説明

電着塗膜形成方法及び電着塗膜、並びに、電着製品

【課題】 本発明は、ピンホールの発生が極めて少なく、平滑性に優れ、非常に高い電気絶縁性を得ることができる電着塗膜形成方法及び電着塗膜、並びに、電着製品を提供する。
【解決手段】 被塗装物に対して、加熱及び活性エネルギー線照射によって硬化可能な電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する方法であって、電着塗装工程、水洗工程、予備加熱工程、活性エネルギー線照射工程、及び本加熱工程を順に行うものであることを特徴とする電着塗膜形成方法である。
上記の電着塗膜形成方法によって得られることを特徴とする電着塗膜である。
上記電着塗膜を有することを特徴とする電着製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗膜形成方法及び電着塗膜、並びに、電着製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料によって金属表面に絶縁性塗膜を形成する試みが行われている。
【0003】
例えば、多層印刷配線板等を構成する基板は、放熱性の観点からメタルコアPWBと呼ばれる、エポキシ樹脂絶縁層を形成した金属製基板上に、無電解メッキ等で回路が形成されたものが開発されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
ところが、最近の基板の高集積化、高密度化のため、絶縁層に存在するわずかなピンホールによって引き起こされる金属製基板と回路とのリークが問題になっており、この絶縁層には高度な絶縁性が要求されている。
【0005】
電着塗料は、つきまわり性に優れ、被塗装物の形状にかかわらず比較的均一な塗装を行うことができ、充分な絶縁性能を有していることから、絶縁層を電着塗料によって形成することが試みられている。しかし、このような試みにおいては、電着塗装を行うことによる利点は有するものの、電着塗膜は、通常、表面の平滑性が充分ではなく、かつ電着塗装工程による水素ガスの発生によって塗膜中にピンホールを生じやすいため、電着塗料によって高度の絶縁性を実現することは困難であった。
【0006】
【非特許文献1】伊藤謹司著、「プリント配線板技能検定対策プリント配線板製造入門」、初版、2001年7月6日、p.67−69
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ピンホールの発生が極めて少なく、平滑性に優れ、非常に高い電気絶縁性を得ることができる電着塗膜形成方法、電着塗膜、並びに、電着製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被塗装物に対して、加熱及び活性エネルギー線照射によって硬化可能な電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する方法であって、電着塗装工程、水洗工程、予備加熱工程、活性エネルギー線照射工程、及び本加熱工程を順に行うことを特徴とする電着塗膜形成方法である。ここで、活性エネルギー線照射工程は、予備加熱工程終了後、被塗装物を冷却することなく、連続して行われるものであってもよい。また、本加熱工程における加熱は、予備加熱工程から連続して行われるものであってもよい。
【0009】
電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有する樹脂組成物からなるものであることが好ましく、カチオン電着塗料であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記の電着塗膜形成方法によって形成されることを特徴とする電着塗膜である。
【0011】
さらに、本発明は、上記の電着塗膜を有することを特徴とする電着製品である。
【0012】
また、本発明は、上記の電着塗膜に対して、さらに、オーバーコート剤を塗布することを特徴とする積層塗膜形成方法である。
【0013】
さらに、本発明は、上記の積層塗膜形成方法によって形成されることを特徴とする積層塗膜である。
【0014】
また、本発明は、上記の積層塗膜を有することを特徴とする製品である。
【0015】
本発明の電着塗膜形成方法は、加熱及び活性エネルギー線照射によって硬化可能な電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する方法であって、電着塗装工程、水洗工程、予備加熱工程、活性エネルギー線照射工程、及び本加熱硬化工程からなるものであることを特徴とする。
【0016】
上記電着塗料は、電着塗装に必要なイオン性基以外に、加熱によっても活性エネルギー線の照射によっても硬化反応可能なバインダー成分を含んでいる。上記バインダー成分は、加熱によっても活性エネルギー線の照射によっても硬化反応可能な官能基を有するものである場合、加熱によって硬化反応可能な官能基と活性エネルギーの照射によって硬化可能な官能基とをそれぞれ有するものである場合があるが、いずれであっても差し支えない。
