電磁波吸収体
【課題】 安価で高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】 複数枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1b,1cを透明誘電体30を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、透明電磁波吸収フィルム1a,1b,1cはプラスチックフィルム10の一方の面に透明導電体層11を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群12が複数方向に形成されており、透明導電体層11は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなる透明電磁波吸収体。
【解決手段】 複数枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1b,1cを透明誘電体30を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、透明電磁波吸収フィルム1a,1b,1cはプラスチックフィルム10の一方の面に透明導電体層11を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群12が複数方向に形成されており、透明導電体層11は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなる透明電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安価でありながら高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、携帯電話、有料道路の自動料金収受システム(ETC)、無線LAN等の電子機器や通信機器のシステムには、電磁波の漏洩及び進入を防止するシールド材が使用されている。シールド材には、広範囲の周波数の電磁波を良好に吸収できるだけでなく、入射方向に応じた電磁波吸収能の変化(異方性)が少ないことも求められる。特にETC等のように円偏波を用いるシステムでは、TE波(入射面に対して電界成分が垂直な電磁波)及びTM波(入射面に対して磁界成分が垂直な電磁波)の両方とも効率良く吸収するシールド材が求められる。
【0003】
現在シールド材として広く使用されている金属のシート又はネットは重く、機器のケーシング内に配置するのに手間がかかるという問題がある。その上、金属のシート又はネットには電磁波吸収能に大きな異方性、すなわち電磁波の入射角が大きくなると電磁波吸収能が顕著に低下する傾向がある。
【0004】
軽量でケーシングへの配置が容易な電磁波吸収シールド材として、特開平9-148782号(特許文献1)は、プラスチックフィルムと、その両面に形成した第一及び第二のアルミニウム蒸着膜とからなり、第一のアルミニウム蒸着膜には非導通の線状パターンがエッチングされており、第二のアルミニウム蒸着膜には網目状パターンがエッチングされているシ−ルド材を提案している。しかし、特許文献1のシ−ルド材の線状パターン及び網目状パターンはいずれも規則的であるので、広範囲の周波数の電磁波を効率良く吸収することができない上に、電磁波吸収能の異方性が大きい。
【0005】
特開2004-134528(特許文献2)号は、異方性抵抗層と、導電性フィラーを含む誘電体層と、電磁波反射体層とを順に有する電磁波吸収体であって、異方性抵抗層は導通した線状パターンからなり、表面抵抗が一方向では1 kΩ以下で、他方向では10 kΩ以上の異方性を有する電磁波吸収体を提案している。特許文献2は、線状パターンがTE波の磁界成分と平行となるように電磁波吸収体を配置すると、TE波及びTM波の両方を効率良く吸収できると記載している。しかし特許文献2の電磁波吸収体は電磁波吸収能の異方性が大きいという問題がある。
【0006】
また、高速道路で広く利用されているETC(自動料金支払いシステム)では、隣接するETCレーンへの不要電波の影響を避けるため、透明電磁波吸収体が設置されている。例えば、2004年4月発行の三菱電線工業時報第101号、「ETC用透明電波吸収体の開発」の論文(非特許文献1)には、図31に示す透明電磁波吸収体が記載されている。この透明電磁波吸収体は、電波入射側から順に第一のポリカーボネート(PC)層201、粘着剤層202、第一の透明抵抗膜(Ni)層203、第一のポリエチレンテレフタレート(PET)層204、粘着剤層205、第二のPC層206、粘着剤層207、第二のNi層208、及び第二のPET層209からなる。この透明電磁波吸収体は約30°の入射角で30 dB近い反射減衰量を示す。しかし、この透明電磁波吸収体は複雑な多層構造を有するだけでなく、反射減衰量のさらなる向上も望まれる。またRFID ICタグ読み取り装置等のように、ETC以外にも不要な電磁波を除去しなければならない施設や装置は多くあり、そこでも高い電磁波吸収能を有する透明な電磁波吸収体に対する需要は大きい。
【0007】
特開平10-13083号(特許文献3)は、ポリカーボネート等からなる誘電体層の両面にNi等からなる抵抗皮膜及び保護膜を形成した構造を有する透明電波吸収体を開示している。特許文献3の透明電波吸収体は簡単な構造を有するが、透過減衰量が30 dB未満と不十分である。
【0008】
特開平11-330776号(特許文献4)は、薄膜軽量で施工作業性が良く、電波遮蔽能及び電波反射防止能に優れた透明電波反射防止体として、厚さ0.01〜50μmの幾何学模様状Niパターン層、透明支持層、透明樹脂層、透明支持層及び透明電波反射体(Ni)層を順次積層してなる電波反射防止体を開示している。しかし、幾何学模様状Niパターン層はパターンマスクを使用した蒸着、スパッタリング等により形成されるので、この電波反射防止体は高価であり、かつ電波反射防止能も不十分である。
【0009】
特開2005-277373号(特許文献5)は、薄型化及び軽量化が可能であり、かつ広帯域な減衰特性を有する透明電波吸収体として、Niからなる全面導体層と、ポリカーボネートからなる第一誘電体層と、所定範囲の表面抵抗率を有するNiからなる高抵抗導体層と、ポリカーボネートからなる第二誘電体層と、厚さ12μmの銅箔で形成されたループパターン等を有するパターン層とを順次積層した構造を有し、パターン層における各パターンは、隣接する他のパターンに対して大きさと形状とのうちの少なくとも一方が異なる電波吸収体を開示している。しかし、パターン層はエッチングにより形成するので、この電波吸収体は高価にならざるを得ず、またパターン層に銅箔を用いるので十分な透明性を有さない。その上、この電波吸収体の反射減衰量は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9-148782号
【特許文献2】特開2004-134528号
【特許文献3】特開平10-13083号公報
【特許文献4】特開平11-330776号公報
【特許文献5】特開2005-277373公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】2004年4月発行の三菱電線工業時報第101号、「ETC用透明電波吸収体の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明の目的は、安価で高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) プラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を形成するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群を複数方向に形成した1枚又は複数枚の透明電磁波吸収フィルムを、透明誘電体を介して積層すると、優れた電磁波吸収能を有する透明電磁波吸収体が得られ、また(b) プラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を形成するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群を複数方向に形成した1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを、誘電体を介して導電性反射板と積層すると、優れた電磁波吸収能を有する電磁波吸収体が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明の第一の電磁波吸収体は、複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されており、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなることを特徴とする。
【0015】
本発明の第二の電磁波吸収体は、1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明導電フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を形成したもので、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなり、前記透明電磁波吸収フィルムは前記透明導電フィルムのプラスチック面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成してなることを特徴とする。
【0016】
第一及び第二の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜は100〜1000Ω/□の表面抵抗を有するのが好ましい。このような表面抵抗を有する金属薄膜はアルミニウム又はニッケルからなるのが好ましい。
【0017】
第一及び第二の透明電磁波吸収体において、透明電磁波吸収フィルムの線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであるのが好ましい。
【0018】
第一及び第二の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体を介して隣接する透明電磁波吸収フィルムは異なる配向及び/又は交差角の線状痕を有するのが好ましい。前記透明誘電体の厚さは吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であるのが好ましい。
【0019】
本発明の第三の電磁波吸収体は、1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して導電性反射板と積層してなり、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0020】
第三の電磁波吸収体において、前記金属薄膜は100〜1000Ω/□の表面抵抗を有するのが好ましい。前記金属薄膜はアルミニウム又はニッケルの薄膜であるのが好ましい。
【0021】
第三の電磁波吸収体において、各電磁波吸収フィルムの線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであるのが好ましい。
【0022】
第三の電磁波吸収体において、前記誘電体を介して隣接する電磁波吸収フィルムは異なる配向及び/又は交差角の線状痕を有するのが好ましい。前記誘電体の厚さは吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第一及び第二の電磁波吸収体は、一方の面に可視光が透過し得る厚さの金属薄膜からなる透明導電体層が形成され、他方の面に線状痕群が複数方向に形成されたプラスチックフィルムからなる複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる構造か、1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層してなる構造を有するので、安価でありながら優れた電磁波吸収能を有する。透明電磁波吸収フィルムは複数方向の線状痕群を有するので、種々の周波数の電磁波に対して優れた吸収能を有するのみならず、電磁波吸収能の異方性が低い。このような特徴を有する本発明の透明電磁波吸収体は、必要な透明性を確保しつつ高い電磁波吸収能を有するので、ETC等のように不要電磁波の影響を避けつつ透明性が必要な用途に好適である。
【0024】
本発明の第三の電磁波吸収体は、一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されたプラスチックフィルムからなる1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを導電性反射板と積層してなるので、安価でありながら優れた電磁波吸収能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1(a)】本発明の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図1(b)】図1(a) の透明電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【図1(c)】図1(a) のA部分を示す拡大断面図である。
【図1(d)】図1(c) のA'部分を示す拡大断面図である。
【図2(a)】線状痕の他の例を示す部分平面図である。
【図2(b)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【図2(c)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【図3】透明導電体層の上にオーバーコートが設けられた透明導電フィルムを示す断面図である。
【図4】透明導電体層及び線状痕の上に保護層が設けられた透明電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図5(a)】透明電磁波吸収フィルムの製造装置の一例を示す斜視図である。
【図5(b)】図5(a) の装置を示す平面図である。
【図5(c)】図5(b) のB-B断面図である。
【図5(d)】フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【図5(e)】図5(a) の装置において、フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【図6】透明電磁波吸収フィルムの製造装置の他の例を示す部分断面図である。
【図7】透明電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図8】透明電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図9】透明電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図10(a)】本発明の第一の透明電磁波吸収体の一例を示す分解斜視図である。
【図10(b)】図10(a) の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解断面図である。
【図10(c)】図10(a) の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解断面図である。
【図11】本発明の第一の透明電磁波吸収体のさらに別の例を示す分解断面図である。
【図12】本発明の第二の透明電磁波吸収体の一例を示す分解断面図である。
【図13】本発明の第二の透明電磁波吸収体の別の例を示す分解断面図である。
