説明

電磁ノイズ分布検出装置

【課題】 供試機器内で発生する電磁ノイズの影響が低減された、注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、電磁ノイズを供試機器に注入する信号注入手段と、前記供試機器における複数の測定箇所から電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、検出された前記電磁界強度を最大値検波により測定する最大値検波手段と、前記供試機器における任意の測定箇所から得られた電磁界強度について、複数回の最大値検波による測定から得られた測定値のうち、最小値を保持する最小値保持手段と、前記最小値保持手段に保持された最小値に基づき、前記供試機器上の前記電磁ノイズの伝搬経路分布を検出するノイズ分布検出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器内での電磁ノイズの伝搬経路分布を検出する電磁ノイズ分布検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器内の回路は、近傍にある他の回路の動作や外来電磁波などによる電磁ノイズの影響によって誤動作する場合がある。このため、電子機器の動作に対する電磁ノイズの影響を評価するイミュニティ試験が行われている。
【0003】
イミュニティ試験の一例として、ISO(International Organization for Standardization)11452−4に記載のバルク電流注入(BCI:Bulk Current Injection)法がある。同方法では、供試機器に電流プローブで電磁ノイズを注入し、供試機器の性能劣化や誤動作を評価する。しかし、この試験では、注入された電磁ノイズの供試機器の筐体内部での伝搬経路が特定できないため、ノイズ対策を施す場所を特定することが困難である。
【0004】
そのため、従来の技術では、供試機器をノイズ可視化用アンテナのスキャンエリア上に配置して、供試機器の近磁界を測定する方法が開示されている。スキャンエリアに設けられた各微小アンテナ素子は供試機器から発生する電磁ノイズを検知し、各微小アンテナ素子の位置に対応付けられた電磁ノイズの強度をモニタに表示することで、電磁ノイズの伝搬経路分布を得る方法が開示されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−318252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来の技術では、電磁ノイズの伝搬経路分布に、試験信号として注入された電磁ノイズの影響と、電子回路の動作や外来電磁波などに起因する供試機器内で発生する電磁ノイズの影響が混在しており、供試機器内でノイズ対策を施す場所を特定することが困難になる場合があるという問題点があった。
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、供試機器内で発生する電磁ノイズの影響が低減された、注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、電磁ノイズを供試機器に注入する信号注入手段と、前記供試機器における複数の測定箇所から電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、検出された前記電磁界強度を最大値検波により測定する最大値検波手段と、前記供試機器における任意の測定箇所から得られた電磁界強度について、複数回の最大値検波による測定から得られた測定値のうち、最小値を保持する最小値保持手段と、前記最小値保持手段に保持された最小値に基づき、前記供試機器上の前記電磁ノイズの伝搬経路分布を検出するノイズ分布検出手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、供試機器内で発生する電磁ノイズの影響が低減された、注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることができ、ノイズ対策を施す場所を特定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1にかかる電磁ノイズ分布検出装置の構成例を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1にかかる電磁界強度計により検出された電磁ノイズの強度レベルにおける時間的な変動の一例を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1にかかる電磁ノイズ分布検出装置の動作例を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1にかかる電磁ノイズの伝搬経路分布の一例を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2にかかる注入された電磁ノイズと供試機器内で発生する電磁ノイズとの周波数の関係についての一例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2にかかる注入された電磁ノイズと供試機器内で発生する電磁ノイズとの周波数の関係についての一例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2にかかる電磁ノイズの伝搬経路分布の一例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態3にかかる注入された電磁ノイズと供試機器内で発生する電磁ノイズとの周波数の関係についての一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、それぞれが本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置の構成例を示す図である。