電源装置及び記録装置
【課題】記録ヘッド駆動用の出力電圧とともにモータ駆動用の出力電圧をも安定化させるための記録装置のスイッチング電源回路を提供することである。
【解決手段】この回路は、第1の2次巻線により第1の出力電圧を生成し、第2の2次巻線により第1の出力電圧に重畳される重畳電圧を生成するトランスと、そのトランスを駆動する駆動部を備える。さらに、第1の出力電圧及び重畳電圧を整流・平滑する第1及び第2の整流・平滑回路と、整流・平滑された重畳電圧を整流・平滑された第1の出力電圧に加算して第2の出力電圧を出力する加算部とを備える。この構成で、第1及び第2の出力電圧を夫々、DCカップリングによりフィードバックし、該フィードバックされた第1及び第2の出力電圧を第1及び第2のフィードバック・ファクタにより夫々調整し、該調整された各フィードバック成分を合成して増幅する。そして、その合成し増幅されたフィードバック成分により駆動部をPWM制御する。
【解決手段】この回路は、第1の2次巻線により第1の出力電圧を生成し、第2の2次巻線により第1の出力電圧に重畳される重畳電圧を生成するトランスと、そのトランスを駆動する駆動部を備える。さらに、第1の出力電圧及び重畳電圧を整流・平滑する第1及び第2の整流・平滑回路と、整流・平滑された重畳電圧を整流・平滑された第1の出力電圧に加算して第2の出力電圧を出力する加算部とを備える。この構成で、第1及び第2の出力電圧を夫々、DCカップリングによりフィードバックし、該フィードバックされた第1及び第2の出力電圧を第1及び第2のフィードバック・ファクタにより夫々調整し、該調整された各フィードバック成分を合成して増幅する。そして、その合成し増幅されたフィードバック成分により駆動部をPWM制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源装置及び記録装置に関し、特に、電源装置及び、その電源装置を用い、例えば、インクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体に画像を記録する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ周辺機器であるインクジェットプリンタは近年、スキャナ機能やコピー機能、更にはファクシミリ機能等も包含するマルチファンクションプリンタへと進化しており、そのコスト性能比の高さゆえに、市場への浸透度も年々深まりつつある。
【0003】
一般に、インクジェットプリンタの電源としてはスイッチング電源が使用されており、従来の商用周波数(50/60Hz)で動作するドロッパ式電源は重量、電力変換効率、発熱などの点で劣るため、使用される機会が減りつつある。
【0004】
スイッチング電源は、そのスイッチング方式に基づき幾つかの種類に分類されるが、その回路構成の簡素さやコストの観点から、フライバック方式が最も多く使用されている。最近では、こうしたフライバック方式のための専用の制御ICもメーカ各社から数多く提供されており、比較的容易に高い信頼性を有する回路の設計が可能になった。
【0005】
図8はフライバック方式による従来のスイッチング電源の例を示す回路図である。この例では、IC1が市販のPWM制御ICであり、電流モードのフィードバック制御を実現する。以下、図8に示す回路の動作概略について説明する。
【0006】
商用周波数50Hz又は60Hzの入力電圧がブリッジダイオードBD1により整流され、その後電解コンデンサC1により平滑されて直流電圧Vin(DC)が生成される。この直流電圧Vin(DC)は国内では約140V、欧州圏などの230V地域では約320Vとなる。この直流電圧Vin(DC)がトランスT1に供給されてトランジスタQ1によりスイッチング制御され、その結果、トランスT1の1次側巻線11に蓄えられたエネルギーが2次側巻線12に伝達されて、直流出力電圧Voが生成される。
【0007】
より詳細には、フライバック方式では、図8のトランジスタQ1のターンオン期間にトランスの1次側巻線11(巻線数n1)にエネルギーが蓄えられ、トランジスタQ1のオフ期間にその蓄えられたエネルギーが2次側巻線12(巻線数n2)に伝達される。こうして2次側巻線12に伝達されたエネルギーは、ダイオードD2及び電解コンデンサC4により整流・平滑され、直流出力電圧Voが生成される。出力電圧Voは抵抗R6、R7により分圧され、分圧された電圧が(ノードVref1の電圧)定電圧レギュレータ、いわゆるシャントレギュレータIC3のリファレンス端子(REF)に入力される。
【0008】
図15はシャントレギュレータIC3の説明図である。シャントレギュレータIC3はいわゆるエラーアンプの一種である。図8の例では、カソード(K)は光結合素子IC2と接続され、アノード(A)はグランドに接続されている。従って、アノード電圧Vaは0Vである。シャントレギュレータIC3は、エラーアンプ(比較器)151と内部に設けられた固定基準電圧回路152を有している。シャントレギュレータIC3は、リファレンス端子(REF)に入力されたノードVref1の電圧を、固定基準電圧回路152の出力電圧と比較して電圧Vkを出力する。
【0009】
この例では、IC3のリファレンス端子(REF)に入力される基準電圧Vref1が常にDC2.5Vになるようにその出力電圧であるカソード電圧Vkが制御され、フィードバック制御が達成される。なお、シャントレギュレータの詳細動作説明については、専門書などに委ねることにし、ここでは省略する。なお、図8において、R1、R2、R3、R5は夫々、抵抗であり、C2は別の電解コンデンサである。
【0010】
例えば、出力電圧Voが上昇して、その結果シャントレギュレータIC3の入力電圧Vref1が上昇すると、シャントレギュレータIC3の出力Vkが逆に低下する。その結果、抵抗R9と光結合素子(フォトカプラ)IC2のLED15を通じて流れる電流が増加する。すると、フォトカプラIC2のフォトトランジスタ16を流れるコレクタ電流が増加し、制御IC1のフィードバック端子FBの電位が低下する。そして、最終的に制御IC1のDRV端子から出力されるPWM信号のパルス幅、換言するとオンデューティが低下し、その結果トランジスタQ1のターンオン時間が短縮され(逆にターンオフ時間は増加する)る。その結果、トランスの1次側巻線11に蓄えられるエネルギーが低減し、これにより2次側巻線12に伝達されるエネルギーも低減し、最終的に出力電圧Voが低下する。
【0011】
このようにして、出力電圧Voが上昇すると、それを打ち消すようにフィードバック制御が作用する。逆に出力電圧Voが低下すると、それを上昇させるようにフィードバック制御が作用することで、安定した直流出力電圧Voが得られることになる。より詳細には、図8において破線14で囲んだ回路が、こうしたフィードバック制御のための利得調整、位相調整を担い、系全体を安定に動作させる役割を果たす制御回路である。制御回路14は入力ノード14inと出力ノード14outとを備える。具体的には、破線14内の抵抗R8、コンデンサC5がこうした利得・位相調整用のパラメータに相当する。なお、ここでは破線14で囲んだ回路部分をエラーアンプと呼ぶことにする。
【0012】
さらに図8を参照して説明を続けると、トランスT1には補助巻線13が備えられ、制御IC1のための電源電圧Vccを生成するために使用される。より詳細には、補助巻線13により生成される電圧がダイオードD1と電解コンデンサC3により整流・平滑され、さらにトランジスタQ2とツェナーダイオードZD1によりステップダウンされて、制御IC1の電源電圧Vccが生成される。図8の例では、Vcc=15Vであり、従って、ツェナーダイオードZD1も15V仕様である。なお、制御IC1は、抵抗R4を介してトランジスタQ1と接続されており、トランジスタQ1に流れる電流を検知するためのCS端子と直流電圧Vinを検出するための端子HVを有する。
【0013】
図9は図8に示したスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念を示すブロック図である。
【0014】
図9に示されるように通常、専用ICなどからなるPWM制御部80からスイッチング素子(Q1)を含む駆動部82にPWM制御信号81が送られ、駆動部82がトランス83を駆動する。その結果、トランス83の出力側にエネルギーが伝達され、図8に示す例では整流・平滑回路84を介して出力電圧Vo1が生成される。
【0015】
再度図8を参照して、フィードバック制御の仕組みについて述べると、出力電圧Vo1はその電圧変動がフィードバック電流If1(dc)として検出される。図8の回路では、If1(dc)は式(1)で与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/R6 …… (1)
である。
【0016】
ここで、VrefはシャントレギュレータIC3のリファレンス端子(REF)の基準電位であって、例えば、DC2.5Vである。このフィードバック電流If1(dc)は基準ノードVref1に流入する。一方、ノードVref1から流出する電流Iref1は式(2)で与えられる。即ち、
Iref1=Vref/R7 …… (2)
である。
【0017】
そして、If1(dc)とIref1とが等しくなるように系全体が制御されるので、式(1)と式(2)から式(3)が得られる。即ち、
Vo1=(R6+R7)/R7*Vref …… (3)
である。こうして、式(3)に基づき出力電圧Vo1は制御される。
【0018】
再び図9に戻り説明を続けると、フィードバック・ファクタα1は、フィードバック電流If1(dc)を定義する式(1)において、出力Vo1を変数とみなしたときの係数に相当するので、1/R6となる。また、フィードバック・ファクタα1がフィードバック制御に寄与する度合いD(α1)は1.0となる。なぜなら、図8の回路ではフィードバック制御の対象となる出力が1つしか存在しないからである。それに対し、後述するように、2つの出力を有する電源の場合には、2つの出力の間でフィードバック・ファクタの寄与度を重み付けするために、0<D(αn)<1の値を取る(n=1,2)。図9に戻り、重み付け回路86により重み付けがされたフィードバック信号がエラーアンプ89に入力され、その出力がPWM制御部80に提供され、前述のようなPWM制御が実行される。
【0019】
次に、図8に示すスイッチング電源回路の動作の詳細について、各部の波形を参照しながら説明する。
【0020】
図10は、スイッチング電源におけるトランジスタQ1のドレイン・ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びトランスの2次側巻線12に流れる電流、従って、整流ダイオードD2に流れる電流Is、さらに出力電流Ioを示す信号波形図である。
【0021】
なお、図10は、フライバック方式の中でも電流不連続モードの波形を代表例として示している。なお、当業者には明らかなように、負荷電力が大きくなりPWMのオンデューティが50%以上になると、それまでの電流不連続モードから電流連続モードに遷移するが、本発明の趣旨に直接関わるものでないため、その説明は省略する。
【0022】
図10において、スイッチング動作の基本周期Tは、例えば、動作周波数が60KHzであれば16.7μsecとなる。この間、トランジスタQ1がターンオンしている期間Tonとターンオフの期間Toffとが存在する。さらに、Toff期間には、トランスの2次側巻線12からダイオードD2と電解コンデンサC4を通じ、エネルギーが放出されている期間Toff1と放出が完了しその後再度トランジスタQ1がオンされるまでの待機期間Toff2とが含まれる。Toff2期間中には、図示のように、トランジスタQ1のドレインソース間電圧が共振している様子が分かる。これは一般に、トランスの1次側巻線11のインダクタンス値L1とリーケージ・インダクタンス値LleakとトランジスタQ1のドレインソース間の総キャパシタンス値Clumpとにより形成される共振系に起因する現象である。しかしながら、この現象は本発明の主旨に直接関係しないため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
図10において、図示のような電流不連続モードにおいては、Ton期間中に、トランスの1次側巻線11に、式(4)により与えられるエネルギーが蓄積される。即ち、
P1=1/2*L1*Ip2 …… (4)
である。ここでL1は1次巻線11のインダクタンス値であり、Ipは図10で示されるように、Ton期間に1次側巻線11に流れる電流のピーク値である。
【0024】
次に、単位時間あたりにトランスにより生成されるエネルギーは、式(5)により表される。即ち、
P2=1/2*L1*Ip2*f*η …… (5)
である。ここで、fはスイッチング周波数、ηはトランスのエネルギー変換効率を指し、トランスの1次側で生成されるエネルギー量P1に効率ηを乗じた値が、実際にトランスの2次側に伝達されるエネルギー量である。fは一例では60KHz又は100KHzなどであり、ηは0.95などである。
【0025】
即ち、トランスの1次側で生成されるエネルギーの約95%が2次側に伝達され、残りの約5%がトランスのコアや巻線により熱となって喪失される。なお、参考ではあるが、数十ワット出力のフライバック方式のスイッチング電源の総合効率は、おおよそ85%程度である。上述のトランス単体での損失の他にも、入力部のEMIフィルタ回路(不図示)による損失、スイッチング素子Q1による損失、2次側回路内の整流素子D2による損失、その他、図8の回路内の抵抗素子による損失などが含まれる。
【0026】
再び図10を参照して説明を続けると、式(4)では、Ton期間に蓄積されるエネルギーP1が、Toff1期間にトランスの2次側巻線12に伝達される。このスイッチング制御方式をフライバック方式という。これに対し、トランジスタQ1のTon期間中にトランスの1次側から2次側にエネルギーが伝達される方式が存在し、これをフォワード方式と称す。詳細については、専門書を参照されたい。
【0027】
ところで、図8に示す回路では、出力電圧として1つの出力Vo、例えば、DC24Vだけが生成される。しかしながら、インクジェットプリンタでは、例えば、図11に示されるように、出力電圧Voは記録ヘッド3やモータドライバ44に供給され、さらにDC−DCコンバータ45にも供給されて、何種類かのロジック回路電圧を生成するためにも使用される。
【0028】
図11はインクジェットプリンタの電力供給部の構成を示すブロック図である。
【0029】
こうしたロジック回路電圧には、例えば、CPUやASICのコア電圧として使用されるDC1.5V、ASIC入出力部(I/O)やメモリデバイスに供給されるDC3.3V、及びセンサ類や表示器などに供給されるDC5Vなどが含まれる。なお、図11に示すように、モータドライバ44に接続されるモータには、搬送モータM2や記録ヘッド3を搭載して走査するキャリッジを駆動するキャリッジモータM1を含む。さらに最近のマルチファンクションプリンタ(MFP)では、スキャナユニットを走査するスキャナ(SC)モータM3などが含まれる。また、最近の省電力化の要求を満たすために、プリンタのスタンバイ状態やスリープ状態において、電源回路42を間欠発振などに導くための省エネ制御信号(Esave)なども標準的に備えられる。
【0030】
図11に示す構成の例では、記録ヘッド3の駆動電圧とモータドライバ44の電圧の両方が1つの出力電圧DC24Vで示されている。しかしながら、最近のプリンタの高速化傾向により、モータ駆動電圧として、より高いDC27VやDC32Vなどが使用されるケースも増えつつある。こうしたケースでは、記録ヘッド駆動電圧(DC24V)とモータ駆動電圧(例えばDC32V)の2つの出力が生成される。
【0031】
図12は2つの出力電圧を有するスイッチング電源回路の例を示す回路図である。図12において、図8と共通の構成要素は同じ記号や同じ参照番号で示されている。
【0032】
