説明

電磁弁

【課題】放熱用のフィンを簡単に形成してコイルの温度上昇を低減し、コイル吸引力の低減を抑えることができる電磁弁を提供すること。
【解決手段】流体を制御する電磁弁1において、コイルボビン21と、コイルボビン21に巻線を巻き付けて形成される巻線部22と、少なくとも巻線部22を樹脂でモールドした樹脂モールド層24を有するモールドコイル23を有し、樹脂モールド層24にフィン24aを形成し、コイル表面積を拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに通電することにより、コアにプランジャを吸引する吸引力を発生させ、弁体を弁座から離間させる電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、特許文献1に記載される電磁弁101の部分断面図である。
例えば図15に示す電磁弁101は、外壁を形成するヨーク102と、ヨーク102の内側に備えさせたコイル103及びプランジャ104とからなる電磁石105を備える。ヨーク102には、コイル103の過剰な温度上昇を防止する目的として、フィンが設けられている。このフィンは、それぞれ板状に形成した多数の金属製ヨーク素材106をプランジャ104の作動方向に積層させて形成し、そのうちの1又は2枚以上おきのヨーク素材106を外径方向に大きく突出するようにして、形成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図16は、特許文献2に記載される回転電動機201のフィン形状を示す部分断面図である。
また図16に示す回転電動機201は、図示しない固定子コイルとフレーム202との間に樹脂203を注入し、固定子コイルからフレーム202へ伝熱するバイパスを設けて、フレーム202の表面から行われる熱放散の効率を高めている。回転電動機201は、フレーム202の外側に波形の型をつけフレーム202に貫通の穴202aを設けることにより、フレーム202内部の樹脂203が注形時に穴202aから突出し、フレーム202の外被表面に一体となってフィン203aを形成する。このような回転電動機201は、人手が金属製のフレーム202に直接触れず、金属より熱伝導の悪い樹脂からなるフィン203aに触れるため、人手がフレーム202に直接触れてやけどをするなどの事故を未然に防止できる(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−57964号公報
【特許文献2】実開平3−7654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される電磁弁は、ヨーク102とコイル103の間に隙間Sがあり、コイル103で発生する熱をヨーク102に効率よく伝えられない。結果的に、コイル103の温度が上昇し、コイル吸引力が低減する問題がある。
その点、特許文献2に記載される回転電動機201は、図示しない固定子コイルとフレーム202との間を樹脂203で埋め、図示しない固定子コイルからフレームの熱伝達効率を高めている。特許文献2記載の回転電動機201は、やけど防止のためにフィン203aをフレーム202の表面に設けているが、金属製のフレーム202に穴202aを開けて、フレーム202の内側と外側(フィン203a)を樹脂成形により形成するため、高度な技術を必要とする。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、放熱用のフィンを簡単に形成してコイルの温度上昇を低減し、コイル吸引力の低減を抑えることができる電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁弁は、次のような構成を有している。
(1)流体制御に使用される電磁弁において、コイルボビンと、前記コイルボビンに巻線を巻き付けて形成される巻線部と、前記巻線を樹脂でモールドした樹脂モールド層を有するモールドコイルを有し、前記樹脂モールド層にフィンを形成する。
【0008】
(2)(1)に記載の発明において、前記コイルボビンは、前記巻線が巻き付けられる円筒状の胴部と、前記胴部の上下端に設けられた上端面及び下端面とを有し、前記上端面及び前記下端面が、金属を材質とするヨークに接触している。
【0009】
(3)(2)に記載の発明において、前記上端面と前記下端面は、均一な薄い肉厚で構成されている。
【発明の効果】
【0010】
