説明

電波吸収体及びその製造方法

【課題】 従来技術の難点を解消し、フェライトタイル上に直接若しくは誘電体層を介して取り付けることにより、電波暗室、暗箱等のノイズ試験設備で使用可能であって、広帯域に亘り良好な吸収特性を持ち且つ小型、軽量に構成可能な電波吸収体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の電波吸収体は、多孔質樹脂発泡体に導電性材料と磁性粉末とを均一に分散させてなることを特徴とする。導電性材料としては、導電性粉末や導電性短繊維を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライトタイル上に直接若しくは誘電体層を介して取り付けることにより、電波暗室、暗箱等のノイズ試験設備で使用可能であって、広帯域に亘り良好な吸収特性を持ち且つ小型に構成可能な電波吸収体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂発泡体に導電損失材料を分散させると共に、ピラミッド型、楔型、波型或いはシート状に加工した電波吸収体が広く使用されている。このような電波吸収体に用いられる一般的な樹脂は、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂等であり、中身の詰まった充実型或いは中空型の電波吸収体として電波暗室等で用いられている。
【0003】
又、樹脂或いは無機素材に磁性材料又は磁性材料と導電性材料を練り込んで成型した小型の広帯域吸収体も、一部で同様に使用されていて、例えば特許文献1には、フェライト粉と樹脂を混練して成形した電波吸収体が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−41051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の電波吸収体を30MHz〜ギガヘルツ(GHz)帯までの広帯域で使用する際には、例えばピラミッド形状の樹脂発泡体に導電損失材料を分散させた吸収体の場合、最低300mm以上の比較的大型の吸収体をフェライトタイルと組み合わせて使用することが一般的に必要とされ、電波暗室内部の有効容積が狭められるという欠点があった。
【0006】
又、磁性材料又は磁性材料と導電性材料を予め樹脂中に練り込んで成型した電波吸収体の場合は、小型であるために電波暗室内部の有効容積が狭められるという欠点はないものの、非常に重量が重いために取扱いが大変であることや、落下防止のためにボルト留めするなど取付け施工上の特別な工夫が必要となること、及び、重量を支えるために電波暗室等の構造物を頑丈にしなければならないことが欠点として指摘されていた。
【0007】
この発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、フェライトタイル上に直接若しくは誘電体層を介して取り付けることにより、電波暗室、暗箱等のノイズ試験設備で使用可能であって、広帯域に亘り良好な吸収特性を持ち且つ小型、軽量に構成可能な電波吸収体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、多孔質樹脂発泡体に導電性材料と磁性粉末とを均一に分散させてなることを特徴とする電波吸収体である。
【0009】
又、請求項2に記載された発明は、導電性材料が導電性粉末である請求項1に記載の電波吸収体である。
【0010】
又、請求項3に記載された発明は、導電性材料が導電性短繊維である請求項1に記載の電波吸収体である。
【0011】
更に、請求項4に記載された発明は、磁性粉末が、フェライト仮焼粉を焼成して得られる顆粒を粉砕した、粒径1〜50ミクロンの範囲のフェライト微粒子である請求項1に記載の電波吸収体である。
【0012】
更に、請求項5に記載された発明は、ピラミッド形状、楔形状、波型形状又は多層型シート状の形状を持つ請求項1に記載の電波吸収体である。
【0013】
更に又、請求項6に記載された発明は、多孔質樹脂発泡体を、導電性材料と磁性粉末及びバインダーを含んだ溶液中に浸してから乾燥させることを特徴とする電波吸収体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、軽量な樹脂発泡体に導電損失材料と同時に磁性損失材料も含有させ、電磁波中の電界成分に作用する導電損失に加えて、磁界成分に作用する磁性損失の効果も利用して、良好な吸収特性を持たせることを可能としている。その結果、従来よりも低い吸収体の高さで、吸収体表面でのインピーダンスを広い周波数帯において自由空間の特性インピーダンスに近い値に保ち、吸収体表面での電磁波の反射を抑えることが可能となり、例えば吸収体の高さ100mm以下であっても、周波数30MHz〜ギガヘルツ(GHz)帯まで良好な特性を示す電波吸収体が実現できる。
