説明

電波透過カバー

【課題】意匠性と意匠設計の自由度とに優れる電波透過カバーを提供すること。
【解決手段】電波透過カバーのカバー層3を、透明樹脂材料からなる第1カバー層30と、透明樹脂材料と着色材とを含む混合材料からなり第1カバー層30の後面の一部を覆う第2カバー層35と、が多色成形されてなる層にし、第2カバー層35にカバー側係合部37を設ける。また、電波透過カバーの基材層4を、透明樹脂材料とは融点の異なる樹脂材料からなる層にし、カバー側係合部37と係合する基材側係合部40を設ける。カバー側係合部37と基材側係合部40との機械的係合によって、カバー層3と基材層4とが強固に一体化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電波レーダ装置の前側に配設される電波透過カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
オートクルーズシステムは、車両前側に搭載されているセンサによって前方車両と自車との車間距離や相対速度を測定し、この情報を基にスロットルやブレーキを制御して自車を加減速し、車間距離をコントロールする技術である。このオートクルーズシステムは、近年、渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の中核技術の一つとして注目されている。
【0003】
オートクルーズシステムに使用されるセンサとしては、一般に、レーザレーダやミリ波レーダが使用されている。例えばミリ波レーダは、30GHz〜300GHzの周波数を持ち1〜10mmの波長を持つミリ波を送信し、かつ、対象物にあたって反射したミリ波を受信することで、この送信波と受信波の差から前方車両と自車との車間距離や相対速度を測定する。
【0004】
車両用電波レーダ装置は、一般に、フロントグリルの後面側に配置される。フロントグリルは、肉厚が一定ではなく、金属製であるかまたは表面に金属メッキ層が形成されているため、電波の進路に干渉する。このため、フロントグリルのなかで車両用電波レーダ装置の前側に相当する部分に窓部を設け、この窓部に樹脂製の電波透過カバーを嵌め込む技術が提案されている。
【0005】
電波透過カバーには、一般に、種々の意匠を表示するための意匠層が設けられる。意匠層は金属蒸着やフィルム転写などによって形成される比較的薄肉の層である。このため、意匠層の前面と後面とは、それぞれ、補強用の樹脂層で覆う必要がある。
【0006】
意匠層の前面と後面とが補強用の樹脂層で覆われてなる電波透過カバーは、先ず補強用の樹脂層の一方を成形し、次いでその上層に蒸着や転写などの方法によって意匠層を形成し、さらに意匠層の上層に補強用の樹脂層の他方を成形して得られる。
【0007】
ところで、意匠性に優れた電波透過カバーを得るためには、先に成形する樹脂層の材料(以下、第1樹脂材料と呼ぶ)として、後に成形する樹脂層の材料(以下、第2樹脂材料と呼ぶ)よりも融点の高いものを用いる必要がある。すなわち、第2樹脂材料の融点が第1樹脂材料の融点以上である場合には、先に成形した樹脂層が、溶融した第2樹脂材料に熱せられて溶融する。先に成形した樹脂層が溶融すれば、その上層に形成されている意匠層が変形する。したがってこの場合には、意匠性に優れた電波透過カバーを得ることは困難である。
【0008】
一方、第2樹脂材料の融点が第1樹脂材料の融点よりも低い場合には、2つの樹脂層の相溶性が低くなり、両者を強固に一体化し難い。このため従来は、2つの樹脂層を、互いに係合する形状に形成していた(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1に紹介されている電波透過カバーでは、インジウムが蒸着されてなる意匠層の前面と後面とが、それぞれ、補強用の樹脂層で覆われている。詳しくは、意匠層の前面は透明樹脂材料からなる樹脂層(カバー層と呼ぶ)で覆われ、意匠層の後面は不透明樹脂材料からなる樹脂層(基材層と呼ぶ)で覆われている。カバー層と意匠層との間には、不透明樹脂材料からなる樹脂層(マスク層と呼ぶ)が介在している。詳しくは、マスク層は、カバー層の後面の一部を覆う。カバー層の周縁部は、アンダーカット形状の係合部を形成している。
【0010】
特許文献1に紹介されている電波透過カバーによると、カバー層の係合部が基材層の周縁部後面と係合する。このためカバー層は、基材層を機械的に固定できる。よって、カバー層と基材層とが互いに融点の異なる材料からなる場合にも、カバー層と基材層とを強固に一体化できると考えられる。なお、特許文献1に紹介されている電波透過カバーの意匠層は、カバー層のなかで後面がマスク層で覆われていない部分(以下、窓部と呼ぶ)を通して、電波透過カバーの前側(カバー層側)に表示される。このため、この電波透過カバーには、意匠層の意匠が、窓部の形状に応じた形状に表示される。
