説明

電磁誘導加熱用の鍋と電磁誘導加熱式の炊飯器

【課題】鍋の発熱性向上と、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めた電磁誘導加熱用の鍋を提供することを目的とする。
【解決手段】多層の金属を基材とし、基材最外層の金属は磁性金属層17で構成され、当該磁性金属の表面に粗面化処理面20を施し、さらにその外面には断熱性被膜27および保護被膜28を有するものである。これによって、磁性金属層17での発熱性を向上することができるとともに、断熱性被膜27および保護被膜28により、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導加熱用の鍋とそれを備えた電磁誘導加熱式の炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、広く世間一般に市販されているこの種の鍋は、アルミニウム、ステンレス、チタン、鉄、あるいはこれらを組み合わせた複合材を基材として製造されている。
【0003】
特に、電磁誘導加熱式の炊飯器に用いられる鍋においては、フェライト系ステンレスなどの磁性金属を鍋基材の外層に配し、その内側にアルミニウムを積層する、あるいは、場合によってさらにその内面にステンレスを積層しているものなどがある。
【0004】
電磁誘導加熱の特性として磁性の高い材料の方が電磁誘導による発熱性に有利であることから鍋の外層にはフェライト系ステンレスなどの磁性金属がよく用いられており、また、鍋の内層には熱拡散を素早く行い調理物に均一に熱を加える目的により熱伝導率の高いアルミニウムなどがよく用いられる。
【0005】
さらに、これら金属製の炊飯器用鍋は、通常は調理物であるご飯が強く付着することを防止するために、その内面にフッ素樹脂コートが処理されており、ご飯に対する非粘着性を向上させている。
【0006】
鍋の内面に処理されるフッ素樹脂コートは、1層構造をとるものから2層、あるいは、3層となっているのが通常であるが、良好な非粘着性、高い耐久性および良好な外観を得る観点から2層以上のフッ素樹脂コートとすることが好ましい。
【0007】
電磁誘導加熱式の炊飯器においては、鍋の発熱性をさらに向上することが課題として挙げられ、鍋の材料面から発熱性を向上させる手段としては、透磁率の高い材料を用いるか、固有抵抗値の高い材料を用いることが有効な手段である。
【0008】
これらの観点より、電磁誘導加熱用の鍋の発熱層には磁性金属としてSUS430を代表とするフェライト系ステンレスなどが多く用いられてきた。その他、パーマロイなどの鉄系合金を使用した事例や磁性金属層の外面に銅メッキを処理した事例などもあった。
【0009】
しかしながら、これらの材料においては、電磁誘導加熱特性を決定する因子である固有抵抗値や比透磁率は成型加工時の変動因子ではあるものの、鍋への成型加工後は材料固有の因子として安定したものであり、材料面から発熱性を向上するには限界があった。
【0010】
また、炊飯器においてはご飯の食味を改善することが大きな課題であり、炊飯器の鍋においては、熱を均一に分布させるために基材の厚肉化を図ったり、基材を多層に積層させたりする事例があった。
【0011】
しかしながら、炊飯したご飯の食味向上の面から論ずると、鍋を厚肉化したり、多層化したりして熱回りを均一にすることも重要な条件の一つではあるが、それとは別に、鍋の磁性金属層で発生し鍋内に伝わった熱を逃さずに鍋内に封じ込める構成をとることも食味向上面では重要な条件となる。
【0012】
このため、鍋外面に断熱層を設けたものが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開平10−211091号公報
【特許文献2】特開平11−56599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記従来の構成では、鍋外面にただ単に断熱層を設けただけでは食味の向上は難しいほか、断熱層の形態では断熱層に中空の部材を含有するために樹脂同士の密着が低いので、断熱層は脆く、耐摩耗性などの耐久性が低いものであった。
【0014】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、鍋の発熱性向上と、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めた電磁誘導加熱用の鍋と電磁誘導加熱式の炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記従来の課題を解決するために、本発明の電磁誘導加熱用の鍋は、多層の金属を基材とし、基材最外層の金属は磁性金属で構成され、当該磁性金属の表面に粗面化処理を施し、さらにその外面には断熱性被膜および保護被膜を有するものである。