上記構成の電磁弁は、コイルボビンと、コイルボビンに巻線を巻き付けて形成される巻線部と、少なくとも巻線部を樹脂でモールドした樹脂モールド層を有するモールドコイルを有し、樹脂モールド層にフィンを形成することにより、コイル表面積を拡大している。巻線が通電により熱を発生すると、その熱が巻線部から樹脂モールド層へ伝えられ、フィンから放熱される。このような電磁弁は、巻線で発生した熱を放熱する面積がフィンを備えない場合より広くなり、コイル温度上昇が低減されるため、コイル吸引力の低減が抑えられる。また、フィンは、モールド成型に使用される金型にフィン用の溝を形成することにより、モールド成型時に巻線部に一体成型されるので、電磁弁は、フィンが簡単に形成される。
【0011】
上記電磁弁は、コイルボビンが、巻線が巻き付けられる円筒状の胴部と、胴部の上下端に設けられた上端面及び下端面とを有し、上端面及び下端面が金属を材質とするヨークに接触しているので、巻線部で発生した熱がコイルボビンの上端面及び下端面を介してヨークへ伝わりやすい。ヨークは、上端面と下端面より表面積が大きい。そのため、電磁弁は、巻線部で発生した熱をヨークから放熱しやすく、コイル温度上昇が低減される。
【0012】
また、上記構成の電磁弁は、コイルボビンの上端面と下端面が均一な薄い肉厚で構成されているため、コイルボビンの上端面と下端面からヨークに巻線部の熱を伝えやすく、コイル温度上昇が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電磁弁の側面図である。
【図2】図1に示す電磁弁の上面図である。
【図3】図1に示す電磁弁の駆動部断面図である。
【図4】図1に示すモールドコイルの上面図である。
【図5】テープ巻きコイルを使用したソレノイドの側面図である。
【図6】むき出しコイルを使用したソレノイドの側面図である。
【図7】コイル温度変化を調べる実験の結果を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る二連電磁弁の上面図である。
【図9】図8に示す二連電磁弁の駆動部断面図である。
【図10】図8に示す二連電磁弁のカバーと上側のヨークを取り外した状態の側面図である。
【図11】図10の上面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る電磁弁の側面図である。
【図13】図12に示す電磁弁の上面図である。
【図14】図12に示す電磁弁の部分断面図である。
【図15】特許文献1に記載される電磁弁の部分断面図である。
【図16】特許文献2に記載される回転電動機のフィン形状を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る好ましい実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明することにする。
【0015】
(第1実施形態)
<電磁弁の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る電磁弁1の側面図である。図2は、図1に示す電磁弁1の上面図である。
図1及び図2に示す電磁弁1は、例えば空気やガスなどの流体の制御に使われる。図1に示すように、電磁弁1は、駆動部2が弁部3にボルト4で組み付けられ、外観が構成されている。弁部3は、第1ポート31と第2ポート32の導通状態を切り替える弁を内蔵している。
【0016】
図3は、図1に示す電磁弁1の駆動部断面図である。
駆動部2は、ソレノイド20により可動鉄心28を図中上下方向へ移動させ、弁部3内の弁に駆動力を与える。ソレノイド20は、モールドコイル23、ヨーク25、固定鉄心26等により構成されている。
【0017】
モールドコイル23は、コイルボビン21に巻線を巻き付けたコイルを樹脂でモールドしたものである。コイルボビン21は、樹脂等の非磁性材で形成されている。コイルボビン21は、上端面21aと下端面21bを円筒形状の胴部21cで接続した形状をなす。上端面21aと下端面21bは、均一な肉厚で薄く形成されている。上端面21aと下端面21bは、ヨーク25の肉厚より薄く形成されている。ヨーク25は、磁性材をコの字形に形成したものである。コイルボビン21は、上端面21aと下端面21bの全面をヨーク25の内壁に面接触させた状態で、ヨーク25内に収納されている。
【0018】
固定鉄心26は、磁性材を略円柱状に形成したものである。固定鉄心26は、コイルボビン21の図中上端開口部に圧入された状態で固設されている。固定鉄心26は、軸部26aがヨーク25の位置決め穴25aに隙間無く挿通され、モールドコイル23とヨーク25を同軸上に位置決めしている。ヨーク25は、固定鉄心26の軸部26aに固定ネジ27を締め込むことにより、固定鉄心26を介してモールドコイル23に固定されている。