【0011】
ところで近年では、電波透過カバーに種々の意匠が要求されている。しかし、特許文献1に紹介されている電波透過カバーには意匠上の制約がある。すなわち、特許文献1に紹介されている電波透過カバーにおけるマスク層は、カバー層の後面側の一部のみを覆うため、型成形や印刷などの方法で形成する必要がある。しかし、特許文献1に紹介されている電波透過カバーは、アンダーカット形状の係合部を持つ。このため、係合部やその周辺部にはマスク層を形成できない。よって、特許文献1に紹介されている従来の技術では、意匠性と意匠設計の自由度とに優れた電波透過カバーを得られない問題があった。
【特許文献1】特開2000−159039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、意匠性と意匠設計の自由度とに優れる電波透過カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の電波透過カバーは、車両用電波レーダ装置の前側に配設され、前面が車両の前端側に露出する電波透過カバーであって、意匠層と、意匠層の前面を覆うカバー層と、意匠層の後面を覆う基材層と、を持ち、カバー層は、透明樹脂材料からなる第1カバー層と、透明樹脂材料と着色材とを含む混合材料からなり第1カバー層の後面の一部を覆う第2カバー層と、が多色成形されてなり、第2カバー層は、第1カバー層の後面に隣接する一般部と、一般部の後面から突出しアンダーカット状をなすカバー側係合部と、を持ち、基材層は、透明樹脂とは融点の異なる樹脂材料からなり、カバー側係合部と係合する基材側係合部を持つことを特徴とする。
【0014】
本発明の電波透過カバーは、下記の(1)を備えるのが好ましい。
(1)上記第2カバー層は、上記第1カバー層上に成形され、上記第1カバー層のなかで後面が上記第2カバー層で覆われていない窓部は、上記第2カバー層との境界部分に立壁状の見切り部を持ち、見切り部の先端部は、上記第2カバー層のなかで見切り部に隣接している部分よりも後面側に突出している。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電波透過カバーでは、カバー層に形成されているカバー側係合部と、基材層に形成されている基材側係合部とが係合する。したがって、カバー層と基材層とが強固に一体化する。よって本発明の電波透過カバーは、基材層とカバー層とを融点の異なる材料で形成できるため、意匠層の変形を防止できる。すなわち本発明の電波透過カバーは意匠性に優れる。
【0016】
また、カバー層の一部である第2カバー層は、着色材を含む。この第2カバー層にカバー側係合部を設けたことで、カバー側係合部およびその周辺部(すなわち第2のカバー層)自体に、マスク層としての機能を付与できる。よって、本発明の電波透過カバーは、係合部に起因した意匠上の制約がなくなり、意匠設計の自由度に優れる。
【0017】
なお、第2カバー層は、第1カバー層の材料と同じ透明樹脂材料と、着色材と、を含む混合材料からなる。そして、第1カバー層と第2カバー層とは多色成形されている。このため、第1カバー層と第2カバー層とは部分的に相溶して強固に一体化する。
【0018】
上記(1)を備える本発明の電波透過カバーは、より一層意匠性に優れる。これは以下の理由による。
【0019】
第1カバー層および第2カバー層は樹脂製であるため、成形後に収縮する。この収縮によって、第1カバー層の窓部と第2カバー層との境界線は位置ズレする。このため、この境界線を所望どおりの位置に形成するのは非常に困難である。
【0020】
上記(1)を備える本発明の電波透過カバーの窓部には、第2カバー層との境界部分に見切り部が設けられている。見切り部は、立壁状をなし、第2カバー層よりも後面側に突出する。このため、第2カバー層を第1カバー層上に成形する場合(すなわち、先ず第1カバー層を成形し、次いで第2カバー層を成形する場合)には、見切り部を成形型の型面に圧接させれば、見切り部を成形型によって固定できる。見切り部を固定すれば、第1カバー層が成形後に収縮したとしても、第1カバー層の窓部と第2カバー層との境界線が位置ズレすることはない。よって、上記(1)を備える本発明の電波透過カバーは、より一層意匠性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第1カバー層は、本発明の電波透過カバーのなかで最前面に配され、車両の前端側に露出する。このため第1カバー層を構成する透明樹脂材料としては、耐候性の高いものを選択するのが好ましい。耐候性の高い透明樹脂材料としては、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等が挙げられる。