図8に示した回路との大きな違いは、生成される出力電圧がVo1とVo2の2種類存在することで、例えば、出力Vo1はヘッド駆動電圧に当たるDC24Vであり、出力Vo2はモータ駆動電圧に当たるDC32Vである。また、これら2種類の出力電圧を生成するためにトランスT9の2次側には2つの巻線12(巻線数n2)及び12a(巻線数n3)が設けられ、巻線12(巻線数n2)から出力電圧Vo1が、巻線12a(巻線数n3)から出力電圧Vo2が生成される。なお、Is1とIS2とはそれぞれ、巻線12、12aからの出力電流である。当業者には明らかなように、巻線12aと12aとは中間タップ51を経由して構成されてもよいし(各巻線n2、n3がトランスの特定のピン端子を共有する)、或いはそれぞれの巻線が独立に巻かれてもよい。
さて、追加された巻線12aからの整流・平滑回路として、ダイオードD51と電解コンデンサC51が設けられる。また、シャントレギュレータIC3の入力端子(REF)には、出力電圧Vo1からのフィードバックに加え、出力電圧Vo2からのフィードバックも入力される。但し、出力電圧Vo1からのフィードバックは抵抗R6を介しDCカップリング(直流結合)で構成されるのに対し、出力電圧Vo2からのフィードバックは、抵抗R51とキャパシタC52によるACカップリング(交流結合)で構成される(図中の破線52)。
【0033】
なぜなら、前述のように、出力電圧Vo1は記録ヘッドの駆動電圧となるため非常に高精度を求められるのに対し、出力電圧Vo2はDCモータなどを駆動するための電圧であるため、ある程度の変動は許容される。従って、出力電圧Vo2については、モータ起動時など、瞬時に大きな電流が供給されるタイミングにおいて、極端な電圧低下を回避するために、ACカップリングによるフィードバックが使用される。換言すると、図12に示す回路の例では、出力電圧Vo1のフィードバックが常に優先される。一方、出力電圧Vo2については瞬間的な大きな負荷変動に対してのみ、抵抗R51とキャパシタC52とによるCR時定数で決まるフィードバック・ファクタに応じたフィードバック制御が実現される。
【0034】
なお、2つの出力電圧を生成するスイッチング電源回路のフィードバック制御に関する先行技術の例として、以下のような特許文献1がある。
【0035】
特許文献1は、複数の出力電圧のそれぞれの負荷電流に応じて、フィードバック制御の対象とする出力電圧を選定する方法を開示している。特許文献1によれば、負荷電流の大きい方の出力電圧を選定してフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開平6−178537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
しかしながら、図12に示すような従来回路には次のような問題がある。即ち、出力電圧Vo2のフィードバックがACカップリングであるため、記録動作シーケンスで、例えば、記録媒体の高速搬送だけの実行期間など記録ヘッド駆動が通常、休止状態であるにも関わらず、記録ヘッド電圧Vo1のフィードバックが優先されてしまう。このために、結果的にモータ駆動電圧Vo2が大きく変動してしまい、モータのサーボ制御に悪影響を及ぼしてしまう。このため、実際には、従来でもこうしたサーボ制御の安定性が維持される範囲内で、モータの高速制御を実現していた。
【0038】
一方、図12の回路において、モータ駆動電圧にあたる出力Vo2のフィードバックについても出力Vo1同様にDCカップリングにする構成も考えられる。この場合、それぞれの出力の間で相対的なフィードバック・ファクタ比を決定する必要があり、記録ヘッド電圧にあたる出力Vo1のそれを大きくすると、出力Vo1の安定性は維持される。しかしながら、モータ駆動時や停止時などにモータ駆動電圧Vo2のオーバシュートやアンダシュートによる変動がACカップリングの場合よりも大きくなってしまう。逆に、出力Vo2のフィードバック・ファクタを大きくすると、記録ヘッド電圧Vo1の変動が大きくなり、画像品位を大きく劣化させることになる。
【0039】
図13は、図12に示す2出力電圧のスイッチング電源回路の各部の電圧・電流波形を示す信号波形図である。
【0040】
例えば、搬送モータM2の起動時(t=t1)に、モータ駆動電圧に相当する出力Vo2の負荷電流Io2がピーク電流Ip1だけ引かれると、その瞬間Vo2はVp21まで低下する(アンダシュート)。それに伴って図示のフィードバック電流If2(ac)がノードVref1からCR回路52に向けて流出し、ノードVref1の電位がその電流流出分だけ低下する。
【0041】
その結果、シャントレギュレータIC3の出力電位Vkは上昇し、制御IC1によるPWM制御のオンデューティが増加して、トランスT9により生成されるエネルギーが増加し、出力電圧Vo2の低下を阻止するようなフィードバック制御が働く。しかしながら、図12に示す回路では、時刻t=t2において出力電流Io2がIp2に安定後も、出力電圧Vo2は時刻t=t1以前のレベルVp20に比べ、ΔVfだけ低下し、レベルVp22になってしまう。
【0042】
なぜなら、図12に示す構成から明らかなように、出力電圧Vo2が安定している期間は、当該出力のフィードバックはACカップリングのため機能せず、事実上、出力Vo1のフィードバックだけが有効となるからである。換言すると、T2期間の間は、出力Vo2のフィードバックは直流的には無制御となるため、その負荷電流が大きくなるほど、電圧が低下する傾向を示す。一例を挙げると、図11の搬送モータM2による高速記録媒体搬送期間では、モータ駆動電圧Vo2の電圧低下分ΔVfは3〜4V程度に達する。
【0043】
図13を再度参照して説明を続けると、時刻t=t3では搬送モータM2の駆動が停止し、電流Io2がゼロに復帰する。それに伴い、出力Vo2が一瞬Vp23まで上昇し(オーバシュート)、そのためフィードバック電流If2(ac)が逆にCR回路52からノードVref1に向けて流れ込む。その結果、ノードVref1の電位が上昇し、シャントレギュレータIC3の出力電位Vkが低下し、制御IC1によるPWM制御のオンデューティが低下して、トランスT9により生成されるエネルギーが減少する。このように、出力電圧Vo2の上昇を阻止するようなフィードバック制御が働く。
【0044】
なお、図13が示しているように、時刻t=t1、t3において、もう一方の出力Vo1はVo2電圧の大きな変動の影響を受け、Vo2と逆の方向に多少変化する。即ち、出力Vo2の大きな変動の瞬間、出力Vo1の出力電流Io1は図示のように穏やかな変化しかしていない。そのため前述したように、Vo2の変動に起因するフィードバック制御によるトランスからの大きなエネルギーの伝達により、出力電圧Vo1が時刻t=t1において少し上昇し、図示のようにVp1レベルまで達する。同様に、時刻t=t3においては、逆に出力Vo1がVp12レベルまで僅かに低下する。
【0045】
図14は、図12に示した2出力電圧のスイッチング電源回路のフィードバック制御構成を示すブロック図である。図9を参照して述べた1出力電圧のスイッチング電源回路の場合との違いは、図14に示すように、トランス83が2つの出力(83a、83b)を有し、各出力は整流・平滑回路84aと84bをそれぞれ介し、出力Vo1とVo2として生成される点である。また、各出力Vo1、Vo2からの各フィードバック成分はフィードバック・ファクタα1、α2により夫々、重み付け回路86、87により重み付けされる。これら重み付けされたフィードバック成分が合成器88で合成され、その合成結果がエラーアンプ89により処理されて、最終的にPWM制御部80にフィードバックされる。これにより、スイッチング素子(Q1)を含む駆動部82がPWM制御され、トランス83の生成エネルギーが制御される。
【0046】
特に、出力電圧Vo1の変化はフィードバック・ファクタα1でフィードバック制御に反映され、出力電圧Vo2の変化はフィードバック・ファクタα2でフィードバック制御に反映される。後述のように、これらのフィードバック・ファクタα1及びα2は、それぞれの対応する出力がフィードバック制御に寄与する度合いに相当する。
【0047】
図12と図14を参照して説明を続けると、出力電圧Vo1のフィードバックはDCカップリングであるため、出力端子Vo1からシャントレギュレータIC3のリファレンス端子Vref1に向けて、常時一定のフィードバック電流If1(dc)が流れ込む。ここで、If1(dc)は、式(6)で与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/ R6 …… (6)
である。ここで、基準電圧Vrefは、例えば、DC2.5Vである。一方、出力電圧Vo2のフィードバックはACカップリングであるため、出力電圧Vo2の安定時には、出力端子Vo2からノードVref1に流れ込むフィードバック電流If2(ac)は、キャパシタC52により遮断されゼロとなる。従って、Vo2が安定状態のときにノードVref1に流入する電流の総和は、式(7)となる。即ち、
If1(dc)+If2(ac)≒If1(dc)(∵If2(ac)≒0) …… (7)
である。
【0048】
従って、式(6)〜式(7)から、式(8)が得られる。即ち、
If1(dc)+If2(ac)≒(Vo1−Vref)/R6 …… (8)
である。
【0049】
また、式(8)からフィードバック・ファクタα1とα2が式(9)のように求まる。即ち、
α1=1/R6, α2=0 …… (9)
である。なぜなら、式(8)において、出力電圧Vo1とVo2を変数とみたときに、それぞれの係数がフィードバック・ファクタに相当するが、実際には変数Vo2は式(8)に現われず、α2はゼロとなる。
【0050】
次に、式(9)からα1のフィードバック寄与率D(α1)を求めると、式(10)〜式(11)のように求まる。即ち、
D(α1)=α1/(α1+α2) …… (10)
=1.0
D(α2)=0 …… (11)
である。
【0051】
以上のことから、出力電圧Vo2の安定期間(図13の期間T2)では、出力Vo1だけがフィードバックに寄与することが分かる。
【0052】
一方、図12において、ノードVref1から流出する電流Iref1は、
Iref1 = Vref/R7 …… (12)
であり、シャントレギュレータIC3を含むエラーアンプ14の作用により、ノードVref1に流入する電流と、当該ノードから流出する電流とが等しくなるように制御されることから、式(13)が成立する。即ち、
If1(dc)+If2(ac)=Vref/R7 …… (13)
である。ここで、式(7)より、式(14)が得られる。即ち、
If1(dc)≒Vref/R7 …… (14)
である。
【0053】
一方、図13の期間T1のように、モータ駆動電圧が瞬時に変動するような場合、例えば、搬送モータM2やキャリッジモータM1の起動時には、出力Vo2から大電流を供給するために寄与する電圧分が引かれる。このため、仮に出力Vo2のフィードバックを考慮しない場合、その瞬間に出力電圧Vo2が大きな電圧低下を生じてしまい、その結果、モータのサーボ制御が不調になる可能性がある。そのために、図12に示した回路では、出力Vo2のACカップリングによるフィードバックを採用することで、こうした出力Vo2の瞬時変動に対し、次のようなフィードバック補正を実施する。即ち、出力Vo2の電圧変動分をΔVpとすると、出力Vo2からのフィードバック電流If2(ac)が、ノードVref1からCR回路52(図12参照)に流出する。
【0054】
If2(ac)=−ΔVp /R51*exp(−T/CR) …… (15)
ここで、式(15)のマイナス記号は、ノードVref1からの電流の流出を意味する。また、式(15)のCR時定数のCはキャパシタC52の値、Rは抵抗R51の値、変数Tはモータ起動時からの経過時間、従って、図13における時刻t=t1からの経過時間に相当する。さらに、電流If2(ac)の流出分だけ、ノードVref1の電位が低下する様子が、図13に示すVref1の期間T1から明らかである。図13において、Ifp21は時間間隔T1における電流If2(ac)の最大値を示し、Ifp22は時間間隔T3における電流If2(ac)の最大値を示す。また、図13において、時刻t=t1〜t2までの時間間隔T1が、式(15)のCR時定数に関連付けられる。
【0055】
以上のことから、図13の期間T1では、式(6)と式(15)とから、フィードバック電流の総和が次のように求まる。即ち、
If1(dc)+If2(ac)=
(Vo1−Vref)/R6−ΔVp/R51*exp(−T/CR) ……(16)
である。式(16)から、変数Vo1と変数ΔVpのそれぞれの係数、即ち、フィードバック・ファクタが、式(17)、式(18)のように求まる。即ち、
α1=1/R6 ……(17)
α2=−1/R51*exp(−t/CR) ……(18)
である。
【0056】
式(18)において、α2のマイナス記号は出力電圧Vo2が低下したことを示し、逆にプラス記号は出力電圧Vo2が上昇したことを示す。また式(18)から、図12の抵抗R51が小さいほど時刻t=0におけるフィードバック・ファクタが大きいことが分かる。
【0057】
即ち、抵抗R51が小さいほど、ノードVref1から流出する電流が大きくなり、結果的に出力電圧Vo2の変化を感度良くノードVref1に反映し、後段のエラーアンプ14に伝達することになる。但し、抵抗R51の値を小さく設定し過ぎると、フィードバック・ファクタα2の影響が大きくなりすぎて、出力電圧Vo2の変動時からの復帰時に過剰なオーバシュートやアンダシュートを生じたり、もう一方の出力Vo1に悪影響を与える可能性がある。
【0058】
また、式(18)から明らかなように、出力Vo2のフィードバック・ファクタには指数関数が含まれる。このために、例えば、起動電流の異なる複数のモータ(キャリッジモータM1、搬送モータM2、スキャナモータM3など)が存在する場合などには、1種類のCR時定数で全ての制御を最適に制御することが困難である。
【0059】
以上述べたように、図12に示すような従来の2出力電圧のスイッチイング電源回路では、起動電流の異なる複数のモータの起動時などにおいて、それに伴うモータ駆動電圧の瞬時変動に際し、最適なフィードバック・ファクタを選定できないという問題がある。さらにモータがほぼ整定状態になって以降、モータ駆動電圧のフィードバック・ファクタα2が事実上ゼロとなってしまい、結果的にその出力電圧の低下を招いてしまう問題があった。その結果、図12に示すような従来の回路では、記録ヘッド駆動電圧は高精度に維持できる一方で、高速に記録媒体を搬送する期間などにおいてモータ駆動電圧が低下してしまい、高速スループットを実現することが難しいという課題があった。
【0060】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、電源装置と、記録ヘッド駆動電圧を高精度に制御する一方、モータ駆動電圧についても記録動作シーケンスに応じて要求される安定度を実現することができる記録装置とを提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0061】
上記目的を達成するために本発明の電源装置は次のような構成からなる。
【0062】
即ち、1次巻線と第1の2次巻線と第2の2次巻線とを有する変圧手段と、 前記第1の2次巻線で生成された電圧から第1の直流電圧を生成する第1の直流電圧生成手段と、 前記第1の直流電圧に前記第2の2次巻線で生成された電圧が重畳された電圧から、第2の直流電圧を生成する第2の直流電圧生成手段と、前記1次巻線への通電を行うスイッチ手段と、前記第1の直流電圧生成手段の出力部、前記第1の直流電圧生成手段の出力部及びグランドと、それぞれ抵抗を介して接続された電圧の入力部を有し、前記電圧の入力部に入力される電圧が一定になるように前記スイッチ手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0063】
また本発明を別の側面から見れば、上記記載の電源装置と、第1の直流電圧が供給される記録ヘッドと、第2の直流電圧が供給されるモータと、前記記録ヘッドと前記モータを制御する制御部とを有することを特徴とする記録装置を備える。
【0064】