【0016】
これによって、磁性金属層での発熱性を向上することができるとともに、断熱性被膜および保護被膜により、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めることができる。
【0017】
また、本発明の電磁誘導加熱式の炊飯器は、この電磁誘導加熱用の鍋を着脱自在に収納したものである。
【0018】
これによって、鍋の発熱性向上がはかれ、熱を逃しにくく、しかも耐久性が高まるため、ご飯の食味と取り扱い性が向上するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電磁誘導加熱用の鍋と電磁誘導加熱式の炊飯器は、鍋の発熱性向上と、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めることができ、炊飯器としてはご飯の食味と取り扱い性が向上するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
第1の発明は、多層の金属を基材とし、基材最外層の金属は磁性金属で構成され、当該磁性金属の表面に粗面化処理を施し、さらにその外面には断熱性被膜および保護被膜を有する電磁誘導加熱用の鍋とするものである。これによって、磁性金属層での発熱性を向上することができるとともに、断熱性被膜および保護被膜により、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めることができる。
【0021】
第2の発明は、特に、第1の発明において、断熱性被膜および保護被膜が耐熱性の樹脂被膜であることにより、塗装によりフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂など、耐熱性の保護被膜を鍋外面に処理することができるものである。
【0022】
第3の発明は、特に、第2の発明において、断熱性被膜および保護被膜である耐熱性の樹脂被膜は多層構造を有し、下層部には熱伝導率が低くなる充填材を添加した断熱性被膜を設けたことにより、鍋からの熱を逃しにくくすることができる。
【0023】
第4の発明は、特に、第3の発明において、保護被膜である耐熱性の樹脂被膜は1層、または、2層以上の多層構造を有し、1層の場合は当該層に、2層以上の場合は最外層と最外層の少なくとも一方に炭化物粒子、セラミックス粒子、ガラス粒子、ダイヤモンド粒子を添加したことにより、保護被膜の耐摩耗性を向上させ、押し込みキズなどにも強く、耐久性が高いものとなる。
【0024】
第5の発明は、特に、第3または第4の発明において、多層構造からなる断熱性被膜および保護被膜の内、熱伝導率が低くなる充填材を添加した断熱性被膜の膜厚は、鍋の上部になるに従い膜厚を増したことにより、特に、鍋側面ではこの構成により熱伝導率が低く抑えられ、調理中に鍋内上部に貯められた熱が封じ込められることにより、調理物に均一に熱が伝わる。
【0025】
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、磁性金属の表面の粗面化処理により表面積を拡大するとともに、表面部の透磁率と電気抵抗を高めたことにより、結果として磁性金属層の発熱性を向上することができる。
【0026】
第7の発明は、特に、第1〜第6のいずれか1つの発明における電磁誘導加熱用の鍋を着脱自在に収納した電磁誘導加熱式の炊飯器とすることにより、鍋の発熱性向上がはかれ、熱を逃しにくく、しかも耐久性が高まるため、ご飯の食味が向上するものである。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0028】
(実施の形態)
図は、本発明の実施の形態における電磁誘導加熱用の鍋と電磁誘導加熱式の炊飯器を示している。
【0029】
図1、図2は、電磁誘導加熱式の炊飯器を示しており、炊飯器本体1は、鍋9を着脱自在に収納し、鍋9の底部15および側面下部13に対向して電磁誘導加熱コイル3を設け、鍋9を電磁誘導加熱により加熱するように構成している。この電磁誘導加熱コイル3の外方に防磁用のフェライト4を設けている。なお、側面下部13は鍋下端から全高の1/3程度までの高さの部位を示し、それより上部は側面部14となっている。
【0030】
蓋2は、鍋9の上方開口部を開閉自在に覆い、この蓋2の内面に内蓋7を着脱自在に設置している。
