説明

電熱式樹脂型

【課題】形状が複雑で、凹凸、突起、くびれ等の異形部を有する場合においても、表面部全体を隅々まで短時間で均一に加熱することができ、熱の発散や加熱斑を防止することができ、形状自在性、省エネルギー性、加熱の効率性、均一性、確実性に優れる電熱式樹脂型の提供。
【解決手段】ゲルコート層と、ゲルコート層と同等の収縮率でゲルコート層の裏面に形成された表面FRP層と、表面FRP層の裏面に形成され樹脂中に熱伝導性粒子が混合された内部FRP層と、内部FRP層の裏面に敷設されたコードヒータを有する加熱部と、内部FRP層の裏面側で加熱部の少なくともコードヒータに覆設された断熱層と、断熱層の裏面に形成された補強材層と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温硬化もしくは熱硬化の樹脂製品を成形する為の樹脂型に関し、特に、強化プラスチック(以下、FRPと称す)で形成され、内部に埋設された発熱体により加熱可能な電熱式樹脂型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂型を使用する場合は、型の表面に製品の表面となるゲルコート樹脂をスプレーし、樹脂型を50〜60℃程度の硬化室に入れて製品のゲルコート層を硬化させている。また、製品となる基材を注入した後も同様に樹脂型ごと硬化室に入れて基材を硬化させているが、樹脂型全体の熱伝導が悪く、特に型組された状態で硬化室に入れているために注入基材の硬化には時間がかかっていた。
上記樹脂型で硬化時間を短縮するために、一般的には樹脂型内部に発熱体を埋設して、樹脂型表面部を加熱し、ゲルコート層及び製品となる基材等を硬化室に入れずに硬化させる方法が用いられている。
発熱体を埋設した樹脂型としては、例えば(特許文献1)のように、炭素繊維を積層したもの、または炭素繊維からなる面状発熱体を樹脂型に埋設し、その両端に備えられた電極から電流を流して発熱させるものがある。
以下、図5により従来の電熱式樹脂型について説明する。
図5は、従来の電熱式樹脂型の構造を示す要部断面模式図である。型の表面にゲルコート層11と表面FRP層12が形成され、その下方の複数のFRP層13、15の間に、樹脂で含浸された一つ又は複数の炭素繊維層14が挿入されており、炭素繊維層14の両端部に備えられた電極(図示せず)から電流が流れて加熱するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−127162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)平面形状だけで構成されている樹脂型であれば、上記の製造方法でも、両端部に備えられた電極から電流が流れ、樹脂型表面部を均一に加熱することができるが、凹凸、突起、くびれ等の異形部を有する樹脂型の場合は、炭素繊維層14を均一な密度で積層することができず、そのために炭素繊維層14の面積抵抗値が場所によって変わり、発熱温度に大きなバラツキが発生し、加熱の均一性、形状の自在性に欠けるという課題を有していた。
(2)また、FRP層13、15は熱伝導性が悪く、炭素繊維層14からの発熱で樹脂型表面部を加熱するのに時間がかかるだけでなく、加熱が必要でない裏部のFRP層15側も、表面側のFRP層13や表面FRP層12と同様に加熱されており、省エネルギー性、加熱の効率性に欠けるという課題を有していた。
【0005】
本発明は上記課題を解決するもので、形状が複雑で、凹凸、突起、くびれ等の異形部を有する場合においても、表面部全体を隅々まで短時間で均一に加熱することができ、熱の発散や加熱斑を防止することができ、形状自在性、省エネルギー性、加熱の効率性、均一性、確実性に優れる電熱式樹脂型の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の電熱式樹脂型は以下の構成を有している。
請求項1に記載の電熱式樹脂型は、ゲルコート層と、前記ゲルコート層と同等の収縮率で前記ゲルコート層の裏面に形成された表面FRP層と、前記表面FRP層の裏面に形成され樹脂中に熱伝導性粒子が混合された熱伝導性FRP層と、前記熱伝導性FRP層の裏面に敷設されたコードヒータを有する加熱部と、前記熱伝導性FRP層の裏面側で前記加熱部の少なくとも前記コードヒータに覆設された断熱層と、前記断熱層の裏面に形成された補強材層と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)ゲルコート層と同等の収縮率でゲルコート層の裏面に形成された表面FRP層と、表面FRP層の裏面に形成された熱伝導性FRP層を有するので、ゲルコート層と熱伝導性FRP層との熱収縮率の差を表面FRP層で吸収することができ、熱伝導性FRP層の凹凸などがゲルコート層の表面に模様として浮き上がることがなく、ゲルコート層の表面精度を向上させることができ、表面の平滑性、均一性に優れる。