【0022】
第2カバー層は、第1カバー層の材料として用いたものと同じ透明樹脂材料と、着色材と、の混合材料からなる。着色材は、電波透過カバーの意匠に応じて適宜選択できる。例えばカーボンブラック等の黒色着色材を用いても良いし、その他の着色材を用いても良い。着色材は一種のみであっても良いし、多種を混合して用いても良い。
【0023】
基材層は、第1カバー層および第2カバー層の材料として用いた透明樹脂材料とは融点の異なる樹脂材料(以下、基材層用樹脂材料と呼ぶ)からなる。例えば、カバー層の後に基材層を成形する場合には、基材層用樹脂材料として透明樹脂材料よりも融点の低いものを用いればよい。また、基材層の後にカバー層を成形する場合には、基材層用樹脂材料として、透明樹脂材料よりも融点の高いものを用いればよい。なお、透明樹脂材料としてポリカーボネート樹脂を用いる場合には、基材層用樹脂材料としてAES樹脂を用いるのが好ましい。AES樹脂はポリカーボネート樹脂と誘電率がほぼ等しいため、電波が均一に透過するためである。
【0024】
意匠層は、カバー層に形成しても良いし、基材層に形成しても良い。例えば、カバー層を基材層よりも先に成形する場合には、カバー層の後面に意匠層を形成すればよい。また、基材層をカバー層よりも先に成形する場合には、基材層の前面に意匠層を形成すればよい。意匠層は、インジウム等の金属材料をカバー層または基材層に蒸着して形成しても良いし、スクリーン印刷等の方法でカバー層または基材層に形成してもよい。さらに、転写フィルムに印刷形成された所定の意匠を、カバー層または基材層に転写して意匠層を形成してもよい。フィルム上に所定の意匠を蒸着や印刷して形成してなる意匠層を、カバー層または基材層に積層してもよい。意匠層の材料は1種のみであっても良いし、多種であっても良い。また、意匠層は1層からなっても良いし、多層からなっても良い。例えば、第1の意匠を印刷形成した樹脂フィルム上に、第2の意匠を蒸着形成した小片状フィルムを接着したものを意匠層として用いても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の電波透過カバーを図面を基に説明する。
【0026】
(実施例1)
実施例1の電波透過カバーは、車両のフロントグリルに設けられている開口に嵌め込まれる。実施例1の電波透過カバーの後側には、車両用ミリ波レーダ装置が配設される。実施例1の電波透過カバーを説明する説明図を図1に示す。図1(a)は実施例1の電波透過カバーを前面から見た様子を表す。図1(b)は、図1(a)中A−A位置における実施例1の電波透過カバーの断面を表す。図1(b)の要部拡大図を図2に示す。以下実施例1において、前、後とは、図2に示す前、後を指す。
【0027】
実施例1の電波透過カバー1は、図1(a)に示すように略楕円板状をなす。電波透過カバー1は、図1(b)および図2に示すように、意匠層2と、意匠層2の前面を覆うカバー層3と、意匠層2の後面を覆う基材層4と、を持つ。
【0028】
カバー層3は、第1カバー層30と第2カバー層35とが多色成形されてなる。第1カバー層30は、透明樹脂材料の一種であるポリカーボネート樹脂からなり、透明である。第1カバー層30の、後面側は、環形に陥没形成されている。実施例1の電波透過カバー1では、この環形に陥没している部分の内部が窓部31となる。
【0029】
第2カバー層35は、ポリカーボネート樹脂とカーボンブラックとの混合材料からなり、黒色である。第2カバー層35は、第1カバー層30の後面のなかで、窓部31よりも内周側の部分と、窓部31よりも外周側の部分とに形成されている。すなわち、第2カバー層35は、第1カバー層30の後面のなかで窓部31以外の部分を覆う。第2カバー層35のなかで、第1カバー層30の窓部31よりも内周側の後面を覆う部分を、内側第2カバー層350と呼ぶ。第2カバー層35のなかで、第1カバー層30の窓部31よりも外周側の後面を覆う部分を、外側第2カバー層351と呼ぶ。
【0030】