さらに本発明を別の側面から見れば、記録ヘッドとモータとを有する記録装置であって、前記記録ヘッドを駆動するための第1の出力電圧と前記第1の出力電圧よりも高く前記モータを駆動するための第2の出力電圧とを生成するスイッチング電源回路を備え、前記スイッチング電源回路は、第1の2次巻線により前記第1の出力電圧を生成し、第2の2次巻線により前記第1の出力電圧に重畳される重畳電圧を生成するトランスと、前記トランスを駆動する駆動部と、前記第1の出力電圧を整流・平滑する第1の整流・平滑回路と、前記重畳電圧を整流・平滑する第2の整流・平滑回路と、前記第2の整流・平滑回路により整流・平滑された前記重畳電圧を前記第1の整流・平滑回路により整流・平滑された前記第1の出力電圧に加算して前記第2の出力電圧を出力する加算手段と、前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧をそれぞれ、DCカップリングによりフィードバックし、該フィードバックされた前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧を第1のフィードバック・ファクタと第2のフィードバック・ファクタによりそれぞれ調整し、該調整されたそれぞれのフィードバック成分を合成して増幅し、該合成し増幅されたフィードバック成分により前記駆動部をPWM制御するフィードバック制御手段とを有することを特徴とする記録装置を備える。
【発明の効果】
【0065】
従って本発明によれば、同一のトランスから生成される2つの出力電圧の間で、各出力電圧に対応するフィードバック・ファクタを適宜変更可能にすることが可能になる。これにより、記録動作シーケンスに応じて、それぞれの出力電圧のフィードバック・ファクタを定量的に制御し、結果として高品位画像な記録に加え、高速な記録媒体搬送などによるスループット向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】本発明のスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念図である。
【図4】本発明のスイッチング電源回路の第1の実施例を示す図である。
【図5】パラメータXとフィードバック寄与率との関係を示す図である。
【図6】図4の回路の各部の電圧・電流波形を示す図である。
【図7】本発明のスイッチング電源回路の第2の実施例を示す図である。
【図8】従来のフライバック方式によるスイッチング電源の例を示す回路図である。
【図9】図8に示すスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念を示すブロック図である。
【図10】図8に示すスイッチング電源回路の各部の電圧及び電流波形を示す信号波形図である。
【図11】インクジェット記録装置の電力供給部の構成を示すブロック図である。
【図12】2つの出力電圧を生成する従来のスイッチング電源の例を示す回路図である。
【図13】図12に示すスイッチング電源回路の各部の電圧・電流波形を示す信号波形図である。
【図14】図12に示すスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念を示すブロック図である。
【図15】シャントレギュレータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0068】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0069】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0070】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0071】
<記録装置の概要説明(図1〜図2)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いて記録を行なう記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0072】
図1に示すようにインクジェット記録装置(以下、記録装置)1はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0073】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6を装着する。インクタンク6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0074】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0075】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。なお、記録装置は、上述したシリアルタイプの記録装置に限定するものではなく、記録媒体の幅方向に吐出口を配列した記録ヘッド(ラインヘッド)を記録媒体の搬送方向に配置するいわゆるフルラインタイプの記録装置にも適用できる。
【0076】
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0077】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0078】
また、図2において、610は画像データの供給源となる図1に示したホストやMFPに対応するホスト装置である。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス等をパケット通信により送受信する。このパケット通信については後で説明する。なお、インタフェース611としてUSBインタフェースをネットワークインタフェースとは別にさらに備え、ホストからシリアル転送されるビットデータやラスタデータを受信できるようにしても良い。
【0079】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0080】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。この実施例では、この他にもインク残量を検出するフォトセンサが設けられる。このフォトセンサの詳細について後述する。
【0081】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0082】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。加えて、この記録装置には、ユーザインタフェースとしてLCDやLEDで構成される表示部が備えられている。
【0083】
次に、以上の構成の記録装置の各部に電力を供給するスイッチング電源回路について説明する。
【0084】
図3は2出力電圧(2つの異なる電圧生成を行うこと)を備えるスイッチング電源回路のフィードバック制御構成を示すブロック図である。なお。図3において、前述した図14の従来のフィードバック制御構成において説明したのと同じ構成要素や信号には同じ参照番号や同じ参照記号を付し、その説明は省略する。ちなみに、整流・平滑回路83aを第1の整流・平滑回路、整流・平滑回路84bを第2の整流・平滑回路という。
【0085】
図14に示した従来の構成との大きな違いには、以下の3つの要素がある。即ち、
(1)モータ駆動電圧Vo2が記録ヘッド駆動電圧Vo1を基準として、電圧重畳されて生成される点、
(2)出力電圧Vo1とVo2の両方がDCカップリングによりフィードバックされる点、
(3)出力電圧Vo1とVo2のフィードバック・ファクタα1とα2が、相対的に可変に制御可能な点である。
【0086】
こうした構成により、第2の出力電圧Vo2が式(19)のように生成される。即ち、
Vo2=Vo1+ΔVs …… (19)
である。ここで、Vo1は第1の出力電圧、ΔVsは出力Vo1に対して重畳される電圧、Vo2は第2の出力電圧である。図3から分かるように、加算部803において、第1の出力電圧Vo1に重畳電圧ΔVsが加算されて第2の出力電圧Vo2が生成されている。
【0087】
従って、Vo1を安定に制御すれば、Vo2の変動は重畳電圧ΔVsだけに依存することになる。換言すると、出力電圧Vo2の安定度が出力電圧Vo1の安定度に依存するため、Vo1の安定度を良好に維持し、かつ重畳電圧ΔVsを安定に保てば、即ち、重畳電圧ΔVsに対し一定のフィードバックを行えば、出力電圧Vo2も安定に制御することができる。
【0088】
なお、図3において、出力Vo1のフィードバック・ファクタはα1であり、出力Vo2のフィードバック・ファクタはα2である。ここで、α1を第1のフィードバック・ファクタ、α2を第2のフィードバック・ファクタという。これらのファクタによって、出力電圧Vo1とVo2それぞれのフィードバックの寄与率が調整される。そして、合成器88において、各フィードバック成分が加算され、その結果がエラーアンプ89に入力されて増幅され、最終的にPWM制御部80によりスイッチング素子(Q1)を含む駆動部82がPWM制御され、トランス83の生成エネルギーが制御される。その結果、各出力のフィードバック・ファクタに応じたフィードバック制御が実現される。即ち、図3の構成について、別の表現をすると、駆動部82は、トランス(変圧手段)の1次巻線の通電を行うためのスイッチ部である。また、PWM制御部80とエラーアンプ89は、スイッチ手段を制御する制御部を構成している。なお、PWM制御の概要については、図8〜図10を参照して前述したとおりである。
【0089】
さらに、図3に示す構成では、フィードバック・ファクタα1とα2が制御信号(Cont)により、記録装置の記録動作シーケンスに応じて任意に制御される。より詳細には、後述するように、記録期間中は記録ヘッド駆動電圧Vo1を優先的に制御するように、各フィードバック・ファクタが選択されるが、記録媒体搬送時などには、モータ駆動電圧Vo2の変動を抑制するようにフィードバック・ファクタが選択される。
【0090】
図4は、図3に示したフィードバック制御を実現する2電圧出力のスイッチング電源の構成を示す回路図である。なお、ダイオードD2とコンデンサC4で構成される回路は、別の表現をすると、第1の直流電圧生成回路である。ダイオードD91とコンデンサC91で構成される回路は、別の表現をすると、第2の直流電圧生成回路である。次に、図3の構成と図4の構成の対応関係について、補足説明をする。図4のスイッチング素子(Q1)は、図3の駆動部82に含まれる。図4の制御IC1は、図3のPWM制御部80に含まれる。図4の制御回路14は、エラーアンプ89に含まれる。
【0091】
なお。図4において、前述した図12の従来のスイッチング電源において説明したのと同じ構成要素や信号には同じ参照番号や同じ参照記号を付し、その説明は省略する。
【0092】
図4と図12とを比較すると分かるように、図12に示した従来回路との相違は次の点にある。即ち、トランスT9の第1と第2の出力巻線12(巻線数n2)、12a(巻線数n3)を中間タップなしに独立に設ける。そして、出力Vo1の整流・平滑後のノード91を起点に出力巻線12aを回路接続し整流・平滑回路のダイオードD91とコンデンサC91を通じ、出力Vo2を生成する点にある。
【0093】
この構成により、出力電圧Vo2が安定化出力電圧(第1の直流電圧)Vo1に重畳する形で生成される。このため、結果的に出力電圧(第2の直流電圧)Vo2も出力電圧Vo1の安定化の恩恵を受けることができ、結果的に図12に示した回路に比べて、より安定な出力Vo2を得ることができる。さらに、この実施例では、出力Vo1とVo2の両方がDCカップリングによりフィードバック制御されるため、図12に示す従来回路の場合に比べ、出力Vo2を定量的に安定化させることができる。
【0094】
さらに別の利点として、整流ダイオードD91の耐圧が、図12に示したダイオードD51に要求される耐圧に比べて、整流ダイオードに求められるピーク逆電圧VRmが、小さくなるために緩和される。
【0095】
即ち、図12に示す従来の回路の場合には式(20)
VRm =Vin(dc)*(n2+n3)/n1+Vo2+Vr …… (20)
で与えられる。
【0096】
これに対し、この実施例の場合には、
VRm =Vin(dc)*n3/n1+Vo2 +Vr …… (21)
となる。この2つの式を比較すると、トランス巻線比に依存する項、即ち、式(20)と式(21)の第1項を比べると、式(20)の場合には1次平滑DC電圧Vin(dc)の乗数が(n2+n3)/n1であるのに対し、式(21)ではn3/n1である。即ち、後者の場合の方がその値が小さくなり、結果的にピーク逆電圧VRmが小さくなるのである。なお、式(20)〜式(21)において、1次平滑DC電圧Vin(dc)は入力電圧AC100V〜AC240Vを整流・平滑した結果の直流電圧である。VrはトランスT9の2次巻線12(巻線数n2)及び12a(巻線数n3)に関連付けられる漏れインダクタンスに起因するサージ電圧である。ここで、12は第1の2次巻線、12aは第2の2次巻線という。
【0097】
例えば、Vo1がDC24V、Vo2がDC32Vとする場合、図12に示す従来の回路のダイオードD51のピーク逆電圧VRmが200V〜250Vなのに対し、図4に示すこの実施例の回路のダイオードD91のVRmは、60V程度で十分である。
【0098】
再び図4に戻り説明を続けると、制御回路14は、入力部14(in)と出力部14(out)を有する。入力部14(in)は、抵抗R6(第1の抵抗)、抵抗R91(第2の抵抗)、抵抗R71の一方の端子とそれぞれ接続されている。抵抗R6の他方の端子はノード91と接続されている。抵抗R91の他方の端子はノード92と接続されている。抵抗R7の他方の端子はグランドと接続されている。なお、入力部14(in)はシャントレギュレータIC3のREF端子と接続されている。出力部14(out)はIC1のFB端子と接続されている。
【0099】
出力電圧Vo1のフィードバックは抵抗R6を通じ、DCカップリングにより実現され、出力電圧Vo2のフィードバックは抵抗R91を通じ、同様にDCカップリングにより実現される。前述したように、図12に示した従来の回路では、出力Vo2のフィードバックがACカップリングであり、もしこれをDCカップリングにした場合、高精度が要求される出力Vo1の電圧変動が大きくなってしまうという問題があった。
【0100】
ここで、図4に示すこの実施例の回路では出力Vo2の電圧変動が抑えられる理由について詳述する。
【0101】
図4に示すように、出力Vo2は出力Vo1を基準とし、それに対し巻線12aにより生成される電圧増分ΔVsが重畳されて生成される。従って、図3を参照して前述したように、出力電圧Vo2は式(22)により与えられる。即ち、
Vo2=Vo1+ΔVs …… (22)
である。
【0102】
また、図4に示す回路では、フィードバック・ファクタにあたるフィードバック電流If1(dc)とIf2(dc)の両者ともにDCカップリングにより生成され、それぞれ式(23)、式(24)により与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/R6 …… (23)
If2(dc)=(Vo2−Vref)/R91 …… (24)
である。
【0103】
従って、ノードVref1における合成電流は、式(22)〜式(24)から式(25)のように求まる。即ち、
If1(dc)+If2(dc)
=(Vo1−Vref)/R6+(Vo2−Vref)/R91
=(Vo1−Vref)/R6+(Vo1+ΔVs−Vref)/R91
=(1/R6+1/R91)*Vo1+ΔVs/R91
−(1/R6+1/R91)*Vref ……(25)
である。
【0104】
式(25)において、右辺第1項はVo1が変数、右辺第2項は電圧増分ΔVsが変数、右辺第3項は定数項である。従って、仮に出力電圧Vo1が安定に維持されていれば、フィードバック合成電流If1(dc)+If2(dc)の変化は、ΔVs/R91に依存することになる。即ち、前述のように、図12の従来回路では、出力Vo2の安定領域(図13の期間T2)では出力Vo2のフィードバックが機能しなかったために、出力電圧Vo2の電圧低下分ΔVf(図6)が大きかった。これに対し、図4の回路では式(25)の右辺第2項が有効となり、出力Vo2の変動を打ち消す方向でフィードバック制御が働くため、出力Vo2の安定領域において、出力電圧Vo2の電圧低下分ΔVfが小さく抑えられる。これに関しては、図6に示す電圧・電流波形の信号波形図を参照して後述する。