(2)表面FRP層の裏面に形成された熱伝導性FRP層の樹脂中に熱伝導性粒子が混合されているので、熱伝導性FRP層の熱伝導性が向上すると同時に耐久性も向上し、加熱部からの熱伝達による加熱効率が高まり、コードヒータ周辺部の熱伝導性FRP層の熱劣化を防止することができ、耐久性、長寿命性に優れる。
(3)コードヒータを熱伝導性FRP層の裏面に敷設して加熱部を形成するので、熱伝導性FRP層の裏面全体にコードヒータを敷設して樹脂型の表面全体を斑無く均一に加熱することや、コードヒータを熱伝導性FRP層の裏面に部分的に敷設したり所望のパターンで配置したりして任意の位置を選択的に加熱することができ、加熱処理の自在性、加熱制御の容易性、加熱の効率性、省エネルギー性に優れる。
(4)樹脂型の形状が複雑で、凹凸、突起、くびれ等の異形部を有する場合でも、容易に屈曲可能なコードヒータを隅々まで等間隔に配線することができ、加熱の均一性、確実性に優れる。
(5)熱伝導性FRP層の裏面側で加熱部の少なくともコードヒータに覆設された断熱層を有することにより、コードヒータの発する熱は、断熱層により樹脂型の裏側(補強材層)への伝達を遮られ、放熱を妨げられて、確実に表面FRP層側に伝達され、樹脂型の表面側を短時間で安全、確実かつ効率的に加熱することができ、加熱の効率性、省エネルギー性に優れる。
(6)断熱層の裏面に形成された補強材層を有することにより、樹脂型の変形や破損を防止でき、形状安定性、耐久性に優れる。
【0007】
ここで、ゲルコート層は、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等のゲルコート樹脂をワックス等で離型処理した木型(母型)の表面にスプレーで吹き付けたり、刷毛やローラで塗布したりして形成することができる。ゲルコート層の厚さは、0.5mm〜1mm程度が望ましいが、一回の塗布で厚みが確保できない場合は、数回に分けて塗布してもよい。尚、ゲルコート樹脂は透明でも着色材(トナーなど)で着色したものでもよいが、透明樹脂の場合は樹脂型の鏡面性の判断が難しいので、表面のスリ傷、クラック、凹凸を発見し易い、黒や紺等に着色した樹脂が好適に用いられる。
表面FRP層は、ゲルコート層の裏面に、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等でサーフェースマットを積層して形成するものが好適に用いられる。表面FRP層の厚さは1mm程度が好ましい。また、熱伝導性FRP層は、表面FRP層の裏面に、ビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等でガラスマットを積層して形成するものが好適に用いられる。熱伝導性FRP層の厚さは3mm〜5mm程度が好ましい。
このとき、ガラスマットに比べて樹脂含有率が高く、ゲルコート層と同等の収縮率を有するサーフェースマットを用いて表面FRP層を形成することにより、ゲルコート層と熱伝導性FRP層に熱収縮率の差がある場合でも、ゲルコート層の表面にガラスマットの模様が浮き上がることがなく、ゲルコート層の表面精度を向上させることができる。
【0008】
熱伝導性FRP層を形成する樹脂中に混合する熱伝導性粒子としては、アルミや銅等の金属粉、炭素粉、セラミック粉などの熱伝導率の高い粒子が好適に用いられる。熱伝導性粒子の粒径は50μm〜150μm程度が好ましい。尚、表面FRP層を形成する樹脂中にも、熱伝導性粒子を混合してもよい。
コードヒータは、抵抗線(発熱線)をシリコンゴムやポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性の被覆材で被覆したものでる。線状で柔軟性(可撓性)を有することにより、容易に屈曲や湾曲をさせることができ、任意のパターンで配線することができる。従って、配線間隔を密にして、等間隔で配線すれば、樹脂型の表面を大きな発熱量で均一に加熱することができ、成型時間を短縮することができる。