本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、信号発生器1、アンプ2、注入プローブ3、検出プローブ4、アンプ5、電磁界強度計6、可動部7、走査部8、制御部9、表示部10を備える。また、電磁界強度計6は最大値検波手段6a、最小値保持手段6bを有する。制御部9はノイズ分布検出手段11を有する。なお、図1に示す構成は一例であり、各部の実装形態はこの限りではない。例えば、各部の機能が共通するハードウェアによって実現されることや、複数のハードウェアに分離されて実現されるなどの変形が許容される。後述する実施の形態2、3においても同様とする。最小値保持手段6bは例えばメモリによって実現される。図1の例においては、最大値検波手段6aと最小値保持手段6bは電磁界強度計6に含まれる構成としているが、これに限られない。すなわち、電磁界強度計6では電磁界強度の測定のみを行い、最大値検波手段6a、最小値保持手段6bは電磁界強度計6外に配置される変形も可能である。例えば、これらは制御部9やノイズ分布検出手段11などの他の機能部によって実現されてもよい。または、処理動作に対応するソフトウェアと、これを実行するハードウェアによって構成されるなどにより、独立した機能部として実現されてもよい。
【0013】
信号発生器1は、試験信号として電磁ノイズを発生する。アンプ2は、信号発生器1で発生した試験信号を増幅する。注入プローブ3は、供試機器100の接続ケーブル(電源ケーブルなど)と接続され、アンプ2で増幅された試験信号を供試機器100に注入する。検出プローブ4は、供試機器100を伝搬する電磁ノイズを検出する。アンプ5は、検出プローブ4から出力された検出信号を増幅する。電磁界強度計6は、アンプ5で増幅された検出信号の強度レベルを測定する。なお、図1では、本実施の形態における供試機器100の一例としてプリント基板を示しているが、プリント基板以外の電子機器を被測定物としてもよい。
【0014】
信号発生器1とアンプ2と注入プローブ3とは、信号注入手段の一例に相当する。また、検出プローブ4とアンプ5と電磁界強度計6とは、電磁界強度検出手段の一例に相当する。なお、アンプ2は電磁ノイズのレベルが検出プローブ4で検出できる程度まで高ければ、省略してもよい。同様に、アンプ5は検出プローブ4からの検出信号のレベルが電磁界強度計6にて電磁界強度を計測できる程度まで高ければ、省略してもよい。また、図1の例では、注入プローブ3が、供試機器100の接続ケーブルにクランプされるタイプとなっているが、この方法に限られない。試験信号として電磁ノイズを注入することができれば、他の接触型または非接触型の方法を用いることができる。
【0015】
可動部7は、検出プローブ4をX(横)、Y(縦)、Z(高さ)、θ(回転)方向に移動させるように構成される。走査部8は、検出プローブ4をXYZθ方向に走査させるために、可動部7の制御を行う。
【0016】
可動部7と走査部8は、供試機器100上の検出位置を移動させる走査手段の一例に相当する。なお、可動部7は、検出プローブ4をXYZθ方向に走査するとしているが、走査方法はこれに限られない。例えば、検出プローブ4を走査する代わりに、供試機器100を移動させてもよい。または、検出プローブ4と供試機器100の両方を移動させてもよい。検出プローブ4と供試機器100との相対的な位置関係を変える方法以外にも、走査領域内に予め多数の検出機器を配置し、各検出機器がそれぞれ測定したデータから電磁ノイズの伝搬経路分布を求めることも可能である。このように、供試機器100を伝搬する電磁ノイズの伝搬経路分布を得る種々の方法を適用することができる。
【0017】
制御部9は、電磁ノイズ分布検出装置の各部に対する制御を行う。例えば、信号発生器1の発生信号周波数の設定、走査部8に対して検出プローブ4の走査方向や走査量の設定、電磁界強度計6の測定制御などを行う。ノイズ分布検出手段11は、電磁界強度計6からの出力データに基づいて電磁ノイズの伝搬経路分布を得るための数値処理を行う。表示部10は、検出された電磁ノイズの伝搬経路分布を表示する。制御部9をコンピュータなどの情報処理装置とした場合には、ノイズ分布検出手段11は、その情報処理装置で動作するソフトウェアとして実現することができる。なお、図1の例においては、ノイズ分布検出手段11は制御部9に含まれる構成としているが、これに限られない。例えば、制御部9以外の他の機能部によって実現されてもよい。または、処理動作に対応するソフトウェアと、これを実行するハードウェアによって構成されるなどにより、独立した機能部として実現されてもよい。
【0018】
次に、電磁界強度計6において、供試機器100内で発生する電磁ノイズの影響を低減させる方法について説明する。本実施の形態では、供試機器100内で発生する電磁ノイズの強度レベルは、時間的に変動するとする。一方、注入プローブ3から試験信号として注入された電磁ノイズの強度レベルは、時間的に変動しないか、または、供試機器100内で発生する電磁ノイズの時間的な変動に比べて十分に小さい場合について説明する。
