説明

電磁波シールド材

【課題】凹版印刷による導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じず、電磁波シールド特性に優れた電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】透明基材1の一方の面に、プライマー層2と、該プライマー層2上に凸状パターンで形成された導電性組成物からなる導電層3とを有する電磁波シールド材10において、前記凸状パターンの縦断面形状が曲面形状であり、前記プライマー層2のうち前記導電層3が形成されている部分の厚さは前記導電層3が形成されていない部分の厚さよりも厚く、且つ前記プライマー層2と前記導電層3との界面が交互に入り組んで単純な境界面構造ではないため、両層の密着性を向上させたことを特徴とする、電磁波シールド材10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のパターンで形成された導電性を有する層によって電磁波を遮蔽(シールド)する電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子機器の機能高度化と利用増加に伴い、電磁気的なノイズ妨害(Electro Magnetic Interference;EMI)が増え、陰極線管(CRTという)、プラズマディスプレイパネル(PDPという)などのディスプレイでも電磁波が発生する。特に、プラズマディスプレイパネルは、データ電極と蛍光層を有するガラスと透明電極を有するガラスとの組合体であり、作動すると電磁波、及び近赤外線が大量に発生する。
【0003】
通常、電磁波を遮蔽するためにプラズマディスプレイパネルの前面に、電磁波遮蔽用シートと硝子板との積層体が前面板として設けられる。ディスプレイ前面から発生する電磁波の遮蔽性は、日本では30MHz〜1GHzにおいてVCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)が規定する家庭環境、住宅環境で使用する情報処理装置に適用される規格(クラスB)を達成することが必要である。なお、本発明において単に電磁波と言った場合は、周波数が上記範囲を中心とするMHz〜GHz帯近辺の電磁波のことを言い、赤外線、可視光線、紫外線、X線等は含まないものとする(例えば、赤外線帯域の周波数の電磁波は赤外線と呼称する)。
【0004】
上記機能を実現するために、特許文献1には、透明基板の表面に、金属粉末と樹脂とを含有する導電性ペーストを印刷して形成されたパターンと、該パターンの表面に電気メッキによって形成された金属被膜とからなる電磁波シールドパターンを有する透光性電磁波シールド部材が記載されている。しかしながら、上記電磁波シールドパターンの縦断面形状は、隅角部が尖った四角形であるため、上記透光性電磁波シールド部材の製造作業中に、該電磁波シールドパターンに触れた場合、手に傷を負ったり、手袋が磨耗するといった問題があった(特許文献1の図1(c))。これは、特許文献1の他、特許文献3、特許文献4にも共通するが、導電性ペースト印刷パターンの隅角部が尖っていると、尖った角部に電気力線が集中し金属析出速度が増大する結果、該パターンの角張り度合い、尖鋭度は更に強調されることになる。
【0005】
また、電磁波シールド材はこれまでに種々検討されており、例えば特許文献2には、透明基材上に無電解めっき触媒ペーストをメッシュパターンでシルクスクリーン印刷し、その上に金属層を無電解めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。特許文献3には、導電性インキ組成物をメッシュパターンで転写体に凹版オフセット印刷し、転写体上のメッシュパターンを透明基材上に転写し、透明基材上のメッシュパターンに金属層を電気めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。また、特許文献4には、導電性インキ組成物をメッシュパターンで透明基材に直接凹版印刷し、その透明基材上のメッシュパターンに金属層を電気めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3017988号公報
【特許文献2】特開平11−170420号公報
【特許文献3】特開2001−102792号公報
【特許文献4】特開平11−174174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の電磁波シールド材は、微細パターンの形成が難しいシルクスクリーン印刷でメッシュパターンを形成するとともに、成膜速度の遅い無電解めっきで金属層を形成するので、生産性の点で劣り、コスト低減を図ることができないという難点がある。また、特許文献3に記載の電磁波シールド材は、凹版印刷でメッシュパターンを形成するので微細パターンの形成は可能であるが、オフセット方式を採用するので、凹版から一旦転写体に転写した後に転写体から透明基材に2回目の転写を行うので、原版である凹版のメッシュパターンが忠実に透明基材に転写されないことがある。
【0008】
さらに、特許文献3、4に記載の電磁波シールド材は、凹版から転写体又は透明基材に転写(転移ともいう)する際に、未転写部が発生したり、密着性に劣る転写不良が発生したりすることがある。具体的には、図11に示すように、凹版101上に導電性インキ組成物103を塗布した後にドクターブレード102で掻き取って凹部104内に導電性インキ組成物103を充填する際、図11(B)に示すように、ドクターブレード102で掻き取った後の凹部104内の導電性インキ組成物103は、その上部に凹み105が生じる。この凹み105は、その後、凹版101上に透明基材106を圧着して透明基材106上に凹部104内の導電性インキ組成物103を転写する際に、図11(C)に示すように、透明基材106と導電性インキ組成物103との密着を妨げる要因となる。その結果、透明基材106上に、導電性インキ組成物の未転写部が発生したり、密着性に劣る転写不良が発生したりして、電磁波シールド特性を低下させる原因となる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第一の目的として、作業中に、所定の凸状パターンで形成された導電層に触れても、該導電層のパターン形状によって、手に傷を負ったり、手袋が磨耗することを防止できる電磁波シールド材を提供することにある。第二の目的として、凹版印刷による導電性組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じず、電磁波シールド特性に優れた電磁波シールド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る電磁波シールド材は、
透明基材の一方の面に、プライマー層と、該プライマー層上に所定の凸状パターンで形成された導電性組成物からなる導電層とを有する電磁波シールド材において、
前記凸状パターンの縦断面形状が曲面形状であり、且つ、前記電磁波シールド材の前記プライマー層のうち前記導電層が形成されている部分の厚さは前記導電層が形成されていない部分の厚さよりも厚く、前記プライマー層と前記導電層との界面が交互に入り組んでいるか、及び/又は、前記プライマー層と前記導電層との界面近傍には、該プライマー層に含まれるプライマー成分と該導電性組成物とが混合する領域が存在するか、及び/又は、前記導電層を構成する導電性組成物中に、前記プライマー層に含まれるプライマー成分が存在することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電磁波シールド材は、導電層が、所定の凸状パターンで形成され、且つ、該凸状パターンの縦断面形状を曲面形状とすることにより、作業中に、該導電層に触れても、該導電層のパターン形状によって、手に傷を負ったり、手袋が磨耗することを防止することができる。また、上記電磁波シールド材の透明基材上のプライマー層とパターン状に形成された導電層との界面が単純な境界面構造になっていないため、両層の密着性は向上している。また、該電磁波シールド材の製造時において、版面内に充填された導電性組成物の透明基材への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われるので、該導電性組成物の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材とすることができる。
