説明

電流生成回路およびそれを用いた基準電圧回路

【課題】温度依存性を有する電流を生成可能な電流生成回路を提供する。
【解決手段】第1電流源42は、正の温度特性を有する第1電流I1を生成する。第2電流源44は、第2電流I2を生成する。第1カレントミラー回路46は、第2電流I2の経路上に設けられた、NPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタQ5のベース電流Ibを第1係数(K1)倍して第3電流I3を生成する。第2カレントミラー回路48は、第1電流I1と第3電流I3の差に比例した第4電流I4’を生成する。電流生成回路40は、ベース電流Ibと比例した第5電流I5と第4電流I4’の合計電流を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流生成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路において、電源電圧変動や温度変動によらない一定の電圧を生成する目的で、バンドギャップ基準電圧回路(バンドギャップリファレンス(BGR)回路ともいう)が利用される。特許文献1には、BGR回路の一例が開示される。
【0003】
特許文献1に記載のBGR回路は、電源電圧および温度に対して安定した基準電圧Vrefを生成することができるが、温度係数δVref/δTが完全にゼロではなく、用途によっては不十分な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−088767号公報
【非特許文献1】PAUL R. GRAY, PAUL J. HURST, STEPHEN H. LEWIS, ROBERT G. MEYER、ANALYSIS AND DESING OF ANALOG INTEGRATED CIRCUIT 4th Edition、JOHN WILEY & SONS, INC. pp.229-336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、かかるバンドギャップリファレンス回路の温度依存性について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0006】
バンドギャップリファレンス回路の出力電圧の温度依存性は上に凸(お椀型)となり、その電圧レベルは、常温25〜30℃をピークとして、それより高温および低温で低下する。
【0007】
ここで常温でフラットとなり、高温および/または低温で増加する電流を生成することができれば、この電流を用いて、バンドギャップリファレンス回路の温度特性を改善することができる。
【0008】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、温度依存性を有する電流を生成可能な電流生成回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、電流生成回路に関する。この電流生成回路は、正の温度特性を有する第1電流を生成する第1電流源と、第2電流を生成する第2電流源と、第2電流の経路上に設けられた、NPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、補償用トランジスタのベース電流を第1係数倍して第3電流を生成する第1カレントミラー回路と、を備え、第1電流と第3電流の差に比例した第4電流を出力する。
【0010】
この態様によると、ある温度以下では一定レベルを有し、ある温度より高くなると、温度に応じて大きくなる電流を生成することができる。
【0011】
第1カレントミラー回路は、補償用トランジスタのベース電流を第2係数倍して第5電流を生成するよう構成されてもよい。電流生成回路は、第4電流に代えて、第4電流と第5電流の和に比例した第6電流を出力してもよい。
この態様によると、ある温度で最小値をとり、そこから温度が離れるにしたがい増大する電流を生成することができる。
【0012】
第1電流源は、第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第1コレクタ抵抗およびそのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第1トランジスタと、そのベースが第1トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第2トランジスタと、第2トランジスタのエミッタと第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第1エミッタ抵抗と、を含んでもよい。第1電流源は、第2トランジスタに流れる電流を、第1電流として出力してもよい。
ポリ抵抗は正の温度特性を有する。したがってこの第1電流源によれば、正の温度特性を有する第1電流を生成することができる。
【0013】