【0019】
図2は本実施の形態にかかる電磁界強度計により検出された電磁ノイズの強度レベルにおける時間的な変動の一例を示す図である。図2の縦軸は電磁ノイズの強度レベルを示し、横軸はそれぞれ時間と周波数を示す。図示するように、強度レベルが時間的に変動しない周波数成分f1と強度レベルが時間的に変動する周波数成分f2が示されている。図2では説明のため、周波数f1と周波数f2を周波数軸上の異なる位置に示しているが、周波数f1と周波数f2は同じ周波数であってもよい。
【0020】
電磁界強度計6の最大値検波手段6aは、供試機器100における任意の測定箇所からの検出信号に対して、最大値検波による測定を複数回行う。図2では一例として、t1からt5について5回の最大値検波による測定が示されている。電磁界強度計6の最小値保持手段6bは複数回の最大値検波による測定から得られた測定値のうちの最小値を保持する。この結果、最小値保持手段6bに保持される測定結果は、電磁界強度の強度レベルが時間的に変動しない周波数成分f1ではほぼ一定値となるが、時間的に変動する周波数成分f2では、時間t4の時の強度レベルとなる。この場合、ノイズ分布検出手段11はその測定箇所についてはt4の時についての強度レベルを採用する。このようにして、別の測定箇所についても同様に電磁界強度を取得する。その結果、供試機器の複数箇所毎に得られた最小値保持手段6bの最小値から、供試機器100内で発生する電磁ノイズの影響が低減された、注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることができる。
【0021】
図2においては、周波数成分f2の測定値が時間t4のときに、測定限界レベル以下まで低下した例を示している。この場合、供試機器100内で発生する電磁ノイズ成分は完全に除去される。他の測定箇所でも同様に除去できれば、試験信号として注入された電磁ノイズの影響だけを評価した伝搬経路分布を得ることができる。また、時間的に変動する周波数成分が測定限界レベル以下まで低下しない場合であったとしても、得られる電磁ノイズの伝搬経路分布において、供試機器100内で発生する電磁ノイズの影響を低減させることができる。このように、供試機器100内で発生する電磁ノイズの影響が低減された、注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることができる。なお、測定値の最小レベルを導出する方法については最大値検波による測定に偏差が存在するので、複数回の最大値検波による測定から得られた測定値のうちの最小値を保持するとしている。この測定回数は供試機器100内で発生する電磁ノイズの時間的変動などに応じて適宜決定することができる。
【0022】
次に、本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置の動作について説明する。図3は本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置の動作例を示すフローチャートである。信号発生器1は、ノイズ分布検出手段11からの指示に基づいて、試験信号として電磁ノイズを発生する(ステップS31)。電磁ノイズは注入プローブ3を通じて供試機器100に注入される(ステップS32)。注入された電磁ノイズは供試機器100を伝搬し、供試機器100の一面に分布する。次に、検出プローブ4は電磁ノイズの伝搬を検出するために、供試機器100の一面を走査し、注入された電磁ノイズと供試機器100内で発生する電磁ノイズとが混在した電磁界強度を検出する(ステップS33)。電磁界強度計6の最大値検波手段6aは、検出信号に対して最大値検波による測定を複数回行う(ステップS34)。電磁界強度計6の最小値保持手段6bは、複数回の最大値検波による測定から得られた測定値のうち最小値を保持する(ステップS35)。ノイズ分布検出手段11は、最小値保持手段6bに保持されている最小値に基づき、注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を検出する(ステップS36)。検出された電磁ノイズの伝搬経路分布は表示部10に表示される(ステップS37)。
【0023】
図4は本実施の形態にかかる電磁ノイズの伝搬経路分布の一例を示す図である。図示するように、電磁界強度分布が可視化され、注入プローブ3から注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることができる。
【0024】
以上のように、本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、供試機器100に電磁ノイズを注入し、供試機器100から検出された検出信号に対して、複数回の最大値検波による測定を行い、その測定値のうちの最小値を保持する構成とした。これにより、電磁ノイズの伝搬経路分布において、供試機器100内で発生する電磁ノイズの影響が低減され、試験信号として注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることができる。また、得られた伝搬経路分布に基づきノイズ対策を施す場所を特定することが可能となる。
【0025】
実施の形態2.
