説明

電源システムおよび組電池の充電方法

【課題】複数個の鉛蓄電池からなる組電池の構成を最適化することで、電動車の駆動源として必須となる急速充電に適合した長寿命な電源システムを提供する。
【解決手段】複数個の鉛蓄電池からなる組電池と、電流値を逐次小さくしながら略同一の終止電圧まで充電するn段定電流充電(n≧2)によってこの組電池を充電する制御部と、からなる電源システムであって、組電池は、a個(a≧1)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる少なくとも1つの第1の電池群と、b個(b>a)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第2の電池群とで構成され、制御部は、n段定電流充電における終止電圧を第2の電池群の温度に相応して設定し、かつn段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池からなる組電池とその充電方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数個の鉛蓄電池からなる組電池は、UPSなどのバックアップ電源や太陽光発電システムにおける蓄電源などに広く用いられている。中でもこの組電池を電動車の駆動源として用いた場合、上述した用途に比べて深い放電が繰り返されるため、短寿命になりやすい。その理由を以下に示す。
【0003】
鉛蓄電池の充電効率は環境温度に比例する。したがって高温に晒される(周辺を他の鉛蓄電池で囲まれる)鉛蓄電池が満充電されるように組電池の終止電圧を低く設定すれば、低温に晒される(外気に接しやすい)鉛蓄電池は充電不足となってサルフェーションが起こりやすくなり、低温に晒される鉛蓄電池が満充電されるように組電池の終止電圧を高く設定すれば、高温に晒される鉛蓄電池は過充電されて格子の腐食などが起こりやすくなる。この傾向は、SOCが低い(放電が深い)状態から満充電するほど顕著になる。サルフェーションや格子の腐食自体も個々の鉛蓄電池の寿命特性を低下させる要因だが、このように劣化した鉛蓄電池とそうでないものとの特性差があるにもかかわらず一定の電圧で組電池を制御しなければならないので、組電池の内部で鉛蓄電池の特性差はますます拡大して組電池そのものを加速度的に劣化させてしまう。組電池を単電池ごとに個別に定電圧充電すればこのような状態は緩和するのだが、充電を完了させるのに膨大な時間を要するだけでなく、高コストになることは必至である。
【0004】
上述した課題を抱えつつも、この組電池を電動車の駆動源として用いる場合、使用者が電動車を運転しない限られた時間(例えば喫食などの休憩時間、勤務中または帰宅中など)に迅速に充電を済ませる必要がある。そこで特許文献1のように、電流値を逐次小さくしながら充電するn段定電流充電(n≧2)を用いれば、個々の鉛蓄電池の抵抗成分の影響を受けやすい通常の定電流充電(n=1)よりも充電電気量を揃えることができる上に、定電圧充電よりも遥かに短時間で充電を済ませることができるようになる。複数の鉛蓄電池を並列に接続して組電池を構成し、各並列を個別に充電すれば、個々の鉛蓄電池の特性を揃える(特許文献1ではサルフェーションを緩和する)ことができ、組電池を長寿命化できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/079563号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1をベースにした電源システムは、複数の充電器を要するため高価にならざるを得ない。加えて特許文献1は個々の鉛蓄電池が晒される環境温度の差を容認する形で充放電を繰り返す構成なので、鉛蓄電池ごとに劣化モードが異なることになる。そうすると寿命を迎えた組電池から劣化した鉛蓄電池を特定するために全ての鉛蓄電池を検査することになり、鉛蓄電池の交換作業が煩雑になる。なお冷却などで個々の鉛蓄電池の温度差を低減すれば鉛蓄電池は一様に特性が低下するので組電池全てを交換することになり、上述した「劣化した鉛蓄電池の特定と交換」という作業は不要になるが、特性差がなくなるレベルまで温度差を低減するために電源システムの体積効率を犠牲にしつつ冷却装置を備えさせることになる。結局は現実的な構成として、特許文献1に示す構成や冷却装置を備えた構成を用いずに従来条件の組電池を用いるしかなく、n段定電流充電(n≧2)を導入しても長寿命化は望めなかった。