【0017】
上記活性エネルギー線の照射によって硬化反応可能とは、活性エネルギー線そのものにより直接的に硬化反応の進行が可能なものだけでなく、活性エネルギー線によって発生した活性種によって硬化反応の進行が可能なものも意味する。このような活性エネルギー線の照射によって硬化反応可能な官能基としては、例えば、二重結合や三重結合の不飽和結合単独、この不飽和結合とチオール基との組み合わせ、エポキシ基、マレイミド基、オキセタン基、アルコキシシリル基等を挙げることができるが、他の官能基との共存安定性を考慮すると、不飽和結合単独又はこれとチオール基とを組み合わせたものが好ましい。また、不飽和結合は活性エネルギー線により硬化反応の進行が可能なだけでなく、ジアルキルペルオキシド、ペルオキソカルボン酸、ペルオキシドカーボネート、ペルオキシドエステル、ハイドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、アゾジニトリル又はベンソピナコルシリルエーテルのような熱ラジカル開始剤を塗料中に含有させることで、加熱によって硬化反応可能な官能基となりうる。
【0018】
また、上記加熱によって硬化反応可能な官能基としては、塗料分野でよく知られた官能基を利用することができる。このような官能基としては、先の電着のためのイオン性基及び活性エネルギー線の照射によって硬化反応可能な官能基と直接反応したり、電着塗装や活性エネルギー線による硬化反応を妨げるものでなければ特に限定されず、具体的には、水酸基であることが好ましい。上記加熱によって硬化反応可能な官能基には、通常、その硬化反応の相手となる硬化剤が塗料中に含まれる。加熱によって硬化反応可能な官能基が水酸基である場合、上記硬化剤として、例えば、ブロックされていてよいポリイソシアネート、メラミン樹脂等、当業者によく知られたものを挙げることができる。
【0019】
例えば、特開平5−263026号公報には、分子中に3個以上のアクリロイル基を有する多官能アクリレートを10〜70質量部と、カチオン電着性を有する平均分子量2000〜30000の樹脂を30〜90質量部とを有効成分として含有する紫外線硬化型カチオン電着塗料組成物が開示されている。このように、不飽和結合を活性エネルギー線の照射によって硬化反応可能な官能基として有するバインダー成分として含む電着塗料は公知であるので、これに熱ラジカル開始剤を含有させることにより、本発明の電着塗膜形成方法で使用される電着塗料を得ることができる。また、上記不飽和結合を活性エネルギー線の照射によって硬化反応可能な官能基として有するバインダー成分に、加熱によって硬化反応可能な官能基を導入し、これに応じた硬化剤を選択することにより、本発明の電着塗膜形成方法で使用される電着塗料を得ることは当業者にとって困難なことではない。
【0020】
また、特表2002−531676号公報に開示されている、エチレン不飽和の末端(メタ)アクリル二重結合を有する、カチオン性基を有するポリウレタン(メタ)アクリレートと、エチレン不飽和(メタ)アクリル二重結合を少なくとも2つ有する反応性希釈剤とをバインダー成分とし、光ラジカル開始剤及び/又は熱ラジカル開始剤を含有する水性分散体は、本発明の電着塗膜形成方法で使用される電着塗料として使用することが可能である。ここで、上記水性分散体の(メタ)アクリル二重結合は臭素20〜150g/固形物100gの臭素価に相当する量を有し、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートからのエチレン不飽和の末端(メタ)アクリル二重結合が、カチオン性基を有するポリウレタンプレポリマーにウレタン、尿素、アミド又はエステル基を介して結合している。
【0021】
さらに、国際特許公開WO98/03595号パンフレットにはスルホニウム基とプロパルギル基とを含有するカチオン電着塗料が開示されている。この電着塗料も本発明の電着塗膜形成方法で使用することが可能である。この電着塗料は、例えば、樹脂固形分100gあたりのスルホニウム基の量が5〜400mmolであり、プロパルギル基の量が10〜495mmolであり、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は500mmol以下である。また、不飽和結合としてプロパルギル基以外に二重結合を含む成分を併用することも可能である。なお、このスルホニウム基とプロパルギル基とを含有するカチオン電着塗料は先の熱ラジカル開始剤を使用しなくても、加熱により硬化反応が進行することが知られている。また、不飽和結合であるプロパルギル基を有することから、活性エネルギー線の照射によっても硬化反応可能である。
【0022】
なお、本発明の電着塗膜形成方法における電着塗料としては、アニオン電着塗料であってもカチオン電着塗料であってもよいが、被塗装物からのイオンの溶出等の観点からカチオン電着塗料であることが好ましい。
【0023】
