説明

電磁波発生装置及びレーダ

【課題】アンテナを含む伝送系及び高周波回路を広帯域化することなく、全体の回路規模を増大させることもなく、安定した電磁波を発生する電磁波発生装置及びそれを備えたレーダを構成する。
【解決手段】駆動電圧印加回路40は、トランス41の2次コイルN2に誘起される所定の高電圧をマグネトロン50の陽極51と陰極52との間に駆動電圧として印加する。陽極電流制御回路30は、入力端子INに入力されるパルス信号の立ち上がりによってトランジスタQ31がオンし、FET Q40がオンし、トランス41の1次コイルN1に電流が流れ、トランス41の2次コイルN2の誘起電圧がマグネトロン50の陰極52に印加される。トランジスタQ31のオン時の通電電流とマグネトロン50の陽極電流とはほぼ比例関係にあり、感温抵抗素子RTの抵抗値に応じて陽極電流が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネトロンを利用した電磁波発生装置及び電磁波発生装置を備えたレーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンを利用したマイクロ波等の電磁波を発生する電磁波発生装置は、各種レーダ、マイクロ波加熱装置及びマイクロ波電力伝送装置等に用いられている。
【0003】
例えばパルス変調レーダ(Pulse Modulated Radar)は、マイクロ波を発振し出力するマグネトロン、マグネトロンを駆動するマグネトロン駆動回路、マイクロ波を送受波するアンテナ、受信回路等によって構成されている。
【0004】
また、マイクロ波電力伝送装置においては、複数のマイクロ波発生装置から送信されるマイクロ波を受信して電力として取り出せるように、複数のマイクロ波発生装置は、それぞれの発生するマイクロ波の位相が揃っていることが要求される。
【0005】
マグネトロンを利用したマイクロ波発生装置において、マグネトロンの発振出力の位相を制御するものとして特許文献1が開示されている。ここで、特許文献1のマイクロ波発生装置の構成を、図1を参照して説明する。
【0006】
図1において、マグネトロン11の陽極・陰極間には、高圧直流安定化電源12により高電圧が印加されて陽極電流が流れ、これによってマグネトロン11は固有発振周波数で発振する。基準信号発生器13は、マグネトロン11の固有発振周波数に近い周波数を持つ基準信号を発生し、可変移相器14を介して分配器15に供給される。分配器15は入力された基準信号をサーキュレータ16と混合器17へ分配する。
【0007】
サーキュレータ16は、入力された基準信号をマグネトロン11に注入し、マグネトロン11から放射されるマイクロ波を方向性結合器18へ出力する。方向性結合器18を介するマイクロ波はホーンアンテナ等の給電系へ送られる。
【0008】
混合器17は分配器15からの基準信号と減衰器19からのマイクロ波とを混合し、低域通過フィルタ(LPF)20は不要な高調波成分を除去して、前記基準信号と前記マイクロ波との周波数差信号を出力する。アナログ/デジタル変換器(A/D)21は前記周波数差相当の値を求める。
【0009】
アノード電流制御演算器22は、前記周波数差相当の値(周波数誤差)を減少させるためのアノード電流制御信号を演算し、制御値をデジタル/アナログ変換器(D/A)23でアナログ制御信号に変換し、高圧直流安定化電源12へ供給する。
【0010】
高圧直流安定化電源12は、この制御信号に応じてマグネトロン11のアノード電流を増減し、その発振周波数を制御する。
このように、フィードバック制御によりマグネトロンの陽極電流が制御されることによって、その発振周波数が安定化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3697504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に示されるマイクロ波発生装置は、例えばフェーズドアレイアンテナでマイクロ波が送信されるような場合に、複数のマイクロ波発生装置から送信されるマイクロ波の位相を正確に揃えるために構成されるものである。
【0013】
一方、マイクロ波を利用した各種レーダやマイクロ波加熱装置において、マグネトロンの発振周波数の変動幅が大きいと、アンテナを含む伝送系及び高周波回路が広帯域特性を備える必要があり、高利得・高SN比を得るためには全体に大型化することになる。そのため、マイクロ波を利用した各種レーダやマイクロ波加熱装置においてもマイクロ波の周波数は安定していることが望ましい。
