説明

電磁弁

【課題】樹脂製の弁本体への衝撃や振動によるクラックの発生を防止し、電磁コイルを小型化した電磁弁を提供する。
【解決手段】入口ポート14a及び第1の出口ポート13aの各々に連通する弁室2aを有する樹脂製の弁本体2と、弁室内に配置される弁体3と、磁性材料からなる弁ホルダ4と、弁ホルダを第1の出口ポートの方向に付勢する付勢部材6と、弁室に連通する第2の出口ポート7aを有するパイプ部材7と、パイプ部材を囲繞する吸引子8と、吸引子を囲繞する電磁コイル9と、電磁コイルを収容し、磁性材料からなるハウジング11と、ハウジングを弁本体に固定する磁性材料からなるプレート12であって、弁ホルダの側面に対向して配置されるプレートとを備え、電磁コイルの励磁により弁ホルダが吸引子に吸引されて弁体が第2の出口ポートを閉じ、励磁を解除することで弁ホルダが付勢部材によって付勢されて弁体が第1の出口ポートを閉じる電磁弁1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のウインドウォッシャ装置のウォッシャ液の流路の切り換えなどに用いられる電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記電磁弁として、特許文献1には、弁座及び出口ポートを有する弁室に収設された弁体が、スプリングに付勢されて弁座上に位置して出口ポートを閉じ、電磁コイルへの通電時に、スプリングに抗して吸引移動されて出口ポートを開くものが記載されている。
【0003】
このような電磁弁では、例えば、図9に示すように、弁体84及び弁体84を保持する弁ホルダ85を収容する弁室82aを有する樹脂製の弁本体82に、電磁コイル(不図示)を収容したハウジング83を固定するにあたって、弁本体82に直接ハウジング83の下縁部83aをかしめ固定する電磁弁81が存在する。
【0004】
また、上記電磁弁81と同様の用途を有する、図10に示す他の電磁弁91では、弁体95及び弁体95を保持する弁ホルダ96を収容する弁室92aを有する樹脂製の弁本体92に、磁性体からなるプレート94を弁本体92の底部に組み付けた後、ハウジング93の下縁部93aをかしめ固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平6−49982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記図9に示した従来の電磁弁81においては、樹脂製の弁本体82の、ハウジング83の下縁部83aを直接かしめ固定した箇所に応力が掛かり、衝撃や振動によってクラックが発生するおそれがある。
【0007】
また、図10に示した電磁弁91では、ハウジング93の全長が長くなると共に、プレート94が弁ホルダ96から離間した位置に存在するため、電磁コイル、吸引子(共に不図示)、プレート94及び弁ホルダ96によって形成される磁場が弱くなり、弁ホルダ96に付与される磁力が弱くなる結果、所定の力で出口ポートを閉じるには、より大きな電磁コイルが必要になるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の電磁弁における問題点に鑑みてなされたものであって、樹脂製の弁本体に衝撃や振動によってクラックが発生するおそれがなく、電磁コイルを従来より小型化することが可能な電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、電磁弁であって、入口ポート及び第1の出口ポートの各々に連通する弁室を有する樹脂製の弁本体と、前記弁室内に配置される弁体と、該弁体を保持する磁性材料からなる弁ホルダと、該弁ホルダを前記第1の出口ポートの方向に付勢する付勢部材と、前記弁室に連通する第2の出口ポートを有し、前記弁室から上方に延設されるパイプ部材と、該パイプ部材を囲繞する吸引子と、該吸引子を囲繞する電磁コイルと、該電磁コイルを収容する磁性材料からなるハウジングと、該ハウジングを前記弁本体に固定する磁性材料からなるプレートであって、前記弁ホルダの側面に対向して配置されるプレートとを備え、前記電磁コイルを励磁することにより、前記弁ホルダが前記吸引子に吸引されて前記弁体が前記パイプ部材の前記第2の出口ポートを閉じ、前記電磁コイルへの励磁を解除することにより、前記弁ホルダが前記付勢部材によって付勢されて前記弁体が前記第1の出口ポートを閉じることを特徴とする。