【図14(a)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図14(b)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図14(c)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図14(d)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図14(e)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図14(f)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図15(a)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図15(b)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図15(c)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図16(a)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図16(b)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図16(c)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図17(a)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における1枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図17(b)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における1枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図18】本発明の第三の電磁波吸収体の一例を示す分解斜視図である。
【図19】本発明の第三の電磁波吸収体の別の例を示す分解斜視図である。
【図20】電磁波吸収体の電磁波吸収能を評価する装置を示す概略図である。
【図21】参考例4の透明電磁波吸収フィルムのピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図22】実施例1の透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図23】実施例2の透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図24】実施例3の透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図25】実施例4の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図26】実施例5の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図27】実施例6の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図28】実施例7の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図29】実施例8の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図30】実施例9の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図31】非特許文献1に記載の透明電磁波吸収体を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0027】
[1] 透明電磁波吸収フィルム
本発明の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムは、プラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を有し、他方の面に複数方向の線状痕群を有する。図1(a)〜図1(d)は、プラスチックフィルム10の一方の面に透明導電体層11が形成され、他方の面に実質的に平行で断続的な多数の線状痕12が二方向に形成された透明電磁波吸収フィルムの一例を示す。
【0028】
(1) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、透明性及び絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。プラスチックフィルム10の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0029】
(2) 透明導電体層
透明導電体層11は金属薄膜からなる。透明導電体層11はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。優れた電磁波吸収能を発揮するために、金属薄膜の表面抵抗は100〜1000Ω/□であり、好ましくは200〜1000Ω/□であり、より好ましくは250〜800Ω/□である。このような透明導電体層11を形成する金属として、ニッケル、アルミニウム、クロム等が挙げられる。これらの金属は勿論単体に限らず、合金でも良い。アルミニウム薄膜も良好な導電性及び可視光透過性を有するが、膜厚(表面抵抗)の均一化が難しい。一方、ニッケル薄膜は良好な導電性及び可視光透過性を有するとともに、表面抵抗の分布が均一であるので、本発明の目的に好適である。
【0030】
金属薄膜の厚さは10〜20 nmが好ましく、10〜15 nmがより好ましい。金属薄膜の厚さが10 nm未満であると、表面抵抗が大きすぎる。また金属薄膜の厚さが20 nm超であると、可視光透過率が低すぎる。10〜20 nmの厚さの金属薄膜は一般に約100〜1000Ω/□の表面抵抗と、約20〜70%の可視光透過率を有する。表面抵抗は直流二端子法で測定することができる。透明導電体層11の可視光透過率は25%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。
【0031】
(3) 線状痕
図1(b)〜図1(d) に示すように、プラスチックフィルム10の他方の面(透明導電体層11を有さない面)に多数の実質的に平行で断続的な線状痕12a,12bが複数方向(図示の例では二方向)に不規則な幅及び間隔で形成されている。なお、説明のために図1(c) 及び図1(d) では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。なお間隔Iは、線状痕12の配向方向(長手方向)及びそれに直交する方向(横手方向)の両方における間隔を意味する。線状痕12の幅W及び間隔Iはいずれも線状痕形成前のプラスチックフィルム10の表面Sの高さ(元の高さ)で求める。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、透明電磁波吸収フィルム1は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0032】
線状痕12の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕12の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜20μmがより好ましく、1〜10μmが最も好ましい。
【0033】
線状痕12の間隔Iは0.1〜200μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕12の平均間隔Iavは1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、1〜20μmが最も好ましい。
【0034】
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロールとフィルムとの相対速度、及びフィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良い。
【0035】
二方向の線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」とも言う)θsは30〜90°が好ましく、45〜90°がより好ましく、60〜90°が最も好ましい。プラスチックフィルム10とパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、図2(a)〜図2(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。線状痕の配向は二方向に限定されず、三方向以上でも良い。図2(a) の線状痕12は直交する線状痕12a,12bからなり、図2(b) の線状痕12は60°で交差する線状痕12a,12bからなり、図2(c) の線状痕12は三方向の線状痕12a,12b,12cからなる。
【0036】
(4) 透明オーバーコート
厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなる透明導電体層11は非常に薄いので、線状痕の形成中にロールとの摺接で付く擦過傷により大きな影響を受ける。そのため、図3に示すように透明導電体層11の上に厚さ1〜5μm程度の透明オーバーコート13を形成するのが好ましい。透明オーバーコート13は透明プラスチックの溶液を塗布することにより形成することができる。
【0037】
(5) 透明保護層
図4に示すように、透明導電体層11及び線状痕12を有する面にそれぞれ透明な保護層14a,14bを形成するのが好ましい。透明保護層14a,14bは透明プラスチックのハードコート又はフィルムであるのが好ましい。フィルムを用いる場合、熱ラミネート法又はドライラミネート法により接着するのが好ましい。プラスチックハードコートは、例えば光硬化性樹脂の塗布及び紫外線の照射により形成することができる。透明保護層14a,14bを形成するハードコート又はフィルムは、線状痕12の効果を確保するためにプラスチックフィルム10と異なる材質であるのが好ましい。各透明保護層14a,14bの厚さは10〜100μm程度が好ましい。透明保護層14aにより透明導電体層11が保護され、透明保護層14bにより線状痕12による不透明性が解消される。
【0038】
[2] 透明電磁波吸収フィルムの製造装置
図5(a)〜図5(e) はプラスチックフィルムに線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。線状痕の形成は透明導電体層11の形成の前後いずれでも行うことができるが、透明導電体層11を予め形成した市販のプラスチックフィルム10を使用する方が製造コストを低減できる。その場合、線状痕の形成中に透明導電体層11の損傷を防ぐために、透明導電体層11の上にオーバーコート13を形成しておくのが好ましい。しかし、線状痕はプラスチックフィルム10のプラスチック面(透明導電体層11のない面)に形成するので、透明導電体層11の有無は線状痕の形成方法に直接関係しない。従って、以下の説明では単にプラスチックフィルム10に線状痕を形成する場合を例にとる。
【0039】
図示の装置は、(a) プラスチックフィルム10を巻き出すリール21と、(b) プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜して配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側でそれと反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) プラスチックフィルム10の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向に傾斜し、かつ第一のパターンロール2aと同じ側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側でそれと反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 線状痕付きプラスチックフィルム10’を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0040】
図5(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bがプラスチックフィルム10に接するので、プラスチックフィルム10は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの高さを調整することにより、各パターンロール2a,2bへの押圧力を調整でき、また中心角θ1に比例する摺接距離も調整できる。
【0041】
図5(d) は線状痕12aがプラスチックフィルム10の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。プラスチックフィルム10の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)とプラスチックフィルム10の進行方向とは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子がプラスチックフィルム10と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点A’から点B’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
【0042】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される第一及び第二の線状痕群12A,12Bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bのプラスチックフィルム10に対する角度、及び/又はプラスチックフィルム10の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、プラスチックフィルム10の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、図5(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のようにプラスチックフィルム10の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、プラスチックフィルム10の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を図2(a) 及び図2(b) に例示するように変更することができる。
【0043】
各パターンロール2a,2bはプラスチックフィルム10に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接によりプラスチックフィルム10は幅方向の力を受ける。従って、プラスチックフィルム10の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの高さ及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。プラスチックフィルム10の蛇行及び破断を防止するために、プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0044】
プラスチックフィルム10に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、図6に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ1に比例するプラスチックフィルム10の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、プラスチックフィルム10の蛇行の防止にも寄与できる。
【0045】