【0105】
ここで、式(25)より、出力Vo1の変化と電圧増分ΔVsの変化がそれぞれフィードバックに寄与する度合いについて考察する。それぞれのフィードバック・ファクタをα1、α2とすると、式(26)の関係が成り立つ。即ち、
α1=1/R6+1/R91 …… (26)
α2=1/R91
である。
【0106】
ここで、式(25)の右辺第1項及び右辺第2項の係数がそれぞれα1、α2に対応する。従って、フィードバック・ファクタの合計に占めるα1の比率、即ち、出力Vo1のフィードバック寄与率D(α1)を求めると、式(27)のようになる。即ち、
D(α1)=α1/(α1+α2)=(1+X)/(2+X) …… (27)
である。なお、式(27)において、X=R91/R6である。同様に、出力Vo2のフィードバック寄与率D(α2)は式(28)で与えられる。即ち、
D(α2)=α2/(α1+α2)=1/(2+X) …… (28)
である。ここで式(27)の結果を図5に示す。
【0107】
図5は出力Vo1のフィードバック寄与率D(α1)の変化を示す図である。
【0108】
図5から分かるように、X=0のとき、式(27)の左辺、即ち、Vo1のフィードバック寄与率は0.5であり、X=3のときの寄与率が0.8、X=8のときの寄与率が0.9、さらにXを大きくするにつれ、寄与率は1.0に近づく。この実施例に関連した実験データによれば、X=3のとき、従って、Vo1のフィードバック寄与率が0.8のとき、記録ヘッド駆動電圧Vo1とモータ駆動電圧Vo2の両方を最もバランスよく維持・制御できることが判明した。これはVo2のフィードバック寄与率が0.2となることも示唆する。
【0109】
図6は図4に示したスイッチング電源回路における各部の電圧・電流波形を示す信号波形図である。図6を図13に示した従来例と比較するなら、時刻t=t2で第2の出力電圧Vo2が復帰した後の電圧レベルVp22が、時刻t=t1以前のレベルVp20よりも僅かに低いだけであることが分かる。図13を参照して前述したように、従来例ではこの電圧低下分ΔVfが3〜4Vに達したが、図4に示したスイッチング電源回路では1.0V程度に抑えることができる。
【0110】
従って以上説明した実施例に従えば、モータ駆動電圧として用いられる第2の出力電圧についてもフィードバック制御により電圧降下を少なく抑えることが可能となる。これにより、モータのサーボ制御も正常に行うことができる。
【0111】
<他の実施例>
なお、スイッチング電源回路の構成は以上説明した実施例に限定されるものではない。
【0112】
図7は、他の実施例に従うスイッチング電源回路の構成を示す図である。この実施例に従う回路の特徴は、ブロック121(後で詳述)が追加されていることである。なお、図7において、既に説明した図4に示したスイッチング電源回路と同じの構成要素には同じ参照記号又は同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0113】
図7を参照して説明を続けると、ブロック121の機能は制御信号Contにより、フィードバック・ファクタα1及びα2を変更することである。制御信号Contは抵抗R123を介してトランジスタQ121のベースに入力される。制御信号Contがローレベルのときは、トランジスタQ121がオフとなり、その結果次段のトランジスタQ122もオフとなるため、ブロック121の部分が回路全体に影響は与えない。その結果、フィードバック・ファクタα1、α2は、式(26)に示すように、図4を参照して説明した値となる。
【0114】
一方、制御信号Contがハイレベルの時はトランジスタQ121がオンし、その結果トランジスタQ122もオンとなり、抵抗R91を流れるフィードバック電流If2(dc)と並列に抵抗R121を通じてフィードバック電流If3(dc)が流れる。その結果、ノードVref1にはIf1(dc)とIf2(dc)とIf3(dc)の合成電流が流れ込む。これらの電流は夫々、式(29)、式(30)、式(31)で与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/R6 …… (29)
If2(dc)=(Vo2−Vref)/R91 …… (30)
If3(dc)=(Vo2−Vref)/R121 …… (31)
である。
【0115】
さらに、前述の実施例と同様に、式(32)が成立する。即ち、
Vo2=Vo1+ΔVs …… (32)
である。
【0116】
従って、ノードVref1における合成電流は、これらの式から式(33)のように求まる。即ち、
If1(dc)+If2(dc)+If3(dc)
=(Vo1−Vref)/R6+(Vo2−Vref)/R91+(Vo2−Vref)/R91
=(1/R6+1/R91+1/R121)*Vo1
+(1/R91+1/R121)*ΔVs
−(1/R6+1/R91+1/R121)*Vref ……(33)
である。
【0117】
式(33)において、右辺第1項はVo1が変数、右辺第2項は電圧増分ΔVsが変数、右辺第3項は定数項である。従って、仮に出力電圧Vo1が安定に維持されていれば、フィードバック合成電流If1(dc)+If2(dc)+If3(dc)の変化は、右辺第2項、即ち、(1/R91+1/R121)*ΔVs に依存する。
【0118】
式(33)を図4に関連して説明した式(25)と比較するなら、変数ΔVsの係数が大きくなっていることが分かる。つまり、式(25)では係数が1/R91であったのに対し、式(33)では (1/R91+1/R121) であって、結果的に変数ΔVsの所与の変化に対し、右辺第2項の変化が大きくなる。即ち、図7に示した回路では、図4に示した回路と比較して、出力電圧Vo2の変化をより大きく反映したフィードバック制御が実現できる。
【0119】
さて、図7に示す回路おいて、トランジスタQ121がオンすると、ノードVref1に流れ込むフィードバック電流If1(dc)とIf2(dc)とIf3(dc)の総和が、抵抗R7を通じて流出する。さらに、これ以外にも、破線で囲まれたブロック122を介し、トランジスタQ121にも流出する。
【0120】
なお、ブロック122は抵抗R124とダイオードD121の直列回路を含む。この直列回路が必要な理由は次の通りである。即ち、ノードVref1に流れ込む電流の総和とノードから流れ出す電流の総和とが等しく、かつノードVref1の電位が常にDC2.5Vに維持されるように制御される。従って、制御信号ContがハイのときにトランジスタQ121がオンすることで、ノードVref1に流入するフィードバック電流の増加分、即ち、If3(dc)を収容する(換言すると流出させる)新たな電流経路の形成が必要となることによる。抵抗R124とダイオードD121の直列回路は正にこの電流経路に相当する。
【0121】
仮にこの電流経路が存在しないと、制御信号Contがハイのときに、出力電圧Vo1とVo2が本来の設定電圧であるDC24VとDC32Vよりもそれぞれ低下する。即ち、元来の出力電圧からレベル変化するのである。これは次の理由による。即ち、フィードバック電流If1(dc)とIf2(dc)とIf3(dc)の総和が、基準抵抗R7に流れる電流値、即ち、DC2.5Vを抵抗値R7で割った値(常に一定)に等しくなるように制御される。このため、ブロック122による新たな電流経路が存在しないと、式(33)において、右辺の変数Vo1とΔVsの両者が本来の設定電圧よりも低く制御されるからである。ちなみに、ブロック122のダイオードD121は、制御信号Contがローのとき、トランジスタQ122のベース電流が抵抗R122とR124を介しノードVref1に流れ込み、それによりトランジスタQ122がオンするのを防止する役割をする。
【0122】
さらに、図7において、上述のように、フィードバック電流If3(dc)と新たな電流経路を成すブロック122を流れる電流が等しくなる必要性により、式(34)の関係が成り立つ。即ち、
If3(dc)=(Vref−Vf)/R124 ……(34)
である。ここで、VrefはシャントレギュレータIC3の基準電圧(典型的にはDC2.5V)、VfはダイオードD121の順方向電圧(例えばショットキーダイオードで0.4V)、R124は抵抗R124の抵抗値である。さらに、フィードバック電流If3(dc)は式(31)で与えられることより、式(35)となる。
【0123】
(Vo2−Vref)/R121=(Vref−Vf)/R124 …… (35)
よって、抵抗R124の値が式(36)のように求まる。
【0124】
R124=(Vref−Vf)/(Vo2−Vref)*R121 ……(36)
ここで、Vo2に式(22)を代入して、式(37)が得られる。即ち、
R124=(Vref−Vf)/(Vo1+ΔVs−Vref)*R121 ……(37)
である。
【0125】
以上のことから、フィードバック電流If3(dc)が決まれば、それに関わる抵抗R121の値から、ブロック122内の抵抗R124の値が求まることが分かる。
【0126】
次に、式(33)から出力Vo1のフィードバック・ファクタα1、及び出力Vo2のフィードバック・ファクタα2を求めると、式(38)のようになる。即ち、
α1=1/R6 + 1/R91+1/R121 …… (38)
α2=1/R91+1/R121
である。従って、フィードバック・ファクタの合計に占めるα1の比率、すなわち出力Vo1のフィードバック寄与率D(α1)を求めると、式(39)のようになる。即ち、
D(α1)=α1/(α1+α2)=(1+X’)/(2+X’)……(39)
である。
【0127】
なお、式(39)においてX’=(R91//R121)/R6 であり、ここでR91//R121はR91とR121との並列抵抗値を意味する。同様に、出力Vo2のフィードバック寄与率D(α2)は式(40)で与えられる。即ち、
D(α2)=α2/(α1+α2) =1/(2+X’) …… (40)
である。
【0128】
ここで、式(40)の結果は、前述の実施例に関連して述べた式(27)のXをX’に置換したものであり、これをグラフで表すと図5のXをX’に置換して与えられる。しかしながら、実際にはX’、即ち、(R91//R121)/R6の分子(R91//R121)はゼロ値を取ることはできない。なぜなら、抵抗R91又はR121は抵抗値ゼロ、即ち、短絡状態を取り得ないからである。実験によれば、搬送モータM2が高速記録紙搬送期間などは、X’=0.5の場合、即ち、式(39)と式(40)よりD(α1)=0.6、D(α2)=0.4のとき、出力電圧Vo2の低下を抑制、かつ安定に制御できることが判明した。この点は図5も併せて参照されたい。
【0129】
既に説明したように、図14に示した従来の回路では、出力Vo2の安定領域(図13の期間T2)では出力Vo2のフィードバックが事実上機能しなかったために、出力電圧Vo2の電圧低下分ΔVfが大きかった。
【0130】
これに対して、図3に示す回路構成では、出力Vo2が出力Vo1を基準として、さらに電圧重畳分ΔVsだけ電圧重畳されて生成され、その上、この電圧重畳分ΔVsの変動を打ち消す方向でフィードバック制御が働く。このため、出力Vo2のアンダシュートやオーバシュートを低減できる上、その安定領域(図6の期間T2)においても、出力Vo2の電圧低下分ΔVfを小さく抑えることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は電源装置及び記録装置に関し、特に、電源装置及び、その電源装置を用い、例えば、インクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体に画像を記録する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ周辺機器であるインクジェットプリンタは近年、スキャナ機能やコピー機能、更にはファクシミリ機能等も包含するマルチファンクションプリンタへと進化しており、そのコスト性能比の高さゆえに、市場への浸透度も年々深まりつつある。
【0003】
一般に、インクジェットプリンタの電源としてはスイッチング電源が使用されており、従来の商用周波数(50/60Hz)で動作するドロッパ式電源は重量、電力変換効率、発熱などの点で劣るため、使用される機会が減りつつある。
【0004】
スイッチング電源は、そのスイッチング方式に基づき幾つかの種類に分類されるが、その回路構成の簡素さやコストの観点から、フライバック方式が最も多く使用されている。最近では、こうしたフライバック方式のための専用の制御ICもメーカ各社から数多く提供されており、比較的容易に高い信頼性を有する回路の設計が可能になった。
【0005】
図8はフライバック方式による従来のスイッチング電源の例を示す回路図である。この例では、IC1が市販のPWM制御ICであり、電流モードのフィードバック制御を実現する。以下、図8に示す回路の動作概略について説明する。
【0006】
商用周波数50Hz又は60Hzの入力電圧がブリッジダイオードBD1により整流され、その後電解コンデンサC1により平滑されて直流電圧Vin(DC)が生成される。この直流電圧Vin(DC)は国内では約140V、欧州圏などの230V地域では約320Vとなる。この直流電圧Vin(DC)がトランスT1に供給されてトランジスタQ1によりスイッチング制御され、その結果、トランスT1の1次側巻線11に蓄えられたエネルギーが2次側巻線12に伝達されて、直流出力電圧Voが生成される。
【0007】
より詳細には、フライバック方式では、図8のトランジスタQ1のターンオン期間にトランスの1次側巻線11(巻線数n1)にエネルギーが蓄えられ、トランジスタQ1のオフ期間にその蓄えられたエネルギーが2次側巻線12(巻線数n2)に伝達される。こうして2次側巻線12に伝達されたエネルギーは、ダイオードD2及び電解コンデンサC4により整流・平滑され、直流出力電圧Voが生成される。出力電圧Voは抵抗R6、R7により分圧され、分圧された電圧が(ノードVref1の電圧)定電圧レギュレータ、いわゆるシャントレギュレータIC3のリファレンス端子(REF)に入力される。
【0008】
図15はシャントレギュレータIC3の説明図である。シャントレギュレータIC3はいわゆるエラーアンプの一種である。図8の例では、カソード(K)は光結合素子IC2と接続され、アノード(A)はグランドに接続されている。従って、アノード電圧Vaは0Vである。シャントレギュレータIC3は、エラーアンプ(比較器)151と内部に設けられた固定基準電圧回路152を有している。シャントレギュレータIC3は、リファレンス端子(REF)に入力されたノードVref1の電圧を、固定基準電圧回路152の出力電圧と比較して電圧Vkを出力する。
【0009】
この例では、IC3のリファレンス端子(REF)に入力される基準電圧Vref1が常にDC2.5Vになるようにその出力電圧であるカソード電圧Vkが制御され、フィードバック制御が達成される。なお、シャントレギュレータの詳細動作説明については、専門書などに委ねることにし、ここでは省略する。なお、図8において、R1、R2、R3、R5は夫々、抵抗であり、C2は別の電解コンデンサである。
【0010】
例えば、出力電圧Voが上昇して、その結果シャントレギュレータIC3の入力電圧Vref1が上昇すると、シャントレギュレータIC3の出力Vkが逆に低下する。その結果、抵抗R9と光結合素子(フォトカプラ)IC2のLED15を通じて流れる電流が増加する。すると、フォトカプラIC2のフォトトランジスタ16を流れるコレクタ電流が増加し、制御IC1のフィードバック端子FBの電位が低下する。そして、最終的に制御IC1のDRV端子から出力されるPWM信号のパルス幅、換言するとオンデューティが低下し、その結果トランジスタQ1のターンオン時間が短縮され(逆にターンオフ時間は増加する)る。その結果、トランスの1次側巻線11に蓄えられるエネルギーが低減し、これにより2次側巻線12に伝達されるエネルギーも低減し、最終的に出力電圧Voが低下する。