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決するものであって、複数個の鉛蓄電池からなる組電池の構成を最適化することで、電動車の駆動源として必須となる急速充電に適合した長寿命な電源システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明は、複数個の鉛蓄電池からなる組電池と、電流値を逐次小さくしながら略同一の終止電圧まで充電するn段定電流充電(n≧2)によってこの組電池を充電する制御部と、からなる電源システムであって、組電池は、a個(a≧1)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる少なくとも1つの第1の電池群と、b個(b>a)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第2の電池群とで構成され、制御部は、n段定電流充電における終止電圧を第2の電池群の温度に相応して設定し、かつn段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行うことを特徴とする。
【0009】
また請求項2に係る発明は、請求項1において、制御部は第2の電池群の温度が高いほどn段定電流充電における終止電圧を低くするように設定することを特徴とする。
【0010】
また請求項3に係る発明は、請求項1において、押込み充電の電流値をn段定電流充電の最終段と略同一としたことを特徴とする。
【0011】
また請求項4に係る発明は、請求項1において、鉛蓄電池の公称容量に対して2%以上10%以下の電気量を押込み充電するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また請求項5に係る発明は、請求項1において、鉛蓄電池を制御弁式鉛蓄電池としたことを特徴とする。
【0013】
また請求項6に係る発明は、複数個の鉛蓄電池からなる組電池を、a個(a>1)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる少なくとも1つの第1の電池群と、b個(b>a)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第2の電池群とに分けて、電流値を逐次小さくしながら略同一の終止電圧まで充電するn段定電流充電(n≧2)によって充電する組電池の充電方法であって、n段定電流充電における終止電圧を第2の電池群の温度に相応して設定し、かつn段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行うことを特徴とする。
【0014】
また請求項7に係る発明は、請求項6において、第2の電池群の温度が高いほど前記定電流充電における終止電圧を低くするように設定することを特徴とする。
【0015】
また請求項8に係る発明は、請求項6において、押込み充電の電流値をn段定電流充電の最終段と略同一としたことを特徴とする。
【0016】
また請求項9に係る発明は、請求項6において、鉛蓄電池の公称容量に対して2%以上10%以下の電気量を押込み充電するようにしたことを特徴とする。
【0017】
また請求項10に係る発明は、請求項6において、鉛蓄電池を制御弁式鉛蓄電池としたことを特徴とする。
【0018】
発明者らが鋭意検討した結果、急速充電であるn段定電流充電(n≧2)を行う電動車に用いる電源システムにおいて、複数個の鉛蓄電池を複数の電池群に分けて電動車の内部に収納し、かつこのうち鉛蓄電池の個数が最も多い電池群の温度に相応してn段定電流充電における終止電圧を設定すれば、個々の鉛蓄電池を適正な環境温度(例えば25℃)まで調整するという理想的な構成における寿命特性に近づけられることを知見し、本発明に至った。
【0019】
鉛蓄電池の満充電に相応する電圧よりもn段定電流充電における終止電圧が高い場合、鉛蓄電池は過充電される。過充電によって正極板に用いられる鉛合金製の格子は腐食し、充放電に関与できない箇所(腐食した格子によって電気的導電性が損失する箇所)が増えることで、鉛蓄電池の容量は低下する。そして格子の腐食反応によって損失した電気的容量を回復することは不可能である。
【0020】
一方、鉛蓄電池の満充電に相応する電圧よりもn段定電流充電における終止電圧が低い場合、鉛蓄電池は充電不足となる。充電不足によって放電生成物(PbSO4)は成長し、容易に充電できない箇所(すなわち放電電気量として寄与できない箇所)が増えることで、鉛蓄電池の容量は低下する(いわゆるサルフェーション)。但しサルフェーションによって損失した電気的容量は、適度の過充電を施すことで回復できる。
【0021】