第2電流源は、第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、そのベースが第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、第4トランジスタのエミッタと第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、を含んでもよい。第2電流源は、第4トランジスタに流れる電流を、第2電流として出力してもよい。
この第2電流源によれば、ポリ抵抗である第2エミッタ抵抗の温度特性を、ダイオードによってキャンセルできるため、温度特性のフラットな第2電流を生成できる。
【0014】
第1カレントミラー回路は、PチャンネルMOSFETを用いて構成されてもよい。第1カレントミラー回路は、カスコード型カレントミラー回路であってもよい。
【0015】
本発明の別の態様もまた、電流生成回路である。この電流生成回路は、第2電流を生成する第2電流源と、第2電流の経路上に設けられた、NPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、補償用トランジスタのベース電流を第1係数倍して第3電流を生成する第1カレントミラー回路と、を備え、第3電流に応じた電流を出力する。
【0016】
この態様によると、温度が低くなるにしたがい増大する電流を生成することができる。
【0017】
第2電流源は、第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、そのベースが第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、第4トランジスタのエミッタと第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、を含んでもよい。第2電流源は、第4トランジスタに流れる電流を、第2電流として出力してもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様もまた、電流生成回路である。この電流生成回路は、第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第1コレクタ抵抗およびそのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第1トランジスタと、そのベースが第1トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第2トランジスタと、第2トランジスタのエミッタと第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第1エミッタ抵抗と、第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、そのベースが第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、第4トランジスタのエミッタと第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、第4トランジスタのコレクタと第1固定電圧端子の間に設けられたNPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、その入力端子が補償用トランジスタのベースに接続され、その第1出力端子が第2トランジスタのコレクタと接続された第1カレントミラー回路と、その入力端子が第2トランジスタのコレクタと接続された第2カレントミラー回路と、を備え、第2カレントミラー回路の出力電流を出力する。
【0019】
この態様によると、ある温度以下では一定レベルを有し、ある温度より高くなると、温度に応じて大きくなる電流を生成することができる。
【0020】
第1カレントミラー回路は、第2出力端子から補償用トランジスタのベース電流を第2係数倍した電流を出力するよう構成されてもよい。第1カレントミラー回路の第2出力端子は第2カレントミラー回路の出力端子と接続されてもよい。電流生成回路は、第1カレントミラー回路の第2出力端子から出力される電流と第2カレントミラー回路の出力端子から出力される電流の合計電流を出力してもよい。
この態様によると、ある温度で最小値をとり、そこから温度が離れるにしたがい増大する電流を生成することができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様もまた、電流生成回路である。この電流生成回路は、第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、そのベースが第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、第4トランジスタのエミッタと第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、第4トランジスタのコレクタと第1固定電圧端子の間に設けられたNPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、その入力端子が補償用トランジスタのベースに接続された第1カレントミラー回路と、を備え、第1カレントミラー回路の出力電流を出力する。