【0011】
このようにして、出力電圧Voが上昇すると、それを打ち消すようにフィードバック制御が作用する。逆に出力電圧Voが低下すると、それを上昇させるようにフィードバック制御が作用することで、安定した直流出力電圧Voが得られることになる。より詳細には、図8において破線14で囲んだ回路が、こうしたフィードバック制御のための利得調整、位相調整を担い、系全体を安定に動作させる役割を果たす制御回路である。制御回路14は入力ノード14inと出力ノード14outとを備える。具体的には、破線14内の抵抗R8、コンデンサC5がこうした利得・位相調整用のパラメータに相当する。なお、ここでは破線14で囲んだ回路部分をエラーアンプと呼ぶことにする。
【0012】
さらに図8を参照して説明を続けると、トランスT1には補助巻線13が備えられ、制御IC1のための電源電圧Vccを生成するために使用される。より詳細には、補助巻線13により生成される電圧がダイオードD1と電解コンデンサC3により整流・平滑され、さらにトランジスタQ2とツェナーダイオードZD1によりステップダウンされて、制御IC1の電源電圧Vccが生成される。図8の例では、Vcc=15Vであり、従って、ツェナーダイオードZD1も15V仕様である。なお、制御IC1は、抵抗R4を介してトランジスタQ1と接続されており、トランジスタQ1に流れる電流を検知するためのCS端子と直流電圧Vinを検出するための端子HVを有する。
【0013】
図9は図8に示したスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念を示すブロック図である。
【0014】
図9に示されるように通常、専用ICなどからなるPWM制御部80からスイッチング素子(Q1)を含む駆動部82にPWM制御信号81が送られ、駆動部82がトランス83を駆動する。その結果、トランス83の出力側にエネルギーが伝達され、図8に示す例では整流・平滑回路84を介して出力電圧Vo1が生成される。
【0015】
再度図8を参照して、フィードバック制御の仕組みについて述べると、出力電圧Vo1はその電圧変動がフィードバック電流If1(dc)として検出される。図8の回路では、If1(dc)は式(1)で与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/R6 …… (1)
である。
【0016】
ここで、VrefはシャントレギュレータIC3のリファレンス端子(REF)の基準電位であって、例えば、DC2.5Vである。このフィードバック電流If1(dc)は基準ノードVref1に流入する。一方、ノードVref1から流出する電流Iref1は式(2)で与えられる。即ち、
Iref1=Vref/R7 …… (2)
である。
【0017】
そして、If1(dc)とIref1とが等しくなるように系全体が制御されるので、式(1)と式(2)から式(3)が得られる。即ち、
Vo1=(R6+R7)/R7*Vref …… (3)
である。こうして、式(3)に基づき出力電圧Vo1は制御される。
【0018】
再び図9に戻り説明を続けると、フィードバック・ファクタα1は、フィードバック電流If1(dc)を定義する式(1)において、出力Vo1を変数とみなしたときの係数に相当するので、1/R6となる。また、フィードバック・ファクタα1がフィードバック制御に寄与する度合いD(α1)は1.0となる。なぜなら、図8の回路ではフィードバック制御の対象となる出力が1つしか存在しないからである。それに対し、後述するように、2つの出力を有する電源の場合には、2つの出力の間でフィードバック・ファクタの寄与度を重み付けするために、0<D(αn)<1の値を取る(n=1,2)。図9に戻り、重み付け回路86により重み付けがされたフィードバック信号がエラーアンプ89に入力され、その出力がPWM制御部80に提供され、前述のようなPWM制御が実行される。
【0019】
次に、図8に示すスイッチング電源回路の動作の詳細について、各部の波形を参照しながら説明する。
【0020】
図10は、スイッチング電源におけるトランジスタQ1のドレイン・ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びトランスの2次側巻線12に流れる電流、従って、整流ダイオードD2に流れる電流Is、さらに出力電流Ioを示す信号波形図である。
【0021】
なお、図10は、フライバック方式の中でも電流不連続モードの波形を代表例として示している。なお、当業者には明らかなように、負荷電力が大きくなりPWMのオンデューティが50%以上になると、それまでの電流不連続モードから電流連続モードに遷移するが、本発明の趣旨に直接関わるものでないため、その説明は省略する。
【0022】
図10において、スイッチング動作の基本周期Tは、例えば、動作周波数が60KHzであれば16.7μsecとなる。この間、トランジスタQ1がターンオンしている期間Tonとターンオフの期間Toffとが存在する。さらに、Toff期間には、トランスの2次側巻線12からダイオードD2と電解コンデンサC4を通じ、エネルギーが放出されている期間Toff1と放出が完了しその後再度トランジスタQ1がオンされるまでの待機期間Toff2とが含まれる。Toff2期間中には、図示のように、トランジスタQ1のドレインソース間電圧が共振している様子が分かる。これは一般に、トランスの1次側巻線11のインダクタンス値L1とリーケージ・インダクタンス値LleakとトランジスタQ1のドレインソース間の総キャパシタンス値Clumpとにより形成される共振系に起因する現象である。しかしながら、この現象は本発明の主旨に直接関係しないため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
図10において、図示のような電流不連続モードにおいては、Ton期間中に、トランスの1次側巻線11に、式(4)により与えられるエネルギーが蓄積される。即ち、
P1=1/2*L1*Ip2 …… (4)
である。ここでL1は1次巻線11のインダクタンス値であり、Ipは図10で示されるように、Ton期間に1次側巻線11に流れる電流のピーク値である。
【0024】
次に、単位時間あたりにトランスにより生成されるエネルギーは、式(5)により表される。即ち、
P2=1/2*L1*Ip2*f*η …… (5)
である。ここで、fはスイッチング周波数、ηはトランスのエネルギー変換効率を指し、トランスの1次側で生成されるエネルギー量P1に効率ηを乗じた値が、実際にトランスの2次側に伝達されるエネルギー量である。fは一例では60KHz又は100KHzなどであり、ηは0.95などである。
【0025】
即ち、トランスの1次側で生成されるエネルギーの約95%が2次側に伝達され、残りの約5%がトランスのコアや巻線により熱となって喪失される。なお、参考ではあるが、数十ワット出力のフライバック方式のスイッチング電源の総合効率は、おおよそ85%程度である。上述のトランス単体での損失の他にも、入力部のEMIフィルタ回路(不図示)による損失、スイッチング素子Q1による損失、2次側回路内の整流素子D2による損失、その他、図8の回路内の抵抗素子による損失などが含まれる。
【0026】
再び図10を参照して説明を続けると、式(4)では、Ton期間に蓄積されるエネルギーP1が、Toff1期間にトランスの2次側巻線12に伝達される。このスイッチング制御方式をフライバック方式という。これに対し、トランジスタQ1のTon期間中にトランスの1次側から2次側にエネルギーが伝達される方式が存在し、これをフォワード方式と称す。詳細については、専門書を参照されたい。
【0027】
ところで、図8に示す回路では、出力電圧として1つの出力Vo、例えば、DC24Vだけが生成される。しかしながら、インクジェットプリンタでは、例えば、図11に示されるように、出力電圧Voは記録ヘッド3やモータドライバ44に供給され、さらにDC−DCコンバータ45にも供給されて、何種類かのロジック回路電圧を生成するためにも使用される。
【0028】
図11はインクジェットプリンタの電力供給部の構成を示すブロック図である。
【0029】
こうしたロジック回路電圧には、例えば、CPUやASICのコア電圧として使用されるDC1.5V、ASIC入出力部(I/O)やメモリデバイスに供給されるDC3.3V、及びセンサ類や表示器などに供給されるDC5Vなどが含まれる。なお、図11に示すように、モータドライバ44に接続されるモータには、搬送モータM2や記録ヘッド3を搭載して走査するキャリッジを駆動するキャリッジモータM1を含む。さらに最近のマルチファンクションプリンタ(MFP)では、スキャナユニットを走査するスキャナ(SC)モータM3などが含まれる。また、最近の省電力化の要求を満たすために、プリンタのスタンバイ状態やスリープ状態において、電源回路42を間欠発振などに導くための省エネ制御信号(Esave)なども標準的に備えられる。
【0030】
図11に示す構成の例では、記録ヘッド3の駆動電圧とモータドライバ44の電圧の両方が1つの出力電圧DC24Vで示されている。しかしながら、最近のプリンタの高速化傾向により、モータ駆動電圧として、より高いDC27VやDC32Vなどが使用されるケースも増えつつある。こうしたケースでは、記録ヘッド駆動電圧(DC24V)とモータ駆動電圧(例えばDC32V)の2つの出力が生成される。
【0031】
図12は2つの出力電圧を有するスイッチング電源回路の例を示す回路図である。図12において、図8と共通の構成要素は同じ記号や同じ参照番号で示されている。
【0032】
図8に示した回路との大きな違いは、生成される出力電圧がVo1とVo2の2種類存在することで、例えば、出力Vo1はヘッド駆動電圧に当たるDC24Vであり、出力Vo2はモータ駆動電圧に当たるDC32Vである。また、これら2種類の出力電圧を生成するためにトランスT9の2次側には2つの巻線12(巻線数n2)及び12a(巻線数n3)が設けられ、巻線12(巻線数n2)から出力電圧Vo1が、巻線12a(巻線数n3)から出力電圧Vo2が生成される。なお、Is1とIS2とはそれぞれ、巻線12、12aからの出力電流である。当業者には明らかなように、巻線12aと12aとは中間タップ51を経由して構成されてもよいし(各巻線n2、n3がトランスの特定のピン端子を共有する)、或いはそれぞれの巻線が独立に巻かれてもよい。
さて、追加された巻線12aからの整流・平滑回路として、ダイオードD51と電解コンデンサC51が設けられる。また、シャントレギュレータIC3の入力端子(REF)には、出力電圧Vo1からのフィードバックに加え、出力電圧Vo2からのフィードバックも入力される。但し、出力電圧Vo1からのフィードバックは抵抗R6を介しDCカップリング(直流結合)で構成されるのに対し、出力電圧Vo2からのフィードバックは、抵抗R51とキャパシタC52によるACカップリング(交流結合)で構成される(図中の破線52)。
【0033】
なぜなら、前述のように、出力電圧Vo1は記録ヘッドの駆動電圧となるため非常に高精度を求められるのに対し、出力電圧Vo2はDCモータなどを駆動するための電圧であるため、ある程度の変動は許容される。従って、出力電圧Vo2については、モータ起動時など、瞬時に大きな電流が供給されるタイミングにおいて、極端な電圧低下を回避するために、ACカップリングによるフィードバックが使用される。換言すると、図12に示す回路の例では、出力電圧Vo1のフィードバックが常に優先される。一方、出力電圧Vo2については瞬間的な大きな負荷変動に対してのみ、抵抗R51とキャパシタC52とによるCR時定数で決まるフィードバック・ファクタに応じたフィードバック制御が実現される。
【0034】
なお、2つの出力電圧を生成するスイッチング電源回路のフィードバック制御に関する先行技術の例として、以下のような特許文献1がある。
【0035】
特許文献1は、複数の出力電圧のそれぞれの負荷電流に応じて、フィードバック制御の対象とする出力電圧を選定する方法を開示している。特許文献1によれば、負荷電流の大きい方の出力電圧を選定してフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開平6−178537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
しかしながら、図12に示すような従来回路には次のような問題がある。即ち、出力電圧Vo2のフィードバックがACカップリングであるため、記録動作シーケンスで、例えば、記録媒体の高速搬送だけの実行期間など記録ヘッド駆動が通常、休止状態であるにも関わらず、記録ヘッド電圧Vo1のフィードバックが優先されてしまう。このために、結果的にモータ駆動電圧Vo2が大きく変動してしまい、モータのサーボ制御に悪影響を及ぼしてしまう。このため、実際には、従来でもこうしたサーボ制御の安定性が維持される範囲内で、モータの高速制御を実現していた。
【0038】
一方、図12の回路において、モータ駆動電圧にあたる出力Vo2のフィードバックについても出力Vo1同様にDCカップリングにする構成も考えられる。この場合、それぞれの出力の間で相対的なフィードバック・ファクタ比を決定する必要があり、記録ヘッド電圧にあたる出力Vo1のそれを大きくすると、出力Vo1の安定性は維持される。しかしながら、モータ駆動時や停止時などにモータ駆動電圧Vo2のオーバシュートやアンダシュートによる変動がACカップリングの場合よりも大きくなってしまう。逆に、出力Vo2のフィードバック・ファクタを大きくすると、記録ヘッド電圧Vo1の変動が大きくなり、画像品位を大きく劣化させることになる。
【0039】
図13は、図12に示す2出力電圧のスイッチング電源回路の各部の電圧・電流波形を示す信号波形図である。
【0040】
例えば、搬送モータM2の起動時(t=t1)に、モータ駆動電圧に相当する出力Vo2の負荷電流Io2がピーク電流Ip1だけ引かれると、その瞬間Vo2はVp21まで低下する(アンダシュート)。それに伴って図示のフィードバック電流If2(ac)がノードVref1からCR回路52に向けて流出し、ノードVref1の電位がその電流流出分だけ低下する。
【0041】
その結果、シャントレギュレータIC3の出力電位Vkは上昇し、制御IC1によるPWM制御のオンデューティが増加して、トランスT9により生成されるエネルギーが増加し、出力電圧Vo2の低下を阻止するようなフィードバック制御が働く。しかしながら、図12に示す回路では、時刻t=t2において出力電流Io2がIp2に安定後も、出力電圧Vo2は時刻t=t1以前のレベルVp20に比べ、ΔVfだけ低下し、レベルVp22になってしまう。
【0042】
なぜなら、図12に示す構成から明らかなように、出力電圧Vo2が安定している期間は、当該出力のフィードバックはACカップリングのため機能せず、事実上、出力Vo1のフィードバックだけが有効となるからである。換言すると、T2期間の間は、出力Vo2のフィードバックは直流的には無制御となるため、その負荷電流が大きくなるほど、電圧が低下する傾向を示す。一例を挙げると、図11の搬送モータM2による高速記録媒体搬送期間では、モータ駆動電圧Vo2の電圧低下分ΔVfは3〜4V程度に達する。
【0043】
図13を再度参照して説明を続けると、時刻t=t3では搬送モータM2の駆動が停止し、電流Io2がゼロに復帰する。それに伴い、出力Vo2が一瞬Vp23まで上昇し(オーバシュート)、そのためフィードバック電流If2(ac)が逆にCR回路52からノードVref1に向けて流れ込む。その結果、ノードVref1の電位が上昇し、シャントレギュレータIC3の出力電位Vkが低下し、制御IC1によるPWM制御のオンデューティが低下して、トランスT9により生成されるエネルギーが減少する。このように、出力電圧Vo2の上昇を阻止するようなフィードバック制御が働く。
【0044】