そして鉛蓄電池の充電電圧には温度依存性があり、高温下の方が満充電に達する電圧は低くなる傾向がある。
【0022】
ところで複数個の鉛蓄電池を複数の電池群に分けたとき、鉛蓄電池の個数が多い電池群ほど、鉛蓄電池の側面どうしが対峙している箇所を中心に、充放電時の反応熱等が篭って温度が高い状態に晒される。すなわち同様の使用条件であっても、熱が篭りやすい電池群に置かれた鉛蓄電池の方が、他の電池群(あるいは単一で配置された鉛蓄電池)よりも、満充電に達する電圧は低くなる。
【0023】
本発明の構成は、上述した傾向を活用したものである。すなわち、n段定電流充電(n≧2)を行うことを前提に、複数個の鉛蓄電池からなる組電池をあえて、少ない鉛蓄電池の側面どうしを対峙させて構成した(あるいは単一の鉛蓄電池からなる)第1の電池群(個数a≧1)と、これよりも多い鉛蓄電池の側面どうしを対峙させて構成した第2の電池群(個数b>a)とに分け、n段定電流充電における終止電圧を第2の電池群の温度に相応して設定し、さらにn段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行うようにしたものである。この構成を採れば、満充電に達する電圧が低い第2の電池群は過充電が抑制でき、満充電に達する電圧が高い第1の電池群は押込み充電によってある程度サルフェーションを解消できるようになる。このような特徴を有する本発明の電源システムは、鉛蓄電池を理想的に配置した形態(全ての鉛蓄電池が同じ環境温度と放熱条件に晒された形態)に近い寿命特性を発現しつつ、次のような効果を発揮する。
【0024】
第1に、電動バイクのように流線型の車体を有する電動車に組電池を分割して収納できるので、車載効率と寿命特性とを両立できる。
【0025】
第2に、過充電という使用者にとって好ましくない(電解液の分解ガス発生を伴いながら突然死に至る)劣化モードを回避できる。
【0026】
第3に、組電池の性能が低下した場合に寿命に到達した電池を特定しやすくできる。すなわち押込み充電は行うものの常にサルフェーションに晒される第1の電池群から選択的に劣化させることができるので、組電池の性能が低下したときに、全ての鉛蓄電池を検査しなくても、交換すべき鉛蓄電池を迅速に特定できる。しかもその劣化モードを、徐々に特性の劣化が認識できるサルフェーションに限定できるので、使用者には最小限の不便を掛ける程度でメンテナンス時期を知らせることができる。
【0027】
本発明における押込み充電とは、終止電圧を設けないで通電し、例えば任意の時間に達したら終了させる充電のことであり、格子を腐食させない程度に過充電することによってサルフェーションを解消することを目的としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、複数個の鉛蓄電池からなる組電池の構成が急速充電に適したものになるため、電動車の駆動源に適合化した電源システムを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電源システムにおける組電池の一例を示す斜視図
【図2】本発明の電源システムを示すブロック図
【図3】本発明の組電池の充電方法を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、図を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
【0031】
図1は本発明の電源システムにおける組電池の一例を示す斜視図である。鉛蓄電池1は、セパレータを介して正極と負極とを対峙させた極板群を、隔壁によって複数のセル室に区切られた電槽の各々のセル室に収納し、極板群を直列に接続して封口し、電解液を注入した後に化成することで構成される。そして鉛蓄電池1の正極端子2aと近接する負極端子3aとを接続部品4を用いて接続することで組電池10を構成する。なお組電池10を、充電器(制御部/図示せず)と接続するために、最端の正極端子2aには正極引き出し線2bを、負極端子3aには負極引き出し線3bをそれぞれ接続する。
【0032】
本発明における組電池の特徴は、組電池10を、a個(a≧1)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第1の電池群と、b個(b>a)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第2の電池群とで構成することである。図1では一例として、a=1、b=5である組電池10を示している。なおa=1の場合は、図1に示すように、鉛蓄電池1の側面どうしを対峙させることができないのは言うまでもない。