実施の形態1の方法では、供試機器100内で発生する電磁ノイズの強度レベルの時間的な変動が無いか、または、時間的な変動が小さい場合にはその強度レベルを十分に低減させることが困難となる。あるいは、供試機器100内で発生する電磁ノイズの強度レベルの時間的な変動があり、実施の形態1の構成によりその強度レベルを低減させることができたとしても、その強度レベルが未だ大きいために、注入された電磁ノイズの強度レベルに対して影響を十分に排除できていない場合がある。本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置において、注入する電磁ノイズの周波数は、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数から所定値分ずらしたものとする。本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置の各部の構成は実施の形態1と同様であるため、重複する各部の説明は省略する。
【0026】
信号発生器1は、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数(f0)から電磁界強度計6の周波数についての分解能帯域幅(以下、RBW:Resolution Bandwidth)分よりも広いΔfずれた周波数fn(fn=f0+Δfまたはfn=f0−Δf)の電磁ノイズを試験信号として出力する。検出プローブ4は、供試機器100との位置関係を変えながら、試験信号の周波数成分fnの信号を検出する。電磁界強度計6は、検出信号の周波数(fn)の強度レベルについて、最大値検波手段6aで複数回の最大値検波による測定を行い、その測定値のうちの最小値を最小値保持手段6bに保持する。
【0027】
図5は、本実施の形態にかかる注入された電磁ノイズと供試機器内で発生する電磁ノイズとの周波数の関係についての一例を示す図である。図示するように、注入された電磁ノイズの周波数は供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数f0からΔfだけずらされたものである。Δfが電磁界強度計6のRBW程度まで小さければfn≒f0と近似することができる。このため、検出プローブ4で検出する周波数成分fnの電磁界強度分布から、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数成分f0の電磁界強度分布を近似的に得ることができる。
【0028】
周波数をΔfずらして注入された電磁ノイズが、供試機器100内で発生する電磁ノイズと同じ傾向を示すためには、供試機器100内で発生する電磁ノイズと注入された電磁ノイズとの位相差がλ/4よりずれないことが望ましい。このため、試験信号の周波数を設定する際に、Δfは上記の条件を満たす周波数範囲で選択される。このとき、電磁界強度計6が、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数と注入された電磁ノイズの周波数とを分離して測定できるように、電磁界強度計6のRBWは、この2つの周波数の間隔よりも狭く設定する必要がある。
【0029】
図5では被測定周波数f0よりΔf分高い側にずらした周波数をfnとしたが、Δf分低い側にずらした周波数でもよい。さらには、図6に示すようにf0に対して、Δf分低い側にずらした周波数fn1=f0−Δfと、Δf分高い側にずらした周波数fn2=f0+Δfとの、2つの周波数の電磁ノイズを試験信号として注入することも可能である。供試機器100上の任意位置における周波数f0の電磁界強度を、周波数成分fn1とfn2において得られる検出信号の平均値として求めることができる。図7に示すように、注入された電磁ノイズの周波数成分fn1による電磁ノイズの伝搬経路分布(図7の(a))と、電磁ノイズの周波数成分fn2による電磁ノイズの伝搬経路分布(図7の(b))とを平均化することによって、被測定周波数f0の近似的な電磁ノイズの伝搬経路分布(図7の(c))を得ることができる。周波数成分f1とf2について得られる最小値保持手段6bの最小値について平均化を行う数値処理はノイズ分布検出手段11により実行される。なお、図5、図6において、f0に対してΔf分高い側にずらした周波数の電磁ノイズとΔf分低い側にずらした周波数の電磁ノイズを1つ注入するものであるが、高い側、低い側、その両方について複数の電磁ノイズを注入し、それらからf0の伝搬経路分布を求めてもよい。
【0030】
また、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数f0に対して、1/n波長(λ/n)ずれた周波数の試験信号を注入する場合は、その周波数はfn=nf0/(n+1)とnf0/(n−1)となる。fn1=nf0/(n+1)とfn2=nf0/(n−1)の周波数の試験信号を注入プローブ3で印加し、各々の周波数成分に対応する検出信号から算出した電磁界強度分布に基づいて、被測定周波数f0の電磁界強度分布を内挿する。ここで、周波数成分fn1とfn2をなるべく被測定周波数f0に近づけるように設定すれば、供試機器100内で発生する電磁ノイズの電磁界強度分布との誤差を減少させることができる。すなわち、周波数成分fn1とfn2におけるΔfの設定により、近似する電磁界強度分布と供試機器100内で発生する電磁ノイズの電磁界強度分布との誤差範囲を限定することが可能になる。例えば、1/4波長(λ/4)ずれた場合、4f0/5と4f0/3となるため、誤差範囲は、−20%〜約133.3%の範囲で近似が可能である。1/20波長(λ/20)ずれた場合、20f0/21と20f0/19となるため、誤差は(約−4.8%〜約105%)となる。
【0031】
なお、上述のように周波数成分fn1とfn2において供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数f0からのずれ量は両方とも同じ値のΔfにより定義したが、f0からみて等周波数間隔である必要はない。周波数成分fn1とfn2の式におけるΔfは、供試機器100で発生する電磁ノイズに応じてそれぞれ適宜選択することができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、実施の形態1の構成に加え、信号発生器1は、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数から所定値分ずらした周波数の電磁ノイズを発生する構成とした。これによって、実施の形態1と同様の効果に加え、供試機器100内で発生する電磁ノイズに、強度レベルの時間的な変動が無いか、あるいは、時間的な変動が小さい周波数成分が含まれる場合でも、電磁ノイズの伝搬経路分布において、供試機器100内で発生する電磁ノイズの影響を低減することができ、試験信号として注入された電磁ノイズの伝搬経路分布を得ることができる。また、得られた伝搬経路分布に基づきノイズ対策を施す場所を特定することが可能となる。
【0033】
実施の形態3.