図7は、図2(c) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流にプラスチックフィルム10の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で図5(a)〜図5(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cはプラスチックフィルム10の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール3dは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0046】
図8は、四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3eを設けた点で図7に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、図5(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をプラスチックフィルム10の幅方向と平行にすることができる。
【0047】
図9は、図2(a)に示すように直交する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bがプラスチックフィルム10の幅方向と平行に配置されている点で図5(a)〜図5(e) に示す装置と異なる。従って、図5(a)〜図5(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、図5(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をフィルム10の幅方向にし、直交する線状痕を形成するのに適している。
【0048】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、プラスチックフィルム10の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。フィルム10の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0049】
パターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜100μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜50μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に30%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0050】
[3] 第一の電磁波吸収体
本発明の第一の電磁波吸収体は、複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層するか、1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層することにより得られる透明電磁波吸収体である。透明誘電体は透明プラスチック板が好ましく、その厚さは吸収すべき電磁波の中心波長λの1/4を含む範囲、例えばλ/12〜λ/2の範囲とするのが好ましい。
【0051】
(1) 第一の透明電磁波吸収体
第一の透明電磁波吸収体は、複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる。図10(a)、図10(b) 及び図10(c) は第一の透明電磁波吸収体の例を示す。この透明電磁波吸収体は、第一の透明電磁波吸収フィルム1a/透明誘電体30/第二の透明電磁波吸収フィルム1b/透明誘電体30/第三の透明電磁波吸収フィルム1cの層構成を有する。各透明電磁波吸収フィルム1a〜1cの透明導電体層11は、図10(b) に示すように全てプラスチックフィルム10の同じ側にあっても、図10(c) に示すように一部反対側にあっても良い。
【0052】
図14(a)〜図14(f) は第一の透明電磁波吸収体を構成する3枚の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cの組合せ例を示す。3枚の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cを有する透明電磁波吸収体は、線状痕の交差角θsの組合せにより電磁波吸収能の周波数への依存性を低減できるので、幅広い周波数範囲の電磁波に対して優れた吸収能を発揮することができる。
【0053】
図14(a) に示す例は図10(a) の構成に対応する。第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕の交差角θsは60°であり、第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕の交差角θsは90°である。線状痕の交差角θsが60°だと電界吸収能に優れた透明電磁波吸収フィルムが得られ、線状痕の交差角θsが90°だと磁界吸収能に優れた透明電磁波吸収フィルムが得られる。従って、線状痕の交差角θsが60°の第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cと線状痕の交差角θsが90°の第二の透明電磁波吸収フィルム1bとを組合せてなる図14(a) の透明電磁波吸収体は、電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。図14(b) に示す例では逆に、第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕の交差角θsは90°であり、第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕の交差角θsは60°である。この例の透明電磁波吸収体も電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。
【0054】
図14(c) に示す例では、第一〜第三の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cにおける線状痕の交差角θsは全て90°である。この場合、第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕と第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕とは45°で交差しているのが好ましい。この例の透明電磁波吸収体は優れた磁界吸収能を有する。
【0055】
図14(d) に示す例では、第一〜第三の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cにおける線状痕の交差角θsは全て60°である。この場合、第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕の方向と第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕の方向とは直交しているのが好ましい。この例の透明電磁波吸収体は優れた電界吸収能を有する。
【0056】
図14(e) 及び図14(f) に示す例では、線状痕の交差角θsが90°の透明電磁波吸収フィルムと線状痕の交差角θsが45°の透明電磁波吸収フィルムとの組合せである。線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの代わりに線状痕の交差角θsが45°の透明電磁波吸収フィルムを用いても、良好な電界吸収能及び磁界吸収能を有する透明電磁波吸収体が得られる。
【0057】
図15(a)〜図15(c) は線状痕の交差角θsが同じ又は異なる2枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1bの組合せの例を示す。2枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1bを有する透明電磁波吸収体は、吸収すべき周波数に応じて線状痕の交差角θsを組合せることにより、優れた電磁波吸収能を発揮することができる。
【0058】
(2) 第二の透明電磁波吸収体
第二の透明電磁波吸収体の一例は、図12に示すように複数枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルム1dとを透明誘電体を介して積層してなる。透明導電フィルムは、透明導電体層(金属薄膜)11に線状痕12を形成していない以外透明導電フィルム1と同じで良い。図16(a)〜図16(c) に示すように2枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1bと1枚の透明導電フィルム1dの組合せの場合、透明導電フィルム1dが中央に位置し、両側に透明電磁波吸収フィルム1a,1bが位置するのが好ましい。この場合、透明導電フィルム1dは反射板として機能すると考えられる。両側の透明電磁波吸収フィルム1a,1bにおける線状痕の交差角θsの組合せは、例えば60°/60°[図16(a)]、60°/90°[図16(b)]、及び90°/90°[図16(c)]である。
【0059】
第二の透明電磁波吸収体の別の例は、図13に示すように1枚の透明電磁波吸収フィルム1aと1枚の透明導電フィルム1dとを透明誘電体を介して積層してなる。透明電磁波吸収フィルム1aにおける線状痕の交差角θsは図17(a) 及び図17(b) に示すように60°又は90°が好ましい。
【0060】
例示の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cの線状痕交差角θsは45°,60°及び90°であったが、本発明は勿論これらに限定されず、30〜90°以内の他の交差角θsも使用可能である。研究の結果、交差角θsは360/偶数であるのが好ましいことが分った。従って、30°,36°,45°,60°及び90°が好ましい。ここで、交差角θsには製造誤差があるので、一般に目標値の±5°以内、好ましくは±3°以内であれば良い。例えば交差角θsが60°の場合、55〜65°の範囲内であれば良い。また交差角θsが90°の場合、85〜90°の範囲内であれば良い。三層の透明電磁波吸収フィルムを有する透明電磁波吸収体の場合、外側の透明電磁波吸収フィルムの線状痕交差角θsは60°又は90°であるのが好ましい。
【0061】
[4] 第二の電磁波吸収体
本発明の第二の電磁波吸収体は、1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して導電性反射板と積層してなり、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されていることを特徴とする。第二の電磁波吸収体は、(a) 導電性反射板を積層する点、及び(b) 電磁波吸収フィルムの導電体層、及び電磁波吸収フィルムと反射板の間に設ける誘電体がいずれも透明である必要がない点で第一の電磁波吸収体と異なる。従って、以下これらの点についてのみ詳述する。特に断りがなければ、第一の電磁波吸収体についてした説明は、透明である点を除いてそのまま第二の電磁波吸収体にも当てはまる。勿論、第二の電磁波吸収体に用いる電磁波吸収フィルムが透明であっても構わない。
【0062】
導電性反射板は導電性を有する限り材質は限定されないが、コストの面からアルミニウム板、銅板、亜鉛板等か好ましい。導電性反射板の厚さは限定的ではなく、例えば0.1〜3 mm程度で良い。
【0063】
良好な電磁波吸収能を発揮するために、各電磁波吸収フィルムの導電体層は100〜1000Ω/□の表面抵抗を有する金属薄膜であるのが好ましい。異なる金属薄膜はアルミニウム又はニッケルの薄膜であるのが好ましい。このような金属薄膜は一般に10〜100 nm程度の厚さを有する。
【0064】
電磁波吸収フィルムの他方の面(導電体層が形成されていない面)に設けられた線状痕の交差角は、第一の電磁波吸収体と同様に30〜90°の範囲内が好ましく、45〜90°がより好ましく、60〜90°が最も好ましい。
【0065】
第二の電磁波吸収体の好ましい層構成は、(a) 電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板(図18)、(b) 電磁波吸収フィルム/誘電体/電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板(図19)等である。2枚以上の電磁波吸収フィルムを有する場合、電磁波吸収能の異方性を低減するために線状痕の配向及び/又は交差角が異なるのが好ましい。
【0066】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0067】
参考例1〜3
厚さ16μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に厚さがそれぞれ10 nm,15 nm及び20 nmのNi薄膜を蒸着してなる透明導電フィルムの表面抵抗(直流二端子法で測定)及び可視光透過率測定した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
参考例4
透明導電フィルムの電磁波吸収能
参考例3の透明導電フィルムの試験片TP(32 cm×52 cm)の電磁波吸収能を、図20に示す装置を用いて評価した。この装置は、厚さ2 cmの誘電体ホルダ62と、ホルダ62から100 cm離れた送信アンテナ63a及び受信アンテナ63bと、アンテナ63a,63bに接続したネットワークアナライザ64とを有する。まずホルダ62の前面(アンテナ側)に固定したアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)に、アンテナ63aから10°から60°まで10°間隔で入射角度θiを変えながら、1〜5.5 GHzの周波数の電磁波(円偏波)を0.25 GHzの周波数間隔で照射し、アンテナ63bで反射波を受信し、ネットワークアナライザ64により反射電力を測定した。次にNi薄膜をアンテナ63a,63b側にして試験片TPをホルダ62の前面に固定し、上記と同様にして反射電力を測定した。
【0070】
アルミニウム板を用いて測定した反射電力が入射電力と等しいと仮定し、反射係数(反射電力/入射電力)RCを求め、RL(dB)=20 log(1/RC)により反射減衰量(リターンロス)RL(dB)を求めた。各入射角度θiにおける反射減衰量は周波数に応じて変化するので、反射減衰量が最大となるときの周波数(ピーク周波数)で得られた電磁波吸収率をピーク吸収率とした。ピーク吸収率及びピーク周波数をそれぞれ図21に示す。図21から明らかなように、10〜60°の入射角度範囲で10 dB以上のピーク吸収率を有していた。これから、Ni薄膜を有する透明導電フィルム自身も相当の電磁波吸収能を有することが分かる。
【0071】
実施例1
交差角60°/交差角90°/交差角60°の透明電磁波吸収体
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図5(a) に示す構造の装置を用い、参考例2の透明導電フィルムのプラスチック面(Ni薄膜が形成されていない面)に90°で交差する二方向の線状痕を形成し、図2(a) に示す透明電磁波吸収フィルムを作製し、また参考例2の透明導電フィルムのプラスチック面(Ni薄膜が形成されていない面)に60°で交差する二方向の線状痕を形成し、図2(b) に示す透明電磁波吸収フィルムを作製した。これらの透明電磁波吸収フィルムにおける線状痕の特性は下記の通りであった。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
横手方向間隔Iの範囲:2〜30μm
平均横手方向間隔Iav:10μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°及び60°