【0012】
本発明に係る電磁波シールド材においては、前記導電層の表面に、更に金属層及び/又は黒化層が積層されている場合においても、該導電層の縦断面形状を曲面形状とすることで、作業中に、硬い金属層表面に触れても、手に傷を負ったり、手袋が磨耗することがなく、また、黒化層の剥脱を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電磁波シールド材の導電層が、所定の凸状パターンで形成され、且つ、該凸状パターンの縦断面形状を曲面形状とすることにより、作業中に、該導電層に触れても、該導電層のパターン形状によって、手に傷を負ったり、手袋が磨耗することを防止することができる。また、上記電磁波シールド材の透明基材上のプライマー層とパターン状に形成された導電層との界面が単純な境界面構造になっていないため、両層の密着性は向上している。また、該電磁波シールド材の製造時において、版面内に充填された導電性組成物の透明基材への転移(転写)が高い転移率のもとで確実に行われるので、該導電性組成物の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<電磁波シールド材>
本発明に係る電磁波シールド材は、透明基材の一方の面に、プライマー層と、該プライマー層上に所定の凸状パターンで形成され、且つ、該凸状パターンの縦断面形状が曲面形状である導電層とを有し、また、必要に応じて導電層上に金属層及び/又は黒化層を有する。
【0016】
本発明に係る電磁波シールド材の層構成について図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る電磁波シールド材の層構成の一例の断面図である。尚、図1に示す断面図において、説明の容易化の為に、厚み方向(図の上下方向)の縮尺を面方向(図の左右方向)の縮尺よりも大幅に拡大誇張して図示した。図1(a)に示す電磁波シールド材10は、本発明に係る電磁波シールド材10の好適な実施形態のうちの第一の実施形態であり、透明基材1の一方の面に、プライマー層2と、該プライマー層2上に所定の凸状パターンで形成された導電層3が積層されている。該電磁波シールド材10における導電層3の表面には金属層4aが積層されており、図1(a)に示すように、該導電層3と、該導電層3の表面に形成された金属層4aの縦断面形状は曲面形状となっている。また、該導電層3の周縁部には接地部8が形成されている。
図1(b)は、本発明に係る電磁波シールド材10の好適な実施形態のうちの第二の実施形態であり、透明基材1の一方の面に、プライマー層2と、該プライマー層2上に所定の凸状パターンで形成された導電層3が積層されている。該電磁波シールド材10における導電層3の表面には金属層4a及び黒化層4bがこの順で積層されており、図1(b)に示すように、該導電層3と、該導電層3の表面に形成された金属層4a及び黒化層4bの縦断面形状は曲面形状となっている。また、該導電層3の周縁部には接地部8が形成されている。
【0017】
図2は、本発明の電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図であり、図3は、図2におけるA−A’断面の拡大図である。また、図4は、図3の一部をさらに拡大して示す模式的な断面図であり、(A)は、導電層上に金属層を設けない例であり、(B)は導電層上に金属層を設けた例である。
【0018】
ここで、「所定の凸状パターン」とは、電磁波シールド材の電磁波遮蔽パターンとして一般的な、メッシュ(網乃至格子)状、ストライプ(平行線群乃至縞模様)状、螺旋(スパイラル乃至渦巻)或いは線分群等のパターンである。また、「曲面形状」とは、プライマー層上に所定の凸状パターンで形成された導電層の形態(以下、導電層パターンともいう)において、該導電層の側部と上端部との交点が角ばらず、丸みを帯びている形状のことである。具体的には、図5(a)に示すような逆U字型形状や、図5(b)に示すような中央に頂部を有し、該頂部付近が曲面の山型形状が挙げられる。尚、丸みの具体的な程度としては、該凸状パターンの縦断面形状に於いて、最小曲率半径が2μm以上、より好ましくは5μm以上である。前記凸状パターンの縦断面形状を曲面形状とする為には、後述の様に、凸状パターンを形成する凹版の凹部形状を導電層凸状パターンの曲面形状に対応するような曲面形状に製版する。
又、ここで言う縦断面とは断面形状の最小曲率半径が最小となる断面を意味する。凸状パターンが、通常使用されるメッシュ、ストライプ等の線状パターンの場合は、該線状パターンの延長方向と直交する断面になる。
また、図2中、符号7は、中央部に位置し、ディスプレイ装置の画像表示領域に対峙する電磁波遮蔽パターン部であり、符号8は、該電磁波遮蔽パターン部の周縁部の少なくとも一部に存在する接地部である。該接地部8において、接地能力上好ましくは、図2に示すように、電磁波遮蔽パターン部7の周縁部の全周を囲繞する形態が好ましい。また、該接地部8は、メッシュ等の開口部を有するパターン状に形成されていてもよいが、より好ましくは、図2に示すように、開口部非形成の導電層(或いは導電層及び金属層)からなる。なお、本発明においては、図2に示すような周縁部の接地部8が開口部非形成領域では無く、全体をメッシュ形状とし、その周縁部を接地部とすることもできる。この場合には、ディスプレイのサイズにかかわらず連続形成が可能となる。
【0019】
以下、本発明の電磁波シールド材について、透明基材から順に説明する。
(透明基材)
透明基材1は、電磁波シールド材の基材であり、所望の透明性、機械的強度、プライマー層2との接着性等の要求適性を勘案の上、各種材料の各種厚さのものを選択すればよい。透明基材1としては、樹脂基材であってもよいし、硝子基材等無機基材であってもよい。また、厚さ形態としては、フィルム状でもシート状でも板状でもよい。通常は、樹脂製の透明フィルムが好ましく用いられる。該透明フィルムとしては、アクリル樹脂(ここでは、所謂、メタクリル樹脂も包含する概念として用いる)、ポリエステル樹脂等をベースとするフィルムが好ましいが、これに限定されない。樹脂材料としては、具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−テレフタル酸−イソフタル酸共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等が使用できる。中でも、二軸延伸PETフィルムが透明性、耐久性に優れ、しかもその後の工程で紫外線照射処理や加熱処理を経た場合でも熱変形等しない耐熱性を有する点で好適である。
【0020】
透明基材1は、ロール・トゥ・ロール加工法に適した長尺フィルムであってもよいし、所定の大きさからなる枚葉フィルムであってもよい。なお、ここで「ロール・トゥ・ロール」とは、長尺帯状の基材を巻取(ロール)の形態で供給し、その巻取から帯状シートを巻き出して所定の加工をし、しかる後に再度巻取の形態に巻き取って保管、搬送するフィルムの利用形態を意味する。透明基材1の厚さは、通常は8μm〜5000μm程度が好ましいが、これに限定されない。透明基材1の光透過率としては、ディスプレイ装置の前面設置用としては、100%のものが理想であるが、透過率80%以上のものを選択することが好ましい。透明基材1の表面には、必要に応じて、後述するプライマー層2と透明基材1との密着性を改善するために易接着層を設けたり、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理を行ったりしてもよい。易接着層としては、透明基材1とプライマー層2との両方に接着性のある樹脂から構成する。易接着層の樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩素化ポリプロピレン等の樹脂の中から適宜選択する。