【0015】
又、本発明によれば、上記のように、例えば高さ100mm以下で且つ広帯域の吸収体が実現できるため、電波暗室等の内部で吸収体部分が占有する容積を縮小して、内部有効容積を広く確保することが可能となる。又、樹脂或いは無機素材に磁性材料を含有させた吸収体と比較して軽量化することが可能で、施工に際しては接着で電波暗室の壁、天井に取り付けが可能であるため、ボルト締め等の特別な工夫は不要である。又、取り付け下地となる構造物にも特別な補強は不要となり、例えば樹脂にフェライト材料を練りこむ方法で製造した吸収体と比較して、取り付け下地1m当たり60〜70%程度の軽量化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明による電波吸収体は、多孔質樹脂発泡体に導電性材料と磁性粉末とを均一に分散させてなるものであり、この多孔質樹脂発泡体としては、ポリウレタン、ポリオレフィン系樹脂やゴム等による、例えば穴径0.5〜4mm程度の連続気泡を有する多孔質樹脂発泡体であって、特に、空穴率95%以上で気泡数5から80個/インチ程度であるものを挙げることができる。
【0018】
又、前記導電性材料としては、例えば粒径0.2〜20ミクロンの範囲にある導電性カーボン或いはグラファイト粉末等の導電性粉末や、例えば直径0.5〜20ミクロンの範囲にある導電性カーボン短繊維等の導電性短繊維を挙げることができる。
【0019】
更に前記磁性粉末としては、例えばNi−Zn系又はMn−Zn系フェライト仮焼粉、或いは、これらのフェライト仮焼粉を焼成して得られる顆粒を粉砕した、粒径1〜50ミクロンの範囲のフェライト微粒子を挙げることができる。
【0020】
磁性材料として、上記フェライト仮焼粉を焼成して得られる顆粒を粉砕した、粒径1〜50ミクロンの範囲のフェライト微粒子を含有させれば、磁性材料の量を抑えることになり、更に得られる電波吸収体の重量を軽減させることが可能である。
【0021】
本発明の電波吸収体は、前記導電性材料を0.01重量%〜5重量%の範囲で含有する。導電性材料の含有量が0.01重量%未満であると、1GHz以上の高帯域で十分な吸収特性を得ることができず、逆に5重量%を越えると、1GHz以下の帯域でフェライトタイルと十分な整合性を得ることができず、いずれの場合も好ましくない。
【0022】
本発明の電波吸収体は、前記磁性粉末を55重量%〜90重量%の範囲で含有する。磁性粉末の含有量が上記範囲外であると、1GHz以上の高帯域で十分な吸収特性を得ることができず、好ましくない。
【0023】
本発明の電波吸収体は、その形状においては特に限定されることはなく、例えば、ピラミッド形状、楔形状、波型形状又は多層型シート状の形状をとることができ、ピラミッド形状、楔形状、波型形状は基本形状単独でも、それが連続していてもよい。
【0024】
上記本発明の電波吸収体は、多孔質樹脂発泡体を、導電性材料と磁性粉末及びバインダーを含んだ溶液中に浸してから乾燥させることを特徴とする本発明の製造方法により製造することができる。
【0025】
上記多孔質樹脂発泡体、導電性材料及び磁性粉末は、すでに説明したとおりであり、バインダーとしては、例えばラテックスゴム系やウレタン系のものを挙げることができる。
【0026】
多孔質樹脂発泡体を浸すための溶液は、上記導電性材料及び磁性粉末を、例えば市販されているバインダーを水に分散したものに溶解或いは分散することにより、調製することができる。
【0027】
尚、多孔質樹脂発泡体を上記溶液に浸けた後、乾燥をすることにより本発明の電波吸収体とすることができるが、乾燥時間を短縮するために、上記溶液に浸けた後の多孔質樹脂発泡体を適宜に絞っても差し支えなく、又、乾燥手段についても制限はない。
【0028】
以下、実施例により更に本発明を詳細に説明する。
【0029】
実施例1
高さ80mmの連続するピラミッド型に予め切断加工を施し、発泡膜を取り除いた穴径約2mmの空孔を持つ連続気泡のポリエーテル系ウレタンフォームを多孔質樹脂発泡体として使用した。一方で、磁性粉末として、Ni−Zn系フェライトの仮焼粉を一旦焼成してから粒径約30μ程度の微粉末に粉砕したものを、又、導電性材料として、粒径約1μの導電性カーボン粉末を用い、これらをゴム系の有機バインダーを含む液体と混ぜ合わせて、カーボン量が約5重量%、フェライト量が約65重量%の含浸用の原液を作成した。
【0030】