【0022】
この態様によると、温度が低くなるにしたがい増大する電流を生成することができる。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、基準電圧回路である。この基準電圧回路は、バンドギャップリファレンス回路と、バンドギャップリファレンス回路のひとつのノードに接続される上述のいずれかの態様の電流生成回路と、を備える。
【0024】
この態様によると、バンドギャップリファレンス回路の出力電圧の温度特性を改善することができる。
【0025】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0026】
本発明のある態様によれば、温度依存性を有する電流を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態に係る基準電圧回路の構成を示す回路図である。
【図2】実施の形態に係る電流生成回路の構成を示す回路図である。
【図3】図2の電流生成回路の各電流の温度依存性を示す図である。
【図4】図1の基準電圧回路の出力電圧Vrefの温度依存性を示す図である。
【図5】第1の変形例に係る電流生成回路の構成を示す回路図である。
【図6】第2の変形例に係る電流生成回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0030】
図1は、実施の形態に係る基準電圧回路100の構成を示す回路図である。基準電圧回路100は、バンドギャップリファレンス回路10、電流源30、電流生成回路40を備える。
【0031】
電流源30とバンドギャップリファレンス回路10は、電源電圧Vccが印加される第1固定電圧端子(電源端子)と、接地電圧Vgndが印加される第2固定電圧端子(接地端子)の間に順に直列にスタックされる。バンドギャップリファレンス回路10はその両端間に基準電圧Vrefを発生させる。
【0032】
バンドギャップリファレンス回路10の具体的な構成を説明する。
バンドギャップリファレンス回路10は、第1端子P1、第2端子P2、ワイドラー型カレントミラー回路12、負荷回路14、出力回路16を備える。バンドギャップリファレンス回路10は、第1端子P1と第2端子P2の間に、基準電圧Vrefを発生する。
【0033】
ワイドラー型カレントミラー回路12は、第2端子P2側に設けられる。ワイドラー型カレントミラー回路12は、NPN型バイポーラトランジスタの第1トランジスタQ11、第2トランジスタQ12およびエミッタ抵抗Re11を含む。第1トランジスタQ11と第2トランジスタQ12のサイズ比は、1:Nである。
【0034】
負荷回路14は、ワイドラー型カレントミラー回路12と第2端子P2の間に設けられる。具体的に負荷回路14は、第1トランジスタQ11の経路上に設けられた第1負荷抵抗RL1と、第2トランジスタQ12の経路上に設けられた第2負荷抵抗RL2と、を含む。なお負荷回路14として能動負荷(カレントミラー回路)を用いてもよい。
【0035】
出力回路16は、負荷回路14と第2トランジスタQ12の接続点N1の電位VN1に応じた基準電圧Vrefを、第1端子P1と第2端子P2の間に発生させる。
【0036】
出力回路16は、第3トランジスタQ13〜第7トランジスタQ17を含む。第3トランジスタQ13(第1増幅用トランジスタ)のベースには、接続点N1の電圧VN1が入力される。トランジスタQ15〜Q17は、トランジスタQ11、Q12に流れる電流に比例した電流を、第3トランジスタQ13へと供給するバイアス回路として動作する。第4トランジスタ(第1出力トランジスタ)Q14は、そのゲートに第3トランジスタQ13のコレクタ電圧を受けるソースフォロア回路である。第4トランジスタQ14は、PNP型のバイポーラトランジスタであってもよい。
【0037】
トランジスタQ14〜Q17は、第3トランジスタQ13の状態に応じた電圧(電流)を出力するバッファ回路とみなすことができる。なお出力回路16の構成は図1のそれには限定されない。
【0038】
バンドギャップリファレンス回路10に着目すると、第1トランジスタQ11に流れる電流IQ11は、以下の式(1)で与えられる。
Q11=VTN・ln(N)/Re11 …(1)
ここでVTNはNPN型バイポーラトランジスタQ11の熱電圧を示す。したがってバンドギャップリファレンス回路10が発生する基準電圧Vrefは、以下の式(2)で与えられる。
Vref=V+IQ11×RL1
=V+VTN・ln(N)/Re11×RL1 …(2)
ここでVはバイポーラトランジスタQ11のベースエミッタ間の順方向電圧である。
【0039】
式(2)で与えられる基準電圧Vrefは、上に凸の温度依存性を有する。この温度依存性は、用途によっては不十分であり、より改善されたフラットな温度特性が必要となる状況もある。
【0040】
電流生成回路40は、バンドギャップリファレンス回路10の温度依存性を改善するために、温度依存性を有する補償電流ICOMPを生成し、バンドギャップリファレンス回路10のノードN2に供給する。