【0072】
線状痕の交差角θsが90°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)2枚とを図14(a) に示すように組合せ、透明誘電体(32 cm×52 cm×2 cmのプラスチック板)を介して積層し、図10(a) に示す層構成(交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角90°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角60°の透明電磁波吸収フィルム)を有する透明電磁波吸収体を作製した。この透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を参考例4と同様に測定した。結果を図22に示す。図22から明らかなように、10°〜60°の入射角度範囲で、TE波のピーク吸収率は約13〜27 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約27〜48 dBであった。この結果から、交差角が60°/90°/60°の組合せでは10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波の方がTM波より多く吸収されることが分かる。
【0073】
実施例2
交差角90°/交差角60°/交差角90°の透明電磁波吸収体
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)2枚と、実施例1で作製した線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚とを、図14(b) に示すように組合せ、透明誘電体(32 cm×52 cm×2 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角90°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角90°の透明電磁波吸収フィルムからなる層構成を有する透明電磁波吸収体を作製した。この透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を参考例4と同様に測定した。結果を図23に示す。図23から明らかなように、10°〜60°の入射角度範囲で、TE波のピーク吸収率は約12〜26 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約24〜43 dBであった。この結果から、交差角が90°/60°/90°の組合せでは10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0074】
実施例3
交差角60°/交差角45°/交差角60°の透明電磁波吸収体
線状痕の交差角θsを45°とした以外実施例1と同様にして透明電磁波吸収フィルムを作製した。この透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)2枚と図14(e) に示すように組合せ、透明誘電体(32 cm×52 cm×2 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角45°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角60°の透明電磁波吸収フィルムからなる層構成を有する透明電磁波吸収体を作製した。この透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を参考例4と同様に測定した。結果を図24に示す。図24から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜22 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約25〜45 dBであった。この結果から、交差角が90°/45°/90°の組合せでは10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0075】
実施例4
交差角90°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角90°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図25に示す。図25から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜22 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜43 dBであった。この結果から、交差角が90°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0076】
実施例5
交差角60°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが60°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図26に示す。図26から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜24 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜38 dBであった。この結果から、交差角が60°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0077】
実施例6
交差角45°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
実施例3で作製した線状痕の交差角θsが45°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角45°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図27に示す。図27から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜30 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜45 dBであった。この結果から、交差角が60°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波及びTM波とも吸収率は同程度であることが分かる。
【0078】
実施例7
交差角36°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
交差角を36°とした以外実施例1と同様にして電磁波吸収フィルムを作製した。この電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角36°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図28に示す。図28から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜28 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜36 dBであった。この結果から、交差角が36°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波よりやや多く吸収されることが分かる。
【0079】
実施例8
90°/60°/反射板の組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、実施例1で作製した線状痕の交差角θsが60°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、アルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板とを誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角θsが90°の電磁波吸収フィルム/誘電体/交差角θsが60°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる層構成を有する電磁波吸収体を得た。この電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図29に示す。図29から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約15〜38 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜31 dBであった。この結果から、90°/60°/反射板の組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波の方がTM波より多く吸収されることが分かる。
【0080】
実施例9
90°/45°/反射板の組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、実施例3で作製した線状痕の交差角θsが45°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、アルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板とを誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角θsが90°の電磁波吸収フィルム/誘電体/交差角θsが45°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる層構成を有する電磁波吸収体を得た。この電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図30に示す。図30から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約15〜35 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約13〜33 dBであった。この結果から、90°/45°/反射板の組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波の方がTM波より多く吸収されることが分かる。
【符号の説明】
【0081】
1,1a,1b,1c・・・(透明)電磁波吸収フィルム
1a,1b,1c・・・(透明)電磁波吸収フィルム
1d・・・(透明)導電フィルム
10・・・プラスチックフィルム
11・・・金属薄膜
12,12a,12b,12c・・・線状痕
13・・・(透明)オーバーコート
14a,14b・・・(透明)保護層
1'・・・複合フィルム
2a,2b,2c,2d・・・パターンロール
3a,3b,3c,3d,3e・・・押えロール
30・・・(透明)誘電体
40・・・反射板
【技術分野】
【0001】
本発明は安価でありながら高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、携帯電話、有料道路の自動料金収受システム(ETC)、無線LAN等の電子機器や通信機器のシステムには、電磁波の漏洩及び進入を防止するシールド材が使用されている。シールド材には、広範囲の周波数の電磁波を良好に吸収できるだけでなく、入射方向に応じた電磁波吸収能の変化(異方性)が少ないことも求められる。特にETC等のように円偏波を用いるシステムでは、TE波(入射面に対して電界成分が垂直な電磁波)及びTM波(入射面に対して磁界成分が垂直な電磁波)の両方とも効率良く吸収するシールド材が求められる。
【0003】
現在シールド材として広く使用されている金属のシート又はネットは重く、機器のケーシング内に配置するのに手間がかかるという問題がある。その上、金属のシート又はネットには電磁波吸収能に大きな異方性、すなわち電磁波の入射角が大きくなると電磁波吸収能が顕著に低下する傾向がある。
【0004】
軽量でケーシングへの配置が容易な電磁波吸収シールド材として、特開平9-148782号(特許文献1)は、プラスチックフィルムと、その両面に形成した第一及び第二のアルミニウム蒸着膜とからなり、第一のアルミニウム蒸着膜には非導通の線状パターンがエッチングされており、第二のアルミニウム蒸着膜には網目状パターンがエッチングされているシ−ルド材を提案している。しかし、特許文献1のシ−ルド材の線状パターン及び網目状パターンはいずれも規則的であるので、広範囲の周波数の電磁波を効率良く吸収することができない上に、電磁波吸収能の異方性が大きい。
【0005】
特開2004-134528(特許文献2)号は、異方性抵抗層と、導電性フィラーを含む誘電体層と、電磁波反射体層とを順に有する電磁波吸収体であって、異方性抵抗層は導通した線状パターンからなり、表面抵抗が一方向では1 kΩ以下で、他方向では10 kΩ以上の異方性を有する電磁波吸収体を提案している。特許文献2は、線状パターンがTE波の磁界成分と平行となるように電磁波吸収体を配置すると、TE波及びTM波の両方を効率良く吸収できると記載している。しかし特許文献2の電磁波吸収体は電磁波吸収能の異方性が大きいという問題がある。
【0006】
また、高速道路で広く利用されているETC(自動料金支払いシステム)では、隣接するETCレーンへの不要電波の影響を避けるため、透明電磁波吸収体が設置されている。例えば、2004年4月発行の三菱電線工業時報第101号、「ETC用透明電波吸収体の開発」の論文(非特許文献1)には、図31に示す透明電磁波吸収体が記載されている。この透明電磁波吸収体は、電波入射側から順に第一のポリカーボネート(PC)層201、粘着剤層202、第一の透明抵抗膜(Ni)層203、第一のポリエチレンテレフタレート(PET)層204、粘着剤層205、第二のPC層206、粘着剤層207、第二のNi層208、及び第二のPET層209からなる。この透明電磁波吸収体は約30°の入射角で30 dB近い反射減衰量を示す。しかし、この透明電磁波吸収体は複雑な多層構造を有するだけでなく、反射減衰量のさらなる向上も望まれる。またRFID ICタグ読み取り装置等のように、ETC以外にも不要な電磁波を除去しなければならない施設や装置は多くあり、そこでも高い電磁波吸収能を有する透明な電磁波吸収体に対する需要は大きい。
【0007】
特開平10-13083号(特許文献3)は、ポリカーボネート等からなる誘電体層の両面にNi等からなる抵抗皮膜及び保護膜を形成した構造を有する透明電波吸収体を開示している。特許文献3の透明電波吸収体は簡単な構造を有するが、透過減衰量が30 dB未満と不十分である。
【0008】
特開平11-330776号(特許文献4)は、薄膜軽量で施工作業性が良く、電波遮蔽能及び電波反射防止能に優れた透明電波反射防止体として、厚さ0.01〜50μmの幾何学模様状Niパターン層、透明支持層、透明樹脂層、透明支持層及び透明電波反射体(Ni)層を順次積層してなる電波反射防止体を開示している。しかし、幾何学模様状Niパターン層はパターンマスクを使用した蒸着、スパッタリング等により形成されるので、この電波反射防止体は高価であり、かつ電波反射防止能も不十分である。
【0009】
特開2005-277373号(特許文献5)は、薄型化及び軽量化が可能であり、かつ広帯域な減衰特性を有する透明電波吸収体として、Niからなる全面導体層と、ポリカーボネートからなる第一誘電体層と、所定範囲の表面抵抗率を有するNiからなる高抵抗導体層と、ポリカーボネートからなる第二誘電体層と、厚さ12μmの銅箔で形成されたループパターン等を有するパターン層とを順次積層した構造を有し、パターン層における各パターンは、隣接する他のパターンに対して大きさと形状とのうちの少なくとも一方が異なる電波吸収体を開示している。しかし、パターン層はエッチングにより形成するので、この電波吸収体は高価にならざるを得ず、またパターン層に銅箔を用いるので十分な透明性を有さない。その上、この電波吸収体の反射減衰量は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9-148782号