【0014】
しかし、図1に示されるようなPLLによってマグネトロンの発振周波数及び位相を制御する回路構成では、マグネトロンを注入同期させるために必要になるサーキュレータや出力されるマイクロ波の周波数を検出するための方向性結合器が必要になり、回路規模が大きくなってしまう。また、前記方向性結合器やサーキュレータで損失が生じるという問題もある。
【0015】
そこで、この発明の目的は、アンテナを含む伝送系及び高周波回路を広帯域化することなく、全体の回路規模を増大させることもなく、安定した電磁波を発生する電磁波発生装置及びそれを備えたレーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、前述のマグネトロンの発振周波数の不安定性の主因がマグネトロンの温度変化にあること、さらには、陽極電流一定の下で、マグネトロンの自己発振周波数はマグネトロンの温度に応じて変化することを見いだした。
【0017】
そこで、この発明の電磁波発生装置は、陽極と陰極とを備え、該陽極を流れる陽極電流によって所定の発振周波数の電磁波を発生させるマグネトロンと、前記陽極と前記陰極との間に駆動電圧を印加する駆動電圧印加回路と、を備えた電磁波発生装置であって、
前記駆動電圧印加回路は、前記マグネトロンの温度又は前記マグネトロンの環境の温度を検出する温度検出素子と、前記温度に応じて前記陽極電流の値を制御する陽極電流制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
前記陽極電流制御部は、例えば所定温度において前記所定の発振周波数の電磁波を発生させる前記陽極電流の値に対して、前記温度が前記所定温度よりも高い場合には、前記陽極電流の値を低下させ、前記温度が前記所定温度よりも低い場合には、前記陽極電流の値を上昇させる。
【0019】
この構成により、マグネトロンの温度変化による発振周波数の変化が陽極電流の制御によって抑制される。そのため、周波数の安定した電磁波が発生される。
【0020】
前記温度検出素子は、温度に応じて抵抗値が変化する感温抵抗素子であり、通電電流によって前記陽極電流を変化させる。
【0021】
例えば、前記温度検出素子は、温度の上昇に伴って前記抵抗値が上昇する。
【0022】
これにより、通電電流によってマグネトロンの陽極電流が変化する位置に感温抵抗素子を設けるだけで、温度に応じた陽極電流の制御ができることになり、全体に極めて簡素な回路で構成できる。
【0023】
例えば前記駆動電圧印加回路は、2次コイルが前記マグネトロンに接続されたトランスと、前記トランスの1次コイルにパルス電圧を印加するトランス駆動素子とを備え、前記温度検出素子が前記トランス駆動素子の主電流路に配置されている。
【0024】
また、例えば、前記駆動電圧印加回路は、2次コイルが前記マグネトロンに接続されたトランスと、前記トランスの1次コイルにパルス電圧を印加するトランス駆動素子とを備え、前記陽極電流制御部は、前記トランス駆動素子の制御端子にパルス電圧を与える前段駆動回路を備え、前記前段駆動回路の主電流路に前記温度検出素子を備える。
【0025】
また、例えば、前記陽極電流制御部は、前記マグネトロンの温度と当該温度に適した前記陽極電流との関係を設定する温度・陽極電流関係設定手段と、前記温度検出素子により検出された温度に適した陽極電流を前記温度・陽極電流関係設定手段により求め、前記駆動電圧印加回路を制御するものとする。
【0026】
この発明のレーダは、前記電磁波発生装置と、前記電磁波を発射するとともに物標で反射されたエコー信号を受信するアンテナと、前記エコー信号に基づいて前記物標を探知する物標探知回路と、備える。
この構成により、全体の回路規模を増大させることなく、周波数の安定した電磁波で物標の探知を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、アンテナを含む伝送系及び高周波回路を広帯域化することなく、全体の回路規模を増大させることもなく、安定した電磁波を発生する電磁波発生装置及びそれを備えたレーダが構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】特許文献1のマイクロ波発生装置の構成を示す図である。
【図2】マグネトロンの温度と発振周波数との関係を示す図である。
【図3】マグネトロンの陽極電流と発振周波数との関係を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係るマイクロ波発生装置101の回路図である。
