説明

電磁アクチュエータ

【課題】 電磁アクチュエータの作動速度を速める。
【解決手段】 本体70にコイル68を収納し、コイル68の内側に内円筒状部98aを配置し、コイル68により吸引されるアーマチャ80を、内円筒状部98aと間隙を空けて配置し、内円筒状部98aと間隙を空けて、コイル68のアーマチャ80側に磁束集中部材100を配置し、アーマチャ80と内円筒状部98aとの間隙よりも、内円筒状部98aと磁束集中部材100との間隙の方が大きく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁アクチュエータに関し、例えば燃料噴射弁に使用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射弁、特にコモンレールシステムに使用される燃料噴射弁に使用されている電磁アクチュエータの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の燃料噴射弁は、図4に示すように、ノズルボディ2、ニードル3、ホルダボディ4、オリフィスプレート6及び電磁ユニット8等から構成されている。ノズルボディ2は、オリフィスプレート6を介してホルダボディ4の下端にリテーニングナット10によって結合されている。ノズルボディ2の上端面から先端部に向かって、ニードル3を摺動自在に収容するガイド孔12が形成され、ガイド孔12の先端にはニードル3のリフト時に燃料を噴射する噴射口14が形成されている。ガイド孔12内周面とニードル3の外周面との隙間により、噴射口14へ高圧燃料を導く高圧通路16が形成され、ガイド孔12の中途には内径を拡大した燃料溜め室18が形成されている。高圧通路16の上端は、ノズルボディ2の上端面に開口し、オリフィスプレート6の高圧通路20に接続されている。高圧通路20は、ホルダボディ4内の高圧通路22を介してホルダボディ4の上端に設けた配管継手24に接続され、配管継手24にはコモンレールから高圧燃料が供給される。
【0003】
ガイド孔12には円筒形状のスプリング台座26が圧入固定され、スプリング台座26とニードル3との間にニードル3を閉弁方向(図4の下方)に付勢するスプリング28が配置されている。スプリング台座26の内周面には、ニードル3の上端面に高圧燃料圧力を背圧として付与する背圧室30が形成され、この背圧によってもニードル3は、閉弁方向に付勢されている。また、燃料溜め室18の高圧燃料の圧力は、ニードル3を開弁方向(図4の上方)に付勢している。
【0004】
図5に示すように、オリフィスプレート6には、高圧通路20から背圧室30へ高圧燃料を流入させる流入通路32と、背圧室30から高圧燃料を低圧側へ流出させる流出通路34とが形成されている。
【0005】
ホルダボディ4には、電磁ユニット8が収容されている。電磁ユニット8は、樹脂製ボビンに巻回された電磁コイル36を有するステータ38と、このステータ38に対向して稼動するアーマチャ40と、アーマチャ40と一体に稼動して流出通路34を開閉するボール弁42とを備えている。ステータ38の中心部には、上下方向に伸びるスプリング収容孔44が形成され、これにスプリング46が収容され、ボール弁42を流出通路34側に押圧するようにアーマチャ40を押圧している。ステータ38の下方は、ボール弁42を収容する弁室として機能し、この弁室には流出通路34から流出した低圧燃料で満たされている。オリフィスプレート6の上面には環状の溝48が形成され、この溝48から外側方向に伸びる溝50を介して弁室の低圧燃料は、低圧通路52に流出する。
【0006】
アーマチャ40は、円板部54を有し、円板部54は、ステータ38と対向配置されて、ステータ38と共に磁気回路を形成している。円板部54の中央には台座部56が形成され、これからボール弁42に向かって当接部58が形成され、その内部にボール弁42が収容されている。円板部54には、その中心の回りに同心的に複数の貫通孔60が形成され、これらのうち何本かには、ガイドピン62が挿入され、ガイドピン62は、オリフィスプレート6に固定されている。貫通孔60は、円板部54とステータ38とが形成する磁気回路を中断させる位置に形成されている。電磁コイル36の下面には、磁性部材62が配置されている。磁性部材62は、ステータ38の下部に形成した突出部64に嵌められており、ステータ38の外周囲から段部64に到達する環状のもので、突出部64に接触している。
【0007】