図2に示すように、外側第2カバー層351は、一般部36とカバー側係合部37とを持つ。一般部36は第1カバー層30の後面に隣接する部分である。カバー側係合部37は、一般部36の後面から突出する。カバー側係合部37は、電波透過カバー1における肉厚方向の一部が肉抜きされた、アンダーカット状をなす。詳しくは、カバー側係合部37は、窓部31よりも外周側に形成され、電波透過カバー1の周方向に延びる。カバー側係合部37は、一般部36の後面から突出する筒状の立壁370と、立壁370の突出端部に形成されている鉤部371とからなる。鉤部371の径方向長さW1は、立壁370の径方向長さW2よりも大きい。内側第2カバー層350は一般部36のみからなり、外側第2カバー層351は一般部36とカバー側係合部37とからなる。
【0031】
意匠層2は、カバー層3の後面にインジウムが蒸着されてなる。図2に示すように、意匠層2は、第2カバー層35の後面と、第1カバー層30の窓部31の内面とを、ともに覆っている。
【0032】
基材層4はAES樹脂からなる。AES樹脂の融点は、ポリカーボネート樹脂の融点よりも低い。基材層4は、意匠層2を挟んでカバー層3の後面全体を覆っている。基材層4は、カバー側係合部37と係合する基材側係合部40を持つ。基材側係合部40は、カバー側係合部37とほぼ相補的なアンダーカット状をなす。さらに、基材層4のなかで窓部31の後面側に位置する部分は、環形の窓充填部41が突起形成されている。窓充填部41は、意匠層2を挟んで、窓部31に入り込んでいる。
【0033】
実施例1の電波透過カバー1を製造する工程を、以下に説明する。
【0034】
(1.カバー層成形工程)
第1カバー層30の前面を成形するための第1成形型(図略)と、第1カバー層30の後面を成形するための第2成形型(図略)と、第2カバー層35の後面を成形するための第3成形型(図略)とを準備した。そして、第1成形型の型面と第2成形型の型面との間にキャビティを形成した。このキャビティに、溶融したポリカーボネート樹脂を注入して、第1カバー層30を成形した。第1カバー層30を成形した後に、第2成形型を第3成形型に入れ替えた。そして、第1成形型の型面および第1成形型の内部に残存する第1カバー層30の後面と、第3成形型の型面と、の間にキャビティを形成した。このキャビティに、溶融したポリカーボネート樹脂とカーボンブラックとの溶融混合材料を注入して、第1カバー層30の後面に第2カバー層35を成形した。このカバー層成形工程で、第1カバー層30と第2カバー層35とが多色成形(実施例1では2色成形)されてなるカバー層3が得られた。
【0035】
(2.意匠層形成工程)
カバー層成形工程で得られたカバー層3の前面と側面とをマスクして、カバー層3の後面にインジウムを蒸着し、意匠層2を形成した。この意匠層形成工程で、カバー層3と意匠層2とからなる電波透過カバー1の中間製品が得られた。
【0036】
(3.基材層成形工程)
基材層4の後面を成形するための第4成形型(図略)を準備した。また、意匠層形成工程で得られた中間製品を、上述した第1成形型に載置した。そして、第1成形型の型面および第1成形型に載置されている中間製品の後面と、第4成形型の型面と、の間にキャビティを形成した。このキャビティに溶融したAES樹脂を注入して、意匠層2の後面に基材層4を成形した。以上の工程で、カバー層3と、意匠層2と、基材層4と、を持つ電波透過カバー1が得られた。
【0037】
実施例1の電波透過カバー1では、カバー層3に形成されているカバー側係合部37と、基材層4に形成されている基材側係合部40とが機械的に係合する。したがって、実施例1の電波透過カバー1は、カバー層3と基材層4とが融点の異なる材料で形成されているにもかかわらず、カバー層3と基材層4とが強固に一体化する。
【0038】
また、実施例1の電波透過カバー1では、基材層4の材料としてカバー層3の材料よりも融点の低いものを使用できる。このため、基材層4を成形する際にカバー層3および意匠層2が変形することはない。よって、実施例1の電波透過カバー1は意匠性に優れる。
【0039】
さらに、第2カバー層35の主材料を第1カバー層30の材料と同じ透明樹脂材料にし、かつ第1カバー層30と第2カバー層35とを多色成形したことで、第1カバー層30と第2カバー層35とを部分的に相溶させて、強固に一体化できる。そして、第2カバー層35を有色(黒色)にするとともに、第2カバー層35にカバー側係合部37を設けたことで、カバー側係合部37およびその周辺部(すなわち、外側第2カバー層351の外周側部分、図2中下側部分)に、マスク層としての機能を付与できる。このため、実施例1の電波透過カバー1は、アンダーカット状のカバー側係合部37を持つにもかかわらず、カバー側係合部37に起因した意匠上の制約がなくなる。よって、実施例1の電波透過カバー1は、意匠設計の自由度に優れる。
