説明

電磁波吸収性粒子及びその製造方法並びにそれを使用した電磁波吸収体

【課題】 耐食性が劣るため、これまで使用されなかったカーボニル鉄粉、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの表面に、金属アルミニウムを被覆することによって、耐食性を向上させた安価な電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】 平均粒径1〜10μmの金属鉄粉の表面に、スパッタリング法によって、1〜10質量%の金属アルミニウムを被覆する。この粒子を30〜70体積%の割合で高分子材料とともに混合し、この混合組成物を所定の型に注入した後に固化して所望の形状の電磁波吸収体を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属アルミニウムを被覆することによって耐食性を向上させた金属鉄粉を使用してメガヘルツ帯(1MHz〜1GHz)の範囲で透過減衰率が大きく、反射減衰率が小さい電磁波吸収体を作製するための電磁波吸収性粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電子機器の開発に伴って、機器内部の電子回路に干渉して電子機器が誤動作するのを防ぐため、外部への電磁波の放出を防ぎながら外部からの電磁波を吸収する目的で、透過減衰率が大きくて反射減衰率の小さい特有の性能を有する電磁波吸収材が種々開発されている。例えば、鉄、ニッケル、コバルト、パーマロイ、センダスト、Fe−Cr−Al合金またはFe−Si−Cr合金などの軟磁性金属の粉末を、ゴムまたは合成樹脂マトリックス中に分散させ、シート状に成形したものである(特許文献1)。
【0003】
近年は、テレビ電話や携帯電話などで使用されているメガヘルツ帯(1MHz〜1GHz)の電波によるEMCが大きな問題になっている。この周波数領域の電磁波吸収材としては、金属鉄粉が安価で性能も優れると云われているが、耐食性が劣るため実際には殆ど使用されていない。代替として耐食性に優れ、電磁波吸収特性も良好なパーマロイの各種形状の粉末、例えばアトマイズ微粉末(特許文献2)、偏平状微粉末(特許文献3及び特許文献4)、粒径が1〜100nm径のナノサイズ粉末(特許文献5)またはアモルファス合金フレーク(特許文献6)などの高価な粉末が使用されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−138492号公報
【特許文献2】特開平10−102105号公報
【特許文献3】特開平4−9408号公報
【特許文献4】特開平9−330809号公報
【特許文献5】特開2001−200305号公報
【特許文献6】特開平7−30279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐食性が劣るため、電磁波吸収材として、これまで殆ど使用されなかったカーボニル鉄粉、還元鉄粉およびアトマイズ鉄粉などの表面に、金属アルミニウムを被覆することによって、耐食性を向上させた安価な電磁波吸収材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記本発明の課題を解決するため、平均粒径1〜10μmの金属鉄粉の表面にスパッタリング法によって、1〜10質量%の金属アルミニウムを被覆する。この金属アルミニウムを被覆した金属鉄粉30〜70体積%を高分子材料とともに混合し、この混合組成物を所定の型に注入した後に固化する方法によって、所望とする形状の電磁波吸収体を作製する。
【発明の効果】
【0007】
現在使用されている高価なパーマロイなどの粉末に比べて、金属鉄粉の表面に金属アルミニウムを被覆することによって、耐食性を向上させた安価な電磁波吸収性粒子を使用し、透過減衰率が大きくて反射減衰率の小さいメガヘルツ帯(1MHz〜1GHz)の電波障害(EMC)を防止できる電磁波吸収体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