【0019】
ガイド部材29は、非磁性材料の金属を筒状に形成したものである。コイルボビン21は、胴部21cの図中下端開口部からガイド部材29を装填されている。可動鉄心28は、磁性材を円柱状に形成したものである。可動鉄心28は、ガイド部材29に摺動可能に挿通されている。可動鉄心28は、図示しない圧縮バネにより弁部3側(図中下側)へ向かって常時付勢されている。
【0020】
ところで、モールドコイル23は、巻線部22の側面が熱伝導率の低い樹脂(例えば、エポキシなど)でモールドされ、樹脂モールド層24が形成されている。樹脂モールド層24は、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bの側面及び巻線部22の側面に密着した状態で環状に形成されている。
【0021】
図4は、モールドコイル23の上面図である。
モールドコイル23は、樹脂モールド層24の表面に複数のフィン24aが形成され、側面の表面積が拡大されている。フィン24aは、モールドコイル23をモールドする作業で使用される金型にフィン24aとなる形状を彫り込むことにより、モールド成型時に巻線部22の表面に一体成型されている。フィン24aは、先端部が基端部より細くされた山形形状をなし、モールド成型時に金型から抜きやすいようになっている。フィン24aは、水平方向に平行に並べられるように形成されている。フィン24aは、樹脂モールド層24の表面積が、巻線部22の側面表面積に対して1.5倍以上になるように形成されている。
【0022】
<電磁弁の動作説明>
上記構成の電磁弁1は、モールドコイル23への通電が行われない間、固定鉄心26が可動鉄心28を吸引しない。可動鉄心28は、図示しない圧縮バネに付勢されて図中下向きに移動し、弁部3内の弁を閉じる。この場合、流体が、第1ポート31と第2ポート32との間を流れない。
【0023】
一方、電磁弁1は、モールドコイル23に通電されると、図3の図中矢印に示すように磁界が発生する。すると、磁性材で作られている固定鉄心26、ヨーク25、可動鉄心28内を磁束が通り、固定鉄心26と可動鉄心28の間のギャップGを縮める方向に力が働く。これにより、可動鉄心28は、図示しない圧縮バネに抗して図中上向きに移動し、弁部3内の弁が開かれる。この場合、流体が、弁の開度に応じて流量を調整され、第1ポート31と第2ポート32の間を流れる。
【0024】
モールドコイル23は、巻線部22の巻線が通電によって発熱する。巻線で発生した熱は、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bを介してヨーク25へ伝達される。上端面21aと下端面21bは、均一な肉厚で薄く形成されているため、巻線部22から伝達された熱で短時間のうちに均一に加熱され、ヨーク25へ熱伝達しやすい。また同時に、巻線で発生した熱は、樹脂モールド層24へ伝わる。よって、巻線で発生した熱は、ヨーク25と樹脂モールド層24から空気へ放熱される。
【0025】
巻線部22の巻線は、コイルボビン21の上端面21aと下端面21b、及び、樹脂モールド層24に密着して、空気に直接接触していない。金属と樹脂は、空気よりも熱伝達率が良い。電磁弁1は、巻線部22で発生した熱が巻線部22から樹脂モールド層24とコイルボビン21へダイレクトに伝わるため、巻線から空気へ放熱する場合よりも放熱効果が高く、モールドコイル23が温度上昇しにくい。しかも、樹脂モールド層24は、フィン24aにより表面積が拡大され、空気と接触する面積が広い。そのため、樹脂モールド層24は、熱を空気へ逃がしやすく、放熱効果が高い。
【0026】
<放熱、コイル抵抗、コイル吸引力の関係について>
発明者は、図4に示すモールドコイル23と、図5に示すテープ巻きコイル1023と、図6に示すむき出しコイル2023の通電による温度変化を測定し、その温度変化がコイル抵抗とコイル吸引力に与える影響を検討した。
【0027】
図5に示すソレノイド1020は、テープ巻きコイル1023とヨーク25とを固定鉄心26と固定ネジ27を介して固定したものである。テープ巻きコイル1023は、コイルボビン21に巻回した巻線部22の表面に絶縁テープ(例えば、ガラステープ、ポリエステルテープ等)1024が巻き付けられ、巻線部22を保護されている。
図6に示すソレノイド2020は、むき出しコイル2023とヨーク25とを固定鉄心26と固定ネジ27を介して固定したものである。むき出しコイル2023は、巻線部22の側面が何ら被覆されず、露出している。
【0028】