【0041】
以下、このような用途に好適に利用可能な電流生成回路40の構成を説明する。図2は、実施の形態に係る電流生成回路40の構成を示す回路図である。
【0042】
電流生成回路40は、第1電流源42、第2電流源44、第1カレントミラー回路46、第2カレントミラー回路48および補償用トランジスタQ5を備える。
【0043】
第1電流源42は、正の温度特性を有する第1電流I1を生成する。第1電流源42は、第1コレクタ抵抗Rc1、第1トランジスタQ1、第2トランジスタQ2、第1エミッタ抵抗Re1を含む。
【0044】
第1コレクタ抵抗Rc1および第1トランジスタQ1は、電源電圧Vddが印加された第1固定電圧端子(電源端子)と、接地電圧Vgndが印加された第2固定電圧端子(接地端子)の間に順に直列に設けられる。第1トランジスタQ1はNPN型バイポーラトランジスタであり、そのベースとコレクタが接続されている。
【0045】
第2トランジスタQ2は第1トランジスタQ1と同一導電型のNPN型バイポーラトランジスタであり、そのベースは、第1トランジスタQ1のベースと接続される。第1エミッタ抵抗Re1は正の温度特性を有するポリ抵抗であり、第2トランジスタQ2のエミッタと接地端子の間に設けられる。第1トランジスタQ1、第2トランジスタQ2および第1エミッタ抵抗Re1は、いわゆるワイドラー型のカレントミラー回路を形成する。
【0046】
第1電流源42は、第2トランジスタQ2に流れるコレクタ電流を、第1電流I1として出力する。第1エミッタ抵抗Re1をポリ抵抗で形成することにより、第1電流I1には、第1エミッタ抵抗Re1の温度特性が反映され、正の温度特性を有する第1電流I1を生成することができる。
【0047】
第2電流源44は、第2電流I2を生成する。第2電流I2の温度特性はフラットであることが望ましい。第2電流源44は、第2コレクタ抵抗Rc2、第3トランジスタQ3、第4トランジスタQ4、第2エミッタ抵抗Re2およびダイオードD1を含む。
【0048】
第2コレクタ抵抗Rc2、第3トランジスタQ3およびダイオードD1は、電源端子と接地端子の間に順に直列に設けられる。第3トランジスタQ3はNPN型バイポーラトランジスタであり、そのベースとコレクタが接続されている。ダイオードD1は、ベースコレクタ間が接続されたNPN型のバイポーラトランジスタである。ダイオードD1として、PN接合のダイオードを用いてもよい。
【0049】
第4トランジスタQ4は、第3トランジスタQ3と同一導電型のNPN型バイポーラトランジスタであり、そのベースは第3トランジスタQ3のベースと接続される。第2エミッタ抵抗Re2はポリ抵抗であり、第4トランジスタQ4のエミッタと接地端子の間に設けられる。
【0050】
第2電流源44は、第4トランジスタQ4に流れるコレクタ電流を、第2電流I2として出力する。第2エミッタ抵抗Re2の抵抗値は、正の温度特性を有し、ダイオードD1の順方向電圧も正の温度特性を有するため、それらが相殺することにより、温度特性がフラットな第2電流I2を生成することができる。
【0051】
補償用トランジスタQ5は、NPN型バイポーラトランジスタであり、第2電流I2の経路上に設けられる。補償用トランジスタQ5を電流増幅率βとするとき、そのベース電流Ibは、
Ib=I2/β
で与えられる。第2電流I2の温度特性がフラットと仮定すると、NPN型バイポーラトランジスタの電流増幅率βは、正の温度特性を有することから、ベース電流Ibは、負の温度特性を有する。
【0052】
第1カレントミラー回路46は、入力端子50、第1出力端子52、第2出力端子54を備える。第1カレントミラー回路46の入力端子50は、補償用トランジスタQ5のベースと接続される。第1カレントミラー回路46は、補償用トランジスタQ5のベース電流Ibを第1係数K1倍して第3電流I3(=Ib×K1)を生成し、第1出力端子52から出力する。図2においてK1=1である。つまり第3電流I3も、ベース電流Ibと同様に負の温度特性を有する。
【0053】
第1カレントミラー回路46の第1出力端子52は、第1電流源42の出力端子、すなわち第2トランジスタQ2のコレクタと接続される。
【0054】
第1カレントミラー回路46は、補償用トランジスタQ5のベース電流Ibを第2係数(K2)倍して第5電流I5(=Ib×K2)を生成し、その第2出力端子54から出力する。第1カレントミラー回路46の第2出力端子54は、電流生成回路40の出力端子OUTと接続される。
【0055】
第1カレントミラー回路46は、ダイオードD2、PチャンネルMOSFETであるトランジスタM1〜M6を含むカスコード型カレントミラー回路である。この第1カレントミラー回路46によれば、幅広い電流レンジにおいて、安定したミラー比K1、K2を得ることができる。
【0056】
なお、第1カレントミラー回路46として、ゲートとソースが共通に接続された2つのトランジスタからなる簡単なカレントミラー回路を用いてもよい。
【0057】
第2カレントミラー回路48の入力端子60は、第1電流源42の出力端子、すなわち第2トランジスタQ2のコレクタと接続される。ノードN3において電流の保存則が成り立つ。