断熱層は、コードヒータの発する熱が補強材層側に伝達することを防止できるものであればよい。断熱層は、少なくとも発熱するコードヒータに覆設されていればよいが、熱伝導性FRP層の裏面側全体に覆設してもよい。断熱層の厚さは、コードヒータを覆うことができるように、コードヒータの直径(厚さ)と同等か、それよりやや厚めに形成することが好ましい。
補強材層は、ベニヤ板などの板材や木製の角材、金属製の角パイプなどを適宜、組み合わせて形成することができ、断熱層の裏面の要所に配置することができる。補強材層の厚さは、型の形状や大きさなどに応じて、適宜、選択することができるが、5mm〜30mm程度が好ましい。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電熱式樹脂型であって、前記熱伝導性FRP層を形成する前記樹脂100重量部に対して前記熱伝導性粒子20重量部〜35重量部を混合した構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)熱伝導性FRP層を形成する樹脂100重量部に対して熱伝導性粒子20重量部〜35重量部を混合することにより、コードヒータの発する熱を表面FRP層側へ有効に拡散して均一な温度上昇を促すことができ、加熱の均一性に優れる。
【0010】
ここで、熱伝導性FRP層を形成する樹脂と熱伝導性粒子との配合比としては、樹脂100重量部に対して熱伝導性粒子20重量部〜35重量部を混合することが好ましい。熱伝導性粒子が20重量部より少なくなるにつれ、熱拡散性(熱伝導性)が不足し易くなり、表面FRP層の表面での温度の均一化に時間がかかって加熱の効率性が低下する傾向があり、熱伝導性粒子が35重量部より多くなるにつれ、熱伝導性FRP層の機械的強度が不足し易くなり、耐久性、長寿命性が低下する傾向があり、いずれも好ましくない。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電熱式樹脂型であって、前記断熱層が、接着用樹脂に発泡体を混合した断熱材料によって形成された構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)断熱層が、接着用樹脂に発泡体を混合した断熱材料によって形成されることにより、断熱効果が大きくなり、裏面(補強材層)側への放熱が抑えられ、表面(表面FRP層)側への熱伝達が向上して、加熱時間を短縮することができ、省エネルギー性に優れる。
【0012】
ここで、断熱層の形成には、収縮の少ないエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂等の接着用樹脂に発泡体を混合した断熱材料が好適に用いられる。微細な中空状の発泡体により、耐火性及び断熱性を向上できるためである。発泡体はバルーン状で、その直径は50μm〜200μm程度が好ましい。尚、発泡体としては、シラス発泡体(火山灰中の火山ガラスを加熱発泡したもの)やセラミック発泡体等が好適に用いられる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電熱式樹脂型であって、前記断熱材料が、前記接着用樹脂100重量部に対して前記発泡体10重量部〜30重量部を混合したものである構成を有している。
この構成により、請求項3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)断熱材料が、接着用樹脂100重量部に対して発泡体10重量部〜30重量部を混合したものであることにより、コードヒータから断熱層裏面側(補強材層側)への放熱を効果的に防ぐことができ、十分な断熱効果を保つことができる。
【0014】
ここで、断熱層を形成する接着用樹脂と発泡体との配合比としては、接着用樹脂100重量部に対して発泡体10重量部〜30重量部を混合することが好ましい。発泡体が10重量部より少なくなるにつれ、断熱効果が不足し易くなり、加熱の効率性が低下する傾向があり、発泡体が30重量部より多くなるにつれ、接着強度が不足し易くなり、耐久性、形状の安定性が低下する傾向があり、いずれも好ましくない。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の電熱式樹脂型であって、前記加熱部の前記コードヒータと前記熱伝導性FRP層との間に形成される空隙部に熱伝導性充填材が充填される構成を有している。