実験では、モールドコイル23とテープ巻きコイル1023とむき出しコイル2023をそれぞれ単体で断熱材の上に置いた。そして、モールドコイル23とテープ巻きコイル1023とむき出しコイル2023を、電源電圧DC24Vに接続した。モールドコイル23、テープ巻きコイル1023、むき出しコイル2023の初期抵抗は40Ωに設定した。そして、初期周囲雰囲気温度は21℃に設定した。この条件で、モールドコイル23、テープ巻きコイル1023、むき出しコイル2023に通電した。そして、モールドコイル23は樹脂モールド層24の表面温度を、テープ巻きコイル1023は絶縁テープ1024の表面温度を、むき出しコイル2023は巻線部22の表面温度を、それぞれ測定した。
【0029】
図7は、上記実験の温度測定結果を示すものであり、縦軸に温度(℃)を示し、横軸に時間(分)を示している。
図7の▲に示すように、モールドコイル23の温度は、通電開始後240分経過すると、61.4(K)で飽和した。
図7の◆に示すように、テープ巻きコイル1023は、通電開始後240分経過すると、70.2(K)で飽和した。
図7の■に示すように、むき出しコイル2023は、通電開始後240分経過すると、67.3(K)で飽和した。
【0030】
上記実験結果より、飽和温度は、モールドコイル23が最も低いことがわかった。そして、むき出しコイル2023の飽和温度は、モールドコイル23より5.9(K)高く、テープ巻きコイル1023の飽和温度は、モールドコイル23より8.8(K)高くなることがわかった。このことより、通電による温度上昇は、モールドコイル23、むき出しコイル2023、テープ巻きコイル1023の順に低減できることが分かった。換言すれば、放熱効果は、モールドコイル23、むき出しコイル2023、テープ巻きコイル1023の順に優れていることが判明した。その理由は、以下のように考えられる。
【0031】
むき出しコイル2023は、巻線部22の側面が空気に触れている。巻線部22の側面は、一般的に断熱効果が高いと言われている空気にしか熱を伝えない。ここで、空気の熱伝導係数は、0.02W/m.Kである。
【0032】
テープ巻きコイル1023は、断面円形状の巻線をコイルボビン21に巻き付けて巻線部22が形成されており、巻線部22の表面に凹凸がある。そのように凸凹のある巻線部22の表面に絶縁テープ1024を巻き付けるため、テープ巻きコイル1023は、巻線部22と絶縁テープ1024の間に空気が閉じ込められ、空気層を形成される。巻線部22の側面から空気層に伝わった熱は、絶縁テープ1024に遮られて外部へ逃げにくい。そのため、テープ巻きコイル1023は、むき出しコイル2023より更に断熱効果が上がり、コイル温度の上昇が大きくなる。
【0033】
これに対して、モールドコイル23は、巻線部22の側面が樹脂でモールドされるため、断熱されると考えられがちである。そのため、従来、放熱目的でコイルをモールドすることは考えられていなかった。
【0034】
ところが、樹脂の熱伝導率(0.2〜1.0W/m.K)は、空気の熱伝導率(0.02W/m.K)の1オーダー上である。そのため、モールドコイル23の樹脂モールド層24には、巻線部22の熱が空気よりもよく伝わる。しかも、モールドコイル23は、フィン24aが巻線部22の表面に一体成型されたことにより、表面積がむき出しコイル2023やテープ巻きコイル1023の表面積より拡大されている。そのため、モールドコイル23は、樹脂モールド層24が空気と接触する面積が、テープ巻きコイル1023やむき出しコイル2023が空気と接触する面積より大きい。よって、モールドコイル23は、テープ巻きコイル1023やむき出しコイル2023よりも空気へ放熱しやすく、コイル温度上昇が低減される。
【0035】
上記のように、テープ巻きコイル1023は、むき出しコイル2023より飽和温度が高く(図7参照)、放熱効率が悪い。しかし、巻線部22を傷つけないようにしたり、絶縁性を損なわないようにする等、部品状態での取り扱い上の問題から、モールドしないコイルにはテープを巻くのが、一般的である。そこで、コイル温度上昇がコイル抵抗及びコイル吸引力に与える影響については、モールドコイル23とテープ巻きコイル1023を比較して行うことにする。
【0036】
コイル温度上昇後のコイル抵抗は、下記数式1により求められる。
R(コイル温度上昇後の抵抗)=R0(初期抵抗)×[{234.5+t(コイル温度上昇後の温度)}/{234.5+t0(初期温度)}] …(数1)
【0037】
数式1より、モールドコイル23は、コイル温度上昇後のコイル抵抗が以下の通り求められる。
R=40×[[234.5+61.4]/[234.5+21]]=46.3Ω
数式1より、テープ巻きコイル1023は、温度上昇後のコイル抵抗が以下の通り求められる。