本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数を含んだ所定の周波数帯域の電磁ノイズを注入する構成とする。本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置の各部の構成は実施の形態1と同様であるため、重複する各部の説明は省略する。
【0034】
図8は、本実施の形態にかかる電磁ノイズと供試機器内で発生する電磁ノイズとの周波数の関係についての一例を示す図である。信号発生器1は供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数を含んだ広帯域な電磁ノイズを発生する。検出プローブ4は、供試機器100との位置関係を変えながら、注入された電磁ノイズの周波数成分毎に、供試機器100上の電磁界強度を検出する。電磁界強度計6は、検出信号の強度レベルについて、複数回の最大値検波による測定を行い、その測定値のうちの最小値を最小値保持手段6bに保持する。
【0035】
実施の形態1および2では、電磁ノイズの注入前に、注入する電磁ノイズの周波数を予め定めていた。本実施の形態では、予め電磁ノイズの周波数を特定せずに、広帯域の電磁ノイズを注入して各周波数について検出信号を得る。得られた検出信号に対し、実施の形態1または2に記載の方法で、所望の電磁ノイズの周波数について供試機器100内に伝搬する電磁ノイズの伝搬経路分布を検出することができる。なお、注入する電磁ノイズの周波数帯域幅は、試験対象とする周波数帯域幅に応じて適宜決定することができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態にかかる電磁ノイズ分布検出装置は、実施の形態1または2の構成において、信号発生器は、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数を含んだ周波数帯域の電磁ノイズを発生する構成とした。これによって、実施の形態1または2の効果に加えて、複数の電磁ノイズの周波数に対しても、1度のノイズ注入作業で済むために、試験時間を短縮することができる。
【0037】
なお、上述の説明では、実施の形態2、3の構成は実施の形態1の構成と併せて実施するとしているが、実施の形態1の構成を用いずに実施の形態2、3の構成を実施することも可能である。すなわち、実施の形態1における時間的に変動する周波数成分を最大値検波よって複数回測定する構成と、その測定値のうちの最小値保持により低減させる構成を用いずに、実施の形態2の供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数f0からΔf分ずらされた周波数の電磁ノイズを注入し、周波数f0の電磁ノイズの伝搬経路分布を近似する構成を実施してもよい。同様に、実施の形態1の上記構成を用いずに、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数f0を含んだ周波数帯域の電磁ノイズを注入する構成を実施してもよい。
【符号の説明】
【0038】
100 供試機器
1 信号発生器
2 アンプ
3 注入プローブ
4 検出プローブ
5 アンプ
6 電磁界強度計
6a 最大値検波手段
6b 最小値保持手段
7 可動部
8 走査部
9 制御部
10 表示部
11 ノイズ分布検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁ノイズを供試機器に注入する信号注入手段と、
前記供試機器における複数の測定箇所から電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、
検出された前記電磁界強度を最大値検波により測定する最大値検波手段と、
前記供試機器における任意の測定箇所から得られた電磁界強度について、複数回の最大値検波による測定から得られた測定値のうち、最小値を保持する最小値保持手段と、
前記最小値保持手段に保持された最小値に基づき、前記供試機器上の前記電磁ノイズの伝搬経路分布を検出するノイズ分布検出手段と、を備えることを特徴とする電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項2】
前記信号注入手段は、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数に対して周波数を所定値分ずらした電磁ノイズを注入し、
前記ノイズ分布検出手段は、前記注入された電磁ノイズの周波数に対応する前記最小値保持手段に保持された最小値に基づき、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数における電磁ノイズの伝搬経路分布を近似することを特徴とする請求項1に記載の電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項3】
前記信号注入手段は、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数に対して、周波数を所定値分高い側にずらした電磁ノイズと、周波数を所定値分低い側にずらした電磁ノイズとを注入し、
前記ノイズ分布検出手段は、前記注入された電磁ノイズの周波数に対応する前記最小値保持手段に保持された最小値に基づき、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数における電磁ノイズの伝搬経路分布を近似することを特徴とする請求項1に記載の電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項4】
前記信号注入手段は、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数を含めた所定の周波数帯域の電磁ノイズを注入する請求項1乃至3のいずれか1つに記載の電磁ノイズ分布検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−202822(P2012−202822A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67662(P2011−67662)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】