得られる電着塗膜の電気絶縁性の観点から、本発明の電着塗膜形成方法に用いられる電着塗料は、上記スルホニウム基とプロパルギル基とを含有するカチオン電着塗料であることが好ましい。このようなカチオン電着塗料として、インシュリードシリーズ(日本ペイント社製電解活性型エレクトロコーティング材)を挙げることができる。
【0024】
なお、本発明の電着塗膜形成方法に用いられる電着塗料は、必要に応じて光ラジカル開始剤を含有するものであってもよい。上記電着塗料に含有することができる光ラジカル開始剤としては、当業者によく知られたものを適宜使用することができる。その例として、ベンゾイン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)等のベンゾフェノン類;キサントン、チオキサントン等のキサントン類;2−フェニル−2−ヒドロキシ−アセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシ−アセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(ベンジルジメチルケタール)等のアセトフェノン類;その他、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4,4−ジアジドスチルベンゼン−2,2−ジスルホン酸、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどを挙げることができる。これらの光ラジカル開始剤は通常、塗料中の樹脂固形分中0.1〜10質量%の量で含有される。
【0025】
本発明の電着塗膜形成方法で使用される電着塗料には、一般的に電着塗料に含まれる顔料や添加剤成分を含むことができる。
【0026】
本発明の電着塗膜形成方法における被塗装物としては特に限定されず、例えば、被塗装部分が通電可能なものであり、形状についても特に限定されるものではない。
【0027】
本発明の電着塗膜形成方法における電着塗装工程は、上記電着塗料を用いて通電可能な被塗装物に対して電着塗装を行い、未硬化の電着皮膜を得るものである。なお、この電着塗装における電着浴温度、塗装電圧、通電時間等の電着条件は、使用する電着塗料に応じて設定されるが、その膜厚が乾燥膜厚で5〜30μmとなるように設定することが好ましい。
【0028】
本発明の電着塗膜形成方法における水洗工程は、上記電着塗装工程終了後、被塗装物及び電着皮膜上に残存する余分な電着塗料を洗い流すものである。この工程で用いられる溶媒は、得られる電着塗膜の電気絶縁性の観点から、イオン交換水であることが好ましいが、イオン交換水に、酢酸、乳酸等の水溶性のカルボン酸化合物等を添加した溶媒によって水洗した後、イオン交換水によって水洗する2段階の方法を行ってもよい。これにより、残存している電着塗料をより効果的に取り除くことができる。
【0029】
上記水洗方法としては特に限定されず、浸漬方法及びスプレー方法等、当業者によってよく知られている方法を用いればよい。水洗時間は特に限定されず、例えば、30秒〜2分である。
【0030】
本発明の電着塗膜形成方法における予備加熱工程は、上記電着皮膜全体を硬化させることが目的ではなく、上記水洗工程終了後、得られた電着皮膜を加熱し一旦溶融させてフローさせることにより、電着皮膜中に存在するピンホール等の膜の欠陥をなくし、皮膜の均一化及び皮膜表面の平滑性を向上させることを目的として行うものである。従って、その後も連続して加熱する場合であっても、電着皮膜が溶融してフローした時点でこの工程が終了したものとする。このように電着皮膜を溶融してフローさせることによって、電着皮膜の平滑性が向上し、ピンホールも消滅するため、高度な絶縁性が得られる点で好ましいものである。
【0031】
更に、皮膜表面の平滑性を向上させることによって、得られた皮膜を高周波信号が流れる回路でも使用することができる。これは、皮膜の粗度が小さいと電流による磁界の乱れが少なくなり、磁界の影響を受けやすい高周波電流に対応することができるようになるためである。また、平滑性を向上させることによって、電着された製品の上に配線する導線が断線する危険性を低減でき、更に、パターンニング時の細線化が可能になる。
【0032】
上記予備加熱工程における加熱温度としては、電着皮膜を溶融させることができる温度以上であることが必須であり、用いられた電着塗料の種類によって適宜設定することができるが、通常、60〜130℃である。60℃未満であると、溶融による電着皮膜のフローが不充分になり、工程後、ピンホールが残り、皮膜の均一化が不充分になったり、皮膜表面の平滑性が不充分になったりする恐れがある。また130℃を超えると、電着皮膜のフローが充分に行われる前に硬化が始まり、工程後、ピンホールが残り、皮膜の均一化が不充分になったり、皮膜表面の平滑性が不充分になったりする恐れがある。好ましくは70〜110℃である。上記予備加熱工程の加熱時間としては特に限定されないが、電着皮膜の溶融及び工業的な観点から、例えば2〜30分である。
【0033】