I1=I3+I4
I4は、第2カレントミラー回路48の入力端子60に流れる入力電流である。つまり第2カレントミラー回路48の入力電流I4は、
I4=I1−I3
で与えられ、第1電流I1と第3電流I3の差電流となる。
【0058】
第2カレントミラー回路48は、その入力電流I4を定数倍した電流I4’=I4×K3を生成し、その出力端子62から出力する。第2カレントミラー回路48の出力端子62は、電流生成回路40の出力端子OUTと接続される。K3は第2カレントミラー回路48のミラー比である。図2においてK3=1であり、I4’=I4が成り立つ。
【0059】
第2カレントミラー回路48は、第1カレントミラー回路46と同様にカスコード型カレントミラー回路であり、PチャンネルMOSFETであるトランジスタM7〜M10およびダイオードD3を含む。
【0060】
電流生成回路40の出力端子OUTから出力される電流ICOMPは、第4電流I4’と第5電流I5の合計電流I4’+I5となる。
【0061】
以上が電流生成回路40の構成である。続いてその動作を説明する。図3は、図2の電流生成回路40の各電流の温度依存性を示す図である。
【0062】
第1電流I1は、正の温度特性を有する。第3電流I3および補償用トランジスタQ5のベース電流Ibは、負の温度特性を有する。第4電流I4は、第1電流I1と第3電流I3の差電流であるが、第4電流I4は反対向きには流れないから、I3>I1なる温度領域(I)で第4電流I4はゼロとなる。I3<I1となる温度領域(II)では、第4電流I4は、正の温度依存性を有する。
【0063】
補償電流ICOMPは、
COMP=Ib×K2+I4
で与えられる。
【0064】
このように、実施の形態に係る電流生成回路40によれば、ある中心温度Tcで最小値をとり、そこから温度が低くなるにしたがい、またそこから温度が高くなるにしたがい、増大する補償電流ICOMPを生成することができる。
【0065】
このような温度依存性を有する補償電流ICOMPを、図1のバンドギャップリファレンス回路10のノードN2に供給すると、バンドギャップリファレンス回路10によって生成される基準電圧Vrefの温度依存性を改善することができる。図4は、図1の基準電圧回路100の出力電圧Vrefの温度依存性を示す図である。実線は、図2の電流生成回路40が生成する補償電流ICOMPを注入した場合の温度依存性を示し、破線は補償電流ICOMPを注入しないときの温度依存性を示す。縦軸は、常温25℃を基準とした相対的な誤差を%で示す。
【0066】
一般的な電子機器の動作保証温度範囲(使用範囲)は、一例として−50〜150℃である。破線で示すように、補償電流ICOMPを注入しない場合、上に凸の温度依存性を有する。これに対して、電流生成回路40によって凹型(下に凸)の補償電流ICOMPを生成し、それをバンドギャップリファレンス回路10に注入することにより、使用範囲における温度依存性を大きく改善することができる。
【0067】
なお図3の中心温度Tcは、誤差が小さくなるように設計すればよい。中心温度Tcの調整は、図2のカレントミラー回路の係数K1〜K3によって最適化できる。
【0068】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセス、それらの組み合わせには、さまざまな変形例が存在しうる。以下、こうした変形例について説明する。
【0069】
(第1の変形例)
図2の電流生成回路40が生成する補償電流ICOMPは、電流生成回路40の低温と高温の両方の温度依存性を改善することができた。これに対して、基準電圧回路100の用途によっては、低温のみの温度依存性を改善すればよい場合もある。第1の変形例は、このような用途に利用可能な電流生成回路40aに関する。図5は、第1の変形例に係る電流生成回路40aの構成を示す回路図である。
【0070】
図5の電流生成回路40aは、第2電流源44、補償用トランジスタQ5、第1カレントミラー回路46を備える。それぞれの構成についてはすでに説明したため省略する。電流生成回路40aは、補償用トランジスタQ5のベース電流Ibに応じた第3電流I3を補償電流ICOMPとして出力する。
【0071】
この電流生成回路40aによれば、図3の負の温度特性を有する補償電流ICOMPを生成することができる。
【0072】
図4の一点鎖線は、図5の電流生成回路40aが生成する補償電流ICOMPを注入した場合の温度依存性を示す。負の温度特性を有する補償電流ICOMPを、図1のバンドギャップリファレンス回路10のノードN2に供給すると、バンドギャップリファレンス回路10によって生成される基準電圧Vrefの低い温度領域における温度依存性を改善することができる。
【0073】
(第2の変形例)
基準電圧回路100の用途によっては、高温のみの温度依存性を改善すればよい場合もある。たとえばLEDドライバは、基準電圧VrefにもとづいてLEDの駆動電流を生成するが、発熱によってICの温度が高くなりがちである。したがって特に高温領域で基準電圧Vrefの温度依存性の改善が望まれる。第2の変形例は、このような用途に利用可能な電流生成回路40bに関する。図6は、第2の変形例に係る電流生成回路40bの構成を示す回路図である。