なお、図13が示しているように、時刻t=t1、t3において、もう一方の出力Vo1はVo2電圧の大きな変動の影響を受け、Vo2と逆の方向に多少変化する。即ち、出力Vo2の大きな変動の瞬間、出力Vo1の出力電流Io1は図示のように穏やかな変化しかしていない。そのため前述したように、Vo2の変動に起因するフィードバック制御によるトランスからの大きなエネルギーの伝達により、出力電圧Vo1が時刻t=t1において少し上昇し、図示のようにVp1レベルまで達する。同様に、時刻t=t3においては、逆に出力Vo1がVp12レベルまで僅かに低下する。
【0045】
図14は、図12に示した2出力電圧のスイッチング電源回路のフィードバック制御構成を示すブロック図である。図9を参照して述べた1出力電圧のスイッチング電源回路の場合との違いは、図14に示すように、トランス83が2つの出力(83a、83b)を有し、各出力は整流・平滑回路84aと84bをそれぞれ介し、出力Vo1とVo2として生成される点である。また、各出力Vo1、Vo2からの各フィードバック成分はフィードバック・ファクタα1、α2により夫々、重み付け回路86、87により重み付けされる。これら重み付けされたフィードバック成分が合成器88で合成され、その合成結果がエラーアンプ89により処理されて、最終的にPWM制御部80にフィードバックされる。これにより、スイッチング素子(Q1)を含む駆動部82がPWM制御され、トランス83の生成エネルギーが制御される。
【0046】
特に、出力電圧Vo1の変化はフィードバック・ファクタα1でフィードバック制御に反映され、出力電圧Vo2の変化はフィードバック・ファクタα2でフィードバック制御に反映される。後述のように、これらのフィードバック・ファクタα1及びα2は、それぞれの対応する出力がフィードバック制御に寄与する度合いに相当する。
【0047】
図12と図14を参照して説明を続けると、出力電圧Vo1のフィードバックはDCカップリングであるため、出力端子Vo1からシャントレギュレータIC3のリファレンス端子Vref1に向けて、常時一定のフィードバック電流If1(dc)が流れ込む。ここで、If1(dc)は、式(6)で与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/ R6 …… (6)
である。ここで、基準電圧Vrefは、例えば、DC2.5Vである。一方、出力電圧Vo2のフィードバックはACカップリングであるため、出力電圧Vo2の安定時には、出力端子Vo2からノードVref1に流れ込むフィードバック電流If2(ac)は、キャパシタC52により遮断されゼロとなる。従って、Vo2が安定状態のときにノードVref1に流入する電流の総和は、式(7)となる。即ち、
If1(dc)+If2(ac)≒If1(dc)(∵If2(ac)≒0) …… (7)
である。
【0048】
従って、式(6)〜式(7)から、式(8)が得られる。即ち、
If1(dc)+If2(ac)≒(Vo1−Vref)/R6 …… (8)
である。
【0049】
また、式(8)からフィードバック・ファクタα1とα2が式(9)のように求まる。即ち、
α1=1/R6, α2=0 …… (9)
である。なぜなら、式(8)において、出力電圧Vo1とVo2を変数とみたときに、それぞれの係数がフィードバック・ファクタに相当するが、実際には変数Vo2は式(8)に現われず、α2はゼロとなる。
【0050】
次に、式(9)からα1のフィードバック寄与率D(α1)を求めると、式(10)〜式(11)のように求まる。即ち、
D(α1)=α1/(α1+α2) …… (10)
=1.0
D(α2)=0 …… (11)
である。
【0051】
以上のことから、出力電圧Vo2の安定期間(図13の期間T2)では、出力Vo1だけがフィードバックに寄与することが分かる。
【0052】
一方、図12において、ノードVref1から流出する電流Iref1は、
Iref1 = Vref/R7 …… (12)
であり、シャントレギュレータIC3を含むエラーアンプ14の作用により、ノードVref1に流入する電流と、当該ノードから流出する電流とが等しくなるように制御されることから、式(13)が成立する。即ち、
If1(dc)+If2(ac)=Vref/R7 …… (13)
である。ここで、式(7)より、式(14)が得られる。即ち、
If1(dc)≒Vref/R7 …… (14)
である。
【0053】
一方、図13の期間T1のように、モータ駆動電圧が瞬時に変動するような場合、例えば、搬送モータM2やキャリッジモータM1の起動時には、出力Vo2から大電流を供給するために寄与する電圧分が引かれる。このため、仮に出力Vo2のフィードバックを考慮しない場合、その瞬間に出力電圧Vo2が大きな電圧低下を生じてしまい、その結果、モータのサーボ制御が不調になる可能性がある。そのために、図12に示した回路では、出力Vo2のACカップリングによるフィードバックを採用することで、こうした出力Vo2の瞬時変動に対し、次のようなフィードバック補正を実施する。即ち、出力Vo2の電圧変動分をΔVpとすると、出力Vo2からのフィードバック電流If2(ac)が、ノードVref1からCR回路52(図12参照)に流出する。
【0054】
If2(ac)=−ΔVp /R51*exp(−T/CR) …… (15)
ここで、式(15)のマイナス記号は、ノードVref1からの電流の流出を意味する。また、式(15)のCR時定数のCはキャパシタC52の値、Rは抵抗R51の値、変数Tはモータ起動時からの経過時間、従って、図13における時刻t=t1からの経過時間に相当する。さらに、電流If2(ac)の流出分だけ、ノードVref1の電位が低下する様子が、図13に示すVref1の期間T1から明らかである。図13において、Ifp21は時間間隔T1における電流If2(ac)の最大値を示し、Ifp22は時間間隔T3における電流If2(ac)の最大値を示す。また、図13において、時刻t=t1〜t2までの時間間隔T1が、式(15)のCR時定数に関連付けられる。
【0055】
以上のことから、図13の期間T1では、式(6)と式(15)とから、フィードバック電流の総和が次のように求まる。即ち、
If1(dc)+If2(ac)=
(Vo1−Vref)/R6−ΔVp/R51*exp(−T/CR) ……(16)
である。式(16)から、変数Vo1と変数ΔVpのそれぞれの係数、即ち、フィードバック・ファクタが、式(17)、式(18)のように求まる。即ち、
α1=1/R6 ……(17)
α2=−1/R51*exp(−t/CR) ……(18)
である。
【0056】
式(18)において、α2のマイナス記号は出力電圧Vo2が低下したことを示し、逆にプラス記号は出力電圧Vo2が上昇したことを示す。また式(18)から、図12の抵抗R51が小さいほど時刻t=0におけるフィードバック・ファクタが大きいことが分かる。
【0057】
即ち、抵抗R51が小さいほど、ノードVref1から流出する電流が大きくなり、結果的に出力電圧Vo2の変化を感度良くノードVref1に反映し、後段のエラーアンプ14に伝達することになる。但し、抵抗R51の値を小さく設定し過ぎると、フィードバック・ファクタα2の影響が大きくなりすぎて、出力電圧Vo2の変動時からの復帰時に過剰なオーバシュートやアンダシュートを生じたり、もう一方の出力Vo1に悪影響を与える可能性がある。
【0058】
また、式(18)から明らかなように、出力Vo2のフィードバック・ファクタには指数関数が含まれる。このために、例えば、起動電流の異なる複数のモータ(キャリッジモータM1、搬送モータM2、スキャナモータM3など)が存在する場合などには、1種類のCR時定数で全ての制御を最適に制御することが困難である。
【0059】
以上述べたように、図12に示すような従来の2出力電圧のスイッチイング電源回路では、起動電流の異なる複数のモータの起動時などにおいて、それに伴うモータ駆動電圧の瞬時変動に際し、最適なフィードバック・ファクタを選定できないという問題がある。さらにモータがほぼ整定状態になって以降、モータ駆動電圧のフィードバック・ファクタα2が事実上ゼロとなってしまい、結果的にその出力電圧の低下を招いてしまう問題があった。その結果、図12に示すような従来の回路では、記録ヘッド駆動電圧は高精度に維持できる一方で、高速に記録媒体を搬送する期間などにおいてモータ駆動電圧が低下してしまい、高速スループットを実現することが難しいという課題があった。
【0060】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、電源装置と、記録ヘッド駆動電圧を高精度に制御する一方、モータ駆動電圧についても記録動作シーケンスに応じて要求される安定度を実現することができる記録装置とを提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0061】
上記目的を達成するために本発明の電源装置は次のような構成からなる。
【0062】
即ち、1次巻線と第1の2次巻線と第2の2次巻線とを有する変圧手段と、 前記第1の2次巻線で生成された電圧から第1の直流電圧を生成する第1の直流電圧生成手段と、 前記第1の直流電圧に前記第2の2次巻線で生成された電圧が重畳された電圧から、第2の直流電圧を生成する第2の直流電圧生成手段と、前記1次巻線への通電を行うスイッチ手段と、前記第1の直流電圧生成手段の出力部、前記第1の直流電圧生成手段の出力部及びグランドと、それぞれ抵抗を介して接続された電圧の入力部を有し、前記電圧の入力部に入力される電圧が一定になるように前記スイッチ手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0063】
また本発明を別の側面から見れば、上記記載の電源装置と、第1の直流電圧が供給される記録ヘッドと、第2の直流電圧が供給されるモータと、前記記録ヘッドと前記モータを制御する制御部とを有することを特徴とする記録装置を備える。
【0064】
さらに本発明を別の側面から見れば、記録ヘッドとモータとを有する記録装置であって、前記記録ヘッドを駆動するための第1の出力電圧と前記第1の出力電圧よりも高く前記モータを駆動するための第2の出力電圧とを生成するスイッチング電源回路を備え、前記スイッチング電源回路は、第1の2次巻線により前記第1の出力電圧を生成し、第2の2次巻線により前記第1の出力電圧に重畳される重畳電圧を生成するトランスと、前記トランスを駆動する駆動部と、前記第1の出力電圧を整流・平滑する第1の整流・平滑回路と、前記重畳電圧を整流・平滑する第2の整流・平滑回路と、前記第2の整流・平滑回路により整流・平滑された前記重畳電圧を前記第1の整流・平滑回路により整流・平滑された前記第1の出力電圧に加算して前記第2の出力電圧を出力する加算手段と、前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧をそれぞれ、DCカップリングによりフィードバックし、該フィードバックされた前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧を第1のフィードバック・ファクタと第2のフィードバック・ファクタによりそれぞれ調整し、該調整されたそれぞれのフィードバック成分を合成して増幅し、該合成し増幅されたフィードバック成分により前記駆動部をPWM制御するフィードバック制御手段とを有することを特徴とする記録装置を備える。
【発明の効果】
【0065】
従って本発明によれば、同一のトランスから生成される2つの出力電圧の間で、各出力電圧に対応するフィードバック・ファクタを適宜変更可能にすることが可能になる。これにより、記録動作シーケンスに応じて、それぞれの出力電圧のフィードバック・ファクタを定量的に制御し、結果として高品位画像な記録に加え、高速な記録媒体搬送などによるスループット向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】本発明のスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念図である。
【図4】本発明のスイッチング電源回路の第1の実施例を示す図である。
【図5】パラメータXとフィードバック寄与率との関係を示す図である。
【図6】図4の回路の各部の電圧・電流波形を示す図である。
【図7】本発明のスイッチング電源回路の第2の実施例を示す図である。
【図8】従来のフライバック方式によるスイッチング電源の例を示す回路図である。
【図9】図8に示すスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念を示すブロック図である。
【図10】図8に示すスイッチング電源回路の各部の電圧及び電流波形を示す信号波形図である。
【図11】インクジェット記録装置の電力供給部の構成を示すブロック図である。
【図12】2つの出力電圧を生成する従来のスイッチング電源の例を示す回路図である。
【図13】図12に示すスイッチング電源回路の各部の電圧・電流波形を示す信号波形図である。
【図14】図12に示すスイッチング電源回路のフィードバック制御の概念を示すブロック図である。
【図15】シャントレギュレータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0068】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0069】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0070】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0071】
<記録装置の概要説明(図1〜図2)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いて記録を行なう記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0072】
図1に示すようにインクジェット記録装置(以下、記録装置)1はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0073】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6を装着する。インクタンク6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0074】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0075】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。なお、記録装置は、上述したシリアルタイプの記録装置に限定するものではなく、記録媒体の幅方向に吐出口を配列した記録ヘッド(ラインヘッド)を記録媒体の搬送方向に配置するいわゆるフルラインタイプの記録装置にも適用できる。
【0076】
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0077】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0078】
また、図2において、610は画像データの供給源となる図1に示したホストやMFPに対応するホスト装置である。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス等をパケット通信により送受信する。このパケット通信については後で説明する。なお、インタフェース611としてUSBインタフェースをネットワークインタフェースとは別にさらに備え、ホストからシリアル転送されるビットデータやラスタデータを受信できるようにしても良い。
【0079】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0080】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。この実施例では、この他にもインク残量を検出するフォトセンサが設けられる。このフォトセンサの詳細について後述する。