本発明の電着塗膜形成方法における活性エネルギー線照射工程は、本加熱硬化工程の前に、予備加熱工程後に均一性及び平滑性が向上した電着皮膜の表面を固定化させるものである。この工程を行うことで、電着皮膜のリフローが抑制され、次工程の本加熱工程において電着皮膜をさらに加熱し完全に硬化させても、前工程で得られた電着皮膜の表面の高い平滑性を保持したまま、最終的な電着塗膜を得ることができる。
【0034】
上記活性エネルギー線としては、紫外線、X線、電子線、近赤外線又は可視光などが用いられる。なお、本発明で定義する活性エネルギー線には、赤外線、高周波、マイクロ波のような熱に関与するエネルギーは含まないものとする。ただし、近赤外線は熱に関与するエネルギーであるが、この波長領域で開始能を有する光ラジカル開始剤が存在するため、上記活性エネルギー線に含めるものとする。
【0035】
上記紫外線を照射する場合には、様々な光源を使用することができ、例えば水銀アークランプ、キセノンアークランプ、蛍光ランプ、炭素アークランプ、タングステン−ハロゲン複写ランプなどを挙げることができる。一方、電子線の発生源としては、コッククロフト型、コッククロフトワルトン型、ファン・デ・グラーフ型、共振変圧器型、変圧器型、絶縁コア変圧器型、ダイナミトロン型、リニアフィラメント型及び高周波型などの電子線発生装置を用いることができる。なお、電子線を用いる場合、必ずしも、光ラジカル開始剤の使用を必要とはしない。
【0036】
この工程における活性エネルギ−線の照射条件は、用いられる電着塗料中に含まれる樹脂の有する不飽和結合の量や分子量によって異なってくるが、活性エネルギー線が紫外線の場合、例えば、波長は200〜500nmであり、積算線量は、用いる塗料が光ラジカル開始剤を含む場合は、例えば、100〜10000mJ/cm2、光ラジカル開始剤を含まない場合は、例えば、1000〜20000mJ/cm2とすることができる。積算線量が不充分だと、電着皮膜表面の固定化が不充分になり、最終的に得られる電着塗膜の平滑性が低下する恐れがある。また、積算線量が過剰になっても特に問題はないが、エネルギーの無駄になる恐れがある。一方、電子線を用いる場合には、そのエネルギーが50〜500keVである電子線照射装置を用いて所定の時間照射することが好ましい。
【0037】
また、活性エネルギー線の照射が均一となり、上記積算線量やエネルギーが所定範囲内となるよう、被塗装物の形状に合わせて電着皮膜と光源との距離を調整することが好ましい。
【0038】
なお、上記活性エネルギー線照射工程は、上記予備加熱工程終了後、被塗装物を冷却することなく、連続して行ってもよい。
【0039】
本発明の電着塗膜形成方法における本加熱工程は、上記活性エネルギー線照射工程で得られた表面が固定化した電着皮膜を加熱して硬化させるものである。この工程を行うことによって、電着皮膜内部を含めた全体を硬化させることができる。なお、この工程では、電着皮膜が再度溶融してフローするが、皮膜表面は前工程によって硬化しているため溶融せず、従って、前工程で得られている皮膜表面の高い平滑性を維持したまま、硬化した電着塗膜を得ることができる。
【0040】
上記本加熱工程における加熱条件としては特に限定されず、上記予備加熱工程及び上記活性エネルギー線照射工程を行った後に形成されている表面が固定化している電着皮膜を、内部を含めた全体を完全に硬化させることができるものであれば特に限定されず、用いられる電着塗料の種類によって適宜設定することができるが、例えば、加熱温度130〜260℃である。また、上記本加熱工程における加熱時間は特に限定されず、例えば、10〜30分である。
【0041】
なお、上記本加熱工程における加熱は、上記予備加熱工程から引き続いて連続して行われるものであってよい。
【0042】
本発明の電着塗膜形成方法は、導電性材料を被塗装物として使用することができるものであり、銅、鉄、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム等の各種金属材料の電着塗膜形成に使用することができる。
【0043】
本発明の電着塗膜は、上記電着塗膜形成方法によって形成されることを特徴とするものであり、本発明の電着製品は、上記電着塗膜を有しているので、電気絶縁性が高く、平滑性の高いものである。
【0044】
本発明の積層塗膜形成方法は、上記電着塗膜上に、さらに、オーバーコート剤を塗布するものであってもよい。上記オーバーコート剤は上記電着塗膜を保護したり、美観を付与したり、或いは、得られる積層塗膜に新しい機能を付与するものである。上記オーバーコート剤としては特に限定されず、例えば、加熱及び/又は活性エネルギー線によって硬化反応可能なものを挙げることができる。このようなものとして具体的には、一般に上記電着塗料のところで述べたバインダー成分のうち、加熱によって及び/又は活性エネルギー線照射によって硬化可能なバインダーを挙げることができる。なお、水性でない場合は、上記バインダーはイオン性基を有する必要はない。上記バインダー成分の骨格としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができ、また、さらに可とう性が必要な場合は、これらの樹脂にブタジエン骨格やシロキサン骨格、長鎖脂肪族骨格の導入等の変性を行ったものを挙げることができる。
