)
正極活物質を変えたことを除き、他は実施例1−7と同様にして二次電池を作製した。実施例8−1〜8−4では、炭酸リチウム(Li2 CO3 )および酸化コバルト(Co3 4 )に加えて、酸化カルシウム(CaO),酸化マグネシウム(MgO),酸化イットリウム(Y2 3 )または酸化ジルコニウム(ZrO2 )を混合して、大気中において880℃で焼成したものを正極活物質として用いた。リチウムとコバルトとカルシウム,マグネシウム,イットリウムまたはジルコニウムとの割合は、Li:Co:(Ca,Mg,Y,Zr)=1:0.99:0.01のモル比とした。また、実施例8−5では、粒子状のコバルト酸リチウムの表面にメカノケミカル法によりフッ化リチウム粒子を付着させたものを正極活物質として用いた。フッ化リチウムの量は3質量%とした。
【0091】
作製した実施例8−1〜8−5の二次電池についても、実施例1−7と同様にしてサイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実施例1−7の結果と共に表8に示す。
【0092】
【表8】

【0093】
表8に示したように、カルシウム,マグネシウム,イットリウムまたはジルコニウムを添加した正極活物質を用いた実施例8−1〜8−4によれば、添加していない実施例1−7に比べて、放電容量維持率が向上し、厚みの増加率も小さくなった。また、コバルト酸リチウムにフッ化リチウムの表面層を設けた正極活物質を用いた実施例8−5によっても、同様の結果が得られた。すなわち、2族元素,3族元素あるいは4族元素の単体または化合物を含有する正極活物質を用いるようにすれば、または粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を表面層を設けた正極活物質を用いるようにすればより高い効果を得られることが分かった。
【0094】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、フィルム状の外装部材21を用いる場合について説明したが、本発明は、外装部材に缶を用いる場合についても同様に適用することができ、その形状はコイン型、円筒型、角型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのようなものでもよい。
【0095】
また、上記実施の形態および実施例では、負極13および正極14を巻回した電極巻回体10を備える場合について説明したが、負極と正極とを1層または複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。更に、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表す部分分解斜視図である。
【図2】図1に示した電極巻回体のI−I線に沿った構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0097】
10…電極巻回体、11,12…リード、13…負極、13A…負極集電体、13B…負極活物質層、14…正極、14A…正極集電体、14B…正極活物質層、15…セパレータ、16…保護テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体と、この負極集電体に設けられ、構成元素としてケイ素(Si)および酸素(O)を含む負極活物質層とを有し、
前記負極活物質層における酸素の含有量は、3原子数%以上45原子数%以下であり、
前記電解液は、スルトンを含有する
ことを特徴とする電池。
【請求項2】
前記電解液は、環内に不飽和結合を有するスルトンを含有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記電解液は、1,3−プロペンスルトンを含有することを特徴とする請求項2記載の電池。
【請求項4】
前記電解液は、更に、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項5】
前記電解液は、1,3−ジオキソール−2−オンおよび4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンのうちの少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項4記載の電池。
【請求項6】
前記電解液は、更に、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を含有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項7】
前記電解液は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを含有することを特徴とする請求項6記載の電池。
【請求項8】
前記電解液は、更に、不飽和結合を有する環式炭酸エステルおよびハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を含有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項9】
前記負極集電体の表面粗度Ra値は0.1μm以上であることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項10】
前記負極活物質層は、気相法、溶射法、焼成法、および液相法からなる群のうちの1以上の方法により、少なくとも一部が形成されたことを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項11】
前記負極活物質層は、前記負極集電体と界面の少なくとも一部において合金化していることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項12】
前記負極活物質層は、酸素の含有量が異なる第1層と第2層とを交互に積層して有し、第2層は第1層よりも酸素の含有量が多く、かつ、少なくとも第1層の間に1層以上存在することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項13】
前記正極は、2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項14】
前記正極は、マグネシウム(Mg),イットリウム(Y)またはジルコニウム(Zr)の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項13記載の電池。
【請求項15】
前記正極は、リチウム(Li)と遷移金属とを含む粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層が設けられた正極活物質を含有する
ことを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項16】
前記表面層は、フッ化リチウムを含有することを特徴とする請求項15記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−128765(P2007−128765A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321014(P2005−321014)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】