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1項で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)加熱部のコードヒータと熱伝導性FRP層との間に形成される空隙部に熱伝導性充填材が充填されることにより、コードヒータと熱伝導性FRP層との間に断熱材が入り込むことがなく、コードヒータの発する熱を確実に熱伝導性FRP層に伝達することができ、コードヒータの過熱を防止して、加熱の確実性、安定性に優れる。
(2)コードヒータが狭いピッチで敷設されている場合でも、コードヒータと熱伝導性FRP層との隙間に熱伝導性充填材を確実に充填することができ、施工性、熱伝達の信頼性に優れる。
(3)熱伝導性充填材により加熱面積を拡大することができ、加熱斑が発生し難く、加熱の均一性、効率性に優れる。
【0016】
ここで、熱伝導性充填材としては、エポシキ樹脂等の樹脂に金属粉やセラミック粉などの熱伝導性材料を混合したパテ状の樹脂が好適に用いられる。コードヒータを熱伝導性FRP層上に載置した後、コードヒータの両側部に熱伝導性充填材を充填することにより、コードヒータと熱伝導性FRP層との間の空隙部(隙間)を熱伝導性充填材で埋めることができる。このとき、コードヒータの底部(コードヒータと熱伝導性FRP層との接触面)に熱伝導性充填材が入り込んでも、コードヒータの発する熱は熱伝導性充填材を通して熱伝導性FRP層に伝達されるので、熱伝導性充填材の充填量を厳密に管理する必要はなく、施工性に優れる。尚、コードヒータの浮き上がりを防止するために、コードヒータを熱伝導性FRP層上に接着剤やテープなどで仮固定してから熱伝導性充填材を充填してもよい。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の電熱式樹脂型であって、前記加熱部の前記コードヒータの前記断熱層側の表面に覆設された保護層を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1乃至5の内いずれか1項で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)加熱部のコードヒータの断熱層側の表面に覆設された保護層を有することにより、断熱層を形成する断熱材料が、コードヒータと熱伝導性FRP層との間に入り込むことがなく、コードヒータと熱伝導性FRP層との接触面積の低下を防ぎ、コードヒータの発する熱を確実かつ効率的に熱伝導性FRP層に伝達することが可能で、加熱の均一性、確実性、効率性を向上させることができ、省エネルギー性に優れる。
【0018】
ここで、保護層は、コードヒータの断熱層側を被覆できるものであればよいが、保護層の形成には、金属箔などの被覆材が好適に用いられる。裏面に粘着層を有するテープ状の被覆材を用いた場合、コードヒータを確実に被覆しながら、簡便に熱伝導性FRP層への固定を行うことができ、施工性に優れる。
尚、コードヒータを保護層で覆う場合、コードヒータと熱伝導性FRP層との間に形成される空隙部には必ずしも熱伝導性充填材を充填する必要はないが、熱伝導性充填材を充填する場合は、コードヒータを保護層で固定した後、保護層と熱伝導性FRP層との隙間に熱伝導性充填材を充填することが好ましい。空隙部を熱伝導性充填材で隙間なく埋めることができ、コードヒータの両側部で保護層と熱伝導性FRP層を密着させ、コードヒータと熱伝導性FRP層との空隙部(隙間)に断熱材料が入り込むことを確実に防止でき、コードヒータの固定及び加熱の安定性に優れるためである。特に、保護層と熱伝導性充填材を併用する場合は、コードヒータの全長を保護層で覆う必要はなく、要所を保護層で覆って固定し、その他の場所の空隙部に熱伝導性充填材を充填するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように構成された本発明の電熱式樹脂型によれば、以下のような効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)熱伝導性FRP層の熱伝導性及び耐久性の向上により、加熱効率を高め、コードヒータ周辺部の熱伝導性FRP層の熱劣化を防止することができる耐久性、長寿命性に優れた電熱式樹脂型を提供することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)コードヒータの発する熱を表面FRP層側へ有効に拡散して均一な温度上昇を促すことができる加熱の均一性に優れた電熱式樹脂型を提供することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)コードヒータによる加熱時に、裏面(補強材層)側への放熱を抑え、表面(表面FRP層)側への熱伝達を向上させて、加熱時間を短縮することができる省エネルギー性に優れた電熱式樹脂型を提供することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)コードヒータから断熱層裏面側(補強材層側)への放熱を効果的に防ぐことができ、十分な断熱効果によって表面(表面FRP層)側の温度を均一に保つことができる加熱の効率性に優れた電熱式樹脂型を提供することができる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1項の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)コードヒータと熱伝導性FRP層との間に断熱材が入り込むことがなく、コードヒータの発する熱を確実に熱伝導性FRP層に伝達させ、コードヒータの過熱を防止することができる加熱の確実性、安定性に優れた電熱式樹脂型を提供することができる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の内いずれか1項の効果に加え、以下のような効果を有する。
(1)断熱層を形成する断熱材料が、コードヒータと熱伝導性FRP層との間に入り込むことがなく、コードヒータと熱伝導性FRP層との接触面積の低下を防ぎ、コードヒータの発する熱を確実かつ効率的に熱伝導性FRP層に伝達して、加熱の均一性、確実性、効率性を向上させることができる省エネルギー性に優れた電熱式樹脂型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型に係る型組状態を示す断面模式図
【図2】図1のA−B断面模式図
【図3】本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型の製造に係る積層過程を示す要部断面模式図
【図4】本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型の製造に係るコードヒータの配線状態を示す模式斜視図
【図5】従来の電熱式樹脂型の構造を示す要部断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1における電熱式樹脂型について説明する。
図1は本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型に係る型組状態を示す断面模式図である。
図1中、10は実施の形態1における電熱式樹脂型に係る表型、20は凹凸やくびれ等を有する表型10の異形部、30は表型10と合体させた裏型、40は表型10と合体させた背部型、50は表型10に裏型30と背部型40を合体させることにより形成された製品成型を行うための成形空間部である。
【0027】
次に、実施の形態1における電熱式樹脂型の内部構造について説明する。
図2は、図1のA−B断面模式図である。
図2中、1は表型10のゲルコート層、2はゲルコート層1と同等の収縮率でゲルコート層1の裏面に形成された表型10の表面FRP層、3は表面FRP層2の裏面に形成された表型10の熱伝導性FRP層、4は熱伝導性FRP層3の裏面に敷設されたコードヒータ4aを有する表型10の加熱部、5はコードヒータ4aの両側部と熱伝導性FRP層3との間に形成される空隙部、6は熱伝導性FRP層3の裏面側で加熱部4のコードヒータ4aに被覆材として金属箔を覆設して形成された表型10の保護層、6aは空隙部5に充填された熱伝導性充填材、7は熱伝導性FRP層3の裏面側で保護層6を介してコードヒータ4aに覆設された表型10の断熱層、8はベニヤ板などの補強木8a,8b及び金属製角パイプ8cによって断熱層7の裏面に形成された表型10の補強材層である。
【0028】
次に、実施の形態1における電熱式樹脂型に係る表型10の製造方法を図面に基づいて具体的に説明する。
図3は本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型の製造に係る積層過程を示す要部断面模式図であり、図4は本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型の製造に係るコードヒータの配線状態を示す模式斜視図である。