粒子の沈殿を抑えるため、循環ポンプにて液を含浸槽内で循環させながら、多孔質樹脂発泡体に含浸させた後、均一に絞り一定量のカーボン及びフェライト粉末を内部に分散させた、この際に、絞り強さをコントロールすることにより、内部のカーボン及びフェライト粉末の含有量を加減し、最適となる値となるように調整を行った。
【0031】
一定量のカーボン及びフェライト粉末を内部に分散させた多孔質樹脂発泡体に、プレス或いはローラーで所定の重量となるまで絞りを加え、過剰な液体を除いた後、乾燥炉に入れて80℃で約8時間乾燥させた。
【0032】
得られた電波吸収体における具体的な組成の例を以下に示す。
導電性カーボン粉末(導電性材料) 2重量%
フェライト微粉末(磁性粉末) 70重量%
バインダー 18重量%
【0033】
実施例2
高さ100mmの連続するピラミッド型の連続気泡のポリエーテル系ウレタンフォームを使用したことと、含浸用の原液において、カーボン量が約4.5重量%、フェライト量が約60重量%となるよう調整したことを除き、実施例1と同様にして、実施例1と同様の組成の電波吸収体を得た。
【0034】
図1は、本発明の電波吸収体を実際に使用する場合の構成例であり、金属板1で裏打ちされたフェライトタイル2上に本発明の電波吸収体3を直接取り付けて構成されている。この電波吸収体は、図1に示すように電磁波に対向するような向きで使用する。
【0035】
実施例1で得られた電波吸収体を使用した場合の30MHz〜3GHzにおける吸収特性を、
これをストリップラインの終端部に挿入し、ネットワークアナライザーを用いて測定した。結果を図2に示す。図2に明らかなように、約17dB以上の吸収特性が得られた。
【0036】
実施例2で得られた電波吸収体を使用した場合の30MHz〜3GHzにおける吸収特性を、上記と同様に測定した。結果を図3に示す。図3に明らかなように、30MHz付近を除いて20dB以上の吸収特性が得られた。
【0037】
又、両実施例で得られた本発明の電波吸収体の重量は20Kg/m〜27Kg/mであり、重量が60Kg/m〜70Kg/mである磁性材料又は磁性材料と導電性材料を予め樹脂中に練り込んで成型した従来の電波吸収体と比較すると、約1/3の軽量化に成功している。
【0038】
加えて、図2及び図3に明らかなように、30MHz〜3GHzにおける吸収特性に関しては、従来品と全く遜色がない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1、2で得られた電波吸収体を使用する場合の構成図である。
【図2】実施例1で得られた電波吸収体を使用した場合の反射減衰量と周波数の関係を示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた電波吸収体を使用した場合の反射減衰量と周波数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 金属板
2 フェライトタイル
3 電波吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質樹脂発泡体に導電性材料と磁性粉末とを均一に分散させてなることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
導電性材料が導電性粉末である請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
導電性材料が導電性短繊維である請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項4】
磁性粉末が、フェライト仮焼粉を焼成して得られる顆粒を粉砕した、粒径1〜50ミクロンの範囲のフェライト微粒子である請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項5】
ピラミッド形状、楔形状、波型形状又は多層型シート状の形状を持つ請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項6】
多孔質樹脂発泡体を、導電性材料と磁性粉末及びバインダーを含んだ溶液中に浸してから乾燥させることを特徴とする電波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−66585(P2008−66585A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244408(P2006−244408)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(501354668)日本シールドエンクロージャー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】