【0010】
そして、本発明によれば、樹脂製の弁本体に、ハウジングの下縁部を直接かしめ固定しないため、衝撃や振動によってかしめ固定部にクラックが発生するおそれがない。また、ハウジングを弁本体に固定する磁性材料からなるプレートを、弁ホルダの側面に対向して配置したため、電磁コイル、吸引子、弁ホルダ、プレート及びハウジングによって形成される磁場が強くなり、弁体ホルダに付与される磁力を大きくすることができるため、弁体が所定の力で出口ポートを閉じるにあたって、より小さな電磁コイルで賄うことができる。
【0011】
上記電磁弁において、前記プレートを前記弁本体にインサート成形することができる。これにより、電磁弁の組立をより容易に行うことができ、電磁弁の製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、樹脂製の弁本体に衝撃や振動によってクラックが発生するおそれがなく、電磁コイルを従来より小型化することなどが可能な電磁弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる電磁弁の一実施の形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A線断面図である(但し、(a)において電磁弁全体が描かれているものとして(b)を描いている)。
【図2】図1(b)のB−B線断面図である(但し、図1(b)において電磁弁全体が描かれているものとして図2を描いている)。
【図3】図1の電磁弁の正面図である。
【図4】図1の電磁弁の弁本体にインサート成形されるプレートを示す平面図である。
【図5】図1の電磁弁の吸引子を示す図であって、(a)は上面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図6】図1の電磁弁の弁体及び弁体ホルダの他の例を示す図であって、(a)は上面図、(b)は(a)のD−D線断面図である。
【図7】図1の電磁弁の弁体及び弁体ホルダの他の例を示す図であって、(a)は上面図、(b)は(a)のE−E線断面図である。
【図8】図1の弁本体の弁座と弁体との関係を示す平面図及び断面図であって、(a)は、異形に変更する前の状態を示し、(b)及び(c)は、異形に変更した状態を示す図である。
【図9】従来の電磁弁の一例を示す部分断面図である。
【図10】従来の電磁弁の一例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1〜図3は、本発明にかかる電磁弁の一実施の形態を示し、この電磁弁1は、弁室2aを有する弁本体2と、弁室2a内に配置される弁体3と、弁体3を保持する弁ホルダ4と、弁ホルダ4を下方に付勢するコイルばね6と、弁室2aから上方に延設されるパイプ部材7と、パイプ部材7を囲繞する吸引子8と、吸引子8を囲繞する電磁コイル9と、電磁コイル9を収容するハウジング11と、ハウジング11を弁本体2に固定するプレート12等で構成される。
【0016】
弁本体2は、樹脂製で、上方が開口する弁室2a及び弁座2bを有し、弁室2aには、弁体3、弁ホルダ4及びコイルばね6が収容される。弁本体2には、プレート12がインサート成形により一体化される。弁本体2の下面及び側面には、各々流出管13及び流入管14が接続され、弁室2aは、流出管13の内部の出口ポート13a及び流入管14の内部の入口ポート14aに連通すると共に、パイプ部材7の内部の出口ポート7aに連通する。
【0017】
弁本体2にインサート成形されるプレート12は、均一な厚さを有する磁性材料からなり、図4に示すように、一方向(流入管14が接続される方向)が開口し、凹部12bを有する円形状の空隙12aを備え、四隅に突出部12cを有する。図2に示すように、各々の突出部12cは、ハウジング11の開口部11aに挿入され、かしめ固定される。
【0018】
弁体3は、円板状に形成され、弁体3の側面を囲繞するように、弁体3と同心の円板状に形成された、磁性材料からなる弁ホルダ4と一体化される。弁ホルダ4は、上下方向に貫通する複数(本実施の形態では12個)の貫通孔4aを有する。
【0019】