【特許文献2】特開2004-134528号
【特許文献3】特開平10-13083号公報
【特許文献4】特開平11-330776号公報
【特許文献5】特開2005-277373公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】2004年4月発行の三菱電線工業時報第101号、「ETC用透明電波吸収体の開発」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明の目的は、安価で高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) プラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を形成するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群を複数方向に形成した1枚又は複数枚の透明電磁波吸収フィルムを、透明誘電体を介して積層すると、優れた電磁波吸収能を有する透明電磁波吸収体が得られ、また(b) プラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を形成するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群を複数方向に形成した1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを、誘電体を介して導電性反射板と積層すると、優れた電磁波吸収能を有する電磁波吸収体が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明の第一の電磁波吸収体は、複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されており、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなることを特徴とする。
【0015】
本発明の第二の電磁波吸収体は、1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明導電フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を形成したもので、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなり、前記透明電磁波吸収フィルムは前記透明導電フィルムのプラスチック面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成してなることを特徴とする。
【0016】
第一及び第二の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜は100〜1000Ω/□の表面抵抗を有するのが好ましい。このような表面抵抗を有する金属薄膜はアルミニウム又はニッケルからなるのが好ましい。
【0017】
第一及び第二の透明電磁波吸収体において、透明電磁波吸収フィルムの線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであるのが好ましい。
【0018】
第一及び第二の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体を介して隣接する透明電磁波吸収フィルムは異なる配向及び/又は交差角の線状痕を有するのが好ましい。前記透明誘電体の厚さは吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であるのが好ましい。
【0019】
本発明の第三の電磁波吸収体は、1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して導電性反射板と積層してなり、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0020】
第三の電磁波吸収体において、前記金属薄膜は100〜1000Ω/□の表面抵抗を有するのが好ましい。前記金属薄膜はアルミニウム又はニッケルの薄膜であるのが好ましい。
【0021】
第三の電磁波吸収体において、各電磁波吸収フィルムの線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであるのが好ましい。
【0022】
第三の電磁波吸収体において、前記誘電体を介して隣接する電磁波吸収フィルムは異なる配向及び/又は交差角の線状痕を有するのが好ましい。前記誘電体の厚さは吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第一及び第二の電磁波吸収体は、一方の面に可視光が透過し得る厚さの金属薄膜からなる透明導電体層が形成され、他方の面に線状痕群が複数方向に形成されたプラスチックフィルムからなる複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる構造か、1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層してなる構造を有するので、安価でありながら優れた電磁波吸収能を有する。透明電磁波吸収フィルムは複数方向の線状痕群を有するので、種々の周波数の電磁波に対して優れた吸収能を有するのみならず、電磁波吸収能の異方性が低い。このような特徴を有する本発明の透明電磁波吸収体は、必要な透明性を確保しつつ高い電磁波吸収能を有するので、ETC等のように不要電磁波の影響を避けつつ透明性が必要な用途に好適である。
【0024】
本発明の第三の電磁波吸収体は、一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されたプラスチックフィルムからなる1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを導電性反射板と積層してなるので、安価でありながら優れた電磁波吸収能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1(a)】本発明の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図1(b)】図1(a) の透明電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【図1(c)】図1(a) のA部分を示す拡大断面図である。
【図1(d)】図1(c) のA'部分を示す拡大断面図である。
【図2(a)】線状痕の他の例を示す部分平面図である。
【図2(b)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【図2(c)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【図3】透明導電体層の上にオーバーコートが設けられた透明導電フィルムを示す断面図である。
【図4】透明導電体層及び線状痕の上に保護層が設けられた透明電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【図5(a)】透明電磁波吸収フィルムの製造装置の一例を示す斜視図である。
【図5(b)】図5(a) の装置を示す平面図である。
【図5(c)】図5(b) のB-B断面図である。
【図5(d)】フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【図5(e)】図5(a) の装置において、フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【図6】透明電磁波吸収フィルムの製造装置の他の例を示す部分断面図である。
【図7】透明電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図8】透明電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図9】透明電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図10(a)】本発明の第一の透明電磁波吸収体の一例を示す分解斜視図である。
【図10(b)】図10(a) の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解断面図である。
【図10(c)】図10(a) の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解断面図である。
【図11】本発明の第一の透明電磁波吸収体のさらに別の例を示す分解断面図である。
【図12】本発明の第二の透明電磁波吸収体の一例を示す分解断面図である。
【図13】本発明の第二の透明電磁波吸収体の別の例を示す分解断面図である。
【図14(a)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図14(b)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図14(c)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図14(d)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図14(e)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図14(f)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における3枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図15(a)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図15(b)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図15(c)】本発明の第一の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図16(a)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図16(b)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図16(c)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における2枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【図17(a)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における1枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの一例を示す分解平面図である。
【図17(b)】本発明の第二の透明電磁波吸収体における1枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルムとの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【図18】本発明の第三の電磁波吸収体の一例を示す分解斜視図である。
【図19】本発明の第三の電磁波吸収体の別の例を示す分解斜視図である。
【図20】電磁波吸収体の電磁波吸収能を評価する装置を示す概略図である。
【図21】参考例4の透明電磁波吸収フィルムのピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図22】実施例1の透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図23】実施例2の透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図24】実施例3の透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図25】実施例4の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図26】実施例5の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図27】実施例6の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図28】実施例7の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図29】実施例8の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図30】実施例9の電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
【図31】非特許文献1に記載の透明電磁波吸収体を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0027】
[1] 透明電磁波吸収フィルム
本発明の透明電磁波吸収体を構成する透明電磁波吸収フィルムは、プラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を有し、他方の面に複数方向の線状痕群を有する。図1(a)〜図1(d)は、プラスチックフィルム10の一方の面に透明導電体層11が形成され、他方の面に実質的に平行で断続的な多数の線状痕12が二方向に形成された透明電磁波吸収フィルムの一例を示す。
【0028】
(1) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、透明性及び絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。プラスチックフィルム10の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0029】
(2) 透明導電体層
透明導電体層11は金属薄膜からなる。透明導電体層11はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。優れた電磁波吸収能を発揮するために、金属薄膜の表面抵抗は100〜1000Ω/□であり、好ましくは200〜1000Ω/□であり、より好ましくは250〜800Ω/□である。このような透明導電体層11を形成する金属として、ニッケル、アルミニウム、クロム等が挙げられる。これらの金属は勿論単体に限らず、合金でも良い。アルミニウム薄膜も良好な導電性及び可視光透過性を有するが、膜厚(表面抵抗)の均一化が難しい。一方、ニッケル薄膜は良好な導電性及び可視光透過性を有するとともに、表面抵抗の分布が均一であるので、本発明の目的に好適である。
【0030】
金属薄膜の厚さは10〜20 nmが好ましく、10〜15 nmがより好ましい。金属薄膜の厚さが10 nm未満であると、表面抵抗が大きすぎる。また金属薄膜の厚さが20 nm超であると、可視光透過率が低すぎる。10〜20 nmの厚さの金属薄膜は一般に約100〜1000Ω/□の表面抵抗と、約20〜70%の可視光透過率を有する。表面抵抗は直流二端子法で測定することができる。透明導電体層11の可視光透過率は25%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。
【0031】
(3) 線状痕