【0031】
鍋底温度検知センサー8は、鍋9の底中心部16に対向して設け、鍋9の温度を検知するもので、その出力を加熱制御基板5に入力している。加熱制御基板5は、マイクロコンピュータや、電磁誘導加熱コイル3に高周波電流を供給するインバータ回路などを有し、基板冷却ファン10により冷却されながら動作して、操作部6からの入力に基づいて、マイクロコンピュータによるプログラム制御により炊飯および保温工程を実行するよう構成している。なお、炊飯器本体1は、蒸気キャップ11、および内蓋7を加熱する電磁誘導加熱コイル12をも備えている。
【0032】
ここで、鍋9は、図3に示すように、厚さ0.5mmのフェライト系ステンレスを磁性金属層17として、これに厚さ1.0mmのアルミニウム18を接合したクラッド材を基材としたものであり、磁性金属層17側を外面にしてプレス加工して鍋形状にしたものである。
【0033】
鍋9の内面のアルミニウム18表面には2層構成のフッ素樹脂コート19を処理している。フッ素樹脂コート19の処理は次のとおりである。
【0034】
基材を鍋形状にプレス成形し洗浄した後、鍋内面のアルミニウム18の表面にサンドブラストをかけ、表面粗さRaが3〜5μmとなるように調整し、その後、フッ素樹脂と接着成分、顔料、光輝材を塗膜構成成分とした液状のプライマ塗料を成膜後膜厚が約10μmとなるよう塗装し、100℃で20分間乾燥した。
【0035】
そして、プライマの乾燥が終了し、十分に基材温度が下がったところで鍋側面部のプライマ上にプライマの色とは異なる色のインクを用いて水位線表示部をパッド印刷により印刷し、その後、下部トップコート処理として顔料や光輝材などの添加物を含有しないフッ素樹脂の粉体塗料をプライマおよび水位線表示部の上に成膜後膜厚35μmとなるように塗装した。このとき、使用したフッ素樹脂はPTFE:PFA=2:8の混合粉体であり、この粉体塗料を塗装した後に380℃で20分間焼成処理してフッ素樹脂コート19に成膜した。
【0036】
一方、鍋基材の外層を構成する磁性金属層17の外表面にはショットブラストにより表面粗さRaが0.5〜5μmとなるように調整して粗面化処理面20を形成し、その後、図4に示すように、熱伝導率が低くなる充填材として平均粒径30μmの中空ガラスビーズからなる充填材21を含有するエポキシ/シリコーン樹脂塗料を、磁性金属層17の表面に第1層22として塗装し、熱伝導率が磁性金属層17の100分の1以下である断熱性被膜27(図3)とした。また、その上層には耐熱性の樹脂被膜である保護被膜28(同じく図3)を有する。なお、熱伝導率を低下させる充填材21を含有するエポキシ/シリコーン樹脂塗料と磁性金属層17の密着性を向上する目的において、磁性金属層17の粗面化処理面20との間に薄膜のプライマ層を設けてもよい。なお、断熱性被膜27および保護被膜28が耐熱性の樹脂被膜であることにより、塗装によりフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂など、耐熱性の保護被膜を鍋外面に処理することができるものである。
【0037】
また、基材の粗面化処理面20は、未処理時よりも表面積を1.05〜2.0倍に拡大し、表面部の電気抵抗と透磁率を高めるものである。すなわち、ブラスト処理によって粗面化処理を施すことにより磁性金属表面の面積を増大させるものであるが、これにより磁性金属表層の電気抵抗値が上昇し、また、同時にブラスト材が磁性金属層表層に叩きつけられる衝撃により磁性金属の透磁率を変化させるので、結果として磁性金属層の発熱性を向上させている。
【0038】
粗面化処理面20は、表面積の増大が1.05倍未満では発熱性に特段の効果は見られず、2.0倍より大きくした場合は磁性金属表面の粗さが大きくなり過ぎ、表面に設けられる断熱性被膜27および保護被膜28の表面が粗雑になるので、1.05〜2.0倍の範囲とすることが望ましい。
【0039】
具体的には、アルミニウムのような熱良導性の金属と電磁誘導加熱特性に優れた磁性金属であるフェライト系ステンレスを接合して得られたクラッド材のような多層金属を鍋9の基材とし、これを成形加工して得られた鍋9の外面、すなわち、磁性金属層17の表面にアルミナ粒子などによるショットブラストにより表面粗度Raが0.5〜5μmとなるように粗面化処理を実施する。
【0040】
次いで、その粗面化した磁性金属層17の表面には断熱性被膜27および保護被膜28を形成するものであるが、好ましくは、熱伝導率が磁性金属層の100分の1以下である断熱性被膜27を設けるものである。なお、この断熱性被膜27は、本実施の形態では、鍋9のフランジ部26にまで設けている。