【0081】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0082】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。加えて、この記録装置には、ユーザインタフェースとしてLCDやLEDで構成される表示部が備えられている。
【0083】
次に、以上の構成の記録装置の各部に電力を供給するスイッチング電源回路について説明する。
【0084】
図3は2出力電圧(2つの異なる電圧生成を行うこと)を備えるスイッチング電源回路のフィードバック制御構成を示すブロック図である。なお。図3において、前述した図14の従来のフィードバック制御構成において説明したのと同じ構成要素や信号には同じ参照番号や同じ参照記号を付し、その説明は省略する。ちなみに、整流・平滑回路83aを第1の整流・平滑回路、整流・平滑回路84bを第2の整流・平滑回路という。
【0085】
図14に示した従来の構成との大きな違いには、以下の3つの要素がある。即ち、
(1)モータ駆動電圧Vo2が記録ヘッド駆動電圧Vo1を基準として、電圧重畳されて生成される点、
(2)出力電圧Vo1とVo2の両方がDCカップリングによりフィードバックされる点、
(3)出力電圧Vo1とVo2のフィードバック・ファクタα1とα2が、相対的に可変に制御可能な点である。
【0086】
こうした構成により、第2の出力電圧Vo2が式(19)のように生成される。即ち、
Vo2=Vo1+ΔVs …… (19)
である。ここで、Vo1は第1の出力電圧、ΔVsは出力Vo1に対して重畳される電圧、Vo2は第2の出力電圧である。図3から分かるように、加算部803において、第1の出力電圧Vo1に重畳電圧ΔVsが加算されて第2の出力電圧Vo2が生成されている。
【0087】
従って、Vo1を安定に制御すれば、Vo2の変動は重畳電圧ΔVsだけに依存することになる。換言すると、出力電圧Vo2の安定度が出力電圧Vo1の安定度に依存するため、Vo1の安定度を良好に維持し、かつ重畳電圧ΔVsを安定に保てば、即ち、重畳電圧ΔVsに対し一定のフィードバックを行えば、出力電圧Vo2も安定に制御することができる。
【0088】
なお、図3において、出力Vo1のフィードバック・ファクタはα1であり、出力Vo2のフィードバック・ファクタはα2である。ここで、α1を第1のフィードバック・ファクタ、α2を第2のフィードバック・ファクタという。これらのファクタによって、出力電圧Vo1とVo2それぞれのフィードバックの寄与率が調整される。そして、合成器88において、各フィードバック成分が加算され、その結果がエラーアンプ89に入力されて増幅され、最終的にPWM制御部80によりスイッチング素子(Q1)を含む駆動部82がPWM制御され、トランス83の生成エネルギーが制御される。その結果、各出力のフィードバック・ファクタに応じたフィードバック制御が実現される。即ち、図3の構成について、別の表現をすると、駆動部82は、トランス(変圧手段)の1次巻線の通電を行うためのスイッチ部である。また、PWM制御部80とエラーアンプ89は、スイッチ手段を制御する制御部を構成している。なお、PWM制御の概要については、図8〜図10を参照して前述したとおりである。
【0089】
さらに、図3に示す構成では、フィードバック・ファクタα1とα2が制御信号(Cont)により、記録装置の記録動作シーケンスに応じて任意に制御される。より詳細には、後述するように、記録期間中は記録ヘッド駆動電圧Vo1を優先的に制御するように、各フィードバック・ファクタが選択されるが、記録媒体搬送時などには、モータ駆動電圧Vo2の変動を抑制するようにフィードバック・ファクタが選択される。
【0090】
図4は、図3に示したフィードバック制御を実現する2電圧出力のスイッチング電源の構成を示す回路図である。なお、ダイオードD2とコンデンサC4で構成される回路は、別の表現をすると、第1の直流電圧生成回路である。ダイオードD91とコンデンサC91で構成される回路は、別の表現をすると、第2の直流電圧生成回路である。次に、図3の構成と図4の構成の対応関係について、補足説明をする。図4のスイッチング素子(Q1)は、図3の駆動部82に含まれる。図4の制御IC1は、図3のPWM制御部80に含まれる。図4の制御回路14は、エラーアンプ89に含まれる。
【0091】
なお。図4において、前述した図12の従来のスイッチング電源において説明したのと同じ構成要素や信号には同じ参照番号や同じ参照記号を付し、その説明は省略する。
【0092】
図4と図12とを比較すると分かるように、図12に示した従来回路との相違は次の点にある。即ち、トランスT9の第1と第2の出力巻線12(巻線数n2)、12a(巻線数n3)を中間タップなしに独立に設ける。そして、出力Vo1の整流・平滑後のノード91を起点に出力巻線12aを回路接続し整流・平滑回路のダイオードD91とコンデンサC91を通じ、出力Vo2を生成する点にある。
【0093】
この構成により、出力電圧Vo2が安定化出力電圧(第1の直流電圧)Vo1に重畳する形で生成される。このため、結果的に出力電圧(第2の直流電圧)Vo2も出力電圧Vo1の安定化の恩恵を受けることができ、結果的に図12に示した回路に比べて、より安定な出力Vo2を得ることができる。さらに、この実施例では、出力Vo1とVo2の両方がDCカップリングによりフィードバック制御されるため、図12に示す従来回路の場合に比べ、出力Vo2を定量的に安定化させることができる。
【0094】
さらに別の利点として、整流ダイオードD91の耐圧が、図12に示したダイオードD51に要求される耐圧に比べて、整流ダイオードに求められるピーク逆電圧VRmが、小さくなるために緩和される。
【0095】
即ち、図12に示す従来の回路の場合には式(20)
VRm =Vin(dc)*(n2+n3)/n1+Vo2+Vr …… (20)
で与えられる。
【0096】
これに対し、この実施例の場合には、
VRm =Vin(dc)*n3/n1+Vo2 +Vr …… (21)
となる。この2つの式を比較すると、トランス巻線比に依存する項、即ち、式(20)と式(21)の第1項を比べると、式(20)の場合には1次平滑DC電圧Vin(dc)の乗数が(n2+n3)/n1であるのに対し、式(21)ではn3/n1である。即ち、後者の場合の方がその値が小さくなり、結果的にピーク逆電圧VRmが小さくなるのである。なお、式(20)〜式(21)において、1次平滑DC電圧Vin(dc)は入力電圧AC100V〜AC240Vを整流・平滑した結果の直流電圧である。VrはトランスT9の2次巻線12(巻線数n2)及び12a(巻線数n3)に関連付けられる漏れインダクタンスに起因するサージ電圧である。ここで、12は第1の2次巻線、12aは第2の2次巻線という。
【0097】
例えば、Vo1がDC24V、Vo2がDC32Vとする場合、図12に示す従来の回路のダイオードD51のピーク逆電圧VRmが200V〜250Vなのに対し、図4に示すこの実施例の回路のダイオードD91のVRmは、60V程度で十分である。
【0098】
再び図4に戻り説明を続けると、制御回路14は、入力部14(in)と出力部14(out)を有する。入力部14(in)は、抵抗R6(第1の抵抗)、抵抗R91(第2の抵抗)、抵抗R71の一方の端子とそれぞれ接続されている。抵抗R6の他方の端子はノード91と接続されている。抵抗R91の他方の端子はノード92と接続されている。抵抗R7の他方の端子はグランドと接続されている。なお、入力部14(in)はシャントレギュレータIC3のREF端子と接続されている。出力部14(out)はIC1のFB端子と接続されている。
【0099】
出力電圧Vo1のフィードバックは抵抗R6を通じ、DCカップリングにより実現され、出力電圧Vo2のフィードバックは抵抗R91を通じ、同様にDCカップリングにより実現される。前述したように、図12に示した従来の回路では、出力Vo2のフィードバックがACカップリングであり、もしこれをDCカップリングにした場合、高精度が要求される出力Vo1の電圧変動が大きくなってしまうという問題があった。
【0100】
ここで、図4に示すこの実施例の回路では出力Vo2の電圧変動が抑えられる理由について詳述する。
【0101】
図4に示すように、出力Vo2は出力Vo1を基準とし、それに対し巻線12aにより生成される電圧増分ΔVsが重畳されて生成される。従って、図3を参照して前述したように、出力電圧Vo2は式(22)により与えられる。即ち、
Vo2=Vo1+ΔVs …… (22)
である。
【0102】
また、図4に示す回路では、フィードバック・ファクタにあたるフィードバック電流If1(dc)とIf2(dc)の両者ともにDCカップリングにより生成され、それぞれ式(23)、式(24)により与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/R6 …… (23)
If2(dc)=(Vo2−Vref)/R91 …… (24)
である。
【0103】
従って、ノードVref1における合成電流は、式(22)〜式(24)から式(25)のように求まる。即ち、
If1(dc)+If2(dc)
=(Vo1−Vref)/R6+(Vo2−Vref)/R91
=(Vo1−Vref)/R6+(Vo1+ΔVs−Vref)/R91
=(1/R6+1/R91)*Vo1+ΔVs/R91
−(1/R6+1/R91)*Vref ……(25)
である。
【0104】
式(25)において、右辺第1項はVo1が変数、右辺第2項は電圧増分ΔVsが変数、右辺第3項は定数項である。従って、仮に出力電圧Vo1が安定に維持されていれば、フィードバック合成電流If1(dc)+If2(dc)の変化は、ΔVs/R91に依存することになる。即ち、前述のように、図12の従来回路では、出力Vo2の安定領域(図13の期間T2)では出力Vo2のフィードバックが機能しなかったために、出力電圧Vo2の電圧低下分ΔVf(図6)が大きかった。これに対し、図4の回路では式(25)の右辺第2項が有効となり、出力Vo2の変動を打ち消す方向でフィードバック制御が働くため、出力Vo2の安定領域において、出力電圧Vo2の電圧低下分ΔVfが小さく抑えられる。これに関しては、図6に示す電圧・電流波形の信号波形図を参照して後述する。
【0105】
ここで、式(25)より、出力Vo1の変化と電圧増分ΔVsの変化がそれぞれフィードバックに寄与する度合いについて考察する。それぞれのフィードバック・ファクタをα1、α2とすると、式(26)の関係が成り立つ。即ち、
α1=1/R6+1/R91 …… (26)
α2=1/R91
である。
【0106】
ここで、式(25)の右辺第1項及び右辺第2項の係数がそれぞれα1、α2に対応する。従って、フィードバック・ファクタの合計に占めるα1の比率、即ち、出力Vo1のフィードバック寄与率D(α1)を求めると、式(27)のようになる。即ち、
D(α1)=α1/(α1+α2)=(1+X)/(2+X) …… (27)
である。なお、式(27)において、X=R91/R6である。同様に、出力Vo2のフィードバック寄与率D(α2)は式(28)で与えられる。即ち、
D(α2)=α2/(α1+α2)=1/(2+X) …… (28)
である。ここで式(27)の結果を図5に示す。
【0107】
図5は出力Vo1のフィードバック寄与率D(α1)の変化を示す図である。
【0108】
図5から分かるように、X=0のとき、式(27)の左辺、即ち、Vo1のフィードバック寄与率は0.5であり、X=3のときの寄与率が0.8、X=8のときの寄与率が0.9、さらにXを大きくするにつれ、寄与率は1.0に近づく。この実施例に関連した実験データによれば、X=3のとき、従って、Vo1のフィードバック寄与率が0.8のとき、記録ヘッド駆動電圧Vo1とモータ駆動電圧Vo2の両方を最もバランスよく維持・制御できることが判明した。これはVo2のフィードバック寄与率が0.2となることも示唆する。
【0109】
図6は図4に示したスイッチング電源回路における各部の電圧・電流波形を示す信号波形図である。図6を図13に示した従来例と比較するなら、時刻t=t2で第2の出力電圧Vo2が復帰した後の電圧レベルVp22が、時刻t=t1以前のレベルVp20よりも僅かに低いだけであることが分かる。図13を参照して前述したように、従来例ではこの電圧低下分ΔVfが3〜4Vに達したが、図4に示したスイッチング電源回路では1.0V程度に抑えることができる。
【0110】
従って以上説明した実施例に従えば、モータ駆動電圧として用いられる第2の出力電圧についてもフィードバック制御により電圧降下を少なく抑えることが可能となる。これにより、モータのサーボ制御も正常に行うことができる。
【0111】
<他の実施例>
なお、スイッチング電源回路の構成は以上説明した実施例に限定されるものではない。
【0112】
図7は、他の実施例に従うスイッチング電源回路の構成を示す図である。この実施例に従う回路の特徴は、ブロック121(後で詳述)が追加されていることである。なお、図7において、既に説明した図4に示したスイッチング電源回路と同じの構成要素には同じ参照記号又は同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0113】
図7を参照して説明を続けると、ブロック121の機能は制御信号Contにより、フィードバック・ファクタα1及びα2を変更することである。制御信号Contは抵抗R123を介してトランジスタQ121のベースに入力される。制御信号Contがローレベルのときは、トランジスタQ121がオフとなり、その結果次段のトランジスタQ122もオフとなるため、ブロック121の部分が回路全体に影響は与えない。その結果、フィードバック・ファクタα1、α2は、式(26)に示すように、図4を参照して説明した値となる。
【0114】
一方、制御信号Contがハイレベルの時はトランジスタQ121がオンし、その結果トランジスタQ122もオンとなり、抵抗R91を流れるフィードバック電流If2(dc)と並列に抵抗R121を通じてフィードバック電流If3(dc)が流れる。その結果、ノードVref1にはIf1(dc)とIf2(dc)とIf3(dc)の合成電流が流れ込む。これらの電流は夫々、式(29)、式(30)、式(31)で与えられる。即ち、
If1(dc)=(Vo1−Vref)/R6 …… (29)
If2(dc)=(Vo2−Vref)/R91 …… (30)
If3(dc)=(Vo2−Vref)/R121 …… (31)
である。
【0115】
さらに、前述の実施例と同様に、式(32)が成立する。即ち、
Vo2=Vo1+ΔVs …… (32)
である。
【0116】
従って、ノードVref1における合成電流は、これらの式から式(33)のように求まる。即ち、
If1(dc)+If2(dc)+If3(dc)
=(Vo1−Vref)/R6+(Vo2−Vref)/R91+(Vo2−Vref)/R91
=(1/R6+1/R91+1/R121)*Vo1
+(1/R91+1/R121)*ΔVs
−(1/R6+1/R91+1/R121)*Vref ……(33)
である。
【0117】
式(33)において、右辺第1項はVo1が変数、右辺第2項は電圧増分ΔVsが変数、右辺第3項は定数項である。従って、仮に出力電圧Vo1が安定に維持されていれば、フィードバック合成電流If1(dc)+If2(dc)+If3(dc)の変化は、右辺第2項、即ち、(1/R91+1/R121)*ΔVs に依存する。
【0118】
式(33)を図4に関連して説明した式(25)と比較するなら、変数ΔVsの係数が大きくなっていることが分かる。つまり、式(25)では係数が1/R91であったのに対し、式(33)では (1/R91+1/R121) であって、結果的に変数ΔVsの所与の変化に対し、右辺第2項の変化が大きくなる。即ち、図7に示した回路では、図4に示した回路と比較して、出力電圧Vo2の変化をより大きく反映したフィードバック制御が実現できる。
【0119】
さて、図7に示す回路おいて、トランジスタQ121がオンすると、ノードVref1に流れ込むフィードバック電流If1(dc)とIf2(dc)とIf3(dc)の総和が、抵抗R7を通じて流出する。さらに、これ以外にも、破線で囲まれたブロック122を介し、トランジスタQ121にも流出する。