【図5】マイクロ波発生装置101における感温抵抗素子の取り付け位置などを示す図である。
【図6】第2の実施形態に係るマイクロ波発生装置102の回路図である。
【図7】第3の実施形態に係るマイクロ波発生装置103の回路図である。
【図8】第4の実施形態に係るレーダのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係るマイクロ波発生装置について、図2〜図4を参照して説明する。
図2はマグネトロンの温度と発振周波数との関係を示す図である。横軸はマグネトロンの温度、縦軸は発振周波数である。直線Aと直線Bは、出力電力の異なる二種類のマグネトロンについて、温度変化に対する発振周波数の変化を1次の直線で表している。
【0030】
ここでマグネトロンの陽極電流は一定にして測定した。このように、マグネトロンの発振周波数と温度との間には1次関数の関係が見られる。すなわち、温度上昇に伴って発振周波数が直線的に低下する関係にある。発振周波数はマグネトロンの特性によってそれぞれ異なるが、温度変化に対する発振周波数の変化係数は負である点で共通している。
【0031】
マグネトロンの共振空胴(キャビティ)は、温度に応じて熱膨張・収縮し、マグネトロンの共振空胴の熱膨張・収縮に応じて発振周波数が変動することが、図2に示す関係になることの原因であると推察される。
【0032】
図3は、マグネトロンの陽極電流と発振周波数との関係を示す図である。横軸はマグネトロンの陽極電流、縦軸は発振周波数である。図3中の直線は、陽極電流に対する発振周波数の関係を1次の直線で表している。
【0033】
このように、マグネトロンの発振周波数と陽極電流との間には1次関数の関係が見られる。すなわち、陽極電流の増大に伴って発振周波数が直線的に低下する関係にある。陽極電流の基準値(例えば5[A])はマグネトロンの特性(定格)によって異なるが、陽極電流変化に対する発振周波数の変化係数は負である。
【0034】
このように、マグネトロンの発振周波数の温度特性は、温度変化に対する発振周波数の変化係数は負であり、陽極電流変化に対する発振周波数の変化係数は負である。そのため、この発明は、マグネトロンの温度変化による発振周波数の変化が、陽極電流の制御によって抑制されるようにする。すなわち温度に応じて陽極電流を制御する。
【0035】
図4は、第1の実施形態に係るマイクロ波発生装置101の回路図である。
このマイクロ波発生装置101は、マグネトロン50、駆動電圧印加回路40、及び陽極電流制御回路30を備えている。マグネトロン50はその陽極51と陰極52との間に駆動電圧(陽極電圧)が印加されることによって、自己発振により所定周波数のマイクロ波を発生する。発生したマイクロ波の出力部の構成については図示していない。
【0036】
駆動電圧印加回路40は、1次コイルN1及び2次コイルN2を有する高電圧発生用のトランス41、このトランス41の1次コイルN1に対してパルス電圧を印加するトランス駆動素子であるFET Q40、及びFET Q40に接続された抵抗素子R40を備えている。トランス41の1次コイルN1の一端は正の電源Vddに接続されている。トランス41の2次コイルN2は二つのコイルで構成され、この二つの2次コイルN2を介してヒータ電圧が、マグネトロン50の陰極52であるヒータに通電されるようにヒータ電源Vhhが接続されている。
【0037】
駆動電圧印加回路40は、トランス41の2次コイルN2に誘起される所定の高電圧をマグネトロン50の陽極51と陰極52との間に駆動電圧として印加する。
【0038】
陽極電流制御回路30は、温度検出素子である感温抵抗素子RT及び前段駆動回路31を備えている。前段駆動回路31は、前段駆動素子であるトランジスタQ31,Q32、コンデンサC31、抵抗素子R31,R32を備えている。
【0039】
感温抵抗素子RTは、マグネトロン50の温度又はマグネトロン50の周辺環境温度に応じて抵抗値が変化する正特性サーミスタである。この感温抵抗素子RTは前段駆動回路31の主電流路に設けられている。
【0040】
抵抗素子R31,R32及びコンデンサC31は、マグネトロン50が正常発振するように、FET Q40に対するパルス電圧の立ち上がりを緩やかにする。
【0041】
図4に示したマイクロ波発生装置101の動作は次のとおりである。