【0041】
また、基材がアルミニウムとフェライト系ステンレスである場合、フェライト系ステンレスの熱伝導率は約26W/m・kであるため、0.26W/m・k以下の断熱性被膜27を設けるものであるが、その厚さに関しては、鍋底温度検知センサー8が当接する部位以外は概ね100μm以上とすることが良く、好ましくは、鍋上部になるにつれて厚膜化をはかることが望ましい。
【0042】
すなわち、エポキシ/シリコーン樹脂塗料は、焼成成膜後に、底部15で100〜200μm、側面部14で400〜550μm、側面下部13で200〜300μmの平均膜厚となるように塗装し、側面部14においては、底部15の膜厚に比べて1.8〜5.5倍としている。また、塗膜中に含有される中空ガラスビーズ量は50重量%であり、この塗膜の熱伝導率は0.05W/m・kである。
【0043】
この構成によれば、鍋9の底部15から側面になるにしたがい、熱伝導率を減じる充填材を含有する断熱被膜層27の膜厚が順次厚くなり、特に側面部14では熱伝導率が低く抑えられ、炊飯中に鍋内上部に貯められた熱が封じ込められることにより、米に均一に熱が伝わり食味の向上が可能となる。逆に、側面下部13や底部15になるほど熱伝導率を減じる充填材を含有する断熱被膜層27の膜厚は薄くなるが、これらの部位は炊飯器本体1内部に配置される電磁誘導加熱コイル3に対向して鍋9の磁性金属層が発熱する部位とその周辺部であり、この部位の表面にあまりに厚い断熱性被膜27が積層されることによって返って断熱被膜層27に熱が取られ、均一な加熱が阻害されるので、結果として食味に悪影響を及ぼす可能性が強いため、比較的薄膜にするものである。
【0044】
しかしながら、鍋底付近、特に、電磁誘導加熱コイル3に対抗する部位においては前述の膜厚よりもさらに薄膜とした場合においては、磁性金属層17で発生した熱が鍋外面の空気によって冷やされて熱のロスを発生するためこれ以上の薄膜とすることは望ましくない。
【0045】
中空ガラスビーズ量は塗膜中に30〜60重量%であることが重要であるが、この濃度になると相対的に塗膜中の樹脂量が少なくなり、塗膜としてまとまりがなく脆くなることがあるので、塗料中にチタン酸カリウム繊維やタルクなどを数重量%程度添加し、樹脂のまとまりを向上することも可能である。
【0046】
中空ガラスビーズを充填材21として含有するエポキシ/シリコーン樹脂層は熱伝導率が低いので、炊飯器本体1に備えられる鍋底温度検知センサー8が当接する底中心部16においては、この樹脂層を塗装した場合に十分温度検知できなくなるので塗装しないようにした。
【0047】
次いで、第2層23として、第1層22の上層にエポキシ/シリコーン樹脂塗料を塗装するが、この塗料は樹脂成分と顔料を主成分とするほか、平均粒径50μmのフェノール炭化物粒子24を添加粒子として含有するものである。
【0048】
第2層23は、鍋外面の略全体に成膜後40〜120μm程度の厚さとなるよう塗装したが、添加したフェノール炭化物粒子24は平均粒径50μmであるため、鍋底温度検知センサー8が当接する底中心部16に塗装した場合に鍋底温度検知センサー8と鍋9の良好な接触性が阻害され、温度検知に障害が出る可能性があるので、鍋底温度検知センサー8が当接する底中心部16には塗装しないこととした。
【0049】
フェノール炭化物粒子24は、硬度が高く、これが塗膜に添加されることにより、塗膜の耐摩耗性が大幅に向上できるほか、塗膜の見かけ上の硬度を向上できるので、この粒子が添加された第2層23は第1層22の保護被膜28として作用し、実使用における洗浄時の摩耗や鍋9を他のものにぶつけたときなどに生じる傷つきを抑制できる。
【0050】
フェノール炭化物粒子24の塗膜中での濃度は、10〜40重量%であることが望ましいが、これは、10重量%未満では耐摩耗性向上などの効果が得にくく、40重量%以上では塗膜の表面が過剰に粗くなるからである。
【0051】
また、本実施の形態においては、添加材としてフェノール炭化物粒子24を用いたが、その他にはガラス粒子、炭化珪素、アルミナなどのセラミックス粒子、ダイヤモンド粒子なども添加材とすることが可能である。
【0052】
これらの素材もモース硬度が高い物質であるとともに、高温に耐え、各種薬品に対しても安定性が高いので、炊飯時の高温や各種調味料に曝される鍋9の保護被膜28に添加して耐摩耗性を向上するには好適な材料である。なお、保護被膜28である耐熱性の樹脂被膜は、2層以上の多層構造であってもよい。1層の場合は当該層に、2層以上の場合は最外層と最外層の少なくとも一方に前記添加材を添加するものである。