R=40×[[234.5+70.2]/[234.5+21]]=47.7Ω
【0038】
モールドコイル23の温度上昇後のコイル抵抗(46.3Ω)を、テープ巻きコイル1023の温度上昇後のコイル抵抗(47.7Ω)で割ると、0.971となる。よって、モールドコイル23は、テープ巻きコイル1023に対して、温度上昇後のコイル抵抗を2.9%低減できる。
【0039】
よって、モールドコイル23のコイル抵抗は、テープ巻きコイル1023のコイル抵抗に対して、約3%低下させることができる。
同じ電圧をモールドコイル23とテープ巻きコイル1023に印加した場合には、I=V/Rにより、モールドコイル23の電流値は逆にテープ巻きコイル1023の電流値より約3%増える。
さらにコイル吸引力Fは、一般的には、(電流値とコイルの巻き数の積)の2乗に比例する。よって、モールドコイル23のコイル吸引力F1は、テープ巻きコイル1023のコイル吸引力F2より、約6%アップする。
【0040】
次に、発明者は、製品を想定し、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bに、上端面21aと下端面21bより表面積の大きい金属部品を接触させ、上記実験と同じ電気的条件及び温度条件で温度上昇を調べた。実験では、樹脂モールドがコイル温度上昇に与える影響を排除するために、従来より使用されているテープ巻きコイル1023を用いた。
【0041】
その結果、テープ巻きコイル1023は、通電開始後240分経過すると、60.8(K)で飽和した。つまり、テープ巻きコイル1023は、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bに金属部品を接触させると、コイル温度上昇が9.4(K)低減する。これは、巻線部22で発生した熱がコイルボビン21の上端面21aと下端面21bから金属部品に熱伝達され、上端面21aと下端面21bより表面積の大きい金属部品から空気へ放熱されるからである。よって、テープ巻きコイル1023は、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bが金属部品に接触されることにより、放熱効率が向上する。
【0042】
上述したように、コイル温度上昇が低減されると、コイル抵抗が低減し、コイル吸引力の低減が抑えられる。よって、モールドコイル23においても、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bに金属部品(ヨーク25)を接触させると、更に、コイル抵抗を低減させてコイル吸引力の低減を抑えることができる。
【0043】
<消費電力について>
モールドコイル23は、テープ巻きコイル1023に対して、コイル抵抗を約3%低減できる。モールドコイル23がテープ巻きコイル1023と同じ電流を発生させる場合、モールドコイル23の印加電圧は、I=V/Rより、テープ巻きコイル1023の印可電圧に対して約3%低くできる。従って、消費電力W=VIより、モールドコイル23の消費電力は、テープ巻きコイル1023の消費電力に対して約3%低くすることができる。
【0044】
<表面積と放熱効果について>
一般的に、コイル温度上昇値とコイル表面積の関係は、θ=W/γS(θ:コイル温度上昇値 W:消費電力 γ:熱放散係数 S:コイル表面積)である。そのため、モールドコイル23のコイル表面積をテープ巻きコイル1023の1.5倍から2倍に拡大するようにフィン24aを設けると、モールドコイル23は、コイル温度上昇値(飽和温度)が約75%低減する。よって、モールドコイル23は、フィン24aによりコイル表面積を拡大するのに応じて、放熱効果を大きくできる。
【0045】
<コイル材料について>
コイル温度上昇時の実際のコイル温度は、電磁弁の周囲雰囲気の温度にコイル温度上昇分が加算されるため、最大値が100℃を超える場合が多い。コイルを構成する材料は、マグネットワイヤ、コイルボビン、絶縁テープ等があるが、コイルの最高温度に応じてJIS規格に定められた耐熱クラスを満足する材料を選択する必要がある。
【0046】
例えば、コイルの最高温度が130℃を超え、155℃以下であれば、耐熱クラスFに合致する材料を選択せねばならないが、コイルの最高温度が130℃以下である場合は、耐熱クラスBの材料を選択することができる。
一般的に、耐熱クラスの高い材料はコストも高い。コイル温度上昇を低くする事で、コイル温度上昇時の実際のコイル温度が低くなるので、より安価な材料でコイル全体を構成し、電磁弁1のコストダウンを図る事ができる。