図1(b)〜図1(d) に示すように、プラスチックフィルム10の他方の面(透明導電体層11を有さない面)に多数の実質的に平行で断続的な線状痕12a,12bが複数方向(図示の例では二方向)に不規則な幅及び間隔で形成されている。なお、説明のために図1(c) 及び図1(d) では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。なお間隔Iは、線状痕12の配向方向(長手方向)及びそれに直交する方向(横手方向)の両方における間隔を意味する。線状痕12の幅W及び間隔Iはいずれも線状痕形成前のプラスチックフィルム10の表面Sの高さ(元の高さ)で求める。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、透明電磁波吸収フィルム1は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0032】
線状痕12の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕12の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜20μmがより好ましく、1〜10μmが最も好ましい。
【0033】
線状痕12の間隔Iは0.1〜200μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕12の平均間隔Iavは1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、1〜20μmが最も好ましい。
【0034】
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロールとフィルムとの相対速度、及びフィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良い。
【0035】
二方向の線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」とも言う)θsは30〜90°が好ましく、45〜90°がより好ましく、60〜90°が最も好ましい。プラスチックフィルム10とパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、図2(a)〜図2(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。線状痕の配向は二方向に限定されず、三方向以上でも良い。図2(a) の線状痕12は直交する線状痕12a,12bからなり、図2(b) の線状痕12は60°で交差する線状痕12a,12bからなり、図2(c) の線状痕12は三方向の線状痕12a,12b,12cからなる。
【0036】
(4) 透明オーバーコート
厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなる透明導電体層11は非常に薄いので、線状痕の形成中にロールとの摺接で付く擦過傷により大きな影響を受ける。そのため、図3に示すように透明導電体層11の上に厚さ1〜5μm程度の透明オーバーコート13を形成するのが好ましい。透明オーバーコート13は透明プラスチックの溶液を塗布することにより形成することができる。
【0037】
(5) 透明保護層
図4に示すように、透明導電体層11及び線状痕12を有する面にそれぞれ透明な保護層14a,14bを形成するのが好ましい。透明保護層14a,14bは透明プラスチックのハードコート又はフィルムであるのが好ましい。フィルムを用いる場合、熱ラミネート法又はドライラミネート法により接着するのが好ましい。プラスチックハードコートは、例えば光硬化性樹脂の塗布及び紫外線の照射により形成することができる。透明保護層14a,14bを形成するハードコート又はフィルムは、線状痕12の効果を確保するためにプラスチックフィルム10と異なる材質であるのが好ましい。各透明保護層14a,14bの厚さは10〜100μm程度が好ましい。透明保護層14aにより透明導電体層11が保護され、透明保護層14bにより線状痕12による不透明性が解消される。
【0038】
[2] 透明電磁波吸収フィルムの製造装置
図5(a)〜図5(e) はプラスチックフィルムに線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。線状痕の形成は透明導電体層11の形成の前後いずれでも行うことができるが、透明導電体層11を予め形成した市販のプラスチックフィルム10を使用する方が製造コストを低減できる。その場合、線状痕の形成中に透明導電体層11の損傷を防ぐために、透明導電体層11の上にオーバーコート13を形成しておくのが好ましい。しかし、線状痕はプラスチックフィルム10のプラスチック面(透明導電体層11のない面)に形成するので、透明導電体層11の有無は線状痕の形成方法に直接関係しない。従って、以下の説明では単にプラスチックフィルム10に線状痕を形成する場合を例にとる。
【0039】
図示の装置は、(a) プラスチックフィルム10を巻き出すリール21と、(b) プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜して配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側でそれと反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) プラスチックフィルム10の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向に傾斜し、かつ第一のパターンロール2aと同じ側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側でそれと反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 線状痕付きプラスチックフィルム10’を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0040】
図5(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bがプラスチックフィルム10に接するので、プラスチックフィルム10は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの高さを調整することにより、各パターンロール2a,2bへの押圧力を調整でき、また中心角θ1に比例する摺接距離も調整できる。
【0041】
図5(d) は線状痕12aがプラスチックフィルム10の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。プラスチックフィルム10の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)とプラスチックフィルム10の進行方向とは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子がプラスチックフィルム10と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点A’から点B’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
【0042】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される第一及び第二の線状痕群12A,12Bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bのプラスチックフィルム10に対する角度、及び/又はプラスチックフィルム10の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、プラスチックフィルム10の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、図5(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のようにプラスチックフィルム10の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、プラスチックフィルム10の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を図2(a) 及び図2(b) に例示するように変更することができる。
【0043】
各パターンロール2a,2bはプラスチックフィルム10に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接によりプラスチックフィルム10は幅方向の力を受ける。従って、プラスチックフィルム10の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの高さ及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。プラスチックフィルム10の蛇行及び破断を防止するために、プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0044】
プラスチックフィルム10に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、図6に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ1に比例するプラスチックフィルム10の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、プラスチックフィルム10の蛇行の防止にも寄与できる。
【0045】
図7は、図2(c) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流にプラスチックフィルム10の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で図5(a)〜図5(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cはプラスチックフィルム10の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール3dは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0046】
図8は、四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3eを設けた点で図7に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、図5(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をプラスチックフィルム10の幅方向と平行にすることができる。
【0047】
図9は、図2(a)に示すように直交する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bがプラスチックフィルム10の幅方向と平行に配置されている点で図5(a)〜図5(e) に示す装置と異なる。従って、図5(a)〜図5(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、図5(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をフィルム10の幅方向にし、直交する線状痕を形成するのに適している。
【0048】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、プラスチックフィルム10の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。フィルム10の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0049】
パターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜100μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜50μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に30%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0050】
[3] 第一の電磁波吸収体
本発明の第一の電磁波吸収体は、複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層するか、1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層することにより得られる透明電磁波吸収体である。透明誘電体は透明プラスチック板が好ましく、その厚さは吸収すべき電磁波の中心波長λの1/4を含む範囲、例えばλ/12〜λ/2の範囲とするのが好ましい。
【0051】
(1) 第一の透明電磁波吸収体
第一の透明電磁波吸収体は、複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる。図10(a)、図10(b) 及び図10(c) は第一の透明電磁波吸収体の例を示す。この透明電磁波吸収体は、第一の透明電磁波吸収フィルム1a/透明誘電体30/第二の透明電磁波吸収フィルム1b/透明誘電体30/第三の透明電磁波吸収フィルム1cの層構成を有する。各透明電磁波吸収フィルム1a〜1cの透明導電体層11は、図10(b) に示すように全てプラスチックフィルム10の同じ側にあっても、図10(c) に示すように一部反対側にあっても良い。
【0052】
図14(a)〜図14(f) は第一の透明電磁波吸収体を構成する3枚の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cの組合せ例を示す。3枚の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cを有する透明電磁波吸収体は、線状痕の交差角θsの組合せにより電磁波吸収能の周波数への依存性を低減できるので、幅広い周波数範囲の電磁波に対して優れた吸収能を発揮することができる。
【0053】
図14(a) に示す例は図10(a) の構成に対応する。第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕の交差角θsは60°であり、第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕の交差角θsは90°である。線状痕の交差角θsが60°だと電界吸収能に優れた透明電磁波吸収フィルムが得られ、線状痕の交差角θsが90°だと磁界吸収能に優れた透明電磁波吸収フィルムが得られる。従って、線状痕の交差角θsが60°の第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cと線状痕の交差角θsが90°の第二の透明電磁波吸収フィルム1bとを組合せてなる図14(a) の透明電磁波吸収体は、電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。図14(b) に示す例では逆に、第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕の交差角θsは90°であり、第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕の交差角θsは60°である。この例の透明電磁波吸収体も電界吸収能及び磁界吸収能の両方に優れている。
【0054】