付勢部材としてのコイルばね6は、モールド15の下端部15aと弁ホルダ4との間に介装され、弁ホルダ4を常時下方に付勢する。
【0020】
パイプ部材7は、弁本体2の弁室2aから上方に延設され、内部の出口ポート7aが流出口7bを介して弁室2aに連通する。
【0021】
吸引子8は、パイプ部材7を囲繞すると共に、電磁コイル9への励磁により弁ホルダ4及び弁体3を吸引するために備えられる。この吸引子8は、図5に示すように、円筒状の本体8aにモールド樹脂の通路8bを備える。
【0022】
電磁コイル9は、吸引子8を囲繞するように配置され、電磁コイル9の周囲はモールド15で封止される。モールド15の右上部15bには、電磁コイル9に給電するための端子16が設けられる。
【0023】
ハウジング11は、磁性材料からなり、モールド15を覆うように弁本体2の上方にプレート12を介して装着される。ハウジング11には、電磁弁1の全体を周囲の部材に取り付けるための取付部17が突設される。
【0024】
次に、上記電磁弁1の組立方法について、図1及び図2を中心に参照しながら説明する。
【0025】
プレート12を弁本体2にインサート成形し、さらに、弁本体2に流入管14を例えば超音波溶着等によって接続する(溶着部14b)。一方、弁体3に弁ホルダ4を一体化させる。
【0026】
また、吸引子8がインサート成形されたボビン10に端子16の一端を接続し、ボビン10に巻線して電磁コイル9を作製し、この電磁コイル9を樹脂封止してモールド15を形成する。この際、パイプ部材7が同時に成形される。
【0027】
次に、弁本体2に弁体3とコイルばね6を挿入し、モールド15が形成された上記組立体を弁本体2の上部開口を覆うように位置決めし、例えば超音波溶着等で弁本体2に固着する。そして、モールド15を囲繞するようにハウジング11を上方から装着し、ハウジング11の開口部11aにプレート12の突出部12cを挿入してかしめ固定すると、電磁弁1の組立が完了する。
【0028】
次に、上記構成を有する電磁弁1の動作について説明する。尚、以下の説明では、電磁弁1を、自動車のウインドウォッシャ装置のウォッシャ液の流路の切り換えに用いる場合を例にとって説明し、流入管14から流入したウォッシャ液が、パイプ部材7を介してリアウインドへ、又は流出管13を介してリアカメラ(バックモニタ)へ供給されるものとする。
【0029】
電磁コイル9を励磁しない場合には、図1に示すように、弁体3と一体化された弁ホルダ4がコイルばね6によって下方に付勢されているため、弁体3も下方に付勢されて弁本体2の弁座2bに当接し、出口ポート13aが閉じられ、出口ポート7aが開く。これにより、入口ポート14aから弁本体2の弁室2aに流入したウォッシャ液がパイプ部材7を通ってリアウインドへ供給される。
【0030】
一方、電磁コイル9を励磁すると、弁体3と一体化された弁ホルダ4が吸引子8に吸引されて上方へ移動し、これに伴い、弁体3も上方に移動してパイプ部材7の流出口7bを塞ぎ、出口ポート7aが閉じられ、出口ポート13aが開く。これにより、入口ポート14aから弁本体2の弁室2aに流入したウォッシャ液が流出管13を通ってリアカメラへ供給される。
【0031】
次に、上記電磁弁1の弁体3及び弁体ホルダ4の他の例について図6及び図7を参照しながら説明する。
【0032】
図6に示す弁体23及び弁ホルダ24は、共に同心の円板状に形成されて一体化されている。磁性材料からなる弁ホルダ24には、上記実施の形態において弁ホルダ4に形成した貫通孔4aと同様、12個の貫通孔24aが穿設されている。これに加え、弁ホルダ24の内径側を波形とすることで、8個の貫通孔24bが形成されている。
【0033】
貫通孔24bを追加することで、弁ホルダ24を吸引子8によって吸引するのに必要な磁力に影響のない範囲で、取り扱う流体の粘度が上昇した場合でも、弁ホルダ24及び弁体23の動作への影響を軽減することができる。尚、貫通孔24a、24bの個数は特に限定されるものではない。
【0034】
図7に示す弁体33及び弁ホルダ34も、共に同心の円板状に形成されて一体化され、磁性材料からなる弁ホルダ34には、12個の貫通孔34aが穿設されている。これに加え、弁体33の外径側を波形とすることで、8個の貫通孔33aが形成されている。
【0035】