【0021】
(プライマー層)
プライマー層2は、透明基材1上に密着性よく設けられる。そして、該プライマー層2上には導電層3が密着性よく設けられる。したがって、プライマー層2は、透明基材1と導電層3の両方に対して密着性がよい材料であることが好ましく、また、ディスプレイ装置の前面設置用としては、当然のことながら透明であることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂や電離放射線硬化性樹脂を塗工してなる層であることが好ましい。また、密着性、耐久性改善、各種物性付与のために各種添加剤や変性樹脂を使用してもよい。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0023】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー(単量体)、或いはプレポリマーやオリゴマーが用いられる。モノマーとしては、例えば、ラジカル重合性モノマー、具体的には、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。また、プレポリマー(乃至はオリゴマー)としては、例えば、ラジカル重合性プレポリマー、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマー、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等、或いはポリチオール系プレポリマー、例えば、トリメチロールプロパントリチオグリコレートプレポリマー、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレートプレポリマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートとを意味する。
【0024】
これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0025】
電離放射線として紫外線或いは可視光線を用いる場合は光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系等の化合物が、また、カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100重量部に対して0.1〜5重量部程度添加する。
【0026】
なお、電離放射線としては、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線、各種イオン線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0027】
必要に応じて適宜添加剤を添加する。該添加剤としては、例えば、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いられるプライマー層2は、流動状態と硬化状態の2つの状態を保持することができる。プライマー層2は、塗工後においては流動性を保持できる状態で透明基材1上に設けられており、その後、プライマー層2上に導電性組成物層3’が転写形成される際においては短時間で流動状態から硬化状態に変化させることができるものであることが必要である。具体的には、版面内の導電性組成物層3’上部の凹み内に流動状態のプライマー層2が流入し、該凹み内が充填され、該プライマー層2と該導電性組成物層3’との間に隙間がない状態となる。この状態で、版面に圧力を加えることにより、該版面と該プライマー層2とが圧着し、その後、該プライマー層2を硬化させる。これにより、従来生じるおそれがあった該プライマー層2と該導電性組成物層3’との間の隙間の発生をなくすことができ、該隙間の存在による転写不良、密着不良の問題が生じない。
【0029】
なお、本明細書で言う「流動性」又は「流動状態」とは、プライマー層2を導電性組成物が充填された版面に圧着する際の圧力によって流動(変形)する性質又は状態をいい、水のように低粘度である必要はない。また、必ずしもNewton粘性である必要もなく、ティキソトロピー性或いはダイラタンシー性のような非Newton粘性を有していてもよい。塗工に適した粘度に調整され、透明基材1上に塗布した後、プライマー層2が熱可塑性樹脂である場合は、版面に圧着する際に流動(変形)すればよく、プライマー層2は圧着時において流動(変形)する温度になっていればよい。この場合、軟化状態と言い換えてもよい。
【0030】
流動状態になっているプライマー層2の粘度は、通常、1mPa・s〜100000mPa・sの範囲内であり、好ましくは、50mPa・s〜2000mPa・sの範囲内である。
【0031】
上記プライマー層2の流動状態は、プライマー層用樹脂組成物として電離放射線硬化性樹脂を用いた場合には、電離放射線硬化性を持ったインキを透明基材1上に塗布するだけで得られる。電離放射線硬化型インキは、一般に上記の電離放射線硬化性を持つモノマーやオリゴマーからなり、必要に応じて、更に、光重合開始剤(紫外線硬化、或いは光硬化の場合)、各種添加剤等を含み、電離放射線で硬化させるまでは流動性を示す。該インキは溶剤を含んでもよいが、その場合、塗布後に乾燥工程が必要であるため、インキは溶剤を含まないタイプ(いわゆるノンソルベントタイプ)であることが好ましい。
【0032】
また、プライマー層用樹脂組成物として熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布し、流動状態になる程度(例えば、50℃〜200℃程度)に加熱して生じさせることができる。こうした流動状態のプライマー層2を、導電性組成物が充填された版面に圧着した後、冷却することで硬化させて該導電性組成物を転写すれば、該導電性組成物層3’と該プライマー層2との間に空隙がない状態で転写することができる。ここで、透明基材1上に熱可塑性樹脂組成物を塗布する方法としては、熱可塑性樹脂組成物の溶液を塗布後乾燥する方法や、ホットメルト状態の樹脂を塗布する方法がある。また、透明基材1上に塗布された熱可塑性樹脂組成物の加熱は、導電性組成物が充填された版面に接触する前に行ってもよく、版面に圧着する際に加熱ロール等を用いて圧着と加熱を同時に行ってもよいが、いずれにおいても、導電性組成物層3’をプライマー層2に転移させる際にはプライマー層の流動性がなくなる程度まで冷却されている必要がある。
【0033】
プライマー層2の厚さは特に限定されないが、通常は硬化後の厚さで1μm〜100μm程度となるように形成される。また、導電層3が形成されていない部分のプライマー層2の厚さ(TB)は、通常は、導電層3とプライマー層2との合計値(総厚、図4で言うと導電層の頂部と透明基材1の表面との高度差)の1〜50%程度である。なお、導電性組成物層3’がプライマー層2上に転写され、さらに該導電性組成物層3’を硬化させて電磁波シールド材を製造した後におけるプライマー層2は、図4に示すように、導電層3が形成されている部分Aの厚さTAが、導電層3が形成されていない部分Bの厚さTBよりも厚い。そして、該プライマー層2において、厚さの厚い部分Aのサイドエッジ5,5は、厚さの薄い部分Bの側に導電層3が回り込んだ形態になっている。
【0034】
図4に示す形態は、硬化させる前の流動状態のプライマー層2と導電性組成物15を充填した所定のパターンの賦形版面とを圧着し、該プライマー層2と導電性組成物15とを空隙なく密着させた後に、該プライマー層2を硬化し、又は該プライマー層2と導電性組成物15とを同時硬化し、その後に転写したことによって生じたものである。具体的には、導電性組成物15を凹部内に充填した版面において、該凹部内以外の余分な導電性組成物15がドクターブレードによって掻き取られる。その際、該凹部内の導電性組成物15の上部には、図10の拡大図で示したような凹み6が生じやすく、該凹み6を有した版面に流動状態のプライマー層2が流入し、該凹み6内が充填され、透明基材1と導電性組成物15との間に該プライマー層2が隙間なく満たされる。該プライマー層2が未硬化の状態で、該プライマー層2を充填した版面に圧力を加えることにより、該版面と該プライマー層2とが圧着し、その結果、図4に示すような形態になる。