【0040】
図1(a)に示すように、実施例1の電波透過カバー1を前面側から見ると、窓部31の内部xには、意匠層2に由来する金属色が表示される。また、窓部31よりも内周側の部分yと外周側の部分zとには、第2カバー層35に由来する黒色が表示される。すなわち、実施例1の電波透過カバー1において黒色に表示される部分は、同じ第2カバー層35に由来する。したがって、窓部31よりも内周側の部分y全体と、窓部31よりも外周側の部分z全体とには、それぞれ単一の黒色が表示される。このため、実施例1の電波透過カバー1における窓部31以外の部分は統一感に優れる。よって、実施例1の電波透過カバー1は、より一層意匠性に優れる。
【0041】
なお、実施例1の電波透過カバー1は、内側第2カバー層350と外側第2カバー層351とを同じ混合材料で形成したが、両者を異なる混合材料で形成しても良い。例えば、内側第2カバー層350を、カーボンブラック以外の着色材とポリカーボネート樹脂とを含む混合材料で形成しても良い。この場合には、内側第2カバー層350を外側第2カバー層351とは異なる色にできる。また、この場合にも、窓部31よりも内周側の部分y全体には内側第2カバー層350に由来する単一色が表示され、窓部31よりも外周側の部分z全体には外側第2カバー層351に由来する単一色が表示される。このため、窓部31よりも内周側の部分yと、窓部31よりも外周側の部分zとは、それぞれ統一感に優れる。
【0042】
なお、電波透過カバー1の外周部は、電波レーダ装置に出入りする電波の進路から外れている。このため、実施例1の電波透過カバー1は、外周部が内周部に比べて厚肉になっているが、電波の透過性に優れる。
【0043】
(実施例2)
実施例2の電波透過カバーは、上記(1)を備える。実施例2の電波透過カバーを模式的に表す要部拡大図を図3に示す。実施例2の電波透過カバーにおけるカバー層を成形している様子を模式的に表す説明図を図4〜5に示す。なお、図3は、実施例2の電波透過カバーを、図1(a)におけるA−Aと同位置で切断した様子を表す要部拡大断面図である。以下実施例2において、前、後とは、図3に示す前、後を指す。
【0044】
実施例2の電波透過カバーは、実施例1の電波透過カバー1と同様に、略楕円板状をなす。カバー層3は、ポリカーボネート樹脂からなる第1カバー層30と、ポリカーボネート樹脂とカーボンブラックとの混合材料からなる第2カバー層35と、が多色成形(2色成形)されてなる。
【0045】
第1カバー層30は、後面側に突起する2つの見切り部32を持つ。2つの見切り部32は、それぞれ、環形に突起する立壁状をなす。一方の見切り部32である第1見切り部320は、他方の見切り部32である第2見切り部321の内周側に形成されている。
【0046】
第2カバー層35は、第1カバー層30の後面のなかで、第1見切り部320よりも内周側の部分と、第2見切り部321よりも外周側の部分と、に形成されている。第2カバー層35のなかで第1見切り部320よりも内周側に形成されている内側第2カバー層350は、一般部36のみからなる。第2カバー層35のなかで第2見切り部321よりも外周側に形成されている外側第2カバー層351は、一般部36とカバー側係合部37とからなる。カバー側係合部37は、実施例1の電波透過カバーにおけるカバー側係合部37と同様に、電波透過カバーにおける肉厚方向の一部が肉抜きされたアンダーカット状をなす。
【0047】
図3に示すように、内側第2カバー層350の外周面350aと、第1見切り部320の内周面320bとは、当接している。外側第2カバー層351の内周面351bと、第2見切り部321の外周面321aとは、当接している。実施例2の電波透過カバーにおける第1カバー層30のなかで、第1見切り部320の内周面320bと第2見切り部321の外周面321aとの間の領域は、本発明の窓部31に相当する。
【0048】
第1見切り部320の先端部320cは、内側第2カバー層350の外周端部よりも後面側に突出している。第2見切り部321の先端部321cは、外側第2カバー層351の内周端部よりも後面側に突出している。
【0049】
意匠層2は、カバー層3の後面にインジウムが蒸着されてなる。意匠層2は、第2カバー層35の後面と、第1カバー層30の窓部31の内面とを、ともに覆っている。
【0050】