【0045】
上記オーバーコート剤が加熱によって硬化反応可能なもので、上記バインダー成分だけで硬化しない場合、バインダー成分として、さらに、上記反応性官能基の種類に応じた硬化剤を組み合わせることができる。上記硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ブロックされていてよいポリイソシアネートを挙げることができる。
【0046】
上記オーバーコート剤は、上記バインダー成分の他、必要に応じて、顔料、樹脂微粒子、各種添加剤等を含むことができる。また、積層塗膜の新しい機能として導電性を付与する場合には、上記オーバーコート剤に、例えば、金属微粒子、カーボン及び金属酸化物等を含むことができる。また、高誘電性を付与する場合には、例えば、グラスファイバ、セラミック等を含むことができる。
【0047】
上記塗布方法としては特に限定されず、バーコート、ダイコート、スプレーコート、回転霧化式コート及びスピンコート等、当業者によってよく知られている方法を挙げることができる。塗布後、加熱及び/又は活性エネルギー線照射することによって硬化させてオーバーコートを形成することができる。上記加熱条件及び活性エネルギー線照射条件は、用いられるオーバーコート剤の種類によって適宜設定することができる。上記オーバーコートの硬化後膜厚としては特に限定されず、例えば、10〜100μmである。
【0048】
なお、上記オーバーコート剤の塗布は複数回行ってもよい。
【発明の効果】
【0049】
本発明の積層塗膜は上記積層塗膜形成方法によって得られるものであり、本発明の製品は上記積層塗膜を有するものであるので、平滑性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0051】
実施例1
銅製回路基板(10cm×10cm×厚み700μm)を被塗装物として、インシュリード1004(日本ペイント社製電解活性型エレクトロコーティング材、溶融温度90℃、硬化温度180℃)を用いて、乾燥膜厚20μmとなるように塗装電圧200Vで1分間電着塗装して未硬化の電着皮膜を得た。なお、電着浴の温度は30℃であった。電着塗装後、イオン交換水を用いた浸漬方法にて1分間水洗を行い、基板上及び電着皮膜上の余分な電着塗料を除去した。
【0052】
次に、未硬化の電着皮膜を有する被塗装物を、90℃に設定された加熱炉で10分間予備加熱した。予備加熱終了後、加熱炉から取り出した被塗装物の表面の電着皮膜を目視にて観察したところ、溶融して充分にフローし、平滑になっていた。
【0053】
続いて、高圧水銀灯(ピーク波長365nm、照射強度50mJ/(cm2・s))を用いて積算線量が10000mJ/cm2となるよう紫外線照射を行った。
【0054】
その後、被塗装物を、180℃に設定された加熱炉で20分間本加熱することによって硬化させ、電着塗膜を得た。
【0055】
実施例2
実施例1と同様にして得られた未硬化の電着皮膜を有する被塗装物を、加熱条件を90℃に設定し、紫外線照射条件をピーク波長365nm、照射強度50mJ/(cm2・s)として積算線量が10000mJ/cm2となるように設定した、加熱と紫外線照射とを同時に行うことが可能な装置を用意し、9分間加熱のみを行った。その後同条件で1分間加熱を続けながら同時に1分間紫外線照射を行った。
【0056】
その後、実施例1と同様にして、被塗装物を、180℃に設定された加熱炉で20分間本加熱することによって硬化させ、電着塗膜を得た。
【0057】
実施例3
実施例2で得られた電着塗膜に対して、CCR−232GF(アサヒ化学研究所社製エポキシ樹脂系オーバーコート剤)を用いて、硬化膜厚25μmとなるようにスプレーコートした。その後150℃で60分間加熱して硬化させ、積層塗膜を得た。
【0058】
実施例4
インシュリード1004に代えて、インシュリード1004樹脂固形分100部に対してイルガキュア651(チバガイギー社製光ラジカル開始剤、ベンジルジメチルケタール)を1部添加したコーティング材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、溶融して充分にフローし、平滑になっている電着皮膜を得た。
【0059】
続いて、高圧水銀灯の積算線量を200mJ/cmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして本加熱した後、電着塗膜を得た。
【0060】
比較例1
予備加熱と紫外線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗膜を得た。
【0061】
比較例2
予備加熱を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗膜を得た。
【0062】