また一般的に、耐熱クラスが高くなるほど、材料の選定幅が狭くなる。よって、コイル温度上昇を低くすることで、コイルに使用する材料の選定幅を広げることができる。
【0047】
<効果>
以上説明したように、本実施形態の電磁弁1は、コイルボビン21と、コイルボビン21に巻線を巻き付けて形成される巻線部22と、少なくとも巻線部22を樹脂でモールドした樹脂モールド層24を有するモールドコイル23を有し、樹脂モールド層24にフィン24aを形成することにより、コイル側面の面積を拡大している。巻線が通電により熱を発生すると、その熱が巻線部22から樹脂モールド層24へ伝えられ、フィン24aから放熱される。このような電磁弁1は、巻線で発生した熱を放熱する面積がフィンを備えない場合より広くなり、コイル温度上昇が低減されるため、コイル吸引力の低減が抑えられる。また、フィン24aは、モールド成型に使用される金型にフィン用の溝を形成することにより、モールド成型時に巻線部22に一体成型されるので、電磁弁1は、フィン24aが簡単に形成される。
【0048】
また、本実施形態の電磁弁1は、コイルボビン21が、巻線が巻き付けられる円筒状の胴部21cと、胴部21cの上下端に設けられた上端面21a及び下端面21bとを有し、上端面21a及び下端面21bが金属を材質とするヨーク25に接触しているので、巻線部22で発生した熱がコイルボビン21の上端面21a及び下端面21bを介してヨーク25へ伝わりやすい。ヨーク25は、上端面21aと下端面21bより表面積が大きい。そのため、電磁弁1は、巻線部22で発生した熱をヨーク25から放熱しやすく、コイル温度上昇が低減される。
【0049】
更に、本実施形態の電磁弁1は、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bが均一な薄い肉厚で構成されているため、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bからヨーク25に巻線部22の熱を伝えやすく、コイル温度上昇が低減される。
【0050】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。図8は、本発明の第2実施形態に係る二連電磁弁41の上面図である。
図8に示すように、第2実施形態の二連電磁弁41は、1個の弁部43に2個のソレノイド44A,44Bを取り付け、駆動部42が構成されている。カバー45は、樹脂製であって、ソレノイド44A,44Bを覆うように弁部43に取り付けられている。
【0051】
図9は、図8に示す二連電磁弁41の駆動部断面図である。
ソレノイド44A,44Bは、モールドコイル23に通電すると、固定鉄心26が吸引力を発生し、可動鉄心28を吸引する。可動鉄心28は、圧縮バネ34に抗して固定鉄心26側へ移動し、弁体33を図示しない弁座から離間させる。ソレノイド44A,44Bは、コイルボビン21と可動鉄心28との間にガイド部材49が配置されている。
【0052】
ソレノイド44A,44Bのモールドコイル23は、第1実施形態と同様、巻線部22の表面が樹脂モールド層24で覆われている。図1に示す第1実施形態の電磁弁1は、漏れ磁束を少なくするために、透磁率の良い材質で作られたヨーク25がコの字形に巻線部22の周りを取り囲んで磁気回路を構成している。しかし、図9に示す第2実施形態の二連電磁弁41は、設置スペースを小さくするために、モールドコイル23の上下のみに、板状のヨーク46,47を配置している。ソレノイド44A,44Bは、互いの固定鉄心26、可動鉄心28をコイル側面のヨークとして用いている。すなわち、二連電磁弁41は、ヨーク46,47、固定鉄心26、可動鉄心28によりソレノイド44A,44Bの巻線部22を取り囲み、磁気回路を構成している。
【0053】
このような二連電磁弁41は、2つのモールドコイル23,23を共通するヨーク46,47で上下をサンドイッチ状に挟み込んでいる。モールドコイル23,23は、上下にのみにヨーク46,47が存在し、側面にヨークが存在しないが、ソレノイド44A,44Bを並列にすることにより、互いが互いの固定鉄心26及び可動鉄心28をヨークの代用として用いる事ができ、全体をコンパクトにできる。
【0054】
図10は、図8に示す二連電磁弁41のカバー45と上側のヨーク46を取り外した状態の側面図である。図11は、図10の上面図である。
図10及び図11に示すように、ソレノイド44A,44Bの各樹脂モールド層24は、表面にフィン24aが形成されている。
【0055】
(第3実施形態)