基材層4は、AES樹脂からなり、意匠層2を挟んでカバー層3の後面全体を覆っている。基材層4は、カバー側係合部37と係合する基材側係合部40を持つ。基材側係合部40は、カバー側係合部37とほぼ相補的なアンダーカット状をなす。さらに、基材層4のなかで窓部31の後面側に位置する部分には、環形状の窓充填部41が突起形成されている。窓充填部41は、意匠層2を挟んで、窓部31に入り込んでいる。
【0051】
実施例2の電波透過カバーにおけるカバー層3を製造する方法を、以下に説明する。
【0052】
図4〜5に示すように、第1カバー層30の前面を成形するための第1成形型51と、第1カバー層30の後面を成形するための第2成形型52と、第2カバー層35の後面を成形するための第3成形型53とを準備した。第2成形型52は、見切り部32の先端部(320c、321c)を境界として分割した2つの分割型(520、521)からなる。
【0053】
図4に示すように、第1成形型51と第2成形型52との間にキャビティを形成し、このキャビティに溶融したポリカーボネート樹脂を注入して、第1カバー層30を成形した。第1カバー層30を成形した後に、図5に示すように、第2成形型52を第3成形型53に入れ替えた。そして、第1成形型51の型面および第1成形型51の内部に残存する第1カバー層30の後面と、第3成形型53の型面と、の間にキャビティを形成した。
【0054】
上述したように、第1カバー層30は、第1見切り部320と第2見切り部321とを持つ。第1見切り部320の先端部320cは、内側第2カバー層350の外周端部よりも後面側に突出する。第2見切り部321の先端部321cは、外側第2カバー層351の内周端部よりも後面側に突出する。したがって、第1見切り部320の先端部320c(図略)と第2見切り部321の先端部321cとは、第3成形型53の型面に圧接し、第3成形型53の型面によって固定された(図5)。
【0055】
第1見切り部320の先端部320cと第2見切り部321の先端部321cとが第3成形型53の型面に圧接している状態で、上述したキャビティに溶融したポリカーボネート樹脂とカーボンブラックとの溶融混合材料を注入して、第1カバー層30の後面に第2カバー層35を成形した。
【0056】
実施例2の電波透過カバーでは、実施例1の電波透過カバーと同様に、カバー層3に形成されているカバー側係合部37と、基材層4に形成されている基材側係合部40とが機械的に係合する。このため実施例2の電波透過カバーでは、カバー層3と基材層4とが融点の異なる材料で形成されているにもかかわらず、カバー層3と基材層4とが強固に一体化する。
【0057】
また、基材層4の材料は、カバー層3の材料よりも融点の低い材料であるため、基材層4を成形する際にカバー層3および意匠層2が変形することはない。よって、実施例1の電波透過カバーは意匠性に優れる。
【0058】
さらに、黒色の第2カバー層35にカバー側係合部37を設けたことで、カバー側係合部37およびその周辺部に、マスク層としての機能を付与できる。このため、実施例2の電波透過カバーは、アンダーカット状のカバー側係合部37を持つにもかかわらず、カバー側係合部37に起因した意匠上の制約がなくなる。よって、実施例1の電波透過カバーは、意匠設計の自由度に優れる。なお、第2カバー層35の主材料を第1カバー層30の材料と同じ透明樹脂材料であり、第1カバー層30と第2カバー層35とは多色成形されてなるため、第1カバー層30と第2カバー層35とは強固に一体化する。
【0059】
実施例2の電波透過カバーにおいて、窓部31以外の部分には、実施例1の電波透過カバーと同様に、第2カバー層35に由来する単一の黒色が表示される。したがって、実施例2の電波透過カバーにおける窓部31以外の部分は統一感に優れる。よって、実施例2の電波透過カバーは、より一層意匠性に優れる。
【0060】
第1カバー層30の窓部31は、内側第2カバー層350との境界部分に第1見切り部320を持ち、外側第2カバー層351との境界部分に第2見切り部321を持つ。第1見切り部320および第2見切り部321は立壁状をなす。第1見切り部320の先端部320cは、内側第2カバー層350の外周端部よりも後面側に突出する。第2見切り部321の先端部321cは、外側第2カバー層351の内周端部よりも後面側に突出する。そして、第2カバー層35を成形する際に、第1見切り部320の先端部320cと第2見切り部321の先端部321cとは、第3成形型53の型面に圧接する。このため、第1見切り部320および第2見切り部321は、第3成形型53の型面によって固定される。見切り部32が固定されることによって、第1カバー層30が成形後に収縮しても、第1カバー層30の窓部31と第2カバー層35との境界線が位置ズレすることがない。よって、実施例2の電波透過カバーは、より一層意匠性に優れる。