【0074】
図6の電流生成回路40bは、第1電流源42、第2電流源44、第1カレントミラー回路46、第2カレントミラー回路48を備える。この電流生成回路40bは第2カレントミラー回路48の出力電流I4’、言い換えれば第1電流I1と第3電流I3の差に比例した電流を、補償電流ICOMPとして出力する。
【0075】
この電流生成回路40bによれば、図3に示す第4電流I4と同様に、ある温度より低い領域(I)でフラットであり、それより高い温度領域(II)で正の温度特性を有する補償電流ICOMPを生成することができる。
【0076】
このような補償電流ICOMPを図1の基準電圧回路100に注入すると、温度が高い温度領域の温度依存性を改善することができる。
【0077】
上述したいくつかの電流生成回路40により生成した補償電流ICOMPを注入すべきノードは、図1のノードN2に限定されない。たとえば電流生成回路40を、補償電流ICOMPを吸い込む形式(シンク型)で構成し、その出力端子OUTを、第5トランジスタQ15のコレクタであるノードN2’と接続しても、同様の補償効果を得ることができる。
【0078】
またバンドギャップリファレンス回路10の構成は図1のそれには限定されず、別の構成であってもよい。当業者であれば、バンドギャップリファレンス回路10の回路形式に応じて、電流生成回路40が生成した補償電流ICOMPをいずれのノードと接続すべきかを適切に設計することができる。
【0079】
さらに言えば、電流生成回路40の用途は、バンドギャップリファレンス回路10の温度特性の改善に限定されず、上述したような温度依存性を有する電流ICOMPは、さまざまな用途に利用することができる。
【0080】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0081】
100…基準電圧回路、10…バンドギャップリファレンス回路、P1…第1端子、P2…第2端子、12…ワイドラー型カレントミラー回路、14…負荷回路、16…出力回路、30…電流源、40…電流生成回路、Q1…第1トランジスタ、Q2…第2トランジスタ、Q3…第3トランジスタ、Q4…第4トランジスタ、Q5…補償用トランジスタ、Rc1…第1コレクタ抵抗、Rc2…第2コレクタ抵抗、Re1…第1エミッタ抵抗、Re2…第2エミッタ抵抗、D1…ダイオード、42…第1電流源、44…第2電流源、46…第1カレントミラー回路、48…第2カレントミラー回路、Vref…基準電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の温度特性を有する第1電流を生成する第1電流源と、
第2電流を生成する第2電流源と、
前記第2電流の経路上に設けられた、NPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、
前記補償用トランジスタのベース電流を第1係数倍して第3電流を生成する第1カレントミラー回路と、
を備え、前記第1電流と前記第3電流の差に比例した第4電流を出力することを特徴とする電流生成回路。
【請求項2】
前記第1カレントミラー回路は、前記補償用トランジスタのベース電流を第2係数倍して第5電流を生成するよう構成され、
前記第4電流に代えて、前記第4電流と前記第5電流の和に比例した第6電流を出力することを特徴とする請求項1に記載の電流生成回路。
【請求項3】
前記第1電流源は、
第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第1コレクタ抵抗およびそのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第1トランジスタと、
そのベースが前記第1トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第2トランジスタと、
前記第2トランジスタのエミッタと前記第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第1エミッタ抵抗と、
を含み、
前記第2トランジスタに流れる電流を、前記第1電流として出力することを特徴とする請求項1に記載の電流生成回路。
【請求項4】
前記第2電流源は、
第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、
そのベースが前記第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、
前記第4トランジスタのエミッタと前記第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、
を含み、
前記第4トランジスタに流れる電流を、前記第2電流として出力することを特徴とする請求項1または2に記載の電流生成回路。
【請求項5】