陽極電流制御回路30の入力端子INには所定パルス幅の矩形波状の正のパルス信号が印加される。このパルス信号の立ち上がりによって入力端子INの電圧がハイレベルになれば、トランジスタQ31がオンしてFET Q40のゲート電圧が立ち上がり、トランス41の1次コイルN1に電流が流れる。トランス41の2次コイルN2には、1次コイルN1に流れる電流変化を打ち消す方向に電圧が発生し、マグネトロン50の陰極52に負電圧が印加される。マグネトロンの陽極は0電位であるので(接地されているので)、マグネトロン50の陰極−陽極間の電圧印加によって陽極電流が流れる。
【0042】
前記パルス信号の立ち下がりによって入力端子INの電圧がローレベルになれば、トランジスタQ31がオフ、トランジスタQ32がオンして、FET Q40のゲート電圧が立ち下がり、トランス41の1次コイルN1の電流が遮断される。これにより、トランス41の2次コイルN2の出力電圧が立ち下がり、マグネトロン50の陰極52への印加電圧が0電位まで上昇する。これによりマグネトロン50の発振は停止する。
【0043】
FET20は能動領域で作動するようにゲートバイアス及びゲート電圧が定められている。また、トランス41の1次コイルN1と2次コイルN2に流れる電流も比例関係にあるため、マグネトロン50の陽極電流とFET Q40に流れるドレイン電流とはほぼ比例関係にある。
【0044】
前段駆動回路31のトランジスタQ31,Q32はプッシュプル回路を構成していて、トランジスタQ31,Q32も能動領域で作動するように入力端子INへの印加電圧が定められている。
【0045】
前段駆動回路31の主電流路に設けられている感温抵抗素子RTの抵抗値は、マグネトロン50の温度又はマグネトロン50の周辺環境温度に応じた値であるので、トランジスタQ31のコレクタ電流は前記温度に応じて変化し、それに伴い、駆動電圧印加回路40のドレイン電流が変化し、マグネトロンの陽極電流が変化する。
【0046】
すなわち、前記感温抵抗素子RTは、その通電電流によってマグネトロン50の陽極電流が変化する位置に備えられている。この感温抵抗素子RTは正特性サーミスタであるので、マグネトロン50の温度が上昇する程、陽極電流は減少する関係にある。そして、マグネトロンの温度変化による発振周波数の変化が抑制されるように、前記感温抵抗素子RTの温度抵抗係数が定められている。
【0047】
図5は、前記マイクロ波発生装置101における感温抵抗素子RTの取り付け位置などを示す図である。マグネトロン50の近傍には、前記駆動電圧印加回路40を備えたシャーシ60が配置されている。
【0048】
マグネトロンの発振周波数はマグネトロン50の共振空胴の熱膨張・収縮に起因して変動するものと推察されるので、マグネトロン50の陽極の温度を直接測定するのがよいが、マグネトロンの構造上、その内部に感温抵抗素子を配置するのは困難である。そのため、感温抵抗素子RTの取り付け位置として良好な位置の一つは、マグネトロン50の外面である。
【0049】
マグネトロン50とシャーシ60とは別部品であるので、マグネトロン50とシャーシ60とは、そのどちらかが必要に応じて交換自在に設けられている。この交換の際、感温抵抗素子RTはマグネトロン50と共に一体的に取り扱えるように、シャーシ60内の回路基板と感温抵抗素子RTとは分離可能なように、その間をコネクタで着脱自在に設けておくのが望ましい。
【0050】
マグネトロン50の温度は使用中に急激に変動することはなく、徐々に変化するので、このマグネトロン50の近傍に配置されているシャーシ60の温度はマグネトロン50の温度に近似したものとなる。したがって、シャーシ60に感温抵抗素子RTを取り付けてもよい。但し、シャーシ60に電力制御用トランジスタや定電圧化素子などの発熱部品61,62が取り付けられている場合には、それらの発熱部品61,62の熱の影響を受けないように、図5において領域A1,A2で示すような、発熱部品61,62から離れた位置に感温抵抗素子RTを配置すればよい。
【0051】
以上に示した構成により、アンテナを含む伝送系及び高周波回路を広帯域化することなく、全体の回路規模を増大させることもなく、周波数安定性の高いマイクロ波を発生させることができる。
【0052】
《第2の実施形態》
第2の実施形態に係るマイクロ波発生装置について、図6を参照して説明する。
マグネトロンの温度と発振周波数との関係、及びマグネトロンの陽極電流と発振周波数との関係は第1の実施形態で示したものと同様である。
【0053】
図6は、第2の実施形態に係るマイクロ波発生装置102の回路図である。