まず、図3に示すように、ワックス等の離型処理をした木型(母型)9の表面にスプレー又は刷毛塗りでゲルコート樹脂(例えばビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等に着色したもの)を塗布し、ゲルコート層1を形成する。ゲルコート層1の厚さが0.5mm程度以上となるようにゲルコート樹脂を塗布することが望ましいが、一度に厚みが確保できなければ数回に分けて塗布を行う。
【0029】
ゲルコート層1の硬化後、樹脂(例えばビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等)でサーフェースマットを積層し、表面FRP層2を形成する。
次に、表面FRP層2の硬化後、樹脂(例えばビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等)100重量部に対して、熱伝導性粒子(例えばアルミ粉、銅粉等の熱伝導率の高い金属粉)20〜35重量部の割合で混合したものでガラスマット(例えばチョップドストランドマット♯450等)を所定の厚さに積層することにより、熱伝導性FRP層3を形成する。樹脂に熱伝導性粒子を混入することにより、熱伝導性が向上すると同時に耐久性も向上するために、熱伝達による熱効率が高まり、コードヒータ4a周辺部の熱伝導性FRP層3の熱劣化を防止することができ、表型10の耐用年数を向上させることができる。
この熱伝導性FRP層3の所定の厚さとしては、表型10においては4層程度、裏型30、背部型40においては3層程度の積層を行った厚さである。
尚、表面FRP層2及び熱伝導性FRP層3の成形方法としては、異形部20等を有する複雑な形状においても、均一且つ所定の厚さで確実に積層ができるハンドレイアップ成形を使用した。
【0030】
表面FRP層2の形成に使用するサーフェースマットは、熱伝導性FRP層3の形成に使用するガラスマットに比べ樹脂含有率が高く、ゲルコート層1と同等の収縮率を有するものを使用した。これにより、熱伝導性FRP層3とゲルコート層1との収縮率の違いによるゲルコート層1表面へのガラスマット模様の浮き上がりがなくなり、ゲルコート層1の表面精度の向上を図ることができる。従って、表型10の製造工程には表面FRP層2の形成が必要であるが、表面精度が要求されない裏型30、背部型40には、表面FRP層2は形成しなくてもよい。
【0031】
次に、コードヒータ4aの敷設を行う。
図4中、4bはコードヒータ4aの両端部のリード線(非発熱線)、60はコードヒータ4aの任意に位置に配設された温度センサーである。
熱伝導性FRP層3の硬化後、図4に示すように、コードヒータ4aを表型10の加熱が必要な部分に等間隔(15〜20mm間隔)になるように、熱伝導性FRP層3上に載置する。そして、図3に示したように、コードヒータ4aの表面からテープ状の金属箔を覆設して保護層6を形成することにより、コードヒータ4aを固定する。その後、コードヒータ4aと熱伝導性FRP層3との間に形成される空隙部5(コードヒータ4aの両側部)の端部の開口部から熱伝導性充填材6aを充填する。熱伝導性充填材6aは、接着用樹脂(エポシキ樹脂等)100重量部に対して、金属粉やセラミック粉などの熱伝導性材料を20〜30重量部の割合で混合したパテ状の樹脂であり、これにより、後から形成する断熱層7の接着用樹脂が空隙部5に侵入することを防止できる。
【0032】
本実施の形態では、コードヒータ4aを保護層6で覆うと共に、空隙部5に熱伝導性充填材6aを充填したが、コードヒータ4aを保護層6のみで覆い、空隙部5に熱伝導性充填材6aを充填しなくてもよいし、コードヒータ4aを保護層6で覆わずに、空隙部5に熱伝導性充填材6aを充填するだけでもよい。尚、保護層6と熱伝導性充填材6aを併用する場合は、コードヒータ4aの全長を保護層6で覆う必要はなく、要所を保護層6で覆って固定し、その他の場所の空隙部5に熱伝導性充填材6aを充填するようにしてもよい。また、コードヒータ4aを保護層6で覆う代わりに、熱伝導性FRP層3上に接着剤などで仮固定し、空隙部5に熱伝導性充填材6aを充填して固定するようにしてもよい。
【0033】
コードヒータ4aは、抵抗線(発熱線)をシリコンゴム材で被覆した直径3mm程度のものであり、線状であることによって異形部20(図1参照)を有する場合でも、容易に屈曲させて敷設することができ、加熱が必要でない部分を避けて任意のパターンで等間隔に配線することができる。また、コードヒータ4aを等間隔で密に配線することによって、発熱量が大きくなり、電熱式樹脂型の表面を均一に加熱することができる。