【0061】
実施例2の電波透過カバーにおいて、第1見切り部320の先端部320cのなかで、内側第2カバー層350の外周端部よりも後面側に突出している部分(図略)は、第2カバー層35を成形する際に、第3成形型53の型面に押されて潰れ変形する。また、第2見切り部321の先端部321cのなかで、外側第2カバー層351の内周端部よりも後面側に突出している部分(図5中hに相当する部分)もまた、第3成形型53の型面に押されて潰れ変形する。しかし、第1カバー層30と第2カバー層35とからなる電波透過カバーの中間製品を成形型(51、53)から取り出すと、第1見切り部320の先端部320cおよび第2見切り部321の先端部321cは、自身の弾性によって、もとの形状に戻る。よって、電波透過カバーにおける第1見切り部320の先端部320cは、内側第2カバー層350の外周端部よりも僅かに後面側に突出する。また、第2見切り部321の先端部321cは、外側第2カバー層351の内周端部よりも僅かに後面側に突出する。なお、本発明の電波透過カバーにおける見切り部の先端部の突出高さは、第2カバー層のなかで見切り部に隣接している部分の突出高さと同じであっても良い。
【0062】
また、電波透過カバーの意匠性をより一層向上させるためには、見切り部32の先端部の肉厚は薄い方が好ましい。すなわち、見切り部32の先端は、尖った形状に形成するのが好ましい。見切り部32に起因して電波透過カバーの前面側に表示される意匠を、小さくするためである。
【0063】
実施例2の電波透過カバーにおいて、第2カバー層35の大部分は、見切り部32よりも前側に配置されている。換言すると、実施例2の電波透過カバーにおける第1カバー層30は、陥没形成されてなる収容溝を持ち、第2カバー層35の肉厚方向の一部は、収容溝に収容されている。このため、実施例2の電波透過カバーは、実施例1の電波透過カバーに比べて薄肉にできる。よって、実施例2の電波透過カバーは、軽量であり、安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1の電波透過カバーを説明する説明図である。
【図2】図1(b)の要部拡大図である。
【図3】実施例2の電波透過カバーを模式的に表す要部拡大図である。
【図4】実施例2の電波透過カバーにおけるカバー層を製造する様子を模式的に表す説明図である。
【図5】実施例2の電波透過カバーにおけるカバー層を製造する様子を模式的に表す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1:電波透過カバー 2:意匠層 3:カバー層
4:基材層 30:第1カバー層 31:窓部
35:第2カバー層 36:一般部 37:カバー側係合部
40:基材側係合部 320、321:見切り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用電波レーダ装置の前側に配設され、前面が車両の前端側に露出する電波透過カバーであって、
意匠層と、該意匠層の前面を覆うカバー層と、該意匠層の後面を覆う基材層と、を持ち、
該カバー層は、透明樹脂材料からなる第1カバー層と、該透明樹脂材料と着色材とを含む混合材料からなり該第1カバー層の後面の一部を覆う第2カバー層と、が多色成形されてなり、
該第2カバー層は、該第1カバー層の後面に隣接する一般部と、該一般部の後面から突出しアンダーカット状をなすカバー側係合部と、を持ち、
該基材層は、該透明樹脂とは融点の異なる樹脂材料からなり、該カバー側係合部と係合する基材側係合部を持つことを特徴とする電波透過カバー。
【請求項2】
前記第2カバー層は、前記第1カバー層上に成形され、
前記第1カバー層のなかで後面が前記第2カバー層で覆われていない窓部は、前記第2カバー層との境界部分に立壁状の見切り部を持ち、
該見切り部の先端部は、前記第2カバー層のなかで該見切り部に隣接している部分よりも後面側に突出している請求項1に記載の電波透過カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−230497(P2008−230497A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75213(P2007−75213)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】