尚、プライマー層2は、各図にも図示の如く、導電層3の直下即ち導電層3が形成されている部分Aのみでは無く、導電層3が形成されていない部分Bも含めた透明基材1の全面に亘って形成することが好ましい(但し、導電層3のパターンを形成不要の領域上にはプライマー層2は不必須でも可)。其の理由は、本願発明者らの試作検討によって判明した事実として、若し、プライマー層2が、導電層3が形成されている部分Aのみに形成され、導電層3が形成されていない部分Bには非形成の場合には、プライマー層2を硬化後凹版から透明基材1を剥離する際に、硬化したプライマー層2及び導電層3が透明基材1側に転写されず、逆に透明基材1側から凹版側に転移する不具合が頻発することが判明した為である。これは、透明基材1とプライマー層2との接着面は平坦なのに対して、プライマー層2及び導電層3と凹版との接触面は凹面であり投錨効果による密着が強く、且つ接触面積も大となる為である。そして、2界面間の密着力は該界面の接触面積に比例する結果、
プライマー層2及び導電層3と凹版との密着力>透明基材1とプライマー層2との密着力
となりプライマー層2及び導電層3が凹版側に転写されるものと判明した。一方、プライマー層2を、導電層3が形成されていない部分Bも含めた全面に形成すると、
プライマー層2及び導電層3と凹版との接触面積<透明基材1とプライマー層2との接触面積
となる結果、
プライマー層2及び導電層3と凹版との密着力<透明基材1とプライマー層2との密着力
となる。其の為、プライマー層2及び導電層3は凹版から透明基材1側に転写されることが判明した。
従って、プライマー層2を導電層3が形成されていない透明基材1の全面に形成することにより、プライマー層2が導電層3の下のみに存在して開口部には存在しない場合に比べて、導電層3の透明基材1からの剥離は起こり難いという効果がある。
【0035】
(導電層)
導電層3は、プライマー層2上に、例えばメッシュ状、ストライプ状等の所定の電磁波遮蔽パターンで設けられている。該導電層3を形成する導電性組成物は、種々の工程を経た後に最終的に導電性の層になっているものであれば特に限定されない。電磁波遮蔽パターンは、電磁波シールド材に通常採用されるメッシュ状であってもストライプ状であってもよく、その線幅と線間ピッチも通常採用されている寸法であればよい。例えば、線幅は5〜50μmとすることができ、線間ピッチは100〜500μmとすることができる。開口率(電磁波遮蔽パターンの全面積中における開口部の合計面積の占める比率)は、通常、50〜95%程度である。
また、本発明に於いては、ディスプレイ装置の前面設置用として適用するため、可視光線(画像光)透過性が必須となる。一方、導電性組成物は可視光線に対しても不透明である。それ故、導電層3から成る所定の電磁波遮蔽パターンは、各図にも図示の如く導電層が形成されていない部分Bを有する。これが上記開口部である。尚、導電層3が形成されていない部分B(開口部)に於いては、画像光を、画像を表示するのに支障が無い程度に透過すれば足りる。従って、本発明でいう「導電層3が形成されていない部分B」とは、最低限、画像表示に実質支障を生じる程度の導電層が存在し無ければ十分である。導電層3が全く存在し無い形態の他、導電層3が存在していても、実用上画像表示に支障が無い程度の厚み(通常の導電性組成物の場合0.3μm以下)、或いは面積被覆率(通常の導電性組成物の場合10%以下)である場合も包含する。
【0036】
また、導電層3の厚さは、該導電層3の抵抗値によっても異なるが、電磁波遮蔽性能と該導電層上への他部材の接着適性との兼ね合いから、該導電層の中央部(突起パターンの頂部)での測定において、通常、2μm以上50μm以下であり、好ましくは、5μm以上20μm以下である。
【0037】
導電性組成物は、版の凹部内に充填する時点では流動性を有し、所望のパターンに形成し、硬化せしめた以降の時点で所望の導電性を発現するものであれば特に限定はなく、各種材料、形態のものが使用可能である。代表的なものは、導電性粉末と樹脂とを含み、さらに必要に応じて該樹脂を溶解乃至分散する溶剤乃至分散剤を含んだ流動性を有するインキ又はペースト状の材料を挙げることができる。該導電性組成物からなる導電層3は、導電性組成物を乾燥ないし硬化させた後の固形物からなる塗膜のことである。
【0038】
導電性組成物の粘度は、例えば後述するように、プライマー層2中のプライマー成分が導電性組成物中に侵入して増粘させたり、プライマー層2と導電性組成物とを同時硬化させたりする場合等、その製造工程との関係で好ましい粘度の大小を一概には言えないが、使用可能な範囲としては、通常、数百mPa・s〜数百万mPa・sの範囲内であり、好ましくは、数千mPa・s〜数万mPa・sの範囲内である。
【0039】
導電性組成物を構成するバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型ポリウレタン樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができ、電離放射線硬化性樹脂としては、プライマー層用の材料として前記したものを挙げることができ、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等の樹脂を挙げることができる。なお、熱硬化性樹脂を使用する場合、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。光硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は、必要に応じて重合開始剤を添加してもよい。
【0040】
また、版の凹部への充填に適した流動性を得るために、これら樹脂は通常、溶剤或いは分散剤に溶けたワニスとして使用する。溶剤或いは分散剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤或いは分散剤を使用できる。溶剤或いは分散剤の含有量は通常、10重量%〜70重量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ないほうが好ましい。また、光硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、もともと流動性があるため、必ずしも溶剤或いは分散剤を必要としない。
【0041】
また、導電性組成物を構成する導電性粉末としては、金、銀、白金、銅、錫、パラジウム、ニッケル、アルミニウム等の低抵抗率金属粉末、低抵抗率金属以外の材料からなる粉末(上記低抵抗率金属以外の金属粉末、アクリル樹脂、メラミン樹脂等の樹脂粉末、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、ゼオライト等の無機粉末)の表面に金や銀等の低抵抗率金属をめっきしてなる粉末、グラファイト、カーボンブラック等の導電性炭素の粉末を好ましく挙げることができる。また、導電性セラミックス、或いは導電性有機高分子の粉末も使用できる。形状も球状、回転楕円体状、多面体状、鱗片状、円盤状、繊維状(乃至針状)等から選ぶことができる。これらの材料や形状は適宜混合して用いてもよい。導電性粉末の大きさは種類に応じて任意に選択されるので一概に特定できないが、例えば、鱗片状の銀粉末の場合には粉末の平均粒子径が0.1〜10μm程度のものを用いることができ、カーボンブラック粉末の場合には平均粒子径が0.01〜1μm程度のものを用いることができる。
【0042】
導電性組成物中の導電性粉末の含有量は、導電性粉末の導電性や粉末の形態に応じて任意に選択されるが、例えば導電性組成物の全固形分に対して、導電性粉末を40〜99重量%の範囲で含有させることができる。なお、本願において、平均粒子径というときは、粒度分布径、又はTEM観察で測定した値を指している。また、多面体状、繊維状等の非球面形状の場合は、通常、外接球の直径、対角線長、或いは最長辺の辺長をもって粒径を定義する。