本実施の形態では、コードヒータ4aの抵抗線(発熱線)の被覆にシリコンゴム材を使用したが、これに限定されるものではない。最高耐熱温度が200℃程度の材質であればよく、例えばポリテトラフルオロエチレン等も使用可能である。
コードヒータ4aの両端部のリード線(非発熱線)4bや温度センサー60からのリード線は、木型(母型)9から樹脂型を脱型した後に、サーモスタット等が配設された制御ボックス内で結線する。
尚、型の形状などによって、コードヒータ4aを複数本に分割して配線してもよいし、1本のコードヒータ4aで全てを配線してもよい。温度センサー60はコードヒータ4a上の任意の位置に配設することができるが、1本のコードヒータ4aに対して1箇所配置することが好ましい。
【0034】
コードヒータ4aの固着後、図3において、接着用樹脂(例えばエポシキ樹脂等)100重量部に対して、シラス発泡体(その他、耐熱性、断熱性等の特性を持つ充填材として例えばセラミック発泡体)10〜30重量部の割合で混合したパテ状の樹脂(断熱材料)を、表面FRP層3と保護層6の上に注型して断熱層7を形成する。
その後、断熱層7の接着用樹脂が硬化しないうちに、予め現物合わせで製作した補強木(例えばベニヤ板材)8a,8b及び金属製角パイプ8cで構成された補強材層8を強固に圧着する。補強木8a,8bにエアー抜き孔を設けておくことにより、圧着する際に、注型状態を容易に確認することができ、断熱層7にエアー等による気泡が発生することを防止することができる。
【0035】
以上の製造方法で成形された樹脂型は、トリミング、木型(母型)9からの脱型、再トリミング、樹脂型の部品加工、型表面の仕上げ、制御ボックスの結線、型組加工を行うことにより、電熱式樹脂型として完成する。
尚、本実施の形態では、異形部20を有する表型10について説明したが、これに限定されものではなく、背部型40のように平面部だけで構成された樹脂型にも適用できるものである。
【0036】
以上のように、本発明の実施の形態1における電熱式樹脂型は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)ゲルコート層と同等の収縮率でゲルコート層の裏面に形成された表面FRP層と、表面FRP層の裏面に形成された熱伝導性FRP層を有するので、ゲルコート層と熱伝導性FRP層との熱収縮率の差を表面FRP層で吸収することができ、熱伝導性FRP層の凹凸などがゲルコート層の表面に模様として浮き上がることがなく、ゲルコート層の表面精度を向上させることができ、表面の平滑性、均一性に優れる。
(2)表面FRP層の裏面に形成された熱伝導性FRP層の樹脂中に熱伝導性粒子が混合されているので、熱伝導性FRP層の熱伝導性が向上すると同時に耐久性も向上し、加熱部からの熱伝達による加熱効率が高まり、コードヒータ周辺部の熱伝導性FRP層の熱劣化を防止することができ、耐久性、長寿命性に優れる。
(3)コードヒータを熱伝導性FRP層の裏面に敷設して加熱部を形成するので、熱伝導性FRP層の裏面全体にコードヒータを敷設して樹脂型の表面全体を斑無く均一に加熱することや、コードヒータを熱伝導性FRP層の裏面に部分的に敷設したり所望のパターンで配置したりして任意の位置を選択的に加熱することができ、加熱処理の自在性、加熱制御の容易性、加熱の効率性、省エネルギー性に優れる。
(4)樹脂型の形状が複雑で、凹凸、突起、くびれ等の異形部を有する場合でも、容易に屈曲可能なコードヒータを隅々まで等間隔に配線することができ、加熱の均一性、確実性に優れる。
(5)熱伝導性FRP層の裏面側で加熱部の少なくともコードヒータに覆設された断熱層を有することにより、コードヒータの発する熱は、断熱層により樹脂型の裏側(補強材層)への伝達を遮られ、放熱を妨げられて、確実に表面FRP層側に伝達され、樹脂型の表面側を短時間で安全、確実かつ効率的に加熱することができ、加熱の効率性、省エネルギー性に優れる。
(6)断熱層の裏面に形成された補強材層を有することにより、樹脂型の変形や破損を防止でき、形状安定性、耐久性に優れる。
(7)熱伝導性FRP層を形成する樹脂100重量部に対して熱伝導性粒子20重量部〜35重量部を混合することにより、コードヒータの発する熱を表面FRP層側へ有効に拡散して均一な温度上昇を促すことができ、加熱の均一性に優れる。