【0053】
次いで、鍋底温度検知センサー8が当接する底中心部16とその周囲には黒顔料を含有するエポキシ/シリコーン樹脂塗料を成膜後約20μm厚となるように塗装するが、これは第2層23の色調と同様なものとすれば鍋外面全体の色調の統一感が保てる。
【0054】
その後、さらに、第3層25として、鍋外面全体にシリコーン系透明塗装を成膜後約20μmとなるように塗装したが、この塗膜には光輝材としてマイカやアルミフレークを添加して意匠性を向上することができるほか、シリコーン系塗料なので非粘着性にも優れるため、実使用においては汚れが付着しにくいといった利点がある。
【0055】
本実施の形態においては、第1層22、第2層23、鍋底温度検知センサー8が当接する底中心部16の塗装、および第3層25の順で鍋外面に塗装処理したが、第1層22は断熱性被膜27、第2層23と第3層25は断熱性被膜27の保護被膜28である。
【0056】
これらの塗装は、適当な間隔をあけての連続塗装でもよいし、それぞれの塗装後に100℃10分程度の乾燥時間を設けてもよいが、最終的には200〜250℃で15〜30分間焼成して外面塗装を成膜した。言うまでもなく、これら塗装条件はどのような樹脂を用いるかによって変更が可能である。
【0057】
ここで、本実施の形態の鍋9と、同一厚さのアルミニウムとフェライト系ステンレスの合わせ材を基材とし、その外面には何らの処理も施されていない同形状の比較例の鍋との比較実験を実施した。
【0058】
本実施の形態の鍋と、比較例の鍋にそれぞれ水1Lを入れて電磁誘導加熱調理器上に載せ100Vで作動させたところ、(表1)に示すように、発生電力が約5%向上したが、これは本実施の形態の鍋外面に処理されている粗面化処理により、磁力を受ける面積が増加し、磁性金属層の表面の電気抵抗と透磁率が変化した結果得られた効果である。
【0059】
電磁誘導加熱の特性として磁性金属の表層部ほど発熱量が大きいため、特に、表層を粗面化処理し、電流の流れる面積を増大化させることにより効率的な発熱を実現できるものであって、結果としてより早く水を沸かすことができた。
【0060】
【表1】

【0061】
次いで、(表2)に、本実施の形態における鍋と、第1層22の膜厚構成を変化させた鍋(比較例2〜7)との炊飯を実施したときの食味結果を示す。
【0062】
【表2】

【0063】
(表2)においては、5.5合炊飯用の鍋を炊飯器本体1に入れ、3合の米を通常に炊飯したときのご飯の出来を示したものであり、比較例1を基準として、食味判定の◎は基準よりも大幅に食味が向上したことを、○は基準よりも食味が向上したことを、△は基準と同一レベルの食味、×は基準を下回ったことを意味する。
【0064】
なお、食味は炊き上がったご飯の味、香り、粘り、硬さ、ふくらみ度合いなどを総合的に判断して決定したものである。
【0065】
比較例2〜8においては、第1層22の充填材21である中空ガラスビーズの添加量や粒径は全て本実施の形態と同一である。
【0066】
(表2)に示す通り、本実施の形態と比べ、膜厚や膜厚のバランスを変更したものにおいてはいずれにおいても基準よりも良好な食味が得られていない。
【0067】
以上の結果より、良好な食味を得るためには熱伝導率の低い断熱性被膜27を鍋の部位によって適度な厚さにしなければならないことがわかり、その厚さは概ね本実施の形態における膜厚であるが、この厚さは検証の結果、(表3)に示す通り、第1層22の熱伝導率によって多少の変化が生じる。
【0068】
【表3】

【0069】
いずれにせよ、良好な食味を得るためには、熱伝導率を低下させる充填材21を含有する断熱性被膜27の膜厚は、底部15については比較的薄膜とし、鍋の上部になるに従い膜厚を増し、側面部14においては、底部15の膜厚に比べて1.8倍以上厚膜であることが重要であるが、最大でも5.5倍を超えてはならない。
【0070】
このように、本実施の形態における電磁誘導加熱用の鍋は、磁性金属の表面に粗面化処理を施し、発生する磁力を受ける表面積を広げた結果、磁性金属層の発熱性が向上し、磁性金属層の外面に断熱性被膜27と保護被膜28を設けたことで、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めることができる。
【0071】
また、本実施の形態における電磁誘導加熱式の炊飯器は、この電磁誘導加熱用の鍋を着脱自在に収納したことにより、鍋の発熱性向上がはかれ、熱を逃しにくく、しかも耐久性が高まるため、ご飯の食味と取り扱い性が向上するものである。
【0072】