電磁コイル36へ通電停止の状態では、ボール弁42が流出通路34を閉弁しているので、ニードル3を閉弁方向へ付勢する背圧室30の油圧とスプリング28の付勢力が、ニードル3を開弁方向に付勢する燃料溜め室18の油圧よりも大きく、ニードル3が噴射口14を閉じ、燃料は噴射されない。電磁コイル36へ通電すると、電磁コイル36の回りに磁束が発生し、ステータ38、アーマチャ40が磁化され、アーマチャ40が吸引され、スプリング46の付勢力に抗して、ガイドピン62にガイドされながらアーマチャ40がステータ38側に移動する。これによって背圧室30の油圧を受けてボール弁42が流出通路34を開弁し、背圧室30の高圧燃料がボール弁42の弁室に開放される。背圧室30の油圧が低下し、ニードル3を開弁する力が大きくなり、ニードル3が上昇し、燃料が噴射口14から噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−174820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の電磁弁によれば、電磁コイル36が通電されたとき、電磁コイル36が発生した磁束は、磁性部材64、アーマチャ40、ステータ38の突出部64と流れると共に、磁性部材62から直接に突出部64へも流れる。その結果、電磁コイル36が発生した磁力の一部しかアーマチャ40の吸引力として機能せず、アーマチャ40を高速にステータ38側に移動させることができない。高速にコモンレールシステムに使用される電磁弁は、高速化が要求されており、特許文献1の技術では、この要求を満たすことができない。
【0010】
本発明は、作動速度を速めることができる電磁アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の電磁弁は、本体を有し、この本体にはコイルが収納されている。このコイルの内側に第1磁性部材が配置されている。前記コイルにより吸引されるアーマチャが、第1磁性部材と間隙を空けて配置されている。アーマチャには一体に作動部が形成されている。第1磁性部材と間隙を空けて、第2磁性部材が前記コイルのアーマチャ側に配置されている。第2磁性部材の一部は、アーマチャの一部、例えば外周部と重なり合うことが望ましく、アーマチャの一部は第1磁性部材の一部と重なり合うことが望ましい。アーマチャとコイルとの間隙よりも、第1磁性部材と第2磁性部材との間隙の方が大きく形成されている。
【0012】
このように構成された電磁アクチュエータでは、第1磁性部材と第2磁性部材との間の間隙が、アーマチャと第1磁性部材との間隙よりも大きいので、コイルが励磁されたときコイルによって発生し、第2磁性部材を通過した磁束は、第1磁性部材に直接に殆ど入らずに、アーマチャに入り、アーマチャから第1磁性部材に入る。その結果、良好にアーマチャが磁化されて、高速に第1磁性部材側に移動し、アーマチャに設けられている作動部も高速に移動する。
【0013】
第2磁性部材の第1磁性部材と対向する端面は、前記コイル側が前記アーマチャ側よりも前記第1磁性部材から離れているように構成することもできる。このように構成することにより、第2磁性部材から第1磁性部材に直接に向かう磁束を少なくすることができ、より多くの磁束をアーマチャ側に向かわせることができ、更に高速にアーマチャを移動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明による電磁弁では、アーマチャの移動を高速化することができ、例えばコモンレールシステムにおいて使用するのに適した電磁弁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1実施形態の電磁アクチュエータの部分省略拡大断面図である。
【図2】図1の電磁アクチュエータの一部をさらに拡大した部分省略拡大断面図である。
【図3】図1の電磁アクチュエータで使用するアーマチャの横断面図である。
【図4】従来の電磁アクチュエータを使用した燃料噴射弁の側面図である。
【図5】図4の燃料噴射弁の部分省略拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の1実施形態の電磁アクチュエータは、上述した従来技術と同様に、コモンレールシステムで使用される燃料噴射弁に設けられている。この電磁アクチュエータでは、コイルに通電することによってアーマチャを移動させることによって、高圧流体を低圧流路に流す。これによって、噴射口を閉じているノズルを上昇させて、噴射口から高圧燃料をディーゼルエンジンのシリンダに供給する。
【0017】
この電磁アクチュエータでは、図1に示すように、本体部70を有し、この本体部70は、ベース部70a、胴部70b、結合部70c、頭部70d等からなる。ベース部70の上面中央に設けた凹所に弁座形成部72が配置されている。この弁座形成部72の一端、図1においては上端の中央に弁座74が形成されている。弁座74には弁座形成部72内に弁座74側からそれぞれ形成したオリフィス76、流出通路78からなる高圧通路を介して高圧流体が供給されている。
【0018】