(8)断熱層が、接着用樹脂100重量部に対して、シラス発泡体10〜30重量部の割合で混合したパテ状の樹脂(断熱材料)によって形成されることにより、断熱効果が大きく、収縮を抑えて反りなどの発生を防止することができると共に、比重を小さくして軽量化を図ることができ、成型性、取扱い性に優れる。
(9)加熱部のコードヒータと熱伝導性FRP層との間に形成される空隙部に熱伝導性充填材が充填されることにより、コードヒータと熱伝導性FRP層との間に断熱材が入り込むことがなく、コードヒータの発する熱を確実に熱伝導性FRP層に伝達することができ、コードヒータの過熱を防止して、加熱の確実性、安定性に優れる。
(10)コードヒータが狭いピッチで敷設されている場合でも、コードヒータと熱伝導性FRP層との隙間に熱伝導性充填材を確実に充填することができ、施工性、熱伝達の信頼性に優れる。
(11)熱伝導性充填材により加熱面積を拡大することができ、加熱斑が発生し難く、加熱の均一性、効率性に優れる。
(12)加熱部のコードヒータの断熱層側の表面に覆設された保護層を有することにより、断熱層を形成する断熱材料が、コードヒータと熱伝導性FRP層との間に入り込むことがなく、コードヒータと熱伝導性FRP層との接触面積の低下を防ぎ、コードヒータの発する熱を確実かつ効率的に熱伝導性FRP層に伝達することが可能で、加熱の均一性、確実性、効率性を向上させることができ、省エネルギー性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、形状が複雑で、凹凸、突起、くびれ等の異形部を有する場合においても、表面部全体を隅々まで短時間で均一に加熱することができ、熱の発散や加熱斑を防止することができ、形状自在性、省エネルギー性、加熱の効率性、均一性、確実性に優れる電熱式樹脂型の提供を行い、省エネルギー化や環境保護に貢献することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ゲルコート層
2 表面FRP層
3 熱伝導性FRP層
4 加熱部
4a コードヒータ
5 空隙部
6 保護層
6a 熱伝導性充填材
7 断熱層
8 補強材層
8a,8b 補強木
8c 金属製角パイプ
9 木型(母型)
10 表型
20 異形部
30 裏型
40 背部型
50 成形空間部
60 温度センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルコート層と、前記ゲルコート層と同等の収縮率で前記ゲルコート層の裏面に形成された表面FRP層と、前記表面FRP層の裏面に形成され樹脂中に熱伝導性粒子が混合された内部FRP層と、前記内部FRP層の裏面に敷設されたコードヒータを有する加熱部と、前記内部FRP層の裏面側で前記加熱部の少なくとも前記コードヒータに覆設された断熱層と、前記断熱層の裏面に形成された補強材層と、を備えたことを特徴とする電熱式樹脂型。
【請求項2】
前記内部FRP層を形成する前記樹脂100重量部に対して前記熱伝導性粒子20重量部〜35重量部を混合したことを特徴とする請求項1に記載の電熱式樹脂型。
【請求項3】
前記断熱層が、接着用樹脂に発泡体を混合した断熱材料によって形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電熱式樹脂型。
【請求項4】
前記断熱材料が、前記接着用樹脂100重量部に対して前記発泡体10重量部〜30重量部を混合したものであることを特徴とする請求項3に記載の電熱式樹脂型。
【請求項5】
前記加熱部の前記コードヒータと前記内部FRP層との間に形成される空隙部に熱伝導性充填材が充填されることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の電熱式樹脂型。
【請求項6】
前記加熱部の前記コードヒータの前記断熱層側の表面に覆設された保護層を備えたことを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の電熱式樹脂型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−139883(P2012−139883A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293407(P2010−293407)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(591287978)太陽インダストリー株式会社 (4)
【Fターム(参考)】