【0033】
図2は本発明の電源システムを示すブロック図である。電源システム20は、上述した組電池10と、組電池10を充電する制御部11で構成される。本発明の制御部11は、組電池10をn段定電流充電(n≧2)によって充電した後、押込み充電を行うことを特徴とする。ここで、n段定電流充電とは電流値を逐次小さくしながら略同一の終止電圧まで行う充電であり、押込み充電とは終止電圧を設けないで行う(例えば任意の時間に達したら終了させる)充電のことである。なお図2ではスイッチ12にて負荷30との切り替えができる形態の(組電池10と制御部11とが一体化した形態の)電源システム20を示したが、制御部11あるいは負荷30のいずれかを選択して組電池10を接続する(例えば図2に示す正極引き出し線2bと負極引き出し線3bとの接続先を選択する)形態であってもよい。
【0034】
図3は組電池の充電方法を示す模式図であり、太実線は本発明で用いる「n段定電流充電+押込み充電」、太点線は本発明で用いない「定電圧充電」を示す。なお図4ではn段定電流充電においてn=4としているが、本発明に用いる場合、n≧2であればよい(その理由は以下に詳述する)。
【0035】
所定電流値での充電が終止電圧に達した後に徐々に電流値が減衰する定電圧充電は、SOCが高い領域において分極が小さくなるため、電解液(水分)の加水分解や極板材料(例えば格子)の腐食が起き難い、優良な充電方法である。しかしながら図3に模式的に示すように、総じて定電圧充電には長時間を要する。一方、n段定電流充電は定電流ながら電流値を逐次小さくする方法であり、定電圧充電と同じくSOCが高い領域で分極を小さくしつつ、短時間で充電を終わらせることができる。加えてn段定電流充電は、連続して充電する定電圧充電よりも効率的である。その理由は、充電が一旦OFFになる電流値の切り替え時に、極板の表面における濃度分布を瞬時に解消できるからだと考えられる。このように短時間のn段定電流充電を行った後、格子を腐食させない程度に過充電してサルフェーションを解消するための押込み充電を行っても、充電に要する総時間は定電圧充電よりも短くて済む。例として図3(n段定電流充電のn=4)の場合、1段目から4段目に要する時間(AからD)と押込み充電に要する時間(E)の総和(A+B+C+D+E)は、定電圧充電に要する時間よりFの分だけ短い。すなわち本発明で用いる「n段定電流充電+押込み充電」は、定電圧充電よりも短時間で済む上に、組電池10の寿命特性をも改善できると考えられる。
【0036】
ところが、組電池10を図1のように第1の電池群5と第2の電池群6とに分けずに、全ての鉛蓄電池1の側面どうしが対峙する形で組電池10を構成して「n段定電流充電+押込み充電」を行った場合、たとえn段定電流充電における終止電圧を温度補正(高温下の場合は終止電圧を低くし、低温下の場合は終止電圧を高くする補正)しても、組電池10の寿命特性は改善されない。その理由を以下に示す。
【0037】
全ての鉛蓄電池1の側面どうしが対峙する形で組電池10を構成した場合、同じ鉛蓄電池1であっても、鉛蓄電池1の側面どうしが対峙している熱の篭りやすい箇所と、鉛蓄電池1の側面が外部(あるいは電動車のシャシ)と無作為な間隔で対峙している放熱しやすい箇所とでは温度が異なる。したがって鉛蓄電池1の温度を都度精確に測定したとしても、測定位置によって温度が変わるため、この鉛蓄電池1の満充電に相応する電圧を精確に把握できない。その結果、この鉛蓄電池1を基準にして組電池10のn段定電流充電における終止電圧を精確に決めることができず、組電池10を構成する各々の鉛蓄電池1がn段定電流充電終了後にアトランダムに過充電もしくは充電不足(サルフェーション)に陥る。この様な状態で押込み充電を行っても、鉛蓄電池1の一部は過充電劣化を引き起こす一方、鉛蓄電池1の一部はサルフェーションが十分に解消できない可能性がある。このように組電池10を構成する鉛蓄電池1の劣化状態がばらつくと、組電池10の劣化は加速度的に進行する。
【0038】
そこで本発明では図1に示すように、組電池10をあえて、少ない鉛蓄電池の側面どうしを対峙させて構成した(あるいは単一の鉛蓄電池からなる)第1の電池群5(個数a≧1)と、これよりも多い鉛蓄電池の側面どうしを対峙させて構成した第2の電池群6(個数b>a、図1ではb=5)とに分けた。さらにn段定電流充電における終止電圧を第2の電池群6の温度に相応して(第2の電池群6の温度が上昇すれば終止電圧を低くするように)設定し、n段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行うようにした。この構成を採れば、満充電に達する電圧が低い第2の電池群6は過充電が抑制でき、満充電に達する電圧が高い第1の電池群5は常に充電不足でn段定電流充電を終えるものの、押込み充電によってサルフェーションを解消しやすくできる。このような特徴を有する本発明の電源システムは、鉛蓄電池1を理想的に配置した形態(全ての鉛蓄電池1が同じ環境温度と放熱条件に晒された形態)に近い寿命特性を発現しつつ、次のような効果を発揮する。