図14(c) に示す例では、第一〜第三の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cにおける線状痕の交差角θsは全て90°である。この場合、第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕と第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕とは45°で交差しているのが好ましい。この例の透明電磁波吸収体は優れた磁界吸収能を有する。
【0055】
図14(d) に示す例では、第一〜第三の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cにおける線状痕の交差角θsは全て60°である。この場合、第一及び第三の透明電磁波吸収フィルム1a,1cにおける線状痕の方向と第二の透明電磁波吸収フィルム1bにおける線状痕の方向とは直交しているのが好ましい。この例の透明電磁波吸収体は優れた電界吸収能を有する。
【0056】
図14(e) 及び図14(f) に示す例では、線状痕の交差角θsが90°の透明電磁波吸収フィルムと線状痕の交差角θsが45°の透明電磁波吸収フィルムとの組合せである。線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの代わりに線状痕の交差角θsが45°の透明電磁波吸収フィルムを用いても、良好な電界吸収能及び磁界吸収能を有する透明電磁波吸収体が得られる。
【0057】
図15(a)〜図15(c) は線状痕の交差角θsが同じ又は異なる2枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1bの組合せの例を示す。2枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1bを有する透明電磁波吸収体は、吸収すべき周波数に応じて線状痕の交差角θsを組合せることにより、優れた電磁波吸収能を発揮することができる。
【0058】
(2) 第二の透明電磁波吸収体
第二の透明電磁波吸収体の一例は、図12に示すように複数枚の透明電磁波吸収フィルムと1枚の透明導電フィルム1dとを透明誘電体を介して積層してなる。透明導電フィルムは、透明導電体層(金属薄膜)11に線状痕12を形成していない以外透明導電フィルム1と同じで良い。図16(a)〜図16(c) に示すように2枚の透明電磁波吸収フィルム1a,1bと1枚の透明導電フィルム1dの組合せの場合、透明導電フィルム1dが中央に位置し、両側に透明電磁波吸収フィルム1a,1bが位置するのが好ましい。この場合、透明導電フィルム1dは反射板として機能すると考えられる。両側の透明電磁波吸収フィルム1a,1bにおける線状痕の交差角θsの組合せは、例えば60°/60°[図16(a)]、60°/90°[図16(b)]、及び90°/90°[図16(c)]である。
【0059】
第二の透明電磁波吸収体の別の例は、図13に示すように1枚の透明電磁波吸収フィルム1aと1枚の透明導電フィルム1dとを透明誘電体を介して積層してなる。透明電磁波吸収フィルム1aにおける線状痕の交差角θsは図17(a) 及び図17(b) に示すように60°又は90°が好ましい。
【0060】
例示の透明電磁波吸収フィルム1a〜1cの線状痕交差角θsは45°,60°及び90°であったが、本発明は勿論これらに限定されず、30〜90°以内の他の交差角θsも使用可能である。研究の結果、交差角θsは360/偶数であるのが好ましいことが分った。従って、30°,36°,45°,60°及び90°が好ましい。ここで、交差角θsには製造誤差があるので、一般に目標値の±5°以内、好ましくは±3°以内であれば良い。例えば交差角θsが60°の場合、55〜65°の範囲内であれば良い。また交差角θsが90°の場合、85〜90°の範囲内であれば良い。三層の透明電磁波吸収フィルムを有する透明電磁波吸収体の場合、外側の透明電磁波吸収フィルムの線状痕交差角θsは60°又は90°であるのが好ましい。
【0061】
[4] 第二の電磁波吸収体
本発明の第二の電磁波吸収体は、1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して導電性反射板と積層してなり、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されていることを特徴とする。第二の電磁波吸収体は、(a) 導電性反射板を積層する点、及び(b) 電磁波吸収フィルムの導電体層、及び電磁波吸収フィルムと反射板の間に設ける誘電体がいずれも透明である必要がない点で第一の電磁波吸収体と異なる。従って、以下これらの点についてのみ詳述する。特に断りがなければ、第一の電磁波吸収体についてした説明は、透明である点を除いてそのまま第二の電磁波吸収体にも当てはまる。勿論、第二の電磁波吸収体に用いる電磁波吸収フィルムが透明であっても構わない。
【0062】
導電性反射板は導電性を有する限り材質は限定されないが、コストの面からアルミニウム板、銅板、亜鉛板等か好ましい。導電性反射板の厚さは限定的ではなく、例えば0.1〜3 mm程度で良い。
【0063】
良好な電磁波吸収能を発揮するために、各電磁波吸収フィルムの導電体層は100〜1000Ω/□の表面抵抗を有する金属薄膜であるのが好ましい。異なる金属薄膜はアルミニウム又はニッケルの薄膜であるのが好ましい。このような金属薄膜は一般に10〜100 nm程度の厚さを有する。
【0064】
電磁波吸収フィルムの他方の面(導電体層が形成されていない面)に設けられた線状痕の交差角は、第一の電磁波吸収体と同様に30〜90°の範囲内が好ましく、45〜90°がより好ましく、60〜90°が最も好ましい。
【0065】
第二の電磁波吸収体の好ましい層構成は、(a) 電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板(図18)、(b) 電磁波吸収フィルム/誘電体/電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板(図19)等である。2枚以上の電磁波吸収フィルムを有する場合、電磁波吸収能の異方性を低減するために線状痕の配向及び/又は交差角が異なるのが好ましい。
【0066】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0067】
参考例1〜3
厚さ16μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に厚さがそれぞれ10 nm,15 nm及び20 nmのNi薄膜を蒸着してなる透明導電フィルムの表面抵抗(直流二端子法で測定)及び可視光透過率測定した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
参考例4
透明導電フィルムの電磁波吸収能
参考例3の透明導電フィルムの試験片TP(32 cm×52 cm)の電磁波吸収能を、図20に示す装置を用いて評価した。この装置は、厚さ2 cmの誘電体ホルダ62と、ホルダ62から100 cm離れた送信アンテナ63a及び受信アンテナ63bと、アンテナ63a,63bに接続したネットワークアナライザ64とを有する。まずホルダ62の前面(アンテナ側)に固定したアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)に、アンテナ63aから10°から60°まで10°間隔で入射角度θiを変えながら、1〜5.5 GHzの周波数の電磁波(円偏波)を0.25 GHzの周波数間隔で照射し、アンテナ63bで反射波を受信し、ネットワークアナライザ64により反射電力を測定した。次にNi薄膜をアンテナ63a,63b側にして試験片TPをホルダ62の前面に固定し、上記と同様にして反射電力を測定した。
【0070】
アルミニウム板を用いて測定した反射電力が入射電力と等しいと仮定し、反射係数(反射電力/入射電力)RCを求め、RL(dB)=20 log(1/RC)により反射減衰量(リターンロス)RL(dB)を求めた。各入射角度θiにおける反射減衰量は周波数に応じて変化するので、反射減衰量が最大となるときの周波数(ピーク周波数)で得られた電磁波吸収率をピーク吸収率とした。ピーク吸収率及びピーク周波数をそれぞれ図21に示す。図21から明らかなように、10〜60°の入射角度範囲で10 dB以上のピーク吸収率を有していた。これから、Ni薄膜を有する透明導電フィルム自身も相当の電磁波吸収能を有することが分かる。
【0071】
実施例1
交差角60°/交差角90°/交差角60°の透明電磁波吸収体
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図5(a) に示す構造の装置を用い、参考例2の透明導電フィルムのプラスチック面(Ni薄膜が形成されていない面)に90°で交差する二方向の線状痕を形成し、図2(a) に示す透明電磁波吸収フィルムを作製し、また参考例2の透明導電フィルムのプラスチック面(Ni薄膜が形成されていない面)に60°で交差する二方向の線状痕を形成し、図2(b) に示す透明電磁波吸収フィルムを作製した。これらの透明電磁波吸収フィルムにおける線状痕の特性は下記の通りであった。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
横手方向間隔Iの範囲:2〜30μm
平均横手方向間隔Iav:10μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°及び60°
【0072】
線状痕の交差角θsが90°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)2枚とを図14(a) に示すように組合せ、透明誘電体(32 cm×52 cm×2 cmのプラスチック板)を介して積層し、図10(a) に示す層構成(交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角90°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角60°の透明電磁波吸収フィルム)を有する透明電磁波吸収体を作製した。この透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を参考例4と同様に測定した。結果を図22に示す。図22から明らかなように、10°〜60°の入射角度範囲で、TE波のピーク吸収率は約13〜27 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約27〜48 dBであった。この結果から、交差角が60°/90°/60°の組合せでは10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波の方がTM波より多く吸収されることが分かる。
【0073】
実施例2
交差角90°/交差角60°/交差角90°の透明電磁波吸収体
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)2枚と、実施例1で作製した線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚とを、図14(b) に示すように組合せ、透明誘電体(32 cm×52 cm×2 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角90°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角90°の透明電磁波吸収フィルムからなる層構成を有する透明電磁波吸収体を作製した。この透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を参考例4と同様に測定した。結果を図23に示す。図23から明らかなように、10°〜60°の入射角度範囲で、TE波のピーク吸収率は約12〜26 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約24〜43 dBであった。この結果から、交差角が90°/60°/90°の組合せでは10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0074】
実施例3
交差角60°/交差角45°/交差角60°の透明電磁波吸収体
線状痕の交差角θsを45°とした以外実施例1と同様にして透明電磁波吸収フィルムを作製した。この透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、線状痕の交差角θsが60°の透明電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)2枚と図14(e) に示すように組合せ、透明誘電体(32 cm×52 cm×2 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角45°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/交差角60°の透明電磁波吸収フィルムからなる層構成を有する透明電磁波吸収体を作製した。この透明電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を参考例4と同様に測定した。結果を図24に示す。図24から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜22 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約25〜45 dBであった。この結果から、交差角が90°/45°/90°の組合せでは10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0075】
実施例4
交差角90°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角90°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図25に示す。図25から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜22 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜43 dBであった。この結果から、交差角が90°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0076】
実施例5
交差角60°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが60°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角60°の透明電磁波吸収フィルム/透明誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図26に示す。図26から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約12〜24 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜38 dBであった。この結果から、交差角が60°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波より多く吸収されることが分かる。
【0077】
実施例6
交差角45°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