平均粒径1〜10μmの金属鉄粉の表面に、1〜10質量%の金属アルミニウムを被覆することによって、金属鉄粉が有する優れた電磁波吸収特性を保持しつつ耐食性を向上させる。金属鉄粉の種類としては、市販のカーボニル鉄粉、アトマイズ鉄粉、安価な還元鉄粉などが使用できる。中でも微細で球状のカーボニル鉄粉が最適である。平均粒径は1〜10μmのものが好ましい。平均粒径1μm以下のものは入手困難であり、使用目的によっては10μm以上のものも使用できるが、一般に流通している平均粒径1〜10μmのもので十分な効果があり、経済的でもある。
【0009】
金属鉄粉の耐食性を向上させる被覆金属として、金属亜鉛、金属マグネシウム、亜鉛−アルミニウム合金、金属アルミニウムなどがある。金属亜鉛や金属マグネシウムなどは、多量の亜鉛やマグネシウムなどの溶出が進行するので、これらの金属を多量に被覆しても長期間の耐食性が期待できない。金属アルミニウムは、被膜自体にピンホールや不めっきなどの欠陥があっても電気化学的な犠牲防食作用によって、鉄の溶出を抑制し、長期間の耐食性が保持できるので最適である。
【0010】
金属アルミニウムの被覆量としては、1〜10質量%が好ましい。金属アルミニウムの被覆量が1質量%以下の場合、金属鉄粉の表面を金属アルミニウムで均一に被覆することが困難である。逆に、金属アルミニウムの被覆量が10質量%を越えても当初から存在するピンホールや不めっきなどの欠陥を抑えられず、コスト高となる。
【0011】
スパッタリング法によって、微細な金属鉄粉の表面に、合金層を形成させないで、金属アルミニウムを均一に被覆する。合金層を形成すると、金属アルミニウムの電気化学的な犠牲防食作用が希薄される。ところで、微細な金属鉄粉の表面に、金属アルミニウムをほぼ均一に被覆することは技術的に極めて難しい。例えば、溶融した金属アルミニウムに金属鉄粉を投入すると、激しく反応してアルミニウムと鉄の合金が生成するとともに団塊状に固まる。また、金属アルミニウムは水溶液から析出しないので、電気めっき法や無電解めっき法などの湿式法によっての被覆はできない。発明者は、以前発明した粉末スパッタリング装置を用いて、合金層を形成させずに金属鉄粉の表面に、金属アルミニウムを均一に被覆することを提案した(特許文献7)。
【0012】
【特許文献7】特開平2−153068号公報
【0013】
金属アルミニウムを被覆した金属鉄粉30〜70体積%を、高分子材料とともに混合する工程と、この混合組成物を所定の型に注入した後に固化して所望の形状の電磁波吸収体を形成する工程とによって所望する形状の電磁波吸収体を作製する。本発明の電磁波吸収性粒子の高分子材料中への混合量は、高分子材料100質量部あたり30〜70体積%が好ましい。30体積%以下では電磁波吸収特性が発現されず、70体積%以上でも特性に問題ないがコスト高となる。
【0014】
本発明の電磁波吸収性粒子を高分子材料とともに混合する、高分子材料として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などの1種または2種以上の合成樹脂や合成ゴムなどが使用できる。その他、着色顔料、紫外線吸収剤、静電気除去剤、酸化防止剤、艶出し剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤などを必要に応じて混合できる。混合の手段としては、塗料中に分散させる他、樹脂フィルムや押し出し成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形などで製造される樹脂成形体に分散することができる。
【0015】
電磁波吸収性粒子を高分子材料中に高充填密度で混合し易くするために分散性を向上させたり、得られた高充填密度樹脂成形品の機械強度や伸び特性を低下させないために、電磁波吸収性粒子と樹脂との密着性を強化するなどの目的で、脂肪酸などの有機物を被覆したり、各種のカップリング剤で表面処理して用いることができる。カップリング剤として、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
【0016】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
実施例1;