なお、断熱性被膜27および保護被膜28である耐熱性の樹脂被膜は多層構造を有し、最外層以外の下層の内、少なくとも一つの層には熱伝導率を低下させる充填材を添加して断熱性被膜27とし、なおかつ、この充填材を添加した断熱性被膜27を通常塗装よりも厚膜とすることもできる。
【0073】
より具体的には、熱伝導率を低下させる充填材を添加する断熱性被膜27は磁性金属層の粗面化表面直上に設けられる第一層目であることがよく、第一層には中空ガラスビーズ、あるいは多孔質のカーボン粒子など、熱伝導率を減じさせる充填材を第2層以上の上層よりも多く含有し、なおかつ、厚膜化するものである。
【0074】
中空ガラスビーズの場合、平均粒径が10〜80μm、カサ比重が0.05〜0.5g/mlのものを塗膜中に30〜60重量%含有する層を磁性金属表面の第1層目に100μm以上設けることが望ましく、好ましくは、鍋上部になるにつれて厚膜化をはかることが望ましい。
【0075】
中空ガラスビーズが30重量%未満では、鍋内に十分に熱を封じ込む性能が発揮されないし、60重量%を超えると塗膜が脆く被膜としての機能を有しないので、30重量%〜60重量%が望ましい。
【0076】
特に、第1層目に中空の充填材を多量に含有する場合は第2層目以上で第1層目を保護する保護被膜28とする必要があるが、そのため、第2層目以上では順次熱伝導率を減じさせる充填材の割合を減じる、あるいは添加しないことが望ましい。これは、第2層目よりも上層部では熱伝導率を下げる目的よりも、強度を向上して第1層目を摩耗や衝撃から保護する目的を有するからである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明にかかる電磁誘導加熱用の鍋は、鍋の発熱性向上と、熱を逃しにくく、しかも耐久性を高めることができるので、各種電磁誘導加熱式調理器の鍋として適用することができる。また、電磁誘導加熱式の炊飯器としてはご飯の食味と取り扱い性が向上するものであるので、電磁誘導加熱式の炊飯器全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態における炊飯器の断面図
【図2】同炊飯器の鍋の切り欠き断面図
【図3】図2のA部の拡大断面図
【図4】同炊飯器の鍋の基材部の拡大断面図
【符号の説明】
【0079】
1 炊飯器本体
3 電磁誘導加熱コイル
8 鍋底温度検知センサー
13 側面下部
14 側面部
15 底部
16 底中心部
17 磁性金属層
18 アルミニウム
19 フッ素樹脂コート
20 粗面化処理面
21 充填材
22 第1層
23 第2層
25 第3層
27 断熱性被膜
28 保護被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層の金属を基材とし、基材最外層の金属は磁性金属で構成され、当該磁性金属の表面に粗面化処理を施し、さらにその外面には断熱性被膜および保護被膜を有する電磁誘導加熱用の鍋。
【請求項2】
断熱性被膜および保護被膜が耐熱性の樹脂被膜である請求項1に記載の電磁誘導加熱用の鍋。
【請求項3】
断熱性被膜および保護被膜である耐熱性の樹脂被膜は多層構造を有し、下層部には熱伝導率が低くなる充填材を添加した断熱性被膜を設けた請求項2に記載の電磁誘導加熱用の鍋。
【請求項4】
保護被膜である耐熱性の樹脂被膜は1層、または、2層以上の多層構造を有し、1層の場合は当該層に、2層以上の場合は最外層と最外層の少なくとも一方に炭化物粒子、セラミックス粒子、ガラス粒子、ダイヤモンド粒子を添加した請求項3に記載の電磁誘導加熱用の鍋。
【請求項5】
多層構造からなる断熱性被膜および保護被膜の内、熱伝導率が低くなる充填材を添加した断熱性被膜の膜厚は、鍋の上部になるに従い膜厚を増した請求項3または4に記載の電磁誘導加熱用の鍋。
【請求項6】
磁性金属の表面の粗面化処理により表面積を拡大するとともに、表面部の透磁率と電気抵抗を高めた請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱用の鍋。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱用の鍋を着脱自在に収納した電磁誘導加熱式の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−72253(P2009−72253A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241881(P2007−241881)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】