弁座74には、アーマチャ80に形成した作動部、例えば弁部82が着座して、弁座74を閉弁している。アーマチャ80は、後述するように図1における上下方向に昇降可能で、上昇時に弁座74から弁部82が離座する。これによって、弁座74からの高圧流体が、弁座形成部72の周囲に胴部70bによって形成された低圧通路83に流出する。なお、低圧通路83の低圧油は、図示していない通路を介して外部に排出される。上述した従来技術では、アーマチャとは別個に設けたボール弁が弁座の開閉を行っていたが、この実施形態では、アーマチャ80に一体に形成した弁部82が弁座74の開閉を行っている。アーマチャ80は、上述した従来技術におけるボール弁を保持するための当接部が不要で、従来技術のアーマチャよりも軽量化されている。
【0019】
アーマチャ80は、図3に示すように中央に高強度部84を有している。高強度部84は、円板状の比較的強度が高い高強度材、例えばスチール鋼やチタン等で構成されている。この高強度部84には、被ガイド部、例えば貫通孔86が穿設されている。貫通孔86は、図1における上下方向に高強度部84を貫通しており、複数、例えば4つ、高強度部84の円周方向に間隔をおいて同芯状に形成されている。この高強度部84の周囲に磁性部88が形成されている。磁性部88は、磁性材料、例えば圧粉材料製の環状体で、高強度部84の外周面に一体にはめ込まれている。
【0020】
本体部70内におけるアーマチャ80の上部には、コイル96が配置されている。コイル96は、コア98に巻回され、このコア98がステータとして機能する。コア98は、その中央に第1磁性部材、例えば内円筒状部98aを有し、この内円筒状部98aは、アーマチャ80の磁性部88の上方に位置し、この内円筒状部98aから離れて、即ちアーマチャ80の外周縁よりも外側に外円筒状部98bを有している。これら両円筒状部98a、98b間にコイル96が巻回されている。
【0021】
外円筒状部98bは、内円筒状部98aよりも短く、この外円筒状部98bに接して内円筒状部98aの近傍まで第2磁束部材、例えば環状の磁束集中用部材100が配置されている。この磁束集中用部材100は、その内周端面と内円筒状部98aとの間に隙間が形成されている。また、コイル96が非通電時に、アーマチャ80と内円筒状部98aとの間にも隙間が形成されている。内円筒状部98aと磁束集中用部材100の内周面との間の隙間は、コイル96の非通電時にアーマチャ80と内円筒状部98aとの間に形成される隙間よりも大きい。
【0022】
また、磁束集中用部材100の内周面におけるコイル96側の角は、面取りされ、この部分の内円筒状部98aとの間の間隙は、磁束集中用部材100の内周面のアーマチャ80側における内円筒状部98aとの間の隙間よりも大きく、コイル96に近い位置で最も大きく、面取りされた部分と内円筒状部98aとの間の間隙はアーマチャ80側に向かうに従って徐々に小さくなり、一定値となると、そのままアーマチャ80側までその隙間を維持する。コイル96に近く比較的磁力の大きい部分での磁束集中部材100と内円筒状部98aとの間隔を大きくしてあるので、コイル96の近傍で磁束集中部材100から直接に内円筒状部98aに向かう磁束を粗にすることができる。
【0023】
アーマチャ80の外周部分は磁束集中用部材100の内周面よりも外側の位置まで伸びているが、外側円筒状部98bまでは伸びていない。即ち、アーマチャ80の一部と磁束集中用部材100の一部とが重なりあっている。また、内円筒状部98aの下端は、アーマチャ80の磁性部88の上方に位置している。
【0024】
コイル96に通電された場合、コイル96が発生した磁束は、図2に破線で示すように、外側円筒部98b、磁束集中部材100、アーマチャ80の磁性部88、内側円筒部98aの間に集中して密となり、磁束集中部材100と内円筒状部98aとの大きい隙間に起因して、磁束集中部材100から直接に内円筒状部98aに向かう磁束は非常に粗となる。従って、コイル96に通電された場合、コイル96が発生した磁束は、効率的にアーマチャ80を通過して、アーマチャ80は効率的に磁化され、コア98に高速に吸引される。このように効率的に磁化されるので、アーマチャ80の直径を大きくして、外円筒状部98bの外周付近にアーマチャ80の外周が位置するようにする必要が無く、アーマチャ80を小型化することができる。なお、コア98と磁束集中用部材100とは、上述の形状に限定されることなく、磁束集中用部材100と外円筒状部98bとを一体に形成し、内円筒状部98aと外円筒状部98bとを別体に形成するなど、その他別の形状で分割しても良い。
【0025】