【0043】
また、導電性組成物には、品質向上等を目的に適当な添加物を加えてもよい。例えば、カーボンブラックはそれ自体が黒色であるので必要ないが、黒色顔料や黒色染料を必要に応じて所定量添加することで、電磁波遮蔽シートを構成したときの外光反射を防止してコントラストを向上させ、視認性を向上させることができる。また、後述する金属層の金属光沢による透明基板裏面の反射防止、色ムラ、金属色等の抑制のためには、こうした黒色顔料や黒色染料を含有させることが望ましい。黒色顔料としては、導電性粉末としても機能するカーボンブラック、Fe、CuO−Cr、CuOFe−Mn、CoO−Fe−Cr等が挙げられるが、その種類や形状は特に制限はなく、バインダー樹脂中に分散容易な平均粒子径0.1μm以下の着色力の大きな黒色顔料又は黒色染料が好ましい。なお、カーボンブラックを用いる場合には、チャンネルブラック、ファーネスブラック又はランプブラック等の色材用カーボンブラックや、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができ、中でも平均粒子径が20nm以下のものが好ましく用いられる。また、黒色染料としては、アニリンブラック等の染料を用いることができる。また、導電性組成物の流動性や安定性を改善するために、導電性や、プライマー層との密着性に悪影響を与えない限りにおいて、適宜フィラーや増粘剤、界面活性剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0044】
導電層3の形成は、先ず、所定のメッシュ状又はストライプ状等のパターンで、底部が曲面形状の凹部が形成された板状又は円筒状の版(凹版)の版面に導電性組成物を塗布した後、該凹部内以外に付着した導電性組成物を掻き取って凹部内に導電性組成物を充填する。次に、流動性を保持したプライマー層2を一方の面に形成した透明基材1を準備し、該透明基材1のプライマー層2側と、導電性組成物を凹部内に充填した版面とを圧着することにより、導電性組成物とプライマー層2とを隙間なく密着させ、その状態でプライマー層2の流動性をなくした(硬化させた)後、導電性組成物をプライマー層2上に転写し、所定のメッシュ状又はストライプ状等のパターンからなる導電性組成物層3’を形成する。なお、導電性組成物層3’をプライマー層2上に転写した後においては、硬化処理(例えば、乾燥処理、紫外線・電子線照射処理、加熱処理、冷却処理等)を行って導電層3が形成される。
【0045】
本発明においては、上記したように、ドクターブレードによって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られる際に、凹部内の導電性組成物の上部に生じる凹み6内に、流動性を保持したプライマー層2が充填し、導電性組成物とプライマー層2とを隙間なく密着した状態でプライマー層2が硬化するので、プライマー層2上に導電性組成物を転写不良なく転写することができる。
また、該導電性組成物の転移性を改善できるため、通常のグラビア印刷等の凹版を利用する方法に比べ、同版深の凹版を用いた場合でも転移後の該導電性組成物の厚さを厚くすることができる。従って、導電層パターンを厚くすることで、電磁波シールドに必要な導電性を確保することができる。
【0046】
上記においては、導電性組成物として、主に導電性粉末と樹脂とで構成されたものについて説明した。該導電性組成物は、それ自体が導電層3になるものであるが、本発明においては他の導電性組成物を適用してもよい。例えば、有機金属化合物のゾル(分散液)を導電性組成物として用い、転写工程の前後で加熱固化し、さらに必要に応じて焼成し、導電性の金属ないし金属化合物からなる導電層3としてもよい。また、例えば、ポリチオフェン等の公知の導電性樹脂を導電性組成物として用い、それ自体を導電層3としてもよい。
【0047】
(導電層パターンの形態)
次に、プライマー層2上に所定の凸状パターンで形成された導電層3の形態について説明する。以下、その形態を「導電層パターン19」ともいう。図6〜図8は、導電層パターン19(19A〜19C)の第1形態〜第3形態を示す模式断面図である。本発明において、導電層パターン19は、プライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電層3とで構成されている。該導電層パターン19A〜19Cは、いずれにおいても、導電層3が形成されている部分のプライマー層2の厚さTAが、導電層3が形成されていない部分のプライマー層2の厚さTBよりも厚くなっている。こうした形態は、平坦面からなるプライマー層2上に導電層3が形成されている場合に比べ、プライマー層2と導電層3との密着性に優れるという形態由来の効果がある。また、こうした形態は、上述のようにその製法に起因するものであって、版面上でドクターブレードによって凹部内以外の余分な導電性組成物が掻き取られた際に、該凹部内の導電性組成物の上部には凹み6が生じやすく、該凹み6を有した状態で版面にプライマー層2を圧着することにより、流動性のあるプライマー層2が該凹み6内に充填され、硬化後に剥離することによって生じたものである。第1形態の導電層パターン19Aは、プライマー層2が導電層3(導電性組成物15)に空隙なく密着し、導電層3(導電性組成物15)の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材とすることができる。
【0048】
図6〜図8に示す3つの形態は、図4(A)に示す導電層パターンをさらに詳しく表した形態である。なお、第1〜第3形態の導電層パターン19は、導電層パターン19の縦断面形状がいずれも釣鐘状であるが、これは、導電層パターンを形成するための凹版(賦形型)を釣鐘状にしたためであり、該縦断面形状が曲面形状であれば特に限定されない。このように、該導電層パターンの縦断面形状を曲面形状とすることにより、作業中に、該導電層に触れても、該導電層のパターン形状によって、手に傷を負ったり、手袋が磨耗することを防止することができる。
【0049】
第1形態の導電層パターン19Aは、図6に示すように、プライマー層2と導電層3との界面12が、プライマー層2側と導電層3側とに交互に入り組んだ形態である。この形態において、該界面12が、プライマー層2を構成する樹脂と導電層3を構成する樹脂又はフィラーとの界面であるように構成されていてもよい。この場合の「フィラー」とは、任意の粉末であり、導電性粉末であっても非導電性粉末であっても構わない。例えば、導電性組成物が導電性粉末とバインダー樹脂とで構成されている場合には、該界面12は、導電層3中の導電性粉末とプライマー層2を構成する樹脂とが入り組んだ態様で形成される。このときの入り組みの程度は、導電性粉末の形状や大きさに依存する。また、例えば、導電性組成物がフィラーを含まず、導電性樹脂や導電性化合物を含有する場合には、プライマー層2を凹部内に圧着する際の圧力等によって、プライマー層2と導電層3との界面が入り組んだ形態になっている。なお、該第1形態の導電層パターン19Aにおいて、入り組んだ界面12は、全体(包絡面形状乃至は入り組んだ凹凸を平滑化した仮想曲面)としては中央が高い山型の断面形態となっている。
【0050】
上記第1形態の導電層パターン19Aは、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性がよいのに加え、上記のように界面12が入り組んだ形態になっているので、所謂投錨効果により、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、該導電層パターン19Aを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
【0051】