比較例3
紫外線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして電着塗膜を得た。
【0063】
<評価試験>
平滑性
実施例1、2、4及び比較例1〜3によって得られた電着塗膜、並びに、実施例3で得られた積層塗膜の表面粗度をSJ−201(ミツトヨ社製表面粗度計)を用いて、Ra値を測定した。測定条件は、カットオフを0.8mmとした。得られた結果は表1に示した。
【0064】
絶縁破壊電圧
実施例1、2、4及び比較例1〜3によって得られた電着塗膜、並びに、実施例3で得られた積層塗膜の絶縁破壊電圧を、自動耐電圧絶縁試験器 8525(鶴賀電機社製絶縁破壊電圧測定装置)を用いて測定した。得られた結果は表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、本発明の電着塗膜形成方法によって得られた電着塗膜(実施例1、2及び4)及び本発明の積層塗膜形成方法によって得られた積層塗膜(実施例3)は、平滑性に優れ、電気絶縁性にも優れていることがわかった。しかしながら、予備加熱工程を行わないもの(比較例2)、及び、予備加熱工程及び活性エネルギ−線照射工程を行わないもの(比較例1)並びに活性エネルギー線照射工程を行わないもの(比較例3)は平滑性に劣り、電気絶縁性も劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電着塗膜形成方法は、本加熱工程を行う前に、予備加熱工程と活性エネルギ−線照射工程とを順に行うので、得られる電着塗膜は平滑性に優れ、電気絶縁性に優れている。
【0068】
また、本発明の積層塗膜形成方法は上記電着塗膜形成方法によって得られた電着塗膜上にオーバーコート剤を塗布したものであってもよく、この場合も得られる積層塗膜は平滑性に優れ、電気絶縁性に優れている。
【0069】
これらは、電着塗装によって得られた未硬化の電着皮膜の表面粗度の粗さや、皮膜中に存在するピンホールを、予備加熱を行うことによって、電着皮膜が溶融してフローし、均一化及び平滑化することができ、さらに、活性エネルギ−線照射することによって、皮膜表面を固定化させて均一化及び平滑化された状態を保持できるようにした後、皮膜全体を加熱硬化することによると考えられる。
【0070】
本発明の電着塗膜形成方法及び本発明の積層塗膜形成方法は、優れた平滑性及び電気絶縁性を有する電着塗膜及び積層塗膜を得ることができ、各種電子、電気機器分野等に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に対して、加熱及び活性エネルギー線照射によって硬化可能な電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する方法であって、
電着塗装工程、水洗工程、予備加熱工程、活性エネルギー線照射工程、及び本加熱工程を順に行うことを特徴とする電着塗膜形成方法。
【請求項2】
前記活性エネルギ−線照射工程は、前記予備加熱工程終了後、被塗装物を冷却することなく、連続して行われるものである請求項1記載の電着塗膜形成方法。
【請求項3】
前記本加熱工程における加熱は、前記予備加熱工程から連続して行われるものである請求項1又は2記載の電着塗膜形成方法。
【請求項4】
前記電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有する樹脂組成物からなるものである請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の電着塗膜形成方法。
【請求項5】
前記電着塗料は、カチオン電着塗料である請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の電着塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の電着塗膜形成方法によって形成されることを特徴とする電着塗膜。
【請求項7】
請求項6記載の電着塗膜を有することを特徴とする電着製品。
【請求項8】
請求項6記載の電着塗膜に対して、さらに、オーバーコート剤を塗布することを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項9】
請求項8記載の積層塗膜形成方法によって形成されることを特徴とする積層塗膜。
【請求項10】
請求項9記載の積層塗膜を有することを特徴とする製品。

【公表番号】特表2006−523776(P2006−523776A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507688(P2006−507688)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004176
【国際公開番号】WO2004/085713
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】