【0039】
第1に、電動バイクのように流線型の車体を有する電動車に対し、組電池10を第1の電池群5と第2の電池群6とに分割して収納できるので、車載効率も向上できる。
【0040】
第2に、過充電という使用者にとって好ましくない(電解液の分解ガス発生を伴いながら突然死に至る)劣化モードを回避できる。
【0041】
第3に、組電池10の性能が低下した場合に寿命に到達した鉛蓄電池1を特定しやすくできる。すなわち押込み充電は行うものの常にサルフェーションに晒される第1の電池群5から選択的に劣化させることができるので、組電池10の性能が低下したときに、全ての鉛蓄電池1を検査しなくても、使用者は交換すべき鉛蓄電池1を迅速かつ正確に特定できる。しかもその劣化モードを、徐々に特性の劣化が認識できるサルフェーションに限定できるので、使用者には最小限の不便を掛ける程度でメンテナンス時期を知らせることができる。
【0042】
なお第2の電池群6の実測あるいは推定温度をTbとしたときに、終止電圧の補正に用いる温度Tを「T=Tb−10×a/(a+b)」のような形で補正することもできる。この方法は、第1の電池群5と第2の電池群6との温度差が大きい場合に、第1の電池群5の充電不足(サルフェーション)が顕著に進行することを防止する方法として有効と考えられる。
【0043】
上述したように、第2の電池群6の温度を正確に把握することは難しい。そこで第2の電池群6を構成する鉛蓄電池1の温度を実測する代わりに、第2の電池群6の構成条件とn段定電流充電の条件から実験的に求めた「充電中の平均上昇温度」を制御部11に記憶させ、この「充電中の平均上昇温度」と実測した環境温度との和である「第2の電池群6の仮定温度」を制御部11に計算させ、この「第2の電池群6の仮定温度」にしたがってn段定電流充電における終止電圧を決定することも、実用的かつ正確な方法である。
【0044】
さらに図3のように、押込み充電の電流値をn段定電流充電の最終段(4段目)と同一(あるいは略同一)にすれば、電流値の切り替え数が増えないために制御部11のプログラミングが簡略化できるので、好ましい。
【0045】
さらに押込み充電において、鉛蓄電池1の公称容量に対して2%以上10%以下の電気量を充電するのが好ましい。前述したように、押込み充電とは終止電圧を設けないで行う充電のことである。押込み充電前の通常充電(例えばn段定電流充電)では、充電電気量が鉛蓄電池1の公称容量に対して100%以上108%以下となるように通電する。押込み充電で過度の過充電が起こらないようにするためには、総充電電気量を鉛蓄電池1の公称容量の110%近傍とするのが好ましい。そこでn段定電流充電における1段目の充電電気量などを基に、押込み充電する電気量を鉛蓄電池1の公称容量に対して2%以上10%以下の範囲で設定するのが好ましい。
【0046】
さらに鉛蓄電池1を制御弁式鉛蓄電池とすれば、液式鉛蓄電池のように補水する必要がなくなるので、より好ましい。
【実施例】
【0047】
(電源システムA)
鉛−錫合金からなる正極格子に鉛粉を充填して正極を作製し、鉛−錫合金からなる負極格子に鉛粉と硫酸バリウムとリグニン化合物とを充填して負極を作製した。この正極4枚と負極5枚とをセパレータを介して対峙させて極板群を作製し、この極板群を隔壁によって複数のセル室に区切られた電槽の各々のセル室に収納し、極板群を直列に接続して封口し、電解液を注入した後に化成することで、公称容量が240Wh(12V×20Ah)である制御弁式の鉛蓄電池1を作製した。
【0048】
6個の鉛蓄電池1を、3個の鉛蓄電池1の側面どうしを対峙させた第1の電池群5と、3個の鉛蓄電池1の側面どうしを対峙させた第2の電池群6になるように銅製の接続部品4で直列に接続し、組電池10を作製した。この組電池10を構成する一端の鉛蓄電池1の正極端子2aに正極引き出し線2bを接続し、他端の鉛蓄電池1の負極端子3aに負極引き出し線3bを接続した。そして図2に示すように正極引き出し線2bおよび負極引き出し線3bを制御部11と接続することで、電源システムAを構成した。
【0049】