第2形態の導電層パターン19Bは、図7に示すように、プライマー層2と導電層3との界面12の近傍に、プライマー層2に含まれるプライマー成分と、導電性組成物層3’を構成する成分とが混合する領域14が存在している形態である。図7では界面12を明確に表現しているが、実際の混合領域14では、該界面12は明確には現れておらず、明瞭でない曖昧な界面が現れる。また、図7では混合領域14は、界面12を上下に挟むように存在する。この場合は、プライマー層2中のプライマー成分(例えば溶剤など)と導電層3中の任意の成分(例えばモノマー成分など)とが両層内に相互に侵入する場合である。なお、混合領域14が界面12の上側に存在しても下側に存在してもよい。混合領域14が界面12の上側に存在する場合としては、プライマー層2中のプライマー成分が導電層3内に侵入し、導電層3中の任意の成分がプライマー層2内に侵入しない場合であり、一方、混合領域14が界面12の下側に存在する場合としては、導電層3中の任意の成分がプライマー層2内に侵入し、プライマー層2中のプライマー成分が導電層3内に侵入しない場合である。なお、混合領域14の厚さ(図7の上下方向の厚さ)は特に限定されない。
【0052】
上記第2形態の導電層パターン19Bも上記第1形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性がよいのに加え、上記のように界面12近傍に混合領域14を有するので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、該導電層パターン19Bを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
【0053】
第3形態の導電層パターン19Cは、図8に示すように、導電層3を構成する導電性組成物中に、プライマー層2に含まれるプライマー成分16が存在している形態である。図8ではプライマー成分16が界面12付近で多く、頂部に向かって少なくなっている態様を模式的に表しているが、こうした態様には特に限定されず、要するに、プライマー成分16が導電層3内に存在していればよい。プライマー成分16は、導電層3の頂部から検出される程度に導電層3内に侵入していてもよいし、界面12近傍で検出される程度であってもよい。なお、第3形態において、特に、プライマー成分16が導電層内に存在している領域が界面12の近傍に局在化している場合が、第2形態において混合領域14が界面12の上側にのみ存在する形態に相当するといえる。
【0054】
上記第3形態の導電層パターン19Cも上記第1及び第2形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に導電層3が形成されていることをもってしても密着性がよいのに加え、上記のようにプライマー成分16が導電層3に存在する程度に侵入しているので、プライマー層2と導電層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こうした導電層パターン19Cを形成する際にも、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果も備えている。
【0055】
なお、上記の第2及び第3形態の導電層パターン19において、プライマー層2中のプライマー成分16が導電層3中に侵入した場合、プライマー成分16の種類にもよるが、該プライマー成分16が導電性組成物をゲル化し、若しくは半固化状態とし、又は硬化成分を侵入させることができる。その後、プライマー層2のみを硬化した後の転写工程において、増粘され又は半硬化した導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)することができる。また、プライマー層2と導電性組成物とを同時硬化した後の転写工程においては、両層の層間接着力が高まるので、導電性組成物をほぼ100%の転移率で転移(転写)することができる。
【0056】
本発明においては、上記の第1〜第3形態の導電層パターン19の特徴を少なくとも1つ有しているが、それらの特徴を2つ以上有していてもよく、3つの全てを有していてもよい。
【0057】
本発明においては、前記導電層3の表面に、更に金属層4a及び/又は黒化層4bが積層されていてもよい。該導電層3の縦断面形状を曲面形状とすることで、該導電層3上に金属層4aを設けた場合でも、金属層を析出させる際に、丸みを帯びた導電層3の凸状パターン上に沿って金属層が析出すると共に、特に、電解めっきの場合に発生する尖った角部への電気力線の集中が少ない為、角部の尖り具合(尖鋭度)が更に増大成長することも抑えられる。その結果、該金属層表面が曲面形状となるため、作業中に硬い金属層表面に触れても、手に傷を負ったり、手袋が磨耗することを防止することができる。また、該導電層3上に黒化層4bを設けた場合、該黒化層表面が金属層形成の場合と同様に曲面形状となるため、作業中に該黒化層表面に触れることによる該黒化層の剥脱を防止することができる。
【0058】
(金属層)
金属層4aは、導電層3のみでは所望の導電率が得られない場合に、導電率を更に向上せしめるために、必要に応じ形成するものである。該金属層4aは、導電層3上にめっきにより形成される。めっきの方法としては、電気めっき(電解めっき)、無電解めっき等の方法があるが、電気めっきは無電解めっきに比べて通電量を増やすことでめっき速度を数倍に上げることができ、生産性を著しく向上させることができるため好ましい。
【0059】
電気めっきの場合、導電層3への給電は導電層3が形成された面に接触させた通電ロール等の電極から行われるが、導電層3が電気めっき可能な程度の導電性(例えば、100Ω/□以下)を有するので、電気めっきを問題なく行うことができる。金属層4aを構成する材料としては、導電性が高く容易にめっき可能な、銅、銀、金、クロム、ニッケル、錫を挙げることができる。金属層4aは導電層3に比べると一般的に体積抵抗率が1桁以上小さいため、導電層単体で電磁波シールド性を確保する場合に比べて、必要な導電材料の量を減らせるという利点がある。
【0060】
なお、金属層4aを形成した後においては、必要に応じて、図3に示すような保護層9を設けてもよい。該保護層9は、例えばアクリル系の光硬化性樹脂を用いて形成することができる。
【0061】
(黒化層)
黒化層4bは上記導電層の面の光反射を防ぐためのものであり、黒化処理で形成された黒化処理面(黒化層4b)により、導電層面での外光反射による透視画像の黒レベルの低下を防ぎ、また、透視画像の明室コントラストを向上させて、ディスプレイの画像の視認性を向上するものである。黒化処理面は、導電層のライン部(線状部分)の全ての面に設けることが好ましいが、本発明では表裏両面のうち少なくとも視聴者側であると共に外光入射側の面を黒化処理面とすることが好ましい。表裏両面や、側面(両側或いは片側)が更に黒化処理されていても良い。黒化層4bは、少なくとも視聴者側に設ければ良いが、ディスプレイ面側にも設ける場合には、ディスプレイから発生する迷光を抑えられるので、さらに、画像の視認性が向上する。
黒化処理としては、導電層の視聴者側表面を粗化するか、全可視光スペクトルに亘って光吸収性を付与する(黒化する)か、或いは両者を併用するかの何れかにより行なうことができる。
【0062】
本発明において黒化層4bは、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。
従って、黒化層4bとしては、金属等の無機材料、黒着色樹脂等の有機材料等を用いることができ、例えば無機材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等の金属系の層として形成する。金属系の層の形成法としては、従来公知の各種黒化処理法を適宜採用できる。なかでも、メッキ法による黒化処理は密着性、均一性、容易性等で好ましい。メッキ法の材料は、例えば、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、スズ、クロム等の金属や金属化合物等を用いる。
【0063】