高強度部84の上述した4つの貫通孔86のうち所定のもの、例えば高強度部84の中心を挟んで対向する2つのものには、ガイド、例えばガイドピン102が挿通され、それらの基端は、弁座形成部72に形成した凹所に固定されている。上述したようにコイル96に通電されてアーマチャ80が上昇したり、コイル96への通電停止によってアーマチャ80が降下したりするとき、ガイドピン102がアーマチャ80をガイドする。ガイドピン102をガイドするための貫通孔86は、高強度部84に形成されているので、貫通孔86を形成しても、高強度部84には割れが発生しない。また、これら貫通孔86は、図2から明らかなように、コイル96への通電時にアーマチャ80において磁束が集中する部分から離れた高強度部84に形成されているので、貫通孔86を形成したことにより、磁束の集中が阻害されることが無く、アーマチャ80が高速に移動する。
【0026】
また、コア96の内側円筒状部98aの内部には、弾性手段、例えばコイルバネ104が配置され、その一端はアーマチャ80の磁性部88に接触し、他端は、バネ受け106を介して本体部70内の頭部70dに接触している。このコイルバネ104は、コイル96への通電によりアーマチャ80が上昇したとき、そのバネ力に抗して圧縮され、コイル96への通電停止時に、そのバネ力によってアーマチャ80を弁座74に急速に降下させるためのものである。
【0027】
この電磁アクチュエータでは、上述したようにガイドピン102をガイドする貫通孔86は、アーマチャ80における磁性部88に形成され、この磁性部88は、コイル96からの磁束が粗である位置に形成されているので、アーマチャ80を吸引するための磁力が貫通孔86によって弱められることがなく、この点からも、高速にアーマチャ80を吸引することができる。しかも、アーマチャ80に一体に弁部82を形成しているので、アーマチャ80には従来術のアーマチャのように当接部を設ける必要が無く、アーマチャを軽量化することができ、益々高速にアーマチャ80を移動させることができる。また、アーマチャ80の磁性部88には圧粉材料を使用しているので、渦電流を低減することができ、その結果、磁気吸引力を高めることができ、更に高速にアーマチャ80を移動させることができる。また、複数の貫通孔86を設けて、そのうちの幾つかのものにガイドピン102を挿入する構成であるので、複数の貫通孔86のうちガイドピン102に対するガイド性能のよいものを使用することができるので、ガイド性能を向上させることができる上に、ガイド性能を向上させるために貫通孔86に対して加工の手直しをする頻度を減少させることができる。また、ガイドピン102が挿入されていない貫通孔86は、油抜きとして作用し、アーマチャ80が移動するときに、アーマチャ80が移動する際に、上述の貫通孔86からアーマチャ80とコイル96との間の油を排出または供給するように作用する。さらに、コイル96の上方には貫通孔86と同様に作用する油抜きのための孔90が形成されている。
【0028】
上記の実施形態では、コモンレールシステムの燃料噴射弁に、この発明を実施したが、これに限ったものではなく、弁を開くことによって高圧流体を低圧側に流す構成の弁であれば、他の弁にも使用することができるし、弁以外の作動部、例えばアーマチャ80のステータ側への移動に従って接点を開または閉するような構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
70 本体部
80 アーマチャ
82 弁部(作動部)
96 コイル
98a 内円筒状部(第1磁性部材)
100 磁束集中部材(第2磁性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
前記本体に収納されたコイルと、
前記コイルの内側に配置された第1磁性部材と、
前記コイルにより吸引され、前記第1磁性部材と間隙を空けて配置されたアーマチャと、
前記第1磁性部材と間隙を空けて、前記コイルのアーマチャ側に配置された第2磁性部材と、
前記アーマチャと一体的に形成された作動部とを、
備えた電磁アクチュエータにおいて、
前記アーマチャと前記第1磁性部材との間隙よりも、前記第1磁性部材と第2磁性部材との間隙の方が大きく形成されている電磁アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載の電磁アクチュエータにおいて、第2磁性部材の第1磁性部材と対向する端面は、前記コイル側が前記アーマチャ側よりも前記第1磁性部材から離れている電磁アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72498(P2013−72498A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212352(P2011−212352)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】