この貫通孔33aを追加することで、弁体33を磁性材料で形成した場合に、弁ホルダ34及び弁体33を吸引子8によって吸引するのに必要な磁力に影響のない範囲で、取り扱う流体の粘度が上昇した場合でも、弁ホルダ34及び弁体33の動作への影響を軽減することができる。尚、貫通孔33a、34aの個数は特に限定されるものではない。
【0036】
次に、電磁弁1の弁本体2の弁座2bと弁体3との関係について、図8を参照しながら説明する。
【0037】
図1に示す電磁弁1では、図8(a)に示すように、弁本体2の弁座2bは、上面視円形の開口2cと、上面視円環状の上面2dを備える。
【0038】
一方、図8(b)に示す弁本体42の弁座42bは、上記開口2cを異形に変更したものであって、上面視円形の開口42cと、さらにもう一つの開口42dを備える。これにより、出口ポート42aが閉じているときに、出口ポート42a側のウォッシャ液が高温になった場合、リアカメラ側に噴出してリアカメラにかかってしまうおそれがあるが、開口42dを形成して弁体3が開弁し易い状態としているため、矢印で示すように、ウォッシャ液を開口42dを介して弁室側に逃がし、リアカメラ側に噴出することを防止している。
【0039】
また、図8(c)に示す弁本体52の弁座52bも、上記と同様、上面視円形の開口52cと、さらにもう一つの開口52dを備える。これにより、出口ポート52aが閉じているときに、出口ポート52a側のウォッシャ液が高温になった場合、リアカメラ側に噴出してリアカメラにかかってしまうおそれがあるが、開口52dを形成して弁体3が開弁し易い状態としているため、矢印で示すように、ウォッシャ液を開口52dを介して弁室側に逃がし、リアカメラ側に噴出することを防止している。
【符号の説明】
【0040】
1 電磁弁
2 弁本体
2a 弁室
2b 弁座
2c 開口
2d 上面
3 弁体
4 弁ホルダ
4a 貫通孔
6 コイルばね
7 パイプ部材
7a 出口ポート
7b 流出口
8 吸引子
8a 本体
8b (モールド樹脂の)通路
9 電磁コイル
11 ハウジング
11a 開口部
12 プレート
12a 空隙
12b 凹部
12c 突出部
13 流出管
13a 出口ポート
14 流入管
14a 入口ポート
14b 溶着部
15 モールド
15a 下端部
15b 右上部
15c 溶着部
16 端子
17 取付部
23 弁体
24 弁ホルダ
24a、24b 貫通孔
33 弁体
33a 貫通孔
34 弁ホルダ
34a 貫通孔
42 弁本体
42a 出口ポート
42b 弁座
42c、42d 開口
52 弁本体
52a 出口ポート
52b 弁座
52c、52d 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口ポート及び第1の出口ポートの各々に連通する弁室を有する樹脂製の弁本体と、
前記弁室内に配置される弁体と、
該弁体を保持する磁性材料からなる弁ホルダと、
該弁ホルダを前記第1の出口ポートの方向に付勢する付勢部材と、
前記弁室に連通する第2の出口ポートを有し、前記弁室から上方に延設されるパイプ部材と、
該パイプ部材を囲繞する吸引子と、
該吸引子を囲繞する電磁コイルと、
該電磁コイルを収容し、磁性材料からなるハウジングと、
該ハウジングを前記弁本体に固定する磁性材料からなるプレートであって、前記弁ホルダの側面に対向して配置されるプレートとを備え、
前記電磁コイルを励磁することにより、前記弁ホルダが前記吸引子に吸引されて前記弁体が前記パイプ部材の前記第2の出口ポートを閉じ、前記電磁コイルへの励磁を解除することにより、前記弁ホルダが前記付勢部材によって付勢されて前記弁体が前記第1の出口ポートを閉じることを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
前記プレートは、前記弁本体にインサート成形されることを特徴とする請求項1に記載の電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−47539(P2013−47539A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185862(P2011−185862)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】