黒化処理として好ましいめっき法には、銅からなる導電層を、硫酸、硫酸銅及び硫酸コバルト等からなる電解液中で、陰極電解処理を行いカチオン性粒子を付着させるカソーディック電着メッキ法がある。この方法によれば、カチオン性粒子の付着で黒色と同時に粗面も得られる。カチオン性粒子としては、銅粒子、銅と他の金属との合金粒子が適用できるが、好ましくは銅−コバルト合金の粒子である。カチオン性粒子の粒径は、黒濃度の点から、平均粒径0.1〜1μm程度が好ましい。その他、黒化層形成法として、ニッケル−亜鉛合金、硫化ニッケル、或いはこれらの複合体からなる黒化ニッケルメッキ、並びに酸化銅も好適に使用できる。
【0064】
黒化層の黒濃度は0.6以上であることが好ましい。なお、黒濃度の測定方法は、COLOR・CONTROL・SYSTEMのGRETAG・SPM100−11(キモト社製、商品名)を用いて、観察視野角10度、観察光源D50、照明タイプとして濃度標準ANSITに設定し、白色キャリブレイション後に、試験片を測定する。また、黒化層の光線反射率(単に反射率とも称される)としては5%以下が好ましい。光線反射率は、JIS−K7105に準拠して、ヘイズメーターHM150(村上色彩社製、商品名)を用いて測定する。また、反射率の測定に換えて、色差計により反射のY値で表わしてもよく、この際にはY値として10以下が好ましい。
【0065】
以上、本発明に係る電磁波シールド材の構成について説明したが、該電磁波シールド材は、透明基材1上に設けられたプライマー層2のうち、導電層3が形成されている部分Aの厚さTAは導電層3が形成されていない部分Bの厚さTBよりも厚い形態になっているので、版の凹み6(図11の符号105も参照)を充填するようにプライマー層2が設けられている。こうした形態からなるプライマー層2は、電磁波シールド材の製造時に、ドクターブレードで掻き取った後の凹部内の導電性組成物上部の凹み6に充填して形成されたものであり、その結果、プライマー層2に導電性組成物が密着性よく圧着し、導電性組成物層3’の転写不良に基づく断線、形状不良、低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材が得られる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
【0067】
(実施例1)
(1)電磁波シールド材の製造
図9は、導電性組成物をプライマー層上に転写する転写工程を実施する装置の概略構成図であるが、これを用いて、電磁波シールド材の製造工程を説明する。先ず、第一の透明基材1として、片面にポリエステル系樹脂塗膜から成る易接着処理がされた幅1000mmで厚さ100μmの長尺ロール巻の2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。次に、供給部にセットしたPETフィルムを繰り出し、易接着処理面にプライマー層用の光硬化性樹脂組成物を厚さ5μmとなるように塗布形成した。塗布方式は、通常のグラビアリバースロールコート法を採用し、光硬化性樹脂組成物としては、エポキシアクリレートプレポリマー35重量部、ウレタンアクリレートプレポリマー12重量部、フェノキシエチルアクリレートからなる単官能アクリレートモノマー44重量部、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなる3官能アクリレートモノマー9重量部、さらに光開始剤としてイルガキュア184(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)3重量部添加したものを使用した。このときの粘度は約1300mPa・s(25℃、B型粘度計)であり、塗布後のプライマー層2は触ると流動性を示すものの、PETフィルム上から流れ落ちることはなかった。
【0068】
次に、図9の如く、プライマー層2が形成されたPETフィルムを転写工程を行う凹版ロール62に供するが、それに先だって、開口部の線幅が20μmで線ピッチが300μm、版深20μmの正方格子状のメッシュパターンとなる、底部が曲面形状(縦断面形状が図6の如くの形状)の凹部が形成された凹版ロール62の版面63に、導電性組成物15をピックアップロール61で塗布し、ドクターブレード65で凹部64内以外の導電性組成物を掻き取って凹部64内のみに導電性組成物15を充填させた。導電性組成物15を凹部64内に充填させた状態の凹版ロール62と、ニップロール66との間に、プライマー層2が形成されたPETフィルムを供給し、凹版ロール62に対するニップロール66の押圧力(付勢力)によって、プライマー層2を凹部64内に存在する導電性組成物15の凹み6に流入させ、導電性組成物15とプライマー層2とを隙間なく密着させると共に、該プライマーの一部を凹部64内の該導電性組成物15内に浸透せしめた。なお、導電性組成物として、以下の組成の銀ペーストを用いた。
【0069】
<導電性組成物(銀ペースト)の作製>
導電性粉末として平均粒径2μmの鱗片状銀粉末93重量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7重量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート25重量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物を作製した。
【0070】
次いで行われる転写工程は以下の通りである。先ず、プライマー層2が形成されたPETフィルムを、該プライマー層2が凹版ロール62の版面63側に対向した状態で、凹版ロール62とニップロール66との間に挟む。該凹版ロール62と該ニップロール66との間でPETフィルムのプライマー層2は該版面63に押し付けられる。プライマー層2は流動性を有しているので、版面63に押し付けられたプライマー層2は、導電性組成物15が充填した凹部64内にも流入し、凹部64内で生じた導電性組成物15の凹み6を充填する(図10を参照)。こうしてプライマー層2は導電性組成物15に対して隙間なく密着した状態となる。その後、さらに凹版ロール62が回転して高圧水銀燈からなるUVランプ(図示は略すが、図9の上方に位置し、上方から紫外線を照射する)によって紫外線が照射され、光硬化性樹脂組成物からなるプライマー層2が硬化する。プライマー層2の硬化により、凹版ロール62の凹部64内の導電性組成物はプライマー層2と密着し、その後、出口側のニップロール67によってPETフィルムが凹版ロール62から剥離され、該PETフィルム上には硬化したプライマー層2が凹版側から転写されて接着し、更に該プライマー層2上には導電性組成物層3’が転写形成される。このようにして得られた転写フィルムを、110℃の乾燥ゾーンを通過させて銀ペーストの溶剤を蒸発させて固化せしめ、プライマー層2上にメッシュパターンからなる導電層3を形成した。このときの導電層3が存在するパターン部分の厚さ(導電層3が形成されているメッシュパターン部分とそれ以外の部分との厚さの差)は19μmで、版の深さとほぼ同等の厚さで転移しており、版の凹部64内の銀ペーストが高い転移率で転移していた。尚、〔転写された導電層の高さ/凹版の版深〕×100〕で定義される転移率(単位%)で評価すると、此の場合の転移率は95%であった。転移後の凹部64内を観察したところ、ペーストの版残りは見られず、また、メッシュパターンの断線や形状不良も見られなかった。
【0071】
この段階での試料について、電子顕微鏡にて、その導電層パターン19部分の断面TEM観察を行った結果、オスミウム染色液で染色したプライマー層2と染色した導電層3との界面12が濃淡の連続階調(グラデーション)のようになっており、また隣接両層の界面12が図6の如く交互に細かく入り組んだ構造も観察され、境界部分が一部なじんでいる(相溶)ことが確認された。また、導電層3側の表面部分をSIMS分析したところ、導電性組成物には含まれないがプライマー層2には含まれるプライマー成分が観測され、プライマー成分の一部が図8の如く硬化前に導電性組成物中に侵入していることが確認された。これらの状況から考えると、流動性があるプライマー層2が導電性組成物に接触した際に、その境界部分(界面12)の相溶及び/又は境界の乱れが生じ、この状態でプライマー層2を固化させると、境界部分から導電性組成物内部に向かう領域で、導電性組成物の増粘やゲル化などの現象が起こり、導電性組成物を版から引き抜きやすくなっているのではないかと推測された。又は、流動性のあるプライマー層2のプライマー成分の一部が版内の導電性組成物層と混ざり、プライマー層を固化させた際に導電性組成物層の粘度を全体的に上げていることが推察される。いずれにおいても、流動性のあるプライマー層2を導電性組成物層に接触させて、プライマー層2を固化させた後に剥離すれば、導電性組成物層が完全に固化していないにもかかわらず、ほぼ100%近い転移が可能であった。