このマイクロ波発生装置102は、マグネトロン50、駆動電圧印加回路40、及び陽極電流制御回路30を備えている。
【0054】
駆動電圧印加回路40は、1次コイルN1及び2次コイルN2を有する高電圧発生用のトランス41と、このトランス41の1次コイルN1に対してパルス電圧を印加する、トランス駆動素子であるFET Q40、及び温度検出素子である感温抵抗素子RTを備えている。感温抵抗素子RTは、マグネトロン50の温度又はマグネトロン50の周辺環境温度に応じて抵抗値が変化する正特性サーミスタである。この感温抵抗素子RTはFET Q40の主電流路に設けられている。
【0055】
陽極電流制御回路30は、前段駆動素子であるトランジスタQ31,Q32、コンデンサC31、抵抗素子R31,R32,R33を備えている。
その他の構成は第1の実施形態で示したものと同様である。
【0056】
図6に示したマイクロ波発生装置102のパルス電波を送信する動作については第1の実施形態で図4に示した装置と同様である。
前記感温抵抗素子RTはFET Q40の主電流路に挿入されているので、感温抵抗素子RTの抵抗値が増大するほど、FET Q40のドレイン電流が減少し、マグネトロン50の陽極電流が減少する。
【0057】
前記感温抵抗素子RTは正特性サーミスタであるので、マグネトロン50の温度が上昇する程、陽極電流は減少することになる。そして、マグネトロンの温度変化による発振周波数の変化が抑制されるように、前記感温抵抗素子RTの温度抵抗係数が定められている。
【0058】
以上に示した構成により、アンテナを含む伝送系及び高周波回路を広帯域化することなく、全体の回路規模を増大させることもなく、周波数安定性の高いマイクロ波を発生させることができる。
【0059】
《第3の実施形態》
第3の実施形態に係るマイクロ波発生装置について、図7を参照して説明する。
マグネトロンの温度と発振周波数との関係、及びマグネトロンの陽極電流と発振周波数との関係は第1の実施形態で示したものと同様である。
【0060】
図7は、第3の実施形態に係るマイクロ波発生装置103の回路図である。
このマイクロ波発生装置103は、マグネトロン50、駆動電圧印加回路40、陽極電流制御回路30、陽極電流検出回路61、及び温度センサ62を備えている。
【0061】
陽極電流検出回路61はマグネトロン50の陽極51に接続されていて、陽極電流を検出し、陽極電流に応じた(比例した)電圧を陽極電流制御回路30へ出力する。温度センサ62はマグネトロン50の温度又はマグネトロン50の周辺環境温度を検出し、その温度に応じた電圧信号を陽極電流制御回路30へ出力する。
【0062】
陽極電流制御回路30には、マグネトロン50の温度と、その温度に適した陽極電流との関係が予めテーブルとして設定されていて、マグネトロン50の温度に最適な陽極電流が流れるように駆動電圧印加回路40が制御される。このテーブルが本発明の「温度・陽極電流関係設定手段」に相当する。
【0063】
陽極電流の制御は、駆動電圧印加回路40のFET Q40のゲート電圧の制御によって行われる。すなわち、FET Q40のオン時に、マグネトロン50の陽極電流にほぼ比例した所定のドレイン電流が流れるようにゲート電圧が定められる。
【0064】
《第4の実施形態》
図8は第4の実施形態に係るレーダのブロック図である。図8においてマグネトロン駆動回路72とマグネトロン50とによって、第1〜第3の実施形態で示したマイクロ波発生装置101〜103のいずれかを構成している。
【0065】
図8において、トリガ回路71はマグネトロン駆動回路72及び指示部80に対して一定周期でトリガ信号を与える。マグネトロン駆動回路72はトリガ信号を受ける毎にマグネトロン50を駆動してマイクロ波のパルス状電波を発生する。この信号はサーキュレータ73及びアンテナ駆動部74を経由してアンテナ75から送信される。
【0066】
アンテナ75が受信した受信信号はアンテナ駆動部74及びサーキュレータ73を介してミキサ77へ入力される。ミキサ77は局部発振器76からのローカル信号と前記受信信号とを混合して中間周波信号を生成し、中間周波増幅回路78はその信号を増幅し、検波回路79は中間周波信号を検波し指示部80へ与える。
【0067】
指示部80は検波回路79からの検波信号、アンテナ駆動部74からの方位信号、及びトリガ回路71からのトリガ信号に基づいて、物標のエコーをPPI表示するための信号処理及びPPI表示を行う。前記マイクロ波発生装置以外の要素が本発明の「物標探知回路」に相当する。
【0068】