実施例3で作製した線状痕の交差角θsが45°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角45°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図27に示す。図27から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜30 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜45 dBであった。この結果から、交差角が60°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波及びTM波とも吸収率は同程度であることが分かる。
【0078】
実施例7
交差角36°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せ
交差角を36°とした以外実施例1と同様にして電磁波吸収フィルムを作製した。この電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚を、誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介してアルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板と積層し、得られた電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。交差角36°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図28に示す。図28から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約13〜28 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約10〜36 dBであった。この結果から、交差角が36°の電磁波吸収フィルムと反射板との組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TM波の方がTE波よりやや多く吸収されることが分かる。
【0079】
実施例8
90°/60°/反射板の組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、実施例1で作製した線状痕の交差角θsが60°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、アルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板とを誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角θsが90°の電磁波吸収フィルム/誘電体/交差角θsが60°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる層構成を有する電磁波吸収体を得た。この電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図29に示す。図29から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約15〜38 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約12〜31 dBであった。この結果から、90°/60°/反射板の組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波の方がTM波より多く吸収されることが分かる。
【0080】
実施例9
90°/45°/反射板の組合せ
実施例1で作製した線状痕の交差角θsが90°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、実施例3で作製した線状痕の交差角θsが45°の電磁波吸収フィルムの試験片(32 cm×52 cm)1枚と、アルミニウム板(32 cm×52 cm×2 mm)からなる反射板とを誘電体(32 cm×52 cm×3 cmのプラスチック板)を介して積層し、交差角θsが90°の電磁波吸収フィルム/誘電体/交差角θsが45°の電磁波吸収フィルム/誘電体/反射板からなる層構成を有する電磁波吸収体を得た。この電磁波吸収体を図18に示す装置のホルダ62に固定し、参考例4と同様に電磁波吸収能を評価した。この電磁波吸収体のピーク吸収率及びピーク周波数を図30に示す。図30から明らかなように、TE波のピーク吸収率は約15〜35 dBであり、またTM波のピーク吸収率は約13〜33 dBであった。この結果から、90°/45°/反射板の組合せでは、10°〜60°の入射角度範囲で、(a) TE波及びTM波とも高いピーク吸収率を示すとともに、(b) TE波の方がTM波より多く吸収されることが分かる。
【符号の説明】
【0081】
1,1a,1b,1c・・・(透明)電磁波吸収フィルム
1a,1b,1c・・・(透明)電磁波吸収フィルム
1d・・・(透明)導電フィルム
10・・・プラスチックフィルム
11・・・金属薄膜
12,12a,12b,12c・・・線状痕
13・・・(透明)オーバーコート
14a,14b・・・(透明)保護層
1'・・・複合フィルム
2a,2b,2c,2d・・・パターンロール
3a,3b,3c,3d,3e・・・押えロール
30・・・(透明)誘電体
40・・・反射板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されており、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜が100〜1000Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜がアルミニウム又はニッケル薄膜であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、各透明電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体を介して隣接する透明電磁波吸収フィルムの線状痕の配向及び/又は交差角が異なることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体の厚さが吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項8】
1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明導電フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を形成したもので、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなり、前記透明電磁波吸収フィルムは前記透明導電フィルムのプラスチック面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成してなることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項9】
請求項8に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜が100〜1000Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項10】
請求項9に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜がアルミニウム又はニッケル薄膜であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、2つ以上の透明電磁波吸収フィルムを有する場合は最も近接した透明電磁波吸収フィルム同士の線状痕の配向及び/又は交差角が異なることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体の厚さが吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項15】
1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して導電性反射板と積層してなる電磁波吸収体であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項16】
請求項15に記載の電磁波吸収体において、前記金属薄膜が100〜1000Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項17】
請求項16に記載の電磁波吸収体において、前記金属薄膜がアルミニウム又はニッケルの薄膜であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の電磁波吸収体において、各電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記誘電体を介して隣接する電磁波吸収フィルムの線状痕の配向及び/又は交差角が異なることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項21】
請求項15〜20のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記透明誘電体の厚さが吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項1】
複数枚の透明電磁波吸収フィルムを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されており、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜が100〜1000Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜がアルミニウム又はニッケル薄膜であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、各透明電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体を介して隣接する透明電磁波吸収フィルムの線状痕の配向及び/又は交差角が異なることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体の厚さが吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項8】
1枚以上の透明電磁波吸収フィルムと1枚以上の透明導電フィルムとを透明誘電体を介して積層してなる透明電磁波吸収体であって、前記透明導電フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に透明導電体層を形成したもので、前記透明導電体層は厚さ10〜20 nmの金属薄膜からなり、前記透明電磁波吸収フィルムは前記透明導電フィルムのプラスチック面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成してなることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項9】
請求項8に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜が100〜1000Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項10】
請求項9に記載の透明電磁波吸収体において、前記金属薄膜がアルミニウム又はニッケル薄膜であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、2つ以上の透明電磁波吸収フィルムを有する場合は最も近接した透明電磁波吸収フィルム同士の線状痕の配向及び/又は交差角が異なることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の透明電磁波吸収体において、前記透明誘電体の厚さが吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であることを特徴とする透明電磁波吸収体。
【請求項15】
1枚又は複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して導電性反射板と積層してなる電磁波吸収体であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜からなる導電体層を有するとともに、他方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕群が複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項16】
請求項15に記載の電磁波吸収体において、前記金属薄膜が100〜1000Ω/□の表面抵抗を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項17】
請求項16に記載の電磁波吸収体において、前記金属薄膜がアルミニウム又はニッケルの薄膜であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の電磁波吸収体において、各電磁波吸収フィルムの線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1〜200μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記誘電体を介して隣接する電磁波吸収フィルムの線状痕の配向及び/又は交差角が異なることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項21】
請求項15〜20のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記透明誘電体の厚さが吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12〜1/2であることを特徴とする電磁波吸収体。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図5(d)】
【図5(e)】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14(a)】
【図14(b)】
【図14(c)】
【図14(d)】
【図14(e)】
【図14(f)】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図15(c)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図16(c)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図5(d)】
【図5(e)】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14(a)】
【図14(b)】
【図14(c)】
【図14(d)】
【図14(e)】
【図14(f)】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図15(c)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図16(c)】
【図17(a)】
【図17(b)】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2012−99665(P2012−99665A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246636(P2010−246636)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】
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