【0072】
次いで、得られた転写フィルムに対し、銅めっきを行った。銅めっき法としては、得られた転写フィルムを硫酸銅めっき液に浸漬し、その表面に形成されたメッシュ状の導電層パターンを陰極として、銅板を陽極として、2A/dmの電流を流して電解銅めっきを行った。銅めっき膜を、上記導電層3上に選択的に、厚さ2μmで形成することにより、電磁波シールド材を得た。
【0073】
(実施例2)
実施例1において、凹部64に充填する導電性組成物中に予め以下に示す導電性カーボンブラック微粉末を含有させた他は、実施例1と同様にして、電磁波シールド材を作製した。パターン形状については実施例1と同様であった。また、得られたパターンをパターンの裏面から目視で観察すると、実施例1の場合に比べて、光沢が少なく見えた。
【0074】
<導電性組成物(銀ペースト+カーボンブラック)の作製>
導電性粉末として平均粒径約2μmの鱗片状銀粉末90重量部、カーボンブラックとしてアセチレンブラック(平均粒径35nm)3重量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7重量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート35重量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして導電性組成物を作製した。
【0075】
(比較例1)
実施例1において、PETフィルムの易接着処理面にプライマー層を塗布しない以外は実施例1と同様にして導電性組成物を転写させて、電磁波シールド材を得た。しかしながら、その際、PETフィルム上への導電性組成物の転写は十分でなく、断線やパターン抜けが多発した。また、乾燥後のパターン厚さも1μm程度であり、転移率が著しく悪かった。その後の電気銅めっきも均一にめっきすることはできなかった。この理由は、ドクターブレード65にて凹部64以外の導電性組成物を除去する際に、凹部64内からも少なからず導電性組成物15が掻き出されて凹部64内の導電性組成物15には凹み6が生じるが、該凹み6の存在により、導電性組成物15がPETフィルム上に密着よく転写されずに部分的に導電層が断線し、めっきに必要な導通(電位差)が得られないためと考えられる。
【0076】
(比較例2)
実施例1において、凹版ロールの縦断面形状を、図11の如く、底部の隅角部が直角の角をなす長方形状とした(線幅、線ピッチ、版深、格子形状は実施例1と同じ)以外は、実施例1と同様にして導電性組成物を転写させて、電磁波シールド材を得た。
【0077】
(評価結果)
実施例1、2及び比較例1で作製した電磁波シールド材についての評価結果を表1にまとめた。なお、表1において、転写性は、フィルム上への導電性組成物の転写状況から判断し、メッシュパターンの欠落、版面上のメッシュパターン形状に対する変形が無く、且つ転移したメッシュパターンの透明基材からの浮きも無く(密着性よく)所定のメッシュパターンが一様に転写されていると300倍に拡大した顕微鏡観察により目視確認できたものを「良好」として評価し、所定のメッシュパターンが一様に転写されてないもの、即ちメッシュパターンの欠落、版面上のメッシュパターン形状に対する変形、或いは転移したメッシュパターンの透明基材からの浮きの何れか1以上が目視で認められたものを「不良」として評価した。また、電磁波シールド性は、得られた電磁波シールド材をシールド材評価器((株)アドバンテスト製、TR17301A)を用いて電磁波シールド特性を測定した結果、200〜600MHzの範囲で−30デシベル程度以下のシールド特性を有するものを「良好」として評価し、−30デシベル程度より高いシールド特性を有するものを「不良」として評価した。
メッシュパターン部分の表面を木綿布製の手袋にて3往復擦った後、メッシュ表面及び手袋の両方を目視観察した。メッシュパターン部分上に手袋の繊維の付着、或は手袋に磨耗や破損の何れか1つ以上が認められた場合を「磨耗有り」として評価した。又、何れも認められなかった場合を「磨耗無し」と評価した。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の電磁波シールド材の一例の断面図である。
【図2】本発明で用いられる電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図である。
【図3】図2におけるA−A’断面の拡大図である。
【図4】図3の一部をさらに拡大して示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の導電層パターン形状を示す模式的な断面図である。
【図6】第1形態における導電層を示す模式断面図である。
【図7】第2形態における導電層を示す模式断面図である。
【図8】第3形態における導電層を示す模式断面図である。
【図9】導電性組成物をプライマー層上に転写する転写工程を実施する装置の概略構成図である。
【図10】凹部内の導電性組成物の凹みにプライマー層を充填し、該導電性組成物が転写する形態を示す模式図である。
【図11】透明基材上に導電性インキ組成物の未転写部が発生する従来の現象の説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1 透明基材
2 プライマー層
3 導電層
3’ 導電性組成物層
4a 金属層
4b 黒化層
5 サイドエッジ
6 凹み
7 電磁波遮蔽パターン部
8 接地部
9 保護層
10 電磁波シールド材
12 プライマー層と導電層との界面
13 導電層の周縁部の接地用領域の一部
14 混合領域
15 導電性組成物
16 プライマー成分
19A、19B、19C 導電層パターン
61 ピックアップロール
62 凹版ロール
63 版面
64 凹部
65 ドクターブレード
66 ニップロール
67 ニップロール
68 充填容器
101 凹版
102 ドクターブレード
103 導電性インキ組成物
104 凹部
105 凹み
106 透明基材
A 導電層が形成されている部分
TA Aの厚さ
B 導電層が形成されていない部分
TB Bの厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の面に、プライマー層と、該プライマー層上に所定の凸状パターンで形成された導電性組成物からなる導電層とを有する電磁波シールド材において、
前記凸状パターンの縦断面形状が曲面形状であり、且つ、前記電磁波シールド材の前記プライマー層のうち前記導電層が形成されている部分の厚さは前記導電層が形成されていない部分の厚さよりも厚く、前記プライマー層と前記導電層との界面が交互に入り組んでいるか、及び/又は、前記プライマー層と前記導電層との界面近傍には、該プライマー層に含まれるプライマー成分と該導電性組成物とが混合する領域が存在するか、及び/又は、前記導電層を構成する導電性組成物中に、前記プライマー層に含まれるプライマー成分が存在することを特徴とする、電磁波シールド材。
【請求項2】
前記導電層の表面に、更に金属層及び/又は黒化層が積層されていることを特徴とする、請求項1に記載の電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−80826(P2010−80826A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249747(P2008−249747)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】