(電源システムB)
電源システムAに対して、第1の電池群5を構成する鉛蓄電池1を2個、第2の電池群6を構成する鉛蓄電池を4個としたこと以外は、電源システムAと同様に電源システムBを構成した。
【0050】
(電源システムC)
電源システムAに対して、図1に示すように、第1の電池群5を構成する鉛蓄電池を1個、第2の電池群6を構成する鉛蓄電池を5個としたこと以外は、電源システムAと同様に電源システムを構成した。
【0051】
(電源システムD)
電源システムAに対して、第1の電池群5を設けずに、第2の電池群6を構成する鉛蓄電池を6個としたこと以外は、電源システムAと同様に電源システムを構成した。
【0052】
電源システムA〜Dを各例とも9個ずつ構成し、各々の組電池10を設定温度が0℃、25℃および45℃の恒温槽の中にそれぞれ3個ずつ設置した。そして各例それぞれ1個ずつ、以下に示す3通りの方法に沿った充電と、1個の鉛蓄電池1当たり10.5Vに達するまでの0.5C定電流放電とを繰り返した。
【0053】
(n段定電流充電+押込み充電)
1段目は0.15C、2段目は0.0625C、3段目は0.025Cの定電流充電を行った。n段定電流充電の終止電圧は式「V=14.4V+0.03V(25−Ta)」に沿って設定した。なおn段定電流充電の終止電圧を決める温度は「第2の電池群6の仮定温度(Ta)」とした。このTaは「充電中の平均上昇温度(Tb)」と恒温槽の設定温度Tcとの和とした(Ta=Tb+Tc)。Tbは、側面どうしを対峙させた鉛蓄電池1の個数を変化させて電池群を構成し、上記条件のn段定電流充電を行って複数個所で温度を実測し、その平均値を算出するという予備実験により求めた。その結果、第2の電池群6が3個の場合はTb=2℃、4個の場合はTb=3℃、5個の場合はTb=4℃、6個の場合はTb=5℃であった。なおTa=Tb+Tcなる計算とn段定電流充電の終止電圧の設定は、制御部11が行うようにした。
【0054】
この定電流充電によって鉛蓄電池1の公称容量に対して100〜108%の電気量が充電できたものとして、引続き3段目と同じ電流値で2.5時間の押込み充電を行った。この押込み充電の電気量は、鉛蓄電池1の公称容量に対して6.25%である。
【0055】
(n段定電流充電のみ)
上述の「n段定電流充電+押込み充電」におけるn段定電流充電のみを行った。
【0056】
(定電圧充電のみ)
0.15C(1段目と同じ)で定電圧充電を行い、式「V=14.4V+0.03V(25−Ta)」に沿って設定した電圧に達したら徐々に電流値を減衰させ、定電圧充電の充電電気量が公称容量の104%まで充電したら終了とした。
【0057】
上述した充電に掛かる時間(初期10サイクルの平均値)と、放電容量が初期値の70%まで低下したサイクル数とを、(表1)に記す。
【0058】
【表1】

【0059】
(表1)から明らかなように、どの電源システムであっても「n段定電流充電+押込み充電」を行うことで、0〜45℃全ての環境温度において、定電圧充電よりも充電時間が短くなる上にn段定電流充電のみの場合や定電圧充電のみの場合と比べて長寿命化することがわかる。
【0060】
このうち第1の電池群5と第2の電池群6を構成する鉛蓄電池1が3個ずつである電源システムAは、他の電源システムよりも第2の電池群6が放熱しやすい条件なので、良好な寿命特性を示した。但し寿命到達後の組電池10から劣化した鉛蓄電池1を特定するために、6個全ての鉛蓄電池1を検査することになるので、劣化した鉛蓄電池1を交換することが煩雑になる。
【0061】
この電源システムAに対し、電源システムBおよびCは、組電池10としての寿命特性をほとんど損なわずに、寿命到達後の組電池10から劣化した鉛蓄電池1を特定するために検査する鉛蓄電池1を第1の電池群5に用いたもの(1〜2個)に限定できるので、劣化した鉛蓄電池1を交換することが容易になる。
【0062】
一方で第1の電池群5を設けなかった電源システムDは、6個の鉛蓄電池1の側面どうしを対峙させた放熱性の低い構成であり、組電池10としての寿命特性も高温になるほど低くなる。さらに寿命到達後の組電池10から劣化した鉛蓄電池1を特定するために、6個全ての鉛蓄電池1を検査することになった。
【0063】
本実施例では、組電池10を構成する鉛蓄電池1が6個である構成を例示したが、鉛蓄電池1の個数がこれ以外の数であっても、同様の傾向および効果を示すことは言うまでもない。
【0064】