粉末スパッタリング法を用いて、平均粒径が10μmの還元鉄粉の表面に1質量%の金属アルミニウムを被覆した。この金属アルミニウム被覆還元鉄粉390gを、エポキシ樹脂系(商品名:エピコート82 油化シェルエポキシ製)109gと熱硬化剤のトリエチレンテトラアミン(和光純薬製)16gとの混合物の中に添加し、攪拌機で10分間かけて混合した。このペーストを、外径7mm、内径3mmの円筒状の金型に流し込み、100℃で1時間加熱して硬化させた。熱硬化エポキシ樹脂中に金属アルミニウム被覆還元鉄粉が30体積%含まれる厚さ1mmの複合組成物を得た。
【0018】
この円筒状の複合組成物成形品を同軸管中に設置し、Sパラメーター法によって反射減衰率および透過減衰率を測定した。測定器は、HP−8753CネットワークアナライザーおよびHP−85047ASパラメーターテストセット(ヒューレット・パッカード製)を使用した。測定周波数は10MHz、100MHzおよび1GHzとした。測定の結果、反射減衰率は、10MHzで−9dB(デシベル)/cm、100MHzで−6dB(デシベル)/cm、1GHzで−7dB(デシベル)/cmであった。
透過減衰率は、10MHzで−24dB(デシベル)/cm、100MHzで−20dB(デシベル)/cm、1GHzで−18dB(デシベル)/cmであった。
【0019】
次に、この円筒状の複合組成物成形品の耐食性を調査した。調査方法は、80℃の温水中に100時間加熱保持した後の赤さび(水酸化第二鉄)の発生程度を目視観察した。その結果、赤さびの発生は全く認められなかった。
【0020】
実施例2;
粉末スパッタリング法を用いて、平均粒径7μmのカーボニル鉄粉の表面に、5質量%の金属アルミニウムを被覆した。この金属アルミニウム被覆カーボニル鉄粉445gを、シリコーン樹脂系ゴム(商品名:一液型RTVゴム KE45 信越シリコーン製)55gの中に添加し、攪拌機で10分間かけて混合した。このペーストを、外径7mm、内径3mmの円筒状の金型に流し込み、常温で12時間静置してゴム中に金属アルミニウム被覆カーボニル鉄粉が50体積%含まれる厚さ1mmの複合組成物を得た。この複合組成物は、高分子材料としてゴムを使用しているので、フレキシビリティーに富んでいた。
【0021】
この円筒状の複合組成物成形品の反射減衰率および透過減衰率を実施例1と同様な方法で測定した。測定の結果、反射減衰率は、10MHzで−5dB(デシベル)/cmm、100MHzで−6dB(デシベル)/cm、1GHzで−7dB(デシベル)/cmであり、透過減衰率は、10MHzで−27dB(デシベル)/cm、100MHzで−32dB(デシベル)/cm、1GHzで−39dB(デシベル)/cmであった。
【0022】
次に、この円筒状の複合組成物成形品の耐食性を実施例1と同様な方法で調査した。その結果、赤さびの発生は全く認められなかった。
【0023】
実施例3;
粉末スパッタリング法を用いて、平均粒径が1μmのアトマイズ鉄粉の表面に、10質量%の金属アルミニウムを被覆した。この金属アルミニウム被覆アトマイズ鉄粉970gを、ポリプロピレン樹脂(商品名:J740 三井石油化学工業製)30gの中に添加し、三本ロールで均一に混練した。得られたコンパウンドを200℃で射出成形(商品名:US50−280 田辺プラスチック機械製)して、外径7mm、内径3mmの円筒状の成形品を作製し、ポリプロピレン樹脂中に金属アルミニウム被覆アトマイズ鉄粉が70体積%含まれる厚さ1mmの複合組成物を得た。
【0024】
この円筒状の複合組成物成形品の反射減衰率および透過減衰率を実施例1と同様な方法で測定した。測定の結果、反射減衰率は、10MHzで−5dB(デシベル)/cm、100MHzで−6dB(デシベル)/cm、1GHzで−6dB(デシベル)/cmであり、透過減衰率は、10MHzで−31dB(デシベル)/cm、100MHzで−32dB(デシベル)/cm、1GHzで−40dB(デシベル)/cmであった。
【0025】
次に、この円筒状の複合組成物成形品の耐食性を実施例1と同様な方法で調査した。その結果、赤さびの発生は全く認められなかった。
【0026】
比較例1;