この構成により、全体の回路規模を増大させることなく、周波数の安定したマイクロ波で物標の探知を行うことができる。
【符号の説明】
【0069】
N1…1次コイル
N2…2次コイル
Q31,Q32…トランジスタ
Q40…FET
R31,R32,R33,R40…抵抗素子
RT…感温抵抗素子
30…陽極電流制御回路
31…前段駆動回路
40…駆動電圧印加回路
41…トランス
50…マグネトロン
51…陽極
52…陰極
101,102,103…マイクロ波発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極とを備え、該陽極を流れる陽極電流によって所定の発振周波数の電磁波を発生させるマグネトロンと、
前記陽極と前記陰極との間に駆動電圧を印加する駆動電圧印加回路と、
を備えた電磁波発生装置であって、
前記駆動電圧印加回路は、前記マグネトロンの温度又は前記マグネトロンの環境の温度を検出する温度検出素子と、前記温度に応じて前記陽極電流の値を制御する陽極電流制御部と、を備えていることを特徴とする電磁波発生装置。
【請求項2】
内部に前記駆動電圧印加回路を備えて前記マグネトロンの近傍に配置されたシャーシに、前記温度検出素子が取り付けられた、請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項3】
前記マグネトロンに前記温度検出素子が取り付けられた、請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項4】
前記温度検出素子は前記駆動電圧印加回路とは着脱自在に配置された、請求項3に記載の電磁波発生装置。
【請求項5】
前記陽極電流制御部は、所定温度において前記所定の発振周波数の電磁波を発生させる前記陽極電流の値に対して、前記温度が前記所定温度よりも高い場合には、前記陽極電流の値を低下させ、前記温度が前記所定温度よりも低い場合には、前記陽極電流の値を上昇させることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電磁波発生装置。
【請求項6】
前記温度検出素子は、温度に応じて抵抗値が変化する感温抵抗素子であって、通電電流によって前記陽極電流を変化させることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電磁波発生装置。
【請求項7】
前記温度検出素子は、温度の上昇に伴って前記抵抗値が上昇することを特徴とする請求項6記載の電磁波発生装置。
【請求項8】
前記駆動電圧印加回路は、2次コイルが前記マグネトロンに接続されたトランスと、前記トランスの1次コイルにパルス電圧を印加するトランス駆動素子と、を備え、
前記温度検出素子は、前記トランス駆動素子の主電流路に配置されていることを特徴とする請求項6または請求項7記載の電磁波発生装置。
【請求項9】
前記駆動電圧印加回路は、2次コイルが前記マグネトロンに接続されたトランスと、前記トランスの1次コイルにパルス電圧を印加するトランス駆動素子と、を備え、
前記陽極電流制御部は、前記トランス駆動素子の制御端子にパルス電圧を与える前段駆動回路を備え、前記前段駆動回路の主電流路に前記温度検出素子が配置されていることを特徴とする請求項6または請求項7記載のマイクロ波発生装置。
【請求項10】
前記陽極電流制御部は、前記温度と、前記所定の発振周波数で前記電磁波を発生させる前記陽極電流との関係を記憶する温度・陽極電流関係記憶手段と、前記温度検出素子により検出された温度に対応する前記陽極電流を温度・陽極電流関係記憶手段に基づいて定める電流設定部と、を備えていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電磁波発生装置。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載された電磁波発生装置と、
前記電磁波を発射するとともに物標で反射されたエコー信号を受信するアンテナと、
前記エコー信号に基づいて前記物標を探知する物標探知回路と、
を備えたことを特徴とするレーダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−95167(P2011−95167A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250927(P2009−250927)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】