また本実施例では「充電中の平均上昇温度(Tb)」と恒温槽の設定温度Tcとの和である「第2の電池群6の仮定温度(Ta=Tb+Tc)」で運用する例を示したが、これに代えて鉛蓄電池1の実測温度を用いて運用しても、本発明特有の効果を示すことは言うまでもない。但しこの場合、実測温度が第2の電池群6を代表するものとなるよう、測定箇所が偏らないように細心の注意を払う必要がある。
【0065】
なお本実施例では第1の電池群5が1つである場合を示したが、第1の電池群5を複数個設けた構成であっても、本発明の効果が発揮できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の電源システムおよび組電池の充電方法は、体積効率を高めつつ深い放電を繰り返しても寿命特性を維持できる。特に矩形状の組電池を収納し難い形状を有する小型電動車の駆動源や小規模独立電源システム(家庭用太陽光発電など)の補助電源として好ましく、利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0067】
1 鉛蓄電池
2a 正極端子
2b 正極引き出し線
3a 負極端子
3b 負極引き出し線
4 接続部品
5 第1の電池群
6 第2の電池群
10 組電池
11 制御部
12 スイッチ
20 電源システム
30 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の鉛蓄電池からなる組電池と、電流値を逐次小さくしながら略同一の終止電圧まで充電するn段定電流充電(n≧2)によってこの組電池を充電する制御部と、からなる電源システムであって、
前記組電池は、a個(a≧1)の前記鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる少なくとも1つの第1の電池群と、b個(b>a)の前記鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第2の電池群とで構成され、
前記制御部は、前記n段定電流充電における前記終止電圧を前記第2の電池群の温度に相応して設定し、かつ前記n段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行うことを特徴とする電源システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2の電池群の温度が高いほど前記n段定電流充電における前記終止電圧を低くするように設定することを特徴とする、請求項1記載の電源システム。
【請求項3】
前記押込み充電の電流値を、前記n段定電流充電の最終段と略同一としたことを特徴とする、請求項1記載の電源システム。
【請求項4】
前記押込み充電において、前記鉛蓄電池の公称容量に対して2%以上10%以下の電気量を充電するようにしたことを特徴とする、請求項1記載の電源システム。
【請求項5】
前記鉛蓄電池を制御弁式鉛蓄電池としたことを特徴とする、請求項1記載の電源システム。
【請求項6】
複数個の鉛蓄電池からなる組電池を、a個(a>1)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる少なくとも1つの第1の電池群と、b個(b>a)の鉛蓄電池の側面どうしを対峙させてなる第2の電池群とに分けて、電流値を逐次小さくしながら略同一の終止電圧まで充電するn段定電流充電(n≧2)によって充電する組電池の充電方法であって、
前記n段定電流充電における前記終止電圧を前記第2の電池群の温度に相応して設定し、かつ前記n段定電流充電の後で終止電圧を設けない押込み充電を行うことを特徴とする組電池の充電方法。
【請求項7】
前記第2の電池群の温度が高いほど前記n段定電流充電における前記終止電圧を低くするように設定することを特徴とする、請求項6記載の組電池の充電方法。
【請求項8】
前記押込み充電の電流値を、前記n段定電流充電の最終段と略同一としたことを特徴とする、請求項6記載の組電池の充電方法。
【請求項9】
前記押込み充電において、前記鉛蓄電池の公称容量に対して2%以上10%以下の電気量を充電するようにしたことを特徴とする、請求項6記載の組電池の充電方法。
【請求項10】
前記鉛蓄電池を制御弁式鉛蓄電池としたことを特徴とする、請求項6記載の組電池の充電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−55758(P2013−55758A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191340(P2011−191340)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】