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。図12は、本発明の第3実施形態に係る電磁弁51の側面図である。図13は、図12に示す電磁弁51の上面図である。
第3実施形態の電磁弁51は、樹脂モールド層54が巻線部22に加え、コイルボビン21の上端面21aと下端面21bを覆うように形成されている点が、第1実施形態の電磁弁1と異なる。電磁弁51のその他の点は、第1実施形態の電磁弁1と共通している。
【0056】
図14は、図12に示す電磁弁51の部分断面図である。
電磁弁51は、ソレノイド50で発生した電磁力によって可動鉄心28を移動させ、弁部3内の弁を制御する。電磁弁51のモールドコイル53は、樹脂モールド層54がヨーク25、コイルボビン21の上下端面21a,21b、巻線部22に密着するように形成されている。
【0057】
図12及び図13に示すように、モールドコイル53は、樹脂モールド層54の測面に複数のフィン54aを形成され、コイル表面積が拡大されている。フィン54aは、モールドコイル23のモールド成型に使用される金型に溝を彫って形成することにより、樹脂モールド成型時に巻線部22の表面に一体成型される。
【0058】
このような電磁弁51は、巻線部22で発生した熱が、巻線部22から樹脂モールド層54へダイレクトに伝えられると共に、巻線部22からコイルボビン21の上下端面21a,21bとヨーク25を介して樹脂モールド層54へ伝えられる。そして、熱は、樹脂モールド層54から空気へ放散される。
【0059】
樹脂モールド層54は、フィン54aにより表面積が拡大され、空気との接触面積が広い。そのため、熱は、樹脂モールド層54から空気へ逃げやすい。よって、第3実施形態の電磁弁51は、モールドコイル53の温度上昇を低減でき、コイル吸引力の低減を抑えることができる。しかも、樹脂モールド層54のフィン54aが、モールド成型時に巻線部22の側面に一体成型されるので、放熱用のフィン54aを簡単に形成することができる。
【0060】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
例えば、上記実施形態では、電磁弁1,41,51を空気やガスの制御に使用したが、水、真空、油、蒸気その他の液体・気体の制御などの他の用途に電磁弁1,41,51を使用しても良い。
例えば、上記実施形態では、フィン24a,54aを可動鉄心28の作動方向に長く形成したが、水平方向にフィンを設けるようにしても良い。
例えば、上記第2実施形態では、ソレノイド44A,44Bの上下に板状のヨーク46,47を配置して駆動部42を構成した。これに対して、第1実施形態の駆動部2を1個の弁部43に並べて取り付け、二連電磁弁の駆動部を構成するようにしても良い。
例えば、上記第3実施形態では、樹脂モールド層54の側面にフィン54aを設けたが、樹脂モールド層54の上面にもフィンを形成し、樹脂モールド層54の表面積を拡大するようにしても良い。この場合、更に、巻線部22で発生した熱を効率よく空気へ放散することができる。
【符号の説明】
【0061】
1,41,51 電磁弁
21 コイルボビン
22 巻線
23,53 モールドコイル
25,46,47 ヨーク
24,54 樹脂モールド層
24a,54a フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体制御に使用される電磁弁において、
コイルボビンと、前記コイルボビンに巻線を巻き付けて形成される巻線部と、少なくとも前記巻線部を樹脂でモールドした樹脂モールド層を有するモールドコイルを有し、
前記樹脂モールド層にフィンを形成する
ことを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
請求項1に記載する電磁弁において、
前記コイルボビンは、前記巻線が巻き付けられる円筒状の胴部と、前記胴部の上下端に設けられた上端面及び下端面とを有し、
前記上端面及び前記下端面が、金属を材質とするヨークに接触している
ことを特徴とする電磁弁。
【請求項3】
請求項2に記載する電磁弁において、
前記上端面と前記下端面は、均一な薄い肉厚で構成されている
ことを特徴とする電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−24304(P2013−24304A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158669(P2011−158669)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000106760)CKD株式会社 (627)
【Fターム(参考)】