前記第1カレントミラー回路は、PチャンネルMOSFETを用いて構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電流生成回路。
【請求項6】
前記第1カレントミラー回路は、カスコード型カレントミラー回路であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電流生成回路。
【請求項7】
第2電流を生成する第2電流源と、
前記第2電流の経路上に設けられた、NPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、
前記補償用トランジスタのベース電流を第1係数倍して第3電流を生成する第1カレントミラー回路と、
を備え、前記第3電流に応じた電流を出力することを特徴とする電流生成回路。
【請求項8】
前記第2電流源は、
第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、
そのベースが前記第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、
前記第4トランジスタのエミッタと前記第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、
を含み、
前記第4トランジスタに流れる電流を、前記第2電流として出力することを特徴とする請求項7に記載の電流生成回路。
【請求項9】
第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第1コレクタ抵抗およびそのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第1トランジスタと、
そのベースが前記第1トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第2トランジスタと、
前記第2トランジスタのエミッタと前記第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第1エミッタ抵抗と、
前記第1固定電圧端子と前記第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、
そのベースが前記第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、
前記第4トランジスタのエミッタと前記第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、
前記第4トランジスタのコレクタと前記第1固定電圧端子の間に設けられたNPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、
その入力端子が前記補償用トランジスタのベースに接続され、その第1出力端子が前記第2トランジスタのコレクタと接続された第1カレントミラー回路と、
その入力端子が前記第2トランジスタのコレクタと接続された第2カレントミラー回路と、
を備え、前記第2カレントミラー回路の出力電流を出力することを特徴とする電流生成回路。
【請求項10】
前記第1カレントミラー回路は、第2出力端子から前記補償用トランジスタのベース電流を第2係数倍した電流を出力するよう構成され、
前記第1カレントミラー回路の第2出力端子は前記第2カレントミラー回路の出力端子と接続され、
前記第1カレントミラー回路の第2出力端子から出力される電流と前記第2カレントミラー回路の出力端子から出力される電流の合計電流を出力することを特徴とする請求項9に記載の電流生成回路。
【請求項11】
第1固定電圧端子と第2固定電圧端子の間に順の直列に設けられた、第2コレクタ抵抗、そのベースエミッタ間が接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタ、およびダイオードと、
そのベースが前記第3トランジスタのベースと接続されたNPN型バイポーラトランジスタである第4トランジスタと、
前記第4トランジスタのエミッタと前記第2固定電圧端子の間に設けられたポリ抵抗である第2エミッタ抵抗と、
前記第4トランジスタのコレクタと前記第1固定電圧端子の間に設けられたNPN型バイポーラトランジスタである補償用トランジスタと、
その入力端子が前記補償用トランジスタのベースに接続された第1カレントミラー回路と、
を備え、前記第1カレントミラー回路の出力電流を出力することを特徴とする電流生成回路。
【請求項12】
バンドギャップリファレンス回路と、
前記バンドギャップリファレンス回路のひとつのノードに接続される請求項1から11のいずれかに記載の電流生成回路と、
を備えることを特徴とする基準電圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232931(P2011−232931A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102114(P2010−102114)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】