【0120】
なお、ブロック122は抵抗R124とダイオードD121の直列回路を含む。この直列回路が必要な理由は次の通りである。即ち、ノードVref1に流れ込む電流の総和とノードから流れ出す電流の総和とが等しく、かつノードVref1の電位が常にDC2.5Vに維持されるように制御される。従って、制御信号ContがハイのときにトランジスタQ121がオンすることで、ノードVref1に流入するフィードバック電流の増加分、即ち、If3(dc)を収容する(換言すると流出させる)新たな電流経路の形成が必要となることによる。抵抗R124とダイオードD121の直列回路は正にこの電流経路に相当する。
【0121】
仮にこの電流経路が存在しないと、制御信号Contがハイのときに、出力電圧Vo1とVo2が本来の設定電圧であるDC24VとDC32Vよりもそれぞれ低下する。即ち、元来の出力電圧からレベル変化するのである。これは次の理由による。即ち、フィードバック電流If1(dc)とIf2(dc)とIf3(dc)の総和が、基準抵抗R7に流れる電流値、即ち、DC2.5Vを抵抗値R7で割った値(常に一定)に等しくなるように制御される。このため、ブロック122による新たな電流経路が存在しないと、式(33)において、右辺の変数Vo1とΔVsの両者が本来の設定電圧よりも低く制御されるからである。ちなみに、ブロック122のダイオードD121は、制御信号Contがローのとき、トランジスタQ122のベース電流が抵抗R122とR124を介しノードVref1に流れ込み、それによりトランジスタQ122がオンするのを防止する役割をする。
【0122】
さらに、図7において、上述のように、フィードバック電流If3(dc)と新たな電流経路を成すブロック122を流れる電流が等しくなる必要性により、式(34)の関係が成り立つ。即ち、
If3(dc)=(Vref−Vf)/R124 ……(34)
である。ここで、VrefはシャントレギュレータIC3の基準電圧(典型的にはDC2.5V)、VfはダイオードD121の順方向電圧(例えばショットキーダイオードで0.4V)、R124は抵抗R124の抵抗値である。さらに、フィードバック電流If3(dc)は式(31)で与えられることより、式(35)となる。
【0123】
(Vo2−Vref)/R121=(Vref−Vf)/R124 …… (35)
よって、抵抗R124の値が式(36)のように求まる。
【0124】
R124=(Vref−Vf)/(Vo2−Vref)*R121 ……(36)
ここで、Vo2に式(22)を代入して、式(37)が得られる。即ち、
R124=(Vref−Vf)/(Vo1+ΔVs−Vref)*R121 ……(37)
である。
【0125】
以上のことから、フィードバック電流If3(dc)が決まれば、それに関わる抵抗R121の値から、ブロック122内の抵抗R124の値が求まることが分かる。
【0126】
次に、式(33)から出力Vo1のフィードバック・ファクタα1、及び出力Vo2のフィードバック・ファクタα2を求めると、式(38)のようになる。即ち、
α1=1/R6 + 1/R91+1/R121 …… (38)
α2=1/R91+1/R121
である。従って、フィードバック・ファクタの合計に占めるα1の比率、すなわち出力Vo1のフィードバック寄与率D(α1)を求めると、式(39)のようになる。即ち、
D(α1)=α1/(α1+α2)=(1+X’)/(2+X’)……(39)
である。
【0127】
なお、式(39)においてX’=(R91//R121)/R6 であり、ここでR91//R121はR91とR121との並列抵抗値を意味する。同様に、出力Vo2のフィードバック寄与率D(α2)は式(40)で与えられる。即ち、
D(α2)=α2/(α1+α2) =1/(2+X’) …… (40)
である。
【0128】
ここで、式(40)の結果は、前述の実施例に関連して述べた式(27)のXをX’に置換したものであり、これをグラフで表すと図5のXをX’に置換して与えられる。しかしながら、実際にはX’、即ち、(R91//R121)/R6の分子(R91//R121)はゼロ値を取ることはできない。なぜなら、抵抗R91又はR121は抵抗値ゼロ、即ち、短絡状態を取り得ないからである。実験によれば、搬送モータM2が高速記録紙搬送期間などは、X’=0.5の場合、即ち、式(39)と式(40)よりD(α1)=0.6、D(α2)=0.4のとき、出力電圧Vo2の低下を抑制、かつ安定に制御できることが判明した。この点は図5も併せて参照されたい。
【0129】
既に説明したように、図14に示した従来の回路では、出力Vo2の安定領域(図13の期間T2)では出力Vo2のフィードバックが事実上機能しなかったために、出力電圧Vo2の電圧低下分ΔVfが大きかった。
【0130】
これに対して、図3に示す回路構成では、出力Vo2が出力Vo1を基準として、さらに電圧重畳分ΔVsだけ電圧重畳されて生成され、その上、この電圧重畳分ΔVsの変動を打ち消す方向でフィードバック制御が働く。このため、出力Vo2のアンダシュートやオーバシュートを低減できる上、その安定領域(図6の期間T2)においても、出力Vo2の電圧低下分ΔVfを小さく抑えることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線と第1の2次巻線と第2の2次巻線とを有する変圧手段と、
前記第1の2次巻線で生成された電圧から第1の直流電圧を生成する第1の直流電圧生成手段と、
前記第1の直流電圧に前記第2の2次巻線で生成された電圧が重畳された電圧から、第2の直流電圧を生成する第2の直流電圧生成手段と、
前記1次巻線への通電を行うスイッチ手段と、
前記第1の直流電圧生成手段の出力部、前記第1の直流電圧生成手段の出力部及びグランドと、それぞれ抵抗を介して接続された電圧の入力部を有し、前記電圧の入力部に入力される電圧が一定になるように前記スイッチ手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記第1の直流電圧と前記第2の直流電圧をそれぞれ、フィードバックする場合、
前記第1の直流電圧生成手段の出力部に接続される第1の抵抗の抵抗値をR6、前記第2の直流電圧生成手段の出力部に接続される第2の抵抗の抵抗値をR91とし、前記第1のフィードバック・ファクタをα1、前記第2のフィードバック・ファクタをα2とするなら、
α1=1/R6+1/R91
α2=1/R91
であることを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源装置と、
第1の直流電圧が供給される記録ヘッドと、
第2の直流電圧が供給されるモータと、
前記記録ヘッドと前記モータを制御する制御部とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項4】
記録ヘッドとモータとを有する記録装置であって、
前記記録ヘッドを駆動するための第1の出力電圧と前記第1の出力電圧よりも高く前記モータを駆動するための第2の出力電圧とを生成するスイッチング電源回路を備え、
前記スイッチング電源回路は、
第1の2次巻線により前記第1の出力電圧を生成し、第2の2次巻線により前記第1の出力電圧に重畳される重畳電圧を生成するトランスと、
前記トランスを駆動する駆動部と、
前記第1の出力電圧を整流・平滑する第1の整流・平滑回路と、
前記重畳電圧を整流・平滑する第2の整流・平滑回路と、
前記第2の整流・平滑回路により整流・平滑された前記重畳電圧を前記第1の整流・平滑回路により整流・平滑された前記第1の出力電圧に加算して前記第2の出力電圧を出力する加算手段と、
前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧をそれぞれ、DCカップリングによりフィードバックし、該フィードバックされた前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧を第1のフィードバック・ファクタと第2のフィードバック・ファクタによりそれぞれ調整し、該調整されたそれぞれのフィードバック成分を合成して増幅し、該合成し増幅されたフィードバック成分により前記駆動部をPWM制御するフィードバック制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項5】
前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧をそれぞれ、DCカップリングによりフィードバックする場合、前記第1の出力電圧に直列に接続される抵抗をR6、前記第2の出力電圧に直列に接続される抵抗R91とし、前記第1のフィードバック・ファクタをα1、前記第2のフィードバック・ファクタをα2とするなら、
α1=1/R6+1/R91
α2=1/R91
となり、
X=R91/R6としたとき、前記第1の出力電圧のフィードバック寄与率D(α1)と前記第2の出力電圧のフィードバック寄与率D(α2)とはそれぞれ、
D(α1)=α1/(α1+α2)=(1+X)/(2+X)
D(α2)=α2/(α1+α2)= 1/(2+X)
で与えられることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記フィードバック制御手段は、前記記録装置の記録動作シーケンスに応じて、入力される制御信号に従って、前記第1及び第2のフィードバック・ファクタの少なくとも1つを変更する変更手段を有することを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記変更手段は、
前記制御信号のレベルに従って、前記抵抗R6及び前記抵抗R91の少なくとも一方の抵抗値を変更することを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記変更手段は、
前記記録動作シーケンスにおいて、前記記録ヘッドを駆動する期間には前記第1のフィードバック・ファクタを増加させ、前記記録媒体の搬送期間には前記第2のフィードバック・ファクタを増加させることを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドを駆動する期間にはD(α1)=0.8、D(α2)=0.2であり、
前記記録媒体の搬送期間にはD(α1)=0.6、D(α2)=0.4であることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項1】
1次巻線と第1の2次巻線と第2の2次巻線とを有する変圧手段と、
前記第1の2次巻線で生成された電圧から第1の直流電圧を生成する第1の直流電圧生成手段と、
前記第1の直流電圧に前記第2の2次巻線で生成された電圧が重畳された電圧から、第2の直流電圧を生成する第2の直流電圧生成手段と、
前記1次巻線への通電を行うスイッチ手段と、
前記第1の直流電圧生成手段の出力部、前記第1の直流電圧生成手段の出力部及びグランドと、それぞれ抵抗を介して接続された電圧の入力部を有し、前記電圧の入力部に入力される電圧が一定になるように前記スイッチ手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記第1の直流電圧と前記第2の直流電圧をそれぞれ、フィードバックする場合、
前記第1の直流電圧生成手段の出力部に接続される第1の抵抗の抵抗値をR6、前記第2の直流電圧生成手段の出力部に接続される第2の抵抗の抵抗値をR91とし、前記第1のフィードバック・ファクタをα1、前記第2のフィードバック・ファクタをα2とするなら、
α1=1/R6+1/R91
α2=1/R91
であることを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源装置と、
第1の直流電圧が供給される記録ヘッドと、
第2の直流電圧が供給されるモータと、
前記記録ヘッドと前記モータを制御する制御部とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項4】
記録ヘッドとモータとを有する記録装置であって、
前記記録ヘッドを駆動するための第1の出力電圧と前記第1の出力電圧よりも高く前記モータを駆動するための第2の出力電圧とを生成するスイッチング電源回路を備え、
前記スイッチング電源回路は、
第1の2次巻線により前記第1の出力電圧を生成し、第2の2次巻線により前記第1の出力電圧に重畳される重畳電圧を生成するトランスと、
前記トランスを駆動する駆動部と、
前記第1の出力電圧を整流・平滑する第1の整流・平滑回路と、
前記重畳電圧を整流・平滑する第2の整流・平滑回路と、
前記第2の整流・平滑回路により整流・平滑された前記重畳電圧を前記第1の整流・平滑回路により整流・平滑された前記第1の出力電圧に加算して前記第2の出力電圧を出力する加算手段と、
前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧をそれぞれ、DCカップリングによりフィードバックし、該フィードバックされた前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧を第1のフィードバック・ファクタと第2のフィードバック・ファクタによりそれぞれ調整し、該調整されたそれぞれのフィードバック成分を合成して増幅し、該合成し増幅されたフィードバック成分により前記駆動部をPWM制御するフィードバック制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項5】
前記第1の出力電圧と前記第2の出力電圧をそれぞれ、DCカップリングによりフィードバックする場合、前記第1の出力電圧に直列に接続される抵抗をR6、前記第2の出力電圧に直列に接続される抵抗R91とし、前記第1のフィードバック・ファクタをα1、前記第2のフィードバック・ファクタをα2とするなら、
α1=1/R6+1/R91
α2=1/R91
となり、
X=R91/R6としたとき、前記第1の出力電圧のフィードバック寄与率D(α1)と前記第2の出力電圧のフィードバック寄与率D(α2)とはそれぞれ、
D(α1)=α1/(α1+α2)=(1+X)/(2+X)
D(α2)=α2/(α1+α2)= 1/(2+X)
で与えられることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記フィードバック制御手段は、前記記録装置の記録動作シーケンスに応じて、入力される制御信号に従って、前記第1及び第2のフィードバック・ファクタの少なくとも1つを変更する変更手段を有することを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記変更手段は、
前記制御信号のレベルに従って、前記抵抗R6及び前記抵抗R91の少なくとも一方の抵抗値を変更することを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記変更手段は、
前記記録動作シーケンスにおいて、前記記録ヘッドを駆動する期間には前記第1のフィードバック・ファクタを増加させ、前記記録媒体の搬送期間には前記第2のフィードバック・ファクタを増加させることを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドを駆動する期間にはD(α1)=0.8、D(α2)=0.2であり、
前記記録媒体の搬送期間にはD(α1)=0.6、D(α2)=0.4であることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−34365(P2013−34365A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−137271(P2012−137271)
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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