金属アルミニウムを被覆していない平均粒径7μmのカーボニル鉄粉445gを、シリコーン樹脂系ゴム55gの中に添加し、攪拌機で10分間かけて混合した。このペーストを、外径7mm、内径3mmの円筒状の金型に流し込み、常温で12時間静置してゴム中にカーボニル鉄粉が50体積%含まれる厚さ1mmの複合組成物を得た。
【0027】
この円筒状の複合組成物成形品の反射減衰率および透過減衰率を実施例1と同様な方法で測定した。測定の結果、反射減衰率は、10MHzで−6dB(デシベル)/cm、100MHzで−7dB(デシベル)/cm、1GHzで−7dB(デシベル)/cmであり、透過減衰率は、10MHzで−25dB(デシベル)/cm、100MHzで−31dB(デシベル)/cm、1GHzで−37dB(デシベル)/cmであった。実施例2のカーボニル鉄粉に、5質量%の金属アルミニウムを50体積%被覆して混合した成形品とほぼ同様な反射減衰率および透過減衰率を示した。
【0028】
次に、この円筒状の複合組成物成形品の耐食性を実施例1と同様な方法で調査した。その結果、赤さびの発生が極めて著しかった。
【0029】
比較例2;
粉末スパッタリング法を用いて、平均粒径が7μmのカーボニル鉄粉の表面に、0.5質量%の金属アルミニウムを被覆した。この金属アルミニウム被覆カーボニル鉄粉445gを、シリコーン樹脂系ゴム55gの中に添加し、攪拌機で10分間かけて混合した。このペーストを、外径7mm、内径3mmの円筒状の金型に流し込み、常温で12時間静置して、ゴム中にカーボニル鉄粉が50体積%含まれる厚さ1mmの複合組成物を得た。
【0030】
この円筒状の複合組成物成形品の反射減衰率および透過減衰率を実施例1と同様な方法で測定した。測定の結果、反射減衰率は、10MHzで−9dB(デシベル)/cm、100MHzで−6dB(デシベル)/cm、1GHzで−8dB(デシベル)/cmであり、透過減衰率は、10MHzで−24dB(デシベル)/cm、100MHzで−30dB(デシベル)/cm、1GHzで−37dB(デシベル)/cmであった。実施例2のカーボニル鉄粉に、5質量%の金属アルミニウムを50体積%被覆して混合した成形品とほぼ同様な反射減衰率および透過減衰率を示した。
【0031】
次に、この円筒状の複合組成物成形品の耐食性を実施例1と同様な方法で調査した。その結果、赤さびの発生が顕著に認められた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明では現在使用されている高価なパーマロイ粉末などに比べて、金属鉄粉の表面に金属アルミニウムを被覆することによって、耐食性を向上させた安価な電磁波吸収性粒子が得られ、これを使用して透過減衰率が大きくて反射減衰率が小さい電磁波吸収体を作製できる。本発明の電磁波吸収体によれば、テレビ電話や携帯電話などで使用されるメガヘルツ帯(1MHz〜1GHz)の電磁波による障害(EMC)を防止することが可能である。

































【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1〜10μmの金属鉄粉の表面が、1〜10質量%の金属アルミニウムによって被覆されていることを特徴とする電磁波吸収性粒子。
【請求項2】
請求項1記載の金属アルミニウムの被覆がスパッタリング法によるものであることを特徴とする電磁波吸収性粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の電磁波吸収性粒子の30〜70体積%を高分子材料とともに混合して電磁波吸収性粒子の混合組成物を調整する工程と、前記混合組成物を所定の型に注入した後に固化して所望する形状の電磁波吸収体を形成する工程によって作製されることを特徴とする電磁波吸収体。

























【公開番号】特開2007−217720(P2007−217720A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36447(P2006−36447)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】